制振装置及び制振装置の制御方法
【課題】共振現象を抑制して、補助質量の振動振幅を適正な範囲内にすることにより、理想的な振動抑制を実現することができる制振装置を提供する。
【解決手段】制振対象機器に対して、バネ要素で保持された補助質量を駆動するアクチュエータを備え、補助質量を駆動したときの反力を利用して制振対象機器の振動を抑制する制振装置であって、アクチュエータの振動系の加振力に対する相対振動速度の伝達関数を使用する理想アクチュエータ逆特性に基づく前記アクチュエータの共振抑制手段をさらに備えるように構成した。
【解決手段】制振対象機器に対して、バネ要素で保持された補助質量を駆動するアクチュエータを備え、補助質量を駆動したときの反力を利用して制振対象機器の振動を抑制する制振装置であって、アクチュエータの振動系の加振力に対する相対振動速度の伝達関数を使用する理想アクチュエータ逆特性に基づく前記アクチュエータの共振抑制手段をさらに備えるように構成した。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車の振動抑制等に用いることのできる制振装置及び制振装置の制御方法に関する。
本願は、2006年5月8日に出願された特願2006−129013号、2007年1月15日に出願された特願2007−6006号、2007年3月5日に出願された特願2007−54532号、2007年3月5日に出願された特願2007−54274号、2007年3月6日に出願された特願2007−55423号及び2007年4月13日に出願された特願2007−105728号に対し優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
自動車の乗り心地、快適性の向上を図る上で、エンジンの振動を運転室内に伝えない工夫が必要である。これまで、エンジンを支持するマウント機構に振動吸収機能を付与するか、あるいはアクチュエータを利用して強制加振することにより車体振動を低減する技術が提案されている(例えば、下記特許文献1及び2を参照)。
従来技術では、アクチュエータを制御するために、アクチュエータ可動部と固定部との相対変位、相対速度、相対加速度を検出する場合にセンサを用いていた。しかしながら、センサ自体を高温環境下にさらされるエンジン周辺に装着しなければならず、信頼性に欠けるという問題があった。
【0003】
また、アクチュエータの可動子支持手段として耐久性を確保するために、板バネ等を利用した場合、可動部質量と板バネ定数とによる共振系が構成される。しかしながら、自動車振動を制御する上で、この共振倍率が高い場合、温度変化や経年変化などにより、共振周波数がわずかでも変化すると、指令信号に対するアクチュエータの応答が大きく変化してしまうなど、振動抑制制御に悪影響が出るという問題がある。
【0004】
また、防振対象物体の振動を検出して、この検出信号をフィルタに通すことにより防振対象物体の振動と干渉して振動が打ち消される振動波形を生成し、この振動波形に基づく信号をアクチュエータに印加することにより広い周波数帯域全域において防振対象物体の振動を能動的に低減することができる振動抑制装置が知られている(例えば、下記特許文献3を参照)。
近年の自動車においては、必要に応じて6気筒エンジンの気筒休止を行い少数の気筒(例えば、3気筒)でエンジン駆動を行うことにより、燃費の向上を狙った制御が行われている。エンジン振動は、6気筒運転を行うときに比べて、気筒休止を行うと、振動が大きくなるという可能性がある。このような問題を解決するためには、下記特許文献3に記載されているように、広い周波数帯域にわたる振動を能動的に低減させる振動抑制装置が有効である。
【0005】
しかしながら、従来の制振装置は、発生する振動を抑制するのみの制御であるために、6気筒エンジンにおいて所定の気筒数を停止させるような制御を行う自動車においては、全ての振動が抑制されてしまい、エンジンが駆動していることを感じにくくなってしまうため、運転者が違和感を感じてしまうという問題がある。運転者に対して6気筒駆動から気筒休止運転へ移行したことを感じさせないように振動を抑制することにより違和感を与えないようにすることが望ましい。
【0006】
また、可動部を駆動することによる反力を利用して、エンジン回転数に応じた制振力を発生するアクチュエータを用いた車両の振動制御装置が知られている(例えば、下記特許文献1を参照)。この装置によれば、車体振動エンジン回転数から予測し、アクチュエータによりエンジンから車体に加わる力を相殺することができるため、車体の振動を低減することができる。このような制振装置は、往復運動を行うリニアアクチュエータを用い、補助質量を振動させることにより制振対象の振動を低減するものである。一方、リニアアクチュエータとして、弾性支持部(板バネ)が、可動子を定位置で保持し、自らが弾性変形することによって可動子を支持したリニアアクチュエータが知られている(例えば、下記特許文献4を参照)。このリニアアクチュエータは、可動子には摩耗も摺動抵抗も生じないため、長期間にわたる使用を経た後でも軸支持の精度が低下することがなく高い信頼性が得られ、摺動抵抗に起因する消費電力の損失がなく性能の向上を図ることができる。また、弾性支持部を、コイルとの干渉を回避しつつ可動子を基点としてコイルよりも遠い位置にて固定子に支持させることにより、嵩の張るコイルと弾性支持部とをより近接して配置することが可能になるので、リニアアクチュエータの小型化を図ることができる。
【0007】
また、制振制御を最適化するために、車両の運転状態に応じて、振幅及び位相データについての複数のデータマップを用意しておき、運転状態に応じて取り出したデータマップからの振幅位相データに基づいて振動を減衰させるアクチュエータを駆動するための信号を生成する制振装置が知られている(例えば、下記特許文献5を参照)。また、車両の状態変化に追従して制振を行う手法として適応フィルタがあり、時間領域で実現するもの(例えば、下記特許文献5,6を参照)、周波数領域で実現するもの(例えば、下記非特許文献1を参照)が知られている。適応フィルタを用いる方法はいずれも、特定の観訓点での誤差信号(例えば加速度信号)に基づいて、振動を抑えるための振幅位相を自己が求めて制御を行うものである。
【0008】
しかしながら、適応フィルタの処理動作は時間がかかるため、エンジン回転数が大きく変動した場合には制振効果が悪くなり、特に周波数領域で実現する方法は処理時間がかかるという問題がある。また、アクチュエータヘの指令値から観測点での信号(加速度)への伝達関数が変動するような特性変動や経年変化があると制振特性が劣化してしまうという問題がある。一方、マップデータを参照して、制御を行う方法は、処理時間を短くできるため、応答性を良くすることが可能であるが、制御に用いるアクチュエータや制振対象のエンジンの個体差や経年変化により制振性能が劣化してしまうという問題を有している。
【0009】
また、リニアアクチュエータに補助質量(おもり)を付け、この補助質量を振動させた場合の反力を使用して、対象機器の振動抑制を行う制振制御を行う場合、制御対象機器の振動状態値に基づいて振幅指令値及び周波数指令値を求め、この振幅指令値及び周波数指令値に応じて、リニアアクチュエータに対して印加する電流値を制御することが行われる。このような制振装置を自動車の車体に取り付けることにより、自動車のエンジンから車体に加わる力を相殺することができるため、車体の振動を低減することができる。
【0010】
しかしながら、リニアアクチュエータは、可動子に固定された補助質量と、この可動子を保持する板バネとから決まる固有振動数に近い外力(外乱)が作用したり、あるいは固有振動数に近い駆動指令値を入力すると、共振によって過大な振幅が発生し、必要とする制振用の反力以上の力が発生してしまい、適正な振動抑制制御が行えないという問題がある。
【0011】
また、可動子の可動範囲を制限するために、構造上可動子のストッパが設けられているため、自動車が急加速や悪路走行することによって自動車の挙動変化が激しい場合等においては、補助質量に対して外力して作用するため、過大な振幅が発生して可動子がストッパに衝突する現象が発生してしまうという問題がある。さらに、自動車の挙動変化が激しい場合等においては、リニアアクチュエータを駆動する電流も比例して変動が大きくなり、可動子がストッパに衝突する現象が発生してしまうという問題がある。可動子とストッパが衝突すると、衝突音が異音として発生してしまう。また、可動子とストッパの衝突が多発すると、リニアアクチュエータを構成する部品の寿命が短くなる可能性が高くなるという問題もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開昭61−220925号公報
【特許文献2】特開昭64−83742号公報
【特許文献3】特開平03−219140号公報
【特許文献4】特開2004−343964号公報
【特許文献5】特開平11−259147号公報
【特許文献6】特開平10−49204号公報
【特許文献7】特開2001−51703号公報
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】小坂敏文「適応フィルタの実用技術」日本音響学会誌48巻(1992)第7号P.520
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、このような事情を考慮してなされたものであり、共振現象を抑制して、補助質量の振動振幅を適正な範囲内にすることにより、理想的な振動抑制を実現することができる制振装置及び制振装置の制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の制振装置は、制振対象機器に対して、バネ要素で保持された補助質量を駆動するアクチュエータを備え、前記補助質量を駆動したときの反力を利用して前記制振対象機器の振動を抑制する制振装置であって、前記アクチュエータの振動系の加振力に対する相対振動速度の伝達関数を使用する理想アクチュエータ逆特性に基づく前記アクチュエータの共振抑制手段をさらに備えたことを特徴とする。
この発明によれば、アクチュエータの振動系の加振力に対する相対振動速度の伝達関数を使用する理想アクチュエータ逆特性に基づくアクチュエータの共振抑制手段を備えたため、理想アクチュエータ逆特性を所望の特性に基づいて設定することでアクチュエータの特性を任意の特性に調整することができるという効果が得られる。これにより、所望の特性の減衰特性を大きくすることで、アクチュエータ本体に作用する外力によってアクチュエータの可動部の共振が発生しにくい特性とすることができるため、適正な反力を発生させて理想的な振動抑制を実現することができる。また、所望の特性の固有振動数を下げることでアクチュエータの見かけの固有振動数を下げることができるため、実アクチュエータの固有振動数付近においてもバネ特性などの影響を受けることなく、安定した制振制御を実現することが可能となる。また、アクチュエータの可動子の可動範囲を適正な範囲に保つことが可能となるため、可動子がストッパと衝突することがなくなり、衝突音の発生を抑制することができる。
【0016】
さらには、伝達関数は、加振力に対する相対振動速度の2次振動系伝達関数とすることが好ましい。
【0017】
また、前記伝達関数の減衰係数が臨界減衰の1/100〜100倍の範囲と設定することがより好ましい。
【0018】
また、前記理想アクチュエータ逆特性を、前記アクチュエータの共振周波数付近の帯域に制限するバンドパスフィルタをさらに備えるように構成することが好ましい。
【0019】
また、前記相対振動速度は、前記アクチュエータの電流と印加電圧とから算出するように構成することが好ましい。
【0020】
また、前記相対振動速度は、前記アクチュエータに流れる電流信号と前記アクチュエータヘの電圧指令値から算出するように構成しても好ましい。
【0021】
また、前記制振対象機器の振動を抑制するための振動抑制指令値を生成する振動抑制指令生成手段をさらに備えるように構成することが好ましい。
【0022】
また、前記振動抑制指令値は、加振源の加振力または加振力の周波数情報をもとに生成するように構成することが好ましい。
【0023】
また、前記振動抑制指令値は、加振源の加振力または加振力の周波数情報と、振動観測点の振動信号をもとに生成するように構成しても好ましい。
【0024】
前記振動抑制指令値は、前記制振対象機器の振動情報から生成するように構成しても好ましい。
【0025】
前記振動抑制指令値は、前記制振対象機器の振動情報と、振動観測点の振動信号から生成するように構成しても好ましい。
【0026】
前記振動抑制指令値は、前記制振対象機器の加振力情報から生成することを特徴とする請求項7に記載の制振装置。
【0027】
前記振動抑制指令値は、前記制振対象機器の加振力情報と、振動観測点の振動信号から生成するように構成しても好ましい。
【0028】
また、前記アクチュエータは、電磁力により推力を発生する電磁リニアアクチュエータとして構成することが好ましい。
【0029】
前記アクチュエータは、電圧を印加することで変位を起こす素子を用いた圧電アクチュエータとして構成しても好ましい。
【0030】
前記アクチュエータを前記電磁リニアアクチュエータとする場合には、これをレシプロモータとして構成することも好ましい。
【0031】
また、本発明の制振装置の制御方法は、制振対象機器に対して、バネ要素で保持された補助質量を駆動するアクチュエータを備え、前記補助質量を駆動したときの反力を利用して前記制振対象機器の振動を抑制する制振装置の制御方法であって、前記アクチュエータの振動系の加振力に対する相対振動速度の伝達関数を使用する理想アクチュエータ逆特性に基づく前記アクチュエータの共振抑制ステップを有することを特徴とする。この発明を用いても、上記と同様の効果を得ることが可能となる。
【発明の効果】
【0032】
以上説明した本発明によれば、共振現象を抑制して、補助質量の振動振幅を適正な範囲内にすることにより、理想的な振動抑制を実現することができる制振装置及び制振装置の制御方法を提供することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の第1の実施形態による自動車制振装置の構成を示すブロック図である。
【図2】図1に示す第1の実施形態の変形例の構成を示すブロック図である。
【図3】本発明の第2の実施形態による自動車制振装置の構成を示すブロック図である。
【図4】第2の実施形態において、リニアアクチュエータの誘起電圧を検出する方法を示す概念図である。
【図5】第2の実施形態において、リニアアクチュエータの誘起電圧を検出する方法を示す概念図である。
【図6】指令信号に対するリニアアクチュエータの応答例(誘起電圧フィードバックなし)として、ゲイン特性および位相特性を示す図である。
【図7】指令信号に対するリニアアクチュエータの応答例(誘起電圧フィードバックあり)として、ゲイン特性および位相特性を示す図である。
【図8】図5に示すリニアアクチュエータの誘起電圧を検出する方法の変形例を示す概念図である。
【図9】図5に示すリニアアクチュエータの誘起電圧を検出する方法の変形例を示す概念図である。
【図10】本発明の第3の実施形態の構成を示すブロック図である。
【図11】本発明の第4の実施形態の構成を示すブロック図である。
【図12】本発明の第5の実施形態の構成を示すブロック図である。
【図13】図12に示す制御切替部607の動作を示す状態遷移図である。
【図14】図12に示すマッピング制御部604の構成を示す図である。
【図15】図12に示す周波数領域適応フィルタ605の構成を示す図である。
【図16】図12に示す時間領域適応フィルタ606の構成を示す図である。
【図17】本発明の第6の実施形態による自動車制振装置の構成を示すブロック図である。
【図18】図17に示す自動車制振装置の変形例の構成を示すブロック図である
【図19】図17、18に示す加振部30の構成を示す模式図である。
【図20】本発明の第7の実施形態の構成を示すブロック図である。
【図21】図20に示す第7実施形態の構成の変形例を示すブロック図である。
【図22】本発明の第8の実施形態の構成を示すブロック図である。
【図23】図22に示す第8実施形態の構成の変形例を示すブロック図である。
【図24】本発明の第9実施形態の構成を示すブロック図である。
【図25】図24に示す第9実施形態の構成の変形例を示すブロック図である。
【図26】リニアアクチュエータの構成を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、図面を参照しつつ、本発明の好適な実施例について説明する。ただし、本発明は以下の各実施例に限定されるものではなく、例えばこれら実施例の構成要素同士を適宜組み合わせてもよい。
【0035】
<第1の実施形態>
図1は、本発明の第1の実施形態による制振装置の構成を示すブロック図である。本実施形態では、制振装置を自動車に適用した場合を例にして説明する。図1において、符号31は、補助質量32を往復運動させるリニアアクチュエータであり、補助質量32は、抑制するべき振動方向と同方向に往復運動する。符号33は、リニアアクチュエータ31と補助質量32の相対速度を検出する相対速度センサである。符号40は、自動車のエンジンであり、車体フレーム41に固定されている。符号42は、自動車の車輪である。符号43は、座席シート44または車体フレーム41の所定の位置に備えられた振動センサ(加速度センサ)である。符号50は、エンジン40に備えられた制御装置(図示せず)から点火パルス、アクセル開度、燃料噴射量等のエンジン回転情報と、振動センサ43の出力とを入力して、制振を行うためのリニアアクチュエータ31に対する駆動指令を出力する上位コントローラである。上位コントローラ50は、エンジン回転によって発生する車体フレーム41の振動を抑制するために指令信号(駆動指令)を生成して出力する。符号60は、相対速度センサ33から出力される相対速度信号と、上位コントローラ50から出力される駆動指令とを入力して、リニアアクチュエータ31を安定的に駆動する安定化コントローラである。符号70は、安定化コントローラ60から出力される安定化駆動指令に基づいて、リニアアクチュエータ31に対する駆動電流を出力するパワー回路である。
【0036】
図1に示す制振装置は、リニアアクチュエータ31に取り付けられた補助質量32を往復運動させた際の反力を利用して、エンジン40の回転により車体フレーム41や車体の所定の位置に発生する振動を抑制するものである。このとき、安定化コントローラ60は、車体41に固定されているリニアアクチュエータ31の本体と往復運動する補助質量32との相対速度信号を入力して駆動指令に対してフィードバックすることにより、リニアアクチュエータ31に減衰力を発生させて、車体フレーム41が路面の凹凸によって受ける外乱振動に対する感度を小さくする。これによって、外乱振動の影響を低減することができる。
【0037】
なお、相対速度センサ33は、リニアアクチュエータ31のストロークを検出する変位センサの出力を微分することで相対速度を検出するようにしてもよい。また、相対速度センサ33は、リニアアクチュエータ31と補助質量32のそれぞれに設けた加速度センサの積分値の差分から相対速度を検出するようにしてもよい。
【0038】
ここで、図26を参照して、本発明に用いるリニアアクチュエータ(レシプロモータ)の構成を説明する。図26に示すように、リニアアクチュエータは、可動部1と、可動部1の周囲に配置された固定部2と、自らが弾性変形することにより可動部1を固定部2に対して往復動可能に支持する2枚の板バネまたは複数の板バネを重ねた2組の支持部材(弾性支持部)3とを備えている。
【0039】
可動部1は、先端に雌ネジ部11aが形成された円柱状をなし、軸方向に往復移動するシャフト11と、シャフト11を内側に挿嵌されてシャフト11の軸方向の途中位置に固定された可動磁極としての可動子12とを備えている。雌ネジ部11aには、シャフト11を駆動すべき対象物(不図示)に固定するためのナット13が螺着されている。
【0040】
固定部2は、シャフト11の軸方向から見ると外形が矩形をなし内側が筒抜けになったヨーク21と、可動部1を間に挟むように配置され、ヨーク21の内側に固定された一対のコイル22,23とを備えている。コイル22は、ヨーク21に内側に突き出すように形成された磁極部21aに巻き胴26が取り付けられ、この巻き胴26に金属線27が多重に巻き付けられて構成されている。コイル23は、固定部1を挟んで磁極部21aと相対する位置に形成された磁極部21bに同じく巻き胴26が取り付けられ、この巻き胴26に金属線27が多重に巻き付けられて構成されている。
【0041】
磁極部21aの可動部1に向かう先端面には、永久磁石24,25が、シャフト11の軸方向に配列されて固定されている。磁極部21bの可動部1に向かう先端面にも、永久磁石24,25が、シャフト11の軸方向に配列されて固定されている。これら永久磁石24,25は、同軸同径同長をなす瓦状の希土類磁石等からなるもので、互いに軸線方向に隣り合った状態で並べられている。ここで、これら永久磁石24,25は、軸線方向に直交する方向に磁極を並べたラジアル異方性のもので、互いの磁極の並びを逆にしている。具体的には、永久磁石24は、N極が外径側に、S極が内径側に配置されており、他方の永久磁石25は、N極が内径側に、S極が外径側に配置されている。
【0042】
2枚の板バネ3は、シャフト11の軸方向に離間し、ヨーク21を間に挟んで配置されている。2枚の板バネ3は同じ形状をなし、均一な厚さの金属板を打ち抜き加工され、シャフト11の軸方向から見ると「8」の字形に形成されている。「8」の中央の線が交差する部分に相当する箇所には、シャフト11先端または後端を支持する貫通孔3aがそれぞれ形成されている。また、「8」のマルの内側に相当する箇所には、上述のコイル22または23を内側に通すことが十分に可能な大きさの貫通孔3b,3cがそれぞれ形成されている。さらに、「8」の最上部および最下部に相当する箇所には、板バネ3をヨーク21に固定するための小孔3d,3eがそれぞれ形成されている。
【0043】
各板バネ3は、ともにコイル22の軸方向の途中位置にてシャフト11を支持している。より詳細に説明すると、シャフト11の先端を支持する一方の板バネ3は、貫通孔3aにシャフト11の先端側を通して固定されるとともに、小孔3dに通されたネジ、および小孔3eに通されたネジによってシャフト11の中心からコイル22または23よりも遠い位置にてヨーク21に固定されている。また、シャフト11の後端を支持する他方の板バネ3は、貫通孔3aにシャフト11の後端側を通して固定されるとともに、小孔3d,3eに通されたネジによってシャフト11の中心からコイル22または23よりも遠い位置にてヨーク21にヨーク21に固定されている。
【0044】
一方の板バネ3は、貫通孔3bからシャフト11の先端側にコイル22を突き出させるとともに、貫通孔3cからシャフト11の先端側にコイル23を突き出させ、他方の板バネ3は、貫通孔3bからシャフト11の後端側にコイル22を突き出させるとともに、貫通孔3cから同じくシャフト11の後端側にコイル23を突き出させている。シャフト11の軸方向に沿う2枚の板バネ3の間隔は、同方向に沿うコイル22または23の寸法よりも狭くなっており、貫通孔3b,3cは、コイル23との干渉を避けるための「逃げ」としての役割を果たしている。
【0045】
各板バネ3は、従来のように可動子を滑らせて往復動可能に支持するのではなく、可動部1をシャフト11の先端側および後端側の2箇所で保持し、自らが弾性変形することによって可動部1をシャフト11の軸方向に往復動可能に支持している。なお、各板バネ3は、可動部1が往復動する際の変形量が、繰り返し弾性変形を強いられることによって疲労し、ついには破壊に至ってしまう可能性のある変形量よりも小さくなるように、シャフト11を支持する貫通孔3aから小孔3dまたは3eまでの距離(直線距離ではなく、板バネ自体の長さ)を可能な限り長くしたり、板厚を薄くしたりといった事前の調整がなされている。ただし、その外形はシャフト11の軸方向からリニアアクチュエータ全体を見た場合にヨーク21の外形からはみ出さない程度の大きさとなっている。
【0046】
このように構成されたリニアアクチュエータの作動の仕方について説明する。コイル22,23に交流電流(正弦波電流、矩形波電流)を流すと、コイル22,23に所定方向の電流が流れる状態では、磁束が、永久磁石24においてS極からN極に導かれることにより、ヨーク21の外周部、磁極部21a、永久磁石24、可動子12、シャフト11、ヨーク21の外周部の順に循環する磁束ループが形成される。その結果、可動部1には、シャフト11の後端から先端に向かう軸方向に力が作用し、可動部1はその力に押されて同方向に移動する。一方、コイル22,23に上記所定方向とは逆方向の電流が流れる状態では、磁束が、永久磁石25においてS極からN極に導かれることにより、ヨーク21の外周部、磁極部21a、永久磁石25、可動子12、シャフト11、ヨーク21の外周部の順に循環する磁束ループが形成される。その結果、可動部1には、シャフト11の先端から後端に向かう軸方向に力が作用し、可動部1はその力に押されて同方向に移動する。可動部1は、交流電流によるコイル22,23への電流の流れの方向が交互に変化することにより以上の作動を繰り返し、固定部2に対してシャフト11の軸方向に往復動することになる。
【0047】
上記のリニアアクチュエータにおいては、各板バネ3が、可動部を滑らせて往復動可能に支持するのではなく、可動部1をシャフト11の先端側および後端側の2箇所で保持し、自らが弾性変形することによって可動部1をシャフト11の軸方向に往復動可能に支持する。これにより、可動部1には摩耗も摺動抵抗も生じない。したがって、長期にわたる使用を経た後でも軸支持の精度が低下することがなく高い信頼性が得られる。さらに、摺動抵抗に起因する消費電力の損失がなく性能の向上を図ることができる。また、上記のリニアアクチュエータにおいては、各板バネ3を、コイル22,23との干渉を回避しつつ可動子を基点としてコイル22,23よりも遠い位置にて固定部2に支持させている。これにより、嵩の張るコイル22,23と2枚の板バネ3とをより近接して配置することが可能になる。したがって、リニアアクチュエータの小型化が図れる。
【0048】
次に、図2を参照して、図1に示す制振装置の変形例を説明する。図2に示す装置が図1に示す装置と異なる点は、相対速度センサ33に代えて、駆動電流を検出する電流検出器51を備え、この電流検出器51によって検出した電流に基づいて、安定化させるようにした点である。安定化コントローラ61は、リニアアクチュエータ31のコイル電流(駆動電流)、パワー回路71から出力される電圧指令または端子電圧等からリニアアクチュエータ31に発生する誘導起電力としての誘起電圧を推定し、これをもとにリニアアクチュエータ31と補助質量32との相対速度を推定する。この推定値をフィードバックすることでリニアアクチュエータ31に減衰力を発生させる。これによって、外乱振動の影響を低減することができる。
【0049】
なお、端子電圧は、パワー回路71に含まれる電圧増幅器に電圧指令に電圧増幅器ゲインを乗じた信号を用いてもよい。
【0050】
図6(a)、(b)は、指令信号に対する補助質量を支持するためのばね要素を有するリニアアクチュエータの応答例(誘起電圧フィードバックなし)として、ゲイン特性および位相特性を示す図である。また、図7(a)、(b)は、指令信号に対するリニアアクチュエータの応答例(誘起電圧フィードバックあり、または相対速度フィードバックあり)として、ゲイン特性および位相特性を示す図である。
【0051】
誘起電圧フィードバックがない場合には、アクチュエータの共振周波数の変化に対して、図6(a)に示すゲイン特性、図6(b)に示す位相特性の変化が急峻である。これに対して、本実施形態による自動車用制振装置では、誘起電圧フィードバック(速度情報を用いたフィードバック制御)を行うことにより、アクチュエータの共振周波数が変化しても、図7(a)に示すゲイン特性、図7(b)に示す位相特性が緩やかであるため、指令信号に対する応答の変動が小さくなり、制御性能への影響が小さくなることが分かる。
【0052】
また、演算から得られる速度情報を用いてフィードバック制御を行うことにより、アクチュエータの共振特性が緩やかになる。このため、アクチュエータの共振周波数が変化しても、ゲイン特性や位相特性が緩やかであるため、指令信号に対する応答の変動が小さく、制御性能への影響を小さくできる。
【0053】
<第2の実施形態>
次に、本発明の第2の実施形態による制振装置の構成を説明する。図3は、第2の実施形態による制振装置の構成を示すブロック図である。図3において、制振装置は、制御対象である自動車の車体フレーム(主系質量)41に接続され、車体フレーム(主系質量)41に発生する上下方向(重力方向)の振動を制御(制振)するものとする。
【0054】
本実施形態における制振装置は、いわゆるアクティブ動吸振器であって、リニアアクチュエータ31への駆動電流を検出する電流検出器63と、リニアアクチュエータ31の端子電圧を検出する端子電圧検出器64と、該電流検出器63および端子電圧検出器64の検出結果に基づいて駆動するリニアアクチュエータ31とを備えている。制振装置は、リニアアクチュエータ31の駆動力を使って、補助質量32を上下方向(制振するべき振動の方向)に駆動し、補助質量32を含む補助質量の慣性力を反力として、主系質量41に付与することにより、主系質量41の振動を抑えるようになっている。
【0055】
図3に示す電流検出器63は、リニアアクチュエータ31に供給される電流を検出し、制御器62に供給する。また、端子電圧検出器64は、リニアアクチュエータ31に印加される端子電圧を検出し、制御器62に供給する。リニアアクチュエータ31を駆動した場合、リニアアクチュエータ31は、速度に比例した誘導起電力を発生する。この誘導起電力を算出することで、速度信号を得ることができる。また、これを積分処理することにより振動変位信号、微分処理することにより振動加速度を得ることも可能となる。
【0056】
例えば、図4および図5に示すように、端子電圧Vと電流iとを検出し、増幅回路と微分回路とを通じて上記誘導起電力を誘起電圧Eとして出力する。この場合、巻線抵抗R、巻線インダクタンスLに相当するゲインK1、K2を設定する必要がある。設定は、リニアアクチュエータの可動部(可動子、補助質量)を拘束した状態で所定の周波数の電流を流し、出力がゼロになるように調整する。誘起電圧Eにおいては、E=V−R・i−L(di/dt)の関係が成立するため、端子電圧Vと電流iとを検出することにより、誘起電圧Eを求めることができる。
【0057】
磁気ばね特性、あるいは機械的なばね要素により、動吸振器に関して最適値に近いばね定数が得られる場合、リニアアクチュエータ31が発生する減衰力を調整することで、制振のためのエネルギーを供給することなく、高い振動減衰効果を得ることができる。減衰力は、リニアアクチュエータ31のコイルの両端に負荷抵抗を接続し、この負荷抵抗の大きさを変えることで調整できる。
【0058】
制御器62は、電流検出器63および端子電圧検出器64で検出された電流および端子電圧から算出される誘起電圧に基づいて、リニアアクチュエータ31の相対速度、あるいは相対変位、あるいは相対加速度を演算し、制振装置が主系質量41を制振するために最適なばね特性及び減衰特性を得られるように、リニアアクチュエータ31の最適な駆動量(制御量)を導出し、導出した結果を指令信号としてパワーアンプ72に出力する。なお、パワーアンプ72には、電源回路90より電力が供給されている。パワーアンプ72は、制御器62の指令信号に従って、リニアアクチュエータ31を駆動し、リニアアクチュエータ31は、補助質量32を上下(重力)方向に駆動(振動)することで、主系質量41を制振する。
【0059】
上述した実施形態によれば、アクチュエータ可動部と固定部との相対変位、相対速度、相対加速度を検出するセンサを用いることなく、リニアアクチュエータ31の電流および端子電圧から算出される誘起電圧に基づいて、リニアアクチュエータ31の相対速度、あるいは相対変位、あるいは相対加速度を演算し、相対速度、あるいは相対変位、あるいは相対加速度に基づいて、リニアアクチュエータ31を制御するようにしたので、高い信頼性を確保することができる。
【0060】
また、演算から得られる変位情報を用いることで、バネ効果を得ることができる。また演算から得られる速度情報を用いることで、ダンパ効果を得ることができる。
なお、端子電圧は、アクチュエータに印加するべき電圧の指令値から求めるようにしてもよい。
【0061】
次に、図8を参照して、図5に示す誘導起電力としての誘起電圧の検出方法の変形例を説明する。図8に示す誘起電圧の検出方法が、図5に示す誘起電圧の検出方法と異なる点は、速度推定値のフィードバックにより共振を抑制する制御の帯域をリニアアクチュエータ31の共振周波数付近に限定するために、バンドパスフィルタ(BPF)を設けた点である。このバンドパスフィルタは、リニアアクチュエータ31の共振周波数付近(固有振動数に近い周波数)のみに減衰効果を得るためのフィルタであり、このバンドパスフィルタの位相は、アクチュエータの共振周波数付近で0°となるように設定されている。
バンドパスフィルタを設けることによって、直流のノイズ成分を抑制することができるともに、位相の調整を行うことが可能となるため、誘起電圧の推定値の確度を向上させることができる。
【0062】
次に、図9を参照して、図8に示す誘起電圧の検出方法の変形例を説明する。図7に示す誘起電圧の検出方法が、図8に示す誘起電圧の検出方法と異なる点は、高周波ノイズ成分を抑制するために、2つのローパスフィルタ(LPF)を設けた点である。このローパスフィルタのカットオフ周波数は、リニアアクチュエータ31の共振周波数(固有振動数)より高い周波数に設定されている。
【0063】
ローパスフィルタを設けることによって、高周波数のノイズ成分を除去することができるため、ノイズ成分による異音の発生を抑制することができる。
なお、本発明による自動車用制振装置は、自動車の車体フレーム、エンジンマウント近傍、ラジエータ近傍、後部の荷台下部またはトランク下部等の自動車構成部品に取り付けると有効である。
また、リニアアクチュエータ31は、電磁力を利用したアクチュエータであり、例えば、レシプロモータを用いると有効である。
【0064】
以上説明したように、バネ要素により可動部が支持されたアクチュエータにおいて、自動車走行時における路面の凹凸による外部加振力がアクチュエータに対して作用しても、外部加振力や共振現象による過大な変位の発生を抑制することができるため、アクチュエータの可動部がストッパに衝突するなどして異音が発生してしまうことを防止することができる。また駆動回路側で共振現象を検出することが可能であるために、アクチュエータ本体にセンサ等を設ける必要がなく、アクチュエータ本体を小型化することができる。また、アクチュエータの個体差や経時変化などにより、コイルの定数に誤差が生じた場合でも制振制御に不要な電流の直流成分の発生を防止することができる。また、高周波のノイズ成分などを増幅しないようにしたため、騒音や異音の発生レベルを低下させることが可能となる。さらに、バンドパスフィルタやローパスフィルタを振動速度フィードバック中に設け、電流フィードバック回路とは独立させたため、高周波数の駆動指令に対するアクチュエータの応答性に影響することを防止することができる。
【0065】
<第3の実施形態>
次に、本発明の第3の実施形態による制振装置を図面を参照して説明する。図10は同実施形態の構成を示すブロック図である。ここでは、自動車において、気筒数制御を行うエンジンが加振源であるものとして説明する。この図において、符号41は、自動車の車体フレームである。符号40は、運転状態に応じて気筒数制御を行うことが可能なエンジンであり、このエンジン40が振動の発生源(加振源)となる。符号44は、運転席の座席シート(以下、単に座席と称する)であり、この座席44が振動の測定点である。符号43は、座席44に取り付けられた加速度センサであり、座席44の加速度を検出する。符号31は、車体フレーム41に取り付けられたリニアアクチュエータ(レシプロモータ)であり、エンジン40が発生した振動を制振するために補助質量32を振動させることにより振動を抑制する。符号60は、加振源において発生した振動及び測定点において検出した振動に基づいて、リニアアクチュエータ31の駆動を制御する制御部である。
【0066】
符号510は、エンジン40に対して与えられる点火パルスを入力するパルスIF(インタフェース)である。符号520は、加速度センサ43の出力を入力するセンサIF(インタフェース)である。符号530は、入力した点火パルスの周波数を検出する周波数検出部である。符号540は、FFT(Fast Fourier Transform:高速フーリエ変換)を実行するFFT部であり、加速度センサ43の出力信号中にどの周波数成分がどれだけ含まれているかを抽出し、1次の振動モードの位相・振幅FB(フィードバック)、2次の振動モード位相・振幅FB信号を出力する。符号550は、1次の振動モードに対する振動を発生させるための指令値が予め記憶された1次指令ROMであり、周波数検出部530において検出された周波数に応じた指令値を読み出して出力する。符号560は、2次の振動モードに対する振動を発生させるための指令値が予め記憶された2次指令ROMであり、周波数検出部530において検出された周波数に応じた指令値を読み出して出力する。
【0067】
符号570は、1次指令ROM550から読み出された1次の振動指令値と、FFT部540から出力される1次の振動振幅FB値及び1次の振動位相FB値を入力して、加振するべき振動の1次振動指令値と1次位相指令値を演算によって求めて出力する1次周波数演算部である。符号580は、1次周波数演算部570から出力される1次振動指令値、1次位相指令値と周波数検出部530から出力される振動周波数値を入力して、1次の電流指令値を出力する正弦波発信器である。符号590は、2次指令ROM560から読み出された2次の振動指令値と、FFT部540から出力される2次の振動振幅FB値及び2次の振動位相FB値を入力して、加振するべき振動の2次振動指令値と2次位相指令値を演算によって求めて出力する2次周波数演算部である。符号600は、2次周波数演算部590から出力される2次振動指令値、2次位相指令値と周波数検出部530から出力される振動周波数値を入力して、2次の電流指令値を出力する正弦波発信器である。符号610は、0次の電流指令値を出力する0次指令出力部である。符号620は、0次の電流指令値、1次の電流指令値及び2次の電流指令値が重畳された重畳電流指令値に基づいて、リニアアクチュエータ31に流れるモータ電流を出力する電流アンプである。
【0068】
次に、図10を参照して、車体フレーム41に発生している振動のうち、抑制するべき振動のみ抑制するとともに、重畳印加させるべき振動を発生させる動作を説明する。6気筒エンジンを搭載した自動車において、6気筒から3気筒への気筒停止制御が行われると、1次周波数演算部570は、3気筒駆動になったことにより新たに発生した振動(3気筒駆動時に発生する振動)を抑制するための指令値を演算によって求めて出力する。一方、2次周波数演算部590は、3気筒駆動になったことにより発生しなくなった振動(6気筒駆動時に発生する振動)を新たに発生するための指令値を演算によって求めて出力する。そして、3気筒駆動時に発生する振動を抑制するための指令値と、6気筒駆動時に発生する振動を新たに発生するための指令値とを重畳した重畳電流指令値を電流アンプ620へ出力すると、リニアアクチュエータ31において不要な振動を抑制し、新たに発生させるべき振動を発生させるために補助質量32が振動することになる。これによって、6気筒から3気筒への気筒停止制御が行われても6気筒駆動時の振動が発生し続けることになり、運転者に対して違和感を与えることが無くなる。
【0069】
<第4の実施形態>
次に、図11を参照して、第4の実施形態を説明する。図11に示す制振装置が、図10に示す制振装置と異なる点は、振動を検出する測定点を複数設けるともに、加振を行うリニアアクチュエータを複数設けた点である。そして、制御部60は、測定点441、442、443、44nにおいて、抑制するべき振動と、発生させるべき振動の指令値を求めてそれぞれのリニアアクチュエータ31、301、302、30nに対して出力する。このようにすることにより、抑制したい振動を低減し、強調したい振動を増加させることができるため、例えば、エンジンの振動は抑制し、音楽再生時にオーディオスピーカから発生する低音振動を再生中の音楽信号に基づいて増加させるといった制御が可能となる。また、エンジンの振動を抑制することにより、車内のこもり音等を低減させることも可能となる。
【0070】
このように、不要な振動を抑制するとともに、必要に応じて所定の振動を発生させるために、リニアアクチュエータ31に支持された補助質量32を振動させることにより車体フレーム41を加振する手段を備えた制振装置において、車体フレーム41を振動させるエンジン40の周波数と、座席44における振動を検出し、エンジン40の周波数と座席44における振動に基づいて、抑制するべき振動と、発生させるべき振動の指令値を求め、これらの指令値を重畳させた制御信号をリニアアクチュエータ31に対して出力するようにしたため、不要な振動を抑制するともに、必要に応じて所定の振動を発生させることができ、運転者に対して振動制御による違和感を与えてしまうことを防止することができる。
【0071】
<第5の実施形態>
次に、本発明の第5の実施形態による制振装置を図面を参照して説明する。図12は同実施形態の構成を示すブロック図である。この図において、符号41は、内燃機関等のエンジンが搭載された車体フレームであり、エンジンの回転駆動によって車体の振動系が形成されている。符号30は、リニアアクチュエータにより補助質量を振動させることにより車体フレーム41の車体に発生する振動を制振する加振部である。この加振部30は、ボイスコイルモータやレシプロモータ等のリニアアクチュエータを用いることが可能である。符号70は、加振部30を駆動するパワー回路である。符号604は、内部のマッピングデータを参照して、制振制御を行うマッピング制御部である。符号605は、周波数領域適応フィルタによる制振制御を行う周波数領域適応フィルタ部である。符号606は、時間領域適応フィルタによる制振制御を行う時間領域適応フィルタ部である。
【0072】
周波数領域適応フィルタ部605及び時間領域適応フィルタ部606は、適応フィルタの結果に基づいて、マッピング制御部604に保持しているマップデータを更新する。符号607は、現時点の状況に応じて、マッピング制御部604、周波数領域適応フィルタ部605及び時間領域適応フィルタ部606のいずれかを選択して、制振制御を行わせる制御切替部であり、車体フレーム41の所定位置の観測点の加速度と加速度基準値とエンジン回転数変化率に基づいて用いる制御を切り替える。また、周波数領域適応フィルタ部605は、時間領域適応フィルタ部606に対して伝達関数G’(s)を転送して更新する。周波数領域適応フィルタ部605において計算される(S(n)−S(n−1)/(M(n)−M(n−1))の逆数がG’(s)に該当する。符号608は、運転状態毎に、回転数に応じた加速度基準値が予め記憶された加速度基準値テーブルである。符号609は、エンジンパルス信号からエンジン回転数の変動率を計測する回転数変動率計測部であり、エンジンパルス信号は発生する時間間隔から、エンジン回転数Nと回転数変動率dN/dtを計算して、エンジンパルス信号毎に更新する。車体フレーム41には、観測点の加速度Aを検出して観測点加速度信号を出力する加速度センサと現時点の運転状態(ギアポジション、エアコンON/OFF、アクセル開度等)を示す運転状態信号D0を出力する機能(図示せず)が備えられている。
【0073】
ここで、図14〜図16を参照して、各制御部の動作を説明する。図14〜図16に示す制御動作は、原則的に従来技術による制御であるため、ここでは、詳細な説明は省略する。
【0074】
図14は、図12に示すマッピング制御部604の動作を示す図である。マッピング制御部604は、運転状態信号と、エンジンパルス信号から求めたエンジン回転数とに基づき、制御信号データマップを選択し、このデータマップに予め定義されている振幅指令値と、位相指令値を読み出して、この読み出した振幅指令値と位相指令値とをパワー回路70へ出力する。パワー回路70は、この指令値に基づいて、加振部の振動を制御することにより制振対象(車体)の振動を低減する。
【0075】
図15は、図12に示す時間領域適応フィルタ部606の動作を示す図である。時間領域適応フィルタ部606は、観測点加速度信号とエンジンパルス信号とを入力し、信号伝達特性の推定伝達関数G(s)に基づいて、正弦波加振力指令値(振幅指令値と位相指令値)を求め、この正弦波加振力指令値をパワー回路70へ出力する。パワー回路70は、この指令値に基づいて、加振部の振動を制御することにより制振対象(車体)の振動を低減する。
図16は、図12に示す周波数領域適応フィルタ部605の動作を示す図である。周波数領域適応フィルタ部605は、観測点加速度信号とエンジンパルス信号とを入力し、フーリエ変換を用いて得られた制振対象の周波数成分に基づいて発生するべき力の力指令を求め、この力指令に基づいて得られる正弦波加振力指令値(振幅指令値と位相指令値)を求め、この正弦波加振力指令値をパワー回路70へ出力する。パワー回路70は、この指令値に基づいて、加振部の振動を制御することにより制振対象(車体)の振動を低減する。
【0076】
次に、図12に示す制振装置の動作を説明する。まず、自動車がエンジン始動すると、制御切替部607は、マッピング制御部604を選択する。これにより、マッピング制御が行われることになる。この状態のときに、制御切替部607は、車体フレーム41の観測点の加速度信号と、加速度基準値テーブル608に記憶されている加速度基準値との値を比較して、検出して得られた加速度が加速度基準値を超えていた場合、マッピング制御から適応フィルタへの切替えを行う。マッピング制御から適応フィルタへ切り替えを行う場合、制御切替部607は、回転数変動率計測部609の出力を参照して、変動率が大きい時には時間領域適応フィルタ部606に切り替え、変動率が小さい時には周波数領域適応フィルタ部605へ切り替える。また、周波数領域適応フィルタ部605が動作している時には、適応フィルタの計算過程で、時間領域適応フィルタ部606で不可欠となる信号伝達特性の推定伝達関数((S(n)−S(n−1))/(M(n)−M(n−1))が求められる。この推定伝達関数は、1/G’(s)に相当するため、この結果に基づいて時間領域適応フィルタ6の推定伝達関数G’(s)を更新する。
【0077】
そして、制御切替部607は、適応フィルタに移行した後、加速度基準値を下回るようになった時点で、適応フィルタからマッピング制御に戻す切り替えを行う。このとき、周波数領域適応フィルタ部605または時間領域適応フィルタ部606においては、適応フィルタの動作によって、効果的に制振できる正弦波加振力指令が求められることになるため、周波数領域適応フィルタ部605または時間領域適応フィルタ部606は求めた加振力指令値に基づいて、マッピング制御部604に保持されているマッピングデータを更新する。この動作によって、現時点で最適なマップデータに更新されることになるため、個体差や経年変化の影響による制振性能劣化を防止することができ、適切な制振制御処理が実行されること維持することができる。
【0078】
次に、図13を参照して、制御切替部607が、各制御を切り替えるタイミングについて説明する。図13は、状態値に基づいて、制御方式を切り替える動作を示す図である。図13において、エンジン回転数N、運転状態値D0に基づいて、加速度基準値テーブル608を参照して得られる基準値を、A1(N,D0)、またはA2(N,D0)と示す。A1(N,D0)は、マッピング制御から適応フィルタへ移行する基準値であり、A2(N,D0)は、適応フィルタからマッピング制御へ移行する基準値であり、A2(N,D0)≦A1(N,D0)の関係を満たしている。また、適応フィルタの方式移行をおこなうための基準値をW1〜W4と示す。W1は、エンジン回転数変動率dN/dtに基づいて、周波数領域適応フィルタから時間領域適応フィルタへ移行する基準値である。W2は、エンジン回転数変動率dN/dtに基づいて、時間領域適応フィルタから制御なしへ移行する基準値である。W3は、エンジン回転数変動率dN/dtに基づいて、時間領域適応フィルタから周波数領域適応フィルタへ移行する基準値である。W4は、エンジン回転数変動率dN/dtに基づいて、制御なしから時間領域適応フィルタへ移行する基準値である。基準値W1〜W4は、W1<W2、W3<W4、W1≧W3、W2≧W4を満たしている。また、マッピング制御状態(初期状態)をC0=1、周波数領域適応フィルタによる制御状態をC0=2、時間領域適応フィルタによる制御状態をC0=3、適応フィルタの制御なし状態をC0=4と示す。図13に示すように、エンジン回転数N、回転数変動率dN/dtとから求められる基準値A1、A2と適応フィルタ切替えの基準値W1〜W4に基づいて、現時点における最適な制御方式を選択して実行することにより最適な制振制御が可能となる。
【0079】
基準値A1、A2は、同一の値でもよいが、A2<A1を満たすように設定して、加速度基準値を超えて適応フィルタ制御に移行した後に、マッピング制御に戻る時にはヒステリシスを設けて、加速度基準値をヒステリシス幅だけ下回った場合に戻るようにするようにしてもよい。これにより制振性能がより向上させることができ、マッピングデータもより良質なものに更新することができる。また、マッピング制御に戻る時には加速度基準値を下回ってかつ、回転数変動率が所定の値を上回った場合に戻るようにしてもよい。このようにすることにより、できるだけ適応フィルタ制御にとどまり、制振性能を上げた状態でマッピングデータの更新を行うことができる。
【0080】
また、マッピングデータ更新時において、マッピング制御から適応フィルタ制御に移行したエンジン回転数のデータのみを更新してもよく、適応フィルタ制御実施中に加速度基準値を下回った回転数のデータ全てを更新するようにしてもよい。また、マッピングデータ更新のタイミングは、マッピング制御に戻るときに加え、適応フィルタ制御実施中に加速度基準値を、ある所定の値だけ下回った度にマッピングデータ更新を実施するようにしてもよい。また、伝達関数の更新のタイミングは、一定の時間間隔毎に実施するのに加え、前回更新した回転数から所定の間隔離れた回転数になる度に実施するようにしてもよい。また、適応フィルタ実施時の回転数変動率が大きすぎる場合には、悪影響を避けるために適応フィルタ動作を停止する(制御なし)ようにしてもよい。
【0081】
このように、個体差や経年変化などでマッピング制御による制振制御性能が劣化した場合に、適応フィルタに切り替えて制振性能を向上させるとともにマッピング制御のマッピングデータを更新するようにしたため、マッピング制御による制振性能を回復させることが可能となる。また、適応フィルタ実施時には、回転数変動率と応答性に応じて周波数領域、時間領域、制御なしのいずれかに切り替えるようにしたため、回転数変動時に適応フィルタによって逆に振動が大きくなってしまうことを防止することができる。また、周波数領域適応フィルタの計算過程を用いて時間領域適応フィルタで必要となる伝達関数を更新するようにしたため、伝達関数の変動による時間領域適応フィルタにおける特性劣化を防ぐことが可能となる。
【0082】
<第6の実施形態>
以下、本発明の第6の実施形態による制振装置を、図面を参照して説明する。図17は、同実施形態による制振装置の構成を示すブロック図である。図17において、符号30は補助質量(おもり)を振動させ、その反力を用いて自動車等の制振対象機器の振動を抑制する加振部である。符号41は、加振部30が取り付けられる自動車の車体フレームである。加振部30は、車体フレーム(主系質量)41に発生する上下方向(重力方向)の振動を制御(制振)するものとする。符号72は、加振部30内に備えるリニアアクチュエータを駆動するための電流を供給するパワーアンプである。符号65は、加振部30に発生させるべき力に応じて、リニアアクチュエータに供給する電流を制御する電流制御部である。符号631は、加振部30に対して供給されている電流を検出する電流検出部である。符号641は、パワーアンプ72に対して印加されている電圧を検出する印加電圧検出部である。符号66は、電流検出部631及び印加電圧検出部641の出力(電流値と電圧値)に基づいて、加振部30内に備えるリニアアクチュエータの振動速度を推定するアクチュエータ振動速度推定部である。符号67は、アクチュエータ振動速度推定部66から出力される振動速度の値を入力し、理想アクチュエータ逆特性に基づいて、理想アクチュエータは出力するべき力指令信号を出力する理想アクチュエータ逆特性部である。符号68は、所定値の力指令値を出力する所定値出力部である。
【0083】
ここで、図19を参照して、図17に示す加振部30の詳細な構成を説明する。図19は、図17に示す加振部30の詳細な構成を示す図である。この図において、符号32は、車体フレーム41に対して付加する補助質量(おもり)である。符号34は、リニアアクチュエータ(レシプロモータ)を構成する固定子であり、車体フレーム41に固定される。符号12は、リニアアクチュエータ(レシプロモータ)を構成する可動子であり、例えば重力方向の往復動(図3の紙面では上下動)を行う。加振部30は、車体フレーム41の抑制するべき振動の方向と可動子12の往復動方向(推力方向)とが一致するように、車体フレーム41に固定される。符号3は、可動子12及び補助質量32を推力方向に移動可能なように支持する板バネである。符号11は、可動子12と補助質量32を接合する軸であり、板バネ3によって支持されている。符号35は、可動子12の可動範囲を制限するストッパであり、可動子12の両端(図19においては上限と下限)において可動範囲を制限する。この加振部30によって、動吸振器が構成されていることになる。
【0084】
次に、図19に示す加振部30の動作を説明する。リニアアクチュエータ(レシプロモータ)を構成するコイル(図示せず)に交流電流(正弦波電流、矩形波電流)を流した場合、コイルに所定方向の電流が流れる状態では、磁束が、永久磁石においてS極からN極に導かれることにより、磁束ループが形成される。その結果、可動子12には、重力に逆らう方向(上方向)に移動する。一方、コイルに所定方向とは逆方向の電流を流すと、可動子12は、重力方向(下方向)に移動する。可動子12は、交流電流によるコイルへの電流の流れの方向が交互に変化することにより以上の動作を繰り返し、固定子34に対して軸11の軸方向に往復動することになる。これにより、軸11に接合されている補助質量32が上下方向に振動することになる。電流制御部65から出力する制御信号に基づいて、補助質量32の加速度を制御することにより、制御力を調節して、車体フレーム41の振動を低減するものである。
【0085】
次に、図17を参照して、図17に示す制振装置の動作を説明する。まず、電流検出部631は、加振部30に供給される電流を検出し、電流制御部65とアクチュエータ振動速度推定部66に供給する。また、印加電圧検出部641は、加振部30に印加される電圧を検出し、アクチュエータ振動速度推定部66に供給する。加振部30内のリニアアクチュエータを駆動した場合、リニアアクチュエータは、速度に比例した誘導起電力を発生する。この誘導起電力を算出することで、アクチュエータ振動速度推定部66は、振動速度信号を得ることができる。
【0086】
例えば、印加電圧Vと電流iとを検出し、増幅回路と微分回路とを通じて誘起電圧Eとして出力する。この場合、巻線抵抗R、巻線インダクタンスLに相当するゲインK1、K2を設定する必要がある。設定は、リニアアクチュエータの可動部(可動子、補助質量)を拘束した状態で所定の周波数の電流を流し、出力がゼロになるように調整する。誘起電圧Eにおいては、E=V−R・i−L(di/dt)の関係が成立するため、端子電圧Vと電流iとを検出することにより、誘起電圧Eを求めることができる。また、磁気ばね特性、あるいは機械的なばね要素により、加振部30において最適値に近いばね定数が得られる場合、リニアアクチュエータが発生する減衰力を調整することで、制振のためのエネルギーを供給することなく、高い振動減衰効果を得ることができる。減衰力は、リニアアクチュエータ11Aのコイルの両端に負荷抵抗を接続し、この負荷抵抗の大きさを変えることで調整できる。
【0087】
アクチュエータ振動速度推定部66の出力には、現時点の指令値に対する実アクチュエータの出力が反映されることになる。リニアアクチュエータが理想アクチュエータであると仮定すると、アクチュエータ振動速度推定部66が推定した振動速度を理想アクチュエータが出力するときに必要な力指令信号が電流制御部65に入力されていることになるため、理想アクチュエータ逆特性部67は、アクチュエータ振動速度推定部66が推定した振動速度を理想アクチュエータが出力するときに必要な力指令信号を出力することになる。(1)式に理想アクチュエータ逆特性の伝達関数の一例を示す。
Gi(s)=(Mis2+Cis+Ki)/s
・・・・(1)
ただし、Mi:補助質量(理想値)、Ci:減衰係数(理想値)、Ki:バネ定数(理想値であり、伝達関数の減衰係数が臨界減衰(減衰率=1)の1/100〜100倍の範囲である。
【0088】
実際の指令信号と理想アクチュエータ逆特性部67が出力との差分値を、指令信号の補正値としてフィードバックすることにより実アクチュエータを理想アクチュエータと振舞わせることができる。電流制御部65は、電流検出部631検出された電流および理想アクチュエータ逆特性部67から出力される指令信号に基づいて、加振部30が車体フレーム41を制振するために最適なばね特性及び減衰特性を得られるように、リニアアクチュエータの最適な駆動量(制御量)を導出し、導出した結果を指令信号としてパワーアンプ72に出力する。パワーアンプ72は、電流制御部65の指令信号に従って、加振部30を駆動することにより、補助質量32が上下(重力)方向に振動することになる。この補助質量32が振動することによる反力で車体フレーム41に発生する振動を抑制する。
【0089】
なお、理想アクチュエータ逆特性を、アクチュエータの共振周波数付近の帯域に制限するバンドパスフィルタを備えていてもよい。
【0090】
このように、理想アクチュエータの特性を最適動吸振器に等しくすることで、アクティブ動吸振器を最適動吸振器と振舞わせることが可能となるため、自動車用の制振装置において、共振現象を抑制して、補助質量の振動振幅を適正な範囲内にでき、理想的な振動抑制を実現することができ、振動抑制性能を向上させることができる。
【0091】
次に、図18を参照して、図17に示す制振装置の変形例を説明する。図18は、図17に示す振装置の変形例の構成を示すブロック図である。この図において、図17に示す装置と同一の部分には同一の符号を付し、その説明を省略する。図18に示す装置が、図17に示す装置と異なる点は、所定値出力部68に換えて、加振源情報(加振タイミング、周波数、加振力波形、車体振動等)を取得し、この加振源情報に基づいて、振動を抑制するための指令値を出力する制御部69を設けた点である。制御部69が出力する振動抑制指令値は、加振源の加振力または加振力の周波数情報、車体(制振対象機器)2の振動情報または加振力情報から生成されて出力される。加振部30は、この振動抑制指令値に基づいて、リニアアクチュエータの駆動を行うことになる。その他の動作は、前述した動作と同様であるため、ここでは詳細な説明を省略する。
【0092】
なお、本発明による自動車用制振装置は、自動車の車体フレーム、エンジンマウント近傍、ラジエータ近傍、後部の荷台下部またはトランク下部に取り付けると有効である。
また、加振部30内に備えるリニアアクチュエータは、電磁力を利用したアクチュエータであり、例えば、レシプロモータを用いると有効である。また、加振部30内に備えるアクチュエータは、電圧を印加することで変位を起こす素子を用いた圧電アクチュエータであってもよい。
【0093】
以上説明したように、アクチュエータの振動系の加振力に対する相対振動速度の伝達関数を使用する理想アクチュエータ逆特性に基づくアクチュエータの共振抑制手段を備えたため、理想アクチュエータ逆特性を所望の特性に基づいて設定することでアクチュエータの特性を任意の特性に調整することができる。これにより、所望の特性の減衰特性を大きくすることで、アクチュエータ本体に作用する外力によってアクチュエータの可動部の共振が発生しにくい特性とすることができるため、適正な反力を発生させて理想的な振動抑制を実現することができる。また、所望の特性の固有振動数を下げることでアクチュエータの見かけの固有振動数を下げることができるため、実アクチュエータの固有振動数付近においてもバネ特性などの影響を受けることなく、安定した制振制御を実現することが可能となる。
【0094】
以上のように説明した制振装置による作用を方法としての側面から見た場合、この制振装置の制御方法は、制振対象機器に対して、バネ要素で保持された補助質量を駆動するアクチュエータを備え、前記補助質量を駆動したときの反力を利用して前記制振対象機器の振動を抑制する制振装置の制御方法であって、前記アクチュエータの振動系の加振力に対する相対振動速度の伝達関数を使用する理想アクチュエータ逆特性に基づく前記アクチュエータの共振抑制ステップを有するようにしたものといえる。そして、こうした制振装置の制御方法を実現することにより、上記の効果を生じさせることが可能となっているものといえる。
【0095】
<第7の実施形態>
次に、本発明の第7の実施形態による制振装置を図面を参照して説明する。図20は同実施形態の構成を示すブロック図である。この図において、符号30は、制振制御の対象物である制御対象機器44に固定して、内部に備えるリニアアクチュエータ(レシプロモータ)によって補助質量を駆動することにより制御対象機器44の振動を抑制する加振部である。ここでいう制御対象機器44とは、例えば、自動車の車体等である。
【0096】
符号32は、制御対象機器44に対して付加する補助質量(おもり)である。符号34は、レシプロモータを構成する固定子であり、制御対象機器44に固定される。符号12は、レシプロモータを構成する可動子であり、例えば重力方向の往復動(図1の紙面では上下動)を行う。加振部30は、制御対象機器44の抑制するべき振動の方向と可動子12の往復動方向(推力方向)とが一致するように、制御対象機器44に固定される。符号3は、可動子12及び補助質量32を推力方向に移動可能なように支持する板バネである。符号11は、可動子12と補助質量32を接合する軸であり、板バネ3によって支持されている。符号35は、可動子12の可動範囲を制限するストッパであり、可動子12の両端(図20においては上限と下限)において可動範囲を制限する。
【0097】
符号620は、制御対象機器44の状態値(例えば、エンジン回転数)を入力して、補助質量32に発生させるべき振動の振幅指令値と周波数指令値と演算によって求めて出力する指令値生成部である。符号621は、指令値生成部620から出力される振幅指令値と周波数指令値とから決まる印加可能な電流値の上限が周波数毎に定義された振幅上限クランプテーブルである。符号622は、振幅指令値と周波数指令値とを入力し、振幅上限クランプテーブル621を参照して、入力した振幅指令値を適切な可動範囲に制限するための補正を行い、入力された周波数指令と、この補正(制限)後の振幅指令値とに基づいて、レシプロモータに対して印加するべき電流の指令値を求めて出力する印加電流生成部である。符号72は、加振部30を構成するレシプロモータの固定子34に電流を供給し、可動子12の往復動を制御するパワーアンプである。
【0098】
次に、図20に示す加振部30の動作を説明する。レシプロモータを構成するコイル(図示せず)に交流電流(正弦波電流、矩形波電流)を流した場合、コイルに所定方向の電流が流れる状態では、磁束が、永久磁石においてS極からN極に導かれることにより、磁束ループが形成される。その結果、可動子12には、重力に逆らう方向(上方向)に移動する。一方、コイルに所定方向とは逆方向の電流を流すと、可動子12は、重力方向(下方向)に移動する。可動子12は、交流電流によるコイルへの電流の流れの方向が交互に変化することにより以上の動作を繰り返し、固定子34に対して軸11の軸方向に往復動することになる。これにより、軸11に接合されている補助質量32が上下方向に振動することになる。パワーアンプ72から出力する制御信号に基づいて、補助質量32の加速度を制御することにより、制御力を調節して、制御対象機器44の振動を低減することができる。
【0099】
図20に示すリニアアクチュエータにおいては、軸11を滑らせて往復動可能に支持するのではなく、各板バネ3が、可動子12を軸11の上端側および下端側の2箇所で保持し、自らが弾性変形することによって可動子12を軸11の軸方向に往復動可能に支持する。これにより、可動子12には摩耗も摺動抵抗も生じないため、長期にわたる使用を経た後でも軸支持の精度が低下することがなく高い信頼性が得られるとともに、摺動抵抗に起因する消費電力の損失がなく性能の向上を図ることができる。しかし、前述したように、自動車が急加速や悪路走行することによって自動車の挙動変化が激しい場合等においては、固定子34に対して供給する電流の変動も大きくなり、可動子12がストッパ35に衝突する現象が発生してしまう。自動車に制振装置として加振部30を取り付けるような場合、可動子12がストッパ35に衝突することによる発せられる衝突音(異音)はない方が望ましい。
【0100】
このため、固定子34に対して印加している電流周波数毎に、現時点で新たに印加することが可能な電流の上限値を予め求め、この電流周波数と電流上限値との関係を振幅指令値と周波数指令値の関係に置き換えて振幅上限クランプテーブル20に記憶しておき、印加電流生成部622が新たな印加電流指令値を求める場合に、この振幅上限クランプテーブル20を参照して、指令値生成部620から出力された振幅指令値を補正して、この補正された振幅指令値と、指令値生成部620から出力された周波数指令値とに基づいて、新たな印加電流指令値を求めてパワーアンプ72へ出力することにより、可動子12がストッパ35に衝突することを防止することができる。また、振幅指令値の補正をテーブル参照によって行うようにしたため、印加電流生成部622における演算量を軽減することができるため、処理の高速化を図ることができるとともに、廉価な演算装置を用いることができコストダウンを図ることができる。
【0101】
次に、図21を参照して、図20に示す制振装置の変形例を説明する。この図において、図20に示す装置と同一の部分には同一の符号を付し、その説明を省略する。この図に示す装置が図20に示す装置と異なる点は、振幅上限クランプテーブル621に換えて、電流上限クランプテーブル623を設けた点である。電流上限クランプテーブル623は、固定子34に対して印加している電流周波数毎に、現時点で新たに印加することが可能な電流の上限値を予め求め、この電流周波数と電流上限値との関係を印加電流指令値と周波数指令値の関係に置き換えて予め記憶したテーブルである。印加電流生成部622が新たな印加電流指令値を求める場合に、この電流上限クランプテーブル623を参照して、指令値生成部620から出力された振幅指令値と指令値生成部620から出力された周波数指令値とに基づいて、新たに求めた印加電流指令値を補正して、パワーアンプ72へ出力することにより、可動子12がストッパ35に衝突することを防止することができる。
【0102】
<第8の実施形態>
次に、図22を参照して、本発明の第8の実施形態による制振装置を説明する。図22は同実施形態の構成を示すブロック図である。この図において、図20に示す装置と同一の部分には同一の符号を付し、その説明を省略する。この図22に示す装置が図20に示す装置と異なる点は、振幅上限クランプテーブル621に換えて、勾配制限部625を設け、印加電流生成部624が勾配制限部625によって振幅の変動勾配が制限された振幅指令値に基づいて印加電流指令値を求めるようにした点である。勾配制限部625は、入力された振幅指令値の変動勾配を緩やかな変動にして出力するものである。印加電流生成部624が新たな印加電流指令値を求める場合に、勾配制限部625によって変動勾配が制限された振幅指令値と、指令値生成部620から出力された周波数指令値とに基づいて、新たな印加電流指令値を求めてパワーアンプ72へ出力することにより、急激に印加電流が変動することを抑制することができるため、可動子12がストッパ35に衝突することを防止することができる。また、周波数変動が大きい場合のみに制限を設けることによって応答の遅れを軽減することも可能である。
【0103】
次に、図23を参照して、図22に示す制振装置の変形例を説明する。この図において、図22に示す装置と同一の部分には同一の符号を付し、その説明を省略する。この図に示す装置が図22に示す装置と異なる点は、勾配制限部626を印加電流生成部624の後段に設けた点である。勾配制限部626は、ローパスフィルタと同等の機能を有し、印加電流生成部624が求めた印加電流指令値を入力し、この入力された印加電流指令値の変動勾配を緩やかな変動にして出力するものである。印加電流生成部624が新たに求めた印加電流指令値の変動勾配が緩やかになるように補正して、パワーアンプ72へ出力することにより、急激に印加電流が変動することを抑制することができるため、可動子12がストッパ35に衝突することを防止することができる。
【0104】
<第9の実施形態>
次に、図24を参照して、本発明の第9の実施形態による制振装置を説明する。図24は同実施形態の構成を示すブロック図である。この図において、図20に示す装置と同一の部分には同一の符号を付し、その説明を省略する。この図24に示す装置が図20に示す装置と異なる点は、振幅上限クランプテーブル621に換えて、振幅抑制部627と変動検出部629とを設け、印加電流生成部628が振幅抑制部627によって振幅が抑制された振幅指令値に基づいて印加電流指令値を求めるようにした点である。振幅抑制部627は、変動検出部629が検出した周波数指令値の変動量に応じて、振幅指令値の変動を抑制するものである。変動検出部629は、指令値生成部620から出力される周波数指令値の変動を常に検出し、変動量が所定値を超えた場合に、振幅抑制部627に対して、変動量が所定値を超えたことを通知するものである。印加電流生成部628が新たな印加電流指令値を求める場合に、変動検出部629が検出した周波数変動に基づいて振幅抑制部627により振幅が抑制された振幅指令値と、指令値生成部620から出力された周波数指令値とに基づいて、新たな印加電流指令値を求めてパワーアンプ72へ出力することにより、急激に印加電流が変動することを抑制することができるため、可動子12がストッパ35に衝突することを防止することができる。また、振幅抑制部627による振幅の抑制量を適切に制御することにより、急激な周波数変動時においてもある程度駆動を続行することができる。
【0105】
次に、図25を参照して、図24に示す制振装置の変形例を説明する。この図において、図24に示す装置と同一の部分には同一の符号を付し、その説明を省略する。この図に示す装置が図24に示す装置と異なる点は、振幅抑制部627に換えて電流抑制部630を設けた点である。電流抑制部630は、変動検出部629が検出した周波数指令値の変動量が所定値を超えた場合に、印加電流生成部628が求めた印加電流指令値の変動を抑制するものである。指令値生成部620から出力された周波数指令値の変動量が所定値を超えた場合に、印加電流生成部628が新たに求めた印加電流指令値の変動抑制ように補正して、パワーアンプ72へ出力することにより、急激に印加電流が変動することを抑制することができるため、可動子12がストッパ35に衝突することを防止することができる。
【0106】
以上説明したように、発生するべき振動の振幅指令値及び周波数指令値に基づいて、アクチュエータ(レシプロモータ)に印加する電流を制御する場合に、補助質量32の振動振幅が予め決められた値を超えないように、アクチュエータに対して印加する電流値を制限するようにしたため、アクチュエータの可動子を常に適切な可動範囲内で駆動することができる。これにより、可動子12がストッパ35と衝突することがなくなるため、衝突音の発生を抑制することができる。さらには、印加電流値の制御によってアクチュエータの可動子を常に適切な可動範囲内で駆動することができるようにため、アクチュエータ(レシプロモータ)内の設けられるストッパ35が不要となり、アクチュエータの構造を簡単にすることも可能となる。
【0107】
なお、各機能を実現するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行することにより振動抑制制御を行ってもよい。なお、ここでいう「コンピュータシステム」とは、OSや周辺機器等のハードウェアを含むものとする。また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD−ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。さらに「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、インターネット等のネットワークや電話回線等の通信回線を介してプログラムが送信された場合のサーバやクライアントとなるコンピュータシステム内部の揮発性メモリ(RAM)のように、一定時間プログラムを保持しているものも含むものとする。
また、上記プログラムは、このプログラムを記憶装置等に格納したコンピュータシステムから、伝送媒体を介して、あるいは、伝送媒体中の伝送波により他のコンピュータシステムに伝送されてもよい。ここで、プログラムを伝送する「伝送媒体」は、インターネット等のネットワーク(通信網)や電話回線等の通信回線(通信線)のように情報を伝送する機能を有する媒体のことをいう。また、上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであっても良い。さらに、前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるもの、いわゆる差分ファイル(差分プログラム)であっても良い。
【0108】
また、前述した説明においては、制振対象を自動車の車体であるものとして説明したが、本発明による制振対象機器は必ずしも自動車の車体である必要はなく、自律走行搬送車、ロボットアーム等であってもよい。
【符号の説明】
【0109】
30・・・加振部、31・・・リニアアクチュエータ、32・・・補助質量、33・・・相対速度センサ、40・・・エンジン、41・・・車体フレーム、43・・・振動センサ、50・・・上位コントローラ、60・・・安定化コントローラ、70・・・パワー回路
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車の振動抑制等に用いることのできる制振装置及び制振装置の制御方法に関する。
本願は、2006年5月8日に出願された特願2006−129013号、2007年1月15日に出願された特願2007−6006号、2007年3月5日に出願された特願2007−54532号、2007年3月5日に出願された特願2007−54274号、2007年3月6日に出願された特願2007−55423号及び2007年4月13日に出願された特願2007−105728号に対し優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
自動車の乗り心地、快適性の向上を図る上で、エンジンの振動を運転室内に伝えない工夫が必要である。これまで、エンジンを支持するマウント機構に振動吸収機能を付与するか、あるいはアクチュエータを利用して強制加振することにより車体振動を低減する技術が提案されている(例えば、下記特許文献1及び2を参照)。
従来技術では、アクチュエータを制御するために、アクチュエータ可動部と固定部との相対変位、相対速度、相対加速度を検出する場合にセンサを用いていた。しかしながら、センサ自体を高温環境下にさらされるエンジン周辺に装着しなければならず、信頼性に欠けるという問題があった。
【0003】
また、アクチュエータの可動子支持手段として耐久性を確保するために、板バネ等を利用した場合、可動部質量と板バネ定数とによる共振系が構成される。しかしながら、自動車振動を制御する上で、この共振倍率が高い場合、温度変化や経年変化などにより、共振周波数がわずかでも変化すると、指令信号に対するアクチュエータの応答が大きく変化してしまうなど、振動抑制制御に悪影響が出るという問題がある。
【0004】
また、防振対象物体の振動を検出して、この検出信号をフィルタに通すことにより防振対象物体の振動と干渉して振動が打ち消される振動波形を生成し、この振動波形に基づく信号をアクチュエータに印加することにより広い周波数帯域全域において防振対象物体の振動を能動的に低減することができる振動抑制装置が知られている(例えば、下記特許文献3を参照)。
近年の自動車においては、必要に応じて6気筒エンジンの気筒休止を行い少数の気筒(例えば、3気筒)でエンジン駆動を行うことにより、燃費の向上を狙った制御が行われている。エンジン振動は、6気筒運転を行うときに比べて、気筒休止を行うと、振動が大きくなるという可能性がある。このような問題を解決するためには、下記特許文献3に記載されているように、広い周波数帯域にわたる振動を能動的に低減させる振動抑制装置が有効である。
【0005】
しかしながら、従来の制振装置は、発生する振動を抑制するのみの制御であるために、6気筒エンジンにおいて所定の気筒数を停止させるような制御を行う自動車においては、全ての振動が抑制されてしまい、エンジンが駆動していることを感じにくくなってしまうため、運転者が違和感を感じてしまうという問題がある。運転者に対して6気筒駆動から気筒休止運転へ移行したことを感じさせないように振動を抑制することにより違和感を与えないようにすることが望ましい。
【0006】
また、可動部を駆動することによる反力を利用して、エンジン回転数に応じた制振力を発生するアクチュエータを用いた車両の振動制御装置が知られている(例えば、下記特許文献1を参照)。この装置によれば、車体振動エンジン回転数から予測し、アクチュエータによりエンジンから車体に加わる力を相殺することができるため、車体の振動を低減することができる。このような制振装置は、往復運動を行うリニアアクチュエータを用い、補助質量を振動させることにより制振対象の振動を低減するものである。一方、リニアアクチュエータとして、弾性支持部(板バネ)が、可動子を定位置で保持し、自らが弾性変形することによって可動子を支持したリニアアクチュエータが知られている(例えば、下記特許文献4を参照)。このリニアアクチュエータは、可動子には摩耗も摺動抵抗も生じないため、長期間にわたる使用を経た後でも軸支持の精度が低下することがなく高い信頼性が得られ、摺動抵抗に起因する消費電力の損失がなく性能の向上を図ることができる。また、弾性支持部を、コイルとの干渉を回避しつつ可動子を基点としてコイルよりも遠い位置にて固定子に支持させることにより、嵩の張るコイルと弾性支持部とをより近接して配置することが可能になるので、リニアアクチュエータの小型化を図ることができる。
【0007】
また、制振制御を最適化するために、車両の運転状態に応じて、振幅及び位相データについての複数のデータマップを用意しておき、運転状態に応じて取り出したデータマップからの振幅位相データに基づいて振動を減衰させるアクチュエータを駆動するための信号を生成する制振装置が知られている(例えば、下記特許文献5を参照)。また、車両の状態変化に追従して制振を行う手法として適応フィルタがあり、時間領域で実現するもの(例えば、下記特許文献5,6を参照)、周波数領域で実現するもの(例えば、下記非特許文献1を参照)が知られている。適応フィルタを用いる方法はいずれも、特定の観訓点での誤差信号(例えば加速度信号)に基づいて、振動を抑えるための振幅位相を自己が求めて制御を行うものである。
【0008】
しかしながら、適応フィルタの処理動作は時間がかかるため、エンジン回転数が大きく変動した場合には制振効果が悪くなり、特に周波数領域で実現する方法は処理時間がかかるという問題がある。また、アクチュエータヘの指令値から観測点での信号(加速度)への伝達関数が変動するような特性変動や経年変化があると制振特性が劣化してしまうという問題がある。一方、マップデータを参照して、制御を行う方法は、処理時間を短くできるため、応答性を良くすることが可能であるが、制御に用いるアクチュエータや制振対象のエンジンの個体差や経年変化により制振性能が劣化してしまうという問題を有している。
【0009】
また、リニアアクチュエータに補助質量(おもり)を付け、この補助質量を振動させた場合の反力を使用して、対象機器の振動抑制を行う制振制御を行う場合、制御対象機器の振動状態値に基づいて振幅指令値及び周波数指令値を求め、この振幅指令値及び周波数指令値に応じて、リニアアクチュエータに対して印加する電流値を制御することが行われる。このような制振装置を自動車の車体に取り付けることにより、自動車のエンジンから車体に加わる力を相殺することができるため、車体の振動を低減することができる。
【0010】
しかしながら、リニアアクチュエータは、可動子に固定された補助質量と、この可動子を保持する板バネとから決まる固有振動数に近い外力(外乱)が作用したり、あるいは固有振動数に近い駆動指令値を入力すると、共振によって過大な振幅が発生し、必要とする制振用の反力以上の力が発生してしまい、適正な振動抑制制御が行えないという問題がある。
【0011】
また、可動子の可動範囲を制限するために、構造上可動子のストッパが設けられているため、自動車が急加速や悪路走行することによって自動車の挙動変化が激しい場合等においては、補助質量に対して外力して作用するため、過大な振幅が発生して可動子がストッパに衝突する現象が発生してしまうという問題がある。さらに、自動車の挙動変化が激しい場合等においては、リニアアクチュエータを駆動する電流も比例して変動が大きくなり、可動子がストッパに衝突する現象が発生してしまうという問題がある。可動子とストッパが衝突すると、衝突音が異音として発生してしまう。また、可動子とストッパの衝突が多発すると、リニアアクチュエータを構成する部品の寿命が短くなる可能性が高くなるという問題もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開昭61−220925号公報
【特許文献2】特開昭64−83742号公報
【特許文献3】特開平03−219140号公報
【特許文献4】特開2004−343964号公報
【特許文献5】特開平11−259147号公報
【特許文献6】特開平10−49204号公報
【特許文献7】特開2001−51703号公報
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】小坂敏文「適応フィルタの実用技術」日本音響学会誌48巻(1992)第7号P.520
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、このような事情を考慮してなされたものであり、共振現象を抑制して、補助質量の振動振幅を適正な範囲内にすることにより、理想的な振動抑制を実現することができる制振装置及び制振装置の制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の制振装置は、制振対象機器に対して、バネ要素で保持された補助質量を駆動するアクチュエータを備え、前記補助質量を駆動したときの反力を利用して前記制振対象機器の振動を抑制する制振装置であって、前記アクチュエータの振動系の加振力に対する相対振動速度の伝達関数を使用する理想アクチュエータ逆特性に基づく前記アクチュエータの共振抑制手段をさらに備えたことを特徴とする。
この発明によれば、アクチュエータの振動系の加振力に対する相対振動速度の伝達関数を使用する理想アクチュエータ逆特性に基づくアクチュエータの共振抑制手段を備えたため、理想アクチュエータ逆特性を所望の特性に基づいて設定することでアクチュエータの特性を任意の特性に調整することができるという効果が得られる。これにより、所望の特性の減衰特性を大きくすることで、アクチュエータ本体に作用する外力によってアクチュエータの可動部の共振が発生しにくい特性とすることができるため、適正な反力を発生させて理想的な振動抑制を実現することができる。また、所望の特性の固有振動数を下げることでアクチュエータの見かけの固有振動数を下げることができるため、実アクチュエータの固有振動数付近においてもバネ特性などの影響を受けることなく、安定した制振制御を実現することが可能となる。また、アクチュエータの可動子の可動範囲を適正な範囲に保つことが可能となるため、可動子がストッパと衝突することがなくなり、衝突音の発生を抑制することができる。
【0016】
さらには、伝達関数は、加振力に対する相対振動速度の2次振動系伝達関数とすることが好ましい。
【0017】
また、前記伝達関数の減衰係数が臨界減衰の1/100〜100倍の範囲と設定することがより好ましい。
【0018】
また、前記理想アクチュエータ逆特性を、前記アクチュエータの共振周波数付近の帯域に制限するバンドパスフィルタをさらに備えるように構成することが好ましい。
【0019】
また、前記相対振動速度は、前記アクチュエータの電流と印加電圧とから算出するように構成することが好ましい。
【0020】
また、前記相対振動速度は、前記アクチュエータに流れる電流信号と前記アクチュエータヘの電圧指令値から算出するように構成しても好ましい。
【0021】
また、前記制振対象機器の振動を抑制するための振動抑制指令値を生成する振動抑制指令生成手段をさらに備えるように構成することが好ましい。
【0022】
また、前記振動抑制指令値は、加振源の加振力または加振力の周波数情報をもとに生成するように構成することが好ましい。
【0023】
また、前記振動抑制指令値は、加振源の加振力または加振力の周波数情報と、振動観測点の振動信号をもとに生成するように構成しても好ましい。
【0024】
前記振動抑制指令値は、前記制振対象機器の振動情報から生成するように構成しても好ましい。
【0025】
前記振動抑制指令値は、前記制振対象機器の振動情報と、振動観測点の振動信号から生成するように構成しても好ましい。
【0026】
前記振動抑制指令値は、前記制振対象機器の加振力情報から生成することを特徴とする請求項7に記載の制振装置。
【0027】
前記振動抑制指令値は、前記制振対象機器の加振力情報と、振動観測点の振動信号から生成するように構成しても好ましい。
【0028】
また、前記アクチュエータは、電磁力により推力を発生する電磁リニアアクチュエータとして構成することが好ましい。
【0029】
前記アクチュエータは、電圧を印加することで変位を起こす素子を用いた圧電アクチュエータとして構成しても好ましい。
【0030】
前記アクチュエータを前記電磁リニアアクチュエータとする場合には、これをレシプロモータとして構成することも好ましい。
【0031】
また、本発明の制振装置の制御方法は、制振対象機器に対して、バネ要素で保持された補助質量を駆動するアクチュエータを備え、前記補助質量を駆動したときの反力を利用して前記制振対象機器の振動を抑制する制振装置の制御方法であって、前記アクチュエータの振動系の加振力に対する相対振動速度の伝達関数を使用する理想アクチュエータ逆特性に基づく前記アクチュエータの共振抑制ステップを有することを特徴とする。この発明を用いても、上記と同様の効果を得ることが可能となる。
【発明の効果】
【0032】
以上説明した本発明によれば、共振現象を抑制して、補助質量の振動振幅を適正な範囲内にすることにより、理想的な振動抑制を実現することができる制振装置及び制振装置の制御方法を提供することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の第1の実施形態による自動車制振装置の構成を示すブロック図である。
【図2】図1に示す第1の実施形態の変形例の構成を示すブロック図である。
【図3】本発明の第2の実施形態による自動車制振装置の構成を示すブロック図である。
【図4】第2の実施形態において、リニアアクチュエータの誘起電圧を検出する方法を示す概念図である。
【図5】第2の実施形態において、リニアアクチュエータの誘起電圧を検出する方法を示す概念図である。
【図6】指令信号に対するリニアアクチュエータの応答例(誘起電圧フィードバックなし)として、ゲイン特性および位相特性を示す図である。
【図7】指令信号に対するリニアアクチュエータの応答例(誘起電圧フィードバックあり)として、ゲイン特性および位相特性を示す図である。
【図8】図5に示すリニアアクチュエータの誘起電圧を検出する方法の変形例を示す概念図である。
【図9】図5に示すリニアアクチュエータの誘起電圧を検出する方法の変形例を示す概念図である。
【図10】本発明の第3の実施形態の構成を示すブロック図である。
【図11】本発明の第4の実施形態の構成を示すブロック図である。
【図12】本発明の第5の実施形態の構成を示すブロック図である。
【図13】図12に示す制御切替部607の動作を示す状態遷移図である。
【図14】図12に示すマッピング制御部604の構成を示す図である。
【図15】図12に示す周波数領域適応フィルタ605の構成を示す図である。
【図16】図12に示す時間領域適応フィルタ606の構成を示す図である。
【図17】本発明の第6の実施形態による自動車制振装置の構成を示すブロック図である。
【図18】図17に示す自動車制振装置の変形例の構成を示すブロック図である
【図19】図17、18に示す加振部30の構成を示す模式図である。
【図20】本発明の第7の実施形態の構成を示すブロック図である。
【図21】図20に示す第7実施形態の構成の変形例を示すブロック図である。
【図22】本発明の第8の実施形態の構成を示すブロック図である。
【図23】図22に示す第8実施形態の構成の変形例を示すブロック図である。
【図24】本発明の第9実施形態の構成を示すブロック図である。
【図25】図24に示す第9実施形態の構成の変形例を示すブロック図である。
【図26】リニアアクチュエータの構成を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、図面を参照しつつ、本発明の好適な実施例について説明する。ただし、本発明は以下の各実施例に限定されるものではなく、例えばこれら実施例の構成要素同士を適宜組み合わせてもよい。
【0035】
<第1の実施形態>
図1は、本発明の第1の実施形態による制振装置の構成を示すブロック図である。本実施形態では、制振装置を自動車に適用した場合を例にして説明する。図1において、符号31は、補助質量32を往復運動させるリニアアクチュエータであり、補助質量32は、抑制するべき振動方向と同方向に往復運動する。符号33は、リニアアクチュエータ31と補助質量32の相対速度を検出する相対速度センサである。符号40は、自動車のエンジンであり、車体フレーム41に固定されている。符号42は、自動車の車輪である。符号43は、座席シート44または車体フレーム41の所定の位置に備えられた振動センサ(加速度センサ)である。符号50は、エンジン40に備えられた制御装置(図示せず)から点火パルス、アクセル開度、燃料噴射量等のエンジン回転情報と、振動センサ43の出力とを入力して、制振を行うためのリニアアクチュエータ31に対する駆動指令を出力する上位コントローラである。上位コントローラ50は、エンジン回転によって発生する車体フレーム41の振動を抑制するために指令信号(駆動指令)を生成して出力する。符号60は、相対速度センサ33から出力される相対速度信号と、上位コントローラ50から出力される駆動指令とを入力して、リニアアクチュエータ31を安定的に駆動する安定化コントローラである。符号70は、安定化コントローラ60から出力される安定化駆動指令に基づいて、リニアアクチュエータ31に対する駆動電流を出力するパワー回路である。
【0036】
図1に示す制振装置は、リニアアクチュエータ31に取り付けられた補助質量32を往復運動させた際の反力を利用して、エンジン40の回転により車体フレーム41や車体の所定の位置に発生する振動を抑制するものである。このとき、安定化コントローラ60は、車体41に固定されているリニアアクチュエータ31の本体と往復運動する補助質量32との相対速度信号を入力して駆動指令に対してフィードバックすることにより、リニアアクチュエータ31に減衰力を発生させて、車体フレーム41が路面の凹凸によって受ける外乱振動に対する感度を小さくする。これによって、外乱振動の影響を低減することができる。
【0037】
なお、相対速度センサ33は、リニアアクチュエータ31のストロークを検出する変位センサの出力を微分することで相対速度を検出するようにしてもよい。また、相対速度センサ33は、リニアアクチュエータ31と補助質量32のそれぞれに設けた加速度センサの積分値の差分から相対速度を検出するようにしてもよい。
【0038】
ここで、図26を参照して、本発明に用いるリニアアクチュエータ(レシプロモータ)の構成を説明する。図26に示すように、リニアアクチュエータは、可動部1と、可動部1の周囲に配置された固定部2と、自らが弾性変形することにより可動部1を固定部2に対して往復動可能に支持する2枚の板バネまたは複数の板バネを重ねた2組の支持部材(弾性支持部)3とを備えている。
【0039】
可動部1は、先端に雌ネジ部11aが形成された円柱状をなし、軸方向に往復移動するシャフト11と、シャフト11を内側に挿嵌されてシャフト11の軸方向の途中位置に固定された可動磁極としての可動子12とを備えている。雌ネジ部11aには、シャフト11を駆動すべき対象物(不図示)に固定するためのナット13が螺着されている。
【0040】
固定部2は、シャフト11の軸方向から見ると外形が矩形をなし内側が筒抜けになったヨーク21と、可動部1を間に挟むように配置され、ヨーク21の内側に固定された一対のコイル22,23とを備えている。コイル22は、ヨーク21に内側に突き出すように形成された磁極部21aに巻き胴26が取り付けられ、この巻き胴26に金属線27が多重に巻き付けられて構成されている。コイル23は、固定部1を挟んで磁極部21aと相対する位置に形成された磁極部21bに同じく巻き胴26が取り付けられ、この巻き胴26に金属線27が多重に巻き付けられて構成されている。
【0041】
磁極部21aの可動部1に向かう先端面には、永久磁石24,25が、シャフト11の軸方向に配列されて固定されている。磁極部21bの可動部1に向かう先端面にも、永久磁石24,25が、シャフト11の軸方向に配列されて固定されている。これら永久磁石24,25は、同軸同径同長をなす瓦状の希土類磁石等からなるもので、互いに軸線方向に隣り合った状態で並べられている。ここで、これら永久磁石24,25は、軸線方向に直交する方向に磁極を並べたラジアル異方性のもので、互いの磁極の並びを逆にしている。具体的には、永久磁石24は、N極が外径側に、S極が内径側に配置されており、他方の永久磁石25は、N極が内径側に、S極が外径側に配置されている。
【0042】
2枚の板バネ3は、シャフト11の軸方向に離間し、ヨーク21を間に挟んで配置されている。2枚の板バネ3は同じ形状をなし、均一な厚さの金属板を打ち抜き加工され、シャフト11の軸方向から見ると「8」の字形に形成されている。「8」の中央の線が交差する部分に相当する箇所には、シャフト11先端または後端を支持する貫通孔3aがそれぞれ形成されている。また、「8」のマルの内側に相当する箇所には、上述のコイル22または23を内側に通すことが十分に可能な大きさの貫通孔3b,3cがそれぞれ形成されている。さらに、「8」の最上部および最下部に相当する箇所には、板バネ3をヨーク21に固定するための小孔3d,3eがそれぞれ形成されている。
【0043】
各板バネ3は、ともにコイル22の軸方向の途中位置にてシャフト11を支持している。より詳細に説明すると、シャフト11の先端を支持する一方の板バネ3は、貫通孔3aにシャフト11の先端側を通して固定されるとともに、小孔3dに通されたネジ、および小孔3eに通されたネジによってシャフト11の中心からコイル22または23よりも遠い位置にてヨーク21に固定されている。また、シャフト11の後端を支持する他方の板バネ3は、貫通孔3aにシャフト11の後端側を通して固定されるとともに、小孔3d,3eに通されたネジによってシャフト11の中心からコイル22または23よりも遠い位置にてヨーク21にヨーク21に固定されている。
【0044】
一方の板バネ3は、貫通孔3bからシャフト11の先端側にコイル22を突き出させるとともに、貫通孔3cからシャフト11の先端側にコイル23を突き出させ、他方の板バネ3は、貫通孔3bからシャフト11の後端側にコイル22を突き出させるとともに、貫通孔3cから同じくシャフト11の後端側にコイル23を突き出させている。シャフト11の軸方向に沿う2枚の板バネ3の間隔は、同方向に沿うコイル22または23の寸法よりも狭くなっており、貫通孔3b,3cは、コイル23との干渉を避けるための「逃げ」としての役割を果たしている。
【0045】
各板バネ3は、従来のように可動子を滑らせて往復動可能に支持するのではなく、可動部1をシャフト11の先端側および後端側の2箇所で保持し、自らが弾性変形することによって可動部1をシャフト11の軸方向に往復動可能に支持している。なお、各板バネ3は、可動部1が往復動する際の変形量が、繰り返し弾性変形を強いられることによって疲労し、ついには破壊に至ってしまう可能性のある変形量よりも小さくなるように、シャフト11を支持する貫通孔3aから小孔3dまたは3eまでの距離(直線距離ではなく、板バネ自体の長さ)を可能な限り長くしたり、板厚を薄くしたりといった事前の調整がなされている。ただし、その外形はシャフト11の軸方向からリニアアクチュエータ全体を見た場合にヨーク21の外形からはみ出さない程度の大きさとなっている。
【0046】
このように構成されたリニアアクチュエータの作動の仕方について説明する。コイル22,23に交流電流(正弦波電流、矩形波電流)を流すと、コイル22,23に所定方向の電流が流れる状態では、磁束が、永久磁石24においてS極からN極に導かれることにより、ヨーク21の外周部、磁極部21a、永久磁石24、可動子12、シャフト11、ヨーク21の外周部の順に循環する磁束ループが形成される。その結果、可動部1には、シャフト11の後端から先端に向かう軸方向に力が作用し、可動部1はその力に押されて同方向に移動する。一方、コイル22,23に上記所定方向とは逆方向の電流が流れる状態では、磁束が、永久磁石25においてS極からN極に導かれることにより、ヨーク21の外周部、磁極部21a、永久磁石25、可動子12、シャフト11、ヨーク21の外周部の順に循環する磁束ループが形成される。その結果、可動部1には、シャフト11の先端から後端に向かう軸方向に力が作用し、可動部1はその力に押されて同方向に移動する。可動部1は、交流電流によるコイル22,23への電流の流れの方向が交互に変化することにより以上の作動を繰り返し、固定部2に対してシャフト11の軸方向に往復動することになる。
【0047】
上記のリニアアクチュエータにおいては、各板バネ3が、可動部を滑らせて往復動可能に支持するのではなく、可動部1をシャフト11の先端側および後端側の2箇所で保持し、自らが弾性変形することによって可動部1をシャフト11の軸方向に往復動可能に支持する。これにより、可動部1には摩耗も摺動抵抗も生じない。したがって、長期にわたる使用を経た後でも軸支持の精度が低下することがなく高い信頼性が得られる。さらに、摺動抵抗に起因する消費電力の損失がなく性能の向上を図ることができる。また、上記のリニアアクチュエータにおいては、各板バネ3を、コイル22,23との干渉を回避しつつ可動子を基点としてコイル22,23よりも遠い位置にて固定部2に支持させている。これにより、嵩の張るコイル22,23と2枚の板バネ3とをより近接して配置することが可能になる。したがって、リニアアクチュエータの小型化が図れる。
【0048】
次に、図2を参照して、図1に示す制振装置の変形例を説明する。図2に示す装置が図1に示す装置と異なる点は、相対速度センサ33に代えて、駆動電流を検出する電流検出器51を備え、この電流検出器51によって検出した電流に基づいて、安定化させるようにした点である。安定化コントローラ61は、リニアアクチュエータ31のコイル電流(駆動電流)、パワー回路71から出力される電圧指令または端子電圧等からリニアアクチュエータ31に発生する誘導起電力としての誘起電圧を推定し、これをもとにリニアアクチュエータ31と補助質量32との相対速度を推定する。この推定値をフィードバックすることでリニアアクチュエータ31に減衰力を発生させる。これによって、外乱振動の影響を低減することができる。
【0049】
なお、端子電圧は、パワー回路71に含まれる電圧増幅器に電圧指令に電圧増幅器ゲインを乗じた信号を用いてもよい。
【0050】
図6(a)、(b)は、指令信号に対する補助質量を支持するためのばね要素を有するリニアアクチュエータの応答例(誘起電圧フィードバックなし)として、ゲイン特性および位相特性を示す図である。また、図7(a)、(b)は、指令信号に対するリニアアクチュエータの応答例(誘起電圧フィードバックあり、または相対速度フィードバックあり)として、ゲイン特性および位相特性を示す図である。
【0051】
誘起電圧フィードバックがない場合には、アクチュエータの共振周波数の変化に対して、図6(a)に示すゲイン特性、図6(b)に示す位相特性の変化が急峻である。これに対して、本実施形態による自動車用制振装置では、誘起電圧フィードバック(速度情報を用いたフィードバック制御)を行うことにより、アクチュエータの共振周波数が変化しても、図7(a)に示すゲイン特性、図7(b)に示す位相特性が緩やかであるため、指令信号に対する応答の変動が小さくなり、制御性能への影響が小さくなることが分かる。
【0052】
また、演算から得られる速度情報を用いてフィードバック制御を行うことにより、アクチュエータの共振特性が緩やかになる。このため、アクチュエータの共振周波数が変化しても、ゲイン特性や位相特性が緩やかであるため、指令信号に対する応答の変動が小さく、制御性能への影響を小さくできる。
【0053】
<第2の実施形態>
次に、本発明の第2の実施形態による制振装置の構成を説明する。図3は、第2の実施形態による制振装置の構成を示すブロック図である。図3において、制振装置は、制御対象である自動車の車体フレーム(主系質量)41に接続され、車体フレーム(主系質量)41に発生する上下方向(重力方向)の振動を制御(制振)するものとする。
【0054】
本実施形態における制振装置は、いわゆるアクティブ動吸振器であって、リニアアクチュエータ31への駆動電流を検出する電流検出器63と、リニアアクチュエータ31の端子電圧を検出する端子電圧検出器64と、該電流検出器63および端子電圧検出器64の検出結果に基づいて駆動するリニアアクチュエータ31とを備えている。制振装置は、リニアアクチュエータ31の駆動力を使って、補助質量32を上下方向(制振するべき振動の方向)に駆動し、補助質量32を含む補助質量の慣性力を反力として、主系質量41に付与することにより、主系質量41の振動を抑えるようになっている。
【0055】
図3に示す電流検出器63は、リニアアクチュエータ31に供給される電流を検出し、制御器62に供給する。また、端子電圧検出器64は、リニアアクチュエータ31に印加される端子電圧を検出し、制御器62に供給する。リニアアクチュエータ31を駆動した場合、リニアアクチュエータ31は、速度に比例した誘導起電力を発生する。この誘導起電力を算出することで、速度信号を得ることができる。また、これを積分処理することにより振動変位信号、微分処理することにより振動加速度を得ることも可能となる。
【0056】
例えば、図4および図5に示すように、端子電圧Vと電流iとを検出し、増幅回路と微分回路とを通じて上記誘導起電力を誘起電圧Eとして出力する。この場合、巻線抵抗R、巻線インダクタンスLに相当するゲインK1、K2を設定する必要がある。設定は、リニアアクチュエータの可動部(可動子、補助質量)を拘束した状態で所定の周波数の電流を流し、出力がゼロになるように調整する。誘起電圧Eにおいては、E=V−R・i−L(di/dt)の関係が成立するため、端子電圧Vと電流iとを検出することにより、誘起電圧Eを求めることができる。
【0057】
磁気ばね特性、あるいは機械的なばね要素により、動吸振器に関して最適値に近いばね定数が得られる場合、リニアアクチュエータ31が発生する減衰力を調整することで、制振のためのエネルギーを供給することなく、高い振動減衰効果を得ることができる。減衰力は、リニアアクチュエータ31のコイルの両端に負荷抵抗を接続し、この負荷抵抗の大きさを変えることで調整できる。
【0058】
制御器62は、電流検出器63および端子電圧検出器64で検出された電流および端子電圧から算出される誘起電圧に基づいて、リニアアクチュエータ31の相対速度、あるいは相対変位、あるいは相対加速度を演算し、制振装置が主系質量41を制振するために最適なばね特性及び減衰特性を得られるように、リニアアクチュエータ31の最適な駆動量(制御量)を導出し、導出した結果を指令信号としてパワーアンプ72に出力する。なお、パワーアンプ72には、電源回路90より電力が供給されている。パワーアンプ72は、制御器62の指令信号に従って、リニアアクチュエータ31を駆動し、リニアアクチュエータ31は、補助質量32を上下(重力)方向に駆動(振動)することで、主系質量41を制振する。
【0059】
上述した実施形態によれば、アクチュエータ可動部と固定部との相対変位、相対速度、相対加速度を検出するセンサを用いることなく、リニアアクチュエータ31の電流および端子電圧から算出される誘起電圧に基づいて、リニアアクチュエータ31の相対速度、あるいは相対変位、あるいは相対加速度を演算し、相対速度、あるいは相対変位、あるいは相対加速度に基づいて、リニアアクチュエータ31を制御するようにしたので、高い信頼性を確保することができる。
【0060】
また、演算から得られる変位情報を用いることで、バネ効果を得ることができる。また演算から得られる速度情報を用いることで、ダンパ効果を得ることができる。
なお、端子電圧は、アクチュエータに印加するべき電圧の指令値から求めるようにしてもよい。
【0061】
次に、図8を参照して、図5に示す誘導起電力としての誘起電圧の検出方法の変形例を説明する。図8に示す誘起電圧の検出方法が、図5に示す誘起電圧の検出方法と異なる点は、速度推定値のフィードバックにより共振を抑制する制御の帯域をリニアアクチュエータ31の共振周波数付近に限定するために、バンドパスフィルタ(BPF)を設けた点である。このバンドパスフィルタは、リニアアクチュエータ31の共振周波数付近(固有振動数に近い周波数)のみに減衰効果を得るためのフィルタであり、このバンドパスフィルタの位相は、アクチュエータの共振周波数付近で0°となるように設定されている。
バンドパスフィルタを設けることによって、直流のノイズ成分を抑制することができるともに、位相の調整を行うことが可能となるため、誘起電圧の推定値の確度を向上させることができる。
【0062】
次に、図9を参照して、図8に示す誘起電圧の検出方法の変形例を説明する。図7に示す誘起電圧の検出方法が、図8に示す誘起電圧の検出方法と異なる点は、高周波ノイズ成分を抑制するために、2つのローパスフィルタ(LPF)を設けた点である。このローパスフィルタのカットオフ周波数は、リニアアクチュエータ31の共振周波数(固有振動数)より高い周波数に設定されている。
【0063】
ローパスフィルタを設けることによって、高周波数のノイズ成分を除去することができるため、ノイズ成分による異音の発生を抑制することができる。
なお、本発明による自動車用制振装置は、自動車の車体フレーム、エンジンマウント近傍、ラジエータ近傍、後部の荷台下部またはトランク下部等の自動車構成部品に取り付けると有効である。
また、リニアアクチュエータ31は、電磁力を利用したアクチュエータであり、例えば、レシプロモータを用いると有効である。
【0064】
以上説明したように、バネ要素により可動部が支持されたアクチュエータにおいて、自動車走行時における路面の凹凸による外部加振力がアクチュエータに対して作用しても、外部加振力や共振現象による過大な変位の発生を抑制することができるため、アクチュエータの可動部がストッパに衝突するなどして異音が発生してしまうことを防止することができる。また駆動回路側で共振現象を検出することが可能であるために、アクチュエータ本体にセンサ等を設ける必要がなく、アクチュエータ本体を小型化することができる。また、アクチュエータの個体差や経時変化などにより、コイルの定数に誤差が生じた場合でも制振制御に不要な電流の直流成分の発生を防止することができる。また、高周波のノイズ成分などを増幅しないようにしたため、騒音や異音の発生レベルを低下させることが可能となる。さらに、バンドパスフィルタやローパスフィルタを振動速度フィードバック中に設け、電流フィードバック回路とは独立させたため、高周波数の駆動指令に対するアクチュエータの応答性に影響することを防止することができる。
【0065】
<第3の実施形態>
次に、本発明の第3の実施形態による制振装置を図面を参照して説明する。図10は同実施形態の構成を示すブロック図である。ここでは、自動車において、気筒数制御を行うエンジンが加振源であるものとして説明する。この図において、符号41は、自動車の車体フレームである。符号40は、運転状態に応じて気筒数制御を行うことが可能なエンジンであり、このエンジン40が振動の発生源(加振源)となる。符号44は、運転席の座席シート(以下、単に座席と称する)であり、この座席44が振動の測定点である。符号43は、座席44に取り付けられた加速度センサであり、座席44の加速度を検出する。符号31は、車体フレーム41に取り付けられたリニアアクチュエータ(レシプロモータ)であり、エンジン40が発生した振動を制振するために補助質量32を振動させることにより振動を抑制する。符号60は、加振源において発生した振動及び測定点において検出した振動に基づいて、リニアアクチュエータ31の駆動を制御する制御部である。
【0066】
符号510は、エンジン40に対して与えられる点火パルスを入力するパルスIF(インタフェース)である。符号520は、加速度センサ43の出力を入力するセンサIF(インタフェース)である。符号530は、入力した点火パルスの周波数を検出する周波数検出部である。符号540は、FFT(Fast Fourier Transform:高速フーリエ変換)を実行するFFT部であり、加速度センサ43の出力信号中にどの周波数成分がどれだけ含まれているかを抽出し、1次の振動モードの位相・振幅FB(フィードバック)、2次の振動モード位相・振幅FB信号を出力する。符号550は、1次の振動モードに対する振動を発生させるための指令値が予め記憶された1次指令ROMであり、周波数検出部530において検出された周波数に応じた指令値を読み出して出力する。符号560は、2次の振動モードに対する振動を発生させるための指令値が予め記憶された2次指令ROMであり、周波数検出部530において検出された周波数に応じた指令値を読み出して出力する。
【0067】
符号570は、1次指令ROM550から読み出された1次の振動指令値と、FFT部540から出力される1次の振動振幅FB値及び1次の振動位相FB値を入力して、加振するべき振動の1次振動指令値と1次位相指令値を演算によって求めて出力する1次周波数演算部である。符号580は、1次周波数演算部570から出力される1次振動指令値、1次位相指令値と周波数検出部530から出力される振動周波数値を入力して、1次の電流指令値を出力する正弦波発信器である。符号590は、2次指令ROM560から読み出された2次の振動指令値と、FFT部540から出力される2次の振動振幅FB値及び2次の振動位相FB値を入力して、加振するべき振動の2次振動指令値と2次位相指令値を演算によって求めて出力する2次周波数演算部である。符号600は、2次周波数演算部590から出力される2次振動指令値、2次位相指令値と周波数検出部530から出力される振動周波数値を入力して、2次の電流指令値を出力する正弦波発信器である。符号610は、0次の電流指令値を出力する0次指令出力部である。符号620は、0次の電流指令値、1次の電流指令値及び2次の電流指令値が重畳された重畳電流指令値に基づいて、リニアアクチュエータ31に流れるモータ電流を出力する電流アンプである。
【0068】
次に、図10を参照して、車体フレーム41に発生している振動のうち、抑制するべき振動のみ抑制するとともに、重畳印加させるべき振動を発生させる動作を説明する。6気筒エンジンを搭載した自動車において、6気筒から3気筒への気筒停止制御が行われると、1次周波数演算部570は、3気筒駆動になったことにより新たに発生した振動(3気筒駆動時に発生する振動)を抑制するための指令値を演算によって求めて出力する。一方、2次周波数演算部590は、3気筒駆動になったことにより発生しなくなった振動(6気筒駆動時に発生する振動)を新たに発生するための指令値を演算によって求めて出力する。そして、3気筒駆動時に発生する振動を抑制するための指令値と、6気筒駆動時に発生する振動を新たに発生するための指令値とを重畳した重畳電流指令値を電流アンプ620へ出力すると、リニアアクチュエータ31において不要な振動を抑制し、新たに発生させるべき振動を発生させるために補助質量32が振動することになる。これによって、6気筒から3気筒への気筒停止制御が行われても6気筒駆動時の振動が発生し続けることになり、運転者に対して違和感を与えることが無くなる。
【0069】
<第4の実施形態>
次に、図11を参照して、第4の実施形態を説明する。図11に示す制振装置が、図10に示す制振装置と異なる点は、振動を検出する測定点を複数設けるともに、加振を行うリニアアクチュエータを複数設けた点である。そして、制御部60は、測定点441、442、443、44nにおいて、抑制するべき振動と、発生させるべき振動の指令値を求めてそれぞれのリニアアクチュエータ31、301、302、30nに対して出力する。このようにすることにより、抑制したい振動を低減し、強調したい振動を増加させることができるため、例えば、エンジンの振動は抑制し、音楽再生時にオーディオスピーカから発生する低音振動を再生中の音楽信号に基づいて増加させるといった制御が可能となる。また、エンジンの振動を抑制することにより、車内のこもり音等を低減させることも可能となる。
【0070】
このように、不要な振動を抑制するとともに、必要に応じて所定の振動を発生させるために、リニアアクチュエータ31に支持された補助質量32を振動させることにより車体フレーム41を加振する手段を備えた制振装置において、車体フレーム41を振動させるエンジン40の周波数と、座席44における振動を検出し、エンジン40の周波数と座席44における振動に基づいて、抑制するべき振動と、発生させるべき振動の指令値を求め、これらの指令値を重畳させた制御信号をリニアアクチュエータ31に対して出力するようにしたため、不要な振動を抑制するともに、必要に応じて所定の振動を発生させることができ、運転者に対して振動制御による違和感を与えてしまうことを防止することができる。
【0071】
<第5の実施形態>
次に、本発明の第5の実施形態による制振装置を図面を参照して説明する。図12は同実施形態の構成を示すブロック図である。この図において、符号41は、内燃機関等のエンジンが搭載された車体フレームであり、エンジンの回転駆動によって車体の振動系が形成されている。符号30は、リニアアクチュエータにより補助質量を振動させることにより車体フレーム41の車体に発生する振動を制振する加振部である。この加振部30は、ボイスコイルモータやレシプロモータ等のリニアアクチュエータを用いることが可能である。符号70は、加振部30を駆動するパワー回路である。符号604は、内部のマッピングデータを参照して、制振制御を行うマッピング制御部である。符号605は、周波数領域適応フィルタによる制振制御を行う周波数領域適応フィルタ部である。符号606は、時間領域適応フィルタによる制振制御を行う時間領域適応フィルタ部である。
【0072】
周波数領域適応フィルタ部605及び時間領域適応フィルタ部606は、適応フィルタの結果に基づいて、マッピング制御部604に保持しているマップデータを更新する。符号607は、現時点の状況に応じて、マッピング制御部604、周波数領域適応フィルタ部605及び時間領域適応フィルタ部606のいずれかを選択して、制振制御を行わせる制御切替部であり、車体フレーム41の所定位置の観測点の加速度と加速度基準値とエンジン回転数変化率に基づいて用いる制御を切り替える。また、周波数領域適応フィルタ部605は、時間領域適応フィルタ部606に対して伝達関数G’(s)を転送して更新する。周波数領域適応フィルタ部605において計算される(S(n)−S(n−1)/(M(n)−M(n−1))の逆数がG’(s)に該当する。符号608は、運転状態毎に、回転数に応じた加速度基準値が予め記憶された加速度基準値テーブルである。符号609は、エンジンパルス信号からエンジン回転数の変動率を計測する回転数変動率計測部であり、エンジンパルス信号は発生する時間間隔から、エンジン回転数Nと回転数変動率dN/dtを計算して、エンジンパルス信号毎に更新する。車体フレーム41には、観測点の加速度Aを検出して観測点加速度信号を出力する加速度センサと現時点の運転状態(ギアポジション、エアコンON/OFF、アクセル開度等)を示す運転状態信号D0を出力する機能(図示せず)が備えられている。
【0073】
ここで、図14〜図16を参照して、各制御部の動作を説明する。図14〜図16に示す制御動作は、原則的に従来技術による制御であるため、ここでは、詳細な説明は省略する。
【0074】
図14は、図12に示すマッピング制御部604の動作を示す図である。マッピング制御部604は、運転状態信号と、エンジンパルス信号から求めたエンジン回転数とに基づき、制御信号データマップを選択し、このデータマップに予め定義されている振幅指令値と、位相指令値を読み出して、この読み出した振幅指令値と位相指令値とをパワー回路70へ出力する。パワー回路70は、この指令値に基づいて、加振部の振動を制御することにより制振対象(車体)の振動を低減する。
【0075】
図15は、図12に示す時間領域適応フィルタ部606の動作を示す図である。時間領域適応フィルタ部606は、観測点加速度信号とエンジンパルス信号とを入力し、信号伝達特性の推定伝達関数G(s)に基づいて、正弦波加振力指令値(振幅指令値と位相指令値)を求め、この正弦波加振力指令値をパワー回路70へ出力する。パワー回路70は、この指令値に基づいて、加振部の振動を制御することにより制振対象(車体)の振動を低減する。
図16は、図12に示す周波数領域適応フィルタ部605の動作を示す図である。周波数領域適応フィルタ部605は、観測点加速度信号とエンジンパルス信号とを入力し、フーリエ変換を用いて得られた制振対象の周波数成分に基づいて発生するべき力の力指令を求め、この力指令に基づいて得られる正弦波加振力指令値(振幅指令値と位相指令値)を求め、この正弦波加振力指令値をパワー回路70へ出力する。パワー回路70は、この指令値に基づいて、加振部の振動を制御することにより制振対象(車体)の振動を低減する。
【0076】
次に、図12に示す制振装置の動作を説明する。まず、自動車がエンジン始動すると、制御切替部607は、マッピング制御部604を選択する。これにより、マッピング制御が行われることになる。この状態のときに、制御切替部607は、車体フレーム41の観測点の加速度信号と、加速度基準値テーブル608に記憶されている加速度基準値との値を比較して、検出して得られた加速度が加速度基準値を超えていた場合、マッピング制御から適応フィルタへの切替えを行う。マッピング制御から適応フィルタへ切り替えを行う場合、制御切替部607は、回転数変動率計測部609の出力を参照して、変動率が大きい時には時間領域適応フィルタ部606に切り替え、変動率が小さい時には周波数領域適応フィルタ部605へ切り替える。また、周波数領域適応フィルタ部605が動作している時には、適応フィルタの計算過程で、時間領域適応フィルタ部606で不可欠となる信号伝達特性の推定伝達関数((S(n)−S(n−1))/(M(n)−M(n−1))が求められる。この推定伝達関数は、1/G’(s)に相当するため、この結果に基づいて時間領域適応フィルタ6の推定伝達関数G’(s)を更新する。
【0077】
そして、制御切替部607は、適応フィルタに移行した後、加速度基準値を下回るようになった時点で、適応フィルタからマッピング制御に戻す切り替えを行う。このとき、周波数領域適応フィルタ部605または時間領域適応フィルタ部606においては、適応フィルタの動作によって、効果的に制振できる正弦波加振力指令が求められることになるため、周波数領域適応フィルタ部605または時間領域適応フィルタ部606は求めた加振力指令値に基づいて、マッピング制御部604に保持されているマッピングデータを更新する。この動作によって、現時点で最適なマップデータに更新されることになるため、個体差や経年変化の影響による制振性能劣化を防止することができ、適切な制振制御処理が実行されること維持することができる。
【0078】
次に、図13を参照して、制御切替部607が、各制御を切り替えるタイミングについて説明する。図13は、状態値に基づいて、制御方式を切り替える動作を示す図である。図13において、エンジン回転数N、運転状態値D0に基づいて、加速度基準値テーブル608を参照して得られる基準値を、A1(N,D0)、またはA2(N,D0)と示す。A1(N,D0)は、マッピング制御から適応フィルタへ移行する基準値であり、A2(N,D0)は、適応フィルタからマッピング制御へ移行する基準値であり、A2(N,D0)≦A1(N,D0)の関係を満たしている。また、適応フィルタの方式移行をおこなうための基準値をW1〜W4と示す。W1は、エンジン回転数変動率dN/dtに基づいて、周波数領域適応フィルタから時間領域適応フィルタへ移行する基準値である。W2は、エンジン回転数変動率dN/dtに基づいて、時間領域適応フィルタから制御なしへ移行する基準値である。W3は、エンジン回転数変動率dN/dtに基づいて、時間領域適応フィルタから周波数領域適応フィルタへ移行する基準値である。W4は、エンジン回転数変動率dN/dtに基づいて、制御なしから時間領域適応フィルタへ移行する基準値である。基準値W1〜W4は、W1<W2、W3<W4、W1≧W3、W2≧W4を満たしている。また、マッピング制御状態(初期状態)をC0=1、周波数領域適応フィルタによる制御状態をC0=2、時間領域適応フィルタによる制御状態をC0=3、適応フィルタの制御なし状態をC0=4と示す。図13に示すように、エンジン回転数N、回転数変動率dN/dtとから求められる基準値A1、A2と適応フィルタ切替えの基準値W1〜W4に基づいて、現時点における最適な制御方式を選択して実行することにより最適な制振制御が可能となる。
【0079】
基準値A1、A2は、同一の値でもよいが、A2<A1を満たすように設定して、加速度基準値を超えて適応フィルタ制御に移行した後に、マッピング制御に戻る時にはヒステリシスを設けて、加速度基準値をヒステリシス幅だけ下回った場合に戻るようにするようにしてもよい。これにより制振性能がより向上させることができ、マッピングデータもより良質なものに更新することができる。また、マッピング制御に戻る時には加速度基準値を下回ってかつ、回転数変動率が所定の値を上回った場合に戻るようにしてもよい。このようにすることにより、できるだけ適応フィルタ制御にとどまり、制振性能を上げた状態でマッピングデータの更新を行うことができる。
【0080】
また、マッピングデータ更新時において、マッピング制御から適応フィルタ制御に移行したエンジン回転数のデータのみを更新してもよく、適応フィルタ制御実施中に加速度基準値を下回った回転数のデータ全てを更新するようにしてもよい。また、マッピングデータ更新のタイミングは、マッピング制御に戻るときに加え、適応フィルタ制御実施中に加速度基準値を、ある所定の値だけ下回った度にマッピングデータ更新を実施するようにしてもよい。また、伝達関数の更新のタイミングは、一定の時間間隔毎に実施するのに加え、前回更新した回転数から所定の間隔離れた回転数になる度に実施するようにしてもよい。また、適応フィルタ実施時の回転数変動率が大きすぎる場合には、悪影響を避けるために適応フィルタ動作を停止する(制御なし)ようにしてもよい。
【0081】
このように、個体差や経年変化などでマッピング制御による制振制御性能が劣化した場合に、適応フィルタに切り替えて制振性能を向上させるとともにマッピング制御のマッピングデータを更新するようにしたため、マッピング制御による制振性能を回復させることが可能となる。また、適応フィルタ実施時には、回転数変動率と応答性に応じて周波数領域、時間領域、制御なしのいずれかに切り替えるようにしたため、回転数変動時に適応フィルタによって逆に振動が大きくなってしまうことを防止することができる。また、周波数領域適応フィルタの計算過程を用いて時間領域適応フィルタで必要となる伝達関数を更新するようにしたため、伝達関数の変動による時間領域適応フィルタにおける特性劣化を防ぐことが可能となる。
【0082】
<第6の実施形態>
以下、本発明の第6の実施形態による制振装置を、図面を参照して説明する。図17は、同実施形態による制振装置の構成を示すブロック図である。図17において、符号30は補助質量(おもり)を振動させ、その反力を用いて自動車等の制振対象機器の振動を抑制する加振部である。符号41は、加振部30が取り付けられる自動車の車体フレームである。加振部30は、車体フレーム(主系質量)41に発生する上下方向(重力方向)の振動を制御(制振)するものとする。符号72は、加振部30内に備えるリニアアクチュエータを駆動するための電流を供給するパワーアンプである。符号65は、加振部30に発生させるべき力に応じて、リニアアクチュエータに供給する電流を制御する電流制御部である。符号631は、加振部30に対して供給されている電流を検出する電流検出部である。符号641は、パワーアンプ72に対して印加されている電圧を検出する印加電圧検出部である。符号66は、電流検出部631及び印加電圧検出部641の出力(電流値と電圧値)に基づいて、加振部30内に備えるリニアアクチュエータの振動速度を推定するアクチュエータ振動速度推定部である。符号67は、アクチュエータ振動速度推定部66から出力される振動速度の値を入力し、理想アクチュエータ逆特性に基づいて、理想アクチュエータは出力するべき力指令信号を出力する理想アクチュエータ逆特性部である。符号68は、所定値の力指令値を出力する所定値出力部である。
【0083】
ここで、図19を参照して、図17に示す加振部30の詳細な構成を説明する。図19は、図17に示す加振部30の詳細な構成を示す図である。この図において、符号32は、車体フレーム41に対して付加する補助質量(おもり)である。符号34は、リニアアクチュエータ(レシプロモータ)を構成する固定子であり、車体フレーム41に固定される。符号12は、リニアアクチュエータ(レシプロモータ)を構成する可動子であり、例えば重力方向の往復動(図3の紙面では上下動)を行う。加振部30は、車体フレーム41の抑制するべき振動の方向と可動子12の往復動方向(推力方向)とが一致するように、車体フレーム41に固定される。符号3は、可動子12及び補助質量32を推力方向に移動可能なように支持する板バネである。符号11は、可動子12と補助質量32を接合する軸であり、板バネ3によって支持されている。符号35は、可動子12の可動範囲を制限するストッパであり、可動子12の両端(図19においては上限と下限)において可動範囲を制限する。この加振部30によって、動吸振器が構成されていることになる。
【0084】
次に、図19に示す加振部30の動作を説明する。リニアアクチュエータ(レシプロモータ)を構成するコイル(図示せず)に交流電流(正弦波電流、矩形波電流)を流した場合、コイルに所定方向の電流が流れる状態では、磁束が、永久磁石においてS極からN極に導かれることにより、磁束ループが形成される。その結果、可動子12には、重力に逆らう方向(上方向)に移動する。一方、コイルに所定方向とは逆方向の電流を流すと、可動子12は、重力方向(下方向)に移動する。可動子12は、交流電流によるコイルへの電流の流れの方向が交互に変化することにより以上の動作を繰り返し、固定子34に対して軸11の軸方向に往復動することになる。これにより、軸11に接合されている補助質量32が上下方向に振動することになる。電流制御部65から出力する制御信号に基づいて、補助質量32の加速度を制御することにより、制御力を調節して、車体フレーム41の振動を低減するものである。
【0085】
次に、図17を参照して、図17に示す制振装置の動作を説明する。まず、電流検出部631は、加振部30に供給される電流を検出し、電流制御部65とアクチュエータ振動速度推定部66に供給する。また、印加電圧検出部641は、加振部30に印加される電圧を検出し、アクチュエータ振動速度推定部66に供給する。加振部30内のリニアアクチュエータを駆動した場合、リニアアクチュエータは、速度に比例した誘導起電力を発生する。この誘導起電力を算出することで、アクチュエータ振動速度推定部66は、振動速度信号を得ることができる。
【0086】
例えば、印加電圧Vと電流iとを検出し、増幅回路と微分回路とを通じて誘起電圧Eとして出力する。この場合、巻線抵抗R、巻線インダクタンスLに相当するゲインK1、K2を設定する必要がある。設定は、リニアアクチュエータの可動部(可動子、補助質量)を拘束した状態で所定の周波数の電流を流し、出力がゼロになるように調整する。誘起電圧Eにおいては、E=V−R・i−L(di/dt)の関係が成立するため、端子電圧Vと電流iとを検出することにより、誘起電圧Eを求めることができる。また、磁気ばね特性、あるいは機械的なばね要素により、加振部30において最適値に近いばね定数が得られる場合、リニアアクチュエータが発生する減衰力を調整することで、制振のためのエネルギーを供給することなく、高い振動減衰効果を得ることができる。減衰力は、リニアアクチュエータ11Aのコイルの両端に負荷抵抗を接続し、この負荷抵抗の大きさを変えることで調整できる。
【0087】
アクチュエータ振動速度推定部66の出力には、現時点の指令値に対する実アクチュエータの出力が反映されることになる。リニアアクチュエータが理想アクチュエータであると仮定すると、アクチュエータ振動速度推定部66が推定した振動速度を理想アクチュエータが出力するときに必要な力指令信号が電流制御部65に入力されていることになるため、理想アクチュエータ逆特性部67は、アクチュエータ振動速度推定部66が推定した振動速度を理想アクチュエータが出力するときに必要な力指令信号を出力することになる。(1)式に理想アクチュエータ逆特性の伝達関数の一例を示す。
Gi(s)=(Mis2+Cis+Ki)/s
・・・・(1)
ただし、Mi:補助質量(理想値)、Ci:減衰係数(理想値)、Ki:バネ定数(理想値であり、伝達関数の減衰係数が臨界減衰(減衰率=1)の1/100〜100倍の範囲である。
【0088】
実際の指令信号と理想アクチュエータ逆特性部67が出力との差分値を、指令信号の補正値としてフィードバックすることにより実アクチュエータを理想アクチュエータと振舞わせることができる。電流制御部65は、電流検出部631検出された電流および理想アクチュエータ逆特性部67から出力される指令信号に基づいて、加振部30が車体フレーム41を制振するために最適なばね特性及び減衰特性を得られるように、リニアアクチュエータの最適な駆動量(制御量)を導出し、導出した結果を指令信号としてパワーアンプ72に出力する。パワーアンプ72は、電流制御部65の指令信号に従って、加振部30を駆動することにより、補助質量32が上下(重力)方向に振動することになる。この補助質量32が振動することによる反力で車体フレーム41に発生する振動を抑制する。
【0089】
なお、理想アクチュエータ逆特性を、アクチュエータの共振周波数付近の帯域に制限するバンドパスフィルタを備えていてもよい。
【0090】
このように、理想アクチュエータの特性を最適動吸振器に等しくすることで、アクティブ動吸振器を最適動吸振器と振舞わせることが可能となるため、自動車用の制振装置において、共振現象を抑制して、補助質量の振動振幅を適正な範囲内にでき、理想的な振動抑制を実現することができ、振動抑制性能を向上させることができる。
【0091】
次に、図18を参照して、図17に示す制振装置の変形例を説明する。図18は、図17に示す振装置の変形例の構成を示すブロック図である。この図において、図17に示す装置と同一の部分には同一の符号を付し、その説明を省略する。図18に示す装置が、図17に示す装置と異なる点は、所定値出力部68に換えて、加振源情報(加振タイミング、周波数、加振力波形、車体振動等)を取得し、この加振源情報に基づいて、振動を抑制するための指令値を出力する制御部69を設けた点である。制御部69が出力する振動抑制指令値は、加振源の加振力または加振力の周波数情報、車体(制振対象機器)2の振動情報または加振力情報から生成されて出力される。加振部30は、この振動抑制指令値に基づいて、リニアアクチュエータの駆動を行うことになる。その他の動作は、前述した動作と同様であるため、ここでは詳細な説明を省略する。
【0092】
なお、本発明による自動車用制振装置は、自動車の車体フレーム、エンジンマウント近傍、ラジエータ近傍、後部の荷台下部またはトランク下部に取り付けると有効である。
また、加振部30内に備えるリニアアクチュエータは、電磁力を利用したアクチュエータであり、例えば、レシプロモータを用いると有効である。また、加振部30内に備えるアクチュエータは、電圧を印加することで変位を起こす素子を用いた圧電アクチュエータであってもよい。
【0093】
以上説明したように、アクチュエータの振動系の加振力に対する相対振動速度の伝達関数を使用する理想アクチュエータ逆特性に基づくアクチュエータの共振抑制手段を備えたため、理想アクチュエータ逆特性を所望の特性に基づいて設定することでアクチュエータの特性を任意の特性に調整することができる。これにより、所望の特性の減衰特性を大きくすることで、アクチュエータ本体に作用する外力によってアクチュエータの可動部の共振が発生しにくい特性とすることができるため、適正な反力を発生させて理想的な振動抑制を実現することができる。また、所望の特性の固有振動数を下げることでアクチュエータの見かけの固有振動数を下げることができるため、実アクチュエータの固有振動数付近においてもバネ特性などの影響を受けることなく、安定した制振制御を実現することが可能となる。
【0094】
以上のように説明した制振装置による作用を方法としての側面から見た場合、この制振装置の制御方法は、制振対象機器に対して、バネ要素で保持された補助質量を駆動するアクチュエータを備え、前記補助質量を駆動したときの反力を利用して前記制振対象機器の振動を抑制する制振装置の制御方法であって、前記アクチュエータの振動系の加振力に対する相対振動速度の伝達関数を使用する理想アクチュエータ逆特性に基づく前記アクチュエータの共振抑制ステップを有するようにしたものといえる。そして、こうした制振装置の制御方法を実現することにより、上記の効果を生じさせることが可能となっているものといえる。
【0095】
<第7の実施形態>
次に、本発明の第7の実施形態による制振装置を図面を参照して説明する。図20は同実施形態の構成を示すブロック図である。この図において、符号30は、制振制御の対象物である制御対象機器44に固定して、内部に備えるリニアアクチュエータ(レシプロモータ)によって補助質量を駆動することにより制御対象機器44の振動を抑制する加振部である。ここでいう制御対象機器44とは、例えば、自動車の車体等である。
【0096】
符号32は、制御対象機器44に対して付加する補助質量(おもり)である。符号34は、レシプロモータを構成する固定子であり、制御対象機器44に固定される。符号12は、レシプロモータを構成する可動子であり、例えば重力方向の往復動(図1の紙面では上下動)を行う。加振部30は、制御対象機器44の抑制するべき振動の方向と可動子12の往復動方向(推力方向)とが一致するように、制御対象機器44に固定される。符号3は、可動子12及び補助質量32を推力方向に移動可能なように支持する板バネである。符号11は、可動子12と補助質量32を接合する軸であり、板バネ3によって支持されている。符号35は、可動子12の可動範囲を制限するストッパであり、可動子12の両端(図20においては上限と下限)において可動範囲を制限する。
【0097】
符号620は、制御対象機器44の状態値(例えば、エンジン回転数)を入力して、補助質量32に発生させるべき振動の振幅指令値と周波数指令値と演算によって求めて出力する指令値生成部である。符号621は、指令値生成部620から出力される振幅指令値と周波数指令値とから決まる印加可能な電流値の上限が周波数毎に定義された振幅上限クランプテーブルである。符号622は、振幅指令値と周波数指令値とを入力し、振幅上限クランプテーブル621を参照して、入力した振幅指令値を適切な可動範囲に制限するための補正を行い、入力された周波数指令と、この補正(制限)後の振幅指令値とに基づいて、レシプロモータに対して印加するべき電流の指令値を求めて出力する印加電流生成部である。符号72は、加振部30を構成するレシプロモータの固定子34に電流を供給し、可動子12の往復動を制御するパワーアンプである。
【0098】
次に、図20に示す加振部30の動作を説明する。レシプロモータを構成するコイル(図示せず)に交流電流(正弦波電流、矩形波電流)を流した場合、コイルに所定方向の電流が流れる状態では、磁束が、永久磁石においてS極からN極に導かれることにより、磁束ループが形成される。その結果、可動子12には、重力に逆らう方向(上方向)に移動する。一方、コイルに所定方向とは逆方向の電流を流すと、可動子12は、重力方向(下方向)に移動する。可動子12は、交流電流によるコイルへの電流の流れの方向が交互に変化することにより以上の動作を繰り返し、固定子34に対して軸11の軸方向に往復動することになる。これにより、軸11に接合されている補助質量32が上下方向に振動することになる。パワーアンプ72から出力する制御信号に基づいて、補助質量32の加速度を制御することにより、制御力を調節して、制御対象機器44の振動を低減することができる。
【0099】
図20に示すリニアアクチュエータにおいては、軸11を滑らせて往復動可能に支持するのではなく、各板バネ3が、可動子12を軸11の上端側および下端側の2箇所で保持し、自らが弾性変形することによって可動子12を軸11の軸方向に往復動可能に支持する。これにより、可動子12には摩耗も摺動抵抗も生じないため、長期にわたる使用を経た後でも軸支持の精度が低下することがなく高い信頼性が得られるとともに、摺動抵抗に起因する消費電力の損失がなく性能の向上を図ることができる。しかし、前述したように、自動車が急加速や悪路走行することによって自動車の挙動変化が激しい場合等においては、固定子34に対して供給する電流の変動も大きくなり、可動子12がストッパ35に衝突する現象が発生してしまう。自動車に制振装置として加振部30を取り付けるような場合、可動子12がストッパ35に衝突することによる発せられる衝突音(異音)はない方が望ましい。
【0100】
このため、固定子34に対して印加している電流周波数毎に、現時点で新たに印加することが可能な電流の上限値を予め求め、この電流周波数と電流上限値との関係を振幅指令値と周波数指令値の関係に置き換えて振幅上限クランプテーブル20に記憶しておき、印加電流生成部622が新たな印加電流指令値を求める場合に、この振幅上限クランプテーブル20を参照して、指令値生成部620から出力された振幅指令値を補正して、この補正された振幅指令値と、指令値生成部620から出力された周波数指令値とに基づいて、新たな印加電流指令値を求めてパワーアンプ72へ出力することにより、可動子12がストッパ35に衝突することを防止することができる。また、振幅指令値の補正をテーブル参照によって行うようにしたため、印加電流生成部622における演算量を軽減することができるため、処理の高速化を図ることができるとともに、廉価な演算装置を用いることができコストダウンを図ることができる。
【0101】
次に、図21を参照して、図20に示す制振装置の変形例を説明する。この図において、図20に示す装置と同一の部分には同一の符号を付し、その説明を省略する。この図に示す装置が図20に示す装置と異なる点は、振幅上限クランプテーブル621に換えて、電流上限クランプテーブル623を設けた点である。電流上限クランプテーブル623は、固定子34に対して印加している電流周波数毎に、現時点で新たに印加することが可能な電流の上限値を予め求め、この電流周波数と電流上限値との関係を印加電流指令値と周波数指令値の関係に置き換えて予め記憶したテーブルである。印加電流生成部622が新たな印加電流指令値を求める場合に、この電流上限クランプテーブル623を参照して、指令値生成部620から出力された振幅指令値と指令値生成部620から出力された周波数指令値とに基づいて、新たに求めた印加電流指令値を補正して、パワーアンプ72へ出力することにより、可動子12がストッパ35に衝突することを防止することができる。
【0102】
<第8の実施形態>
次に、図22を参照して、本発明の第8の実施形態による制振装置を説明する。図22は同実施形態の構成を示すブロック図である。この図において、図20に示す装置と同一の部分には同一の符号を付し、その説明を省略する。この図22に示す装置が図20に示す装置と異なる点は、振幅上限クランプテーブル621に換えて、勾配制限部625を設け、印加電流生成部624が勾配制限部625によって振幅の変動勾配が制限された振幅指令値に基づいて印加電流指令値を求めるようにした点である。勾配制限部625は、入力された振幅指令値の変動勾配を緩やかな変動にして出力するものである。印加電流生成部624が新たな印加電流指令値を求める場合に、勾配制限部625によって変動勾配が制限された振幅指令値と、指令値生成部620から出力された周波数指令値とに基づいて、新たな印加電流指令値を求めてパワーアンプ72へ出力することにより、急激に印加電流が変動することを抑制することができるため、可動子12がストッパ35に衝突することを防止することができる。また、周波数変動が大きい場合のみに制限を設けることによって応答の遅れを軽減することも可能である。
【0103】
次に、図23を参照して、図22に示す制振装置の変形例を説明する。この図において、図22に示す装置と同一の部分には同一の符号を付し、その説明を省略する。この図に示す装置が図22に示す装置と異なる点は、勾配制限部626を印加電流生成部624の後段に設けた点である。勾配制限部626は、ローパスフィルタと同等の機能を有し、印加電流生成部624が求めた印加電流指令値を入力し、この入力された印加電流指令値の変動勾配を緩やかな変動にして出力するものである。印加電流生成部624が新たに求めた印加電流指令値の変動勾配が緩やかになるように補正して、パワーアンプ72へ出力することにより、急激に印加電流が変動することを抑制することができるため、可動子12がストッパ35に衝突することを防止することができる。
【0104】
<第9の実施形態>
次に、図24を参照して、本発明の第9の実施形態による制振装置を説明する。図24は同実施形態の構成を示すブロック図である。この図において、図20に示す装置と同一の部分には同一の符号を付し、その説明を省略する。この図24に示す装置が図20に示す装置と異なる点は、振幅上限クランプテーブル621に換えて、振幅抑制部627と変動検出部629とを設け、印加電流生成部628が振幅抑制部627によって振幅が抑制された振幅指令値に基づいて印加電流指令値を求めるようにした点である。振幅抑制部627は、変動検出部629が検出した周波数指令値の変動量に応じて、振幅指令値の変動を抑制するものである。変動検出部629は、指令値生成部620から出力される周波数指令値の変動を常に検出し、変動量が所定値を超えた場合に、振幅抑制部627に対して、変動量が所定値を超えたことを通知するものである。印加電流生成部628が新たな印加電流指令値を求める場合に、変動検出部629が検出した周波数変動に基づいて振幅抑制部627により振幅が抑制された振幅指令値と、指令値生成部620から出力された周波数指令値とに基づいて、新たな印加電流指令値を求めてパワーアンプ72へ出力することにより、急激に印加電流が変動することを抑制することができるため、可動子12がストッパ35に衝突することを防止することができる。また、振幅抑制部627による振幅の抑制量を適切に制御することにより、急激な周波数変動時においてもある程度駆動を続行することができる。
【0105】
次に、図25を参照して、図24に示す制振装置の変形例を説明する。この図において、図24に示す装置と同一の部分には同一の符号を付し、その説明を省略する。この図に示す装置が図24に示す装置と異なる点は、振幅抑制部627に換えて電流抑制部630を設けた点である。電流抑制部630は、変動検出部629が検出した周波数指令値の変動量が所定値を超えた場合に、印加電流生成部628が求めた印加電流指令値の変動を抑制するものである。指令値生成部620から出力された周波数指令値の変動量が所定値を超えた場合に、印加電流生成部628が新たに求めた印加電流指令値の変動抑制ように補正して、パワーアンプ72へ出力することにより、急激に印加電流が変動することを抑制することができるため、可動子12がストッパ35に衝突することを防止することができる。
【0106】
以上説明したように、発生するべき振動の振幅指令値及び周波数指令値に基づいて、アクチュエータ(レシプロモータ)に印加する電流を制御する場合に、補助質量32の振動振幅が予め決められた値を超えないように、アクチュエータに対して印加する電流値を制限するようにしたため、アクチュエータの可動子を常に適切な可動範囲内で駆動することができる。これにより、可動子12がストッパ35と衝突することがなくなるため、衝突音の発生を抑制することができる。さらには、印加電流値の制御によってアクチュエータの可動子を常に適切な可動範囲内で駆動することができるようにため、アクチュエータ(レシプロモータ)内の設けられるストッパ35が不要となり、アクチュエータの構造を簡単にすることも可能となる。
【0107】
なお、各機能を実現するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行することにより振動抑制制御を行ってもよい。なお、ここでいう「コンピュータシステム」とは、OSや周辺機器等のハードウェアを含むものとする。また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD−ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。さらに「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、インターネット等のネットワークや電話回線等の通信回線を介してプログラムが送信された場合のサーバやクライアントとなるコンピュータシステム内部の揮発性メモリ(RAM)のように、一定時間プログラムを保持しているものも含むものとする。
また、上記プログラムは、このプログラムを記憶装置等に格納したコンピュータシステムから、伝送媒体を介して、あるいは、伝送媒体中の伝送波により他のコンピュータシステムに伝送されてもよい。ここで、プログラムを伝送する「伝送媒体」は、インターネット等のネットワーク(通信網)や電話回線等の通信回線(通信線)のように情報を伝送する機能を有する媒体のことをいう。また、上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであっても良い。さらに、前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるもの、いわゆる差分ファイル(差分プログラム)であっても良い。
【0108】
また、前述した説明においては、制振対象を自動車の車体であるものとして説明したが、本発明による制振対象機器は必ずしも自動車の車体である必要はなく、自律走行搬送車、ロボットアーム等であってもよい。
【符号の説明】
【0109】
30・・・加振部、31・・・リニアアクチュエータ、32・・・補助質量、33・・・相対速度センサ、40・・・エンジン、41・・・車体フレーム、43・・・振動センサ、50・・・上位コントローラ、60・・・安定化コントローラ、70・・・パワー回路
【特許請求の範囲】
【請求項1】
制振対象機器に対して、バネ要素で保持された補助質量を駆動するアクチュエータを備え、前記補助質量を駆動したときの反力を利用して前記制振対象機器の振動を抑制する制振装置であって、
前記アクチュエータの振動系の加振力に対する相対振動速度の伝達関数を使用する理想アクチュエータ逆特性に基づく前記アクチュエータの共振抑制手段をさらに備えたことを特徴とする制振装置。
【請求項2】
前記伝達関数は、加振力に対する相対振動速度の2次振動系伝達関数であることを特徴とする請求項1に記載の制振装置。
【請求項3】
前記伝達関数の減衰係数が臨界減衰の1/100〜100倍の範囲であることを特徴とする請求項2に記載の制振装置。
【請求項4】
前記理想アクチュエータ逆特性を、前記アクチュエータの共振周波数付近の帯域に制限するバンドパスフィルタをさらに備えたことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の制振装置。
【請求項5】
前記相対振動速度は、前記アクチュエータの電流と印加電圧とから算出することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の制振装置。
【請求項6】
前記相対振動速度は、前記アクチュエータに流れる電流信号と前記アクチュエータヘの電圧指令値から算出することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の制振装置。
【請求項7】
前記制振対象機器の振動を抑制するための振動抑制指令値を生成する振動抑制指令生成手段をさらに備えたことを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の制振装置。
【請求項8】
前記振動抑制指令値は、加振源の加振力または加振力の周波数情報をもとに生成することを特徴とする請求項7に記載の制振装置。
【請求項9】
前記振動抑制指令値は、加振源の加振力または加振力の周波数情報と、振動観測点の振動信号をもとに生成することを特徴とする請求項7に記載の制振装置。
【請求項10】
前記振動抑制指令値は、前記制振対象機器の振動情報から生成することを特徴とする請求項7に記載の制振装置。
【請求項11】
前記振動抑制指令値は、前記制振対象機器の振動情報と、振動観測点の振動信号から生成することを特徴とする請求項7に記載の制振装置。
【請求項12】
前記振動抑制指令値は、前記制振対象機器の加振力情報から生成することを特徴とする請求項7に記載の制振装置。
【請求項13】
前記振動抑制指令値は、前記制振対象機器の加振力情報と、振動観測点の振動信号から生成することを特徴とする請求項7に記載の制振装置。
【請求項14】
前記アクチュエータは、電磁力により推力を発生する電磁リニアアクチュエータであることを特徴とする請求項1〜13のいずれかに記載の制振装置。
【請求項15】
前記アクチュエータは、電圧を印加することで変位を起こす素子を用いた圧電アクチュエータであることを特徴とする請求項1〜13のいずれかに記載の制振装置。
【請求項16】
前記電磁リニアアクチュエータがレシプロモータであることを特徴とする請求項14に記載の制振装置。
【請求項17】
制振対象機器に対して、バネ要素で保持された補助質量を駆動するアクチュエータを備え、前記補助質量を駆動したときの反力を利用して前記制振対象機器の振動を抑制する制振装置の制御方法であって、
前記アクチュエータの振動系の加振力に対する相対振動速度の伝達関数を使用する理想アクチュエータ逆特性に基づく前記アクチュエータの共振抑制ステップを有することを特徴とする制振装置の制御方法。
【請求項1】
制振対象機器に対して、バネ要素で保持された補助質量を駆動するアクチュエータを備え、前記補助質量を駆動したときの反力を利用して前記制振対象機器の振動を抑制する制振装置であって、
前記アクチュエータの振動系の加振力に対する相対振動速度の伝達関数を使用する理想アクチュエータ逆特性に基づく前記アクチュエータの共振抑制手段をさらに備えたことを特徴とする制振装置。
【請求項2】
前記伝達関数は、加振力に対する相対振動速度の2次振動系伝達関数であることを特徴とする請求項1に記載の制振装置。
【請求項3】
前記伝達関数の減衰係数が臨界減衰の1/100〜100倍の範囲であることを特徴とする請求項2に記載の制振装置。
【請求項4】
前記理想アクチュエータ逆特性を、前記アクチュエータの共振周波数付近の帯域に制限するバンドパスフィルタをさらに備えたことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の制振装置。
【請求項5】
前記相対振動速度は、前記アクチュエータの電流と印加電圧とから算出することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の制振装置。
【請求項6】
前記相対振動速度は、前記アクチュエータに流れる電流信号と前記アクチュエータヘの電圧指令値から算出することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の制振装置。
【請求項7】
前記制振対象機器の振動を抑制するための振動抑制指令値を生成する振動抑制指令生成手段をさらに備えたことを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の制振装置。
【請求項8】
前記振動抑制指令値は、加振源の加振力または加振力の周波数情報をもとに生成することを特徴とする請求項7に記載の制振装置。
【請求項9】
前記振動抑制指令値は、加振源の加振力または加振力の周波数情報と、振動観測点の振動信号をもとに生成することを特徴とする請求項7に記載の制振装置。
【請求項10】
前記振動抑制指令値は、前記制振対象機器の振動情報から生成することを特徴とする請求項7に記載の制振装置。
【請求項11】
前記振動抑制指令値は、前記制振対象機器の振動情報と、振動観測点の振動信号から生成することを特徴とする請求項7に記載の制振装置。
【請求項12】
前記振動抑制指令値は、前記制振対象機器の加振力情報から生成することを特徴とする請求項7に記載の制振装置。
【請求項13】
前記振動抑制指令値は、前記制振対象機器の加振力情報と、振動観測点の振動信号から生成することを特徴とする請求項7に記載の制振装置。
【請求項14】
前記アクチュエータは、電磁力により推力を発生する電磁リニアアクチュエータであることを特徴とする請求項1〜13のいずれかに記載の制振装置。
【請求項15】
前記アクチュエータは、電圧を印加することで変位を起こす素子を用いた圧電アクチュエータであることを特徴とする請求項1〜13のいずれかに記載の制振装置。
【請求項16】
前記電磁リニアアクチュエータがレシプロモータであることを特徴とする請求項14に記載の制振装置。
【請求項17】
制振対象機器に対して、バネ要素で保持された補助質量を駆動するアクチュエータを備え、前記補助質量を駆動したときの反力を利用して前記制振対象機器の振動を抑制する制振装置の制御方法であって、
前記アクチュエータの振動系の加振力に対する相対振動速度の伝達関数を使用する理想アクチュエータ逆特性に基づく前記アクチュエータの共振抑制ステップを有することを特徴とする制振装置の制御方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【公開番号】特開2012−237448(P2012−237448A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−153438(P2012−153438)
【出願日】平成24年7月9日(2012.7.9)
【分割の表示】特願2008−514460(P2008−514460)の分割
【原出願日】平成19年4月27日(2007.4.27)
【出願人】(000002059)シンフォニアテクノロジー株式会社 (1,111)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成24年7月9日(2012.7.9)
【分割の表示】特願2008−514460(P2008−514460)の分割
【原出願日】平成19年4月27日(2007.4.27)
【出願人】(000002059)シンフォニアテクノロジー株式会社 (1,111)
【Fターム(参考)】
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