説明

刻印形状の検査方法

【課題】 欠落の有無をより確実に検出することができる刻印形状の検査方法及びこの検査方法に適した検査装置を提供する。
【解決手段】 ワークW表面に施された刻印をカメラ10cで撮像し、得られた画像を画像処理手段20で処理することで形状の良否を判定する刻印形状の検査方法である。まず、カメラ10cで撮像された入力画像に対し、刻印部分を除く背景部分の輝度分布を求める。この背景部分の輝度分布に基づいて2値化処理の閾値を設定し、入力画像に2値化処理を施す。そして、2値化処理した明と暗の2値データを利用して形状の良否を判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カメラにて得られた画像を処理して物体表面に施された刻印の状態を検査する刻印形状の検査方法、及び刻印形状の検査装置に関するものである。特に、欠落の有無をより確実に選別することができる刻印形状の検査方法、及び刻印形状の検査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば、自動車のブレーキパッドといった機械部品などの種々の製品、特に、金属材料からなる製品では、製造番号(ロッド番号)などをその表面に刻印することが行われている。この刻印が欠落などして製造番号などが確認できない場合、生産管理が行えないため、従来、欠落などなく適正に刻印が施されているかを目視検査にて調べていた。しかし、目視検査では、検査作業者によって不良の判定基準がばらついたり、見逃したりする恐れがある。そこで、特許文献1では、文字形状検査として、カメラにて物体表面に表記された文字を撮像し、得られた画像を利用した検査方法を提案している。具体的には、予め登録されている基準画像の背景部分を除去して背景除去パタンを作成し、入力画像と背景除去パタンとを一致させた画像から背景を除去して背景除去画像を得て、背景除去パタンの輝度の投影分布と、背景除去画像の輝度の投影分布とを比較し、比較結果が基準範囲外の場合、不良と判定するものである。
【0003】
【特許文献1】特開平6-325156号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1では、背景部分を除去して判定に用いることで、文字部分と背景部分とのコントラストが低い被検体についても、正確に文字形状の検査を行えることが記載されている。しかし、特許文献1に記載される手法では、欠落を適切に検出できない場合がある。特許文献1に記載される手法では、入力画像の輝度を水平方向(XY座標のX軸方向)に足し込んで投影させて分布をとる。そのため、文字の水平方向(左右方向)において輝度のばらつきがある場合、欠落を検出できない。
【0005】
例えば、ある文字において左半分は、欠落などがなく非常に明確に形状が表わされており、右半分は、欠落があってほとんど背景が見えている場合、左半分の輝度分布は、暗い側に寄ったものとなり、右半分の輝度分布は、明るい側に寄ったものとなる。そのため、このような文字について水平方向に投影された輝度分布は、暗い左半分と明るい右半分との足し合わせにより、中庸な輝度分布、即ち、正常品と同等との分布をとってしまう。従って、本来不良とすべきところが、良品と判定されてしまう恐れがある。
【0006】
従って、本発明の主目的は、刻印の欠落の有無をより正確に検出することができる刻印形状の検査方法を提供することにある。また、本発明の他の目的は、上記検査を行う際に適した刻印形状の検査装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、入力画像を2値化処理して、その明と暗の2値データを用いて良否の判定を行うにあたり、2値化処理の閾値の設定を工夫することで、上記目的を達成する。具体的には、入力画像に対し、刻印部分を除く背景部分の輝度分布に基づいて閾値を設定することを規定する。
【0008】
即ち、本発明は、物体表面に施された刻印をカメラで撮像し、得られた画像を処理することで形状の良否を判定する刻印形状の検査方法を提供するものである。特に本発明検査方法では、カメラで撮像された入力画像に対し、刻印部分を除く背景部分の輝度分布を求め、この輝度分布に基づいて2値化処理の閾値を設定する。そして、この閾値に基づいて入力画像に2値化処理を施し、この2値化処理した明と暗の2値データを利用して形状の良否を判定する。
【0009】
本発明は、上記のように実際に取得した入力画像の背景部分の輝度分布に基づいて2値化処理の閾値を設定するため、実際の物体の表面状態に応じた2値化処理を施すことができる。従って、背景部分の輝度が変動しても、刻印部分の抽出を確実に行って、刻印形状の検査をより的確に行うことができる。また、上記閾値に基づき入力画像に2値化処理を施し、この2値化処理により明と暗の2値データを求め、この2値データから、例えば、入力画像における刻印部分の占有割合を求められる。そして、この占有割合と正常に刻印された画像における刻印部分の占有割合と比較することで、例えば、刻印された一つの文字の左半分が明確に刻まれ、右半分が欠落しているというように一つの刻印された文字においてその水平方向に輝度のばらつきがある場合であっても、欠落の有無を検出することができる。以下、本発明をより詳しく説明する。
【0010】
本発明検査方法では、まず、検査対象となる刻印が施された物体表面をカメラにて撮像し、検査対象となる画像を取得する。
【0011】
本発明において検査対象とする刻印は、平仮名、片仮名、漢字、アルファベットなどの文字、アラビア数字やローマ数字などの数字、ハイフン、ドットなどの記号、その他図柄など特に問わない。また、刻印が施された物体とは、例えば、自動車のブレーキパッドなどの金属材料からなる製品が挙げられる。
【0012】
次に、得られた入力画像から刻印部分を除く背景部分の輝度分布を求める。カメラで撮像された入力画像には、刻印部分と、刻印部分以外の背景部分が存在する。本発明では、この背景部分について輝度分布を求める。背景部分を抽出するにあたり、まず、刻印部分の抽出を行う。刻印部分の抽出方法としては、正常に刻印が表わされた画像を用意して予め登録しておき、この登録画像と入力画像とにより抽出することが挙げられる。より具体的には、例えば、登録画像を用いてグレーサーチにより入力画像の刻印の位置を検出することが挙げられる。登録画像は、刻印が複数の文字や数字などで一つの纏まりとなっている場合、纏まりごととしてもよい。このとき、例えば、3文字で一纏まりの刻印において1文字が欠落している場合、他の2文字がグレーサーチで認識できたら、この位置を刻印部分の位置として検出するように設定するとよい。
【0013】
次に、入力画像のうち、抽出された刻印部分にマスキングすることで背景部分が抽出される。ところで、入力画像から抽出された刻印部分は、正常な形状よりも太い場合がある。そこで、正常に刻印された登録画像について、その刻印部分から抽出した刻印エリアをマスクするための画像データを作成し、この画像データに膨張処理を施し、この処理像をマスク画像として、グレーサーチにより検出した入力画像の刻印部分の位置に重ね合わせてマスキングを施してもよい。このとき、刻印エリアを除く部分を背景部分とするとよい。そして、抽出された背景部分の輝度に基づき、輝度分布を求める。膨張処理の膨張率は、刻印エリアにおける背景部分の割合が小さくなり過ぎない程度に適宜選択するとよい。
【0014】
本発明では、上記得られた背景部分の輝度分布に基づく値を演算にて求め、この値を入力画像の2値化処理の閾値として利用する。背景部分の輝度分布に基づく値としては、例えば、背景部分の輝度分布の平均値と標準偏差を演算し、同輝度分布の標準偏差を利用した値または輝度分布の平均値の定数倍(0.0〜1.0)が挙げられる。具体的には、平均値よりも標準偏差の定数倍(kσ、kは定数)だけ小さい値が挙げられる。
【0015】
上記得られた閾値により、入力画像に2値化処理を施す。このとき、入力画像全体に2値化処理を施してもよいが、入力画像において刻印エリアを作成している場合、刻印エリアにのみ2値化処理を施してもよい。
【0016】
次に、得られた2値化処理した明と暗の2値データを求め、同2値データから欠落の有無などといった形状の良否を判定する。具体的には、例えば、暗領域が刻印されている部分、明領域が刻印されていない部分とすると、閾値以下の暗領域の面積、及び閾値超の明領域の面積を演算し、得られた暗領域の面積と明領域の面積との和に対する暗領域の面積の比が設定値以下の場合、不良と判定し、設定値超の場合、良品と判定することが挙げられる。暗領域の面積と明領域の面積との和に対する暗領域の面積の比は、両領域の面積の和、即ち、入力画像の面積(刻印エリアを利用する場合、刻印エリアの面積)に対する暗領域の面積割合として求めることができる。刻印エリアを利用する場合、正常に刻印が施されていれば、刻印エリアにおける刻印部分の占有割合がほぼ100%(1.0)となるため、上記刻印エリアに対する暗領域の面積割合は、ほぼ100%(1.0)となる。従って、刻印エリアの面積に対する暗領域の面積割合を求め、この割合が小さいほど欠落などの何らかの不具合があると判定することができる。即ち、刻印形状の良否を判定することができる。また、上記和に対する明領域の面積割合を利用してもよい。この場合、明領域の面積割合が設定値以上のときを不良とし、設定値未満のときを良品と判定するとよい。或いは、例えば、明領域が刻印されている部分、暗領域が刻印されていない部分とし、得られた暗領域の面積と明領域の面積との和に対する明領域の面積の比が設定値以下の場合、不良と判定し、設定値超の場合、良品と判定することが挙げられる。
【0017】
また、登録画像において上記と同様の手順(刻印部分の抽出→背景部分の輝度分布演算→同輝度分布から2値化処理の閾値演算→2値化処理→2値化処理した明と暗の2値データから両者の面積演算により、暗領域の面積と明領域の面積との和に対する暗領域の面積の比を求めてこの比を正常値とし、入力画像における暗領域の面積と明領域の面積との和に対する暗領域の面積の比と比較することで、良否を判定するようにしてもよい。このとき、入力画像において刻印エリアを利用する場合、刻印エリアにおける上記面積比を求めると共に、登録画像においても刻印エリアを抽出し、登録画像の刻印エリアにおける上記面積比を比較判定に用いるとよい。
【0018】
上記手順により、刻印形状の良否の判定を行うことができる。特に、入力画像を複数の小エリアに分割して、各小エリアにおいて2値化処理した明と暗の2値データを求め、この2値データから暗領域の面積と明領域の面積との和に対する暗領域の面積の比を得て、この比を利用して判定を行うと、検出感度をより高めることができる。刻印エリアを利用する場合は、刻印エリアを複数の小エリアに分割するとよい。小エリアは、例えば、水平方向(左右方向)の二分割エリア、垂直方向(上下方向)の二分割エリアが挙げられる。そして、各分割エリアにおいてそれぞれ、暗領域の面積と明領域の面積との和に対する暗領域の面積割合を求め、これら面積割合の最小値が設定値以下の場合、不良と判定する構成とすると、一部に欠落がある場合であっても、精度よく検出することができる。また、暗領域の面積割合を求めることで、どのエリアに欠落が生じているかも確認することができる。例えば、刻印エリアの面積に対する暗領域の面積の割合が50%(0.5)の場合、半分欠落しているとも考えられるが、部分的な欠落が全体的に亘って生じているとも考えられる。この場合、上記のように小エリアに分割して、小エリアごとに暗領域の面積割合を求めることで、半分欠落しているのか、全体的に欠落が生じているのかを判定することができる。例えば、右エリアにおいて暗領域の面積割合がほぼ100%(1.0)で、左エリアがほぼ0%(0.0)であれば、左エリアの刻印部分が欠落していることが分かる。
【0019】
なお、分割エリアごとにそれぞれ判定を行ってもよい。例えば、左右方向(上下方向)の分割エリアの判定を行った後、上下方向(左右方向)の分割エリアの判定を行ってもよい。このとき、例えば、左エリアが良品、右エリアが不良と判定された際、右エリアにおける刻印部分に欠落があることがわかる。逆も同様である。また、左右のエリアが不良と判定され、更に、上下の二分割エリアについて判定を行い、例えば、上エリアが良品、下エリアが不良と判定された場合、下エリアにおける刻印部分に欠落があることが分かる。
【0020】
上記検査を行う検査装置としては、物体表面に施された刻印を撮像するカメラと、同物体表面を照射する照明手段と、撮像された画像の処理を行う画像処理手段とを具える構成が適する。
【0021】
カメラとしては、多数の撮像素子を有し、各素子で受光した光の強度を電気信号に変換出力するCCDカメラなどの公知のカメラを利用することができる。
【0022】
照明手段としては、刻印に対し、明暗のコントラストが表れやすいものを利用することが好ましい。このような照明手段として、例えば、同軸落射方式の照明が挙げられる。同軸落射方式の照明とは、ハーフミラーによって光源の光をカメラの光軸と同軸方向となるように反射させて被検査物(ワーク)を照射し、ワークで反射されたカメラの光軸と同軸方向の光をハーフミラーで透過してカメラに入光されるように構成されたものである。このような照明を用いると、刻印が明確に施されている(刻みが十分に深い)場合、ハーフミラーにて反射された光源の光は刻印部分で反射されて拡散される、即ち、ワークからの刻印部分の反射光はカメラにほとんど入光されず、刻印部分は、暗く撮像される。刻印が欠落している(刻みがない)場合、ワーク表面の刻印が欠落している部分で反射した光は、カメラの光軸とほぼ同軸方向に反射するため、カメラに十分に入光されて明るく撮像される。刻印が薄い(刻みが浅い)場合、この刻印が薄い部分は上記明確な場合と欠落している場合の中間の明るさで撮像される。市販の同軸落射照明を利用してもよい。
【0023】
画像処理手段としては、例えば、パソコンなどのコンピュータを利用するとよい。その他、種々の演算や判定、取得した画像や演算値などの記憶、上記カメラや照明の制御などもコンピュータにて行うとよい。また、刻印エリアを利用する場合、画像処理手段は、以下の手段を具えることが好ましい。
カメラで撮像された入力画像と正常に刻印が表わされた登録画像とから刻印部分を抽出して、刻印エリアを作成する刻印エリア作成手段
前記入力画像のうち刻印エリアをマスキングして、刻印エリアを除く背景部分の輝度分布を求める背景輝度分布演算手段
得られた背景輝度分布の標準偏差に基づき2値化処理の閾値を演算する閾値演算手段
得られた閾値に基づき、入力画像において刻印エリアの画像に2値化処理を施す2値化演算手段
得られた2値化処理した明と暗の2値データにより、閾値以下の暗領域の面積、及び閾値超の明領域の面積を演算する面積演算手段
暗領域の面積と明領域の面積との和に対する刻印部分に対応した暗または明領域の面積比と設定値とを比較し、刻印形状の良否を判定する判定手段
【発明の効果】
【0024】
上記構成を具える本発明刻印形状の検査方法によれば、例えば、刻印された一つの文字や数字などにおいて輝度の明暗にばらつきがある場合であっても、欠落を検出することができ、検出精度を向上することができる。特に、小エリアに分割して判定を行うことで、検出感度を高め、部分的な欠落も確実に検出することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、図を参照して本発明の実施の形態を具体的に説明する。
【実施例1】
【0026】
図1は、本発明刻印形状の検査方法に利用する検査装置の機能ブロック図である。この検査装置は、刻印が施された被検査物(ワーク)Wの表面を撮像するカメラ10cと、カメラ10cにて撮像する際、ワークWの表面を照射する照明手段11と、カメラ10cにて撮像された画像の処理を行う画像処理手段20とを具える。
【0027】
カメラ10cは、市販の白黒CCDカメラを用いた。このカメラ10cには、視野の前方にレンズ10lを配置している。本例においてレンズ10lは、市販のTVレンズを用いた。また、カメラ10cは、画像処理手段20に接続させており、随時、画像処理が行える構成である。このカメラ10cにてワークWの表面に施された刻印を撮像する。ワークWの刻印は、例えば、自動車のブレーキパッドのロッド番号などが挙げられる。この例では、刻印として、一つの数字(8)の形状を検査する。
【0028】
照明手段11は、同軸落射方式の照明を用いた。この照明手段11は、カメラ10cの光軸と垂直方向に光を照射する光源11lと、光源11lからの光をカメラ10cの光軸と同軸方向に反射させてワークWに照射させ、ワークWから反射されたカメラ10cの光軸と同軸方向(及びその近傍の方向)の光を透過するハーフミラー11hとを具える。同軸落射方式の照明を用いることで、刻印に対して明暗のコントラストが表れやすい。
【0029】
画像処理手段20には、カメラ10cで撮像された画像が取り込まれる。この画像処理手段20には、取り込まれた入力画像を記憶する画像メモリ21、画像メモリ21から呼び出した画像において刻印エリアを作成する刻印エリア作成部22、入力画像において刻印エリアを除く背景部分の輝度分布(以下、背景輝度分布と呼ぶ)を演算する演算部23、背景輝度分布から2値化処理の閾値を演算する閾値演算部24を有する。更に、求めた閾値に基づき、刻印エリアの画像に2値化処理を施す2値化処理部25、2値化処理した明と暗の2値データから暗領域の面積及び明領域の面積を演算する演算部26を有する。そして、暗領域の面積と明領域の面積との和に対する暗領域の面積比と設定値とを比較する比較部27、比較結果から刻印形状の良否を判定する判定部28を有する。このような画像処理手段20には、市販のパソコンを用いた。また、パソコンには、モニタ30を接続させており、検査作業者が任意に画像を確認したり、制御条件を入力したりなどの動作が行えるようにしている。
【0030】
このような検査装置を用いて、ワークWの表面に施された刻印の形状検査を行う手順を具体的に説明する。図2は、本発明検査方法の検査手順を示すフローチャート、図3は、本発明検査方法の検査手順を説明する説明図であり、(A)は、刻印の一部に欠落がある場合、(B)、(C)は、刻印のほぼ半分が欠落している場合を示す。以下、図番10c、11l、11h、20〜28は、図1を参照する。
【0031】
この検査は、まず、カメラ10cにより刻印が施されたワークWの表面の画像を取得する(ステップS1)。図3(A)に示すように刻印の一部(8の字の右下方)が欠落している場合、欠落部分はワークWの表面に凹凸がほとんどないため、光源11lから入射されてハーフミラー11hにて反射された欠落部分の光は、カメラ10cの光軸とほぼ同軸方向に反射されてハーフミラー11hを透過してカメラ10cに入光される。従って、欠落部分は、明るい画像となる。一方、明確に刻まれた部分は、光源11lから入射されてハーフミラー11hにて反射された光が刻印部分で拡散されるため、カメラ10cにほとんど入光されず、暗い画像となる。得られた画像は、画像処理手段20に送る。
【0032】
次に、正常に刻印が表わされた画像を予め登録しておき、この登録画像を用いて、刻印エリア作成部22にて、刻印エリアの作成を行う(ステップS2)。具体的には、画像メモリ21から登録画像を呼び出し、グレーサーチにて得られた入力画像において刻印部分の位置を検出し、刻印部分の抽出を行う。そして、入力画像の刻印位置において、登録画像から予め抽出した刻印部分を重ね合わせ、その重ね合わされたエリアを刻印エリアとする。図3(A)において、8の字を囲んでいる領域が刻印エリアである。
【0033】
次に、背景部分の輝度分布を演算部23にて演算する(ステップS3)。具体的には、上記ステップS2により得られた刻印エリアにマスキングを行い、刻印エリアを除く部分を背景部分とし、この背景部分の輝度分布(以下、背景輝度分布と呼ぶ)を求める。背景部分は、ワークWの表面に凹凸がほとんどないことから明るい画像となるため、得られた背景輝度分布は、図3(A)に示すように平均値の輝度が大きく、右寄りの分布となっている。
【0034】
次に、入力画像の2値化処理を行うべく、閾値演算部24にて2値化処理の閾値の演算を行う(ステップS4)。本発明では、上記背景輝度分布に基づき閾値を設定する。具体的には、背景輝度分布の平均値を求めて、標準偏差σを演算し、背景輝度分布の平均値よりも3σだけ輝度が小さい値を閾値とした。
【0035】
次に、2値化処理部25にて、得られた閾値を用いて刻印エリアに2値化処理を施し(ステップS5)、2値化処理した明と暗の2値データを得る。欠落部分及び背景部分は明るい画像であり、刻印部分は暗い画像であるため、得られた2値化処理データは、閾値以下の輝度が小さい(暗い)領域(暗領域)と、閾値超の輝度を有する(明るい)領域(明領域)とに2値に分離され、欠落が少ないほど、暗領域の面積が多く、明領域の面積が少なくなる。
【0036】
即ち、図3(A)の刻印エリアを示す図のように、刻印エリア内の刻印部分が登録画像で登録されている正常な形状の場合には、その図の右の刻印エリアの輝度分布グラフ(a)に示すように、暗領域の面積が大きく明領域の面積が非常に小さい。このグラフにおける明領域の部分は、刻印エリアにおける正常な背景部分である。また、図3(A)の2値化処理データを示す図のように、刻印エリア内の刻印部分に欠落がある場合には、その図の右の刻印エリアの輝度分布グラフ(b)に示すように、暗領域の面積が正常の場合よりも小さくなり、明領域の面積が大きくなる。
【0037】
そして、演算部26にて、得られた2値化処理データから、暗領域の面積SA、明領域の面積SBを演算する(ステップS6)。得られた暗領域の面積SAと明領域の面積SBとから、暗領域の面積SAと明領域の面積SBとの和に対する暗領域の面積SAの比を求めて設定値と比較し、刻印形状の良否を判定する。具体的には、比較部27にて、刻印エリアの面積(暗領域の面積SAと明領域の面積SBとの和)に対する暗領域の面積SAの割合:(SA/(SA+SB))と設定値S0とを比較する(ステップS7)。暗領域の面積割合(SA/(SA+SB))が設定値S0以上の場合、欠落があっても、刻印が十分認識できる程度であると考えられる。そこで、このとき、判定部28は、良品と判定する(ステップS8)。一方、暗領域の面積割合(SA/(SA+SB))が設定値S0未満の場合は、例えば、図3(B)、(C)に示すように、刻印の半分が欠落しているといった大きな欠落があり、刻印が認識できないと考えられる。そこで、このとき、判定部28は、不良と判定する(ステップS9)。なお、設定値S0は、予め設定してパソコンに入力しておく。
【0038】
上記手順により、例えば、図3(C)に示すような刻印の右半分が欠落しているといった水平方向に明暗のバラつきが大きい場合であっても、的確に不良を判定することができる。また、暗領域の面積割合(SA/(SA+SB))の値により、欠落状態をある程度把握することができる。例えば、暗領域の面積割合SA/(SA+SB)がほぼ100%(1.0)であれば、欠落がほとんどなく、正常に刻印されていることがわかる。また、暗領域の面積割合SA/(SA+SB)が50%(0.5)程度であれば、半分が欠落し、同面積割合が小さくなるほど欠落が大きくなり、0%(0.0)であれば、全て欠落し、刻印が認識できないことがわかる。なお、本例では、暗領域の面積割合を不良判定に用いたが、明領域の面積割合(SB/(SA+SB))を用いて不良判定を行ってもよい。
【実施例2】
【0039】
この例では、検出感度をより高める手法を説明する。図4は、本発明において、高感度に検査を行うためのフローチャートである。この検査方法は、2値化処理を施すまでの手順を上記実施例1のステップS1〜ステップS5までの手順と同様に行い、得られた刻印エリアの2値化処理データにおいて、刻印エリアを複数の小エリアに分割し、小エリアごとに暗領域の面積SA、明領域の面積SBを求める点が異なる。
【0040】
具体的には、ステップS5により、刻印エリアの2値化処理データを得た後、刻印エリアを左右に二分割した左右エリア、上下二分割した上下エリアの合計4つのエリアを作成する(ステップS20)。そして、左右エリアにおいて暗領域の面積SAL、SAR、明領域の面積SBL、SBRを求めると共に、上下エリアにおいて暗領域の面積SAU、SAD、明領域の面積SBU、SBDを求める(ステップS21)。各エリアについて、暗領域の面積と明領域の面積との和に対する暗領域の面積割合(SA/(SA+SB)を求め、これら面積割合のうちの最小値を検出する(ステップS22)。即ち、左エリアにおいて暗領域の面積割合:SAL/(SAL+SBL)、右エリアにおいて暗領域の面積割合:SAR/(SAR+SBR)、上エリアにおいて暗領域の面積割合:SAU/(SAU+SBU)、下エリアにおいて暗領域の面積割合:SAD/(SAD+SBD)を演算して、これら四つのエリアの暗領域の面積割合のうち、最も小さい値を最小値とする。そして、その最小値と設定値S1とを比較し(ステップS23)、設定値S1超の場合、良品と判定し(ステップS24)、設定値S1以下の場合、不良と判定する(ステップS25)。このように検査するエリアを小さく分割し、これらのエリアにおいて、暗領域の面積割合の最小値が設定値超であれば、他のエリアも良好に刻印されていることがわかる。また、このように複数のエリアで判定するため、例えば、図5(A)に示すように下半分が欠落している場合、上エリアにおける暗領域の面積割合は、ほぼ100%となり、下エリアにおける暗領域の面積割合は、ほぼ0%となる。このことから、下半分が欠落していることが分かる。なお、この場合、左エリアにおける暗領域の面積割合及び右エリアにおける暗領域の面積割合は共に、ほぼ50%となる。また、図5(B)に示すように右半分が欠落している場合、左エリアにおける暗領域の面積割合は、ほぼ100%となり、右エリアにおける暗領域の面積割合は、ほぼ0%となる。このことから、右半分が欠落していることが分かる。なお、この場合、上エリアにおける暗領域の面積割合及び下エリアにおける暗領域の面積割合は共に、ほぼ50%となる。このようにエリアを分割することで、欠落箇所についても確認することができる。特に、この例では、一つの文字について検出しているが、複数の文字や数字などで一纏まりの刻印となっている場合、このように複数の小エリアに分割して判定に用いることで、どの文字(或いは数字、記号)が欠落しているかをより確実に確認することができる。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明刻印形状の検査方法及び検査装置は、物体の表面に施された刻印の状態を検査する際に利用することが好適である。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明刻印形状の検査方法に利用する検査装置の機能ブロック図である。
【図2】本発明検査方法の検査手順を示すフローチャートである。
【図3】本発明検査方法の検査手順を説明する説明図であり、(A)は、刻印の一部に欠落がある場合、(B)、(C)は、刻印のほぼ半分が欠落している場合を示す。
【図4】本発明において、高感度に検査を行うためのフローチャートである。
【図5】欠落状態を説明する説明図であり、(A)は、下半分が欠落している場合、(B)は、右半分が欠落している場合を示す。
【符号の説明】
【0043】
10c カメラ 10l レンズ 11 照明手段 11l 光源 11h ハーフミラー
20 画像処理手段 21 画像メモリ 22 刻印エリア作成部
23 背景輝度分布演算部 24 閾値演算部 25 2値化処理部
26 面積演算部 27 比較部 28 判定部
30 モニタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
物体表面に施された刻印をカメラで撮像し、得られた画像を処理することで形状の良否を判定する刻印形状の検査方法であって、
カメラで撮像された入力画像に対し、刻印部分を除く背景部分の輝度分布を求め、この輝度分布に基づいて2値化処理の閾値を設定して、入力画像に2値化処理を施し、
前記2値化処理した明と暗の2値データを利用して形状の良否を判定することを特徴とする刻印形状の検査方法。
【請求項2】
カメラで撮像された入力画像と正常に刻印が表わされた登録画像とから刻印部分を抽出して、刻印エリアを得るステップと、
前記入力画像のうち刻印エリアをマスキングして、刻印エリアを除く背景部分の輝度分布を求めるステップと、
得られた背景部分の輝度分布に基づき2値化処理の閾値を演算するステップと、
得られた閾値に基づき、入力画像において刻印エリアの画像に2値化処理を施すステップと、
得られた2値化処理した明と暗の2値データより、閾値以下の暗領域の面積、及び閾値超の明領域の面積を演算するステップと、
得られた暗領域の面積と明領域の面積との和に対する刻印部分に対応した暗または明領域の面積との比が設定値以下の場合、不良と判定するステップとを具えることを特徴とする請求項1に記載の刻印形状の検査方法。
【請求項3】
更に、刻印エリアを複数の小エリアに分割し、
各小エリアにおいて2値化処理した明と暗の2値データを求め、各2値データにおいて暗領域の面積と明領域の面積との和に対する暗領域の面積割合を求め、これら面積割合の最小値が設定値以下の場合、不良と判定することを特徴とする請求項2に記載の刻印形状の検査方法。
【請求項4】
物体表面に施された刻印を撮像するカメラと、
カメラで撮像された入力画像と正常に刻印が表わされた登録画像とから刻印部分を抽出して、刻印エリアを作成する刻印エリア作成手段と、
前記入力画像のうち刻印エリアをマスキングして、刻印エリアを除く背景部分の輝度分布を求める背景輝度分布演算手段と、
得られた背景輝度分布の標準偏差に基づき2値化処理の閾値を演算する閾値演算手段と、
得られた閾値に基づき、入力画像において刻印エリアの画像に2値化処理を施す2値化演算手段と、
得られた2値化処理した明と暗の2値データにより、閾値以下の暗領域の面積、及び閾値超の明領域の面積を演算する面積演算手段と、
暗領域の面積と明領域の面積との和に対する刻印部分に対応した暗または明領域の面積との比と設定値とを比較し、刻印形状の良否を判定する判定手段とを具えることを特徴とする刻印形状の検査装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2006−118895(P2006−118895A)
【公開日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−304946(P2004−304946)
【出願日】平成16年10月19日(2004.10.19)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】