説明

医用画像処理装置および方法ならびにプログラム

【課題】左心室が表された3次元の画像データから左心室の心内膜を精度良く検出する。
【解決手段】左心室が表された3次元の画像データから左心室の心内膜を抽出する医用画像処理装置であって、血液領域抽出手段20が、画像データVから左心室内の血液領域を抽出し、凸凹点特定手段30が、抽出された血液領域の輪郭上の複数のサンプル点から凸包を求めることにより、凸包を形成する凸点およびその凸点以外のサンプル点である凹点を特定し、心内膜決定手段40が、凹点の少なくとも一部をその凹点周辺に位置する複数の凸点との位置関係に基づいて定められる量だけ血液領域の外側へ移動させることによって変形された血液領域の変形後の輪郭を前記心内膜として決定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、左心室が表された3次元の画像データから左心室の心内膜を抽出する医用画像処理装置および方法ならびにプログラムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
医療現場におけるマルチスライスCTの普及に伴い、医用画像解析技術が急速に発展している。例えば、心臓領域においては、心臓の1心拍の間に複数の3次元画像が取得できるまでになった。これに伴い、心臓を撮影して得られた複数の3次元の画像データを解析することにより、駆出率、拡張末期容積、収縮末期容積、1回拍出量、心拍出量、心筋重量などといった心臓の機能を解析することが行われている。
【0003】
このような画像的情報に基づく心機能解析のためには、左心室が表された3次元の画像データから左心室の心内膜の位置を正確に抽出することが必要となる。画像データから心内膜を抽出する方法としては、たとえば非特許文献1に示されているように、左心室の心内膜の標準モデルを対象画像にあうように変形させることによって心内膜を求めるActive Shape Modelという手法が提案されている。
【0004】
この手法では、複数のサンプル画像における心内膜の形状を学習することにより心内膜の形状の標準モデルを予め生成しておく。ここで、標準モデルは、各位置における形状の平均値と主成分で表現されている。そして、その生成しておいた標準モデルの平均形状をこれから心内膜の形状を抽出したい対象画像中に配置し、配置された標準モデルの平均形状上の各特徴点におけるその形状に垂直する方向に対して特徴量を算出し、学習時に算出された特徴量と比較し、両者の一致性を高める場所に各特徴点を動かすべきシフト量を計算する。そして、各特徴点において計算されたシフト量を最大限に表すことができる主成分係数を求め、求められた主成分係数を用いて標準モデルの形状を変形させる。また、変形後の標準モデルに対してシフト量の計算処理およびその計算結果に基づく変形処理をその形状が収束するまで(所定のエネルギー関数が最小化するまで)繰り返し行い、最終的に得られた変形後の標準モデルを対象画像の心内膜として取得する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Y.Zheng, A.Barbu, B.Georgescu, Michael Scheuering, and D.Comaniciu、“Four-Chamber Heart Modeling and Automatic Segmentation for 3D Cardiac CT Volume Using Marginal Space Learning and Steerable Features”IEEE Transactions on Medical Imaging、2008, Vol.27 No.11, pp. 1668-1681
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記従来の方法では、標準モデルによって抽出する心内膜の形状に制約が与えられているため、心内膜の抽出結果が本来の心内膜の形状から逸脱することはないが、対象画像中の心内膜を個人差による形状の違いに対応して正確に抽出することができないという問題がある。たとえば、心内膜に局所的に凸部や凹部が存在する場合に、特徴点を動かすべきシフト量が正しく計算されても、標準モデルによってはそのような対象画像の心内膜の形状を表現できない場合があり、局所解(最適解ではない解)に収束してしまい、所望の心内膜の形状が得られない場合もある。
【0007】
そこで、本発明は、左心室が表された3次元の画像データから左心室の心内膜を精度良く検出することができる医用画像処理装置および方法ならびにプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の医用画像処理装置は、左心室が表された3次元の画像データから左心室の心内膜を抽出する医用画像処理装置であって、画像データから左心室内の血液領域を抽出する血液領域抽出手段と、抽出された血液領域の輪郭上の複数のサンプル点から凸包を求めることにより、凸包を形成する凸点および該凸点以外のサンプル点である凹点を特定する凸凹点特定手段と、凹点の少なくとも一部を該凹点周辺に位置する複数の前記凸点との位置関係に基づいて定められる量だけ前記血液領域の外側へ移動させることによって変形された血液領域の変形後の輪郭を前記心内膜として決定する心内膜決定手段とを備えたことを特徴とする。
【0009】
この医用画像処理装置において、凸凹点特定手段による凸凹点を特定する処理や心内膜決定手段による血液領域の輪郭を変形する処理はそれぞれ3次元の画像データに対して3次元的に行ってもよいが、3次元の画像データを構成する複数の2次元の画像データの各々に対して2次元的に行ってもよい。このとき、上記「凹点周辺の点」は、3次元の処理では凹点の周囲にある凸点をいい、2次元の処理では凹点の両側にある凸点を意味する。
【0010】
たとえば2次元的に上記凸凹点の特定処理および輪郭の変形処理を行う場合、凸凹点特定手段は、左心室に心基部と心尖部を通るように設定された軸と直交する複数の断面を表す複数の2次元の画像データの各々において、前記抽出された血液領域の輪郭上の複数のサンプル点から凸包を求めることにより、凸包を形成する凸点および該凸点以外のサンプル点である凹点を特定するものであり、心内膜決定手段は、2次元の画像データの各々において前記凹点の少なくとも一部を該凹点の両側に位置する複数の凸点との位置関係に基づいて前記血液領域の外側へ移動させることによって変形された前記血液領域の変形後の輪郭を得、それらの変形後の輪郭に基づいて前記心内膜を決定するものであってもよい。
【0011】
また、心内膜決定手段は、前記移動させる凹点が左心室に心基部と心尖部を通るように設定された軸方向において心基部から所定の範囲内に存在する場合、その範囲外に存在する場合よりも前記移動させる程度を小さくするものであってもよい。
【0012】
ここで、移動させる程度を小さく又は大きくするというのは、対象の凹点とその周辺に位置する複数の凸点との位置関係に基づいて定められる凹点の移動量にかける係数を小さく又は大きくすることを意味する。
【0013】
また、心内膜決定手段は、前記移動させる凹点が左心室に心基部と心尖部を通るように設定された軸方向において心基部と前記心尖部の中央部を含む予め設定された所定の範囲内に存在する場合、その範囲外に存在する場合よりも前記移動させる程度を大きくするものであってもよい。このとき、その移動させる程度(係数)は範囲内又は範囲外において一定である必要はなく、前記設定された軸方向における位置に応じて変化するものであってもよい。
【0014】
また、心内膜決定手段は、血液領域の中心部に設定した任意の点と凹点周辺に位置する複数の凸点をそれぞれ結んでなる複数の直線がなす角度が大きいほど、当該凹点を移動させる程度を小さくするものであってもよい。
【0015】
また、本発明の医用画像処理装置は、画像データから左心室の心外膜を抽出する心外膜抽出手段を備え、心内膜決定手段が、前記抽出された心外膜から内側に所定の距離だけ離れた位置を上限として前記少なくとも一部の凹点を移動させるものであってもよい。
【0016】
また、本発明の医用画像処理方法は、上記医用画像処理装置の各手段が行う処理を、少なくとも1台のコンピュータにより実行する方法である。
【0017】
本発明の医用画像処理プログラムは、上記医用画像処理方法を少なくとも1台のコンピュータに実行させるプログラムである。このプログラムは、CD−ROM,DVDなどの記録メディアに記録され、またはサーバコンピュータに付属するストレージやネットワークストレージにダウンロード可能な状態で記録されて、ユーザに提供される。
【発明の効果】
【0018】
本発明の医用画像処理装置および方法ならびにプログラムによれば、左心室が表された3次元の画像データから左心室の心内膜を抽出する際に、前記画像データから左心室内の血液領域を抽出し、抽出された血液領域の輪郭上の複数のサンプル点から凸包を求めることにより、凸包を形成する凸点およびその凸点以外のサンプル点である凹点を特定し、凹点の少なくとも一部をその凹点周辺に位置する複数の凸点との位置関係に基づいて定められる量だけ血液領域の外側へ移動させることによって変形された血液領域の変形後の輪郭を心内膜として決定しているので、図2に示すように、血液領域の輪郭をその凹部に位置する乳頭筋領域を含むように変形させたものを心内膜として決定でき、血液領域および乳頭筋に面して位置する左心室の心内膜を個人差による形状の違いに対応して正確に抽出することができる。これにより、標準のモデルを用いて形状に制限を設け心内膜を抽出する上記従来の方法に比べて、心内膜の抽出精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本実施形態における医用画像処理装置の概略構成を示す図
【図2】本発明により実行する処理の概要を説明するための図
【図3】グラフカットによる領域分割を示す図
【図4】心基部、心尖部および大動脈弁部下部の中心点の位置を示す図
【図5】凸凹点特定処理において設定される軸および断面を示す図
【図6】血液領域の輪郭上でサンプル点を取得する方法を示す図
【図7】凸包の取得方法を示す図
【図8】凸包の取得方法を示す図
【図9】凸凹点特定処理において取得された凸包および凸点と凹点を示す図
【図10】心内膜決定処理において凹点を移動させる方向を示す図
【図11】凹点を移動させる移動量の算定方法を説明するための図
【図12】係数W2の設定方法を説明するための図
【図13】係数W3の設定方法を説明するための図
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の医用画像処理装置および方法ならびにプログラムの実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。図1は本発明の実施形態となる医用画像処理装置1の概略構成図である。なお、図1のような医用画像処理装置1の構成は、補助記憶装置に読み込まれた医用画像処理プログラムをコンピュータ上で実行することにより実現される。このとき、この医用画像処理プログラムは、CD−ROM等の記憶媒体に記憶され、もしくはインターネット等のネットワークを介して配布され、コンピュータにインストールされる。図1の医用画像処理装置1は、左心室が表された3次元の画像データから左心室の心内膜を抽出するものであって、心外膜抽出手段10、血液領域抽出手段20、凸凹点特定手段30、心内膜決定手段40を備えている。
【0021】
心外膜抽出手段10は、左心室が表された3次元の画像データVから左心室の心外膜を抽出するものであって、具体的には、画像データVに対して左心室形状の標準モデルを配置し、対象画像における左心室領域部分にあうように変形させることによって心外膜を抽出する(非特許文献1参照)。ここで、画像データVは、データ記憶手段VDBに記憶されたたとえばCT装置、MRI装置、超音波診断装置等により取得された多数の2次元画像の群からなる被写体の3次元画像データである。
【0022】
血液領域抽出手段20は、画像データVから左心室内の血液領域を抽出するものであって、本実施の形態では、心外膜抽出手段10により抽出された心外膜の内側の領域全体(以下、左心室領域という)をグラフカット法(Graph Cuts)により血液領域と該血液領域以外の領域である心筋領域とに分割し、血液領域と周辺領域の境界を血液領域の輪郭として決定する。
【0023】
具体的には、左心室領域中の各ボクセルを表すノードNijkと、各ボクセルが取り得るラベル(本実施の形態では、血液領域または心筋領域)を表すノードS、Tと、隣接するボクセルのノード同士をつなぐリンクであるn−linkと、各ボクセルを表すノードNijkと血液領域を表すノードSまたは心筋領域を表すノードTとをつなぐリンクであるt−linkとから構成されるグラフを作成する(図3の右図を参照。ただし、図3では理解を容易にするため、2次元領域の分割を示している。)。
【0024】
ここで、n−linkは、隣接するボクセルが同一領域のボクセルである確からしさを表すものであり、その確からしさはそれらの隣接するボクセル間の画素値の差に基づいて求めることができる。各ボクセルを表すノードNijkと心筋領域を表すノードTをつなぐt−linkは、そのボクセルが心筋領域に含まれるボクセルである確からしさを表すものであり、その確からしさは、ボクセルの画素値が心筋のCT値の範囲内(30〜80程度)であるか否かの判定結果に基づいて算出することができる。
【0025】
各ボクセルを表すノードNijkと血液領域を表すノードSをつなぐt−linkは、そのボクセルが血液領域に含まれるボクセルである確からしさを表すものであり、その確からしさは、たとえば、画像データVから図4に示すような心基部(心臓上部の血管と接続するところ)、心尖部(心臓下部の尖った部分)および大動脈弁部下部の3点の特徴点の位置をそれぞれ検出し、それらの特徴点の中心点の近傍に位置する複数のボクセルにおける画素値の統計的な特徴に基づいて算出することができる。ここで、心基部、心尖部および大動脈弁部下部の検出は、マシンラーニングの手法の1つであるAdaBoost等を利用して算出された判別器を用いる手法を用いることができる(特開2011−120825号公報参照)。
【0026】
そして、血液領域と外部領域は互いに排他的な領域であるので、各画素を表すノードと血液領域を表すノードSまたは外部領域を表すノードTとをつなぐ2つのt−linkのうち片方を切断するとともに、異なるラベルを有する隣接する画素のノード同士をつなぐn−linkを切断することにより、判別領域を血液領域と外部領域に分割する(図2の左図を参照)。このとき、切断する全てのt−linkおよびn−linkのコストの合計が最小になるようにすることにより、最適な領域分割をすることができる。
【0027】
凸凹点特定手段30は、図5に示すように、画像データV中の左心室領域において心基部と心尖部を通る軸Zを設定し、その軸Zと直交する複数の断面を表す複数の2次元の画像データC1〜CNの各々において、前記抽出された血液領域の輪郭上の複数のサンプル点から凸包を求めることにより、凸包を形成する凸点および該凸点以外のサンプル点である凹点を特定する。
【0028】
具体的には、まず、図6に示すように、各2次元の画像データCiにおいて、軸Zと断面との交点O(あるいは血液領域の中に設定された中心点O)から断面に沿って等角度ずつ異なる方向へ放射状に延びる複数の線分11〜lmを設定し、各線分liと交差する血管領域の輪郭B上の点P1〜Pmをサンプル点として取得する。なお、図6では、30度ずつ角度を変えて合計12本の線分を設定した場合について例示しているが、例えば18度ずつ角度を変えて線分の数を20本にするなど、その角度等は適宜設定、変更することができる。
【0029】
そして、点P1〜Pmを用いて凸包を求める。凸包は、与えられた点群の中で最も外側にある点を直線で結んで出来る線分の集合をいう。以下、凸包を求める方法について説明する。まず、図7に示すように、点P1〜Pmの中からX座標が最大と最小となる2点P4、P10を求め、それらの点を結ぶ稜線L1を引く。線が引かれることによって,線の上側と下側の2つの領域に分けられる。次に,各領域に関して着目し,各点から稜線に向かって垂線を下ろし,垂線の長さが最大となる点を求める。このとき、垂直距離が最大となる点が見つからなかった場合はその領域での処理を終了し,見つかった場合は新たに稜線を追加する。図7では、稜線L1の上側の領域において垂直距離が最大となる点P1が見つかり、稜線L2、L3を追加した状態を示している。
【0030】
新たな稜線が追加されることによってまた線の上側と下側の2つの領域に分けられるので、その各領域に対して、図8に示すように、上述したような垂線の長さが最大となる点を求めて新たな稜線を追加する処理を稜線の外側に位置する点がなくなるまで繰り返し行う。これにより、図9に示すような凸包が求められ、凸包を形成する凸点P1,P4,P5,P7〜P10(図中黒丸で表示)と凸点以外のサンプル点である凹点P2,P3,P6,P11,P12(図中白丸で表示)が特定される。
【0031】
心内膜決定手段40は、図10に示すように、上述の処理によって特定された凹点P2,P3,P6,P11,P12をその各凹点の両側に位置する2つの凸点との位置関係に基づいて定められる量だけ血液領域の輪郭Bを外側へ移動させることによって血液領域の輪郭Bを変形し、変形後の輪郭B´を心内膜として決定する。このとき、凹点は、交点O(あるいは血液領域の中に設定された中心点O)から放射線状に移動され、その移動量は、交点Oに対する注目する凹点(移動させる凹点)の位置および交点Oからその凹点の両側に位置する凸点までの距離に基づいて定められる。
【0032】
たとえば、図11において、凹点P2は、交点Oからその移動後の凹点P2´までの距離r2´が下記式(1)により算出された値となるように交点Oから放射線状に移動され、凹点P3は、交点Oからその移動後の凹点P3´までの距離r3´が下記式(2)により算出された値となるように交点Oから放射線状に移動される。
r2´ = W1×W2×W3×(2×r1 + 1×r4)/3 (1)
r3´ = W1×W2×W3×(1×r1 + 2×r4)/3 (2)
ここで、r1は交点Oから凸点P1までの距離であり、r4は交点Oから凸点P4までの距離であり、W1,W2およびW3はそれぞれ以下に説明するように定義された係数である。
【0033】
上記式(1)および(2)において、係数W1は、注目する凹点の左心室に心基部と心尖部を通るように設定された軸Zの方向における位置に基づいて設定される値であって、具体的には、注目する凹点が軸Zの方向において心基部から所定の範囲内に存在する場合、その範囲外に存在する場合よりも小さい値を有し、注目する凹点が軸Zの方向において心基部と前記心尖部の中央部を含む予め設定された所定の範囲内に存在する場合、その範囲外に存在する場合よりも大きい値を有する。
【0034】
たとえば、注目する凹点が軸Z方向において心基部から10mmの範囲内に存在する場合、W1=0.0とし、心基部から10mm以上離れた範囲内に存在する場合、W1= max(0.5,1.0−基準点Tからの距離/20mm)とすることができる。ここで、基準点Tは、軸Z方向において乳頭筋が最も多く存在する位置に予め設定された軸Z上の点であって、心基部と心尖部の中点あるいは(0.4×心基部の位置+0.6×心尖部の位置)により規定される位置の点である。これにより、心基部からある一定の範囲(たとえば10mm)内の2次元の画像データにおいては、血液領域の輪郭の変形が行われないようにするとともに、その範囲外では、注目する凹点が基準点Tから遠ざかるほど血液領域の輪郭を拡張変形する度合いを小さくすることができる。
【0035】
また、上記式(1)および(2)において、係数W2は、交点Oと注目する凹点の両側に位置する2つの凸点をそれぞれ結んでなる2つの直線がなす角度が大きいほど小さい値を有するように設定される値である。たとえば、図12において、交点Oとその両側に存在する2つの凸点P1とP6をそれぞれ結んでなる2つの直線がなす角度θが100より小さい場合には、それらの凸点P1とP6の間に位置する凹点P2〜P5に対する係数W2=1.0−θ/100とし、角度θが100と等しいかそれより大きい場合には、係数W2=0.0とすることができる。これにより、血液領域の凹形状の広がりが大きいほど血液領域の輪郭を拡張変形する度合いを小さくするとともに、その広がり角度が100度を超える場合には、血液領域の輪郭の変形が行われないようにすることができる。
【0036】
また、上記式(1)および(2)において、係数W3は、注目する凹点の位置がその凹点が位置する凹形状の中心位置に近づくほど小さくなるように設定される値である。たとえば、図13において、θが交点Oと注目する凹点の両側に位置する2つの凸点をそれぞれ結んでなる2つの直線がなす角度θであり、αi(i=2,3,4)が交点Oと注目する凹点の片側に位置する凸点とを結んでなる直線に対して交点Oと注目する凹点との結んでなる直線がなす角度である場合に、W3=0.8+0.2×(|αi−θ/2|)/ (θ/2)とすることができる。
【0037】
また、心内膜決定手段40は、上述のように定められた移動量によって各注目する凹点を交点Oから放射線状に移動させる際に、心外膜抽出手段10により抽出された心外膜から内側に所定の距離だけ離れた位置をその移動の上限とし、その上限を超えて凹点を移動させないようにすることにより、血液領域の過抽出を防ぐことができる。
【0038】
以上に説明したとおり、本実施形態の医用画像処理装置および方法ならびにプログラムによれば、左心室が表された3次元の画像データVから左心室の心内膜を抽出する際に、血液領域抽出手段20が画像データVから左心室内の血液領域を抽出し、凸凹点特定手段30が抽出された血液領域の輪郭B上の複数のサンプル点P1〜Pmから凸包を求めることにより、凸包を形成する凸点およびその凸点以外のサンプル点である凹点を特定し、心内膜決定手段40が凹点の少なくとも一部をその凹点周辺に位置する複数の凸点との位置関係に基づいて定められる量だけ血液領域の外側へ移動させることによって変形された血液領域の変形後の輪郭B´を心内膜として決定しているので、血液領域および乳頭筋に面して位置する左心室の心内膜を個人差による形状の違いに対応して正確に抽出することができる。これにより、標準のモデルを用いて形状に制限を設け心内膜を抽出する上記従来の方法に比べて、心内膜の抽出精度を向上させることができる
【0039】
なお、上記実施の形態では、血液領域抽出手段20がグラフカット法を用いて血液領域を抽出する場合について説明したが、グラフカット法以外の他の領域分割方法を用いて血液領域を抽出するものであってもよい。例えば、心基部、心尖部および大動脈弁部下部の3点の特徴点の中心点を求め、その中心点のボクセルからそのボクセルと画素値が同一または類似する隣接するボクセルを統合していくことで領域を拡張することによって領域を分割する領域拡張法を用いて血液領域を求めるようにしてもよい。このとき、中心点の近傍に位置する複数のボクセルにおける画素値から取得される血液領域のCT値の範囲を領域拡張の条件として利用することができる。
【0040】
また、上記実施の形態では、凸凹点特定手段30が、凸包を形成する凸点以外の全てのサンプル点をそのまま血液領域の変形時の制御点(移動させる凹点)として用いて処理を行うものである場合について説明したが、凸包を求めることによって血液領域の輪郭における凹形状の部分を特定し、その凹形状上に位置する輪郭上の点の中から血液領域を変形する際に制御点を新たに設定し、その設定した制御点を用いて血液領域を拡張変形させるものであってもよい。
【0041】
また、凸凹点特定手段30は、サンプル点を用いて求めた凸包領域をそのまま心内膜として決定するものであってもよいし、上記実施の形態において決定された心内膜とサンプル点を用いて求めた凸包領域のOR領域を最終的な心内膜として決定するものであってもよい。
【0042】
また、上記実施の形態では、心内膜決定手段40が注目する凹点とその周辺に位置する複数の凸点との位置関係に基づいて定められる凹点の移動量にW1,W2およびW3の係数を全て掛け合わせてなる値を凹点の最終的な移動量として用いる場合について説明したが、注目する凹点とその周辺に位置する複数の凸点との位置関係に基づいて定められる凹点の移動量、あるいは、その移動量にW1,W2およびW3の中から選択したいずれか1つまたは2つの係数のみを掛け合わせてなる値を凹点の最終的な移動量として用いるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0043】
1 用画像処理装置
10 外膜抽出手段
20 液領域抽出手段
30 凹点特定手段
40 心内膜決定手段
V 3次元の画像データ
Ci 2次元の画像データ
B 血液領域の輪郭
B´ 心内膜
O 交点
P1〜Pm サンプル点

【特許請求の範囲】
【請求項1】
左心室が表された3次元の画像データから前記左心室の心内膜を抽出する医用画像処理装置であって、
前記画像データから前記左心室内の血液領域を抽出する血液領域抽出手段と、
前記抽出された血液領域の輪郭上の複数のサンプル点から凸包を求めることにより、前記凸包を形成する凸点および該凸点以外のサンプル点である凹点を特定する凸凹点特定手段と、
前記凹点の少なくとも一部を該凹点周辺に位置する複数の前記凸点との位置関係に基づいて定められる量だけ前記血液領域の外側へ移動させることによって変形された前記血液領域の変形後の輪郭を前記心内膜として決定する心内膜決定手段
とを備えたことを特徴とする医用画像処理装置。
【請求項2】
前記凸凹点特定手段が、前記左心室に心基部と心尖部を通るように設定された軸と直交する複数の断面を表す複数の2次元の画像データの各々において、前記抽出された血液領域の輪郭上の複数のサンプル点から凸包を求めることにより、前記凸包を形成する凸点および該凸点以外のサンプル点である凹点を特定するものであり、
前記心内膜決定手段が、前記2次元の画像データの各々において前記凹点の少なくとも一部を該凹点の両側に位置する複数の前記凸点との位置関係に基づいて前記血液領域の外側へ移動させることによって変形された前記血液領域の変形後の輪郭を得、それらの変形後の輪郭に基づいて前記心内膜を決定するものであることを特徴とする請求項1記載の医用画像処理装置。
【請求項3】
前記心内膜決定手段が、前記移動させる凹点が前記左心室に心基部と心尖部を通るように設定された軸方向において前記心基部から所定の範囲内に存在する場合、該範囲外に存在する場合よりも前記移動させる程度を小さくするものであることを特徴とする請求項1または2記載の医用画像処理装置。
【請求項4】
前記心内膜決定手段が、前記移動させる凹点が前記左心室に心基部と心尖部を通るように設定された軸方向において前記心基部と前記心尖部の中央部を含む予め設定された所定の範囲内に存在する場合、該範囲外に存在する場合よりも前記移動させる程度を大きくするものであることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項記載の医用画像処理装置。
【請求項5】
前記心内膜決定手段が、前記血液領域の中心部に設定した任意の点と前記凹点周辺に位置する複数の凸点をそれぞれ結んでなる複数の直線がなす角度が大きいほど、当該凹点を移動させる程度を小さくするものであることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項記載の医用画像処理装置。
【請求項6】
前記画像データから前記左心室の心外膜を抽出する心外膜抽出手段を備え、
前記心内膜決定手段が、前記抽出された心外膜から内側に所定の距離だけ離れた位置を上限として前記少なくとも一部の凹点を移動させるものであることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項記載の医用画像処理装置。
【請求項7】
左心室が表された3次元の画像データから前記左心室の心内膜を抽出する医用画像処理方法であって、
前記画像データから前記左心室内の血液領域を抽出し、
前記抽出された血液領域の輪郭上の複数のサンプル点から凸包を求めることにより、前記凸包を形成する凸点および該凸点以外のサンプル点である凹点を特定し、
前記凹点の少なくとも一部を該凹点周辺に位置する複数の前記凸点との位置関係に基づいて定められる量だけ前記血液領域の外側へ移動させることによって変形された前記血液領域の変形後の輪郭を前記心内膜として決定する
ことを特徴とする医用画像処理方法。
【請求項8】
前記凸凹点の特定処理が、前記左心室に心基部と心尖部を通るように設定された軸と直交する複数の断面を表す複数の2次元の画像データの各々において、前記抽出された血液領域の輪郭上の複数のサンプル点から凸包を求めることにより、前記凸包を形成する凸点および該凸点以外のサンプル点である凹点を特定するものであり、
前記心内膜の決定処理が、前記2次元の画像データの各々において前記凹点の少なくとも一部を該凹点の両側に位置する複数の前記凸点との位置関係に基づいて前記血液領域の外側へ移動させることによって変形された前記血液領域の変形後の輪郭を得、それらの輪郭に基づいて前記心内膜を決定するものであることを特徴とする請求項7記載の医用画像処理方法。
【請求項9】
前記心内膜の決定処理が、前記移動させる凹点が前記左心室に心基部と心尖部を通るように設定された軸方向において前記心基部から所定の範囲内に存在する場合、該範囲外に存在する場合よりも前記移動させる程度を小さくするものであることを特徴とする請求項7または8記載の医用画像処理方法。
【請求項10】
前記心内膜の決定処理が、前記移動させる凹点が前記左心室に心基部と心尖部を通るように設定された軸方向において前記心基部と前記心尖部の中央部を含む予め設定された所定の範囲内に存在する場合、該範囲外に存在する場合よりも前記移動させる程度を大きくするものであることを特徴とする請求項7から9のいずれか1項記載の医用画像処理方法。
【請求項11】
前記心内膜の決定処理が、前記血液領域の中心部に設定した任意の点と前記凹点周辺に位置する複数の凸点をそれぞれ結んでなる複数の直線がなす角度が大きいほど、当該凹点を移動させる程度を小さくするものであることを特徴とする請求項7から10のいずれか1項記載の医用画像処理方法。
【請求項12】
前記画像データから前記左心室の心外膜を抽出し、
前記心内膜の決定処理が、前記抽出された心外膜から内側に所定の距離だけ離れた位置を上限として前記少なくとも一部の凹点を移動させるものであることを特徴とする請求項7から11のいずれか1項記載の医用画像処理方法。
【請求項13】
コンピュータに左心室が表された3次元の画像データから前記左心室の心内膜を抽出する処理を実行させるための医用画像処理プログラムであって、
コンピュータに、
前記画像データから前記左心室内の血液領域を抽出する手順と、
前記抽出された血液領域の輪郭上の複数のサンプル点から凸包を求めることにより、前記凸包を形成する凸点および該凸点以外のサンプル点である凹点を特定する手順と、
前記凹点の少なくとも一部を該凹点周辺に位置する複数の前記凸点との位置関係に基づいて定められる量だけ前記血液領域の外側へ移動させることによって変形された前記血液領域の変形後の輪郭を前記心内膜として決定する手順と
を実行させることを特徴とする医用画像処理プログラム。
【請求項14】
前記凸凹点を特定する手順が、前記左心室に心基部と心尖部を通るように設定された軸と直交する複数の断面を表す複数の2次元の画像データの各々において、前記抽出された血液領域の輪郭上の複数のサンプル点から凸包を求めることにより、前記凸包を形成する凸点および該凸点以外のサンプル点である凹点を特定するものであり、
前記心内膜を決定する手順が、前記2次元の画像データの各々において前記凹点の少なくとも一部を該凹点の両側に位置する複数の前記凸点との位置関係に基づいて前記血液領域の外側へ移動させることによって変形された前記血液領域の変形後の輪郭を得、それらの輪郭に基づいて前記心内膜を決定するものであることを特徴とする請求項13記載の医用画像処理プログラム。

【図1】
image rotate

【図3】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図2】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2013−75079(P2013−75079A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−217553(P2011−217553)
【出願日】平成23年9月30日(2011.9.30)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】