説明

動圧軸受装置を使用したスピンドルモータ

【課題】本発明は、磁気ディスク装置などのOA装置駆動用動圧軸受装置に関して、リード線処理の放熱対策を盛り込んだ流体軸受を使用したスピンドルモータを提供する。
【解決手段】上記課題を解決するために本発明は、ハウジング1に固定されたステータコア8と、ステータコア8に絶縁処理した処理材の上に巻配したコイル10と、ハウジング1の表面に絶縁膜を介して形成され、外部まで導き出した銅箔線11と、ハウジング1の表面において銅箔線11に接続したコイル10の端末を備え、ハウジング1に銅箔線11を設置して、銅箔線11での熱をハウジング1に放熱させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気ディスク装置、光ディスク装置、光磁気ディスク装置、多面鏡駆動装置などのOA装置駆動用動圧軸受装置の潤滑流体漏れ防止対策、シール対策、リード線処理の放熱対策、衝撃対策を盛り込んだ動圧軸受装置を使用したスピンドルモータに関するものである。
【背景技術】
【0002】
最近では、インタネットやイントラネット、ビデオ・オン・デマンドといったデジタルデータを主体としたメディアが登場している。こうしたメディアはPCで扱うのに適しているが、大容量かつ高速なストレージが必要不可欠となる。このようなストレージに対する要求としてHDD(磁気ディスク装置)の大容量化は大変重要な達成項目とされている。マルチメディアを意識した大容量の情報を記録再生する装置してはDVD−ROM装置、DVD−RAM装置などの大容量化への開発が重要になってきている。
【0003】
HDDの容量を増やす方法としては、ディスクの大型化、ディスク枚数の増加、面記録密度の向上が挙げられる。しかし、ディスクの大型化と枚数の増加については、コンパクト化、省電力化、低価格化に反しており、ワークステーションやサーバといった特定の分野を除いて有効な解決策ではない。そのため、面記録密度を向上させる方法が採られている。MR(Magnet Resistive)またはGMR(Giant MR)に代用されるヘッド技術である。記録密度が上がると磁界の変化が少なくなり電流が微弱になりデータが読み出せなくなる。MRヘッドは磁界の変化が電気抵抗値の変化として現れるMR効果を利用したMR素子によって再生を行うヘッドで、従来の薄膜ヘッドよりも感度が高い。GMRヘッドは、巨大磁気抵抗効果を示すGMR素子を用いたもので、再生出力のデータをMRヘッドよりもさらに数倍感度を高い。これら磁気ヘッドを使用し、最近は10000tpi(Track per inch)から20000tpiのHDDが開発されつつある。例えば、20000tpiはトラック間距離が1.27μmであり、そのような装置のスピンドルモータのラジアル振れ1.27μm程度以下が必要となるうえに非繰り返し振れとしては0.13μm程度以下のものが要求される。このような非繰り返し振れに対して、ボール軸受の限界に達し、さらなる高記録密度の場合には流体軸受のスピンドルモータが必要になる。
【0004】
光ディスクのDVD−RAM装置ではディスクのトラックピッチは0.74μmであり、HDD装置にくらべて小さなトラックピッチになっている。光ピックのサーボ技術の進化により、HDDに使用されるスピンドルモータのような回転精度は必要としないが、DVD−RAM装置やOAW(OpticallyAssistedWinchester)技術による光磁気ディスク装置やNFR(NearFieldRecording)技術による光磁気ディスク装置などの場合には流体軸受装置を使用したスピンドルモータが必要となる。
【0005】
すなわち、高容量化が進むとディスクなどを駆動するスピンドルモータは回転精度が要求され、そうしたスピンドルモータには動圧流体軸受を使用する動きが急速に広がってきている。特にOAW技術による光磁気ディスク装置やNFR技術による光磁気ディスク装置などの場合には動圧流体軸受装置は必要不可欠なものとなりつつある。
【0006】
スピンドルモータに動圧流体軸受を利用する理由として以下のことが挙げられる。
(1)不規則なシャフトの振れを抑えられる。
【0007】
ボール軸受では、鋼球すべてを均一な形状に加工することができず、そのため回転中に突発的なシャフト振れが生じる。シャフト振れを減らすと、磁気ディスク装置では磁気ヘッドの位置決め誤差を小さくでき、DVD装置ではビーム・スポットの位置決め誤差を減らすことができ、記録密度の向上に対応しやすい。
(2)耐衝撃性が向上する。
【0008】
流体の膜が緩衝の役割を果たすためである。
(3)軸受で発生する騒音が減る。
(4)金属疲労で軸受が壊れるまでの疲れ寿命が長い。
【0009】
回転駆動される記録媒体面上に磁気ヘッド等をミクロンあるいはサブミクロンオーダーで浮上させて読み・書きを行うためのスピンドルモータの場合は、衝撃などの信頼性を向上するためにロータのスラスト方向変位を小さく抑えなくてはならないうえに、1000G程度の大きな衝撃に対してモータ部材が変形することがないように部材の締結強度を向上する必要がある。
【0010】
またスピンドルモータのコイルの引き出しなどは特許文献1に記載のようにハウジングに穴を開けてスピンドルモータ外部に引き出しているものが知られている。この構造はハウジングに穴をあけ、その穴からコイルを引き出しフレキシブルプリント基板に半田づけする。その半田部が外表面より飛びださないために、プリント基板を貼る位置はハウジングの凹部に設けている。そのためにハウジングの厚みが薄くなり、穴で強度低下したうえに強度が低下することとなり、衝撃に対してハウジングが変形して、磁気ヘッドの位置と磁気記録媒体の高さ位置が相対的にずれ、読み・書きを行うために支障が生じる可能性がある。ハウジングの厚みを厚くすることはモータの全高が高くなるなど薄型化に対しても大きな支障となっている。コイルの引き出し方法として、衝撃性も考慮した形状にする必要が出てきている。
【0011】
また、抜け止め板でロータの抜け止めをしている構造では、衝撃が作用する場合スラスト押さえ板に大きな衝撃力が作用し、締結強度が小さいと外れてしまうようなことが起こりやすいので、特許文献1、特許文献2に記載のようにスラスト押さえ板をカシメで締結しているが、カシメが全面でないなどで衝撃に対する締結では不十分である。
【0012】
さらに、流体軸受の潤滑流体が飛散して記録媒体などを汚損することがないように、潤滑流体の保持、飛散対策をこうじなくてはならない。そのために、特許文献1、特許文献3に記載のように軸受装置の潤滑流体流出防止溝を設けて行う方法が一般的に用いられている。
【0013】
また特許文献4、特許文献5に記載のように流体軸受装置に循環通路を設けてオイルの部分的な不足対策をしている。
【0014】
また、流体軸受をしようするスピンドルモータにおいても回転速度20000rpmと高速のものが開発されつつあり、高速になるにつれてロスが大きくなりそのロスは熱となるので、装置全体や軸受部、モータコア部などの温度が上昇するために、使用温度範囲の広い潤滑流体を使用する必要が出てきている。さらにはモータのコイルも発熱源であり温度上昇は装置全体の温度よりも高いので、コイルは温度が上がると抵抗値が大きくなり、電流量の供給が厳しくなるためにモータの特性として劣化したような振る舞いとなるので、コイルの抵抗値を上げないようする工夫が必要になってきている。
【特許文献1】特開平6−311695号公報
【特許文献2】特開平6−178491号公報
【特許文献3】特開平7− 46810号公報
【特許文献4】特開平8−163821号公報
【特許文献5】特開平8−163820号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
高速回転駆動の動圧流体軸受を使用したスピンドルモータはコイルの発熱が多くて温度が上がることでコイル抵抗値が大きくなり、電流量の供給が厳しくなるなどの課題があった。
【0016】
本発明は上記従来の問題点を解決するもので、高速駆動に適した動圧軸受装置を使用したスピンドルモータを提供することを目的にする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記課題を解決するために本発明は、動圧軸受スピンドルモータのコイルの引き出し線の放熱を行い、モータ全体としての抵抗値を低減させて、電流量の供給が容易になるようにハウジングに銅箔線を設置して、銅箔線での熱をハウジングに放熱させて、コイルの抵抗値を上げないようした。そのことで、モータ全体の温度も低減させ、軸受の温度も低減させることになるので潤滑流体の温度変化の幅が小さくなり、高温での軸受剛性の低下が防止でき軸受としての信頼性が向上する。
【発明の効果】
【0018】
以上のように本発明によれば、動圧軸受スピンドルモータのコイルの引き出しにハウジングに銅箔線を設置して、銅箔線での熱をハウジングに放熱させて、コイルの抵抗値を上げないようした。そのことで、モータ全体の温度も低減させ、軸受の温度も低減させることになるので潤滑流体の温度変化の幅が小さくなり、高温での軸受剛性の低下が防止でき軸受としての信頼性が向上することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明は、ハウジングと、ハウジングに直接または間接的に固定されたステータコアと、ステータコアに絶縁処理した処理材の上に巻配したコイルと、ハウジングの表面に絶縁膜を介して形成され、外部まで導き出した銅箔線と、ハウジングの表面において銅箔線に接続したコイルの端末と、相対回転自在に構成されたシャフトとスリーブとを有し、その隙間に潤滑流体を介した動圧軸受装置を備えたスピンドルモータであり、動圧軸受スピンドルモータのコイルの引き出し線の放熱を行い、モータ全体としての抵抗値を低減させて、電流量の供給が容易になるようにハウジングに銅箔線を設置して、銅箔線での熱をハウジングに放熱させて、コイルの抵抗値を上げないようした。そのことで、モータ全体の温度も低減させ、軸受の温度も低減させることになるので潤滑流体の温度変化の幅が小さくなり、高温での軸受剛性の低下が防止でき軸受としての信頼性が向上するという作用を有する。
【0020】
(実施の形態1)
以下、本発明の実施例について図面を参照しながら説明する。
【0021】
図1は、本発明の一実施例としての軸固定型の記録媒体駆動用の流体軸受装置を使用したスピンドルモータの断面図、図2、図3、図4、図7、図8はその要部拡大図である。対象となる記録媒体としては、光磁気ディスクや固定磁気ディスクや、それ以外の種々の記録媒体を挙げることができる。
【0022】
ハウジング1は、その上方開口の環状凹部2の内周部に上方突出円筒部3を有し、環状凹部2の外周側にフランジ部4を構成している。上方突出円筒部3の中央部には貫通孔5が設けられている。なお、ハウジング1は、例えば固定磁気ディスク駆動装置の基盤内に一体的に形成することも可能である。
【0023】
ハウジング1の貫通孔5内にはシャフト7の端部が嵌合固定されている。上方突出円筒部3の外周部には上向きの内部円筒部6が設けられ、その内部円筒部6の外周部に、積層の珪素鋼鈑からなるステータコア8の内周の一部下端部が接着固定されている。そのステータコア8は板厚0.2mmの珪素鋼鈑を数枚積層して、ばらけ防止のためにコイニングのような突起を嵌合させるパック工法で製作され、さらにそのステータコアの表面にはテフロン(登録商標)の含浸したエポキシ系の電着塗装膜9にて表面が絶縁され、その絶縁された状態にステータコア8の上にコイル10が巻配されている。コイル10の端末線はハウジング1の凹部2の表面に蒸着された銅箔線11に半田付けされている。その銅箔線11はハウジング1の内部表面を通って、装置側のシャーシに電気的につながっている。銅箔線11とハウジング1とはポリイミド系絶縁膜で電気的に絶縁されている。銅箔線11はハウジング1を放熱器として使用できるので、銅箔線11の抵抗による温度上昇が小さく、銅箔線11の抵抗を低く押さえられるので電流を多く流せることが可能である。この銅箔線11はフレキシブルプリント基板のようにハウジング1の傾斜した面のも容易に配線することができるので、さらにはフレキシブルプリント基板では不可能である異形状な箇所への配線が可能となる。そのため、複雑な部品面で配線が不可能であった箇所への使用できる。HDD装置では磁気ヘッドのサスペンションやアームに銅箔線を施して軽量化を行うことも可能となる。
【0024】
この銅箔線11がハウジング1の表面部に設置されることで、銅箔線11での熱がハウジング1に放熱されて、コイル10の抵抗値を上がらない。したがってモータ全体としての抵抗値を低減させて、電流量の供給が容易になるのでモータの効率も向上するし、ハウジング表面近くで構成できるので、モータの全高を低くできるうえに、モータのコイルの発熱を抑えることができるので、モータ全体の温度も低減でき、軸受の温度も低減させることになるので潤滑流体の温度変化の幅が小さくなる。潤滑流体は温度が高くなると、粘度が低くなるので、同じ隙間ならば軸受剛性が低下する。銅箔線11で軸受温度上昇を抑えることができるので、高温での軸受剛性の低下が防止でき軸受としての信頼性が向上する。
【0025】
スピンドルモータはセンサレス駆動のためスピンドルモータ内部には電子部品を配置せず、コイルの線の接続線だけをスピンドルモータ外部まで配接続する構成であり、コイル10のハウジング1の面近くまで巻くことができるうえに、プリント基板よりも銅箔線11の方が薄くできるので、さらに、ステータコア8に巻配するスペースが多くなり、太い線を多く巻くことで、スピンドルモータのトルク特性の向上することができる。
【0026】
環状の抜け止め板12は、シャフト1の上部にシャフト1に対し垂直にネジシャフト13によって固定されている。なお、抜け止め板12はシャフトに一体的に形成されていてもよいし、ネジシャフト13の方と一体に形成されていてもいい。
【0027】
スリーブ14は、上端部の外径が拡開されたn段(nは2以上の整数)の円筒形状をなし、シャフト7に対向するスリーブ14の内周部は、全体として径小な円筒形状をなし、その中央部には径小円筒部の内径よりも若干大きな内径を有する流体溜まり部15が構成されている。したがってその径小円筒部は流体溜まり部15を挟んで上部及び下部の径小円筒部16,17に分かれる。その上部の径小円筒部16及び下部の径小円筒部17の内周面にはへリングボーン溝が設けられ、その上下ヘリングボーン溝と、シャフト7のラジアル方向の間隙には潤滑流体が充填されている。回転に伴ってそのヘリングボーン溝によって発生する動圧によってラジアル荷重支持が可能となりラジアル流体動圧軸受を構成する。特に、上下へリングボーン溝により、その荷重支持圧が高められる。なお、このようなへリングボーン溝は、固定シャフト7のラジアル表面に設けてもよい。
【0028】
上下の径小円筒部16,17はラジアル動圧軸受に挟まれた流体溜まり部15に対応したシャフト7の表面には螺旋状の溝18が構成され、その流体溜まり部15の中央部近くを境にしてその螺旋状の溝18は回転方向に対称な形状に配置されている。図2はその説明拡大図である。その螺旋状の溝18によってスピンドルモータが回転するとスリーブ14が図中の矢印の方向に回転し、その回転に伴って、流体溜まり部15に存在していた潤滑流体19は上下の径小円筒部16,17に流れ込む。流体溜まり部15に存在していた潤滑流体19は上か下かに流れるおよその境界としては螺旋状の溝17の回転方向が上下で対称になる位置である。そのため溝の上回転部の範囲の潤滑流体の一部は上の径小円筒部16にながれ込みラジアル動圧軸受の潤滑流体として寄与する。また螺旋状の溝17の下回転部の範囲の潤滑流体19の一部は下の径小円筒部17にながれ込みラジアル動圧軸受の潤滑流体として寄与する。そのために径小円筒部16,17の発生動圧が早い時間に高圧になるので、起動、停止時などの金属接触する時間が短くなり信頼性が高くなる。
【0029】
シャフト7のラジアル軸受部の下部の径小円筒部17の下方に、内表面に溌油処理が施された下方に向かうにしたがって隙間が減少する潤滑流体流出防止溝20が構成されている。またスリーブ14側の潤滑流体流出防止溝20に対向する位置のシャフト7の表面にも下方に向かうにしたがって隙間が減少する潤滑流体流出防止溝21が構成されている。図3はこの部分の拡大図である。スリーブ14側潤滑流体流出防止溝20とシャフト7側の潤滑流体流出防止溝21の位置関係は、若干シャフト7側の潤滑流体流出防止溝21の方が上方に位置する。
【0030】
ラジアル動圧軸受部から下へ漏れ出た潤滑流体は最初にスリーブ14とシャフト7の隙間が大きくなる位置すなわち、潤滑流体流出防止溝21のところで潤滑流体の表面張力によって流出が阻止される。第1段のシールとする。その潤滑流体流出防止溝21のところのシールが損なわれて、その潤滑流体流出防止溝21に潤滑流体が充満に近い状態になると、もう一方の潤滑流体流出防止溝20の最初の端縁ともう一方の端縁でのテーパによって、遠心力の作用が潤滑流体に作用し、遠心力シール効果を発生させて潤滑流体の流出は阻止される。第2段のシールとする。その遠心力シール効果だけで不十分なまでに潤滑流体が2つの潤滑流体流出防止溝に充満に近い状態になると、潤滑流体流出防止溝20のスリーブ開放端側に端縁とシャフト7とのくさび状の隙間での潤滑流体の遠心力と表面張力の作用で流出が阻止される。第3段のシールとする。潤滑流体流出防止溝の位置を食い違えさせていることで、何段にもわたってシール効果をもたせることができる。
【0031】
また、図3とは潤滑流体流出防止溝の位置を食い違え位置関係がことなる別のシール方法を図4に示す。すなわち、図3はスリーブ側の潤滑流体流出防止溝20の方がシャフト側よりも下に位置していたが、図4はその逆でスリーブ側の潤滑流体流出防止溝20の方がシャフト側の潤滑流体流出防止溝21よりも上に位置した構成である。
【0032】
図4の構成でのシール効果を説明する。ラジアル動圧軸受部から下へ漏れ出た潤滑流体は最初にスリーブ14とシャフト7の隙間が大きくなる位置すなわち、スリーブ側の潤滑流体流出防止溝20のところで表面張力によって流出が阻止される。第1段のシールとする。そのところでの表面張力での保持効果はわずかであり、その漏れた潤滑流体は回転遠心力で潤滑流体流出防止溝20の上端縁側の半径位置の大きなところに付着する。潤滑流体流出防止溝20の最初の端縁ともう一方の端縁でのテーパによって、遠心力の作用が潤滑流体に作用し、遠心力シール効果を発生させて潤滑流体の流出は阻止される。第2段のシールとする。そのスリーブ14側の潤滑流体流出防止溝20に潤滑流体が充満に近い状態になると、もう一方のシャフト7側に潤滑流体流出防止溝21の下部の端縁ともう一方の端縁側への傾斜面とスリーブ14の内表面とのくさび状の隙間で潤滑流体の表面張力の作用で流出が阻止される。第3段のシールとする。潤滑流体流出防止溝の位置を食い違えさせていることで、何段にもわたってシール効果をもたせることができる。
【0033】
図4のようにシャフト側の潤滑流体流出防止溝21が下側にあるとそのためにスリーブ14側は開放端側に長い内径円筒部が必要となり、動圧軸受装置が長くなるためにスピンドルモータの全高を薄型にするためには最適ではない。
【0034】
シャフト7の上方部のスリーブ14は、スリーブ14の小内径部22に抜け止め板12の外周部とわずかな径方向間隙を隔てる状態で抜け止め板12が構成され、スリーブの中内径部23にスラスト押え板24が圧入固定されている。スラスト押え板24を圧入したことによってスリーブ14は上下の移動が規制される。その移動規制量はスリーブの小内径部22の厚みと抜け止め板12の厚みの差である。
【0035】
そのスラスト移動規制量bは次式(数3)の関係が好ましい。
【0036】
【数3】

衝撃が作用した場合、移動規制量bが大きすぎると抜け止め板12に作用する衝撃力も大きくなる上に、スピンドルモータに搭載された磁気ディスクの移動量が大きくなり磁気ヘッドへ衝撃が作用し、記録している磁気ディスク面に傷をつける恐れがあるので、移動規制量は必要以上に抑える構成をしている。
【0037】
そして、スラスト押え板24はマイクロヒッカース硬度600以上の熱処理鋼材で作られている。例えば、SUS420J2やSDK11などを用いている。そのスラスト押え板24の上にさらにスラスト方向強度補強のために補強板25が中内径部23の内径よりも大きな大内径部26に圧入されている。スラスト押え板24の圧入はスリーブの小内径部22の変形が発生しない程度の軽い圧入であったのに比べ、補強板25の圧入は衝撃に耐えることができる程度に強力に圧入されている。さらに、紫外線硬化型の接着剤27で補強板25の圧入箇所を固めてより強度を補強している。さらに接着剤27の圧入部を接着することは潤滑流体が外部ににじみ出る経路を封止することになるので、潤滑流体の保持にも役立つ。
【0038】
また別の締結方法として、補強板25を大内径部26に圧入したのちに、大内径部26の上端部をカシメにて固定する。さらに場合によっては強度補強のために、接着剤27で接着封止する。
【0039】
また別の締結方法として、補強板25を大内径部26にセットしてその大内径部26の上端部をカシメにて固定する。
【0040】
抜け止め板12をスラスト押さえ板24と補強板25との2重の構造体で抑えているので、大きな衝撃で変形や脱落などの問題はない。2重の構造を取っているので、スラスト押さえ板24と補強板25との間の面にスパイラル溝などを形成して潤滑流体の保持領域にすることもできる。
ロータハブ28は、略カップ形状をなし、ロータハブ28のカップ円筒部29の上端部内方には、中央部が円形に天面部30があり、下端部外方に外方張出したフランジ部31がある。このロータハブ28は、天面部30においてスリーブ14の上端部に外嵌固定されている。そのためにロータハブ28はスリーブ14と同軸を構成し、スリーブ14の径小円筒部16、17に対してのロータハブ28の外周振れが5μm以下になるようにスリーブ14に組み立てられている。
【0041】
そのカップ円筒部29の内周部には、円筒状で磁性材のロータヨーク32が内嵌固定され、その内周側には駆動マグネット33がステータコア8に対し径方向空隙を隔てて相対している。その隙間は0.15mmから0.3mmの範囲で構成されている。
【0042】
ロータハブ28のカップ円筒部29は磁気ディスクの内周規制部であり、下端部外方に外方張出したフランジ部31は磁気ディスクを搭載する受け面部である。
【0043】
抜け止め板12の上面とスラスト押え板24、抜け止め板12の下面とスリーブ14のスラスト面34により、それぞれスラスト動圧軸受部が構成されている。抜け止め板12の上面とスラスト押え板24、抜け止め板12の下面とスリーブ14のスラスト面34はそれぞれ平行状に相対し、それらの問には、液状の潤滑流体が介在してスラスト移動規制量のギャップを隔てている。抜け止め板12の上下環状面全周にわたって、ヘリングボーン状溝が設けられている。このへリングボーン状溝は、スリーブ14のスラスト面34及びスラスト押え板24の順方向回転により、抜け止め板12の面表面に介在する潤滑流体に高圧を発生させる。なお、このようなヘリングボーン状溝は、スリーブ14のスラスト面34やスラスト押え板24の面に設けてもよい。
【0044】
補強板25の内周部はネジシャフト13との隙間が下方に向かうにしたがって大きくなるようなテーパ形状をしている。さらに補強板25の内表面に溌油処理が施されている。
【0045】
シャフト7及びステータコア8等に対し、スリーブ14及びロータハブ28等が、潤滑流体を介して自在に回転し得るよう構成されている。径小円筒部16、17のラジアル動圧軸受部によって、スリーブ14の回転中におけるシャフト7に対する径方向変位を十分に小さく抑えることができるので、カップ状円筒部29の振れを小さく抑えることができ、動圧流体軸受であるので非繰り返し振れも0.05μm以下に抑えることができる。抜け止め板12の上下面のスラスト軸受によって、スリーブ14の回転中におけるシャフト7に対するスラスト方向変位を十分に小さく抑えることができる。
【0046】
シャフト7に対しスリーブ14が相対回転すると、上下の径小円筒部16,17のラジアル動圧軸受部は、そこに介装された潤滑流体に主としてラジアル方向の荷重支持圧を発生させ、抜け止め板12の上下面のスラスト軸受は、そこに介装された潤滑流体に主としてスラスト方向の荷重支持圧を発生させる。回転停止状態において下部の径小円筒部17に隣接するスリーブ14の潤滑流体流出防止溝20やシャフト7の潤滑流体流出防止溝21に潤滑流体が漏出していた場合、モータが回転し始めると潤滑流体を下部の径小円筒部17内に取り込む。また、同様に補強板25の内周部に潤滑流体が漏出していた場合、スピンドルモータが回転し始めるとスラスト軸受部である抜け止め板12の方へ潤滑流体を取り込む。
【0047】
スピンドルモータの回転が停止し、シャフト7とスリーブ14とが相対運動が零になるとシャフト7とスリーブ14との隙間によって傾斜が生じる。動圧軸受部に保持しきれない潤滑流体はシャフト7に設けた潤滑流体流出防止溝21漏れ出す。スピンドルモータが回転すると潤滑流体流出防止溝21に漏れていた潤滑流体は下部の径小円筒部17内に入り込む。
【0048】
上記のように潤滑流体流出防止溝20、21にある漏れ出た潤滑流体が径小円筒部に入るためには潤滑流体流出防止溝の傾斜面のシャフトの軸方向に対する傾斜角度は遠心力と表面張力などを考慮して実験的に求めると、次式関係にあることが好適である。
【0049】
【数4】

補強板25やスラスト押え板24などスラスト方向の強度を強くしたために、スピンドルモータに1000G程度の衝撃力が作用してもスリーブ14から補強板25などが外れることもない。大きな衝撃力が作用した場合抜け止め板12にも作用するので、強度的に十分な強度の構成にする必要がある。
【0050】
流体軸受スピンドルモータに衝撃が作用した場合、抜け止め板12に衝撃力による加重が作用する。たとえば、ロータハブ等を構成する回転部材の重量がWとし、衝撃がaGの場合、抜け止め板には作用する衝撃力F=aWとなる。衝撃力は抜け止め板の全面に作用するので、作用する位置は抜け止め板の内径部に輪形な等分布値荷重となる。
【0051】
円板に荷重が作用しての円板の曲げに関して、以下のような関係式から求められる。板厚tsの円板に単位面積当たりpなる荷重を受けるとして、軸対称形のたわみを生じ、中立面内に極座標r、θをとって応力とモーメント及びたわみの関係は次式で示される。
【0052】
【数5】

たわみwの基礎方程式は
【0053】
【数6】

が一定の場合
【0054】
【数7】

とくにpが一定値の場合、その一般解は
【0055】
【数8】

この抜け止め板12の強度を検討するために、抜け止め板をシャフトの外径の位置で単純支持、衝撃力Fは抜け止め板12のシャフト外径よりも大きな面に等分布に作用するとするモデルを考えると
最大たわみwmaxは衝撃力作用する内周部の位置であり、最大応力σmaxは内周部の円周応力である。
【0056】
【数9】

である。

k5、k6は図5、図6のようになる。
【0057】
実施例のような流体軸受スピンドルモータでは、抜け止め板12の内径とシャフトの外径に関係するので、抜け止め板としての構成以外に動圧発生するためのスラスト軸受としての構成のために、ある程度の大きさが必要であり、たわみの方を重点に考えると、抜け止め板12の寸法は
【0058】
【数10】

である。
【0059】
3.5インチの5枚ディスクHDDを使用して、衝撃100G、作用時間5
.5msecでの抜け止め板の変形状態を調べた。
【0060】
【表1】

PK、GIN5、GIN6は日立金属株式会社製の材料で、PKは炭素鋼、GIN5,GIN6はステンレス鋼である。
【0061】
このような実験から高衝撃性の抜け止め板は耐力が1000N/mm2以上もしくは引張り強さ1300N/mm2以上であることが好ましいことがわかった。
【0062】
PK、GIN5、GIN6は真空溶解炉で真空精錬されているのでガスの含有量の少ない清浄度の良好な鋼であり、残留炭化物は容積率の1〜4%、大きさで2μm以下のミクロ組織である。抜け止め板13をPK、GIN5、GIN6を使用して打ち抜きで製作する場合、打ち抜きのままのエッジには残留応力が残留するので、ストレスレリーフ処理(またはプレステンパーという)あるいはタンプリングによって除去する。
【0063】
タンプリングの目的は打ち抜きによって生じた冷間加工影響ゾーン、バリ、シャーマークを除去し、エッジにスムースな丸みを持たせることです。研磨剤としての砥石の大きさ、材質はタンブリングの方法と抜け止め板の寸法によって選択し、曲げ応力、衝撃応力を受ける位置のエッジが十分丸みを持つようにすることがポイントである。またPH制御用の化学溶剤によって抜け止め板13の表面をきれいにし、摺動抵抗を低減させる。摺動抵抗を低減する目的は、動作回転時に衝撃が作用し、スリーブのスリーブ部22に抜け止め板13が当たった場合に、抜け止め板13がスリーブ部22を摺動するので、その目抜け止め板の摺動抵抗を小さくする目的で抜け止め板13の表面をきれいにした。
【0064】
プレステンパーは打ち抜きによる引っ張り残留応力の除去と抜け止め板の平坦度の改善のために行う。抜け止め板13を積層してプレスした状態で、炉に装入されテンパーする。そのテンパー温度は物温でPKは300℃、GIN5、GIN6は500℃以下でする。
【0065】
上記のような実験から高衝撃性の抜け止め板は耐力が1000N/mm2以上もしくは引張り強さ1300N/mm2以上であることが好ましいことがわかった。軸受の内部に抜け止め板を構成する構造では、抜け止め板の耐力や引っ張り強度は外部に抜け止め板を構成するものよりも小さく材料でも問題がなくできる可能性がある。それは抜け止め板の締結箇所となるシャフト径を大きくし、締結強度を増すことでも可能である。さらに潤滑流体の粘性のダンパ効果などが影響している。
【0066】
駆動マグネット33はステータコア8に対向するように取り付けられていて、ステータコア8の厚みt1に対して駆動マグネット33の厚みt2の関係が次の関係にある。
【0067】
【数11】

さらに、ステータコア8の厚みのセンター位置と駆動マグネット33のセンター位置のずれ量をδとすると、次の関係がある。
【0068】
【数12】

である。
【0069】
磁気回路部寸法が上記の2式を満足するようにすることで、回転部材に作用するスラスト方向の磁気力が小さく、スラスト動圧軸受に作用する力としては小さいものとなるので、軸受部には動圧だけの作用力を十分に把握して設計することができる。さらにはそのスラスト方向の磁気力が小さいことで流体軸受装置を使用したスピンドルモータとしての騒音を小さくすることができる。
【0070】
ラジアル軸受の開放側には潤滑流体流出防止溝20、21が形成され、スリーブ14の外周部近傍を図7、図8に示す。
【0071】
図7はスリーブ14の外周部37に、上部に向かうに従ってスリーブの外径が縮径となるようなテーパ状の空間溝40が形成されている。スリーブ端部から滲み出た余剰な潤滑流体はスリーブの外表面を伝わってスリーブの外周部37に到達する。その外周部37に空間溝40があるために、遠心力と表面張力でそれ以上スリーブ14の外表面を伝わって上がっていかない。図のように空間溝40がスリーブ14の外周部37の角部まで形成しているために、角部での隙間流路抵抗が小さくなるので、図8に示すようにスリーブ14の外周部37の空間溝40の両側に平坦部を構成し角部でも隙間流路抵抗を大きくしている。
【0072】
ステータコア8はハウジング1の上方突出円筒部3の設けた内部円筒部6の外周に接着固定されていて、この接着部はステータコア8の内周の一部であり、その接着固定してないステータコア8の内周部35に対向するスリーブ14の下部側の外周部36はそのステータコア8の内周部35と隙間をもって構成されている。その隙間の半径隙間の最小値をg1とする。
【0073】
また上記のような隙間がハウジング1の上方突出円筒部3に設けた内部円筒部6の内周部とスリーブ14の外周部37と間に隙間が形成されている。その隙間の半径隙間の最小値をg2とする。
【0074】
また上記のような隙間がハウジング1の上方突出円筒部3に設けた内部円筒部6の軸方向端部38とスリーブ14の外端部39と間に隙間が形成されている。その隙間の距離の最小値をg3とする。
【0075】
【数13】

になるように隙間が設定されている。g3の隙間は両側に隙間を形成し、中間部に絞り効果を持たせた隙間を構成することになるので、軸受内部と外部との気圧差による潤滑流体の流出を防止することができる。
【0076】
スリーブ14ではステータコアの内周部35に対する外周部36の外径の方がハウジング1の内部円筒部6の内周部に対向するスリーブ14の外周部37の外径よりも大きいので、g1≦g2にすることで、ステータコア内周部での環状隙間の抵抗は大きいので、5000rpm以上の高速回転ではその隙間の抵抗によって軸受内部の気圧が保持され、回転、停止などによる圧力変動に対しても十分なシール特性を発揮する。
【0077】
また別の構成として、スリーブ14の下部側の外周部36はそのステータコア8の内周部35と隙間をもって構成されている。その隙間の半径隙間の最小値g1であり、そのスリーブ14の外周部36と対向するステータコア8の対向する長さをLg1とする。ハウジング1の内部円筒部6の内周部とスリーブ14の外周部37と間に隙間が形成されている。その隙間の半径隙間の最小値g2であり、そのスリーブ14の外周部37に対向するハウジングの内部円筒部6の対向長さをLg2とする。ステータコア8が珪素鋼鈑を積層している関係でステータコア8の内周径が精度的にばらつく場合があり、ステータコア8とスリーブの外周部36との隙間を大きくとらなくてはならない場合では、g2≦g1の関係になる。その場合、g1部の流動抵抗を増すためにはLg2≦Lg1の関係なるようにスリーブの外周部の隙間を設定することで、潤滑流体の飛散が防止できる。同様にステータコア内周部での環状隙間の隙間流動抵抗がかなり大きくなる、軸受内部の気圧が維持されるので、潤滑流体が飛散することがない。
【0078】
本発明では移動規制量をかなり抑えていることについて目的は以下に述べる。 シャフトとスリーブは正常な位置で停止、回転をしているが、スピンドルモータに衝撃が作用した場合、回転側のスリーブが抜けようと移動する、そのとき抜け止め板に回転部材に係止して、それ以上は移動しないが、その後は移動した状態から逆側に移動し、そのときも抜け止め板に回転部材が係止し、移動しなくなる。さらに、上下に移動しながら正常な位置に回転部材はもどっていく。衝撃による回転部材の移動は仮に大きかったら、動圧軸受発生部にまで空気が入ってくる可能性が高い。抜け止め板が軸受内部に構成されているので容積の増減はほとんどないが、気液境界面での潤滑流体の表面張力と潤滑流体の慣性力によって、液面が軸受内部側や外部側に移動をする。その際の液面移動は、衝撃力が大きいと大きいので、大きな衝撃に対して抜け止め板でも移動規制量が大きいと、動圧軸受部まで液面が移動し、空気の混入現象が発生し、モータの軸受特性を劣化させる。したがって、抜け止め板の移動規制量はできるだけ小さい量に押さえる必要がある。移動規制量の規定している値は振動試験を用いて、モータの信頼性から判断して決定した。
【0079】
以上のように本発明によれば、固定シャフトに抜け止め板を固定するスリーブが回転するタイプのスピンドルモータであり、抜け止め板を軸受内に構成することによって、衝撃が作用した場合に抜け止め板全面で衝撃力を受け、衝撃力による抜け止め板の変形が小さくすることが可能となり、さらに抜け止め板によってロータハブの移動量が小さく規制できるので軸受内でのスリーブの移動量を小さくすることができる。
【0080】
ラジアル動圧軸受の端部側円筒部に端部に潤滑流体流出防止溝がありその潤滑流体流出防止溝の下部端部はラジアル動圧軸受の端部側円筒部に端部に向かうにしたがって隙間が減少し、ラジアル動圧軸受の端部側円筒部に端部に潤滑流体流出防止溝がスリーブ側とシャフト側に設けられることによって、シャフト側の潤滑流体流出防止溝では表面張力による潤滑流体の保持が行われ、スリーブ側の潤滑流体流出防止溝では遠心力と表面張力による潤滑流体の保持が行われることによって、ラジアル動圧軸受の潤滑流体のスリーブからの流出は防止することができる。衝撃作用による瞬時の潤滑流体の移動が十分に可能となり、潤滑流体の漏れがないようにできるので、2つの潤滑流体流出防止溝で潤滑流体は保持され、信頼性が高い軸受装置ができるという効果がある。
【0081】
また、シャフト側の潤滑流体流出防止溝とスリーブ側の潤滑流体流出防止溝の傾斜角度を所定範囲にすることで効果的なシールが可能となる。
【0082】
スリーブ側の潤滑流体流出防止溝の方が下方である構成やシャフト側の潤滑流体流出防止溝の方が下方の構成にするスリーブ側とシャフト側に設けられ潤滑流体流出防止溝の端縁をお互いに段違いに食い違いにさせることで、何段にもわたってシール効果をもたせることができる。効果的な潤滑流体の漏れ防止対策となる。
【0083】
また、動圧軸受スピンドルモータのコイルの引き出しにハウジングに銅箔線を設置して、銅箔線での熱をハウジングに放熱させて、コイルの抵抗値を上げないようした。そのことで、モータ全体の温度も低減させ、軸受の温度も低減させることになるので潤滑流体の温度変化の幅が小さくなり、高温での軸受剛性の低下が防止でき軸受としての信頼性が向上することができる。
【0084】
ラジアル動圧軸受の端部開放側に潤滑流体流出防止溝があり、ラジアル軸受のスリーブの下部外周部にハウジングの一部と隙間を持たせ、その隙間が1個以上平行隙間と上部に向かうに従って半径隙間が大きくなるように形成された空間溝が構成されていることで、ラジアル軸受のスリーブの下部外周部にハウジングの一部と隙間でもってラビリンス効果を持たせ、その隙間が1個以上平行隙間部ではこの効果が大きい。スリーブの下部側の外周部表面に上部に向かうに従って半径隙間が大きくなる傾斜空間の溝によって、スリーブ端部から滲み出た余剰な潤滑流体はスリーブの外表面を伝わってスリーブの外周部に到達するが、その外周部に空間溝があるために、遠心力と表面張力でそれ以上スリーブの外表面を伝わって上がっていかない。そのために、スピンドルモータ外部に潤滑流体が飛散することがない。
【0085】
スリーブの外周とハウジングの一部との隙間とスリーブの外周とステータコアの内周の隙間とスリーブとハウジングの内部円筒部とのスラスト方向距離の隙間の3つの隙間をスピンドルモータに構成し、その隙間でラビリンス効果を持たせている。
【0086】
またその、スリーブの外周とステータコアの内周の隙間の最小値をg1、隙間の長さをLg1とし、スリーブの外周とハウジングの一部との隙間の最小値をg2、隙間の長さをLg12すると、
(a)g1≦g2に設定することによって、ステータコア内周部での環状隙間の抵抗は大きくなり、その隙間の抵抗のよって軸受内部の気圧が十分保持され、回転、停止などによる圧力変動に対しても十分なシール特性を発揮する。
(b)g1≧g2、Lg1>Lg2に設定することによっても、ステータコア内周部とスリーブとの環状隙間が大きくても、環状隙間の長さを大きくすることで、その環状隙間の抵抗は大きくすることができるので、高速回転ではその隙間の抵抗によって軸受内部の気圧が十分保持され、回転、停止などによる圧力変動に対しても十分なシール特性を発揮する。
【0087】
また、スリーブとハウジングの内部円筒部とのスラスト方向距離の隙間の最小値をg3とすると、g3はg1とg2の小さい方の1.5倍以下であるように隙間を設定する。スリーブとハウジングの内部円筒部とのスラスト方向距離の隙間を所定の隙間距離にすることで、その両側に構成される隙間に対する絞り効果を持たせることができるので、軸受内部と外部との気圧差による潤滑流体の流出を防止することがより効果的に達成できる。
【0088】
ラジアル動圧軸受は2カ所の動圧発生する径小円筒部があり、その2カ所の径小円筒部の間に流体溜まり部で構成し、その流体溜まり部のシャフト表面に螺旋状の溝を形成し、溝の回転方向が上下で対称になるように形成した動圧軸受装置では、その螺旋状の溝によってスピンドルモータが回転に伴って、スリーブの流体溜まり部に存在していた潤滑流体は上下のラジアル動圧発生部に螺旋状の溝の回転方向の対称位置を挟んで流れ込む。そのためにラジアル動圧発生部の発生動圧が早い時間に高圧になるので、起動、停止時などの金属接触する時間が短くなり信頼性が高くなる。
【0089】
スラスト押さえ板のスラスト方向外部にスラスト押さえ板の外径よりも外径の大きな補強板を配置し、その補強板を全周にわたってカシメまたは圧入または接着で締結したことができ、衝撃が作用した場合に抜け止め板全面で衝撃力を受けるので、衝撃力による抜け止め板の変形がない状態が可能となり、さらにその締結方法としてカシメ、圧入、接着を2重に行って、締結強度の向上をはかることも可能である。また抜け止め板のスラスト方向の移動を規制する部材して、スラスト押さえ板と補強板を2重に構成することとなるので衝撃が作用した場合、回転部材が移動しても、部材の締結強度が十分にあるので、回転部材は軸受から外れてしまうことはない信頼性が高い軸受装置ができる。
【0090】
さらに、衝撃などによる部品の変形が弾性変形内に抑えられるので、回転精度に影響するようなことがなく、信頼性の高く、耐衝撃性の優れた動圧軸受装置が可能となる。
【0091】
上記方法で潤滑流体の漏れがないようにできるので、スピンドルモータの信頼性が高くなるうえに磁気ヘッドが磁気ディスクにダメージを及ぼす影響が小さくできるので装置全体としての信頼性も向上するという有利な効果が得られる。
【産業上の利用可能性】
【0092】
本発明にかかる動圧軸受装置を使用したスピンドルモータはOA装置駆動用などの動圧軸受装置の潤滑流体漏れ防止対策、シール対策、リード線処理の放熱対策、衝撃対策を盛り込んだ動圧軸受装置を使用したスピンドルモータとして有用である。
【図面の簡単な説明】
【0093】
【図1】本発明の実施例における磁気ディスク駆動用の動圧軸受装置を使用したスピンドルモータの断面図
【図2】潤滑流体溜まり部近くの螺旋状の溝の拡大図
【図3】潤滑流体流出防止溝の図
【図4】別の位置関係の潤滑流体流出防止溝の図
【図5】K5の図
【図6】K6の図
【図7】スリーブ下部近傍の図
【図8】空間溝の位置が異なるスリーブ下部近傍の図
【符号の説明】
【0094】
1 ハウジング
2 環状凹部
3 上方突出円筒部
4 フランジ部
5 貫通孔
6 内部円筒部
7 シャフト
8 ステ−タコア
9 電着塗装膜
10 コイル
11 銅箔線
12 抜け止め板
13 ネジシャフト
14 スリーブ
15 流体溜まり部
16 上部の径小円筒部
17 下部の径小円筒部
18 螺旋状の溝
19 潤滑流体
20 潤滑流体流出防止溝
21 潤滑流体流出防止溝
22 小内径部
23 中内径部
24 スラスト押え板
25 補強板
26 大内径部
27 接着剤
28 ロータハブ
29 カップ円筒部
30 天面部
31 フランジ部
32 ロータヨーク
33 駆動マグネット
34 スラスト面
35 内周部
36 外周部
37 外周部
38 軸方向端部
39 外端部
40 空間溝


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジングと、
前記ハウジングに直接または間接的に固定されたステータコアと、前記ステータコアに絶縁処理した処理材の上に巻配したコイルと、
前記ハウジングの表面に絶縁膜を介して形成され、外部まで導き出した銅箔線と、
前記ハウジングの表面において前記銅箔線に接続した前記コイルの端末と、
相対回転自在に構成されたシャフトとスリーブとを有し、その隙間に潤滑流体を介した動圧軸受装置と
を備えたスピンドルモータ。
【請求項2】
前記銅箔線は、蒸着によって形成された請求項1に記載のスピンドルモータ。
【請求項3】
前記絶縁膜はポリイミド系樹脂よりなる請求項1または2に記載のスピンドルモータ。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載のスピンドルモータを搭載した記録再生装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−72900(P2008−72900A)
【公開日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−316906(P2007−316906)
【出願日】平成19年12月7日(2007.12.7)
【分割の表示】特願平10−223958の分割
【原出願日】平成10年8月7日(1998.8.7)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】