説明

半導体基板表面処理剤及び処理方法

【課題】 半導体基板の金属不純物の汚染を抑制し得る半導体基板表面処理剤及び半導体基板表面の処理方法、特に、半導体基板のエッチング剤及びエッチング方法を提供すること。
【解決手段】 (1)アミノポリカルボン酸系キレート剤又はその無機塩と20%(W/W)以上のアルカリ金属水酸化物を含んでなる半導体基板表面処理剤、(2)アミノポリカルボン酸系キレート剤又はその無機塩と20%(W/W)以上のアルカリ金属水酸化物を含んでなる半導体基板のエッチング剤、(3)半導体基板を上記(1)に記載の処理剤で処理することを特徴とする半導体基板表面の処理方法、及び(4)半導体基板を上記(2)に記載のエッチング剤でエッチングすることを特徴とする半導体基板のエッチング方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体基板表面の処理剤及び処理方法に関するものであり、特に、半導体基板のエッチング剤及びエッチング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体ウェーハは、一般に以下の工程により製造される。
(1)スライシング工程:FZ法、CZ法等により製造された単結晶インゴットをスライスして薄円板状のウェーハ(アズカット・ウェーハ)を得る工程。
(2)べべリング工程:アズカット・ウェーハの外周部を面取り加工する工程。
(3)ラッピング工程:ウェーハ表面の加工歪層を薄くし、ウェーハの厚さのばらつきやムラを小さくするために、面取りされたウェーハを遊離砥粒により両面研磨して厚さが均一化されたウェーハ(ラップド・ウェーハ)を得る工程。
(4)エッチング工程:ラップド・ウェーハに残留する加工歪層を化学的方法(化学エッチング)により除去すると共に、ウェーハ表面に付着した研磨剤、金属不純物やパーティクル等を除去してクリーンなウェーハ(エッチド・ウェーハ)を得る工程。
(5)熱処理工程:結晶内にドープされた酸化ドナーを低温熱処理することにより消滅させ、抵抗を安定化させる工程。
(6)ポリッシング工程:エッチングされたウェーハの表面を極微細な砥粒で研磨して高平坦な鏡面を持つミラーウェーハ(ポリッシュド・ウェーハ)を得る工程。
(7)洗浄工程:ポリッシュド・ウェーハを洗浄し、ウェーハ表面に付着した研磨剤、金属不純物やパーティクル等を除去してよりクリーンなウェーハを得る工程。
【0003】
上記のエッチング工程における化学エッチングには、通常、半導体ウェーハを酸性溶液に浸漬して行う酸エッチングと、アルカリ性溶液に浸漬して行うアルカリエッチングの2種類がある。
しかしながら、酸エッチングは、エッチング速度が速いことに起因してウェーハを均一にエッチングすることが難しく、ウェーハの平坦度を悪化させるという問題、NOx等の有害副産物が発生するという問題等があるため、最近では、均一なエッチングが可能でウェーハの平坦度を悪化させず、有害副産物発生の問題が少ないアルカリエッチングが多用されている。
【0004】
ところで、上記した半導体ウェーハのアルカリエッチングにおいては、市販の工業用又は電子工業用のアルカリ溶液(例えば水酸化ナトリウム溶液、水酸化カリウム溶液等)が用いられているが、工業用アルカリ溶液は数ppm〜十数ppm程度の高濃度の金属不純物(例えばニッケル、クロム、鉄、銅等)を含んでおり、電子工業用のアルカリ溶液でさえ、数十ppb〜数ppm程度の当該金属不純物を含んでいる。
【0005】
上記の如きアルカリ溶液を用いてアルカリエッチングを行った場合、当該溶液中の金属不純物がウェーハに付着し、当該金属不純物の金属イオンがウェーハ内部に拡散してウェーハの品質を劣化させたり、当該ウェーハによって形成された半導体デバイスの特性を著しく低下させるという問題があった。
【0006】
このような問題を解決するため、予めアルカリ溶液中に金属シリコン及び/又はシリコン化合物を溶解するか、水素ガスを溶解させてアルカリ溶液中の金属イオンを非イオン化する方法(特許文献1)、イオン交換樹脂を用いてアルカリ溶液中の金属イオンを除去する方法(特許文献1)、亜二チオン酸塩等の当該金属イオンの可逆電位に比べ卑な酸化電位をもつ還元剤をアルカリ溶液中に溶解することによってアルカリ溶液中の金属イオンを非イオン化する方法(特許文献2)等が提案されているが、これらの方法によっても、アルカリ溶液中に存在する金属不純物由来の金属イオンの非イオン化や除去が不十分であった。
【0007】
更に、上記の問題点を解消するため、ステンレス鋼を10時間以上アルカリ溶液中に浸漬させることによりアルカリ溶液中の金属イオンを低減する方法が提案されている(特許文献3)。
しかしながら、この方法は、アルカリ溶液とステンレス鋼とを高温条件下で10時間以上の長時間にわたって接触させる必要や、また、ステンレス鋼をアルカリ溶液から引き出す必要等があり、その調製が煩雑であった。
【0008】
【特許文献1】特開平9−129624号公報
【特許文献2】特開平10−310883号公報
【特許文献3】特開2001−250807号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、半導体基板の金属不純物の汚染を抑制し得る半導体基板表面処理剤及び半導体基板表面の処理方法、特に、半導体基板のエッチング剤及びエッチング方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記課題を解決する目的でなされたものであり、以下の構成よりなる。
(1)アミノポリカルボン酸系キレート剤又はその無機塩と20%(W/W)以上のアルカリ金属水酸化物を含んでなる半導体基板表面処理剤。
(2)アミノポリカルボン酸系キレート剤又はその無機塩と20%(W/W)以上のアルカリ金属水酸化物を含んでなる半導体基板のエッチング剤。
(3)半導体基板を上記(1)に記載の処理剤で処理することを特徴とする半導体基板表面の処理方法。
(4)半導体基板を上記(2)に記載のエッチング剤でエッチングすることを特徴とする半導体基板のエッチング方法。
【0011】
即ち、本発明者らは上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、アミノポリカルボン酸系キレート剤又はその無機塩と20%(W/W)以上のアルカリ金属水酸化物を含んでなる溶液を用いて半導体基板を処理すれば、アルカリ溶液中に存在する金属不純物による半導体基板の汚染(該金属不純物の半導体基板表面への吸着)を効果的に抑制することができ、特に、該溶液を用いて半導体基板をエッチングすれば、エッチング対象物である半導体基板の金属不純物による汚染を低減し得ること、更に、該溶液は簡便且つ短時間に調製し得ることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、半導体基板表面の処理、特に半導体基板のエッチングにおいて、金属不純物による半導体基板の汚染(該金属不純物の半導体基板表面への吸着)を効果的に抑制することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明において、「処理」とは、本発明の半導体基板表面処理剤と半導体基板とを接触させることをいう。より具体的には、前述した如き半導体ウェーハ製造の一般的な工程である例えばスライシング工程、べべリング工程、ラッピング工程、エッチング工程、熱処理工程、ポリッシング工程及び洗浄工程等で行われる処理であるが、これらに限定されるものではない。
即ち、本発明の半導体基板表面処理剤は、上記した如き「処理」において半導体基板と接触させる処理剤〔例えばスライシング工程、べべリング工程、ラッピング工程、エッチング工程、熱処理工程、ポリッシング工程、洗浄工程等で用いられる処理剤。具体的には、ラッピング工程やポリッシング工程で用いられる研磨剤、エッチング工程で用いられるエッチング剤、洗浄工程や全行程で用いられる洗浄剤等〕として使用し得る。
なかでも、本発明の半導体基板表面処理剤はエッチング剤として特に有用である。
【0014】
本発明において用いられるアミノポリカルボン酸系キレート剤としては、この分野で通常用いられるものであればよく、例えばヒドロキシ基を有していてもよいアルキルイミノポリカルボン酸〔ヒドロキシエチルイミノ二酢酸(HIDA)、イミノ二酢酸(IDA)等〕、ニトリロポリカルボン酸〔ニトリロ三酢酸(NTA)、ニトリロ三プロピオン酸(NTP)等〕、モノアルキレンポリアミンポリカルボン酸〔エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、エチレンジアミン二酢酸(EDDA)、エチレンジアミン二プロピオン酸二塩酸塩(EDDP)、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸(EDTA-OH)、1,6-ヘキサメチレンジアミン-N,N,N',N'-四酢酸(HDTA)、N,N-ビス(2-ヒドロキシベンジル)エチレンジアミン-N,N-二酢酸(HBED)等〕、ポリアルキレンポリアミンポリカルボン酸〔ジエチレントリアミン-N,N,N',N'',N''-五酢酸(DTPA)、トリエチレンテトラミン六酢酸(TTHA)等〕、ポリアミノアルカンポリカルボン酸〔ジアミノプロパン四酢酸(Methyl-EDTA)、trans-1,2-ジアミノシクロヘキサン-N,N,N',N'-四酢酸(CyDTA)等〕、ポリアミノアルカノールポリカルボン酸〔ジアミノプロパノール四酢酸(DPTA-OH)等〕、ヒドロキシアルキルエーテルポリアミンポリカルボン酸〔グリコールエーテルジアミン四酢酸(GEDTA)等〕等の分子中に1〜4個の窒素原子と2〜6個のカルボキシル基を有する含窒素ポリカルボン酸類等が挙げられる。
また、これらの無機塩としては、例えばアルカリ金属塩〔ナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩、セシウム塩等〕、アルカリ土類金属塩〔カルシウム塩、マグネシウム塩〕等が挙げられるが、アルカリ金属塩が好ましい。
これらのなかでも、モノアルキレンポリアミンカルボン酸、ポリアルキレンポリアミンカルボン酸又はこれらの無機塩が好ましく、ポリアルキレンポリアミンカルボン酸又はその無機塩が特に好ましい。また、具体的には、EDTA、DTPA又はこれらの無機塩が好ましく、DTPA又はその無機塩が特に好ましい。
これらアミノポリカルボン酸系キレート剤又はその無機塩は、単独で使用しても、2種以上適宜組み合わせて用いてもよい。
また、アミノポリカルボン酸系キレート剤又はその無機塩の使用量は、キレート剤の種類や併用するアルカリ金属水酸化物の使用量等によって異なるため一概には言えないが、例えば下限が通常50ppm以上、好ましくは100ppm以上、更に好ましくは1000ppm以上であって、上限は通常飽和量以下、好ましくは10000ppm以下、より好ましくは5000ppm以下である。
【0015】
本発明で用いられるアルカリ金属水酸化物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が挙げられる。
これらアルカリ金属水酸化物は、単独で使用しても、2種以上適宜組み合わせて用いてもよい。
また、アルカリ金属水酸化物の使用量は、アルカリ金属水酸化物の種類等によって異なるため一概には言えないが、例えば下限が通常20(W/W)%以上、好ましくは40%(W/W)以上、更に好ましくは45%(W/W)以上であって、上限は通常60%(W/W)以下、好ましくは55%(W/W)以下、より好ましくは52(W/W)%以下である。
【0016】
本発明の半導体基板表面処理剤は、上記した如きアミノポリカルボン酸系キレート剤又はその無機塩と20%(W/W)以上の高濃度のアルカリ金属酸化物を含んでなるものである。
【0017】
本発明の半導体基板表面処理剤は、通常水性溶液の状態であり、アミノポリカルボン酸系キレート剤又はその無機塩と高濃度のアルカリ金属酸化物を上記した如き濃度範囲となるように、水に混合溶解させることにより調製される。
アミノポリカルボン酸系キレート剤又はその無機塩とアルカリ金属酸化物を水に溶解する方法としては、最終的にこれら各成分を水に混合溶解し得る方法であれば良く、例えば水の中に別途溶解したアミノポリカルボン酸系キレート剤又はその無機塩又は/及びアルカリ金属酸化物を添加する方法や、アミノポリカルボン酸系キレート剤又はその無機塩及びアルカリ金属酸化物体を直接水に添加し、溶解、攪拌する方法等が挙げられる。即ち、各成分を適宜の順序で水に順次添加混合しても、全ての成分を添加した後、水に溶解させてもよい。
このようにして調製した本発明に係る処理剤は使用前に濾過処理等を行うのが好ましい。また、ここで用いられる水は、蒸留、イオン交換処理等により精製されたものであればよいが、この分野で用いられる、いわゆる超純水がより好ましい。
【0018】
本発明に処理剤は、強アルカリ性であり、通常pH13以上である。
【0019】
更に本発明に係る処理剤中には、上記した如きアミノポリカルボン酸系キレート剤又はその無機塩及びアルカリ金属酸化物以外に、通常この分野で用いられる添加剤を使用することができる。このような添加剤としては、例えば界面活性剤、酸化剤〔過酸化水素、オゾン、酸素等〕、還元剤〔ヒドラジン等〕、ケイ素、溶存ガス〔水素、アルゴン、窒素等〕、研磨砥粒様の固形物〔二酸化ケイ素(コロイダルシリカ、ヒュームドシリカ、沈澱法シリカ等)、アルミナ、セリア等〕等である。
【0020】
本発明の処理剤は、アミノポリカルボン酸系キレート剤又はその無機塩及びアルカリ金属酸化物以外に、上記した界面活性剤、酸化剤、還元剤、ケイ素、溶存ガス及び研磨砥粒様の固形物から選ばれる1種の添加剤が含まれるものであり、上記した添加剤のなかでも、界面活性剤、酸化剤、還元剤、ケイ素及び研磨砥粒様の固形物から選ばれる1種の添加剤が含まれるものが好ましく、界面活性剤、還元剤、ケイ素及び研磨砥粒様の固形物から選ばれる1種の添加剤が含まれるものがより好ましい。
。 特に、本発明の処理剤をエッチング剤として使用する際には、当該エッチング剤は、上記した界面活性剤、酸化剤、還元剤、ケイ素及び溶存ガスから選ばれる1種の添加剤が含まれるものであり、上記した添加剤のなかでも、界面活性剤、酸化剤、還元剤及びケイ素から選ばれる1種の添加剤が含まれるものが好ましく、界面活性剤、還元剤及びケイ素から選ばれる1種の添加剤が含まれるものがより好ましく、還元剤又は/及びケイ素を含んでなるものが特に好ましい。
このような還元剤としては、例えば鉄、ニッケル、銅等の金属イオンの可逆電位に比べ卑な酸化電位をもつ、酸化電位が極めて卑な強い還元剤〔例えば次亜リン酸塩、亜二チオン酸塩、水素化ホウ素化合物、アルデヒド類、ヒドラジン化合物等〕が挙げられる。また、このような還元剤の使用量は、還元剤の種類によって異なり一概には言えないが、例えば亜二チオン酸塩の場合2.5g/L以上である。
また、ケイ素の由来(用いられる材料)としては、金属シリコン〔多結晶又は単結晶のシリコン〕、シリコン化合物〔例えばシリカ、シリケートガラス等〕が挙げられ、ケイ素の使用量は、2g/L以上である。
【0021】
本発明の処理方法は、上記した如き本発明の処理剤と、半導体基板とを接触させて、当該半導体基板表面を本発明の処理剤で処理すればよい。
半導体基板表面を、本発明の処理剤で処理する方法としては、通常この分野で行われる自体公知の方法であれば良く、具体的には、単に半導体基板を本発明の処理剤中に浸漬するディップ処理、半導体基板に本発明の処理剤をシャワー状に振りかける枚葉処理等の方法等により、半導体基板表面と本発明の処理剤とを接触させ、本発明の処理剤の存在下、例えばスライシング工程、べべリング工程、ラッピング工程、エッチング工程、熱処理工程、ポリッシング工程及び洗浄工程に付すこと等が挙げられる。
尚、処理に際する温度条件としては、下限が通常室温以上、好ましくは60度以上、より好ましくは65度以上であり、上限は通常100℃以下、好ましくは90℃以下、より好ましくは85℃以下である。換言すれば、本発明の処理剤の温度を上記した如き温度範囲となるようにし、これと半導体基板とを接触させればよい。
【0022】
以下に、本発明の処理剤を用いて半導体基板をエッチングする場合、即ち、本発明のエッチング剤を用いて半導体基板をエッチングする場合を詳述する。
【0023】
本発明のエッチング方法は、アミノポリカルボン酸系キレート剤又はその無機塩及びアルカリ金属酸化物を含有する本発明に係る処理剤をエッチング剤として用いて半導体基板をエッチングする以外は、自体公知のエッチング方法であるディップ法やスプレーエッチ法等に準じてこれを行えばよい。
【0024】
より具体的には、例えば(1)半導体基板をエッチング剤に浸漬させる方法、(2)半導体基板をエッチング剤に浸漬させた状態で該溶液を機械的手段で攪拌する方法、(3)半導体基板をエッチング剤に浸漬させた状態で超音波等にて該溶液を振動させ攪拌する方法、(4)エッチング剤を半導体基板に吹き付ける方法等が挙げられる。
尚、本発明の方法に於いて、上記した如きエッチングを行う際には、必要に応じて半導体を揺動させてもよい。
また、本発明の方法に於いて、エッチング方式は特に限定されず、例えばバッチ式、枚葉式等が使用できる。
【0025】
尚、エッチングに際する温度条件としては、下限が通常室温以上、好ましくは60度以上、より好ましくは65度以上であり、上限は通常100℃以下、好ましくは90℃以下、より好ましくは85℃以下である。換言すれば、本発明のエッチング剤の温度を上記した如き温度範囲となるようにし、これと半導体基板とを接触させればよい。
【0026】
本発明の処理剤及び処理方法が適用される半導体基板としては、通常この分野で用いられているものであればよく、また、処理剤(処理方法)の使用目的により異なるが、例えばシリコン、非晶性シリコン、ポリシリコン、シリコン酸化膜、シリコン窒化膜等のシリコン系材料、ガリウム一砒素、ガリウム−リン、インジウム−リン等の化合物半導体等からなる半導体基板が挙げられる。
なかでも、本発明の処理剤及び処理方法は、シリコン系材料からなる半導体基板に好適に使用される。
【0027】
以下に実施例及び比較例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらにより何ら限定されるものではない。
【0028】
実施例1
(1)エッチング剤の調製
48%NaOH(鶴見曹達社製「CLEARCUT-S」)溶液又は48%KOH(鶴見曹達社製「CLEARCUT-P」)溶液に、表1に示す所定のキレート剤を1000ppm添加した。更に、これに鉄標準液〔和光純薬工業(株)製、1000ppm Fe含有〕、ニッケル標準液〔和光純薬工業(株)製、1000ppm Ni含有〕及び銅標準液〔和光純薬工業(株)製、1000ppm Cu含有〕を、エッチング剤中の金属量がそれぞれ15ppbとなるように添加した。
尚、表中、キレート剤の略号は、それぞれ以下を示す。
・EDTA:エチレンジアミン四酢酸
・DTPA:ジエチレントリアミン-N,N,N',N'',N''-五酢酸
・EDTPO:エチレンジアミンテトラキス(メチレンホスホン酸)
・DEPPO:ジエチレントリアミンペンタキス(メチレンホスホン酸)
(2)エッチング
上記(1)で得られたエッチング剤を85℃で所定時間前加熱した後、85℃に加温された各エッチング剤中に6インチウェーハを5分間浸漬しエッチング処理(85℃)を行った。ウェーハを取り出し、流水で洗浄した後、純水洗浄、スピン乾燥した。尚、表1中の「エッチング剤の85℃での前加熱時間」において、「0時間」はエッチング剤を85℃に加温した後、直ちにエッチング処理を行ったことを、また、「24時間」はエッチング剤を85℃で24時間加温した後にエッチング処理を行ったことをそれぞれ意味する。
(3)結果
上記(2)で得られたエッチングされたウェーハ表面の金属量を全反射蛍光X線装置(テクノス社製「TREX610」)にて測定した。
結果を表1に示す。
【0029】
【表1】

【0030】
表1から明らかなように、アミノポリカルボン酸系キレート剤であるEDTA及びDTPAは金属の半導体基板表面への吸着抑制効果が高いのに対して、ホスホン酸系キレート剤であるEDTPO及びDEPPOは吸着抑制効果が低いことが判る。
また、アミノポリカルボン酸系キレート剤のなかでも、DTPAは85℃24時間加熱処理後もその吸着抑制効果が低下しないことが判る。このようなキレート剤が高濃度アルカリ溶液中で高温で長時間処理した後もそのキレート能(吸着抑制効果)を保持していることは予想外であった。
【0031】
実施例2
(1)エッチング剤の調製
キレート剤としてDTPAを表2に示す所定量用いた以外は、実施例1と同様に調製した。
(2)エッチング
実施例1と同様に行った。
(3)結果
実施例1と同様に、エッチングされたウェーハ表面の金属量を測定した。
結果を表2に示す。
【0032】
【表2】

【0033】
表2から明らかなように、DTPAは、添加するだけで金属に対する吸着抑制効果がみられるが、エッチング剤中の濃度として50ppm以上で金属に対する吸着抑制効果が良好となり、特に1000ppm以上でよりその効果が高くなることが判る。
【0034】
実施例3
(1)エッチング剤の調製
表3に示す所定濃度のNaOH(鶴見曹達社製「CLEARCUT-S」)溶液に、DTPAを1000ppm添加した。
(2)エッチング
上記(1)で得られたエッチング剤を85℃種々の温度に加温した後、その中にウェーハ片(2cm×2cm)を5分間浸漬してエッチング処理(85℃)した。
(3)結果
上記(2)で得られたウェーハ片表面の粗さを原子間力顕微鏡(SII社製「Nanopics 2100」)により測定した。
結果を表3に示す。
【0035】
【表3】

【0036】
表3から明らかなように、水酸化ナトリウムは、低濃度では半導体基板表面が荒れ、その使用量としては、エッチング剤中の濃度として20%(W/W)以上が好ましいことが判る。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明に係る処理剤を用いて半導体基板を処理すれば、アルカリ溶液中に存在する金属不純物による半導体基板の汚染(該金属不純物の半導体基板表面への吸着)を効果的に抑制することができる。特に、本発明に係るエッチング剤を用いて半導体基板をエッチングすれば、エッチング工程における、エッチング対象物である半導体基板の金属不純物による汚染を低減することが可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アミノポリカルボン酸系キレート剤又はその無機塩と20%(W/W)以上のアルカリ金属水酸化物を含んでなる半導体基板表面処理剤。
【請求項2】
アルカリ金属水酸化物が水酸化ナトリウム又は水酸化カリウムである、請求項1に記載の処理剤。
【請求項3】
50ppm以上のアミノポリカルボン酸系キレート剤又は無機塩を含むものである、請求項1又は2に記載の処理剤。
【請求項4】
アミノポリカルボン酸系キレート剤がエチレンジアミン四酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸及びこれらの無機塩からなる群より選ばれるものである、請求項1〜3の何れかに記載の処理剤。
【請求項5】
アミノポリカルボン酸系キレート剤がジエチレントリアミン五酢酸又はこれらの無機塩である、請求項4に記載の処理剤。
【請求項6】
pHが13以上である、請求項1又は2に記載の処理剤。
【請求項7】
アミノポリカルボン酸系キレート剤又はその無機塩と20%(W/W)以上のアルカリ金属水酸化物を含んでなる半導体基板のエッチング剤。
【請求項8】
アルカリ金属水酸化物が水酸化ナトリウム又は水酸化カリウムである、請求項7に記載のエッチング剤。
【請求項9】
50ppm以上のアミノポリカルボン酸系キレート剤又は無機塩を含むものである、請求項7又は8に記載のエッチング剤。
【請求項10】
アミノポリカルボン酸系キレート剤がエチレンジアミン四酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸及びこれらの無機塩からなる群より選ばれるものである、請求項7〜9の何れかに記載のエッチング剤。
【請求項11】
アミノポリカルボン酸系キレート剤がジエチレントリアミン五酢酸又はこれらの無機塩である、請求項10に記載のエッチング剤。
【請求項12】
pHが13以上である、請求項1又は2に記載のエッチング剤。
【請求項13】
半導体基板を請求項1〜6に記載の処理剤で処理することを特徴とする半導体基板表面の処理方法。
【請求項14】
処理剤の温度が60〜100℃である、請求項13に記載の処理方法。
【請求項15】
半導体基板がシリコン系材料からなるものである、請求項13又は14に記載の処理方法。
【請求項16】
半導体基板を請求項7〜12に記載のエッチング剤でエッチングすることを特徴とする半導体基板のエッチング方法。
【請求項17】
エッチング剤の温度が60〜100℃である、請求項16に記載の処理方法。
【請求項18】
半導体基板がシリコン系材料からなるものである、請求項16又は17に記載の処理方法。


【公開番号】特開2006−324452(P2006−324452A)
【公開日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−146180(P2005−146180)
【出願日】平成17年5月19日(2005.5.19)
【出願人】(000252300)和光純薬工業株式会社 (105)
【Fターム(参考)】