説明

半導体デバイスおよびディスプレイ装置

【課題】クロック信号の復帰時に発生する誤動作を防止する。
【解決手段】クロック分配回路10は、クロック信号CKを受け、複数の経路P1〜P3に分配する。デジタル回路30は、複数の経路P1〜P3に対応づけられた複数の領域R1〜R3に分割されている。各領域R1〜R3が共通の電源電圧Vddを受ける。また各領域R1〜R3はクロック分配回路10により分配されたクロック信号CK1〜CK3と同期動作する。クロック分配回路10は、クロック信号CKが非入力状態から入力状態に遷移するとき、複数の経路P1〜P3それぞれに対して、時間差を付けてクロック信号を分配する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クロック信号と同期動作する半導体デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
液晶ディスプレイなどのFPD(フラットパネルディスプレイ)には、グラフィックチップから送信される画像データを受信し、適切なタイミングにてゲートドライバおよびソースドライバへと転送するタイミングコントローラと呼ばれる回路が設けられる。
【0003】
近年のFPDには、消費電力を抑えるために、表示する画像の特性(解像度や色数)に応じて、グラフィックチップからタイミングコントローラに対する画像データの伝送周波数を切りかえるものが存在する。
【特許文献1】特開2006−189996号公報
【特許文献2】特開2007−323114号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
タイミングコントローラには、画像データとともに、基準となるクロック信号が入力されているが、伝送周波数を切りかえる際に、このクロック信号が一瞬停止し、次の周波数に切りかわる場合がある。
【0005】
このとき、停止状態から急にクロック信号が入力されると、タイミングコントローラ内の非動作状態の論理回路(論理ゲートおよびメモリ)が突然動作し始め、回路には急激に電流が流れることになる。タイミングコントローラには、LDO(Low Drop Output)やスイッチングレギュレータなどの電源回路から安定化された電源電圧が供給されている。ところが、タイミングコントローラに急激に電流が流れると、電源回路のフィードバックがそれに追従できずに、電源電圧がドロップする。このときタイミングコントローラは、電源電圧が所定の値に復帰するまでの期間、動作不能となり、誤動作の原因となっていた。
【0006】
かかる問題は、タイミングコントローラに限らず、さまざまな半導体デバイスで発生しうる。
【0007】
本発明は係る課題に鑑みてなされたものであり、その目的のひとつは、クロック信号の切りかえに対応した半導体デバイスの提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のある態様は、半導体デバイスに関する。この半導体デバイスは、クロック信号を受け、複数の経路に分配するクロック分配回路と、複数の経路に対応づけられた複数の領域に分割されたデジタル回路と、を備える。デジタル回路の各領域は、共通の電源電圧を受け、それぞれがクロック分配回路により分配されたクロック信号と同期動作する。クロック分配回路は、クロック信号が非入力状態から入力状態に遷移するとき、複数の経路それぞれに対して、時間差を付けてクロック信号を分配する。
【0009】
この態様によると、デジタル回路の各領域が順々に動作状態となるため、デジタル回路全体の電流は段階的に増加する。その結果、電源回路が電流の変化に追従することができ、電源電圧の変動(ドロップ)を抑制し、デジタル回路を安定動作させることが可能となる。
【0010】
ある態様の半導体デバイスは、クロック信号の入力の有無を検出するクロック検出部をさらに備えてもよい。クロック分配回路は、クロック検出部によりクロック信号の入力が検出されたことを契機として、複数の経路に対するクロック信号の分配を開始してもよい。
【0011】
クロック分配回路は、クロック信号を複数の経路に分配する分配部と、複数の経路ごとに設けられた複数のゲートと、複数のゲートのオン、オフを制御するゲート制御部と、を含んでもよい。ゲート制御部は、クロック検出部によりクロック信号の入力が検出されたことを契機として、複数のゲートを、所定のシーケンスで順に導通させてもよい。
【0012】
半導体デバイスは、グラフィックスプロセッサから、画像データおよびクロック信号を受け、ゲートドライバおよびソースドライバへと転送するタイミングコントローラであってもよい。
このタイミングコントローラは、画像データの解像度や色数によって画像データの伝送レートが変化するディスプレイ装置に好適に利用できる。つまりクロック信号の周波数切りかえにともない、クロック信号が瞬断しその後復帰する場合であっても、タイミングコントローラを安定動作させることができる。
【0013】
本発明の別の態様は、ディスプレイ装置である。このディスプレイ装置は、ディスプレイパネルと、ディスプレイパネルの走査線を駆動するゲートドライバと、ディスプレイパネルのデータ線を駆動するソースドライバと、画像データおよびクロック信号を受け、ゲートドライバおよびソースドライバへと転送する上述のタイミングコントローラと、を備える。
【0014】
この態様によると、クロック信号が瞬断しても、タイミングコントローラが安定動作するため、ディスプレイパネルに表示される画像の乱れを抑制することができる。
【0015】
なお、以上の構成要素の任意の組み合わせや、本発明の構成要素や表現を、方法、装置、システムなどの間で相互に置換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る半導体デバイスによれば、クロック信号の急激に変化に対応できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明を好適な実施の形態をもとに図面を参照しながら説明する。各図面に示される同一または同等の構成要素、部材、処理には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、実施の形態は、発明を限定するものではなく例示であって、実施の形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは、必ずしも発明の本質的なものであるとは限らない。
【0018】
図1は、実施の形態に係る半導体デバイスの構成を示すブロック図である。半導体デバイス100は、クロック分配回路10、クロック検出回路20、デジタル回路30、電源回路40を備える。
【0019】
電源回路40は、半導体デバイス100の各ブロックに対して、安定した電源電圧Vddを供給する。電源回路40はLDOあるいはスイッチングレギュレータなどを含んで構成される。
【0020】
クロック分配回路10は、クロック信号CKを受け、これを複数n(以下ではn=3の場合を説明する)の経路P1〜P3に分配する。
【0021】
デジタル回路30は、複数の経路P1〜P3それぞれに対応づけられた複数の領域R1〜R3に分割されている。各領域R1〜R3は、電源回路40により安定化された共通の電源電圧Vddを受けて動作する。また、各領域R1〜R3はそれぞれ、対応する経路P1〜P3を介して入力されたクロック信号CK1〜CK3と同期して、所定の信号処理を実行する。信号処理の内容は特に限定されず、任意で構わない。
【0022】
クロック分配回路10は、クロック信号CKが非入力状態から入力状態に遷移するとき、複数の経路P1〜P3それぞれに対して、時間差を付けてクロック信号CK1〜CK3を分配する。
【0023】
クロック検出回路20は、外部からのクロック信号CKの入力の有無を検出し、入力時にアサートされるクロック検出信号S1を生成し、クロック分配回路10へと供給する。クロック分配回路10は、クロック検出信号S1がアサートされると、つまり、クロック信号CKの入力が検出されたことを契機として、複数の経路P1〜P3に対するクロック信号CK1〜CK3の分配を開始する。
【0024】
上述の機能を実現するために、クロック分配回路10は、分配部12、ゲートG1〜G3、ゲート制御部14を含んで構成されてもよい。
【0025】
分配部12は、クロック信号CKを複数の経路P1〜P3に分配する。分配部12は、ツリー型の配線であってもよいし、ツリー型に配線された複数のバッファを含んでもよい。
【0026】
複数のゲートG1〜G3は、複数の経路P1〜P3ごとに設けられ、対応する制御信号SG1〜SG3に応じてオン・オフ(開閉)が制御される。たとえば、ゲートG1〜G3はANDゲートであってもよい。ゲートG1〜G3はそれぞれ、対応するゲート制御信号SG1〜SG3がアサートされると、導通状態(オン)となる。
【0027】
ゲート制御部14は、クロック検出信号S1がアサートされると、すなわちクロック信号CKの入力が検出されたことを契機として、複数のゲートG1〜G3を、所定のシーケンスで順に開く。たとえばゲート制御部14には、各ゲート制御信号SG1〜SG3をアサートするタイミングを示すデータD1〜D3が入力されてもよい。一例では、データD1〜D3は、クロック検出信号S1がアサートされてから、クロック信号CK1〜CK3をそれぞれアクティブとするタイミングまでの時間差τ1〜τ3を指定するデータである。ゲート制御部14は、CR時定数を利用したタイマや、デジタル的なカウンタ回路を利用して構成することができる。データD1、D2、D3は、メモリに格納されており、ユーザが自由に書き換え可能とすることが望ましい。この場合、電源回路40の性能などに応じて、クロック信号CK1、CK2、CK3をアクティブとする順番とタイミングを最適化することができる。また半導体デバイス100の設計変更にも柔軟に対応できる。
【0028】
以上が半導体デバイス100の構成である。続いてその動作を説明する。図2は、図1の半導体デバイス100の動作を示すタイムチャートである。なお、本明細書中のタイムチャートの縦軸および横軸は、理解を容易とするために適宜拡大、縮小したものであり、また示される各波形も、理解の容易のために簡略化されている。
【0029】
時刻t1以前に、クロック信号CKは停止状態(非入力状態)であり、デジタル回路30の領域R1〜R3の動作は停止している。時刻t1に、クロック信号CKが入力されると、クロック検出信号S1がアサートされる。これを契機に、クロック分配回路10は、予め設定された時間差τ1、τ2、τ3ごとに、クロック信号CK1、CK2、CK3を、領域R1、R2、R3に対して順に分配する。
【0030】
時刻t2にクロック信号CK1がアクティブとなると、領域R1が動作を開始するため、電源回路40から領域R1に対して電流Id1が引きこまれ、これに応答して電源回路40からの電源電圧Vddがわずかに低下し、電源回路40のフィードバック作用によって再びもとの目標値に戻る。電源電圧Vddのレベルが目標値に復帰するには、ゼロでないある程度の時間を要し、この時間は、電源回路40のフィードバックループの帯域(応答速度)に依存する。時刻t3、t4においても同様のことが起こり、電源回路40からデジタル回路30に供給される総電流Idは、電流Id2、Id3ずつ増加する。
【0031】
以上が半導体デバイス100の動作である。半導体デバイス100の利点は、従来の半導体デバイスの動作との比較によって明確となる。図2には、従来の、いいかえればクロック分配回路10が設けられない半導体デバイスの動作における電源電圧Vdd’および電源電流Id’の波形が一点鎖線で示されている。従来の回路において、デジタル回路30は全体が共通のクロック信号CKにもとづいて動作する。
【0032】
時刻t1以前に、クロック信号CKは停止状態(非入力状態)であり、デジタル回路30の動作は停止している。時刻t1に、クロック信号CKが入力されると、デジタル回路30全体が一斉に動作を開始する。このとき、電源回路40から大きな電流がデジタル回路30に引きこまれ、電源回路40からの電源電圧Vddが大きくドロップする。その後、電源回路40のフィードバック作用によって再びもとの目標値に戻って安定化されるが、電源電圧Vddのドロップ量が大きいため、元の目標値に戻るまでの時間が長くなる。デジタル回路30は、電源電圧Vddがあるしきい値電圧を下回ると、動作不能となる。したがって、電源電圧Vddのドロップ量が大きい場合、しきい値電圧以上に復帰するまでの期間、デジタル回路30は誤動作するおそれがある。
【0033】
翻って図1の半導体デバイス100の動作に着目すると、時刻t2、t3、t4において生じる電源電圧Vdd(実線)のドロップ量は、従来の電源電圧Vdd’のドロップ量(一点鎖線)に比べて小さい。なぜなら、電源電圧Vddのドロップ量は、デジタル回路30に引き込まれる電流(さらにいえば、電流の変化量)に依存するところ、図1のデジタル回路30は、複数の領域R1〜R3に分割されているため、電流量の変化は、従来の回路に比べて各段に小さいからである。
【0034】
その結果、図1の半導体デバイス100によれば、各領域R1、R2、R3が動作を開始する時刻t2、t3、t4における電源電圧Vddのドロップ量を小さくし、しきい値電圧を下回らないようにすることができ、あるいは下回ったとしても、極めて短時間で目標値に復帰させることができ、半導体デバイス100が誤動作するのを防止し、あるいは半導体デバイス100が信号処理を行えない無効期間を従来に比べて大幅に短縮することができる。
【0035】
続いて、図1の半導体デバイス100の好適なアプリケーションを説明する。半導体デバイス100は、FPDのタイミングコントローラに好適に利用できる。
図3は、図1の半導体デバイス(以下、タイミングコントローラTCとも称する)100を備えるFPD300の構成を示すブロック図である。
【0036】
FPD300は、液晶ディスプレイであり、LCDパネル302、複数のゲートドライバGD1〜GDn、複数のソースドライバSD1〜SDm、タイミングコントローラTCを備える。
【0037】
LCDパネル302は、複数のデータ線と複数の走査線、データ線と走査線の交点に設けられた画素を含む。なおパネルは、LCDに限定されず、有機ELパネルやプラズマディスプレイパネルであってもよい。複数のゲートドライバGD1〜GDnは、LCDパネル302の走査線を順次選択して駆動する。またソースドライバSD1〜SDmは、LCDパネル302のデータ線に、輝度に応じた電気信号(電流もしくは電圧)を印加して駆動する。
タイミングコントローラTCは、図示しないグラフィックスプロセッサから、バスを介して画像データDgrpおよびクロック信号CKを受ける。タイミングコントローラTCは、クロック信号CKと同期して、水平同期信号および垂直同期信号を発生し、ソースドライバSD1〜SDに対し、画像データDgrpに応じた輝度データを送出するとともに、ゲートドライバGD1〜GDnに適切な走査線を選択させる。
【0038】
ここで、グラフィックスプロセッサから入力される画像データDgrpの解像度やフレームレート、色数などは、映像の種類等によって変化する場合がある。この場合に、グラフィックスプロセッサは、映像データDgrpの伝送レートを変化させ、あわせてクロック信号CKの周波数も変化させる。グラフィックスプロセッサ側において、クロック信号をPLL回路などによって生成する場合、その周波数の切りかえにはある期間が必要である。したがって、クロック信号CKの周波数の切りかえに際して、クロック信号CKが一旦とぎれ、その後、次の周波数のクロック信号CKが入力される。
【0039】
かかる状況において、図1で示した半導体デバイス100を利用すれば、クロック信号がとぎれてから、入力される際に、誤動作を防止することができ、FPD300は安定した画像を表示することができる。
【0040】
実施の形態にもとづき本発明を説明したが、実施の形態は、本発明の原理、応用を示しているにすぎないことはいうまでもなく、実施の形態には、請求の範囲に規定された本発明の思想を逸脱しない範囲において、多くの変形例や配置の変更が可能であることはいうまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】実施の形態に係る半導体デバイスの構成を示すブロック図である。
【図2】図1の半導体デバイスの動作を示すタイムチャートである。
【図3】図1の半導体デバイスであるタイミングコントローラを備えるFPDの構成を示すブロック図である。
【符号の説明】
【0042】
100…半導体デバイス、10…クロック分配回路、12…分配部、G1,G2,G3…ゲート、14…ゲート制御部、20…クロック検出回路、30…デジタル回路、40…電源回路、S1…クロック検出信号、300…FPD、302…LCDパネル、GD…ゲートドライバ、SD…ソースドライバ、TC…タイミングコントローラ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クロック信号を受け、複数の経路に分配するクロック分配回路と、
前記複数の経路に対応づけられた複数の領域に分割されており、各領域が共通の電源電圧を受けるとともに、各領域が前記クロック分配回路により分配された前記クロック信号と同期動作する、デジタル回路と、
を備え、
前記クロック分配回路は、前記クロック信号が非入力状態から入力状態に遷移するとき、前記複数の経路それぞれに対して、時間差を付けてクロック信号を分配することを特徴とする半導体デバイス。
【請求項2】
前記クロック信号の入力の有無を検出するクロック検出部をさらに備え、
前記クロック分配回路は、前記クロック検出部により前記クロック信号の入力が検出されたことを契機として、前記複数の経路に対するクロック信号の分配を開始することを特徴とする請求項1に記載の半導体デバイス。
【請求項3】
前記クロック分配回路は、
前記クロック信号を複数の経路に分配する分配部と、
前記複数の経路ごとに設けられた複数のゲートと、
前記複数のゲートのオン、オフを制御するゲート制御部と、
を含み、前記ゲート制御部は、前記クロック検出部により前記クロック信号の入力が検出されたことを契機として、前記複数のゲートを、所定のシーケンスで順に導通させることを特徴とする請求項2に記載の半導体デバイス。
【請求項4】
前記半導体デバイスは、グラフィックスプロセッサから、画像データおよび前記クロック信号を受け、ゲートドライバおよびソースドライバへと転送するタイミングコントローラであることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の半導体デバイス。
【請求項5】
ディスプレイパネルと、
前記ディスプレイパネルの走査線を駆動するゲートドライバと、
前記ディスプレイパネルのデータ線を駆動するソースドライバと、
画像データおよびクロック信号を受け、前記ゲートドライバおよび前記ソースドライバへと転送する請求項4に記載の半導体デバイスであるタイミングコントローラと、
を備えることを特徴とするディスプレイ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−141576(P2010−141576A)
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−315717(P2008−315717)
【出願日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【出願人】(000116024)ローム株式会社 (3,539)
【Fターム(参考)】