説明

半導体レーザジャイロ

【課題】 回転方向の検出が容易であり、小型で信頼性が高い半導体レーザジャイロを提供する。
【解決手段】 基板と、基板上に形成され第1および第2のレーザ光を出射する半導体レーザ20と、第1および第2のレーザ光L1およびL2を多角形の経路を互いに逆方向に周回させるための複数の光学素子(フレネルレンズ30aおよび30b、ミラー40aおよび40b)と、第1および第2の光によって干渉縞が形成される位置に配置された光検出器70aおよび70bとを備える。基板上に基板側から順に配置された第1および第2の層を含む積層部と、第1および第2の層を第2の層側に曲げることによって形成された起立部とを含み、積層部および起立部は、それぞれ、格子定数が異なる複数の層を含む。第1および第2の層は、上記複数の層における格子定数の差によって生じた力によって曲げられており、複数の光学素子の少なくとも1つが起立部に形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体レーザジャイロに関する。
【背景技術】
【0002】
回転する物体の角速度を検出するためのジャイロの中でも、光ジャイロは精度が高いという特徴を有する。光ジャイロでは、環状の光路を互いに逆方向に進む2つのレーザ光に周波数差が生じる効果(sagnac効果)を用いて角速度の検出を行う。このような光ジャイロとして、希ガスレーザを用いた光ジャイロが提案されている(たとえば特許文献1参照)。これらの光ジャイロでは、同じ経路を互いに逆方向に周回するレーザ光を取り出して干渉縞を形成させる。希ガスレーザを用いた光ジャイロの一般的な構成を図9に示す。図9の光ジャイロにおいて、干渉縞は、以下の式(1)で表される。
【0003】
【数1】

【0004】
ここで、I0はレーザ光の光強度であり、λはレーザ光の波長である。また、εは図9に示す角度であり、χは図9に示すX方向の座標である。Δωは、ジャイロが回転したときの時計回りのモードと反時計回りのモードとの周波数差であり、tは時刻である。Δωはジャイロの回転の角速度Ωと比例関係にある。すなわち、Δω=4AΩ/(Lλ)である。ここで、Aはリング形状の囲む面積であり、Lは光路長である。φは、2つのレーザ光の初期の位相差を示す。このジャイロでは、干渉縞の移動速度および移動方向を検出することによって、ジャイロの回転速度および回転方向が検出される。しかし、希ガスレーザを用いた光ジャイロは、駆動に高電圧が必要で消費電力が大きいという課題、および、装置が大きく熱に弱いという課題を有していた。
【0005】
このような課題を解決するジャイロとして、環状の導波路を備える半導体リングレーザを用いたジャイロが提案されている(たとえば特許文献2参照)。このジャイロで用いられている半導体レーザは、ほぼ一定の幅の環状の導波路を備える。そして、その環状の導波路を互いに反対方向に周回する2つのレーザ光を外部に取り出して、その干渉縞を検出する。しかしながら、細い導波路を用いて閉じこめられたレーザ光は、導波路の外部に出射する際に大きく広がってしまうため、実際に干渉縞を精度よく検出することは困難である。そのため、半導体レーザを用いるジャイロでは、半導体レーザの2つの電極間の電圧変化から、2つのレーザ光の周波数差に対応するビート周波数を検出するジャイロ(たとえば特許文献3参照)や、共振器の端面からしみだしたエバネッセント光を用いてビート周波数を検出するジャイロ(たとえば特許文献4参照)が一般的である。
【特許文献1】特開平11−351881号公報
【特許文献2】特開2000−230831号公報
【特許文献3】特開平4−174317号公報
【特許文献4】特開2000−121367号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、ビート周波数を検出するジャイロでは、回転方向の検出に特別な装置が必要となる。
【0007】
このような状況において、本発明は、回転方向の検出が容易であり、小型で信頼性が高い半導体レーザジャイロを提供することを目的の1つとする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明の半導体レーザジャイロは、基板と、前記基板上に形成され第1および第2のレーザ光を出射する半導体レーザと、前記第1および第2のレーザ光を多角形の経路を互いに逆方向に周回させるための複数の光学素子と、前記第1および第2の光によって干渉縞が形成される位置に配置された光検出器とを備える半導体レーザジャイロであって、前記基板上に前記基板側から順に配置された第1および第2の層を含む積層部と、前記第1および第2の層を前記第2の層側に曲げることによって形成された起立部とを含み、前記積層部および前記起立部は、それぞれ、格子定数が異なる複数の層を含み、前記第1および第2の層は、前記複数の層における格子定数の差によって生じた力によって曲げられており、前記複数の光学素子の少なくとも1つが前記起立部に形成されている。
【発明の効果】
【0009】
本発明のレーザジャイロは、希ガスレーザに比べて、非常に小型で消費電力が少なく、熱に対する信頼性が高い。また、本発明のレーザジャイロでは、2つのレーザ光によって明瞭な干渉縞が形成されるため、精度よく回転速度(角速度)を検出できる。また、本発明のジャイロによれば、2つ以上の受光素子で干渉縞の移動を観測することによって、回転速度および回転方向を簡単に算出できる。これらの検出には、希ガスレーザを用いた従来の光ジャイロで用いられている回路と類似の回路を適用できるため、本発明のジャイロは様々な機器への応用が容易である。また、本発明のレーザジャイロでは、半導体プロセスによって精度よく形成できる起立部を用いて、光学素子を所定の位置に形成している。このため、狭い領域内に光学素子を精度よく形成でき、非常に小型のレーザジャイロが得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について説明する。なお、以下で説明する半導体レーザおよび半導体レーザジャイロ(半導体レーザジャイロ素子)は本発明の一例であり、本発明は以下の説明に限定されない。また、以下の説明では、同様の部分に同一の符号を付して重複する説明を省略する場合がある。
【0011】
本発明の半導体レーザジャイロは、基板と、基板上に形成され第1および第2のレーザ光を出射する半導体レーザと、第1および第2のレーザ光を多角形の経路を互いに逆方向に周回させるための複数の光学素子と、第1および第2の光によって干渉縞が形成される位置に配置された光検出器とを備える。このジャイロは、基板上に基板側から順に配置された第1および第2の層を含む積層部と、第1および第2の層を第2の層側に曲げることによって形成された起立部とを含む。積層部および起立部は、それぞれ、格子定数が異なる複数の層を含む。第1および第2の層は、複数の層における格子定数の差によって生じた力によって曲げられており、上記複数の光学素子の少なくとも1つが起立部に形成されている。
【0012】
本発明の半導体レーザジャイロでは、所定の経路を周回するようにレーザ光を誘導するための光学素子の少なくとも1つが、半導体プロセスを用いて精度よく形成された起立部に形成される。この構成によれば、従来の技術では困難であった微小で正確な周回光路を形成することが可能となる。このため、本発明によれば、小型で精度のよい半導体レーザジャイロが得られる。また、本発明の半導体レーザジャイロは、希ガスレーザを用いるジャイロに比べて、消費電力が少なく、熱に対する信頼性が高い。
【0013】
上記本発明の半導体レーザジャイロでは、半導体レーザが直線状のキャビティーを有し、キャビティーの一方の端から第1のレーザ光が出射され、キャビティーの他方の端から第2のレーザ光が出射され、多角形の経路が半導体レーザの活性層を通っていてもよい。
【0014】
上記本発明の半導体レーザジャイロでは、複数の光学素子のすべてが基板上に形成されていてもよい。この構成によれば、特にサイズが小さいジャイロが得られる。
【0015】
上記本発明の半導体レーザジャイロでは、第1および第2の層が、III−V族化合物半導体からなるものであってもよい。III−V族化合物を用いることによって、所定の形状の起立部を容易に形成できる。
【0016】
上記本発明の半導体レーザジャイロでは、起立部は、第1および第2の層を第1の折り曲げ部において折り曲げることによって形成された第1の平面部と、第1の折り曲げ部に対して所定の角度を有する方向に伸びる第2の折り曲げ部で第1の平面部を折り曲げることによって形成された第2の平面部とを含み、基板には第1の折り曲げ部に対して所定の角度を有する方向に伸びる溝が形成されており、第2の平面部の一部が溝の内部に配置されており、複数の光学素子の1つが第2の平面部に形成されていてもよい。この構成によれば、起立部に形成された光学素子を基板の表面近傍に配置することが可能となり、この光学素子によって、基板の表面近傍を周回するレーザ光を制御することが可能となる。折り曲げ部において第1および第2の層は、通常、略直角に折り曲げられる。また、上記所定の角度は、通常、略直角である。第2の平面部の位置を正確に固定するため、および、第2の平面部の配置を容易にするため、溝は、底の方が狭い断面V字状の溝であることが好ましい。
【0017】
上記本発明の半導体レーザジャイロでは、起立部に、ミラーおよびレンズから選ばれる少なくとも1つの光学素子が形成されていてもよい。レンズとしては、たとえばフレネルレンズを用いることができる。
【0018】
上記本発明の半導体レーザジャイロでは、光検出器が基板上に形成されていてもよい。
【0019】
上記本発明の半導体レーザジャイロでは、第1および第2のレーザ光によって干渉縞を形成するためのプリズムをさらに備え、プリズムが基板上に形成されていてもよい。半導体レーザ、光学素子、光検出器およびプリズムといった、ジャイロの構成部品をすべて同一の基板上にモノリシックに形成することによって、小型のジャイロが得られる。これらの構成部品は、半導体素子製造プロセスを用いることによって、微小な領域に、高い精度および高い生産性で形成することが可能である。特に、ミラーやフレネルレンズといった光学素子を、微小な領域に精度よく形成できる。
【0020】
(実施形態の一例)
以下に、本発明の半導体レーザジャイロの一例を説明する。この半導体レーザジャイロ10の上面図を図1に示す。
【0021】
半導体レーザジャイロ10は、基板11(図1〜図3では図示せず)と、基板11上に形成された半導体レーザ20、フレネルレンズ30aおよび30b、ミラー40aおよび40b、ハーフミラー50、プリズム60、光検出器70aおよび70bとを備える。
【0022】
半導体レーザ20は、直線上のキャビティーを有し、キャビティーの一方の端から第1のレーザ光L1を出射し、他方の端から第2のレーザ光L2を出射する。半導体レーザには、直線状のキャビティーを有する公知の端面出射型レーザを適用でき、活性層の両端からレーザ光が出射される。
【0023】
本発明の半導体レーザを構成する半導体および積層構造に特に限定はなく、利用するレーザ光の波長などに応じて選択される。本発明の半導体レーザが出射するレーザ光の波長に特に限定はないが、たとえば200〜2000nmの範囲である。半導体層の材料に特に限定はなく、たとえば、GaAs、InP、AlGaAs、InGaAsP、InGaAlP、GaAsP、GaN、InGaN、InGaAsといったIII−V族化合物半導体、ZnSe、SiGeなどを用いてもよい。
【0024】
フレネルレンズ30aおよび30b、ミラー(平面鏡)40aおよび40b、ならびにハーフミラー50は、起立部に形成されている。起立部の形成方法については後述する。半導体レーザ20から出射された第1のレーザ光L1は、フレネルレンズ30aによってほぼ平行光とされ、ミラー40a、ハーフミラー50、ミラー40bで反射される。ミラー40bで反射された第1のレーザ光L1は、フレネルレンズ30bによって集光され、半導体レーザ20のキャビティーに入射される。このようにして、第1のレーザ光L1は、三角形の経路を時計回りに周回する。
【0025】
一方、半導体レーザ20から出射された第2のレーザ光L2は、フレネルレンズ30bによってほぼ平行光とされ、ミラー40b、ハーフミラー50、ミラー40aで反射される。ミラー40aで反射された第2のレーザ光L2は、フレネルレンズ30aによって集光され、半導体レーザ20のキャビティーに入射される。このようにして、第2のレーザ光L2は、第1のレーザ光L1の経路と同じ経路を、反時計回り(第1のレーザ光L1とは逆の方向)に周回する。
【0026】
周回する2つのレーザ光の一部は、ハーフミラー50によって周回経路から分離されてプリズム60に入射する。プリズム60に入射した2つのレーザ光は、重ね合わされてプリズム60から出射され、干渉縞を生じさせる。この干渉縞の移動方向および移動速度を光検出器70aおよび70bでモニタすることによって、ジャイロの回転方向および回転速度を算出することができる。干渉縞の移動方向の検出を容易にするため、光検出器70aの光検出部と光検出器70bの光検出部との間の距離は、干渉縞の半波長の整数倍とならないように選択することが好ましい。
【0027】
光検出器には、フォトダイオードやフォトトランジスタなどの一般的な受光素子を適用できる。2つ以上の受光素子を干渉縞の移動方向に配置することによって、干渉縞の移動速度に加えて干渉縞の移動方向を検出することができる。干渉縞の移動速度と移動方向とを検出することによって、半導体レーザジャイロの回転方向と回転速度とを算出できる。
【0028】
各素子のサイズに特に限定はないが、一例では、半導体レーザ20のキャビティー長を400μmとし、ミラー40aおよび40bのサイズを150μmとし、半導体レーザ20からハーフミラー50までの距離を700μmとし、素子全体のサイズを2mm角以内とすることができる。
【0029】
図1には、レーザ光が周回する経路が三角形である場合を示したが、レーザ光が周回する経路は四角形であってもよい。経路が四角形である場合の光学素子の配置を図2に示す。なお、図2では、プリズムおよび光検出器の図示を省略する。図2のジャイロは、ミラー40aおよび40bに加えてミラー40cを備える。
【0030】
また、図1には、フレネルレンズを用いる場合について示したが、1枚のフレネルレンズの代わりに1枚の凹面鏡と1枚の平面鏡とを用いてもよい。また、1枚のフレネルレンズの代わりに2枚の凹面鏡を用いてもよい。そのような一例を図3に示す。図3の例では、光学素子31aおよび32aが、共に凹面鏡であるか、一方が凹面鏡で一方が平面鏡である。同様に、光学素子31bおよび32bは、共に凹面鏡であるか、一方が凹面鏡で一方が平面鏡である。半導体レーザ20から出射された光は、これらの光学素子によって略平行光とされて光路を周回する。また、光路を周回する光は、これらの光学素子によって集光されて半導体レーザ20の活性層に導かれる。
【0031】
以下、半導体レーザジャイロ10の構造および製造方法について説明する。ジャイロ10を製造する場合に基板11上に積層する多層膜の一例を図4に示す。図4の多層膜100は、半導体レーザ20を形成する部分の多層膜である。
【0032】
基板11は、その上に半導体層を成長させることができるように、積層される半導体層に応じて選択される。基板11としては、たとえば、GaAs基板、InP基板、GaSb基板およびGaN基板といったIII−V族化合物半導体基板や、サファイア基板、シリコン基板、SOI(Silicon on Insulator)基板を用いることができる。
【0033】
多層膜100は、基板11側から順に積層された、バッファ層101、層(犠牲層)102、ヒンジ層(積層部)103、エッチストップ層104、補償層501、クラッド層105、活性層106、クラッド層107、DBR層108およびキャップ層109を備える。ヒンジ層103は、第1の層103aと第2の層103bとを備える。また、キャップ層109は、キャップ層109aとキャップ層109bとを備え、これらはDBR層108の一部としても機能する。
【0034】
層102、ヒンジ層103、エッチストップ層104を除く各層には、公知の半導体レーザに用いられている層を適用できる。たとえば、活性層106は、InP、AlGaAs、InGaAsP、InGaAlP、InGaAsP、GaAsP、GaN、InGaN、InGaAsといったIII−V族化合物半導体や、ZnSe、SiGeで形成してもよい。また、活性層106は、単層であってもよいし、単一量子井戸構造(SQW)、多重量子井戸構造(MQW)またはそれらを変形したタイプの量子井戸構造を有する活性層であってもよい。
【0035】
クラッド層105および107は、活性層106にレーザ光を閉じ込めるため、活性層106よりも屈折率が低い材料で形成される。活性層およびクラッド層の材料の組み合わせとしては、たとえば、InGaAsP(活性層)/InP(クラッド層)や、GaAs(活性層)/AlGaAs(クラッド層)といった組み合わせが挙げられる。
【0036】
DBR層108は、屈折率の異なる2つの層が交互に積層された構造を有し、たとえば、AlGaAs層とGaAs層とが交互に複数回積層された構造や、SiO2層とSi層とが交互に複数回積層された構造を適用できる。
【0037】
層102は、起立部(図8(a)参照)を形成するためにその一部が選択的に除去される層である。そのため、層102は、選択的に除去可能な材料で形成される。
【0038】
ヒンジ層103は、複数の半導体層の格子定数の差によって半導体層を折り曲げるための層である。そのため、第1の層103aは、第2の層103bを構成する半導体よりも格子定数が大きい半導体で形成される。[第1の層103aの材料]/[第2の層103bの材料]の具体的な組み合わせとしては、たとえば、InGaAs/GaAs、SiGe/Si、AlGaN/GaN、InGaN/GaNなどが挙げられる。これらの半導体層の組成比、厚さおよび折れ曲がり部の長さを変化させることによって、ヒンジ層103が折れ曲がる角度を調節することができる。
【0039】
たとえば、In0.2Ga0.8Asからなる第1の半導体層103aと、GaAsからなる第2の半導体層103bとを用いて折れ曲がり部を形成したときの折れ曲がり部の曲率半径Rは、通常、以下の式で表される。
R=(a/Δa)・{(t1+t2)/2}
ここで、aは第2の半導体層103b(GaAs層)の格子定数である。また、Δaは、第1の半導体層103a(In0.2Ga0.8As層)の格子定数と第2の半導体層103b(GaAs層)の格子定数との差である。また、t1は第1の半導体層103aの厚さ(単位:オングストローム)であり、t2は第2の半導体層103bの厚さ(単位:オングストローム)である。
【0040】
補償層501は、起立部が湾曲することを防止するために形成される。補償層501の詳細は後述する。
【0041】
なお、ヒンジ層は、3層以上の層で構成されていてもよい。たとえば、格子定数が大きい層Aと格子定数が小さい層Bとを、厚い層A/層B/薄い層Aというように積層させると、厚い層Aが層Bに及ぼす応力の方が薄い層Aが層Bに及ぼす応力よりも大きいため、トータルでは薄い層A側に曲がろうとする応力が発生する。同様に、厚い層B/層A/薄い層Bという積層膜では、トータルでは厚い層B側に曲がろうとする応力が発生する。このような関係を利用して、積層された複数の層を所定の方向に折り曲げることができる。
【0042】
これらの層の材料および厚さの一例を表1に示す。なお、表1中、λはレーザ光の波長である。また、n1は、DBR層108の一部およびキャップ層109aを構成するp−Al0.3Ga0.7As層の屈折率である。n2は、DBR層108の一部およびキャップ層109bを構成するp−GaAs層の屈折率である。DBR層108は、厚さがλ/4n1のp−Al0.3Ga0.7As層と、厚さがλ/4n2のp−GaAs層とが交互に10層ずつ積層された構造を有する。
【0043】
【表1】

【0044】
基板11上の各層は、一般的な成膜方法を用いて形成できる。たとえば、液層エピタキシャル法(LPE法)、分子線エピタキシャル法(MBE法)、有機金属化学気相成長法(MOCVD法またはMOVPE法)、原子層エピタキシャル法(ALE法)、化学ビームエピタキシャル法(CBE)法などを用いることができる。
【0045】
フレネルレンズ30aおよび30b、ミラー40aおよび40b、ならびにハーフミラー50を形成する部分の多層膜は、図5に示すように、基板11側から順に配置された層(犠牲層)102、ヒンジ層(積層部)103、エッチストップ層104、補償層501および機能層502を含む。層102は、エッチングによって一部が除去される層である。ヒンジ層103は、内部応力によって折れ曲がり、起立部を形成する層である。機能層502は、光学素子としての機能を発揮する層である。フレネルレンズを形成する場合、機能層502をエッチングすることによってレンズを形成する。ミラーを形成する場合、機能層502でミラーを構成するか、またはミラーとして機能する層を、補償層501の上にさらに形成する。あるいは、クラッド層などをミラーとして用いてもよい。補償層501は、ヒンジ層103によって生じる応力を打ち消すための層である。なお、ヒンジ層103による変形を機能層502によって防止できる場合には、補償層501を省略できる。これらの層は、図4の多層膜の一部を所定の層(たとえばエッチストップ層104または補償層501)までエッチングしたのち、エッチングによって露出した半導体層上に所定の層を成膜することによって形成できる。
【0046】
以下、起立部にフレネルレンズ30aを形成する方法について図6を参照しながら説明する(フレネルレンズ30bの形成も同じである)。図6(a)、(c)および(e)は断面図であり、図6(b)、(d)および(f)は上面図である。
【0047】
まず、図6(a)に示すように、基板11上に、バッファ層101、層102、第1の層103a、第2の層103b、エッチストップ層104、補償層501および機能層502を形成する。バッファ層101〜第2の層103b(またはエッチストップ層104)までは上述した層である。これらの層は、上述した方法で形成できる。
【0048】
フレネルレンズ30aを形成する場合、機能層502はたとえばアクリル樹脂やポリカーボネイトなどで形成できる。機能層502には、フレネルレンズ30aのパターンが形成される。フレネルレンズのパターンの一例について、図7(a)に平面図を示し、図7(b)に断面図を示す。このようなパターンは、フレネルレンズを形成する斜面に対応するように、階段状のステップを多数形成することによって形成できる。そのような階段状のステップは、フォトリソグラフィーとエッチングとを繰り返すことによって形成できる。なお、レーザ光入射時の反射損失を低減するため、フレネルレンズの表面に反射防止膜を形成してもよい。
【0049】
次に、図6(c)および(d)に示すように、第2の層103bの表面に到達する溝601と、層102に到達する溝602と、基板11の表面よりも深い溝603とを形成する。これらは、各層の材料に応じて公知のエッチング法で形成できる。溝601は、互いに直交するように配置された2つの溝部601aおよび601bを含む。これらの溝は、折り曲げ部となる部分に形成される。溝602は、起立部を形成する際に、基板11上の多層膜から切り離される部分に形成される。溝603は、断面が略V字状の溝である。溝603は、フレネルレンズが配置される位置に形成される。
【0050】
次に、図6(e)および(f)に示すように、溝部601aと溝602と溝603とによって囲まれた部分の下方に位置する層102をウェットエッチングで選択的に除去する。ウェットエッチングのエッチング液としては、たとえば、フッ酸を用いることができる。
【0051】
層102が除去されると、溝部601aの部分(第1の折れ曲がり部)には、InGaAsからなる第1の層103aと、GaAsからなる第2の層103bのみが存在する。GaAsよりもInGaAsの方が格子定数が大きいため、溝部601aの部分では、第1の層103aおよび第2の層103bが、第2の層103b側に折れ曲がり、第1の折れ曲がり部801(図8(a)参照)が形成される。これによって、多層膜(第1の層103a〜機能層502)の一部が基板11から立ち上がり、起立部が形成される。同様に、溝部601bの部分でも、第1の層103aおよび第2の層103bが、第2の層103b側に折れ曲がり、第2の折れ曲がり部802(図8(b)参照)が形成される。
【0052】
図8(a)および(b)は、それぞれ、起立部800の構造を模式的に示す斜視図および断面図である。2つの折れ曲がり部801および802でヒンジ層がほぼ直角に折れ曲がることによって、起立部800は、互いに直交するように配置された第1の平面部800aと第2の平面部800bとを含む。第2の平面部800bの一部は、溝603に嵌め込まれ、第2の平面部800bは、基板11の表面に対してほぼ垂直に立ち上がっている。この方法では、第2の平面部800bの一部を溝603に埋め込むことによって、起立部800の配置が容易である。さらに、この方法では、基板11の表面近傍にフレネルレンズを配置できる。これによって、基板11の表面近くを移動するレーザ光の集光が可能になる。
【0053】
ミラー40aおよび40bを形成する場合、機能層502は、たとえば表1のDBR層と同じ材料で形成できる。また、ハーフミラー50を形成する場合、機能層502は、たとえば、フレネルレンズと同じ材料と、半導体との組み合わせで形成できる。フレネルレンズとは異なり、これらのミラーの表面は平坦である。
【0054】
図3に示した半導体レーザジャイロの凹面鏡を形成する場合、フレネルレンズの表面形状を反転させた表面形状を有する凹面鏡(フレネルミラー)を形成すればよい。このフレネルミラーは、フレネルレンズと同様の方法で形成できる。なお、フレネルミラーの表面に、反射膜を形成して反射率を高めてもよい。
【0055】
これらの光学素子は、図8に示したように、一部が溝に嵌め込まれている起立部に形成できる。ただし、起立部に形成する必要がない光学素子については、起立部に形成しなくてもよい。また、第1の平面部に光学素子を配置することによって求められる機能を発揮できる場合には、第2の平面部や溝603は不要である。
【0056】
プリズム60は、たとえば、透明樹脂をエッチングによって所望の形状に加工することによって形成できる。また、光検出器70aおよび70bは、一般的な半導体プロセスで形成できる。これらは、基板11上に形成してもよいし、別の基板上に形成してもよい。
【0057】
なお、基板11には、上記光学素子、光検出器およびプリズム以外の、他の光学素子や電子部品を形成してもよい。たとえば、半導体レーザを駆動するための駆動回路や、光検出器から出力された信号を処理するための回路を形成してもよい。また、本発明の半導体レーザジャイロに、従来のジャイロに用いられている公知の技術をさらに適用してもよい。
【0058】
以上、本発明の実施形態について例を挙げて説明したが、本発明は上記実施形態に限定されず、本発明の技術的思想に基づいて他の実施形態に適用できる。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本本発明の半導体レーザジャイロは、物体の回転の検出が必要な様々な機器に適用できる。代表的な例としては、姿勢制御装置やナビゲーション装置、手ぶれ補正装置に利用できる。具体的には、本発明のジャイロは、ロケットや飛行機などの航空機、自動車やバイクといった移動手段に利用できる。また、本発明のジャイロは超小型で取り扱いが容易であるという利点を生かし、携帯電話や小型のパーソナルコンピュータといった携帯情報端末、玩具、カメラなどに利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明の半導体レーザジャイロの一例を模式的に示す上面図である。
【図2】本発明の半導体レーザジャイロの他の一例を模式的に示す上面図である。
【図3】本発明の半導体レーザジャイロの他の一例を模式的に示す上面図である。
【図4】本発明の半導体レーザジャイロの製造工程の一例を模式的に示す断面図である。
【図5】本発明の半導体レーザジャイロの製造工程の他の一例を模式的に示す断面図である。
【図6】本発明の半導体レーザジャイロの製造工程の他の一例を模式的に示す断面図および上面図である。
【図7】光学素子の一例を模式的に示す正面図および断面図である。
【図8】起立部に形成された光学素子の一例を模式的に示す斜視図および断面図である。
【図9】従来の光ジャイロの一例を模式的に示す図である。
【符号の説明】
【0061】
10、10a、10b 半導体レーザジャイロ
11 基板
20 半導体レーザ
30a、30b フレネルレンズ
31a、31b、32a、32b 光学素子
40a、40b ミラー
50 ハーフミラー
60 プリズム
70a、70b 光検出器
101 バッファ層101
102 層(犠牲層)
103 ヒンジ層(積層部)
103a 第1の層
103b 第2の層
501 補償層
502 機能層
601a、601b、602、603 溝
800 起立部
800a 第1の平面部
800b 第2の平面部
801、802 折れ曲がり部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、前記基板上に形成され第1および第2のレーザ光を出射する半導体レーザと、前記第1および第2のレーザ光を多角形の経路を互いに逆方向に周回させるための複数の光学素子と、前記第1および第2の光によって干渉縞が形成される位置に配置された光検出器とを備える半導体レーザジャイロであって、
前記基板上に前記基板側から順に配置された第1および第2の層を含む積層部と、前記第1および第2の層を前記第2の層側に曲げることによって形成された起立部とを含み、
前記積層部および前記起立部は、それぞれ、格子定数が異なる複数の層を含み、
前記第1および第2の層は、前記複数の層における格子定数の差によって生じた力によって曲げられており、
前記複数の光学素子の少なくとも1つが前記起立部に形成されている半導体レーザジャイロ。
【請求項2】
前記半導体レーザが直線状のキャビティーを有し、前記キャビティーの一方の端から前記第1のレーザ光が出射され、前記キャビティーの他方の端から前記第2のレーザ光が出射され、
前記多角形の経路が前記半導体レーザの活性層を通っている請求項1に記載の半導体レーザジャイロ。
【請求項3】
前記複数の光学素子のすべてが前記基板上に形成されている請求項1または2に記載の半導体レーザジャイロ。
【請求項4】
前記第1および第2の層が、III−V族化合物半導体からなる請求項1〜3のいずれか1項に記載の半導体レーザジャイロ。
【請求項5】
前記起立部は、前記第1および第2の層を第1の折り曲げ部において折り曲げることによって形成された第1の平面部と、前記第1の折り曲げ部に対して所定の角度を有する方向に伸びる第2の折り曲げ部で前記第1の平面部を折り曲げることによって形成された第2の平面部とを含み、
前記基板には前記第1の折り曲げ部に対して所定の角度を有する方向に伸びる溝が形成されており、
前記第2の平面部の一部が前記溝の内部に配置されており、
複数の前記光学素子の1つが前記第2の平面部に形成されている請求項1〜4のいずれか1項に記載の半導体レーザジャイロ。
【請求項6】
前記起立部に、ミラーおよびレンズから選ばれる少なくとも1つの光学素子が形成されている請求項1〜5のいずれか1項に記載の半導体レーザジャイロ。
【請求項7】
前記光検出器が前記基板上に形成されている請求項1〜6のいずれか1項に記載の半導体レーザジャイロ。
【請求項8】
前記第1および第2のレーザ光によって干渉縞を形成するためのプリズムをさらに備え、
前記プリズムが前記基板上に形成されている請求項1〜7のいずれか1項に記載の半導体レーザジャイロ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−200934(P2006−200934A)
【公開日】平成18年8月3日(2006.8.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−10583(P2005−10583)
【出願日】平成17年1月18日(2005.1.18)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成16年度独立行政法人情報通信研究機構、研究テーマ「シームレスな位置情報検出を実現する高精度角速度センサチップの研究開発」に関する委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(393031586)株式会社国際電気通信基礎技術研究所 (905)
【Fターム(参考)】