動物肝臓の酵素分解物および該酵素分解物を含有する食品
【課題】豚肝臓の酵素分解物が脂質および糖代謝の改善に有効であるという新規な知見に基づき、脂質および糖代謝改善効果のある食品を実現する。
【解決手段】豚レバーを粉砕し、プロテアーゼを用い至適pHで45度4時間程反応させ、加圧抽出し、遠心分離により濃縮し、限外濾過により分子量を50〜1000に調整し、調整された、ビタミンB群、ミネラル(鉄、亜鉛、銅など)、核酸を多く含有し、アミノ酸スコアは100であるレバーパウダーもしくは同等のアミノ酸組成のアミノ酸混合物もしくはグリシンアラニンの混合物に、他の添加剤を混ぜて、脂質および糖代謝改善効果のある食品を得る。
【解決手段】豚レバーを粉砕し、プロテアーゼを用い至適pHで45度4時間程反応させ、加圧抽出し、遠心分離により濃縮し、限外濾過により分子量を50〜1000に調整し、調整された、ビタミンB群、ミネラル(鉄、亜鉛、銅など)、核酸を多く含有し、アミノ酸スコアは100であるレバーパウダーもしくは同等のアミノ酸組成のアミノ酸混合物もしくはグリシンアラニンの混合物に、他の添加剤を混ぜて、脂質および糖代謝改善効果のある食品を得る。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動物肝臓の酵素分解混合物を含有した食品に関し、特に、豚の肝臓の酵素分解混合物、或いは同等の混合物を含有し、脂質代謝及び糖代謝の改善効果を有する食品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、食生活の欧米化や生活環境の変化により、糖尿病、高血圧、高脂血症などの生活習慣病が増加の一途をたどっている。肥満はこれら生活習慣病の主要原因といわれ、その予防法および解決手段について、多岐にわたり研究開発が行われている。
【0003】
これまで食品栄養学の分野において、植物性タンパク質、ペプチドの有効性(脂質代謝の改善など)について報告されている。しかし、食肉および畜肉副産物の機能性に関する研究は一部に限られている。ところで、レバーは、タンパク質やビタミン、ミネラル等をバランスよく含有する栄養価の非常に高い食品であり、この点に着目し、この栄養価を利用した食品の開発が従来、行われている。
【0004】
しかし、食感や臭いなどの問題から食品としての利用価値は低かった。この点を解決するために、従来、レバーの脱臭及び消臭法として、ぬかによる熱水処理やカテキンを添加する提案がされている(特許文献1参照。)。
【0005】
また、食感の改善法としてペースト状による検討が行われてきた。さらに、酵素を用いた加水分解技術により、食味上の欠点を改善する工夫もされている。
【特許文献1】特開2000−32955号公報(段落0011参照。)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のように従来技術により豚肝臓の、食品の二次機能である「食感や臭い」については、改善はされつつあるが、食品の三次機能(生体調節機能)を視野に入れた検討は、従来は、充分に行われていなかった。従来より豚肝臓の酵素分解物は、存在していたが、栄養物やビタミン源として、栄養補給の役割しか期待されていなかった。
【0007】
本発明者らは、豚肝臓の酵素分解物が食品として発揮する三次機能(生体調節機能)を視野に入れた研究を鋭意行っていたところ、豚肝臓の酵素分解物が脂質および糖代謝の改善に有効であるという知見を得た。そこで本発明は、この知見に基づいて、脂質および糖代謝改善効果のある分子量50〜1000の動物肝臓の酵素分解混合物を含有した食品を実現することを課題とするものである。
【0008】
さらに、本発明は、豚肝臓の酵素分解物の中で脂質蓄積抑制に寄与する物質が探索することにより、必ずしも豚肝臓由来の物質ではなく、相当する合成及び/又は天然物由来の物質を添加することで、脂質および糖代謝改善効果のある食品を実現することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は上記課題を解決するために、動物レバーを酵素処理した成分を濃縮することにより得られ、脂質代謝及び糖代謝を改善することを特徴とする動物肝臓の酵素分解混合物を提供する。
【0010】
前記酵素分解混合物は、アミノ酸、水溶性ビタミン、ミネラル、核酸、ペプチドを含む分子量50〜1000の酵素分解混合物であることを特徴とする。
【0011】
前記酵素分解混合物は、豚レバーを粉砕し、プロテアーゼを用い至適pHで45℃で反応させ、加圧抽出、濃縮し、限外濾過により分子量を50〜1000レバーパウダーに調整されていることを特徴とする。
【0012】
本発明は上記課題を解決するために、豚レバーを粉砕し、プロテアーゼを用い至適pHで45℃で反応させ、加圧抽出、濃縮し、限外濾過により分子量を50〜1000レバーパウダーに調整されている動物肝臓の酵素分解混合物と同等のアミノ酸組成を有する合成および/または天然物由来のアミノ酸混合物を含有する酵素分解混合物を含むことを特徴とする酵素分解混合物を提供する。
【0013】
尚、上記記載の動物肝臓の酵素分解混合物と同等のアミノ酸組成とは、図10記載の豚レバー酵素分解物のアミノ酸組成で表示されている含有%に比べ、各アミノ酸の含有量が±2%好ましくは、±1%の幅を持って構成された各アミノ酸含有%がアミノ酸組成のことを言う。例えば、グリシン含量であれば、1.05〜5.05%の範囲であれば良く、好ましくは、2.05〜4.05%の範囲が望ましく、アラニン含量であれば、1.48〜5.48%の範囲であれば良く、好ましくは、2.48〜4.48%の範囲が望ましく、他のアミノ酸に関しても同様の幅を有する範囲であれば良い。
【0014】
本発明は上記課題を解決するために、グリシンまたはアラニンまたはグリシンとアラニンの混合物を含み、脂質代謝及び糖代謝を改善することを特徴とする酵素分解混合物を提供する。
【0015】
本発明は上記課題を解決するために、前記いずれかに記載の酵素分解混合物を含有する食品を提供する。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る動物肝臓の酵素分解物を含有した食品は、その肝臓の酵素分解物が脂質および糖代謝の改善に有効であり、日常食する主食、飲料等に利用すれば、糖尿病、高血圧、高脂血症などの生活習慣病を予防し、改善にきわめて大きな効果を有する。
【0017】
さらに、本発明は、豚肝臓の酵素分解物の中で脂質蓄積抑制に寄与する物質が探索して結果得られた豚肝臓由来の物質と同等の合成及び/又は天然物由来の物質を添加することで、脂質および糖代謝改善効果のある食品を得る事ができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明に係る動物肝臓の酵素分解混合物を含有した食品を実施するための最良の形態を、試験例及び実施例等に基づいて以下に説明する。
【0019】
本発明者等は、豚レバーを酵素処理した成分を濃縮し、さらに限外濾過することにより、アミノ酸を主成分とする酵素分解混合物を得た。この酵素分解混合物は、アミノ酸、水溶性ビタミン、ミネラル、核酸、ペプチド等を含むものである。
【0020】
この酵素分解混合物を、動物(ラット)に長期間投与したところ、脂質および糖代謝の改善に有効であることが確認できた。要するに、動物実験の結果では、レバーの長期摂取により、動物レバー由来の酵素分解混合物は、脂質および糖代謝の改善に有効であることが確認することができた。
【0021】
そして、豚レバーを酵素処理した成分を濃縮してから限外濾過をするが、この濾過の程度により、得られる酵素分解混合物の画分分子量の大きさが異なってくるが、分子量50〜1000、特に、分子量100〜1000の豚肝臓の酵素分解混合物は、脂質および糖代謝改善効果がきわめて大きいという知見が得られた。
【0022】
本発明は、このような豚肝臓の酵素分解物が脂質および糖代謝の改善に有効であるという知見を下に想到したものであり、脂質および糖代謝改善効果のある分子量1000以下、特に50〜1000の豚肝臓の酵素分解混合物を含有した食品である。
【0023】
本発明の動物肝臓の酵素分解混合物は、具体的にはレバーパウダーとして調整するが、その調整は、次のようにして行う。原料として、豚レバーを粉砕し、プロテアーゼ(例えば、プロメインやキモトリプシンやパパイン等)を用い至適pHで45度4時間程反応させ、加圧抽出し、遠心分離により濃縮する。
【0024】
さらに、この濃縮物を、1次膜濾過により分子量を3000以下に調整し、さらに2次膜濾過により分子量を1000以下、特に50〜1000に調整し、粉末化する。調整されたレバーパウダーは、ビタミンB群、ミネラル(鉄、亜鉛、銅など)、核酸を多く含有し、アミノ酸スコアは100である。
【0025】
(試験例1)
概要:
上記の調整によりレバーパウダーとして得られた本発明の動物肝臓の酵素分解混合物が、脂質および糖代謝改善効果があることを実証するために、表1に示すように、豚レバー酵素分解物投与群(レバー群)と非投与群(コントロール群)について、脂質代謝改善効果及び糖代謝改善効果を測定し評価した。
【0026】
豚レバー酵素分解物投与群(レバー群)は、レバーパウダーを含む2種の試験食A、B(表1中の「レバー群」)を動物に投与した場合であり、非投与群(コントロール群)は、レバーパウダーを含まない試験食C(表1中の「コントロール群」)を動物に投与した場合である。
【0027】
試験食:
ここで、試験食A、Bの配合飼料は表1に示すとおりであり、互いにレバーパウダー以外の配合飼料は共通している。しかし、試験食A、Bにそれぞれ含まれるレバーパウダーの性状が互いに異なる。即ち、試験食Aの分画分子量が50〜1000であり、試験食Bの分画分子量が1000〜100000である。この分画分子量は、上述のとおり、限外濾過の程度に応じて調整される。
【0028】
【表1】
【0029】
試験条件:
試験条件は次のとおりである。この投与試験には、2型糖尿病モデルラットOLETF(Otsuka Long−Evans Tokushima Fatty)雄 18週齢(n=14)を購入し、19週目に経口糖負荷試験(2.0g glucose/kg b.w.)を行った。
【0030】
この結果に基づいて、糖代謝の体質が偏らないように群分けし、20週齢より試験食の摂取を開始し、以後4週間毎に計3回絶食時採血を行うとともに、34週齢には糞を採取した。
【0031】
脂質代謝改善効果や糖代謝改善効果の測定及び評価については、具体的には、体重(g)、並びに採決した血液のコレステロール(mg/dl)、遊離脂肪酸、中性脂肪、血糖値(mg/dl)、血漿インスリン値(pg/ml)及びレプチン濃度(pg/ml)を定法により測定した。
【0032】
また、糞に関しては、乾燥糞量(g/day)、糞中脂肪量(mg/day)、脂肪消化率(%)、酸性ステロール(μmol/l)、中性ステロール(μmol/l)を測定した。
【0033】
試験結果及び考察:
試験結果としては、期間中の体重変化(g)は、図1に示すように、豚レバー酵素分解物摂取8週目(図1中の28週齢)より豚レバー酵素分解物投与群(レバー群)と非投与群(コントロール群)の群間に有意差が認められ、豚レバー酵素分解物投与群は、非投与群に比べ肥満を抑制する傾向が認められた。なお、図1〜7中p<0.05の意味は、t検定の結果、有意差があることを示唆している。
【0034】
試験食摂取による各種マーカーの変化としては、図2に示すように、絶食時血糖値(mg/dl)は、豚レバー酵素分解物摂取4週目(図2中の24週齢)より、豚レバー酵素分解物投与群(図2の棒グラフの左側の棒)と非投与群(図2の棒グラフの右側の棒)の群間に有意差が認められた。しかし、インスリン値(pg/ml)には、格別な有意差は認められなかった。
【0035】
コレステロール値(mg/dl)は、図3に示すように、豚レバー酵素分解物摂取4週目(図3中の24週齢)より、豚レバー酵素分解物投与群(図3の棒グラフの左側の棒)と非投与群(図3の棒グラフの右側の棒)の群間に有意差が認められた。しかし、NEFA値(mEq/l)には有意差は認められなかった。
【0036】
TG値(mg/dl)は、図4に示すように、豚レバー酵素分解物摂取4週目(図4中の24週齢)のみ豚レバー酵素分解物投与群(図4の棒グラフの左側の棒)と非投与群(図4の棒グラフの右側の棒)の群間に有意差が認められた。一方、レプチン値(pg/ml)は摂取4週目以降継続して差が認められた。
【0037】
解剖時の臓器重量の割合(%)に関しては、図5に示すように、豚レバー酵素分解物投与群(図5の棒グラフの左側の棒)は非投与群(図5の棒グラフの右側の棒)に較べて脂肪重量で有意に低かった。
【0038】
解剖時における血液成分分析に関しては、図6に示すように、過酸化脂質(nmol/ml)、クレアチン(mg/ml)、尿酸(mg/ml)、アルブミン(g/dl)、GOT(Karmen単位)、GPT(Karmen単位)を測定したが、豚レバー酵素分解物投与群は、過酸化脂質において有意に低値を示した。その他項目について有意な差は認められなかった。
【0039】
試験食摂取14週目(32週齢の解剖時)での糞分析に関しては、乾燥糞量(g/day)、糞中脂肪量(mg/day)、脂肪消化率(%)、中性ステロール(μmol/l)、酸性ステロール(μmol/l)を測定し、豚レバー酵素分解物投与群は、乾燥糞量、糞中脂肪量、脂肪消化率及び中性ステロールが有意に高値を示した。一方、酸性ステロールには有意な差は認められなかった。
【0040】
以上まとめると、次のとおりである。
(1)豚レバー酵素分解物の長期摂取により、体重、血糖値、血中コレステロール、血中レプチンが有意に低下を示した。
(2)臓器重量から、豚レバー酵素分解物の摂取により腎周囲脂肪の蓄積を抑制した。
(3)血液成分の分析から、豚レバー酵素分解物摂取により過酸化脂質の低下を認めた。
(4)糞分析より、豚レバー酵素分解物の摂取が糞中への脂肪の排泄(中性ステロール)を促進することが認められた。
【0041】
以上の試験例により、豚レバー酵素分解物が、肥満及び脂質代謝の改善に寄与する効果があることが実証できた。そこで、本発明は、このような実証に基づき、動物レバーを酵素処理した成分を濃縮することにより得られた、アミノ酸を主成分とする分子量50〜1000の酵素分解混合物を含有した試験食Aに相当する食品であり、脂質代謝及び糖代謝を改善する効果を有するものである。
【0042】
(試験例2)
上記試験例1において、豚レバー酵素分解物が、肥満及び脂質代謝の改善に寄与する効果があることが実証できた。この試験例1で使用した2種の試験食A、Bは、前述のとおり、レバーパウダーを含む点では共通しているが、その分画分子量が異なるものである。
【0043】
ところで、上記2種の試験食Aと試験食Bの効果を比較するために、試験例2として、さらに、試験食Aと試験食Bの投与試験を行った。この投与試験の結果、試験食A(画分分子量50〜1000)が、試験食B(画分分子量1000〜100000)に較べて脂質代謝改善効果や糖代謝改善効果がすぐれていることが分かった。以下、試験食Aを本発明に係る試験食とし、試験食Bを比較例として、この試験例2の投与試験について説明する。
【0044】
投与試験には、2型糖尿病モデルラットOLETF(Otsuka Long−Evans Tokushima Fatty)雄18週齢(n=20)を準備し、19週目に経口糖負荷試験(2.0g glucose/kg b.w.)を行い、この結果に基づいて、偏らないように群分け(各群5匹)した。
【0045】
そして、20週目より試験食A(画分分子量50〜1000のレバーパウダーを20%含有)の摂取を開始し、以後4週間毎に、絶食時採血を行い、体重及び、採決した血液のコレステロール、遊離脂肪酸、中性脂肪、血糖値、血漿インスリン値、レプチン濃度を定法により測定した。
【0046】
一方、比較例(試験食B:画分分子量1000〜100000のレバーパウダーを20%含有)についても、本発明に係る試験食Aと同様な投与試験を行った。
【0047】
これらの投与試験の結果を、脂質代謝改善効果及び糖代謝改善効果を10段階評価で評価し、これを表2に示す。なお、10が最高、1が最低の効果を示す。
【0048】
【表2】
【0049】
この結果、本発明に係る試験食A(画分分子量50〜1000)のレバーパウダーを20%含有)は、比較例に較べてきわめて脂質代謝改善効果及び糖代謝改善効果が大きいことが実証された。
【実施例1】
【0050】
次に、本発明に係る動物肝臓の酵素分解混合物を含有した食品の実施例1〜3を挙げて、その効果等について、以下に説明する。実施例1は、本発明に係る試験食Aと同様に、画分分子量50〜1000のレバーパウダーを20%を飲料に含有させて食品となしたもの(以下、「豚レバーパウダー20%含有飲料」という。)である。
【実施例2】
【0051】
実施例2は、同じく画分分子量50〜1000のレバーパウダーを20%とキトサン2%を飲料に含有させて食品となしたもの(豚レバーパウダー20%+キトサン2%含有飲料)である。
【実施例3】
【0052】
さらに、実施例3は、同じく画分分子量50〜1000のレバーパウダーを20%と含有飲料難消化性デキストリン2%を飲料に含有させて食品となしたもの(豚レバーパウダー20%+含有飲料難消化性デキストリン2%含有飲料」という。)である。
【0053】
これらの実施例1〜3の効果を実証するために、次に述べる比較例1〜3と比較する摂取実験を実施した。
【0054】
比較例1は、レバーパウダーを含まないキトサン2%含有飲料である。比較例2は、レバーパウダーを含まない含有飲料難消化性デキストリン2%含有飲料である。豚レバーパウダー、キトサン、含有飲料難消化性デキストリンのいずれも含有しない無添加飲料である。
【0055】
これらの実施例1〜3と比較例1〜3の摂取実験では、BMI25以上の成人のボランティア40名を体脂肪率が偏らないように、10名ごと各試験群に分け、この分けた10名に、朝昼晩の3回/日、8週間毎日摂取させて、8週間後の体脂肪の減少の程度を摂食前の体脂肪を100%として、体脂肪減少率を測定し、体脂肪減少効果を確認した。
【0056】
摂取実験の結果を次の表3に示す。この表3によると、実施例1〜3は、比較例に較べて体脂肪減少効果が優れていることが実証できた。特に、実施例2及び実施例3のように、キトサン及び含有飲料難消化性デキストリンを含有させることで、一層、その効果が大きくなることが実証できた。
【0057】
【表3】
【0058】
(試験例3)
本発明者等、更に、豚レバー酵素分解物の機能本体を明らかにするために、内臓脂肪細胞を用いた豚レバー酵素分解物(以下、「PLH」とも言う。)の脂質蓄積に関する実験、検討を行った。実験方法は、次のとおりである。
【0059】
1.試験方法
(1) 検体としては、上記に記載の方法で作成したPLHを用いた。
【0060】
(2)腸間膜脂肪細胞を用いた試験プロセス、検討
イ.腸間膜脂肪細胞の培養
細胞はwistar系雄ラットの腸間膜から採取した腸間膜前駆脂肪細胞((株)プライマリーセル製)を用いた。すなわち24穴プレートに、1×105cells/ml/wellとなるように調製した腸間膜脂肪細胞を播種し、CO2インキュベーター(37℃、5%CO2)にて一晩培養した。
【0061】
ロ.豚レバー酵素分解物添加培地の調製
検体である豚レバー酵素分解物(PLH)を0.01、0.04、0.1、1mg/mlの各濃度になるよう培地に溶解した。
【0062】
ハ.豚レバー酵素分解物添加培地による腸間膜脂肪細胞培養
一晩培養後培地交換を行い、調製済の豚レバー酵素分解物(PLH)添加培地を添加しCO2インキュベーターにて3日間培養した。その間、培養2日目にて培地交換し、新たに調製したPLH添加培地を添加した。
【0063】
ニ.腸間膜脂肪細胞の回収および測定検体の調製
培養終了後、培地を除去しPBSにて洗浄した。酵素抽出液にて細胞を回収し、超音波破砕機にて細胞を砕機させ、12,800xg、4℃にて5分間遠心分離した。その上清を回収し測定検体とした。
【0064】
ホ.細胞内中性脂肪の測定
測定には市販キット(トリグリセライドE−テストワコー)を用いて測定した。
【0065】
(3)統計処理
実験より得られた両群のデータは平均±標準誤差で示した。Repeated measure one−way ANOVAにより検定し、F値が有意であった場合にはFisher’s PLSD法を用いて多重比較を行った。
【0066】
2.試験結果
(1)脂質蓄積への影響
図8に細胞内中性脂肪の測定結果を示す。この図8によると、0.1、1mg/ml PLH添加培地において、無添加培地と比べ細胞内中性脂肪の有意な低下が認められた。これより、PLHが内臓脂肪である腸間膜脂肪細胞に対して、脂肪蓄積阻害作用を有することが新たに明らかとなった。
【0067】
なお、脂肪細胞を用いた評価は、すでに、株化されたマウス繊維芽細胞である3T3−L1細胞による報告が多く認められる。そのうち、食品成分では茶カテキンの脂肪蓄積抑制および脂肪分解効果、DHA(ドコサヘキサエン酸)の脂肪蓄積抑制効果、ブドウ種子抽出物による脂肪細胞分化抑制効果などが論文として報告されている。
【0068】
最近、内臓脂肪の代表とされる腸間膜脂肪細胞の初代培養系および3T3−L1細胞を用いて、糖尿病治療薬であるチアゾリジン誘導体を培地に添加した場合、その反応性が異なる報告が認められている。そこで、本発明者等はこの手法に着目し、in vivoでの条件に近い初代培養系による評価が細胞を用いる評価にも適していると考え、本試験では腸間膜脂肪細胞を用いて評価を行った。
【0069】
今回の試験では、培地中に直接豚レバー酵素分解物を添加する方法にて検討を行った。OLETFラットの血中遊離脂肪酸レベルが豚レバー酵素分解物(PLH)群では低い傾向を示したことから、豚レバー酵素分解物には脂肪細胞の分解自体には影響を及ぼさないことを考察した。しかしながら、脂肪細胞のなかでもインスリン抵抗性やメタボリックシンドロームにもっとも深く関わる内臓脂肪細胞において、豚レバー酵素分解物が脂質蓄積の抑制に作用するという知見を得ることができた。
【0070】
(試験例4)
上記試験例3の結果、内臓脂肪細胞において、豚レバー酵素分解物が脂質蓄積の抑制に作用するという確認が得られたので、次に、試験例4で、内臓脂肪細胞系を用いて測定した豚レバー酵素分解物(PLH)中の構成成分をもとに、脂質蓄積抑制に寄与する物質の探索(効果関与成分の探索)を進めた。この脂質蓄積抑制に寄与する物質が探索できれば、その物質を食品に添加場合は、特に豚肝臓由来の必要はなく、その物質に相当する合成及び/又は天然物由来のものでも良い
【0071】
このような観点から、この試験例4では、事前に上記試験例3において作製した豚レバー酵素分解物(PLH)の成分組成を分析した。この結果、図9に示す表4、及び図10に示す表5を得た。この分析結果に基づき、ビタミン混合物、ミネラル混合物、アミノ酸混合物をそれぞれ、合成及び/又は天然物由来から作製した。この試験例4では、これらを検体として用いる。
【0072】
1.試験方法
(1)検体
検体として、上記試験例3において作製した豚レバー酵素分解物(PLH)を用いる。さらに、検体として、前記のとおり、上記試験例3において作製した豚レバー酵素分解物(PLH)を分析した数値(図9に示す表4及び図10に示す表5参照)を下に、ビタミン混合物(図11中:ビタミン)、ミネラル混合物(図11中:ミネラル)、アミノ酸混合物(図11中:アミノ酸)をそれぞれ別途独自に作製し、これらを用いる。
【0073】
(2)内臓脂肪細胞を用いた試験プロセス、検討
イ.腸間膜脂肪細胞の培養
上記試験例3と同様の方法で実施した。
【0074】
ロ.添加培地の調製
検体である豚レバー酵素分解物(PLH)を1mg/ml含有する培地を作製した。さらに、1mg/ml豚レバー酵素分解物(PLH)中に含有する栄養素量に合わせた混合物として、3種類(ビタミン混合物、ミネラル混合物、構成アミノ酸を含有するアミノ酸混合物)作製し、これらをそれぞれ含有する培地を作製した。以降、上記試験例3の方法と同様な方法にて、培養および中性脂肪の測定を実施した。
【0075】
2.試験結果
(1)脂質蓄積への影響
図11に細胞内中性脂肪の測定結果を示す。この図11によると、無添加培地に比べてPLHおよびアミノ酸混合物をそれぞれ添加することにより、細胞内中性脂肪の有意な低下が認められた。
【0076】
これより、豚レバー酵素分解物(PLH)を構成するアミノ酸混合物が内臓脂肪である腸間膜脂肪細胞に対して、脂肪蓄積阻害作用を有することが新たに明らかとなった。一方、PLHを構成するビタミン混合物やミネラル混合物は無添加と比べ脂質蓄積に対して有意な差は認められず、ビタミン混合物ではむしろ脂質蓄積を亢進する傾向にあった。
【0077】
これまで、腸間膜脂肪細胞を用いた栄養素添加による報告は皆無であるが、株化細胞の3T3−L1ではビタミンB6やビタミンCの添加が中性脂肪の蓄積を亢進するとしている。初代培養細胞と株化細胞ではその性質に差異が認められており、直接的な比較をすることはできないが、ビタミン混合物が腸間膜脂肪細胞での脂質蓄積に対して抑制的にはたらく可能性は低いものと考えられる。
【0078】
肥満予防の観点から、試験例3、4により脂質蓄積の抑制が確認されたことは大変有意義であり、さらに、その関与成分としてアミノ酸混合物が挙げられ、効果成分の特定ができた。これらの結果より、アミノ酸混合物の添加により脂質蓄積が有意に低下することが明らかとなり、タンパク質源としてのアミノ酸やペプチドの寄与が実証できた。
【0079】
(試験例5)
上記試験例4の結果、内臓脂肪細胞において、アミノ酸混合物の添加により脂質蓄積が有意に低下し、アミノ酸群が活性を有するという確認が得られたので、次に、試験例5で、内臓脂肪細胞系を用いて、どのアミノ酸群が効果を有するかを探索(効果関与アミノ酸群の探索)した。
【0080】
1.試験方法
(1)検体
ここでは、アミノ酸を幾つかの群に分けて実験を行ったが、この分類の区分方法として、通常、実験動物の餌のタンパク質の標準的なコントロールとして使われるカゼインを含有したカゼイン食餌(試験例1の試験食A)のアミノ酸組成とタンパク質として豚肝臓酵素分解処理物を含有した豚肝臓酵素分解処理物食餌(試験例1の試験食C)のアミノ酸組成を分析した数値(図12に示す表6)を下に、次の検体のグループG1〜G5をそれぞれ作製した。
【0081】
G1群:カゼイン食餌より多いアミノ酸群(グリシン+アラニン)
G2群:カゼイン食餌よりやや多いアミノ酸群(システイン、アスパラギン)
G3群:分岐鎖アミノ酸群<BCAA>(Val+Leu+Ile)
G4群:カゼイン食餌より少ないアミノ酸群(Thr+Ser+Met+Phe+His+ Lys+Trp)
G5群:カゼイン食餌より少ないアミノ酸群(Glu+Pro+Tyr+Arg)
【0082】
(2)内臓脂肪細胞を用いた試験プロセス、検討
イ.腸間膜脂肪細胞の培養
上記試験例3と同様の方法で実施した。
【0083】
ロ.添加培地の調製
上記G1〜G5の5群の各アミノ酸をPLHの含有するアミノ酸量に合わせた混合物を5種類(G1群:グリシン+アラニン)、(G2群:システイン+アスパラギン)、(G3群:Val+Leu+Ile)、(G4群:Thr+Ser+Met+Phe+His+Lys+Trp)、(G5群:Glu+Pro+Tyr+Arg)を作成した。以降、上記試験例3記載の方法と同様な方法にて、培養および中性脂肪の測定を実施した。
【0084】
2.試験結果
(1)脂質蓄積への影響
図13に細胞内中性脂肪の測定結果を示す。この図13によると、無添加培地(図13中の0で示す。)に比べて、G1群のグリシンとアラニン混合物添加により、細胞内中性脂肪の有意な低下が認められた。以上より、この試験例5で構造的に単純な低分子量の中性アミノ酸であるグリシンおよびアラニンの混合物が活性を有することが明らかとなった。
【0085】
なお、グリシンの機能として、グルタチオンや血色素成分であるポルフィリンの原料と用いられることが報告されており、一方、アラニンの機能としては、最もエネルギー源として利用されやすいアミノ酸の一つであることや、アルコール代謝を改善する作用があること、身体に必要な糖を合成する材料としても使われることがわかっていたが、グリシンおよびアラニンの混合物が細胞内中性脂肪の低下をもたらすことは、本発明のこの試験例5において初めて明らかになった。
【0086】
(試験例6)
上記試験例5の結果、内臓脂肪細胞に対して、豚の肝臓酵素分解処理物に豊富なアミノ酸成分であるグリシンおよびアラニンの混合物が活性を有するという確認が得られたので、次に、試験例6で、内臓脂肪細胞系を用いて、グリシン単独、および、アラニン単独、および、グリシンおよびアラニンの示す相乗効果について探索(効果関与アミノ酸の探索)した。
【0087】
1.試験方法
(1) 検体
グリシンおよびアラニンの示す相乗効果を調べるために、検体として、互いの含有比率(下記の表7のGly:Alaの欄参照。)を変えたI〜VIの6群の試験群をそれぞれ作製した。
【0088】
【表7】
【0089】
(2)内臓脂肪細胞を用いた試験プロセス、検討
イ.腸間膜脂肪細胞の培養
上記試験例3と同様の方法で実施した。
【0090】
ロ.添加培地の調製
表7記載のグリシン、アラニン混合物5種類(I〜VI群)を合計量をPLHの含有するグリシンとアラニンのアミノ酸量に合わせて作成した。また、コントロール群として無添加群(VI)も準備した。以降、上記試験例3と同様な方法にて、培養および中性脂肪の測定を実施した。
【0091】
2.結果
(1)脂質蓄積への影響
表7に細胞内中性脂肪の測定結果を示す。この表7によると、構造的に単純な低分子量の中性アミノ酸であるグリシンおよびアラニン各々単独でもいかなる比率に混合した混合物でも活性を有することが、好ましくは、ある一定比率(グリシン:アラニン=1:9〜9:1)の混合物が活性を有することが、より好ましくは、ある一定比率(グリシン:アラニン=1:9〜5:5)の混合物が活性を有することが、明らかとなった。
【実施例4】
【0092】
本件発明の実施例4は、豚レバーを粉砕し、プロテアーゼを用い至適pHで45℃で反応させ、加圧抽出し、遠心分離により濃縮し、限外濾過により分子量を50〜1000レバーパウダーに調整されている動物肝臓の酵素分解混合物と同等のアミノ酸組成を有する合成および/または天然物由来のアミノ酸混合物を含有した食品である。
【0093】
この実施例4は、上記試験例4の結果、動物肝臓の酵素分解混合物と同等のアミノ酸組成を有する合成および/または天然物由来のアミノ酸混合物が活性を有するという知見に基づき想到したものである。即ち、試験例4の結果からして、実施例1〜3のように動物肝臓の酵素分解混合物ではなくても、それと同等の合成および/または天然物由来のアミノ酸混合物を含有した食品であればよいということに基づくものである。
【実施例5】
【0094】
本件発明の実施例5は、合成および/または天然物由来のアミノ酸であるグリシン単独、または、アラニン単独、または、グリシンおよびアラニンのある一定比率(グリシン:アラニン=1:9〜9:1)の混合物を含有した食品である。
【0095】
食肉原料(豚肉;練り上がり原料混合物100重量部当り70.2部)と豚背脂肪(4.3部)を合わせ、肉挽き機又はサイレントカッターにより、直径15mm以下程度の肉塊に細挽し、これに氷(15.5部)、食塩(1部)、ビタミンC(アスコルビン酸ナトリウム、0.1部)、重合リン酸塩(0.2部)、砂糖・香辛料等(0.7部)、馬鈴薯でん粉(3部)及びグリシン単独、または、アラニン単独、または、グリシンおよびアラニンのある一定比率(グリシン:アラニン=1:9〜9:1)の混合物を各群(5部)を加え、サイレントカッター又は真空ミキサーを用いて、ウインナーソーセージ用の練り肉を調製した。次いで、これを羊腸あるいはコラーゲン・ケーシングに充填し、5〜10cmの長さでひねり結紮して、懸垂棒に吊し、乾燥し、中心温度が72℃に達するまで蒸煮し、冷却した。
【0096】
上記で得られた本発明のウインナーソーセージを評価するためにヒト試験を実施した。すなわち、各群5名づつの男女により、2週間、毎食事毎(一日3食)に2本(約10g/本)食事して頂き、本ソーセージ摂取前と2週間の摂取後に血液を採取し血中のトリグリセライド値を測定し効果を判定した。
【0097】
この実施例5は、表8に示したとおり、上記試験例6と同様の傾向の結果を得た、構造的に単純なアミノ酸であるグリシン単独、または、アラニン単独、または、グリシンおよびアラニンのある一定比率(グリシン:アラニン=1:9〜9:1)の混合物が、細胞内中性脂肪を有意に低下させる活性を有するという知見に基づくものである。
【0098】
【表8】
【0099】
以上、本発明に係る動物肝臓の酵素分解混合物を含有した食品を実施するための最良の形態を試験例、実施例等に基づいて説明したが、本発明はこのような試験例、実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された技術的事項の範囲内でいろいろな実施例があることは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0100】
以上のとおり本発明の動物肝臓の酵素分解混合物を含有した豚レバーパウダーおよび/または同等のアミノ酸組成を有するアミノ酸混合物および/またはグリシン単独および/またはアラニン単独および/またはグリシンとアラニンの混合物は、日常的に食する主食、ハム、ソーセージ、ハンバーグ、肉団子等の食肉製品、錠剤状のサプリメント、或いは飲料等に含有させることにより、生活習慣病の改善する食品として適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0101】
【図1】本発明の試験例による試験期間中の体重の変化を示す図である。
【図2】本発明の試験例による試験食摂取による血糖値及びインスリン値の変化を示すグラフである。
【図3】本発明の試験例によるコレステロール値及びNEFA値の変化を示すグラフである。
【図4】本発明の試験例によるTG及びレプチンの変化を示すグラフである。
【図5】本発明の試験例による解剖時の臓器重量の変化を示すグラフである。
【図6】本発明の試験例による解剖時における血液成分分析の結果を示すグラフである。
【図7】本発明の試験例による試験摂取14週目での糞分析の結果を示すグラフである。
【図8】本発明の試験例による腸間膜脂肪細胞の脂肪蓄積における豚レバー酵素分解物(PLH)の効果を示すグラフである。
【図9】本発明の試験例における、豚レバー酵素分解物(PLH)の成分組成を示す表である。
【図10】本発明の試験例における、豚レバー酵素分解物(PLH)のアミノ酸の組成を示す表ある。
【図11】本発明の試験例による腸間膜脂肪細胞の脂肪蓄積における豚肝臓タンパク質加水分解物(PLH)の効果を示すグラフである。
【図12】本発明の試験例における、カゼンイン食餌と豚肝臓タンパク質加水分解物食餌とのアミノ酸組成を示す表である。
【図13】本発明の試験例による、グリシンとアラニン混合物添加の細胞内中性脂肪の低下への影響を示すグラフである。
【技術分野】
【0001】
本発明は、動物肝臓の酵素分解混合物を含有した食品に関し、特に、豚の肝臓の酵素分解混合物、或いは同等の混合物を含有し、脂質代謝及び糖代謝の改善効果を有する食品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、食生活の欧米化や生活環境の変化により、糖尿病、高血圧、高脂血症などの生活習慣病が増加の一途をたどっている。肥満はこれら生活習慣病の主要原因といわれ、その予防法および解決手段について、多岐にわたり研究開発が行われている。
【0003】
これまで食品栄養学の分野において、植物性タンパク質、ペプチドの有効性(脂質代謝の改善など)について報告されている。しかし、食肉および畜肉副産物の機能性に関する研究は一部に限られている。ところで、レバーは、タンパク質やビタミン、ミネラル等をバランスよく含有する栄養価の非常に高い食品であり、この点に着目し、この栄養価を利用した食品の開発が従来、行われている。
【0004】
しかし、食感や臭いなどの問題から食品としての利用価値は低かった。この点を解決するために、従来、レバーの脱臭及び消臭法として、ぬかによる熱水処理やカテキンを添加する提案がされている(特許文献1参照。)。
【0005】
また、食感の改善法としてペースト状による検討が行われてきた。さらに、酵素を用いた加水分解技術により、食味上の欠点を改善する工夫もされている。
【特許文献1】特開2000−32955号公報(段落0011参照。)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のように従来技術により豚肝臓の、食品の二次機能である「食感や臭い」については、改善はされつつあるが、食品の三次機能(生体調節機能)を視野に入れた検討は、従来は、充分に行われていなかった。従来より豚肝臓の酵素分解物は、存在していたが、栄養物やビタミン源として、栄養補給の役割しか期待されていなかった。
【0007】
本発明者らは、豚肝臓の酵素分解物が食品として発揮する三次機能(生体調節機能)を視野に入れた研究を鋭意行っていたところ、豚肝臓の酵素分解物が脂質および糖代謝の改善に有効であるという知見を得た。そこで本発明は、この知見に基づいて、脂質および糖代謝改善効果のある分子量50〜1000の動物肝臓の酵素分解混合物を含有した食品を実現することを課題とするものである。
【0008】
さらに、本発明は、豚肝臓の酵素分解物の中で脂質蓄積抑制に寄与する物質が探索することにより、必ずしも豚肝臓由来の物質ではなく、相当する合成及び/又は天然物由来の物質を添加することで、脂質および糖代謝改善効果のある食品を実現することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は上記課題を解決するために、動物レバーを酵素処理した成分を濃縮することにより得られ、脂質代謝及び糖代謝を改善することを特徴とする動物肝臓の酵素分解混合物を提供する。
【0010】
前記酵素分解混合物は、アミノ酸、水溶性ビタミン、ミネラル、核酸、ペプチドを含む分子量50〜1000の酵素分解混合物であることを特徴とする。
【0011】
前記酵素分解混合物は、豚レバーを粉砕し、プロテアーゼを用い至適pHで45℃で反応させ、加圧抽出、濃縮し、限外濾過により分子量を50〜1000レバーパウダーに調整されていることを特徴とする。
【0012】
本発明は上記課題を解決するために、豚レバーを粉砕し、プロテアーゼを用い至適pHで45℃で反応させ、加圧抽出、濃縮し、限外濾過により分子量を50〜1000レバーパウダーに調整されている動物肝臓の酵素分解混合物と同等のアミノ酸組成を有する合成および/または天然物由来のアミノ酸混合物を含有する酵素分解混合物を含むことを特徴とする酵素分解混合物を提供する。
【0013】
尚、上記記載の動物肝臓の酵素分解混合物と同等のアミノ酸組成とは、図10記載の豚レバー酵素分解物のアミノ酸組成で表示されている含有%に比べ、各アミノ酸の含有量が±2%好ましくは、±1%の幅を持って構成された各アミノ酸含有%がアミノ酸組成のことを言う。例えば、グリシン含量であれば、1.05〜5.05%の範囲であれば良く、好ましくは、2.05〜4.05%の範囲が望ましく、アラニン含量であれば、1.48〜5.48%の範囲であれば良く、好ましくは、2.48〜4.48%の範囲が望ましく、他のアミノ酸に関しても同様の幅を有する範囲であれば良い。
【0014】
本発明は上記課題を解決するために、グリシンまたはアラニンまたはグリシンとアラニンの混合物を含み、脂質代謝及び糖代謝を改善することを特徴とする酵素分解混合物を提供する。
【0015】
本発明は上記課題を解決するために、前記いずれかに記載の酵素分解混合物を含有する食品を提供する。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る動物肝臓の酵素分解物を含有した食品は、その肝臓の酵素分解物が脂質および糖代謝の改善に有効であり、日常食する主食、飲料等に利用すれば、糖尿病、高血圧、高脂血症などの生活習慣病を予防し、改善にきわめて大きな効果を有する。
【0017】
さらに、本発明は、豚肝臓の酵素分解物の中で脂質蓄積抑制に寄与する物質が探索して結果得られた豚肝臓由来の物質と同等の合成及び/又は天然物由来の物質を添加することで、脂質および糖代謝改善効果のある食品を得る事ができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明に係る動物肝臓の酵素分解混合物を含有した食品を実施するための最良の形態を、試験例及び実施例等に基づいて以下に説明する。
【0019】
本発明者等は、豚レバーを酵素処理した成分を濃縮し、さらに限外濾過することにより、アミノ酸を主成分とする酵素分解混合物を得た。この酵素分解混合物は、アミノ酸、水溶性ビタミン、ミネラル、核酸、ペプチド等を含むものである。
【0020】
この酵素分解混合物を、動物(ラット)に長期間投与したところ、脂質および糖代謝の改善に有効であることが確認できた。要するに、動物実験の結果では、レバーの長期摂取により、動物レバー由来の酵素分解混合物は、脂質および糖代謝の改善に有効であることが確認することができた。
【0021】
そして、豚レバーを酵素処理した成分を濃縮してから限外濾過をするが、この濾過の程度により、得られる酵素分解混合物の画分分子量の大きさが異なってくるが、分子量50〜1000、特に、分子量100〜1000の豚肝臓の酵素分解混合物は、脂質および糖代謝改善効果がきわめて大きいという知見が得られた。
【0022】
本発明は、このような豚肝臓の酵素分解物が脂質および糖代謝の改善に有効であるという知見を下に想到したものであり、脂質および糖代謝改善効果のある分子量1000以下、特に50〜1000の豚肝臓の酵素分解混合物を含有した食品である。
【0023】
本発明の動物肝臓の酵素分解混合物は、具体的にはレバーパウダーとして調整するが、その調整は、次のようにして行う。原料として、豚レバーを粉砕し、プロテアーゼ(例えば、プロメインやキモトリプシンやパパイン等)を用い至適pHで45度4時間程反応させ、加圧抽出し、遠心分離により濃縮する。
【0024】
さらに、この濃縮物を、1次膜濾過により分子量を3000以下に調整し、さらに2次膜濾過により分子量を1000以下、特に50〜1000に調整し、粉末化する。調整されたレバーパウダーは、ビタミンB群、ミネラル(鉄、亜鉛、銅など)、核酸を多く含有し、アミノ酸スコアは100である。
【0025】
(試験例1)
概要:
上記の調整によりレバーパウダーとして得られた本発明の動物肝臓の酵素分解混合物が、脂質および糖代謝改善効果があることを実証するために、表1に示すように、豚レバー酵素分解物投与群(レバー群)と非投与群(コントロール群)について、脂質代謝改善効果及び糖代謝改善効果を測定し評価した。
【0026】
豚レバー酵素分解物投与群(レバー群)は、レバーパウダーを含む2種の試験食A、B(表1中の「レバー群」)を動物に投与した場合であり、非投与群(コントロール群)は、レバーパウダーを含まない試験食C(表1中の「コントロール群」)を動物に投与した場合である。
【0027】
試験食:
ここで、試験食A、Bの配合飼料は表1に示すとおりであり、互いにレバーパウダー以外の配合飼料は共通している。しかし、試験食A、Bにそれぞれ含まれるレバーパウダーの性状が互いに異なる。即ち、試験食Aの分画分子量が50〜1000であり、試験食Bの分画分子量が1000〜100000である。この分画分子量は、上述のとおり、限外濾過の程度に応じて調整される。
【0028】
【表1】
【0029】
試験条件:
試験条件は次のとおりである。この投与試験には、2型糖尿病モデルラットOLETF(Otsuka Long−Evans Tokushima Fatty)雄 18週齢(n=14)を購入し、19週目に経口糖負荷試験(2.0g glucose/kg b.w.)を行った。
【0030】
この結果に基づいて、糖代謝の体質が偏らないように群分けし、20週齢より試験食の摂取を開始し、以後4週間毎に計3回絶食時採血を行うとともに、34週齢には糞を採取した。
【0031】
脂質代謝改善効果や糖代謝改善効果の測定及び評価については、具体的には、体重(g)、並びに採決した血液のコレステロール(mg/dl)、遊離脂肪酸、中性脂肪、血糖値(mg/dl)、血漿インスリン値(pg/ml)及びレプチン濃度(pg/ml)を定法により測定した。
【0032】
また、糞に関しては、乾燥糞量(g/day)、糞中脂肪量(mg/day)、脂肪消化率(%)、酸性ステロール(μmol/l)、中性ステロール(μmol/l)を測定した。
【0033】
試験結果及び考察:
試験結果としては、期間中の体重変化(g)は、図1に示すように、豚レバー酵素分解物摂取8週目(図1中の28週齢)より豚レバー酵素分解物投与群(レバー群)と非投与群(コントロール群)の群間に有意差が認められ、豚レバー酵素分解物投与群は、非投与群に比べ肥満を抑制する傾向が認められた。なお、図1〜7中p<0.05の意味は、t検定の結果、有意差があることを示唆している。
【0034】
試験食摂取による各種マーカーの変化としては、図2に示すように、絶食時血糖値(mg/dl)は、豚レバー酵素分解物摂取4週目(図2中の24週齢)より、豚レバー酵素分解物投与群(図2の棒グラフの左側の棒)と非投与群(図2の棒グラフの右側の棒)の群間に有意差が認められた。しかし、インスリン値(pg/ml)には、格別な有意差は認められなかった。
【0035】
コレステロール値(mg/dl)は、図3に示すように、豚レバー酵素分解物摂取4週目(図3中の24週齢)より、豚レバー酵素分解物投与群(図3の棒グラフの左側の棒)と非投与群(図3の棒グラフの右側の棒)の群間に有意差が認められた。しかし、NEFA値(mEq/l)には有意差は認められなかった。
【0036】
TG値(mg/dl)は、図4に示すように、豚レバー酵素分解物摂取4週目(図4中の24週齢)のみ豚レバー酵素分解物投与群(図4の棒グラフの左側の棒)と非投与群(図4の棒グラフの右側の棒)の群間に有意差が認められた。一方、レプチン値(pg/ml)は摂取4週目以降継続して差が認められた。
【0037】
解剖時の臓器重量の割合(%)に関しては、図5に示すように、豚レバー酵素分解物投与群(図5の棒グラフの左側の棒)は非投与群(図5の棒グラフの右側の棒)に較べて脂肪重量で有意に低かった。
【0038】
解剖時における血液成分分析に関しては、図6に示すように、過酸化脂質(nmol/ml)、クレアチン(mg/ml)、尿酸(mg/ml)、アルブミン(g/dl)、GOT(Karmen単位)、GPT(Karmen単位)を測定したが、豚レバー酵素分解物投与群は、過酸化脂質において有意に低値を示した。その他項目について有意な差は認められなかった。
【0039】
試験食摂取14週目(32週齢の解剖時)での糞分析に関しては、乾燥糞量(g/day)、糞中脂肪量(mg/day)、脂肪消化率(%)、中性ステロール(μmol/l)、酸性ステロール(μmol/l)を測定し、豚レバー酵素分解物投与群は、乾燥糞量、糞中脂肪量、脂肪消化率及び中性ステロールが有意に高値を示した。一方、酸性ステロールには有意な差は認められなかった。
【0040】
以上まとめると、次のとおりである。
(1)豚レバー酵素分解物の長期摂取により、体重、血糖値、血中コレステロール、血中レプチンが有意に低下を示した。
(2)臓器重量から、豚レバー酵素分解物の摂取により腎周囲脂肪の蓄積を抑制した。
(3)血液成分の分析から、豚レバー酵素分解物摂取により過酸化脂質の低下を認めた。
(4)糞分析より、豚レバー酵素分解物の摂取が糞中への脂肪の排泄(中性ステロール)を促進することが認められた。
【0041】
以上の試験例により、豚レバー酵素分解物が、肥満及び脂質代謝の改善に寄与する効果があることが実証できた。そこで、本発明は、このような実証に基づき、動物レバーを酵素処理した成分を濃縮することにより得られた、アミノ酸を主成分とする分子量50〜1000の酵素分解混合物を含有した試験食Aに相当する食品であり、脂質代謝及び糖代謝を改善する効果を有するものである。
【0042】
(試験例2)
上記試験例1において、豚レバー酵素分解物が、肥満及び脂質代謝の改善に寄与する効果があることが実証できた。この試験例1で使用した2種の試験食A、Bは、前述のとおり、レバーパウダーを含む点では共通しているが、その分画分子量が異なるものである。
【0043】
ところで、上記2種の試験食Aと試験食Bの効果を比較するために、試験例2として、さらに、試験食Aと試験食Bの投与試験を行った。この投与試験の結果、試験食A(画分分子量50〜1000)が、試験食B(画分分子量1000〜100000)に較べて脂質代謝改善効果や糖代謝改善効果がすぐれていることが分かった。以下、試験食Aを本発明に係る試験食とし、試験食Bを比較例として、この試験例2の投与試験について説明する。
【0044】
投与試験には、2型糖尿病モデルラットOLETF(Otsuka Long−Evans Tokushima Fatty)雄18週齢(n=20)を準備し、19週目に経口糖負荷試験(2.0g glucose/kg b.w.)を行い、この結果に基づいて、偏らないように群分け(各群5匹)した。
【0045】
そして、20週目より試験食A(画分分子量50〜1000のレバーパウダーを20%含有)の摂取を開始し、以後4週間毎に、絶食時採血を行い、体重及び、採決した血液のコレステロール、遊離脂肪酸、中性脂肪、血糖値、血漿インスリン値、レプチン濃度を定法により測定した。
【0046】
一方、比較例(試験食B:画分分子量1000〜100000のレバーパウダーを20%含有)についても、本発明に係る試験食Aと同様な投与試験を行った。
【0047】
これらの投与試験の結果を、脂質代謝改善効果及び糖代謝改善効果を10段階評価で評価し、これを表2に示す。なお、10が最高、1が最低の効果を示す。
【0048】
【表2】
【0049】
この結果、本発明に係る試験食A(画分分子量50〜1000)のレバーパウダーを20%含有)は、比較例に較べてきわめて脂質代謝改善効果及び糖代謝改善効果が大きいことが実証された。
【実施例1】
【0050】
次に、本発明に係る動物肝臓の酵素分解混合物を含有した食品の実施例1〜3を挙げて、その効果等について、以下に説明する。実施例1は、本発明に係る試験食Aと同様に、画分分子量50〜1000のレバーパウダーを20%を飲料に含有させて食品となしたもの(以下、「豚レバーパウダー20%含有飲料」という。)である。
【実施例2】
【0051】
実施例2は、同じく画分分子量50〜1000のレバーパウダーを20%とキトサン2%を飲料に含有させて食品となしたもの(豚レバーパウダー20%+キトサン2%含有飲料)である。
【実施例3】
【0052】
さらに、実施例3は、同じく画分分子量50〜1000のレバーパウダーを20%と含有飲料難消化性デキストリン2%を飲料に含有させて食品となしたもの(豚レバーパウダー20%+含有飲料難消化性デキストリン2%含有飲料」という。)である。
【0053】
これらの実施例1〜3の効果を実証するために、次に述べる比較例1〜3と比較する摂取実験を実施した。
【0054】
比較例1は、レバーパウダーを含まないキトサン2%含有飲料である。比較例2は、レバーパウダーを含まない含有飲料難消化性デキストリン2%含有飲料である。豚レバーパウダー、キトサン、含有飲料難消化性デキストリンのいずれも含有しない無添加飲料である。
【0055】
これらの実施例1〜3と比較例1〜3の摂取実験では、BMI25以上の成人のボランティア40名を体脂肪率が偏らないように、10名ごと各試験群に分け、この分けた10名に、朝昼晩の3回/日、8週間毎日摂取させて、8週間後の体脂肪の減少の程度を摂食前の体脂肪を100%として、体脂肪減少率を測定し、体脂肪減少効果を確認した。
【0056】
摂取実験の結果を次の表3に示す。この表3によると、実施例1〜3は、比較例に較べて体脂肪減少効果が優れていることが実証できた。特に、実施例2及び実施例3のように、キトサン及び含有飲料難消化性デキストリンを含有させることで、一層、その効果が大きくなることが実証できた。
【0057】
【表3】
【0058】
(試験例3)
本発明者等、更に、豚レバー酵素分解物の機能本体を明らかにするために、内臓脂肪細胞を用いた豚レバー酵素分解物(以下、「PLH」とも言う。)の脂質蓄積に関する実験、検討を行った。実験方法は、次のとおりである。
【0059】
1.試験方法
(1) 検体としては、上記に記載の方法で作成したPLHを用いた。
【0060】
(2)腸間膜脂肪細胞を用いた試験プロセス、検討
イ.腸間膜脂肪細胞の培養
細胞はwistar系雄ラットの腸間膜から採取した腸間膜前駆脂肪細胞((株)プライマリーセル製)を用いた。すなわち24穴プレートに、1×105cells/ml/wellとなるように調製した腸間膜脂肪細胞を播種し、CO2インキュベーター(37℃、5%CO2)にて一晩培養した。
【0061】
ロ.豚レバー酵素分解物添加培地の調製
検体である豚レバー酵素分解物(PLH)を0.01、0.04、0.1、1mg/mlの各濃度になるよう培地に溶解した。
【0062】
ハ.豚レバー酵素分解物添加培地による腸間膜脂肪細胞培養
一晩培養後培地交換を行い、調製済の豚レバー酵素分解物(PLH)添加培地を添加しCO2インキュベーターにて3日間培養した。その間、培養2日目にて培地交換し、新たに調製したPLH添加培地を添加した。
【0063】
ニ.腸間膜脂肪細胞の回収および測定検体の調製
培養終了後、培地を除去しPBSにて洗浄した。酵素抽出液にて細胞を回収し、超音波破砕機にて細胞を砕機させ、12,800xg、4℃にて5分間遠心分離した。その上清を回収し測定検体とした。
【0064】
ホ.細胞内中性脂肪の測定
測定には市販キット(トリグリセライドE−テストワコー)を用いて測定した。
【0065】
(3)統計処理
実験より得られた両群のデータは平均±標準誤差で示した。Repeated measure one−way ANOVAにより検定し、F値が有意であった場合にはFisher’s PLSD法を用いて多重比較を行った。
【0066】
2.試験結果
(1)脂質蓄積への影響
図8に細胞内中性脂肪の測定結果を示す。この図8によると、0.1、1mg/ml PLH添加培地において、無添加培地と比べ細胞内中性脂肪の有意な低下が認められた。これより、PLHが内臓脂肪である腸間膜脂肪細胞に対して、脂肪蓄積阻害作用を有することが新たに明らかとなった。
【0067】
なお、脂肪細胞を用いた評価は、すでに、株化されたマウス繊維芽細胞である3T3−L1細胞による報告が多く認められる。そのうち、食品成分では茶カテキンの脂肪蓄積抑制および脂肪分解効果、DHA(ドコサヘキサエン酸)の脂肪蓄積抑制効果、ブドウ種子抽出物による脂肪細胞分化抑制効果などが論文として報告されている。
【0068】
最近、内臓脂肪の代表とされる腸間膜脂肪細胞の初代培養系および3T3−L1細胞を用いて、糖尿病治療薬であるチアゾリジン誘導体を培地に添加した場合、その反応性が異なる報告が認められている。そこで、本発明者等はこの手法に着目し、in vivoでの条件に近い初代培養系による評価が細胞を用いる評価にも適していると考え、本試験では腸間膜脂肪細胞を用いて評価を行った。
【0069】
今回の試験では、培地中に直接豚レバー酵素分解物を添加する方法にて検討を行った。OLETFラットの血中遊離脂肪酸レベルが豚レバー酵素分解物(PLH)群では低い傾向を示したことから、豚レバー酵素分解物には脂肪細胞の分解自体には影響を及ぼさないことを考察した。しかしながら、脂肪細胞のなかでもインスリン抵抗性やメタボリックシンドロームにもっとも深く関わる内臓脂肪細胞において、豚レバー酵素分解物が脂質蓄積の抑制に作用するという知見を得ることができた。
【0070】
(試験例4)
上記試験例3の結果、内臓脂肪細胞において、豚レバー酵素分解物が脂質蓄積の抑制に作用するという確認が得られたので、次に、試験例4で、内臓脂肪細胞系を用いて測定した豚レバー酵素分解物(PLH)中の構成成分をもとに、脂質蓄積抑制に寄与する物質の探索(効果関与成分の探索)を進めた。この脂質蓄積抑制に寄与する物質が探索できれば、その物質を食品に添加場合は、特に豚肝臓由来の必要はなく、その物質に相当する合成及び/又は天然物由来のものでも良い
【0071】
このような観点から、この試験例4では、事前に上記試験例3において作製した豚レバー酵素分解物(PLH)の成分組成を分析した。この結果、図9に示す表4、及び図10に示す表5を得た。この分析結果に基づき、ビタミン混合物、ミネラル混合物、アミノ酸混合物をそれぞれ、合成及び/又は天然物由来から作製した。この試験例4では、これらを検体として用いる。
【0072】
1.試験方法
(1)検体
検体として、上記試験例3において作製した豚レバー酵素分解物(PLH)を用いる。さらに、検体として、前記のとおり、上記試験例3において作製した豚レバー酵素分解物(PLH)を分析した数値(図9に示す表4及び図10に示す表5参照)を下に、ビタミン混合物(図11中:ビタミン)、ミネラル混合物(図11中:ミネラル)、アミノ酸混合物(図11中:アミノ酸)をそれぞれ別途独自に作製し、これらを用いる。
【0073】
(2)内臓脂肪細胞を用いた試験プロセス、検討
イ.腸間膜脂肪細胞の培養
上記試験例3と同様の方法で実施した。
【0074】
ロ.添加培地の調製
検体である豚レバー酵素分解物(PLH)を1mg/ml含有する培地を作製した。さらに、1mg/ml豚レバー酵素分解物(PLH)中に含有する栄養素量に合わせた混合物として、3種類(ビタミン混合物、ミネラル混合物、構成アミノ酸を含有するアミノ酸混合物)作製し、これらをそれぞれ含有する培地を作製した。以降、上記試験例3の方法と同様な方法にて、培養および中性脂肪の測定を実施した。
【0075】
2.試験結果
(1)脂質蓄積への影響
図11に細胞内中性脂肪の測定結果を示す。この図11によると、無添加培地に比べてPLHおよびアミノ酸混合物をそれぞれ添加することにより、細胞内中性脂肪の有意な低下が認められた。
【0076】
これより、豚レバー酵素分解物(PLH)を構成するアミノ酸混合物が内臓脂肪である腸間膜脂肪細胞に対して、脂肪蓄積阻害作用を有することが新たに明らかとなった。一方、PLHを構成するビタミン混合物やミネラル混合物は無添加と比べ脂質蓄積に対して有意な差は認められず、ビタミン混合物ではむしろ脂質蓄積を亢進する傾向にあった。
【0077】
これまで、腸間膜脂肪細胞を用いた栄養素添加による報告は皆無であるが、株化細胞の3T3−L1ではビタミンB6やビタミンCの添加が中性脂肪の蓄積を亢進するとしている。初代培養細胞と株化細胞ではその性質に差異が認められており、直接的な比較をすることはできないが、ビタミン混合物が腸間膜脂肪細胞での脂質蓄積に対して抑制的にはたらく可能性は低いものと考えられる。
【0078】
肥満予防の観点から、試験例3、4により脂質蓄積の抑制が確認されたことは大変有意義であり、さらに、その関与成分としてアミノ酸混合物が挙げられ、効果成分の特定ができた。これらの結果より、アミノ酸混合物の添加により脂質蓄積が有意に低下することが明らかとなり、タンパク質源としてのアミノ酸やペプチドの寄与が実証できた。
【0079】
(試験例5)
上記試験例4の結果、内臓脂肪細胞において、アミノ酸混合物の添加により脂質蓄積が有意に低下し、アミノ酸群が活性を有するという確認が得られたので、次に、試験例5で、内臓脂肪細胞系を用いて、どのアミノ酸群が効果を有するかを探索(効果関与アミノ酸群の探索)した。
【0080】
1.試験方法
(1)検体
ここでは、アミノ酸を幾つかの群に分けて実験を行ったが、この分類の区分方法として、通常、実験動物の餌のタンパク質の標準的なコントロールとして使われるカゼインを含有したカゼイン食餌(試験例1の試験食A)のアミノ酸組成とタンパク質として豚肝臓酵素分解処理物を含有した豚肝臓酵素分解処理物食餌(試験例1の試験食C)のアミノ酸組成を分析した数値(図12に示す表6)を下に、次の検体のグループG1〜G5をそれぞれ作製した。
【0081】
G1群:カゼイン食餌より多いアミノ酸群(グリシン+アラニン)
G2群:カゼイン食餌よりやや多いアミノ酸群(システイン、アスパラギン)
G3群:分岐鎖アミノ酸群<BCAA>(Val+Leu+Ile)
G4群:カゼイン食餌より少ないアミノ酸群(Thr+Ser+Met+Phe+His+ Lys+Trp)
G5群:カゼイン食餌より少ないアミノ酸群(Glu+Pro+Tyr+Arg)
【0082】
(2)内臓脂肪細胞を用いた試験プロセス、検討
イ.腸間膜脂肪細胞の培養
上記試験例3と同様の方法で実施した。
【0083】
ロ.添加培地の調製
上記G1〜G5の5群の各アミノ酸をPLHの含有するアミノ酸量に合わせた混合物を5種類(G1群:グリシン+アラニン)、(G2群:システイン+アスパラギン)、(G3群:Val+Leu+Ile)、(G4群:Thr+Ser+Met+Phe+His+Lys+Trp)、(G5群:Glu+Pro+Tyr+Arg)を作成した。以降、上記試験例3記載の方法と同様な方法にて、培養および中性脂肪の測定を実施した。
【0084】
2.試験結果
(1)脂質蓄積への影響
図13に細胞内中性脂肪の測定結果を示す。この図13によると、無添加培地(図13中の0で示す。)に比べて、G1群のグリシンとアラニン混合物添加により、細胞内中性脂肪の有意な低下が認められた。以上より、この試験例5で構造的に単純な低分子量の中性アミノ酸であるグリシンおよびアラニンの混合物が活性を有することが明らかとなった。
【0085】
なお、グリシンの機能として、グルタチオンや血色素成分であるポルフィリンの原料と用いられることが報告されており、一方、アラニンの機能としては、最もエネルギー源として利用されやすいアミノ酸の一つであることや、アルコール代謝を改善する作用があること、身体に必要な糖を合成する材料としても使われることがわかっていたが、グリシンおよびアラニンの混合物が細胞内中性脂肪の低下をもたらすことは、本発明のこの試験例5において初めて明らかになった。
【0086】
(試験例6)
上記試験例5の結果、内臓脂肪細胞に対して、豚の肝臓酵素分解処理物に豊富なアミノ酸成分であるグリシンおよびアラニンの混合物が活性を有するという確認が得られたので、次に、試験例6で、内臓脂肪細胞系を用いて、グリシン単独、および、アラニン単独、および、グリシンおよびアラニンの示す相乗効果について探索(効果関与アミノ酸の探索)した。
【0087】
1.試験方法
(1) 検体
グリシンおよびアラニンの示す相乗効果を調べるために、検体として、互いの含有比率(下記の表7のGly:Alaの欄参照。)を変えたI〜VIの6群の試験群をそれぞれ作製した。
【0088】
【表7】
【0089】
(2)内臓脂肪細胞を用いた試験プロセス、検討
イ.腸間膜脂肪細胞の培養
上記試験例3と同様の方法で実施した。
【0090】
ロ.添加培地の調製
表7記載のグリシン、アラニン混合物5種類(I〜VI群)を合計量をPLHの含有するグリシンとアラニンのアミノ酸量に合わせて作成した。また、コントロール群として無添加群(VI)も準備した。以降、上記試験例3と同様な方法にて、培養および中性脂肪の測定を実施した。
【0091】
2.結果
(1)脂質蓄積への影響
表7に細胞内中性脂肪の測定結果を示す。この表7によると、構造的に単純な低分子量の中性アミノ酸であるグリシンおよびアラニン各々単独でもいかなる比率に混合した混合物でも活性を有することが、好ましくは、ある一定比率(グリシン:アラニン=1:9〜9:1)の混合物が活性を有することが、より好ましくは、ある一定比率(グリシン:アラニン=1:9〜5:5)の混合物が活性を有することが、明らかとなった。
【実施例4】
【0092】
本件発明の実施例4は、豚レバーを粉砕し、プロテアーゼを用い至適pHで45℃で反応させ、加圧抽出し、遠心分離により濃縮し、限外濾過により分子量を50〜1000レバーパウダーに調整されている動物肝臓の酵素分解混合物と同等のアミノ酸組成を有する合成および/または天然物由来のアミノ酸混合物を含有した食品である。
【0093】
この実施例4は、上記試験例4の結果、動物肝臓の酵素分解混合物と同等のアミノ酸組成を有する合成および/または天然物由来のアミノ酸混合物が活性を有するという知見に基づき想到したものである。即ち、試験例4の結果からして、実施例1〜3のように動物肝臓の酵素分解混合物ではなくても、それと同等の合成および/または天然物由来のアミノ酸混合物を含有した食品であればよいということに基づくものである。
【実施例5】
【0094】
本件発明の実施例5は、合成および/または天然物由来のアミノ酸であるグリシン単独、または、アラニン単独、または、グリシンおよびアラニンのある一定比率(グリシン:アラニン=1:9〜9:1)の混合物を含有した食品である。
【0095】
食肉原料(豚肉;練り上がり原料混合物100重量部当り70.2部)と豚背脂肪(4.3部)を合わせ、肉挽き機又はサイレントカッターにより、直径15mm以下程度の肉塊に細挽し、これに氷(15.5部)、食塩(1部)、ビタミンC(アスコルビン酸ナトリウム、0.1部)、重合リン酸塩(0.2部)、砂糖・香辛料等(0.7部)、馬鈴薯でん粉(3部)及びグリシン単独、または、アラニン単独、または、グリシンおよびアラニンのある一定比率(グリシン:アラニン=1:9〜9:1)の混合物を各群(5部)を加え、サイレントカッター又は真空ミキサーを用いて、ウインナーソーセージ用の練り肉を調製した。次いで、これを羊腸あるいはコラーゲン・ケーシングに充填し、5〜10cmの長さでひねり結紮して、懸垂棒に吊し、乾燥し、中心温度が72℃に達するまで蒸煮し、冷却した。
【0096】
上記で得られた本発明のウインナーソーセージを評価するためにヒト試験を実施した。すなわち、各群5名づつの男女により、2週間、毎食事毎(一日3食)に2本(約10g/本)食事して頂き、本ソーセージ摂取前と2週間の摂取後に血液を採取し血中のトリグリセライド値を測定し効果を判定した。
【0097】
この実施例5は、表8に示したとおり、上記試験例6と同様の傾向の結果を得た、構造的に単純なアミノ酸であるグリシン単独、または、アラニン単独、または、グリシンおよびアラニンのある一定比率(グリシン:アラニン=1:9〜9:1)の混合物が、細胞内中性脂肪を有意に低下させる活性を有するという知見に基づくものである。
【0098】
【表8】
【0099】
以上、本発明に係る動物肝臓の酵素分解混合物を含有した食品を実施するための最良の形態を試験例、実施例等に基づいて説明したが、本発明はこのような試験例、実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された技術的事項の範囲内でいろいろな実施例があることは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0100】
以上のとおり本発明の動物肝臓の酵素分解混合物を含有した豚レバーパウダーおよび/または同等のアミノ酸組成を有するアミノ酸混合物および/またはグリシン単独および/またはアラニン単独および/またはグリシンとアラニンの混合物は、日常的に食する主食、ハム、ソーセージ、ハンバーグ、肉団子等の食肉製品、錠剤状のサプリメント、或いは飲料等に含有させることにより、生活習慣病の改善する食品として適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0101】
【図1】本発明の試験例による試験期間中の体重の変化を示す図である。
【図2】本発明の試験例による試験食摂取による血糖値及びインスリン値の変化を示すグラフである。
【図3】本発明の試験例によるコレステロール値及びNEFA値の変化を示すグラフである。
【図4】本発明の試験例によるTG及びレプチンの変化を示すグラフである。
【図5】本発明の試験例による解剖時の臓器重量の変化を示すグラフである。
【図6】本発明の試験例による解剖時における血液成分分析の結果を示すグラフである。
【図7】本発明の試験例による試験摂取14週目での糞分析の結果を示すグラフである。
【図8】本発明の試験例による腸間膜脂肪細胞の脂肪蓄積における豚レバー酵素分解物(PLH)の効果を示すグラフである。
【図9】本発明の試験例における、豚レバー酵素分解物(PLH)の成分組成を示す表である。
【図10】本発明の試験例における、豚レバー酵素分解物(PLH)のアミノ酸の組成を示す表ある。
【図11】本発明の試験例による腸間膜脂肪細胞の脂肪蓄積における豚肝臓タンパク質加水分解物(PLH)の効果を示すグラフである。
【図12】本発明の試験例における、カゼンイン食餌と豚肝臓タンパク質加水分解物食餌とのアミノ酸組成を示す表である。
【図13】本発明の試験例による、グリシンとアラニン混合物添加の細胞内中性脂肪の低下への影響を示すグラフである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
動物レバーを酵素処理した成分を濃縮することにより得られ、脂質代謝及び糖代謝を改善することを特徴とする動物肝臓の酵素分解混合物。
【請求項2】
前記酵素分解混合物は、アミノ酸、水溶性ビタミン、ミネラル、核酸、ペプチドを含む分子量50〜1000の酵素分解混合物であることを特徴とする請求項1記載の動物肝臓の酵素分解混合物。
【請求項3】
前記酵素分解混合物は、豚レバーを粉砕し、プロテアーゼを用い至適pHで45℃で反応させ、加圧抽出、濃縮し、限外濾過により分子量を50〜1000レバーパウダーに調整されていることを特徴とする請求項1記載の動物肝臓の酵素分解混合物。
【請求項4】
豚レバーを粉砕し、プロテアーゼを用い至適pHで45℃で反応させ、加圧抽出、濃縮し、限外濾過により分子量を50〜1000レバーパウダーに調整されている動物肝臓の酵素分解混合物と同等のアミノ酸組成を有する合成および/または天然物由来のアミノ酸混合物を含有する酵素分解混合物を含むことを特徴とする酵素分解混合物。
【請求項5】
グリシンまたはアラニンまたはグリシンとアラニンの混合物を含み、脂質代謝及び糖代謝を改善することを特徴とする酵素分解混合物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の酵素分解混合物を含有する食品。
【請求項1】
動物レバーを酵素処理した成分を濃縮することにより得られ、脂質代謝及び糖代謝を改善することを特徴とする動物肝臓の酵素分解混合物。
【請求項2】
前記酵素分解混合物は、アミノ酸、水溶性ビタミン、ミネラル、核酸、ペプチドを含む分子量50〜1000の酵素分解混合物であることを特徴とする請求項1記載の動物肝臓の酵素分解混合物。
【請求項3】
前記酵素分解混合物は、豚レバーを粉砕し、プロテアーゼを用い至適pHで45℃で反応させ、加圧抽出、濃縮し、限外濾過により分子量を50〜1000レバーパウダーに調整されていることを特徴とする請求項1記載の動物肝臓の酵素分解混合物。
【請求項4】
豚レバーを粉砕し、プロテアーゼを用い至適pHで45℃で反応させ、加圧抽出、濃縮し、限外濾過により分子量を50〜1000レバーパウダーに調整されている動物肝臓の酵素分解混合物と同等のアミノ酸組成を有する合成および/または天然物由来のアミノ酸混合物を含有する酵素分解混合物を含むことを特徴とする酵素分解混合物。
【請求項5】
グリシンまたはアラニンまたはグリシンとアラニンの混合物を含み、脂質代謝及び糖代謝を改善することを特徴とする酵素分解混合物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の酵素分解混合物を含有する食品。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2006−271377(P2006−271377A)
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−56989(P2006−56989)
【出願日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【出願人】(000229519)日本ハム株式会社 (57)
【出願人】(504136568)国立大学法人広島大学 (924)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【出願人】(000229519)日本ハム株式会社 (57)
【出願人】(504136568)国立大学法人広島大学 (924)
【Fターム(参考)】
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