説明

加飾フィルムの製造方法、および加飾成形体の製造方法

【課題】優れた立体意匠性を発現でき、かつインサート成形時の加工適正を有する加飾フィルムを製造する方法、および加飾フィルムを用いた加飾成形体の製造方法を提供する。
【解決手段】基材フィルム11上にインク層12を形成するインク層形成工程と、インク層12が形成された基材フィルム11上に、一方の表面が凹凸加工された透明フィルム13を凹凸加工面13aがインク層12に接するように配して積層体とし、該積層体を熱圧着する熱圧着工程とを有することを特徴とする加飾フィルム10の製造方法、およびこれより得られた加飾フィルム10を用いた加飾成形体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加飾フィルム、および加飾フィルムを用いた加飾成形体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の内外装部品、家電、OA機器、建材などの部品には、金属調や木目調などの模様が形成された加飾フィルムと、樹脂成形体とが一体化した加飾成形体が広く使用されている。
加飾成形体の製造方法としては、金型のキャビティ内に加飾フィルムを配置するとともにキャビティ内に溶融樹脂を注入することにより、加飾フィルムと樹脂成形体とを一体化する方法(インサート成形)が知られている。この際、加飾フィルムは、予めキャビティの形状に沿うように立体成形されてキャビティ内に配置される場合と、平面状のままキャビティ内に配置される場合がある。平面状のまま配置される場合には、溶融樹脂の注入により、加飾フィルムの立体成形と、加飾フィルムと樹脂成形体との一体化とが同時に行われる。
【0003】
このように使用される加飾フィルムとして、ABS樹脂(アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂)等からなる基材フィルム上に、金属調や木目調に印刷された図柄層と、アクリル樹脂などの透明樹脂からなる表面フィルムとが順次形成した加飾フィルムが知られている。
【0004】
加飾フィルムには、インサート成形時の加工適正を有することはもちろんのこと、近年、金属調や木目調などの模様が見る角度によって複雑で深みのある色を放ち、立体的に見えるような立体意匠性を有することが求められている。
そこで、例えば特許文献1には、透明な熱可塑性樹脂製のシート材の片面にネガ形状の凹凸を形成し、該凹凸面に光輝材を含有するインキまたは塗料を塗布して塗膜を形成してなる化粧シートが開示されている。該化粧シートは、以下のようにして製造される。
まず、ポジ形状の凹凸が形成された付形部材をシート材の片面に加熱しつつ押し付けて、片面に付形部材の凹凸のネガ形状の凹凸を転写する。ついて、シート材を冷却し、その後、シート材の凹凸面に光輝材を含むインキまたは塗料を塗布して塗膜を形成することで、シート材に転写されたネガ形状の凹凸が表面に反映された化粧シートが得られる。そして、得られた化粧シートを金型のキャビティ内に配置し、化粧シートの塗膜と溶融樹脂とが接するようにキャビティ内に溶融樹脂を注入して化粧シート付き成形品(加飾成形体)を得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−135756号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の方法で得られる化粧シートでは、インサート成形により樹脂成形体と一体化させて加飾成形体を製造する際に、化粧シートの凹凸が潰れたり変形したりしやすかった。その結果、得られる加飾成形体は、化粧シートの立体意匠性を十分に発現できなかった。
また、溶融樹脂をキャビティ内に注入する際、溶融樹脂が化粧シートの凹凸を構成する凹部の中まで十分に充填されにくく、化粧シートと樹脂成形体の密着性が低下することもあった。
【0007】
本発明は上記事情を鑑みてなされたもので、優れた立体意匠性を発現でき、かつインサート成形時の加工適正を有する加飾フィルムを製造する方法、および加飾フィルムを用いた加飾成形体の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の加飾フィルムの製造方法は、基材フィルム上にインク層を形成するインク層形成工程と、インク層が形成された基材フィルム上に、一方の表面が凹凸加工された透明フィルムを凹凸加工面がインク層に接するように配して積層体とし、該積層体を熱圧着する熱圧着工程とを有することを特徴とする。
また、前記インク層形成工程は、剥離フィルムと、該剥離フィルム上に形成されたインク層とを有する転写フィルムから、前記インク層を基材フィルム上に転写して行うことが好ましい。
【0009】
さらに、前記熱圧着工程は、透明フィルムの凹凸加工面とは反対側の表面上に、透明な表面フィルムを配して行うことが好ましい。
また、前記表面フィルムは、透明フィルム側の表面上に透明な図柄層が形成されたことが好ましい。
さらに、前記熱圧着工程は、一対の加熱ロールと、該加熱ロールの後段側に設けられた一対の冷却ロールと、前記加熱ロールと冷却ロールの同一側にそれぞれ掛け回され、対向する表面が前記積層体を挟持して押圧する押圧面である一対の無端金属ベルトと、該無端金属ベルトの前記押圧面同士が近づくように作用する一対の加圧手段とを備えた熱圧着手段を用いて行うことが好ましい。
【0010】
また、本発明の加飾成形体の製造方法は、前記いずれかに記載の方法で製造された加飾フィルムを金型のキャビティ内に配置し、該キャビティ内に溶融樹脂を注入して、前記加飾フィルムの基材フィルム側の表面に溶融樹脂からなる樹脂成形体を融着、一体化させる一体成形工程を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の加飾フィルムの製造方法によれば、優れた立体意匠性を発現でき、かつインサート成形時の加工適正を有する加飾フィルムを製造できる。
また、本発明の加飾成形体の製造方法によれば、優れた立体意匠性を発現できる加飾成形体を製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明により得られる加飾フィルムの一例を示す断面図である。
【図2】本発明の製造方法で使用する装置の一例を示す概略構成図である。
【図3】図2における熱圧着手段を示す概略構成図である。
【図4】本発明により得られる加飾フィルムの他の例を示す断面図である。
【図5】本発明により得られる加飾成形体の一例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図を用いて本発明について詳細に説明する。
図1は、本発明の加飾フィルムの製造方法で製造された加飾フィルムの一例を示す断面図である。この例の加飾フィルム10は、基材フィルム11と、該基材フィルム11上に形成されたインク層12と、該インク層12上に形成され、インク層12側の表面が凹凸加工された透明フィルム13と、該透明フィルム13上に形成された透明な表面フィルム14とを備えている。
なお、図2〜5において、図1と同じ構成要素には同じ符号を付してその説明を省略する。
また、本発明において「透明」とは、可視光線透過率が80%以上であることをいう。
【0014】
基材フィルム11の材質としては特に制限はなく、例えばABS樹脂、ポリ塩化ビニル(PVC)樹脂、ポリプロピレン(PP)樹脂、ポリエチレン(PE)樹脂などが挙げられる。また、例えばPP/PET(ポリエチレンテレフタレート)など、複数の樹脂の積層フィルムを使用してもよい。加飾フィルム10は、上述したようにインサート成形などにより樹脂成形体と一体化される。樹脂成形体との密着性を考慮すると、基材フィルム11の材質としては、樹脂成形体の材質と同じもの用いることが好ましい。
【0015】
基材フィルム11の厚さは、樹脂の種類などに応じて適宜設定できるが、厚さ0.2〜0.8mmの範囲のABS樹脂フィルムを使用すると、得られた加飾フィルム10を自動車のフロントパネルなどの内装に使用する際に、自動車内装基材(樹脂成形体)と一体成形しやすく、かつ、廃車時のリサイクル性にも優れることから好ましい。
【0016】
インク層は、印刷法や画像形成法で用いられる塗料から形成される。塗料には、バインダ成分、顔料、溶剤が含まれる。
バインダ成分としては、グラビアインク、スクリーンインク、塗料等のバインダ成分として使用できるものであれば、特に制限ないが、例えばアクリル系、塩化ビニル系、塩化ビニリデン系、塩化ビニル−酢酸ビニル系、エチレン−酢酸ビニル、ウレタン系、ポリエステル系、ポリエレフィン系、塩素化オレフィン系、ポリアミド系、ウレア系、エポキシ系、セルロース誘導体系等の各種樹脂が挙げられ、これらのうち1種以上を使用できる。
【0017】
顔料としては、塗料に用いられる一般的な顔料を使用できる。例えばアルミニウム等の光輝材;チタン、カーボン等の着色顔料;炭酸カルシウム、タルク、マイカ等の体質顔料;パール顔料などが挙げられる。中でも、光輝材を顔料として用いれば、光輝性を有し、より優れた立体意匠性を発現できる加飾フィルムが得られる。また、光輝材と、光輝材以外の顔料とを併用すれば、光輝性を有しつつ、かつ所望の色合に発色しやすくなる。
【0018】
光輝材としては、アルミニウムの他、銅、ニッケル等の金属や、銅/亜鉛/鉄系、鉄/クロム/ニッケル/モリブデン系の合金などが挙げられるが、これらの中ではアルミニウムが好ましい。
光輝材のサイズは特に限定されないが、より高い高輝性を発現できる観点で、1〜20μmで、リン片状であり、一様に分散配列するものが好ましい。
【0019】
溶剤としては、塗料の溶剤として使用できるものであれば特に制限はないが、例えば、ミネラルスピリット、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン、オクタンなどの脂肪族炭化水素、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素、クロルベンゼン、トリクロルベンゼン、パークロルエチレン、トリクロルエチレンなどのハロゲン化炭化水素、メタノール、エタノール、n−プロピルアルコール、n−ブタノールなどのアルコール類、n−プロパノン、2−ブタノン、メチルエチルケトンなどのケトン類、酢酸エチル、酢酸プロピルなどのエステル類、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、エチルプロピルエーテルなどのエーテル類、その他テレビン油などが挙げられ、これらのうち1種以上を使用できる。
【0020】
透明フィルム13は、図1に示すように、インク層12側の表面が凹凸加工されている。
透明フィルム13の凹凸の凹部の深さ(D)は、1μm以上が好ましい。凹部の深さ(D)が1μm以上であれば、光が透明フィルム13の凹凸で乱反射しやすくなり、優れた立体意匠性を発現できる。光の乱反射による立体意匠性は、凹部の深さ(D)が深いほど発現されやすいが、深すぎるとインク層12と透明フィルム13とが熱圧着しにくくなる傾向にあり、インク層12が凹部内に十分に入り込みにくくなる。よって、凹部の深さ(D)の上限値は30μm以下が好ましい。
なお、凹部の深さ(D)は、任意に選択した10個の凹部の深さの平均値である。
【0021】
また、凹凸の凹部の間隔(W)は、1〜200μmが好ましい。凹部の間隔(W)が上記範囲内であれば、デザイン性を良好に維持できる。
なお、「凹部の間隔」とは、凹部の中心から隣接する凹部の中心までの距離のことであり、任意に選択した10個の凹部の間隔の平均値である。
【0022】
凹凸加工の方法としては特に制限されず、例えばエンボス加工、ヘアライン加工などが挙げられる。
エンボス加工を採用する場合は、ダイレクトエンボス加工が特に好ましい。一般的なエンボス加工では、所望の凹凸形状を有する型などを用いて透明フィルムを型押しすることでフィルム表面に凹凸の模様を転写させるが、加熱することで凹凸加工面が元の状態に戻る、いわゆる面戻りが起こる場合がある。対してダイレクトエンボス加工は、所望の凹凸形状を有する型に透明フィルムの原料となる樹脂等を流し込み、原料を固化させてフィルムを形成すると同時に、型の凹凸形状をフィルム表面に転写させる。従って、ダイレクトエンボス加工の場合は、加熱しても凹凸加工面が面戻りしにくく、凹凸形状をより良好に維持できる。
なお、凹凸の形状としては、図1に示すような錐体(円錐や角錐)状ものに限定されず、例えば柱体(円柱や角柱)状でもよい。
【0023】
透明フィルム13の材質としては、ポリカーボネート(PC)樹脂、アクリル樹脂、PVC樹脂、フッ素樹脂(ポリフッ化ビニリデン等)、PP樹脂、PE樹脂などの透明性を有する樹脂が挙げられる。中でもPC樹脂やアクリル樹脂により得られるフィルムは面戻りしにくい点で好ましい。ただし、これらの樹脂は加工性にやや劣るため、PET樹脂などの融点の低い樹脂を併用することが好ましい。
また、表面に凹凸加工された透明フィルム13としては、市販のものを使用してもよい。例えば五洋紙工株式会社製の「DCP50HL−22」などが好適である。
【0024】
表面フィルム14は、可飾フィルム10とした際に、透明フィルム13を介してインク層12を視認できる透明性を備えたフィルムである。
表面フィルム14の材質としては、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、フッ素樹脂などを使用できる。また、これらの樹脂からなるフィルムが複数積層した積層フィルムを使用してもよい。
表面フィルム14の厚さは特に制限されないが、50〜250μmであると、耐候性、成形性、加工性の点から好ましい。
【0025】
図1に示すように、本発明により得られる加飾フィルム10は、透明フィルム13のインク層12側の表面が凹凸加工されている(以下、凹凸加工された表面を「凹凸加工面13a」という。)。この凹凸加工により形成された凹凸の凹部内にインク層12が入り込むことで、表面フィルム14を通過した光が、透明フィルムの凹凸で乱反射する。その結果、加飾フィルム10は、見る角度によって複雑で深みのある色を放ち、立体的に見えるようになり、優れた立体意匠性を発現する。
【0026】
ここで、図1に示す加飾フィルム10の製造方法の一例について、図2〜3を用いて説明する。
本発明の加飾フィルムの製造方法は、基材フィルム上にインク層を形成するインク層形成工程と、インク層が形成された基材フィルム上に、一方の表面が凹凸加工された透明フィルムを凹凸加工面がインク層に接するように配して積層体とし、該積層体を熱圧着する熱圧着工程とを有する。
【0027】
インク層形成工程は、基材フィルム上にインク層を形成する工程である。インク層形成工程では、各種の印刷法や画像形成法により、基材フィルム上にインク層を形成してもよいが、基材フィルムがABS樹脂などの印刷適正を有さない樹脂からなる場合は、以下のようにしてインク層形成工程を行うのが好ましい。すなわち、剥離フィルムと、該剥離フィルム上に形成されたインク層とを有する転写フィルムから、前記インク層を基材フィルム上に転写する。
【0028】
ここで、転写フィルムとしては、鮮明なインク層を形成できるとともに離型性がよく転写しやすいことから、厚さ0.01〜0.05mmのPETフィルムを剥離フィルムとし、これに各種の印刷法や画像形成法でインク層を全面印刷したものが好ましい。
剥離フィルムとしては、PET以外に、例えばポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、フッ素系樹脂など他の樹脂フィルムを使用してもよいし、複数の樹脂の積層フィルムを使用してもよい。
【0029】
インク層は、上述したバインダ成分、顔料、および溶剤を含む塗料を使用した印刷法や画像形成法により、剥離フィルム上に形成される。
印刷法としては、グラビア印刷法、グラビアオフセット印刷法、オフセット印刷法、ドライオフセット印刷法、フレキソ印刷法、凸版印刷法、スクリーン印刷法、インクジェット印刷法、静電印刷法などが挙げられ、画像形成法としてはロールコート法、グラビアコート法、ナイフコート法、リップコート法、ダイコート法、コンマコート法などの各種コート法、フォトリソグラフ法、電子写真法、転写法などが挙げられる。
【0030】
剥離フィルム上に形成されるインク層の厚さは、0.5〜20μmが好ましい。インク層の厚さが0.5μm以上であれば、インク層が透明フィルム表面の凹凸を構成する凹部内に十分に入り込み、凹部内をインク層で充填できる。一方、インク層の厚さが20μm以下であれば、転写フィルムの取り扱い性や、後述のインク層付き基材フィルムの取り扱い性、加工性などを良好に維持できる。また、インクの凝集力を保持できる。
【0031】
転写フィルムを用いて基材フィルム上にインク層を形成する場合、具体的には以下のようにして行われる。
図2に示すように、基材フィルム11が第1の供給ロール20から繰り出され、一方、剥離フィルムの片面にインク層が形成された転写フィルム21が第2の供給ロール22から繰り出される。ついで、基材フィルム11と転写フィルム21とが、転写フィルム21に形成されたインク層(図示略)側が基材フィルム11に接するように積層した状態で、ラミネート装置23に供給され、インク層が基材フィルム11の表面に転写される。ついで、インク層が転写された基材フィルム(インク層付き基材フィルム)11’ は冷却ロール24で冷却され、一方、インク層が剥離した剥離フィルム21’は巻取機25により回収される。なお、ここで第1の供給ロール20および第2の供給ロール22の繰り出し速度は、4〜5m/分とされている。
【0032】
この例でラミネート装置23は、4つの単ロール23a,23b,23c,23dと、一対の転写ロール23e,23fとを備え、基材フィルム11と転写フィルム21とは単ロール23a,23b,23c,23dでそれぞれ所定の温度に加熱された後、転写ロール23e,23fに挟持され、インク層が転写されるようになっている。
ここで、符号23aで示される単ロールは印刷面を変形させないよう30〜80℃に、符号23bで示される単ロールは100〜170℃に、符号23cで示される単ロールは符号23dの単ロールよりも高温であるとともに単ロール23fと同じ温度であることが好ましく、具体的には130℃〜200℃が好ましい。符号23dで示される単ロールは100〜150℃にされることが好ましい。また、転写フィルム21と接触する側の転写ロール23eは室温とされている。
なお、これらロール23a,23b,23c,23d,23e,23fの温度は、基材フィルム11と転写フィルム21の位置が逆になった場合などには、適宜変更できる。
【0033】
このようにして得られたインク層付き基材フィルム11’は、110±5℃に制御された3つの単ロール26a,26b,26cにより予熱された後、熱圧着手段30へと供給され熱圧着工程が行われる。
【0034】
熱圧着工程は、インク層付き基材フィルム11’上に、一方の表面が凹凸加工された透明フィルムを凹凸加工面がインク層に接するように透明フィルムを配して積層体とし、該積層体を熱圧着する工程である。その際、図1に示すように、透明フィルム13の凹凸加工面13aとは反対側の表面13b上に、透明な表面フィルム14を配して行うのが好ましい。
【0035】
図3は熱圧着手段30の概略構成図であって、図示略の熱媒オイルが内部循環し、所定の温度に加熱された一対の加熱ロール31と、この加熱ロール31の後段側に設けられ、所定の温度以下に制御された一対の冷却ロール32と、加熱ロール31と冷却ロール32の同一側にそれぞれ掛け回された一対の無端金属ベルト33とを備えている。
ここで無端金属ベルト33の対向する表面は、互いに所定の間隔を有して配置されているとともに、それぞれ鏡面仕上げされたステンレス製の押圧面33a,33bになっている。また、この熱圧着手段30には、炭化水素合成油のような流体圧力媒体の圧入によりこれら押圧面33a,33b同士が近づくように作用する、一対の加圧手段34がさらに備えられていて、圧入する流体圧力媒体の供給量を変化させることにより押圧面33a,33b同士を近づける際の圧力を制御でき、流体圧力媒体の温度を変化させることにより押圧面33a,33bの表面温度を制御できるようになっている。なお、この例の一対の加圧手段34は、前段側34aと後段側34bに2分割されていて、各々について流体圧力媒体の供給量および温度を独立に制御できるようになっている。また、押圧面33a,33bは鏡面仕上げされたステンレス製であるため、表面フィルム14を鏡面仕上げすることができる。
【0036】
熱圧着工程では、無端金属ベルト33の対向する押圧面33a,33bの間に挟持されるように、インク層付き基材フィルム11’と、第3の供給ロール27から繰り出された後110±5℃の単ロール29で予熱され、インク層付き基材フィルム11’のインク層と接する側に凹凸加工面が向けられた透明フィルム13と、第4の供給ロール28から繰り出された表面フィルム14とを供給する。
【0037】
するとこれら3枚のフィルムは積層し、この積層体10’は、加熱ロール31に加熱された無端金属ベルト33により150〜200℃程度まで均一に加熱される。ついで、透明フィルム13を形成している樹脂の熱変形温度以下に温度制御された流体圧力媒体が、加圧手段34の前段側34aおよび後段側34bに圧入され、押圧面33a,33b同士が接近して積層体10’を挟持し、1.8〜3.5MPa程度の圧力で押圧、成形した後、冷却ロール21で冷却する。
【0038】
その結果、インク層付き基材フィルム11’のインク層が形成された側の面に、凹凸加工面が接して透明フィルム13が熱圧着するとともに、透明フィルム13の凹凸加工面とは反対側の面に、表面フィルム14が熱圧着する。
ついで、この積層体10’は、押圧面33a,33bに挟持された状態で一対の冷却ロール32側へと送られ、この冷却ロール32の作用により70℃以下まで均一に冷却される。
その結果、図1に示すような、基材フィルム11の上にインク層12が形成され、さらに透明フィルム13および表面フィルム14が順次積層した加飾フィルム10が得られる。
【0039】
このように熱圧着工程においては、積層体10’が無端金属ベルト33により加熱され、押圧面33a,33bに挟持されて押圧されるときに、透明フィルム13表面の凹凸を構成する凹部内にインク層が入り込みながら熱圧着されるので、凹凸がインク層によって補強される。従って、熱圧着工程において透明フィルムの凹凸が潰れたり変形したりすることなく、凹凸形状を良好に保つことができる。その結果、表面フィルム14を通過した光が、透明フィルム13の凹凸で乱反射でき、優れた立体意匠性を発現できる加飾フィルムが得られる。
【0040】
また、得られる加飾フィルム10は、通常、インサート成形により樹脂成形体と一体化して加飾積層体として用いられる。インサート成形時には、温度や圧力が加わるものの、透明フィルム13の凹凸は、凹部内にインク層が入り込むことで補強されているので、インサート成形時に透明フィルム13の凹凸が潰れたり変形したりしにくい。
また、インサート成形の際は、加飾フィルムを金型のキャビティ内に配置し、基材フィルム側の表面と溶融樹脂とが接するようにキャビティ内に溶融樹脂を注入する。溶融樹脂と接する基材フィルムの表面は、特許文献1に記載の化粧シートとは異なり凹凸が形成されていないので、溶融樹脂が容易に基材フィルムの表面上に行渡りやすく、加飾フィルムと樹脂成形体との密着性に優れた加飾成形体が得られる。
従って、本発明により得られる加飾フィルム10は、インサート成形時の加工適正を有するので、インサート成形に好適である。なお、加飾フィルムは、インサート成形以外にも、例えば予め樹脂成形体を作製し、これを金型の代わりに用いる、いわゆるTOM成形に適用することもできる。
【0041】
本発明により得られる加飾フィルム10は、表面フィルム14を備えていなくても優れた立体意匠性を発現でき、かつインサート成形時の加工適正を有するが、透明フィルム13上に表面フィルム14を設けることで、表面フィルム14が保護フィルムの役割を果たすので、加飾フィルム10の耐性(耐候性、耐薬品性、耐水性など)が向上する。
【0042】
また、本発明により得られる加飾フィルム10は上述したものに限定されず、例えば図4に示すように表面フィルム14の透明フィルム13側の表面に、透明な図柄層15が形成されていてもよい。図柄層15が形成されている場合は、該図柄層15を介して透明フィルム13の凹凸やインク層12を見ることになる。よって、図柄層15により形成される模様と、透明フィルム13の凹凸で起こる乱反射とが相まって、より複雑で深みがあり、立体意匠性に優れた加飾フィルムが得られる。
【0043】
透明フィルム13と表面フィルム14との間に図柄層15を形成するには、予め表面フィルム14の一方の表面に各種の印刷法や画像形成法で、図柄層15を所望の模様になるようにパターン印刷し、これを図柄層15が透明フィルム13と接するように配して、熱圧着工程を行えばよい。
【0044】
表面フィルム14が印刷適正を有さない樹脂からなる場合は、上述したようなインク層形成工程と同様にして、表面フィルム14の一方の表面に図柄層15を形成すればよい。すなわち、剥離フィルムと、該剥離フィルム上に形成された図柄層とを有する転写フィルムから、前記図柄層を表面フィルム上に転写する。転写フィルムは、剥離フィルム上に上述した印刷法や画像形成法で図柄層をパターン印刷したものを用いればよい。
【0045】
図柄層15を形成するインクとしては、透明であれば特に限定されず、上述した印刷法や画像形成法で用いられる通常の塗料を使用できる。
図柄層15の厚さは、0.5〜10μmが好ましい。
【0046】
なお、本発明の加飾フィルムの製造方法は上述した方法に限定されない。例えば、熱圧着工程について図3に示すような加熱ロールと冷却ロールを備えたダブルベルト式プレス装置を用いて説明したが、これに限定されず、バッチ式プレス装置や一対の加熱ロールを使用して熱圧着工程を行ってもよい。
ただし、バッチ式プレス装置の場合は、作業性が低下しやすく、生産性に劣っている。また、プレス装置の処理限度を超えた大きさの加飾フィルムを製造することができないので、サイズ適応性にも乏しい。
【0047】
一方、一対の加熱ロールにより熱圧着する場合、加飾フィルムを連続的、効率的に製造できるが、以下に示すことが懸念される。
一対の加熱ロールは、一方のロールが高温に加熱された金属ロールであり、この加熱ロールを通過するときに熱や圧力を加えながら対象物(積層体)を熱圧着する。そして、熱圧着した積層体を加熱ロールから引き出した後に冷却するが、金属ロールが高温に加熱されているため、積層体が金属ロールから剥がれにくい。そこで、積層体を加熱ロールから引き出す際は、積層体を金属ロールから剥がすのに十分な力で引っ張る必要があるが、透明フィルムの凹凸に過剰な力が加わりやすくなり、凹凸が潰れる場合がある。凹凸が潰れると、十分な立体意匠性が発現されにくくなる。
【0048】
対して、図3に示すようなダブルベルト式プレス装置は、加熱ロール31で加熱された無端金属ベルト33により対象物を均一に加熱できるとともに、加圧手段34の作用により均一な圧力で押圧、冷却でき、加飾フィルムを連続的、効率的に製造できるので、可飾フィルムの製造に好適である。
また、積層体10’が加熱ロール31を通過するときは、熱圧着するほどの圧力や温度が加わっていないので、積層体10’は加熱ロール31から容易に離れる(剥がれる)。そのため、積層体10’は、透明フィルム13の凹凸に過剰な力が加わることなく加熱ロール31から引き出される。さらに、積層体10’が冷却ロール32を通過するときは、積層体10’は冷却されているので冷却ロール32から容易に離れる。そのため、積層体10’は透明フィルム13の凹凸に過剰な力が加わることなく冷却ロール32から引き出される。仮に、透明フィルム13の凹凸に過剰な力が加わったとしても、凹凸はインク層により補強されているので、潰れたり変形したりしにくい。
【0049】
なお、図3に示す加圧手段34は、この例のように流体圧力媒体を使用するタイプのものでなくてもよいし、前段側34aと後段側34bに2分割されたタイプでなくてもよい。
また、以上の説明では鏡面仕上げされたステンレス製の押圧面33a,33bを用いることで、表面フィルム14を鏡面仕上げする場合について例示したが、鏡面仕上げは必要に応じて行えばよく、必ずしも実施しなくてもよい。
【0050】
以上説明した、本発明の加飾フィルムの製造方法によれば、予め基材フィルム上にインク層を形成し、このインク層上に凹凸加工面が接するように透明フィルムを配して積層体とし、該積層体を熱圧着する。その際、透明フィルム表面の凹凸を構成する凹部内にインク層が入り込みながら熱圧着されるので、凹凸がインク層によって補強される。従って、熱圧着工程において透明フィルムの凹凸が潰れたり変形したりすることなく、凹凸形状を良好に保つことができる。その結果、表面フィルムを通過した光が、透明フィルムの凹凸で乱反射でき、優れた立体意匠性を発現できる加飾フィルムが得られる。
また、このようにして得られた本発明の加飾フィルムは、インサート成形等により樹脂成形体と一体化して加飾成形体とする際に、透明フィルムの凹凸が潰れたり変形したりしにくい。よって、加飾フィルムはインサート成形時の加工適正を有する。
【0051】
このようにして得られた本発明の加飾フィルムは、インサート成形等により樹脂成形体と一体化して、例えば図5に示す加飾成形体40として自動車の内外装部品などに用いられる。
具体的には、加飾フィルム10を金型のキャビティ内に配置し、該キャビティ内に溶融樹脂を注入して、加飾フィルム10の基材フィルム側の表面に溶融樹脂からなる樹脂成形体41を融着、一体化させる一体成形工程を経て、加飾成形体40を得る。
溶融樹脂としては、ABS樹脂、PVC樹脂、PP樹脂、PE樹脂などが挙げられる。
【0052】
インサート成形時の条件(温度や圧力)としては特に限定されず、溶融樹脂の種類などによって適宜設定すればよい。
インサート成形時には、温度や圧力が加わるものの、可飾フィルム10を構成する透明フィルム13の凹凸は、凹部内にインク層が入り込むことで補強されているので、インサート成形時に透明フィルム13の凹凸が潰れたり変形したりしにくい。従って、得られる加飾成形体40は優れた立体意匠性を発現できる。
また、インサート成形の際は、加飾フィルムの基材フィルム側の表面と溶融樹脂とが接するようにキャビティ内に溶融樹脂を注入する。溶融樹脂と接する基材フィルムの表面は、特許文献1に記載の化粧シートとは異なり凹凸が形成されていないので、溶融樹脂が容易に基材フィルムの表面上に行渡りやすく、加飾フィルムと樹脂成形体との密着性に優れた加飾成形体が得られる。
【0053】
なお、加飾成形体を製造する方法としては、上述した方法に限定されず、例えば予め樹脂成形体を作製し、該樹脂成形体と加飾フィルムとを接着剤を介して熱圧着させて製造してもよい。また、予め樹脂成形体を作製し、これを金型の代わりに用いる、TOM成形法により加飾成形体を製造してもよい。
このようにして得られる本発明の加飾成形体は、自動車の内外装部品のほか、家電、OA機器、建材など種々の用途に使用できる。
【実施例】
【0054】
以下、本発明について実施例を示して具体的に説明する。
[実施例1]
図2〜3に示す装置、および以下に示すフィルム材料を用いて、図1の加飾フィルム10を製造した。
すなわち、基材フィルム11と転写フィルム21とを、転写フィルム21に形成されたインク層側が基材フィルム11に接するように積層した状態で、ラミネート装置23に供給し、インク層を基材フィルム11上に転写し、インク層付き基材フィルム11’を得た。転写フィルム21の剥離フィルム21’は巻取機25により回収した。
引き続き、インク層付き基材フィルム11’を冷却ロール24により冷却し、熱圧着手段30に供給した。そして、無端金属ベルト33の対向する押圧面33a,33bの間に挟持されるように、インク層付き基材フィルム11’ のインク層上に、凹凸加工面が接するように透明フィルム13を配し、さらに該透明フィルム13上に表面フィルム14を配し、これら(積層体10’)を加熱ロール31に加熱された無端金属ベルト33により加熱した。ついで、加圧手段にて押圧面33a,33b同士を接近させて積層体10’を挟持し、押圧、成形するとともに、冷却ロール32にて冷却し、図1に示す加飾フィルム10を得た。
なお、装置の各種条件、加飾フィルム10の製造方法は、先に記載した通りである。
得られた加飾フィルムは、優れた立体意匠性を発現できた。
【0055】
ついで、得られた加飾フィルム10を金型のキャビティ内に配置した後、加飾フィルム10の基材フィルム11側に溶融状態のABS樹脂が接するように、キャビティ内にABS樹脂を注入し、加飾フィルム10が表面に設けられた加飾成形体を製造した。
得られた加飾成形体は、可飾フィルムの立体意匠性を十分に発現できた。また、加飾フィルム10はインサート成形時の加工適正を有していた。
【0056】
ここで、実施例1で用いたフィルム材料を以下に示す。
1)基材フィルム11:信越ポリマー株式会社製のABS樹脂フィルム(F975BR448)、厚さ0.36mm。
2)透明フィルム13:五洋紙工株式会社製のPC/PETダイレクトエンボスフィルム(DCP50HL−22)、厚さ0.05mm、凹部の深さ2.7μm。
3)表面フィルム14:住友化学工業株式会社製のアクリル樹脂フィルム(S001)、厚さ0.075mm。
4)転写フィルム21:日本デコール株式会社製のメタリックシルバーベタ印刷TPフィルム(TPフィルム(剥離フィルム)上にメタリックシルバー(インク層)が全面印刷されたフィルム)、インク層の厚さ5μm。
【0057】
[比較例1]
透明フィルム13を用いなかった以外は、実施例1と同様にして加飾フィルムおよび加飾成形体を製造した。得られた加飾フィルムおよび加飾成形体は、立体成形性が発現されなかった。
【符号の説明】
【0058】
10:加飾フィルム、10’:積層体、11:基材フィルム、12:インク層、13:透明フィルム、13a:凹凸加工面、14:表面フィルム、15:図柄層、30:熱圧着手段、31:加熱ロール、32:冷却ロール、33:無端金属ベルト、33a,33b:押圧面、34:加圧手段、40:加飾成形体、41:樹脂成形体。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材フィルム上にインク層を形成するインク層形成工程と、インク層が形成された基材フィルム上に、一方の表面が凹凸加工された透明フィルムを凹凸加工面がインク層に接するように配して積層体とし、該積層体を熱圧着する熱圧着工程とを有することを特徴とする加飾フィルムの製造方法。
【請求項2】
前記インク層形成工程は、剥離フィルムと、該剥離フィルム上に形成されたインク層とを有する転写フィルムから、前記インク層を基材フィルム上に転写して行うことを特徴とする請求項1に記載の加飾フィルムの製造方法。
【請求項3】
前記熱圧着工程は、透明フィルムの凹凸加工面とは反対側の表面上に、透明な表面フィルムを配して行うことを特徴とする請求項1または2に記載の加飾フィルムの製造方法。
【請求項4】
前記表面フィルムは、透明フィルム側の表面上に透明な図柄層が形成されたことを特徴とする請求項3に記載の加飾フィルムの製造方法。
【請求項5】
前記熱圧着工程は、一対の加熱ロールと、該加熱ロールの後段側に設けられた一対の冷却ロールと、前記加熱ロールと冷却ロールの同一側にそれぞれ掛け回され、対向する表面が前記積層体を挟持して押圧する押圧面である一対の無端金属ベルトと、該無端金属ベルトの前記押圧面同士が近づくように作用する一対の加圧手段とを備えた熱圧着手段を用いて行うことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の加飾フィルムの製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の方法で製造された加飾フィルムを金型のキャビティ内に配置し、該キャビティ内に溶融樹脂を注入して、前記加飾フィルムの基材フィルム側の表面に溶融樹脂からなる樹脂成形体を融着、一体化させる一体成形工程を有することを特徴とする加飾成形体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−79273(P2011−79273A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−235213(P2009−235213)
【出願日】平成21年10月9日(2009.10.9)
【出願人】(000190116)信越ポリマー株式会社 (1,394)
【Fターム(参考)】