説明

医療用治療装置およびその装置の使用方法

【課題】 生体表面での光の照射強度を病変部以外の健常部には障害を与えないように調整可能にする。
【解決手段】 光を出力する光源102と、光源からの光を病変部104に向けて照射する光照射部110と、光源と光照射部とを接続する光ファイバー106と、光源と光照射部との間に設けられ、病変部と光照射部との間にある生体表面105での光の強度を調整する光強度調整部120とから構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体深部の病変部の治療に際し、病変部以外の健常部にできるだけ障害を与えないように、光の照射強度を調整しながら治療が可能な医療用治療装置およびその装置の使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光化学治療(Photodynamic Therapy:PDT、光線力学的治療ともいう)は、早期癌の内視鏡下治療の他、種々の治療への適用が検討されている。PDTとは、ポルフィリン誘導体等の光感受性物質(光増感剤)からなるPDT薬液を静脈注射等の方法により投与し、治療対象である癌組織等の病変部に選択的に吸収・集積させた後に、レーザ光等の光線を照射することにより病変部を傷害する治療法である。つまり、PDTは、PDT薬液が病変部へ選択的に集積する性質と光により増感される性質とを利用した治療法である。
【0003】
PDTにおいては、照射する光の強度(照射エネルギー密度)をコントロールすることが治療部位を選定するための重要なファクターとなる。単に病変部に向けて光を照射したのでは、光による増感作用により、健常部にも障害が及んでしまうからである。
【0004】
照射する光の強度を調整する方法としては、光源のパワーを調整することによって光源から出力される光の強度を変える方法、生体に対する光の照射距離を調整することによって照射スポット径を変える方法がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、光源のパワーを調整して光の強度を変える方法は、光の強度が安定するまでに時間がかかるばかりではなく、きめ細かな調整には不向きであるという欠点がある。また、照射距離を調整することによって照射スポット径を変える方法は、常に生体との距離を調整し続ける必要があり、術者の技量に依るところが大きいので、精密な距離調整が要求されるPDT、特に病変部が深い部分にあり浅い部分の健常部に障害を与えずに病変部の治療を行わなければならないときのPDTには不向きであるという欠点がある。
【0006】
本発明は、このような従来の欠点を解消するために成されたものであり、生体深部の病変部の治療に際し、病変部以外の健常部にできるだけ障害を与えないように、光の照射強度を調整しながら治療が可能な医療用治療装置およびその装置の使用方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するための本発明に係る医療用治療装置は、光を照射する光照射手段を備えた医療用治療装置であって、前記光照射手段は、光を出力する光源と、前記光源からの光を病変部に向けて照射する光照射部と、前記光源と前記光照射部とを接続する光ファイバーと、前記光源と前記光照射部との間に設けられ、前記病変部と前記光照射部との間にある生体表面での光の強度を調整する光強度調整部と、を有することを特徴とする。
【0008】
また、上記目的を達成するための本発明に係る医療用治療装置の使用方法は、請求項1に記載の医療用治療装置の使用方法であって、光照射部から病変部に向けて光を照射する段階と、生体表面の表面状況を検出する段階と、検出された表面状況に応じて前記光照射部と光源との間に設けられている光強度調整部で前記光源から出力された光の強度を調整する段階と、を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る医療用治療装置およびその装置の使用方法によれば、光強度調整部で光源から出力された光の強度を調整するようにしたので、きめ細かな調整を容易に行うことができ、病変部のみ障害を与えることができ、治療の副作用を抑えることができるようになる。
【0010】
また、治療状況に応じて光の強度を調整できるようにしたので、さらに精度の高い治療を行うことができ、治療の副作用を最低限に抑えることができるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
次に、本発明に係る医療用治療装置およびその装置の使用方法について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、本発明に係る医療用治療装置はPDTに使用されるものである。ここで、PDTについて簡単に説明しておく。
【0012】
PDTとは、癌などの局在した病変部を治療するための方法である。PDTにおいては、まず、生体に光感受性物質(PDT薬液)が投与される。PDT薬液が病変部に集積した後、病変部に向けて、PDT薬液を活性化させるための光が照射される。
【0013】
PDT薬液が活性化される光の光源としては、たとえば、半導体レーザ、色素レーザ、オプティカルパラメトリックオシレーター(Optical parametric oscillator)等の光が用いられる。このとき、PDT薬液の種類に応じた光の波長が選択される。
【0014】
PDT薬液が光により活性化されると、PDT薬液周辺の酸素が活性化される。活性化された酸素は、一重項酸素として強い酸化力を有する。一重項酸素の酸化力により、病変部の細胞もしくは血管が傷害され、生体が治療される。
【0015】
PDT薬液は、PDTを行うために必要な光感受性物質を言い、この光感受性物質は、所定範囲のピーク強度を有する光によって活性化するという性質を有しているものである。
【0016】
PDT薬剤としては、ポルフィリン関連化合物があり、フォトフリン、レザフィリン、ビスダイン、ATX−S10Na(II)、ALA、Lutexなどが挙げられる。
【0017】
PDT薬剤が活性化する光の強度の範囲は、導入するPDT薬剤に従って異なる。
【0018】
PDT薬液は、病変部に集積する性質を有する。しかし、その薬液は病変部の周辺の健常部にも、病変部よりは低い濃度で存在する。したがって、病変部周辺の健常部において、所定範囲の強度の光が照射されれば、健常部が傷害されてしまう。そこで、生体表面から浅部に健常部があり、その深部に病変部がある場合、健常部では損傷を与えない範囲の強度となり、病変部に到達するときに損傷を与える範囲の強度となるように、光の強度を制御する必要がある。この制御により病変部のみの選択的な治療が可能となり、健常部の傷害が防止できて、患者の肉体的な負担が軽くなる。
【0019】
以下に説明する医療用治療装置は上記のような必要性により光の強度を機械的に調節できるようにしたものである。
【0020】
図1は本発明に係る医療用治療装置の概念図である。
【0021】
図1に示されているように、本発明に係る医療用治療装置100は、光を出力する光源102と、光源102からの光を病変部104に向けて照射する光照射部110と、光源102と光照射部110とを接続する光ファイバー106と、光源102と光照射部110との間に設けられ、病変部104と光照射部110との間にある生体表面105での光の強度を調整する光強度調整部120とから構成されている。光強度調節部120の構成としては種々のものが考えられるが、その具体的な構成の一例は後で詳細に説明する。
【0022】
光源102と光ファイバー106の一部を除いて、光照射部110と光強度調整部120はケース101内に収納されている。
【0023】
光強度調整部120は光照射部110から照射される光の生体表面105でのスポット径を調整するスポット径調整手段を備え、スポット径調整手段は、生体表面105と接触する接触手段としてケース101の外表面に設けた透光性の接触部122と、光ファイバー106の照射端106Aを図示上下方向に移動させることによって、その照射端106Aと接触部122との距離L1を変更する光ファイバー移動手段130とを有している。接触部122は、ケース101に光の通過領域を開口し、その開口部分にPET、PE、ナイロン、ガラス、アクリルなどの光透過性の優れた材料で形成された窓を取り付けることによって形成されている。
【0024】
図2は本発明に係る医療用治療装置100の光学的なフィードバック系の構成を示すブロック図である。
【0025】
光源102の後段には光強度調整部120が設けられている。また、光強度調整部120の後段には光照射部110が設けられている。生体表面には生体の表面状況を検出するためのセンサ140が設けられている。センサ140には、光強度調整部120に接続された光強度指示部145が接続されている。光強度指示部145は、センサ140によって検出された生体の表面状況に応じて、光強度調整部120に光の強度の調整を指示するものである。
【0026】
なお、センサ140は波長が1270nm付近の蛍光を観察することができるものである。これは次のような理由からである。
【0027】
PDT薬液が活性化すると1270nm付近の蛍光スペクトルにピークが見られる。このピークは一重項酸素により放出される蛍光であることが知られている。したがって、PDTを行う場合には、波長が1270nm付近の蛍光の強さを観察すれば、生体の表面状況を観察することができる。なお、波長が1270nm付近の蛍光にピークが観測された場合に、PDT薬剤が活性化したと判断できる。
【0028】
センサ140は、この波長の蛍光を検出することができるものでなければならない。光電子増倍管は、受光した微弱な蛍光を増幅して検出できる超高感度光センサであるので、PDT薬液の活性化に伴ってPDT薬液から発せられる蛍光を検出するのには相応しいセンサである。したがって、本実施形態では、光電子増倍管により、波長1220nmから1320nmまでの光を測定し、1270nm付近の蛍光の強さを検出することで、生体の表面状況を検出する。
【0029】
センサ140は生体表面の温度を測定できる温度センサであっても良い。このような温度センサには、サーミスタ、金属細線などの抵抗側温体、熱電対あるいは非接触式の赤外線温度計が挙げられる。PDT薬液に光が吸収されると、薬液に吸収された光エネルギーの一部は熱となって生体温度を上昇させる。生体は、たとえば48℃で3分間加熱されると不可逆的なたんぱく質の変性を生じ障害を受ける。したがって、温度センサによって生体が凝固変性する温度を検知したときには健常部である生体表面でPDT薬液が活性化したと判断できる。
【0030】
以上のように構成された本発明に係る医療用治療装置100は概略次のように動作する。
【0031】
術者がケース101を持って病変部104上に接触部122を押し当てる。そして、レーザダイオードなどの光源102から光を出力させる。光源102からの光は光ファイバー106内を進み照射端106Aから病変部104に向けて照射される。生体表面105に設けられているセンサ140は生体の表面状況を検出している。病変部104およびその周辺には投与されたPDT薬液が存在しているため、光の照射によってその薬液が活性化され病変部104の治療が行われる。センサ140が生体の表面状況の異常を検出したら、光強度指示部145は光強度調整部120に対して光の強度の調整を指示する。光強度調整部120はその指示を受けて光ファイバー移動手段130により光ファイバー106の照射端106Aと接触部122との距離L1を変更する。
【0032】
なお、照射端106Aと接触部122との距離L1と生体表面105における光の強度との関係は、距離L1が2倍になると強度が約1/4に減少するという関係にある。
【0033】
以上のようにして、センサ130の検出結果に基づいて生体表面での光の強度が機械的に自動調整される。
【0034】
なお、以上の実施の形態においては、光ファイバー106の照射端106Aから病変部104に向けて直接光を照射したが、照射端106Aと接触部122との間にレンズなどの光学素子を介在させても良い。
【0035】
図3は、図1のように光ファイバー106の照射端106Aから病変部104に向けて直接的に光を照射するのではなく、照射端106Aと接触部122との間に光の進行方向を変える手段を設けた医療用治療装置を示す図である。
【0036】
図3に示すように、この実施の形態に係る医療用治療装置100は、光を出力する光源102と、光源102からの光を病変部104に向けて照射する光照射部110と、光源102と光照射部110とを接続する光ファイバー106と、光源102と光照射部110との間に設けられ、病変部104と光照射部110との間にある生体表面105での光の強度を調整する光強度調整部120とから構成されている。
【0037】
光照射部110は、生体の管腔内に挿入される長尺状のカテーテル本体112内に設けられ、光の進行方向を変える手段として機能し、光の進行方向を45度変えて側方照射を実現する反射鏡150とカテーテル本体112の外表面に設けた透光性の接触部122とを有している。光ファイバー106の照射端側は保持部材113によって移動自在に保持されている。
【0038】
光強度調整部120は、ホルダー154、基台156、モーター158、ボールねじ160によって構成される。ホルダー154は基台156上を移動自在に取り付けられている。ホルダー154の移動はモーター158に取り付けられたボールねじ160によって行われる。ホルダー154、モーター158、ボールねじ160は、光ファイバーの照射端106Aと接触部122との距離を反射鏡150を介して変更する光ファイバー移動手段として機能する。ホルダー154が移動すると、その移動した分だけ光ファイバー106の照射端106Aが移動する。この移動によって反射鏡150によって反射され、病変部104に照射される光のスポット径が変化する。たとえば、照射端106Aが図示実線位置にあるときには病変部104に向けてスポット径L2の光が照射され、照射端106Aが図示点線位置にあるときには病変部104に向けてスポット径L2よりも小さいスポット径L3の光が照射される。したがって、ホルダー154の移動量に応じて生体表面105における光の強度が変化することになる。
【0039】
なお、以上の実施の形態では、光の進行方向を変える手段として平面の反射鏡150を例示したが、光の進行方向を変える手段としては、これ以外にも、曲面の反射鏡を用いることもでき、さらに、プリズムやレンズのように、光を屈折させる光学系を用いることもできる。
【0040】
光ファイバー移動手段としては、図3に示したボールねじを用いる方式以外に、図4または図5に示すような構造のものとしてもよい。
【0041】
図4に示す光ファイバー移動手段は、円筒状の筒体170にらせん状の溝172を形成しておき、その溝に係合する突起を持つホルダー174に光ファイバー106を固定したものである。この構造の光ファイバー移動手段は、筒体170をモーターで回動させることによって光ファイバー106を進退移動させることができる。
【0042】
図5に示す光ファイバー移動手段は、回転体180にアーム182を固定し、アーム182に対して可動自在なホルダー184に光ファイバー106を固定したものである。この構造の光ファイバー移動手段は、回転体180をモーターで回動させることによって光ファイバー106を進退移動させることができる。
【0043】
以上の実施形態は、光ファイバー106の照射端106Aを生体表面105に対して進退移動させることによって光の強度を調整するものであった。次に示す実施形態は、光ファイバー106を機械的に移動させるのではなく、集光レンズを介して光ファイバー106に入射させる光の光学的開口数を調整するようにしたものである。
【0044】
図6は、光強度調節部120の具体的な構成を示す図である。光強度調節部120は、レーザダイオードから出力された光を集光して所定のスポット径に変換するための二つの集光レンズ161、162と、光ファイバー106の端部を保持するファイバー端ホルダー164とを有している。レーザダイオード側に位置する集光レンズ161は基台165上に固定されている。集光レンズ162は基台165上を光の光軸方向に進退移動自在に取り付けられている。集光レンズ162の移動はモーター166に取り付けられたボールねじ167によって行われる。一方、ファイバー端ホルダー164も基台165上を光の光軸方向に進退移動自在に取り付けられている。ファイバー端ホルダー164の移動はモーター168に取り付けられたボールねじ169によって行われる。
【0045】
集光レンズ161、162とファイバー端ホルダー164、および、モーター166、168とボールねじ167、169はスポット径調整手段として機能し、集光レンズ161、162は光の光ファイバーへの入射角を変化させるレンズとして機能し、モーター166およびボールねじ167はレンズを進退移動させるレンズ移動手段として機能し、モーター168およびボールねじ169は光ファイバーをレンズに対して進退移動させる光ファイバー移動手段として機能する。
【0046】
光ファイバー106の一般的な特徴として、図7に示すように、光源側(レーザダイオード側)の光ファイバーの入射NAは照射側(光照射部側)の出射NAにそのまま反映されるという特徴がある。つまり、ある角度θで光を入射するとその角度θで光が出射されるのである。したがって、光強度調節部120において、レーザダイオードからの光を集光レンズを介して光ファイバーの入射端から角度を変化させて(円錐状にして)入射させると、入射されたときの角度で光が出射されることになるので、光照射部と生体との距離を一定にしたまま、光のスポット径を調整することができ、病変部に照射される光の強度を調整することができる。
【0047】
ここで、NAとは光学的開口数と称されているものであって、θを光の入射角、nを出射媒質の屈折率とすると、NA=nsinθで表わすことができる。なお、生体の場合、nは水の屈折率と同一の1.33程度である。
【0048】
レーザダイオードから同軸光として入射したレーザ光は、焦点距離f1の集光レンズ161で集光され、一定のNA(Φ0)で集光レンズ162に入射する。集光レンズ162の位置はモーター166およびボールねじ167によって光軸中心を維持したまま光軸方向前後に移動して設定される。入射側焦点から集光レンズ162までの距離aはモーター166を回転させることで変更することができる。ビーム径DはD=atanΦ0として表すことができる。光ファイバー106にレーザ光を入射させるためには、集光レンズ162の焦点距離f2はこの距離aよりも長いことが必要である。
【0049】
集光レンズ162で集光されたレーザ光はフォーカス距離bの位置で結像する。この結像位置を光ファイバー内とすることでレーザ光が光ファイバー106内に導かれる。モーター168によって光ファイバー106の位置を動かし、導光が適切に行われるようにする。距離bはレンズの公式、1/f2=1/a+1/bによって算出することができる。光ファーバーのコア径、集光レンズ162上のビーム径およびbの値から最も効率的に導光される光ファイバー端の位置を計算することができる。
【0050】
距離Xは1−d/Dで表されるので、集光レンズ162の位置が定まれば、光ファイバー端の位置は一意に決定される。モーター166と168は、これらの位置が実現されるように、集光レンズ162と光ファイバー106の入射端の位置を調整する。
【0051】
上記のように動作する光強度調節部120を用い、集光レンズ162の位置を調整することによって、光ファイバー端への入射NAを変更することができ、出射NAを変更して病変部に照射される光の強度を調整することができる。
【0052】
図8はレンズと光ファイバーの入射端との相対位置が光のエネルギーに及ぼす影響を説明するための図である。
【0053】
たとえば、集光レンズ161の焦点距離をf1、集光レンズ162の焦点距離をf2=50mm、光ファイバーコア径を0.6mm、光源側のNAを0.5とした場合、図に示すように、集光レンズ162の位置をa=10mmとしたときには入射されるビーム径が5mm、フォーカス位置がb=12.5mmとなり、さらに、光ファイバー入射端位置をX=11.8mmとすると、光ファイバー入射端位置X+a=21.8mm、光ファイバー入射NAが0.37、生体表面のビーム径が12.2mmとなって、光の強度となる照射エネルギー密度が1になる。
【0054】
一方、集光レンズ162の位置をa=25mmとしたときには入射されるビーム径が12.5mm、フォーカス位置がb=50.0mmとなり、さらに、光ファイバー入射端位置をX=48.8mmとすると、光ファイバー入射端位置X+a=73.8mm、光ファイバー入射NAが0.24、生体表面のビーム径が11.2mmとなって、光の強度となる照射エネルギー密度が1.18になる。
【0055】
さらに、集光レンズ162の位置をa=35mmとしたときには入射されるビーム径が17.5mm、フォーカス位置がb=116.7mmとなり、さらに、光ファイバー入射端位置をX=114.7mmとすると、光ファイバー入射端位置X+a=149.7mm、光ファイバー入射NAが0.15、生体表面のビーム径が10.8mmとなって、光の強度となる照射エネルギー密度が1.27になる。
【0056】
このように、レンズ162とファイバー端ホルダー164との相対位置を変化させるだけで病変部に照射される光の強度を1〜1.27の間で調整することができる。レンズ162の位置をどこに設定するか、ファイバー端ホルダー164をどこに設定するかは、センサ130からの信号によって光強度指示部145が演算し、光強度調整部120に指示を与える。したがって、光強度指示部145には、図8に示すような、集光レンズ162の位置、ファイバー端ホルダー144の位置、集光レンズ142とファイバー端ホルダー164がそれぞれの位置にあるときの光の強度の関係を示したテーブルと、表面状況と光の強度の関係を示したテーブルとを記憶させておく必要がある。
【0057】
このような光強度調整部120を設けることによって、出射位置における光ファイバーの位置を動かすことなく、入射NAを変更することができ、光の強度の微調整ができる。
【0058】
なお、センサ140による表面状況の検出原理は上述の通りであり、センサ140としては、光電子増倍管などの超高感度光センサが用いられる。
【0059】
図9は、本発明に係る医療用治療装置の使用手順を示すフローチャートである。
【0060】
まず、術者は、光強度指示部145に治療の閾値を設定する。治療の閾値とは、病変部の治療が終了したか否かを判断するための、センサ140によって捕らえられたPDT薬剤の活性化程度、換言すれば、1270nm付近の蛍光の強さである(S11)。なお、図示されていないが、レーザダイオード102Aから出力される光の強度は、制御装置によって制御されるようになっている。制御装置には、初期治療条件として、レーザダイオード102Aから出力すべきパルス光のピーク強度、周波数、総エネルギー密度、生体に供給するPDT薬液の濃度、治療時間が設定されている。これらの条件は、予め生体を診察して得られた状況、たとえば、病変部の位置や深度に基づいて決定される。
【0061】
治療の閾値の設定が終了すると、レーザ光の照射が開始される(S12)。レーザ光が照射されている間、センサ140によって表面状況が検出される。前述のように、表面状況は、1270nm付近の蛍光の強さに基づいて検出される(S13)。光強度指示部132は検出されている蛍光の強さが、S11で設定した治療の閾値を超過しているか否かを判断する(S14)。検出されている蛍光の強さが治療の閾値を超過していなければ(S14:NO)、そのまま治療を継続する。一方、検出されている蛍光の強さが治療の閾値を超過していれば(S14:YES)、治療時間が経過したか否かが判断される(S15)。治療時間が経過していれば(S15:YES)、レーザダイオード114Aからのレーザ光の照射を停止させ、照射を終了する(S17)。一方、治療時間が経過していなければ(S15:NO)、光強度指示部132は光強度調節部120に一定の程度の強度の低下を指示する。この指示を受けた光強度調整部120は図6に示した集光レンズ162を移動させ、病変部に向けて照射される光のスポット径を調整することによって、病変部への光の照射エネルギー密度を低下させる(S16)。
【0062】
以上のように、本実施形態では、病変部に向けて照射される光の、生体表面における光強度を、機械的に調整できる機構を用いて調整できるようにしたので、きめ細かな調整を容易に行うことができ、病変部のみ障害を与えることができ、治療の副作用を抑えることができるようになる。
【0063】
なお、以上の実施形態では、管腔として尿道を例示したが、これ以外の管腔に対しても適用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明によれば、光の照射強度を病変部以外の健常部には障害を与えないように調整できるので、特にPDT治療において利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明に係る医療用治療装置の概念図である。
【図2】本発明に係る医療用治療装置の光学的なフィードバック系の構成を示すブロック図である。
【図3】本実施の形態に係る医療用治療装置を示す図である。
【図4】図3の医療用治療装置において、光強度調整部を構成する光ファイバー移動手段の他の実施形態を示す図である。
【図5】図3の医療用治療装置において、光強度調整部を構成する光ファイバー移動手段の他の実施形態を示す図である。
【図6】光強度調整部の他の実施形態を示す図である。
【図7】入射NAと出射NAとの関係の説明に供する図である。
【図8】レンズと光ファイバーの入射端との相対位置が光のエネルギーに及ぼす影響を説明するための図である。
【図9】本発明に係る医療用治療装置の使用手順を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0066】
100 医療用治療装置、
102 光源、
104 病変部、
105 生体表面、
106 光ファイバー、
106A 照射端、
108 PDT薬液注入部、
110 光照射部、
112 カテーテル本体、
120 光強度調整部、
122 接触部
130 光ファイバー移動手段、
140 センサ、
145 光強度指示部、
150 反射鏡、
161、162 集光レンズ、
164 ファイバー端ホルダー、
156、165 基台、
158、166、168 モーター、
160、167、169 ボールねじ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光を照射する光照射手段を備えた医療用治療装置であって、
前記光照射手段は、
光を出力する光源と、
前記光源からの光を病変部に向けて照射する光照射部と、
前記光源と前記光照射部とを接続する光ファイバーと、
前記光源と前記光照射部との間に設けられ、前記病変部と前記光照射部との間にある生体表面での光の強度を調整する光強度調整部と、
を有することを特徴とする医療用治療装置。
【請求項2】
さらに、
生体表面の表面状況を検出するセンサと、
前記センサによって検出された表面状況に応じて前記光強度調整部に前記光の強度の調整を指示する光強度指示手段と、
を有することを特徴とする請求項1に記載の医療用治療装置。
【請求項3】
前記光強度調整部は、
前記光照射部から照射される光の生体表面でのスポット径を調整するスポット径調整手段を備えていることを特徴とする請求項1または2に記載の医療用治療装置。
【請求項4】
前記スポット径調整手段は、
前記生体表面と接触する接触手段と、
前記光ファイバーの照射端と前記接触手段との距離を変更する光ファイバー移動手段と、
を有することを特徴とする請求項3に記載の医療用治療装置。
【請求項5】
前記スポット径調整手段は、
前記接触手段と前記光照射端との間に前記光の進行方向を変える手段を有することを特徴とする請求項4に記載の医療用治療装置。
【請求項6】
前記スポット径調整手段は、
入射NA調整手段であり、入射NA調整手段には前記光源から出力された光の前記光ファイバー入射端への入射角を変化させる入射角変更素子が備えられ、前記入射角変更素子と前記光ファイバー入射端との距離を進退調整することによって入射NAを調整することを特徴とする請求項3に記載の医療用治療装置。
【請求項7】
請求項1に記載の医療用治療装置の使用方法であって、
光照射部から病変部に向けて光を照射する段階と、
生体表面の表面状況を検出する段階と、
検出された表面状況に応じて前記光照射部と光源との間に設けられている光強度調整部で前記光源から出力された光の強度を調整する段階と、
を含むことを特徴とする医療用治療装置の使用方法。
【請求項8】
前記生体表面の表面状況を検出する段階は、センサを用いて行なうことを特徴とする請求項7に記載の医療用治療装置の使用方法。
【請求項9】
前記光源から出力された光の強度を調整する段階は、前記光照射部から病変部に向けて照射される光の生体表面でのスポット径を調整することによって行われることを特徴とする請求項7に記載の医療用治療装置の使用方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−271828(P2006−271828A)
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−98413(P2005−98413)
【出願日】平成17年3月30日(2005.3.30)
【出願人】(000109543)テルモ株式会社 (2,232)
【Fターム(参考)】