説明

分析装置およびキャリーオーバー防止方法

【課題】分析精度を落とさず反応容器を繰り返し使用することができる分析装置およびキャリーオーバー防止方法を提供すること。
【解決手段】分析装置1は、反応容器141内の反応液を排出し反応容器141を洗浄する洗浄部20と検査対象を破壊または変質させて検査対象を消失させる電子線照射部21とを備える。キャリーオーバー防止方法は、反応容器141内の反応液を排出し反応容器141を洗浄する洗浄ステップと、検査対象を破壊または変質させて検査対象を消失させる消失ステップとを備える。反応容器141内の検査対象を消失させる処理は、反応容器141内の反応液の特性を測定後、再び試料が分注される前までであって、反応容器141を洗浄する前または/および後に行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料と試薬との混合液である反応液を収容する反応容器を繰り返し使用する分析装置およびキャリーオーバー防止方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、免疫検査、生化学検査などさまざまな分野で使用される分析装置は、試料と試薬との反応液に所定の波長を持つ光を照射し、反応液の特性を光学的に測定して、この特性に基づいて試料の分析を行っている。分析装置は、多試料を同時に分析処理することができ、かつ高精度で分析できる。
【0003】
また、例えばSNP(一塩基多型)検査など、所定の塩基配列を有するデオキシリボ核酸(DNA)からなる遺伝子を検出する検査にも分析装置は適している。このような遺伝子検出に用いられる分析装置は、上述の分析装置と同様に、所定の塩基配列を有するDNA等を増幅させる処理を行った試料と試薬とを反応させて、反応液の特性を光学的に測定し、この特性に基づいて試料中の所定の塩基配列を有するDNA等を検出するようにしている(特許文献1、2)。
【0004】
【特許文献1】特開2005−95134号公報
【特許文献2】特許第3545158号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、生化学検査に用いられる従来の分析装置では、反応容器は反応液の特性を測定後、自動的に洗浄され繰り返し使用されている。一方、遺伝子検出に用いられる分析装置では、反応容器が試料ごとに交換され、使用済みの反応容器は繰り返し使用されず廃棄されていた。遺伝子検出に用いられる分析装置で反応容器が廃棄されるのは、生化学検査の検査対象であるタンパク質や糖に比べて、遺伝子検出検査の検査対象であるDNA等が微細であるため、洗浄液などを用いて反応容器を洗浄しても、使用後の反応容器からDNA等を完全に除去することが困難なためである。したがって、分析精度を保つために試料ごとに新しい反応容器を用いる必要があった。
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、検査対象が微細であっても分析精度を落とすことなく、反応容器を繰り返し使用することができる分析装置およびキャリーオーバー防止方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明にかかる分析装置は、試料と試薬とを反応容器に分注して、該試料と該試薬とを反応させて、反応液の特性を測定し、該測定結果に基づいて前記試料中の検査対象を検出または分析する分析装置であって、前記反応容器内の前記反応液を排出し、該反応容器を洗浄する洗浄手段と、前記検査対象を破壊または変質させて該検査対象を消失させる消失手段と、を備えたことを特徴とする。
【0008】
また、本発明にかかる分析装置は、上記の発明において、前記検査対象は、デオキシリボ核酸であり、前記消失手段は、前記反応容器に電子線を照射する電子線照射装置であることを特徴とする。
【0009】
また、本発明にかかる分析装置は、上記の発明において、前記消失手段は、前記洗浄手段による洗浄前の前記反応容器内の前記検査対象および/または前記洗浄手段による洗浄後の前記反応容器内の前記検査対象を破壊または変質させて該検査対象を消失させることを特徴とする。
【0010】
また、本発明にかかるキャリーオーバー防止方法は、試料と試薬とを反応容器に分注して、該試料と該試薬とを反応させて、反応液の特性を測定し、該測定結果に基づいて前記試料中の検査対象を検出または分析する際の前記反応容器内の該検査対象のキャリーオーバーを防止するキャリーオーバー防止方法であって、 前記反応容器内の前記反応液を排出し、該反応容器を洗浄する洗浄ステップと、前記検査対象を破壊または変質させて該検査対象を消失させる消失ステップと、を含むことを特徴とする。
【0011】
また、本発明にかかるキャリーオーバー防止方法は、上記の発明において、前記検査対象は、デオキシリボ核酸であり、前記消失ステップは、前記反応容器に電子線を照射することを特徴とする。
【0012】
また、本発明にかかるキャリーオーバー防止方法は、上記の発明において、前記消失ステップは、前記反応液の特性を測定後から、前記試料の分注前までに、1回以上前記検査対象を破壊または変質させて該検査対象を消失させることを特徴とする。
【0013】
また、本発明にかかるキャリーオーバー防止方法は、上記の発明において、前記消失ステップは、前記洗浄ステップの前および/または後に前記検査対象を破壊または変質させて該検査対象を消失させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明にかかる分析装置およびキャリーオーバー防止方法は、反応容器内の反応液を排出し反応容器を洗浄するとともに、検査対象を破壊または変質させて検査対象を消失させるので、検査対象がDNAのように微細であり反応容器の洗浄を行っても完全に除去できない物質であっても、検査対象を消失させることによって、確実に検査対象のキャリーオーバーを防止でき、分析精度を落とすことなく反応容器を繰り返し使用できるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための最良の形態である遺伝子検出検査に用いられる分析装置およびキャリーオーバー防止方法について図面を参照して説明する。なお、図面の記載において、同一の部分には同一の符号を付している。
【0016】
なお、この実施の形態にかかる分析装置は、遺伝子検出検査の一連の工程のうちの一部に用いられる。遺伝子検出検査は、検体からDNAを抽出する抽出工程と、抽出したDNAのうち所定の塩基配列を有するDNAの一部を増幅する増幅工程と、増幅したDNAを検出する検出工程とがこの順番で行われる。この実施の形態にかかる分析装置は、検出工程で用いられる。
【0017】
(実施の形態)
図1は、この発明の実施の形態にかかる分析装置の概略を示す図である。図1に示すように、分析装置1は、試料と試薬とを反応容器に分注し、反応容器内で反応した液体に対して光学的な測定を行う測定機構101と、測定機構101を含む分析装置1全体の制御を行うとともに測定機構101における測定結果の分析を行う制御機構103とを備える。分析装置1は、これら2つの機構が連携することによって複数の試料の遺伝子検出検査を自動的に行う。なお、ここでいう「液体」には、固体成分を含有する液体も含まれ、具体的には後述するような試料や試薬が含まれる。
【0018】
まず、測定機構101について説明する。測定機構101は、大別して、試料容器移送部11、第1試薬容器保持部12、第2試薬容器保持部13、反応容器保持部14、試料分注部15、第1試薬分注部16、第2試薬分注部17、攪拌部18、測光部19、洗浄部20、電子線照射部21を備える。
【0019】
試料容器移送部11は、試料を収容した試料容器111を複数保持するラック112と、このラック112を移送する移送手段とを備える。第1試薬容器保持部12と第2試薬容器保持部13と反応容器保持部14とは、それぞれ第1試薬容器121と第2試薬容器131と反応容器141とを保持するホイールと、それぞれのホイールの底面中心に取り付けられ、その中心を通る鉛直線を回転軸としてホイールを回転させる駆動手段とを備える。
【0020】
試料容器111には、内部に収容する試料を識別する識別情報を所定の情報コード(バーコード、2次元バーコード等)にコード化して記録した情報コード記録媒体が貼付されている。また、第1試薬容器121および第2試薬容器131には、内部に収容する試薬を識別する識別情報を所定の情報コードにコード化して記録した情報コード記録媒体が貼付されている。このため、測定機構101には、試料容器111に貼付された情報コードを読み取る情報コード読取部CR1、第1試薬容器121に貼付された情報コードを読み取る情報コード読取部CR2、第2試薬容器131に貼付された情報コードを読み取る情報コード読取部CR3が、それぞれ試料容器移送部11、第1試薬容器保持部12、第2試薬容器保持部13に設けられている。
【0021】
反応容器141は、例えばガラス製の容器であり、測光部19が照射する光を透過し、また半永久的に繰り返し使用可能な容器である。
【0022】
試料分注部15は、細管状のプローブと、プローブの先端に着脱自在に装着されるチップと、鉛直方向への昇降および水平方向の回転を自在に行うアームと、チップの先端が液面に達したことを検知する液面検知手段とを備える。試料分注部15は、試料容器移送部11によって所定位置に移送された試料容器111内の試料をチップ内に吸引し、アームを旋回させ、反応容器保持部14によって所定位置に移送された反応容器141内にチップ内の試料を吐出する。
【0023】
また、試料分注部15の動作線上に、未使用のチップを保持するチップ格納部151と、使用済みのチップをプローブから取り外して廃棄するチップ廃棄部152とが設けられている。試料分注部15は、チップ格納部151でプローブに未使用のチップを装着し、チップ廃棄部152で使用済みのチップを取り外す。使用済みチップは、廃棄ボックスへ自動的に収容される。
【0024】
第1試薬分注部16は、細管状のプローブと、鉛直方向への昇降および水平方向の回転を自在に行うアームと、プローブを洗浄する洗浄手段と、プローブの先端が液面に達したことを検知する液面検知手段とを備える。第1試薬分注部16は、第1試薬容器保持部12によって所定の位置に移送された第1試薬容器121内の試薬をプローブ内に吸引し、アームを旋回させ、反応容器保持部14によって所定の位置に移送された反応容器141内に試薬を分注する。また、第2試薬分注部17は、第1試薬分注部16と同様の構成を有し、第2試薬容器保持部13によって所定の位置に移送された第2試薬容器131内の試薬をプローブ内に吸引し、アームを旋回させ、反応容器保持部14によって所定の位置に移送された反応容器141内に試薬を分注する。
【0025】
攪拌部18は、例えば、音波(表面弾性波)によって、反応容器141に分注された液体を非接触で攪拌する装置、または攪拌へらを反応容器141内の液体中に浸漬させてこの液体を攪拌する装置を備える。
【0026】
測光部19は、所定波長の光、例えば800nmの分析光を反応容器141側面に垂直な平行光にして反応容器141側面の所定領域に照射する光源機構と、反応液を透過した光の光量を測定する受光量測定機構とを備える。反応容器141内の反応液が懸濁している場合、反応液に照射された分析光は散乱されるので、受光測定機構に到達する分析光の光量は減少する。
【0027】
洗浄部20は、複数のノズルと液体吸引装置と洗浄液注入装置とを備える。洗浄部20は、ノズルを介して反応容器141内の反応液を吸引して排出するとともに、ノズルを介して反応容器141に洗剤や洗浄水などの洗浄液を繰り返し注入および吸引することで、反応容器141を洗浄する。
【0028】
電子線照射部21は、例えば、高さ約100mm、直径50mm程度の小型の電子線照射管を有し、この電子線照射管から反応容器141に電子線を照射することによって、反応容器141内の検査対象を破壊して消失させる。なお、電子線照射部21は、上述のように小型であるので、生化学検査等に用いられる分析装置と同程度の大きさの分析装置にも搭載可能である。
【0029】
次に、制御機構103について説明する。制御機構103は、1つまたは複数のコンピューターシステムを用いて実現され、測定機構101に接続する。制御機構103は、分析装置1の各処理にかかわる各種プログラムを用いて測定機構101の動作処理の制御を行うとともに、測定機構101の測定結果の分析を行う。制御機構103は、制御部31、分析部32、記憶部33、出力部34、入力部35を備える。
【0030】
制御部31は、制御機能を有するCPU等を用いて構成され、分析装置1の各構成部位の処理および動作を制御する。制御部31は、各構成部位に入出力される情報に対して所定の入出力制御を行い、かつ、この情報に対して所定の情報処理を行う。制御部31は記憶部33が記憶するプログラムをメモリから読み出すことにより分析装置1の制御を実行する。
【0031】
分析部32は、測定機構101の測光部19から入力した測定結果の分析演算を行う。分析部32は、測光部19から入力した受光量に基づいて反応液の濁度を算出し、取得した濁度と所定の基準濁度とを比較する。分析部32は、算出した濁度が所定の基準濁度以上であれば、試料は所定の塩基配列を有するDNAを含有していると判断する。この分析結果は、出力部34から出力される一方、記憶部33に記憶される。
【0032】
記憶部33は、情報を磁気的に記憶するハードディスクと、分析装置1が処理を実行する際にその処理にかかわる各種プログラムをハードディスクからロードして電気的に記憶するメモリとを備える。記憶部33は、それらに基準濁度や試料の分析結果などを記憶する。記憶部33は、CD−ROM、DVD−ROM、PCカード等の記憶媒体に記憶された情報を読み取ることができる補助記憶装置を備えてもよい。
【0033】
出力部34は、ディスプレイ、プリンタ、スピーカー等を備え、分析に関する諸情報を外部へ出力する。入力部35は、さまざまな情報を入力するためのキーボード、出力部34の有するディスプレイの表示画面上における任意の位置を指定するためのマウス等を備え、試料の分析に必要な諸情報や分析動作の指示情報を外部から取得する。
【0034】
続いて、反応容器141内で起こる反応について説明する。具体的には、図2、3を参照して、試料中の検査対象を検出する際の検査対象と試薬との反応および破壊された検査対象と試薬との反応について説明する。
【0035】
ここで、分析装置1が検出する検査対象であるDNA41は、図2に示すように、所定の塩基配列を有する2本鎖状のDNAであって、それぞれの鎖に所定の抗原または抗体41a、41bが結合されている。
【0036】
また、試料は、DNA抽出工程とDNA増幅工程とを経て作成される。まず、DNA抽出工程で、被験者等から採取された検体のDNAが抽出される。次いで、DNA増幅工程で、抽出したDNAを含む試料に対して、所定の塩基配列を有するDNAの所定の部分のみが増幅するような処理が行われる。DNA増幅工程では、例えばPCR(Polymerase Chain Reaction)法を用いた処理が行われる。PCR法を用いて、例えばSNP部位の塩基がアデニンであるDNAを増幅させる場合、SNP部位の塩基がアデニンであるDNAのみが増幅するようなプライマーを用いる。この場合、プライマーに所定の抗原または抗体を結合させておけば、所定の抗原または抗体を結合したDNAが増幅される。したがって、被験者等が所定の塩基配列を有するDNAを持っている場合、上述の工程を経て作成された試料は多量のDNA41を含む。一方、被験者等が所定の塩基配列を有するDNAを持っていない場合、上述の工程を経て作成された試料であってもDNA41を含まない。なお、DNA41に結合させる抗原は不完全抗原であるハプテンなどであってもよい。
【0037】
DNA41を検出するための試薬は、図2に示すように、例えばDNA41に結合した抗原または抗体41a、41bを認識する抗体または抗原42a、42bが結合されたラテックスビーズ42cのような粒子42を含む液体である。この試薬は、分析装置1で第2試薬として用いられる。なお、分析装置1で用いられる第1試薬は、例えば緩衝液のような試薬であって、検出試薬と試料との反応に直接関与しない試薬である。したがって、分析装置1では、緩衝液を第1試薬とし、検出試薬を第2試薬としたが、検出試薬を第1試薬として緩衝液よりも先に反応容器141に分注してもよく、また、緩衝液は使用せず検出試薬のみを使用するとしてもよい。
【0038】
DNA41を含む試料と粒子42を含む第2試薬とを混合した場合、DNA41に結合した抗原または抗体41a、41bと、ラテックスビーズ42cに結合した抗体または抗原42a、42bとは抗原抗体反応を起こし結合する。この結合が生じると、図2に示すように、粒子42の間をDNA41が架橋して、粒子42とDNA41とは凝集物43をつくる。このように、試料中にDNA41があれば、試料と第2試薬とが混合されると凝集物43がつくられるので、反応液は懸濁する。したがって、分析装置1は反応液の濁度に基づいて試料中のDNA41を検出することができる。
【0039】
一方、図3に示すように、破壊されたDNA41の断片である残存物41cと粒子42とが混合されても、残存物41cに結合した抗原または抗体41a、41bとラテックスビーズ42cに結合した抗体または抗原42a、42bとは抗原抗体反応を起こして結合する。しかし、残存物41cは粒子42の間を架橋することができないため、残存物41cと粒子42とは凝集物43を生成せず、残存物41cと粒子42とを含む液体は懸濁しない。
【0040】
なお、この実施の形態では、DNA41を破壊するために電子線を用いる。電子線は、電離作用等によりリン酸とデキシリボースとからなるDNA鎖を切断し、DNAの持つ塩基を酸化または欠落させることによって、DNAを破壊することができる。また、電子線は、同じく電離作用等を有する他の電離放射線、例えば電子線と同じく医療器具等の滅菌に使用されるγ線と比較して、短時間の照射でDNAを破壊することができること、装置が小型であること、安全性が高いことなどの利点を持つ。
【0041】
次いで、図4を参照して、図1にかかる分析装置1において制御部31が行う検査処理を説明する。まず、制御部31は、反応容器保持部14を用いて所定の反応容器141を第1試薬分注位置に移送し、反応容器141内に第1試薬を分注する(ステップS101)。制御部31は、第1試薬を収容した反応容器141を試料分注位置に移送し、この反応容器141に試料を分注する(ステップS102)。次に、制御部31は、第1試薬と試料とを収容した反応容器141を第2試薬分注位置に移送し、この反応容器141に第2試薬を分注する(ステップS103)。なお、制御部31は、ステップS101〜S103の直後の各液体を収容した反応容器141を攪拌部18に移送し、反応容器141内の液体を攪拌する。次いで、制御部31は、反応液を収容した反応容器141を測光部19に移送し、反応液の濁度を測定する(ステップS104)。
【0042】
その後、制御部31は、濁度測定済みの反応液を収容する反応容器141を洗浄部20に移送し、反応容器141内の反応液を排出して反応容器141内を洗浄する(ステップS105)。次いで、制御部31は、反応容器141を電子線照射部21に移送し、洗浄済みの反応容器141に電子線を照射する(ステップS106)。制御部31は分析停止指示の入力がなければ(ステップS107:No)、ステップS101に戻り、再度上述の処理を繰り返す。制御部31は、上述の処理によって、特に反応容器141洗浄後に電子線を照射することによって検査対象のキャリーオーバーを防止して、分析精度を落とすことなく反応容器141を繰り返し使用して、試料の検査を行う。
【0043】
例えば、上述の検査処理によって検査対象を含む試料を検査する場合、まず、反応容器141に第1試薬44が分注され(図5(1))、DNA41を含む試料が分注され(図5(2))、粒子42を含む第2試薬が分注されて、DNA41と粒子42とが結合して凝集し凝集物43を生じる(図5(3))。この際、反応容器141内のすべてのDNA41が粒子42と結合し凝集するのではなく、粒子42と結合せずに浮遊しているDNA41も存在する。そして、反応液の濁度測定および洗浄後の反応容器141内にも、キャリーオーバーとしてDNA41が残存する(図5(4))。これは、生化学検査に用いられる従来の分析装置に搭載されている反応容器洗浄装置を用いて反応容器を洗浄する場合、ラテックスビーズ程度の大きさの粒子は除去することが可能であるが、DNA41は微細であるため洗浄部20を用いて反応容器141を洗浄しても、反応容器141内のDNA41を完全に除去できないためである。この反応容器141を再び新たな試料の分析に使用すると、新たな試料の分析結果に影響を及ぼしてしまう。したがって、この状態では反応容器141を繰り返し使用することはできない。
【0044】
そこで、DNA41が残存している反応容器141に電子線を照射すると、DNA41は電子線によって破壊されて消失する(図5(5))。破壊されたDNA41の断片である残存物41cと粒子42とが反応しても、その反応液は懸濁しないので、電子線照射後の反応容器141が再度、別の試料の分析に使用されても、別の試料の分析結果に影響を与えることはない。したがって、分析装置1において、反応容器141を繰り返し使用することができる。
【0045】
このように、この実施の形態にかかる分析装置1は、洗浄後の反応容器141に電子線を照射して、反応容器141内に残存する検査対象のDNA41を破壊して消失させることによって、検査対象のキャリーオーバーを防止するので、反応容器141を繰り返し使用することができる。
【0046】
なお、反応容器141を繰り返し使用することによって、反応容器補充のための時間が短縮でき、分析効率が向上する。加えて、新たな反応容器の補充が不要となるので、操作者の負担を軽減することができる。また、試料ごとに新たな反応容器を用意する必要がなくなり、費用が抑えられる。さらに、試料ごとに反応容器を廃棄しないので、環境にも負担をかけない。
【0047】
また、上述した実施の形態では、検査処理の際、洗浄後の反応容器141に電子線を照射する場合を説明したが、この実施の形態の変形例1として、反応液の濁度測定後であって洗浄前の反応容器141に電子線を照射してもよい。
【0048】
すなわち、図6に示すように、制御部31は、図4に示すステップS101〜S104と同様に、第1試薬等を分注後、測光部19で反応液の濁度を測定し(ステップS201〜S204)、反応液を収容した反応容器141に電子線を照射する(ステップS205)。制御部31は、電子線照射後の反応容器141を洗浄部20に移送し、反応容器141内の反応液を排出して反応容器141内を洗浄する(ステップS206)。制御部31は、分析停止指示の入力がなければ(ステップS207:No)、ステップS201に戻り、上述の処理を繰り返す。制御部31は、上述の処理によって、特に反応容器141洗浄前に電子線を照射することによって、検査対象のキャリーオーバーを防止し分析精度を落とすことなく反応容器141を繰り返して、試料の検査を行う。
【0049】
例えば、上述の検査処理によって検査対象を含む試料を検査する場合、濁度測定後の反応液を収容した反応容器141に電子線を照射すると、主に、粒子42と凝集せず浮遊するDNA41が電子線によって破壊される(図7(4))。これは、凝集物43の内部にはラテックスビーズ42c等が障害物となり電子線が到達しにくく、電子線の効果が到達しにくいためである。また、この場合、電子線は反応液中の水分子などにも作用し、反応性の高いラジカル、例えばOHラジカル等を発生させる。ラジカルは電子線と同様に、DNA41のDNA鎖切断等をする。
【0050】
電子線照射後の反応容器141が洗浄されても、電子線によって破壊されたDNA41の断片である残存物41cは残存する(図7(5))。しかし、上述のように、残存物41cは、他の試料の分析結果に影響を与えることはないので、反応容器141を繰り返し試料の分析に使用することができる。
【0051】
このように、この実施の形態にかかる分析装置1は、洗浄前の反応容器141に電子線を照射しても、洗浄後の反応容器141に電子線を照射した場合と同様に、反応容器141内のDNA41を破壊し消失させて、検査対象のキャリーオーバーを防止するので、反応容器141を繰り返し使用することができる。
【0052】
つまり、この実施の形態にかかる分析装置1は、反応容器141の洗浄の前または後、すなわち反応容器141の洗浄の前後を問わず、反応液の濁度測定後であって再び第1試薬が分注される前の反応容器141に電子線を照射することによって、検査対象のキャリーオーバーを防止するので、反応容器141を繰り返し使用することができる。
【0053】
ただし、洗浄前の反応容器141に電子線を照射する場合、反応液中には検査対象のDNA41以外の成分、例えば水分や凝集物43などが障害物となり、電子線がDNA41に到達しにくい。この場合には、反応容器141洗浄後であって障害物が少ない状態で電子線を照射してDNA41を破壊する場合と比べて、さらに高いエネルギーを持つ電子線を照射する必要がある。
【0054】
また、上述した実施の形態では、検査処理の際、洗浄前または洗浄後のいずれかに、反応容器141に電子線を照射することとしたが、この実施の形態の変形例2として、洗浄前および洗浄後に反応容器141に電子線を照射してもよい。
【0055】
すなわち、図8に示すように、本発明にかかる分析装置2は、洗浄前の反応容器141に電子線を照射する電子線照射部21aと、洗浄後の反応容器141に電子線を照射する電子線照射部21bとを備える。その他の構成は、上述した分析装置1と同様である。
【0056】
また、図9に示すように、制御部31は、図4に示すステップS101〜S104と同様に、第1試薬等の分注および測光部19による反応液の濁度の測定後(ステップS301〜S304)、反応液を収容した反応容器141を電子線照射部21aに移送し、電子線を照射する(ステップS305)。次いで、制御部31は、反応容器141を洗浄部20に移送し、反応容器141内の反応液を排出して反応容器141内を洗浄する(ステップS306)。そして、制御部31は、反応容器141を電子線照射部21bに移送し、反応容器141に電子線を照射する(ステップS307)。制御部31は、分析停止指示の入力がなければ(ステップS308:No)、ステップS301に戻り、上述の処理を繰り返す。制御部31は、上述の処理によって、特に洗浄前後の反応容器141に電子線を照射することによって、検査対象のキャリーオーバーを防止し分析精度を落とすことなく反応容器141を繰り返し使用して、試料の検査を行う。
【0057】
例えば、上述の検査処理によって検査対象を含む試料を検査する場合、濁度測定後に電子線が照射された反応液中には、電子線等によって破壊されたDNA41の残存物41cとDNA41とが残存する場合がある(図10(4))。これは、照射した電子線のもつエネルギーが少ない場合、反応液自体が障害となりDNA41に電子線が到達せず、このようにDNA41が残存する可能性があるためである。そして、洗浄後の反応容器141内にも、DNA41と残存物41cとが残存する(図10(5))。この反応容器141に電子線が照射されると、DNA41のDNA鎖が切断等され破壊される(図10(6))。上述のように、残存物41cは、他の試料の分析結果に影響を与えることはないので、反応容器141を繰り返し試料の分析に使用することができる。
【0058】
この実施の形態の変形例2にかかる分析装置2は、洗浄前後の反応容器141に電子線を照射するので、上述した実施の形態と比較してさらに確実に反応容器141内の検査対象であるDNA41を消失させることができるので、より確実に検査対象のキャリーオーバーを防止することができ、より精度の高い検査結果を得ることができる。
【0059】
なお、上述の実施の形態の変形例2では、電子線照射手段として電子線照射部21a、21bの2つを設けたが、電子線照射手段は1つであってもよい。この場合には、同じ電子線照射手段を用いて同じ反応容器141に複数回電子線を照射する。
【0060】
また、上述した実施の形態およびその変形例1、2では、反応容器141の洗浄前または/および後に各1回、電子線を照射することとした。しかし、反応液の濁度測定後であって再び試料が分注される前までに、反応容器141内のDNA41が消失されれば、反応容器141洗浄前または/および後にそれぞれ複数回、電子線を照射するとしてもよい。
【0061】
なお、上述した実施の形態およびその変形例1、2では、情報コード記録媒体と情報コード読取部CR1、CR2、CR3とを用いて試料および試薬の識別情報を取得したが、例えばRFIDを利用したような、試料および試薬の識別情報が無線により情報の読み出しまたは書き込みのできるICチップに記載され、このICチップが内蔵された無線ICタグが、試料容器111と第1試薬容器121と第2試薬容器131とに備えられ、情報コード読取部CR1、CR2、CR3に替えてICタグのリーダーによって、試料容器111または第1試薬容器121若しくは第2試薬容器131を識別し、それらが収容する試料または試薬の識別情報を読み取るとしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】この発明の実施の形態にかかる分析装置の概要を示す模式図である。
【図2】図1に示す分析装置で検査対象と試薬に含まれる粒子とが結合し凝集した状態を示す図である。
【図3】図1に示す分析装置で電子線照射後の検査対象の断片と試薬に含まれる粒子とが結合した状態を示す図である。
【図4】図1に示す分析装置で、制御部31が行う検査処理であって、洗浄後の反応容器に電子線を照射する場合の処理を示すフローチャートである。
【図5】図4に示す検査処理によって検査対象を含む試料を検査する場合の反応容器内の状態を示す図である。
【図6】図1に示す分析装置で、制御部31が行う検査処理であって、洗浄前に反応容器に電子線を照射する場合の処理を示すフローチャートである。
【図7】図6に示す検査処理によって検査対象を含む試料を検査する場合の反応容器内の状態を示す図である。
【図8】この発明の形態の変形例にかかる分析装置の概要を示す模式図である。
【図9】図8に示す分析装置で、制御部31が行う検査処理であって、洗浄前後に反応容器に電子線を照射する場合の処理を示すフローチャートである。
【図10】図9に示す検査処理によって検査対象を含む試料を検査する場合の反応容器内の状態を示す図である。
【符号の説明】
【0063】
1、2 分析装置
11 試料容器移送部
12 第1試薬容器保持部
13 第2試薬容器保持部
14 反応容器保持部
15 試料分注部
16 第1試薬分注部
17 第2試薬分注部
18 攪拌部
19 測光部
20 洗浄部
21、21a、21b 電子線照射部
31 制御部
32 分析部
33 記憶部
34 出力部
35 入力部
41 DNA
41a、41b 抗原または抗体
41c 残存物
42 粒子
42a、42b 抗体または抗原
42c ラテックスビーズ
43 凝集物
44 第1試薬
101、201 測定機構
103 制御機構
111 試料容器
112 ラック
121 第1試薬容器
131 第2試薬容器
141 反応容器
151 チップ格納部
152 チップ廃棄部
CR1、CR2、CR3 情報コード読取部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料と試薬とを反応容器に分注して、該試料と該試薬とを反応させて、反応液の特性を測定し、該測定結果に基づいて前記試料中の検査対象を検出または分析する分析装置であって、
前記反応容器内の前記反応液を排出し、該反応容器を洗浄する洗浄手段と、
前記検査対象を破壊または変質させて該検査対象を消失させる消失手段と、
を備えたことを特徴とする分析装置。
【請求項2】
前記検査対象は、デオキシリボ核酸であり、
前記消失手段は、前記反応容器に電子線を照射する電子線照射装置であることを特徴とする請求項1に記載の分析装置。
【請求項3】
前記消失手段は、前記洗浄手段による洗浄前の前記反応容器内の前記検査対象および/または前記洗浄手段による洗浄後の前記反応容器内の前記検査対象を破壊または変質させて該検査対象を消失させることを特徴とする請求項1または2に記載の分析装置。
【請求項4】
試料と試薬とを反応容器に分注して、該試料と該試薬とを反応させて、反応液の特性を測定し、該測定結果に基づいて前記試料中の検査対象を検出または分析する際の前記反応容器内の該検査対象のキャリーオーバーを防止するキャリーオーバー防止方法であって、
前記反応容器内の前記反応液を排出し、該反応容器を洗浄する洗浄ステップと、
前記検査対象を破壊または変質させて該検査対象を消失させる消失ステップと、
を含むことを特徴とするキャリーオーバー防止方法。
【請求項5】
前記検査対象は、デオキシリボ核酸であり、
前記消失ステップは、前記反応容器に電子線を照射することを特徴とする請求項4に記載のキャリーオーバー防止方法。
【請求項6】
前記消失ステップは、前記反応液の特性の測定後から、前記試料の分注前までに、1回以上前記検査対象を破壊または変質させて該検査対象を消失させることを特徴とする請求項4または5に記載のキャリーオーバー防止方法。
【請求項7】
前記消失ステップは、前記洗浄ステップの前および/または後に前記検査対象を破壊または変質させて該検査対象を消失させることを特徴とする請求項4〜6のいずれか一つに記載のキャリーオーバー防止方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−216068(P2008−216068A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−54355(P2007−54355)
【出願日】平成19年3月5日(2007.3.5)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】