説明

半導体レーザ

【課題】半導体レーザにおいて、比較的高い放射品質を提供すると同時に電気特性も向上させる。
【解決手段】半導体レーザ1には、電磁放射を発生させるための活性領域3を含む半導体層列2と、高次のモードを減衰させるための吸収領域4が設けられており、この吸収領域4は半導体層列2内に配置されているかまたは半導体層列2に接している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体レーザたとえばシングルモード半導体レーザに関する。本願は、ドイツ連邦共和国特許出願第102006046297.1号の優先権を主張するものであり、その開示内容は参照により本願に含まれるものとする。
【背景技術】
【0002】
多くの用途のために、放射品質が高くコヒーレント長が長くかつスペクトル幅の小さいレーザが望まれ、あるいは必要とされる。この特性はたとえばシングルモードレーザ(Single-Mode-Laser)たとえばDFBレーザ、面発光型半導体レーザ(VCSEL-Vertical Cavity Surface Emitting Laser)またはリッジレーザなどによって達成することができる。
【0003】
特許文献US 6,711,197 B2に記載されているリッジレーザは、AlGaNから成るp型クラッド層を有しており、このp型クラッド層の上にSiO2膜が配置されており、さらにいっそう高いモードにおける吸収のためSiO2膜に続いてSi膜が配置されている。
【0004】
上述のレーザの場合、いっそう高いモードがSi膜まで到達して吸収可能となるよう、SiO2膜を十分に薄くしなければならない。僅かな厚さのSiO2膜であると電気特性に不利な影響を及ぼす可能性があり、たとえば絶縁破壊耐性が低減したり、あるいは漏れ電流が発生するおそれがある。
【特許文献1】US 6,711,197 B2
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって本発明の課題は、半導体レーザにおいて比較的高い放射品質を提供すると同時に電気特性も向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この課題は、請求項1記載の半導体レーザによって解決される。従属請求項には本発明の有利な実施形態が示されている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明による半導体レーザには、電磁放射を発生させるための活性領域を含む半導体層列と、比較的高次のモードを減衰させるための吸収領域が設けられており、この吸収領域は半導体層列内に配置されているかまたは半導体層列に隣接している。
【0008】
吸収領域が設けられていないと、殊に1次および2次という高次のモードが現れる。有利には吸収領域を設けることによって、これら比較的高いモードの成分を著しく低減することができ、それによって放射品質を相応に改善することができる。このような高いモードを吸収するために本発明において提案される措置は有利にはモード固有のものではなく、発生する高次のモード全体に適している。
【0009】
本発明による半導体レーザを2つの実施形態で製造することができ、つまりエッジ発光型半導体レーザまたは表面発光型半導体レーザとして製造することができる。エッジ発光型半導体レーザの場合、発光はポンピングされた活性領域の広がり方向で行われ、レーザ放射は活性領域の側縁を経て出射される。表面発光型半導体レーザの場合、レーザ放射はポンピングされる活性領域に対し直角に出射される。
【0010】
活性領域はたとえばpn接合、ダブルヘテロ構造または単一量子井戸構造(SQW)、あるいは殊に有利には多重量子井戸構造(MQW構造)を有することができる。この種の構造は当業者に周知であるので、ここではこれ以上詳しくは説明しない。たとえばMQW構造については刊行物WO 01/39282, WO 98/31055, US 5,831,277, EP 1 017 113およびUS 5,684,309に記載されており、MQW構造に関してこれらの文献の開示内容を参照されたい。
【0011】
1つの有利な実施形態によれば、吸収領域は吸収特性をもつ材料を有している。
【0012】
別の有利な実施形態によれば、吸収特性を有する上記の材料は酸化物または窒化物であり、たとえばITOまたはSi,Ti,Al,Ga,Nb,Zr,Ta,Hf,Zn,Mg,Rh,Inの酸化物または窒化物である。これらの材料は、本発明において有利であるような窒化物化合物半導体をベースとする半導体レーザの場合に殊に適している。
【0013】
「窒化物化合物半導体ベース」とは本発明においては、半導体層列のうち少なくとも1つの層に窒化物化合物半導体材料たとえばAlGaIn1-n-mNが含まれることを意味しており、ここで0≦n≦1,0≦m≦1かつn+m≦1である。その際、この材料は必ずしも上述の式に従った数学的に正確な組成を有していなくてもよい。つまりAlGaIn1-n-mN材料の物理的特性を実質的に変化させない1つまたは複数のドーパントならびに付加成分を、この材料に含有させることができる。ただしわかりやすくするため上述の式には、微量の他の材料によって置き換えられている可能性があるにしても、結晶格子(Al,Ga,In,N)の主要な構成要素のみが含まれている。
【0014】
有利には、半導体レーザから送出される放射は紫外線、青または緑のスペクトル範囲の波長を有している。
【0015】
吸収領域の吸収度を材料組成によって調整するのが有利である。たとえば吸収特性を有する材料の組成は非化学量論的である。つまり材料組成に関して化学量論は存在せず、したがって組成は定量的な法則には従わない。組成SiO2を化学量論的と称することができる一方、ここで挙げる有利な組成SiO1.6は非化学量論的である。
【0016】
有利には上述の実施形態の場合、材料組成もしくは吸収度をあとからでも変更可能であり、つまりたとえば半導体レーザの製造後あるいは放射品質の最初の測定後であっても変えることができる。たとえばSiのように吸収特性の強い材料を所期のように酸化し、それによって吸収度を低減することができる。これによって得られる利点とはたとえば、複数の半導体材料をいっしょに製造し、あとから要求(たとえば低い閾値電流あるいは高いサブモード抑圧)に従って相応に構成できることである。
【0017】
この利点は、吸収材料が吸収特性をもつドーピングされた半導体材料を有するようにした別の実施形態においても得られる。この場合に有利であるのは、吸収度がドーピングによって調整されることである。ドーピングによって半導体材料のバンドギャップを変化させることができるので、いっそう高いモードが吸収される一方、半導体レーザにおける基本モードが強まり、ひいてはそれが出力結合されるよう、バンドギャップを選定することができる。本発明による半導体レーザの場合、吸収領域をMgによってドーピングするのが殊に有利である。半導体材料としては、リン化物、ヒ化物または窒化物をベースとする半導体材料、SiまたはGeが適している。
【0018】
択一的に、半導体材料はドーピングされない。たとえば半導体材料をAlnGamIn1-n-mP,AlnGamIn1-n-mAsまたはAlnGamIn1-n-mNとすることができる。ただし0≦n≦1、0≦m≦1かつn+m≦1である。この場合、半導体材料の材料組成によって、たとえばInもしくはAlの割合を変えることによって、同様にバンドギャップを調整することができ、ひいては吸収領域における吸収度を調整することができる。
【0019】
1つの有利な実施形態によれば、吸収領域は誘電性材料を有している。たとえば誘電性材料を、先に挙げたような酸化物または窒化物とすることができる。
【0020】
1つの格別有利な実施形態によれば、吸収領域は電気的に絶縁性である。これにより有利には吸収領域に対し、絶縁破壊または漏れ電流を阻止するパッシベーションの役割をもたせることができる。吸収領域がたとえば活性領域と向き合った領域で窒化ケイ素を有し、活性領域とは反対側の領域で酸化ケイ素を有するように構成することができる。窒化ケイ素の場合、非化学量論的な材料組成を簡単に達成することができ、有利にはこれによって吸収度を調整することができる。これに対し、酸化ケイ素はパッシベーションに適している。
【0021】
たとえば電気的に絶縁性の吸収領域に電流を絞る役割をもたせることができる。このようにして、半導体レーザへの電流供給を所望の範囲に制限することができる。
【0022】
1つの別の実施形態によれば、吸収領域に導入物ないしは堆積物が組み込まれている。好適には導入物は、いっそう高いモードを減衰もしくは吸収するのに適している。
【0023】
この場合、吸収領域の吸収度を導入物の割合によって調整するのが有利である。製造に起因して半導体レーザの光学特性に差が生じる可能性があるので、吸収度が調整可能であると殊に有利である。
【0024】
導入物を原子、クラスターまたは粒子とすることができ、これらは金属、半導体材料または有機材料から成るかまたはそれらを含むものである。たとえば導入物がTi,Pt,SiまたはCから成るか、またはそれらを含むようにすることができる。
【0025】
導入物を有する吸収領域に酸化物または窒化物が含まれると有利であり、それらはたとえばITOであり、あるいはSi,Ti,Al,Ga,Nb,Zr,Ta,Hf,Zn,Mg,Rh,Inの酸化物または窒化物またはポリイミドである。
【0026】
この場合、吸収度を導入物の割合によって調整するのが有利である。
【0027】
さらに吸収領域が超格子を有するように構成することができ、この超格子は、吸収性の材料を含む少なくとも1つの層と吸収性の僅かな材料を含む少なくとも1つの層から成る層列によって形成されている。たとえば吸収性の材料としてSiを用いることができ、吸収性の僅かな材料として、先に挙げたような酸化物または窒化物を用いることができる。
【0028】
さらに吸収領域の吸収度を、吸収領域へのないしは吸収領域からの吸収材料の拡散によって調整することができる。この実施形態によれば、吸収領域と半導体レーザの放射フィールドとのオーバラップを調節できるようになる。吸収材料を活性領域の近くまで拡散させることで放射フィールドとのオーバラップが大きくなり、いっそう強い吸収を達成することができる。これとは逆に放射フィールドから離れるように吸収材料を拡散させることによって、放射フィールドとのオーバラップを小さくすることができ、これによって吸収がいっそう小さくなる。この場合、拡散を熱によりおよび/または電気的に支援したり制御したりすることができる。
【0029】
半導体レーザの1つの格別な実施形態によれば、吸収領域に対し構造が付与され、ないしは吸収領域がパターニングされる。このような構造の付与ないしはパターニングによって、吸収特性をもつ面積が面全体に対して設けた場合よりも小さくなることから、吸収領域における吸収を低減することができる。このことは吸収特性の強い材料の場合に殊に有利である。たとえば吸収領域に点状、ストライプ状またはフィールドライン状の構造をもたせることができる。また、1回あるいは複数回繰り返される構造も考えられる。吸収領域を最初に面全体に設け、ついでそれに対し構造を付与するか、またはすでに構造付与しながら設けることができる。後者は共振器ミラーの場合に有利であり、その理由はこれによっても、引き続き行われる構造付与による共振器ミラーの損傷または汚れのおそれがないからである。有利には構造付与による取り付けもしくは吸収材料における空間配分の変更によって、個々の横モードおよび/または縦モードを所期のように調整することができる。
【0030】
複数の半導体レーザから成るアレイの場合には動作中、典型的には中央に配置された半導体レーザが周縁に配置された半導体レーザよりも熱くなるが、このような事例において、吸収領域をそれぞれ異なるように形成することによって種々の動作条件を考慮することができる。
【0031】
半導体レーザの1つの有利な実施形態によれば吸収領域は、横方向ないしは水平方向へのエピタキシャル成長(ELOG = Epitaxial Lateral OverGrowth)を利用したマスク層である。ELOG法は、半導体層列内部に吸収領域が配置される場合に殊に有利である。その理由は、これによって半導体層列に利用される半導体材料とは異なる材料を含む領域を半導体層列中に組み込むことができるからである。ELOGマスク層として用いられる吸収領域を、スパッタリングまたは蒸着しパターニングすることができる。吸収領域製造後、半導体層列をさらに成長させる。
【0032】
以下で述べる実施形態は、半導体層列と隣接する吸収領域の場合に殊に適している。
【0033】
1つの格別な実施形態によれば吸収領域は、半導体層列の結晶構造を変えることによって半導体層列に続く層から形成される。これにより、吸収領域は半導体層列とは異なる吸収特性をもつことになる。たとえばこの結晶構造を、プラズマ作用または温度作用によって変えることができる。この場合、プラズマダメージないしは吸収中心が生じる。GaNの場合、たとえばN2蒸着によってGa吸収中心が形成される。
【0034】
さらに吸収領域を金属層によって構成することができる。たとえばこの金属層は半導体層列の上に設けられる。あるいは金属を吸収材料として半導体層列に注入または拡散することも考えられる。
【0035】
仕事関数の小さい金属たとえばTi,AlまたはCrが金属層に含まれていると有利である。この場合、金属層は電気的な接点としては適しておらず、吸収領域のところでは電流供給ないしは活性層のポンピングは行われない。
【0036】
半導体レーザの1つの有利な実施形態によれば、吸収領域において半導体層列とは反対側に電気的な絶縁層が配置されている。たとえばこの電気的な絶縁層は、半導体層列と接する吸収領域の吸収作用とは無関係に半導体レーザの電気特性を改善するために設けられている。
【0037】
さらに有利には絶縁層は、吸収領域とは異なる屈折率を有している。有利には吸収領域が十分に薄い場合には、電気的絶縁層への放射フィールドの侵入深さをその屈折率を介して調整することができる一方、これによって放射フィールドと吸収領域とのオーバラップひいてはその吸収作用を調整することができる。たとえば屈折率を、吸収領域に用いられる材料の酸化によって変えることができる。
【0038】
それぞれ異なるモードをそれぞれ異なるように減衰させるために、吸収領域における材料組成によっても、吸収領域に適切な構造を付与することによっても、吸収度に段階的な変化またはステップ状の変化を生じさせることができる。たとえば吸収領域の構造をそれぞれ異なる密度で分布させることができ、そのようにすることで1つのモードにおいていっそう外側に位置する範囲がいっそう強く吸収されるようになる。
【0039】
1つの別の実施形態によれば、吸収領域は吸収を電気的に調整するための金属コンタクトを有している。金属コンタクトの領域において活性領域の吸収がポンピングによって、殊にいっそう高いモードが基本モードよりも強く減衰されるよう、透過と強い吸収特性との間で調整される。
【0040】
基本的に、リッジ構造を備え利得を生じさせる構造を備えたエッジ発光型半導体レーザたとえば酸化ストライプレーザ、レーザアレイおよび表面発光型半導体レーザにおいて既述のすべての実施形態を考えることができる。
【0041】
リッジレーザの場合、吸収領域が横方向に延在していると有利である。典型的には、半導体層列の各層も横方向に延在している。たとえば、吸収領域と半導体層列は実質的に互いに平行に配置されている。さらにリッジレーザの場合、吸収領域が活性領域に対し垂直方向に間隔をおいて配置されていると、とりわけ有利である。
【0042】
有利なことに本発明による半導体レーザを用いることで慣用の半導体レーザよりも高いキンクレベルを達成することができ、つまり横方向におけるモードの跳躍的変化が生じることなく、いっそう高い放射出力を達成することができる。
【0043】
本発明による半導体レーザは、データ記憶やレーザ印刷など数多くの適用事例に適している。
【0044】
本発明の範囲内で、吸収領域を製造するためにスパッタリング、蒸着、エピタキシャル成長またはプラズマ被層などが考慮の対象となる。
【0045】
図1〜図11を参照しながら以下で説明する実施例には、本発明のその他の特徴、利点ならびに実施形態が示されている。
【実施例】
【0046】
図11のaおよびbには、2つの慣用のリッジレーザについてそれぞれ1つのグラフでエッチング深さに対する閾値利得Gthが書き込まれている。
【0047】
図11のaはリッジ幅1.5μmのリッジレーザに関するものである一方、図11のbはリッジ幅5μmのリッジレーザに関する。この場合、種々の特性曲線によって種々のモードに対する閾値利得特性が表されている(曲線I:基本モード、曲線II:1次、曲線III:2次、曲線IV:3次、曲線V:4次、曲線VI:6次、曲線VII:9次)。
【0048】
これらのグラフからわかるのは、エッチング深さが大きくなるにつれて閾値利得が減少することである。また、リッジ幅が大きくなるにつれて閾値利得も減少する。両方のケースにおいて問題となるのは、エッチング深さが大きくなるにつれていっそう高次のモードが現れることである。図11のbからわかるように、リッジの幅が広がるといっそう高次のモードが比較的小さいエッチング深さのときにすでに生じる。
【0049】
以下では、エッチング深さが大きいにもかかわらず、ないしはリッジ幅が広いにもかかわらず、いっそう高いモードをどのように緩和できるのかについて説明する。
【0050】
半導体レーザの図面には下方周縁部に斜線が付されており、これによって表そうとしているのは、半導体層列2がこの側では1つの特定の形状に定められてはいないことである。この側では、半導体レーザの慣用の形状が考慮の対象となる。たとえば半導体レーザはその部分にクラッド層、導波体層、ミラー層、基板およびコンタクト層を有している。
【0051】
図1には半導体レーザ1が描かれており、これは半導体層列2を有しており、これらの層(個別には図示せず)は図面の垂直方向で上下に配置されている。半導体層列2には活性領域3が含まれており、この領域により動作中、電磁放射が生成される。有利にはこの実施例の場合、生成された放射が側方で放射され、つまり垂直方向に対し実質的に垂直な方向で放射される。活性領域3は、所望の波長をもつ放射の生成に適した半導体材料によって形成されている。有利には活性領域3は窒化物をベースとする半導体材料たとえばGaNを有しており、緑/青のスペクトル範囲の波長をもつ放射を送出する。この波長をたとえば約405nmとすることができる。
【0052】
図示の実施例の場合、吸収領域4が半導体層列2と接している。この場合、吸収領域4は電気的に十分に非導電性であり十分に厚く、したがってこの領域は同時にパッシベーションないしは不動態化の役割も果たし、これによって絶縁破壊耐性が有利に高められ、漏れ電流が低減されることになる。吸収領域4の厚さDは、たとえば約12V〜15Vまでの動作電圧であれば250nmの領域にある。さらに吸収領域4に2つの材料たとえば窒化ケイ素および酸化ケイ素をもたせることができ、その際、これらの材料をたとえば上下に配置された層に含ませることができる。
【0053】
垂直方向で吸収領域4に続いて、半導体層列2の電気的接触接続のためにコンタクト層5が設けられている。
【0054】
半導体レーザ1を、図示のようにリッジ6を有するリッジレーザとすることができる。半導体レーザ1はエッチング深さTとリッジ幅Bを有している。吸収領域4は半導体層列2を覆っており、有利にはリッジ6の側縁も含めて覆っている。電流を形成するためのストライプ状の領域だけは、吸収領域4には覆われていない。この領域では、コンタクト層5が半導体層列2とじかに接している。
【0055】
図2には半導体レーザ1が描かれており、これは図1に示した半導体レーザ1よりも薄い吸収領域4を有している。しかしながら吸収領域4を流れる電流を十分に抑えることができるようにする目的で、吸収領域4に続いて活性領域3とは反対側に、殊に非導電性の絶縁層7が設けられている。有利にはこの実施形態の場合、光学特性に依存せずに電気特性に作用を及ぼすことができる。とはいえ、絶縁層7を用いることで光学特性にも作用を及ぼすことができ、たとえばこれは絶縁層7への放射フィールドの侵入深さを、絶縁層7に用いられる材料の屈折率によって設定することによって行われる。これにより放射フィールドと吸収領域4とのオーバラップつまりは吸収作用を定めることができる。
【0056】
たとえばこの実施例の場合、吸収領域4のためにケイ素を用いることができる一方、絶縁層7のために酸化ケイ素を用いることができる。酸素成分を用いて、電気特性のほかに屈折率に作用を及ぼすことができる。
【0057】
図3に描かれている半導体レーザ1の吸収度は、吸収領域4の領域4aにおいてあとからでも、つまり半導体レーザ1の製造後であっても、あるいは放射品質の最初の測定後に、調節することができる。この調節は吸収材料の拡散によって行われる。
【0058】
領域4aにおける吸収度を高めようとするならば、領域4aに続いて領域4bを設けることができ、この領域4bには領域4aに向かう矢印方向で拡散する吸収材料が含まれている。これにより吸収材料は活性領域3の近くまで到達し、このようにして放射フィールドとのオーバラップが大きくなり、いっそう強い吸収が行われる。これとは逆に領域4aから領域4bへ吸収材料を拡散させれば、この領域4aにおける吸収度を低減することができる。これにより吸収材料は活性領域3からいっそう離れていき、このようにして放射フィールドとのオーバラップが少なくなり、吸収が低減される。
【0059】
たとえば吸収材料には導入物ないしは沈積物が含まれている。導入物を原子、クラスターまたは粒子とすることができ、これらは金属、半導体材料または有機材料から成るかまたはそれらを含むものである。たとえば導入物がTi,Pt,SiまたはCから成るか、またはそれらを含むようにすることができる。
【0060】
また、拡散を熱によっておよび/または電気的に支援することができる。
【0061】
図4に示されている半導体レーザ1によれば、領域4aおよび領域4bから成る吸収領域4が半導体層列2の中に配置されている。吸収領域4を垂直方向で活性領域3の上方、下方または隣りに配置することができる。たとえば吸収領域4を吸収性のマスク層たとえばELOGマスク層として半導体層列2中に組み込むことができ、その際に吸収領域4を横方向でエピタキシャル成長させる。しかも図4のように配置された吸収領域4は非導電性であり、同時にこの領域を電流を絞るためにも用いることができ、このようにすることで有利には電流の流れが、吸収性の各領域4a,4bの間に配置された半導体層列2の中央領域に制限される。さらに吸収領域4と周囲を取り囲む半導体層列2の半導体材料との間で屈折率に適切な跳躍的変化をもたせることによって、光学的閉じ込めを向上させることができる。
【0062】
図5a〜図5eには、様々な構造の与えられたないしはパターニングされた吸収領域4が描かれている。図5dに示されているように、パターニングされた吸収領域4をリッジ6ないしはレーザ共振器の上にじかに配置することができる。付加的にまたは択一的に、図5a,5b,5c,5eに示されているように吸収領域4をリッジ6もしくはレーザ共振器の隣りに配置することができる。パターニングによって、吸収性の強い材料の場合に吸収作用を緩和させることができる。
【0063】
図5aに示されている吸収領域4はリッジ6に沿って両側に広がっており、ストライプ状に形成されている。
図5bに示されている吸収領域4もリッジ6に沿って両側に広がっており、長手方向で互いに規則的な間隔で配置された等しい大きさの矩形としてパターニングされている。
図5cに示されている吸収領域4もリッジ6に沿って両側に広がっており、長手方向で互いに不規則な間隔で配置された大きさの異なる矩形としてパターニングされている。
【0064】
図5dに示されている吸収領域4は種々の幾何学的形状たとえば楕円形、矩形あるいは半球の形状としてパターニングされている。
【0065】
図5eに示されている吸収領域4はリッジ6に沿って両側に広がっており、ストライプ状に形成されている。この場合、ストライプは端部でわずかに湾曲している。
【0066】
図6に示されている半導体レーザ1の場合、吸収が電気的に調整される。半導体層列2の上に、コンタクト層5に加えて金属コンタクト8が設けられており、これによって半導体レーザ1に電流が注入される。金属コンタクト8の領域において活性領域3がポンピングによって、殊にいっそう高いモードが基本モードよりも強く吸収されるよう、透過と強い吸収特性との間で調整される。この場合、金属コンタクト8はコンタクト層5とは無関係に給電される。したがって金属コンタクト8の領域における吸収を、コンタクト層5の領域で行われるレーザ動作に依存することなく調整することができる。
【0067】
図7に示されている半導体レーザ1の実施形態は、その動作原理に関して図6に示した半導体レーザ1の実施例とは異ならない。ただしこの半導体レーザ1は、図6に示した実施例よりも広げられたレーザ動作領域を有している。この事例では、半導体層列2を金属コンタクト8の領域で除去しなくてもよい。
【0068】
図8に示した半導体レーザ1は、金属コンタクト8とコンタクト層5との間に付加的に分離トレンチ9を有している。この分離トレンチ9によってコンタクトの電気的分離がいっそう向上し、それによって半導体層列2への電流供給が主としてコンタクト層5下方の領域で行われるようになる。さらにこれにより、半導体レーザ1においていっそう良好な導波を達成できるようになる。
【0069】
図9aおよび図9bには、慣用のリッジレーザ(図9a)と本発明によるリッジレーザ(図9b)のエッチング深さに依存した内部損失αiのシミュレーションが描かれている。横軸にはエッチング深さが、縦軸には内部損失αが示されている。慣用のリッジレーザは吸収材料を有していないのに対し、本発明によるリッジレーザは吸収材料としてTiOを有しており、これはリッジに配置されている。これら両方のリッジレーザにおいて、リッジ幅は1.5μmである。
【0070】
特性曲線I,II,IIIは基本モード、1次モード、2次モードに関するシミュレーション結果を表している。
【0071】
これらの曲線の比較からわかるように、高次のモードの内部損失αiは吸収材料を用いると吸収材料がない場合よりも著しく大きい。有利にはこれによって、閾値利得が低く光学的出力パワーが比較的高い場合に、基本モードにおけるレーザ動作が可能である。
【0072】
図10aおよび図10bには、種々のリッジレーザによって得られた角度に依存する強度分布の測定結果が描かれている。吸収材料の設けられていない慣用のリッジレーザによれば、図10aに示された測定結果が得られるのに対し、吸収材料(この事例ではTiO)の設けられた本発明によるリッジレーザによれば、図10bに示された測定結果が得られる。
【0073】
角度に依存する強度分布は、垂直方向の遠方フィールドにおける測定結果である。これら種々の特性曲線は、それぞれ異なるリッジ幅をもつリッジレーザに対応づけられる。曲線Iはリッジ幅2.5μmのリッジレーザに対応づけられ、曲線IIはリッジ幅5μmのリッジレーザに、曲線IIIはリッジ幅8μmのリッジレーザに、さらに曲線IVはリッジ幅10μmのリッジレーザに対応づけられる。図10aからわかるように、8μmのリッジ幅をもち吸収体の設けられていないリッジレーザの強度分布は、もはやガウス形状には対応していない。これに対し、同じリッジ幅をもつ本発明によるリッジレーザに関して図10bに示されている曲線IIIおよびIVはガウス形状を有している。
【0074】
このように吸収材料を使用することにより、垂直方向における遠方フィールドの放射形状が著しく改善されている。さらに吸収材料の使用によって、リッジ幅のいっそう広いリッジレーザであっても基本モードで駆動できるようになる。このことによって得られる利点とは、レーザストライプのパターニングないしは構造付与が著しく簡単になる一方、動作電圧が低減されることである。その理由は、リッジレーザにおける接触抵抗および直列抵抗がリッジ幅に対し逆の関係にあり、リッジ幅が広いときの閾値電流密度がリッジ幅が狭いときよりも小さくなることによる。さらにリッジ幅を広げることによって出力パワーをいっそう高めることができるようになる。それというのもファセットにおける出力密度が小さくなり、したがってファセット損傷(COMD = Catastrophic Optical Mirror Damage 瞬時光学破壊)を引き起こすクリティカルな出力密度が高くなるからである。
【0075】
なお、本発明は実施例に基づくこれまでの説明によって限定されるものではない。つまり本発明はあらゆる新規の特徴ならびにそれらの特徴のあらゆる組み合わせを含むものであり、これにはたとえば特許請求の範囲に記載した特徴の組み合わせ各々が含まれ、このことはそのような組み合わせ自体が特許請求の範囲あるいは実施例に明示的には記載されていないにしてもあてはまる。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】本発明による半導体レーザの第1実施例の概略断面図
【図2】本発明による半導体レーザの第2実施例の概略断面図
【図3】本発明による半導体レーザの第3実施例の概略断面図
【図4】本発明による半導体レーザの第4実施例の概略断面図
【図5】a〜eは本発明による吸収体ゾーンの構造に関する実施例の概略図
【図6】本発明による半導体レーザの第5実施例の概略断面図
【図7】本発明による半導体レーザの第6実施例の概略断面図
【図8】本発明による半導体レーザの第7実施例の概略断面図
【図9】aおよびbはエッチング深さに対する慣用の半導体レーザと本発明による半導体レーザの内部損失を示すグラフ
【図10】aおよびbは慣用の半導体レーザと本発明による半導体レーザに関して角度に依存する強度分布を示すグラフ
【図11】aおよびbは慣用のリッジレーザの閾値利得特性を示す2つのグラフ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体レーザ(1)において、
電磁放射を発生させるための活性領域(3)を含む半導体層列(2)と、
高次のモードを減衰させるための吸収領域(4)が設けられており、該吸収領域(4)は半導体層列(2)内に配置されているかまたは半導体層列(2)に接していることを特徴とする、
半導体レーザ。
【請求項2】
請求項1記載の半導体レーザ(1)において、
前記吸収領域(4)は吸収性の材料を有することを特徴とする半導体レーザ。
【請求項3】
請求項1または2記載の半導体レーザ(1)において、
前記吸収領域(4)の吸収度は材料組成によって調整されていることを特徴とする半導体レーザ。
【請求項4】
請求項2または3記載の半導体レーザ(1)において、
前記吸収性材料は酸化物または窒化物であり、たとえばITOまたはSi,Ti,Al,Ga,Nb,Zr,Ta,Hf,Zn,Mg,Rh,Inの酸化物または窒化物であることを特徴とする半導体レーザ。
【請求項5】
請求項2から4のいずれか1項記載の半導体レーザ(1)において、
前記吸収性材料の材料組成は非化学量論的であることを特徴とする半導体レーザ。
【請求項6】
請求項2から5のいずれか1項記載の半導体レーザ(1)において、
前記吸収領域(4)は誘電材料を有することを特徴とする半導体レーザ。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか1項記載の半導体レーザ(1)において、
前記吸収領域(4)は電気的に絶縁性であることを特徴とする半導体レーザ。
【請求項8】
請求項7記載の半導体レーザ(1)において、
前記吸収領域(4)は電流を絞るために用いられることを特徴とする半導体レーザ。
【請求項9】
請求項1から3のいずれか1項記載の半導体レーザ(1)において、
前記吸収領域(4)は吸収特性をもつ半導体材料を含むことを特徴とする半導体レーザ。
【請求項10】
請求項9記載の半導体レーザ(1)において、
前記半導体材料はAlnGamIn1-n-mP,AlnGamIn1-n-mAsまたはAlnGamIn1-n-mNを有しており、ここで0≦n≦1、0≦m≦1およびn+m≦1であることを特徴とする半導体レーザ。
【請求項11】
請求項9記載の半導体レーザ(1)において、
前記半導体材料はSiまたはGeであることを特徴とする半導体レーザ。
【請求項12】
請求項9から11のいずれか1項記載の半導体レーザ(1)において、
前記吸収特性をもつ半導体材料はドーピングされていることを特徴とする半導体レーザ。
【請求項13】
請求項12記載の半導体レーザ(1)において、
前記吸収領域(4)の吸収度はドーピングによって調整されていることを特徴とする半導体レーザ。
【請求項14】
請求項12または13記載の半導体レーザ(1)において、
前記ドーピングされた半導体材料はMgによってドーピングされていることを特徴とする半導体レーザ。
【請求項15】
請求項1記載の半導体レーザ(1)において、
前記吸収領域(4)に吸収特性をもつ導入物が混合されていることを特徴とする半導体レーザ。
【請求項16】
請求項15記載の半導体レーザ(1)において、
前記吸収領域(4)の吸収度は前記導入物の割合によって調整されていることを特徴とする半導体レーザ。
【請求項17】
請求項15または16記載の半導体レーザ(1)において、
前記導入物は原子、クラスターまたは粒子であり、これらは金属、半導体材料または有機材料から成るかまたはそれらを含むことを特徴とする半導体レーザ。
【請求項18】
請求項17記載の半導体レーザ(1)において、
前記導入物はTi,Pt,SiまたはCから成るか、またはそれらを含むことを特徴とする半導体レーザ。
【請求項19】
請求項15から18のいずれか1項記載の半導体レーザ(1)において、
前記吸収領域(4)は酸化物または窒化物であり、たとえばITOまたはSi,Ti,Al,Ga,Nb,Zr,Ta,Hf,Zn,Mg,Rh,Inの酸化物または窒化物またはポリイミドであることを特徴とする半導体レーザ。
【請求項20】
請求項1記載の半導体レーザ(1)において、
前記吸収領域(4)は超格子を有しており、該超格子は吸収性の材料を含む少なくとも1つの層と吸収性の僅かな材料を含む少なくとも1つの層から成る層列によって形成されていることを特徴とする半導体レーザ。
【請求項21】
請求項1記載の半導体材料(1)において、
前記吸収領域(4)の吸収度は、拡散による該吸収領域(4)への吸収材料の取り込みまたは該吸収領域(4)からの吸収材料の取り出しによって調整されていることを特徴とする半導体レーザ。
【請求項22】
請求項1から21のいずれか1項記載の半導体レーザ(1)において、
前記吸収領域(4)に構造が与えられていることを特徴とする半導体レーザ。
【請求項23】
請求項22記載の半導体レーザ(1)において、
前記吸収領域(4)は点状、ストライプ状またはフィールドライン状の構造を有することを特徴とする半導体レーザ。
【請求項24】
請求項1から23のいずれか1項記載の半導体レーザ(1)において、
前記吸収領域(4)は前記半導体層列(2)の中に配置されていることを特徴とする半導体レーザ。
【請求項25】
請求項24記載の半導体レーザ(1)において、
前記吸収領域(4)はエピタキシャル成長により形成されていることを特徴とする半導体レーザ。
【請求項26】
請求項1記載の半導体レーザ(1)において、
前記吸収領域(4)は前記半導体層列(2)に隣接していることを特徴とする半導体レーザ。
【請求項27】
請求項26記載の半導体レーザ(1)において、
前記吸収領域(4)は、前記半導体層列(2)の結晶構造を変えることで該半導体層列(2)に続く層により形成されていることを特徴とする半導体レーザ。
【請求項28】
請求項27記載の半導体レーザ(1)において、
前記結晶構造はプラズマ作用または熱作用により変更されていることを特徴とする半導体レーザ。
【請求項29】
請求項26記載の半導体レーザ(1)において、
前記吸収領域(4)は金属層から成ることを特徴とする半導体レーザ。
【請求項30】
請求項29記載の半導体レーザ(1)において、
前記金属層は仕事関数の小さい金属たとえばTiまたはCrを含むことを特徴とする半導体レーザ。
【請求項31】
請求項26からから30のいずれか1項記載の半導体レーザ(1)において、
前記吸収領域(4)において前記半導体層列(2)とは反対側に電気的絶縁層(7)が配置されていることを特徴とする半導体レーザ。
【請求項32】
請求項31記載の半導体レーザ(1)において、
前記絶縁層(7)は前記吸収領域(4)とは異なる屈折率を有することを特徴とする半導体レーザ。
【請求項33】
請求項26記載の半導体レーザ(1)において、
前記吸収領域(4)は吸収を電気的に調整するための金属コンタクト(8)を有することを特徴とする半導体レーザ。
【請求項34】
請求項1から33のいずれか1項記載の半導体レーザ(1)において、
リッジレーザであることを特徴とする半導体レーザ。
【請求項35】
請求項34記載の半導体レーザ(1)において、
前記吸収領域(4)は横方向に延在していることを特徴とする半導体レーザ。
【請求項36】
請求項34または35記載の半導体レーザ(1)において、
前記吸収領域(4)は垂直方向で前記活性領域(3)に対し間隔がおかれていることを特徴とする半導体レーザ。
【請求項37】
請求項1から36のいずれか1項記載の半導体レーザ(1)において、
前記吸収領域(4)はスパッタリング、蒸着、エピタキシャル成長またはプラズマ被層によって生成されることを特徴とする半導体レーザ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2008−91910(P2008−91910A)
【公開日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−251152(P2007−251152)
【出願日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【出願人】(599133716)オスラム オプト セミコンダクターズ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (586)
【氏名又は名称原語表記】Osram Opto Semiconductors GmbH
【住所又は居所原語表記】Wernerwerkstrasse 2, D−93049 Regensburg, Germany
【Fターム(参考)】