説明

列車制御装置

【課題】列車の走行中、車輪の空転や滑走を未然に防止し、再粘着制御を不要にすることを課題とする。
【解決手段】列車制御装置は、路線条件データ及び車両条件データと速度・位置信号に基づき加減速度指令算出する手段と、車輪の空転・滑走を検知する手段と、路線条件データと空転・滑走検知信号と速度・位置信号とから空転・滑走の起こり易さを区間ごとに判定する手段とを備える。駆動/制動制御装置への加減速度指令値は、空転・滑走区間判定手段により判定された空転・滑走の起こり易さに応じて弱め方向に修正される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、列車走行中の空転・滑走に対処する制御システムを備える列車制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1にも開示されているように、列車を予め定められた目標速度パターンに従い走行させるために、力行、惰行及び制動を目標速度パターンに従い制御する駆動/制動制御装置を備えた自動列車運転装置が知られている。このような駆動/制動制御装置は、路線勾配や曲線などの路線条件データ、車両の重量や曲線抵抗式などの車両条件データ、目標速度算出手段からのデータ、及び、車両速度や車両位置の検出データなどに基づいて決定された力行・制動指令値である加減速度指令値を出力し、モータや制動装置を制御するようになっている。このような自動列車運転装置による列車運転は走行が円滑で乗り心地がよく、到着遅れなどの時分遅れがないなど多くの利点がある。
【特許文献1】特開2001−63538号公報
【特許文献2】特開平7−99703号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、列車の走行には空転・滑走の問題がつきまとう。空転・滑走が発生すると駅間走行に時分遅れが発生したり、速度に円滑さがなくなり乗り心地が著しく低下したりする。滑走による車輪表面の変形の問題もある。この問題を解決するために例えば特許文献2に開示されているように、空転・滑走を検出して走行のための制御データを修正し時分遅れを防止したり、或いは古くから知られているように加減速度指令値を一時的に弱めて再粘着をはかるようにしたりしている。
【0004】
再粘着制御では、再粘着後に指令値を元の値に上げる制御を伴うことから空転・滑走と再粘着とが繰り返されることが多く、乗り心地を著しく低下させる。空転・滑走を未然に防止する方法として、空転・滑走の起こりやすい雨天時には運転手のボタン操作により雨天モードに設定して加減速度指令値を自動的に下げることが行われている。しかしながら、雨が止んだばかりでレールが濡れていた場合やトンネルから出たところが雨天だったりすると、雨天モード操作が間に合わず、空転・滑走が発生してしまうことがあった。特に、レール勾配の急な場所でこのような天候状況に見舞われると更に深刻な事態を招くおそれがあった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
そこで本発明は、操作遅れなどの問題を生ずることなく、空転・滑走の発生を極力抑制できる列車制御装置を提供することを目的とする。
この目的を達成するために本発明の列車制御装置は、列車の速度と位置を検出する速度・位置検出手段と、列車の駆動及び制動を制御する駆動/制動制御装置と、前記速度・位置検出手段からの速度及び位置信号、路線条件、並びに現在の加減速度指令値に基づいて新たな加減速度指令値を算出しこれを前記駆動/制動制御装置に出力する加減速度指令算出手段と有する制御装置に、更に、空転・滑走検知手段と空転・滑走区間判定手段とを設けてなる。前記空転・滑走検知手段は車輪の空転・滑走を検知し、前記空転・滑走区間判定手段は空転・滑走検知手段から空転・滑走判定信号を受けることによりその空転・滑走の発生頻度に基づき空転・滑走の起こり易さを区間ごとに判定してその判定信号を出力し、前記加減速度指令算出手段がその判定信号に基づいて加減速度指令値を修正する構成にされている。ここで、判定信号は、空転・滑走の起こり易い区間を単に特定するための情報として、或いは、起こり易い区間を特定すると同時に起こり易さの度合いを示す情報として扱われる。
【0006】
本発明の好ましい具体例は次の通りである。(1)空転・滑走判定手段は、他列車の空転・滑走発生情報を通信手段を通じて空転・滑走検知信号として受けることにより、自列車の空転・滑走の起こり易さを区間ごとに判定する。(2)空転・滑走の起こり易さを通過列車の延べ台数のうち、空転・滑走を発生した割合から判定する。(3)加減速度指令算出手段は通信手段を通じて受けた他列車の加減速度指令情報受けてその情報から自列車の加減速度指令値を決定する。(4)駅間走行時間が所定値になるように、各区間の空転・滑走の起こり易さに応じて駆動/制動制御装置への加速度指令値及び区間最高速度の少なくとも一つを各区間の空転・滑走の起こり易さに応じて決定する。(5)停車駅間ごとの走行パタンーンを算出する走行パターン算出手段を備えた制御装置では、判定信号が示す空転・滑走の起こり易さに変化があった時はその区間の走行パターンを算出し直すようにする。
【発明の効果】
【0007】
本発明では、空転・滑走が発生した場合は、これを空転・滑走検知手段が検知し、その検知信号を空転・滑走区間判定手段に与える。この信号を受けた空転・滑走区間判定手段はその信号から空転・滑走の発生頻度に基づき空転・滑走の起こり易い区間を特定し判定信号を出力する。この判定信号には、少なくとも空転・滑走の起こり易い区間を特定する情報を含んでいる。この判定信号を入力した前記加減速度指令算出手段は算出により予定されていた加減速度指令値を下げる修正を行う。こうして、空転・滑走の発生し易い区間での加速度指令値や制動指令値が弱めに修正されるので、空転や滑走の発生が回避や防止されるなど抑制される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
[第1実施例(図1)]
この図1において、レール1など軌道を敷設した路線に沿い所定の間隔で配置された地上子2を除く各手段、装置は車上3に備えられている。路線条件データ記憶手段4には路線勾配、曲線半径、傾斜などの路線の条件がデータとして記憶されている。車両条件データ記憶手段5には車両重量、編成両数、各種抵抗力など車両の条件がデータとして記憶されている。
【0009】
加減速度指令算出手段6は、列車の力行時の加速度の大きさ及び制動時の減速度の大きさを表す加減速度指令値7を出力するもので、その加減速度指令値7を受けた駆動/制動制御装置8は、列車の走行状態がその指令値により定められた通りになるように駆動/制動装置9のモータやブレーキを制御する。
【0010】
そのために、加減速度指令算出手段6は、路線条件データ記憶手段4からの路線条件データと、車両条件データ記憶手段5からの車両条件データと、速度・位置検出手段10からの現在の列車速度信号及び走行位置信号とを受けて加減速度指令値7を算出するようになっている。前記速度・位置検出手段10は、車輪に設けられた速度発電機11からの速度信号と車上子12による地上子2の検出信号により列車の速度と位置を検出することによって前記列車速度信号及び位置信号を出力するようになっている。
【0011】
車上子12からの位置検出信号が位置補正手段13を経由して前記速度・位置検出手段10に入力されることにより、速度発電機11による見掛け上の位置の実際位置に対する一致度合いが高くなるように補正される。これまで述べた加減速度指令算出手段6から加減速度指令値7が出力されるまでの構成は、この種の技術分野では周知である。
【0012】
次に本発明の主要部である空転・滑走の発生の回避或いは防止(以下単に防止という。)などの発生抑制に関する部分について説明する。空転・滑走検知手段14は、周知のものと同様の構成であり、例えば、速度・位置検出手段10からの信号を受けてその速度と距離の急激な変化から空転及び滑走を検知するように構成されている。空転・滑走が発生したときは、その都度その空転・滑走検知信号16が空転・滑走区間判定手段15にその空転及び滑走別に与えられる。
【0013】
空転・滑走区間判定手段15は、空転・滑走検知信号16のほかに、路線条件データ記憶手段4から路線勾配や曲線などの空転・滑走の発生に影響を与える路線条件データと速度・位置検出手段10からの走行位置信号をも受けており、これらのデータ及び信号に基づき空転・滑走の区間ごとの発生頻度を算出し、その算出結果から区間ごとの空転・滑走の起こり易さを判定するようになっている。
【0014】
このような空転・滑走区間判定手段15による空転・滑走の発生頻度の算出は路線の全区間に渡り、且つ走行ごとに繰り返されることにより発生頻度データが更新され信頼度を上げている。この空転・滑走区間判定手段15は、この実施例では区間ごとの空転・滑走の発生頻度に基づき空転・滑走の起こり易さを判定して加減速度判定信号17を前記加減速度指令算出手段6に出力する。この加減速度判定信号17は、全区間のうち空転・滑走の起こり易い区間を特定する情報を含んでおり、この加減速度判定信号17を受けた前記加減速度指令算出手段6は、空転・滑走の起こり易い区間に差し掛かる所定時点前に現在出力中の加減速度指令値7、例えばトルク指令値やブレーキ指令値を弱めにする修正動作を行う。
【0015】
上記の構成によれば、列車の走行中に空転・滑走が発生した場合は、これが空転・滑走検知手段14により検知され、その空転・滑走検知信号16が空転・滑走区間判定手段15に与えられる。この空転・滑走検知信号16を受ける都度、空転・滑走区間判定手段15は、同一区間での過去の空転・滑走発生回数を順次に更新することにより発生頻度を更新し、その発生頻度に基づき加減速度判定信号17を作成する。
【0016】
こうして、各区間の空転・滑走の起こり易い区間が既知となり、上記のように空転・滑走の起こり易い区間に差し掛かる際に加減速度指令値を加減速度判定信号17に基づき弱めにする修正動作が行われる。この結果、空転・滑走の起こり易い区間での空転や滑走の発生が未然に防止されるなどその発生が抑制され、再粘着動作に伴う指令値の増減の反復動作が避けられ、乗り心地の良さが維持される。また、空転・滑走の起こり難いと判定された区間では、逆に加減速度指令値を高めに修正しても差し支えなくなり、空転・滑走の起こり易い区間で失った時間を取り戻す制御も可能になり、駅間の走行時分遅れが抑制される。
【0017】
[第2実施例(図1)]
この第2実施例における空転・滑走区間判定手段15は、空転・滑走の発生頻度が所定値以上の区間のみを空転・滑走の起こり易い区間として特定しこれを加減速度判定信号17として出力する構成にされている。この構成によれば、指令値修正対象の区間数が削減され、その分制御装置におけるデータ処理時間を短縮できので、制御の応答性が向上し、また処理時間遅れによる時分遅れを防止できる。
【0018】
[第3実施例(図1)]
空転・滑走区間判定手段15は、空転・滑走の発生頻度の高さに応じた値を持つ加減速度判定信号17を出力するように構成されている。すなわち、加減速度判定信号17は発生頻度が高いほど空転・滑走の起こり易さが高いと意味付けされている。また、加減速度指令算出手段6は、加減速度指令値の修正量を空転・滑走区間判定手段15からの加減速度判定信号17の値に応じて調節するように構成されている。具体的には、空転・滑走の起こり易さが高いほど加減速度指令値、例えばトルク指令値が小さくなり、ブレーキ力が小さくなるように構成されている。その起こり易さが20〜40%の範囲なら加減速度指令値を通常の10%減に修正するなどの構成がその例である。この第3実施例によれば、時分遅れの抑制効果が更に高まる。
【0019】
この第3実施例の変形態様として、上記のように加減速度指令値を空転・滑走の起こり易さに応じた値にすることに限られず、加減速度指令値の修正と同時に区間最高速度の値もその起こり易さ応じた値に修正する構成であってもよい。この場合、これらのうち少なくとも一方を採用した構成でもよい。
【0020】
[第4実施例(図2)]
この実施例では、第1実施例の構成に更に通信システム18を車上3に備えている。この通信システム18は、空転・滑走区間判定手段15と運行管理センターとの間での通信を行うものであって、自列車に空転・滑走が発生したときその発生情報を運行管理センターに送信し、また、管理センターからは他列車に空転・滑走が発生したときその情報が伝えられるように構成されている。この送受信情報は空転・滑走の発生の有無とは別に発生回数や頻度であってもよい。この実施例によれば、空転・滑走の情報が他の列車からも与えられるので、未走行区間を走行する場合、或いは走行回数が少ない区間の走行の場合でも、空転・滑走の起こり易さを予め区間ごとに判定、或いは特定できるので走行実績の低い列車にとっても信頼性の高い空転・滑走の抑制効果を期待することができる。なお、この通信システム18による情報の授受は、運行管理センターを介さずに他列車との間で行う構成にしてもよい。
【0021】
この実施例の変形例として、他列車における加減速度指令値を通信システム18を通じて受信しその指令値に基づき自列車の空転・滑走の起こり易い区間での加減速度指令値を決定する構成にしてもよい。
【0022】
[第5実施例(図2)]
この実施例において、空転・滑走区間判定手段15は、通信システム18を用いた他列車や運行管理センターとの間の情報授受により区間ごとの空転・滑走の発生回数及び列車の述べ通過台数に関する情報を取得する構成になっている。この場合、ある程度長い期間経過後の情報は除かれるようになっている。更に、この空転・滑走区間判定手段15は、その区間の通過延べ台数のうちの空転・滑走発生回数の割合から空転・滑走の起こり易さを判定するように構成されている。経験的には空転・滑走の起こり易さの判定要素として、空転などの発生時の加減速度指令値、そのときの速度、気象などが挙げられるが、この実施例によれば、これらの複雑な要素を取り入れずに通過延べ台数と空転・滑走発生回数を判定要素とし、その割合から判定するようにしているので、判定の処理が単純であり、処理時間の短縮を大幅に図ることできる。
【0023】
[第6実施例(図2)]
空転・滑走区間判定手段15は、自他列車における加減速度の加減速度判定信号17を加減速度指令算出手段6に出力するときには、その加減速度判定信号17に何回かの空転・滑走が発生したときの異なる加減速度指令値のうち低い指令値を優先的に特定する指示信号を含ませる。その低い指令値としては加減速度指令の最低値であってもよい。この指示信号に従い加減速度指令算出手段6は、加減速度指令値7として空転・滑走が発生したときの当該区間の加減速度指令値7のうちの最低値を駆動/制動制御装置8に出力する。この結果、空転・滑走が発生する確率はかなり低くなり、空転・滑走の抑制効果が期待できる。
【0024】
また、上記のように優先的に低い指令値を特定する方法としては、最低値ではなく、空転・滑走発生時の加減速度指令値の平均値と発生しなかった時の加減速度指令値の平均値との比率などの大小関係に基づき空転・滑走の抑制のための最適な加減速度指令値を決定してもよい。このようにすると、加減速度を必要以上に下げる必要がなくなり、時分遅れの防止効果が向上する。
【0025】
[第7実施例(図2)]
これまでの実施例では、空転・滑走区間判定手段15により加減速度指令値7が低い値に修正されたとき、そのままの状態では、雨が止んでレール1が乾くなど空転・滑走の起こり易い状況が解消されて場合でも必要以上に弱いトルクやブレーキ力のまま走行制御され、駅間走行の時分遅れの原因となる。この第7実施例はこの問題を解決するために指令値を元に戻す制御を行う。
【0026】
そのため、この第7実施例における空転・滑走区間判定手段15は、空転・滑走の起こり易さの高かった区間での加減速度指令値7の戻し度合いを同一区間の走行ごとに徐々に増加させる指示信号を含む加減速度判定信号17を加減速度指令算出手段6に出力するように構成されている。これにより加減速度指令が一気に元に戻された場合に起こる空転・滑走のおそれが軽減される。この結果、加減速度指令値の弱め修正に伴う駅間時分遅れを回避することができる。
【0027】
[第8実施例(図3)]
この第8実施例は、力行時の加速度及び減速度の上限を車両の条件に応じて適正値に設定する加減速度指令上限設定手段を備えた列車制御装置に本発明を適用した場合の例である。このような列車制御装置では、加減速度指令上限設定手段19が車両条件データ記憶手段5からのデータに基づき加減速度指令算出手段6から出力される加減速度指令値の上限を予め設定しておくことにより、安全で円滑な走行を維持するようにしている。このような列車制御装置において、この実施例における加減速度指令上限設定手段19は、空転・滑走の発生し易い区間の走行に際して空転・滑走区間判定手段15から加減速度判定信号17を受け、この加減速度判定信号17に基づき空転・滑走の起こり易さに応じて加速度及び減速度の上限値を下げる修正を行うように構成されている。
【0028】
この実施例では、空転・滑走の起こり易さが20〜40%の範囲に属する場合、上限値が10%減に修正され、加減速度指令算出手段6は、加減速度指令値7が修正後の上限値を越えないように制御する。この実施例によれば、加速または減速走行時間に余裕がある場合は、実際の加速度及び減速度を空転・滑走を確実に防止できるレベルまで下げることが可能になる、という効果が得られる。
【0029】
[第9実施例(図3)]
この実施例における加減速度指令上限設定手段19は、第8実施例で述べた加減速度判定信号17に基づき空転・滑走の起こり易さに応じて上限値を下げる修正を行う構成に加え、空転・滑走の起こり易さの低い区間では逆に上限値を上げる修正を行う構成を備えたものである。この実施例によれば、空転・滑走の起こり易い区間で加減速度を下げた分、起こり難い区間では逆に上げられるので、走行時間の相殺が起こり駅間走行の定時性を確保することができる。
【0030】
[第10実施例(図4)]
この実施例は、図3に示す構成に更に速度余裕設定手段20を設けたところに特徴を有する。自動運転制御では、予め制限速度が設定されてはいるものの、検出信号の誤差や何らかの理由による制御性能の一時的低下があったりすると制限速度を超えることがあり、ATCにより非常ブレーキが作動して乗り心地を悪化させたり、駅での停止位置オーバーランを起こしたりするおそれがある。これを防止するために、通常、速度余裕設定手段が設けられており、制限速度までの余裕を速度余裕として設定し、列車を制限速度までの速度に余裕を残して走行させるようにしている。
【0031】
この第10実施例では、速度余裕設定手段20に各区間の速度余裕が設定されている。この速度余裕設定手段20は、空転・滑走区間判定手段15からの加減速度判定信号17を受けることにより、空転・滑走の起こり難い区間に差し掛かる際に速度余裕値を小さくする設定値の修正を行う。
【0032】
この修正は、加減速度指令上限設定手段19からの出力信号が加減速度指令値の上限値を上げることを示していることを条件になされる。この結果、空転滑走の起こり難い区間では、その起こり易い区間で加減速度指令値を制限速度ぎりぎりまで上げることが可能になり、空転滑走の起こり易い区間での走行時間の延びがそうではない区間の走行時間の短縮と相殺され、駅間の定時性が確保される。
【0033】
[第11実施例(図5)]
この実施例は、列車が予め作成された駅間走行パターンに追従して走行するようにした列車制御装置に本発明を適用した実施例である。そのために走行パターン算出手段21が設けられている。この走行パターン算出手段21の基本的構成は、周知のATOのそれと同様に、路線条件データ記憶手段4からのデータと車両条件データ記憶手段5からのデータとに基づき時間軸と速度軸とを要素とする列車走行パターンを算出するように構成され、その走行パターン信号を加減速度指令算出手段6に与えることにより、その走行パターンに従った加速及び減速指令値が出力されるようになっている。
【0034】
この実施例では本発明の目的に従い、走行パターン算出手段21は、加減速度指令上限設定手段19からも加減速度指令の上限値信号が与えられ、その上限値を路線条件データ及び車両条件データと共に考慮して走行パターンを算出するように構成されている。また、この走行パターン算出手段21は、加減速度指令上限設定手段19が空転・滑走区間判定手段15から加減速度判定信号17を受けて指令値の上限を修正すると、その修正後の上限値を受けて走行パターンの算出をし直すように構成されている。
【0035】
この結果、空転・滑走区間判定手段15からの加減速度判定信号17が空転・滑走の起こり易さに変更が生じたことを示すときは、加減速度指令上限設定手段19が加減速度の上限値を変更するため、これに伴い走行パターン算出手段21が走行パターンを算出し直す。列車はその新たに算出された走行パターンに追従して走行するように制御される。このように、走行パターン追従型列車走行制御システムであっても、空転・滑走の起こり易さに変更があった場合は、それに応じた加減速度を持つ走行パターンに自動的に変更され、結果として空転・滑走の起こり易さの高い区間での走行時間の延長が低い区間での走行時間短縮で相殺され、駅間走行時間の定時性が容易に確保される。
【0036】
[変形例]
(1)駆動/制動制御装置8への加減速度指令は、加減速度そのものを指令するものでもよいし、加減速度に列車重量を乗じて得られるトルク指令でもよく、また、その指令値を離散値に換算したノッチ指令でもよい。
【0037】
(2)空転・滑走区間判定手段15とこの手段から判定信号を受ける加減速度指令算出手段6とによって上記のように空転・滑走の起こり易さの判定とその判定に基づき加減速度指令値を修正する構成であれば、これら加減速度指令算出手段6及び15の夫々の役割が上記実施例のような分担に限定されるものはないことは勿論である。
【0038】
(3)空転・滑走区間判定手段による空転・滑走の起こり易さ判定要素にその発生頻度ばかりでなく、気象条件を加えてもよい。
(4)空転・滑走区間判定手段からの判定信号により空転・滑走の起こり易い区間を表示し、この表示に基づいて運転手が当該区間に差し掛かる際に空転・滑走防止モードボタンを押すことにより、その判定信号を加減速度指令算出手段に送出する構成であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の第1〜第3実施例を示すブロック図
【図2】本発明の第4〜第7実施例を示すブロック図
【図3】本発明の第8及び第9実施例を示すブロック図
【図4】本発明の第10実施例を示すブロック図
【図5】本発明の第11実施例を示すブロック図

【特許請求の範囲】
【請求項1】
列車の速度と位置を検出する速度・位置検出手段と、車輪の空転・滑走を検知する空転・滑走検知手段と、列車の駆動及び制動を制御する駆動/制動制御装置と、前記速度・位置検出手段からの速度及び位置信号、路線条件、並びに現在の加減速度指令値に基づいて新たな加減速度指令値を算出し、これを前記駆動/制動制御装置に出力する加減速度指令算出手段と、空転・滑走区間判定手段とを設けてなる制御装置であって、この空転・滑走区間判定手段は、前記空転・滑走検知手段により空転・滑走が検知されたときその検知信号を受けてその空転・滑走の発生頻度と前記速度・位置検出手段からの位置信号とに基づき空転・滑走の起こり易さを区間ごとに判定してその判定信号を出力し、この判定信号に基づいて前記加減速度指令算出手段が当該区間における加減速度指令値を修正する構成であることを特徴とする列車制御装置。
【請求項2】
空転・滑走区間判定手段は、滑走・空転の起こり易さが所定値以下の区間を、判定信号による加減速度修正の対象から除外することを特徴とする請求項1に記載の列車制御装置。
【請求項3】
外部と通信を行う通信システムを設け、空転・滑走判定手段は、前記通信システムを通じて他列車の空転・滑走の発生情報を検知信号として受けるようになっていることを特徴とする請求項2に記載の列車制御装置。
【請求項4】
空転・滑走の起こり易さの判定要素が延べ通過台数のうちの空転・滑走の発生割合であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の列車制御装置。
【請求項5】
加減速度指令算出手段から駆動/制動制御装置に出力される加減速度指令値が、判定信号が示す空転・滑走の起こり易さに応じた値であることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の列車制御装置。
【請求項6】
加減速度指令算出手段は、その出力する加減速度指令値を他列車の加減速度指令値に基づき決定するようになっていることを特徴とする請求項2ないし4のいずれかに記載の列車制御装置。
【請求項7】
加減速度指令算出手段は、空転・滑走の起こり易さが変化した区間に対する加減速度指令値を区間の走行ごとに徐々に変化させるようになっていることを特徴とする請求項5ないし6のいずれかに記載の列車制御装置。
【請求項8】
区間ごとに駆動/制動制御装置への加減速度指令値の上限を設定する加減速度指令上限設定手段を備え、この加減速度指令上限設定手段は加減速度指令値の上限を判定信号が示す空転・滑走の起こり易さに応じて決定するようになっていることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の列車制御装置。
【請求項9】
駅間走行時間が所定値になるように、各区間の空転・滑走の起こり易さに応じて駆動/制動制御装置への加速度指令値及び区間最高速度の少なくとも一つを決定するようになっていることを特徴とする請求項1ないし8のいずれかに記載の列車制御装置。
【請求項10】
予め定められた制限速度までの速度余裕を設定する速度余裕設定手段を備え、空転・滑走の起こり易い区間ではないと判定された区間の、制限速度までの余裕速度を調整するようになっていることを特徴とする請求項9に記載の列車制御装置。
【請求項11】
停車駅間ごとの走行パタンーンを算出する走行パターン算出手段を備え、判定信号が示す空転・滑走の起こり易さに変化があった区間の走行パターンを算出し直すようになっていることを特徴とする請求項9に記載の列車制御装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2010−4662(P2010−4662A)
【公開日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−161761(P2008−161761)
【出願日】平成20年6月20日(2008.6.20)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】