説明

加工システム及び加工方法

【課題】自動車の生産工程のうちルーフ工程の省スペース化や作業の効率化を図ること。
【解決手段】ハンドジグ付ロボット11は、ワーク21をパネルストック12から取り出す。ハンドジグ付ロボット11は、ワーク21を固定シーリングガン13に対して相対的に移動させる。これにより、固定シーリングガン13から噴出されるシーラが、ワーク21に塗布される。ハンドジグ付ロボット11は、ワーク21をシーラ用位置決め治具14に固定する。ハンドジグ付ロボット11は、ワーク21を溶接用位置決め治具15に固定させ、ワーク21に対してスポット溶接を行う。ハンドジグ付ロボット11は、ワーク21を払出し場所(図示せず)に払い出す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車のルーフパネル等をワークとして、当該ワークに対してシーラ塗布及び溶接の加工を施し、加工後の当該ワークを払い出すまでの一連の処理を実行する加工システム及び加工方法に関する。詳しくは、ラインの省スペース化や作業の効率化を図ることが可能な加工システム及び加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、自動車の生産工程の中には、自動車のルーフパネル等をワークとして、当該ワークに対してシーラ塗布及び溶接の加工を施し、加工後の当該ワークを払い出す工程が存在する。なお、以下、係る工程を「ルーフ工程」と称する。
【0003】
特許文献1には、このようなルーフ工程のラインの省スペース化や作業の効率化を図るための装置として、スポット溶接ガンを備えたシーラ塗布装置(以下、「特許文献1の装置」と称する)が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第110779号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の装置が配設されたルーフ工程のラインよりも、さらに一段と省スペース化や作業の効率化を図ることが要求されている。
【0006】
例えば、特許文献1の装置は、シーラ塗布及び溶接の加工を行う各々のユニットと、当該ユニットを移動させる移動機構と、を備えている。
しかしながら、ルーフ工程のライン全体の視点からすると、当該移動機構とは別の移動装置がさらに必要になる。例えば、保管庫に保管されたワークを取り出して特許文献1の装置に配置させる移動装置や、特許文献1の装置から次の工程の払出し場所までワークを移動させる移動装置が別途必要になる。
従って、複数台の移動装置を配設する分だけスペースが必要になり、省スペース化に反することになる。また、作業効率の点からも、複数台の移動装置を配設することは得策ではない。
【0007】
このように、特許文献1の装置を採用した場合にも、ルーフ工程のラインの省スペース化や作業の効率化を図る余地が未だ残されている。
しかしながら、ルーフ工程のラインの省スペース化や作業の効率化をさらに一段と図ることが可能な加工システム及び加工方法が見当たらない。
【0008】
本発明は、自動車のルーフパネル等をワークとして、当該ワークに対してシーラ塗布及び溶接の加工を施し、加工後の当該ワークを払い出すまでの一連の処理を実行する加工システム及び加工方法であって、ラインの省スペース化や作業の効率化を図ることが可能な加工システム及び加工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の加工システム(例えば実施形態におけるルーフ組立システム1)は、
ワーク(例えば実施形態におけるワーク21)に対してシーラ塗布及び溶接の加工を施し、加工後の前記ワークを払出し場所に払い出すまでの一連の処理を実行する加工システムであって、
前記ワークを把持する把持部(例えば実施形態における把持部43)、及び前記ワークに対する溶接を行う溶接部(例えば実施形態における溶接部42)を有する加工装置(例えば実施形態におけるハンドジグ33)、並びに、前記加工装置を移動させる移動装置(例えば実施形態における多関節マニュピュレータ32)を備えるロボット(例えば実施形態におけるハンドジグ付ロボット11)と、
加工前の前記ワークが保管される保管庫(例えば実施形態におけるパネルストック12)と、
前記ワークに対してシーラ塗布を行うシーラ塗布装置(例えば実施形態における固定シーリングガン13)と、
前記溶接部により溶接が行われる場合に、前記ワークを固定する治具(例えば実施形態における溶接用位置決め治具15)と、
を備え、
前記保管庫、前記シーラ塗布装置、前記治具、及び前記払出し場所は、前記移動装置により移動される前記加工装置の移動範囲内に配設されており、
前記ロボットは、
前記ワークを前記把持部により把持させたままで、前記移動装置により前記加工装置を移動させる動作を、ワーク移動動作として、
前記保管庫に保管された前記ワークに対して前記ワーク移動動作を実行することで、前記ワークを前記保管庫から取り出し、
前記保管庫から取り出された前記ワークに対して前記ワーク移動動作を実行して、前記ワークを前記シーラ塗布装置に対して相対的に移動させることによって、前記ワークに対するシーラ塗布を行い、
前記シーラ塗布が行われた前記ワークに対して前記ワーク移動動作を実行して、前記ワークを前記治具に固定させ、その後、前記溶接部によって前記ワークに対する溶接を行い、
前記溶接が行われた前記ワークに対して前記ワーク移動動作を実行することで、前記ワークを前記払出し場所に払い出すことを特徴とする。
【0010】
この発明によれば、加工装置は、把持部及び溶接部を一緒に有しており、かつ、移動装置により移動される。
これにより、ワークの把持装置やスポット溶接機といったツールを別々に用意する必要は特に無くなる。従って、これらのツールを移動装置(マニュピュレータ等)に付け替えるための作業スペースが削減され、その作業時間が短縮される。その結果、ルーフ工程全体の視点でも、作業スペースが削減され、作業時間が短縮されて作業効率が改善される。
【0011】
また、移動装置により移動される加工装置の移動範囲内に、加工システムで用いられる設備の全て、即ち、保管庫、シーラ塗布装置、治具、及び払出し場所の全てが配設されている。
これにより、ワークを移動させる移動装置を複数台備える必用がなくなるため、ルーフ工程全体の視点からすると、作業スペースが削減され、作業効率が改善されると共に、ラインの製造コストも削減される。
【0012】
この場合、
前記シーラ塗布装置は前記保管庫の上方に配設されており(例えば実施形態においては、架台61の中には保管庫たるパネルストック12が固定されており、その上方の架台61の上部にシーラ塗布装置たる固定シーリングガン13が配設されており)、
前記シーラ塗布装置の下方と前記保管庫の上方との間には、前記ワークが回転可能な空間が構築されており、
前記ロボットは、前記保管庫から取り出された前記ワークに対して前記ワーク移動動作を実行することで、前記空間内で前記ワークを回転させると好ましい。
【0013】
この発明によれば、シーラ塗布装置の下方と保管庫の上方との間には、ワークが回転可能な空間が構築されている。このため、ロボットは、保管庫から取り出されたワークを把持部により把持させた状態で、移動装置により加工装置を移動させることによって、当該空間内でワークを回転させることができる。
これにより、シーラ塗布装置は、固定されていても、ワークの任意の場所に塗布することが可能になる。その結果、ルーフ工程全体の視点からすると、作業効率がさらに一段と改善される。
また、保管庫及びシーラ塗布装置を小スペースで配設させることが可能になる。その結果、ルーフ工程全体の視点からすると、作業スペースが削減される。
【0014】
本発明の加工方法は、上述の本発明の加工システムに対応する方法である。従って、上述の本発明の加工システムと同様の各種効果を奏することが可能になる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、加工装置は、把持部及び溶接部を一緒に有しており、移動装置によって移動される。
これにより、ワークの把持装置やスポット溶接機といったツールを別々に用意する必要は特に無くなる。従って、これらのツールを移動装置(マニュピュレータ等)に付け替えるための作業スペースが削減され、その作業時間が短縮される。その結果、ルーフ工程全体の視点でも、作業スペースが削減され、作業時間が短縮されて作業効率が改善される。
これにより
また、移動装置により移動される加工装置の移動範囲内に、加工システムで用いられる設備の全て、即ち、保管庫、シーラ塗布装置、治具、及び払出し場所の全てが配設されている。
これにより、ワークを移動させる移動装置を複数台備える必用がなくなるため、ルーフ工程全体の視点からすると、作業スペースが削減され、作業効率が改善されると共に、ラインの製造コストも削減される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の加工システムに係る一実施形態としてのルーフ組立システムの概略構成を示す上面図である。
【図2】図1のルーフ組立システムのハンドジグ付ロボットに設けられるハンドジグの概略構成を示す側面図である。
【図3】図1のルーフ組立システムの、パネルストック、固定シーリングガン、及びシーラ用位置決め治具の概略構成を示す斜視図である。
【図4】図1のルーフ組立システムの固定シーリングガン、及びシーラ用位置決め治具の概略構成を示す、図3とは別の視点の斜視図である。
【図5】図1のルーフ組立システムの溶接用位置決め治具の概略構成を示す斜視図である。
【図6】図1のルーフ組立システムによるルーフ組立処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態について説明する。
【0018】
なお、図1及び図3乃至図5に示す座標系は、ルーフ工程のラインが配置される空間の座標系であり、以下、ワールド座標系と称する。
以下、説明の都合上、ワールド座標系において、X軸方向のうち原点から離れる方向(図中Xが付された矢印の方向)を、X軸正方向と称し、X軸正方向の逆方向を、X軸負方向と称する。同様に、Y軸方向のうち原点から離れる方向(図中Yが付された矢印の方向)を、Y軸正方向と称し、Y軸正方向の逆方向を、Y軸負方向と称する。Z軸方向のうち原点から離れる方向(図中Zが付された矢印の方向)を、Z軸正方向と称し、Z軸正方向の逆方向を、Z軸負方向と称する。なお、ワールド座標系の原点については後述する。
【0019】
図1は、本発明の加工システムに係る一実施形態としてのルーフ組立システム1の概略構成を示す上面図である。
【0020】
ルーフ組立システム1は、自動車の生産ラインのうち、自動車のルーフパネルを組み立てるルーフ工程のラインに配設される。このため、ルーフ組立システム1は、ルーフパネルをワーク21として、ワーク21に対してシーラ塗布及び溶接の加工を施し、加工後のワーク21を次工程に払い出すまでの一連の処理(以下、「ルーフ組立処理」と称する)を実行する。
【0021】
ルーフ組立システム1は、ハンドジグ付ロボット11と、パネルストック12と、固定シーリングガン13と、シーラ用位置決め治具14と、溶接用位置決め治具15と、を備えている。
【0022】
ハンドジグ付ロボット11は、ロボットベース31と、そのロボットベース31に旋回可能に取り付けられる多関節マニュピュレータ32と、その多関節マニュピュレータ32の先端に取り付けられるハンドジグ33と、を備えている。
【0023】
ロボットベース31は、ルーフ工程のラインの所定場所(図1の例では、同図中左下の場所)に固着される。
なお、説明の簡略上、ロボットベース31の固着場所の中心を、ワールド座標系の原点として、以下の説明を行っていく。
【0024】
多関節マニュピュレータ32は、図示せぬ制御装置による制御の下、各関節の回転動作と、当該回転動作に連動する各連結部材の移動動作とを組み合わせることによって、先端に取り付けられたハンドジグ33を上下左右に自在に移動させる。
【0025】
図2は、ハンドジグ33の概略構成を示す側面図である。
図1及び図2に示すように、ハンドジグ33は、多関節マニュピュレータ32の先端部位(先端の連結部材)に接続する接続部41と、多関節マニュピュレータ32の先端部位に対して略45度傾斜して設けられる溶接部42と、多関節マニュピュレータ32の先端部位と略平行に設けられる把持部43と、を備えている。
溶接部42は、ワーク21に対してスポット溶接を行う溶接ガン51を有している。
把持部43は、ワーク21の表面(ワーク21が自動車のルーフとして取り付けられた場合には車外に表出する面)の4点の各々を吸着する吸着部52を有している。即ち、把持部43は、4つの吸着部52によりワーク21の表面を吸着することで、ワーク21を把持する。
【0026】
このような構成を有するハンドジグ付ロボット11の動作の工程は、後述する図6のルーフ組立処理の枠組み内では、次のような第1乃至第4の工程に大別される。
【0027】
即ち、第1の工程において、ハンドジグ付ロボット11は、パネルストック12内に積層された複数のルーフパネルのうち一番上のものをワーク21として、把持部43により把持させ、その状態のまま多関節マニュピュレータ32を移動させる動作(以下、「ワーク移動動作」と称する)を実行することで、ワーク21をパネルストック12から取り出す。
なお、以下、このような第1の工程を、「取り出し工程」と称する。取り出し工程は、図6のループ組立処理のステップS1に相当する。
【0028】
第2の工程において、ハンドジグ付ロボット11は、パネルストック12から取り出されたワーク21に対してワーク移動動作を実行することで、シーラ用位置決め治具14にワーク21を移動させて、把持部43によるワーク21の把持状態を解除することで、ワーク21をシーラ用位置決め治具14に固定する。
その後、ハンドジグ付ロボット11は、シーラ用位置決め治具14に固定されたワーク21を把持部43により再度把持させて、ワーク移動動作を実行することで、ワーク21を固定シーリングガン13に対して相対的に移動させる。これにより、固定シーリングガン13から噴出されるシーラが、ワーク21に塗布される。
なお、以下、このような第2の工程を、「シーラ塗布工程」と称する。シーラ塗布工程は、図6のループ組立処理のステップS2に相当する。
【0029】
第3の工程において、ハンドジグ付ロボット11は、シーラ塗布が完了したワーク21に対してワーク移動動作を実行することで、ワーク21を溶接用位置決め治具15に固定する。
そして、ハンドジグ付ロボット11は、溶接部42を用いて、ワーク21に対してスポット溶接を行う。
なお、以下、このような第3の工程を、「溶接工程」と称する。溶接工程は、図6のループ組立処理のステップS3乃至S5に相当する。
【0030】
第4の工程において、ハンドジグ付ロボット11は、溶接用位置決め治具15に固定されたワーク21に対してワーク移動動作を実行することで、ワーク21を払出し場所(図示せず)に払い出す。
なお、以下、このような第4の工程を、「払出し工程」と称する。払出し工程は、図6のループ組立処理のステップS6乃及びS7に相当する。
【0031】
ここで注目すべき点は、次の3点である。
即ち、1点目は、上述したように、ハンドジグ33は取り出し工程乃至払出し工程の何れの工程でも用いられる点である。
2点目は、ハンドジグ33には、従来のワークの把持装置としての機能を有する把持部43と、従来のスポット溶接機としての機能を有する溶接部42とが一緒に設けられている点である。
3点目は、ハンドジグ33は、多関節マニュピュレータ32の先端に接続されているので、上下左右に自在に移動できる点である。
これらの3点により、ワークの把持装置やスポット溶接機といったツールを別々に用意する必要は特に無くなる。従って、これらのツールを移動装置(マニュピュレータ等)に付け替えるための作業スペースが削減され、その作業時間が短縮される。その結果、ルーフ工程全体の視点でも、作業スペースが削減され、作業時間が短縮されて作業効率が改善される。
【0032】
さらに注目すべき点は、多関節マニュピュレータ32により移動されるハンドジグ33の移動範囲内に、取り出し工程乃至払出し工程で用いられる設備の全てが配設されている点である。
即ち、1番目の取り出し工程で用いられるパネルストック12、2番目のシーラ塗布工程で用いられる固定シーリングガン13及びシーラ用位置決め治具14、3番目の溶接工程で用いられる溶接用位置決め治具15、並びに、4番目の払出し工程で用いられる払い出し場所(図示せず)の全てが、ハンドジグ33の移動範囲内に配設されている点に注目すべきである。
この点により、ワークを移動させる移動装置を複数台備える必要がなくなるため、ルーフ工程全体の視点からすると、作業スペースが削減され、作業効率が改善されると共に、ラインの製造コストも削減される。
【0033】
さらに注目すべき点は、略Y軸負方向、即ち、ロボットベース31の配置位置(ワールド座標系の原点)からみて奥側から手前側に向かう方向に、取り出し工程乃至払出し工程で用いられる各設備が、その工程の順番に順次配設されている点である。
即ち、図1に示すように、略Y軸負方向に、1番目の取り出し工程で用いられるパネルストック12、2番目のシーラ塗布工程で用いられる固定シーリングガン13及びシーラ用位置決め治具14、3番目の溶接工程で用いられる溶接用位置決め治具15、並びに、4番目の払出し工程用いられる払出し場所(図示せず)が、その順番で順次配設されている点に注目すべきである。
この点により、ルーフ工程の作業効率がより一段と改善される。
【0034】
次に、図3乃至図5を参照して、取り出し工程乃至払出し工程で用いられる各設備の詳細について説明する。
図3は、1番目の取り出し工程で用いられるパネルストック12、並びに、2番目のシーラ塗布工程で用いられる固定シーリングガン13及びシーラ用位置決め治具14の概略構成を示す斜視図である。
図4は、シーラ塗布工程で用いられる固定シーリングガン13及びシーラ用位置決め治具14の概略構成を示す、図3とは別の視点の斜視図である。
【0035】
パネルストック12は、台車として構成され、図3に示すように、ワーク21となるルーフパネルを複数枚積層してストックすることができる。
複数のルーフパネルをパネルストック12に積層させる作業は、ルーフ工程のラインとは別の場所で行われる。従って、その作業後であって取り出し工程が開始されるまでに、パネルストック12は、図3に示すように架台61の内部に移動されて固定される。
なお、ワーク21となるルーフパネルの積層方向は、特に限定されないが、一番下に配置されるルーフパネルの表面が傷つかないように、本実施形態では図3に示す方向、即ち、裏面(ワーク21が自動車のルーフとして取り付けられた場合には車内側の面)が下を向く方向に、複数のルーフパネルが積層されている。
【0036】
パネルストック12が内部に固定された架台61の上部には、固定シーリングガン13及びシーラ用位置決め治具14が配設されている。即ち、1番目の取り出し工程で用いられるパネルストック12の上方に、2番目のシーラ塗布工程で用いられる固定シーリングガン13及びシーラ用位置決め治具14が配設されている。
【0037】
図3及び図4に示すように、固定シーリングガン13は、L字形状の支持部材71の一端に接続されている。この支持部材71の他端が架台61の上部に取り付けられることによって、固定シーリングガン13は、架台61から略Y軸負方向に突出して配設されることになる。
【0038】
ここで、注目すべき点は、パネルストック12と固定シーリングガン13との間に構築されている空間(図3参照)は、ワーク21を回転させるのに十分な大きさを有している点である。
この点により、ハンドジグ付ロボット11は、パネルストック12から取り出したワーク21に対してワーク移動動作を実行することで、ワーク21を回転させることができる。このため、固定シーリングガン13は移動せずとも、ハンドジグ付ロボット11によるワーク移動動作させ、そのタイミングで固定シーリングガン13からシーラが噴出させるように制御することで、従来のようにシーリングガンが移動してワークが固定していた場合と全く同様のシーラ塗布が可能になる。即ち、固定シーリングガン13から噴出されるシーラは、ワーク21の任意の場所に塗布することが可能になる。その結果、ルーフ工程全体の視点からすると、作業効率がさらに一段と改善される。
また、図1に示すように、1番目の取り出し工程で用いられるパネルストック12、並びに、2番目のシーラ塗布工程で用いられる固定シーリングガン13及びシーラ用位置決め治具14を、XY平面において小スペースで配設させることが可能になる。その結果、ルーフ工程全体の視点からすると、作業スペースが削減される。
【0039】
2番目のシーラ塗布工程において、固定シーリングガン13によりシーラが塗布される前のワーク21は、図3や図4に示すように、シーラ用位置決め治具14に固定される。
【0040】
このようなシーラ用位置決め治具14は、架台81と、留具支持バー82と、下部留め部材83と、側部留め部材84と、上部留め部材85と、を備えている。
図4に示すように、架台81は、鉄筋等の複数のバーが組み合わされて構成されている。即ち、これらの複数のバーが、三角柱を構成する各辺となるように組み合わされることで、架台81が構成されている。
このように、架台81は、三角柱を構成する各辺の骨組みだけで構成されており、三角柱の面は実際に存在しないが、以下説明を容易なものとするため、「面」という語句を用いて説明する。
架台81は、その底面の直角部分と接する2つの側面のうち、一方がXY平面と略平行になり、他方がXZ平面と略平行になるように、架台61の上部に取り付けられている。
留具支持バー82の一端は、架台81の側面のうちXZ平面と略平行な側面の下側部分に取り付けられている。留具支持バー82の他端は、架台81から略Y軸負方向に突出しており、下部留め部材83が取り付けられている。
図3や図4に示すように、このような留具支持バー82及び下部留め部材83の組は2組存在し、略X軸負方向に一定距離だけ離間して配設されている。
側部留め部材84は、架台81のうち、図3中左側であって図4中奥側の部分に取り付けられている。具体的には、架台81の側面のうちXZ平面と平行な側面の中央部には、略X軸負方向に当該側面から突出するように、バーが取り付けられている。当該バーの略X軸負方向側の端(当該側面から突出した端)に、側部留め部材84の一端が接続されている。これにより、側部留め部材84は、その他端が架台81から略Y軸負方向に突出するように配設されることになる。
上部留め部材85は、架台81の側面のうちXZ平面と平行な側面の上側部分に取り付けられている。図3や図4に示すように、このような上部留め部材85は2つ存在し、略X軸負方向に一定距離だけ離間して配設されている。
【0041】
このような構成を有するシーラ用位置決め治具14は、固定シーリングガン13によりシーラが塗布される前のワーク21を、図3や図4に示すように固定する。
具体的には、表面が略長方形の形状を有するワーク2のうち、1つの長辺の部分が下側になって、2つの下部留め部材83により係止される。より詳細には、図4に示すように、下部留め部材83は、邦楽の和楽器の「つづみ」の形状、即ち、2つの円錐台の上面(小円状の面)通しを接合した形状を有している。この接合部において凹部が形成されており、当該凹部において、ワーク2の下側の長辺の部分が係止される。
ワーク2のうち別の1つの長辺の部分は、上側になって、2つの上部留め部材85の各々によって係止される。
また、ワーク2のうち1の短辺の中央周辺部分が、側部留め部材84によって係止される。
このように、ワーク21は、2つの下部留め部材83、2つの上部留め部材85、及び側部留め部材84の総計5つの留め部材で5点支持されることによって、シーラ用位置決め治具14に固定される。
【0042】
この状態で、ハンドジグ付ロボット11は、シーラ用位置決め治具14に固定されたワーク21を把持部43により把持させ、その後、ワーク移動動作を実行することで、ワーク21を固定シーリングガン13に対して相対的に移動させる。これにより、固定シーリングガン13から噴出されるシーラが、ワーク21に塗布される。
このように、パネルストック12から取り出されたワーク21を、シーラ塗布の前に、シーラ用位置決め治具14に一旦固定することで、把持部43によるワーク21の把持状態を、シーラ塗布にとって正確な把持状態にすることができる。即ち、ワーク21のパネルストック12の中での配設位置にはばらつきがあるため、パネルストック12から取り出された時点のワーク21の把持状態は、シーラ塗布にとって必ずしも正確な把持状態となっていない。このため、ワーク21は、シーラ塗布にとって正確な把持状態となるように、把持部43によってシーラ用位置決め治具14に一旦固定されてから再度把持されるのである。
【0043】
図5は、3番目の溶接工程で用いられる溶接用位置決め治具15の概略構成を示す斜視図である。
図5に示すように、溶接用位置決め治具15は、架台91と、複数のワーク係止部92と、を備えている。
複数のワーク係止部92の各々は、架台91の略長方形状の上面の縁に沿って、所定間隔だけ相互に離間して、配設されている。
図示はしないが、溶接工程の間、ワーク21は、これらの複数のワーク係止部92の各々で複数点支持されることによって、溶接用位置決め治具15に固定される。
なお、ワーク21に溶接される部材、例えばルーフパネルのアーチ等の各部品は、作業者101の手作業で配置される。その後、ワーク21の表面が上方(Z軸正方向)を向くように、溶接用位置決め治具15にワーク21が固定されると、ハンドジグ付ロボット11は、溶接部42を用いて、これらの部材をワーク21に対して溶接していく。
【0044】
次に、図6を参照して、ルーフ組立システム1の動作として、ルーフ組立処理について説明する。
図6は、ルーフ組立処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【0045】
ステップS1において、ハンドジグ付ロボット11は、図2等に示すパネルストック12からワーク12を取り出す。
即ち、ハンドジグ付ロボット11は、パネルストック12の1番上に積層されたルーフパネルをワーク12として、把持部43によりワーク21を把持させ、その後、ワーク移動動作を実行することで、パネルストック12からワーク12を取り出す。
なお、ステップS1が、上述した取り出し工程に相当する。
【0046】
ステップS2において、固定シーリングガン13が、ワーク21に対してシーラを塗布する。
即ち、上述したように、パネルストック12とシーリングガン13との間に構築されている空間(図3参照)は、ワーク21を回転させるのに十分な大きさを有している。
そこで、ハンドジグ付ロボット11は、パネルストック12から取り出したワーク21に対してワーク移動動作を実行することで、ワーク21を、当該空間において回転させ、その後、固定シーリングガン13に近づける。そして、ハンドジグ付ロボット11は、引き続きワーク移動動作を実行することで、ワーク21を所定方向に移動させる。これにより、固定シーリングガン13から噴出されるシーラが、ワーク21に塗布される。
なお、ハンドジグ付ロボット11は、上述したように、パネルストック12から取り出したワーク21を、シーラ塗布にとって正確な把持状態となるように、把持部43により、図3や図4に示すようにシーラ用位置決め治具14に一旦固定した後に再度把持させてから、上述したワーク移動動作を実行する。
このように、ステップS2が、上述したシーラ塗布工程に相当する。
【0047】
ステップS3において、ハンドジグ付ロボット11は、シーラ塗布が完了したワーク21に対して、ワーク移動動作を実行することで、図1や図5に示す溶接用位置決め治具15にワーク21を近付けてセットする。
【0048】
ステップS4において、溶接用位置決め治具15は、各部品が置かれたワーク21を回転させる。
即ち、ステップS3においてワーク21が溶接用位置決め治具15にセットされると、作業者101が、手作業で、例えばルーフパネルのアーチ等の各部品を、ワーク21の所定位置に配置していく。その後、溶接用位置決め治具15が水平に倒れることによって、ワーク21は、その表面が上方(Z軸正方向)を向くように回転して、溶接用位置決め治具15に固定される。
【0049】
ステップS5において、ハンドジグ付ロボット11は、溶接部42を用いて、これらの各部品をワーク21に対して溶接していく。
【0050】
このように、ステップS3乃至S5が、上述した溶接工程に相当する。
【0051】
溶接が完了すると、ステップS6において、溶接用位置決め治具15は、各部品が溶接されたワーク21を回転させる。
【0052】
ステップS7において、ハンドジグ付ロボット11は、当該ワーク21を把持部43により把持させ、引き続きワーク移動動作を実行することで、図示せぬ次工程のラインの払出し場所にワーク21を払出す。
【0053】
これにより、ルーフ組立処理は終了する。
【0054】
本実施形態のルーフ組立システム1によれば、以下のような効果がある。
(1)ハンドジグ33は、把持部43及び溶接部42を一緒に有しており、かつ、多関節マニュピュレータ32により移動される。
これにより、ワークの把持装置やスポット溶接機といったツールを別々に用意する必要は特に無くなる。従って、これらのツールを移動装置(マニュピュレータ等)に付け替えるための作業スペースが削減され、その作業時間が短縮される。その結果、ルーフ工程全体の視点でも、作業スペースが削減され、作業時間が短縮されて作業効率が改善される。
【0055】
(2)多関節マニュピュレータ32により移動されるハンドジグ33の移動範囲内に、ルーフ組立処理で用いられる設備の全てが配設されている。即ち、パネルストック12、固定シーリングガン13、シーラ用位置決め治具14、溶接用位置決め治具15、及び、払い出し場所(図示せず)の全てが、ハンドジグ33の移動範囲内に配設されている。
これにより、ワークを移動させる移動装置を複数台備える必用がなくなるため、ルーフ工程全体の視点からすると、作業スペースが削減され、作業効率が改善されると共に、ラインの製造コストも削減される。
【0056】
(3)パネルストック12と固定シーリングガン13との間に構築されている空間(図3参照)は、ワーク21を回転させるのに十分な大きさを有している。
これにより、ハンドジグ付ロボット11は、パネルストック12から取り出したワーク21を、把持状態を維持したまま多関節マニュピュレータ32を移動させることで、回転させることができる。従って、固定シーリングガン13から噴出されるシーラは、ワーク21の任意の場所に塗布することが可能になる。その結果、ルーフ工程全体の視点からすると、作業効率がさらに一段と改善される。
【0057】
なお、本発明は本実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
例えば、本発明の適用先は、本実施形態のルーフ工程に特に限定されない。ただし、この場合、適用先の工程に適した加工装置を用意して、多関節マニュピュレータ32に接続させる必要がある。
【0058】
例えば、本実施形態では、取り出し工程、シーラ塗布工程、溶接工程、及び払出し工程の順に処理が実行されていくが、工程の順番は特に本実施形態に限定されない。また、工程の数や種類、各工程に必要な設備やそのレイアウト等も、特に本実施形態に限定されず、1台のハンドジグ付ロボット11で実行可能な範囲内で任意でよい。
【符号の説明】
【0059】
1 ルーフ組立システム
11 ハンドジグ付ロボット
12 パネルストック
13 固定シーリングガン
14 シーラ用位置決め治具
15 溶接用位置決め治具
21 ワーク
31 ロボットベース
32 多関節マニュピュレータ
33 ハンドジグ
41 接続部
42 溶接部
43 把持部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークに対してシーラ塗布及び溶接の加工を施し、加工後の前記ワークを払出し場所に払い出すまでの一連の処理を実行する加工システムであって、
前記ワークを把持する把持部、及び前記ワークに対する溶接を行う溶接部を有する加工装置、並びに、前記加工装置を移動させる移動装置を備えるロボットと、
加工前の前記ワークが保管される保管庫と、
前記ワークに対してシーラ塗布を行うシーラ塗布装置と、
前記溶接部により溶接が行われる場合に、前記ワークを固定する治具と、
を備え、
前記保管庫、前記シーラ塗布装置、前記治具、及び前記払出し場所は、前記移動装置により移動される前記加工装置の移動範囲内に配設されており、
前記ロボットは、
前記ワークを前記把持部により把持させたままで、前記移動装置により前記加工装置を移動させる動作を、ワーク移動動作として、
前記保管庫に保管された前記ワークに対して前記ワーク移動動作を実行することで、前記ワークを前記保管庫から取り出し、
前記保管庫から取り出された前記ワークに対して前記ワーク移動動作を実行して、前記ワークを前記シーラ塗布装置に対して相対的に移動させることによって、前記ワークに対するシーラ塗布を行い、
前記シーラ塗布が行われた前記ワークに対して前記ワーク移動動作を実行して、前記ワークを前記治具に固定させ、その後、前記溶接部によって前記ワークに対する溶接を行い、
前記溶接が行われた前記ワークに対して前記ワーク移動動作を実行することで、前記ワークを前記払出し場所に払い出す
加工システム。
【請求項2】
前記シーラ塗布装置は前記保管庫の上方に配設されており、
前記シーラ塗布装置の下方と前記保管庫の上方との間には、前記ワークが回転可能な空間が構築されており、
前記ロボットは、前記保管庫から取り出された前記ワークに対して前記ワーク移動動作を実行することで、前記空間内で前記ワークを回転させる
請求項1に記載の加工システム。
【請求項3】
ワークに対してシーラ塗布及び溶接の加工を施し、加工後の前記ワークを払出し場所に払い出すまでの一連の処理を実行するために、
前記ワークを把持する把持部、及び前記ワークに対する溶接を行う溶接部を有する加工装置、並びに前記加工装置を移動させる移動装置を備えるロボットと、
加工前の前記ワークが保管される保管庫と、
前記ワークに対してシーラ塗布を行うシーラ塗布装置と、
前記溶接部により溶接が行われる場合に、前記ワークを固定する治具と、
を備え、
前記保管庫、前記シーラ塗布装置、前記治具、及び前記払出し場所が、前記移動装置により移動される前記加工装置の移動範囲内に配設されている、
加工システムの加工方法であって、
前記ロボットは、
前記ワークを前記把持部により把持させたままで、前記移動装置により前記加工装置を移動させる動作を、ワーク移動動作として、
前記保管庫に保管された前記ワークに対して前記ワーク移動動作を実行することで、前記ワークを前記保管庫から取り出す取り出しステップと、
前記保管庫から取り出された前記ワークに対して前記ワーク移動動作を実行して、前記ワークを前記シーラ塗布装置に対して相対的に移動させることによって、前記ワークに対するシーラ塗布を行うシーラ塗布ステップと、
前記シーラ塗布が行われた前記ワークに対して前記ワーク移動動作を実行して、前記ワークを前記治具に固定させ、その後、前記溶接部によって前記ワークに対する溶接を行う溶接ステップと、
前記溶接が行われた前記ワークに対して前記ワーク移動動作を実行することで、前記ワークを前記払出し場所に払い出す払出しステップと、
を含む処理を実行する加工方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−147865(P2011−147865A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−10159(P2010−10159)
【出願日】平成22年1月20日(2010.1.20)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】