説明

半導体発光素子

【課題】素子抵抗の低減を図る。
【解決手段】VCSELのDBR層25において、屈折率及びバンドギャップが異なるナローバンド層25b及びワイドバンド層25aを交互に積層し、ナローバンド層25bとワイドバンド層との間にグレーデッド層25cを配置し構成するとともに、ワイドバンド層25aはナローバンド層25bに比べて大きいバンドギャップ及び高い不純物濃度とし、グレーデッド層25cは、ナローバンド層25bと隣接する一端面側からワイドバンド層25aと隣接する他端面側に向かってナローバンド層25bの組成で始まってワイドバンド層25aの組成で終わるように連続的に組成変化させて形成するとともに、ナローバンド層25bと隣接する一端面側からワイドバンド層25aと隣接する他端面側に向かってナローバンド層25bの不純物濃度で始まってワイドバンド層25aの不純物濃度で終わるように傾斜的に変化させて形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体発光素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体レーザ素子や発光ダイオード等の半導体発光素子は、光通信システムをはじめとする様々な分野において広く利用されている。このような半導体発光素子の一例として、垂直共振器型面発光レーザ(VCSEL:Vertical Cavity Surface Emitting Laser)が知られている。VCSELは、電流が供給されることによって発光する活性層の上下に半導体のミラー層を設けることによって、半導体基板に対して垂直方向に共振器が構成される発光素子である(例えば、特許文献1,2参照)。
【0003】
このようなVCSELのミラー層として、異なる屈折率を有する2種類の化合物半導体層を1ユニットとし、当該ユニットを複数積層して構成された分布ブラッグリフレクタ(DBR:Distributed Bragg Reflector)が知られている。例えば、特許文献1には、異なる屈折率を有する化合物半導体層間のヘテロ接合界面の領域において、その組成が一方の層の組成で始まって他方の層で終わるように徐々に組成変化させたDBRが開示されている。また、特許文献2には、異なる屈折率を有する2種類の化合物半導体層を異なる不純物濃度でドープしたDBRが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第2757633号公報
【特許文献2】特開2002−185079号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来のDBRを採用した半導体発光素子にあっては、2種類の化合物半導体層の界面でバンドが不連続となる。このため、半導体発光素子の抵抗が増大するおそれがある。また、化合物半導体層界面のバンドの不連続に伴って発生するノッチやスパイクは、電流の流れを妨げる障壁となるため、半導体発光素子の順方向電圧が上昇するおそれがある。
【0006】
そこで本発明は、このような技術課題を解決するためになされたものであって、素子抵抗の低減を図ることができる半導体発光素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち本発明に係る半導体発光素子は、基板と、基板上に形成され、電流が供給されることによって発光する領域を有する活性層と、活性層よりも基板側に配置される第1のミラー部と、第1のミラー部との間に活性層が介在して配置される第2のミラー部と、を備え、第2のミラー部は、屈折率及びバンドギャップが異なるナローバンド層及びワイドバンド層が交互に複数積層されるとともに、ナローバンド層とワイドバンド層との間にグレーデッド層が配置されて構成されており、ワイドバンド層は、ナローバンド層に比べて大きいバンドギャップ及び高い不純物濃度を有し、グレーデッド層は、ナローバンド層と隣接する一端面側からワイドバンド層と隣接する他端面側に向かってナローバンド層の組成で始まってワイドバンド層の組成で終わるように連続的に組成変化させて形成されるとともに、一端面における不純物濃度がナローバンド層の不純物濃度と同一となり、一端面側から他端面側に向かって不純物濃度が傾斜的に増加し、他端面における不純物濃度がワイドバンド層の不純物濃度と同一となるように形成されていることを特徴として構成される。
【0008】
本発明に係る半導体発光素子では、第2のミラー部を構成するワイドバンド層の不純物濃度がナローバンド層の不純物濃度よりも高く設定され、ナローバンド層とワイドバンド層との間に、ナローバンド層と隣接する一端面側からワイドバンド層と隣接する他端面側に向かってナローバンド層の組成で始まってワイドバンド層の組成で終わるように連続的に組成変化したグレーデッド層が配置される。このグレーデッド層は、ナローバンド層と隣接する一端面における不純物濃度がナローバンド層の不純物濃度と同一となり、積層方向においてナローバンド層からワイドバンド層に向かって不純物濃度が傾斜的に増加し、ワイドバンド層と隣接する他端面における不純物濃度がワイドバンド層の不純物濃度と同一となるように形成される。このように構成することで、ワイドバンド層の価電子帯のレベルとナローバンド層の価電子帯のレベルとを、両層の間に介在するグレーデッド層を介して一致させることができるとともに、ワイドバンド層のキャリア濃度とナローバンド層のキャリア濃度とを、両層の間に介在するグレーデッド層を介して滑らかに連続的に繋ぐことが可能となる。このため、ハンド不連続によるノッチやスパイクを低減することができるので、キャリアをスムーズに流すことが可能となる。よって、素子抵抗の低減を図ることができる。
【0009】
ここで、第1のミラー部は、ナローバンド層及びワイドバンド層が交互に複数積層されるとともに、ナローバンド層とワイドバンド層との間にグレーデッド層が配置されて構成されていることが好適である。このように、第1のミラー部を第2のミラー部と同様に構成することで、第1のミラー部に起因する抵抗を低減することができる。よって、素子全体の抵抗の低減を一層図ることが可能となる。
【0010】
また、第2のミラー部は、p型の導電型を有することが好適である。p型のキャリアは有効質量の大きいホールであるので、p型のDBRは素子抵抗となりやすい。このため、p型のDBRに上記グレーデッド層を採用することで、素子抵抗の低減を効率良く実現することができる。また、第1のミラー部は、n型の導電型を有していてもよい。
【0011】
また、活性層から出力された光は、第1のミラー部および第2のミラー部により形成される共振器構造によって所定の共振波長を有し、積層方向に基板と反対側へ出射されてもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、DBRを用いた半導体発光素子において、素子抵抗の低減を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本実施形態に係る半導体発光素子1の構成を示す上面図である。
【図2】図1に示した半導体発光素子1のII−II線における側断面図である。
【図3】図2に示した半導体発光素子1の側断面図のDBR層の構造を示す拡大図である。
【図4】比較例におけるDBR層のキャリア濃度及び価電子帯バンドを説明する概要図である。
【図5】比較例におけるDBR層の価電子帯バンドを説明する概要図である。
【図6】比較例におけるDBR層の価電子帯バンドを説明する概要図である。
【図7】比較例におけるDBR層のキャリア濃度及び価電子帯バンドを説明する概要図である。
【図8】比較例におけるDBR層のキャリア濃度及び価電子帯バンドを説明する概要図である。
【図9】図2に示したDBR層のキャリア濃度及び価電子帯バンドを説明する概要図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、添付図面を参照して本発明の実施形態について説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、図面の寸法比率は、説明のものと必ずしも一致していない。
【0015】
図1は、本発明の実施形態に係る半導体発光素子の構成を示す上面図、図2は、図1に示した半導体発光素子のII−II線における側断面図である。図1及び図2に示した半導体発光素子1は、垂直共振器型面発光レーザ(VCSEL)であり、例えば光源装置として好適に利用されるものである。
【0016】
図1に示すように、半導体発光素子1は、基板11と、メサ部20とを備えている。メサ部20は、水平断面が円形の円柱状に形成されている。メサ部20の側面には、絶縁膜41が配置されており、さらにその側方には絶縁体42が配置されている。また、半導体発光素子1に電流を供給するために、メサ部20の上面、絶縁膜41及び絶縁体42の上面に連続して配置されたアノード電極部材51と、絶縁膜41上に形成されたnコンタクト電極部材55及びカソードパッド52とが配置されている。
【0017】
図2に示すように、基板11上に、メサ部20が形成されている。基板11は、半導体基板であり、例えばn型のGaAs基板が用いられる。また、基板11上に形成されたメサ部20は、活性層21を含む多層膜によって形成されている。メサ部20が有する活性層21は、電流が供給されることによって所定の発光スペクトルで発光する発光層である。このような活性層21としては、例えば、GaAs/Al0.3Ga0.7Asの半導体積層構造で構成された多重量子井戸(MQW:Multi Quantum Well)活性層を用いることができる。メサ部20は、この活性層21から発せられた光を垂直に共振させる垂直共振器の全て又は一部を構成している。
【0018】
また、メサ部20において、活性層21の基板11側には、下部n型DBR層(第1のミラー部)24が形成されている。下部n型DBR層24は、活性層21から発光された光を反射する機能を備えており、例えばAl組成比が異なるAlGaAs層が交互に積層された半導体多層構造が用いられる。なお、図2においては、DBR層の構成を一部省略して模式的に図示している。
【0019】
また、メサ部20において、活性層21とメサ部20の上面20aとの間には上部p型DBR層(第2のミラー部)25が形成されている。この上部p型DBR層25は、下部n型DBR層24と同様に、活性層21から発生された光を反射する機能を備えており、例えばAl組成比が異なるAlGaAs層が交互に積層された半導体多層構造が用いられる。
【0020】
このように、半導体発光素子1において、下部n型DBR層24と上部p型DBR層25との間に活性層21が介在するため、活性層21で発生された光が下部n型DBR層24と上部p型DBR層25との間で共振する垂直共振器が形成される。また、上部p型DBR層25は、下部DBR層24に比べて反射率が低く構成され、これにより、メサ部20の上面20a側から共振した光の一部を出射する構成となっている。この場合、アノード電極部材51の環状部51aによってメサ部20の上面20a側に発光窓部20bが形成される。発光窓部20bは、メサ部20の上方からみて円形の開口であり、その半径はメサ部20の半径より小さく形成されている。
【0021】
また、メサ部20において、活性層21と上部p型DBR層25との間に酸化狭窄層22が形成されている。酸化狭窄層22は、活性層21に対する電流を狭窄する半導体層であり、高濃度のAlを含む組成の化合物半導体から形成され、例えばAlGaAsが用いられる。酸化狭窄層22は、AlGaAsが酸化されることによって高抵抗化されたリング状の酸化領域と、この酸化領域の内周側に形成される電流狭窄領域とから構成される。また、基板11と下部n型DBR層24との間にはバッファ層12が形成されている。バッファ層12は、例えばn型のGaAsが用いられる。
【0022】
また、メサ部20の側面には、絶縁膜41が形成されている。絶縁膜41は、半導体発光素子1の電極間を絶縁する機能を有し、上部p型DBR層25上に配置される。そして、メサ部20の側面には、絶縁膜41を介して絶縁体42が配置されている。絶縁体42は、図1に示すようにメサ部20を囲うように円環状に形成される。また、絶縁膜41の材料は、活性層21が発する熱に対する耐熱性と、加工工程に使用する薬品に対する耐薬品性と、加工容易性を備えていることが好ましく、例えばポリイミドが用いられる。
【0023】
また、図2に示すように、上部p型DBR層25のメサ部20の上面側には、アノード電極部材51の環状部51aが形成されている。アノード電極部材51は、メサ部20の上面20a上、絶縁膜41及び絶縁体42の上面上に連続して形成されている。このアノード電極部材51の環状部51aによって、図1に示すように、メサ部20の上面上に円形の開口である発光窓部20bが形成されている。アノード電極部材51として、例えばTiPtAu合金が用いられる。さらに、図1,2に示すように、絶縁体42の外側には、メサ部20の略半分を囲うようにnコンタクト電極部材55が配置されている。また、絶縁膜41上には、nコンタクト電極部材55と電気的に接続されたカソードパッド52が配置されている。なお、nコンタクト電極部材55は、必要に応じて形成する箇所を変更してもよい。
【0024】
次に、半導体発光素子1のDBR層の構造の詳細を説明する。なお、ここでは、上部p型DBR層25及び下部n型DBR層24の構造は、導電型及び積層数のみが相違するため、上部p型DBR層25を例に説明する。図3は、図2のAで示すメサ部20の上部p型DBR層25の一部拡大図である。
【0025】
図3に示すように、上部p型DBR層25では、半導体層であるナローバンド層25b及びワイドバンド層25aが一ユニットとして複数積層されている。すなわち、ナローバンド層25b及びワイドバンド層25aが交互に複数積層されている。ナローバンド層25b及びワイドバンド層25aは、屈折率が異なる材料で形成されている。そして、ワイドバンド層25aは、ナローバンド層25bに比べて大きいバンドギャップ及び高い不純物濃度を有している。ワイドバンド層25aとしては、例えばキャリア濃度が5×10+18cm−3のAl0.90GaAsが用いられる。また、ナローバンド層25bとしては、例えばキャリア濃度が3×10+18cm−3のAl0.12GaAsが用いられる。
【0026】
ナローバンド層25bとワイドバンド層25aとの間には、グレーデッド層25cが配置されている。グレーデッド層25cは、半導体積層方向において(ナローバンド層25bに隣接する端面側から前記ワイドバンド層25aに隣接する端面側に向かって)ナローバンド層25bの組成で始まってワイドバンド層25aの組成で終わるように連続的に組成変化させて形成されている。例えば、グレーデッド層25cは、ナローバンド層25bと隣接する一端面の組成が、ナローバンド層25bの組成と同一のAl0.12GaAsであり、半導体積層方向においてワイドバンド層25aに近づくにつれてAl濃度が連続的に増加し、ワイドバンド層25aと隣接する他端面の組成が、ワイドバンド層25aの組成と同一のAl0.90GaAsとされる。なお、グレーデッド層25cの組成は、ナローバンド層25bからワイドバンド層25aに向かって階段状に変化させてもよい。
【0027】
そして、グレーデッド層25cは、半導体積層方向において不純物濃度が連続的に変化するようにドープされて形成される。グレーデッド層25cは、半導体積層方向においてナローバンド層25bの不純物濃度で始まってワイドバンド層25aの不純物濃度で終わるように連続的に変化させて形成されている。例えば、グレーデッド層25cは、ナローバンド層25bと隣接する一端面における不純物濃度がナローバンド層25bの不純物濃度と同一の3×10+18cm−3となり、半導体積層方向においてナローバンド層25bからワイドバンド層25aに向かって不純物濃度が傾斜的に増加し、ワイドバンド層25aと隣接する他端面における不純物濃度がワイドバンド層25aの不純物濃度と同一の5×10+18cm−3となるように形成されている。なお、グレーデッド層25cの不純物濃度は、ナローバンド層25bからワイドバンド層25aに向かって階段状に変化させてもよい。
【0028】
ワイドバンド層25aとナローバンド層25bとの間には、グレーデッド層25eが配置されている。グレーデッド層25eは、半導体積層方向において(ワイドバンド層25aに隣接する端面側から前記ナローバンド層25bに隣接する端面側に向かって)ワイドバンド層25aの組成で始まってナローバンド層25bの組成で終わるように連続的に組成変化させて形成されている。例えば、グレーデッド層25eは、ワイドバンド層25aと隣接する一端面の組成が、ワイドバンド層25aの組成と同一のAl0.90GaAsであり、半導体積層方向においてナローバンド層25bに近づくにつれてAl濃度が連続的に減少し、ナローバンド層25bと隣接する他端面の組成が、ナローバンド層25bの組成と同一のAl0.12GaAsとされる。なお、グレーデッド層25eの組成は、ワイドバンド層25aからナローバンド層25bに向かって階段状に変化させてもよい。
【0029】
そして、グレーデッド層25eは、半導体積層方向において不純物濃度が連続的に変化するようにドープされて形成される。グレーデッド層25eは、半導体積層方向においてワイドバンド層25aの不純物濃度で始まってナローバンド層25bの不純物濃度で終わるように連続的に変化させて形成されている。例えば、グレーデッド層25eは、ワイドバンド層25aと隣接する一端面における不純物濃度がワイドバンド層25aの不純物濃度と同一の5×10+18cm−3となり、半導体積層方向においてワイドバンド層25aからナローバンド層25bに向かって不純物濃度が傾斜的に減少し、ナローバンド層25bと隣接する他端面における不純物濃度がナローバンド層25nの不純物濃度と同一の3×10+18cm−3となるように形成されている。なお、グレーデッド層25eの不純物濃度は、ワイドバンド層25aからナローバンド層25bに向かって階段状に変化させてもよい。
【0030】
次に、本実施形態に係る半導体発光素子1について、作用効果を説明する。図2に示す半導体発光素子1において、電流がアノード電極部材51を介してメサ部20に供給された場合、電流が上部p型DBR層25を流れ酸化狭窄層22により絞り込まれて活性層21へ供給される。電流が活性層21へ供給されると、活性層21が発光する。活性層21から発生した光は、下部n型DBR層24と上部p型DBR層25との間の共振器で共振される。また、上部p型DBR層25は、下部n型DBR層24に比べて反射率が低く構成されている。このため、共振された光の一部はメサ部20の発光窓部20bからレーザ光として出射される。
【0031】
上述の通り、アノード電極部材51から活性層21へ供給される電流は、上部p型DBR層25を流れるため、上部p型DBR層25の抵抗値は素子抵抗や応答速度に影響する。DBR構造では、反射膜として機能させるために組成の異なる層を交互に配置させることが一般的であり、その積層体の層間の界面はヘテロ結合となる。ここで、ヘテロ結合した界面での抵抗を検証及び考察するために、バンド構造を計算した。
【0032】
図4は、p型のAl0.12GaAsとp型のAl0.90Gaとのヘテロ界面におけるバンド図の計算結果を示すものである。両層のキャリア濃度は2.5×10+18cm−3とし、同一とした。また、横軸がエピ表面からの深さであり、縦軸がエネルギーレベルであり、エピ表面からの深さ100nmの位置にヘテロ界面が存在するものとした。温度条件は、−40℃、25℃、85℃とした。図4に示すように、何れの温度条件においても、ヘテロ界面での価電子帯バンドは不連続となり、ノッチやスパイクが発生する。このノッチやスパイクにより電気的に絶縁された領域である空乏層が形成される(界面近傍において4.0nm)。特に低温になるにつれて空乏層の領域が大きくなる傾向にあるといえる。このように、バンドの不連続により発生するノッチやスパイクが障壁となり、素子抵抗が増大したり、順方向の電圧が上昇したりすることが確認された。
【0033】
ここで、ヘテロ界面での抵抗を低減するために、ドーパントを増やしキャリア濃度を増加する手法が考えられる。図5は、図4と同様であり、p型のAl0.12GaAsとp型のAl0.90Gaとのヘテロ界面における価電子帯バンド図の計算結果を示すものである。両層のキャリア濃度は、抵抗低減のために5.0×10+18cm−3と図4に比べて高い値とした。結果、図5に示すように、Al0.12GaAsとAl0.90Gaとの間で、界面から離れたバンド曲がりの無くなった部位のベースバンドレベル(価電子レベル)に差異が生じた。低温になるにつれてベースバンドレベルの差異が大きくなる傾向にあり、−40℃で0.02eV程度の差異が生じた。このようなベースバンドレベルの差異は、半導体発光素子1の順電圧を上昇させるおそれがある。
【0034】
そこで、ベースバンドレベルの差異を解消するために、Al0.12GaAsとAl0.90Gaのキャリア濃度をそれぞれ変化させて、ベースバンドレベルを合せることが考えられる。図6は、図5と同様であり、p型のAl0.12GaAsとp型のAl0.90Gaとのヘテロ界面における価電子帯バンド図の計算結果を示すものである。両層のキャリア濃度は、Al0.12GaAsで3.0×10+18cm−3、Al0.90Gaで5.0×10+18cm−3とした。図6に示すように、キャリア濃度を変化させることでベースバンドレベルを合せることができることは実証された。しかし、価電子帯バンドには依然としてノッチやスパイクが発生することが確認された。このため、キャリア濃度を調整する場合であっても、ノッチやスパイクに起因する素子抵抗の増大は依然として解消することができないことが確認された。
【0035】
上記で検証したように、DBR層を構成する2つの異なる層の価電子帯のベースバンドレベルを合せる様にキャリア濃度を調整する場合、すなわち、特許文献2のように、異なる屈折率を有する2種類の化合物半導体層を異なる不純物濃度でドープした場合であっても、ノッチやスパイクを解消することができないといえる。この場合を簡略化した概要図で説明する。図7は、積層体におけるキャリア濃度及び価電子帯バンドの位置依存性を示す概要図である。図7に示すように、ナローバンド層25bのキャリア濃度を3.0×10+18cm−3とし、ワイドバンド層25aのキャリア濃度を5.0×10+18cm−3とすることで、ナローバンド層25b及びワイドバンド層25a間の価電子帯のベースバンドレベルを揃えることができる。しかしながら、ナローバンド層25b及びワイドバンド層25aの界面の価電子帯バンドにおけるノッチやスパイクを解消することができず、キャリアの流れの妨げとなる。すなわち、特許文献2のように、異なる屈折率を有する2種類の化合物半導体層を異なる不純物濃度でドープした場合であっても、ノッチやスパイクを解消することができないといえる。
【0036】
一方、特許文献1のように、キャリア濃度及び組成の異なる2つのAlGaAs層間に、組成を連続的に変化させたグレーデッド層を配置することにより、上記問題を解決することが考えられる。図8は、ナローバンド層25bとワイドバンド層25aとの間に、ナローバンド層25bからワイドバンド層25aに向かって徐々にAl組成を変化させたグレーデッド層25dを配置させた場合のキャリア濃度及び価電子帯バンドの位置依存性を示す概要図である。ナローバンド層25bのキャリア濃度を3.0×10+18cm−3とし、ワイドバンド層25aのキャリア濃度を5.0×10+18cm−3とし、両者に介在するグレーデッド層25dのキャリア濃度は5.0×10+18cm−3となるように均一にドープされている。図8に示すように、ナローバンド層25bとワイドバンド層25aとの間に、組成をグレーデッドに変化させたグレーデッド層25dを配置した場合であっても、ナローバンド層25b及びグレーデッド層25dの界面の価電子帯バンドにノッチ及びスパイクが発生してしまい、キャリアの流れの妨げとなる。すなわち、特許文献1のように、異なる屈折率を有する化合物半導体層間のヘテロ接合界面の領域において、その組成が一方の層の組成で始まって他方の層で終わるように徐々に組成変化させた場合であっても、素子抵抗が増大するといえる。
【0037】
このように、素子抵抗を増大させるノッチやスパイクが発生する原因としては、2種類の化合物間のバンドギャップが違うことで価電子帯に段差が生じる点や、バンドが不連続である点が考えられる。そこで、半導体素子1では、バンドギャップが異なる2種類の半導体層の価電子レベルを一致させるために、ワイドバンド層25aの不純物濃度がナローバンド層25bより高濃度となるように形成し、さらに、両者の間に組成がグレーデッドとなるグレーデッド層25cを設けるとともに、そのグレーデッド層25cの不純物濃度も層内で積層方向においてナローバンド層25b側からワイドバンド層25a側になるに従い徐々に高濃度となるようにグレーデッドドープを施している。このように構成された半導体素子1の上部p型DBR層25のバンドの概要を、図9を用いて説明する。図9は、上部p型DBR層25におけるキャリア濃度及び価電子帯バンドの位置依存性を示す概要図である。図9に示すように、ナローバンド層25bのキャリア濃度を3.0×10+18cm−3とし、ワイドバンド層25aのキャリア濃度を5.0×10+18cm−3とすることで、ナローバンド層25b及びワイドバンド層25a間の価電子帯のベースバンドレベルを揃えることができる。さらに、ナローバンド層25bとワイドバンド層25aとの間に、組成及び不純物濃度をグレーデッドに変化させたグレーデッド層25cを介在させることで、ナローバンド層25bとワイドバンド層25aとの間のキャリア濃度を傾斜的に連続的に変化させることができる。このような構成を採用することにより、価電子帯バンドのノッチやスパイクを低減することができる。よって、素子抵抗の低減及び応答性能の改善を図ることが可能となる。
【0038】
以上、本実施形態に係る半導体発光素子1によれば、上部p型DBR層25を構成するワイドバンド層25aの不純物濃度がナローバンド層25bの不純物濃度よりも高く設定され、積層方向におけるナローバンド層25bとワイドバンド層25aとの間に、積層方向においてナローバンド層25bの組成で始まってワイドバンド層25aの組成で終わるように連続的に組成変化したグレーデッド層25cが配置される。このグレーデッド層25cは、ナローバンド層25bと隣接する一端面における不純物濃度がナローバンド層25bの不純物濃度と同一となり、積層方向においてナローバンド層25bからワイドバンド層25aに向かって不純物濃度が傾斜的に増加し、ワイドバンド層25aと隣接する他端面における不純物濃度がワイドバンド層25aの不純物濃度と同一となるように形成される。また、積層方向におけるワイドバンド層25aとナローバンド層25bとの間に、積層方向においてワイドバンド層25aの組成で始まってナローバンド層25bの組成で終わるように連続的に組成変化したグレーデッド層25eが配置される。このグレーデッド層25eは、ワイドバンド層25aと隣接する一端面における不純物濃度がワイドバンド層25aの不純物濃度と同一となり、積層方向においてワイドバンド層25aからナローバンド層25bに向かって不純物濃度が傾斜的に増加し、ナローバンド層25bと隣接する他端面における不純物濃度がナローバンド層25bの不純物濃度と同一となるように形成される。このように構成することで、ワイドバンド層25aの価電子帯のレベルとナローバンド層25bの価電子帯のレベルとを、両層の間に介在するグレーデッド層25c,25eを介して一致させることができるとともに、ワイドバンド層25aのキャリア濃度とナローバンド層25bのキャリア濃度とを、両層の間に介在するグレーデッド層25c,25eを介して滑らかに連続的に繋ぐことが可能となる。このため、ハンド不連続によるノッチやスパイクを低減することができるので、キャリアをスムーズに流すことが可能となる。よって、素子抵抗の低減を図ったり、素子の応答特性を改善したりすることができる。また、図7,8で示す例と比べてヘテロ界面の障壁を抑制し、ヘテロ界面でのノッチを小さくすることができるので、順電圧の低減や温度による変動幅を小さくすることが可能となる。このため、低温での順電圧の増加を抑制することができる。また、有効質量の大きいホールをキャリアとする上部p型DBR層25にグレーデッド層25cを採用することで、素子抵抗の低減を効率良く実現することができる。
【0039】
また、本実施形態に係る半導体発光素子1によれば、下部n型DBR層24が上部p型DBR層25と同様に構成されるので、下部n型DBR層24に起因する抵抗を低減することができる。よって、素子全体の抵抗の低減を一層図ることが可能となる。
【0040】
なお、上述した実施形態は、本発明に係る半導体発光素子の一例を示すものである。本発明に係る半導体発光素子は、実施形態に係る半導体発光素子に限られるものではなく、実施形態に係る半導体発光素子を変形し、又は他のものに適用したものであってもよい。
【0041】
例えば、上述した実施形態では、上部p型DBR層25及び下部n型DBR層24の何れにもグレーデッド層25cを採用する例を説明したが、上部p型DBR層25にのみグレーデッド層25cを採用した場合であっても、素子抵抗の低減及び応答性能の改善を図ることができる。
【0042】
また、上述した実施形態では、VCSELに採用する例を説明したが、これに限られることはなく、DBRを採用する光発光素子であれば適用することができる。
【0043】
また、上述した実施形態では、メサ部20の形状が円柱状である半導体発光素子1について説明したが、メサ部20の水平方向の断面は円形であるものに限られず、矩形であってもよい。
【0044】
また、上述した実施形態では、メサ部20が一つより構成される半導体発光素子1について説明したが、メサ部20の数に限定されず、メサ部20を複数備え、アレイ化して構成される半導体発光素子に適用した場合であっても、素子抵抗の低減及び応答性能の改善を図ることができる。
【0045】
さらに、上述した実施形態では、n型の基板11を用いた半導体発光素子1について説明したが、p型の基板を用いて、実施形態のn型とp型を入れ替えて構成される半導体発光素子に適用した場合であっても、素子抵抗の低減及び応答性能の改善を図ることができる。
【符号の説明】
【0046】
1…半導体発光素子、11…基板、20…メサ部、21…活性層、22…酸化狭窄層、24,25…DBR層(第1,第2のミラー層)、25a…ワイドバンド層25a…ナローバンド層、25c…グレーデッド層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板上に形成され、電流が供給されることによって発光する領域を有する活性層と、
前記活性層よりも前記基板側に配置される第1のミラー部と、
前記第1のミラー部との間に前記活性層が介在して配置される第2のミラー部と、
を備え、
前記第2のミラー部は、屈折率及びバンドギャップが異なるナローバンド層及びワイドバンド層が交互に複数積層されるとともに、前記ナローバンド層と前記ワイドバンド層との間にグレーデッド層が配置されて構成されており、
前記ワイドバンド層は、前記ナローバンド層に比べて大きいバンドギャップ及び高い不純物濃度を有し、
前記グレーデッド層は、
前記ナローバンド層と隣接する一端面側から前記ワイドバンド層と隣接する他端面側に向かって前記ナローバンド層の組成で始まって前記ワイドバンド層の組成で終わるように連続的に組成変化させて形成されるとともに、
前記一端面における不純物濃度が前記ナローバンド層の不純物濃度と同一となり、前記一端面側から前記他端面側に向かって不純物濃度が傾斜的に増加し、前記他端面における不純物濃度が前記ワイドバンド層の不純物濃度と同一となるように形成されていること、
を特徴とする半導体発光素子。
【請求項2】
前記第1のミラー部は、前記ナローバンド層及び前記ワイドバンド層が交互に複数積層されるとともに、前記ナローバンド層と前記ワイドバンド層との間に前記グレーデッド層が配置されて構成されていることを特徴とする請求項1に記載の半導体発光素子。
【請求項3】
前記第2のミラー部は、p型の導電型を有することを特徴とする請求項1又は2に記載の半導体発光素子。
【請求項4】
前記第1のミラー部は、n型の導電型を有することを特徴とする請求項1〜3の何れか一項に記載の半導体発光素子。
【請求項5】
前記活性層から出力された光は、前記第1のミラー部および前記第2のミラー部により形成される共振器構造によって所定の共振波長を有し、積層方向に前記基板と反対側へ出射されることを特徴とする請求項1〜4の何れか一項に記載の半導体発光素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−233705(P2011−233705A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−102474(P2010−102474)
【出願日】平成22年4月27日(2010.4.27)
【出願人】(000236436)浜松ホトニクス株式会社 (1,479)
【Fターム(参考)】