説明

半導体基板及びその製造方法

【課題】表面の面方位が{011}であり、製造コストが低く、接合強度が十分であって、高速動作のp型トランジスタの製造に好適な半導体基板及びその製造方法を提供する。
【解決手段】表面の面方位が{011}の第1の基板40の直上に、エピタキシャル層41を形成する。このとき、基板のエッジロールオフを相殺するように、すなわちエピタキシャル層41の端部の厚さが他の領域の厚さよりも若干厚くなるように、エピタキシャル層41を形成する。次に、エピタキシャル層41に水素イオンを注入し、第2の基板(ベース基板)45と張り合せる。その後、水素濃度が高い部分でエピタキシャル層41を劈開する。これにより、第2の基板45上に{011}シリコン単結晶層41が設けられた半導体基板46が得られる。一方、劈開後に残った第1の基板40は、その表面を研磨して再使用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、p型電界効果トランジスタを有する半導体装置の製造に好適な半導体基板及びその製造方法に関し、特に表面が{011}の半導体基板及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、コンピュータ技術を用いた情報機器では、取り扱う情報量が増加する傾向にある。特に動画表示機能を備えた情報機器では多量の情報を高速で処理することが要求されている。また、情報機器には、情報処理能力の向上とともに省電力化も要求されており、n型電界効果トランジスタ(以下、単に「n型トランジスタ」という)とp型電界効果トランジスタ(以下、単に「p型トランジスタという)とを組み合わせたCMOS(Complimentary Metal Oxide Semiconductor)が多用されている。
【0003】
一般的な半導体装置は、表面が{001}のシリコンウエハ(以下、{001}シリコンウエハというように記載する)を用いて製造される。しかし、このような半導体装置では、n型トランジスタの動作速度は速いものの、p型トランジスタの動作速度が遅いことが知られている。このため、特にp型トランジスタの動作速度の向上が要望されている。{001}シリコンウエハを用いた半導体装置におけるn型トランジスタとp型トランジスタの動作速度の差は、シリコン結晶の物理的性質に起因する。
【0004】
p型トランジスタの動作速度の向上のために、p型トランジスタのチャネル長方向に圧縮歪みを導入することが提案されている(例えば、特許文献1)。しかし、この方法でより高速のp型トランジスタを形成するためには大きな歪みを発生する必要があり、その場合は次の問題が発生する。
【0005】
すなわち、特許文献1に開示された技術では、ソース及びドレインにシリコン・ゲルマニウム合金(以下、「SiGe」という)結晶を採用し、このSiGe結晶がSi(シリコン)結晶よりも大きな格子定数をもつことを利用して、Si結晶からなるチャネルに圧縮歪みを発生させている。しかし、SiGe結晶とSi結晶との界面には結晶格子の不整合が生じており、これが原因となってトランジスタの動作領域に多数の転位が発生し、リーク電流が増える原因となっている。そのため、特許文献1に開示された技術を例えば低スタンバイ電流が要求されるモバイル機器に適用することは困難である。
【0006】
第2の問題は、SiGe結晶により導入される歪みにより発生する応力が約2GPaと大きいことによる。材料強度学によれば、理想破壊強度(歪みや疵等のない理想的な結晶の破壊強度)はヤング率の約1/10であり、実際の結晶の破壊強度は更に低くて、ヤング率の1/100程度である。Si単結晶の場合、ヤング率は面方位によって異なるが130〜180GPa程度であるので、上記の方法により歪みを導入したp型トランジスタのチャネル部(Si結晶)には、ヤング率の1/100を超える応力が生じていることになる。トランジスタ製造には高純度のシリコン単結晶を用いているものの、この応力の状態は力学的見地からリスクが大きく、結晶が破壊されるおそれがある。
【0007】
このような問題を解消すべく、非特許文献1には、{011}シリコンウエハを使用することが提案されている。図1は、横軸にキャリア密度をとり、縦軸にホール(正孔)の移動度をとって、(001)シリコンウエハ及び(011)シリコンウエハにおけるキャリア密度とホール移動度との関係を示す図である。なお、図1において、<011>,<001>は、チャネル長方向を示している。また、本願においては、特定の面方位を示すときには(001)又は(011)というように記載し、等価の面方位をまとめて示すときには{001}又は{011}というように記載している。
【0008】
この図1からわかるように、{011}シリコンウエハを用いると、{001}シリコンウエハを用いたときに比べて約2倍のホール(正孔)移動度を容易に実現でき、高速動作が可能なp型トランジスタが得られる。特許文献2,3には、表面が{011}のシリコン層を有するSOI(Silicon On Insulator)基板(ウエハ)の製造方法やその基板を用いた半導体装置が記載されている。
【0009】
しかしながら、表面が{011}のシリコンウエハは、小規模生産は行われているものの、現状ではコストの点で量産化が困難である。以下に、その理由について説明する。
【0010】
一般にSi単結晶を工業的に製造するのには、チョクラルスキー法(Czochralski:以下「CZ法」という)が用いられており、これは今後も変わらないと考えられている。CZ法では、石英るつぼに充填したシリコン融液に種結晶を接触させた後、種結晶を回転させながらゆっくり上方へ引き上げて種結晶の下方に単結晶を連続的に成長させ、インゴットと呼ばれる棒状の単結晶を形成する。インゴットの直径は引き上げ速度と融液温度とにより自由に制御することができ、現在では直径が300mm、長さが2m、重量が300kgの巨大な単結晶を工業的に生産することができる。
【0011】
CZ法でシリコン単結晶を生産する場合、ネッキングと呼ばれる操作を行う。図2(a),(b)に示すように、種結晶11が融液10に接触した瞬間に、熱応力によって種結晶11に転位が導入される。そのため、そのまま径を太くしてインゴットを作製すると、インゴット中に多数の転位が残り、良質の単結晶を得ることができない。ネッキングは、このような不具合を回避するために行われる。
【0012】
すなわち、種結晶11を融液10に接触させた後、引き上げ速度や融液温度を調整して、種結晶11の下に成長する結晶の直径が4〜5mm程度になるようにする。この状態である程度結晶の成長を継続すると、図3(a)〜(c)に示すように、種結晶11から引き継がれた転位が結晶の成長とともに表面に移動して最終的に除去され、無転位の単結晶となる。その後、引き上げ速度や融液温度を調整して、図4に示すように結晶を所定の直径まで太く成長させる。これにより、転位のない大口径のSi単結晶からなるインゴット13が得られる。現在一般的に用いられている{001}ウエハは、<001>方向に成長したSi単結晶からなるインゴットを加工して形成されたものである。
【0013】
ところで、Si単結晶の転位論によれば、転位の移動方向は<011>である。従って、図5(a)に示すようにSi単結晶11を<001>方向に成長させる場合は、ネッキングにより転位が結晶の表面側に移動し、最終的に無転位のSi単結晶からなるインゴットを形成することができる。しかし、Si単結晶の成長方向を<011>とした場合は、図5(b)に示すように転位の移動方向に結晶が成長するため、ネッキングで無転位化することは困難である。
【0014】
<011>方向の成長でも、種結晶の下方に成長する結晶の直径を1mm程度まで細くすれば、転位を除去することができる。本願発明者等の研究によれば、結晶の直径を1mm程度まで細くすることにより、<011>方向の結晶成長でも単結晶化率は90%以上となることが判明している。しかし、その場合はネッキング部の機械的強度が低くなるため、作業の安全性を考慮すると最大でも20kg以下のインゴットしか製造することができず、製造コストが高くなってしまう。
【0015】
前述したように、特許文献2には表面が{011}のシリコン層を有するSOI基板(ウエハ)が開示されている。しかし、この特許文献2には、{011}シリコン層の具体的な形成方法は記載されていない。
【0016】
特許文献3に開示されたSOI基板の製造方法は既に工業化されており、現在はSmart Cut(登録商標)と呼ばれている。図6,図7を参照して、Smart CutによるSOI基板(半導体ウエハ)の製造方法を説明する。なお、ここでは{011}シリコン層を備えたSOI基板の作製方法について説明しているが、Smart Cutにはいくつかのバリエーションがあり、{011}シリコン層を備えたSOI基板以外のSOI基板の作製にも用いられている。Smart Cutについては、非特許文献2にも記載されている。
【0017】
まず、CZ法等により<011>方向にSi結晶を成長させて、Si単結晶からなるインゴットを形成する。その後、インゴットを切断して、図6(a)に示すように{011}シリコン単結晶からなる第1の基板20を得る。
【0018】
次に、図6(b)に示すように、第1の基板20の表面を酸化して、シリコン酸化膜21を形成する。その後、図6(c)に示すように、第1の基板20の一方の面側から水素イオン(H+)を注入する。このとき、水素イオンが最も高濃度になる面の位置は、水素イオン注入時の加速電圧で決定される。ここでは、水素イオンが最も高濃度になる面を符号22で示す。
【0019】
一方、図6(d)に示すように、ベース基板(張り合わせ用基板)として第2の基板25を用意する。この第2の基板25には、例えば一般的な{001}シリコン基板を用いることができる。そして、図7(a)に示すように、第2の基板25の上に、シリコン酸化膜21が形成された第1の基板20を張り合せる。
【0020】
次に、例えば所定の温度で熱処理を施すと、図7(b)に示すように水素イオンが導入された面で第1の基板20が劈開し、第2の基板25上に{011}シリコン単結晶層20aが残る。その後、第2の基板25とシリコン単結晶層20aとの張り合わせ強度を高めるために、熱処理を施す。
【0021】
次いで、シリコン単結晶層20aの表面を研磨して平坦化する。このようにして、図7(c)に示すように、ベース基板(第2の基板25)と、シリコン酸化膜21と、{011}シリコン単結晶層20aとにより構成されるSOI基板26が完成する。
【0022】
一方、図7(b)の工程で残った{011}シリコン単結晶からなる第1の基板20の劈開面を研磨して平坦化した後、シリコン酸化膜21を除去する。この第1の基板20を再度使用して図6(a)〜(d),図7(a)〜(c)に示す工程を実施し、SOI基板26を形成する。
【0023】
このように、特許文献3に開示された方法によれば、1枚の{011}シリコン単結晶基板(第1の基板20)を用いて多くのSOI基板を製造することができる。このため、高価な{011}シリコン単結晶基板を使用していても、SOI基板1枚当りの製造コストを比較的低く抑えることができる。
【0024】
その他、本願に関係すると思われる従来技術として、特許文献4〜7、非特許文献3〜6に記載されたものがある。
【特許文献1】米国特許第6621131号明細書
【特許文献2】特開平03−19275号公報
【特許文献3】米国特許第7052974号明細書
【特許文献4】特開平11−307413号公報
【特許文献5】特開2004−79930号公報
【特許文献6】特開2004−214402号公報
【特許文献7】特開2004−79930号公報
【非特許文献1】M. Leong et al., Electrochem. Soc., PV 2004-1, 371(2004)
【非特許文献2】M. Bruel, Electron. Lett. 31, 1201 (1995)
【非特許文献3】M. Kimura, Y. Saito, H. Daio, and K. Yakushiji, Jpn. J. Appl. Phys. vol. 38, (1999), pp. 38.
【非特許文献4】JEITA EMR-3001 "The Impact of Edge Roll-off on CMP Performance" published by JEITA.Oct. 2004
【非特許文献5】W. S. Capinski et al., Appl. Physs. Lett. 71, 2109(1997)
【非特許文献6】T. Fukuda et al., Procceedings of The 2ndSymp. on Defects in Si, edited by W. M. Bullis, U. Gosele, and F. Shimura(Electrochem. Soc., NJ, 1991),vol. 91-9,pp.173
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0025】
しかし、特許文献3に記載された方法では、1枚の{011}シリコン単結晶基板を何回も使用するため、熱処理時や搬送時において治具との接触などにより{011}シリコン単結晶基板に疵や結晶欠陥が入って品質が劣化する。このため、1枚の{011}シリコン単結晶基板から製造できるSOI基板の数が制限され、SOI基板の製造コストを更に低減することが困難である。
【0026】
特許文献4には、シリコン基板の上にエピタキシャル層を形成し、このシリコン基板を第1の基板としてSmart CutによりSOI基板を作製することが提案されている。この特許文献4に記載された方法では、シリコン基板上に形成されたエピタキシャル層に水素イオンを注入し、ベース基板と接合した後にエピタキシャル層で劈開してSOI基板を作製する。劈開後に残ったシリコン基板は、シリコン酸化膜を除去した後、その上にシリコン層をエピタキシャル成長させることにより、再度第1の基板として使用することができる。この特許文献4に記載された方法では、シリコン基板を何度も使用することができて、SOI基板の製造コストを削減することができる。
【0027】
この特許文献4に記載された技術を利用して、表面が{011}のシリコン層を有するSOI基板を製造することが考えられる。しかしながら、本願発明者等の実験・研究から、特許文献3,4に記載された方法を用いて表面が{011}の半導体基板を形成した場合、ベース基板とシリコン単結晶層との接合強度が不足することが判明した。
【0028】
以上から、本願発明の目的は、表面の面方位が{011}であり、製造コストが低く、接合強度が十分であって、高速動作のp型トランジスタの製造に好適な半導体基板及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0029】
本発明の一観点によれば、ベース基板と、前記ベース基板の上方に配置されたシリコン単結晶層とを有する半導体基板において、前記シリコン単結晶層の表面の面方位が{011}であり、且つ前記シリコン単結晶層が前記ベース基板のエッジロールオフを相殺する厚さ分布を有することを特徴とする半導体基板が提供される。
【0030】
本発明においては、ベース基板の上方に配置されたシリコン単結晶層の表面の面方位が{011}である。このため、ホール(正孔)の移動度が高く、p型トランジスタを高速に動作させることができる。また、本発明においては、シリコン単結晶層がベース基板のエッジロールオフを相殺する厚さ分布を有している。このため、ベース基板とシリコン単結晶層との接合強度が向上する。
【0031】
本発明の他の観点によれば、表面の面方位が{011}のシリコン単結晶からなる第1の基板の上にシリコン単結晶層をエピタキシャル成長させる工程と、前記シリコン単結晶層に水素イオンを注入する工程と、第2の基板の上に、前記シリコン単結晶層を下側にして前記第1の基板を接合する工程と、前記シリコン単結晶層を前記イオン注入した水素の濃度が高い部分で劈開する工程とを有し、前記シリコン単結晶層は、前記第1の基板又は前記第2の基板のエッジロールオフを相殺する厚さ分布となるようにエピタキシャル成長条件を調整して形成することを特徴とする半導体基板の製造方法が提供される。
【0032】
本発明においては、表面の面方位が{011}のシリコン単結晶からなる第1の基板の直上にシリコン単結晶層をエピタキシャル成長させる。それにより形成されたシリコン単結晶層は、第1の基板と同様に表面の面方位が{011}となる。但し、単結晶層を形成するときには、第1の基板又は後述の第2の基板のエッジロールオフを相殺する厚さ分布となるように、エピタキシャル成長条件を調整することが必要である。
【0033】
次に、シリコン単結晶層に水素イオンを注入する。この水素イオンの注入により、シリコン単結晶層は劈開しやすい状態になる。
【0034】
次に、第2の基板を用意し、この第2の基板の上にシリコン単結晶層を下側にして第1の基板を接合する。この場合に、シリコン単結晶層が、第1の基板又は第2の基板のエッジロールオフを相殺する厚さ分布となるように形成されているので、シリコン単結晶層と第2の基板との間の隙間が低減され、シリコン単結晶層と第2の基板とを十分な強度で接合することができる。
【0035】
次に、例えば温度を加えることにより、水素イオンが注入された部分に応力を発生させてシリコン単結晶層を劈開する。このようにして、第2の基板の上に{011}シリコン単結晶層が積層された構造の半導体基板が得られる。一方、劈開後の第1の基板は、その表面を若干研磨することにより、再使用が可能な状態になる。
【0036】
本発明においては、シリコン単結晶層と第2の基板とを十分な強度で接合することができるので、信頼性の高い半導体装置を製造することができる。また、{011}シリコン単結晶からなる第1の基板は消耗することなく何度も再使用することができるので、半導体基板の製造コストを大幅に低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
以下、本発明の実施形態を説明する前に、前述の特許文献3,4に記載された方法でシリコン単結晶層とベース基板との間に十分な接合強度が得られない理由について、本願発明者等が検討した結果を説明する。
【0038】
半導体装置製造時の基板となるウエハは、図8に示すように、その周辺部の厚みがわずかに減少しており、エッジロールオフと呼ばれる形状になっている。エッジロールオフは、ウエハ製造時にその表面をCMP(Chemical Mechanical Polish)法で研磨するときに発生する。標準的な直径300mmのウエハの場合、ウエハ端から約0.5mmまでの範囲をエッジ部、ウエハ端から2mmの範囲をエッジ除外部(Edge Exclusive Area:EEA)と呼んでいる。また、エッジ除外部を除いた領域をFQA(Fixed Quality Area)と呼んでいる。通常、エッジ端から3mm以上離れた領域では表面が平坦であると考えられる。ここでは、エッジ端から3〜6mm離れた領域を基準領域という。理想的には、エッジ部を除いた領域(図8にWで示す領域)が平坦(同一厚さ)であることが好ましい。
【0039】
非特許文献3には、エッジロールオフの程度を示すパラメータとしてROA(Roll-Off Amount)を用いることが提案されている。ROAは、現在ではエッジロールオフの程度を示すパラメータとして国際標準になっている。このパラメータは、ウエハ端から1mmの位置におけるおもて面の厚さの減少量(基準領域の厚さからの減少量)と定義されている。
【0040】
図9(a)に、5枚のウエハについて本願発明者等が行ったROAの測定結果を示す。この図9(a)に示すように、5枚のウエハのROAを測定した結果、0.07μm〜1.25μmの範囲でばらつきがあったが、大部分のウエハのROAは1μm未満であった。図9(b)には、ROAが最も大きい5番のウエハのおもて面のプロファイル、FQA及びWを、ROAとともに示した。
【0041】
非特許文献4には、エッジロールオフはCMP工程においてウエハ周辺部分の膜厚除去量のばらつきを増大させることが記載されている。これは、エッジロールオフがデバイス製造の歩留り低下に直結する問題であることを示している。エッジロールオフの小さな基板も開発されているが、基板のコストが著しく増大する。また、研磨によって基板を最終仕上げする以上、エッジロールオフを完全になくすことは不可能である。
【0042】
前述の特許文献3,4に記載された方法では、2枚の基板を張り合せることによってSOI基板を製造している。この場合、それぞれの基板にエッジロールオフが存在するので、これらが向かい合わせになるように張り合せる結果、図10に示すように張り合せ基板31,32の周辺領域(エッジ除外部)の接合強度が基準領域の接合強度に比べて小さくなる。このため、基板31,32の接合強度が不足したり、接合部分に不純物が入り込んで半導体装置の特性劣化の原因となる。
【0043】
本発明においては、第1の基板の上にエピタキシャル層を形成するときに、エッジロールオフに対応する分だけ周縁領域のエピタキシャル層の厚さを厚くすることにより、第1の基板と第2の基板とを張り合せたときの接合強度を十分に確保する。以下、本発明の実施形態について説明する。
【0044】
(第1の実施形態)
図11〜図12は、本発明の第1の実施形態に係る半導体基板の製造方法を示す模式図である。
【0045】
まず、CZ法により<011>方向にSi結晶を成長させて、単結晶のインゴットを形成する。その後、インゴットを切断して、図11(a)に示すように{011}シリコン単結晶からなる第1の基板40を得る。第1の基板40の直径は例えば300mm、厚さは例えば775μmとする。
【0046】
次に、図11(b)に示すように、例えば原料ガスとしてモノシラン(SiH4)を使用し、基板温度を例えば1100℃として、化学的気相成長(Chemical Vapor Deposition:CVD)法により第1の基板40の上にシリコンをエピタキシャル成長させる。このときのエピタキシャル層の厚さはエッジロールオフの部分以外は一定で、2〜10μmが代表的である。このエピタキシャル層41の表面の面方位は、単結晶成長の原理によって第1の基板40の面方位と同じ、すなわち{011}となる。
【0047】
本実施形態においては、エピタキシャル層41形成時に、エッジロールオフによる基板の厚み減少分だけエピタキシャル層を厚く形成し、エピタキシャル層の表面がウエハ中心部から周辺部まで同一の高さになるようにする。図13は、エピタキシャル成長炉の構造を示す模式図である。この図13に示すように、第1の基板40は、エピタキシャル成長炉のチャンバ51内に載置される。チャンバ51内には、ガス入り口52aから原料ガスが供給され、排気口52bから炉外に排出される。チャンバ51内に載置された第1の基板40は上方及び下方の同心円状に配置された多数の赤外線ランプ53により加熱される。これらの赤外線ランプ53に供給する電力を制御することにより、第1の基板40の表面の温度分布を調整して、エピタキシャル層のエッジ近傍の厚さを基準領域の厚さよりもエッジロールオフに対応する分だけ厚くすることができる。
【0048】
エピタキシャル層のエッジ近傍の厚さを基準領域の厚さよりも若干厚くするためには、例えば基板の最外周部の成長温度を内側部分よりも数℃だけ低くすればよい。現在のエピタキシャル成長炉では同心円状に±0.5℃の精度で温度制御が可能であり、1μm以下の膜厚制御も十分可能である。
【0049】
エピタキシャル層41が第1の基板40の上側全面に均一の厚さで形成された場合、図14(a)の模式図に示すように、第1の基板40のエッジロールオフの影響によりエピタキシャル層41の表面は平坦にはならない。これに対し、本実施形態においては、エピタキシャル層形成時に第1の基板40の表面温度分布を調整することにより、図14(b)の模式図に示すように、エピタキシャル層41の表面を周縁部までほぼ平坦にする。
【0050】
エッジロールオフは、前述したように基板によってばらつきがある(図9(a)参照)が、同一ロットの基板のエッジロールオフはほぼ同じであると考えられる。従って、初めに実験等によりエッジロールオフを相殺するようにエピタキシャル成長条件を決めておけば、基板毎に温度分布を変える必要はなく、同一ロットのウエハについては同一条件でエピタキシャル成長を行うことができる。また、前述したように大部分のウエハのエッジロールオフは1μm以下であるので、エッジ端から1mmの位置におけるエピタキシャル層41の厚さが基準領域における厚さよりも例えば0.5〜1μmだけ厚くなるように温度分布を設定してもよい。
【0051】
このようにしてエッジ近傍の厚さが基準領域の厚さよりも若干厚い形状のエピタキシャル層41を形成した後、イオン注入装置を用いて、図11(c)に示すようにエピタキシャル層41の上側から水素イオン(H+)を注入する。この場合、エピタキシャル層41と第1の基板40との界面で水素イオンが最も高濃度となるように水素イオン注入時の加速電圧を決定することが好ましい。水素イオンの注入量(ドーズ量)は、例えば1×1016cm-2〜1×1017cm-2とする。ここでは、水素イオンが最も高濃度になる面を符号42で示す。
【0052】
一方、図11(d)に示すように、ベース基板(張り合わせ用基板)となる第2の基板45を用意する。本実施形態においては、第2の基板45の直径は第1の基板40と同じ300mmとする。また、第2の基板45の厚さは、例えば775μmとする。この第2の基板45の材質は限定されるものではないが、シリコン結晶との接合が可能であって、デバイス製造工程において汚染源とならない材料により形成されていることが必要である。この第2の基板45としては、一般的な{001}シリコンウエハを使用することが好ましい。{001}シリコンウエハは、現在最も量産技術が確立しており、大口径化も容易である。
【0053】
次に、図12(a)に示すように、第2の基板45の上に第1の基板40のエピタキシャル層41側の面を張り合わせる。この張り合わせは常温で第1の基板40と第2の基板45とを密着することにより行われ、接着剤などは使用しない。本実施形態においては、エピタキシャル層41の縁部の厚さを第1の基板40のエッジロールオフに対応する分だけ厚くしているので、第1の基板40と第2の基板45との間の密着性、特にエッジ除去部における密着性が従来に比べて大幅に向上する。
【0054】
このようにして第1の基板40と第2の基板45とを張り合せた後、例えば500℃に加熱することにより水素イオンを導入した部分(符号42で示す面)に応力を発生させて、図12(b)に示すように、エピタキシャル層41を劈開する。以後、劈開後に第2の基板45上に残ったエピタキシャル層41を、シリコン単結晶層41aという。その後、第2の基板45とその上のシリコン単結晶層41aとの接合強度を高めるために、例えば窒素雰囲気中で1100℃の温度で30分間熱処理を施す。
【0055】
次に、図12(c)に示すように、シリコン単結晶層41aの表面をCMP法等により研磨して平坦にする。これにより、{011}シリコン単結晶層41aを備えた半導体基板46が完成する。
【0056】
一方、図12(b)に示す工程において残った第1の基板40の表面(エピタキシャル層形成側の面)を軽く研磨する。その後、この第1の基板40を用いて図11(a)〜(d),図12(a)〜(c)に示す一連の工程を実施し、更に{011}シリコン単結晶層41aを備えた半導体基板46を製造する。この場合、第2の基板45のエッジロールオフを考慮して、第1の基板40上にエピタキシャル層41を形成するときには、端部におけるエピタキシャル層の厚さが基準領域におけるエピタキシャル層の厚さよりも若干厚くなるようにエピタキシャル成長時の条件を設定する。
【0057】
本実施形態では、第2の基板45の上にエピタキシャル層41のみが転写されるので、第1の基板40は殆ど消耗されず、何度も使用することができる。このため、第1の基板45として高価な{011}シリコン単結晶基板を用いても、半導体基板46の1枚当たりの製造コストを低減することができる。
【0058】
また、本実施形態においては、第1の基板40の上に成長したエピタキシャル層41が第2の基板45の上に転写されるので、第1の基板40の再使用による第1の基板40の品質劣化の影響を受けにくい。エピタキシャル成長法により作製したシリコン単結晶は、現在製造可能な数種類のシリコン結晶の中で最高品質の結晶であることはよく知られている。
【0059】
更に、本実施形態においては、エッジロールオフを相殺するように第1の基板40の上にエピタキシャル層41を形成するので、第1の基板40(エピタキシャル層41)と第2の基板45との接合強度が十分であり、接合部分に不純物が入り込むおそれが少ない。これにより、高品質の{011}半導体基板が得られる。
【0060】
(第2の実施形態)
図15,図16は、本発明の第2の実施形態に係る半導体基板の製造方法を示す模式図である。なお、図15,図16において、図11,図12と同一物には同一符号を付している。また、本実施形態は、本発明をSOI基板の製造に適用した例を示している。
【0061】
まず、図15(a)に示すように、{011}シリコン単結晶からなる第1の基板40を得る。そして、図15(b)に示すように、化学的気相成長法により、第1の基板40の上にエピタキシャル層41を形成する。このとき、第1の実施形態と同様に、エピタキシャル層41の縁部の厚さは、基準領域の厚さよりもエッジロールオフに対応する分だけ厚くすることが必要である。
【0062】
次に、酸化雰囲気中で第1の基板40を加熱し、第1の基板40及びエピタキシャル層41の表面を酸化させて、図15(c)に示すように、シリコン酸化膜43を形成する。このシリコン酸化膜43の厚さは、例えば200nmとする。その後、図15(d)に示すように、エピタキシャル層41と第1の基板40との界面が最も高濃度となるように、イオン注入装置を用いてエピタキシャル層41に水素イオンを注入する。ここでも、水素イオンが最も高濃度になる面を符号42で示す。
【0063】
一方、図16(a)に示すように、ベース基板(張り合わせ用基板)となる第2の基板45を用意する。ここでは、第2の基板45として、第1の基板40と同じ大きさの{001}シリコンウエハを使用するものとする。
【0064】
次に、図16(b)に示すように、第2の基板45の上にエピタキシャル層41が下側となるようにして第1の基板40を張り合せる。その張り合わせは常温で第1の基板40と第2の基板45とを密着させることにより行い、接着剤などは使用しない。本実施形態においても、第1の実施形態と同様にエピタキシャル層41の縁部の厚さをエッジロールオフに対応する分だけ厚くしているので、第1の基板40と第2の基板45との間の密着性が従来に比べて向上する。
【0065】
次に、図16(c)に示すように、基板40,45の積層体を例えば500℃に加熱し、水素イオンを導入した部分(符号42で示す面)に応力を発生させて、エピタキシャル層41を劈開する。以後、第2の基板45上に残ったエピタキシャル層41を、シリコン単結晶層41aという。その後、第2の基板45とその上のシリコン単結晶層41aとの接合強度を高めるために、例えば窒素雰囲気中で1100℃の温度で30分間熱処理を施す。
【0066】
次いで、図16(d)に示すように、シリコン単結晶層41aの表面をCMP法等により研磨して平坦にする。これにより、{011}シリコン単結晶層41aを備えたSOI半導体基板47が完成する。
【0067】
一方、図16(c)に示す工程において残った第1の基板40の表面(エピタキシャル層形成側の面)を軽く研磨した後、シリコン酸化膜43を除去する。その後、この第1の基板40を用いて図15(a)〜(d),図16(a)〜(d)に示す一連の工程を実施し、更に{011}シリコン単結晶層41aを備えたSOI半導体基板47を製造する。この場合、第2の基板45のエッジロールオフを考慮して、第1の基板40上にエピタキシャル層41を形成するときには、端部におけるエピタキシャル層の厚さが基準領域におけるエピタキシャル層の厚さよりも若干厚くなるようにエピタキシャル成長時の条件を設定する。本実施形態においても第1の実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0068】
なお、本実施形態においては第2の基板45と{011}シリコン単結晶層41aとの間にシリコン酸化膜43を有するSOI基板について説明したが、シリコン酸化膜43に替えてフッ化カルシウム(CaF2)膜又はその他の絶縁膜を形成してもよい。また、本実施形態ではシリコン酸化膜43を形成した後に水素イオンを注入したが、水素イオンを注入した後にシリコン酸化膜43を形成してもよい。
【0069】
(第3の実施形態)
図17は、本発明の第3の実施形態に係る半導体基板を示す模式断面図である。本実施形態の半導体基板63が第1の実施形態の半導体基板と異なる点は、第2の基板(ベース基板)45上に積層された{011}シリコン単結晶層62aを構成するシリコン原子の99%以上が28Siであること、すなわち{011}シリコン単結晶層62a中の28Siの同位体存在比が99%以上であることにあり、その他の構成は基本的に第1の実施形態と同様であるので、重複する部分の説明は省略する。
【0070】
本実施形態においては、{011}シリコンからなる第1の基板上に、28Siの同位体存在比が99.0%以上のシリコンからなるエピタキシャル層を形成する。その後、第2の基板(ベース基板)45の上に第1の基板のエピタキシャル層側の面を接合し、第1の基板とエピタキシャル層との界面に水素イオンを注入した後、温度を加えてエピタキシャル層を劈開する。このようにして、28Siの同位体存在比が99.0%以上のシリコンからなる{011}シリコン単結晶層62aを有する半導体基板63を製造する。
【0071】
シリコンには3種類の安定同位体(28Si、29Si、30Si)が存在し、通常のシリコン結晶の場合、28Si、29Si及び30Siの同位体存在比は、28Si:29Si:30Si=92.23%:4.67%:3.1%である。本願発明者等の研究・検討の結果、シリコン結晶中における28Siの同位体存在比を99.0%以上とすると、通常のシリコン結晶に比べて熱伝導率が向上することが判明している。また、非特許文献5には、同位体分離法を用いて例えば28Siの同位体存在比が99.7%のシリコン結晶を製造すると、通常のシリコン結晶と比べて熱伝導率が約60%向上することが記載されている。
【0072】
第1の実施形態で示した{011}シリコン単結晶の化学的気相成長において、原料ガスとして例えば28SiH4(モノシラン)を用いて28Siの同位体存在比が99.0%以上のエピタキシャル層を形成すれば、最終的に形成される半導体基板63の最上層のシリコン単結晶層62aにおける28Siの同位体存在比が99.0%以上となる。
【0073】
本実施形態の半導体基板63は、28Siの同位体存在比が99.0%以上であり、かつ表面の面方位が{011}のシリコン単結晶層62aを有しているので、熱伝導率が高い。この半導体基板63を用いてトランジスタを形成することにより、動作時に発生する熱を効率的に散逸させることができて、半導体装置の信頼性が向上する。
【0074】
なお、Siの同位体は、レーザ同位体分離法又はガス遠心分離法等を用いて分離・濃縮することができる。また、近年、28Siを同位体分離して生成された28SiH4(モノシラン)が市販されている。
【0075】
本実施形態では第1の実施形態の半導体基板の表面のシリコン単結晶層が28Siの同位体存在比が99.0%以上のシリコンからなる場合について説明したが、第2の実施形態のSOI半導体基板47において、シリコン単結晶層41aを28Siの同位体存在比が99.0%以上のシリコンにより形成してもよい。
【0076】
(第4の実施形態)
図18は、本発明の第4の実施形態に係る半導体基板を示す模式断面図である。本実施形態の半導体基板65が第1の実施形態の半導体基板と異なる点は、第2の基板(ベース基板)64としてホウ素(B)を5×1016〜2×1017cm-3の濃度で含むシリコン基板を用いることにあり、その他の構成は基本的に第1の実施形態と同様であるので、重複する部分の説明は省略する。
【0077】
近年、半導体記憶装置においては、許容されるリーク電流が数fA(フェムトアンペア)と極めて低いことが要求されている。また、シリコン結晶中に鉄(Fe)や銅(Cu)等の金属元素が混入していると、リーク電流が増えることが知られている。従って、半導体装置、特に半導体記憶装置を製造するときには、その製造プロセスにおいて、シリコン単結晶層に鉄(Fe)及び銅(Cu)等の金属元素が混入しないようにすることが重要となる。
【0078】
本実施形態の半導体基板65においては、前述したように第2の基板(ベース基板)64中に、5×1016〜2×1017cm-3の濃度でホウ素(B)を添加する。第2の基板64中に添加されたホウ素はゲッタリングとして作用し、鉄(Fe)及び銅(Cu)等の金属元素と結合する。これにより、半導体装置製造時の熱処理工程等において、第2の基板(ベース基板)64からシリコン単結晶層41aに金属元素が拡散することが回避され、その結果良好なトランジスタ特性を確保することができる。
【0079】
第2の基板64中のホウ素の濃度が5×1016cm-3未満の場合は、ゲッタリングの効果を十分に得ることができない。一方、第2の基板64中のホウ素の濃度が2×1017cm-3を超えると、例えば1100℃の温度で1時間以上熱処理した場合に、第2の基板61中のホウ素がシリコン単結晶層41a中に拡散して比抵抗を変化させ、トランジスタ特性を劣化させるおそれがある。
【0080】
本実施形態においては、上述の如く第2の基板(ベース基板)64として5×1016〜2×1017cm-3の濃度でホウ素が添加されたシリコン基板を用いるので、第1の実施形態と同様の効果を得ることができるのに加えて、鉄(Fe)及び銅(Cu)等の金属元素によるリーク電流の増加及びトランジスタ特性の劣化が回避されるという効果を有する。
【0081】
なお、第1、第2又は第3の実施形態の半導体基板のベース基板(第2の基板)として、上記の濃度でホウ素を添加したシリコン基板を使用してもよい。また、特許文献6には、シリコン基板中にホウ素を添加することが記載されている。
【0082】
(第5の実施形態)
図19は、本発明の第5の実施形態に係る半導体基板を示す模式断面図である。本実施形態の半導体基板67が第1の実施形態の半導体基板と異なる点は、第2の基板(ベース基板)66として5×1018cm-3以上の濃度でホウ素が添加されたシリコン基板を用いることにあり、その他の構成は基本的に第1の実施形態と同様であるので、重複する部分の説明は省略する。
【0083】
シリコン基板中に5×1018cm-3以上の濃度でホウ素を添加すると、機械的強度が向上することが知られている(例えば、非特許文献6)。また、シリコン基板中に5×1018cm-3以上の濃度でホウ素を添加することにより、第4の実施形態よりもゲッタリング能力が向上する。但し、前述したように、半導体装置の製造プロセスで高温で熱処理する場合(例えば1100℃の温度で1時間以上の熱処理)は、第2の基板(ベース基板)からその上のシリコン単結晶層にホウ素が拡散してシリコン単結晶層の比抵抗が変化するという問題が発生する。
【0084】
本実施形態に係る半導体基板67は、基本的にその製造プロセス中に高温(例えば1100℃以上)かつ長時間(例えば1時間以上)の熱処理工程を含まない半導体装置の製造に使用することが好ましい。本実施形態の半導体基板67は、第2の基板(ベース基板)66としてホウ素が5×1018cm-3以上の濃度で添加されたシリコン基板を用いているので、機械的強度が向上し、熱処理時における基板の反りが防止されるという効果を奏することができる。
【0085】
なお、第1、第2又は第3の実施形態の半導体基板のベース基板(第2の基板)として、上記の濃度でホウ素を添加したシリコン基板を使用してもよい。
【0086】
(第6の実施形態)
図20は、本発明の第6の実施形態に係る半導体基板を示す模式断面図である。本実施形態の半導体基板70が第4又は第5の実施形態の半導体基板と異なる点は、第2の基板(ベース基板)71に同位体分離したホウ素(B)がドープされていることにあり、その他の構成は基本的に第4又は第5の実施形態と同様であるので、ここでは重複する部分の説明は省略する。
【0087】
第4及び第5の実施形態で説明したように、シリコン結晶中にホウ素を添加すると、ホウ素のゲッタリング効果によりリーク電流を低減することができる。しかし、通常、シリコン結晶にホウ素を添加すると、熱伝導率が低下する。
【0088】
通常のホウ素(B)中における11Bと10Bとの同位体存在比は、11B:10B=80.2%:19.8%である。特許文献7には、11B又は10Bのいずれか一方の同位体存在比を85%以上とすることにより、通常のホウ素に比べて熱伝導率が数10%向上することが記載されている。
【0089】
本実施形態に係る半導体基板70においては、第2の基板(ベース基板)71にドープするホウ素として、11B又は10Bのいずれか一方の同位体存在比が85%以上のものを使用する。この第2の基板は、以下のように形成することができる。すなわち、シリコン単結晶を化学的気相成長法で作製するときに、原料ガスとともに同位体分離したホウ素を含むジボラン(1126又は1026)を流す。このようにして形成したシリコン単結晶を溶融し、CZ法により単結晶シリコンのインゴットを形成する。その後、インゴットを切断して、第2の基板71となるシリコン基板を得る。
【0090】
本実施形態においては、11B又は10Bの同位体存在比が85%以上のホウ素を第2の基板(ベース基板)71に使用しているので、第4又は第5の実施形態の半導体基板に比べて第2の基板(ベース基板)71の熱伝導率が高くなり、トランジスタで発生した熱をより効率よく排除することができる。
【0091】
なお、ホウ素の同位体は、レーザ同位体分離法又はガス遠心分離法等を用いて分離することができる。また、ホウ素の同位体は、例えば米Eagle Picher社などから入手することができる。
【0092】
(第7の実施形態)
図21は、本発明の第7の実施形態に係る半導体基板を示す模式断面図である。前述の第3の実施形態では{011}シリコン単結晶層を構成するシリコン原子の99%以上が28Siである場合について説明したが、本実施形態の半導体基板75においては、第2の基板(ベース基板)76が、28Siの同位体存在比が99%以上のシリコンにより構成されている。
【0093】
図22(a)〜(c)は、28Siからなる多結晶シリコンの製造方法を工程順に示す模式図である。還元炉80内にはシリコン芯81が配置されている。このシリコン芯81は電源82に接続され、電源82から供給される電力により発熱するようになっている。
【0094】
図22(a)に示すように、28SiHCl3(トリクロロシラン)と水素(H2)とを混合したガスを還元炉80内に供給するとともに、シリコン芯81に通電して温度を約1000℃とする。そうすると、還元炉80内で28SiHCl3が還元され、図22(b)に示すように、シリコン芯81の表面に高品位の多結晶シリコン(28Si)が析出する。
【0095】
図22(c)に示すようにシリコン芯81の表面に多結晶シリコンが十分析出したら、還元炉80からシリコン芯81を取り出す。このシリコン芯81の表面に析出した多結晶シリコンを溶融し、CZ法によりシリコン単結晶を成長させて、28Siの同位体存在比が99%以上のインゴットを形成する。このインゴットから本実施形態で使用する第2の基板(ベース基板)76を切り出す。その他の工程は第1の実施形態と同様であるので、ここでは説明を省略する。
【0096】
本実施形態においては、第2の基板(ベース基板)76を構成するシリコンの99%以上が28Siであり、第2の基板76の熱伝導率が高い。これにより、第1の実施形態の半導体基板に比べて放熱性が良好であるという効果を奏する。
【0097】
なお、前述の第1〜第6の実施形態の半導体基板においても、第2の基板(ベース基板)として28Siの同位体存在比が99%以上のシリコン基板を使用してもよい。
【0098】
(半導体装置)
図23,図24は、本発明に係る半導体基板を用いたp型トランジスタの製造方法を工程順に示す断面図である。ここでは、説明を簡単にするために第1の実施形態に示した半導体基板46を用いてp型電界効果トランジスタを形成する場合について説明するが、その他の実施形態で説明した半導体基板を用いてもよい。また、ここでは説明の便宜上、第1の実施形態の第2の基板45を、ベース基板45という。
【0099】
まず、図23(a)に示すように、ベース基板45とその上の{011}シリコン単結晶層41aとにより構成された半導体基板46を用意する。そして、図23(b)に示すように、シリコン単結晶層41aを、STI(Shallow Trench Isolation)法により形成した素子分離膜91により複数の素子領域に分離する。すなわち、フォトリソグラフィ法を用いてシリコン単結晶層41aの所定の位置に溝を形成し、その溝内に例えばSiO2等の絶縁物を埋め込んで、素子分離膜91を形成する。
【0100】
このようにして素子分離膜91を形成した後、シリコン単結晶層41aにリン(P)等のn型不純物を注入して、nウェル92を形成する。
【0101】
次に、図23(c)に示すようにシリコン単結晶層41aの上に例えばSiO2を堆積して、ゲート絶縁膜93を形成する。その後、CVD法により、ゲート絶縁膜93上に多結晶シリコン膜94を形成する。
【0102】
次に、多結晶シリコン膜94の上にフォトレジストを塗布した後、露光及び現像処理を実施して、所定のパターンのフォトレジスト膜(図示せず)を形成する。その後、フォトレジスト膜をマスクとして多結晶シリコン膜94をエッチングして、図24(a)に示すように、ゲート電極95を形成する。なお、このとき同時にゲート絶縁膜93をエッチングして、ゲート電極95の下方のみにゲート絶縁膜93を残す。次いで、ゲート電極95をマスクとしてnウェル92の表面にホウ素(B)等のp型不純物を浅く注入し、低濃度p型不純物領域96を形成する。
【0103】
次に、シリコン単結晶層41aの上側全面にSiO2等からなる絶縁膜を形成し、その絶縁膜をエッチバックすることにより、図24(b)に示すようにゲート電極95の両側にサイドウォール97を形成する。その後、ゲート電極95及びサイドウォール97をマスクとしてnウェル92にホウ素(B)等のp型不純物を深く注入し、高濃度p型不純物領域98を形成する。このようにして、LDD(Lightly Doped Drain)構造のp型トランジスタが形成される。
【0104】
なお、{011}シリコン単結晶の場合、<011>方向のホール移動度が最も大きい(図1参照)。従って、チャネル長方向が<011>方向になるようにすることが好ましい。
【0105】
次いで、図24(c)に示すように、シリコン単結晶層41aの上側全面にSiO2等の絶縁膜を堆積して層間絶縁膜99を形成する。そして、この層間絶縁膜99の上面から高濃度p型不純物領域98に到達するコンタクトホールを形成し、そのコンタクトホール内にタングステン(W)等の導電材料を埋め込んで、プラグ100を形成する。更に、層間絶縁膜99の上にアルミニウム(アルミニウム合金)等の導電体からなる導電体膜を形成し、この導電体膜をフォトリソグラフィ法によりパターニングして、配線101を形成する。このようにして、p型トランジスタを有する半導体装置が完成する。
【0106】
本実施形態においては、p型トランジスタが{011}シリコン単結晶層41aに形成されているので、ホール(正孔)の移動速度が速く、高速動作が可能である。また、本実施形態においては、第1の実施形態で説明した方法により作製された半導体基板、すなわちベース基板45とシリコン単結晶層41aとの間の接合強度が高い半導体基板を用いているので、半導体装置の信頼性が高い。
【0107】
なお、本実施形態ではp型トランジスタの製造方法について説明しているが、シリコン単結晶層41aにn型トランジスタを形成してもよいことは勿論である。{011}シリコン単結晶層にn型トランジスタを形成した場合、{001}シリコン単結晶層にn型トランジスタを形成したときに比べてキャリア(電子)の移動度は低下する。しかし、電子回路をCMOSにより構成する場合、p型トランジスタの高速化の効果が大きいため、{011}シリコン単結晶層にCMOSを形成したほうが{001}シリコン単結晶層にCMOSを形成した場合に比べて電子回路の動作速度が速くなる。
【0108】
以下、本発明の諸態様を、付記としてまとめて記載する。
【0109】
(付記1)ベース基板と、前記ベース基板の上方に配置されたシリコン単結晶層とを有する半導体基板において、
前記シリコン単結晶層の表面の面方位が{011}であり、且つ前記シリコン単結晶層が前記ベース基板のエッジロールオフを相殺する厚さ分布を有することを特徴とする半導体基板。
【0110】
(付記2)前記ベース基板と前記シリコン単結晶層との間に絶縁膜が設けられていることを特徴とする付記1に記載の半導体基板。
【0111】
(付記3)前記シリコン単結晶層を構成するシリコン原子の99%以上が28Siからなることを特徴とする付記1又は2に記載の半導体基板。
【0112】
(付記4)前記ベース基板が、表面の面方位が{001}のシリコン基板であることを特徴とする付記1又は2に記載の半導体基板。
【0113】
(付記5)前記ベース基板に、ホウ素が添加されていることを特徴とする付記4に記載の半導体基板。
【0114】
(付記6)前記ホウ素の含有量が、5×1016乃至2×1017cm-3であることを特徴とする付記5に記載の半導体基板。
【0115】
(付記7)前記ホウ素の含有量が、5×1018cm-3以上であることを特徴とする付記5に記載の半導体基板。
【0116】
(付記8)前記ベース基板に添加されたホウ素のうち85%以上が11B又は10Bのいずれか一方であることを特徴とする付記5に記載の半導体基板。
【0117】
(付記9)前記ベース基板がシリコン単結晶からなり、その99%以上が28Siからなることを特徴とする付記1に記載の半導体基板。
【0118】
(付記10)表面の面方位が{011}のシリコン単結晶からなる第1の基板の直上にシリコン単結晶層をエピタキシャル成長させる工程と、
前記シリコン単結晶層に水素イオンを注入する工程と、
第2の基板と前記第1の基板とを、前記シリコン単結晶層を介して接合する工程と、
前記シリコン単結晶層を、前記イオン注入した水素の濃度が高い部分で劈開する工程とを有し、
前記シリコン単結晶層は、前記第1の基板又は前記第2の基板のエッジロールオフを相殺する厚さ分布となるようにエピタキシャル成長条件を調整して形成することを特徴とする半導体基板の製造方法。
【0119】
(付記11)前記シリコン単結晶層を劈開する工程の前に、前記第1の基板及び前記シリコン単結晶層の表面を絶縁膜で覆う工程を有することを特徴とする付記10に記載の半導体基板の製造方法。
【0120】
(付記12)前記劈開後の前記第1の基板の劈開側の面を研磨し、再度半導体基板の製造に使用することを特徴とする付記10に記載の半導体基板の製造方法。
【図面の簡単な説明】
【0121】
【図1】図1は、(001)シリコンウエハ及び(011)シリコンウエハにおけるキャリア密度とホール移動度との関係を示す図である。
【図2】図2(a),(b)は、種結晶が融液に接触したときに導入される転位を示す模式図である。
【図3】図3(a)〜(c)は、ネッキングによる転位の除去を示す模式図である。
【図4】図4は、ネッキング後に形成されるインゴットを示す模式図である。
【図5】図5(a)は<001>方向の成長により転位が除去される様子を示す模式図、図5(b)は<011>方向の成長により転位が残る様子を示す模式図である。
【図6】図6は、Smart CutによるSOI基板の製造方法を示す模式図(その1)である。
【図7】図7は、Smart CutによるSOI基板の製造方法を示す模式図(その2)である。
【図8】図8は、エッジロールオフを説明するための模式図である。
【図9】図9(a)は、5枚のウエハについて行ったROAの測定結果を示す図、図9(b)は、5番のウエハのおもて面のプロファイル、FQA及びWを、ROAとともに示す図である。
【図10】図10は、2枚の基板を張り合わせた状態を示す模式図である。
【図11】図11は、本発明の第1の実施形態に係る半導体基板の製造方法を示す模式図(その1)である。
【図12】図12は、本発明の第1の実施形態に係る半導体基板の製造方法を示す模式図(その2)である。
【図13】図13は、エピタキシャル成長炉の構造を示す模式図である。
【図14】図14(a)は、エピタキシャル層が第1の基板の上側全面に均一の厚さで形成された状態を示す模式図、図14(b)はエピタキシャル層が第1の基板のエッジロールオフを相殺する厚さ分布で形成された状態を示す模式図である。
【図15】図15は、本発明の第2の実施形態に係る半導体基板の製造方法を示す模式図(その1)である。
【図16】図16は、本発明の第2の実施形態に係る半導体基板の製造方法を示す模式図(その2)である。
【図17】図17は、本発明の第3の実施形態に係る半導体基板を示す模式断面図である。
【図18】図18は、本発明の第4の実施形態に係る半導体基板を示す模式断面図である。
【図19】図19は、本発明の第5の実施形態に係る半導体基板を示す模式断面図である。
【図20】図20は、本発明の第6の実施形態に係る半導体基板を示す模式断面図である。
【図21】図21は、本発明の第7の実施形態に係る半導体基板を示す模式断面図である。
【図22】図22(a)〜(c)は、28Siからなる多結晶シリコンの製造方法を工程順に示す模式図である。
【図23】図23は、本発明に係る半導体基板を用いたp型トランジスタの製造方法を示す断面図(その1)である。
【図24】図24は、本発明に係る半導体基板を用いたp型トランジスタの製造方法を示す断面図(その2)である。
【符号の説明】
【0122】
10…融液、
11…種結晶、
13…インゴット、
20,40…第1の基板、
20a,41a,62a…単結晶シリコン層、
21,43…シリコン酸化膜、
22,42…水素濃度が最も高濃度になる面、
25,45,64,66、71,76…第2の基板(ベース基板)
26…SOI基板、
41…エピタキシャル層、
46,47,63,65,67,70,75…半導体基板、
51…チャンバ、
52a…ガス入り口、
52b…排気口、
53…赤外線ランプ、
80…還元炉、
81…シリコン芯、
82…電源、
91…素子分離膜、
92…nウェル、
93…ゲート絶縁膜、
94…多結晶シリコン膜、
95…ゲート電極、
96…低濃度p型不純物領域、
97…サイドウォール、
98…高濃度p型不純物領域、
99…層間絶縁膜、
100…プラグ、
101…配線。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベース基板と、前記ベース基板の上方に配置されたシリコン単結晶層とを有する半導体基板において、
前記シリコン単結晶層の表面の面方位が{011}であり、且つ前記シリコン単結晶層が前記ベース基板のエッジロールオフを相殺する厚さ分布を有することを特徴とする半導体基板。
【請求項2】
前記ベース基板と前記シリコン単結晶層との間に絶縁膜が設けられていることを特徴とする請求項1に記載の半導体基板。
【請求項3】
表面の面方位が{011}のシリコン単結晶からなる第1の基板の直上にシリコン単結晶層をエピタキシャル成長させる工程と、
前記シリコン単結晶層に水素をイオン注入する工程と、
第2の基板と前記第1の基板とを、前記シリコン単結晶層を介して接合する工程と、
前記シリコン単結晶層を、前記イオン注入した水素の濃度が高い部分で劈開する工程とを有し、
前記シリコン単結晶層は、前記第1の基板又は前記第2の基板のエッジロールオフを相殺する厚さ分布となるようにエピタキシャル成長条件を調整して形成することを特徴とする半導体基板の製造方法。
【請求項4】
前記シリコン単結晶層を劈開する工程の前に、前記第1の基板及び前記シリコン単結晶層の表面を絶縁膜で覆う工程を有することを特徴とする請求項3に記載の半導体基板の製造方法。
【請求項5】
前記劈開後の前記第1の基板の劈開側の面を研磨し、再度半導体基板の製造に使用することを特徴とする請求項3に記載の半導体基板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【公開番号】特開2008−277477(P2008−277477A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−118101(P2007−118101)
【出願日】平成19年4月27日(2007.4.27)
【出願人】(308014341)富士通マイクロエレクトロニクス株式会社 (2,507)
【Fターム(参考)】