説明

化学気相成長材料及び化学気相成長方法

【課題】極薄膜のルテニウム膜を形成する場合であっても良質なルテニウム膜を得ることができる化学的気相成長材料及びその化学的気相成長材料を用いてルテニウム膜を形成する簡易な方法を提供すること。
【解決手段】化学気相成長材料は、下記式(2)
【化1】


ここで、R、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子、フッ素原子、トリフルオロメチル基又は炭素数1〜10の炭化水素基である。
で表される配位子を有するルテニウム化合物である。化学気相成長方法は、上記のルテニウム化合物を使用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学気相成長材料及び化学気相成長方法に関する。
【背景技術】
【0002】
DRAM(Dynamic Random Access Memory)に代表される半導体デバイスは、その高集積化と微細化の急激な要求に伴い、従来法でメモリセル容量を確保することが困難になってきている。そこで、近年はさらなる微細化に向けて、デバイスを構成する各金属膜、金属酸化膜の材料変更が必要となっている。
なかでも、半導体デバイス内の多層配線用途での導電性金属膜の改良が要求されている。従来は配線材料としてアルミニウムが用いられてきたが、比抵抗値がアルミニウムの60%と低い銅配線への変換が進んでいる。この銅配線の導電性を高める目的で多層配線の層関絶縁膜材料には低誘電率材料(Low−k材料)が用いられているが、この低誘電率材料中に含まれている酸素原子が銅配線に容易に取り込まれその導電性を下げるといった問題が生じている。その為、低誘電率材料からの酸素の移動を防ぐ目的で、低誘電率材料と銅配線の間にバリア膜を形成する技術が検討されている。このバリア膜用途の材料として、誘電体層からの酸素を取り込みにくい電極材料として、白金、ルテニウムを、また、酸化物自体が導電性を有するものとして、酸化ルテニウムを利用することが検討されている。これらのうち白金膜は、ドライエッチングによる加工が困難であるのに対して、金属ルテニウム膜あるいは酸化ルテニウム膜は比較的容易にドライエッチングにより加工することができ、バリア膜材料として好適に用い得ることが知られている。
【0003】
また、従来は酸化ケイ素と窒化ケイ素の積層膜(ON膜)が用いられていたキャパシタ絶縁膜用の誘電体材料も、微細化、高集積化の目的でON膜に比べて誘電率が非常に高いペロブスカイト型の結晶構造を有するチタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウム、PZT等の材料が検討されている。しかし、このような高誘電率材料をキャパシタの絶縁膜に用いても、電極−誘電体界面に低誘電率層が形成される場合があり、キャパシタ容量を高めるに際して障害となっていた。この低誘電率層は、誘電体層から電極材料への酸素原子の移動によって形成されると考えられている。そこで、誘電体層からの酸素を取り込みにくい電極材料として、こちらも白金、ルテニウム、酸化ルテニウムが検討され、上記同様加工が容易な点から金属ルテニウム膜あるいは酸化ルテニウム膜がペロブスカイト型構造の誘電体を絶縁膜に有するキャパシタの電極として好適に用い得ることが知られている(例えば、非特許文献1〜3参照。)。
【0004】
上記の金属ルテニウム膜の形成には、従来スパッタリング法が多く用いられてきたが、近年、より微細化した構造や、薄膜化、量産性への対応として、化学気相成長法の検討が行われている(例えば、特許文献1〜5参照。)。
しかし、一般に化学気相成長法で形成した金属膜は微結晶の集合状態が疎であるなど表面モルフォロジーが悪く、これをキャパシタの電極として用いると電界集中によるリーク電流の増大が生じる。また、微細化を実現するために膜厚を極めて薄い電極を形成しようとすると、均一の膜とはならず島状に金属部分が点在する欠陥を有する膜しか形成できずに電気伝導性に劣ることとなり、これをキャパシタ電極として用いるとキャパシタ面積を稼ぐことができず、キャパシタ動作に必要な容量が確保できないという問題が生じる。
近年、上記モルフォロジーの問題を解決する手段として、ビス(ジピバロイルメタナート)ルテニウムやルテノセン・ビス(アルキルシクロペンタジエニル)ルテニウムを化学気相成長材料に用いた検討が行われている(例えば、特許文献6〜8参照。)。
【0005】
しかし、これらの化学気相成長材料を用いた手法では、モルフォロジーや立体基板のステップカバレージの問題は向上するが、膜の導電性がスパッタ法などにより形成されたルテニウム膜より劣り、さらには成膜されたルテニウム膜中の不純物が多い問題点もあるため、これらを原料として化学気相成長法により形成されたルテニウム膜をDRAM用の電極として用いると、DRAM性能が不足する問題がある。
さらに、これらの化学気相成長材料を用いた手法では、微細化に必要な超薄膜(特に10nm以下)の薄膜形成が困難といった問題があるため、DRAMの微細化に問題が有る。近年は、この超薄膜成膜を実現する手法として、単原子層蒸着法が検討され、金属コバルト・金属銅を単原子蒸着法により成膜する手法も報告されている(例えば、特許文献9、文献情報4参照。)。しかし、この方法は、プロセスが煩雑であり、製品歩留まり上の問題がある。
【非特許文献1】日経マイクロデバイス 200年2月号PP93−106
【非特許文献2】電子材料 2003年11月号PP47−49
【非特許文献3】Jpn.J.Appl.Phys.,Vol.43,No.6A(2004)PP3315−3319
【特許文献1】特開平11−340435号公報
【特許文献2】特開2002−161367号公報
【特許文献3】特開2002−212112号公報
【特許文献4】特表2002−523634号公報
【特許文献5】特開2002−69639号公報
【特許文献6】特開平06−283438号公報
【特許文献7】特開平11−35589号公報
【特許文献8】特開2002−114795号公報
【特許文献9】特開2002−367992号公報
【非特許文献4】Nature Materials,Vol.2, November(2003)PP749−754
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記問題に鑑みなされたもので、その目的は極薄膜のルテニウム膜を形成する場合であっても良質なルテニウム膜を得ることができる化学的気成長相材料及びその化学的気相成長材料を用いてルテニウム膜を形成する簡易な方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のよると、本発明の上記課題は、第一に、下記式(1)で表される化学気相成長材料によって達成される。
RuL (1)
ここで、Lは下記式(2)
【0008】
【化1】

【0009】
ここで、R、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子、フッ素原子、トリフルオロメチル基又は炭素数1〜10の炭化水素基である。
で表される配位子であり、Xは水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜10の炭化水素基、下記式(3)
【0010】
【化2】

【0011】
ここで、R、R、R、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜10の炭化水素基又はトリメチルシリル基である。
又は下記式(4)
【0012】
【化3】

【0013】
ここで、R、R10、R11、R12、R13及びR14は、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1〜10の炭化水素基である。
で表される配位子であり、nは1〜3の整数であり、mは0〜3の整数であり、n+mは3又は4である。
本発明によると、本発明の上記課題は、第二に、上記の化学気相成長材料から、化学気相成長法によりルテニウム膜を形成する方法によって達成される。
【発明の効果】
【0014】
本発明によると、極薄膜のルテニウム膜を形成する場合であっても良質なルテニウム膜を得ることができる化学的気相材料及びその化学的気相材料を用いてルテニウム膜を形成する簡易な方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の化学気相成長材料は、上記式(1)で表される。
上記式(1)において、Lは上記式(2)で表される。
上記式(2)において、R、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子、フッ素原子、トリフルオロメチル基又は炭素数1〜10の炭化水素基である。ここで、炭素数1〜10の炭化水素基としては炭素数1〜6の炭化水素基であることが好ましく、その具体例としては、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、ネオペンチル基、n−ヘキシル基、シクロヘキシル基を挙げることができる。R、R及びRの好ましい例としては、R及びRとしては、イソプロピル基、t−ブチル基、ネオペンチル基、シクロヘキシル基を挙げることができ、Rとしては、水素原子、メチル基、エチル基、t−ブチル基を挙げることができる。
【0016】
上記式(2)において、Xは水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜10の炭化水素基、上記式(3)又は上記式(4)で表される配位子である。
上記式(3)において、R、R、R、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜10の炭化水素基又はトリメチルシリル基である。R、R、R、R及びRのうちの少なくとも二つが炭素数1〜10の炭化水素基である場合には、これらが相互に結合し員数4〜8の環を形成していてもよい。ここで、炭素数1〜10の炭化水素基の具体例としては、例えばメチル基、エチル基を挙げることができ、また、環を形成する場合の例としては、例えば上記式(3)の五員環を形成する炭素のうちの隣接する二つが基−CHCHCHCH−の一位及び四位の炭素とそれぞれ結合し、六員環を形成する場合が挙げられる。
上記式(4)において、R、R10、R11、R12、R13及びR14は、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1〜10の炭化水素基である。ここで、炭素数1〜10の炭化水素基としては、炭素数1〜4のアルキル基であることが好ましく、その具体例としては、例えばメチル基、エチル基等が挙げられる。
上記式(2)におけるXの好ましい例としては、水素原子、塩素原子、メチル基、エチル基、η−シクロペンタジエニル基、η−テトラメチルシクロペンタジエニル基、η−トリメチルシリルシクロペンタジエニル基、η−インデニル基、η−ベンゼン又はη−トルエンを挙げることができ、更に好ましくは水素原子、メチル基又はη−シクロペンタジエニル基である。
また、上記式(2)において、nは1〜3の整数であり、mは0〜3の整数であり、n+mは3又は4である。
【0017】
上記式(1)で表される化学気相成長材料の具体例としては、例えばトリス(η−N,N’−ジイソプロピルアセトアミジネート)ルテニウム、ビス(η−N,N’−ジイソプロピルアセトアミジネート)ルテニウムクロライド、(η−N,N’−ジイソプロピルアセトアミジネート)ルテニウムジクロライド、トリス(η−N,N’−ジ−t−ブチルアセトアミジネート)ルテニウム、ビス(η−N,N’−ジ−t−ブチルアセトアミジネート)ルテニウムクロライド、(η−N,N’−ジ−t−ブチルアセトアミジネート)ルテニウムジクロライド、トリス(η−N,N’−ジシクロヘキシルアセトアミジネート)ルテニウム、ビス(η−N,N’−ジシクロヘキシルアセトアミジネート)ルテニウムクロライド、(N,N’−ジシクロヘキシルアセトアミジネート)ルテニウムジクロライド、トリス(η−N−t−ブチル−N’−エチルアセトアミジネート)ルテニウム、ビス(η−N−t−ブチル−N’−エチルアセトアミジネート)ルテニウムクロライド、(η−N−t−ブチル−N’−エチルアセトアミジネート)ルテニウムジクロライド、ビス(η−N,N’−ジイソプロピルアセトアミジネート)ルテニウムヒドリド、(η−N,N’−ジイソプロピルアセトアミジネート)ルテニウムジヒドリド、ビス(η−N,N’−ジ−t−ブチルアセトアミジネート)ルテニウムヒドリド、(η−N,N’−ジ−t−ブチルアセトアミジネート)ルテニウムジヒドリド、ビス(η−N,N’−ジシクロヘキシルアセトアミジネート)ルテニウムヒドリド、(η−N,N’−ジシクロヘキシルアセトアミジネート)ルテニウムジヒドリド、
【0018】
ビス(η−N−t−ブチル−N’−エチルアセトアミジネート)ルテニウムヒドリド、(η−N−t−ブチル−N’−エチルアセトアミジネート)ルテニウムジヒドリド、ビス(η−N,N’−ジイソプロピルアセトアミジネート)メチルルテニウム、(η−N,N’−ジイソプロピルアセトアミジネート)ジメチルルテニウム、ビス(η−N,N’−ジ−t−ブチルアセトアミジネート)メチルルテニウム、(η−N,N’−ジ−t−ブチルアセトアミジネート)ジメチルルテニウム、ビス(η−N,N’−ジシクロヘキシルアセトアミジネート)メチルルテニウム、(η−N,N’−ジシクロヘキシルアセトアミジネート)ジメチルルテニウム、ビス(η−N−t−ブチル−N’−エチルアセトアミジネート)メチルルテニウム、(η−N−t−ブチル−N’−エチルアセトアミジネート)ジメチルルテニウム、ビス(η−N,N’−ジイソプロピルアセトアミジネート)(η--シクロペンダジエニル)ルテニウム、(η−N,N’−ジイソプロピルアセトアミジネート)ジ(η--シクロペンダジエニル)ルテニウム、ビス(η−N,N’−ジ−t−ブチルアセトアミジネート)(η--シクロペンダジエニル)ルテニウム、(η−N,N’−ジ−t−ブチルアセトアミジネート)ジ(η--シクロペンダジエニル)ルテニウム、ビス(η−N,N’−ジシクロヘキシルアセトアミジネート)(η--シクロペンダジエニル)ルテニウム、(η−N,N’−ジシクロヘキシルアセトアミジネート)ジ(η--シクロペンダジエニル)ルテニウム、ビス(η−N−t−ブチル−N’−エチルアセトアミジネート)(η--シクロペンダジエニル)ルテニウム、(η−N−t−ブチル−N’−エチルアセトアミジネート)ジ(η--シクロペンダジエニル)ルテニウム等を挙げることができる。
【0019】
これらのうち、トリス(η−N,N’−ジイソプロピルアセトアミジネート)ルテニウム、ビス(η−N,N’−ジイソプロピルアセトアミジネート)ルテニウムクロライド、(η−N,N’−ジイソプロピルアセトアミジネート)ルテニウムジクロライド、トリス(η−N,N’−ジ−t−ブチルアセトアミジネート)ルテニウム、ビス(η−N,N’−ジ−t−ブチルアセトアミジネート)ルテニウムクロライド、(η−N,N’−ジ−t−ブチルアセトアミジネート)ルテニウムジクロライド、トリス(η−N,N’−ジシクロヘキシルアセトアミジネート)ルテニウム、ビス(η−N,N’−ジシクロヘキシルアセトアミジネート)ルテニウムクロライド、(N,N’−ジシクロヘキシルアセトアミジネート)ルテニウムジクロライドが好ましい。
これらの化合物は化学気相成長材料としては単独で、または2種以上を混合して使用することができる。1種類の化学気相成長材料を単独で使用することが好ましい。
【0020】
本発明の化学的気相成長方法は上記の化学気相成長材料を使用する。
本発明の化学的気相成長方法は、上記の化学気相成長材料を使用する他は、公知の方法を使用できるが、例えば次のようにして実施することができる。
(1)本発明の化学気相成長材料を気化せしめ、次いで(2)該気体を加熱して、熱分解せしめて基体上にルテニウムを堆積せしめる。なお、上記工程(1)において、本発明の化学気相成長材料の分解を伴っても本発明の効果を減殺するものではない。
ここで使用できる基体としては、例えば、ガラス、シリコン半導体、石英、金属、金属酸化物、合成樹脂等適宜の材料を使用できるが、ルテニウム化合物を熱分解せしめる工程温度に耐えられる材料であることが好ましい。
上記工程(1)において、ルテニウム化合物を気化せしめる温度としては、好ましくは50〜350℃であり、更に好ましくは80〜300℃である。
上記工程(2)において、ルテニウム化合物を熱分解せしめる温度としては、好ましくは80〜500℃であり、より好ましくは100〜400℃であり、更に好ましくは120〜350℃である。
【0021】
本発明の化学的気相成長方法は、不活性気体の存在下もしくは不存在下又は還元性気体の存在下もしくは不存在下のいずれの条件下でも実施することができる。また、不活性気体および還元性気体の両者が存在する条件で実施してもよい。ここで不活性気体としては、例えば窒素、アルゴン、ヘリウム等が挙げられる。また、還元性気体としては、例えば水素、アンモニア等を挙げることができる。特に上記式(1)で表される化学気相成長材料がハロゲン元素を含むものである場合、還元性気体存在下で実施することが望ましい。
また本発明の化学的気相成長方法は、酸化性気体の共存化で実施することも可能である。ここで、酸化性気体としては、例えば酸素、一酸化炭素、亜酸化窒素等を挙げることができる。酸化性気体を共存させる場合、雰囲気中の酸化性気体の割合は、1〜70モル%であることが好ましく、3〜40モル%であることがより好ましい。
【0022】
本発明の化学的気相成長方法は、加圧下、常圧下および減圧下のいずれの条件でも実施することができるが、常圧下又は減圧下で実施することが好ましく、15,000Pa以下の圧力下で実施することがさらに好ましい。
上記の如くして得られたルテニウム膜は、後述の実施例から明らかなように、純度および電気伝導性が高く、また特に膜厚10nm以下の超薄膜の成膜性に優れ、例えば、配線電極のバリア膜、キャパシタの電極等に好適に使用することができる。
【実施例】
【0023】
以下、実施例によって、本発明を具体的に説明する。
合成例1
N,N’−ジイソプロピルアセトアミジネート5.7gを窒素置換した200mLフラスコ中に計り取り、50℃下で60分減圧下においた。室温に戻した後に乾燥した窒素でフラスコを満たした。ここによく乾燥したジエチルエーテル50mLを窒素雰囲気下で加えて攪拌し、上記N,N’−ジイソプロピルアセトアミジネートを溶解した。この溶液を−60℃に冷却し、ここにブチルリチウムのジエチルエーテル溶液(濃度2.0mol/L)22mLを攪拌下で30分かけて滴下し、更に3時間攪拌した。攪拌を止めて2時間かけて室温に戻し、上澄み液をシリンジにて取り出して、N,N’−ジイソプロピルアセトアミジネートのリチウム塩のジエチルエーテル溶液を得た。
一方、無水三塩化ルテニウム2.1gを窒素置換した200mLフラスコ中に計り取り、50℃下で60分減圧下においた。室温に戻した後に乾燥窒素でフラスコを満たし、次いでよく乾燥したジエチルエーテル50mLと良く乾燥下したテトラヒドロフラン50mLとを窒素雰囲気下で加え、上記無水三塩化ルテニウムを溶解した。この溶液を−60℃に冷却し、ここに上記で調整したN,N’−ジイソプロピルアセトアミジネートのリチウム塩のジエチルエーテル溶液を攪拌下で60分かけて滴下し、更に同温度で5時間攪拌を継続した。攪拌を止めて2時間かけて室温に戻し、さらに1時間静置した。生成した沈殿物をデカンテーションにより除いた後、減圧にて溶媒の一部を除去し、濃縮した。こうして得た粘調な溶液について、ジエチルエーテルとテトラヒドロフランの混合溶媒(混合比 1/1(溶積比))を用いて、中性アルミナカラムによるカラムクロマトグラフィーを実施し、赤褐色部を採取した。減圧にて濃縮後、133Paにおいて40℃で2時間加熱して溶媒を除き、トリス(η−N,N’−ジイソプロピルアセトアミジネート)ルテニウム0.9gを赤紫色の固体として得た。収率17%。
ここで得られた固体の元素分析を実施したところ、炭素:55.7%、水素:8.21%、窒素:17.2%であった。なお、トリス(η−N,N’−ジイソプロピルアセトアミジネート)ルテニウムとしての理論値は、炭素:54.9%、水素:9.80%、窒素:16.0%である。
【0024】
合成例2
N,N’−ジイソプロピルアセトアミジネート2.1gを窒素置換した100mLフラスコ中に計り取り、50℃下で60分減圧下においた。室温に戻した後に乾燥した窒素でフラスコを満たした。ここによく乾燥したジエチルエーテル20mLを窒素雰囲気下で加えて攪拌し、上記N,N’−ジイソプロピルアセトアミジネートを溶解した。溶液を−60℃に冷却し、ここにブチルリチウムのジエチルエーテル溶液(濃度2.0mol/L)9mLを攪拌下30分かけて滴下し、更に3時間攪拌を継続した。攪拌を止めて2時間かけて室温に戻し、上澄み溶液をシリンジにて取り出して、N,N‘−ジイソプロピルアセトアミジネートのリチウム塩のジエチルエーテル溶液を得た。
一方、無水三塩化ルテニウム2.1gを窒素置換した200mLフラスコ中に計り取り、50℃下で60分減圧下においた。室温に戻した後に乾燥した窒素でフラスコを満たし、ここによく乾燥したジエチルエーテル50mLと良く乾燥下したテトラヒドロフラン50mLとを加え、上記無水三塩化ルテニウムを溶解した。この溶液を−60℃に冷却し、ここに上記で調整したN,N’−ジイソプロピルアセトアミジネートのリチウム塩のジエチルエーテル溶液を攪拌下で60分かけて滴下し、更に5時間攪拌を継続した。攪拌を止めて2時間かけて室温に戻し、さらに1時間静置した。生成した沈殿物をデカンテーションにより除いた後、減圧にて溶媒の一部を除去し、濃縮した。こうして得た粘調な溶液について、ジエチルエーテルとテトラヒドロフランの混合溶媒(混合比 1/1(溶積比))を用いて、中性アルミナカラムによるカラムクロマトグラフィーを実施し、赤褐色部を採取した。減圧にて濃縮後、133Paにおいて40℃で2時間加熱して溶媒を除き、η−N,N’−ジイソプロピルアセトアミジネート)ルテニウムジクロライド1.3gを濃褐色の固体として得た。収率41%。
ここで得られた固体の元素分析を実施したところ、炭素:32.4%、水素:5.08%、窒素:9.11%であった。なお、η−N,N’−ジイソプロピルアセトアミジネート)ルテニウムジクロライドとしての理論値は、炭素:30.7%、水素:5.47%、窒素:8.94%である。
【0025】
合成例3
N,N’−ジ−t−ブチルアセトアミジネート6.8gを窒素置換した200mLフラスコ中に計り取り、50℃下で60分減圧下においた。室温に戻した後に乾燥した窒素でフラスコを満たした。ここによく乾燥したジエチルエーテル50mLを窒素雰囲気下で加えて攪拌し、上記N,N’−ジ−t−ブチルアセトアミジネートを溶解した。この溶液を−60℃に冷却し、ブチルリチウムのジエチルエーテル溶液(濃度2.0mol/L)22mLを攪拌下30分かけて滴下し、更に3時間攪拌を継続した。攪拌を止めて2時間かけて室温に戻し、上澄み溶液をシリンジにて取り出し、N,N’−ジ−t−ブチルアセトアミジネートのリチウム塩のジエチルエーテル溶液を得た。
一方、無水三塩化ルテニウム2.1gを窒素置換した200mLフラスコ中に計り取り、50℃下で60分減圧下においた。室温に戻した後に乾燥した窒素でフラスコを満たし、ここによく乾燥したジエチルエーテル50mLと良く乾燥下したテトラヒドロフラン50mLとを加え、上記無水三塩化ルテニウムを溶解した。この溶液を−60℃に冷却し、ここに上記で調整したN,N’−ジ−t−ブチルアセトアミジネートリチウム塩のジエチルエーテル溶液を攪拌下で60分かけて滴下し、更に5時間攪拌した。攪拌を止めて2時間かけて室温に戻し、更に1時間静置した。生成した沈殿物をデカンテーションにより除いた後、減圧にて溶媒の一部を除去し、濃縮した。こうして得た粘調な溶液について、ジエチルエーテルとテトラヒドロフランの混合溶媒(混合比 1/1(溶積比))を用いて、中性アルミナカラムによるカラムクロマトグラフィーを実施し、赤褐色部を採取した。減圧にて濃縮後、133Paにおいて40℃で2時間加熱して溶媒を除き、トリス(η−N,N’−ジ−t−ブチルアセトアミジネート)ルテニウム1.2gを赤紫色固体として得た。収率19%。
ここで、得られた固体の元素分析を実施したところ、炭素:60.9%、水素:9.94%、窒素:13.0%であった。なお、トリス(η−N,N’−ジ−t−ブチルアセトアミジネート)ルテニウムとしての理論値は、炭素:59.2%、水素:10.4%、窒素:13.8%である。
【0026】
以下の実施例において、比抵抗はナプソン社製探針抵抗率測定器、形式「RT−80/RG−80」により測定した。膜厚及び膜密度はフィリップス社製斜入射X線分析装置、形式「X’Pert MRD」により測定した。ESCAスペクトルは日本電子(株)製形式「JPS80」にて測定した。また密着性の評価は、JIS K−5400に準拠して碁盤目テープ法によった。
実施例1
合成例1にて得られたトリス(η−N,N’−ジイソプロピルアセトアミジネート)ルテニウム0.01gをアルゴンガス中で石英製ボート型容器に計り取り、石英製反応容器にセットした。反応容器内の気流方向側近傍に石英基板を置き、室温下で反応容器内に窒素ガスを250mL/minの流量にて30分流した。その後反応容器中に窒素ガスを100mL/minの流量で流し、さらに系内を1,333Paにし、反応容器を180℃に30分加熱した。ボート型容器からミストが発生し、近傍に設置した石英基板に堆積物が見られた。ミストの発生が終了した後、減圧を止め、101.3kPaで窒素ガスを200mL/minの流量で流し、反応容器の温度を350℃に上昇させ、そのまま1時間保持したところ、基板上に金属光沢を有する膜が得られた。この膜の膜厚は100Åであった。
この膜のESCAスペクトルを測定したところ、Ru3d軌道に帰属されるピークが280eVと284eVに観察され、他の元素に由来するピークは全く観察されず金属ルテニウムであることが分かった。また、このルテニウム膜につき、4端子法で抵抗率を測定したところ、38μΩcmであった。この膜の膜密度は12.0g/cmであった。ここで形成されたルテニウム膜につき、基板との密着性を碁盤目テープ法によって評価したところ、基板とルテニウム膜との剥離は全く見られなかった。
【0027】
実施例2
合成例2にて得られた(η−N,N’−ジイソプロピルアセトアミジネート)ルテニウムジクロライド0.01gをアルゴンガス中で石英製ボート型容器に量計り取り、石英製反応容器にセットした。反応容器内の気流方向側近傍に石英基板を置き、室温下で反応容器内に窒素ガスを250mL/minの流量にて30分流した。その後反応容器中に水素・窒素混合ガス(水素含量3vol%)を30mL/minの流量で流し、さらに系内を80Paにし、反応容器を170℃に40分加熱した。ボート型容器からミストが発生し、近傍に設置した石英基板に堆積物が見られた。ミストの発生が終了した後、減圧を止め、101.3kPaで水素・窒素混合ガス(水素3%)を500mL/minの流量で流し、反応容器の温度を350℃に上昇させ、そのまま1時間保持したところ、基板上に金属光沢を有する膜が得られた。この膜の膜厚は95Åであった。
この膜のESCAスペクトルを測定したところ、Ru3d軌道に帰属されるピークが280eVと284eVに観察され、他の元素に由来するピークは全く観察されず金属ルテニウムであることが判った。このルテニウム膜につき、4端子法で抵抗率を測定したところ、41μΩcmであった。また、この膜の膜密度は11.6g/cmであった。ここで形成されたルテニウム膜につき、基板との密着性を碁盤目テープ法によって評価したところ、基板とルテニウム膜との剥離は全く見られなかった。
【0028】
実施例3
合成例3にて得られたトリス(η−N,N’−ジ−t−ブチルアセトアミジネート)ルテニウム0.01gをアルゴンガス中で石英製ボート型容器に計り取り、石英製反応容器にセットした。反応容器内の気流方向側近傍に石英基板を置き、室温下で反応容器内に窒素ガスを250mL/minの流量にて30分流した。その後反応容器中に窒素ガスを100mL/minの流量で流し、さらに系内を1,333Paにし、反応容器を170℃に30分加熱した。ボート型容器からミストが発生し、近傍に設置した石英基板に堆積物が見られた。ミストの発生が終了した後、減圧を止め、101.3kPaで窒素ガスを200mL/minの流量で流し、反応容器を350℃に上昇させ、そのまま1時間保持したところ、基板上に金属光沢を有する膜が得られた。この膜の膜厚は98Åであった。
この膜のESCAスペクトルを測定したところ、Ru3d軌道に帰属されるピークが280eVと284eVに観察され、他の元素に由来するピークは全く観察されず金属ルテニウムであることが判った。また、このルテニウム膜につき、4端子法で抵抗率を測定したところ、40μΩcmであった。この膜の膜密度は12.1g/cmであった。ここで形成されたルテニウム膜につき、基板との密着性を碁盤目テープ法によって評価したところ、基板とルテニウム膜との剥離は全く見られなかった。
【0029】
実施例4
実施例1において、トリス(η−N,N’−ジイソプロピルアセトアミジネート)ルテニウムの使用量を0.005gとした他は、実施例1と同様にして実施し、厚さ55Åの金属光沢ある膜を得た。この膜のESCAスペクトルを測定したところ、Ru3d軌道に帰属されるピークのみが観測された。この膜の4端子法による抵抗率は48μΩcmであり、膜密度は12.0g/cmであった。また、ここで形成されたルテニウム膜につき、基板との密着性を碁盤目テープ法によって評価したところ、基板とルテニウム膜との剥離は全く見られなかった。
【0030】
比較例1
実施例1において、トリス(η−N,N’−ジイソプロピルアセトアミジネート)ルテニウムの代わりに市販のビスエチルシクロペンタジエニルルテニウム0.01gを用い、反応容器の加熱温度を300℃とした他は実施例3と同様にして実施し、厚さ220Åの金属光沢ある膜を得た。この膜をESCAにより分析した所、Ru3d軌道に帰属されるピークのみが観測され、金属ルテニウムであることが分かった。この膜の抵抗率を4探針法により測定したところ、125μΩcmであった。ここで形成されたRu膜につき、基板との密着性を碁盤目テープ法によって評価したところ、碁盤目100個中、100個が剥離してしまった。この膜の膜密度は11.2g/cmであった。
【0031】
比較例2
比較例2において、ビスエチルシクロペンタジエニルルテニウムの使用量を0.005gとした以外は比較例1と同様にして実施し、金属光沢ある膜を得た。得られた膜は膜厚が60〜190Åの範囲で不均一であった。この膜をESCAにより分析した所、Ru3d軌道に帰属されるピークのみが検出された。このルテニウム膜の抵抗率を4探針法により測定したところ、167μΩcmであり、またこの膜の膜密度は11.2g/cmであった。ここで形成されたRu膜につき、基板との密着性を碁盤目テープ法によって評価したところ、碁盤目100個中、100個が剥離してしまった。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される化学気相成長材料。
RuL (1)
ここで、Lは下記式(2)
【化1】

ここで、R、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子、フッ素原子、トリフルオロメチル基又は炭素数1〜10の炭化水素基である。
で表される配位子であり、Xは水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜10の炭化水素基、下記式(3)
【化2】

ここで、R、R、R、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜10の炭化水素基又はトリメチルシリル基である。R、R、R、R及びRのうちの少なくとも二つが炭素数1〜10の炭化水素基である場合には、これらが相互に結合し員数4〜8の環を形成していてもよい。
又は下記式(4)
【化3】

ここで、R、R10、R11、R12、R13及びR14は、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1〜10の炭化水素基である。
で表される配位子であり、nは1〜3の整数であり、mは0〜3の整数であり、n+mは3又は4である。
【請求項2】
請求項1に記載の化学気相成長材料から、化学気相成長法によりルテニウム膜を形成する方法。

【公開番号】特開2006−37161(P2006−37161A)
【公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−218311(P2004−218311)
【出願日】平成16年7月27日(2004.7.27)
【出願人】(000004178)JSR株式会社 (3,320)
【Fターム(参考)】