説明

分析装置における温度制御装置

【課題】
高分解能A/D変換器を不要にするとともに、高精度に温調制御できるようにする。
【解決手段】
分析装置における温調ブロック2を加熱する加熱部4と、温調ブロック2の温度を計測する温度計測手段8,10と、温度計測手段10が計測した温度が所定の温度になるように加熱部4を制御する温調部とを備えており、その温調部は設定温度を可変にできる温度設定部14と、温度計測手段10の出力信号をA/D変換して取り込み、その取り込んだ信号に対応した温度が所定の温度に近づくように温度設定部14の設定温度を設定する設定温度制御部20と、温度計測手段10の計測温度に対応した出力信号と温度設定部14の設定温度に対応した信号とを比較し、その差分に応じて加熱部4の通電を制御する比較回路12とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は高速液体クロマトグラフなどの分析装置における温度制御装置に関し、例えば高速液体クロマトグラフの各種検出器(吸光度検出器、蛍光検出器、示差屈折計検出器等)、カラムオーブン又はインジェクタ(以下、これらを総称して検出器等という。)の温度を所定の温度に加熱又は冷却するための温度制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、高速液体クロマトグラフでは、検出器等の温度を所定の温度に調節する温調機能(温度調節を「温調」という。)を実現する方式として、トランジスタの損失熱を利用する方式とペルチェ素子を使用する方式が使用されている。前者の場合、温調される部分をサーミスタで温度計測し、計測温度が設定温度より低ければトランジスタにコレクタ電流を流してその損失熱により加熱し、計測温度が設定温度より高ければコレクタ電流を止めて自然冷却させるという方式で温度制御している。後者の場合でも基本的には類似しており、計測温度と設定温度の差に応じてペルチェ素子への通電を制御している。
【0003】
その際、計測温度によりコレクタ電流を流すべきか止めるべきか、又はペルチェ素子への通電をどうするかを判定する機能には、ハードウエア(H/W)方式とソフトウエア(S/W)方式とがある。
【0004】
H/W方式では設定温度に相当する換算電圧を固定で与え、それと計測温度から換算される電圧とを演算増幅器(オペアンプ)で比較し、加熱用トランジスタ又はペルチェ素子の通電をフィードバック制御する。
【0005】
S/W方式では、計測温度を読み取ったCPU(中央処理装置)が、計測温度が設定温度に近づくように加熱用トランジスタ又はペルチェ素子の通電を制御する信号を出力する。
従来はH/W方式で行うことが多かった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年はΔΣ方式など高分解能のA/D変換器(アナログ信号からデジタル信号への変換)が出まわっているためS/W制御方式が主流になってきている。例えば、ΔΣ方式のA/D変換器は有効分解能が20ビット程度あるため、これを使用すれば0.01℃単位の制御は充分可能になる。
【0007】
近年のCPUにはA/D変換器を内蔵したものが出まわっているが、その分解能は8〜10ビットであり、これをS/W制御方式で使用して検出器等の温度を所定の温度に調節するには分解能が低い。
【0008】
そのため、S/W制御方式では、温度計測専用の高分解能A/D変換器が必要となるためコストアップや基板スペース増加の要因となっている。
一方、従来のH/W方式では2つの電圧を直接比較してフィードバック制御制御するため高精度に温調制御できる反面、設定電圧が固定で与えられるため、部品のバラツキなどから、制御される温度(絶対値)にバラツキが出ていた。
【0009】
本発明は高分解能A/D変換器を不要にするとともに、高精度に温調制御できるようにすることを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の温度制御装置は、分析装置における温調ブロックを加熱する加熱部と、前記温調ブロックの温度を計測する温度計測手段と、前記温度計測手段が計測した温度が所定の温度になるように前記加熱部を制御する温調部とを備えたものを対象とする。そして、前記温調部は、設定温度を可変にできる温度設定部と、前記温度計測手段の出力信号をA/D変換して取り込み、その取り込んだ信号に対応した温度が前記所定の温度に近づくように前記温度設定部の設定温度を設定する設定温度制御部と、前記温度計測手段の計測温度に対応した出力信号と前記温度設定部の設定温度に対応した信号とを比較し、その差分に応じて前記加熱部の通電を制御する比較回路とを備えている。
【0011】
本発明では、H/W方式によるフィードバック温度制御とS/W方式による温度設定を併用することにより、高分解能A/D変換器の使用を排除するものではないが、低分解能A/D変換器を使用しても高分解能の温調制御を実現するものである。したがって、好ましい形態では、前記温度計測手段の出力信号をA/D変換するA/D変換器はこの温度制御装置が要求する分解能よりも低い分解能をもつA/D変換器である。
【0012】
さらに好ましい形態では、前記設定温度制御部はCPUである。その場合、さらに好ましい形態では、前記温度計測手段の出力信号をA/D変換するA/D変換器は前記CPUに内蔵されたものである。
【0013】
例えば10〜70℃の温度範囲を0.1℃単位で温調するためには、(70−10)/0.1=600≦210であるので、10ビットの分解能ですむ。しかし、その温度範囲を0.01℃単位で温調するためには、(70−10)/0.01=6000≦213となって、13ビットの分解能が必要となる。
【0014】
市販のあるCPUは、内蔵A/D変換器の分解能は10ビットであるので、0.1℃単位でなら読取り可能であるが、0.01℃単位の読取りは不可能、すなわちS/W方式のみの制御であれば0.01℃単位での制御は不可能である。
しかし、例えば、液体クロマトグラフにおいてユーザが確認したい温度は0.1℃単位で充分であり、0.01℃単位で読み取ることができても意味がない。一方、分析に求められる温調性能は温度絶対値が多少狂っても構わないが、一定に制御している時の温度精度は0.01℃やそれ以上の分解能が必要となる。
【0015】
そこで、本発明では、例えば、10ビット分解能のレベルで温度を読み取って設定温度に対応する電圧をS/W方式で決定し、その後、H/W方式の制御に切り替える。これにより、部品のバラツキも吸収した上で0.1℃単位程度の設定温度にし、その決定値に従うようにH/W方式で高精度に制御する。
【0016】
本発明のさらに好ましい形態では、さらに表示部を備え、前記設定温度制御部はA/D変換して取り込んだ前記温度計測手段の出力信号を前記表示部に表示する。
本発明が適用される分析装置の一例は高速液体クロマトグラフである。その場合、この温度制御装置はその検出器、カラムオーブン及びインジェクタのうちの少なくともいずれかの温度を制御するものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明の温度制御装置は、H/W方式によるフィードバック温度制御とS/W方式による温度設定を併用することにより、低分解能A/D変換器を使用しても高分解能の温調制御が可能になる。
そして、その結果として温度計測手段の出力信号をA/D変換するA/D変換器としてCPUに内蔵されたものを使用することができる。その場合には、高分解能A/D変換器及びその周辺部品が不要になるため、コストやスペースの点で有利である。
【0018】
また、外付けA/D変換器を読み出すプログラムは、CPU内蔵A/D変換器を読み出すプログラムに比べて複雑なため、プログラム開発時間の短縮にもなる。
さらに表示部を備えて、A/D変換して取り込んだ温度計測手段の出力信号をその表示部に表示するようにすれば、計測温度もそのA/D変換器の分解能でユーザが確認できるようになり、ユーザの使い勝手がよくなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
図1は一実施例を概略的に示す回路ブロック図である。
2は分析装置における温調ブロックである。温調ブロック2は、分析装置として例えば高速液体クロマトグラフを取り上げると、その検出器、カラムオーブン又はインジェクタの温調ブロックである。しかし、これに限らず、他の分析装置においても温調を必要とする部分の加熱用又は冷却用の温調ブロックであれば、いずれにも適用することができる。
【0020】
4はその温調ブロック2を加熱する加熱部としての加熱トランジスタであり、NPNトランジスタからなり、そのコレクタが電源端子(24V)に接続され、エミッタが電流検出抵抗6を介してグラウンド端子に接続されている。
【0021】
温調ブロック2にはその温度を検出するために測温素子としてサーミスタ8が設けられている。サーミスタ8は温度計測部10に接続され、サーミスタ8の検出温度が温度計測部10で対応する電圧に変換される。サーミスタ8と温度計測部10は温調ブロック2の温度を計測する温度計測手段を構成している。
【0022】
12は比較回路を構成する演算増幅器であり、その反転入力端子には温度計測部10の計測温度に対応した出力電圧が印加され、非反転入力端子には温度設定部14の設定温度に対応した出力電圧が印加される。比較回路12の出力端子は加熱トランジスタ4のベースに接続されている。比較回路12は温度計測部10の出力電圧と温度設定部14の出力電圧とを比較し、その差分に応じて加熱トランジスタ4の通電をオン/オフ制御する。
【0023】
温度設定部14は設定温度を可変にできるものであり、パルス幅変調(PWM)された信号を入力して電圧に変換するものであり、具体的には例えば図2に示されるように、入力信号を比較回路12の非反転入力端子に導く抵抗16と、その非反転入力端子とグラウンド端子との間に接続されたコンデンサとを備えている。
【0024】
図1に戻って説明すると、20は設定温度制御部としてのCPUであり、例えば10ビットのA/D変換器を内蔵したものを使用する。CPU20には温調ブロック2を所定の温度に調節するための温調温度、例えば40℃が設定されている。CPU20は温度計測部10の出力信号を内蔵のA/D変換器を介してA/D変換して取り込み、その取り込んだ温度が所定の温調温度に近づくように温度設定部14にパルス幅変調された信号を出力して温度設定部14の設定温度を設定する。温度設定部14では、CPU20から出力されるパルス幅変調されたパルス信号のデューティ(パルス信号1周期中のオン時間の比率)に対応して、温度設定部14の電圧が設定される。
CPU20には液晶表示素子などの表示部22が接続されており、CPU20が温度計測部10の出力信号をA/D変換して取り込んだ温度を表示する。
【0025】
比較回路12の反転入力端子に入力される温度計測部10の出力電圧に対し非反転入力端子に入力される温度設定部14の出力電圧が等しいかそれより高い場合には、比較回路12の出力がハイレベル信号となり、それによって加熱トランジスタ4がオンとなって通電して発熱し、温調ブロック2の温度が上がる。一方、比較回路12の反転入力端子に入力される温度計測部10の出力電圧よりも非反転入力端子に入力される温度設定部14の出力電圧の方が低い場合は、比較回路12の出力がローレベル信号となり、それによって加熱トランジスタ4がオフとなって通電が停止して発熱が停止し、温調ブロック2は放熱(自然冷却)によってその温度が下がる。
【0026】
図1の回路ブロック図は説明を分りやすくするために簡略化して示しているが、実際には、さらに回路素子が設けられる。例えば、比較回路12にはフィードバック抵抗が接続され、加熱トランジスタ4にはダーリントン接続による前段トランジスタが接続され、加熱トランジスタ4と電源端子との間又はグラウンド端子との間には温度暴走保護用サーモスタットが挿入され、温度計測部10には適切電圧を発生させるための演算増幅器が接続される。
【0027】
次にこの実施例の動作を図3のフローチャートを参照して説明する。
ここでは、温調設定温度が40℃であるとする。
(1)40℃設定によるS/W制御が開始される(ステップS1)。すなわち、CPU20から温度設定部14に対し、40℃設定にするための予め定められたデューティのパルス信号が出力されて温度設定部14の設定温度が設定され、温度計測部10がサーミスタ8の検出温度を測定する。
【0028】
(2)温度計測部10による測定温度が一定時間(例えば5分間)以上連続して(40−0.1)℃から(40+0.1)℃の範囲内にあれば(ステップS2)、CPU20から温度設定部14に送られるパルス信号のデューティを固定にして設定電圧を一定にする(ステップS3)。すなわち、比較回路12の非反転入力端子の設定電圧を固定して比較回路12によるH/W制御に移行する。
【0029】
(3)温度計測部10による測定温度が一定時間以上連続して(40−0.1)℃から(40+0.1)℃の範囲内にあるという条件が満たされなければ(ステップS2)、タイムアウト(所定時間経過)したかをチェックする(ステップS4)。タイムアウトのための所定時間としては、ステップS2における一定時間の2倍程度を設定すればよい。したがって、この例ではタイムアウトを判定するための所定時間は10分とする。
タイムアウトしていなければ、ステップS5、S6を経てステップS2へ戻る。
【0030】
(4)ステップS5において、測定温度が40℃未満の場合、温度を上昇させる必要があるので、CPU20から温度設定部14に送られるパルス信号のデューティを上げて温度設定部14の設定電圧を上げる(ステップS7)。
【0031】
(5)ステップS6において、測定温度が40℃より大きい場合、温度を下降させる必要があるので、CPU20から温度設定部14に送られるパルス信号のデューティを下げて温度設定部14の設定電圧を下げる(ステップS8)。
【0032】
ステップS7,S8で設定温度を調節するプログラムではPID制御を盛り込むのが好ましい。PID制御は周知の技法であり、目標値と現在値との偏差に対する比例成分(P)、積分成分(I)及び微分成分(D)を含めてフィードバック制御を行なうものであり、比例成分だけを含むP制御、比例成分と積分成分を含むPI制御、比例成分と微分成分を含むPD制御も含んでいる。
【0033】
ステップS2からS6を経てS2へ戻るループは温度設定部14の設定温度を決定するためのS/W制御であり、タイムアウトするまでの所定時間内に測定温度が一定時間以上連続して(40−0.1)℃から(40+0.1)℃の範囲内に入ってくれば、CPU20から温度設定部14に送られるパルス信号のデューティをそのときの値に固定し、このループでのS/W制御動作中に所定時間が経過してタイムアウトすれば、CPU20から温度設定部14に送られるパルス信号のデューティをそのときの値に固定する。このようにしてS/W制御が終わって温度設定部14の設定電圧が決定されれば、比較回路12によるH/W制御に移る。
【0034】
比較回路12によるH/W制御においては、温度設定部14の設定電圧が固定されているので、温度計測部10で求められた測定温度に対応した電圧が温度設定部14の設定電圧と同じになるよう比較回路12によりフィードバックがかかり、加熱トランジスタ4のコレクタ電流が最適制御される。
【0035】
温度計測部10は常にCPU20によってCPU20に内蔵のA/D変換器の分解能、この場合は10ビットの分解能、で温度をモニタされ、表示部22によりユーザに表示することができる。
【0036】
実施例では加熱部として加熱トランジスタを使用した場合を示しているが、ペルチェ素子を使用した場合も同様に温調制御することができる。また、ペルチェ素子では加熱だけではなく、通電方向を変えることにより強制的に冷却することもできる。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明の温度制御装置は、高速液体クロマトグラフを初め、各種の分析装置における被温調部分を所定の温度に加熱又は冷却するために利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】一実施例を示すブロック回路図である。
【図2】同実施例における温度設定部の一例を示す回路図である。
【図3】同実施例の動作を示すフローチャート図である。
【符号の説明】
【0039】
2 温調ブロック
4 加熱トランジスタ
6 電流検出抵抗
8 サーミスタ
10 温度計測部
12 比較回路
14 温度設定部
20 CPU
22 表示部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分析装置における温調ブロックを加熱する加熱部と、前記温調ブロックの温度を計測する温度計測手段と、前記温度計測手段が計測した温度が所定の温度になるように前記加熱部を制御する温調部とを備えた温度制御装置において、
前記温調部は
設定温度を可変にできる温度設定部と、
前記温度計測手段の出力信号をA/D変換して取り込み、その取り込んだ信号に対応した温度が前記所定の温度に近づくように前記温度設定部の設定温度を設定する設定温度制御部と、
前記温度計測手段の計測温度に対応した出力信号と前記温度設定部の設定温度に対応した信号とを比較し、その差分に応じて前記加熱部の通電を制御する比較回路と
を備えていることを特徴とする温度制御装置。
【請求項2】
前記温度計測手段の出力信号をA/D変換するA/D変換器はこの温度制御装置が要求する分解能よりも低い分解能をもつA/D変換器である請求項1に記載の温度制御装置。
【請求項3】
前記設定温度制御部はCPUである請求項1又は2に記載の温度制御装置。
【請求項4】
前記温度計測手段の出力信号をA/D変換するA/D変換器は前記CPUに内蔵されたものである請求項3に記載の温度制御装置。
【請求項5】
さらに表示部を備え、前記設定温度制御部はA/D変換して取り込んだ前記温度計測手段の出力信号を前記表示部に表示する請求項1から4のいずれかに記載の温度制御装置。
【請求項6】
前記分析装置は高速液体クロマトグラフであり、この温度制御装置はその検出器、カラムオーブン及びインジェクタのうちの少なくともいずれかの温度を制御するものである請求項1から5のいずれかに記載の温度制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−194706(P2006−194706A)
【公開日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−5859(P2005−5859)
【出願日】平成17年1月13日(2005.1.13)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】