説明

動力伝達軸

【課題】CFRP(炭素繊維強化プラスチック)製の中間シャフトの端部にジョイントを取り付けた動力伝達軸の軸方向寸法を短くする。
【解決手段】中空円筒状のCFRP製シャフトSと外側継手部材10の外周にオス歯型部位16を形成した等速ジョイントJ1とからなり、CFRP製シャフトSに外側継手部材10を圧入することにより両者を結合した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は動力伝達軸、より詳しくは、CFRP(炭素繊維強化プラスチック)製の中間シャフトの端部に等速ジョイントを取り付けた動力伝達軸における等速ジョイントと中間シャフトとの結合構造に関するもので、たとえば自動車の推進軸(プロペラシャフト)に利用することができる。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車には環境保護、省エネルギーといった観点から軽量化の要求が益々高まっている。このような状況下、自動車用プロペラシャフトの材料に軽量・高強度・高捩り剛性を兼ね備えたCFRPを採用する事例が増えている。特許文献1には、図9に示すように、CFRP製の中間シャフトとその両端に取り付けたクロスジョイントとで構成されたプロペラシャフトが開示されている。
【0003】
プロペラシャフトのジョイントとしては、一般的に作動角が小さい(1°程度)ことから、等速性を有しないクロスジョイント(カルダンジョイントまたは十字軸継手とも呼ばれる)が使われている。しかし、作動角が大きくなる車両や低振動が要求される車両には等速ジョイントが使用される。周知のとおり、クロスジョイントの場合、原動軸の角速度が一定でも従動軸の角速度が変化し、作動角が大きくなるほどその傾向が強い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−177811号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
図9に示すように、クロスジョイントJcは、十字軸またはクロスピン6と一対のヨーク2a、4aとで構成され、クロスピン6の4本のジャーナルに針状ころを介してヨーク2a、4aが組み付けてある。一対のヨーク2a、4aは互に直交している。符号2はヨーク2aのフランジ部分を指し、符号4はヨーク4aの軸部をさしている。このようなジョイントの構造上、ジョイント外周に別の部品をはめ合わせることはできない。このため、クロスジョイントJcとCFRP製中間シャフトSを結合するためには、ジョイント中心すなわちクロスピン6から軸方向に離れた位置に、中間シャフトSとの嵌合部を設ける必要がある。図9の場合、ヨーク4aの軸部4がその嵌合部に相当する。すなわち、軸部4にセレーション状オス歯型部位を成形し、この歯型部位を中間シャフトSの端部内周面に食い込ませることによって中間シャフトSとクロスジョイントJcとを一体化させてある。
【0006】
したがって、符号Lcで示すジョイント部分の軸方向長さが長くなり、それに伴ってプロペラシャフトアセンブリ全体も長くなる、という問題があった。この発明の主要な課題は、動力伝達軸の軸方向寸法を短くすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明は、クロスジョイントに代えて等速ジョイントを採用し、等速ジョイントの外側継手部材の外周にCFRP製中間シャフトとの嵌合部を設けることによって課題を解決したものである。すなわち、この発明の動力伝達軸は、中空円筒状のCFRP製シャフトと、外側継手部材の円筒状外周にオス歯型部位を形成した等速ジョイントとからなり、前記CFRP製シャフトに前記外側継手部材を内嵌圧入したことを特徴とするものである。
【0008】
上に述べた等速ジョイントでは、外側継手部材以外のジョイント要素(たとえば固定式等速ジョイントやダブルオフセット型等速ジョイントの場合は内輪とボールとケージ、トリポード型等速ジョイントの場合はトラニオンと針状ころ,ローラ)をすべて外側継手部材の内側に収納しているため、外側継手部材の外周面を任意の形状に設定でき、そしてそこに別の部品を付帯させることができる。したがってまた、CFRP製シャフトの内側に等速ジョイント本体を収納することが可能となる。このため、オス歯型部位を同じ長さとし、ジョイント全体の軸方向長さを比較すると、等速ジョイントの方がクロスジョイントよりも短い、つまり、軸方向にコンパクトな設計を採ることが可能となる。
【0009】
請求項2の発明は、請求項1の動力伝達軸において、CFRP製シャフトに外側継手部材を圧入する前の状態で、前記オス歯型部位の大径が前記CFRP製シャフトの内径よりも大きいことを特徴とするものである。このようにすることで、円筒状外側継手部材外径面を、圧入のためのオス側歯状部材とすることができ、この歯型からなる部位がCFRP製シャフト円筒内径面に噛み込むように圧入できるため、確実にトルク伝達することが可能となる。
【0010】
請求項3の発明は、請求項1または2の動力伝達軸において、前記オス歯型部位の圧入開始側端部に、前記CFRP製シャフトの内径よりも小径のパイロット部を設けたことを特徴とするものである。このパイロット部は外側継手部材をCFRP製シャフトに圧入するときの案内作用を発揮する。すなわち、中間シャフトの中心軸に対して外側継手部材の中心軸をほぼ平行に保つことが可能となり、外側継手部材を斜めに圧入することがなくなる。したがってまた、斜めに圧入しないように細心の注意を払わなくてもよくなり、圧入作業が容易となる。
【0011】
請求項4の発明は、請求項1〜3のいずれか1項の動力伝達軸において、前記外側継手部材に、前記オス歯型部位の大径よりも小径のブーツ取付け部を設けたことを特徴とするものである。どの程度小径とするかは、当該ブーツ取付け部に取り付けたブーツの端部(ブーツバンドを含む)の最大径がオス歯型部位よりも小径となる程度である。等速ジョイントでは、内部に充填したグリース等の潤滑剤の漏洩を防止するとともに外部から異物が侵入するのを防止するため、ブーツを装着して使用するのが一般的である。そして、通常、ブーツの一方の端部を外側継手部材に固定し、他方の端部を内側継手部材と接続したシャフトとに固定する。したがって、外側継手部材にブーツ取付け部を設ける必要がある。
【0012】
請求項5の発明は、請求項4の動力伝達軸において、外側継手部材の大径部(オス歯型部位)から小径部(ブーツ取付け部)にかけて、中心軸線に対して垂直な平面部を設けたことを特徴とするものである。このような構成を採用することにより、上に述べた寸法関係すなわち、外側継手部材のブーツ取付け部に配置したブーツ(またはブーツアダプタ)の端部の最大径がオス歯型部位の大径よりも小径となる寸法関係とあいまって、当該平面に圧入用治具を当てることが可能となる。
【0013】
また、あらかじめ等速ジョイントを組み立てておき、アセンブリ状態でCFRP製シャフトに圧入することができる。たとえば固定式等速ジョイントやダブルオフセット型等速自在継手といったボールタイプの等速ジョイントの場合、まず外輪をCFRP製シャフトに圧入し、その後、外輪内にケージ、内輪、ボールを組み付け、さらにスタブシャフト、ブーツを組み付けて等速ジョイントを組み立てる、といった工程を経る必要がない。したがって、プロペラシャフトアセンブリの組み立て作業の能率が向上する。
【0014】
請求項6の発明は、請求項5の動力伝達軸において、前記CFRP製シャフトの圧入開始側端面と前記平面を同一平面としたことを特徴とするものである。このような構成は、上記圧入用治具を上記平面よりも外径側に張り出させた状態で圧入を実行することによって実現する。このように圧入基準面を明確にすることで、組立て精度(圧入による軸方向の位置決め)が向上する。
【0015】
請求項7の発明は、請求項5または6の動力伝達軸において、前記CFRP製シャフトの圧入開始側端面と前記平面部との間にシール剤を塗布したことを特徴とするものである。具体的には、CFRP製シャフトと外側継手部材の嵌合部の端面にシール剤を塗布する。これにより、水が浸入することを防ぐことができる。
【0016】
請求項8の発明は、請求項7の動力伝達軸において、前記CFRP製シャフトの端面と前記平面部とにシール剤溜りを設けたことを特徴とするものである。これにより、シール剤を安定して付着させることができる。シール剤溜りの具体的な形態は種々考えられるが、一例を挙げるならば、外側継手部材とCFRP製シャフトの双方に面取りを施して、V字形断面や半円形断面の環状溝の形態とすることができる。
【0017】
請求項9の発明は、請求項1〜8のいずれか1項の動力伝達軸において、前記等速ジョイントがトラックオフセットタイプの固定式等速ジョイントであることを特徴とするものである。
【0018】
請求項10の発明は、請求項1〜8のいずれか1項の動力伝達軸において、前記等速ジョイントがトリポード型等速ジョイントであることを特徴とするものである。
【0019】
請求項11の発明は、請求項1〜8のいずれか1項の動力伝達軸において、前記等速ジョイントがダブルオフセット型等速ジョイントであることを特徴とするものである。
【0020】
請求項12の発明は、請求項1〜11の動力伝達軸において、自動車のプロペラシャフトであることを特徴とするものである。
【0021】
請求項13の発明は、外周面にオス歯型部位を設けた等速ジョイントの外側継手部材であって、上述の動力伝達軸のサブコンビネーションにあたる。
【発明の効果】
【0022】
この発明によれば、CFRP製の中間シャフトと、前記中間シャフトの両端に取り付けたジョイントとからなるプロペラシャフトアセンブリにおいて、ジョイントに等速ジョイントを採用することにより、外側ジョイント部材の外周に中間シャフトとの嵌合部を設けることが可能となる。したがって、従来のようにジョイントの連結部から軸方向に離れた位置に嵌合部を設ける必要がなくなるため、軸方向にコンパクトなプロペラシャフトアセンブリが実現する。また、軽量・高強度・高捩り剛性 を兼ね持つCFRP部材をプロペラシャフトの中間シャフトに適用する事で、大幅な軽量化を実現することができる。
【0023】
しかも、等速ジョイントを採用することにより、軸方向にコンパクトなプロペラシャフトアセンブリを提供することができることに加えて、クロスジョイントの不等速性に起因した振動問題が解消し、その結果、低振動化も達成することができる。
【0024】
また、あらかじめ等速ジョイントをアセンブリ化した上で中間シャフトに圧入するという組み付け工程を採ることができるため、プロペラシャフトアセンブリの組立作業の簡素化を図ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】実施例を示すプロペラシャフトアセンブリの部分縦断面図である。
【図2】図1のII−II断面図である。
【図3】等速ジョイントと中間シャフトの圧入前の状態を示す縦断面図である。
【図4】外側継手部材と中間シャフトの圧入前段階を示す部分拡大断面図である。
【図5】別の実施例を示す図1と類似の部分縦断面図である。
【図6】部分拡大断面図である。
【図7】別の実施例を示す図1と類似の部分縦断面図である。
【図8】別の実施例を示す図1と類似の部分縦断面図である。
【図9】従来のプロペラシャフトアセンブリの部分縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、図面に従ってこの発明の実施の形態を説明する。まず、固定式等速ジョイントに適用した場合を例にとって説明する。
【実施例1】
【0027】
図1に示すように、中間シャフトSと、中間シャフトSの端部に取り付けた等速ジョイントJ1とでプロペラシャフトアセンブリを構成している。なお、図1は図2のI−I線
断面図に相当し、図2は図1のII−II線断面図に相当する。
【0028】
中間シャフトSはCFRP製の中空円筒体で、図1にはその一端部のみを示してあり、図1に現われていないもう一方の端部も同様の構造である。
なお、ここでは、CFRPを用いた中間シャフトSの製造方法や材料プラスチックの詳細については特に限定するものではない。たとえば、製造方法としてはフィラメントワインディング法、シートワインディング法、引き抜き成形法(Pultrusion Process)、プリプレグシートのローリング成形法などが知られている。また、強化繊維たる炭素繊維の種類や巻き角度等についても特に限定するものではない。
【0029】
等速ジョイントJ1は、トラックオフセットタイプの固定式等速ジョイントの例であり、外側継手部材としての外輪10と、内側継手部材としての内輪20と、トルク伝達部材としての複数のボール30と、ケージ32を有する。
【0030】
外輪10はディスク型で、凹球面状の内周面12を有し、その内周面12には、中心軸線と平行な複数のボール溝14が円周方向に等間隔に形成してある。外輪10の外周面は大径部16と小径部18とからなり、大径部16の軸方向寸法すなわち長さを符号Lで示してある。
【0031】
内輪20は球面状の外周面22を有し、その外周面22に、中心軸線と平行な複数のボール溝24が円周方向に等間隔に形成してある。内輪20は軸心部にセレーション孔(またはスプライン孔、以下同じ)26を有し、スタブシャフト40のセレーション軸(またはスプライン軸、以下同じ)42とトルク伝達可能に接続している。スタブシャフト40に形成した環状溝48に止め輪28を装着することによって内輪20の位置決めと抜け止めがしてある。スタブシャフト40は、セレーション軸42とは反対側の端部にフランジ46が形成してあり、それらの中間部にブーツ溝44が形成してある。破線で示してあるようにフランジ46には締結用ボルトのための貫通穴が形成してある。
【0032】
外輪10のボール溝14と内輪20のボール溝24は、それぞれ中心軸線上に曲率中心O1、O2をもった円弧状である。外輪10のボール溝14の曲率中心O1と内輪20のボール溝24の曲率中心O2は、等速ジョイントJ1の折り曲げ中心Oをはさんで互いに反対側に等距離だけオフセットさせてある(トラックオフセットタイプ)。外輪10のボール溝14と内輪20のボール溝24は対をなし、各対のボール溝14、24間に1個ずつ、ボール30が組み込んである。ボール30の数とボール溝16、26対の数は任意であるが、たとえば6個、8個などが知られている。
【0033】
ケージ32は外輪10の内周面14と内輪20の外周面24との間に介在させてある。ケージ32は、円周方向に所定の間隔で、ボール30を収容するためのポケット34が形成してある。各ポケット34はケージ32を半径方向に貫通している。すべてのボール30がケージ32によって同一平面に保持される。
【0034】
外輪10の大径部16は中心軸線と平行な多数のオス歯型を形成したオス歯型部位としてある。したがってオス歯型部位にも符号16をあてることとする。オス歯型の代表例としてはセレーションを挙げることできるが、スプラインその他の類似形状を採用することも可能である。オス歯型形状に関わりなく、中間シャフトSの端部に圧入する前の状態で、オス歯型部位16の大径が中間シャフトSの端部の内径よりも大きくなるように設定する。そして、このオス歯型部位16を中間シャフトSに圧入すると、中間シャフトSの内周面にオス歯型が転写され、これにより外側ジョイント部材10と中間シャフトSが互いにかみ合ってトルク伝達可能に一体化される。
図1に示すように、オス歯型部位を形成すべき外輪10の大径部16は、外輪10の軸方向で見て継手中心Oを含む一定領域、具体的には図1の場合長さLの領域である。当該領域で中間シャフトSの端部と圧入により結合することにより、図9に関連して既に述べた従来の構造と比べて、曲げモーメントによる歯面への負荷が低減され、強度的に有利となる。
【0035】
外輪10の小径部18はブーツ取付け部となる。図6に示すように、外輪10の小径部18には凹部18aと環状溝18bが設けてある。凹部18aは小径部18から大径部16にかけて延在している中心軸線に対して垂直な平面17と小径部18が会合する領域に位置し、全周にわたって連続していても、あるいは断続的であってもよい。環状溝18bはその凹部18aとは反対側の小径部18の端部に位置している。
【0036】
ブーツ50は、ゴム製のブーツ本体52と金属製のアダプタ54とで構成される。ブーツ本体52は、U字形ないしはJ字形の断面形状を有し、大径側の端縁52aをアダプタ54の小径側端部54bに巻き込ませることによって固定してある。また、ブーツ本体52の小径側端部52bはスタブシャフト40のブーツ溝44にはめ合わせ、ブーツバンド56で締め付けて固定する。アダプタ54の大径部54aは外輪10の小径部18すなわちブーツ取付け部に嵌合させる。小径部18の凹部18aに押し込むようにアダプタ54の大径部54aの端縁をかしめて抜け止めをする。また、小径部18の環状溝18bにOリング58を装着する。
【0037】
外輪10の、ブーツ50とは反対側の開口端部にエンドキャップ60を装着する。なお、外輪10を図示するようなディスク型に代えて有底のカップ状とすることによりエンドキャップ60を廃止することも可能である。
【0038】
図1に示す等速ジョイントJ1の軸方向長さLjと、図9に示す従来例におけるクロスジョイントJcの軸方向長さLcを対比すると、同じ長さLのオス歯型部位を確保しているにもかかわらず、Lj<Lcの関係すなわち、等速ジョイントJ1の軸方向長さLjの方がクロスジョイントJcの軸方向長さLcよりも短いことが見て取れる。
【0039】
上に述べた等速ジョイントJ1では、外輪10以外のジョイント要素すなわち内輪20とボール30とケージ32をすべて外輪10の内側に収納しているため、外輪10の円筒状外周面を任意の形状に設定でき、そしてそこに別の部品を付帯させることができる。したがって、中間シャフトSの円筒状内側に等速ジョイントJ1本体を収納することが可能となる。このため、オス歯型部位を同じ長さ(=L)とし、ジョイント全体の軸方向長さを比較すると、等速ジョイントJ1の方がクロスジョイントJcよりも短い(Lj<Lc)、つまり、軸方向にコンパクトな設計を採ることが可能となる。
【0040】
図3に示すように、ブーツ50を構成するアダプタ54の外径Dbを、外輪10のオス歯型部位16の外径Dcsよりも小さくし、小径部18から大径部16にかけて延在する中心軸線に対して垂直な平面17を設ける。この平面17は、外輪10を中間シャフトSに圧入するときの治具を当てる面として利用することができる。その結果、あらかじめ等速ジョイントJ1を組み立てておき、アセンブリ状態で中間シャフトSに圧入することができる。言い換えるならば、まず外輪10を中間シャフトSに圧入し、その後、外輪10にケージ32、内輪20、ボール30、スタブシャフト40、ブーツ50を組み付けて等速ジョイントJ1を組み立てる、といった工程を経る必要がない。したがって、プロペラシャフトアセンブリの組立作業の能率が向上する。
【0041】
図4に示すように、外輪10のオス歯型部位16の端面側に小径のパイロット部15を設けてもよい。パイロット部15の外径Djcは中間シャフトSの内径Dcfより小さくする。パイロット部15は外輪10を中間シャフトSに圧入するときの案内作用を発揮する。すなわち、中間シャフトSの中心軸に対して外輪10の中心軸をほぼ平行に保つことが可能となり、外輪10を斜めに圧入することがなくなる。もちろんパイロット部15の先端には図示するように面取りを施すのが好ましい。
【0042】
図5に示すように、中間シャフトSと外輪10の嵌合部の端面にシール剤62を塗布してもよい。これにより、圧入嵌合面および中間シャフトSの内径面に水が浸入することを防ぐことができる。また、シール剤を安定して付着させるために、図6に示すようにシール剤溜り64を設けてもよい。図6は、外輪10と中間シャフトSの双方に面取りを施してV字形断面の環状溝の形態をしたシール剤溜り64を設けた例である。V字形断面に変えて半円形断面その他の任意の形状とすることも可能である。
【0043】
上述の各実施例は固定式等速ジョイントに適用した例であるが、しゅう動式等速ジョイントにも同様に適用することができる。しゅう動式等速ジョイントの例としてはダブルオフセット型等速ジョイントやトリポード型等速ジョイントを挙げることができる。
【0044】
ダブルオフセット型等速ジョイントJ2は、図7に示すように、外側継手部材としての外輪110と、内側継手部材部材としての内輪120と、トルク伝達部材としての複数のボール130と、ケージ132を有している。なお、ブーツ50については図1に関連してすでに述べたとおりであるので図1と同じ符号をあてることとし、重複した記述は省略する。
【0045】
外輪110は一端にて開口したカップ状で、円筒形状の内周面112を有している。その内周面112には、軸線と平行なボール溝114が円周方向に等間隔で形成してある。外輪110の外周は、大径部(オス歯型部位)116と小径部118とからなり、オス歯型部位116を中間シャフトSに圧入してある。ここでも小径部118から大径部116にかけて延在する中心軸線に垂直な平面117が設けてある。
【0046】
内輪120は球面状の外周面122を有し、その外周面122に、軸線と平行なボール溝124が円周方向に等間隔で形成してある。内輪120は、その軸心部に形成したセレーション孔126で、スタブシャフト40のセレーション軸42とトルク伝達可能に接続している。スタブシャフト40の環状溝48に止め輪128を装着することによって内輪120の位置決めと抜け止めがしてある。スタブシャフト40は図1の実施例について述べたとおりであるので図1と同じ符号をあてることとし、重複した記述は省略する。
【0047】
外輪110のボール溝114と内輪120のボール溝124は対をなし、各対のボール溝114、124間に1個ずつ、ボール130が介在させてある。ここでも、ボール130の数とボール溝114、124対の数は任意であるが、たとえば6個、8個などが知られている。
【0048】
ケージ132は概ねリング状で、外周に凸球面状部分136を有し、内周に凹球面状部分138を有する。凸球面状部分136の曲率半径は外輪110の内周面112の円筒半径とほぼ同じである。凹球面状部分138の曲率半径は内輪120の球面状外周面122の曲率半径とほぼ同じである。凸球面状部分136の曲率中心と凹球面状部分138の曲率中心は、ケージ132の軸線上に位置するが、ジョイントの折り曲げ中心をはさんで反対側に等距離だけオフセットさせてある(ダブルオフセット型)。
【0049】
ケージ132は円周方向に所定間隔で配置したポケット146を有する。ポケット146はケージ132を半径方向に貫通している。各ポケット146にボール130が収容され、すべてのボール130がケージ132によって同一平面内に保持される。
【0050】
トリポード型等速ジョイントJ3は、図8に示すように、外側継手部材としての外輪210と、内側継手部材としてのトラニオン220と、転がり部材としてのローラ230と複数本の針状ころ230を有している。なお、ブーツ50については図1に関連してすでに述べたとおりであるので図1と同じ符号をあてることとし、重複した記述は省略する。
【0051】
外輪210は、一端にて開口したカップ状で、内周に、軸線と平行な3本のトラック溝212が円周方向に等間隔で形成してある。各トラック溝212の両側壁面はローラ案内面214となる。外輪210の外周は、大径部(オス歯型部位)216と小径部218とからなり、オス歯型部位216を中間シャフトSに圧入してある。ここでも小径部218から大径部216にかけて延在する中心軸線に垂直な平面217が設けてある。
【0052】
トラニオン220はボス222と3本のトラニオンジャーナル226とからなり、ボス222の軸心に形成したセレーション孔224でスタブシャフト40のセレーション軸42とトルク伝達可能に接続するようになっている。スタブシャフト40の環状溝48に止め輪228を装着することによってトラニオン220の位置決めと抜け止めがしてある。スタブシャフト40は図1の実施例について述べたとおりであるので図1と同じ符号をあてることとし、重複した記述は省略する。トラニオンジャーナル226はボス222の円周方向に等間隔位置から半径方向に突出している。トラニオンジャーナル226の端部付近には輪溝228が形成してある。
【0053】
各トラニオンジャーナル226にローラ230が回転自在に取り付けてある。ローラ230とトラニオンジャーナル226との間に複数の針状ころ232を介在させてある。針状ころ232の両端側に下ワッシャ234と上ワッシャ236を配置してある。下ワッシャ234はボス222の肩に着座している。上ワッシャ236は、トラニオンジャーナル226の輪溝228に装着したサークリップ238と干渉することで、それ以上トラニオンジャーナル226の端部側へ移動することを規制される。外ワッシャ236は外端部に外径がローラ230の内径より大きく張り出した部分を有しているため、ローラ230の抜け止めの役割も果たす。
【0054】
図面を参照してここに述べた実施の形態の効果は以下のとおりである。
動力伝達軸は、中空円筒状のCFRP製シャフトSと、外側継手部材10、110、210の外周にオス歯型部位16、116、216を形成した等速ジョイントJ1、J2、J3とからなり、前記CFRP製シャフトSに前記外側継手部材10、110、210を圧入したものである。CFRP製シャフトSに外側継手部材10、110、210を圧入する前の状態で(図3参照)、オス歯型部位16、116、216の大径DcsがCFRP製シャフトSの内径Dcfよりも大きい。
【0055】
外側継手部材10、110、210以外のジョイント要素(たとえば固定式等速ジョイントやダブルオフセット型等速ジョイントの場合は内輪20、120とボール30、130とケージ32、132、トリポード型等速ジョイントの場合はトラニオン220とローラ230等)をすべて外側継手部材10、110、210の内側に収納しているため、外側継手部材10、110、210の円筒状外周面を任意の形状に設定でき、そしてそこに別の部品を付帯させることができる。したがって、CFRP製シャフトSの内側に等速ジョイントJ1、J2、J3本体を収納することが可能となる。このため、オス歯型部位16、116、216を同じ長さLとし、ジョイント全体の軸方向長さを比較すると、等速ジョイントLjの方がクロスジョイントLcよりも短い、つまり、軸方向にコンパクトな設計を採ることが可能となる。
【0056】
オス歯型部位16、116、216の圧入開始側端部に、CFRP製シャフトSの内径Dcfよりも小さい外径Djcのパイロット部15を設けることにより(図4参照)、このパイロット部15が外側継手部材10、110、210をCFRP製シャフトSに圧入するときの案内作用を発揮する。すなわち、中間シャフトSの中心軸に対して外側継手部材10、110、210の中心軸をほぼ平行に保つことが可能となり、外側継手部材10、110、210を斜めに圧入することがなくなる。したがってまた、斜めに圧入しないように細心の注意を払わなくてもよくなり、圧入作業が容易となる。
【0057】
外側継手部材10、110、210に、オス歯型部位16、116、216の大径Dcsよりも小径のブーツ取付け部18、118、218を設けてもよい(図3、7、8参照)。どの程度小径とするかは、図3に示すように、当該ブーツ取付け部18、118、218に取り付けたブーツ(ブーツアダプタを含む)の端部54aの最大径Dbがオス歯型部位16、116、216よりも小径となる程度である。等速ジョイントJ1、J2、J3では、内部に充填したグリース等の潤滑剤の漏洩を防止するとともに外部から異物が侵入するのを防止するため、ブーツ50を装着して使用するのが一般的である。そして、通常、ブーツ50(ブーツアダプタを含む)の一方の端部54aを外側継手部材10、110、210に固定し、他方の端部を内側継手部材と接続したシャフト40に固定する。したがって、外側継手部材10、110、210にブーツ取付け部18、118、218を設ける必要がある。
【0058】
外側継手部材10、110、210の大径部(オス歯型部位)16、116、216から小径部(ブーツ取付け部)18,118、218にかけて、中心軸線に対して垂直な平面部17、117、217を設けることにより、上に述べた寸法関係すなわち、外側継手部材10、110、210のブーツ取付け部18、118、218に配置したブーツ(ブーツアダプタを含む)の端部54aの最大径Dbがオス歯型部位16、116、216の大径Dcsよりも小径となる寸法関係とあいまって、当該平面部17に圧入用治具(図示省略)を当てることが可能となる。
【0059】
また、あらかじめ等速ジョイントJ1、J2、J3を組み立てておき、アセンブリ状態でCFRP製シャフトSに圧入することができる。たとえば固定式等速ジョイントJ1やダブルオフセット型等速自在継手J2といったボールタイプの等速ジョイントの場合、まず外輪10、110をCFRP製シャフトSに圧入し、その後、外輪10、110内にケージ32、132、内輪20、120、ボール30、130を組み付け、さらにスタブシャフト40、ブーツ50を組み付けて等速ジョイントJ1、J2を組み立てる、といった工程を経る必要がない。したがって、プロペラシャフトアセンブリ(J1+S、J2+S)の組立作業の能率が向上する。
【0060】
CFRP製シャフトSの圧入開始側端面と前記平面部17を同一平面とした構成は、上記圧入用治具を上記平面部17よりも外径側に張り出させた状態で圧入を実行し、CFRP製シャフトSの圧入開始側端面が圧入用治具に当たった時点で圧入を終了することによって実現する。
【0061】
CFRP製シャフトSの圧入開始側端面と平面部17との間、具体的には、CFRP製シャフトSと外側継手部材10、110、210の嵌合部の端面にシール剤62を塗布することにより(図5参照)、水が浸入することを防ぐことができる。
【0062】
CFRP製シャフトSの端面と平面部17とにシール剤溜り64を設けることにより(図6参照)、シール剤62を安定して付着させることができる。
【符号の説明】
【0063】
S 中間シャフト
J1、J2、J3 等速ジョイント
10,110,210 外輪(外側ジョイント部材)
16,116,216 外周面の大径部(オス歯型部位)
18,118、218 外周面の小径部(ブーツ取付け部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中空円筒状のCFRP製シャフトと、外側継手部材の円筒状外周にオス歯型部位を形成した等速ジョイントとからなり、前記CFRP製シャフトに前記外側ジョイント部材を内嵌圧入した動力伝達軸。
【請求項2】
圧入前の状態で、前記オス歯型部位の大径が前記CFRP製シャフトの内径よりも大きい請求項1の動力伝達軸。
【請求項3】
前記オス歯型部位の圧入開始側端部に、前記CFRP製シャフトの内径よりも小径のパイロット部を設けた請求項1または2の動力伝達軸。
【請求項4】
前記外側継手部材に、前記オス歯型部位の大径よりも小径のブーツ取付け部を設けた請求項1〜3のいずれか1項の動力伝達軸。
【請求項5】
前記外側継手部材の、前記オス歯型部位から前記ブーツ取付け部にかけて、回転軸線に対して直交する平面部を設けた請求項4の動力伝達軸。
【請求項6】
前記CFRP製シャフトの圧入開始側端面と前記平面部が同一平面である請求項5の動力伝達軸。
【請求項7】
前記CFRP製シャフトの圧入開始側端面と前記平面部との間にシール剤を塗布した請求項6の動力伝達軸。
【請求項8】
前記CFRP製シャフトの端面と前記平面部とにシール剤溜りを設けた請求項7の動力伝達軸。
【請求項9】
前記等速ジョイントがトラックオフセットタイプの固定式等速ジョイントである請求項1〜8のいずれか1項の動力伝達軸。
【請求項10】
前記等速ジョイントがダブルオフセット型等速ジョイントである請求項1〜8のいずれか1項の動力伝達軸。
【請求項11】
前記等速ジョイントがトリポード型等速ジョイントである請求項1〜8のいずれか1項の動力伝達軸。
【請求項12】
自動車のプロペラシャフトである請求項1〜11のいずれか1項の動力伝達軸。
【請求項13】
外周面にオス歯型部位を設けた等速ジョイントの外側継手部材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−2053(P2011−2053A)
【公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−146446(P2009−146446)
【出願日】平成21年6月19日(2009.6.19)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】