説明

加工シミュレーション装置、加工シミュレーション方法、プログラム、記録媒体

【課題】高速に計算を行うことができ、十分な精度が得られる加工シミュレーション装置等を提供する。
【解決手段】加工シミュレーション装置1は、工具形状データ、加工シミュレーション前のワーク形状データ、仕上がり形状データ、ホルダ形状データを記憶する記憶部9と、工具形状データと仕上がり形状データを用いて工具経路データを生成する工具経路生成部19と、ホルダ形状データと仕上がり形状データを用いてホルダが上記の仕上がり形状に干渉しないホルダ経路データを生成するホルダ経路生成部21と、工具経路データとホルダ経路データを用いてホルダが上記の仕上がり形状に干渉しないホルダ干渉回避工具経路データを生成するホルダ干渉回避工具経路生成部23と、工具形状データとホルダ干渉回避工具経路データを用いて加工シミュレーションを行い加工シミュレーション後のワーク形状データを生成する加工シミュレーション部25とを具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は加工シミュレーション装置、加工シミュレーション方法、プログラム、記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
工具によるワークの加工工程等の検討を目的として、加工シミュレーションが行われる場合がある。この加工シミュレーションは、ワーク形状を目的とする製品形状に加工する際の、所定の工具による加工後のワーク形状のシミュレーションを行うことを通して、加工工程における工具経路等を算出したりする。
【0003】
従来の加工シミュレーションについて、図11を用いて説明する。即ち、まず、工具DBに登録された工具形状のデータと、形状DBに登録された製品形状のデータを用いて、図12に示すように、工具がワーク(素材)85を一定切込み量で製品形状81に加工する実加工に対応した、一定切込み量の工具経路87を生成する(ステップ201)。
【0004】
次に、一定切込み量の工具経路87のうちの1点を検出し(ステップ202)、図13に示すように、工具形状93と、工具を保持するホルダ形状91(ホルダDBに登録される)を組み合わせたツーリング形状を用いてホルダ形状91とワーク85の近傍点95を探索し、干渉を検出する(ステップ203)。ここでは、ステップ202で検出した工具経路87に沿って徐々に切込みを進行しながら、ワーク85とホルダ形状91の干渉を検出する。
【0005】
ここで、当該工具経路87の1点が干渉ありと検出された(ステップ204の「あり」)場合、ホルダ形状91がワーク形状に干渉しないよう工具経路87を修正する(ステップ205)。工具経路87が干渉ありと検出されない(ステップ204の「なし」)場合、もしくはステップ205において工具経路87を修正した後、ワーク85を除去する加工シミュレーションを行う(ステップ206)。
全ての工具経路87について加工シミュレーションを終えていない場合(ステップ207の「いいえ」)は、続いて次の工具経路87上の点を検出し(ステップ208)、同様に加工シミュレーションを行い、全ての工具経路87について加工シミュレーションを完了する(ステップ207の「はい」)と、加工シミュレーションを終了する。
【0006】
このように、ホルダ干渉検出、ホルダ干渉回避、加工シミュレーションの一連の処理は、素材の上面から製品形状の底部まで工具のZ軸方向切込みを一定とした工具経路87に沿って一点ずつ繰り返す。この繰り返し処理により、図14に示すように、前の切込みで生じた加工残りとホルダの干渉を検出してこれを回避する工具経路を生成することができる。
【0007】
また、特許文献1には、加工機械において同一部品の加工が2回目以降の場合において、干渉チェックの実施を省略して処理速度を向上させることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平10−552009号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
このように、従来技術では、ホルダの干渉検出、干渉回避の処理は、工具形状とホルダ形状を組み合わせたツーリング形状を構成し、工具経路の1点ずつにおいて計算する。このときの工具経路は、一定切込み量でワークを加工する図12に示す長い経路87となるために、これを高い精度で行うと計算量が多くなる。さらに、干渉の検出、回避には工具形状とホルダ形状を組み合わせたツーリング形状を用いるため、工具とホルダの計算精度は同一に設定する必要がある。このとき、ホルダは工具に比べて寸法が大きいために、精度を統一すると計算量が増大し、処理時間が更に長くなる。
また、ホルダの干渉検出、干渉回避の処理では、ホルダが製品形状に干渉する位置と量を計算した後、干渉を解消する工具経路を再度算出する。ここでは、製品形状の参照や処理の条件分岐が必要になるため、工具経路生成で用いられる並列化処理しやすいオフセット面生成手法等を応用した高速化技術が適用できない。
【0010】
なお、金型加工では、同じ加工品を2度以上作成することはないので、特許文献1のような省略処理は適用されない。また、特許文献1では、工具干渉チェックを実施するが、干渉が検出された場合に干渉を回避する機能が組み込まれていない。
さらに、金型加工では加工中に刻々と変化するワーク形状とホルダとの干渉を検証する必要があり、ホルダ干渉検出とホルダ干渉回避の処理が必須となる。
【0011】
本発明は、前述した問題点に鑑みてなされたもので、高速に計算を行うことができ、また十分な精度が得られる加工シミュレーション装置等を提供することを目的とする。これにより、例えば、従来は予め加工シミュレーションを行い、工具経路を生成しメモリに保存し、これを加工処理の際に参照していたものを、リアルタイムで工具経路を生成しながら加工処理を行うことを可能とするCAMを実現することもできる。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前述の目的を達するための第1の発明は、工具の形状を示す工具形状データ、加工シミュレーション前のワーク形状を示す加工シミュレーション前のワーク形状データ、仕上がり形状を示す仕上がり形状データ、工具を保持するホルダの形状を示すホルダ形状データを記憶する記憶部と、前記工具形状データと前記仕上がり形状データを用いて、ワークを除去し加工する際の工具の経路を示す工具経路データを生成する工具経路生成部と、前記ホルダ形状データと前記仕上がり形状データを用いて、ホルダが前記仕上がり形状に干渉しないホルダの移動経路を示すホルダ経路データを生成するホルダ経路生成部と、前記工具経路データと前記ホルダ経路データを用いて、工具を保持するホルダが前記仕上がり形状に干渉しない工具の経路であるホルダ干渉回避工具経路を示すホルダ干渉回避工具経路データを生成するホルダ干渉回避工具経路生成部と、前記工具形状データと前記ホルダ干渉回避工具経路データを用いて、前記工具が前記ホルダ干渉回避工具経路によりワークを除去し加工する加工シミュレーションを行い、加工シミュレーション後のワーク形状データを生成する加工シミュレーション部と、を具備することを特徴とする加工シミュレーション装置である。
【0013】
なお、仕上がり形状とは、干渉検出の際に用いられる、ワークを除去し加工する加工シミュレーションを行う際の目標とする形状のことを指し、目標とする製品形状データ等もこれに含まれる。
【0014】
前記工具経路生成部は、逆オフセット法を用いて前記工具経路データを生成することができ、前記ホルダ経路生成部は、逆オフセット法を用いて前記ホルダ経路データを生成することができる。
【0015】
また、第1の発明の加工シミュレーション装置は、前記仕上がり形状と前記加工シミュレーション後のワーク形状を比較する形状比較部を更に具備し、前記形状比較部で前記加工シミュレーション後のワーク形状が前記仕上がり形状と同じと判定された場合に、加工シミュレーションを終了し、前記形状比較部で前記加工シミュレーション後のワーク形状が前記仕上がり形状と異なると判定された場合には、前記加工シミュレーション後のワーク形状データを仕上がり形状データとし、前記ホルダ経路生成部、前記ホルダ干渉回避工具経路生成部、前記加工シミュレーション部にて再度加工シミュレーション後のワーク形状データを生成する。
【0016】
加工シミュレーションは、加工シミュレーション後のワーク形状が仕上がり形状と同一となるまで繰り返す。この際、加工シミュレーション後のワーク形状を仕上がり形状として、ホルダ経路生成、ホルダ干渉回避工具経路生成、加工シミュレーションの処理を繰り返す。ただし、工具経路については、第1回目の加工シミュレーションで製品形状(第1回目の仕上がり形状)を用いて生成したものを引き続き使用することができる。
【0017】
また、前記工具経路生成部は、前記工具の形状を所定の幅のメッシュに分割して計算を行うことにより工具経路データを生成し、前記ホルダ経路生成部は、前記ホルダの形状を前記工具の形状を分割したメッシュの幅と同じ、もしくはそれより大きな幅のメッシュに分割して計算を行うことによりホルダ経路データを生成することができる。
【0018】
上記の構成により、本発明の加工シミュレーション装置では、前述のようにホルダの干渉回避計算を長い工具経路について行う必要がなく、さらにホルダ形状を粗くメッシュ分割して行うことができ、工具形状のメッシュ分割と同精度にする必要がない。また、オフセット法を用いて経路生成を行うので並列化処理がしやすく、高速に計算を行うことができ、また十分な精度が得られる加工シミュレーションを行うことができる。
【0019】
前述の目的を達するための第2の発明は、制御部と、工具の形状を示す工具形状データ、加工シミュレーション前のワーク形状を示す加工シミュレーション前のワーク形状データ、仕上がり形状を示す仕上がり形状データ、工具を保持するホルダの形状を示すホルダ形状データを記憶する記憶部とを有する加工シミュレーション装置を用いた加工シミュレーション方法であって、制御部が、前記工具形状データと前記仕上がり形状データを用いて、ワークを除去し加工する際の工具の経路を示す工具経路データを生成する工具経路生成工程と、制御部が、前記ホルダ形状データと前記仕上がり形状データを用いて、ホルダが前記仕上がり形状に干渉しないホルダの移動経路を示すホルダ経路データを生成するホルダ経路生成工程と、制御部が、前記工具経路データと前記ホルダ経路データを用いて、工具を保持するホルダが前記仕上がり形状に干渉しない工具の経路であるホルダ干渉回避工具経路を示すホルダ干渉回避工具経路データを生成するホルダ干渉回避工具経路生成工程と、制御部が、前記工具形状データと前記ホルダ干渉回避工具経路データを用いて、前記工具が前記ホルダ干渉回避工具経路によりワークを除去し加工する加工シミュレーションを行い、加工シミュレーション後のワーク形状データを生成する加工シミュレーション工程と、を具備することを特徴とする加工シミュレーション方法である。
【0020】
前記工具経路生成工程では、逆オフセット法を用いて前記工具経路データを生成することができ、前記ホルダ経路生成工程では、逆オフセット法を用いて前記ホルダ経路データを生成することができる。
【0021】
第2の発明の加工シミュレーション方法は、制御部が、前記仕上がり形状と前記加工シミュレーション後のワーク形状を比較する形状比較工程を更に具備し、前記形状比較工程で前記加工シミュレーション後のワーク形状が前記仕上がり形状と同じと判定された場合に、加工シミュレーションを終了し、前記形状比較工程で前記加工シミュレーション後のワーク形状が前記仕上がり形状と異なると判定された場合には、前記加工シミュレーション後のワーク形状データを仕上がり形状データとし、前記ホルダ経路生成工程、前記ホルダ干渉回避工具経路生成工程、前記加工シミュレーション工程にて再度加工シミュレーション後のワーク形状データを生成する。
【0022】
また、前記工具経路生成工程では、前記工具の形状を所定の幅のメッシュに分割して計算を行うことにより工具経路データを生成し、前記ホルダ経路生成工程では、前記ホルダの形状を前記工具の形状を分割したメッシュの幅と同じ、もしくはそれより大きな幅のメッシュに分割して計算を行うことによりホルダ経路データを生成することができる。
【0023】
上記の構成により、本発明の加工シミュレーション方法では、前述のようにホルダの干渉回避計算を長い工具経路について行う必要がなく、さらにホルダ形状を粗くメッシュ分割して行うことができ、工具形状のメッシュ分割と同精度にする必要がない。また、オフセット法を用いて経路生成を行うので並列化処理がしやすく、高速に計算を行うことができ、また十分な精度が得られる加工シミュレーションを行うことができる。
【0024】
前述の目的を達するための第3の発明は、コンピュータを第1の発明の加工シミュレーション装置として機能させるためのプログラムである。
【0025】
前述の目的を達するための第4の発明は、コンピュータを第1の発明の加工シミュレーション装置として機能させるためのプログラムを記録した記憶媒体である。
【発明の効果】
【0026】
本発明により、高速に計算を行うことができ、また十分な精度が得られる加工シミュレーション装置等を提供することができる。これにより、加工残りとホルダの干渉回避を考慮した工具経路を高速に生成することで、荒加工においても加工中のホルダ干渉の回避を保障し、工具経路のリアルタイム生成が可能なCAMを実現することができる。また、本技術を加工機械の制御装置に適用することで、加工中のホルダ干渉をリアルタイムに防止できる制御装置を実現することもできる。さらに、多数の加工シミュレーション結果をもとに加工手順を決定する加工工程設計に適用することで、工程設計の処理時間を大幅に短縮することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】加工シミュレーション装置のハードウェア構成の例を示す図
【図2】加工シミュレーション装置の機能構成の例を示す図
【図3】加工シミュレーション装置を用いた加工シミュレーション方法の流れを示す流れ図
【図4】工具経路生成について示す図
【図5】ホルダ回避経路生成について示す図
【図6】工具形状とホルダ形状のメッシュ分割について示す図
【図7】ホルダ干渉回避工具経路生成について示す図
【図8】加工シミュレーションについて示す図
【図9】加工シミュレーションについて示す図
【図10】加工シミュレーション後のワーク形状について示す図
【図11】加工シミュレーションの流れの一例を示す流れ図
【図12】加工シミュレーションの一例について示す図
【図13】加工シミュレーションの一例について示す図
【図14】加工シミュレーションの一例について示す図
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、図面を参照しながら、本発明の加工シミュレーション装置等の実施形態について説明する。まず、図1を用いて本実施形態の加工シミュレーション装置のハードウェア構成について説明する。
【0029】
本実施形態の加工シミュレーション装置1は、制御部3、表示部5、通信部7、記憶部9、入力部11、出力部13等を有し、これらがバス15で接続された構成となっている。
【0030】
制御部3は、CPU(Central Processing Unit)やRAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)からなり、記憶部9やROMに記憶されたデータやプログラム等をRAMに読み出して、各種の演算および制御を行う。これにより、後述の加工シミュレーション装置1が行う処理を実現する。
【0031】
表示部5は液晶パネル、CRTモニタなどのディスプレイ装置であり、後述する加工シミュレーション装置1の行う処理に係る画面を表示する。
【0032】
通信部7は通信制御装置、通信ポート等を有する。ネットワーク17に接続し、各種情報の送受信を行う。ただし、加工シミュレーション装置1は、ネットワーク17等と接続せず、スタンドアローンとする構成でもよい。
【0033】
記憶部9はハードディスク等からなり、後述の加工シミュレーション装置1が行う処理に係る各種のデータやプログラム等を読み出し可能に記憶する。また、記憶部9をネットワーク等を介した外部に有する構成なども可能である。
【0034】
入力部11は例えばキーボードやマウス、ドライブ装置やスキャナなどであり、加工シミュレーション装置1へデータ入力を行うための周辺装置である。また、加工シミュレーション装置1と各装置を接続し、データ出力を行うためのインタフェースを備える。
【0035】
出力部13は例えばプリンタやドライブ装置など、加工シミュレーション装置1からのデータ出力を行うための周辺装置である。また、加工シミュレーション装置1と各装置を接続し、データ出力を行うためのインタフェースを備える。
【0036】
バス15は各装置間の制御信号やデータ信号等の授受を媒介する経路である。
【0037】
次に、本実施形態の加工シミュレーション装置1の機能構成について、図2を参照しながら説明する。
【0038】
図2に示すように、本実施形態の加工シミュレーション装置1は、工具経路生成部19、ホルダ経路生成部21、ホルダ干渉回避工具経路生成部23、加工シミュレーション部25、形状比較部26、工具DB(Data Base)27、ホルダDB28、形状DB29を有する。
【0039】
工具経路生成部19は、制御部3が、工具DB27で保持された工具形状データと、形状DB28で保持された仕上がり形状データ(製品形状データ)を用いて、加工を行う際の工具の経路を示す工具経路データを生成するものである。
【0040】
ホルダ経路生成部21は、制御部3が、仕上がり形状データ(第1回目の加工シミュレーションにおいては製品形状データ)と、ホルダDB29で保持されたホルダ形状データを用いて、ホルダが仕上がり形状に干渉しない(重ならない)ホルダの移動経路を示すホルダ経路データを生成するものである。
【0041】
ホルダ干渉回避工具経路生成部23は、制御部3が、工具経路データとホルダ経路データを用いて、工具を保持するホルダが仕上がり形状に干渉しない工具の経路であるホルダ干渉回避工具経路を示すホルダ干渉回避工具経路データを生成するものである。
【0042】
加工シミュレーション部25は、制御部3が、工具形状データとホルダ干渉回避工具経路データを用いて、工具がホルダ干渉回避工具経路によりワークを除去し加工する加工シミュレーションを行い、加工シミュレーション後のワーク形状データを生成する。
形状比較部26は、制御部3が、加工シミュレーション後のワーク形状と仕上がり形状を比較し、これらが同じかどうかを判定する。
【0043】
また、工具DB27には、工具の形状や仕様のデータが登録されており、上記したように、加工に必要な工具経路の生成および加工後のワーク形状を生成する加工シミュレーションの計算等に用いられる。本実施形態では、工具の例として、先端部に球体を有するボールエンドミルを挙げて説明するが、これに限ることはない。
【0044】
ホルダDB28には、工具を保持するホルダの形状や仕様のデータが登録されており、上記したように、ホルダ回避経路生成の計算等に用いられる。ホルダの形状は、特に限定されることはない。
【0045】
形状DB29には、目標とする製品形状のデータ、加工シミュレーション前のワーク形状のデータ、仕上がり形状データ等を保持し、上記したように、工具経路生成、ホルダ経路生成、加工シミュレーション等に利用される。また、加工シミュレーション中のワーク形状等も保持可能である。
ここで、仕上がり形状とは、後述する干渉検出の際に用いられる、ワークを除去し加工する加工シミュレーションを行う際の目標とする形状のことを指す。
【0046】
なお、第1回目の加工シミュレーションの際の工具経路生成、ホルダ経路生成を行う際には仕上がり形状データとして製品形状データを用いる。即ち、製品形状データは仕上がり形状データに含まれる。
【0047】
次に、本実施形態の加工シミュレーション装置1を用いた加工シミュレーション方法について、図3等を用いて説明する。
【0048】
本実施形態の加工シミュレーション装置1を用いた加工シミュレーション方法では、表示部5に表示された操作画面(不図示)上での、入力部11等を介したユーザの操作に伴い、加工シミュレーション装置1が加工シミュレーションを開始する。
【0049】
まず、工具経路生成部19が、操作画面上での、入力部11等を介したユーザの操作に伴い、工具DB27で保持された工具形状データと、形状DB28で保持された第1回目の仕上がり形状データである製品形状データを用いて、逆オフセット法等により、加工に用いる工具経路の工具経路データを生成し(ステップ101)、RAM等に記憶する。
【0050】
逆オフセット法は、工具経路生成部19が、図4に示すように、工具形状データの工具形状31を上下逆転させた逆転工具形状33を作成し、逆転工具形状33の先端部の工具中心点32を製品形状35の加工面36に沿って隙間なく走査させ、逆転工具形状33の先端部の包絡面(オフセット面)を製品形状35に対して加工面36の外側で生成するものである。
【0051】
この包絡面は、加工時に工具形状31の先端部と製品形状35の加工面36が常に接する(干渉しない)工具中心点32の移動経路と一致し、これを工具経路37とする。工具中心点32は、例えばボールエンドミルのように先端部が球体ならその中心とすることができるが、これに限ることはない。また、工具形状に応じて様々に定めることもできる。
【0052】
次に、ホルダ経路生成部21が、第1回目の仕上がり形状データである製品形状データと、ホルダDB29で保持されたホルダ形状データを用いて、工具形状とホルダ形状を組み合わせたツーリング形状により、逆オフセット法等により、仕上がり形状である製品形状35にホルダが干渉しないホルダ移動経路を示すホルダ経路データを生成し(ステップ102)、RAM等に記憶する。
【0053】
ホルダ経路生成部21は、図5に示すように、逆オフセット法により、工具形状31とホルダ形状41が組み合わされたツーリング状態の逆転形状における工具中心点32を、製品形状35の加工面36の上で隙間なく走査する。このとき、ホルダの逆転形状である逆転ホルダ形状43の断面形状で包絡面(オフセット面)を生成すると、この包絡面は加工時に工具を保持するホルダが製品形状35に接する(干渉しない)移動経路に一致し、これをホルダ経路45とする。なお、図5ではホルダに保持される工具形状を示しているが、ステップ102ではホルダ形状41に対する工具中心点32の相対的位置の情報を用いれば十分であり、工具形状データそのものは必ずしも必要でない。
【0054】
このように、第1回目の加工シミュレーションにおけるホルダ経路生成を行う際は、目標とする製品形状35を仕上がり形状のデータとして扱う。
【0055】
なお、ステップ101とステップ102においては、図6に示すように、工具形状31とホルダ形状41をメッシュ分割し、上述の計算を行う。図6(a)に示すように、工具形状31は、ステップ101において、加工シミュレーションの精度を保つため細かく分割する必要があるが、ステップ102のホルダの干渉回避の計算にはそこまでの計算精度は要求されない。従って、ホルダの干渉回避の計算の際には、図6(b)に示すように、ホルダ形状41を、工具形状31を分割したメッシュ幅と同じ、もしくはそれより大きいメッシュ幅で粗く分割することができる。これは、計算量そして処理時間の削減に寄与する。例えばホルダ形状41を分割するメッシュ49の幅を工具形状31を分割するメッシュ47の幅の約5倍とした場合、(メッシュ分割は、図に示す工具及びホルダ形状の幅方向に加え、その奥行き方向においても行うため)計算量は約1/25となる。
【0056】
続いて、ホルダ干渉回避経路生成部23は、工具経路データとホルダ経路データを用いて、加工の際、第1回目の仕上がり形状である製品形状35に工具を保持するホルダが干渉しない工具の経路であるホルダ干渉回避工具経路データを生成し(ステップ103)、RAM等に記憶する。
【0057】
ホルダ干渉回避経路生成部23は、ステップ101で生成した工具経路37の工具経路データと、ステップ102で生成したホルダ経路45のホルダ経路データを用いて、図7に示すように、工具経路37とホルダ経路45のなかで、いずれか上方(製品形状35からみて加工面の外側に向かう方向)に位置する経路を選択して合算し、ホルダ干渉回避工具経路51を生成する。
【0058】
このホルダ干渉回避工具経路51では、工具を保持するホルダが製品形状35に干渉しない、工具がワーク形状を製品形状へ加工する実工具経路が得られる。
【0059】
なお、この際、上述したように工具経路37とホルダ経路45では計算精度が異なるので、予め粗い精度で算出されるホルダ経路45を細かい精度で算出される工具経路37の精度に調整した後、2つの経路を合わせるようにする。
【0060】
続いて、加工シミュレーション部25は、工具形状データと、ホルダ干渉回避工具経路データを用いて、ホルダが干渉しないホルダ干渉回避工具経路により、工具がワーク(加工シミュレーション前のワーク形状データとして形状DB29が保持するものを用いることができる)を除去し加工する加工シミュレーションを行い(ステップ104)、加工シミュレーション後のワーク形状を生成し、RAM等に記憶する。
【0061】
加工シミュレーション部25は、図8に示すように、ステップ103で生成したホルダ干渉回避工具経路51に沿って工具形状31の工具中心点32を移動させ、工具によりワーク53を除去し加工するシミュレーションを行う。
【0062】
この加工シミュレーション後のワーク形状は、第1回目の仕上がり形状である製品形状35と、ホルダ干渉回避工具経路の生成の際にホルダ経路が選択されたことに伴う加工残り形状55とを合わせたものになる。
【0063】
図10(b)は、ワーク53を除去し加工する加工シミュレーションを、上記のようにホルダ干渉回避工具経路51のオフセットにより行い、生成された加工シミュレーション後のワーク形状71を示すものであるが、図10(a)に示す、例えば図11で説明した通常の(工具によるワーク53の除去を実際にシミュレートする)加工シミュレーション後のワーク形状69と同形状になる。従って、従来の工具経路生成と同様なオフセット処理を用いて加工シミュレーションの高速処理を行うことができる。
【0064】
次に、形状比較部26は、加工シミュレーション後のワーク形状と、仕上がり形状(第1回目の加工シミュレーションにおいては製品形状35)を比較する(ステップ105)。
【0065】
これらが異なると判定される(ステップ106の「いいえ」)場合、次回加工シミュレーションに用いる仕上がり形状を、当該加工シミュレーション後のワーク形状で更新し(ステップ107)、ホルダ経路生成(ステップ102)した後、図9に示すように再度ホルダ干渉回避工具経路生成(ステップ103)、加工シミュレーション(ステップ104)を行い、ホルダ干渉回避工具経路(57、61、65)より製品形状35と加工残り形状(59、63、67)を合わせた加工シミュレーション後のワーク形状を再度生成する。
なお、ホルダ干渉回避工具経路の生成の際の工具経路については、1回目の加工シミュレーションの前に生成した工具経路37をそのまま使用することができる。ステップ107で仕上がり形状を加工シミュレーション後のワーク形状で更新した後、ステップ101でこれに基づいて再度工具経路を生成して以降の処理を繰り返してもよいが、その後ステップ103で生成されるホルダ干渉回避工具経路は上記と同様のものになる。
【0066】
このように加工シミュレーションを繰り返し、加工シミュレーション後のワーク形状と、仕上がり形状を比較し(ステップ105)、加工シミュレーション後のワーク形状が仕上がり形状と同じと判定される(ステップ106の「はい」)と、加工シミュレーションを終了する。
【0067】
以上説明したように、本実施形態の加工シミュレーション装置等によれば、前述のようにホルダの干渉回避計算を長い工具経路について行う必要がなく、さらにホルダ形状を粗くメッシュ分割して行うことができ、工具形状のメッシュ分割と同精度にする必要がない。また、オフセット法を用いて経路生成を行うので並列化処理がしやすく、高速に計算を行うことができ、また十分な精度が得られる加工シミュレーション装置等を提供することができる。
これにより、加工残りとホルダの干渉回避を考慮した工具経路を高速に生成することで、荒加工においても加工中のホルダ干渉の回避を保障し、工具経路のリアルタイム生成が可能なCAMを実現することができる。また、本装置を加工機械の制御装置として含める、あるいは加工機械で加工を行うエンドミル等の加工部と本発明の加工シミュレーション装置とを電気的に接続することで、加工中のホルダ干渉をリアルタイムに防止できる制御装置を実現することもできる。
さらに、多数の加工シミュレーション結果をもとに加工手順を決定する加工工程設計に適用することで、工程設計の処理時間を大幅に短縮することもできる。
【0068】
以上添付図面を参照しながら、本発明に係る加工シミュレーション装置等の好適な実施形態について説明したが、本発明は係る例に限定されない。当業者であれば、本願で開示した技術的思想の範疇内において、各種の変更例又は修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものである。
例えば、本実施形態は加工を行う工具としてボールエンドミルなどの先端部の断面が円形(球体)の例をあげて説明したが、先端部の形状はこれに限ることはない。
【符号の説明】
【0069】
1………加工シミュレーション装置
3………制御部
9………記憶部
19………工具経路生成部
21………ホルダ経路生成部
23………ホルダ干渉回避工具経路生成部
25………加工シミュレーション部
26………形状比較部
27………工具DB
28………ホルダDB
29………形状DB
31………工具形状
35………製品形状
37………工具経路
41………ホルダ形状
45………ホルダ経路
47、49………メッシュ
51………ホルダ干渉回避工具経路
53………ワーク
55………加工残り
69、71………加工シミュレーション後のワーク形状

【特許請求の範囲】
【請求項1】
工具の形状を示す工具形状データ、加工シミュレーション前のワーク形状を示す加工シミュレーション前のワーク形状データ、仕上がり形状を示す仕上がり形状データ、工具を保持するホルダの形状を示すホルダ形状データを記憶する記憶部と、
前記工具形状データと前記仕上がり形状データを用いて、ワークを除去し加工する際の工具の経路を示す工具経路データを生成する工具経路生成部と、
前記ホルダ形状データと前記仕上がり形状データを用いて、ホルダが前記仕上がり形状に干渉しないホルダの移動経路を示すホルダ経路データを生成するホルダ経路生成部と、
前記工具経路データと前記ホルダ経路データを用いて、工具を保持するホルダが前記仕上がり形状に干渉しない工具の経路であるホルダ干渉回避工具経路を示すホルダ干渉回避工具経路データを生成するホルダ干渉回避工具経路生成部と、
前記工具形状データと前記ホルダ干渉回避工具経路データを用いて、前記工具が前記ホルダ干渉回避工具経路によりワークを除去し加工する加工シミュレーションを行い、加工シミュレーション後のワーク形状データを生成する加工シミュレーション部と、
を具備することを特徴とする加工シミュレーション装置。
【請求項2】
前記工具経路生成部は、逆オフセット法を用いて前記工具経路データを生成することを特徴とする請求項1記載の加工シミュレーション装置。
【請求項3】
前記ホルダ経路生成部は、逆オフセット法を用いて前記ホルダ経路データを生成することを特徴とする請求項1記載の加工シミュレーション装置。
【請求項4】
前記仕上がり形状と前記加工シミュレーション後のワーク形状を比較する形状比較部を更に具備し、
前記形状比較部で前記加工シミュレーション後のワーク形状が前記仕上がり形状と同じと判定された場合に、加工シミュレーションを終了し、
前記形状比較部で前記加工シミュレーション後のワーク形状が前記仕上がり形状と異なると判定された場合には、前記加工シミュレーション後のワーク形状データを仕上がり形状データとし、前記ホルダ経路生成部、前記ホルダ干渉回避工具経路生成部、前記加工シミュレーション部にて再度加工シミュレーション後のワーク形状データを生成することを特徴とする請求項1記載の加工シミュレーション装置。
【請求項5】
前記工具経路生成部は、前記工具の形状を所定の幅のメッシュに分割して計算を行うことにより工具経路データを生成し、
前記ホルダ経路生成部は、前記ホルダの形状を前記工具の形状を分割したメッシュの幅と同じ、もしくはそれより大きな幅のメッシュに分割して計算を行うことによりホルダ経路データを生成することを特徴とする請求項1記載の加工シミュレーション装置。
【請求項6】
制御部と、工具の形状を示す工具形状データ、加工シミュレーション前のワーク形状を示す加工シミュレーション前のワーク形状データ、仕上がり形状を示す仕上がり形状データ、工具を保持するホルダの形状を示すホルダ形状データを記憶する記憶部とを有する加工シミュレーション装置を用いた加工シミュレーション方法であって、
制御部が、前記工具形状データと前記仕上がり形状データを用いて、ワークを除去し加工する際の工具の経路を示す工具経路データを生成する工具経路生成工程と、
制御部が、前記ホルダ形状データと前記仕上がり形状データを用いて、ホルダが前記仕上がり形状に干渉しないホルダの移動経路を示すホルダ経路データを生成するホルダ経路生成工程と、
制御部が、前記工具経路データと前記ホルダ経路データを用いて、工具を保持するホルダが前記仕上がり形状に干渉しない工具の経路であるホルダ干渉回避工具経路を示すホルダ干渉回避工具経路データを生成するホルダ干渉回避工具経路生成工程と、
制御部が、前記工具形状データと前記ホルダ干渉回避工具経路データを用いて、前記工具が前記ホルダ干渉回避工具経路によりワークを除去し加工する加工シミュレーションを行い、加工シミュレーション後のワーク形状データを生成する加工シミュレーション工程と、
を具備することを特徴とする加工シミュレーション方法。
【請求項7】
前記工具経路生成工程では、逆オフセット法を用いて前記工具経路データを生成することを特徴とする請求項6記載の加工シミュレーション方法。
【請求項8】
前記ホルダ経路生成工程では、逆オフセット法を用いて前記ホルダ経路データを生成することを特徴とする請求項6記載の加工シミュレーション方法。
【請求項9】
制御部が、前記仕上がり形状と前記加工シミュレーション後のワーク形状を比較する形状比較工程を更に具備し、
前記形状比較工程で前記加工シミュレーション後のワーク形状が前記仕上がり形状と同じと判定された場合に、加工シミュレーションを終了し、
前記形状比較工程で前記加工シミュレーション後のワーク形状が前記仕上がり形状と異なると判定された場合には、前記加工シミュレーション後のワーク形状データを仕上がり形状データとし、前記ホルダ経路生成工程、前記ホルダ干渉回避工具経路生成工程、前記加工シミュレーション工程にて再度加工シミュレーション後のワーク形状データを生成することを特徴とする請求項6記載の加工シミュレーション方法。
【請求項10】
前記工具経路生成工程では、前記工具の形状を所定の幅のメッシュに分割して計算を行うことにより工具経路データを生成し、
前記ホルダ経路生成工程では、前記ホルダの形状を前記工具の形状を分割したメッシュの幅と同じ、もしくはそれより大きな幅のメッシュに分割して計算を行うことによりホルダ経路データを生成することを特徴とする請求項6記載の加工シミュレーション方法。
【請求項11】
コンピュータを請求項1記載の加工シミュレーション装置として機能させるためのプログラム。
【請求項12】
コンピュータを請求項1記載の加工シミュレーション装置として機能させるためのプログラムを記録した記憶媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2011−95877(P2011−95877A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−247322(P2009−247322)
【出願日】平成21年10月28日(2009.10.28)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】