説明

半導体ウェハダイシング方法並びに半導体ウェハから切り出されたチップ及びそのチップ複数個からなるアレイ

【課題】アレイ用チップの切り出しに適した高精度且つ低損傷なダイシングを実現する。
【解決手段】半導体ウェハ100をダイシングするため、まずそのウェハ100の後面を切削して基準スロット106を形成し、そのスロット106に対し位置決めしつつウェハ後面を切削して後面スロット112を形成する。基準スロット106を基準にチップ端理想位置を定め、後面スロット112に連なるようそのチップ端理想位置に対し輻射エネルギたるレーザビーム126のエッジ130,138の位置を合わせ、ウェハ100内にそのビーム126を供給する。すると、その供給経路沿いにウェハ100の結晶構造が変化して改質域128,136が発生するので、それら改質域128の並びを境にウェハ100を分断する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体ウェハダイシング方法並びに半導体ウェハから切り出されたチップ及びそのチップ複数個からなるアレイに関し、特にレーザ光等の輻射エネルギを用いたダイシング(賽の目状の切断)に関する。
【背景技術】
【0002】
図7に、一従来技術に係る半導体ウェハダイシング方法を示す。この従来技術は、半導体ウェハ(以下単に「ウェハ」とも呼ぶ)を動力付のブレードで切断(スクライビング)して複数個のチップ乃至ダイを切り出す、というものであり、その一例としては特許文献1(譲受人:本願出願人)に記載の方法がある。同文献に記載の方法では、ブレードを用いウェハを後面から切削(カッティング)し、それにより形成される後面スロットに連通するよう、ブレードを用いそのウェハを今度は前面から切削する。前面からの切削に際しては、図示の如く、その部位が後面スロットの内法に収まるよう位置決めして切削を行う。また、ブレードをウェハに入鋸(ソーイング)することで生じる機械的応力の影響、例えばクラックの発生を緩和するため、切削に先立ち、ウェハ前面をエッチングし切削対象部位に溝を発生させる工程を実行する。
【0003】
別の例としては特許文献5に記載の方法がある。同文献に記載の方法では、まずブレードを用いウェハを半ばまで切削し、次に、そのウェハに付随するシリコンキャップ部(センサ、マイクロマシン等のウェハ上構造物を保護する部分)の内部に、レーザを用い複数の改質層を発生させる。ウェハ及びキャップ部からなる複合的な構造体は、その改質層と改質層の間に生じるクラックによって複数片に分断される。レーザの使途がキャップ部における改質層の生成であり、ウェハそのものにおける改質層の生成やその切削ではないことに留意されたい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第4814296号明細書
【特許文献2】米国特許第4860075号明細書
【特許文献3】米国特許第5153421号明細書
【特許文献4】米国特許第5753959号明細書
【特許文献5】米国特許第7498238号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、その端部同士が接触するよう複数個のチップを“ぴっしり”並べることで形成されるリニアマルチチップアレイでは、ある間隔を目標にしてチップ間隔を揃えることが求められる。例えば、その上に各複数個のセンサが並んでいるフォトセンサチップ複数個を“ぴっしり”並べフォトセンサチップアレイとして使用する場合、チップとチップの境目を跨ぎ隣り合うセンサ同士の間隔が、個々のチップ上でのセンサ間隔xと等しくなるようにすることが求められる。即ち、異チップ間センサ間隔をチップ内センサ間隔xと等しくしなければならないが、従来技術でこれを実現するには、切断に伴う損傷がチップ端に(ほとんど)生じないようウェハを高精度でダイシングする必要があった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
ここに、本発明の一実施形態に係る半導体ウェハダイシング方法は、ウェハ後面を切削して基準スロットを形成するステップと、基準スロットに対し位置決めしつつウェハ後面を切削して後面スロットを形成するステップと、基準スロットを基準に第1チップ端理想位置を定めるステップと、後面スロットに連なるよう第1チップ端理想位置に対し輻射エネルギのエッジ位置を合わせ、ウェハ内にその輻射エネルギを供給することで、その供給経路沿いにウェハの結晶構造を変化させて第1群の改質域を発生させるステップと、改質域の並びを境にウェハを分断するステップと、を有する。
【0007】
本発明の他の実施形態に係る半導体ウェハダイシング方法は、ウェハ後面を切削して基準スロットを形成するステップと、基準スロットに対し位置決めしつつウェハ後面を切削して後面スロットを形成するステップと、基準スロットを基準に第1チップ端理想位置を定めるステップと、後面スロットに連なるよう第1チップ端理想位置に対し輻射エネルギのエッジ位置を合わせ、ウェハ内にその輻射エネルギを供給することで、その供給経路沿いにウェハの結晶構造を変化させて第1群の改質域を発生させるステップと、基準スロットを基準に第2チップ端理想位置を定めるステップと、後面スロットに連なるよう第2チップ端理想位置に対し輻射エネルギのエッジ位置を合わせ、ウェハ内にその輻射エネルギを供給することで、その供給経路沿いにウェハの結晶構造を変化させて第2群の改質域を発生させるステップと、第1群及び第2群の改質域の並びを境にウェハを分断するステップと、を有する。
【0008】
本発明の更に他の実施形態に係る半導体ウェハダイシング方法は、ウェハ後面を切削して基準スロットを形成するステップと、基準スロットに対し位置決めしつつウェハ後面を切削して後面スロットを形成するステップと、基準スロットを基準にチップ端理想位置を定めるステップと、後面スロットに連なるようチップ端理想位置に対し輻射エネルギのエッジ位置を合わせ、ウェハ内にその輻射エネルギを供給することで、その供給経路沿いにウェハの結晶構造を変化させて複数個の改質域を発生させるステップと、改質域の並びを境にウェハを分断するステップと、を有する。
【0009】
本発明の他の実施形態に係る半導体チップは、前面及び後面と、前面及び後面に連なる略平坦部が生じるよう前面と後面の間に形成された端面と、それぞれその全周が略平坦部と接しており且つその大きさ及び間隔が略均一な複数個の窪みと、を備える。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】チップ群が切り出される半導体ウェハの典型的なウェハマップを示す図である。
【図2】ブレード入鋸と輻射エネルギを併用したダイシングで半導体ウェハから切り出されたチップ群を示す断面図である。
【図3】ブレード入鋸と輻射エネルギの併用で図2中の半導体ウェハをダイシングしチップを切り出す方法の一例を示す模式図である。
【図4】図3に示した部分の平面図である。
【図5】ブレード入鋸と輻射エネルギの併用で半導体ウェハをダイシングしチップを切り出す方法の別例を示す模式図である。
【図6】ブレード入鋸と輻射エネルギの併用で半導体ウェハから切り出されるチップの端面を示す図である。
【図7】一従来技術に係る半導体ウェハダイシング方法を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1に、チップ群が切り出されるウェハ100の典型的なウェハマップを示す。このウェハ100はシリコンウェハであるが、本件技術分野で既知の他の半導体ウェハでもかまわない。また、この図はウェハ100におけるチップ乃至ダイ(以下「チップ」と称する)のレイアウト例を示したものであり、これに従いウェハ100を縦横に切断することで複数個のチップ、例えばアレイ化して使用されるフォトセンサチップ群を得ることができる。そうしたリニアマルチチップアレイでは、前述の如く、その端部同士が接触するようチップを複数個“ぴっしり”並べて使用する。そのため、チップとチップの境目を挟み隣り合うセンサ同士の間隔が目標間隔付近となるよう、ウェハを高精度に切断乃至ダイシングしてチップ端の損傷を抑える必要がある。具体的には、チップ同士の境目でセンサ間隔が目標間隔から大きく外れないよう、チップの切り出しを所定の公差以内、例えば±約3μm以内の精度で行うことや、縦切断線(縦ストリート)102の幅を最小限に抑えること、例えば80μm以内の幅にすることが求められる。縦切断線102の幅を抑えるのは、ウェハ製造現場でのウェハ処理に当たり、その線102が監視乃至整列の基準線として使用されるからである。
【0012】
図2に、ブレード入鋸と輻射エネルギの併用で半導体ウェハから切り出される複数個のチップ104の断面を示す。切り出し元となったウェハは図1に示した半導体ウェハ100であり、後述の通り輻射エネルギを併用してダイシングされている。その輻射エネルギとしては、レーザ光源に発するレーザビームを使用するのが望ましいが、レーザ以外の輻射エネルギ乃至輻射エネルギ源を使用し本発明を実施することもできる。また、ウェハ100のうちチップ104が切り出される部分の外側、即ち図1中で縦切断線102Aと線110に挟まれている部分108には基準スロット(基準カット)106が形成されている。この基準スロット106は、その前面115又は後面114からウェハ100を切削することで形成することができる。基準スロット106を形成する位置は、前面115又は後面114に基準切れ込み(小基準子)を設け、その位置を基準にして定めるとよい。基準スロット106を形成する手段としては、ブレードの入鋸等、本件技術分野で既知の切削手段を任意に使用することができる。
【0013】
このウェハ100から複数個のチップ104を切り出す際には、その後面114にブレード入鋸等の手段で後面スロット(後面カット)112を形成する一方、そのウェハ100の内部にレーザビーム等の輻射エネルギを供給し、それによってウェハ100内に複数個の改質域を発生させる。チップ104は、改質域の並びに沿いウェハ100を分断することで得ることができる。改質域及びそれを形成するための輻射エネルギについてはまた後で説明する。後面スロット112及び改質域を形成する位置の目標(理想位置)は、本件技術分野で既知の如く、基準スロット106を基準にして定めることや、既知位置を示す小基準子等を基準にして定めることができる。
【0014】
図3に、図2に示したウェハ100をブレード入鋸と輻射エネルギの併用でダイシングし、チップ104A(一部のみ図示)やチップ104Bを切り出す方法の例を模式的に示す。本方法では、まず、ウェハ100にブレードを2回入鋸して後面スロット112を形成する。入鋸回数は、形成したい後面スロット112の幅や、使用するブレード120の厚みを踏まえ、後述の通り1回にすることもできる。入鋸回数を2回にすると形成される後面スロット112が広めになるので、接触型イメージセンサアレイアセンブリ等の多チップ横並び型アセンブリにおける公差を高水準にすることができる。また、こうして後面スロット112を形成するのは、レーザビームによるダイシングを可能にするためである。即ち、レーザビーム等の輻射エネルギでウェハ100をその全厚122に亘りダイシングするのは無理かもしれないが、後面スロット112を形成して薄くした部位ならば成功裏にダイシングすることができよう。例えば、200〜300μm程度の厚み124まで薄くするのが望ましい。
【0015】
次いで、図3及びそれと同じ部分の平面図たる図4に示す如く、ウェハ100内に輻射エネルギを供給し、その供給経路上に改質域128,136を発生させる。その際には、まず、輻射エネルギたるレーザビーム126のエッジ130を、一方のチップ端を配したい位置(第1チップ端理想位置)132や後面スロット112に対し所定の位置関係となるよう位置決めする。例えば、基準スロット106の位置を基準に第1チップ端理想位置132を定めておき、図3中の方向134に沿い後面スロット112に連なるよう、第1チップ端位置132又はそこから所定距離離れた場所にビームエッジ130を位置決めする。次に、輻射エネルギたるビーム126を、その供給経路沿いに複数個の改質域(第1群の改質域)128が生じるようウェハ100内に供給する。使用するビーム126は例えば周期的なパルスレーザビーム、その輻射源は例えば合焦赤外レーザ光源である。そして、改質域128の並びを境に且つ第1チップ端理想位置132にてウェハ100を分断することで、チップ104B相当部分(及び境目部分135)をウェハ100から分離させる。その分断手段としては本件技術分野で既知の諸手段を使用することができる。例えば、図示しないダイシングフィルムを用い引張応力を発生させるとよい。改質域128の並びを境にウェハ100を破断させてもよい。第1チップ端位置132に対する分断位置の精度については後述する。
【0016】
同様に、輻射エネルギたるレーザビーム126のエッジ138を、もう一方のチップ端を配したい位置(第2チップ端理想位置)140や後面スロット112に対し所定の位置関係となるよう位置決めする。例えば、基準スロット106の位置を基準に第2チップ端理想位置140を定めておき、図3中の方向134に沿い後面スロット112に連なるよう、第2チップ端理想位置140又はそこから所定距離離れた場所にビームエッジ138を位置決めする。次に、輻射エネルギたるビーム126を、その供給経路沿いに複数個の改質域(第2群の改質域)136が生じるようウェハ100内に供給する。使用するビーム126は例えば周期的なパルスレーザビームである。そして、改質域128の並びを境に且つ第2チップ端理想位置140にてウェハ100を分断することで、チップ104A相当部分(及び境目部分135)をウェハ100から分離させる。これにより、本方法によるダイシングが終了する。その分断手段としては本件技術分野で既知の諸手段を使用することができる。例えば、図示しないダイシングフィルムを用い引張応力を発生させるとよい。改質域136の並びを境にウェハ100を破断させてもよい。第2チップ端理想位置140に対する分断位置の精度については後述する。
【0017】
なお、ウェハ100内に各複数個の改質域128,136を発生させるには、例えば、使用する輻射エネルギの焦点を調整していけばよい。即ち、輻射エネルギ供給による部位毎の昇温及びそれに続く除熱で複数個の改質域128,136が生じるよう、輻射エネルギたるレーザビーム126の焦点を調整していけばよい。その場合、個々の改質域形成対象部位では、ビーム126の作用で少なくとも部分的に液化し結晶構造が脆化する等、そのウェハ100の結晶構造に変化が現れる。改質域128,136における結晶構造を実質的に消失させ、ウェハ形成素材を実質的に粒状化させること、即ち砂状にすることもできる。ウェハ100の前面115及び後面114における昇温及び性質変化については、ビーム126の焦点を適宜調整して抑えることができる。なお、本願でいう改質域とは、半導体ウェハの内部乃至表面にあり、輻射エネルギに曝された結果、分子レベルの物理変化が生じている部分のことである。
【0018】
ウェハ100からチップ104を分離させる際には、図2〜図4に示す如く、ウェハ100上の既知位置、例えば小基準子や基準スロット106の位置を基準にしてチップ端理想位置132,140を定め、その位置132,140(基準までの距離)を保ちながらウェハ100、レーザビーム126又はその双方を逐次変位させていくとよい。こうすることで、端壁142を有するチップ104をウェハ100から切り出すことができる。
【0019】
ウェハ100からチップ104を分離させる際には、更に、第1チップ端理想位置132と第2チップ端理想位置140の間にあり、その幅146が後面スロット112の幅144よりも小さい境目部分135を、ウェハ100の他の部分から分離させるのが望ましい。この部分135は使用されないので無地でもかまわないが、ウェハ100の製造に役立つ形状的な特徴を1個又は複数個設けるのが望ましい。例えば、図示しないが、ウェハ製造現場におけるウェハ処理で使用される監視及び配置の基準線等である。境目部分135にそうした形状的特徴を設けることで、チップ140として使用できない部分135をウェハ100の製造に役立てることができる。しかも、その形状的特徴を、ダイシングによって境目部分135もろとも分離、除去することができる。
【0020】
対応するチップ端理想位置132,140に対しビームエッジ130,138を位置決めする際には、後面スロット112におけるウェハ厚124に従い輻射エネルギのビーム拡がりに対処するとよい。例えば、その部位の厚み124が小さめならビームエッジ130,138を対応するチップ端理想位置132,140の近くに位置決めし、大きめなら遠くに位置決めする、といった具合である。レーザビーム126は、方向134に沿い進むにつれそれと直交する方向に拡がっていくので、厚み124が大きめの場合にそのエッジ130,138を理想位置132,140から遠ざけることで、そのビーム拡がりの影響を抑えることができる。
【0021】
ウェハ100内に改質域128,136を発生させる際には、そのためのレーザビーム126を、図示の如くウェハ100の前面115に対しほぼ直交する方向から入射してもよいし、その面115に対し鋭角をなす方向から入射してもよい。前者の場合、ウェハ100からチップ104を分離させるとき、ウェハ100の前面115と端壁42の表面148との境に略方形断面の尖り150が発生する。後者の場合、後面スロット112のエッジがチップ端理想位置132,140から外向きに拡がりテーパ状になるので、隣接チップ間の接触面積が小さめになる。即ち、端壁142の表面148のうちウェハ100の前面115に近い部位が、隣接する他のチップ104側のそれと直に接触することがなくなる。そのため、接触部分に突起等の欠陥が生じ、それが妨げになってしまい目標とする隣接チップ間公差が達成できない、といったことが生じにくくなる。
【0022】
ウェハ100内に改質域128,136を発生させる際には、また、チップ端理想位置132,140を基準にした改質域形成処理を繰返し実行し、その位置132,140に精度よくチップ端を発生させるようにしてもよい。例えば、理想位置132から第1所定距離の位置に第1の改質域を発生させる一方、理想位置132から第2所定距離(第2所定距離<第1所定距離)の位置に第2の改質域を発生させるようにしてもよい。ウェハ100からチップ104を分離させる際には、まず第1の改質域にてウェハ100を分断する。この段階で発生するエッジや面は粗くてもよく、高い精度は求められない。その後は、第2の改質域にてウェハ100を分断し、チップ端を概ねその理想位置132にて発生させる。
【0023】
ウェハ100の端面例えば142の形成位置は、そのウェハ100上の既知位置又は各チップ104上の既知位置を基準に、できるだけ高精度となるよう定めるのが望ましい。ここに、図7に示した従来技術で実現できる端面位置精度がおよそ±3μmであるところ、図1〜図4に示した方法では、およそ±1〜2μmという高い端面位置精度を実現することができ、従って接触又は対向するチップ間の位置公差をより小さくすることができる。ひいては、より高精度なチップ乃至そのアレイを実現すること、例えばその分解能がより高いフォトセンサチップ及びそのアレイを実現することができる。
【0024】
図5に、ブレード入鋸と輻射エネルギの併用でウェハ100をダイシングしチップを切り出す方法の別例を模式的に示す。この例は、ウェハ100上の隣接チップ端間を分断するに当たり、輻射エネルギ例えばレーザビーム126の供給を1回で済ませる例である。この例では、ウェハ100のうちチップの切り出し元部位より外側にある部分108に、切削によって基準スロット106を形成する。また、ウェハ100の後面114に、前掲の後面スロット112のそれと同様の要領による切削で後面スロット200を形成する。更に、その供給経路に沿い一群の改質域202が発生するよう、ウェハ100内に輻射エネルギを供給する。例えば、スロット106の位置を基準にしてチップ端理想位置204を定め、そのチップ端理想位置204に対し且つ前掲の如く後面スロット200に連なるよう位置決めしつつ、輻射エネルギたる周期パルス状のレーザビーム126を供給する。ビーム126の供給経路は、そのビーム126がチップ端理想位置204上に概ね集中するよう、或いはその一部がチップ端理想位置204に被さるように定める。そして、改質域202の並びに沿いウェハ100を分断することで、改質域202の各側に位置するチップ例えば206A及び206Bをそのウェハ100から分離させる。こうした処理を好適に活用できるのは、チップ端の位置に関する要求精度が低めの場合である。例えば、チップ端の位置公差がおよそ±5μmなら、この図に示した処理を好適に適用することができる。
【0025】
ただ、図1〜図4を参照して説明した通り、縦切断線102に沿った切断にも横切断線152に沿った切断にも、やはり、図1〜図4に示した方法を適用するのが望ましい。ブレードの種類や輻射エネルギ供給の回数を、縦切断時,横切断時間で同じ種類、同じ回数にすることができるからである。但し、縦切断及び横切断のうちエッジの精細度乃至精度があまり肝要でない方についてなら、輻射エネルギ供給の回数を図5の如く1回とするのが有益である。通常は、他のチップ端とぶつかるチップ端に沿った方向よりも、チップ長手方向の方がエッジ精細度の肝要度が低いので、輻射エネルギの供給を1回にするならチップ長手方向沿い切断の方がよいであろう。このほか、レーザビーム供給1回で縦切断線を形成しても要求精度を満たせる場合等に、図5に示した方法を好適に適用することができる。
【0026】
複数回の輻射エネルギ供給で複数群の改質域を発生させ、その並びを境に分断してウェハ100から所要部分を分離させる方法、例えば図1〜図4に示した方法には、少なくとも次のような利点がある:
1)使用する縦切断線102の幅をプロセス制御上の必要に応じ随意に定めることができる。それでいて、必要な長さになるよう精度よく、またチップ同士を精度よく並べるのに差し支える不要なエッジ凹凸を発生させることなく、個々のチップを切り出すことができる。即ち、本方法によれば、不要なエッジ凹凸の発生を抑え又は防ぐことができる;
2)輻射エネルギのビーム幅154がどうであれ、その(シリコン)ウェハ上で隣り合っている個々のチップの端部例えば尖り150を、その深さを問わず、対応する理想位置に精度よく配することができる;
3)チップ端理想位置132,140等に対する輻射エネルギのビーム位置を厚み124の違いに応じて調整し、厚み124の違いによるビーム拡がりの違いに対処することができる。これは、図5に示す如く輻射エネルギのビームを1回供給するだけの輻射エネルギ供給動作では、隣接チップへの浸透が生じるため実現できないことの一つである;
4)単一チップ端当たりの輻射エネルギ供給回数を複数回にし、初回は粗く、次いで精細に分断することができる。即ち、余分な素材の大半を粗な分断で除去し、精細な分断で精細なエッジを形成することができる。
【0027】
図6に、ブレード入鋸と輻射エネルギの併用でウェハから切り出されるチップ104の端面148を示す。ここでは図2〜図4に示したチップ104を例にして説明するが、図5に示したチップでも同様である等、ブレード入鋸と輻射エネルギの併用で形成されるどのようなチップに対しても以下の説明を適用しうるものと理解されたい。まず、このチップ104は、前面115、後面114及びそれらの間を結ぶ端面148を有している。その面148には、前面115及び後面114に連なる略平坦部160があり、その略平坦部160上には、複数個の窪み162が規則的に並んでいる。窪み162はいずれもほぼ同じ大きさであり、その間隔もほぼ均一になっている。
【0028】
それらのうち窪み162は改質域128,136の名残、略平坦部160はウェハ100の端面148のうち改質域128,136を囲んでいた部分の名残である。即ち、改質域128,136内のウェハ形成素材は改質により例えば粒状乃至砂状になっているので、ウェハ100が分断され改質域128,136が露わになるとそこから脱落し(或いは容易に除去可能な状態となり)、その跡を示す窪み162が面148上に現れる。そのため、窪み162の大半は、その全周164に亘り略平坦部160に囲まれている。図示しないが、ウェハ104の前面115、後面114又はその双方に連通する窪み162が幾つか発生することもある。縦エッジ168に連通する窪み166、即ち複数の端壁面に跨る窪みも発生しうる。
【0029】
窪み162の設け方としては、図示しないが、複数個の窪み162が方向170に沿いある間隔で一列に並ぶようにする設け方がある。即ち、窪み162が方向134に沿い並びも重なりもしない設け方である。方向170に沿った窪み162の間隔は等間隔にするのが望ましい。
【0030】
窪み162の設け方としては、更に、複数個の窪み162が方向134沿いに並んで個々の集まり172を形成し、その集まり172が方向170に沿いある間隔で複数個並ぶようにする設け方もある。図6に示した例では個々の集まり172がそれぞれ2個の窪み162で構成されているが、集まり172を構成する窪み162の個数はこれとは違う個数にすることもできる。また、この例では、集まり172を構成する窪み162の個数を、どの集まり172でも同じ個数にしてある。ウェハ100の前面115及び後面114から窪み172までの距離、方向134に沿った窪み162同士の間隔、方向170に沿った集まり172同士の間隔等も均一である。
【符号の説明】
【0031】
100 半導体ウェハ、102,102A 縦切断線、104,104A,104B,206A,206B チップ、106 基準スロット(基準カット)、108 ウェハの一部分、110 線、112,200 後面スロット(後面カット)、114 ウェハ後面、115 ウェハ前面、120 ブレード、122 ウェハ全厚、124 後面スロット内ウェハ厚、126 レーザビーム、128,136,202 改質域、130,138 ビームエッジ、132,140,204 チップ端理想位置、134 後面スロット及びビームの方向、135 チップ間の境目部分、142 端壁、144 後面スロット幅、146 チップ端理想位置間の隙間の幅、148 端壁の表面、150 尖り、152 横切断線、154 ビーム幅、160 略平坦部、162 窪み、164 窪みの全周、166 縦エッジに通ずる窪み、168 縦エッジ、170 窪み並び方向、172 窪みの集まり。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウェハ後面を切削して基準スロットを形成するステップと、
基準スロットに対し位置決めしつつウェハ後面を切削して後面スロットを形成するステップと、
輻射エネルギのエッジ位置と揃うよう、後面スロット形成部位におけるウェハの前後面厚みに従い且つ基準スロットを基準に、チップ端理想位置を定めるステップと、
後面スロットに連なるようチップ端理想位置に対し輻射エネルギのエッジ位置を合わせ、ウェハ内にその輻射エネルギを供給することで、その供給経路沿いにウェハの結晶構造を変化させて複数個の改質域を発生させるステップと、
ウェハの前後面間に跨るチップ端面が発生し、且つそのチップ端面の少なくとも一部とウェハ前面との境に略方形の尖りが発生するよう、改質域の並びを境にウェハを分断するステップと、
を有する半導体ウェハダイシング方法。
【請求項2】
センサチップ、感光チップ、電荷結合デバイス内フォトサイト、発光ダイオード内フォトサイト、CMOSイメージャチップ、微細電気機械システムチップ、毛管チャネルチップ及びプリントヘッドチップのいずれかであり、請求項1記載の半導体ウェハダイシング方法に従いその端部のうち2個が形成されたチップ。
【請求項3】
ウェハ後面を切削して基準スロットを形成するステップと、
基準スロットに対し位置決めしつつウェハ後面を切削して後面スロットを形成するステップと、
基準スロットを基準に第1チップ端理想位置を定めるステップと、
後面スロットに連なるよう第1チップ端理想位置に対し輻射エネルギのエッジ位置を合わせ、ウェハ内にその輻射エネルギを供給することで、その供給経路沿いにウェハの結晶構造を変化させて第1群の改質域を発生させるステップと、
基準スロットを基準に第2チップ端理想位置を定めるステップと、
後面スロットに連なるよう第2チップ端理想位置に対し輻射エネルギのエッジ位置を合わせ、ウェハ内にその輻射エネルギを供給することで、その供給経路沿いにウェハの結晶構造を変化させて第2群の改質域を発生させるステップと、
第1群及び第2群改質域の並びを境にウェハを分断するステップと、
を有し、第1群の改質域を発生させる際の輻射エネルギ供給経路と、第2群の改質域を発生させる際の輻射エネルギ供給経路と、の間隔が、後面スロットの幅より小さい半導体ウェハダイシング方法。
【請求項4】
前面及び後面と、
前面及び後面に連なる略平坦部が生じるよう前面と後面の間に形成された端面と、
それぞれその全周が略平坦部と接しており且つその大きさ及び間隔が略均一な複数個の窪みと、
を備え、それら複数個の窪みによって少なくとも1個の集まりが形成されており、個々の集まりが前面及び後面に対し略直交する第1方向に沿い並ぶ複数個の窪みを含んでおり、その集まりが第1方向に対し略直交する第2方向に沿い等間隔で並んでいる半導体チップ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−135075(P2011−135075A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−281107(P2010−281107)
【出願日】平成22年12月17日(2010.12.17)
【出願人】(596170170)ゼロックス コーポレイション (1,961)
【氏名又は名称原語表記】XEROX CORPORATION
【Fターム(参考)】