加飾パネルの水圧転写方法
【課題】水圧転写により透明基材の裏面に形成される塗膜層の絵柄が乱れないようにする。
【解決手段】転写治具9を係合部5bの突出端側に段差が生じないように、且つ、隣り合う係合部5b間の領域全体を埋めるように透明基材5にセットする。転写治具9がセットされた透明基材5を係合部5bの突出端側が下を向くように、且つ、水面W1に対して傾けながら水中に没入させ、水面W1に浮かんでいる塗膜13を水圧により透明基材5の両側に水圧転写して塗膜層7を形成した後、透明基材5を水中から取り出して透明基材5の表面側の塗膜層7を除去する。
【解決手段】転写治具9を係合部5bの突出端側に段差が生じないように、且つ、隣り合う係合部5b間の領域全体を埋めるように透明基材5にセットする。転写治具9がセットされた透明基材5を係合部5bの突出端側が下を向くように、且つ、水面W1に対して傾けながら水中に没入させ、水面W1に浮かんでいる塗膜13を水圧により透明基材5の両側に水圧転写して塗膜層7を形成した後、透明基材5を水中から取り出して透明基材5の表面側の塗膜層7を除去する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水圧転写により塗膜層が形成された加飾パネルの水圧転写方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、例えば特許文献1に開示されているように、自動車の樹脂製内装品に加飾パネルを装着することがある。上記加飾パネルは、パネル表面に光沢を出して意匠性を高めるために、射出成形したパネル状の透明基材の裏面に塗膜を水圧転写することによって、パネル裏面に塗膜層を形成するとともに、パネル表面に光沢の深みがでるようにしている。
【0003】
上記水圧転写の要領は、水溶性フィルムに塗膜が形成された転写フィルムを水面に浮かべて上記水溶性フィルムを溶解させ、水面に浮かんでいる塗膜に透明基材の裏面を押し当てて透明基材を水中に没入させることにより、没入時に受ける水圧で透明基材の裏面に塗膜を転写して塗膜層を形成するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−44577号公報(段落0021欄、図5)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1の透明基材の周縁には、樹脂製内装品に加飾パネルを装着するための係合部が、樹脂製内装品に向かって複数突設されているため、透明基材の裏面側に塗膜を水圧転写しようとすると、図12に示すように、水面に浮かんでいる塗膜13と上記係合部19とが点接触して、該係合部19を基点にして係合部19の周囲の塗膜13が引き込まれて歪んでしまい、透明基材に形成される塗膜層の絵柄が乱れて加飾パネルの意匠性が低下する。特に、絵柄が直線の組み合わせからなる幾何学模様の場合には、加飾パネルの意匠性の低下が顕著となる。
【0006】
本発明は斯かる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、水圧転写により透明基材の裏面に形成される塗膜層の絵柄が乱れないようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、本発明は、透明基材裏面に塗膜を水圧転写する際に、基材本体周縁の係合部突出方向側の高さが略均一となる転写治具を透明基材にセットすることを特徴とする。
【0008】
具体的には、被装着物に係合する複数個の係合部が基材本体周縁に間隔をあけて上記基材本体の裏面側に突設された樹脂製透明基材の裏面に水圧転写により塗膜層を形成して得る加飾パネルの水圧転写方法において、次のような解決手段を講じた。
【0009】
すなわち、第1の発明では、転写治具を上記係合部の突出端側に段差が生じないように、且つ、隣り合う係合部間の領域全体を埋めるように上記透明基材にセットし、上記転写治具がセットされた透明基材を上記係合部の突出端側が下を向くように、且つ、水面に対して傾けながら水中に没入させ、水面に浮かんでいる塗膜を水圧により上記透明基材の両面側に押し付けて該透明基材の両面側に塗膜層を形成した後、透明基材を水中から取り出して該透明基材の表面側の塗膜層を除去することを特徴とする。
【0010】
第2の発明では、第1の発明において、上記転写治具には、上記係合部の突出端側で上記係合部の両隣の転写治具部分を連結する橋絡部が一体に形成されていることを特徴とする。
【0011】
第3の発明では、第1又は第2の発明において、上記転写治具の水圧転写時における没入方向と反対側の端部には、上記係合部の突出端から基端に亘って開放する開放部が設けられていることを特徴とする。
【0012】
第4の発明では、第1から第3のいずれか1つの発明において、上記転写治具は、上記基材本体の表面側全体を覆うカバー部を備えていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
第1の発明では、転写治具を透明基材にセットすると、基材本体周縁の係合部突出方向高さが略均一となるので、透明基材を水中に没入させる際、基材本体周縁の係合部突出側が塗膜に線接触するようになる。したがって、塗膜が均一に水面下に引き込まれるようになるので、点接触する場合に比べて乱れのない絵柄を有する塗膜層が透明基材の裏面に形成されるようになる。そして、水圧により両面側に塗膜層が形成された透明基材を水中から取り出した後、表面側の塗膜層のみ除去することで加飾パネルを形成するようになっているので、乱れのない絵柄を有する塗膜層が透明基材の裏面にのみ安定して形成される。
【0014】
第2の発明では、係合部の突出端が橋絡部で覆われて転写治具が係合部突出方向側で途切れることなく連続する。したがって、さらに塗膜が均一に水面下に引き込まれて乱れのない絵柄を有する塗膜層が透明基材の裏面に形成され、該透明基材を水中に没入させる際の絵柄の乱れが確実に防止される。
【0015】
第3の発明では、水圧転写時に透明基材裏面と塗膜との間にあるエアが、水圧によって透明基材に押し付けられた塗膜により没入方向と反対側に押され、転写治具の開放部から排出されるようになる。したがって、水圧転写時に立壁によって該立壁と塗膜との間にエアが閉じ込められず、転写不良を起こすことなく塗膜層を適正に形成することができる。
【0016】
第4の発明では、転写治具を透明基材にセットして水圧転写すると、塗膜を付けたくない透明基材の表側が転写治具によって覆われているので、転写治具を装着した透明基材を水中から取り出し該透明基材から転写治具を取り外すと、乱れのない絵柄を有する塗膜層が透明基材の裏面にのみ形成される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施形態1により得られた加飾パネルが適用された自動車のインストルメントパネルの略左半分を示す正面図である。
【図2】アッパーパネルに装着された加飾パネルを示す図1のA−A線断面図及び図4のB−B線断面相当図である。
【図3】転写治具を透明基材にセットする前の透明基材裏面側から見た斜視図である。
【図4】転写治具を透明基材にセットした後の透明基材裏面側から見た斜視図である。
【図5】透明基材に水圧転写する工程図であり、図5(a)は、透明基材に転写治具をセットして水面に浮かんでいる塗膜の上方に配置した状態を示す図4のC−C線断面相当図であり、図5(b)は、塗膜が図5(a)の透明基材及び転写治具に転写されている途中の状態を示し、図5(c)は、塗膜が図5(a)の透明基材及び転写治具全体に転写された状態を示し、図5(d)は、透明基材から治具を取り外して塗膜が透明基材の裏面全体に転写された状態を示し、図5(e)は、図5(b)のD−D線の断面を示す。
【図6】本発明の実施形態2の図4相当図である。
【図7】本発明の実施形態2の図5相当図である。
【図8】本発明の実施形態3の図4相当図である。
【図9】本発明の実施形態4の図4相当図である。
【図10】図9のE−E線断面図である。
【図11】水圧転写時に、透明基材の立壁の突出端縁が水面に浮かぶ塗膜に線接触した状態を示す。
【図12】従来の透明基材において、水圧転写時に、透明基材の係合部が水面に浮かぶ塗膜に点接触した状態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
《発明の実施形態1》
図1及び図2は、自動車のインストルメントパネル1を示す。該インストルメントパネル1は、アッパーパネル(被装着物)10を備えていて、該アッパーパネル10の下部には、車両幅方向に延びるパネル装着箇所10aが形成され、当該パネル装着箇所10aに加飾パネル3が装着されている。
【0019】
上記アッパーパネル10のパネル装着箇所10aは、図2に示すように、車内側を向いている前面部10bに対して略面直方向に沿い、車両前方に延びるように一体に形成された側面部10cと、該側面部10cの車両前端部に囲まれるように一体に形成された底面部10dとで凹状に形成されている。上記側面部10cのうち、車両上下方向に位置する面には、矩形状の貫通孔10fが、図示しないがそれぞれ車幅方向に間隔をあけて4個ずつ形成されている。
【0020】
上記加飾パネル3は、射出成形された樹脂製の透明基材5の裏面に水圧転写によって塗膜層7が形成されている。上記透明基材5は、図3に示すように、略帯板状で長手方向両端縁部が略半円状の基材本体5aと、該基材本体5aの周縁のうち、長手方向に沿って延びるそれぞれの周縁において、間隔をあけて4個ずつ基材本体5a裏面側(車両前方側)に突出する可撓性係合部5bとを備えていて、該各係合部5bは外側方に膨出する係合爪5cを有するとともに基端側を基点として加飾パネル3内方に撓むことが可能となっている。そして、上記各係合部5bは、上記アッパーパネル10の各貫通孔10fに対応していて、該貫通孔10fに係合爪5cを係合させることで加飾パネル3をアッパーパネル10に装着するようになっている。
【0021】
上記塗膜層7は、図5に示すように、塗膜13が浮かべられた水Wに透明基材5を係合部5bの突出端が下を向くように、且つ、基材本体5aを水面W1に対して傾けながら水中に没入させ、塗膜13を透明基材5の裏面に水圧転写することで形成されるようになっている。
【0022】
次に、透明基材5の裏面に水圧転写により塗膜層7を形成する際に使用する転写治具9について説明する。
【0023】
転写治具9は、図3に示すように、透明基材5の長手方向に沿って延び、内部に基材本体5aの外周縁形状に近似する長孔91aが形成された環状をなす板状の治具本体91と、該治具本体91の長手方向に沿って延びる内周縁において、治具本体91の板厚方向一側に突出する複数の立壁93とを備えている。上記長孔91aには上記基材本体5aが、該立壁93間の隙間93aには、透明基材5の係合部5bがそれぞれ対応する位置となっていて、転写治具9を透明基材5にセットすると、図4に示すように、係合部5bが上記隙間93aに挿入されて、係合爪5cが隙間93aに露出している治具本体91の内周縁に係合するようになっている。この転写治具9を透明基材5にセットした状態で、上記立壁93は、上記係合部5bの突出端側に段差が生じないように、且つ、隣り合う係合部5b間の領域全体を埋めるようになっていて、上記係合部5bの突出端側が段差なく略均一の高さで連続するようになっている。また、上記治具本体91の長手方向両端側には、係合部5bの突出端から基端に亘って開放する開放部93bが設けられている。
【0024】
次に、上記透明基材5の裏面に水圧転写により塗膜層7を形成する要領について説明する。ここでまず、転写治具9の透明基材5へのセットについて説明する。はじめに、図示しないが、透明基材5の表面側にマスキング材を貼った後、図3に示すように、転写治具9を透明基材5の治具本体91板厚方向他側に配置し、転写治具9の長孔91aに透明基材5の各係合部5bを挿入する。すると、その挿入力で係合爪5cが隙間93aに露出している治具本体91の内周縁に摺接しながら各係合部5bが立壁93内方側に撓んで長孔91aを通過し隙間93aに挿入され、その後、復元して上記係合爪5cが治具本体91の内周縁に係合する。
【0025】
このようにして上記転写治具9に取り付けた透明基材5の裏面に水圧転写により上記塗膜層7を形成する要領について説明する。まず、水圧転写時に透明基材5を没入する水Wの水面W1に、PVA(ポリビニルアルコール)等の水溶性材料からなる水溶性フィルムに非水溶性の塗膜13が形成された転写フィルム(図示せず)を塗膜13が上を向くように浮かべる。この状態で、上記塗膜13にスプレー装置(図示せず)を用いてキシレンや他の溶剤等の活性剤を吹き付ける。しばらくすると、水溶性フィルムが水Wに完全に溶解するとともに上記活性剤により活性化されて接着性を有する塗膜13のみが水面W1に浮かんでいる状態となる。
【0026】
ここで、図5(a)に示すように、透明基材5を水面W1に没入させる際に基材本体5a裏面と塗膜13との間にエアを滞留させないように、基材本体5aの長手方向の一方が他方よりも下側に位置するように透明基材5を水面W1に対して傾けた状態で水面W1上に配置する。そして、転写治具9に取り付けられた透明基材5を図5(a)の位置から下方にゆっくりと移動させ、図5(b)に示すように、水面W1に浮かんでいる塗膜13に基材本体5aの長手方向の一方を押し当て、図5(c)に示すように、透明基材5及び転写治具9全体を水中へ完全に没入させる。その際、転写治具9の立壁93によって係合部5bの突出端側が段差なく略均一の高さであるので、透明基材5を水中に没入させる際、図11に示すように、立壁93の突出端が塗膜13に線接触するようになる。そして、透明基材5及び転写治具9を水中に没入させる過程で、塗膜13が水圧により透明基材5の両面側に押し付けられて密着することで水圧転写され、透明基材5の両面側に塗膜層7が形成される。
【0027】
このとき、図5に示すように、透明基材5の水中への没入方向反対側には転写治具9の開放部93bの一方が位置するようにして転写治具9に取り付けられた透明基材5を水中に没入させ塗膜層7を形成するので、基材本体5aと塗膜13との間にあるエアが、水圧によって基材本体5aに押し付けられた塗膜13により没入方向とは反対側、すなわち上方に押され水面W1に近い場所に移動して上記開放部93bから排出されるようになる。したがって、水圧転写時に透明基材5と塗膜13との間にエアが閉じ込められず、転写不良を起こすことなく塗膜層7を適正に形成することができる。
【0028】
そして、透明基材5及び転写治具9を水中から取り出した後、図5(d)に示すように、透明基材5から転写治具9を取り外し、透明基材5の表面側に貼られた図示しないマスキング材を剥がすことにより上記透明基材5の表面側の塗膜層7が除去され、透明基材5の裏面にのみ塗膜層7が形成された加飾パネル3となる。
【0029】
このように、この実施形態1によれば、転写治具9を透明基材5にセットすると、基材本体5a周縁の係合部5b突出側の高さが略均一となるので、透明基材5を水中に没入させる際、基材本体5a周縁の係合部5b突出側が塗膜13に線接触するようになる。したがって、塗膜13が均一に水面下に引き込まれるようになるので、点接触する場合に比べて乱れのない絵柄を有する塗膜層7が透明基材5の裏面に形成されるようになる。そして、水圧により両面側に塗膜層7が形成された透明基材5を水中から取り出した後、表面側の塗膜層7のみ除去することで加飾パネル3を形成するようになっているので、乱れのない絵柄を有する塗膜層7が透明基材5の裏面にのみ安定して形成される。
《発明の実施形態2》
図6は、本発明の実施形態2の加飾パネル3に転写治具9がセットされている状態を示す。この実施形態2では、実施形態1で使用する転写治具9の形状が異なるだけで、他の部分は実施形態1と同じであるため、以下、異なる部分のみを詳細に説明する。
【0030】
転写治具9の立壁93は、実施形態1の如き開放部93bを有しておらず、治具本体91における長手方向両端部の内周縁に透明基材5の係合部5bと突出高さが略同一の立壁93が連続して設けられている。
【0031】
次に、上記透明基材5の裏面に水圧転写により塗膜層7を形成する要領について説明する。まず、実施形態1と同様にして、マスキング材を透明基材5の表面側に貼った後、転写治具9を透明基材5へセットする。
【0032】
そして、図7(a)に示すように、透明基材5を水面W1に没入させる際に基材本体5a裏面と塗膜13との間にエアを滞留させないように、基材本体5aの長手方向の一方が他方よりも下側に位置するように透明基材5を水面W1に対して傾けた状態で水面W1上に配置する。次いで、転写治具9に取り付けられた透明基材5を図7(a)の位置から下方にゆっくりと移動させ、図7(b)に示すように、水面W1に浮かんでいる塗膜13に上記透明基材5の長手方向の一方に位置する転写治具9の立壁93を押し当てる。さらに、図7(c)に示すように、転写治具9を下方にゆっくりと移動させて塗膜13を立壁93の突出端縁で押しながら、基材本体5aの長手方向の他方まで透明基材5及び転写治具9を水中に没入させる。このとき、基材本体5a周縁に形成された立壁93の高さが略均一なので、図11に示すように、立壁93の突出端が塗膜13に線接触するようになる。
【0033】
その後、図7(d)に示すように、透明基材5の長手方向の他方に位置する立壁93及び基材本体5aと塗膜13との間にエアが溜まらないように、基材本体5aの長手方向の他方を基点として透明基材5の裏面が上を向くように転写治具9を回動させる。しかる後、転写治具9を下方にゆっくりと移動させて、図7(e)に示すように、透明基材5及び転写治具9全体を水中へ完全に没入させる。この透明基材5及び転写治具9を水中に没入させる過程で、塗膜13が水圧により透明基材5の両面側に押し付けられて密着することで水圧転写され、透明基材5の両面側に塗膜層7が形成される。そして、透明基材5及び転写治具9を水中から取り出した後、図7(f)に示すように、透明基材5から転写治具9を取り外し、透明基材5の表面側に貼られた図示しないマスキング材を剥がすと、透明基材5の裏面にのみ塗膜層7が形成された加飾パネル3となる。
【0034】
このように、この実施形態2によれば、実施形態1の如き立壁93に開放部93bが形成されていない場合においても、実施形態1と同様に、乱れのない絵柄を有する塗膜層7が透明基材5の裏面に安定して形成される。
《発明の実施形態3》
図8は、本発明の実施形態3の加飾パネル3に転写治具9がセットされている状態を示す。この実施形態3では、転写治具9の立壁93が一部異なるだけで、他の部分は実施形態2と同じであるため、以下、異なる部分のみを詳細に説明する。
【0035】
上記立壁93は、実施形態2に比べて突出高さが高く形成され、当該立壁93には、上記係合部5bの突出端側で上記係合部5bの両隣の転写治具9部分を連結する橋絡部93cが一体に形成されるように貫通孔93dが形成されている。該貫通孔93dは、透明基材5の係合部5bに対応するように、上記立壁93の長手方向に延びる部分に間隔をあけて4個ずつ形成されている。そして、上記転写治具9を透明基材5にセットした状態で、上記係合部5bの突出端側が橋絡部93cで覆われるようになっていて、上記立壁93の突出端側は段差無く均一の高さで途切れることなく連続している。
【0036】
実施形態3における上記透明基材5の裏面に水圧転写により塗膜層7を形成する要領は、実施形態2と同様であるので、詳細な説明は省略する。
【0037】
このように、この実施形態3によれば、実施形態2と同様の効果が得られるとともに、係合部5bの突出端が橋絡部93cで覆われて転写治具9が係合部5b突出方向側で途切れることなく連続する。したがって、さらに塗膜13が均一に水面下に引き込まれて乱れのない絵柄を有する塗膜層7が透明基材5の裏面に形成され、該透明基材5を水中に没入させる際の絵柄の乱れが確実に防止される。
【0038】
尚、実施形態2,3では、実施形態1の如き立壁93の長手方向両側に開放部93bを有していないが、長手方向のいずれか一方に開放部93bを設けるようにして、水圧転写時に、当該開放部93bを没入方向端部又は没入方向と反対側の端部に位置するようにして水圧転写してもよい。
【0039】
また、実施形態1〜3では、透明基材5の表面側にマスキング材を貼ってから透明基材5を転写治具9にセットするようにしているが、先に透明基材5を転写治具9にセットした後、透明基材5の表面側にマスキング材を貼るようにしてもよい。
《発明の実施形態4》
図9及び図10は、本発明の実施形態4の加飾パネル3が転写治具9にセットされている状態を示す。この実施形態4は、実施形態3と同様に橋絡部93cを有する立壁93を有するとともに、転写治具9が透明基材5の表面側を覆うような形状となっている。
【0040】
すなわち、実施形態4の転写治具9は、透明基材5の基材本体5aと略相似形の板状をなし透明基材5の表面側を覆うカバー部97と、該カバー部97の全外周縁から上方に突出する環状の立壁93とを備えていて、該立壁93の長手方向に沿って延びる部分には、透明基材5の係合部5bに対応するように間隔をあけて略矩形の貫通孔93dが4個ずつ形成されている。
【0041】
そして、転写治具9の立壁93の突出端側から透明基材5を表面側から挿入して、各係合部5bの係合爪5cを立壁93の貫通孔93dに係合させると、図10に示すように、基材本体5aの表面側が転写治具9のカバー部97で覆われるとともに、立壁93の突出端によって係合部5bの突出端側が段差なく均一の高さで連続するようになっている。
【0042】
次に、上記透明基材5の裏面に水圧転写により塗膜層7を形成する要領について説明する。ここで、転写治具9の透明基材5へのセットについて説明する。まず、転写治具9を透明基材5の表面側に配置した後、転写治具9の立壁93の突出端側から透明基材5を挿入する。すると、その挿入力で各係合部5bの係合爪5cが立壁93の橋絡部93c内面に摺接しながら各係合部5bが立壁93内方側に撓んで橋絡部93cを通過し、その後、復元して係合爪5cが貫通孔93dに係合するとともに透明基材5の表面側が転写治具9のカバー部97で覆われる。
【0043】
このようにして上記転写治具9に取り付けた透明基材5の裏面に水圧転写により上記塗膜層7を形成する要領は、実施形態2と転写治具9の形状が異なっていて、水圧転写後にマスキング材を透明基材5の表面から剥がすようになっていない点を除いて実施形態2と同じであるので詳細な説明は省略する。
【0044】
このように、この実施形態4によれば、上記実施形態1〜3と同様に、乱れのない絵柄を有する塗膜層7が透明基材5の裏面に安定して形成されるとともに、転写治具9を透明基材5にセットして水圧転写すると、塗膜13を付けたくない透明基材5の表側が転写治具9によって覆われるので、転写治具9を装着した透明基材5を水中から取り出し、該透明基材5から転写治具9を取り外すと、乱れのない絵柄を有する塗膜層7が透明基材5の裏面にのみ形成される。これにより、マスキング材を貼る作業及び剥がす作業を省略でき作業効率が良くなる。
【0045】
尚、実施形態1〜3では、透明基材5の表面側をマスキング材で覆って水圧転写しているが、転写治具9にカバー部を設けるようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明は、例えば、水圧転写により塗膜層が形成された加飾パネルの水圧転写方法に適している。
【符号の説明】
【0047】
1 インストルメントパネル
3 加飾パネル
5 透明基材
5a 基材本体
5b 係合部
7 塗膜層
9 転写治具
10 アッパーパネル(被装着物)
13 塗膜
93 立壁
93c 橋絡部
97 カバー部
W 水
W1 水面
【技術分野】
【0001】
本発明は、水圧転写により塗膜層が形成された加飾パネルの水圧転写方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、例えば特許文献1に開示されているように、自動車の樹脂製内装品に加飾パネルを装着することがある。上記加飾パネルは、パネル表面に光沢を出して意匠性を高めるために、射出成形したパネル状の透明基材の裏面に塗膜を水圧転写することによって、パネル裏面に塗膜層を形成するとともに、パネル表面に光沢の深みがでるようにしている。
【0003】
上記水圧転写の要領は、水溶性フィルムに塗膜が形成された転写フィルムを水面に浮かべて上記水溶性フィルムを溶解させ、水面に浮かんでいる塗膜に透明基材の裏面を押し当てて透明基材を水中に没入させることにより、没入時に受ける水圧で透明基材の裏面に塗膜を転写して塗膜層を形成するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−44577号公報(段落0021欄、図5)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1の透明基材の周縁には、樹脂製内装品に加飾パネルを装着するための係合部が、樹脂製内装品に向かって複数突設されているため、透明基材の裏面側に塗膜を水圧転写しようとすると、図12に示すように、水面に浮かんでいる塗膜13と上記係合部19とが点接触して、該係合部19を基点にして係合部19の周囲の塗膜13が引き込まれて歪んでしまい、透明基材に形成される塗膜層の絵柄が乱れて加飾パネルの意匠性が低下する。特に、絵柄が直線の組み合わせからなる幾何学模様の場合には、加飾パネルの意匠性の低下が顕著となる。
【0006】
本発明は斯かる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、水圧転写により透明基材の裏面に形成される塗膜層の絵柄が乱れないようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、本発明は、透明基材裏面に塗膜を水圧転写する際に、基材本体周縁の係合部突出方向側の高さが略均一となる転写治具を透明基材にセットすることを特徴とする。
【0008】
具体的には、被装着物に係合する複数個の係合部が基材本体周縁に間隔をあけて上記基材本体の裏面側に突設された樹脂製透明基材の裏面に水圧転写により塗膜層を形成して得る加飾パネルの水圧転写方法において、次のような解決手段を講じた。
【0009】
すなわち、第1の発明では、転写治具を上記係合部の突出端側に段差が生じないように、且つ、隣り合う係合部間の領域全体を埋めるように上記透明基材にセットし、上記転写治具がセットされた透明基材を上記係合部の突出端側が下を向くように、且つ、水面に対して傾けながら水中に没入させ、水面に浮かんでいる塗膜を水圧により上記透明基材の両面側に押し付けて該透明基材の両面側に塗膜層を形成した後、透明基材を水中から取り出して該透明基材の表面側の塗膜層を除去することを特徴とする。
【0010】
第2の発明では、第1の発明において、上記転写治具には、上記係合部の突出端側で上記係合部の両隣の転写治具部分を連結する橋絡部が一体に形成されていることを特徴とする。
【0011】
第3の発明では、第1又は第2の発明において、上記転写治具の水圧転写時における没入方向と反対側の端部には、上記係合部の突出端から基端に亘って開放する開放部が設けられていることを特徴とする。
【0012】
第4の発明では、第1から第3のいずれか1つの発明において、上記転写治具は、上記基材本体の表面側全体を覆うカバー部を備えていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
第1の発明では、転写治具を透明基材にセットすると、基材本体周縁の係合部突出方向高さが略均一となるので、透明基材を水中に没入させる際、基材本体周縁の係合部突出側が塗膜に線接触するようになる。したがって、塗膜が均一に水面下に引き込まれるようになるので、点接触する場合に比べて乱れのない絵柄を有する塗膜層が透明基材の裏面に形成されるようになる。そして、水圧により両面側に塗膜層が形成された透明基材を水中から取り出した後、表面側の塗膜層のみ除去することで加飾パネルを形成するようになっているので、乱れのない絵柄を有する塗膜層が透明基材の裏面にのみ安定して形成される。
【0014】
第2の発明では、係合部の突出端が橋絡部で覆われて転写治具が係合部突出方向側で途切れることなく連続する。したがって、さらに塗膜が均一に水面下に引き込まれて乱れのない絵柄を有する塗膜層が透明基材の裏面に形成され、該透明基材を水中に没入させる際の絵柄の乱れが確実に防止される。
【0015】
第3の発明では、水圧転写時に透明基材裏面と塗膜との間にあるエアが、水圧によって透明基材に押し付けられた塗膜により没入方向と反対側に押され、転写治具の開放部から排出されるようになる。したがって、水圧転写時に立壁によって該立壁と塗膜との間にエアが閉じ込められず、転写不良を起こすことなく塗膜層を適正に形成することができる。
【0016】
第4の発明では、転写治具を透明基材にセットして水圧転写すると、塗膜を付けたくない透明基材の表側が転写治具によって覆われているので、転写治具を装着した透明基材を水中から取り出し該透明基材から転写治具を取り外すと、乱れのない絵柄を有する塗膜層が透明基材の裏面にのみ形成される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施形態1により得られた加飾パネルが適用された自動車のインストルメントパネルの略左半分を示す正面図である。
【図2】アッパーパネルに装着された加飾パネルを示す図1のA−A線断面図及び図4のB−B線断面相当図である。
【図3】転写治具を透明基材にセットする前の透明基材裏面側から見た斜視図である。
【図4】転写治具を透明基材にセットした後の透明基材裏面側から見た斜視図である。
【図5】透明基材に水圧転写する工程図であり、図5(a)は、透明基材に転写治具をセットして水面に浮かんでいる塗膜の上方に配置した状態を示す図4のC−C線断面相当図であり、図5(b)は、塗膜が図5(a)の透明基材及び転写治具に転写されている途中の状態を示し、図5(c)は、塗膜が図5(a)の透明基材及び転写治具全体に転写された状態を示し、図5(d)は、透明基材から治具を取り外して塗膜が透明基材の裏面全体に転写された状態を示し、図5(e)は、図5(b)のD−D線の断面を示す。
【図6】本発明の実施形態2の図4相当図である。
【図7】本発明の実施形態2の図5相当図である。
【図8】本発明の実施形態3の図4相当図である。
【図9】本発明の実施形態4の図4相当図である。
【図10】図9のE−E線断面図である。
【図11】水圧転写時に、透明基材の立壁の突出端縁が水面に浮かぶ塗膜に線接触した状態を示す。
【図12】従来の透明基材において、水圧転写時に、透明基材の係合部が水面に浮かぶ塗膜に点接触した状態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
《発明の実施形態1》
図1及び図2は、自動車のインストルメントパネル1を示す。該インストルメントパネル1は、アッパーパネル(被装着物)10を備えていて、該アッパーパネル10の下部には、車両幅方向に延びるパネル装着箇所10aが形成され、当該パネル装着箇所10aに加飾パネル3が装着されている。
【0019】
上記アッパーパネル10のパネル装着箇所10aは、図2に示すように、車内側を向いている前面部10bに対して略面直方向に沿い、車両前方に延びるように一体に形成された側面部10cと、該側面部10cの車両前端部に囲まれるように一体に形成された底面部10dとで凹状に形成されている。上記側面部10cのうち、車両上下方向に位置する面には、矩形状の貫通孔10fが、図示しないがそれぞれ車幅方向に間隔をあけて4個ずつ形成されている。
【0020】
上記加飾パネル3は、射出成形された樹脂製の透明基材5の裏面に水圧転写によって塗膜層7が形成されている。上記透明基材5は、図3に示すように、略帯板状で長手方向両端縁部が略半円状の基材本体5aと、該基材本体5aの周縁のうち、長手方向に沿って延びるそれぞれの周縁において、間隔をあけて4個ずつ基材本体5a裏面側(車両前方側)に突出する可撓性係合部5bとを備えていて、該各係合部5bは外側方に膨出する係合爪5cを有するとともに基端側を基点として加飾パネル3内方に撓むことが可能となっている。そして、上記各係合部5bは、上記アッパーパネル10の各貫通孔10fに対応していて、該貫通孔10fに係合爪5cを係合させることで加飾パネル3をアッパーパネル10に装着するようになっている。
【0021】
上記塗膜層7は、図5に示すように、塗膜13が浮かべられた水Wに透明基材5を係合部5bの突出端が下を向くように、且つ、基材本体5aを水面W1に対して傾けながら水中に没入させ、塗膜13を透明基材5の裏面に水圧転写することで形成されるようになっている。
【0022】
次に、透明基材5の裏面に水圧転写により塗膜層7を形成する際に使用する転写治具9について説明する。
【0023】
転写治具9は、図3に示すように、透明基材5の長手方向に沿って延び、内部に基材本体5aの外周縁形状に近似する長孔91aが形成された環状をなす板状の治具本体91と、該治具本体91の長手方向に沿って延びる内周縁において、治具本体91の板厚方向一側に突出する複数の立壁93とを備えている。上記長孔91aには上記基材本体5aが、該立壁93間の隙間93aには、透明基材5の係合部5bがそれぞれ対応する位置となっていて、転写治具9を透明基材5にセットすると、図4に示すように、係合部5bが上記隙間93aに挿入されて、係合爪5cが隙間93aに露出している治具本体91の内周縁に係合するようになっている。この転写治具9を透明基材5にセットした状態で、上記立壁93は、上記係合部5bの突出端側に段差が生じないように、且つ、隣り合う係合部5b間の領域全体を埋めるようになっていて、上記係合部5bの突出端側が段差なく略均一の高さで連続するようになっている。また、上記治具本体91の長手方向両端側には、係合部5bの突出端から基端に亘って開放する開放部93bが設けられている。
【0024】
次に、上記透明基材5の裏面に水圧転写により塗膜層7を形成する要領について説明する。ここでまず、転写治具9の透明基材5へのセットについて説明する。はじめに、図示しないが、透明基材5の表面側にマスキング材を貼った後、図3に示すように、転写治具9を透明基材5の治具本体91板厚方向他側に配置し、転写治具9の長孔91aに透明基材5の各係合部5bを挿入する。すると、その挿入力で係合爪5cが隙間93aに露出している治具本体91の内周縁に摺接しながら各係合部5bが立壁93内方側に撓んで長孔91aを通過し隙間93aに挿入され、その後、復元して上記係合爪5cが治具本体91の内周縁に係合する。
【0025】
このようにして上記転写治具9に取り付けた透明基材5の裏面に水圧転写により上記塗膜層7を形成する要領について説明する。まず、水圧転写時に透明基材5を没入する水Wの水面W1に、PVA(ポリビニルアルコール)等の水溶性材料からなる水溶性フィルムに非水溶性の塗膜13が形成された転写フィルム(図示せず)を塗膜13が上を向くように浮かべる。この状態で、上記塗膜13にスプレー装置(図示せず)を用いてキシレンや他の溶剤等の活性剤を吹き付ける。しばらくすると、水溶性フィルムが水Wに完全に溶解するとともに上記活性剤により活性化されて接着性を有する塗膜13のみが水面W1に浮かんでいる状態となる。
【0026】
ここで、図5(a)に示すように、透明基材5を水面W1に没入させる際に基材本体5a裏面と塗膜13との間にエアを滞留させないように、基材本体5aの長手方向の一方が他方よりも下側に位置するように透明基材5を水面W1に対して傾けた状態で水面W1上に配置する。そして、転写治具9に取り付けられた透明基材5を図5(a)の位置から下方にゆっくりと移動させ、図5(b)に示すように、水面W1に浮かんでいる塗膜13に基材本体5aの長手方向の一方を押し当て、図5(c)に示すように、透明基材5及び転写治具9全体を水中へ完全に没入させる。その際、転写治具9の立壁93によって係合部5bの突出端側が段差なく略均一の高さであるので、透明基材5を水中に没入させる際、図11に示すように、立壁93の突出端が塗膜13に線接触するようになる。そして、透明基材5及び転写治具9を水中に没入させる過程で、塗膜13が水圧により透明基材5の両面側に押し付けられて密着することで水圧転写され、透明基材5の両面側に塗膜層7が形成される。
【0027】
このとき、図5に示すように、透明基材5の水中への没入方向反対側には転写治具9の開放部93bの一方が位置するようにして転写治具9に取り付けられた透明基材5を水中に没入させ塗膜層7を形成するので、基材本体5aと塗膜13との間にあるエアが、水圧によって基材本体5aに押し付けられた塗膜13により没入方向とは反対側、すなわち上方に押され水面W1に近い場所に移動して上記開放部93bから排出されるようになる。したがって、水圧転写時に透明基材5と塗膜13との間にエアが閉じ込められず、転写不良を起こすことなく塗膜層7を適正に形成することができる。
【0028】
そして、透明基材5及び転写治具9を水中から取り出した後、図5(d)に示すように、透明基材5から転写治具9を取り外し、透明基材5の表面側に貼られた図示しないマスキング材を剥がすことにより上記透明基材5の表面側の塗膜層7が除去され、透明基材5の裏面にのみ塗膜層7が形成された加飾パネル3となる。
【0029】
このように、この実施形態1によれば、転写治具9を透明基材5にセットすると、基材本体5a周縁の係合部5b突出側の高さが略均一となるので、透明基材5を水中に没入させる際、基材本体5a周縁の係合部5b突出側が塗膜13に線接触するようになる。したがって、塗膜13が均一に水面下に引き込まれるようになるので、点接触する場合に比べて乱れのない絵柄を有する塗膜層7が透明基材5の裏面に形成されるようになる。そして、水圧により両面側に塗膜層7が形成された透明基材5を水中から取り出した後、表面側の塗膜層7のみ除去することで加飾パネル3を形成するようになっているので、乱れのない絵柄を有する塗膜層7が透明基材5の裏面にのみ安定して形成される。
《発明の実施形態2》
図6は、本発明の実施形態2の加飾パネル3に転写治具9がセットされている状態を示す。この実施形態2では、実施形態1で使用する転写治具9の形状が異なるだけで、他の部分は実施形態1と同じであるため、以下、異なる部分のみを詳細に説明する。
【0030】
転写治具9の立壁93は、実施形態1の如き開放部93bを有しておらず、治具本体91における長手方向両端部の内周縁に透明基材5の係合部5bと突出高さが略同一の立壁93が連続して設けられている。
【0031】
次に、上記透明基材5の裏面に水圧転写により塗膜層7を形成する要領について説明する。まず、実施形態1と同様にして、マスキング材を透明基材5の表面側に貼った後、転写治具9を透明基材5へセットする。
【0032】
そして、図7(a)に示すように、透明基材5を水面W1に没入させる際に基材本体5a裏面と塗膜13との間にエアを滞留させないように、基材本体5aの長手方向の一方が他方よりも下側に位置するように透明基材5を水面W1に対して傾けた状態で水面W1上に配置する。次いで、転写治具9に取り付けられた透明基材5を図7(a)の位置から下方にゆっくりと移動させ、図7(b)に示すように、水面W1に浮かんでいる塗膜13に上記透明基材5の長手方向の一方に位置する転写治具9の立壁93を押し当てる。さらに、図7(c)に示すように、転写治具9を下方にゆっくりと移動させて塗膜13を立壁93の突出端縁で押しながら、基材本体5aの長手方向の他方まで透明基材5及び転写治具9を水中に没入させる。このとき、基材本体5a周縁に形成された立壁93の高さが略均一なので、図11に示すように、立壁93の突出端が塗膜13に線接触するようになる。
【0033】
その後、図7(d)に示すように、透明基材5の長手方向の他方に位置する立壁93及び基材本体5aと塗膜13との間にエアが溜まらないように、基材本体5aの長手方向の他方を基点として透明基材5の裏面が上を向くように転写治具9を回動させる。しかる後、転写治具9を下方にゆっくりと移動させて、図7(e)に示すように、透明基材5及び転写治具9全体を水中へ完全に没入させる。この透明基材5及び転写治具9を水中に没入させる過程で、塗膜13が水圧により透明基材5の両面側に押し付けられて密着することで水圧転写され、透明基材5の両面側に塗膜層7が形成される。そして、透明基材5及び転写治具9を水中から取り出した後、図7(f)に示すように、透明基材5から転写治具9を取り外し、透明基材5の表面側に貼られた図示しないマスキング材を剥がすと、透明基材5の裏面にのみ塗膜層7が形成された加飾パネル3となる。
【0034】
このように、この実施形態2によれば、実施形態1の如き立壁93に開放部93bが形成されていない場合においても、実施形態1と同様に、乱れのない絵柄を有する塗膜層7が透明基材5の裏面に安定して形成される。
《発明の実施形態3》
図8は、本発明の実施形態3の加飾パネル3に転写治具9がセットされている状態を示す。この実施形態3では、転写治具9の立壁93が一部異なるだけで、他の部分は実施形態2と同じであるため、以下、異なる部分のみを詳細に説明する。
【0035】
上記立壁93は、実施形態2に比べて突出高さが高く形成され、当該立壁93には、上記係合部5bの突出端側で上記係合部5bの両隣の転写治具9部分を連結する橋絡部93cが一体に形成されるように貫通孔93dが形成されている。該貫通孔93dは、透明基材5の係合部5bに対応するように、上記立壁93の長手方向に延びる部分に間隔をあけて4個ずつ形成されている。そして、上記転写治具9を透明基材5にセットした状態で、上記係合部5bの突出端側が橋絡部93cで覆われるようになっていて、上記立壁93の突出端側は段差無く均一の高さで途切れることなく連続している。
【0036】
実施形態3における上記透明基材5の裏面に水圧転写により塗膜層7を形成する要領は、実施形態2と同様であるので、詳細な説明は省略する。
【0037】
このように、この実施形態3によれば、実施形態2と同様の効果が得られるとともに、係合部5bの突出端が橋絡部93cで覆われて転写治具9が係合部5b突出方向側で途切れることなく連続する。したがって、さらに塗膜13が均一に水面下に引き込まれて乱れのない絵柄を有する塗膜層7が透明基材5の裏面に形成され、該透明基材5を水中に没入させる際の絵柄の乱れが確実に防止される。
【0038】
尚、実施形態2,3では、実施形態1の如き立壁93の長手方向両側に開放部93bを有していないが、長手方向のいずれか一方に開放部93bを設けるようにして、水圧転写時に、当該開放部93bを没入方向端部又は没入方向と反対側の端部に位置するようにして水圧転写してもよい。
【0039】
また、実施形態1〜3では、透明基材5の表面側にマスキング材を貼ってから透明基材5を転写治具9にセットするようにしているが、先に透明基材5を転写治具9にセットした後、透明基材5の表面側にマスキング材を貼るようにしてもよい。
《発明の実施形態4》
図9及び図10は、本発明の実施形態4の加飾パネル3が転写治具9にセットされている状態を示す。この実施形態4は、実施形態3と同様に橋絡部93cを有する立壁93を有するとともに、転写治具9が透明基材5の表面側を覆うような形状となっている。
【0040】
すなわち、実施形態4の転写治具9は、透明基材5の基材本体5aと略相似形の板状をなし透明基材5の表面側を覆うカバー部97と、該カバー部97の全外周縁から上方に突出する環状の立壁93とを備えていて、該立壁93の長手方向に沿って延びる部分には、透明基材5の係合部5bに対応するように間隔をあけて略矩形の貫通孔93dが4個ずつ形成されている。
【0041】
そして、転写治具9の立壁93の突出端側から透明基材5を表面側から挿入して、各係合部5bの係合爪5cを立壁93の貫通孔93dに係合させると、図10に示すように、基材本体5aの表面側が転写治具9のカバー部97で覆われるとともに、立壁93の突出端によって係合部5bの突出端側が段差なく均一の高さで連続するようになっている。
【0042】
次に、上記透明基材5の裏面に水圧転写により塗膜層7を形成する要領について説明する。ここで、転写治具9の透明基材5へのセットについて説明する。まず、転写治具9を透明基材5の表面側に配置した後、転写治具9の立壁93の突出端側から透明基材5を挿入する。すると、その挿入力で各係合部5bの係合爪5cが立壁93の橋絡部93c内面に摺接しながら各係合部5bが立壁93内方側に撓んで橋絡部93cを通過し、その後、復元して係合爪5cが貫通孔93dに係合するとともに透明基材5の表面側が転写治具9のカバー部97で覆われる。
【0043】
このようにして上記転写治具9に取り付けた透明基材5の裏面に水圧転写により上記塗膜層7を形成する要領は、実施形態2と転写治具9の形状が異なっていて、水圧転写後にマスキング材を透明基材5の表面から剥がすようになっていない点を除いて実施形態2と同じであるので詳細な説明は省略する。
【0044】
このように、この実施形態4によれば、上記実施形態1〜3と同様に、乱れのない絵柄を有する塗膜層7が透明基材5の裏面に安定して形成されるとともに、転写治具9を透明基材5にセットして水圧転写すると、塗膜13を付けたくない透明基材5の表側が転写治具9によって覆われるので、転写治具9を装着した透明基材5を水中から取り出し、該透明基材5から転写治具9を取り外すと、乱れのない絵柄を有する塗膜層7が透明基材5の裏面にのみ形成される。これにより、マスキング材を貼る作業及び剥がす作業を省略でき作業効率が良くなる。
【0045】
尚、実施形態1〜3では、透明基材5の表面側をマスキング材で覆って水圧転写しているが、転写治具9にカバー部を設けるようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明は、例えば、水圧転写により塗膜層が形成された加飾パネルの水圧転写方法に適している。
【符号の説明】
【0047】
1 インストルメントパネル
3 加飾パネル
5 透明基材
5a 基材本体
5b 係合部
7 塗膜層
9 転写治具
10 アッパーパネル(被装着物)
13 塗膜
93 立壁
93c 橋絡部
97 カバー部
W 水
W1 水面
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被装着物に係合する複数個の係合部が基材本体周縁に間隔をあけて上記基材本体の裏面側に突設された樹脂製透明基材の裏面に水圧転写により塗膜層を形成して得る加飾パネルの水圧転写方法であって、
転写治具を上記係合部の突出端側に段差が生じないように、且つ、隣り合う係合部間の領域全体を埋めるように上記透明基材にセットし、
上記転写治具がセットされた透明基材を上記係合部の突出端側が下を向くように、且つ、水面に対して傾けながら水中に没入させ、水面に浮かんでいる塗膜を水圧により上記透明基材の両面側に押し付けて該透明基材の両面側に塗膜層を形成した後、透明基材を水中から取り出して該透明基材の表面側の塗膜層を除去することを特徴とする加飾パネルの水圧転写方法。
【請求項2】
請求項1に記載の加飾パネルの水圧転写方法において、
上記転写治具には、上記係合部の突出端側で上記係合部の両隣の転写治具部分を連結する橋絡部が一体に形成されていることを特徴とする加飾パネルの水圧転写方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の加飾パネルの水圧転写方法において、
上記転写治具の水圧転写時における没入方向と反対側の端部には、上記係合部の突出端から基端に亘って開放する開放部が設けられていることを特徴とする加飾パネルの水圧転写方法。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1つに記載の加飾パネルの水圧転写方法において、
上記転写治具は、上記基材本体の表面側全体を覆うカバー部を備えていることを特徴とする加飾パネルの水圧転写方法。
【請求項1】
被装着物に係合する複数個の係合部が基材本体周縁に間隔をあけて上記基材本体の裏面側に突設された樹脂製透明基材の裏面に水圧転写により塗膜層を形成して得る加飾パネルの水圧転写方法であって、
転写治具を上記係合部の突出端側に段差が生じないように、且つ、隣り合う係合部間の領域全体を埋めるように上記透明基材にセットし、
上記転写治具がセットされた透明基材を上記係合部の突出端側が下を向くように、且つ、水面に対して傾けながら水中に没入させ、水面に浮かんでいる塗膜を水圧により上記透明基材の両面側に押し付けて該透明基材の両面側に塗膜層を形成した後、透明基材を水中から取り出して該透明基材の表面側の塗膜層を除去することを特徴とする加飾パネルの水圧転写方法。
【請求項2】
請求項1に記載の加飾パネルの水圧転写方法において、
上記転写治具には、上記係合部の突出端側で上記係合部の両隣の転写治具部分を連結する橋絡部が一体に形成されていることを特徴とする加飾パネルの水圧転写方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の加飾パネルの水圧転写方法において、
上記転写治具の水圧転写時における没入方向と反対側の端部には、上記係合部の突出端から基端に亘って開放する開放部が設けられていることを特徴とする加飾パネルの水圧転写方法。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1つに記載の加飾パネルの水圧転写方法において、
上記転写治具は、上記基材本体の表面側全体を覆うカバー部を備えていることを特徴とする加飾パネルの水圧転写方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2011−212970(P2011−212970A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−83127(P2010−83127)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(390026538)ダイキョーニシカワ株式会社 (492)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(390026538)ダイキョーニシカワ株式会社 (492)
【Fターム(参考)】
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