説明

加熱装置及び加熱装置の制御方法、画像形成装置

【課題】 加熱装置の非通紙部昇温を低減し、幅狭の被加熱材に対する処理の高スループット化を図る。
【解決手段】 被加熱材を加熱する加熱部材と、加熱部材と当接する加圧部材とにより被加熱材を挟持搬送しながら加熱する加熱装置は、加熱部材を誘導加熱し、その被加熱材を搬送する方向に対して略直交する幅方向に厚さの異なる領域を有する導電性の発熱層と、交番磁場を発生させる交番磁場発生部と、交番磁場の周波数を切り替え、厚さの異なる領域ごとに発熱層における誘導加熱を制御する制御部とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電部材を誘導加熱させ、その熱により被加熱材を加熱する加熱装置、加熱装置の制御方法、その加熱装置を画像加熱用の定着装置として用いた、電子写真方式、静電記録方式、磁気記録方式等によって画像形成を行う複写機、プリンタ、ファクシミリ等の画像形成装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
画像形成装置において、適宜の画像形成プロセス手段で被記録材上に形成されたトナー画像を定着させる加熱装置として、熱ローラ方式の定着装置が広く用いられている。熱ローラ方式の定着装置は、ハロゲンヒータ等の発熱手段を内包した加熱部材としての定着ローラと、加圧部材としての加圧ローラとを当接し、定着ニップを形成したものである。定着ローラと加圧ローラを共に回転させることで、被記録材を搬送しながら熱と圧力をかけて被記録材上にトナー像が定着する。
【0003】
近年では、クイックスタートや省エネルギーの観点から、フィルム加熱方式の定着装置が実用化されている。フィルム加熱方式の定着装置は、発熱手段としてのセラミックヒータと、加圧部材としての加圧ローラとの間に、加熱部材としての薄い耐熱性フィルムを挟ませて定着ニップを形成させたものである。フィルムと加圧ローラを共に回転させることで、被記録材を搬送しながら熱と圧力をかけてトナー像を定着する。
【0004】
上記のフィルム加熱方式の定着装置では、熱ローラ方式に比べ、加熱部材であるフィルムの熱容量が非常に小さいため、発熱手段からの熱エネルギーを定着プロセスに効率良く使用することができる。このため、画像形成装置の電源投入からプリント可能状態までの待ち時間を短くすることができる。さらに、加熱部材の熱容量が小さく、プリント待機中に加熱部材を予熱する必要がないため、画像形成装置の消費電力を低く抑えることができる。
【0005】
さらに高効率なフィルム加熱方式の定着装置として、導電性のフィルム自身を発熱させる誘導加熱方式の定着装置も実用化されている。
【0006】
特許文献1には、誘導加熱方式の定着装置として、交番磁場により金属フィルムに渦電流を誘導させ、その金属フィルムをジュール熱で発熱させる定着装置が開示されている。この電磁誘導加熱方式では、フィルム自身を発熱させることができるため、発熱手段からの熱エネルギーを定着プロセスにさらに効率良く使用することができる。
【特許文献1】実開昭51-109739号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら上述したいずれの方式の定着装置においても、発熱域よりも幅狭の被記録材を連続通紙すると、定着ローラや定着フィルム等の加熱部材の非通紙域の温度が通紙域よりも昇温してしまうことになる。
【0008】
被記録材が通紙される加熱部材の通紙域では、被記録材に奪われる熱量に対し、加熱部材が目標温度に維持されるように、発熱手段からの熱量が供給される。一方、被記録材が通紙されない非通紙域、例えば加熱部材の幅方向の両端部といった領域では、通紙域と同じ熱量が発熱手段から供給されるものの、被記録材のような熱を奪っていく部材が通過しないため、加熱部材を目標温度に維持するには熱量が過多となり、その結果、加熱部材の非通紙域の温度が通紙域よりも昇温してしまう。以下、この現象を、「非通紙部昇温」という。
【0009】
このため、幅狭の被記録材を連続通紙すると非通紙部昇温が発生し、場合によっては定着装置を構成する部材の耐熱性が確保できない畏れがあった。また、幅狭の被記録材を連続通紙した直後に、これよりも幅広の被記録材を通紙する場合、加熱部材の一部の領域が非通紙部昇温により目標温度以上に昇温しているため、被記録材上に形成されたトナー画像に過剰な熱量が加わり、良好な定着画像を安定して得ることが出来ないという問題があった。
【0010】
この問題を回避するために、従来の定着装置では、非通紙部昇温を抑制するために、単位時間当たりの被記録材の出力枚数(以下、「スループット」という)を大幅に下げる必要があり、幅狭の被記録材に対して印刷する場合の生産性が低下するという問題があった。
【0011】
そこで、本発明は、上記の問題を鑑みて、加熱装置の非通紙部昇温を低減し、幅狭の被加熱材(被記録材)に対する処理の高スループット化を可能にする加熱装置、加熱装置の制御方法及び加熱装置を具備した画像形成装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、本発明にかかる加熱装置等、画像形成装置は、主として以下の構成を備えることを特徴とする。
【0013】
すなわち、被加熱材を加熱する加熱部材と、当該加熱部材と当接する加圧部材とにより当該被加熱材を挟持搬送しながら加熱する加熱装置は、
前記加熱部材を誘導加熱し、前記被加熱材を搬送する方向に対して略直交する幅方向に厚さの異なる領域を有する導電性の発熱層と、
交番磁場を発生させる交番磁場発生手段と、
前記交番磁場の周波数を切り替え、前記厚さの異なる領域ごとに前記発熱層における誘導加熱を制御する制御手段とを備えることを特徴とする。
【0014】
あるいは、上述の加熱装置を具備する画像形成装置は、以下の構成を備えることを特徴とする。
【0015】
すなわち、電子写真方式により出力画像を被加熱材上に形成する画像形成装置は、
前記被加熱材上にトナー画像を生成するための手段と、
前記生成されたトナー像を、前記出力画像として前記被加熱材上に定着させる上記の加熱装置とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、加熱装置の非通紙部昇温を低減し、幅狭の被加熱材に対する処理の高スループット化が可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下に本発明の実施形態を添付図面に基づいて説明する。
【0018】
[実施形態1]
本発明に係る加熱装置及びこれを具備した画像形成装置の実施形態について説明する。
(1)画像形成装置の概略構成
以下に、画像形成装置の各部材および画像形成プロセスについて説明する。
【0019】
図1は、本実施形態の画像形成装置の概略構成を示す断面図である。本実施形態の画像形成装置は、電子写真プロセスを利用した中間転写方式のカラーレーザプリンタである。係る画像形成装置にあっては、先ず、有機感光体やアモルファスシリコン感光体等で形成された感光ドラム101は、矢示の反時計方向に所定の周速度で回転駆動する。感光ドラム101は、その回転過程で帯電ローラ等の帯電装置102によって所定の極性及び電位の一様な帯電処理を受ける。
【0020】
次いで、その帯電処理面は、レーザ光学箱110から出力されるレーザ光103により、目的の画像情報に応じた走査露光処理を受ける。レーザ光学箱110は、不図示の画像読み取り装置等の画像信号発生装置からの画像情報の時系列電気デジタル画素信号に対応して変調したレーザ光103を出力し、感光ドラム101面を走査露光する。これにより、感光ドラム101面に画像情報に対応した静電潜像が形成される。このとき、レーザ光学箱110からのレーザ光はミラー109によって感光ドラム101の露光位置に偏向される。
【0021】
フルカラー画像形成の場合は、目的のフルカラー画像における第一の色分解成分画像、例えばイエロー成分画像についての走査露光および潜像形成がなされ、その潜像が4色のカラー現像装置104のうちイエロー現像器104Yが作動するによりイエロートナー画像として現像される。そのイエロートナー画像は感光ドラム101と中間転写ドラム105との接触部或いは近接部である一次転写部T1において中間転写ドラム105面に転写される。トナー画像転写後の感光ドラム101面はクリーナ107により転写残トナー等の付着残留物の除去を受けて清掃される。
【0022】
上記のような帯電、走査露光、現像、一次転写、清掃のプロセスサイクルが、目的のフルカラー画像の第二の色分解成分画像(例えば、マゼンタ成分画像、マゼンタ現像器104Mが作動)、第三の色分解成分画像(例えば、シアン成分画像、シアン現像器104Cが作動)、第四の色分解成分画像(例えば、ブラック成分画像、ブラック現像器104Bkが作動)の各色分解成分画像について順次実行され、中間転写ドラム105面にイエロートナー画像、マゼンタトナー画像、シアントナー画像、ブラックトナー画像の4色のトナー画像が順次重ねて転写されて、目的のフルカラー画像に対応したトナー画像が形成される。
【0023】
中間転写ドラム105は、金属ドラム上に中抵抗の弾性層と高抵抗の表層を設けたもので、感光ドラム101に接触して或いは近接して感光ドラム101と同じ周速度で矢示の時計方向に回転駆動される。そして中間転写ドラム105の金属ドラムにバイアスを印加し、感光ドラム101との電位差で感光ドラム101側のトナー画像を中間転写ドラム105面側に転写させる。
【0024】
上記の中間転写ドラム105面に形成されたトナー画像は、中間転写ドラム105と転写ローラ106との接触ニップ部である二次転写部T2において、不図示の給紙部から所定のタイミングで送り込まれた被記録材Pの面に転写されていく。転写ローラ106は被記録材Pの背面からトナーと逆極性の電荷を供給することで、中間転写ドラム105面側から被記録材P側へトナー画像を一括転写する。
【0025】
二次転写部T2を通過した被記録材Pは、中間転写ドラム105面から分離されて加熱装置としての定着装置100へ導入される。そして、被記録材Pは、定着装置100の定着ニップ部N(図2を参照)において被加熱材として加熱され、トナー画像は被記録材P上に定着されて機外の不図示の排紙トレーに排出される。ここで、定着装置100の構成については「(2)加熱装置の概略構成」の項で詳細に説明する。
【0026】
トナー画像転写後の中間転写ドラム105は、クリーナ108により転写残トナーや紙粉等の付着残留物の除去を受けて清掃される。常時、このクリーナ108は中間転写ドラム105に非接触状態に保持されており、二次転写実行過程において中間転写ドラム105に接触状態に保持される。
【0027】
また、転写ローラ106も、常時、中間転写ドラム105に非接触状態に保持されており、二次転写実行過程において中間転写ドラム105に被記録材Pを介して接触状態に保持される。
(2)加熱装置の概略構成
本実施形態における加熱装置としての定着装置100は、加熱部材として電磁誘導発熱性の定着フィルム(定着ベルト)を用いた誘導加熱方式の定着装置である。以下に、定着装置100の概略構成を説明する。
(2−A)全体構成
図2は、本実施形態における定着装置100の要部を側面から見た断面模式図であり、図3は、要部を通紙方向正面から見た正面模式図であり、図4は、要部を通紙方向正面から見た断面模式図である。
【0028】
図2に示す定着装置100は、大きく分けてフィルムガイド部材16と、このフィルムガイド部材16に対してルーズに外嵌させた加熱部材としての定着フィルム10と、定着フィルム10を挟んで、フィルムガイド部材16との間にニップ部Nを形成させる加圧部材としての加圧ローラ30とからなる。
【0029】
フィルムガイド部材16は、横断面が略半円弧状桶型の左右一対となる半体16aと16bとを互いに開口部を向かい合わせて組み合わせることで円筒体を形成させている。また、図2中の右側に位置するフィルムガイド部材16の半体16aの内側には、磁場発生部(以下、「磁場発生手段」ともいう)としての磁性コア17a、17b、17cおよび励磁コイル18が配設され、保持されている。
【0030】
加圧ローラ30は、芯金30aと、シリコーンゴム、フッ素ゴム、フッ素樹脂などの耐熱性を有した弾性層30bとで構成されており、芯金30aの両端部は定着装置の不図示のシャーシ側板金間に回転自由に軸受けで保持され、配設されている。加圧ローラ30は、駆動手段Mにより、矢示の反時計方向に回転駆動される。この加圧ローラ30の回転駆動により、定着フィルム10がフィルムガイド部材16の下面に密着して摺動して矢示の時計方向に従動回転する。
【0031】
フィルムガイド部材16の下面と定着フィルム10の内周面との相互摺動摩擦力を低減化させるために、フィルムガイド部材16下面の定着ニップ部Nに対応する面部分には、耐熱性・低摩擦性の摺動部材40を配設してある。摺動部材40は、例えば、ポリイミド樹脂、ガラス、アルミナ、アルミナにガラスをコートしたものなどで構成するのが好ましい。
【0032】
更に、摺動部材40と定着フィルム10内周面との間に不図示の潤滑剤を介在させることで、定着フィルム10の摺動抵抗の低減を図ることができる。本実施形態においては、潤滑剤としてフッ素グリースを用いている。
【0033】
図2中において、右側のフィルムガイド部材半体16aの周面には、図5に示すように、その長手方向に所定の間隔を置いて凸リブ部16eを形成具備させ、フィルムガイド部材半体16aの周面と定着フィルム10の内面との接触摺動抵抗を低減させて定着フィルム10の回転負荷を少なくしている。このような凸リブ部16eは図2中左側のフィルムガイド部材半体16bにも同様に形成具備することができる。
【0034】
定着装置100には、温度検知手段としてのサーミスタ26が設けられている。サーミスタ26は定着フィルム10の内周面に当接し、定着フィルム10の温度を検知する。定着フィルム10の温度は、サーミスタ26を含む後述の温調制御系により励磁コイル18への電流供給が制御されることで所定の温度が維持される。
【0035】
定着装置100には、安全装置としてサーモスイッチ50が設けられている。本実施形態では、定着フィルム10を傷つけないように、定着フィルム10外周面に非接触に配設している。サーモスイッチ50は、後述のリレースイッチと不図示のDC電源とに直列に接続されており、定着装置100の熱暴走を検知してサーモスイッチ50がオープンになると、リレースイッチへの給電が遮断され、リレースイッチが動作して後述の励磁回路307への給電が遮断される構成をとっている。
【0036】
定着フィルム10を外嵌させたフィルムガイド部材16は、図3と図4に示すように、加圧ローラ30の上側に配置されており、フィルムガイド部材16内に挿通して配設した加圧用剛性ステイ22の両端部と装置シャーシ側のバネ受け部材29a・29bとの間にそれぞれ加圧バネ25a・25bを縮設することで加圧用剛性ステイ22に押し下げ力を作用させている。これにより、定着ニップ部Nに所定の圧力が作用ようになっている。
【0037】
図3および図4に示す23a、23bは、円筒状のフィルムガイド部材16の手前側と奥側の端部に嵌着して配設したフランジ部材であり、定着フィルム10の幅方向に沿う寄り移動を規制する役目をする。フランジ部材23a、23bは定着フィルム10の回転に従動で回転する構成にしてもよい。
【0038】
(2−B)磁場発生手段の構成
図2に示す磁場発生手段としての励磁コイル18は、コイル(線輪)を構成させる導線(電線)として、一本ずつがそれぞれ絶縁被覆された銅製の細線を複数本束ねたもの(束線)を用い、これを複数回巻いて励磁コイル18を形成している。励磁コイル18は、外部から圧力を加えて密集度を向上させてもよい。上述の絶縁被覆を行う被覆部材は、耐熱性を有する被覆を用いることが好ましい。例えば、アミドイミドやポリイミド等の被覆を用いるとよい。
【0039】
図2に示す磁性コア17a、17b、17cは高透磁率の部材であり、フェライトやパーマロイ等といったトランスのコアに用いられる材料が良く、より好ましくは100kHz以上でも損失の少ないフェライトを用いるのが良い。
【0040】
磁性コア17a、17b、17c、18と加圧用剛性ステイ22の間には、絶縁部材19を配設してある。絶縁部材19の材質としては、絶縁性に優れ、耐熱性がよいものが好ましい。例えば、フェノール樹脂、フッ素樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、ポリエーテルスルフォン樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、PFA樹脂、PTFE樹脂、FEP樹脂、LCP樹脂等を選択するとよい。
【0041】
図6は、磁場発生手段によって発生される交番磁束の発生の様子を模式的に表した図である。図6(a)において、磁束Cは発生した交番磁束の一部を表す。
【0042】
図6(a)に示す磁性コア17a、17b、17cに導かれた交番磁束Cは、磁性コア17aと磁性コア17bとの間、そして磁性コア17aと磁性コア17cとの間において定着フィルム10の発熱層1に渦電流を発生させる。この渦電流は、発熱層1の固有抵抗によってジュール熱(渦電流損)を発生させる。
【0043】
発熱量Qは、発熱層1を通る磁束Cの密度によって決まり、図6(b)に示すような分布を持つ。縦軸が磁性コア17aの中心を0とした角度θで表した定着フィルム10における円周方向の位置を示し、横軸が定着フィルム10の発熱層1での発熱量Qを示す。ここで最大発熱量をQとすると、発熱域Hは発熱量がQ/e以上の領域と定義する(eは自然対数の底)。これは定着プロセスに必要な発熱量が得られる領域である。
【0044】
(2−C)加熱部材の構成
本発明では、加熱部材としての定着フィルム10の発熱層の層厚を幅方向に変化させることを特徴とする。図7は、本実施形態における加熱部材としての定着フィルム10の層構成を示す図であり、通紙方向正面から見た断面図である。
【0045】
本実施形態における定着フィルム10は、金属フィルム等からなる発熱層1と、その外周面に積層した弾性層2と、さらにその外周面に積層した離型層3の複合構造を有する。そして、図7中の参照番号4に示す層は、発熱層1の幅方向の層厚の変化を吸収するためのバッファー層である。図7中には図示していないが、発熱層1と弾性層2との間の接着、弾性層2と離型層3との間の接着のために、各層間にプライマー層を設けてもよい。また、定着フィルム10の摺動性を向上させる等の観点から、発熱層1の内周面に絶縁部材からなる層を設けても良い。
【0046】
略円筒形状である定着フィルム10において、摺動部材40と接触する内周面側に発熱層1が位置し、加圧ローラ若しくは被記録材(被加熱材)と接触する外周面側に離型層3が位置している。定着フィルム10は、励磁コイル18からの交番磁束が発熱層1に作用することで、発熱層1が発熱し、この熱が弾性層2、離型層3に伝達されて被記録材P上のトナー画像の定着を行うものである。
【0047】
a.発熱層1
発熱層1としては、磁性及び非磁性の金属を用いることができるが、磁性金属が好ましく用いられる。このような磁性金属としては、ニッケル、鉄、強磁性ステンレス、ニッケル−コバルト合金、パーマロイといった強磁性体の金属が好ましく用いられる。又、定着フィルム10の回転時に受ける繰り返しの屈曲応力による金属疲労を防ぐために、ニッケル中にマンガンを添加した部材を用いるのも良い。本実施形態では発熱層1にニッケルを用いている。発熱層1の層厚については、後に説明する「(4)非通紙部昇温抑制制御」の項にて詳細に説明する。
【0048】
b.弾性層2
弾性層2は、シリコーンゴム、フッ素ゴム、フルオロシリコーンゴム等の、耐熱性、熱伝導率が良い材質が好ましく用いられる。弾性層2の厚さは、定着画像品質を保証するために10〜500μmであることが好ましい。弾性層2の厚さが上記範囲よりも小さい場合には、離型層3が被記録材P或いはトナー層tの凹凸に追従しきれず、画像光沢ムラが発生してしまう。又、弾性層2が上記範囲よりも大きすぎる場合には、弾性層2の熱抵抗が大きくなりすぎ、クイックスタートを実現するのが難しくなる。この弾性層2の厚さは、より好ましくは50〜500μmが良い。
【0049】
弾性層2の硬度は、高すぎると被記録材P或いはトナー層tの凹凸に追従しきれず画像光沢ムラが発生してしまう。そこで、弾性層2の硬度としては60゜(JIS−A)以下、より好ましくは45゜(JIS−A)以下がよい。
【0050】
c.離型層3
離型層3は、フッ素樹脂、シリコーン樹脂、フルオロシリコーンゴム、フッ素ゴム、シリコーンゴム、PFA、PTFE、FEP等の離型性且つ耐熱性のよい材料を用いることが好ましい。離型層3の厚さは1〜100μmが好ましい。離型層3の厚さが上記範囲よりも薄い場合には、塗膜の塗ムラが生じ、離型性の悪い部分が発生したり、耐久性が不足するといった問題が発生する。また、離型層3の厚さが上記範囲よりも厚い場合には、熱伝導が悪化する。
【0051】
d.バッファー層4
バッファー層4の目的は、発熱層1の長手方向の層厚が変化する部分において被記録材へかかる圧力が不均一にならないようにすることであり、磁場発生手段からの磁場に影響のない非導電性でかつ耐熱性のある部材で構成する必要がある。このような目的を達成する部材としては、例えば、耐熱樹脂や耐熱ゴム等が挙げられる。
(3)誘導加熱電源の概略構成
(3−A)全体構成
図8は、定着装置100および温調制御部400と誘導加熱電源300の全体構成を示すブロック図である。
【0052】
300は誘導加熱電源全体、100は定着装置全体、400は交番磁場の周波数制御手段も兼ねる温調制御部全体を示している(以下、「温調制御手段」ともいう。)。
【0053】
301は電源ライン入力端子(LINE)、302はブレーカー、303はリレースイッチ、304は両波整流を行うブリッジ整流回路とコンデンサで構成された整流回路(RECT)、305と306は後述するスイッチング素子のゲート制御トランス(G.T.1、G.T.2)、307は励磁回路である。401はフィードバック制御回路(FB)、402はドライバー回路(DRV)である。
【0054】
電源ライン入力端子(LINE)301から入力されたAC電流は、ブレーカー302及びリレー接点303を介して整流回路(RECT)304に入る。
【0055】
ここで、リレースイッチ303は、定着装置100が規定の温度を超えて異常昇温した時にオープンになるサーモスイッチ(TH.SW)50の接点を介してオンされている。仮に定着装置100がトラブルにより異常昇温しても、サーモスイッチ50の接点がオープンになることでリレースイッチ303をオフし、さらにこれによって励磁回路307の電源からの入力を遮断し、熱暴走に対する定着装置100の安全を確保している。
【0056】
次に、AC電流は整流回路(RECT)304によりDC電流に変換される。一方、定着フィルム10の温度はサーミスタ(TH1)26で検出され、検出結果はフィードバック制御回路(FB)401に入力される。フィードバック制御回路(FB)401は、サーミスタ(TH1)26の検出結果に基づき目標温度と比較しながら励磁回路307のスイッチング素子の制御量を算出する。そしてドライバー回路(DRV)402は、フィードバック制御回路(FB)401からの制御信号を受けて電源の電圧共振制御に相応しい制御信号でゲート制御トランス(G.T.1、G.T.2)305・306の駆動を行う。
【0057】
交番磁場の周波数制御手段も兼ねる温調制御手段400は、スイッチング素子のスイッチング周期を変更することにより、励磁コイル18の交番磁場の周波数を変更できるようになっている。本実施形態では、交番磁場の周波数を2段階に切り替え可能にしている。以下、交番磁場の周波数の高い方を使用している状態を「ハイモード」、周波数の低い方を使用している状態を、「ローモード」と称す。本実施形態では2段階としたが、さらに多段階に切り替え可能としても良い。
【0058】
交番磁場の周波数のハイモードおよびローモードは、被記録材幅検知部500の検知結果に応じて切り替えられる。記録材幅検知部500としては、画像形成装置に設けられた被記録材のサイズを検知するセンサ等が挙げられる。また、プリンタドライバなどユーザーが設定した被記録材のサイズ情報を参照しても良い。
(3−B)励磁回路
図9は、誘導加熱電源300の励磁回路307の要部を示す図である。本実施形態の励磁回路307は電圧共振方式である。
【0059】
201は第1のスイッチング素子、205は第2のスイッチング素子である。第1のスイッチング素子201はメインのスイッチング動作を行い、励磁コイル18へ流す電流を制御するものである。第2のスイッチング素子205は、第1のスイッチング素子201に同期してスイッチング動作を行い、スイッチング動作時の負荷を軽減させるものである。これらのスイッチング素子の具体的な動作としては、第2のスイッチング素子205をオープン状態にして、第1のスイッチング素子201をオン・オフすることにより電圧共振を行わせている。また第2のスイッチング素子205を、第1のスイッチ素子201がオフしている間に、フライバック電圧が上昇を終える頃にオン、フライバック電圧が下降した頃にオフという動作をさせて、第1のスイッチング素子201に電気的な負荷のかからないソフトスイッチングを実現させている。
【0060】
これらのスイッチング素子201、205は、定常時の損失及びスイッチ損失が小さいもので、なおかつ高耐圧、大電流タイプのものが良い。一般的に用いるのはMOSFETやIGBTといったスイッチング素子である。
【0061】
励磁コイル18は、定着フィルム10とともに定着装置100に設けられている。定着フィルム10は、励磁回路307に対し、インダクタンス成分Lと抵抗成分Rからなる等価回路で表すことができる。定着フィルム10は、励磁コイル18から発生する高周波磁界と定着フィルム10との電磁誘導作用により、定着フィルム10の等価回路に誘導電流が流れ、抵抗成分Rにより発生するジュール熱で発熱する。この発熱に基づいて、加熱部材は加熱される(誘導加熱)。
【0062】
202は第1の逆導通ダイオード、206は第2の逆導通ダイオードである。フライバック電圧の振幅が大きく、第1のスイッチング素子201のコレクタ端子201C側の電圧がエミッタ端子201E側の電圧より低くなる期間は、第1の逆導通ダイオード202がターンオンし、電流が励磁コイル18に流入する。この期間中、第1のスイッチング素子201のコレクタ端子201C側の電圧は0[V]にクランプされることになる。このような期間に第1のスイッチング素子201をオンすれば、電圧を背負うことなくスイッチオン可能なことが一般に知られている。このような駆動方法により第1のスイッチング素子201のスイッチングに伴う損失は最小とすることができ、効率の良い、ノイズの少ないスイッチングを可能としている。
【0063】
204は第1の共振コンデンサ、207は第2の共振コンデンサである。第1のスイッチング素子201がオフすると、励磁コイル18は電流を流し続けようとするため、共振コンデンサ204・207と励磁コイル18により定まる共振回路の尖鋭度により、フライバック電圧と呼ばれる高電圧が発生する。この電圧は電源電圧VBを中心に振動し、そのままオフ状態を保っておくと電源電圧VBに収束する。
(4)非通紙部昇温抑制制御
本発明の実施形態にかかる非通紙部昇温抑制制御は、発熱層1(図7)の層厚をあらかじめ幅方向で変化させおき、誘導加熱する際に用いる交番磁場の周波数を被記録材Pの幅に応じて可変にすることが特徴である。以下に、本発明の実施形態の特徴である定着装置100の非通紙部昇温制御の仕組みについて説明する。
【0064】
図10は、導電部材中の電磁波の減衰を示した図である。本実施形態において、導電部材は、発熱層1に相当する。横軸は導電部材表面からの距離を示し、縦軸は導電部材表面における電磁波の強さを1とした場合の電磁波の強度Eを示している。表皮深さδは、電磁波の強度Eが減衰して1/e(eは自然対数)となる深さである。これより深いところでは 電磁波の強度Eは1/e以下になっている。
【0065】
一般に、表皮深さδと電磁波の周波数fとの関係は、以下の式で表すことができる。
【0066】
【数1】

【0067】
ここで、μrは導電部材の比透磁率、ρは導電性部材の固有抵抗を示す。
数式1から分かるように、表皮深さδは電磁波の周波数fによって変化し、電磁波の周波数fの1/2乗に反比例して小さくなる性質がある。
【0068】
導電部材表面から深さxに発生する渦電流の電流密度iは、その表面における電流密度をi0とすれば、以下の式で表すことができる。
【0069】
【数2】

【0070】
よって、厚みtの導電部材における吸収電力をPとすると、Pは、数式2で示した電流密度iと、この単位面積を流れる電流回路の抵抗からオーム損を求め、表面から厚みtにかけて積分することで、以下の式で求められる。
【0071】
【数3】

【0072】
数式3より、例えば、導電部材の表面から0.5δまでに吸収されるエネルギーは63.2%と算出され、さらにδまでには86.4%、そして2δまでに98.2%のエネルギーが吸収されることが分かる。この吸収された電磁波のエネルギーが導電部材の誘導加熱のエネルギーとなる。
発熱層1の厚みを幅方向に変化させた定着装置100においては、幅方向に等しく交番磁場が印加される場合、数式1に示す電磁波の表皮深さδの周波数依存性を利用することで、定着フィルム10の幅方向の発熱量を変化させることができる。例えば、発熱層1の層厚を予め通紙される被記録材の幅に合わせて変化させておき、被記録材の幅に応じて交番磁場の周波数を変化させることで、定着フィルム10の幅方向の発熱分布を調整することができる。
【0073】
図11は、本実施形態における発熱層1の層厚tと、各周波数における電磁波の浸透深さδの関係を模式的に示した図である。なお図中に示す1は、通紙方向から正面から見た発熱層1の断面図であり、幅方向に層厚(小サイズ紙通紙領域の層厚をtc、大サイズ紙通紙領域端部の層厚をteとする)が変化していることを示している。また、ここでは、大サイズ紙とは定着装置100の発熱域の長さに近い幅を有した被記録材を指し、小サイズ紙とは大サイズ紙よりも幅の狭い紙を指す。発熱層1の層厚に関し、小サイズ紙に印刷する時の通紙域における層厚をtc、その非通紙域における層厚をteとしている。また表皮深さに関し、交番磁場の周波数がハイモード時の表皮深さをδH、ローモード時の表皮深さをδLとする。
【0074】
ここで、小サイズ紙の通紙域とその非通紙域における発熱層1の層厚の関係については、次式で与えられる。
【0075】
【数4】

【0076】
また、表皮深さと発熱層1の層厚の関係ついては、交番磁場の周波数がローモード時には、次式となるように設定する。
【0077】
【数5】

【0078】
一方で交番磁場の周波数がハイモード時には、次式となるように設定する。
【0079】
【数6】

【0080】
本実施形態においては、発熱層1の層厚に関して、teを30μm 、tcを75μmに設定している。また、交番磁場のローモード時の周波数は5kHzに設定している。この時の表皮深さδLは、発熱層1に用いているニッケルの比透磁率μrを600、固有抵抗ρを6.8x10(-8)Ωmとすると、数式1より約76μmとなる。同様に、交番磁場のハイモード時の周波数は75kHzに設定されており、この時の表皮深さδHは約20μmとなる。
小サイズ紙を通紙する場合、励磁コイル18から生じる交番磁場の周波数をローモード(5kHz)に設定する。この場合の表皮深さδL=76μmとすれば、発熱層1の層厚tcと層厚teは、それぞれ以下のように表すことができる。
【0081】
【数7】

【0082】
【数8】

【0083】
発熱層1の層厚tcの領域と層厚teの領域における交番磁場の吸収エネルギーをそれぞれPcとPeとすると、それぞれ数式3より以下のように表すことができる。
【0084】
【数9】

【0085】
【数10】

【0086】
よって発熱層1の層厚tcの領域と層厚teの領域における吸収エネルギー量の比は、数式8と数式9より次式で与えられる。
【0087】
【数11】

【0088】
すなわち、小サイズ通紙時の非通紙部における発熱量は通紙部よりも抑制される。よって、交番磁場の周波数がローモードの時は、発熱層1の非通紙部における発熱量は通紙部よりも減少するため、非通紙部昇温を抑制でき、小サイズ通紙時におけるスループットを大幅に下げる必要がなくなり、幅狭の被記録材に対して印刷する場合の生産性が低下するという問題は解消する。すなわち、従来よりも小サイズ紙の高スループット化を図ることが可能となる。
一方、大サイズ紙を通紙する場合、励磁コイル18から生じる交番磁場の周波数をハイモード(75kHz)に設定する。この場合の表皮深さδH=20μmとすれば、発熱層1の層厚tcと層厚teは、以下のように表すことができる。
【0089】
【数12】

【0090】
【数13】

【0091】
よって、発熱層1の層厚tcの領域と層厚teの領域における交番磁場の吸収エネルギーは、数式2より、次式で表すことができる。
【0092】
【数14】

【0093】
【数15】

【0094】
よって発熱層1の層厚tcの領域と層厚teの領域における吸収エネルギー量の比は、数式14と数式15より、以下のように表すことができる。
【0095】
【数16】

【0096】
すなわち、発熱層1の層厚tcの領域と層厚teの領域のどちらにおいても、ほぼ同程度の発熱量を得ることが出来る。よって、交番磁場の周波数がハイモードにおいては、定着フィルム10を幅方向に均一な発熱することができる。
以上説明したように、発熱層1の層厚を長手方向で変化させ、交番磁場の周波数を被記録材の幅に応じて切り替えることで、定着フィルム10の長手方向の発熱分布を調整することができ、小サイズ紙通紙時の非通紙部昇温を抑制することが可能となる。
【0097】
尚、本実施形態において、発熱層1は単層で構成されているが、図12に示すように複数の発熱層1で構成するようにしても良い。ここでは、1層目の発熱層1aを定着フィルム10の幅方向全域に設け、さらにバッファー層4を挟んで2層目の発熱層1bを小サイズ紙が通紙される領域にのみ設けている。この1層目の発熱層1aの膜厚をt1、2層目の発熱層1bの層厚をt2とした時、小サイズ紙通紙時に通紙域となる領域の発熱層1の層厚tcは、t1とt2の和として考えればよい。この場合、発熱層1の1層目と2層目にあるバッファー層4は非導電部材であるため、電磁波には影響を及ぼさない。尚、図12においては、小サイズ紙通紙時に非通紙域となる領域の発熱層1の層厚tcは、t1となる。
【0098】
以上説明したように、本発明の実施形態によれば、被記録材の幅に応じて加熱部材の幅方向の発熱分布を変えることができるので、幅狭の被加熱材通紙時に発生する非通紙部昇温を抑制することが可能になる。
【0099】
あるいは、本発明の実施形態によれば、加熱部材の昇温状況に応じて加熱部材の幅方向の発熱分布を変えることができるので、比較的簡易な制御で非通紙部昇温の抑制を図ることが可能になる。
【0100】
あるいは、本発明の実施形態によれば、発熱層を複数設けることで、発熱層1の層厚が幅方向に変化した定着フィルム10の設計の自由度を上げることが可能になる。
【0101】
あるいは、本発明の実施形態によれば、従来よりも幅狭の被記録材の高スループット化が図れ、生産性を向上させることが可能になる。
【0102】
[実施形態2]
本発明に係る加熱装置およびこれを具備した画像形成装置の第2実施形態について説明する。第2実施形態における画像形成装置の概略構成および加熱装置の概略構成は、基本的に実施形態1の構成と同様であるので、詳細な説明は省略する。
【0103】
以下、誘導加熱電源の概略構成および非通紙部昇温抑制制御において、実施形態1と異なる点について説明する。
【0104】
図13は、定着装置100、温調制御手段400及び誘導加熱電源300の全体構成を示すブロック図である。本実施形態の定着装置100は、温度検知手段としてのサーミスタを2つ設けている。サーミスタ26aは、定着フィルム10内面の小サイズ紙通紙時に通紙域となる領域に配設され、実施形態1の場合と同様に定着フィルム10の温度制御に用いられる。一方のサーミスタ26bは、定着フィルム10内面の小サイズ紙通紙時に非通紙域となる領域に当接するように設けられ、小サイズ通紙時の非通紙部の温度を検知する。
【0105】
本実施形態においては、実施形態1のおける記録材幅検知部500の代わりに、この小サイズ紙通紙時の非通紙部に設けられたサーミスタ26bの検知結果に応じて、交番磁場の周波数を切り替えることを特徴としている。
【0106】
本実施形態では、定着フィルム10の非通紙部の昇温状況に応じて周波数を切り替えることができ、被記録材のサイズ情報を必要とせず、比較的簡易な制御で非通紙部昇温の抑制を図ることが可能になる。
【0107】
[その他の実施形態]
なお、本発明の目的は、前述した実施形態の機能を実現するソフトウェアのプログラムコードを記録した記憶媒体を、画像形成装置あるいは加熱装置の制御部に供給し、その制御部のコンピュータ(またはCPUやMPU)が記憶媒体に格納されたプログラムコードを読出し実行することによっても、達成されることは言うまでもない。プログラムコードの格納は、クライアントコンピュータに限定されるものではなく、例えば、サーバとして機能するコンピュータに記憶されておくことも可能である。
【0108】
この場合、被加熱材を加熱する加熱部材と、その加熱部材と当接する加圧部材とにより被加熱材を挟持搬送しながら加熱する加熱装置の制御方法は、被加熱材を搬送する方向に対して略直交する幅方向に厚さの異なる領域を有する導電性の発熱層に、交番磁場を与えて加熱部材を誘導加熱する加熱工程と、交番磁場の周波数を切り替え、厚さの異なる領域ごとに発熱層における誘導加熱を制御する制御工程とを備え、かかる加熱装置の制御方法は、プログラムコードに基づいてコンピュータにより実行される。
【0109】
上記の制御方法は、加熱部材の温度を検知処理する温度検知工程を更に有し、制御工程は、温度検知工程の検知処理の結果に基づいて、前記発熱層における誘導加熱を制御することができる。
【0110】
あるいは、上記の制御方法は、被加熱材を搬送する方向に対して略直交する方向の被加熱材の幅を検出する幅検出工程を更に備え、制御工程は、幅検出工程の検出処理の結果に基づいて、発熱層における誘導加熱を制御することができる。
【0111】
この場合、記憶媒体から読出されたプログラムコード自体が前述した実施形態の機能を実現することになり、そのプログラムコードを記憶した記憶媒体は本発明を構成することになる。
【0112】
プログラムコードを供給するための記憶媒体としては、例えば、フレキシブルディスク,ハードディスク,光ディスク,光磁気ディスク,CD−ROM,CD−R,DVD、磁気テープ,不揮発性のメモリカード,ROMなどを用いることができる。
【0113】
また、コンピュータが読出したプログラムコードを実行することにより、前述した実施形態の機能が実現されるだけでなく、そのプログラムコードの指示に基づき、コンピュータ上で稼働しているOS(オペレーティングシステム)などが実際の処理の一部または全部を行い、その処理によって前述した実施形態の機能が実現される場合も含まれることは言うまでもない。
【0114】
さらに、記憶媒体から読出されたプログラムコードが、コンピュータに挿入された機能拡張ボードやコンピュータに接続された機能拡張ユニットに備わるメモリに書込まれた後、そのプログラムコードの指示に基づき、その機能拡張ボードや機能拡張ユニットに備わるCPUなどが実際の処理の一部または全部を行い、その処理によって前述した実施形態の機能が実現される場合も含まれることは言うまでもない。
【0115】
本実施形態により提供されるプログラム、そのプログラムを格納するコンピュータ可読の記憶媒体による制御で、加熱装置、または、加熱装置を有する画像形成装置は、被記録材の幅に応じて加熱部材の幅方向の発熱分布を変えることができるので、幅狭の被加熱材通紙時に発生する非通紙部昇温を抑制することが可能になる。
【0116】
あるいは、本発明の実施形態によれば、加熱部材の昇温状況に応じて加熱部材の幅方向の発熱分布を変えることができるので、プログラム、そのプログラムを格納するコンピュータ可読の記憶媒体による制御で、加熱装置、または、加熱装置を有する画像形成装置は、比較的簡易な制御で非通紙部昇温の抑制を図ることが可能になる。
【0117】
あるいは、本発明の実施形態によれば、プログラム、そのプログラムを格納するコンピュータ可読の記憶媒体による制御で、加熱装置、または、加熱装置を有する画像形成装置は従来よりも幅狭の被記録材の高スループット化が図れ、生産性を向上させることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0118】
【図1】本発明の実施形態にかかる画像形成装置の概略構成を示す図である。
【図2】定着装置100の要部を側面から見た断面模式図である。
【図3】定着装置100の要部を通紙方向正面から見た正面模式図である。
【図4】定着装置100の要部を通紙方向正面から見た断面模式図である。
【図5】内部に磁場発生手段を配設支持させた右側のフィルムガイド部材半体の斜視模型である。
【図6】磁場発生手段によって発生される交番磁束の発生の様子を模式的に表した図である。
【図7】加熱部材としての定着フィルム10の層構成を示す図であり、通紙方向正面から見た断面図である。
【図8】定着装置100および温調制御部400と誘導加熱電源300の全体構成を示すブロック図である。
【図9】誘導加熱電源300の励磁回路307の要部を示す図である。
【図10】導電部材中の電磁波の減衰を示した図である。
【図11】発熱層1の層厚tと、各周波数における電磁波の浸透深さδの関係を模式的に示した図である。
【図12】発熱層を複数設けた定着フィルム10の層構成を示す図である。
【図13】実施形態2における定着装置100、温調制御手段400及び誘導加熱電源300の全体構成を示すブロック図である。
【符号の説明】
【0119】
1‥‥ 発熱層
2‥‥ 弾性層
3‥‥ 離型層
4‥‥ バッファー層
10‥‥ 定着フィルム(加熱部材)
18‥‥ 励磁コイル(磁場発生手段)
26‥‥ サーミスタ(温度検知手段)
30‥‥ 加圧ローラ(加圧部材)
100‥‥ 定着装置(加熱装置)
300‥‥ 誘導加熱電源
307‥‥ 励磁回路
400‥‥ 温調制御手段(周波数制御手段)
500‥‥ 被記録材幅検知部
P‥‥ 被記録材(被加熱材)
C‥‥ 磁束

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被加熱材を加熱する加熱部材と、当該加熱部材と当接する加圧部材とにより当該被加熱材を挟持搬送しながら加熱する加熱装置であって、
前記加熱部材を誘導加熱し、前記被加熱材を搬送する方向に対して略直交する幅方向に厚さの異なる領域を有する導電性の発熱層と、
交番磁場を発生させる交番磁場発生手段と、
前記交番磁場の周波数を切り替え、前記厚さの異なる領域ごとに前記発熱層における誘導加熱を制御する制御手段と
を備えることを特徴とする加熱装置。
【請求項2】
前記発熱層は単一の導電性部材により形成され、前記幅方向全域にわたる第1の層厚領域と、当該幅方向全域よりも小さい領域における第2の層厚領域を有し、
前記幅方向に厚さの異なる領域は、前記第1の層厚領域及び前記第2の層厚領域に基づいて形成されることを特徴とする請求項1に記載の加熱装置。
【請求項3】
前記発熱層は、複数の導電性部材により形成され、前記幅方向全域にわたる第1の層厚を有する第1発熱層と、当該幅方向全域よりも小さい領域における第2の層厚を有する第2発熱層を有し、
前記幅方向に厚さの異なる領域は、前記第1発熱層における第1の層厚と前記第2発熱層における第2の層厚に基づいて形成されることを特徴とする請求項1に記載の加熱装置。
【請求項4】
前記第1の層厚領域または前記第1発熱層には、非導電性の部材が積層されることを特徴とする請求項2または3に記載の加熱装置。
【請求項5】
前記誘導加熱により加熱された前記加熱部材の温度を検知する温度検知手段を更に備え、
前記制御手段は、前記温度検知手段の検知結果に基づき、前記発熱層における誘導加熱を制御することを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の加熱装置。
【請求項6】
前記発熱層における厚さの異なる領域に対応して、前記温度検知手段はそれぞれ設けられ、
前記厚さの異なる領域に対応して検出される各温度に基づいて、前記制御手段は、前記発熱層における誘導加熱を制御することを特徴とする請求項5に記載の加熱装置。
【請求項7】
前記被加熱材を搬送する方向に対して略直交する方向の当該被加熱材の幅を検出する幅検出手段を更に備え、
前記制御手段は、前記幅検出手段の検出結果に基づき、前記発熱層における誘導加熱を制御することを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の加熱装置。
【請求項8】
電子写真方式により出力画像を被加熱材上に形成する画像形成装置であって、
前記被加熱材上にトナー画像を生成するための手段と、
前記生成されたトナー画像を、前記出力画像として前記被加熱材上に定着させる請求項1乃至7のいずれか1項に記載の加熱装置と
を備えることを特徴とする画像形成装置。
【請求項9】
被加熱材を加熱する加熱部材と、当該加熱部材と当接する加圧部材とにより当該被加熱材を挟持搬送しながら加熱する加熱装置の制御方法であって、
前記被加熱材を搬送する方向に対して略直交する幅方向に厚さの異なる領域を有する導電性の発熱層に、交番磁場を与えて前記加熱部材を誘導加熱する加熱工程と、
前記交番磁場の周波数を切り替え、前記厚さの異なる領域ごとに前記発熱層における誘導加熱を制御する制御工程と
を備えることを特徴とする加熱装置の制御方法。
【請求項10】
前記加熱部材の温度を検知処理する温度検知工程を更に有し、
前記制御工程は、前記温度検知工程の検知処理の結果に基づいて、前記発熱層における誘導加熱を制御することを特徴とする請求項9に記載の加熱装置の制御方法。
【請求項11】
前記被加熱材を搬送する方向に対して略直交する方向の当該被加熱材の幅を検出する幅検出工程を更に備え、
前記制御工程は、前記幅検出工程の検出処理の結果に基づいて、前記発熱層における誘導加熱を制御することを特徴とする請求項9に記載の加熱装置の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2006−114283(P2006−114283A)
【公開日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−298886(P2004−298886)
【出願日】平成16年10月13日(2004.10.13)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】