説明

半導体ウェハーの前処理剤及び前処理方法

【課題】銅シード層を設けた半導体ウェハーの、トレンチ・ビアの入り口付近に過剰に付着した銅シード層を溶解し、その後電気銅めっき、無電解銅めっきによるネッキングを防止し、トレンチ・ビア内部の完全な埋め込みが可能となる前処理剤を提供することを目的とする。
【解決手段】アンモニウムイオン濃度が0.1g/L以上で、pHが11以上であることを特徴とするシード層を有する半導体ウェハーの前処理剤。該前処理剤は、金属イオンを含有しないことが好ましく、更に界面活性剤を含有することが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体ウェハーに銅配線を形成する工程の前処理として、銅シード層を溶解する前処理剤及び前処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、半導体ウェハーに銅配線を形成するには、シリコンウェハー上にトレンチ・ビア等の配線パターンを形成後、バリア層及びシード層を成膜し、その後電気めっき、無電解めっきにより配線パターンを埋め込み、さらに余分な析出物を除去するというプロセスが用いられている。半導体ウェハーに、トレンチ・ビア等配線パターンを形成後、電気銅めっき、または無電解銅めっきを適用する場合には予め銅シード層を形成するが、現在は主にスパッタリング法により銅シード層を形成している。また、銅シード層を無電解銅めっきにより形成する場合では、バリア層との密着力を向上させるために銅スパッタ層を設ける場合がある。
【0003】
しかし、配線が微細化してくると、トレンチ・ビア内部の側面には銅スパッタ膜が付き難い反面、入り口付近に銅スパッタ膜が過剰に付き易い。すると、その後電気銅めっきや無電解銅めっきを行う際にネッキング(銅析出によって入り口付近が塞がり奥の部分に隙間ができる現象)が発生しやすい。その結果、シーム、ボイド等が発生し、トレンチ・ビア内部が銅で完全に埋まりきらない問題が起こってくる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、銅シード層を設けた半導体ウェハーの、トレンチ・ビアの入り口付近に過剰に付着した銅シード層を溶解し、その後電気銅めっき、無電解銅めっきを施した際のネッキングを防止し、トレンチ・ビア内部の完全な埋め込みが可能となる前処理剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題について鋭意検討した結果、半導体ウェハーにおいて銅シード層を設けた後、特定の前処理剤で処理し、トレンチ・ビアの入り口付近に過剰に付着した銅シード層を溶解することにより、上記課題を解決することができることを見出し、本発明に至った。
【0006】
即ち、本発明は以下のとおりである。
(1)アンモニウムイオン濃度が0.1g/L以上で、pHが11以上であることを特徴とする銅シード層を有する半導体ウェハーの前処理剤。
(2)金属イオンを含有しないことを特徴とする前記(1)記載の銅シード層を有する半導体ウェハーの前処理剤。
(3)更に界面活性剤を含有することを特徴とする前記(1)又は(2)記載の銅シード層を有する半導体ウェハーの前処理剤。
(4)前記界面活性剤の濃度が0.1g/L以上であることを特徴とする前記(3)に記載の銅シード層を有する半導体ウェハーの前処理剤。
(5)トレンチの幅又はビア径が100nm以下のものを含み、銅シード層を有する半導体ウェハーに適用することを特徴とする前記(1)〜(4)のいずれか一項に記載の銅シード層を有する半導体ウェハーの前処理剤。
【0007】
(6)銅シード層を形成後、前記(1)〜(5)のいずれか一項に記載の半導体ウェハーの前処理剤を用いて処理することを特徴とする半導体ウェハーの前処理方法。
(7)銅シード層を形成し、前記(1)〜(5)のいずれか一項に記載の半導体ウェハーの前処理剤で処理した後、銅配線を形成したことを特徴とする半導体ウェハー。
(8)前記銅配線が、電気銅めっき、又は無電解銅めっきによって形成されたことを特徴とする前記(7)に記載の半導体ウェハー。
【発明の効果】
【0008】
銅シード層を有する半導体ウェハーの、銅配線を形成する工程の前に本発明の前処理剤で処理することにより、トレンチ・ビアの入り口付近に付着した過剰の銅シード層を溶解することができ、その後の銅めっきを行った際のネッキングを防止し、トレンチ・ビア内部の完全な埋め込みが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の半導体ウェハーの前処理剤は、例えば、銅配線を埋め込むためのトレンチ・ビアを設け、その表面にチタン(Ti)、タンタル(Ta)、タングステン(W)又はこれらの窒化物等から選ばれるバリアメタルを蒸着、スパッタリング、CVD法等により被膜(バリア層)し、そしてこの上に薄い銅の層(シード層)を設けた半導体ウェハーに適用することができる。銅シード層をスパッタリング等により設けた場合等における、トレンチ・ビアの入り口付近に過剰に付着した銅シード層を、本発明の前処理剤を用いて処理することにより、過剰の銅層が溶解し、トレンチ・ビアの入り口付近の間口を広げることができる。したがって、この後の電気銅めっきや無電解銅めっきを行った際のネッキングを防止し、トレンチ・ビア内部の完全な埋め込みが可能となる。この際、トレンチ・ビア内部のシード層を溶解することなく入り口付近の銅シード層を溶解するよう溶解量を制御する必要があるため、適切な溶解速度を有することが重要である。溶解速度が大きすぎると適切な溶解量の制御が困難となる。
【0010】
銅の溶解は、アルカリ性であってアンモニウムイオンを(NH+)を含む溶液で生じる。したがって、溶解量を制御するためには、前処理剤のpHとアンモニウムイオン濃度が一定の条件を満たす必要がある。
本発明の前処理剤は、アンモニウムイオン濃度が0.1g/L以上で、pHが少なくとも11以上である。
先ず、pHは少なくとも11以上、望ましくは12以上が必要である。pHが低いと銅が溶解せず、十分に高くないと銅の溶解速度が落ち、前処理効果が低下する。pHは14とすることもできるが、高くし過ぎると、アルカリの使用量が多くなり不経済となる。
また、アンモニウムイオン濃度は少なくとも0.1g/L以上、望ましくは0.5g/L以上が必要である。濃度が低いと銅の溶解速度が落ち、前処理効果が低下する。またアンモニウムイオン濃度は高過ぎても効果が飽和し、アンモニウムイオン含有物の使用量が多くなり不経済となるので、10g/L以下とすることが好ましい。アンモニウムイオンを含む具体的な物質としては、硫酸アンモニウム、リン酸アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム、リン酸二水素アンモニウム、炭酸アンモニウム、塩化アンモニウム、水酸化アンモニウム等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0011】
本発明の前処理剤は、pH11以上とすることが重要であり、このためpH調整剤を添加する。このpH調整剤としては特に制限はなく、前記所定のpHとすることができるものであれば良い。具体的にはTMAH(テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド)、テトラエチルアンモニウムハイドロオキサイド、トリメチルヒドロキシエチルアンモニウムハイドロオキサイド、トリエチルヒドロキシエチルアンモニウムハイドロオキサイド、水酸化アンモニウム、水酸化ナトリウム等が挙げられる。
半導体の製造工程中にアルカリ金属をはじめとする金属イオンが残留すると悪影響を及ぼす場合が多いため、本発明の前処理剤は金属イオンを含有しないことが好ましい。したがって、pH調整に用いるアルカリとしては金属イオンフリーのアルカリを使用することが好ましい。具体的にはTMAH(テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド)、テトラエチルアンモニウムハイドロオキサイド、トリメチルヒドロキシエチルアンモニウムハイドロオキサイド、トリエチルヒドロキシエチルアンモニウムハイドロオキサイド等が好ましい。
本発明の前処理剤は、水溶液中にアンモニウムイオン濃度が0.1g/L以上となるようにアンモニウムイオンを含有する化合物を溶解し、pHを好ましくは金属イオンフリーのアルカリを用いて、11以上に調整して得られる。
【0012】
また、界面活性剤は、処理表面の汚れの除去を促進し、銅膜形成の均一性を高めるため、本発明の前処理剤中にこれを加えても良い。界面活性剤の濃度は、低いと汚染除去効果が低いため、0.1g/L以上が好ましく、より好ましくは0.5g/L以上である。界面活性剤の種類は特に限定しないが、高pHの溶液に使われるため、非イオン性界面活性剤が適しており、例えばポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリプロピレングリコールにエチレンオキサイドを付加して得られたプルロニック型の界面活性剤等を好ましく用いることができる。
【0013】
前処理方法としては、半導体ウェハーを前処理剤中に浸漬すればよく、前処理剤の温度は40〜60℃が好ましい。温度が低すぎると溶解速度が遅くなり、高すぎると溶解速度が速くなり制御が困難になる。又温度が高すぎると蒸発によるアンモニウムイオン濃度の減少が激しく浴安定性が低くなる。処理時間は、溶解する銅シード層の厚さにより異なるが、1〜5分が好ましい。
また、本発明の前処理剤で処理した後に行う電気銅めっき、無電解銅めっきは、特に限定されるものではなく、一般的なめっき液、方法により行うことができる。
【0014】
トレンチの幅、ビアの径は微細化するほど銅シード層を設けた場合にその入り口付近に過剰に付着する銅層により塞がれ易くなる。本発明の前処理剤を用いることにより、トレンチの幅、ビアの径が100nm以下のものを含む半導体ウェハーにおいても、トレンチ・ビア部に銅を埋め込んだ後、ボイドやシームが観察されない。
【実施例】
【0015】
次に、本発明の実施例及び比較例について説明する。
実施例1〜6及び比較例1〜6
表2記載のトレンチ又はビアパターン付のシリコンウェハーに、スパッタリングで厚さ30nmのTaバリア層、厚さ5〜10nmの銅シード層を設け、表1に示す前処理剤・条件にて前処理を行い、トレンチ・ビアに表2に示す方法で銅を埋み、トレンチ・ビアパターンへの埋め込み性を確認した。具体的には、断面を20万倍でFE−SEM観察した時に、点状の空洞(ボイド)、線状の空洞(シーム)の有無を調べた。結果を表2に示す。
【0016】
【表1】

【0017】
【表2】

【0018】
尚、表2中、銅埋め込み方法は以下のとおりである。
<電気めっき>
硫酸銅を含有する下記めっき液、めっき条件にて電気銅めっきを行った。
硫酸銅五水和物 100g/L
硫酸 200g/L
塩素 50mg/L
高分子界面活性剤(抑制剤) 0.5g/L
(ポリエチレングリコール(Mw4,000)
硫黄系飽和有機化合物(促進剤) 5mg/L
(ビス−(3−スルフォプロピル)ジスルフィド)
有機染料化合物(レベリング剤) 1mg/L
(ヤヌスグリーンB)
めっき温度 25℃(室温付近)
電流密度 0.5A/dm2
【0019】
<無電解めっき>
無電解めっき(1)
(触媒付与処理→活性化処理→無電解銅めっき)
イミダゾールシランとγ−グリシドキシプロピルトリメトキシシランとの等モル反応生成物であるシランカップリング剤を0.016重量%含んだ水溶液に塩化パラジウム水溶液を50mg/Lになるように添加して調製しためっき前処理剤に50℃で5分間浸漬処理後、200℃で15分間熱処理し、次いで、無電解銅めっきを60℃で30分間実施した。めっき液の組成は、硫酸銅0.02mol/L、エチレンジアミン四酢酸塩0.16mol/L、グリオキシル酸0.03mol/L、ホスフィン酸0.09mol/L、2,2’−ビピリジル10mg/L、ポリアクリルアミド(Mw6,000,000、Mw/Mn=2.4)50mg/L、pH12.5(pH調整剤:水酸化カリウム)である。
【0020】
無電解めっき(2)
無電解めっき(1)と同様の方法で前処理後、無電解銅めっきを60℃で30分間実施した。めっき液の組成は、硫酸銅0.04mol/L、エチレンジアミン四酢酸塩0.4mol/L、グリオキシル酸0.1mol/L、ホスフィン酸0.1mol/L、2,2’−ビピリジル10mg/L、ポリアクリルアミド(Mw6,000,000、Mw/Mn=59.4)5mg/L、pH12.5(pH調整剤:水酸化カリウム)である。
【0021】
無電解めっき(3)
無電解めっき(1)と同様の方法で前処理後、無電解銅めっきを60℃で60分間実施した。めっき液の組成は、硫酸銅0.04mol/L、エチレンジアミン四酢酸塩0.4mol/L、グリオキシル酸0.1mol/L、ホスフィン酸0.1mol/L、2,2’−ビピリジル10mg/L、ポリエチレンイミン(Mw1,800、Mw/Mn=2.0)100mg/L、pH12.5(pH調整剤:水酸化カリウム)である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンモニウムイオン濃度が0.1g/L以上で、pHが11以上であることを特徴とする銅シード層を有する半導体ウェハーの前処理剤。
【請求項2】
金属イオンを含有しないことを特徴とする請求項1記載の銅シード層を有する半導体ウェハーの前処理剤。
【請求項3】
更に界面活性剤を含有することを特徴とする請求項1又は2記載の銅シード層を有する半導体ウェハーの前処理剤。
【請求項4】
前記界面活性剤の濃度が0.1g/L以上であることを特徴とする請求項3に記載の銅シード層を有する半導体ウェハーの前処理剤。
【請求項5】
トレンチの幅又はビア径が100nm以下のものを含み、銅シード層を有する半導体ウェハーに適用することを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の銅シード層を有する半導体ウェハーの前処理剤。
【請求項6】
銅シード層を形成後、請求項1〜5のいずれか一項に記載の半導体ウェハーの前処理剤を用いて処理することを特徴とする半導体ウェハーの前処理方法。
【請求項7】
銅シード層を形成し、請求項1〜5のいずれか一項に記載の半導体ウェハーの前処理剤で処理した後、銅配線を形成したことを特徴とする半導体ウェハー。
【請求項8】
前記銅配線が、電気銅めっき、又は無電解銅めっきによって形成されたことを特徴とする請求項7に記載の半導体ウェハー。

【公開番号】特開2008−1963(P2008−1963A)
【公開日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−174696(P2006−174696)
【出願日】平成18年6月26日(2006.6.26)
【出願人】(591007860)日鉱金属株式会社 (545)
【Fターム(参考)】