説明

医療器具において使用するためのコーティング

水性環境において分解する分解性コーティングを少なくとも一部が有する医療器具、ならびに該医療器具の製造方法及び使用方法。コーティングは、交互積層コーティングとすることができ、第1層は正電荷を有する物質を含み、第2層は負電荷を有する物質を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療器具用デリバリーシステムの分野、より詳細には、ステントの搬送のために使用される拡張可能な部材及び該部材に用いられるコーティング、ならびにそれらの製造方法及び使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ステント及びステントデリバリーアセンブリ等の医療器具は、多くの医学的処置において用いられており、そのため、それらの構造及び機能はよく知られている。ステントとは、一般に縮小された直径を有する形態にてカテーテルにより経皮的に体内管の管腔内に導入され、次いで前記管の径に拡張される、略円筒状の半径方向に拡張可能な人工器官である。その拡張した形態において、ステントは、体内管壁を支持及び強化するとともに、体内管を開放された非閉塞状態に維持する。
【0003】
ステントは、脈管系、尿道系、尿管系、生殖器系、胆管系、神経系、気管系、大脳系、胃腸系、食道系等の様々な体内管腔又は体内管に植え込むことができる。
自己拡張型ステント及び膨張拡張型ステントの双方がよく知られており、広く入手可能である。自己拡張型ステントは、その展開部位までステントを搬送する間に該ステントの縮径形態を維持するために、典型的には正の外部圧力下において維持される。膨張拡張型ステントは、一般的に、デリバリー装置の拡張可能な部材の周囲において縮小された径にて巻縮され、展開部位に配置され、拡張可能な部材の膨張中に提供されるような半径方向外側に向かう圧力によって拡張される。
【0004】
医学的処置中、ステントは体内管腔内の正確な位置に配置される。ステントの適切な配置を容易にするために、ステント、バルーン、カテーテル及び体内管の内側のうちのいずれかの間におけるあらゆる無用の相対移動を防止することが望ましい。ステント設計における動向は、巻縮状態において半径方向内側へ向かう力がより小さくなる、より薄く、かつより可撓性が高い構造を用いることであり、従って、バルーンとステントとの間の固定度が弱くなる。このため、無用の相対移動を防止するという前記目標はより困難なものとなっている。ガイドカテーテルによるステントの挿入中において、蛇行した解剖学的構造を通過するときやステントの展開中に、滑りが生じることがある。
【0005】
バルーンに対するステントの滑りの問題は、バルーンの非膨張状態と膨張状態との間におけるバルーンの露出部分の摩擦係数を変化させることによる方法を含む、いくつかの異なる方法によって対処されてきた。別のアプローチは、拡大した両端と、ステントを保持するための縮径中間部とを有するバルーンを提供することを含む。他のアプローチは、バルーンに基づかないものであり、カテーテルから延びてステントと係合するステント保持器具を提供するものである。
【0006】
水溶液からの段階的な吸着の間に、反対の電荷を有する種の間における静電的相互作用の概念を用いて、多層膜を形成することが知られている。このような多層膜は、カプセル剤の製造及び機能コロイド粒子の開発に用いられてきた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、より高い精度で医療器具の配置を行い易くするように、医療器具を所望の体内位置へ搬送する間、及び医療器具を展開する間において医療器具の滑りを防止することによって、医療器具の展開精度を向上させるべく新規なコーティング技術を用いた医療器具デリバリーシステムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
一態様において、本発明は、医療器具構成要素において使用するための新規なコーティングに関する。
【0009】
一態様において、新規なコーティングはカテーテルアセンブリの構成要素において使用される。
一態様において、新規なコーティングは拡張可能な医療用バルーンにおいて使用される。
【0010】
別の態様において、拡張可能な医療用バルーンは、カテーテルデリバリーアセンブリの先端部に配置され、患者の体内管腔内の展開部位へ搬送する間に管腔内用医療器具を固定するために用いられ得る。本発明による新規なコーティングは、拡張可能な医療用バルーン、管腔内用医療器具、又はそれらの双方の少なくとも一部上に配置される。
【0011】
別の態様において、自己拡張型管腔内用医療器具は、カテーテルデリバリーアセンブリの内側部材の周囲に配置される。本発明による分解性コーティングは、自己拡張型管腔内用医療器具を内側部材に固定するために提供される。
【0012】
新規なコーティングは、好適には生体適合性であり、急速に分解又は溶解し得る。また、前記コーティングは、薄膜として医療器具の構成要素に適用される。
一態様において、コーティングは、少なくとも1つの第1層と1つの第2層とを有する交互積層(layer-by-layer(LbL))コーティングである。第1層は、正の電荷を有する物質を含み、第1層に隣接する第2層は負の電荷を有する物質を含む。
これに代えて、第1層が負の電荷を有する物質を含み、同様に第2層が正の電荷を有する物質を含んでもよい。
【0013】
本願に記載する実施形態のうちのいずれにおいても、任意で治療薬又は治療薬の混合物を使用することができる。
更に、本発明は、薬剤溶出コーティング層と組み合わせて使用することができる。
一実施形態において、分解性コーティングは、医療用バルーンと薬剤溶出コーティング層を有するステントとの間に位置する中間層として使用される。
【0014】
コーティングは、患者の脈管構造内の展開部位へ搬送する間、管腔内用医療器具を固定するに十分な強度を有する一方で、管腔内用医療器具が拡張すること、及び拡張可能なバルーン部材が収縮させられた後には管腔内用医療器具が拡張可能なバルーン部材から解放されることを可能にするものである。
【0015】
本発明のこれらの態様及び他の態様、ならびに他の実施形態及び効果は、この後の詳細な説明及び特許請求の範囲を検討することによって、当業者には直ちに明白なものとなるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明は様々な形態で実施され得るが、本願においては、本発明の特定の好ましい実施形態について詳細に説明する。この説明は本発明の原理の例示であり、本発明を示した特定の実施形態に限定するものではない。
【0017】
一態様において、本発明は医療器具のための新規なコーティングに関する。新規なコーティングは、任意の種類のカテーテルアセンブリ又はその構成要素、ステント、ステントグラフト、グラフト、大静脈フィルタ、塞栓器具、医療用バルーン等を含むが、これらに限定されない任意の種類の管腔内用医療器具において有用であり得る。
【0018】
様々な種類のカテーテルアセンブリの例としては、ガイドカテーテル、医療器具の搬送用カテーテル、診断用カテーテル等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
ステント等の他の医療器具の搬送に用いられるものを含むカテーテルアセンブリは、脈管系、胆管系、神経系、生殖器系、泌尿器系、消化管系等に見られるものを含む様々な体内管腔において使用される。
【0019】
図1は、本発明によるカテーテルアセンブリ10の縦断面図である。カテーテル10の先端30には、バルーン20が取り付けられる。バルーン20上には、バルーン拡張型ステント40が配置される。
【0020】
カテーテル10は、本発明による、代表的な単純なオーバーザワイヤー(OTW)又はシングルオペレータエクスチェンジ(SOE)バルーンカテーテルである。そのようなバルーンカテーテルについては論じられており、よく知られている。この実施形態において、カテーテル10は、長尺状のシャフトアセンブリ26と、該シャフトアセンブリ26の基端に連結された従来のOTW型マニホールドアセンブリ28とを有する。シャフトアセンブリ26は、内側シャフト32及び外側シャフト34を備える。外側シャフト34は、内側シャフト32の周囲にこれと同軸を有するように配置されて、図1の部分2における図2の拡大部分断面図に示す環状膨張管腔36を形成する。バルーン20は、マニホールド28を介して膨張流体を通過させることによって膨張させられて、ステント40の展開を生じさせる。その後、負圧を与えて、バルーン20を萎ませて収縮させ得る。この種の手順については当業において知られている。本願に使用可能な他のカテーテル形態が知られている。本発明は、上記に示したカテーテルの種類によって限定されるものではない。
【0021】
本発明による新規なコーティングは、バルーン20、ステント40、又はそれらの組み合わせに対して適用し得る。更に、以下の様々な実施形態に記載するように、本発明による新規なコーティングは、自己拡張型管腔内用医療器具と組み合わせて使用されるカテーテルデリバリーアセンブリの内側部材に適用されてもよい。
【0022】
本願において、前記コーティングは好適には分解性である。典型的な実施形態において、コーティングは患者の体内環境内において分解するように選択される。この分解は、水性環境におけるような少なくとも部分的な溶解によるもの、又はイオン結合、水素結合、ファンデルワールス力の弱まりによるもの、又はその他の何らかの相互作用の弱まりによるもの等の任意の機構を通じて生じ得る。本発明は、コーティングの分解又は弱化を生じる機構の種類によって限定されるものではない。
【0023】
この「分解(degradation) 」という用語は、1つの物質が2つのより単純な物質に分かれる分解(decomposition) も指し得る。
体内管においてステントを展開するために、カテーテルアセンブリの拡張可能な部材の周囲にステントが配置される実施形態においては、拡張可能な部材の拡張及び収縮の力は、例えば、アニオン/カチオンLbLコーティングの場合に、層の分離によるコーティングの完全性の破壊をもたらすに充分な力を提供することができる。この場合、拡張可能な部材の拡張及び収縮により提供される力によって弱いイオン結合の破壊が生じるときに、コーティングは、展開までの任意の好適な時間にわたって、ステントをバルーン上に維持することができる。
【0024】
別の実施形態において、本発明によるコーティングは、カテーテルデリバリーアセンブリの内側部材に対して自己拡張型管腔内用医療器具を固定することを支援するために使用される。コーティングは、自己拡張型ステントが拡張する際に、ステントが内側部材から容易に解放される程度に体内管において十分に分解する。
【0025】
本発明によるコーティングは、該コーティングが、数秒間、数分間、又は数日間で分解するように設計され得る。
水性環境において溶解する分解性コーティングが使用される一実施形態において、コーティングは、数秒又は数分以内のように、急速に弱化し得る。この弱化はまた、拡張可能なバルーン部材及びステントが拡張する際に、表面積が増大することによっても増進され得る。
【0026】
本発明によるコーティングには、任意の好適な分解性材料を使用することができる。好適な材料の例としては、水溶性材料、水分散性材料、水に溶解可能な材料、感水性材料等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。本願においては、「水溶性」という用語は、水中において部分的な可溶性を有する材料を含むものとする。以下において、「親水性」という用語は、これらの様々な程度の感水性を有する任意の材料を指すために用いられるものとする。
【0027】
本願において有用なこの種の好適なポリマーは、典型的には、−OH、−COOH、−CONH、−COO−等の親水基を有する非架橋構造体である。当然ながら、そのような基が単に存在するということが、そのポリマーが親水性であることを保証するものではない。それは、ポリマーの構造、そのような基の数等にも左右される。
【0028】
好適な親水性ポリマーの例としては、ポリエチレングリコール(PEG)及び変性ポリエチレングリコール等のポリアルキレングリコール、ポリエチレンオキシド及びポリエチレンオキシドとポリプロピレンオキシドとの親水性ブロックコポリマー、炭水化物、マンニトール等の糖アルコール、ポリオール、単糖類、オリゴ糖類、多糖類、及びヘパリン(ムコ多糖類)等の修飾多糖類、ポリエーテル脂肪族ポリウレタン等の親水性ポリウレタン、親水性ポリアミド、ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)、ポリアクリル酸のアルカリ金属塩(Na及びKが最も一般的)又はアルカリ土類金属塩等のポリアクリル酸塩、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルピロリドン(親水性ポリ(N−ビニルラクタム))、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース及びヒドロキシプロピルセルロース等のセルロース及びその親水性改質物、メチルビニルエーテル無水マレイン酸コポリマー、タンパク質、ペプチド、DNA等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0029】
親水性ポリマーについては、ファン(Fan) らに付与され、本発明の譲受人に譲渡された米国特許第5509899号明細書で論じられている。該特許文献の全容は、参照によって本願に援用される。
【0030】
これらの親水性ポリマーは、単層として医療器具に適用されてもよく、あるいは多層で適用されてもよい。
本願での使用に好ましい親水性ポリマーは、例えば、ポリエチレングリコール、単糖類、オリゴ糖類、及び多糖類、ならびに修飾多糖類、炭水化物、マンニトール等の糖アルコール、ポリオール等の、水性環境中で急速に溶解する親水性ポリマーである。望ましくは、コーティング材料は生体適合性である。
【0031】
本発明による分解性コーティングには、イオン性物質及びその混合物も使用することができる。
一実施形態において、本発明によるコーティングは、ステントを固定するために使用される。ステント固定用のコーティングの場合には、コーティングが十分に分解又は弱化し、バルーンが収縮すると、ステントがバルーンから容易に解放される。
【0032】
図3〜図6は、本発明による単層の分解性ポリマーコーティングがステント及びバルーン上に適用されている本発明の一実施形態を示す。好適には、層は極薄である。例えば、LbLコーティングの場合には、各層はナノメーターの範囲の厚さを有し得る。一旦弱化されるとコーティングが実際にそれ自体から分離する分解性コーティングについては、厚さはマイクロメートルの範囲にあってもよい。したがって、コーティングの厚さは、約1ナノメートルから20マイクロメートル、好適には、約10ナノメートルから約10マイクロメートルの範囲とし得る。これらの範囲は、例示目的で示すに過ぎず、本発明を限定するものではない。
【0033】
図3は、上にステント40が配置された拡張可能なバルーン部材20の長手方向における側面図である。ステント40は巻縮された状態で示されている。図3に示すステントは、例示を目的としているに過ぎない。本発明は、図示されるステント形態のタイプに限定されるものではない。ステントは当業において既知のいかなる形態のものであってもよく、そのステントが使用される医学的処置の種類に応じて変更することができる。
【0034】
図4は、上にステント40が配置された拡張可能なバルーン部材20の長手方向における側面図である。本発明による分解性コーティング50は、ステントの40及び拡張可能なバルーン部材20の双方の上に配置されている。分解性コーティングの好適な例を、例示のために上記に示した。
【0035】
コーティングは、ステントの40の一部上のみと、同様に拡張可能なバルーン20の一部上のみとに配置されてもよい。
図5は、バルーン20及びそのバルーン上に配置されたステント40の長手方向の側面図である。バルーン20は膨張させられており、ステント40は拡張されている。これは通常、ステントが体内管腔内の所望の位置に配置された後に、ステントの展開部位において行われる。好適には、分解性コーティング50は、溶解等の本願に記載するような機構によって弱化し始める。これは、バルーン及びステントが拡張する際に、コーティングの表面積が非常に拡大することによって増進される。
【0036】
図6は、部分的に収縮又は萎んだ状態で示されるバルーン20、及び管内において拡張状態に展開されたままであるステント40の長手方向の側面図である。バルーン20は、環状管腔から流体を除去するための負圧の印加等の当業において既知の任意の方法を用いて収縮させることができる。バルーン20及びステント40の双方の上には、ここでは少なくとも部分的に分解した状態にある本発明によるコーティング50が示されている。バルーン20は、収縮された後、体内管腔から抜去することができる。
【0037】
これに代えて、単一の粘着性の分解性コーティングを、ステントを拡張可能なバルーン部材上に巻縮する前にステントの内面に適用してもよく、あるいは、ステントを拡張可能なバルーン部材上に巻縮する前に拡張可能なバルーン部材の外面に適用してもよい。
【0038】
あるいは、コーティングは、溶液からの段階的な吸着の間に反対の電荷を有する種を連続的に吸着させることによって集合させた多層膜となるように形成されてもよい。これらのコーティングは交互積層(LbL)コーティングと呼ばれることがある。例えば、高分子電解質多層カプセルの浸透性制御(Polyelectrolyte multilayer capsule permeability control) 、アンチポフ、アレクセイ エイ.(Antipov, Alexei A.)ら、Colloids and Surfaces A: Physiochemical and Engineering Aspects 198-200、エルゼビア サイエンス ビー.ヴイ.(Elsevier Science B.V. )(2002年)、535〜541頁、及び、コロイド粒子における表面制御沈澱による高分子電解質マイクロ−及びナノカプセル剤への巨大分子の組み込み(Incorporation of macromolecules into polyelectrolyte micro- and nanocapsules via surface controlled precipitation on colloidal particles)、ラドチェンコ、イーゴリ エル.(Radtchenko, Igor L.) ら、Colloids and Surfaces A: Physiochemical and Engineering Aspects 202 、エルゼビア サイエンス ビー.ヴイ.(Elsevier Science B.V. )(2002年)、127〜133頁を参照されたい。
【0039】
あるいは、可溶性インクの形態にある高分子電解質複合体を適用することができる。その例は、直接書き込みアセンブリのための高分子電解質インクの相挙動及び流動学的性質(Phase Behavior and Rheological Properties of Polyelectrolyte Inks for Direct-Write Assembly) 、グラットソン、グレゴリー エム.(Gratson, Gregory M.) 及びルイス、ジェニファー エイ.(Lewis, Jennifer A.)、Langmuir 21 (2005年)、457〜464頁に見られる。
【0040】
LbLコーティングで使用される好適な材料としては、高分子電解質、タンパク質、DNA、無機粒子、脂質等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
本発明による多層コーティングにおいては、イオン性ポリマーが好適に使用され得る。イオン性ポリマーは、生来、アニオン性であってもカチオン性であってもよい。イオン性ポリマーとしては、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリエチレンアミン等のカルボキシル基を有する機能性ポリマー、硫酸基を有する機能性ポリマー、及びアミン基を有する機能性ポリマー;アルギン酸、ペクチン酸、カルボキシメチルセルロース、ヒアルロン酸、ヘパリン(ムコ多糖類)、キトサン、カルボキシメチルキトサン、カルボキシメチルスターチ、カルボキシメチルデキストラン、ヘパリン硫酸(heparin sulfate) 、コンドロイチン硫酸、カチオン性グアー、カチオン性スターチ等の多糖類;及びそれらの塩等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。好ましいイオン性ポリマーは、アルギン酸、ペクチン酸、カルボキシメチルセルロース、ヒアルロン酸、キトサン及びそれらの塩である。最も好ましいイオン性ポリマーは、アルギン酸、ペクチン酸及びヒアルロン酸、ならびにそれらの塩である。前述したように、本発明において使用されるイオン性ポリマーは、アニオン性ポリマーとカチオン性ポリマーとに分類される。使用され得るアニオン性ポリマーとしては、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、アルギン酸、ペクチン酸、カルボキシメチルセルロース、ヒアルロン酸、ヘパリン、カルボキシメチルスターチ、カルボキシメチルデキストラン、ヘパリン硫酸及びコンドロイチン硫酸がある。使用され得るカチオン性ポリマーとしては、キトサン、カチオン性グアー、カチオン性スターチ及びポリエチレンアミンがある。
【0041】
上記のリストは例示を目的とするものに過ぎず、本発明の範囲を限定するものではない。そのようなポリマーは当業者には公知である。
図7〜図9は、負電荷をもつ(アニオン性)物質を有する少なくとも1つの層と、正電荷をもつ(カチオン性)物質を有する少なくとも1つの第2層とを備える交互積層(LbL)コーティングがバルーン及びステントの上に配置される本発明の一実施形態を示す。図7〜図9に示す実施形態において、1つの層はバルーン上に配置され、1つの層はステント上に配置される。しかしながら、これは本発明の例に過ぎない。双方の層がバルーン上に配置されてもよいし、又は双方の層がステントの内面に配置されてもよいし、あるいは双方の層がステント及びバルーンの双方の上に配置されてもよく、又は一方の層がバルーン上に配置され、もう一方の層はステントの上に配置されてもよい等である。更に、同様に、ステント及びバルーンの各々に複数の層が配置されてもよい。そのような実施形態の一例を、以下の図10〜図12に示す。
【0042】
図7は、図3の部分7においてバルーン20の長手方向軸線に沿って切断した部分断面図である。医療用バルーン20の壁22は、その上に配置されたコーティング52を有する。コーティング層52は、カチオン性物質又はアニオン性物質のいずれかを含み得る。ステントのストラット80は、その上に配置されたコーティング54を有する。コーティング層54は、コーティング層52とは反対の電荷を有する層を提供するカチオン性物質又はアニオン性物質のいずれかを含み得る。
【0043】
図8は、上にステントが配置されたバルーン20の長手方向軸線に沿って切断された部分断面図である。この図面は、体内管腔への挿入後におけるバルーン/ステントの組み合わせを示しており、ステントストラット80が体内管壁58に接触した状態で示されている。バルーン20は膨張しており、ステントは拡張されている。
【0044】
その後、バルーン20は、典型的には負圧の印加により収縮させられる。コーティング層52とコーティング層54との間に形成される弱いイオン結合は、図9に示されるように、この時点で破壊されて、バルーン20からステントを解放する。更に、表面積の増大もまた、層52と層54との間の電気化学的な力を弱める。
【0045】
本願においては、弱い水素結合を形成するか、又はファンデルワールス力によって引き付けられる他の種類の材料も使用し得る。本願においては、機械的な力によって、又は上述したような物理化学的手段によって破壊され得る化学結合を形成す任意の種類の材料を使用することができる。
【0046】
本願において使用され得るアニオン性/カチオン性物質の組み合わせの特定の例は、キトサン及びヘパリンである。キトサン分子とヘパリン分子との間のイオン結合は、体内管腔を通って展開部位へステントを搬送する間に、ステントをバルーン上の適所に保持するために十分である。拡張可能な医療用バルーンが拡張及び/又は収縮すると、コーティングに破壊が生じて、広範囲にわたる水の浸透を可能にするようにしてもよい。ヘパリン分子とキトサン分子との間に形成されたイオン結合が壊れることにより、ステントが拡張可能な医療用バルーンから解放される。
【0047】
正確な構造は確かではないが、以下の構造が硫酸化ヘパリン分子の典型例である。
【0048】
【化1】

キトサンは、(1−4)−架橋 2−アミノ−2−デオキシ−D−グルコピラノースから成る多糖類である。負の電荷を有する他の多数の多糖類と比較して、キトサンは、生来、酸性溶液中においてカチオンである。
【0049】
キトサンは以下の一般構造を有する。
【0050】
【化2】

キトサンも硫酸化することができる。キトサンポリ硫酸(chitosan polysulfate)は、水性環境において非常に良好に溶解する。
【0051】
キトサン及びヘパリンは生体適合性材料である。
バルーンの長手方向軸線に沿って切断された図10〜図12の部分断面図に示される別の実施形態においては、カチオン性及びアニオン性物質を有する複数の層を使用してもよい。この実施形態において、ステントストラット80は、図10に示すように、アニオン性物質を含む層62aを有し、層62aの上にはカチオン性物質を含む外層64aが配置される。前記コーティング層は、浸漬、噴霧、及び塗布等の当業において既知の任意の方法を用いてステント上に配置され得る。バルーン壁22上には、カチオン性物質を含む層64bと、それに続いてアニオン性物質を含む外層62bとが配置されている。それらのコーティング層もまた、当業において既知の任意の方法を用いてバルーン上に配置され得る。別の実施形態においては、イオン性物質又はそれらの混合物を、上述したような単一のコーティング層として使用してもよい。
【0052】
ステントは、当業において知られているようにバルーン20上に巻縮することができ、図11においてバルーン20の長手方向軸線に沿って切断した部分断面図として示されているステントストラット80上の外層64a(カチオン性)と、バルーン壁22上の外層62b(アニオン性)との間に弱いイオン結合を形成する。
【0053】
その後、アセンブリは体内管腔に挿入され、体内管内の展開部位へと誘導され、当業において知られているように、バルーンを膨張させることによって、ステント(図示せず)を拡張させる。その後、バルーンが収縮させられて、ステントが解放される。
【0054】
図12は、バルーン20の長手方向軸線に沿って切断された部分断面図である。ステントストラット80は、バルーン20の膨張及びステントの拡張の後において、体内管58に接触した状態が示されている。コーティング層64a(カチオン性)とコーティング層62b(アニオン性)との間の弱いイオン結合は、ステントの展開及びバルーンの収縮の間に容易に破壊されている。この静電力の弱化は、拡張の間のバルーン及びステントの表面積の増大によっても増進される。
【0055】
図10〜図12において説明した上記実施形態は、本発明による多層構造の単なる一例である。ステントの拡張及び/又はバルーンの収縮の際にイオン結合が破壊され得るように、少なくとも1つのアニオン性層が少なくとも1つのカチオン性層に隣接しているならば、カチオン性/アニオン性コーティング層の順序を変更してもよい。
【0056】
更に、3層以上を有する他の多層構造も、本発明に包含される。例えば、第5層と第6層との間に形成された弱い結合を有する10層が適用されてもよい。したがって、イオン結合が破壊されて層が分離する隣接したアニオン性層/カチオン性層が存在することを条件として、複数の層を使用し得る。
【0057】
本願において、必要に応じて治療薬を使用してもよい。「治療薬」、「薬剤」、「薬学的に活性な薬剤」、「薬学的活性物質」及び他の関連する用語は、当業において区別なく使用される。以下、本願においては治療薬という用語を使用する。治療薬には、遺伝物質、非遺伝物質及び細胞を含む。
【0058】
治療薬又はその混合物は、ポリマーコーティング層に含まれていてもよいし、あるいは、一部の例においては、治療薬自体が層として適用されてもよい。例えば、それ自体が治療薬であるヘパリンを、上述したようなコーティング層として使用してもよい。
【0059】
治療薬は、LbLコーティングの分離の際、又はコーティングの分解/破壊のいずれかにより、周辺環境に露出され得る。
非遺伝子治療薬(non-genetic therapeutic agents)の例としては、抗血栓薬、抗増殖剤、抗炎症剤、鎮痛薬、抗腫瘍/抗増殖/抗縮瞳薬(antineoplastic/ antiproliferative/anti-miotic agents)、麻酔薬、抗凝血剤、血管細胞増殖促進剤、血管細胞増殖阻害剤、コレステロール低減剤、血管拡張剤、及び内因性血管作用機構(endogeneous vascoactive mechanism) に干渉する薬剤が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0060】
遺伝物質としては、例えば、アンチセンスDNA及びRNA、ならびにコーディングDNAが挙げられる。
細胞は、ヒト由来であっても、動物由来であってもよく、又は遺伝子操作されていてもよい。
【0061】
抗血栓薬の例としては、ヘパリン、ヘパリン誘導体、ウロキナーゼ及びPPack(デキストロフェニルアラニンプロリンアルギニンクロロメチルケトン)が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0062】
抗増殖剤の例としては、ほんの数例について述べると、エノキサプリン、アンギオペプチン、又は平滑筋細胞増殖を阻害することができるモノクローナル抗体、ヒルジン、アセチルサリチル酸が含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0063】
抗炎症剤の例としては、ステロイド系及び非ステロイド系の抗炎症剤が挙げられる。ステロイド系抗炎症剤の特定の例としては、ごく一部について述べると、ブデソニド、デキサメタゾン、デソニド、デソキシメタゾン、コルチコステロン、コルチゾン、ヒドロコルチゾン、プレドニゾロンが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0064】
非ステロイド系の抗炎症剤の特定の例としては、ごく一部について述べると、アセチルサリチル酸(すなわちアスピリン)、イブプロフェン、イブプロキサム、インドプロフェン、ケトプロフェン、ロキソプロフェン、ミロプロフェン、ナプロキセン、オキサプロジン、ピケトプロフェン、ピルプロフェン、プラノプロフェン、プロチジン酸、スルファサラジン、メサラミン、スプロフェン、チアプロフェン酸が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0065】
鎮痛薬の例としては、麻薬性鎮痛薬及び非麻薬性鎮痛薬の双方が挙げられる。麻薬性鎮痛薬の例としては、ごく一部について述べると、コデイン、フェンタニル、ヒドロコドン、モルヒネ、プロメドールが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0066】
非麻薬性鎮痛薬の例としては、ごく一部について述べると、アセトアミノフェン、アセトアニリド、アセチルサリチル酸、フェノプロフェン、ロキソプロフェン、フェナセチンが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0067】
抗腫瘍/抗増殖/抗縮瞳薬の例としては、パクリタキセル、5−フルオロウラシル、シスプラチン、ビンブラスチン、ビンクリスチン、エポチロン、エンドスタチン、アンギオスタチン、及びチミジンキナーゼ阻害物質が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0068】
麻酔薬の例としては、ごく一部について述べると、リドカイン、ブピバカイン及びロピバカインが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
抗凝血剤の例としては、D−Phe−Pro−Arg−クロロメチルケトン、RGDペプチド含有化合物、ヘパリン、抗トロンビン化合物、血小板レセプタ拮抗薬、抗血小板レセプタ抗体、アスピリン、プロスタグランジン阻害物質、抗血小板剤及びマダニ抗血小板ペプチドが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0069】
治療薬として使用される上述した化合物の多くの誘導体も存在する。
当然ながら、上記化合物の任意の混合物を使用してもよい。
上記のリストは、例示を目的としているに過ぎず、本発明の範囲を限定するものではない。
治療薬は、本発明の譲受人に譲渡された米国特許出願公開第20040215169号明細書において論じられている。該特許文献の全容は、参照によって本願に援用される。
【0070】
LbLコーティングが使用される場合、例えば、ヘパリンがバルーン又はステント上の層として用いられる等、1つ以上の層が治療薬であってもよい。
図13及び図14は、治療薬が使用される本発明による実施形態の典型例である。図13は、上にステント40が配置された拡張可能なバルーン部材20の長手方向における側面図である。ステント40及びバルーン20の双方の上には、コーティング50が配置される。ステント40は、複数の開口100を画定する、複数のストラット80及び端部分90を備えるストラットパターンを有する。1つ以上の開口100の少なくとも一部は、その中に配置された治療薬を有し得る。これは、図13の部分14においてバルーン20の長手方向軸線に沿って切断された図14において部分拡大図として示されている。分解性コーティング50は、ステント及びバルーンを覆って配置され、治療薬110を封じ込めている。
【0071】
図13〜図14に示すステント形態は、例示を目的としているに過ぎない。本発明は、特定の種類のステント形態に限定されるものではない。本願においては、任意の好適なステント形態を使用することができる。
【0072】
この実施形態において、極性環境、例えば水性環境に晒されると、コーティングが分解して、治療薬の放出を可能にする。放出の速度は、選択した分解性コーティングの種類によって制御され得る。例えば、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール又はそのようなポリマーを有するコーティング等、親水性が高いコーティングは、迅速に溶解して、治療薬が流出することを可能にし得る。
【0073】
図15及び図16には、治療薬と組み合わせて使用される分解性コーティングの別の実施形態が、部分断面図として示されている。バルーン20は、壁22の外面上に配置されたカチオン性又はアニオン性物質を有する第1コーティング層52と、第1コーティング層52の電荷とは反対の電荷をもった物質を有する第2コーティング層54とを備える。各層の間にイオン結合が形成され得るように、各層が反対の電荷をもつ物質を有しているならば、それらの層を入れ替えてもよい。ステントをバルーン上に巻縮した後に、第2コーティング層54の電荷とは反対の電荷の物質を有する第3コーティング層56を適用してもよい。
【0074】
したがって、一実施形態においては、第1コーティング層52はアニオン性物質を含み、第2コーティング層54はカチオン性物質を含み、第3コーティング層56はアニオン性物質を含む。
【0075】
別の実施形態においては、第1コーティング層52はカチオン性物質を含み、第2コーティング層54はアニオン性物質を含み、第3コーティング層56はカチオン性物質を含む。
【0076】
第3コーティング層56はまた、少なくとも1種の治療薬又は治療薬の混合物を含んでいてもよい。好適には、ステントが体内管内で展開されたときに、図16に部分断面図として示されているように、LbLコーティング層が層52と層54との間で分離し、治療薬又はその混合物を有するコーティング層56がコーティング層54と体内管壁との間に捕捉された状態となるように、第1コーティング層52と第2コーティング層54との間に形成されるイオン結合は、第2コーティング層54と第3コーティング層56との間に形成されるイオン結合よりも弱い。
【0077】
これに代えて、図17に部分断面図として示されているように、バルーン20上にステントを巻縮する前に、第3コーティング層56をバルーン20に適用してもよい。図18に部分断面図として示されているように、ステントが拡張されると、層56が層54と体内管壁58との間に捕捉されるように、層52と層54との間に弱い結合が形成される。
【0078】
本発明による分解性コーティングは、例えば薬剤溶出コーティングを含む、当業において既知の他の種類のコーティングと組み合わせて使用されてもよい。そのような一実施形態において、本発明による分解性コーティングは、ステントが拡張及び展開されると薬剤溶出コーティングとステントが巻縮されているバルーンとの間に生じ得る固着を低減するために、バルーンと薬剤溶出コーティングを有するステントとの間の中間コーティングとして使用されてもよい。
【0079】
薬剤溶出層において使用されるポリマー材料の例としては、スチレンブロックコポリマー等のブロックコポリマーが挙げられるが、これらに限定されるものではない。スチレンブロックコポリマーの例としては、スチレン−イソプレン−スチレン(SIS)、スチレン−ブタジエン−スチレン(SBS)、スチレン−エチレン/ブチレン−スチレン(SEBS)、スチレン−エチレン/プロピレン−スチレン(SEPS)、スチレン−イソブチレン−スチレン(SIBS)等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0080】
治療薬は、上述したように、そのようなポリマーと組み合わせて薬剤溶出層を形成するようにしてもよい。
別の実施形態において、本発明による分解性コーティングは、図19にデリバリーシステム120の先端部の長手方向における部分断面図として示される、自己拡張型ステントデリバリーシステム120に使用される。自己拡張型ステント140は、内側部材142上に縮径形態で配置され、ステント固定シース144によって固定される。
【0081】
一実施形態において、第1コーティング層152はステント140の内面143上に配置される。また、第2コーティング層154は内側部材142の外面145上に配置される。第1コーティング層152は、正電荷を有する物質又は負電荷を有する物質を含み、第2コーティング層154は、コーティング層152の電荷とは反対の電荷を有する物質を含む。したがって、患者の体内管の展開部位へステント140を搬送する間、内側部材142に対するステント140の固定を行い易くするために、コーティング層152とコーティング層154との間にイオン結合を形成することができる。
【0082】
典型的な自己拡張型ステントデリバリーシステムにおいて、ステント140はステント固定シース144の内面147上に上向きの力を作用させて、前記内面を押圧し得る。これにより、展開部位においてシース144を後退させてステント140を解放するときに、軸線方向においてより高い力が必要となる。
【0083】
上述した実施形態において、コーティング層152とコーティング層154との間におけるイオン性の吸引力は、搬送中にステント140を固定することを支援し、それにより、シースに対するステントの半径方向の力を低減することを助ける。また、本発明によるコーティングは、シース144を後退させてステント140を解放するときに必要とされる軸線方向における力を低減することも支援するであろう。体内管内の環境に晒されることと、シース144を引っ張って後退させてステント140を解放した後で拡張中のステントによって及ぼされる機械的な力とによって、コーティング層152とコーティング層154と間のイオン結合が壊れ、ステント140を内側部材142から解放する。
【0084】
上述した実施形態はイオン系に特有のものであるが、本願において他の種類の分解性コーティングを使用してもよい。コーティングは、分解が身体内で生じるように選択され得る。例えば、分解は、水性環境における少なくとも部分的な溶解、水素結合の弱化、ファンデルワールス力の弱化、又は他の相互作用の弱化によって生じ得る。本発明は、コーティングの分解又は弱化を生じる機構の種類によって限定されるものではない。
【0085】
例えば、別の実施形態において、コーティングが感水性である場合には、該コーティングは水性環境に晒されると十分に分解するため、ステント140は内側部材142から解放され得る。
【0086】
図20は、自己拡張型ステントデリバリーシステム120の先端部の長手方向における部分断面図である。自己拡張型ステントデリバリーシステムは当業において知られている。自己拡張型ステント140は、縮径形態にて内側部材142上に配置され、ステント固定シース144がステント140を内側部材142に固定する。第1コーティング層152は内側部材142の外面145上に配置される。第1コーティング層152は、正電荷を有する物質又は負電荷を有する物質のいずれかを含み得る。第2コーティング層154は、ステント140の外面149上に配置される。第1コーティング層152と第2コーティング層154との間にイオン結合が形成されるように、第2コーティング層154は、第1コーティング層152に含まれる物質の電荷とは反対の電荷を有する物質を含む。このLbLコーティングは、上述したように、展開中にステント140からシース144を後退させるために必要な軸線方向の力を低減することを支援する。シース144が後退させられると、ステント140は拡張できるようになる。水性環境への露出と、ステント拡張中に提供される機械的な力との組み合わせにより、第1コーティング層152と第2コーティング層154との間の分離が生じる。
【0087】
図21は、自己拡張型ステントデリバリーシステム120の先端部の長手方向における部分断面図であり、そのようなデリバリーシステム120に使用される分解性コーティング150の別の実施形態を示している。ステント140を内側部材142に固定するために、ステント上にはシース144が配置される。この実施形態においては、ステント140及び内側部材142の双方を覆って、単一のコーティング層150が配置されている。コーティング150は、本発明による分解性コーティングである。コーティング150は、縮径形態にあるステント140を内側部材142に固定することを支援する。また、上述したように、コーティング150は、患者の体内管における展開中に、ステント140からシース144を後退させるために必要な軸線方向の力を低減することを支援する。この実施形態において、患者の体内管内のような水性環境に晒されると、コーティング150は溶解し始め、従って弱化する。コーティングの完全性が損なわれることにより、ステント140の拡張時に破壊が生じる。
【0088】
このようなコーティングについては、上記において詳細に説明した。
そのような実施形態で使用される望ましい親水性ポリマーの一部の例としては、極性環境又は水性環境において急速に溶解するもの、例えば、ポリエチレングリコール、単糖類、オリゴ糖類、多糖類、及び修飾多糖類、炭水化物、マンニトール等の糖アルコール、及びポリオール等が挙げられる。望ましくは、コーティング材料は生体適合性である。
【0089】
上記の開示は、例示であり、包括的なものではない。この説明は、当業者に対して、多数の変形例及び別例を示唆するであろう。これらの別例及び変形例はすべて、付属の特許請求の範囲内に含まれるものとする。当業者であれば、本願に記載した特定の実施形態に対する他の均等物を認識し得るであろう。そのような均等物もまた添付の特許請求の範囲によって包含されるものである。
【図面の簡単な説明】
【0090】
【図1】本発明のバルーンが取り付けられ、かつ該バルーン上に配置されたステントを有するカテーテルアセンブリの縦断面図。
【図2】図1の部分2の拡大図。
【図3】医療用バルーン上に配置されたステントの長手方向の側面図。
【図4】医療用バルーン上に配置されたステントであって、該ステント及びバルーン上に配置された本発明のコーティングを有するステントの長手方向の側面図。
【図5】バルーンが膨張しており、かつステントが拡張した形態にある、図4に示したものに類似するステント及び医療用バルーンの長手方向の側面図。
【図6】体内管内においてステントが拡張した状態にあり、かつバルーンが収縮した状態にある、図5に示したものに類似するステント及びバルーンの長手方向の側面図。
【図7】バルーンの長手方向軸線に沿って得られる、間に配置された本発明による交互積層コーティングを有するステント及びバルーンの部分断面図。
【図8】ステントが体内管に接触して示されている、バルーンの長手方向軸線に沿って得られる図7に示したものに類似するステント及びバルーンの部分断面図。
【図9】ステントが拡張状態にあり、かつバルーンが収縮状態にある、バルーンの長手方向軸線に沿って得られる図8に示したものに類似するステント及びバルーンの部分断面図。
【図10】バルーンの長手方向軸線に沿って得られる、本発明による交互積層コーティングの別の実施形態を有するステント及びバルーンの部分断面図。
【図11】ステントがバルーン上に巻縮されている、バルーンの長手方向軸線に沿って得られる図10に示したものに類似するステント及びバルーンの部分断面図。
【図12】バルーン抜去前における、体内管内においてステントが拡張状態にあり、かつバルーンが収縮状態にある、バルーンの長手方向軸線に沿って得られる図10〜図11に示したものに類似するステント及びバルーンの部分断面図。
【図13】バルーン上に配置されたステントであって、該ステント及びバルーンの双方の上に配置された本発明によるコーティングを有するステントの長手方向における側面図。
【図14】ステントのストラット間に配置された治療薬を示す図13の部分14において得られる、破断部分断面図。
【図15】本発明によるコーティングの別の実施形態を示す、バルーンの長手方向軸線に沿って得られるステント及びバルーンの部分断面図。
【図16】ステントが拡張状態にあり、かつ体内管壁に接触している、図15に示したものに類似するステント及びバルーンの部分断面図。
【図17】本発明による別の実施形態を示す、図15及び図16に示したものに類似するステント及びバルーンの部分断面図。
【図18】ステントが拡張状態にあり、かつ体内管壁に接触している、図17に示したものに類似するステント及びバルーンの部分断面図。
【図19】自己拡張型ステント及びデリバリーシステムと組み合わせて使用されるコーティングの長手方向における部分断面図。
【図20】本発明による自己拡張型ステント及びデリバリーシステムと組み合わせて使用されるコーティングの別の実施形態の長手方向における部分断面図。
【図21】本発明による自己拡張型ステント及びデリバリーシステムと組み合わせて使用されるコーティングの別の実施形態の長手方向における部分断面図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内面及び外面を有する拡張可能なバルーン部材と、
前記拡張可能なバルーン部材上に配置された、内面及び外面を有する拡張可能な医療器具と、
前記拡張可能な管腔内用医療器具の外面の少なくとも一部と接触し、かつ前記拡張可能なバルーン部材の外面の少なくとも一部と接触する分解性コーティングと
を備え、前記分解性コーティングは、体内環境に晒されると、拡張可能なバルーン部材が拡張したとき又は膨張状態から収縮したときに、拡張可能なバルーン部材から拡張可能な管腔内用医療器具を解放するように選択される、カテーテルアセンブリ。
【請求項2】
前記分解性コーティングは、第1層と、該第1層に隣接した第2層とを含む交互積層コーティングであり、第1層は正電荷を有する物質を含み、かつ第2層は負電荷を有する物質を含む、請求項1に記載のカテーテルアセンブリ。
【請求項3】
前記第1層は前記第2層に対して内側の層である、請求項2に記載のカテーテルアセンブリ。
【請求項4】
前記第2層は前記第1層に対して内側の層である、請求項2に記載のカテーテルアセンブリ。
【請求項5】
拡張可能なバルーン部材が外面を有し、前記拡張可能なバルーン部材の前記外面の少なくとも一部上には、前記第1層及び前記第2層のいずれかが配置される、請求項2に記載の医療器具。
【請求項6】
前記第1層は、前記拡張可能なバルーン部材の前記外面の少なくとも一部上に配置され、前記第2層は、前記拡張可能な医療器具の前記内面の少なくとも一部上に配置される、請求項5に記載の医療器具。
【請求項7】
前記第2層は、前記拡張可能なバルーン部材の前記外面の少なくとも一部上に配置され、前記第1層は、前記拡張可能な医療器具の前記内面の少なくとも一部上に配置される、請求項5に記載の医療器具。
【請求項8】
少なくとも1つの第1層及び少なくとも1つの第2層は、各々、高分子電解質、高分子電解質複合体、無機粒子、無機ポリマー、無機脂質、イオン性ポリマー、タンパク質、DNA及びこれらの混合物のうちから選択される物質を含む、請求項1に記載の医療器具。
【請求項9】
前記少なくとも1つの第1層及び少なくとも1つの第2層は、カルボキシル基を含む機能性ポリマー、硫酸基を含む機能性ポリマー、アミン基を含む機能性ポリマー、炭水化物、単糖類、オリゴ糖類、多糖類、ポリオール、糖アルコール及びこれらの混合物のうちから選択されるイオン性ポリマーを含む、請求項1に記載の医療器具。
【請求項10】
前記少なくとも1つの第1層及び少なくとも1つの第2層は、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリエチレンアミン、多糖類、アルギン酸、ペクチン酸、カルボキシメチルセルロース、ヒアルロン酸、ヘパリン、キトサン、カルボキシメチルキトサン、カルボキシメチルスターチ、カルボキシメチルデキストラン、ヘパリン硫酸、コンドロイチン硫酸、カチオン性グアー、カチオン性スターチ、アルギン酸、ペクチン酸、カルボキシメチルセルロース、ヒアルロン酸、キトサン、ならびにこれらの任意の塩及び混合物のうちから選択されるイオン性ポリマーを含む、請求項9に記載の医療器具。
【請求項11】
前記第1層はヘパリンを含み、かつ前記第2層はキトサンを含む、請求項1に記載の医療器具。
【請求項12】
前記分解性コーティングは、水性環境中において、拡張可能なバルーン部材から医療器具を解放するように選択される、請求項1に記載のカテーテルアセンブリ。
【請求項13】
前記分解性コーティングは、水性環境中において溶解するように選択された材料を含む、請求項12に記載のカテーテルアセンブリ。
【請求項14】
分解性コーティングは、ポリエチレングリコール、変性ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキシド、ポリエチレンオキシドとポリプロピレンオキシドとのブロックコポリマー、多糖類、修飾多糖類、親水性ポリウレタン、親水性ポリアミド、ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)、ポリアクリル酸、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルピロリドン、セルロース、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルビニルエーテル無水マレイン酸コポリマー、ならびにこれらの任意の塩、コポリマー及び混合物のうちから選択される少なくとも1つの物質を含む、請求項1に記載のカテーテルアセンブリ。
【請求項15】
前記分解性コーティングは、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキシド、炭水化物、単糖類、オリゴ糖類、多糖類、ポリオール、糖アルコール、ならびにこれらのコポリマー及び混合物のうちから選択される少なくとも1つの物質を含む、請求項1に記載のカテーテルアセンブリ。
【請求項16】
前記拡張可能な管腔内用医療器具はステントであり、該ステントはストラットパターンを備え、該ストラットパターンはその中に複数の開口を画定し、該開口のうちの1つ以上の開口の少なくとも一部は治療薬を有し、その治療薬の上には分解性コーティングが配置される、請求項1に記載のカテーテルアセンブリ。
【請求項17】
前記治療薬は、遺伝物質、非遺伝物質、細胞、及びこれらの混合物のいずれかである、請求項16に記載のカテーテルアセンブリ。
【請求項18】
前記治療薬は、抗血栓薬、抗増殖剤、抗炎症薬、抗腫瘍/抗増殖/抗縮瞳薬、麻酔薬、抗凝血剤、血管細胞増殖促進剤、血管細胞増殖阻害剤、コレステロール低減薬、血管拡張剤、内因性血管作用機構に干渉する薬剤、鎮痛薬、DNA、RNA、細胞、及びこれらの混合物のうちから選択される、請求項16に記載のカテーテルアセンブリ。
【請求項19】
外面と、該外面の少なくとも一部上に配置された第1コーティング層とを有する拡張可能なバルーン部材であって、第1コーティング層は正電荷又は負電荷を有する第1物質を含む、拡張可能なバルーン部材と、
非拡張状態及び拡張状態を有し、かつ内面及び外面を備える拡張可能な管腔内用医療器具と、
第1コーティング層に隣接した第2コーティング層であって、前記第1物質とは反対の電荷を有する第2物質を含む第2コーティング層と
を備えるカテーテルアセンブリ。
【請求項20】
前記第2コーティング層は、前記管腔内用医療器具の前記内面の少なくとも一部上又は前記管腔内用医療器具の前記外面の少なくとも一部上に配置される、請求項19に記載のカテーテルアセンブリ。
【請求項21】
前記拡張可能な管腔内用医療器具は巻縮された状態をさらに有し、前記拡張可能な管腔内用医療器具は、その巻縮状態で前記拡張可能なバルーン部材に固定され、前記拡張可能なバルーン部材が拡張又は収縮すると、前記拡張可能な管腔内用医療器具は、拡張状態にて前記拡張可能なバルーン部材から解放される、請求項19に記載のカテーテルアセンブリ。
【請求項22】
前記イオン結合は、水性環境に晒されると弱められる、請求項19に記載のカテーテルアセンブリ。
【請求項23】
前記第1コーティング層は前記第2コーティング層に対して内側の層である、請求項19に記載のカテーテルアセンブリ。
【請求項24】
前記第2コーティング層は前記第1コーティング層に対して内側の層である、請求項19に記載のカテーテルアセンブリ。
【請求項25】
自己拡張型管腔内用医療器具のためのデリバリーシステムであって、
内側部材と、
前記内側部材の周囲に配置された、内面及び外面を有する自己拡張型管腔内用医療器具と、前記内側部材は内面及び外面を有することと、
前記内側部材に対して前記自己拡張型管腔内用医療器具を固定するための分解性コーティングと
を備える、デリバリーシステム。
【請求項26】
前記管腔内用医療器具の周囲に配置されたシースをさらに備える、請求項25に記載のデリバリーシステム。
【請求項27】
前記分解性コーティングは、少なくとも1つの第1層と少なくとも1つの第2層とを含む交互積層コーティングである、請求項25に記載のデリバリーシステム。
【請求項28】
前記分解性コーティングは、内側部材の外面の少なくとも一部上に配置される、請求項25に記載のデリバリーシステム。
【請求項29】
前記分解性コーティングは、自己拡張型管腔内用医療器具の内面の少なくとも一部上に配置される、請求項25に記載のデリバリーシステム。
【請求項30】
前記分解性コーティングは、自己拡張型管腔内用医療器具の外面上及び内側部材の外面上に配置される、請求項25に記載のデリバリーシステム。
【請求項31】
少なくとも1つの第1層は内側部材上に配置され、少なくとも1つの第2層は管腔内用医療器具の内面上に配置される、請求項27に記載のデリバリーシステム。
【請求項32】
前記少なくとも1つの第1層は、負電荷を有する物質又は正電荷を有する物質を含み、前記少なくとも1つの第2層は、第1層の電荷とは反対の電荷を有する物質を含む、請求項27に記載のデリバリーシステム。
【請求項33】
少なくとも1つの第1層はキトサンを含み、少なくとも1つの第2層はヘパリンを含む、請求項27に記載のデリバリーシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【公表番号】特表2008−532726(P2008−532726A)
【公表日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−502971(P2008−502971)
【出願日】平成18年1月9日(2006.1.9)
【国際出願番号】PCT/US2006/000574
【国際公開番号】WO2006/101573
【国際公開日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【出願人】(500332814)ボストン サイエンティフィック リミテッド (627)
【Fターム(参考)】