説明

動圧流体軸受け装置およびこれを備えたモータ

【課題】流体動圧軸受け装置、およびこれを用いたモータの構造を簡略化するとともに、潤滑流体の漏れを防止することである。
【解決手段】動圧軸受け装置は、軸部28とフランジ部32とを有する軸部材24、および、軸部材24に対し相対的に回転自在なスリーブ部材26を備える。軸部28の外周面とスリーブ部材26の内周面との間の間隙にはラジアル動圧軸受けが構成され、フランジ部32の一面とスリーブ部材26の第一対向面との間の間隙にはスラスト動圧軸受けが構成される。軸部材24又はスリーブ部材26は、スラスト動圧軸受けによって発生するスラスト方向の支持力とは反対方向へ磁気力によって吸引されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、潤滑油からなる流体(「潤滑流体」という)を利用し、軸部材とスリーブ部材の相対回転時にその間に充填された潤滑流体に圧力を生させ、その流体圧力によって軸部材を支持する動圧流体軸受け装置およびこれを備えたモータに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、動圧流体軸受け装置として、軸部およびこの軸部から半径方向外方に突出するフランジ部を有する軸部材と、この軸部材に対して相対的に回転自在であるスリーブ部材と、軸部材とスリーブ部材との間に規定された空間に充填された潤滑流体とを備えたものが知られている。この種の動圧流体軸受け装置においては、軸部材の軸部の外周面およびこれに対向するスリーブ部材の内周面の一方又は両方にラジアル動圧溝が設けられ、この軸部の外周面とスリーブ部材の内周面との間の間隙に潤滑流体が充填される。また、軸部材のフランジ部の両面およびこれら両面に対向するスリーブ部材の内面の一方又は両方にスラスト動圧流体溝が設けられ、フランジ部の両面とスリーブ部材の内面との間の間隙にも潤滑流体が充填される。
【0003】
このような動圧流体軸受け装置は、たとえば、マイクロコンピュータのハードディスク駆動用のDCブラシレスモータや、CD−ROM駆動用モータなど種々のモータに使われることが多いが、モータに使う場合、前記軸部およびスリーブ部材の一方がモータのステータおよび固定部に結合され、他方がロータに連結される。また、モータには、軸が固定され、それに対してロータが回転する軸固定型と、軸がロータと共に回転する軸回転型があるが、軸固定型の場合、軸が、モータのベースプレートのような固定部に固着され、スリーブ部材がロータに一体的に回転するように結合される。また、軸回転型では、スリーブ部材がモータの固定部に固定され、軸部材がロータに連結される。
【特許文献1】特開平8−163820号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような動圧流体軸受け装置およびそれを備えたモータにおいては、軸部材とスリーブ部材との間の間隙に充填された潤滑流体の保持が重要な問題である。すなわち、この潤滑流体は、高温下で熱膨張して間隙からあふれたり、蒸発したり、衝撃により飛散したり、あるいはマイグレーションとして知られている滲みなどにより外部に漏れるおそれがある。
【0005】
本発明の目的は、流体動圧軸受け装置、およびこれを用いたモータの構造を簡略化するとともに、潤滑流体の漏れを防止することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の請求項1は、軸部と、軸部と一体又は別体から構成されると共に軸部から半径方向外方に突出する円盤状フランジ部と、を備える軸部材と、
一端側が閉塞され他端側が開口し、軸部材との間に所定間隔をもって軸部とスリーブ嵌合すると共に、軸部材に対して相対的に回転自在なスリーブ部材と、
軸部の外周面およびスリーブ部材の内周面との間の間隙に形成され、相対回転時に該間隙に保持された潤滑流体に動圧を誘起するラジアル動圧溝を有するラジアル動圧軸受けと、
フランジ部の一面とこれと対向するスリーブ部材の第一対向面との間の間隙に形成され、相対回転時に該間隙に保持された潤滑流体に動圧を誘起するスラスト動圧溝を有するスラスト動圧軸受けと、
ラジアル動圧軸受けの間隙、およびこれに連続するスラスト動圧軸受けの間隙に、途切れることなく連続して充填される潤滑流体と、を備え、
軸部材又はスリーブ部材は、スラスト動圧軸受けによって発生するスラスト方向の支持力とは反対方向へ磁気力によって吸引されていることを特徴とする。
【0007】
本発明の請求項2は、軸部は磁性材料から形成され、
スリーブ部材の一端側には、軸部の一端部と対向するようマグネット片が配置され、
マグネット片の磁気作用により軸部は一端側へ吸引されていることを特徴とする。
【0008】
本発明の請求項3は、軸部材の界面近傍の部位には、撥油剤が塗布されていることを特徴とする。
【0009】
本発明の請求項4は、軸部材およびスリーブ部材のいずれか一方と、ステータと、を備えた固定部と、
軸部材およびスリーブ部材の他方と、ステータと対向するロータマグネットとを備えたロータと、
請求項1乃至3のいずれかに記載の流体動圧軸受け装置と、を備えたことを特徴とする。
【0010】
本発明の請求項5は、磁気力は、ステータとロータマグネットとの磁気的吸引作用により得られることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明では、動圧流体軸受け装置、およびこれを用いたモータの構造を簡略化することができ、また潤滑流体の漏れの可能性も少なくなる。
【0012】
また、ロータの安定した回転を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に従う動圧流体軸受を備えたモータの第1の実施形態を示す要部断面図である。
【図2】図1のモータにおける動圧流体軸受部分の部分拡大断面図である。
【図3】図1のモータにおける潤滑流体の注入方法を説明する簡略説明図である。
【図4】本発明に従う動圧流体軸受を備えたモータの第2の実施形態を示す要部断面図である。
【図5】図4のモータにおける軸部材の一部を拡大して示す部分斜視図である。
【図6】本発明に従う動圧流体軸受の他の例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1は、本発明に従う動圧流体軸受け装置を、マイクロコンピュータのハードディスク駆動用DCブラシレス・スピンドルモータに用いた実施形態を示している。図1において、図示のスピンドルモータはベースプレート2を備えている。ベースプレート2は円形状のプレート本体4を有し、プレート本体4の外周部には上方に延びる周側壁6が設けられ、この周側壁6の外端部には、半径方向外方に突出する取付フランジ8が設けられている。取付フランジ8は、図示していないが、たとえばハードディスク駆動装置のごときディスク駆動装置のベース部材に固定ねじによって取付けられる。ベースプレート2には動圧流体軸受け装置11を介してロータ10が回転自在に支持されている。ロータ10は、円筒状のハブ本体12を備えている。ハブ本体12の下端部には、半径方向外方に突出するディスク載置部14が設けられ、このディスク載置部14に磁気ディスクのごとき記録ディスクが所定の間隔を置いて複数枚取付けられる。ハブ本体12の内周面には、ロータマグネット16が装着され、このロータマグネット16に対向してベースプレート2にはステータ18が配設される。ステータ18は、複数枚のコアプレートを積層したステータコア20と、このステータコア20に巻かれたコイル22から構成されている。かく構成されているので、ステータ18のコイル22に電流が送給されると、ステータ18とマグネット16の相互磁気作用によってロータ10が所定方向に回転駆動される。
【0015】
次いで、動圧流体軸受け装置11について説明すると、図示の動圧流体軸受け装置11は、軸部材24とスリーブ部材26の組合わせから構成されている。軸部材24は、断面が円形の細長い軸部28を有し、この軸部28の他端部近傍には円盤状部材30が一体に設けられ、この円盤状部材30が軸部28から半径方向外方に突出するフランジ部32を構成している。実施の形態では、軸部28と円盤状部材30とは一体に形成されているが、両者を別体に形成して固定するようにすることもできる。軸部材24の軸部28のフランジ部32を越えて突出する他端部には、ロータ12が圧入のごとき手段によって固定されている。したがって、軸部材24はロータ10に固定され、ベースプレート2に対してロータ12と一体的に所定方向に回動される。
【0016】
軸部材24の軸部28には、その一端(下端)から上端まで延びる注入孔34が形成されている。実施の形態では、注入孔34の一端は軸部28の下端面に開口し、その他端は軸部28の上端面に開口し、その一端開口から他端開口まで軸線方向に直線状に延びている。この注入孔34の軸線方向上端部には、オイルのごとき潤滑流体の注入方向に径が小さくなっているテーパ部34aが設けられ、テーパ部34aを境にその上側では注入孔34の内径が幾分大きくなっており、その下側では注入孔34の内径が幾分小さくなっている。注入孔34を通しての潤滑流体の充填については、後述する。
【0017】
スリーブ部材26は、中空円筒状のスリーブ部材本体36を備えている。スリーブ部材本体36は、内径が小さい小内径部38、内径が上記小内径部38より大きい中内径部40、および内径が上記中内径部40より大きい大内径部42を有し、小内径部38、中内径部40および大内径部42がスリーブ部材本体36の一端部(下端部)から他端部(上端部)に向けてこの順序で配設されている。小内径部38の内径は軸部材24の軸部28の外径よりも幾分大きく、また中内径部40の内径は軸部材24のフランジ部32の外径よりも幾分大きく設定されている。このようなスリーブ部材本体36に軸部材28を装着すると、軸部材24の軸部28がスリーブ部材本体36の小内径部38にスリーブ嵌合(軸部材24の軸線方向の比較的長い領域において嵌合されること)され、また、軸部材24のフランジ部30がスリーブ部材本体36の中内径部40に配置され、スリーブ部材本体36の小内径部38、肩部46および中内径部40と軸部材24の軸部28並びにフランジ部32の一面および周面との間には、潤滑流体のための間隙が設けられる。
【0018】
キャップ部材44は、スリーブ部材本体36と一体的に回転するようスリーブ部材本体36の大内径部に装着され、固定され、スリーブ部材本体36の一部を成している。キャップ部材44は軸部材24のフランジ部32の外側の面を覆っており、スリーブ部材本体36の中内径部40と、この中内径部40と大内径部42の境を規定する肩部46と、キャップ部材44とによってフランジ部32の表面のほぼ全域を囲繞するフランジ囲繞部を構成する。このキャップ部材44に関連して、上記肩部46には環状凹部が設けられ、この環状凹部に0リング48が配設されている。Oリング48は、たとえば合成ゴム等から形成することができ、キャップ部材44とスリーブ部材本体36との間をシールする。なお、このキャップ部材44は、たとえばカシメ等の手段によってスリーブ部材本体36に固定される。
【0019】
スリーブ部材26の一端部(図1において下端部)には、軸部材24の軸部28の一端部に間隙を介して対向して閉塞部材50が装着されている。閉塞部材50は、円形のプレート状部材から構成され、スリーブ部材本体36の一端面(下端面)に形成された環状凹部にカシメ等の手段によって固定される。このように閉塞部材50を設けることにより、スリーブ部材26の一端部において小内径部38は閉塞され、スリーブ部材26は一端部が閉じられた収容空間を規定し、スリーブ部材26および閉塞部材50によって規定された収容空間は、図1に示すとおり、軸部材24の軸部28の一端部を囲繞し、この収容空間は上記スリーブ嵌合部の間隙と連通する。このような形態のモータでは、スリーブ部材26と軸部材24との間の空間(この空間に潤滑流体が充填される)はスリーブ部材26の他端部(大内径部42側)において外部に開放され、このスリーブ部材26の他端部側からの潤滑流体の漏れを考慮するのみでよい。
【0020】
本実施の形態では、スラスト動圧軸受け手段およびラジアル動圧軸受け手段は、次のとおりに配置されている。ラジアル動圧軸受け手段52,54は、軸部材24の軸部28と、スリーブ部材26とのスリーブ嵌合部に軸線方向に間隔を置いて配設され、軸部材24に作用するラジアル力を支持する。一対のラジアル動圧軸受け手段52,54の間の軸部材24の軸部28の部分は、他の部分に比べて幾分小径となっている。ラジアル動圧軸受け手段52,54の動圧溝は、へリングボーン、スパイラル等の形状でよく、図1に破線で示すとおり、スリーブ部材26の小内径部38の内周面に形成されている。ラジアル動圧溝は、スリーブ部材26の内周面に設けることに代えて、たとえば、軸部材24の軸部28の外周面に設けてもよく、またスリーブ部材26の内周面と軸部材24の軸部28の外周面の双方に設けてもよい。また、スラスト動圧軸受け手段56は、軸部材24のフランジ部32の内側の面(図1において下側の一面)に設けられ、軸部材24に作用するスラスト力を支持する。スラスト動圧軸受け手段56の動圧溝は、へリングボーン、スパイラル等の形状でよく、図1に破線で示すとおり、フランジ部32の内側の面に形成されている。このスラスト動圧溝は、フランジ部32の内側の面に設けることに代えて、フランジ部32のこの一面と対向するスリーブ部材26の対向面、すなわちスリーブ部材26の小内径部38と中内径部40との間の肩部58の面(第一対向面を構成する)に設けるようにしてもよく、またフランジ部32の内側の面およびスリーブ部材32の上記肩部58の面の双方に設けるようにしてもよい。
【0021】
実施の形態では、軸部材24のフランジ部32の外側の面(図1において上側の他面)に対向するキャップ部材44の内面(スリーブ部材26の第二対向面を構成する)に、テーパシール構造を構成するテーパ60が設けられている。テーパ60は、半径方向外方に向けてフランジ部32との間隔が狭くなっており、フランジ部32の他面に対向して環状のテーパ状空間を規定する。このテーパ60は、表面張力によって潤滑流体に半径方向外方に向かう力を付与する。テーパ60は、半径方向外方に向けてキャップ部材44とフランジ部32との間隔が小さくなっているので、モータの回転によって軸部材24とスリーブ部材26とが相対回転すると、テーパ60の潤滑流体には、その回転によって発生する遠心力によっても半径方向外方への力が作用し、潤滑流体の漏れ方向(半径方向内方)の移動が確実に防止される。この遠心力による半径方向外方への力は、潤滑流体の半径方向内方への滲み(いわゆるマイグレーション)、潤滑流体のミスト、衝撃による飛散等が発生したときにも作用し、潤滑流体(又はその微粒子)は、この遠心力によって半径方向内方に回収される。テーパ60は、キャップ部材44の内面に代えて、又はこれと共に軸部材24のフランジ部32の外側端面に設けることもできるが、キャップ部材44に設けることによって容易に形成することができる。フランジ部32の他面およびこの他面に対向するキャップ部材44の内面の領域にスラスト動圧溝を設けることなく、本実施の形態ではキャップ部材44の上記内面の少なくとも大部分の比較的広い範囲にテーパ60が設けられているので、比較的大きいスペースのテーパ状空間を形成することができ、潤滑流体のための充分な流体溜とすることができる。このテーパ60には潤滑流体のシール界面が位置し、テーパ60はシール機能をも有する。このように、フランジ部32の少なくとも大部分の領域(又はこの領域に対向するキャップ部材44の内面)を利用してテーパ60が設けられるので、温度が上昇して潤滑流体が膨張してもこのテーパ60において熱膨張を吸収することができ、また長期の使用によって潤滑流体が蒸発してもこのテーパ60に溜められた潤滑流体を補給用流体として利用することができる。図示の実施形態では、充分なテーパ状空間を確保するために、テーパ60の開放側端は軸部材24の軸部28に近い位置に位置し、この半径方向内側の位置からフランジ部32の周縁に対向する位置まで断面で見て直線状に形成されている。テーパ60の半径方向内方には、軸部材24のフランジ部32の軸部28への付け根部分に近くに位置する環状溝61が軸部材24のフランジ部32の他面に形成され、この環状溝61に、潤滑流体の流動を抑える撥油剤63(図2)が塗布されている。撥油剤63は潤滑流体をはじき、半径方向内方への流動、にじみを阻止する。
【0022】
このような構成は、比較的小型のモータ、たとえば直径2.5インチ以下の磁気ディスクを回転駆動するハードディスク用スピンドルモータに好都合に適用することができ、各種構成要素の寸法を次のように設定することができる。図2を参照して、たとえば軸部材24の軸部28の外径D1を3.0〜3.5mmに、フランジ部32の外径D2を6.0〜6.5mmに、フランジ部32の厚みTを1.0〜1.5mmに、テーパ60の開放側端Pと軸部28との間隔Wを0.4〜0.5mmに、テーパ60の閉塞側端Qをフランジ部32の周縁に対向させ、テーパ60の閉塞側Qから開放側端Pに至るテーパ角度αを20〜30度に設定されている。
【0023】
本実施の形態では、図1に示すとおり、動圧流体軸受け装置の潤滑流体62は、そのシール界面がテーパ60に位置し、このシール界面よりも下側の軸部材24とスリーブ部材26との間の間隙の実質上全域に充填されている。すなわち、潤滑流体62は軸部材24の軸部28の一端面(閉塞部材50に対向する面)からラジアル動圧軸受け手段52,54およびスラスト動圧軸受け手段56を経てテーパ60まで実質上連続して充填されている。したがって、容易に理解されるごとく、潤滑流体62の漏れを防止するためのテーパ60は1個所に設けるのみでよく、動圧流体軸受け装置、およびこれを用いたモータの構造を簡略化することができ、また潤滑流体62の漏れの可能性も少なくなる。
【0024】
潤滑流体62が軸部材24の軸部28の一端面にも充填されるので、この軸部28の一端面に補助スラスト動圧軸受け手段64を設けるようにしてもよい。補助スラスト動圧軸受け手段64は、軸部材24のフランジ部32に設けられたスラスト動圧軸受け手段56のスラスト力を調整するために設けられる。スラスト動圧軸受け手段64の動圧溝は、へリングボーン、スパイラル等の形状でよく、図1に破線で示すとおり、軸部28の一端面に形成されている。この補助スラスト動圧溝は、軸部28の一端面に設けることに代えて、閉塞部材50の内面に設けるようにしてもよく、また軸部28の一端面と閉塞部材50の双方に設けるようにしてもよい。
【0025】
補助スラスト動圧軸受け手段64としては、スラスト動圧軸受け手段56によるスラスト支持力をアップさせる、すなわち軸部材28を浮上させる力を大きくするときには、ポンプイン型の動圧溝構造が採用される。この場合には、補助スラスト動圧軸受け手段部64において潤滑流体62が内側に流入され、これによって軸部材24、したがってロータ10に浮上力が作用する。
【0026】
本実施の形態では、潤滑流体62中に混入した空気を外部に排出するために、次の通り構成されている。すなわち、軸部材24には、出口をフランジ部32の外周面に、入口を軸部28の一端面にそれぞれ形成した潤滑流体62の圧力調整用チャンネル66が設けられている。具体的には、軸部28に形成した注入孔34をチャンネル66の縦孔として利用し、フランジ部32の外周面から注入孔34に連通する連通孔67を形成して構成される。注入孔34の連通孔67より上部は後述する弾性栓体70によって閉塞される。ここで、ラジアル動圧軸受け手段52,54、スラスト動圧軸受け手段58および補助スラスト動圧軸受け手段64における動圧溝のうち一部又は全部は、潤滑流体62がチャンネル66の出口からフランジ部32の周面および一面を通り、軸部28の外周を下側へ移動し、その端面からチャンネル66に流入するように、溝形状に工夫がなされており、チャンネル66を含む上述した循環路を通して潤滑流体62の循環が行われる。このように潤滑流体62を循環させることによって、スラスト動圧溝56およびラジアル動圧溝52,54によって生じる流体圧力も調整される。
【0027】
また、フランジ部32の外周面とこれに対向するスリーブ部材本体36の中内径部40の内周面との間の間隙L1は、図2に拡大して示すとおり、毛細管現象により潤滑流体62を保持する程度の間隔、たとえばL1=50μmあるいはそれより若干小さい寸法に設定されている。したがって、潤滑流体62中に混入する気泡が温度上昇により膨張すると、膨張した気泡が潤滑流体62の循環によってフランジ部32の外周面に案内され、ここで空気と潤滑流体62とに分離され、潤滑流体62は再びスラスト動圧軸受け手段58に向けて循環され、空気はテーパ部60から軸部材24とキャップ部材44との間を通って外部に排出される。
【0028】
このチャンネル66には、必要に応じてフィルタ68を配設することができる。フィルタ68は、注入孔34に配設され、たとえば多孔質材料又は繊維材料から形成することができる。フィルタ68は、潤滑流体62中の摩耗粉等の不純物を捕捉し、これによって動圧流体軸受け装置11の信頼性を向上させることができる。
【0029】
図2に詳細に示すように、フランジ部32の一辺部(下側辺部)の外周面には、半径方向外方に向けて突出する環状の絞り突部69が設けられている。この絞り突部69の外周面と中内径部40の内周面との間の間隙L2は、たとえば20μmに設定されている。この絞り突部69は、軸部材24の軸方向の衝撃に対し、これが潤滑流体62中を移動することにより、加えられた衝撃を緩衝する。絞り突部69は潤滑流体62の循環路の連通孔67より下側に位置しており、しかも上記間隙L1を大きく絞るので、潤滑流体62から気泡を効果的に分離する作用もある。
【0030】
本実施の形態では、ステータ18は動圧流体軸受け装置11のスリーブ部材26の外周面に装着され、このスリーブ部材26を介してベースプレート2に支持されているが、これに代えて、たとえばベースプレート2に環状支持壁を設け、この環状支持壁にステータ18を取付けるようにしてもよい。このステータ18に関連して、ステータ18とロータ10に装着されたロータマグネット16との磁気センタが軸部材24の軸線方向に幾分ずれて配置されている。すなわち、マグネット16の磁気的中心がステータ18の磁気的中心よりも上下方向(図1において上下方向)上方に幾分ずれて配置されている。それ故に、ステータ18に対するマグネット16の磁気的吸引作用によって、ロータ10にはベースプレート2に近接する方向の偏倚力(軸部材24の一端面が閉塞部材50に近接する方向の偏倚力)が作用する。モータの回転時、軸部材24には、スラスト動圧軸受け手段58によって図1において上方に浮き上がろうとするスラスト力(補助スラスト動圧軸受け手段64が設けられているときにはこれによって生じるスラスト力をも含めた力)が作用し、このスラスト力とマグネット16およびステータ18による図1において下方に押さえようとする磁気的偏倚力、すなわち磁気背圧力とが釣り合い、ロータ10は上下方向に安定して回転する。この磁気的偏倚力は、またロータ10のスリーブ部材26からの抜けも防止する。
【0031】
動圧流体軸受け装置11への潤滑流体62の注入は、たとえば、次のように行うことによって比較的簡単にかつ確実に注入することができる。図3(a)〜(d)を参照して、潤滑流体62を注入するには、まず、図3(a)に示すように、注入孔34にフィルタ68を装着した後、軸部材24に形成された注入孔34に弾性栓体70を仮装着する。栓体70は、たとえば合成ゴム、天然ゴム等から形成することができ、注入孔34のテーパ部34aの形状に対応した形状を有するのが望ましい。弾性栓体70のテーパ部72の一端部には、注入孔34の小内径部に対応した小径部74が設けられ、その他端部には注入孔34の大内径部に対応した大径部76が設けられている。栓体70は図3(a)で示すとおり、そのテーパ部72がロータ10側から注入孔34のテーパ部34aに位置するように仮装着される。かく仮装着すると、その小径部74が注入孔34の小内径部に、また大径部76が注入孔34の大内径部に位置し、この仮装着状態において、注入される潤滑流体62が栓体70から漏れないようになっている。
【0032】
次いで、図3(b)で示すとおり、仮装着された栓体70を貫通して中空針78を挿入し、その先端部を注入孔34の小内径部に突出させる。しかる後、中空針78を通して潤滑流体62を栓体70の奥側に、すなわち注入孔34の小内径部およびこれに連通する動圧流体軸受け装置11の動圧空間、すなわち軸部材24とスリーブ部材26の間に規定される間隙に潤滑流体62を注入する。
【0033】
次に、図3(c)で示すとおり、栓体70から中空針78を引抜いた後、棒状の押圧工具82によってこの栓体70を押込み、図3(d)で示すとおり、栓体70全体を注入孔34の小内径部内まで圧入する。中空針78を引抜くと、栓体70には針貫通痕80が生じ、動圧流体軸受け装置11の長期間に渡る使用によってこの針貫通痕80から潤滑流体62の蒸発、漏れ等が生じる恐れがある。それ故に、中空針78を引抜いた後、これを注入孔34の小内径部に圧入する。このように圧入することによって、特に栓体70の大径部76が大きく弾性変形し、大径部76が注入孔34を弾性的に確実に閉塞すると共に、大径部76において針貫通痕80が確実に閉塞され、潤滑流体62の栓体70を通しての蒸発、漏れ等が確実に防止される。なお、弾性栓体70は、注入孔34に仮装着したときには幾分弾性変形し、仮装着状態からさらに圧入したときには大きく弾性変形するのが望ましく、このように弾性変形する適宜の形状でよい。
【0034】
栓体70を注入孔34の小内径部に圧入すると、これによってその内側に存在する潤滑流体62がラジアル動圧軸受け手段52,54およびスラスト動圧軸受け手段56の動圧空間に送給され、図3(d)に示すごとく、潤滑流体62は注入孔34の小内径部から軸部材24の軸部28の一端面、軸部28の外周、フランジ部32の内側面を経て所定レベルまで充填され、このようように所定レベルまで充填すると、潤滑流体62のシール界面は、キャップ部材44のテーパ60に位置する。このような潤滑流体62の注入作業は、真空チャンバ内において行うのが好ましく、また図3(a)〜(d)に示すとおり潤滑流体62が注入される空間が上側に位置する、換言すれば実施の形態ではロータ10が下側に位置するように保持して行うのが望ましい。
【0035】
上述した実施の形態では、本発明を軸回転型のモータに適用して説明したが、図4に示す軸固定型のモータにも同様に適用することができる。モータの第2の実施形態を示す図4において、図示のモータは、ベースプレート102とベースプレート102に対して相対的に回転自在であるロータ104を備え、ベースプレート102とロータ104との間に動圧流体軸受け装置106が介在されている。本実施形態における動圧流体軸受け装置106は、図1に示す動圧流体軸受け装置11と略同一の構成であり、それ故にその相違点についてのみ後述する。
【0036】
この形態では、動圧流体軸受け装置106は、図1の形態における適用例と上下を逆にして用いられている。すなわち、動圧流体軸受け装置106のスリーブ部材108の一端部(閉塞部材110が設けられている端部)がロータ104に結合されている。また、軸部材112の突出端部(軸部114のフランジ部116から軸線方向に突出する端部)がベースプレート102に結合される。また、ベースプレート102には、スリーブ部材106の外側に環状支持壁118が設けられ、この環状支持壁118にステータ120が取付けられている。
【0037】
このモータでは、軸部材112がベースプレート102に固定されるので、軸部材112、したがってベースプレート102に対してスリーブ108がロータ104と一体的に所定方向に回転駆動される。
【0038】
なお、上述した説明から理解されるごとく、動圧流体軸受け装置は共通部品として用いることができ、その使用においてもスリーブ部材の一端部を閉塞する閉塞部材が上側に位置するように用いてもよく、これとは反対に閉塞部材が下側に位置するように用いることもでき、動圧流体軸受け装置としては同様の作用効果が達成される。
【0039】
図4と共に図5を参照して、この第2実施形態においては、ラジアル動圧軸受け手段122,124が軸部材112の軸部114、すなわちスリーブ部材108とのスリーブ嵌合部に設けられ、このラジアル動圧軸受け手段122,124の動圧溝126,128が、軸部114の外周面に形成されている。また、スラスト動圧軸受け手段130がフランジ部116の一面(図4、図5において上側の面)に設けられ、スラスト動圧軸受け手段130の動圧溝132がこの一面に形成されている。なお、このようなラジアル動圧溝126,128およびスラスト動圧溝132の溝形状は、図1において明確に示していないが、上記第1の実施形態でも同様に形成される。
【0040】
第2の実施の形態では、軸部材112のフランジ部116に、出口をフランジ部116の外周面に、入口をフランジ部116の軸部114との付け根部分におけるテーパ136が設けられた側とは反対側の一面(内側の面)にそれぞれ形成した圧力調整用チャンネル138が設けられている。この場合、フランジ部116の一面に形成したスラスト動圧軸受け手段130の動圧溝は、潤滑流体124がフランジ部116の外周からスラスト動圧軸受け手段130を通ってチャンネル138に流入するよう、溝形状が工夫され、チャンネル138は、フランジ部116の外周および一面とこれらに対向するスリーブ部材108の内面との間の間隙とによって循環路を形成する。したがって、軸部114とフランジ部116との接続部分は気泡が溜まりやすくなっているが、フランジ部116の軸部114への付け根部分にチャンネル126の入口が開口されているので、潤滑流体124が循環路を循環することによって、第1の実施の形態で説明したと同様にして気泡の外部への排出が円滑に行われる。チャンネル126の入口は、図5に示すとおり、スラスト動圧軸受け手段130の動圧溝132が形成された領域より半径方向内方に設けるのが望ましく、このチャンネル126は周方向に間隔を置いて2個以上設けてもよい。なお、この第2の実施形態において第1の実施形態における潤滑流体の循環構造を採用してもよく、これと反対に、第2の実施形態の潤滑流体の循環構造を第1の実施形態に用いてもよい。
【0041】
なお、この実施形態では、軸部114の端面(上面)に補助スラスト動圧軸受け手段を設ける場合、潤滑流体124の循環に関係なくスラスト力の釣り合いのみを考慮してポンプイン型又はポンプアウト型を採用できる。ポンプイン型の場合は第1の実施形態で説明したようにロータ104に浮上力を作用させることができる。一方、スラスト動圧軸受け手段130によるスラスト支持力を減ずる、すなわち軸部材112を浮上させる力を小さくするときには、ポンプアウト型の動圧溝が採用される。この場合には、補助スラスト動圧軸受け手段において潤滑流体123が外側に流出され、これによって軸部材112、したがってロータ104に閉塞部材110が軸部114の端面に向かう吸引力が作用する。
【0042】
上述した実施形態では、いずれも、動圧流体軸受けをモータに用いた場合について説明したが、回転軸を回転支持する軸受け装置単独として用いることも可能である。このような場合、スラスト動圧軸受け手段によっ発生するスラスト力と釣り合う所定方向の磁気的力を軸部材に作用させるためのロータマグネットとステータが存在しないので、軸部材に上記スラスト力に釣り合う力を作用させるための手段を別個に設ける必要がある。
【0043】
動圧流体軸受け装置としての単独の使用例を示す図6において、図示の動圧流体軸受け装置は、スリーブ部材202とスリーブ部材202に対して相対的に回転自在である軸部材204を備えている。スリーブ部材202の一端部には閉塞部材206が装着されている。この例では、軸部材204が磁性材料から形成され、軸部材204に偏倚力を作用させる手段としてマグネット片208が用いられている。閉塞部材206は非磁性材料から形成され、この閉塞部材206の外面に円板状マグネット片208が固定されている。マグネット片208からの磁界は閉塞部材206を通して軸部材204に作用し、マグネット片208の磁気的作用によって軸部材204には閉塞部材206に近接する方向の磁気的力が作用する。この例においては、軸部材204の軸部210にラジアル動圧軸受け手段214,216が設けられ、そのフランジ部212の一面(図6において下面)にスラスト動圧軸受け手段218が設けられており、マグネット片218による磁気力はスラスト動圧軸受け手段218の動圧溝によって発生するスラスト力と釣合うように設定される。
【0044】
また、この例では、軸部材204に圧力調整用チャンネル220が設けられている。このチャンネル220は、軸部材204の軸部210の端面に開口して軸線方向に延びる縦孔200aと、この縦孔200aから半径方向外方に延びてフランジ部212の外周に開口する連通孔200bから構成されている。潤滑流体222は、軸部210の端面からチャンネル220を通ってフランジ部212の外周に導かれ、さらにスリーブ部材202のフランジ部212および軸部210との間に規定された間隙を通って軸部210の上記端面に至る循環路を通して循環される。潤滑流体の上述した循環は、第1の実施形態と実質上同一であるので、上述したと同様の効果が達成され、潤滑流体222中の気泡はこの循環によって外部に排出される。この動圧流体軸受け装置の他の構造は、第1の実施形態に採用されているものと実質上同一である。
【0045】
このような動圧流体軸受け装置による支持構造においては、軸部材204は、図示していないが、たとえばプーリおよびベルト等の駆動力伝動機構(図示せずを介して電動モータのごとき駆動源の出力軸に駆動連結され、駆動源の作用によって所定方向に回転駆動される。
【0046】
各実施形態のモータにおいては、軸部材のフランジ部の他面およびこれに対向するスリーブ部材の第二対向面の一方又は両方の比較的広い範囲わたってテーパが形成されているので、テーパによって規定されるテーパ状空間を比較的大きくすることができる。このテーパは、表面張力によるシール機能に加えて潤滑流体を保持する溜機能を有し、潤滑流体のシール界面および潤滑流体溜のための充分な空間を確保することができる。それ故に、温度が上昇して潤滑流体が膨張してもこのテーパにおいて熱膨張を吸収することができ、また長期の使用によって潤滑流体が蒸発してもこのテーパに溜められた潤滑流体を補給用流体として利用することができる。また、このテーパは半径方向外方に向けて間隔が狭くなっているので、テーパに存在する潤滑流体には、表面張力によって半径方向外方への力が作用すると共に、軸部材とスリーブ部材とが相対回転したときに発生する遠心力によっても半径方向外方への力が作用し、潤滑流体の漏れ方向(半径方向内方)の移動が確実に防止される。この遠心力による半径方向外方への力は、潤滑流体の半径方向内方への滲み(いわゆる潤滑流体のマイグレーション)、潤滑流体のミスト、衝撃による飛散等が発生したときにも有効に作用し、半径方向内方に移動しようとする潤滑流体(又はその微粒子)は、遠心力によって半径方向内方に回収され、潤滑流体の滲み、ミスト、飛散等による漏れを防止することができる。さらに、ステータとロータマグネットとが所定方向の磁気背圧力を軸部材に作用するような相対位置関係にあるので、このステータとロータマグネットによる磁気偏倚手段による磁気背圧力がスラスト動圧溝によって発生されるスラスト支持力と釣合い、フランジ部の他面側にスラスト動圧軸受け手段を設けることなく、軸部材に作用するスラスト方向の力が釣り合い、ロータマグネットを含むロータを安定して回転することができる。
【0047】
また、スリーブ部材には、軸部材の軸部と対向して閉塞部材が設けられ、スリーブ部材は閉塞部材と共に軸部材の端部を囲繞する収容空間を規定し、この収容空間はスリーブ嵌合部の間隙と連続しているので、潤滑流体のためのシールは、軸部材のフランジ部の他面においてのみでよく、比較的簡単な構成でもって確実にシールすることができる。
【0048】
また、軸部材には、フランジ部の周面と軸部の端面とを連通するチャンネルが設けられているので、軸部材とスリーブ部材との間に充填された潤滑流体は、このチャンネルを通しスラスト動圧軸受け手段およびラジアル動圧軸受け手段を通して循環され、スラスト動圧軸受け手段およびラジアル動圧軸受け手段にて発生する流体圧力が調整される。また、潤滑流体中に気泡が混入しても、潤滑流体の循環によって混入した気泡がフランジ部の周面に導かれ、フランジ部の外周において潤滑流体と空気とに分離され、分離された空気が外部に排出される。
【0049】
また、圧力調整用チャンネルが長手方向に延びる縦孔とこの縦孔とフランジ部外周を連通する連通孔から構成されるので、このチャンネルを比較的簡単に形成することができる。
【0050】
また、縦孔にフィルタが配設されているので、潤滑流体中に混入している不純物を捕捉することができる。
【0051】
また、潤滑流体に混入した気泡は軸部材の軸部とフランジ部の接続部に溜まり易いが、フランジ部の軸部への付け根部分とフランジ部の外周とがチャンネルによって連通されているので、溜まった気泡はチャンネルを通ってフランジ部の外周に導かれ、フランジ部の外周にて潤滑流体と空気とに分離され、分離された空気が外部に排出される。
【0052】
また、フランジ部の周面とそれに対向するスリーブ部材の内周面との間の間隙が毛細管現象により潤滑流体を保持するように設定されているので、チャンネルを通してフランジ部の外周に導かれた気泡は内部に入込むことが阻止され、潤滑流体の漏れが生じることはない。
【0053】
また、フランジ部の、スラスト動圧軸受け手段が設けられている側の辺部には、半径方向外方に突出する緩衝用絞り突部が設けられているので、軸部材とスリーブ部材との軸線方向の相対的移動は、絞り突部が潤滑流体中を移動することによって緩衝される。また、潤滑流体に混入された気泡のスラスト動圧軸受け手段への流れも阻止される。
【0054】
また、スリーブ部材のスラスト部を覆う蓋部にテーパが設けられているので、比較的容易にテーパを形成することができる。
【0055】
また、フランジ部に設けられた環状溝に溌油剤が塗布されているので、潤滑流体の漏れを一層確実に防止できる。
【0056】
また、軸部材のフランジ部の他面およびこれに対向するスリーブ部材の第二対向面の一方又は両方の比較的広い範囲わたってテーパが形成され、このテーパは半径方向外方に向かって間隔が狭くなっているので、上述したのと同様の作用が達成される。また、軸部材には、スラスト動圧溝によって発生するスラスト支持力とは反対方向の力が作用するので、スラスト支持力とその反対方向の力とが釣り合い、フランジ部の他面側にスラスト動圧軸受け手段を設けることなく、軸部材を安定して回転することができる。
【0057】
また、スリーブ部材には、軸部材の軸部と対向して閉塞部材が設けられ、スリーブ部材は閉塞部材と共に軸部材の端部を囲繞する収容空間を規定し、この収容空間はスリーブ嵌合部の間隙と連続している。また、軸部材には、フランジ部の周面と軸部の端面とを連通するチャンネルが設けられている。したがって、上述したと同様に、潤滑流体のシールが容易であり、また潤滑流体は、このチャンネルを通しスラスト動圧軸受け手段およびラジアル動圧軸受け手段を通して循環され、スラスト動圧軸受け手段およびラジアル動圧軸受け手段にて発生する流体圧力が調整され、潤滑流体中の気泡も潤滑流体から分離されて外部に排出される。
【0058】
また、潤滑流体の注入孔に弾性栓体が装着されるので注入した潤滑流体の漏れが防止される。
【0059】
また、潤滑流体の注入に使用する注入孔が潤滑流体を潤滑する潤滑経路の一部を構成するので、注入後の注入孔が全く無駄にならないだけでなく、スラスト動圧軸受け手段およびラジアル動圧軸受け手段にて発生する流体圧力の調整機能をも有し、潤滑流体の潤滑路および圧力調整機能のための構成が簡単となる。
【0060】
また、軸部材が磁性材料から構成され、この軸部材を磁気的に吸引するマグネット片が設けられるので、比較的簡単な構成でもってスラスト動圧軸受け手段によって発生するスラスト力との釣り合いを保つことができる。
【0061】
また、フランジ部の外面は、それと対向するスリーブ部材の対向面と協働してテーパシール構造が設けられ、このテーパシール構造の部分が潤滑流体溜としても利用されるので、テーパシール構造という比較的簡単な構成でもって潤滑流体のシール機能および溜機能を持たせることができる。また、スラスト動圧軸受け手段のスラスト支持力に釣り合う力を軸部材に作用させるための手段が設けられているので、軸部材を安定して支持することができる。
【0062】
また、フランジ部の外面は、それと対向するスリーブ部材の対向面と協働してテーパシール構造が設けられ、このテーパシール構造の部分が潤滑流体溜としても利用されるので、テーパシール構造という比較的簡単な構成でもって潤滑流体のシール機能および溜機能を持たせることができる。また、ステータとロータマグネットとは、スラスト動圧軸受け手段のスラスト支持力に釣り合う磁気力を軸部材に作用させるような相対位置関係に配置されているので、ロータマグネットを含むロータを安定して支持することができる。
【0063】
また、潤滑流体を循環する循環路が設けられているので、潤滑流体の循環作用によってスラスト動圧流体軸受け手段およびラジアル動圧軸受け手段によって発生する流体圧力が調整され、軸部材は安定して回転する。
【0064】
また、循環路にフィルタが配設されているので、潤滑流体の循環によってそれに混入した不純物が捕捉される。
【0065】
また、軸部材のフランジ部に対向するスリーブ部材の面の比較的広い範囲にわたりテーパが設けられているので、このテーパでもって充分なテーパ状空間を有するテーパシール構造とすることができ、また潤滑流体の充分な溜とすることができる。
【0066】
実施形態によれば、軸部およびこの軸部から半径方向外方に突出し、軸部と一体的に回転する円盤状フランジ部を有する軸部材と、該軸部材との間に所定間隔をもって、軸部とスリーブ嵌合すると共に、フランジ部を囲繞し、軸部材に対して相対的に回転自在なスリーブ部材と、該スリーブ部材と軸部材との間の間隙に充填された潤滑流体とを具備する動圧流体軸受け装置を備えたモータにおいて、
軸部材の軸部およびスリーブ部材の互いに対向する面の一方又は両方にラジアル動圧溝が設けられ、軸部材のフランジ部の一面およびこれに対向するスリーブ部材の第一対向面の一方又は両方にスラスト動圧溝が設けられ、
軸部材のフランジ部の他面およびこれに対向するスリーブ部材の第二対向面の一方又は両方の、軸部に近い位置からフランジ部の周縁に至る比較的広い範囲に、半径方向外方に向かって間隔が狭くなるテーパが形成され、
スリーブ部材のスリーブ嵌合部およびフランジ部を囲繞する部分の軸部材との間の間隙は連続していて、潤滑流体はスリーブ嵌合部の間隙からフランジ周面の間隙まで連続して充填され、
軸部材およびスリーブ部材のいずれか一方にはステータが一体的に設けられ、他方にはロータマグネットが一体的に回転するように設けられ、それらステータとロータマグネットとは、スラスト動圧溝によって発生するスラスト支持力に釣り合うスラスト支持力とは反対方向の磁気背圧力を軸部材に作用するような相対的位置関係にあることを特徴とするモータが提供される。
【0067】
また、軸部およびこの軸部から半径方向外方に突出し、軸部と一体的に回転する円盤状フランジ部を有する軸部材と、該軸部材との間に所定間隔をもって、軸部とスリーブ嵌合すると共にフランジ部を囲繞し、軸部材に対して相対的に回転自在なスリーブ部材と、該スリーブ部材と軸部材との間の間隙に充填された潤滑流体とを備えた動圧流体軸受け装置において、
軸部材の軸部およびスリーブ部材の互いに対向する面の一方又は両方にラジアル動圧溝が設けられ、
軸部材のフランジ部の一面およびこれに対向するスリーブ部材の第一対向面の一方又は両方にスラスト動圧溝が設けられ、
軸部材のフランジ部の他面およびこれに対向するスリーブ部材の第二対向面の一方又は両方の、軸部に近い位置からフランジ部の周縁に至る比較的広い範囲に、半径方向外方に向かって間隔が狭くなるテーパが形成され、
スリーブ部材のスリーブ嵌合部およびフランジ部を囲繞する部分の軸部材との間の間隙は連続していて、潤滑流体はスリーブ嵌合部の間隙からフランジ周面の間隙まで連続して充填され、
軸部材には、スラスト動圧溝によって発生するスラスト支持力に釣り合うスラスト支持力とは反対方向の力が作用されることを特徴とする動圧流体軸受け装置が提供される。
【0068】
また、軸部およびこの軸部から半径方向に突出し、軸部と一体的に回転する円盤状フランジ部を有する軸部材と、該軸部材との間に所定間隔をもって、軸部とスリーブ嵌合すると共にフランジ部を囲繞し、軸部材に対して相対的に回転自在なスリーブ部材と、該スリーブ部材と軸部材との間のスリーブ嵌合部からフランジ囲繞部まで連続した間隙の所定レベルまで充填された潤滑流体とを備えた動圧流体軸受け装置において、
スリーブ嵌合部にラジアル動圧軸受け手段を設け、フランジ部の内面側とそれに対向するスリーブ部材の対向面との部分にスラスト動圧軸受け手段を設け、フランジ部の外面は、それに対向するスリーブ部材の対向面と協働して、潤滑流体を表面張力によって封止するテーパシール構造を形成すると共に、潤滑流体溜として利用し、
フランジ部の内面側のスラスト動圧軸受け手段のスラスト支持力に釣り合う力を軸部材に作用させる手段を備えたことを特徴とする動圧流体軸受け装置が提供される。
【0069】
また、軸部およびこの軸部から半径方向に突出し、軸部と一体的に回転する円盤状フランジ部を有する軸部材と、該軸部材との間に所定間隔をもって、軸部とスリーブ嵌合すると共にフランジ部を囲繞し、軸部材に対して相対的に回転自在なスリーブ部材と、該スリーブ部材と軸部材との間のスリーブ嵌合部からフランジ囲繞部まで連続した間隙の所定レベルまで充填された潤滑流体と、軸部材およびスリーブ部材の一方と結合したステータと、軸部材およびスリーブ部材の他方と一体的に回転するよう結合されたロータマグネットとを備え、
スリーブ嵌合部にラジアル動圧軸受け手段を設け、フランジ部の内面側とそれに対向するスリーブ部材の対向面との部分にスラスト動圧軸受け手段を設け、フランジ部の外面は、それに対向するスリーブ部材の対向面と協働して、潤滑流体を表面張力によって封止するテーパシール構造を形成すると共に、潤滑流体溜として利用し、
ステータとロータマグネットとは、フランジ部の内面側のスラスト動圧軸受け手段のスラスト支持力に釣り合う磁気力を軸部材に作用させるような相対位置関係に配置されたことを特徴とするモータが提供される。
【符号の説明】
【0070】
2,102 ベースプレート
10,104 ロータ
11,106 動圧流体軸受け装置
16 ロータマグネット
18 ステータ
24,112,204 軸部材
26,108,202 スリーブ部材
28,114,210 軸部
32,116,212 フランジ部
34 注入孔
44 キャップ部材
52,54,122,124,214,216 ラジアル動圧軸受け手段
56,130,218 スラスト動圧軸受け手段
60,122 テーパ
62,123,222 潤滑流体
70 弾性栓体
208 マグネット片

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸部と、該軸部と一体又は別体から構成されると共に該軸部から半径方向外方に突出する円盤状フランジ部と、を備える軸部材と、
一端側が閉塞され他端側が開口し、前記軸部材との間に所定間隔をもって前記軸部とスリーブ嵌合すると共に、前記軸部材に対して相対的に回転自在なスリーブ部材と、
前記軸部の外周面および前記スリーブ部材の内周面との間の間隙に形成され、前記相対回転時に該間隙に保持された潤滑流体に動圧を誘起するラジアル動圧溝を有するラジアル動圧軸受けと、
前記フランジ部の一面とこれと対向する前記スリーブ部材の第一対向面との間の間隙に形成され、前記相対回転時に該間隙に保持された潤滑流体に動圧を誘起するスラスト動圧溝を有するスラスト動圧軸受けと、
前記ラジアル動圧軸受けの間隙、およびこれに連続する前記スラスト動圧軸受けの間隙に、途切れることなく連続して充填される潤滑流体と、を備え、
前記軸部材又は前記スリーブ部材は、前記スラスト動圧軸受けによって発生するスラスト方向の支持力とは反対方向へ磁気力によって吸引されていることを特徴とする動圧流体軸受け装置。
【請求項2】
前記軸部は磁性材料から形成され、
前記スリーブ部材の一端側には、前記軸部の一端部と対向するようマグネット片が配置され、
前記マグネット片の磁気作用により前記軸部は一端側へ吸引されていることを特徴とする請求項1に記載の流体動圧軸受け装置。
【請求項3】
前記軸部材の前記界面近傍の部位には、撥油剤が塗布されていることを特徴とする請求項1または2に記載の流体動圧軸受け装置。
【請求項4】
前記軸部材および前記スリーブ部材のいずれか一方と、ステータと、を備えた固定部と、
前記軸部材および前記スリーブ部材の他方と、前記ステータと対向するロータマグネットとを備えたロータと、
請求項1乃至3のいずれかに記載の流体動圧軸受け装置と、を備えたことを特徴とするモータ。
【請求項5】
前記磁気力は、前記ステータと前記ロータマグネットとの磁気的吸引作用により得られることを特徴とする請求項4に記載のモータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−21750(P2011−21750A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−185741(P2010−185741)
【出願日】平成22年8月23日(2010.8.23)
【分割の表示】特願2007−29280(P2007−29280)の分割
【原出願日】平成8年9月5日(1996.9.5)
【出願人】(000232302)日本電産株式会社 (697)
【Fターム(参考)】