説明

半導体素子固定用フィルム状接着剤、それを用いた半導体装置、及び、その半導体装置の製造方法

【課題】 半導体素子固定用フィルム状接着剤であるにも拘らず、その厚さを基板上に設置される電子部品の厚さよりも厚くしながらボイドの発生を十分に防止することができ、しかも基板上に設置された電子部品の厚さによって基板と半導体素子との間に生じてしまう空間をその半導体素子固定用フィルム状接着剤によって十分に埋め込むことができ、凹凸のある基板に半導体素子を効率よく且つ確実に接着することが可能な半導体素子固定用フィルム状接着剤を提供すること。
【解決手段】 140℃における溶融粘度が50Pa・s以下である材料からなる接着剤用フィルムを複数枚積層してなるものであり、且つ、厚さが200μm〜2000μmであることを特徴とする半導体素子固定用フィルム状接着剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体素子固定用フィルム状接着剤、それを用いた半導体装置、並びに、その半導体装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年では、電子機器の高機能化や軽薄短小化が進み、電子機器に用いられる様々な部品の高密度集積化や高密度実装化が要求されている。そして、このような電子機器に用いられる半導体装置においては、その小型化や多ピン化が進められている。また、このような半導体装置に用いられる半導体素子を実装する基板についても、その小型化や細配線化が進められており、例えば、電子機器への半導体装置の収納性を高めるため、リジット基板とフレキシブル基板とを積層して一体化した折り曲げ可能なリジットフレックス基板が使われるようになってきた。
【0003】
このような状況下において、従来のようなリードフレームを使用する半導体装置では小型化に限界があるため、基板上に半導体素子を実装するBGA(Ball Grid Array)やCSP(Chip Scale Package)といったエリア実装型の搭載方式を採用した半導体装置が提案されてきた。そして、このような半導体装置に用いられている半導体素子の電極と、基板の電極とを電気的に接続する方法としては、ワイヤーボンディング方式やFC(Frip Chip)接続方式が知られており、近年では、より小型化に有利なFC接続方式と、BGAやCSP搭載方式とを採用して得られる半導体装置が開示されている。
【0004】
しかしながら、このような搭載方式を採用した従来の半導体装置においては、一つの半導体装置に対して半導体素子を一つしか収納できないことから半導体装置の小型化に限界があった。また、このような従来の搭載方式を採用した半導体装置においては、半導体素子が動作するために必要な受動素子等の電子部品が半導体装置の外部に配置されていたことから、これを用いる電子機器の小型化にも限界があり、更には配線長が長くなってしまうため高速信号を扱う場合に設計上の制約が大きくなっていた。
【0005】
そこで、受動素子等の電子部品を半導体装置の内部に備えることを可能とした半導体装置が研究、開示されてきた。このような半導体装置としては、例えば、特開平8−162608号公報(特許文献1)に記載の基板上に半導体素子とコンデンサ(電子部品)とを一体成型した半導体装置や、特開2005−12199号公報(特許文献2)に記載の基板と、前記基板上に実装された受動素子と、前記受動素子の表面に積層された半導体素子とを備える半導体装置等が挙げられる。このような半導体装置においては、基板上に半導体素子を接着するために半導体素子固定用接着剤が用いられている。そして、このような半導体素子固定用接着剤の分野においても、得られる半導体装置の小型化を図るために、種々の半導体素子固定用接着剤が研究、開示されてきている。
【0006】
例えば、特開2005−60417号公報(特許文献3)においては、(A)テトラカルボン酸二無水物からなる酸二無水物成分、及び、特定のシリコーンジアミンと、特定の芳香族ジアミンを主たる成分として含有するジアミン成分より重合されたポリイミド樹脂100重量部、(B)エポキシ樹脂5〜200重量部、(C)エポキシ樹脂硬化剤0.1〜100重量部、(D)無機フィラー0〜300重量部、(E)有機溶剤100〜500重量部よりなるスクリーン印刷用接着剤ワニスが開示されている。しかしながら、特許文献3に記載の従来の液体型の半導体素子固定用接着剤を用いた場合、その接着剤中に有機溶剤を含むため乾燥し難く、膜厚を厚くした場合には形成された接着剤層の膜にボイドが生じてしまっていた。そのため、このような液体型の半導体素子固定用接着剤においては、乾燥後の接着剤層の厚みを200μm以上とすることはできず、基板上に設置された電子部品の厚さによって基板と半導体素子との間に生じてしまう空間を、その半導体素子固定用接着剤で埋め込むことができなかった。また、このような従来の液体型の半導体素子固定用接着剤においては、その接着剤をスクリーン印刷で付着させていたことから生産コスト面でも問題があった。
【0007】
また、特開平10−259364号公報(特許文献4)においては、接着剤フィルム(a)と、第2の接着剤層を形成した接着剤フィルム(b)と、有機溶剤可溶性接着剤からなる塗布液を塗布、乾燥して形成した接着剤フィルム(c)とからなる電子部品用接着テープが開示されている。しかしながら、特許文献4に記載の従来の半導体素子固定用接着剤においては、接着剤層の数だけ塗工工程が必要で塗工設備、生産コスト面で大きな問題があった。更に、有機溶剤可溶性接着剤層を乾燥させる際に有機溶剤を蒸発させることが困難であるとともに、乾燥させて得られる有機溶剤可溶性接着剤層中にボイドが生じてしまうという問題があった。そのため、特許文献4に記載されているような半導体素子固定用接着剤においては、その厚みを200μm以上とすることはできず、基板上に設置された電子部品の厚さによって基板と半導体素子との間に生じてしまう空間を、その半導体素子固定用接着剤で埋め込むことができなかった。
【0008】
更に、特開2001−49220号公報(特許文献5)においては、(A)シリカ、(B)フェノキシ樹脂、(C)グリシジルエーテル型エポキシ樹脂及び(D)エポキシ樹脂硬化剤を必須成分とし、組成物中のシリカ含有量が50〜80質量%であり、且つ(B)フェノキシ樹脂/(C)グリシジルエーテル型エポキシ樹脂の重量比が0.02〜1の範囲であるフィルム状接着剤用組成物が開示されている。しかしながら、特許文献5に記載のフィルム状の半導体素子固定用接着剤においては、基板上に設置された電子部品の厚さが厚い場合には、基板と半導体素子との間に生じてしまう空間をその半導体素子固定用接着剤で十分に埋め込むことができなかった。
【特許文献1】特開平8−162608号公報
【特許文献2】特開2005−12199号公報
【特許文献3】特開2005−60417号公報
【特許文献4】特開平10−259364号公報
【特許文献5】特開2001−49220号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、半導体素子固定用フィルム状接着剤であるにも拘らず、その厚さを基板上に設置される電子部品の厚さよりも厚くしながらボイドの発生を十分に防止することができ、しかも基板上に設置された電子部品の厚さによって基板と半導体素子との間に生じてしまう空間をその半導体素子固定用フィルム状接着剤によって十分に埋め込むことができ、凹凸のある基板に半導体素子を効率よく且つ確実に接着することが可能な半導体素子固定用フィルム状接着剤、それを用いた半導体装置、並びに、その半導体装置の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、140℃における溶融粘度が50Pa・s以下である材料からなる接着剤用フィルムを複数枚積層することにより、基板上の電子部品の厚さよりも厚い厚さを有する半導体素子固定用フィルム状接着剤を得ることができ、これによってボイドの発生を十分に防止しつつ、基板上に設置された電子部品の厚さによって基板と半導体素子との間に生じてしまう空間を、半導体素子固定用フィルム状接着剤によって十分に埋め込んで基板に半導体素子を効率よく且つ確実に接着することが可能となるということを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明の半導体素子固定用フィルム状接着剤は、140℃における溶融粘度が50Pa・s以下である材料からなる接着剤用フィルムを複数枚積層してなるものであり、且つ、厚さが200μm〜2000μmであることを特徴とするものである。
【0012】
ここで、本発明における材料の溶融粘度の測定方法を説明する。すなわち、本発明における材料の溶融粘度の測定方法は、測定装置としてフローテスター(島津製作所製の商品名「CFT−500A」)を用い、試験片の樹脂を予め所定の温度に加熱し、その溶融物が細管を通過する時の粘性抵抗より測定する方法である。
【0013】
また、上記本発明の半導体素子固定用フィルム状接着剤としては、前記材料が、(A)シリカと、(B)フェノキシ樹脂と、(C)グリシジルエーテル型エポキシ樹脂と、(D)エポキシ樹脂硬化剤とを含有し、(A)シリカの含有量が50〜80質量%であり、且つ、(B)フェノキシ樹脂と(C)グリシジルエーテル型エポキシ樹脂との重量比((B)フェノキシ樹脂/(C)グリシジルエーテル型エポキシ樹脂)が0.02〜1の範囲である接着剤用組成物であることが好ましい。
【0014】
さらに、上記本発明の半導体素子固定用フィルム状接着剤としては、前記材料の溶融粘度が30000Pa・s以下となる温度以上であって且つ前記材料の熱硬化開始温度以下である温度範囲内の温度において、前記複数枚の接着剤用フィルムを積層したものであることが好ましい。
【0015】
また、本発明の半導体装置の製造方法は、上記本発明の半導体素子固定用フィルム状接着剤を用いて、半導体素子を基板に接着することを特徴とする方法である。
【0016】
さらに、本発明の半導体装置は、半導体素子と、基板と、前記半導体素子と基板とを接着している上記本発明の半導体素子固定用フィルム状接着剤とを備えることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、半導体素子固定用フィルム状接着剤であるにも拘らず、その厚さを基板上に設置される電子部品の厚さよりも厚くしながらボイドの発生を十分に防止することができ、しかも基板上に設置された電子部品の厚さによって基板と半導体素子との間に生じてしまう空間をその半導体素子固定用フィルム状接着剤によって十分に埋め込むことができ、凹凸のある基板に半導体素子を効率よく且つ確実に接着することが可能な半導体素子固定用フィルム状接着剤、それを用いた半導体装置、及び、その半導体装置の製造方法を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
【0019】
(半導体素子固定用フィルム状接着剤)
先ず、本発明の半導体素子固定用フィルム状接着剤について説明する。すなわち、本発明の半導体素子固定用フィルム状接着剤は、140℃における溶融粘度が50Pa・s以下である材料からなる接着剤用フィルムを複数枚積層してなるものであり、且つ、厚さが200μm〜2000μmであることを特徴とするものである。このような半導体素子固定用フィルム状接着剤は、従来の半導体素子固定用接着剤を使った半導体素子と基板とを接着する方法に適応可能でありながら、半導体素子に実装する温度において低溶融粘性を示し、これによって前記半導体素子固定用フィルム状接着剤が基板上の凹凸に追従して、基板と半導体素子とに生じる空間を、その半導体素子固定用フィルム状接着剤で埋め込みながら半導体素子を基板に効率よく且つ確実に固定することを可能とするものである。
【0020】
本発明にかかる材料は、上述の本発明における材料の溶融粘度の測定方法を採用して測定される140℃における溶融粘度が50Pa・s以下となる材料である。このような溶融粘度が50Pa・sを超えると、得られる半導体素子固定用フィルム状接着剤を用いて半導体素子と基板とを接着する際に、基板上に設置された電子部品の厚さによって生じる基板上の凹凸に前記半導体素子固定用フィルム状接着剤を追従させることができず、基板と半導体素子との間に空間が生じてしまう。
【0021】
このような材料の140℃における溶融粘度としては、1Pa・s〜50Pa・sであることがより好ましい。このような溶融粘度が前記下限未満では、得られる半導体素子固定用フィルム状接着剤が柔らかくなりすぎて、基板に半導体素子を接着する際の操作性が低下する傾向にある。
【0022】
また、このような材料としては140℃における溶融粘度が50Pa・s以下である材料であれば特に制限されず、公知の接着剤用の組成物等を適宜用いることができる。そして、このような材料の中でも、より十分にボイドの発生を防止することができ、しかも凹凸のある基板に半導体素子をより効率よく接着することが可能となるという観点から、(A)シリカと、(B)フェノキシ樹脂と、(C)グリシジルエーテル型エポキシ樹脂と、(D)エポキシ樹脂硬化剤とを含有し、(A)シリカの含有量が50〜80質量%であり、且つ、(B)フェノキシ樹脂と(C)グリシジルエーテル型エポキシ樹脂との重量比((B)フェノキシ樹脂/(C)グリシジルエーテル型エポキシ樹脂)が0.02〜1の範囲である接着剤用組成物を用いることが好ましい。
【0023】
本発明の材料として好適に用いることができる前記接着剤用組成物に用いられる(A)シリカとしては特に限定されず、破砕状や球状の溶融シリカ粉末が挙げられる。このような(A)シリカの中でも平均粒径が5〜40μmの球状シリカと平均粒径が0.1〜5μmの微粒子球状シリカの混合物を用いることがより好ましい。このような(A)シリカを用いる場合には、全球状シリカ中に占める微粒子球状シリカの割合が50質量%以下であることが好ましく、5〜50質量%の範囲であることがより好ましい。前記微粒子球状シリカの割合が50質量%を超えると、組成物の溶融粘度が増大して仮圧着特性を低下させる傾向があり、他方、微粒子球状シリカの割合が5質量%未満であると接着剤用フィルムとしたときのフィルムの表面状態の安定性が低下したり、フィルム自体が脆くなったりする傾向がある。このように、前記微粒子球状シリカ比率が5〜50質量%の範囲にある場合には、幅広い粒度分布となるため安定したフィルム表面性状及びフィルム流動性を示すことが可能となる。
【0024】
また、前記接着剤用組成物中の(A)シリカの含有量は、50〜80質量%の範囲であることが好ましい。本発明にかかる接着剤用フィルムの線膨張率低減の観点からは(A)シリカをより多く含有させることが好ましいが、このような接着剤用組成物中の(A)シリカの含有量が80質量%を超えると、バインダーとして働く樹脂成分が不足することによって前記接着剤用組成物の粘度が上昇し、接着剤用組成物からなる接着剤用フィルムが脆くなって仮圧着性能が著しく低下する傾向にある。また、前記接着剤用組成物中の(A)シリカの含有量が50質量%未満では、得られる半導体素子固定用フィルム状接着剤の線膨張率が十分に低減できないため、半導体素子と、電子部品及び基板との間の応力が大きくなる傾向にあり、例えば、半導体装置(パッケージ)を組み立てた後の温度サイクル試験(−65〜150℃)の際に半導体装置が発生する応力に耐えられないケースが生じる。
【0025】
さらに、前記接着剤用組成物中の(A)シリカの含有量としては、より確実に前記接着剤用組成物の140℃における溶融粘度を50Pa・s以下とするという観点からは、50〜70質量%であることがより好ましい。
【0026】
また、前記接着剤用組成物に用いられる(B)フェノキシ樹脂は特に制限されず、公知のフェノキシ樹脂を用いることができる。(B)フェノキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールAのようなビスフェノールとエピクロロヒドリンとから得られる分子量が10000以上となる熱可塑性樹脂を挙げることができる。このようなフェノキシ樹脂としては、より確実に前記接着剤用組成物の140℃における溶融粘度を50Pa・s以下とするという観点からは、分子量が10000〜35000のものであることが好ましい。また、このようなフェノキシ樹脂は、エポキシ樹脂と構造が類似していることから、(C)グリシジルエーテル型エポキシ樹脂との相溶性がよく、更に、接着性もよいという特徴を有する。(B)フェノキシ樹脂としては、主骨格がビスフェノールA型のものが好適に用いられるが、その他にもビスフェノールA/F混合型フェノキシ樹脂や臭素化フェノキシ樹脂等の市販のフェノキシ樹脂も好適に用いることができる。
【0027】
また、前記接着剤用組成物に用いられる(C)グリシジルエーテル型エポキシ樹脂としては、フェノールノボラックグリシジルエーテル型、オルソクレゾールノボラックグリシジルエーテル型、フルオレンビスフェノールグリシジルエーテル型、トリアジングリシジルエーテル型、ナフトールグリシジルエーテル型、ナフタレンジオールグリシジルエーテル型、トリフェニルグリシジルエーテル型、テトラフェニルグリシジルエーテル型、ビスフェノールAグリシジルエーテル型、ビスフェノールFグリシジルエーテル型、ビスフェノールADグリシジルエーテル型、ビスフェノールSグリシジルエーテル型、トリメチロールメタングリシジルエーテル型等が例として挙げられる。このような(C)グリシジルエーテル型エポキシ樹脂の中でも、分子内に2個以上のグルシジルエーテル基を持つものが好ましい。また、このような(C)グリシジルエーテル型エポキシ樹脂としては、1種を単独で、或いは2種以上のものを混合して使用することが可能である。
【0028】
(B)フェノキシ樹脂/(C)グリシジルエーテル型エポキシ樹脂で計算される重量比は0.02〜1の範囲であることが好ましく、0.1〜0.7の範囲であることがより好ましい。前記重量比が0.02未満では得られる前記接着剤用組成物をフィルム形状とすることができない傾向にあり、他方、前記重量比が1を越えると、得られるフィルムが脆くなる傾向にある。また、(B)フェノキシ樹脂/(C)グリシジルエーテル型エポキシ樹脂で計算される重量比は、より確実に前記接着剤用組成物の140℃における溶融粘度を50Pa・s以下とするという観点からは、0.3〜0.5の範囲であることが特に好ましい。
【0029】
さらに、前記接着剤用組成物に用いられる(D)エポキシ樹脂硬化剤には、アミン類、酸無水物類、多価フェノール類等の公知の硬化剤を使用することができるが、好ましくは常温以上の所定の温度、例えば(B)フェノキシ樹脂と(C)グリシジルエーテル型エポキシ樹脂とその他必要により加えられる樹脂(但し、(D)エポキシ樹脂硬化剤を除く)からなる樹脂成分が必要な粘着性を示す温度以上で硬化性を発揮し、しかも速硬化性を発揮する潜在性硬化剤である。このような潜在性硬化剤としては、ジシアンジアミド、イミダゾール類、ヒドラジド類、三弗化ホウ素−アミン錯体、アミンイミド、ポリアミン塩及びこれらの変性物、更にマイクロカプセル型のものも使用可能である。これらは、1種を単独で或いは2種以上混合して使用することができる。このような潜在性硬化剤を使用することで室温での長期保存も可能な保存安定性の高いフィルム接着剤用組成物を提供できる。このようなエポキシ樹脂硬化剤の含有量としては(C)グリシジルエーテル型エポキシ樹脂に対して、通常、0.5〜50質量%の範囲である。
【0030】
また、前記接着剤用組成物には、(A)〜(D)成分以外にも、本発明の効果を損なわない範囲において他の樹脂を少量含有させてもよい。このような他の樹脂としては特に制限されず、例えば、シランカップリング材、表面改質材を挙げることができる。
【0031】
以下において、前記接着剤用組成物中に含有される(B)フェノキシ樹脂と、(C)グリシジルエーテル型エポキシ樹脂と、必要により加えられる他の樹脂(但し、(D)エポキシ樹脂硬化剤を除く)とからなる成分を樹脂成分といい、このような樹脂成分を均一な組成物としたときの軟化点を樹脂成分の軟化点という。
【0032】
(B)フェノキシ樹脂と、(C)グリシジルエーテル型エポキシ樹脂との混合比率は、その成分の組み合わせによって変わるものではあるが、得られる半導体素子固定用フィルム状接着剤がより優れた仮圧着性を示すという観点から、前記樹脂成分の混合物の軟化点が、好ましくは100℃以下、更に好ましくは50〜100℃、最も好ましくは65〜90℃の範囲となるように(B)フェノキシ樹脂と、(C)グリシジルエーテル型エポキシ樹脂とを混合することが好ましい。前記樹脂成分の軟化点が100℃を超える場合は、得られる半導体素子固定用フィルム状接着剤のシートが硬く、脆くなるとともに仮圧着が困難となる傾向にあり、また、軟化点が50℃未満の場合、得られる半導体素子固定用フィルム状接着剤の表面にタック性が強く発現してハンドリング性が著しく低下するとともに、常温保存時に前記半導体素子固定用フィルム状接着剤が流動してしまう傾向にある。
【0033】
また、前記接着剤用組成物中の前記樹脂成分中に占める(B)フェノキシ樹脂の割合としては、50質量%以下であることが好ましい。(B)フェノキシ樹脂の割合を50質量%以下とすることで、前記半導体素子固定用フィルム状接着剤のシートに支持性を持たせることが容易となる傾向にある。また、前記樹脂成分中に占める(B)フェノキシ樹脂の割合としては、10〜50質量%であることがより好ましい。(B)フェノキシ樹脂の割合が10質量%未満の場合には、得られる前記半導体素子固定用フィルム状接着剤のシートが脆くなり、樹脂成分の軟化点も低くなるため前記シート単独での支持性が発現しにくくなる傾向にあり、他方、50質量%を超えると、前記シートが硬くなり、前記シート単独では割れやすくなる傾向にある。更に、前記接着剤用組成物中の前記樹脂成分中に占める(B)フェノキシ樹脂の割合としては、より確実に前記接着剤用組成物の140℃における溶融粘度を50Pa・s以下とするという観点からは、10〜30質量%であることが特に好ましい。
【0034】
また、前記接着剤組成物には、他の添加剤として、例えばカップリング剤、酸化防止剤、難燃剤、着色剤、応力緩和剤としてブタジエン系ゴムやシリコーンゴム等を含有することも可能である。このような添加剤の中でもシリカとの界面を補強し高い破壊強度を発現させるとともに接着力を向上するという観点から、前記カップリング剤が好ましい。また、このようなカップリング剤としては、アミノ基、エポキシ基を含有したものを用いることがより好ましい。
【0035】
本発明にかかる接着剤用フィルムは、前記材料をフィルム化して得られるものである。このようにして、前記材料をフィルム化して得られる本発明にかかる接着剤用フィルムは、常温においてタック性が小さく作業性に優れるものとなる傾向にある。
【0036】
また、このようなフィルム化の方法としては特に制限されず、適宜公知の方法を採用することが可能である。以下において、本発明の材料として好適な前記接着剤用組成物をフィルム化する好適な方法を説明する。
【0037】
前記接着剤用組成物をフィルム化する好適な方法としては、例えばトルエン、キシレン等の芳香族炭化水素、MIBKやMEK等のケトン系、モノグライム、ジグライム等のエーテル系の単独又は混合した有機溶媒に前記接着剤用組成物を溶解させ、得られたワニスを離型処理されたPP、PE、PET等の基材(保護フィルム)に塗工し、前記接着剤用組成物の硬化開始温度以下の熱処理を施し、乾燥する方法を挙げることができる。また、このような前記接着剤用組成物から形成される接着剤用フィルムの厚みは、ボイドの発生を防止するという観点から、10〜150μmの範囲であることが好ましい。
【0038】
以下、図面を参照しながら本発明の半導体素子固定用フィルム状接着剤の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、以下の説明及び図面中、同一又は相当する要素には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0039】
図1は、本発明の半導体素子固定用フィルム状接着剤10の構成の好適な一実施形態を示す概略縦断面図である。図1に示す本発明の半導体素子固定用フィルム状接着剤10は複数枚の接着剤用フィルム20を備える。このように、本発明の半導体素子固定用フィルム状接着剤10は接着剤用フィルム20を複数枚積層してなり、且つ、厚さLが200μm〜2000μmのものである。
【0040】
このような半導体素子固定用フィルム状接着剤の厚さLが200μm未満では、半導体素子を接着させる基板上に設置されている電子部品の厚さよりも半導体素子固定用フィルム状接着剤の厚さが薄くなるため、前記電子部品によって基板と半導体素子との間に生じてしまう空間を前記半導体素子固定用フィルム状接着剤によって埋め込むことができなくなる。他方、このような半導体素子固定用フィルム状接着剤の厚さLが2000μmを超えると使用時に厚さ方向で十分な熱が伝わらなくなる。
【0041】
また、このような半導体素子固定用フィルム状接着剤の厚さLとしては、250μm〜1800μmとすることが好ましく、300μm〜1500μmとすることがより好ましい。前記半導体素子固定用フィルム状接着剤の厚さLが前記下限未満では、基板と半導体素子との間に生じてしまう空間を前記半導体素子固定用フィルム状接着剤によってより十分に埋め込むことができなくなる傾向にあり、他方、前記上限を超えると使用時に厚さ方向で十分な熱を伝えることが困難となる傾向にある。
【0042】
また、本発明の半導体素子固定用フィルム状接着剤10としては、前記材料の溶融粘度が30000Pa・s以下となる温度以上であって且つ前記材料の熱硬化開始温度以下である温度範囲内の温度において、前記複数枚の接着剤用フィルム20を積層したものであることが好ましい。前記材料の溶融粘度が30000Pa・s以下となる温度以上であって且つ前記材料の熱硬化開始温度以下である温度範囲内の温度において、前記複数枚の接着剤用フィルム20を積層した場合には、得られる半導体素子固定用フィルム状接着剤中において前記接着剤用フィルム20の界面21がなくなる傾向にある。従って、このような条件を満たす本発明の半導体素子固定用フィルム状接着剤10は、あたかも1枚の接着剤用シートからなるもののように見える。
【0043】
本発明の半導体素子固定用フィルム状接着剤10の硬化物の線膨張率は、常温(23℃)において30ppm以下であることが好ましい。前記線膨張率の値が30ppmより高いと、電子部品や基板等との線膨張率の差が大きくなるため、半導体素子固定用フィルム状接着剤10による電子部品や基板に対する応力を十分に抑制できなくなり、得られる半導体装置の使用時に一部が破壊してしまう傾向にある。また、電子部品や基板の線膨張率に合わせるという観点からは、このような半導体素子固定用フィルム状接着剤10の硬化物の線膨張率としては10〜20ppmであることがより好ましい。
【0044】
接着剤用フィルム20を複数枚積層する方法としては特に制限されず、前述のようにして接着剤用フィルム20を予め複数枚調製した後、これらを順次積層させてもよく、前述のようにして本発明の材料を含有するワニスを保護フィルム上に塗工し、乾燥させて接着剤用フィルム20を調製した後、得られた接着剤用フィルム20の表面に再度前記ワニスを塗工し、乾燥させて接着剤用フィルム20を順次積層させてもよい。また、このような接着剤用フィルム20を複数枚積層する工程は、半導体素子に前記半導体素子固定用フィルム状接着剤10を供給する際に同時に行ってもよい。
【0045】
このような接着剤用フィルムを複数枚積層する方法としては、前記材料の溶融粘度が30000Pa・s以下となる温度以上であって且つ前記材料の熱硬化開始温度以下である温度範囲内の温度において、前記複数枚の接着剤用フィルム20を積層させる方法を採用することが好ましい。前記材料の溶融粘度が30000Pa・s以下となる温度未満において前記接着剤用フィルムを積層させた場合には、得られる半導体素子固定用フィルム状接着剤10中において接着剤用フィルム20の界面21が残ってしまう傾向にあり、他方、前記材料の熱硬化開始温度を超えた温度において前記接着剤用フィルムを積層させた場合には、接着剤用フィルム20中の材料が硬化してしまうことから、得られる半導体素子固定用フィルム状接着剤10が接着剤として機能しなくなる傾向にある。
【0046】
(半導体装置の製造方法)
次に、本発明の半導体装置の製造方法について説明する。すなわち、本発明の半導体装置の製造方法は、上記本発明の半導体素子固定用フィルム状接着剤を用いて、半導体素子を基板に接着することを特徴とする方法である。
【0047】
以下、図面を参照しながら本発明の半導体装置の製造方法の好適な一実施形態について詳細に説明する。なお、以下の説明及び図面中、同一又は相当する要素には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0048】
図2は、本発明に用いられる基板の好適な一実施形態を示す概略縦断面図である。図2に示す基板30においては、基板30上に電子部品40が搭載されている。
【0049】
基板30としては特に制限されないが、回路が形成された基板を適宜用いることができ、例えば、プリント回路基板(PCB)を用いることができる。また、基板30上に搭載される電子部品40としては特に制限されないが、例えば抵抗素子、コンデンサー等の受動部品を挙げることができる。
【0050】
また、回路形成された基板30の上に電子部品40を搭載する方法も特に制限されず、半田を用いた従来の表面搭載技術や、導電ペーストを用いる方法、スタッドバンプを用いる方法等といった従来公知の方法を適宜採用することができる。
【0051】
次に、このような基板30を用いた本発明の半導体装置の製造方法の好適な方法を説明する。このような本発明の半導体装置の製造方法の好適な方法は、基本的には、半導体素子に上記本発明の半導体素子固定用フィルム状接着剤を供給する工程(i)と、電子部品が搭載された基板の表面に前記半導体素子固定用フィルム状接着剤の表面が積層されるようにして前記半導体素子を基板に接着する工程(ii)と、前記半導体素子と基板とをボンディングワイヤーを介して接続する工程(iii)と、封止樹脂により基板と半導体素子とを封止して半導体装置を得る工程(iv)とを含む方法である。
【0052】
先ず、工程(i)について説明する。すなわち、工程(i)は、半導体素子に上記本発明の半導体素子固定用フィルム状接着剤を供給する工程である。
【0053】
図3は、半導体素子固定用フィルム状接着剤積層半導体素子の好適な一実施形態を示す概略縦断面図である。すなわち、図3は、半導体素子50の裏面50aに半導体素子固定用フィルム状接着剤10が積層されている状態を示す。半導体素子固定用フィルム状接着剤10は接着剤用フィルム20が複数枚積層してなる前述の本発明の半導体素子固定用フィルム状接着剤である。更に、このような半導体素子50としては特に制限されず、公知の半導体素子を適宜用いることができる。
【0054】
このような前記本発明の半導体素子固定用フィルム状接着剤10を半導体素子50の裏面50aに供給する方法としては特に制限されず、半導体素子固定用フィルム状接着剤10を半導体素子50の裏面50aを積層させることが可能な方法を適宜採用することができる。半導体素子固定用フィルム状接着剤10を半導体素子50の裏面50aに供給する好適な方法としては、半導体素子50の裏面50aに接着剤用フィルム20を貼り合せた後、所望の厚さとなるまで順次接着剤用フィルム20を積層させて半導体素子固定用フィルム状接着剤10を半導体素子50の裏面50aに供給する方法や、接着剤用フィルム20を予め目的の厚さに積層して得られる半導体素子固定用フィルム状接着剤10を半導体素子50の裏面50aに貼り合せて半導体素子固定用フィルム状接着剤10を半導体素子50の裏面50aに供給する方法等を挙げることができる。
【0055】
また、このような前記本発明の半導体素子固定用フィルム状接着剤10を半導体素子50の裏面50aに供給する際に用いる装置としては特に制限されず、例えば、ロールラミネーター等のような公知の装置を適宜用いることができる。
【0056】
また、このような半導体素子固定用フィルム状接着剤10を半導体素子50の裏面50aに張り合わせる際には、接着剤用フィルム20を構成する材料の溶融粘度が30000Pa・s以下となる温度以上であって且つ前記材料の熱硬化開始温度以下である温度範囲内の温度において半導体素子固定用フィルム状接着剤10を張り合わせることが好ましい。このような温度条件下において半導体素子50に半導体素子固定用フィルム状接着剤10を張り合わせることで、半導体素子固定用フィルム状接着剤10中において、接着剤用フィルム20の界面がなくなる傾向にある。また、このような温度条件が前記材料の溶融粘度が30000Pa・s以下となる温度未満である場合には、半導体素子固定用フィルム状接着剤10中において接着剤用フィルム20の界面が残ってしまう傾向にあり、他方、熱硬化開始温度を超えると、半導体素子固定用フィルム状接着剤10を半導体素子50の裏面50aに張り合わせる段階において、半導体素子固定用フィルム状接着剤10が硬化してしまい、半導体素子を基板に接着する際に基板に対する接着性が低下する傾向にある。
【0057】
また、本発明の半導体素子固定用フィルム状接着剤10を半導体素子50の裏面50aに供給した後においては、半導体素子固定用フィルム状接着剤10面にダイシングフィルムを貼り合せ、ダイシングマシンにより半導体素子を個片化することにより、裏面に接着剤が供給された半導体素子固定用フィルム状接着剤積層半導体素子を得ることができる。
【0058】
このようなダイシングフィルムは特に制限されず、適宜公知のダイシングフィルムを用いることができる。更に、前記ダイシングマシンも特に制限されず、適宜公知のダイシングマシンを用いることができる。
【0059】
次に、工程(ii)〜(iv)について説明する。すなわち、工程(ii)は電子部品が搭載された基板の表面に前記半導体素子固定用フィルム状接着剤の表面が積層されるようにして前記半導体素子を基板に実装する工程であり、工程(iii)は前記半導体素子と基板とをボンディングワイヤーを介して接続する工程であり、工程(iv)は、封止樹脂により基板と半導体素子とを封止して半導体装置を得る工程である。
【0060】
図4(a)〜(d)は、このような工程(ii)〜(iv)の好適な一実施形態を示す概略図である。図4(a)は電子部品40が搭載されている基板30を示し、図4(b)は電子部品40が搭載された基板30の表面に半導体素子50が実装された状態を示し、図4(c)は半導体素子50がボンディングワイヤー60を介して基板30と接続された状態を示し、図4(d)は基板30と半導体素子50とが封止樹脂70で封止された半導体装置80を示す。なお、図4(a)及び(b)が工程(ii)に対応し、図4(c)が工程(iii)に対応し、図4(d)が工程(iv)に対応する。
【0061】
工程(ii)においては、先ず、図4(a)に示すような基板30を準備する。このような基板30は、前述の図2に示す基板30と同様のものであり、前述のようにして電子部品40を基板30に搭載させて得られるものである。そして、前述の図3に示すような半導体素子固定用フィルム状接着剤10積層半導体素子50を準備する。
【0062】
次に、図4(b)に示すように、電子部品40が搭載された基板30の表面に半導体素子固定用フィルム状接着剤10の表面が積層されるようにして半導体素子50を基板30上に実装する(工程(ii))。
【0063】
このような半導体素子50を基板30上に実装する方法としては特に制限されず、フィルム状の半導体素子固定用接着剤を利用して半導体素子を基板又は電子部品に接着させることが可能な従来の方法を適宜採用することができる。このような実装方法としては、上部からの加熱機能を有するフリップチップボンダーを用いた実装技術を用いる方法、下部からのみの加熱機能を有するダイボンダーを用いる方法、ラミネーターを用いる方法等の従来公知の加熱、加圧方法を挙げることができる。このように、半導体素子固定用フィルム状接着剤10を用いて半導体素子50を基板30上に実装することで、電子部品40により生じる基板上の凹凸に、半導体素子固定用フィルム状接着剤10を追従させながら基板と半導体素子とを接着することが可能となり、図4(b)に示すように、半導体素子と基板との間を全て半導体素子固定用フィルム状接着剤で覆うことができる。すなわち、半導体素子固定用フィルム状接着剤10を用いることで、半導体素子固定用フィルム状接着剤10で基板の凹凸を埋め込むことができるため、基板と半導体素子との間に空間が生じることがなく半導体素子を基板に固定することが可能となる。
【0064】
本発明の半導体装置の製造方法においては、半導体素子50を基板30上に実装する際の温度条件を半導体素子固定用フィルム状接着剤10の溶融粘度が50Pa・s以下(より好ましくは1〜50Pa・sの範囲)となる温度で実装することが好ましい。このような温度条件において、半導体素子を基板上に実装することで、基板上の凹凸を半導体素子固定用フィルム状接着剤でより効率よく埋め込みながら半導体素子を基板に固定することが可能となる。なお、このような条件を満たす具体的な温度範囲は半導体素子固定用フィルム状接着剤10を製造する際に選択する材料の種類によって異なるものではあるが、例えば、前述の本発明の半導体素子固定用フィルム状接着剤に用いられた材料が前記接着剤用組成物である場合には140〜180℃程度であることが好ましい。
【0065】
また、半導体素子50を基板30上に実装する際の圧力条件は用いる半導体素子固定用フィルム状接着剤10を製造する際に選択する材料によっても異なるものではあるが、一般に0.1〜1kgf/cm程度であることが好ましい。前記圧力が前記下限未満では、電子部品により生じる基板上の凹凸を半導体素子固定用フィルム状接着剤で埋め込むために時間がかかり、更にはボイドの発生を十分に防止できなくなる傾向にあり、他方前記上限を超えると、接着剤のはみ出しを制御できなくなる傾向にある。
【0066】
次に、工程(iii)においては、図4(c)に示すように、半導体素子50と基板30とをボンディングワイヤー60を介して接続する。このような半導体素子50と基板30とをボンディングワイヤー60を介して接続する方法としては特に制限されず、従来公知の方法、例えば、ワイヤーボンディング方式の方法、TAB(Tape Automated Bonding)方式の方法等を適宜採用することができる。
【0067】
次に、工程(iv)においては、図4(d)に示すように、封止樹脂70により基板30と半導体素子50とを封止して半導体装置80を得る。封止樹脂70としては特に制限されず、半導体装置の製造に用いることができる適宜公知の樹脂を用いることができる。また、封止樹脂70を用いる方法としても特に制限されず、適宜公知の方法を採用することが可能である。
【0068】
このような本発明の半導体装置の製造方法によれば、電子部品40によって生じる基板30上の凹凸が半導体素子固定用フィルム状接着剤10によって埋め込むことができるため、基板30と半導体素子50との間に空間を生じることなく半導体素子50を基板30に固定することができ、これによって、容積を抑制したまま電子部品40を効率よく内蔵させた半導体装置80を製造することが可能となる。
【0069】
(半導体装置)
次に、本発明の半導体装置について説明する。すなわち、本発明の半導体装置は、半導体素子と、基板と、前記半導体素子と基板とを接着している上記本発明の半導体素子固定用フィルム状接着剤とを備えることを特徴とするものである。
【0070】
以下、図面を参照しながら本発明の半導体装置の好適な一実施形態について詳細に説明する。なお、以下の説明及び図面中、同一又は相当する要素には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0071】
図5は、本発明の半導体装置の好適な一実施形態を示す概略縦断面図である。図5に示す本発明の半導体装置80は、基本的には、半導体素子50と、基板30と、前記半導体素子と基板とを接着している上記本発明の半導体素子固定用フィルム状接着剤10とを備える。また、図5に示す半導体装置においては、基板30上に電子部品40が搭載されている。更に、基板30と半導体素子50とがボンディングワイヤー60を介して接続されている。また、図5に示す半導体装置においては、半導体素子50と、基板30と、前記半導体素子と基板とを接着している半導体素子固定用フィルム状接着剤10とが封止樹脂70に覆われている。
【0072】
このような半導体装置に用いられる半導体素子固定用フィルム状接着剤10、基板30、電子部品40、半導体素子50等については前述の通りであり、用途に応じて適宜基板や電子部品等を選択して配置することができる。また、このような半導体装置の製造方法も前述の通りである。
【0073】
このような半導体装置は、上記本発明の半導体素子固定用フィルム状接着剤を用いているため、容積を抑制したまま電子部品40を効率よく内蔵させることができることから、特に、携帯電話等の小型化が求められる用途の電子機器等に好適に用いることができる。
【実施例】
【0074】
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0075】
(実施例1)
先ず、ロールラミネーターを用いて、厚さ150μmの半導体機能面の裏面に、温度50℃、荷重0.3MPaの条件で、厚さ130μmの接着剤用フィルム(新日鐵化学製、商品名「NEX−130C」)を配置した。
【0076】
次に、ロールラミネーターを用いて、厚さ150μmの半導体機能面の裏面に配置された前記接着剤用フィルムの表面に、温度50℃、荷重0.3MPaの条件で、厚さ130μmの接着剤用フィルム(新日鐵化学製、商品名「NEX−130C」)を更に3枚貼り合わせた。このようにして得られた半導体素子固定用フィルム状接着剤の厚さは520μmであった。なお、温度50℃における前記接着剤用フィルムに用いた材料の溶融粘度は17000Pa・sであり、得られた半導体素子固定用フィルム状接着剤中において、接着剤用フィルムの界面が見えなくなっていた。
【0077】
その後、ロールラミネーターを用いて、半導体素子固定用フィルム状接着剤面にダイシングフィルム(リンテック製、商品名「D−11」)を貼り合せた後、ダイシングマシンにより半導体素子を個片化することにより、裏面に接着剤が供給された半導体素子固定用フィルム状接着剤積層半導体素子を得た。
【0078】
次に、FR−5基板(日立化成社製の商品名「MCL−E−679F」)を用いて作成されたプリント配線板上の所定の端子に半田ペーストを印刷し、半田ペースト印刷済み端子に対応する部位に長辺600μm、短辺300μmの抵抗素子(以下において、「電子部品」という。)30個をSMTペーストにより仮固定した後、リフロー炉に投入し、電子部品とプリント配線板を電気的に接続させて、基板上に電子部品を搭載させた。この際の電子部品の高さは、平均で230μmであった。
【0079】
そして、半導体素子固定用フィルム状接着剤積層半導体素子を160℃に加熱しながら荷重0.06MPaの条件で、電子部品が搭載された基板上に実装した。この際、前述の測定方法により測定した半導体素子固定用フィルム状接着剤の溶融粘度は30Pa・sであった。このようにして前記半導体素子固定用フィルム状接着剤により、電子部品が搭載された基板上に半導体素子が固定され、電子部品が搭載された基板上に半導体素子が実装された構造物を得た。このようにして得られた構造物に対して、IR観察と断面観察とを行ったところ、得られた構造物中にはボイドがないことが確認された。また、このような構造物においては、前記電子部品により生じる基板上の凹凸が前記半導体素子固定用フィルム状接着剤により埋め込まれていることが確認された。
【0080】
次に、このようにして得られた構造物を用いて、半導体素子と前記プリント回路基板とをボンディングワイヤーを介して電気的に接続し、封止樹脂によって封止した。このようにして得られた半導体装置に対して動作確認を行ったが問題がないものであることが確認された。
【0081】
このような結果からも明らかなように、本発明の半導体素子固定用フィルム状接着剤においては、従来の半導体素子固定用接着剤にない厚さのフィルム状の接着剤とすることができ、ボイドなく、しかも前記電子部品により生じる基板上の凹凸を、前記半導体素子固定用フィルム状接着剤により埋め込みながら基板と半導体素子とを接着することが可能となることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0082】
以上説明したように、本発明によれば、半導体素子固定用フィルム状接着剤であるにも拘らず、その厚さを基板上に設置される電子部品の厚さよりも厚くしながらボイドの発生を十分に防止することができ、しかも基板上に設置された電子部品の厚さによって基板と半導体素子との間に生じてしまう空間をその半導体素子固定用フィルム状接着剤によって十分に埋め込むことができ、凹凸のある基板に半導体素子を効率よく且つ確実に接着することが可能な半導体素子固定用フィルム状接着剤、それを用いた半導体装置、及び、その半導体装置の製造方法を提供することが可能となる。
【0083】
したがって、本発明の半導体素子固定用フィルム状接着剤は、半導体素子を凹凸のある基板上にボイドの発生を防止しながら効率よく接着することができるため、半導体装置の小型化を図れる半導体素子固定用フィルム状接着剤として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】半導体素子固定用フィルム状接着剤の構成の好適な一実施形態を示す概略縦断面図である。
【図2】本発明に用いられる基板の好適な一実施形態を示す概略縦断面図である。
【図3】半導体素子固定用フィルム状接着剤積層半導体素子の好適な一実施形態を示す概略縦断面図である。
【図4】本発明の半導体装置の製造方法の好適な一実施形態を示す工程概略図である。
【図5】本発明の半導体装置の好適な一実施形態を示す概略縦断面図である。
【符号の説明】
【0085】
10…半導体素子固定用フィルム状接着剤、20…接着剤用フィルム、21…接着剤用フィルムの界面、30…基板、40…電子部品、50…半導体素子、50a…半導体素子の裏面、60…ボンディングワイヤー、70…封止樹脂、80…半導体装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
140℃における溶融粘度が50Pa・s以下である材料からなる接着剤用フィルムを複数枚積層してなるものであり、且つ、厚さが200μm〜2000μmであることを特徴とする半導体素子固定用フィルム状接着剤。
【請求項2】
前記材料が、(A)シリカと、(B)フェノキシ樹脂と、(C)グリシジルエーテル型エポキシ樹脂と、(D)エポキシ樹脂硬化剤とを含有し、(A)シリカの含有量が50〜80質量%であり、且つ、(B)フェノキシ樹脂と(C)グリシジルエーテル型エポキシ樹脂との重量比((B)フェノキシ樹脂/(C)グリシジルエーテル型エポキシ樹脂)が0.02〜1の範囲である接着剤用組成物であることを特徴とする請求項1に記載の半導体素子固定用フィルム状接着剤。
【請求項3】
前記材料の溶融粘度が30000Pa・s以下となる温度以上であって且つ前記材料の熱硬化開始温度以下である温度範囲内の温度において、前記複数枚の接着剤用フィルムを積層したものであることを特徴とする請求項1又は2に記載の半導体素子固定用フィルム状接着剤。
【請求項4】
請求項1〜3のうちのいずれか一項に記載の半導体素子固定用フィルム状接着剤を用いて、半導体素子を基板に接着することを特徴とする半導体装置の製造方法。
【請求項5】
半導体素子と、基板と、前記半導体素子と基板とを接着している請求項1〜3のうちのいずれか一項に記載の半導体素子固定用フィルム状接着剤とを備えることを特徴とする半導体装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−63333(P2007−63333A)
【公開日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−248154(P2005−248154)
【出願日】平成17年8月29日(2005.8.29)
【出願人】(000006644)新日鐵化学株式会社 (747)
【Fターム(参考)】