説明

医療器具および装置の人工表面の被覆、並びに、カテーテルおよび他の医療器具および装置の清浄化および/または予処理

本発明は、抗凝固作用を有するXa因子(FXa)阻害剤の、医療器具および/または装置の人工表面の抗血栓性被覆および/または処理のための、フィブリン沈着および/または血餅および血栓の形成の防止のための使用、並びに、カテーテルおよび他の医療器具および装置の清浄化および/または予処理のためのFXa阻害剤の使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗凝固作用を有するXa因子(FXa)阻害剤の、医療器具および/または装置の人工表面の抗血栓性被覆および/または処理のための、フィブリン沈着および/または血餅および血栓の形成の防止のための使用、並びに、カテーテルおよび他の医療器具および装置の清浄化および/または予処理におけるFXa阻害剤の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
人工表面の使用は、医療適用にとってかなり重要であるが、これらの使用は、人工表面はしばしば生体適合性ではないので、かなり制限される。医療技術におけるそれらの使用は、多くの表面でのタンパク質および血小板の吸着/結合のために、および、これに起因する、使用される表面の血栓生成性のために、血液などの体液または血液製剤と接触するとすぐに、しばしば問題を引き起こす。接触のために、内因性血液凝固系が活性化される(接触活性化)。この接触活性化は、血液凝固因子X(FX)のFXaへの活性化を導く。次いで、FXaはプロトロンビンをトロンビン(FIIa)に切断し、かくして、血液凝固を、故に血餅形成または血栓形成を、引き起こす。加えて、血小板(栓球)は、人工表面への付着により活性化される。活性化された血小板は、凝固過程において増強作用を有する。医療器具または装置の機能は、血液凝固により悪影響を受け得る。加えて、血栓形成、故に、血管閉塞または血栓塞栓症、様々な血栓塞栓性合併症、例えば、心筋梗塞、脳梗塞および肺塞栓の原因が、生じ得る。
【0003】
FXaの活性を阻害し、従ってトロンビンの形成を防止する物質は、接触活性化により引き起こされる血液凝固を、従って、フィブリン沈着および血栓形成を、防止する。
【0004】
人工表面でのフィブリン沈着および血栓形成を防止するためのFXa阻害剤の全身的投与は、一方で、人工表面の使用に応じて、抗凝固剤が長期にわたって投与されなければならず、短期的および長期的使用の両方で出血性合併症が起こり得るという事実により複雑である。人工表面のFXa阻害剤による被覆は、局所的な医療処置の延長を可能にし、従って、かなりの利益をもたらし得る。従って、医療器具または装置のFXa阻害剤との組合せは、望まれない全身的副作用(例えば出血または卒中)の発生を伴わず、活性物質の高い局所的濃度を可能にする。
【0005】
このために、医療器具および/または装置を、活性物質を含有する塗料で被覆できる。活性物質の放出は、塗料からの拡散により、または、生体分解性塗料システムが使用されるならば、塗料の分解により、起こる。
【0006】
他の以前に記載された可能性は、医療器具および/または装置の表面に、活性物質または活性物質を含有するポリマー性塗料システムを包埋できる小孔またはミクロポアを設けることである(例えばEP−A−0950386参照)。次に、活性物質を含まない塗料を適用できる。放出は、拡散または分解を介して、または、両過程の組合せにより起こる。
【0007】
加えて、活性物質を含有する医療器具および/または装置は、ポリマー性担体への活性物質の融解包埋により、例えば射出成形法を利用して、製造できる。これらの医療器具および/または装置では、活性物質の放出は、一般に拡散により起こる。
【0008】
医療用外来表面の被覆に適するXa因子阻害剤は、WO01/047919に記載されている。記載された物質は、外因性および内因性の血液凝固系を阻害し、従って、接触活性化の防止に使用できる、強力な選択的FXa阻害剤である。
【0009】
驚くべきことに、この度、特に抗凝固剤および血液凝固性Xa因子の選択的阻害剤として作用し、そして、WO01/47919に詳述されている式(I)のオキサゾリジノン類が、このタイプの処置に適することが見出された。そこで一般的に言及された化合物およびそこで具体的に記載された上記の全ての化合物は、本発明の明示的に記載する成分である。
【発明の概要】
【0010】
本発明は、1種またはそれ以上の式(I)
【化1】

[式中、
は、ベンソ縮合していることもあるチオフェン(チエニル)を表し、これは、一置換または多置換されていることもあり;
は、任意の有機残基を表し;
、R、R、R、RおよびRは、同一かまたは異なり、水素または(C−C)アルキルを表す]
の化合物、並びにそれらの塩、それらの溶媒和物およびそれらの塩の溶媒和物の、医療器具および/または装置の人工表面の被覆および/または処理のための使用に関する。
【0011】
好ましいのは、式中、
が、ベンソ縮合していることもあるチオフェン(チエニル)を表し、これは、ハロゲン、シアノ、ニトロ、アミノ、アミノメチルおよび(C−C)アルキル(これ自体は、ハロゲン、(C−C)シクロアルキル、(C−C)アルコキシ、イミダゾリニル、−C(=NH)NH、カルバモイルおよびモノ−およびジ−(C−C)アルキルアミノカルボニルで一置換または多置換されていることもある)からなる群からの残基により一置換または多置換されていることもあり、
が、以下の基
A−、
A−M−、
D−M−A−、
B−M−A−、
B−、
B−M−、
B−M−B−、
D−M−B−
のいずれかを表し
【0012】
[ここで、
残基「A」は、(C−C14)アリール、好ましくは(C−C10)アリール、特にフェニルまたはナフチル、ことさら特に好ましくはフェニルを表し;
残基「B」は、S、N、NO(N−オキシド)およびOの範囲から、3個までのヘテロ原子および/またはヘテロ鎖員、特に2個までのヘテロ原子および/またはヘテロ鎖員を含有する5員または6員の芳香族複素環を表し;
残基「D」は、S、SO、SO、N、NO(N−オキシド)およびOの範囲から3個までのヘテロ原子および/またはヘテロ鎖員を含有する、飽和または部分不飽和、単環式または二環式の、ベンソ縮合していることもある4員ないし9員の複素環を表し;
残基「M」は、−NH−、−CH−、−CHCH−、−O−、−NH−CH−、−CH−NH−、−OCH−、−CHO−、−CONH−、−NHCO−、−COO−、−OOC−、−S−、−SO−または共有結合を表し;
ここで、先に定義した基「A」、「B」および「D」は、ハロゲン、トリフルオロメチル、オキソ、シアノ、ニトロ、カルバモイル、ピリジル、(C−C)アルカノイル、(C−C)シクロアルカノイル、(C−C14)アリールカルボニル、(C−C10)ヘテロアリールカルボニル、(C−C)アルカノイルオキシメチルオキシ、(C−C)ヒドロキシアルキルカルボニル、−COOR27、−SO27、−C(NR2728)=NR29、−CONR2829、−SONR2829、−OR30、−NR3031、(C−C)アルキルおよび(C−C)シクロアルキルの群からの残基により一置換または多置換されていることもあり、ここで、(C−C)アルキルおよび(C−C)シクロアルキルは、シアノ、−OR27、−NR2829、−CO(NH)(NR2728)および−C(NR2728)=NR29の群からの残基で置換されていることもある
【0013】
{ここで、
vは、0または1を意味し、
27、R28およびR29は、同一かまたは異なり、相互に独立して、水素、(C−C)アルキル、(C−C)シクロアルキル、(C−C)アルカノイル、カルバモイル、トリフルオロメチル、フェニルまたはピリジルを意味し、
かつ/または、
27およびR28、または、R27およびR29は、各々、それらが結合している窒素原子と一体となって、N、OおよびSの群から、3個まで、好ましくは2個までの同一かまたは異なるヘテロ原子を有する、飽和または部分不飽和の5員ないし7員の複素環を形成し、そして、
30およびR31は、同一かまたは異なり、相互に独立して、水素、(C−C)アルキル、(C−C)シクロアルキル、(C−C)アルキルスルホニル、(C−C)ヒドロキシアルキル、(C−C)アミノアルキル、ジ−(C−C)アルキルアミノ−(C−C)−アルキル、−CHC(NR2728)=NR29または−COR33を意味し、
ここで、R33は、(C−C)アルコキシ、(C−C)アルコキシ−(C−C)アルキル、(C−C)アルコキシカルボニル−(C−C)アルキル、(C−C)アミノアルキル、(C−C)アルコキシカルボニル、(C−C)アルカノイル−(C−C)アルキル、(C−C)シクロアルキル、(C−C)アルケニル、(C−C)アルキル(これは、フェニルまたはアセチルで置換されていることもある)、(C−C14)アリール、(C−C10)ヘテロアリール、トリフルオロメチル、テトラヒドロフラニルまたはブチロラクトンを意味する}]、
、R、R、R、RおよびRが、同一かまたは異なり、水素または(C−C)アルキルを表す、
式(I)の化合物、並びにそれらの塩、それらの溶媒和物およびそれらの塩の溶媒和物の、医療器具および/または装置の人工表面の被覆および/または処理のための使用である。
【0014】
また、好ましいのは、式中、
が、チオフェン(チエニル)、特に2−チオフェンを表し、これは、ハロゲン、好ましくは塩素または臭素、アミノ、アミノメチルまたは(C−C)アルキル、好ましくはメチル((C−C)アルキル残基自体は、ハロゲン、好ましくはフッ素で一置換または多置換されていることもある)で一置換または多置換されていることもあり、
が、以下の基
A−、
A−M−、
D−M−A−、
B−M−A−、
B−、
B−M−、
B−M−B−、
D−M−B−
のいずれかを表し
【0015】
[ここで、
残基「A」は、(C−C14)アリール、好ましくは(C−C10)アリール、特にフェニルまたはナフチル、ことさら特に好ましくはフェニルを表し;
残基「B」は、S、N、NO(N−オキシド)およびOの範囲から、3個までのヘテロ原子および/またはヘテロ鎖員、特に2個までのヘテロ原子および/またはヘテロ鎖員を含有する5員または6員の芳香族複素環を表し;
残基「D」は、S、SO、SO、N、NO(N−オキシド)およびOの範囲から3個までのヘテロ原子および/またはヘテロ鎖員を含有する、飽和または部分不飽和の4員ないし7員の複素環を表し;
残基「M」は、−NH−、−CH−、−CHCH−、−O−、−NH−CH−、−CH−NH−、−OCH−、−CHO−、−CONH−、−NHCO−、−COO−、−OOC−、−S−または共有結合を表し;
ここで、先に定義した基「A」、「B」および「D」は、ハロゲン、トリフルオロメチル、オキソ、シアノ、ニトロ、カルバモイル、ピリジル、(C−C)アルカノイル、(C−C)シクロアルカノイル、(C−C14)アリールカルボニル、(C−C10)ヘテロアリールカルボニル、(C−C)アルカノイルオキシメチルオキシ;−COOR27、−SO27、−C(NR2728)=NR29、−CONR2829、−SONR2829、−OR30、−NR3031、(C−C)アルキルおよび(C−C)シクロアルキルの群からの残基により一置換または多置換されていることもあり、ここで、(C−C)アルキルおよび(C−C)シクロアルキルは、シアノ、−OR27、−NR2829、−CO(NH)(NR2728)および−C(NR2728)=NR29の群からの残基で置換されていることもある
【0016】
{ここで、
vは、0または1を意味し、そして、
27、R28およびR29は、同一かまたは異なり、相互に独立して、水素、(C−C)アルキルまたは(C−C)シクロアルキルを意味し、
かつ/または、
27およびR28、または、R27およびR29は、各々、それらが結合している窒素原子と一体となって、N、OおよびSの群から、3個まで、好ましくは2個までの同一かまたは異なるヘテロ原子を有する、飽和または部分不飽和の5員ないし7員の複素環を形成し、そして、
30およびR31は、同一かまたは異なり、相互に独立して、水素、(C−C)アルキル、(C−C)シクロアルキル、(C−C)アルキルスルホニル、(C−C)ヒドロキシアルキル、(C−C)アミノアルキル、ジ−(C−C)アルキルアミノ−(C−C)−アルキル、(C−C)アルカノイル、(C−C14)アリールカルボニル、(C−C10)ヘテロアリールカルボニル、(C−C)アルキルアミノカルボニルまたは−CHC(NR2728)=NR29を意味する}]、
、R、R、R、RおよびRが、同一かまたは異なり、水素または(C−C)アルキルを表す、
式(I)の化合物、並びにそれらの塩、それらの溶媒和物およびそれらの塩の溶媒和物の、医療器具および/または装置の人工表面の被覆および/または処理のための使用である。
【0017】
特に好ましいのは、式中、
が、チオフェン(チエニル)、特に2−チオフェンを表し、これは、ハロゲン、好ましくは塩素または臭素、または(C−C)アルキル、好ましくはメチル((C−C)アルキル残基自体は、ハロゲン、好ましくはフッ素で一置換または多置換されていることもある)で一置換または多置換されていることもあり、
が、以下の基
A−、
A−M−、
D−M−A−、
B−M−A−、
B−、
B−M−、
B−M−B−、
D−M−B−
のいずれかを表し
【0018】
[ここで、
残基「A」は、フェニルまたはナフチル、特にフェニルを表し;
残基「B」は、S、N、NO(N−オキシド)およびOの範囲から、2個までのヘテロ原子を含有する5員または6員の芳香族複素環を表し;
残基「D」は、S、SO、SO、N、NO(N−オキシド)およびOの範囲から2個までのヘテロ原子および/またはヘテロ鎖員を含有する、飽和または部分不飽和の5員または6員の複素環を表し;
残基「M」は、−NH−、−O−、−NH−CH−、−CH−NH−、−OCH−、−CHO−、−CONH−、−NHCO−または共有結合を表し;
ここで、先に定義した基「A」、「B」および「D」は、ハロゲン、トリフルオロメチル、オキソ、シアノ、ピリジル、(C−C)アルカノイル、(C−C10)アリールカルボニル、(C−C)ヘテロアリールカルボニル、(C−C)アルカノイルオキシメチルオキシ、−C(NR2728)=NR29、−CONR2829、−SONR2829、−OH、−NR3031、(C−C)アルキル;およびシクロプロピル、シクロペンチルまたはシクロヘキシルの群からの残基により一置換または多置換されていることもあり、ここで、(C−C)アルキルおよびシクロプロピル、シクロペンチルまたはシクロヘキシルは、シアノ、−OH、−OCH、−NR2829、−CO(NH)(NR2728)および−C(NR2728)=NR29の群からの残基で置換されていることもある
【0019】
{ここで、
vは、0または1、好ましくは0を意味し、そして、
27、R28およびR29は、同一かまたは異なり、相互に独立して、水素、(C−C)アルキルまたはシクロプロピル、シクロペンチルもしくはシクロヘキシルを意味し、
かつ/または、
27およびR28、または、R27およびR29は、各々、それらが結合している窒素原子と一体となって、N、OおよびSの群から2個までの同一かまたは異なるヘテロ原子を有する、飽和または部分不飽和の5員ないし7員の複素環を形成していてもよく、そして、
30およびR31は、同一かまたは異なり、相互に独立して、水素、(C−C)アルキル、シクロプロピル、シクロペンチル、シクロヘキシル、(C−C)アルキルスルホニル、(C−C)ヒドロキシアルキル、(C−C)アミノアルキル、ジ−(C−C)アルキルアミノ−(C−C)アルキル、(C−C)アルカノイルまたはフェニルカルボニルを意味する}]、
、R、R、R、RおよびRが、同一かまたは異なり、水素または(C−C)アルキルを表す、
式(I)の化合物、並びにそれらの塩、それらの溶媒和物およびそれらの塩の溶媒和物の、医療器具および/または装置の人工表面の被覆および/または処理のための使用である。
【0020】
特に好ましいのは、式中、
が、2−チオフェンを表し、これは、塩素、臭素、メチルまたはトリフルオロメチルの群からの残基により5位で置換されていることもあり、
が、以下の基
A−、
A−M−、
D−M−A−、
B−M−A−、
B−、
B−M−、
B−M−B−、
D−M−B−
のいずれかを表し
【0021】
[ここで、
残基「A」は、フェニルまたはナフチル、特にフェニルを表し;
残基「B」は、S、N、NO(N−オキシド)およびOの範囲から、2個までのヘテロ原子を含有する5員または6員の芳香族複素環を表し;
残基「D」は、1個の窒素原子を含有し、かつ、S、SO、SOおよびOの範囲から1個のさらなるヘテロ原子および/またはヘテロ鎖員を含有することもあるか、または、S、SO、SOおよびOの範囲から2個までのヘテロ原子および/またはヘテロ鎖員を含有する、飽和または部分不飽和の5員または6員の複素環を表し;
残基「M」は、−NH−、−O−、−NH−CH−、−CH−NH−、−OCH−、−CHO−、−CONH−、−NHCO−または共有結合を表し;
ここで、先に定義した基「A」、「B」および「D」は、ハロゲン、トリフルオロメチル、オキソ、シアノ、ピリジル、(C−C)アルカノイル、(C−C10)アリールカルボニル、(C−C)ヘテロアリールカルボニル、(C−C)アルカノイルオキシメチルオキシ、−CONR2829、−SONR2829、−OH、−NR3031、(C−C)アルキル;およびシクロプロピル、シクロペンチルまたはシクロヘキシルの群からの残基により一置換または多置換されていることもあり、ここで、(C−C)アルキルおよびシクロプロピル、シクロペンチルまたはシクロヘキシルは、シアノ、−OH、−OCH、−NR2829、−CO(NH)(NR2728)および−C(NR2728)=NR29の群からの残基で置換されていることもある
【0022】
{ここで、
vは、0または1、好ましくは0を意味し、そして、
27、R28およびR29は、同一かまたは異なり、相互に独立して、水素、(C−C)アルキルまたはシクロプロピル、シクロペンチルもしくはシクロヘキシルを意味し、
かつ/または、
27およびR28、または、R27およびR29は、各々、それらが結合している窒素原子と一体となって、N、OおよびSの群から2個までの同一かまたは異なるヘテロ原子を有する、飽和または部分不飽和の5員ないし7員の複素環を形成していてもよく、そして、
30およびR31は、同一かまたは異なり、相互に独立して、水素、(C−C)アルキル、シクロプロピル、シクロペンチル、シクロヘキシル、(C−C)アルキルスルホニル、(C−C)ヒドロキシアルキル、(C−C)アミノアルキル、ジ−(C−C)アルキルアミノ−(C−C)アルキル、(C−C)アルカノイルまたはフェニルカルボニルを意味する}]、
、R、R、R、RおよびRが、同一かまたは異なり、水素または(C−C)アルキルを表す、
式(I)の化合物、並びにそれらの塩、それらの溶媒和物およびそれらの塩の溶媒和物の、医療器具および/または装置の人工表面の被覆および/または処理のための使用である。
【0023】
ことさら特に好ましいのは、式中、
が、塩素、臭素、メチルまたはトリフルオロメチルの群からの残基により5位で置換されている2−チオフェンを表し、
がD−A−を表し
[ここで、
残基「A」は、フェニレンを表し;
残基「D」は、飽和の5員または6員の複素環を表し、
これは、窒素原子を介して「A」と結合しており、
これは、その結合している窒素原子に隣接するカルボニル基を有し、そして、
ここで、炭素の環構成員は、S、NおよびOの範囲からのヘテロ原子により置き換えられていてもよい;
ここで、先に定義した基「A」は、オキサゾリジノンへの結合に対してメタ位で、フッ素、塩素、ニトロ、アミノ、トリフルオロメチル、メチルまたはシアノの群からの残基により一置換または二置換されていることもある]、
、R、R、R、RおよびRが水素を表す、
式(I)の化合物、並びにそれらの塩、それらの溶媒和物およびそれらの塩の溶媒和物の、医療器具および/または装置の人工表面の被覆および/または処理のための使用である。
【0024】
また、ことさら特に好ましいのは、以下の式を有するWO01/47919の実施例44の化合物、5−クロロ−N−({(5S)−2−オキソ−3−[4−(3−オキソ−4−モルホリニル)フェニル]−1,3−オキサゾリジン−5−イル}メチル)−2−チオフェンカルボキサミド
【化2】

並びにその塩、その溶媒和物およびその塩の溶媒和物の、医療器具および/または装置の人工表面の被覆および/または処理のための使用である。
【0025】
式(I)の化合物の開示に関して、例えば、それらの製造に関して、WO01/47919の開示を明示的に引用する。
【0026】
本発明は、医療器具および/または装置の人工表面の被覆および/または処理のための、場合により1種またはそれ以上の他の活性物質と組み合わせた、1種またはそれ以上の式(I)の化合物の使用に関する。
【0027】
本発明は、医療器具および/または装置の人工表面の被覆および/または処理のための、その表面でのフィブリン沈着および/または血栓形成を防止するための、式(I)の化合物の使用に関する。
【0028】
本発明は、表面でのフィブリン沈着および/または血栓形成を防止するための、式(I)の化合物で被覆された医療器具および/または装置の使用に関する。
【0029】
本発明はまた、1種またはそれ以上の式(I)の化合物を使用する、人工表面でのフィブリン沈着および/または血栓形成の防止方法に関する。この応用では、式(I)の化合物は、全身的に、または、好ましくは式(I)の化合物で被覆された医療器具および/または装置の形態で、使用できる。
【0030】
式(I)の化合物の医療器具および/または装置への局所的適用により、人工表面でのフィブリン沈着および/または血栓形成の防止に必要な薬物の用量を減らすことが可能である。かくして、望まれない全身的作用を最小化できる。同時に、局所的濃度を高めることができ、従って効力が高まる。
【0031】
この他に、本発明による応用に加えて、血栓症の処置および/または予防に適する活性物質、例えば、そして好ましくは、アブシキシマブ、エプチフィバチド、チロフィバン、アセチルサリチル酸、チクロピジン、クロピドグレルまたはプラスグレルの全身的および/または局所的投与を行うことができる。好ましいのは、特に経口投与による、式(I)の化合物によるさらなる全身的処置である。
【0032】
本発明は、また、式(I)の化合物で被覆された医療器具および/または装置の使用による、人工表面でのフィブリン沈着および/または血栓形成の処置および/または予防方法に関する。
【0033】
本発明は、また、人工表面でのフィブリン沈着および/または血栓形成の処置および/または予防に適する他の活性物質の局所的および/または全身的投与と組み合わせた、式(I)の化合物で被覆された医療器具および/または装置の使用による、人工表面でのフィブリン沈着および/または血栓形成の処置および/または予防方法に関する。
【0034】
本発明は、また、式(I)の化合物の全身的投与と組み合わせた、式(I)の化合物で被覆された医療器具および/または装置の使用による、人工表面でのフィブリン沈着および/または血栓形成の処置および/または予防方法に関する。
【0035】
本発明による式(I)の化合物で被覆された放出システムの製造のために、通常の医療器具および装置を使用し、その医療器具または装置は、ガラス、金属、金属合金または非分解性プラスチック、例えば、そして好ましくは、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリウレタンおよび/またはポリテトラフルオロエチレン(PTFE)からなる。
【0036】
それらの医療器具および/または装置を、式(I)の化合物で被覆する。あるいは、非金属製医療器具および/または装置では、式(I)の化合物を、それらの医療器具および/または装置の製造に使用する材料に直接導入できる。
【0037】
被覆のために、担体物質を式(I)の化合物と混合する。ここで、担体物質として、ポリマー性担体、特に生体適合性、非生体分解性ポリマーまたはポリマー混合物、例えば、そして好ましくは、ポリアクリレート類およびそれらのコポリマー、例えば、そして好ましくは、ポリ(ヒドロキシエチル)メチルメタクリレート類、ポリビニルピロリドン類、セルロースエステル類およびエーテル類、フッ素化ポリマー、例えば、そして好ましくは、PTFE、ポリビニルアセテートおよびそれらのコポリマー、架橋および非架橋ポリウレタン類、ポリエーテル類またはポリエステル類、ポリカーボネート類およびポリジメチルシロキサン類を、好ましくは使用する。あるいは、生体適合性、生体分解性ポリマーまたはポリマー混合物、例えば、そして好ましくは、ラクチドおよびグリコリドの、または、カプロラクトンおよびグリコリドの、ポリマーまたはコポリマー、他のポリエステル類、ポリオルトエステル類、ポリ酸無水物類、ポリアミノ酸類、ポリサッカライド類、ポリイミノカーボネート類、ポリホスファゼン類およびポリ(エーテル−エステル)コポリマー類も、ポリマー性担体として使用する。
【0038】
ポリマー性担体として適するのは、また、生体分解性および/または非生体分解性ポリマーの混合物である。活性物質の放出速度を、これらの混合物を利用して最適に調節する。
【0039】
被覆された医療器具および/または装置の製造のために、式(I)の化合物および担体の混合物を、好ましくは、適する溶媒に溶解する。次いで、これらの溶液を、様々な技法により、例えば、噴霧、浸漬またはブラシ適用により、医療器具および/または装置に適用する。後続または同時の溶媒の除去の後、かくして、活性物質を含有する塗料で処理された医療器具および/または装置を得る。あるいは、式(I)の化合物および担体の混合物を融解し、同じ適用方法で適用することもできる。
【0040】
好ましくは、医療器具および/または装置の外側および/または内側の表面積の増加をもたらすために、医療器具および/または装置を予処理する。かくして、潜在的負荷能力を高め、より多量の塗料(活性物質/ポリマー)を適用できる。医療器具および/または装置の予処理のために、例えば、様々なエッチング技法、また、電離放射線による処理を使用する。同様に、様々な技法を利用して、医療器具および/または装置にミクロポアまたは孔を創成できる。
【0041】
式(I)の化合物で被覆された医療器具および/または装置の活性物質含有量は、一般に、0.001wt.%ないし50wt.%、好ましくは0.01wt.%ないし30wt.%、特に好ましくは0.1wt.%ないし15wt.%である。
【0042】
非金属製医療器具および/または装置では、式(I)の化合物は、また、それらの医療器具および/または装置に、例えば融解包埋として、直接導入できる。ここで、活性物質を含有するポリマー性担体混合物を、最終の活性物質を含有する形態に、標準的な方法により、例えば射出成形法により、加工する。ここで、活性物質の放出は、一般に、拡散により起こる。
【0043】
包埋された式(I)の化合物を有する医療器具および/または装置の活性物質含有量は、一般に、0.001wt.%ないし70wt.%、好ましくは0.01wt.%ないし50wt.%、特に好ましくは0.1wt.%ないし30wt.%である。
【0044】
式(I)の化合物で被覆された医療器具および/または装置は、さらなる膜で被覆されていることもある。この膜は、例えば、そして好ましくは、薬物放出の制御、および/または、活性物質を含有する医療器具および/または装置の外部の影響に対する保護に役立つ。
【0045】
加えて、血液または血液製剤による接触活性化を防止するために、FXa阻害剤を、すすぎ液または適する予処理物質に添加することにより、例えばカテーテルおよび他の上述の医療器具および装置の清浄化および/または予処理にも使用できる。
【0046】
本発明はさらに、カテーテルおよび他の医療器具および装置の清浄化および/または予処理における、場合により1種またはそれ以上の他の活性物質と組み合わせた、1種またはそれ以上の式(I)の化合物の使用に関する。
医療装置の清浄化に適する通常の市販の洗浄液は、洗浄液として適する。
【0047】
好ましいのは、以下の式を有するWO01/47919の実施例44の化合物、5−クロロ−N−({(5S)−2−オキソ−3−[4−(3−オキソ−4−モルホリニル)フェニル]−1,3−オキサゾリジン−5−イル}メチル)−2−チオフェンカルボキサミド
【化3】

並びにその塩、その溶媒和物およびその塩の溶媒和物の、カテーテルおよび他の医療器具および装置の清浄化および/または予処理における使用である。
【0048】
本発明は、さらに、カテーテルおよび他の医療器具および装置の清浄化および/または予処理における、その表面でのフィブリン沈着および/または血栓形成を防止するための、式(I)の化合物の使用に関する。
【0049】
医療器具および装置は、ヒトの血液または動物の血液および血液製剤と接触するようになる表面を有する全ての医療用物品および機器、例えば、そして好ましくは、皮下針、カニューレ、チューブ、チューブ接続のためのコネクター、注射器、カテーテル、例えば投与用カテーテル、留置カテーテル、中心静脈留置ライン、カテーテル疎通のための経皮的血管内インターベンション用の器具、例えば、バルーンカテーテル、アブレーションレーザーカテーテル、血管内レーザー装置、回転カテーテル、アテレクトミーカテーテル、ガイドワイヤー、血管内薬物送達用のポートシステム、並びに、外科用縫合材料および薬物送達システムを表す。
【0050】
さらに、医療器具および装置は、体外使用のための機器、例えば、血液酸素付加装置、血液ポンプ、血液センサー、検出器、血液チューブ、腎透析用装置、透析膜、解毒カートリッジおよび人工心肺装置を表す。
【0051】
さらに、医療器具および装置は、埋込式プロステーシス、例えば、移植血管、バイパスプロステーシス、ペースメーカーの導線および電極、人工心臓弁、静脈弁および他のインプラントを表す。
【0052】
さらに、医療器具および装置は、また、血管または心臓に設置される器具および機器、例えば、データ記録用の、血管内超音波プローブおよびECG電極など、および、修復操作用の、例えば、心臓補助装置および人工心臓などの人工器官を表す。
【0053】
さらに、医療器具および装置は、また、血液および血液製剤の処理および供給に必要な器具および機器、例えば、血漿分離用の器具、例えば、遠心分離機、濾過膜および細胞分離装置(例えば血漿交換で使用される)、並びに、血液および血液製剤用の袋および容器を表す。
【0054】
さらに、医療器具および装置は、また、歯科で使用される器具および機器を表す。
人工表面は、非生物材料でできている表面を表す。
【実施例】
【0055】
実施例
式(I)の化合物の開示に関して、例えば、その製造に関して、WO01/47919の開示を明示的に引用する。
【0056】
接触活性化の阻害の測定
接触活性化は、内因性血液凝固系の因子に対する効果を検出する、全血漿凝固試験、即ち、活性化部分トロンボプラスチン時間(aPTT)を利用して測定できる。
【0057】
PTT試薬は、負に荷電した外来性表面を模倣する「珪酸塩」であるカオリン懸濁液、および、XII因子のXIIa因子への変換のための表面として必要とされるリン脂質であるセファリンの混合物である。外来性表面、リン脂質およびCa2+の存在下で、XII因子はXIIa因子に変換される。
【0058】
このPTT試薬を、特別に調製した血漿(実施例参照)に添加する。必要なカルシウム2+イオンが存在すると、即ち、二塩化カルシウム溶液の添加により、凝固が引き起こされる。次いで、カルシウム2+添加と凝固開始との間の時間を測定し、aPTTの二倍の延長をもたらす阻害剤の濃度[μM]を記述する。
【0059】
部分トロンボプラスチン時間の測定により、接触活性化を測定する。試験原理は、以下の通りである:血漿サンプルを、部分トロンボプラスチンのセファリン(ウサギ脳由来のリン脂質)および表面アクチベーターのカオリンの混合物で処理する。かくして、フィブリン形成に至るまでの内因性凝固系の接触活性化が開始される。
【0060】
部分トロンボプラスチン時間の測定のために、過去10日間以内に凝固に影響を与える薬物療法を受けていない健康な両性のボランティアの血液を使用した。血液を、抗凝固剤としてクエン酸ナトリウム(クエン酸塩1+血液9の割合)を有する Monovettes (Sarstedt, Nuembrecht) に集める。血小板の乏しい血漿を得るために、クエン酸(3.8%)全血を2500gで10分間、4℃で遠心分離し、−20℃で保存する。凝固時間の測定のために、血小板に乏しい血漿のアリコート(0.1ml)を、増大する濃度の試験物質または対応する溶媒と共に、10分間、37℃でインキュベートする。次に、製造業者 (PTT Reagent(登録商標), Roche Diagnostics) の指示に従い、凝固時間を測定する。このために、手順は以下の通りである:PTT試薬0.1mlを、血漿にピペットで加え、サンプルを3分間37℃でインキュベートする。次いで、凝固測定装置(coagulometer)中で、塩化カルシウム溶液0.1mlの添加により凝固を起こし、凝固開始までの時間を測定する。このようにして、選択された化合物について、aPTTの2倍の延長を測定する。
【0061】
表A
【表1】

【0062】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
1種またはそれ以上の式(I)
【化1】

[式中、
は、ベンソ縮合していることもあるチオフェン(チエニル)を表し、これは、一置換または多置換されていることもあり;
は、任意の有機残基を表し;
、R、R、R、RおよびRは、同一かまたは異なり、水素または(C−C)アルキルを表す]
の化合物、並びにそれらの塩、それらの溶媒和物およびそれらの塩の溶媒和物の、医療器具および/または装置の人工表面の被覆および/または処理のための使用。
【請求項2】
式中、
が、塩素、臭素、メチルまたはトリフルオロメチルの群からの残基により5位で置換されている2−チオフェンを表し、
がD−A−を表し
[ここで、
残基「A」は、フェニレンを表し;
残基「D」は、飽和の5員または6員の複素環を表し、
これは、窒素原子を介して「A」と結合しており、
これは、その結合している窒素原子に隣接するカルボニル基を有し、そして、
ここで、炭素の環構成員は、S、NおよびOの範囲からのヘテロ原子により置き換えられていてもよい;
ここで、先に定義した基「A」は、オキサゾリジノンへの結合に対してメタ位で、フッ素、塩素、ニトロ、アミノ、トリフルオロメチル、メチルまたはシアノの群からの残基により一置換または二置換されていることもある]、
、R、R、R、RおよびRが水素を表すことを特徴とする、請求項1に記載の化合物、並びにそれらの塩、それらの溶媒和物およびそれらの塩の溶媒和物の使用。
【請求項3】
化合物が、式
【化2】

の5−クロロ−N−({(5S)−2−オキソ−3−[4−(3−オキソ−4−モルホリニル)フェニル]−1,3−オキサゾリジン−5−イル}メチル)−2−チオフェンカルボキサミド並びにその塩、その溶媒和物およびその塩の溶媒和物であることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の使用。
【請求項4】
医療器具および/または装置の人工表面の被覆および/または処理のための、その表面でのフィブリン沈着および/または血栓形成を防止するための、請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の式(I)の化合物の使用。
【請求項5】
カテーテルおよび他の医療器具および装置の清浄化および/または予処理における、1種またはそれ以上の他の活性物質と組み合わせることもある、請求項1に記載の1種またはそれ以上の式(I)の化合物の使用。
【請求項6】
化合物が、式
【化3】

の5−クロロ−N−({(5S)−2−オキソ−3−[4−(3−オキソ−4−モルホリニル)フェニル]−1,3−オキサゾリジン−5−イル}メチル)−2−チオフェンカルボキサミド並びにその塩、その溶媒和物およびその塩の溶媒和物であることを特徴とする、請求項5に記載の使用。
【請求項7】
カテーテルおよび他の医療器具および装置の清浄化および/または予処理における、その表面でのフィブリン沈着および/または血栓形成を防止するための、請求項5または請求項6に記載の式(I)の化合物の使用。
【請求項8】
請求項1に記載の式(I)の化合物で被覆された医療器具および/または装置の使用による、人工表面でのフィブリン沈着および/または血栓形成の処置および/または予防方法。
【請求項9】
人工表面でのフィブリン沈着および/または血栓形成の処置および/または予防に適する他の活性物質の局所的および/または全身的投与と組み合わせた、請求項1に記載の式(I)の化合物で被覆された医療器具および/または装置の使用による、人工表面でのフィブリン沈着および/または血栓形成の処置および/または予防方法。
【請求項10】
式(I)の化合物の全身的投与と組み合わせた、請求項1に記載の式(I)の化合物で被覆された医療器具および/または装置の使用による、人工表面でのフィブリン沈着および/または血栓形成の処置および/または予防方法。

【公表番号】特表2009−544440(P2009−544440A)
【公表日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−522130(P2009−522130)
【出願日】平成19年7月16日(2007.7.16)
【国際出願番号】PCT/EP2007/006282
【国際公開番号】WO2008/012002
【国際公開日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【出願人】(507113188)バイエル・シェーリング・ファルマ・アクチェンゲゼルシャフト (141)
【氏名又は名称原語表記】Bayer Schering Pharma Aktiengesellschaft
【Fターム(参考)】