説明

制御回路構造

【課題】モータ駆動用など大電力回路を形成するパワー回路基板において、熱伝導率が高く電気絶縁性を確保できる制御回路構造を提供する。
【解決手段】発熱素子を備える回路基板1と、この回路基板が取り付けられる放熱部材10からなる制御回路構造において、放熱部材10と、この放熱部材10上に絶縁層3を介して設けられた回路部4と、この回路部4の上に設けられた被覆層5とを備えている。前記絶縁層3はSi処理層3b、アルマイト処理層3cおよびDLC処理層3aからなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、特に、パワー回路基板を備える制御回路構造に関する。
【背景技術】
【0002】
モータ駆動用など大電力回路を形成するパワー回路基板において、放熱のための熱伝導性改良と、電気絶縁性の両立が重要である。特許文献1の制御回路構造は、部品実装面とその部品実装面の裏側に放熱用の金属製ヒートシンクを密着させる構造であって、この部品実装面の放熱部材と金属製ヒートシンクとは、絶縁物質を介して密着させている。この場合、放熱部材と金属製ヒートシンクとはねじ締めにて密着させており、密着性や電気絶縁性の課題がある。
一方、特許文献2では表面処理による改良が開示されている。金属基板に絶縁層としてDLC(ダイヤモンドライクカーボン)処理膜が開示されているが、熱伝導性との両立は達成できていない。
【0003】
【特許文献1】特開昭56−122148号公報
【特許文献2】特開2008−113025号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前述の絶縁物質は、金属等に比べると熱伝導率が低下するため、絶縁物質の薄肉化を図りたいが、電気絶縁性能の低下が発生するため薄肉化には限界がある。
そこで、絶縁膜を複合的に用いて電気絶縁性を確保しながら、熱伝導性の向上を両立させた制御回路構造を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、発熱素子を備える回路基板と、この回路基板が取り付けられる放熱部材からなる制御回路構造において、前記放熱部材の前記回路基板の取付面に、アルマイト処理層を形成し、その上にSi処理層を形成し、このSi処理層の上にDLC処理層を形成したことを要旨としている。
上記構成によれば、アルマイト処理層、Si処理層、DLC処理層を積層して膜を形成しているので、単層膜に較べて絶縁性を向上でき、金属酸化物であるアルマイトの上に単一物質のSi膜を形成することで、アルマイトの剥離、脱落を防止し、更にDLC処理層により絶縁性を向上できる。アルマイト処理層、Si処理層は樹脂よりも高い熱伝導率を持つので、課題である絶縁性と熱伝導性が両立できる。
【0006】
さらに請求項2に記載の発明は、前記アルマイト処理層、前記Si処理層、前記DLC処理層と前記放熱部材に絶縁性のグリースを塗布することを要旨としている。
この制御回路構造にすると、絶縁性のグリースにより、ピンホールによる絶縁性の低下を防止できる。また、確実に密着できるため、絶縁性と熱伝導性が両立できる。
【発明の効果】
【0007】
この発明の回路構造によれば、熱伝導率が高く電気絶縁性を確保できる制御回路構造を提供ができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】この発明における回路構造の実施の一形態を模式的に示した断面図である。
【図2】ねじ固定時、線膨張差による僅かな変形で回路部から放熱部材への熱伝導を向上する形態の概略を模式的に示した断面図である。
【図3】放熱部材と絶縁層との間を説明する拡大説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、この発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1はこの発明における回路構造の実施の一形態を模式的に示した断面図である。
自動車に用いられる制御装置(ECU)は、電動パワーステアリングのモータ電流を制御するモータ駆動用のインバータ回路を有しており、この発明の制御回路構造からなる回路基板1は、このインバータ回路部分に適用することができる。
【0010】
図1において、回路基板1は、制御装置が有している放熱部材10に、回路部4がねじ2によって取り付けられる構造となっている。又ねじ2は放熱部材10に設けられる絶縁層3に接する金属導体4bを貫通して放熱部材10に固定され、この金属導体4bは他の回路導体4aと電気的に接続していない。回路基板1は、放熱部材10上に設けられた絶縁層3と、この絶縁層3を介して前記放熱部材10上に設けられた回路部4とを備えている。回路部4は、回路導体4a、半導体チップ6、アルミワイヤ7、図示されていない他電子部品により、前記電動パワーステアリングのモータ駆動用のインバータ回路などを形成している。
【0011】
さらに、この実施の形態では、回路部4の上に被覆層5が設けられている。被覆層5はエポキシ等の熱硬化樹脂であり、回路部4を構成する樹脂に対し線膨張係数を同等以下に調整しており、半導体チップ6、アルミワイヤ7を保護するものである。これにより半導体チップ6にモータ駆動電流が通電した時、半導体チップ6が発熱し、回路部4、放熱部材10と共に被覆層5の温度を上昇する事となり、この際、線膨張係数の差より、図2に示す様に僅かに回路部4が変形する。この変形により、回路部4端をねじ2で押さえた時に、回路部4中央部が、グリース11を介して放熱部材10に押付けられ、熱伝導性を向上することができる。
【0012】
また、図3は放熱部材10と絶縁層3を説明する拡大説明図である。放熱部材10の上には、シリコンを含む密着補助層3b及び絶縁硬化層3cが介在している。その上に、熱伝導性の高いダイヤモンドライクカーボンの薄膜(以下、DLC処理層3aという)からなる。DLC処理層3aは放熱部材10の他面側に形成されている。DLC処理層3aは、炭素を主成分としているが少量の水素を含み、ダイヤモンド結合(SP3結合)とグラファイト結合(SP2結合)との両方の結合が混在しているアモルファス構造を主体としている。DLC薄膜3は、CVD法(化学気相成長法)やPVD法(物理気相成長法)によって形成される。
【0013】
CVD装置によって行われるDLC処理層3aの成形は、アセチレンなどの炭化水素ガスを用い、チャンバー内で原料ガスをプラズマ化して、気相合成した非晶質炭化水素を放熱部材10に蒸着することによって行うことができる。この際、原料に所定含有量の水素を含ませるため、DLC処理層3aにも所定含有量の水素が含まれる。この製法はワーク(放熱部材10)の温度が室温〜300℃と低いこと、電極の配置により複雑形状でも均一に成膜しやすいこと、処理時間が比較的短いことなどの利点を有している。PVD装置によって行われるDLC処理層3aの成形は、スパッタリング法やイオンプレーティング法などによって行うことができる。
【0014】
回路部4は所定の配線パターンからなる多層回路を有しており、この回路は銅、アルミニウム、ニッケル、銀、金、錫これら各物質の化合物、又はこれら各物質の複合物からなる。図1の回路導体4aは金属からなり、この回路導体4aは、加圧接着、スパッタ蒸着、化学気相蒸着、熱蒸着、ペースト印刷又は焼付け等を行うことによって形成される。なお、回路部4の形成の際金属マスクを利用しても良い。また、これらの方法を複数組み合わせて導体4aを形成してもよく、例えば、蒸着した後その蒸着金属部分の上に印刷を行うことにより導体4aを厚くしてもよい。
【0015】
密着補助層3bは、DLC処理層3aと絶縁硬化層3cとの間に形成されている。密着補助層3bは、シリコンを含んでいるがその含有率がDLC処理層3aに向かって減少するように形成されている。この密着補助層3bにおいて、シリコンを最も多く含む部分、つまり、絶縁硬化層3c側の部分ではシリコンの含有率がほぼ100%に設定されており、DLC処理層3aに向かって徐々にシリコンの含有率は減少している。そして、DLC処理層3aとの境界部でシリコンの含有率をゼロとするのが好ましい。
【0016】
この密着補助層3bの形成方法は、例えばPVD法やコールドスプレー法により、絶縁硬化層3cの上に形成され、更にCVD法において、DLC薄膜形成の段階でアセチレンガス(C)とテトラメチルシラン(Si(CH)とを同時に流し込み、後者の流量を徐々に下げて(小さくして)DLC処理層3aを形成することによって行うことができる。
【0017】
また、絶縁硬化層3cは、密着補助層3bと放熱部材10との間に介在して形成されている。絶縁硬化層3cは、アルマイト処理(酸化アルミ膜)を施す。この絶縁硬化層3cの形成方法は、陽極酸化法、PVD(物理的気相成長法)、コールドスプレー(エアロゾルデポジション)によって行うことができる。アルマイト処理後の放熱部材10の硬度はロックウエル硬さ50以上あることが重要であり、そのため放熱部材10の塑性変形を起こしにくく、DLC処理層3aの剥離防止ができる。
【0018】
このように、放熱部材の上に絶縁硬化層3c、さらに密着補助層3bを形成し、この密着補助層3bの上にDLC処理層3aを形成していることにより、DLC処理層3aと放熱部材との密着強度を向上させることができ、DLC処理層3aが剥がれることを防止することができる。
【0019】
前記各実施の形態で用いられるDLC処理層3aの詳細な仕様について説明する。
DLC処理層3aは、含有する水素の原子割合が35%以上であり40%以下であるのが好ましい。水素の含有率をこの範囲に設定することで、DLC処理層3aの内部応力の発生を抑制することができる。具体的には内部応力を0.5GPa以下に抑制することができる。これによりDLC処理層3aが剥離するのを防ぐ効果を高めることができる。また、水素原子の原子割合が増えるほど絶縁性能を高めることができることから、水素の含有率を35%以上とするのが好ましく、さらに、水素の含有率を40%以下とすることによって、化学反応性を抑えることができ、安定性を保持することができ、また、膜強度(硬さ)をガラス程度(500HK)以上に確保することができる。
【0020】
DLC処理層3aの熱伝導率は1W/m・K以上であるのが好ましく、高い熱伝導特性を有している。さらに、DLC処理層3aの比抵抗は10Ω・cm以上であるのが好ましく、高い電気絶縁性を有している。そして、DLC薄膜3の厚さは、0.05μm以上であり、10μm以下であるのが好ましい。このように厚さの上限値を設定することにより、熱抵抗を抑制することができ、これにより、熱抵抗についてセラミックフィラー入り樹脂製絶縁層(エポキシ+窒化アルミニウム:100μm厚、熱伝導率2W/m・K)以下とすることができる。
【0021】
以上のように、この発明の回路構造の実施形態によれば、絶縁層がDLC処理層3aからなるので、絶縁層における熱伝導率を高くすることができる。したがって、回路部4で発生した熱をこのDLC処理層3aを通じて効率よく伝え、さらに放熱部材10へ伝えることができ、回路部4において急激に熱が発生しても、これによる回路部4の急激な温度上昇を抑えることができる。さらに、DLC処理層3aが薄い膜からなるためにその熱抵抗を小さくでき、回路部4で発生した熱をより一層効率よく伝えることが可能となり、熱伝導特性の優れた回路構造となる。
【0022】
また、この発明の回路構造は、図示する形態に限らずこの発明の範囲内において他の形態のものであっても良い。前記実施形態では、電動パワーステアリングのモータ駆動用のインバータ回路部分に適用した場合を説明したが、これ以外の電子機器にも適用することができ、例えば、LED照明用の基板、HIDヘッドランプ用の基板、センサ回路用の基板等にも適用することができる。
【符号の説明】
【0023】
1… 回路基板、2…ねじ、3… 絶縁層、3a…DLC処理層、3b…密着補助層(Si処理層)、3c…絶縁硬化層(アルマイト処理層)、4…回路部、4a…回路導体、4b…金属導体、5…被覆層、6…半導体チップ、7…アルミワイヤ、10…放熱部材、11…グリース

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発熱素子を備える回路基板と、この回路基板が取り付けられる放熱部材からなる制御回路構造において、前記放熱部材の前記回路基板の取付面に、アルマイト処理層を形成し、その上にSi処理層を形成し、このSi処理層の上にDLC処理層を形成したことを特徴とする制御回路構造。
【請求項2】
前記アルマイト処理層、前記Si処理層、前記DLC処理層と前記放熱部材に絶縁性のグリースを塗布することを特徴とする請求項1に記載の制御回路構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−182413(P2012−182413A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−64184(P2011−64184)
【出願日】平成23年3月23日(2011.3.23)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】