説明

化合物半導体エピタキシャルウェーハの製造方法

【課題】 ハイドライド気相成長法を用いて電流拡散層を形成する場合に、裏面穴を抑制することのできる化合物半導体エピタキシャルウェーハの製造方法を提供する。
【解決手段】 GaAs単結晶基板1上に(AlGa1−xIn1−yP(ただし、0≦x≦1,0<y≦1)にて構成されるエピタキシャル層24,7aを気相成長する有機金属気相成長工程と、GaAs単結晶基板1の裏面に付着したInP含有粒子D1,D2,D3を除去するInP含有粒子除去工程と、塩化ガリウムを原料ガスとして使用し水素雰囲気中でGaP層を前記エピタキシャル層24,7a上に気相成長するハイドライド気相成長工程とをこの順に行なう。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は化合物半導体エピタキシャルウェーハの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
【特許文献1】米国特許 5,008,718号公報
【特許文献2】特開2004−128452号公報
【0003】
(AlGa1−xIn1−yP混晶(ただし、0≦x≦1,0≦y≦1;以下、AlGaInP混晶、あるいは単にAlGaInPとも記載する)により発光層部が形成された発光素子は、薄いAlGaInP活性層を、それよりもバンドギャップの大きいn型AlGaInPクラッド層とp型AlGaInPクラッド層とによりサンドイッチ状に挟んだダブルへテロ構造を採用することにより、高輝度の素子を実現できる。
【0004】
例えば、AlGaInP発光素子を例に取れば、n型GaAs基板上にヘテロ形成させる形にて、n型GaAsバッファ層、n型AlGaInPクラッド層、AlGaInP活性層、p型AlGaInPクラッド層をこの順序にて積層し、ダブルへテロ構造をなす発光層部を形成する。発光層部への通電は、素子表面に形成された金属電極を介して行なわれる。ここで、金属電極は遮光体として作用するため、例えば発光層部主表面の中央部のみを覆う形で形成され、その周囲の電極非形成領域から光を取り出すようにする。
【0005】
この場合、金属電極の面積をなるべく小さくしたほうが、電極の周囲に形成される光漏出領域の面積を大きくできるので、光取出し効率を向上させる観点において有利である。従来、電極形状の工夫により、素子内に効果的に電流を拡げて光取出量を増加させる試みがなされているが、この場合も電極面積の増大はいずれにしろ避けがたく、光漏出面積の減少により却って光取出量が制限されるジレンマに陥っている。また、クラッド層のドーパントのキャリア濃度ひいては導電率は、活性層内でのキャリアの発光再結合を最適化するために多少低めに抑えられており、面内方向には電流が広がりにくい傾向がある。これは、電極被覆領域に電流密度が集中し、光漏出領域における実質的な光取出量が低下してしまうことにつながる。
【0006】
そこで、発光層部と電極との間に、厚くて導電性の透明窓層(電流拡散層)を設けることにより、電流密度が最小限となるようにする方法が知られている(特許文献1)。
また、電流拡散層を効率よく形成するために、薄い発光層部を有機金属気相成長法(Metal Organic Vapor Phase Epitaxy:以下、MOVPE法ともいう)により形成する一方、厚い電流拡散層をハイドライド気相成長法(Hydride Vapor Phase Epitaxial Growth Method:以下、HVPE法ともいう)により形成する方法が知られている(特許文献2)。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところが、ハイドライド気相成長法を用いて電流拡散層を形成すると、GaAs基板の裏面に穴(以下、「裏面穴」ということがある)が形成されやすい。裏面穴が形成されている領域ではGaAs基板が薄いので、LED用のチップを形成する際に所望のチップ厚に加工できなくなる。また、裏面穴がGaAs基板を貫通して発光層部にまで達した領域では、通電時に発光しないので歩留が低下してしまう。
【0008】
本発明の課題は、ハイドライド気相成長法を用いて電流拡散層を形成する場合に、裏面穴を抑制することのできる、又は発生した裏面穴を除去することのできる化合物半導体エピタキシャルウェーハの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段及び発明の効果】
【0009】
本発明の化合物半導体エピタキシャルウェーハの製造方法の第一は、GaAs単結晶基板上に(AlGa1−xIn1−yP(ただし、0≦x≦1,0<y≦1)にて構成されるエピタキシャル層を気相成長する有機金属気相成長工程と、前記GaAs単結晶基板の裏面に付着したInP含有粒子を除去するInP含有粒子除去工程と、塩化ガリウムを原料ガスとして使用し水素雰囲気中でGaP層を前記エピタキシャル層上に気相成長するハイドライド気相成長工程とをこの順に行なうことを特徴とする。
【0010】
本発明の化合物半導体エピタキシャルウェーハの製造方法においては、例えば2種以上のIII族元素を含む(AlGa1−xIn1−yP(ただし、0≦x≦1,0<y≦1)にて構成される発光層部を、GaAs基板上に有機金属気相成長法(MOVPE法)を用いて成長するため(有機金属気相成長工程)、GaAs基板を載置するサセプタ上にInP含有粒子が散在する。そして、InP含有粒子が散在するサセプタ上にGaAs基板を載置して有機金属気相成長工程を行なうと、GaAs基板の裏面にInP含有粒子が付着する。
【0011】
次に、ハイドライド気相成長法を用いて電流拡散層を形成するために、塩化ガリウム(GaCl)と例えばホスフィン(PH)を原料ガスとして使用し水素雰囲気中でGaP層を気相成長すると、気相成長雰囲気中にHClが生成される。そして、HClの一部がGaAs基板の裏面側に回り込み、GaAs基板とInP含有粒子との境界領域に形成されたInAsがHClによりエッチングされて裏面穴が形成される。InPやGaPもHClによりエッチングされる。
【0012】
エッチングは数時間にわたるハイドライド気相成長中に継続して行われるため、GaAs基板中に20μm以上300μm以下程度の裏面穴が形成される。裏面穴がGaAs単結晶基板を貫通し、AlGaInPにて構成される発光層部まで到達すると、その領域では通電時に発光することができない。
【0013】
そこで、有機金属気相成長工程とハイドライド気相成長工程の間に、GaAs単結晶基板の裏面に付着したInP含有粒子を除去する(InP含有粒子除去工程)。InP含有粒子除去工程は、InP含有粒子の付着しているGaAs単結晶基板の裏面を例えばペングラインダー等を用いて部分的に除去することにより行なってもよいし、例えば研磨加工あるいはアンモニア/過酸化水素水等を用いたウェットエッチングを施してGaAs単結晶基板の裏面全体を1μm以上10μm以下除去することにより行なってもよい。
【0014】
本発明の化合物半導体エピタキシャルウェーハの製造方法の第二は、GaAs単結晶基板上に(AlGa1−xIn1−yP(ただし、0≦x≦1,0<y≦1)にて構成されるエピタキシャル層を気相成長する有機金属気相成長工程と、前記GaAs単結晶基板の裏面に付着したInP含有粒子の付着量を観測するInP付着量観測工程と、前記InP含有粒子の付着量の大きいGaAs単結晶基板ほど、塩化ガリウムを含む原料ガス供給の上流側に配置して水素雰囲気中でGaP層を前記エピタキシャル層上に気相成長するハイドライド気相成長工程とをこの順に行なうことを特徴とする。
【0015】
前述のように、GaAs単結晶基板の裏面にInP含有粒子が付着した状態でハイドライド気相成長を行なうと、気相成長中に生成するHClの一部が、GaAs単結晶基板の裏面側に回り込んでInP含有粒子をエッチングすると同時に、InP含有粒子の付着している部分のGaAsもエッチングされて裏面穴が形成される。HCl濃度は、原料ガス供給の上流側では比較的小さいが、下流側ほどHCl濃度が高くなる。
【0016】
そこで、有機金属気相成長工程後に、GaAs単結晶基板の裏面に付着したInP含有粒子の付着量を観測し(InP付着量観測工程)、InP含有粒子の付着量の大きいGaAs単結晶基板ほど、塩化ガリウムを含む原料ガス供給の上流側に配置して水素雰囲気中でGaP層のハイドライド気相成長を行なう。すると、原料ガス供給の上流側ではHCl濃度が下流側に比べて低いので、InP含有粒子の付着量が大きくても裏面穴が形成され難くなる。
【0017】
本発明の化合物半導体エピタキシャルウェーハの製造方法の第三は、GaAs単結晶基板上に(AlGa1−xIn1−yP(ただし、0≦x≦1,0<y≦1)にて構成されるエピタキシャル層を気相成長する有機金属気相成長工程と、塩化ガリウムを原料ガスとして使用し水素雰囲気中でGaP層を前記エピタキシャル層上に気相成長するハイドライド気相成長工程と、前記GaAs単結晶基板の裏面に形成された裏面穴を除去する裏面穴除去工程とをこの順に行なうことを特徴とする。
【0018】
有機金属気相成長工程でGaAs単結晶基板の裏面にInP含有粒子が付着した状態でGaP層のハイドライド気相成長工程を行なうと、GaAs単結晶基板に裏面穴が形成されやすい。裏面穴がGaAs基板を貫通して発光層部にまで達した領域では、通電時に発光しないので、化合物半導体エピタキシャルウェーハをチップ化する前に裏面穴を除去するとよい。しかし、ハイドライド気相成長工程後のGaAs単結晶基板裏面には、Asが遊離して形成される破砕層も形成されており、裏面穴を特定することがしばしば困難となる。
【0019】
そこで、ハイドライド気相成長工程の後に、GaAs単結晶基板の裏面に集光を照射して前記裏面穴を検知(裏面穴検知工程)することにより、裏面穴の位置を特定してから行なうことが望ましい。通常、GaAs単結晶基板は集光を透過しないので、灰色ないし黒色に見える。一方、裏面穴が形成された領域ではGaAs単結晶基板が局部的に薄くなるか完全にエッチング除去されており、集光を照射すると裏面穴が赤く光るので、その色の違いにより裏面穴として容易に検知することができる。あるいは、ハイドライド気相成長工程の後に、GaAs単結晶基板の裏面に研磨工程を施すと破砕層が除去されて裏面穴の判別が容易になるので、裏面に研磨工程を施してから裏面穴除去工程を行なっても良い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照して説明する。
図1は、本発明の製造方法により製造できる化合物半導体エピタキシャルウェーハ100の一例を示す概念図である。化合物半導体エピタキシャルウェーハ100は、n型GaAs単結晶基板(以下、単にGaAs基板ともいう)1の第一主表面MP1上に発光層部24が形成され、このGaAs基板1の第一主表面MP1と接するようにn型GaAsバッファ層2が形成され、該バッファ層2上に発光層部24が形成され、その発光層部24の上にp型GaP電流拡散層7が形成されている。
【0021】
発光層部24は、ノンドープ(AlGa1−xIn1−yP(ただし、0≦x≦0.55,0.45≦y≦0.55)混晶からなる活性層5を、p型(AlGa1−zIn1−yP(ただしx<z≦1)からなるp型クラッド層6とn型(AlGa1−zIn1−yP(ただしx<z≦1)からなるn型クラッド層4とにより挟んだ構造を有する。なお、ここでいう「ノンドープ」とは、「ドーパントの積極添加を行なわない」との意味であり、通常の製造工程上、不可避的に混入するドーパント成分の含有(例えば1013〜1016/cm程度を上限とする)をも排除するものではない。
【0022】
p型GaP電流拡散層7の形成厚さは、例えば30μm以上300μm以下である。p型GaP電流拡散層7は、有機金属気相成長法により形成された第一GaP層7aと、ハイドライド気相成長法により形成された第二GaP層7bとがこの順に積層されてなる。
【0023】
p型GaP電流拡散層7の上に、発光層部24に発光駆動電圧を印加するための第一電極9を形成し、基板1の第二主表面MP2側に、同じく第二電極20を全面に形成すると、発光素子200となる(図2)。第一電極9は、第一主表面PFの略中央に形成され、該第一電極9の周囲の領域が発光層部24からの光取出領域とされている。また、第一電極9の中央部に電極ワイヤ17を接合するためのAu等にて構成されたボンディングパッド16が配置されている。発光素子200では、第一電極9側にp型AlGaInPクラッド層6が配置され、第二電極20側にn型AlGaInPクラッド層4が配置されている。従って、通電極性は第一電極9側が正である。
【0024】
以下、化合物半導体エピタキシャルウェーハ100ならびに発光素子200の製造方法について説明する。まず、図3の工程1に示すように、<100>方向を基準方向として、オフアングルが10゜以上20゜以下の主軸を有するGaAs基板1を用意し、有機金属気相成長装置内に設けられたサセプタ上に載置する。AlGaInP層を形成させる有機金属気相成長装置のサセプタ上にはInP含有粒子が多数存在するので、サセプタ上に載置したGaAs基板1の裏面MP2にもInP含有粒子D1,D2,D3が付着する。
【0025】
次に、工程2に示すように、GaAs基板1の第一主表面MP1に、n型GaAsバッファ層2を例えば0.5μm、次いで、発光層部24として、各々(AlGa1−xIn1−yPよりなる、1μmのn型クラッド層4(n型ドーパントはSi)、0.6μmの活性層(ノンドープ)5、及び1μmのp型クラッド層6、p型第一GaP層7a(p型ドーパントはMg:有機金属分子からのCもp型ドーパントとして寄与しうる)を、この順序にてエピタキシャル成長させてMOエピタキシャルウェーハ50を得る(有機金属気相成長工程)。これら各層のエピタキシャル成長は、公知のMOVPE法により行なわれる。Al、Ga、In(インジウム)、P(リン)の各成分源となる原料ガスとしては以下のようなものを使用できる;
・Al源ガス;トリメチルアルミニウム(TMAl)、トリエチルアルミニウム(TEAl)など;
・Ga源ガス;トリメチルガリウム(TMGa)、トリエチルガリウム(TEGa)など;
・In源ガス;トリメチルインジウム(TMIn)、トリエチルインジウム(TEIn)など。
・P源ガス:トリメチルリン(TMP)、トリエチルリン(TEP)、ホスフィン(PH)など。
【0026】
工程2の終了後、MOエピタキシャルウェーハ50を有機金属気相成長装置から取り出し、GaAs基板1の裏面MP2に付着したInP含有粒子D1,D2,D3の付着量(以下、InP付着量ともいう)を、例えば蛍光灯下で目視観測する(工程3、InP付着量観測工程)。InP付着量観測工程は、GaAs基板1の裏面MP2を画像処理し、InP含有粒子D1,D2,D3の付着部分を判別してその合計面積を演算することにより、InP付着量を求めても良い。InP付着量が比較的少ない場合は、ペングラインダー等を用いてGaAs基板1の裏面MP2を部分的に除去することにより、裏面MP2に付着したInP含有粒子を除去する(工程4、InP含有粒子除去工程)。以下の説明の都合上、当該InP含有粒子除去工程でInP含有粒子D1が除去され、InP含有粒子D2,D3はGaAs基板1の裏面MP2に残存するものとする。
【0027】
InP付着量が比較的多い場合や当該除去工程を施すMOエピタキシャルウェーハ50の枚数が多い場合は、GaAs基板1の裏面に研磨を施したりウェットエッチングを施したりすることにより、GaAs基板1の裏面全体を除去するほうが効率的である。
【0028】
工程5に進み、MOエピタキシャルウェーハ50をHVPE気相成長装置内に設けられたサセプタ上に載置し、p型第一GaP層7aの直上に、塩化ガリウム(GaCl)を原料ガスとして使用し水素雰囲気中でp型第二GaP層7bをHVPE法により気相成長させる(ハイドライド気相成長工程)。図5は、HVPE気相成長装置の一例を示す模式図である。該装置201は、Ga融液209を収容する坩堝208が配置される第一室204と、MOエピタキシャルウェーハ50を保持するサセプタ210(例えばカーボン製であるが、これに限定されない)が収容される第二室205とを有する成長容器を有する。
【0029】
HVPE法は、具体的には、容器内にてIII族元素であるGaを所定の温度に加熱保持しながら、そのGa上に塩化水素を導入することにより、下記(1)式の反応によりGaClを生成させ、キャリアガスであるHガスとともにMOエピタキシャルウェーハ50上に供給する。
Ga(液体)+HCl(気体) → GaCl(気体)+1/2H‥‥(1)
第一室204と第二室205とは坩堝208とともに石英にて構成され、それぞれヒータ202,203により、前記のHVPE反応が十分に進むよう、適正な成長温度に昇温される。GaPの場合、成長温度は例えば640℃以上860℃以下に設定する。坩堝208が配置される第一室204には、導入口206より、HClガスと、キャリアガスとしてのHガスと、P源ガスとしてのPHと、ドーパントガスとしてのDMZn(ジメチル亜鉛)が導入される。
【0030】
GaClはPHとの反応性に優れ、図4の工程5に示すごとく、下記(2)式の反応により、p型GaP電流拡散層7の要部をなすp型第二GaP層7bを成長させることができる:
GaCl(気体)+PH(気体)
→GaP(固体)+HCl(気体)+H(気体)‥‥(2)
図5において、MOエピタキシャルウェーハ50は、成長容器内において原料ガスの流通方向に複数配置され、それらの複数のMOエピタキシャルウェーハ50にp型第二GaP層7bが一括してエピタキシャル成長される。
【0031】
(2)式に示すように、反応が進むにつれてHClガスが生成する。図4の工程5に示すごとく、このとき、HClの一部がGaAs基板1の裏面(MP1)側に回り込み、GaAs基板1とInP含有粒子D2,D3との境界領域に形成されたInAsをエッチングする結果、それらInP含有粒子D2,D3が付着していた位置に裏面穴H2,H3が発生する。HClガスは、原料のGaClとPHの濃度が高い原料ガス供給の上流側では比較的濃度が低く、(2)式の反応が終わって排気される下流側ほど濃度が高くなっていく。一方、裏面穴H2,H3は、InP含有粒子の付着量が大きいほど発生しやすい。
【0032】
そこで、図5に示すように、InP含有粒子Dの付着量の大きいGaAs基板1を有するMOエピタキシャルウェーハ50ほど、塩化ガリウムを含む原料ガス供給の上流側に配置し、逆に付着量の小さいものほど下流側に配置して水素雰囲気中で第二GaP層7bを気相成長すると、裏面穴はバッチ内全体にわたり発生し難くなる。
【0033】
図4に戻り、工程5のハイドライド気相成長工程終了後、p型第二GaP層7bの形成された化合物半導体ウェーハ60をHVPE気相成長装置内から取り出し、GaAs基板1の裏面MP2に集光を照射して裏面穴H2,H3を検知する(裏面穴検知工程)。蛍光灯下で裏面穴H2,H3は、破砕層の形成されたGaAs基板1とほぼ同じ灰色に見えるため検知することが難しいが、集光を照射すると赤く見えるため、裏面穴H2,H3の位置を容易に特定することができる。
【0034】
そこで、ハイドライド気相成長工程後のGaAs基板1の裏面MP2に集光を照射すると、裏面穴H2,H3の発生位置を容易かつ確実に特定できるので、その後に裏面穴除去工程(工程6)を無駄なく短時間に行なうことが可能になる。裏面穴除去工程は、例えば、裏面穴H2,H3の発生部位を劈開により除去することにより実施してもよいし、周辺部に発生した裏面穴H3をGaAs基板1の周辺部をグラインダー等で研削除去することにより実施してもよい。
【0035】
ハイドライド気相成長工程終了直後のGaAs基板1の裏面MP2には破砕層が形成されているため、裏面穴H2,H3を検知することは難しいが、GaAs基板1の裏面MP2に研磨工程を施すと破砕層が除去されるため、蛍光灯下でも裏面穴H2,H3を容易に検知することが可能になる。また、穴が比較的浅く形成された裏面穴H2は、研磨工程を施すだけで除去することができる。そこで、裏面穴除去工程は、ハイドライド気相成長工程の後に、GaAs基板1の裏面MP2に研磨工程を施してから行なってもよい。この場合、研磨工程後に残存する裏面穴H3の除去工程は、前述と同様、劈開あるいは研削により除去することができる。
【0036】
なお、裏面穴の抑制を図るための具体的手段は、裏面穴の発生程度に応じて、InP含有粒子除去工程(工程4)と、ハイドライド気相成長工程(工程5)において、InP含有粒子Dの付着量の大きいGaAs基板1を有するMOエピタキシャルウェーハ50ほど、塩化ガリウムを含む原料ガス供給の上流側に配置する手法と、裏面穴除去工程(工程6)との、どれか1つを単独で行い、他を特に行なわないようにすることも可能であるし、逆に2つ以上を組み合わせて実施することも可能である。
【0037】
以上の工程により、裏面穴H2,H3を有さない図1の化合物半導体ウェーハ100を得た後に、図2に示すごとく、真空蒸着法により第一電極9及び第二電極20を形成し、さらに第一電極9上にボンディングパッド16を配置して、適当な温度で電極定着用のベーキングを施す。そして、第二電極20をAgペースト等の導電性ペーストを用いて支持体を兼ねた図示しない端子電極に固着する一方、ボンディングパッド16と別の端子電極とにまたがる形態でAu製のワイヤ17をボンディングし、さらに樹脂モールドを形成することにより、発光素子200が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の化合物半導体ウェーハの一例を積層構造にて示す模式図。
【図2】本発明の化合物半導体ウェーハから得られる発光素子の一例を積層構造にて示す模式図。
【図3】図1の化合物半導体ウェーハと図2の発光素子の製造工程を示す説明図。
【図4】図3に続く説明図。
【図5】HVPEの成長装置の一例を示す模式図。
【符号の説明】
【0039】
1 GaAs単結晶基板
4 n型クラッド層
5 活性層
6 p型クラッド層
7 p型GaP電流拡散層
7a 第一GaP層
7b 第二GaP層
9 第一電極
24 発光層部
100 化合物半導体ウェーハ
200 発光素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
GaAs単結晶基板上に(AlGa1−xIn1−yP(ただし、0≦x≦1,0<y≦1)にて構成されるエピタキシャル層を気相成長する有機金属気相成長工程と、前記GaAs単結晶基板の裏面に付着したInP含有粒子を除去するInP含有粒子除去工程と、塩化ガリウムを原料ガスとして使用し水素雰囲気中でGaP層を前記エピタキシャル層上に気相成長するハイドライド気相成長工程とをこの順に行なうことを特徴とする化合物半導体エピタキシャルウェーハの製造方法。
【請求項2】
前記InP含有粒子除去工程は、前記GaAs単結晶基板の裏面を部分的に除去することにより行なうことを特徴とする請求項1記載の化合物半導体エピタキシャルウェーハの製造方法。
【請求項3】
前記InP含有粒子除去工程は、前記GaAs単結晶基板の裏面全体を除去することにより行なうことを特徴とする請求項1記載の化合物半導体エピタキシャルウェーハの製造方法。
【請求項4】
前記GaAs単結晶基板の裏面全体の除去は、前記GaAs単結晶基板の裏面に研磨を施すことにより行うことを特徴とする請求項3記載の化合物半導体エピタキシャルウェーハの製造方法。
【請求項5】
前記GaAs単結晶基板の裏面全体の除去は、前記GaAs単結晶基板の裏面にウェットエッチングを施すことにより行うことを特徴とする請求項3記載の化合物半導体エピタキシャルウェーハの製造方法。
【請求項6】
GaAs単結晶基板上に(AlGa1−xIn1−yP(ただし、0≦x≦1,0<y≦1)にて構成されるエピタキシャル層を気相成長する有機金属気相成長工程と、前記GaAs単結晶基板の裏面に付着したInP含有粒子の付着量を観測するInP付着量観測工程と、前記InP含有粒子の付着量の大きいGaAs単結晶基板ほど、塩化ガリウムを含む原料ガス供給の上流側に配置して水素雰囲気中でGaP層を前記エピタキシャル層上に気相成長するハイドライド気相成長工程とをこの順に行なうことを特徴とする化合物半導体エピタキシャルウェーハの製造方法。
【請求項7】
GaAs単結晶基板上に(AlGa1−xIn1−yP(ただし、0≦x≦1,0<y≦1)にて構成されるエピタキシャル層を気相成長する有機金属気相成長工程と、塩化ガリウムを原料ガスとして使用し水素雰囲気中でGaP層を前記エピタキシャル層上に気相成長するハイドライド気相成長工程と、前記GaAs単結晶基板の裏面に形成された裏面穴を除去する裏面穴除去工程とをこの順に行なうことを特徴とする化合物半導体エピタキシャルウェーハの製造方法。
【請求項8】
前記裏面穴除去工程は、前記ハイドライド気相成長工程の後に、前記GaAs単結晶基板の裏面に集光を照射して前記裏面穴を検知する裏面穴検知工程で裏面穴の位置を特定してから行なうことを特徴とする請求項7記載の化合物半導体エピタキシャルウェーハの製造方法。
【請求項9】
前記裏面穴除去工程は、前記ハイドライド気相成長工程の後に、前記GaAs単結晶基板の裏面に研磨工程を施してから行なうことを特徴とする請求項7記載の化合物半導体エピタキシャルウェーハの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−270484(P2008−270484A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−110707(P2007−110707)
【出願日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【出願人】(000190149)信越半導体株式会社 (867)
【Fターム(参考)】