説明

分光装置および分光方法および、受光信号の検出方法

【課題】常光・異常光間の位相差を変化させる液晶素子の特性を考慮することにより、適正な分光分析を実現する。
【解決手段】透過光の常光と異常光の位相差を制御可能な液晶素子13を1対の偏光子11、12により挟持してる干渉手段10と、液晶素子13の駆動電圧を位相制御信号として調整し、液晶素子における常光と異常光の位相差を連続的に変化させる位相制御手段30と、位相制御手段による位相制御の開始と同期して常光と異常光の合成光の受光を開始し、所定の信号検出レートで時間的に離散した受光信号とする光検出手段20と、位相差の変化に伴って変化する受光信号をスペクトル情報に変換する信号処理手段40と、光検出手段に入射する合成光に対応するインタフェログラムに忠実に対応する受光信号が得られるように、駆動電圧および/または信号検出レートを制御する制御手段とを有する分光装置である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、分光装置および分光方法および、受光信号の検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
物質の同定・分析やバイオメディカル(生体計測)の分野では「被検試料の情報」を含む光の分光分析が行われることが多い。また近時は、セキュリティや車載用途に用いられる撮像装置においても結像光に対して分光分析を行なうことが意図されている。
【0003】
分光分析を行なう分光装置としては、従来から回折格子やプリズムによる光の分散を用いるものや、マイケルソン干渉計を用いるフーリエ変換型のものが広く知られている。
近来、新たな分光装置として、1対の偏光子で挟んだ液晶素子に分光分析の対象となる光を透過させ、液晶素子で分離された常光線・異常光線を合成し、液晶素子により常光線・異常光線間の位相差を変化させて「干渉による光強度変化」を受光素子で信号化し、フーリエ変換によりスペクトル情報に変換するものが提案されている(特許文献1)。
【0004】
特許文献1記載の分光装置による分光方式は原理的には優れたものである。
しかしながら、発明者らがこの分光方式につき研究した結果、適正な分光分析を実現するためには、常光・異常光間の位相差を変化させる液晶素子の特性が考慮されねばならないことが明らかとなった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
この発明は上述した事情に鑑みてなされたものであって、常光・異常光間の位相差を変化させる液晶素子の特性を考慮することにより、適正な分光分析を実現することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明の分光装置は、干渉手段と、位相制御手段と、光検出手段と、信号処理手段と、制御手段とを有する。
「干渉手段」は、液晶素子と1対の偏光子とを有する。
「液晶素子」は、これに光を透過させるとき、透過光が常光と異常光とに分離し、且つ、常光と異常光との間の位相差を制御可能な「液晶層を用いた素子」である。
【0007】
「1対の偏光子」は、液晶素子を挟持するように配置される。
即ち、分光分析される光は、液晶素子の入射側に配置された偏光子(以下「入射側偏光子」と呼ぶ。)を透過して「直線偏光状態」となって液晶素子を透過する。このとき、透過光は液晶層により複屈折し、偏光面が互いに直交する常光と異常光に分かれる。
液晶素子は、常光・異常光間の屈折率差を制御可能であり、この屈折率差を制御することにより、常光・異常光間に付与される位相差を制御することが可能となっている。
【0008】
このように「位相差を制御された常光・異常光」は液晶素子から射出すると、他方の偏光素子(以下「射出側偏光子」という。)を透過し、偏光面を同一面に揃えられた「合成光」となる。
合成光をなす常光・異常光は互いに干渉するが、「与えられた位相差」に応じて、干渉状態が変化する。
【0009】
「位相制御手段」は、液晶素子の駆動電圧を位相制御信号として調整し、液晶素子における常光と異常光の位相差を連続的に変化させる手段である。
【0010】
「光検出手段」は、干渉手段から射出した「常光と異常光の合成光」を受光し、所定の信号検出レートで「時間的に離散した受光信号」とするが、位相制御手段による「位相制御の開始と同期」して常光と異常光の合成光の受光を開始する。
光検出手段としては、単一の受光面を持つ受光素子を用いることもできるし、微小な受光部を1次元もしくは2次元に配列したラインセンサやエリアセンサを用いることもできる。このようなラインセンサやエリアセンサ、あるいは受光素子としてはCCDやCMOS等を用いることができる。
【0011】
光検出手段の「信号検出レート」は、光検出手段が光を受光信号としてサンプリングするタイミングを特定するパラメータである。
【0012】
「信号処理手段」は、位相差の変化に伴って変化する受光信号を、スペクトル情報に変換する手段である。信号処理手段は「最大エントロピー法やフーリエ変換といった周知の演算」を行なうものであり、コンピュータや演算専用のCPU等として構成できる。
【0013】
「制御手段」は、光検出手段に入射する合成光に対応するインタフェログラムに「忠実に対応する離散的な受光信号」が得られるように、駆動電圧および/または信号検出レートを制御する手段である。
「離散的な受光信号」は、上述の「時間的に離散した受光信号」である。
【0014】
位相制御手段や制御手段は、コンピュータやCPU等として構成できる。
【0015】
「インタフェログラム」は、常光と異常光との位相差を連続的に変化させたときの、光検出手段の受光部における「光強度の変化」であり、この光強度の時間的変化を、所定の信号検出レートで検出することにより、上記離散的な受光信号が得られる。
【0016】
上記離散的な受光信号が信号処理されて「スペクトル情報」に変換され、分光強度として分光分析される。
【0017】
「光検出手段に入射する合成光に対応するインタフェログラムに忠実に対応する離散的な受光信号」は、この受光信号をスペクトル情報に変換したときに、実質上問題となる誤差が生じない程度に忠実であることを言う。この点については後述する。
【0018】
請求項1記載の分光装置は、位相制御手段による位相差の制御の際に、制御手段により「駆動電圧を一定とし、信号検出レートを2ステップ以上に変化させる」ものであることができる(請求項2)。
【0019】
請求項1記載の分光装置はまた、位相制御手段による位相差の制御の際に、制御手段により「信号検出レートを一定とし、位相制御信号を2ステップ以上に変化させる」ものであることができる(請求項3)。
【0020】
請求項1記載の分光装置は上記の如く、制御手段により「駆動電圧および/または信号検出レート」を制御するのであるが、請求項2記載の分光装置では、駆動電圧と信号検出レートのうち、信号検出レートのみを制御し、駆動電圧は一定に保つのである。
【0021】
また、請求項3記載の分光装置では、駆動電圧と信号検出レートのうち、信号検出レートを一定に保ち、駆動電圧(位相制御信号)を制御して変化させるのである。
【0022】
勿論、これら信号検出レートと駆動電圧の双方を変化させるように制御してもよい。
【0023】
請求項1〜3の任意の1に記載の分光装置における「信号処理手段による、受光信号をスペクトル情報に変換する信号処理」は、最大エントロピー法であることもできるし(請求項4)、受光信号のフーリエ変換処理であることもできる(請求項5)。
【0024】
請求項6の分光方法は、請求項1〜5の任意の1に記載の分光装置により実施される分光方法である。
即ち、この分光方法は、透過光における「常光と異常光の位相差」を制御可能な液晶素子を1対の偏光子により挟持してなる干渉手段により、1対の偏光子と液晶素子を透過した常光と異常光とを干渉させ、液晶素子の駆動電圧を位相制御手段により位相制御信号として調整して液晶素子における常光と異常光の位相差を連続的に変化させ、位相制御手段による制御の開始に同期して、常光と異常光の合成光の「光検出手段による受光」を開始し、所定の信号検出レートで離散的な受光信号とし、位相差の変化に伴って変化する受光信号を信号処理手段によりスペクトル情報に変換する分光方法であって、制御手段により駆動電圧および/または信号検出レートを制御することにより「光検出手段に入射する合成光に対応するインタフェログラムに忠実に対応する離散的な受光信号」が得られるようにする方法である。
【0025】
制御手段による制御方法は、位相制御手段による位相差の制御の際に、駆動電圧を一定とし、信号検出レートを2ステップ以上に変化させる方法でもよいし、信号検出レートを一定とし、位相制御信号を2ステップ以上に変化させる方法でもよい。
【0026】
信号処理手段による「受光信号をスペクトル情報に変換する信号処理」は、最大エントロピー法で行なうことも、受光信号のフーリエ変換処理で行なうこともできる。
【0027】
請求項7記載の「受光信号の検出方法」は、請求項6記載の分光方法において実施される受光信号の検出方法である。
即ち、上記分光方法において「光検出手段に入射する合成光に対応するインタフェログラムに忠実に対応する離散的な受光信号」が得られるように、駆動電圧および/または信号検出レートを制御手段により制御する点に特徴がある。
【発明の効果】
【0028】
以上に説明したように、この発明によれば、分光分析される光が、干渉手段により干渉可能な状態となって光検出手段により信号化される際に、駆動電圧および/または信号検出レートを制御することにより「光検出手段に入射する合成光に対応するインタフェログラムに忠実に対応する離散的な受光信号」が得られるので、誤差の少ない良好な分光分析が実現される。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】分光装置の実施の形態例を説明するための図である。
【図2】液晶素子を説明するための図である。
【図3】液晶素子に印加される電界と位相差との関係を説明するための図である。
【図4】試作した液晶素子の位相差の電界依存性の測定結果を示す図である。
【図5】試作した液晶素子と1対の偏光子を図2のように組み合わせたときの、合成光の干渉による光強度変化を示す図である。
【図6】試作した液晶素子によるインタフェログラムを示す図である。
【図7】位相制御信号の印加を開始するタイミングと、干渉光信号の検出を開始するサンプリングのタイミングにずれがあるために適正な検出信号が得られない場合を説明するための図である。
【図8】図7に示す場合において、撮像素子によるサンプリング開始のタイミングを「位相制御信号」の印加開始のタイミングに合致させた場合を説明するための図である。
【図9】信号検出レートを段階的に変化させて適正な検出信号を得る場合を説明するための図である。
【図10】液晶素子の駆動電圧による特性変化を説明するための図である。
【図11】液晶素子の駆動電圧を段階的に変化させることにより適正な検出信号を得る場合を説明するための図である。
【図12】具体的な分光分析の例を2例説明するための図である。
【図13】具体的な分光分析例を説明するための図である。
【図14】具体的な他の分光分析例を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、実施の形態を説明しながらこの発明を説明する。
図1は、分光装置の実施の1形態を説明図的に示している。
図1(a)は全体的な構成を示す説明図であって、符号L1で示す入射光は「分光分析される光」である。
符号10は「干渉手段」を示し、干渉手段10は、液晶素子13を1対の偏光子11、12で挟んだ構成となっている。符号11で示す偏光子は入射側に設けられた「入射側偏光子」、符号12で示す偏光子は射出側に設けられた「射出側偏光子」である。
【0031】
図1(a)において、1対の偏光子11、12と液晶素子13とは分離して描いているが、これらは必ずしも分離している必要は無く、偏光子11、12が液晶素子13の入射側面・射出側面に密着して、液晶素子13を文字通り挟持する構成としても良い。
1対の偏光子による液晶素子の「挟持の態様」は、図1(a)のように、液晶素子が1対の偏光子の間に「各偏光子と分離して配置」される態様でもよいし、一方の偏光子が液晶素子に密着し、他方の偏光子が液晶素子と分離していている態様でもよい。
【0032】
入射光L1は、入射側偏光子11を透過し、直線偏光状態となって液晶素子13に入射し、常光と異常光とに分離し、液晶素子13を透過する。
【0033】
液晶素子13は、位相制御手段30により制御されて「常光・異常光間の位相差」を変化させる。
位相制御手段30は、液晶素子13の駆動電圧を位相制御信号として調整し、液晶素子13から射出する常光と異常光の位相差を連続的に変化させる。
即ち、位相制御信号である駆動電圧の調整により、液晶素子13の液晶層を透過する常光に対する屈折率と「異常光に対する屈折率」の差が変化させられる。
このような常光・異常光間の屈折率差の変化により、液晶素子13を透過する常光と異常光との間の「位相差」が連続的に変化する。
【0034】
液晶素子13を透過した常光・異常光は、射出側偏光子12を透過してそれぞれが、同一面内で偏光する可干渉光として合成されて合成光L2となり、「光検出手段」である撮像素子20に入射する。
【0035】
撮像素子20は、この例では2次元的な受光面を持つエリアセンサであり「各受光画素の出力和」が出力信号とされるが、入射する合成光L2は信号検出レートに従ったタイミングでサンプリングされ「時間的に分離した離散的な受光信号」となる。
【0036】
撮像素子20における「信号検出レート」は、信号処理手段40により制御されて設定される。
【0037】
信号処理手段40はまた、撮像素子20からの「時間的に分離した離散的な受光信号」を入力され、この受光信号に対して「スペクトル情報に変換する信号処理」を行なう。
【0038】
位相制御手段30と信号処理手段40とは、それぞれ独立したCPU等として構成することもできるが「単一のコンピュータにそれぞれ設定された機能」として構成することもできる。
【0039】
そして、光検出手段である撮像素子20に入射する合成光L2に対応するインタフェログラムに忠実に対応する「離散的な受光信号(時間的に離散した受光信号)が得られるように、駆動電圧および/または信号検出レートを制御手段により制御」する。
請求項2の場合のように、信号検出レートのみを制御するのであれば、信号処理手段40がこの制御を行なうことになり、信号処理手段40は「制御手段」を構成することになる。
【0040】
また、請求項3の場合のように、位相制御信号のみを制御するのであれば、位相制御手段30が「制御手段」を構成することになる。
【0041】
さらに、位相制御信号と信号検出レートをともに制御するのであれば、位相制御手段30と信号処理手段40が「制御手段」を構成することになる。
【0042】
図1(b)、(c)は、1対の偏光子11、12と液晶素子13とにより構成される干渉手段10による処理を説明するための図である。
図1(b)は、入射側偏光子11の透過軸TA1と、射出側偏光子12の透過軸TA2とが互いに直交する(所謂「クロスニコル」を構成する)場合を示し、図1(c)は、偏光子11、12の透過軸TA1、TA2が互いに平行である(所謂「パラレルニコル」を構成する)場合を示している。
【0043】
これら図1(b)、(c)何れの場合も、液晶素子13の透過軸TALは偏光子11、12の透過軸TA1、TA2と斜めに交わっている。
図1(b)、(c)に示す例では、角:θ1、θ2が「液晶素子13の透過軸TALに対する交差角」であるが、交差角:θ1、θ2はθ1=θ2=45度とするのが好ましい。
【0044】
図1(b)、(c)に示した液晶素子13は「透過軸が1軸である1軸性のもの」であり、このため、液晶素子13の透過軸TALと偏光子11、12の透過軸TA1、TA2とを斜めに交差させて用いている。
液晶素子としてはこのような「1軸性のもの」に限らず、2軸性のものやTN(ツイストネマティック)液晶素子、コレステリック液晶素子、強誘電性液晶素子を使用することも可能である。
【0045】
図1(b)、(c)に示すように、干渉手段10に入射した入射光L1を常光LOと異常光LEの2成分に分け、これらの間の位相差を「液晶素子13に対する位相制御手段30の制御」により変化させることにより、常光LOと異常光LEとの間に光路差:δを付与し、常光・異常光を合成した干渉光を偏光子12から射出させる。
この干渉光を受光する撮像素子20としてはPDアレイ、CCDあるいはCMOSイメージセンサを使用できるが、高性能(ダイナミックレンジ、フレームレート等)と小型・低コストを実現容易なCMOSイメージセンサの使用が好ましく、以下に説明する形態例では、撮像素子20としてCMOSイメージセンサを想定している。
ここで、干渉手段による「合成光の干渉」を説明する。
もっとも簡単な場合として、入射光L1を「波長:λの単色光」として説明する。
交差角:θ1=θ2=45度とした場合を例に取ると、この場合、射出側偏光子12から射出する射出光L2における「常光・異常光の各成分の強度」は互いに等しくなる。
【0046】
波長:λの代わりにその逆数:1/λである波数:νを用い、上記常光・異常光の強度(互いに等しい)をIiとすると、干渉状態の合成光の強度:Itは、以下のように与えられる。
【0047】
偏光子11、12の透過軸の組み合わせが「クロスニコル」である場合:
It=(1/2)Ii{1−cos(2πδν)} (A)
「パラレルニコル」である場合:
It=(1/2)Ii{1+cos(2πδν)} (B) 。
【0048】
光路差:δは、液晶素子13における「液晶層の機械的な厚さ:d」と、常光LOと異常光LEに対する液晶層の屈折率差:Δn(V)の積:
δ=Δn(V)・d
で与えられる。
Δn(V)は、屈折率差が液晶素子に対する駆動電圧:Vの関数として与えられることを示す。
【0049】
上記の如く、干渉状態の合成光の強度は「δν(=δ/λ)」が単位量変化する」ごとに、即ち、光路差:δが波長:λだけ変化するごとに周期的に変化する。
「位相差」は、上記「δν(=δ/λ)」である。
【0050】
なお、偏光子の関係が「交差角:θ1=θ2=45度でない場合」や、液晶素子として「1軸性以外のもの」を用いる場合には、常光と異常光の強度に差が生じ、合成光の強度:Itの式は上記よりも「やや複雑」となるが、光路差:δを異ならせて干渉状態を変化させ得ることは上記と同様である。
上に説明した波長:λの単色光の場合に即して「スペクトル情報への変換および信号処理」について説明する。
説明中の例では、入射光は波長:λ(波数:ν=1/λ)の単色光であるから、合成光の強度:Itは、光路差:δが「λ/2の整数倍」の部分では、常光・異常光が互いに逆位相となって最も弱めあい、光路差:δが波長:λの整数(0を含む)倍の部分では、常光・異常光が同位相となって最も強めあう。
【0051】
したがって、液晶素子により常光・異常光間に付与する光路差:δを「連続的に変化」させ、干渉手段から射出する合成光の光強度を観測すると「明暗の周期的な繰り返し」となる。
この光強度変化(上の式(A)または(B)で示される)を「光路差:δを横軸、光強度を縦軸」としてグラフ化すると「入射光の波長:λを周期とするコサイン波」になる。
入射光が「連続スペクトルを持つ光」である場合には、合成光の強度は、上記式(A)または(B)の変化成分:cos(2πνδ)に係数「B(ν)」による重み付けを行い、波数:νについて積分した次式:
F(δ)=∫B(ν)cos(2πνδ)dν (1)
で与えられる。
【0052】
この式(1)の左辺の「F(δ)」は光路差:δの関数であり、これが「インタフェログラム」である。積分の下限は「−∞」、上限は「+∞」である。
【0053】
インタフェログラムの式(1)の右辺の被積分関数における係数:B(ν)は、合成光における波数:ν(波長:λ)の成分の強度(波数:νをもつ成分光の強度)を表した所謂スペクトルであり、このB(ν)が「スペクトル情報」として求めるものである。
【0054】
即ち、インタフェログラム:F(δ)に含まれる周波数ごとの信号強度を分析することにより、各波長(波数)の光の強度:B(ν)を求める。
インタフェログラム:F(δ)が与えられたとき、インタフェログラムからスペクトル情報:B(ν)を得るには、式(1)をフーリエ変換して「その実数部分」を採ればよく、解析的には、以下の式(2)で与えられる。
B(ν)=∫F(δ)cos(2πνδ)dδ (2)
この積分においても、積分の下限は「−∞」上限は「+∞」である。
【0055】
実際のフーリエ変換処理を行うときには、信号処理手段としてコンピュータを用い、フーリエ変換ソフトでフーリエ変換演算(例えばFFT)を行い、その結果に対して実数部分を採ることによりスペクトル情報:B(ν)を得る。
【0056】
即ち、連続スペクトル分布をもつ入射光の「波数:νごとの光の強度:B(ν)」を求めるのに、液晶素子により常光・異常光間に与えられる光路差:δを変化させつつ、その際の合成光の強度変化を検出することによりインタフェログラムを得、フーリエ変換等の演算処理でスペクトル情報:B(ν)を得るのである。
【0057】
インタフェログラムからスペクトル情報を得る信号処理はフーリエ変換に限らず、周知の「最大エントロピー法によるスペクトル推定」を用いることもできる。
最大エントロピー法は「信号処理に使用する信号データが少なくて済む」というメリットがあるし、後述する実例の場合のように精度も高い。
【0058】
次に、干渉手段において用いられる「液晶素子」について説明する。
図2(a)、(b)を参照して説明する。
図2(a)は、液晶素子の断面構造を示している。
図示のように、1対の透明基板131、132が用いられる。
これら透明基板131、132の片面には、それぞれ透明電極1311、1321が薄膜として形成され、さらにこれら透明基板1311、1321の上にそれぞれ、配向膜1312、1322が形成されている。
【0059】
透明基板131、132は、図2(a)に示されたように「配向膜1312、1322が所定の間隔を介して互いに平行に対向する」ように配置され、配向膜1312、1322の間の空間に液晶層LCが挟持される。
配向膜1312、1322の間は、図示されないスペーサにより、液晶層LCの層厚が「d」となるように設定され、配向膜1312、1322とスペーサにより形成される閉じた空間内に液晶が「厚さ:dの液晶層」として封入される。
【0060】
配向膜1312、1322は、液晶層LC中の液晶分子LCMの配向が、図2(a)に示す「配向1」となるようにするためのものである。
「配向1」では、図2の(a)及び「(a)の状態を入射光L1の入射方向から見た状態」を示す図2(b)のように、液晶分子LCMの長手方向は「配向膜の膜面に平行」である。
即ち、配向1における液晶分子LCMの配向方向は、図2(b)において図の上下方向に平行である。
即ち、液晶(誘電異方性:Δε>0)の初期配向(駆動電圧を印加しない状態の配向)を上記の配向1とすれば、基板間へ「駆動電圧による電界」を印加すると、液晶分子LCMの配向方向が徐々に「配向膜に垂直となるように変化」する。
【0061】
即ち、透明電極1311、1321間に電圧を印加して、液晶層LCに層厚方向に電界を作用させると、液晶分子LCMは「長手方向が電界方向に倣う」ように配向方向を変化させ、飽和状態では図2(a)、(b)に示す「配向2」のように配向する。
「配向2」は、図2の(a)に示すように「電界方向に平行」であり、(b)に示すように「(b)の図面に直交する方向」であって、入射光L1の進行方向と平行である。
【0062】
配向膜1311、1321としては、TN液晶、STN液晶等に用いられるポリイミド、シランカップリング材等による通常の配向膜を利用でき、良好な耐光性を示す無機配向膜およびSiO、SiO等の無機蒸着膜も利用できる。
また、液晶ダイレクタの方向を強く規制するため、ラビング処理や光配向処理を別途施すことが好ましい。
透明電極1311、1321はITO等を用いて形成できる。
液晶素子における位相制御(前記光路差:δの制御)は、一般に、液晶層LCへの印加電界の制御によって行なうことができる。
液晶素子を挟む偏光子11、12の透過軸TA1、TA2を、図2(b)のように配向1に対してそれぞれ±45度の角度で配置すると「配向1で光路差:δによる位相差:δνが最大」となり「配向2で光路差:δによる位相差:δνが最小」となる。
【0063】
図3(a)、(b)に「液晶位相変調素子の位相差の印加電界特性」を示す。
印加電界は、液晶素子構成における「電極や配向膜の抵抗値」にも依存するが、主として「液晶層LCへの印加電圧」と液晶層厚:dで決定される(図3(a)、(b)では、印加電圧:Vと液晶層厚:dから定まる印加電界(=V/d)を横軸として表示している。
【0064】
図3(a)は図2で説明した場合のように、初期配向が「配向1」である「平行配向」の場合であり「印加電圧の増加に伴いリタデーション(位相差)は低下」し、配向2となって飽和する。
図3(b)は、初期配向が配向膜に直交する「直交配向」の場合であり、印加電圧の増加に伴いリタデーションは増加し、配向が配向膜に平行になった状態で飽和する。
リタデーション:0は、垂直配向の方が「低電圧で得られる」が、平行配向においても別途に位相差板を設け、平行配向された液晶素子に入射する光に「予め位相差」を与えておくことにより低電圧化を図ることもできる。
【0065】
以下、液晶素子の具体的な作製例と動作確認について説明する。
厚さ:1.1mmの「無アルカリガラスの平行平板」を透明基板とし、その片面に透明電極としてITO膜(膜厚:1000Å、表面抵抗:50Ω/□)を成膜した。
さらに透明電極面にポリイミド配向膜(AL3046−R31 JSR 社製)をスピンコートにより約800Åの厚さに形成し、その基板表面に対し「ラビング法による配向処理」を行った。
このように配向処理した2枚の透明ガラス基板を「互いのラビング方向がアンチパラレル方向となる」ようにして、ITO電極面同士を対向させ、基板間隔:約50μmとなるように「ビーズスペーサを混入した接着剤」にて貼り合わせて空セルを作製した。
この空セルをホットプレート上で90度Cに加熱した状態において、空セル内に、液晶層としてネマチック液晶(メルク製:ZLI2293 Δn=0.13)を、毛管法で注入し、放置冷却後に注入口等を封止し、図2に即して説明したような「平行配向の液晶素子」を作製した。
【0066】
作製した液晶素子の「位相差および干渉光強度の電界依存性」を位相差測定装置(大塚電子製:RETS−100)により測定した。
波長:650nmの入射光に対する測定結果を、図4、図5(a)、(b)および図6に示す。
図4において縦軸:Reは「液晶素子による位相差(δν)」、横軸:Eは印加電界を示す。図の如く「位相差:Reが印加電解:Eに依存する」ことを確認した。
図5(a)、(b)における縦軸:intensityは、上記液晶素子と1対の偏光子を図2のように組み合わせたときの、合成光の干渉による光強度変化であり、この光強度変化が横軸の印加電界:Eに依存して変化することを確認した。
図5(b)は、図5(a)の「長方形で囲んだ部分」を、横軸のスケールを拡大して示している。
図6は、横軸として示す位相差:Reに対する「合成光の光強度の干渉による変化」、即ち「インタフェログラム」の図である。
実線による連続曲線は「理論値」、丸印は「実験値」である(入射光が波長:650nmの単色光であるので連続曲線は単純なコサイン曲線となっている。)。
【0067】
このように、実験値は「位相差:Reが0〜4程度までの範囲」で理論値とよく一致している。
【0068】
以下、図1(a)、(b)に即して説明した分光装置に、上記の如く作製した液晶素子を用いる場合を実施の形態例として説明する。
【0069】
上記の如く、上に説明した具体的な液晶素子を用いて、図1(a)、(b)に示す如き分光装置を構成し、液晶素子による位相制御を行なうと、「インタフェログラム」は図6に示す如きものになるが、スペクトル情報を得るには、このインタフェログラムを情報として取り込まねばならない。
【0070】
説明中の実施の形態では、光検出手段として用いられている撮像素子20は2次元的な受光面を持つエリアセンサであり「各受光画素の出力和」が出力信号とされる。
入射する合成光の光強度は「信号検出レートに従ったタイミング」でサンプリングされ「時間的に分離した離散的な受光信号」となる。
即ち、インタフェログラムは時間的に連続して変化するが、撮像素子20によりサンプリングされることにより「時間的に分離した離散的な受光信号」として取り込まれる。
【0071】
図7(a)は「液晶調素子への位相制御信号」を示している。
この位相制御信号は、一定時間:TDの間「高周波の矩形波電圧信号」として液晶素子の透明電極間に印加され、一定時間:TDの経過後は「0電圧」とされる。
【0072】
電圧信号は、原理的には「矩形波状の一定電圧と0電圧との組み合わせ」でもよいが、液晶を保護する観点から「高周波の矩形波電圧」としている。この矩形波電圧信号における最大・最小電圧の絶対値が「駆動電圧」であり、この駆動電圧により「液晶により常光・異常光間に付与される位相差」が変化する。
【0073】
説明中の実施形態例では、液晶素子における液晶分子の配向は、駆動電圧が印加されない状態では「平行配向」であり、一定の駆動電圧が所定時間印加されると、平行配向から直交配向へと配向状態が変化して行く。
そして、この配向状態の変化により位相差が変化する。
【0074】
一定の駆動電圧を液晶素子に印加したときの「位相差」の変化は一般に、駆動電圧印加開始直後では「位相差の変化が大き」く、時間の経過とともに「位相差の変化が小さ」くなる。この駆動電圧印加時の「位相差の変化」は、液晶素子の特性として定まるものであるが、同一材料・同一製造方法で製造された液晶素子では「同一特性」となる。
【0075】
説明中の例では、液晶素子による位相差の印加電圧に対する特性は、図4に示す如きものであって、駆動電圧が0の状態で「位相差が最も大き」く、駆動電圧の大きさに応じて位相差は小さくなる。
【0076】
従って、図7(a)に示すような駆動電圧を一定時間:TDの間印加した場合、液晶素子による位相差は駆動開始直後において最も大きく、時間とともに減少し、印加時間が十分に長ければ、駆動電圧に応じた値に漸近するように減少する。
【0077】
図7(b)は、上記時間:TD間とそれ以後における「位相差の変化」の様子を説明図的に示している。
即ち、駆動電圧が印加されている時間:TDの初期における位相差は大きく、時間が経過するに従い減少し、時間:TDの最後においては最も小さくなる。
そして、時間:TDが経過すると駆動電圧の印加は停止され、液晶分子の配向は初期配向へ向かって復元しつつ位相差が漸次増加して初期状態に戻る。
【0078】
干渉手段から射出した合成光の干渉状態は、このような「位相差の変化」を反映し、駆動電圧印加の開始直後では「位相差が大きい」ため、干渉による強度変化の周期が短く、時間の経過に伴い「位相差が小さくなる」とともにこの周期が長くなっていく。
図7(c)は、この状態を示している。
時間の原点(印加時点)近傍で干渉光信号(干渉光の強度の変化)の周期が短く、時間の経過とともに周期が長くなっていく。そして、駆動電圧の印加が停止されると、液晶分子の配向が初期配向(平行配向)へ向かって戻るのに応じて、干渉光強度の周期は次第に短くなっていく。
【0079】
図7(c)に示す曲線IFが上に説明した「インタフェログラム」である。
光検出手段としての撮像素子20は、図7(c)に示すような干渉光信号を強度変化とする合成光を入射され、入射合成光の強度を所定の信号検出レート(単位時間当たりのサンプリング数)でサンプリングして「検出信号」とする。
【0080】
この「検出信号」は、上述した説明における「離散的な受光信号」である。
【0081】
図7(d)は、このようにして撮像素子20により得られた「検出信号(離散的な受光信号)」を示している。サンプリングは「等時間間隔」で行なわれている。破線で示す曲線IFは、図7(c)に示すインタフェログラムである。
分光分析の目的である「スペクトル情報」は、このようにして得られた検出信号に対してフーリエ変換や最大エントロピー法による変換処理を行うことにより得られる。
【0082】
その際、適正なスペクトル情報が得られるためには、撮像素子20により得られる検出信号が適正なものでなければならない。
【0083】
図7(d)に示す検出信号は、実は「適正な検出信号」ではない。
このことは、図7(d)に示す検出信号にもとづいて「干渉光信号を復元処理」してみると分かる。
図7(e)の曲線RIF1はこの「復元された干渉光信号(以下「復元インタフェログラム」という。)」である。
図7(e)と図7(c)とを比較すれば明らかなように、「復元インタフェログラム」の特に「位相制御信号印加直後の部分」が適正でない。
【0084】
このような不適正が発生した原因は、位相制御信号の印加を開始するタイミングと、干渉光信号の検出を開始するサンプリングのタイミングに、図7(d)に示す「時間:T」のずれがあるためである(即ち、撮像素子20による最初のサンプリングは、位相制御信号の印加開始のタイミングより時間:Tだけ遅れている)。
【0085】
図8は、図7に示した場合において、撮像素子によるサンプリング開始のタイミングを「位相制御信号」の印加開始のタイミングに合致させた場合である。
図8(a)〜(c)は図7(a)〜(c)と同一である。
【0086】
図8(d)において「時間:Tのずれ」はなくなり、撮像素子により得られた検出信号(図8(d))から復元された復元インタフェログラムRIF2(図8(e))の「位相制御信号の印加直後の部分」は、図8(b)に示すインタフェログラムIFの当該部分を適正に復元している。
【0087】
従って、干渉光信号を適正に検出信号化するためには、請求項1記載のように「光検出手段(説明中の例では撮像素子20)が、位相制御手段による位相制御の開始(位相制御信号の印加開始)と同期して(同時に)、常光と異常光の合成光(干渉光)の受光を開始する必要があるのである。
【0088】
図8(e)の復元インタフェログラムRIF2を、同図(b)のインタフェログラムIFと対比すると、図8(d)の検出信号から復元された復元インタフェログラムRIF2(図8(e))は、本来のインタフェログラムIF(図8(b))と一致しない。
即ち、上記のタイミングを合致させるのみでは、適正な「検出信号」を得ることはできない。
【0089】
この理由を調べてみると、図8(c)に示すインタフェログラムIFの「振動が速い部分(位相制御信号印加開始直後の周期の短い部分)」での振動周期に対してサンプリングの周期(信号検出レートにより定まる。)が相対的に大きいことに原因がある。
【0090】
サンプリング間隔を一定とする場合には、サンプリング間隔を小さくするほど、同じ時間内にインタフェログラムIFの情報を多量に取りこむことができ、精度のよい検出信号を得ることができる。
しかし、サンプリング間隔を小さくして「取り込む情報量が大量になる」と、スペクトル情報に変換する演算量も大きくなり、分光分析に時間がかかり易くなる。
それで、分光分析に必要とされる精度が担保できる程度のサンプリング間隔で、インタフェログラムの離散情報を得るのがよい。
【0091】
なお、付言すると、「信号処理手段」よりスペクトル情報に変換されるのは、光検出手段により検出された「時間的に分離した離散的な受光信号」である撮像素子検出信号であり、図7(e)や図8(e)のような「検出信号から復元される復元インタフェログラムRIF1、RIF2等」に対して変換演算が行なわれる訳ではない。
【0092】
図9は、この発明の実施の1形態を説明する図であり、同図(a)〜(c)は、図7、図8における(a)〜(c)と同じ図である。
図9(d)では、駆動電圧(位相制御信号)を一定とし(図9(a))、信号検出レートを、信号検出レート:R1、R2、R3の3ステップに段階的に変化させている。
【0093】
サンプリング間隔は、信号検出レート:R1において最も短く、信号検出レート:R2、R3ではこの順序で大きくなる。勿論、撮像素子によるサンプリング開始のタイミングは「位相制御信号」の印加開始のタイミングに合致させている。
即ち、位相制御信号の印加時間中で、インタフェログラムIF(図9(b))の周期が「短から長へと漸増」するのに合わせて、信号検出レートを上記3段階:R1、R2、R3に変化させて、サンプリング間隔が、各時間領域内でインタフェログラムIFの周期と良く適合するようにするのである。
【0094】
図9(e)は、図9(d)に示す検出信号に基づいて復元された復元インタフェログラムRIF3であり、図9(b)にインタフェログラムIFと良く一致している。信号検出レート:R1〜R3の設定は、信号処理手段40が「制御手段」として行なう。
【0095】
このように、画像取込レートをR1、R2、R3のように、少ない「データ点数で適正な検出信号を得る」ことができ、スペクトル情報への変換処理も高速化できる。
「撮像素子による画像取り込みの信号検出レート」の変更は、撮像素子に用いるクロック周波数の面での制限があるが、例えば、撮像素子の最大の信号検出レートが60fps(1秒当たりのサンプリングフレーム数)である場合、その公約数である30fpsや15fpsと設定することで、上記の例の如く3ステップに変化させることができる。
【0096】
信号検出レートの変更は、上記の例の3ステップに限らず、2ステップであってもよいし、4ステップ以上であってもよい。
【0097】
図9に示す実施の形態では、同図(d)の如く得られた検出信号により「復元インタフェログラム」を復元したとき、復元インタフェログラムRIF3と「図9(b)に示す本来のインタフェログラムIF」とは良く合致しており、従って、図9(d)の検出信号に対する変換演算で適正なスペクトル情報が得られる。
【0098】
請求項1における「光検出手段に入射する合成光に対応するインタフェログラムに忠実に対応する離散的な受光信号」は、図9の例で言えば「光検出手段(撮像素子20)に入射する合成光(干渉光)に対応するインタフェログラム(干渉光信号)IFに忠実に対応する離散的な受光信号(図9(d)の検出信号)」であり、受光信号がインタフェログラムに忠実であるとは「受光信号(検出信号)により復元された復元インタフェログラムRIF3に対して、変換演算を行なったとした場合のスペクトル情報」と、本来のインタフェログラムIFから得られるスペクトル情報との差が「許容誤差以内」となることを言うのである。
【0099】
上には、信号検出レートの制御により適正な「離散的な受光信号」を得る場合を説明したが、以下には駆動電圧の制御により適正な「離散的な受光信号」を得る場合の実施の形態を説明する。
【0100】
分光装置の構成は、以下の例においても図1に示す如くであるとする。
以下に説明する実施の形態では、位相制御手段30が「制御手段」となって「位相制御信号」の駆動電圧の制御を行なう。
【0101】
図10は、同一の液晶素子に対し、位相制御信号である駆動電圧を、大・中・小の3通りに変化させたときの「位相差の変化」の特性の差異を示している。
【0102】
図10(a)は「駆動電圧が中程度の位相制御信号」を表し、(b)は「駆動電圧が大きい位相制御信号」を、(c)は「駆動電圧が小さい位相制御信号」を示している。これらいずれの場合も、印加時間:TDは同一である。
【0103】
図10(d)は、上記図10(a)〜(c)に示す位相制御信号を、時間:TDだけ印加したときの「位相差の変化」を表している。
図10(d)において、位相差の変化PD1、PD2、PD3はそれぞれ、印加された位相制御信号の駆動電圧が中程度(図10(a))の場合、大きい場合(図10(b))、小さい場合(図10(c))に対応している。
【0104】
位相差の変化PD1〜PD3を比較して明らかなように、駆動電圧が中程度の場合を基準にすると、駆動電圧が大きくなると、変化PD2のように「位相制御信号の印加開始当初における位相差減少の変化率が大」きく、位相差は速やかに最小値へ向かう。
また、位相制御信号の駆動電圧が小さいと、位相差変化の傾きが小さくなり、変化PD3のように位相差の現象は緩慢となり、印加時間:TDの長さでは最小値に到達しなくなる。
【0105】
このことから、液晶素子における「駆動電圧による位相差変化の特性の変化」を利用し、位相差変化の特性に応じて「駆動電圧」の大きさを印加時間:TD内で調整することにより「位相差の変化が略直線的な減少となる」ようにできることがわかる。
【0106】
図11は、この場合の1例であり、図11(a)に示すように、位相制御信号の印加時間:TD内において、駆動電圧をV1〜V5の5ステップで、順次増大させ、各駆動電圧:Vi(i=1〜5)の大きさを調整することにより、図11(b)に示すように、位相差が、信号印加開始から終了に向かって「略直線的に減少」するように調整した場合を示している。
【0107】
このように、位相差の変化が直線的になるため、このときに撮像素子が検出するインタフェログラムIFは図11(c)に示すように、位相制御信号印加時間:TD中、略一定周期の変動となる。従って、撮像素子によるサンプリングの周期を「インタフェログラムIFの周期」に合わせるように「信号検出レート」を定めておけば、サンプリング間隔を一定に保ちつつ、インタフェログラムIFに良好に対応する検出信号(図11(d))を得ることができる。
【0108】
そして、この検出信号からインタフェログラムを復元すると、図11(e)に示すように、図11(c)に示す適正なインタフェログラムと良く合致する復元インタフェログラムRIFが得られる。従って、図11(d)に示す検出信号は、インタフェログラムに忠実であり、これを変換処理することにより適正なスペクトル情報を得ることができる。
【0109】
即ち、「画像取り込みレートが一定」な撮像素子を用いる場合でも、図11(a)のような「駆動電圧が時分割で段階的に変化する位相制御信号」により、液晶素子の位相差の変化を制御し、かつ「撮像素子の信号検出の開始時期を位相制御信号と同期させる」ことにより、インタフェログラムに忠実な検出信号を得ることができる。
【0110】
このような構成によれば、撮像素子の画像取り込みレートを「必要以上に高フレームレート化」する必要がなく、信号処理に使用できるデータを効率よく使用でき、高精度なスペクトル情報を得ることができる。
【0111】
以下に、図1に示した構成の分光装置を具体的に試作した例により説明する。
液晶素子13は図2に即して説明した試作の素子を用い、位相制御手段30は「任意波形発生器(NFファンクションジェネレータ)」を用いた。
【0112】
また、撮像素子20として「120〜30fps(毎秒120〜130フレームを信号化できるモノクロCCD(浜松ホトニクス製))」を用い、位相制御手段30の位相制御信号は「液晶素子の位相差がなるべくリニアに変化する」ように制御し、撮像素子の検出信号と同期するように設定した。
この分光装置を用いて「2次元イメージの分光スペクトル情報」を測定した。
「2次元イメージ」としては、ヘリウムネオンレーザ(He−Ne)からのレーザ光およびバイオレッドレーザダイオード(VLD)からのレーザ光を、拡散板を介して干渉手段10に入射させた。
【0113】
液晶素子13の位相差を上記の如く制御して、撮像素子20で検出したときの「単波長スペクトルのインタフェログラム」を図12(a)、(b)に示す。(a)はヘリウムネオンレーザ(He−Ne)からのレーザ光に対するものであり、(b)はバイオレッドレーザダイオード(VLD)からのレーザ光に関するものである。
【0114】
これらの図において実線はインタフェログラム、ドットは「検出信号」である。なお、インタフェログラムには「液晶材料の波長分散の影響」も含まれている。
バイオレッドレーザダイオード(VLD)からのレーザ光は波長:405nmで、ヘリウムネオンレーザ(He−Ne)からのレーザ光の波長:633nmよりも短く、短波長側の方が「短周期のインタフェログラム」が生成されていることが分かる。
【0115】
検出信号(受光信号)に基づき、スペクトル情報を得るための信号処理を、高速フーリエ変換(FFT)および最大エントロピー法(MEM)によりスペクトル変換した。この演算の結果を図13(a)、(b)に示す。
今回使用した液晶素子で実現できる「最大位相差」の制限から、スペクトル変換するためのデータ数が少なく、このため測定精度は若干悪いが、略実スペクトルが測定できており、FFTに比べてMEMの方が高精度測定できていることも確認できる。
別の例として、結像光学系によるマクベスカラーチャートの像を、干渉手段10を介して撮像素子20で撮影し、「チャートの赤・緑・青(R・G・B)の部分の像」から得られる検出信号を個別に「FFTによりスペクトル変換したデータ」を、図14に示す。
光源スペクトルおよび撮像素子の分光感度から「短波長側の感度が悪い」が、チャート色R・G・Bのスペクトルデータが得られている。
【0116】
この例のように、この発明の分光装置は、カメラ装置等の結像光学系の光路上に配置して、結像したイメージの分光分析を行なうのに用いることができる。
【符号の説明】
【0117】
10 干渉手段
11 入射側の偏光子
12 射出側の偏光子
13 液晶素子
LO 常光
LE 異常光
20 撮像素子(光検出手段)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0118】
【特許文献1】特開2005−31007公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透過光の常光と異常光の位相差を制御可能な液晶素子を1対の偏光子により挟持してなり、上記1対の偏光子と液晶素子を透過した常光と異常光とを干渉させる干渉手段と、
上記液晶素子の駆動電圧を位相制御信号として調整し、上記液晶素子における常光と異常光の位相差を連続的に変化させる位相制御手段と、
上記位相制御手段による位相制御の開始と同期して上記常光と異常光の合成光の受光を開始し、所定の信号検出レートで時間的に離散した受光信号とする光検出手段と、
上記位相差の変化に伴って変化する上記受光信号をスペクトル情報に変換する信号処理手段と、
上記光検出手段に入射する上記合成光に対応するインタフェログラムに忠実に対応する上記離散的な受光信号が得られるように、上記駆動電圧および/または信号検出レートを制御する制御手段と、を有することを特徴とする分光装置。
【請求項2】
請求項1記載の分光装置において、
位相制御手段による位相差の制御の際に、
制御手段が、駆動電圧を一定とし、信号検出レートを2ステップ以上に変化させることを特徴とする分光装置。
【請求項3】
請求項1記載の分光装置において、
位相制御手段による位相差の制御の際に、
制御手段が、信号検出レートを一定とし、位相制御信号を2ステップ以上に変化させることを特徴とする分光装置。
【請求項4】
請求項1〜3の任意の1に記載の分光装置において、
信号処理手段による、受光信号をスペクトル情報に変換する信号処理が、最大エントロピー法であることを特徴とする分光装置。
【請求項5】
請求項1〜3の任意の1に記載の分光装置において、
信号処理手段による、受光信号をスペクトル情報に変換する信号処理が、受光信号のフーリエ変換処理であることを特徴とする分光装置。
【請求項6】
請求項1〜5の任意の1に記載の分光装置により実施される分光方法。
【請求項7】
請求項6記載の分光方法において実施される、受光信号の検出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2011−13054(P2011−13054A)
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−156378(P2009−156378)
【出願日】平成21年6月30日(2009.6.30)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】