説明

半導体装置の製造方法および洗浄装置

【課題】 基板に付着したパーティクルなどの異物汚染を効率的に除去することができ、半導体装置などの製品歩留りを向上させることができる基板のウェット洗浄方法を提供する。
【解決手段】 例えば洗浄薬液に超音波を与えてウエハを洗浄する場合、洗浄前のウエハ上に付着したパーティクル数の基板内分布と超音波洗浄槽内の音圧分布に基づいて、洗浄効率が最大となるような洗浄液中のウエハ配置方向を求め、求めたウエハ配置方向を洗浄すべきウエハに設定し、その配置方向を洗浄液中で維持しながら洗浄処理を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体装置の製造工程のうち特に基板の表面に付着したパーティクルなどを主とする汚染を除去するウェット洗浄工程に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年電子デバイス、特に半導体集積回路装置は急速にその高集積化、高速化および高機能化が進められている。また半導体集積回路装置を形成するための半導体基板も大口径化している。これに伴って集積回路を構成する半導体素子のパターン寸法が微細化され、これを通じて特性を向上させるために様々な新たな種類の金属材料が採用されるようになってきている。このような状況の下においては、製造工程中に基板表面を汚染する金属粒子等のパーティクルを、洗浄工程によって従来以上に効率よく除去し、製造歩留まりが低下しないようにすることが半導体製品完成後の不良発生を防ぐために極めて重要である。
【0003】
洗浄工程においてパーティクルに対する洗浄性能を向上させ、歩留まり向上を図る洗浄処理方法の例は例えば特許文献1に開示されている。図18は特許文献1に記載された洗浄処理装置の構成を示す図である。洗浄槽20内にはフッ化水素酸の希釈液やリンス液などの洗浄液Lが満たされ、その中にウエハWが浸漬されて洗浄が行われる。ウエハWの洗浄中には、定量圧送手段としての電動式ベローズポンプ30により吸入管路51を経由して内槽21から洗浄液Lの一部を吸引し、パーティクルカウンタ50で洗浄液Lに混入されるパーティクルの量を検出することが可能となっている。
【0004】
そしてパーティクルカウンタ50で所定量以上のパーティクル数が検出された場合には中央演算処理装置(CPU)60を通じてアラームが表示され、この結果に従って例えば洗浄槽20内の洗浄液Lを排出すると共に、新規な洗浄液Lを洗浄槽20内に供給して次の洗浄処理に備える、などといった対策がとられる。このようにして洗浄液を洗浄適正状態に管理して洗浄性能の向上および歩留まりの向上を図っているのである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−233478号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら特許文献1に開示される洗浄処理方法は次のような問題があった。すなわち、半導体集積回路などの製造歩留まりに直接影響を及ぼす洗浄工程での主要原因は、洗浄薬液中に浸漬された半導体基板の表面に付着しているパーティクルであるが、上に説明したように特許文献1の洗浄方法において、洗浄液の一部を吸入し洗浄液中のパーティクル数をパーティクルカウンタで測定する。このようにして求められるパーティクル数は洗浄液中のパーティクル数であって半導体基板上に付着したパーティクル数ではない。
【0007】
パーティクルには例えばシリコンや酸化シリコン、金属などの無機物質の微粒子の他有機物質の微粒子も含まれており、それらは様々な表面状態や形状を有している。パーティクルの表面状態が異なると半導体基板への吸着定数が異なり、半導体基板へ優先的に付着するものとそうでないものとがあるため、洗浄液中のパーティクル数は必ずしも洗浄槽中の半導体基板上のパーティクル数を反映しないと考えられる。
【0008】
また特許文献1のようにポンプなどで洗浄液を吸引する方式では、配管中へポンプの圧力により強制的に洗浄液を吸引するため洗浄液中に微細な気泡を発生しやすく、これがパーティクルカウンタではパーティクルとして誤検知される可能性が高く、パーティクル数のカウント自体も不正確となる恐れがある。
【0009】
以上のように洗浄液中のパーティクル数の管理手法によって行う洗浄処理方法では、半導体基板のパーティクル汚染状況を洗浄液中のパーティクル数から推定するものであり、また測定されるパーティクル数も精密なものであるとはいえないので、洗浄力の向上にも限界があった。特に例えば65nmノード以下のCMOSプロセス技術などを用いて製造される半導体集積回路装置のように微細寸法を有する半導体素子を搭載したデバイスの歩留まり向上に対してはより一層洗浄力の向上が要求される。
【0010】
また一般に従来からアンモニア+過酸化水素水混合液、硫酸+過酸化水素水混合液、塩酸+過酸化水素水混合液などを用いるRCA洗浄や、その他の酸、アルカリ、界面活性剤などの薬品を用いる洗浄方法が採用され、基板表面の清浄化が図られてきた。洗浄薬液の中には、半導体集積回路装置の微細化に伴いその材料として多種多様な金属材料が採用される状況において、それら金属材料の腐食を加速するものがあるため、洗浄薬液による腐食を避けるための薬液低濃度化や処理時間を短くしても高効率な洗浄方法が要求される。
【0011】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、洗浄液を用いるウェット洗浄工程において、より一層洗浄力を向上させることのできる洗浄方法を含む半導体装置の製造方法を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するための本発明に係る半導体装置の製造方法の第1は、半導体基板の表面上に付着したパーティクル数の前記半導体基板内分布を求める工程と、洗浄液中のパーティクル除去力を示す物理量の値の分布を測定する工程と、前記パーティクル数の前記半導体基板内分布から求められる、前記パーティクル数が周囲より大きい前記半導体基板上の領域の少なくとも一部と、前記洗浄液中の、前記パーティクル除去力を示す物理量の値が周囲より大きい領域の少なくとも一部とが重なるように、前記半導体基板を前記洗浄液中に配置する工程と、前記洗浄液中の前記半導体基板の配置を維持して、前記洗浄液中で前記半導体基板を洗浄する工程とを含むものである。
【0013】
上記半導体装置の製造方法の一形態では、前記半導体基板の洗浄を前記洗浄液に超音波を印加して行い、前記洗浄液中のパーティクル除去力を表示する物理量を前記超音波の音圧とする。
【0014】
また上記半導体装置の製造方法の別の形態では、前記洗浄液を前記半導体基板の表面に対してエッチング性を有する洗浄液とし、前記洗浄液中のパーティクル除去力を示す物理量を前記半導体基板の表面の前記洗浄液によるエッチング速度として洗浄を実施する。
【0015】
上記半導体装置の製造方法のさらに別の形態では、前記洗浄液中のパーティクル除去力を示す物理量を、前記洗浄液による前記半導体基板の洗浄におけるパーティクル除去率とする。
【0016】
本発明に係る半導体装置の製造方法の第2として次のようにすることもできる。すなわち半導体装置の製造方法の第1において、前記半導体基板の表面上に付着したパーティクル数の前記半導体基板内分布を、基準粒子径以上のパーティクルの数に関する半導体基板内分布、および前記基準粒子径より小さいパーティクルの数に関する半導体基板内分布から構成されるものとし、前記洗浄液中のパーティクル除去力を示す物理量を、洗浄液に超音波を印加した時の、前記洗浄液中における超音波の音圧、および前記洗浄液中における前記半導体基板の表面の前記洗浄液によるエッチング速度とする。
【0017】
そして前記基準粒子径以上のパーティクルの数に関する半導体基板内分布から求められる、前記パーティクル数が周囲より大きい前記半導体基板上の領域の少なくとも一部と、前記洗浄液中の、前記音圧が周囲より大きい領域の少なくとも一部とが重なるように、前記半導体基板を前記洗浄液中に配置し、前記配置を維持して前記洗浄液に超音波を印加しながら前記洗浄液中で前記半導体基板を洗浄する第1洗浄工程と、前記基準粒子径より小さいパーティクルの数に関する半導体基板内分布から求められる、前記パーティクル数が周囲より大きい前記半導体基板上の領域の少なくとも一部と、前記洗浄液中の、前記エッチング速度が周囲より大きい領域の少なくとも一部とが重なるように、前記半導体基板を前記洗浄液中に配置し、前記配置を維持して前記洗浄液中で前記半導体基板を洗浄する第2洗浄工程とを含むようにする。
【0018】
上記第2の半導体装置の製造方法においては、前記第1洗浄工程と前記第2洗浄工程とを同時に行うことができる。
【0019】
上記第1および第2の半導体装置の製造方法では、前記洗浄液を、アンモニアと過酸化水素の混合液とするときが効果的である。また前記洗浄液に超音波を印加する場合は、前記超音波の周波数を20kHz以上で10MHz以下とすることが望ましい。
【0020】
本発明に係る半導体装置の製造方法の第3は、半導体装置の製造方法の第1において、前記半導体基板の表面部にプラチナを含むニッケルのシリサイド層が形成され、前記半導体基板上に付着したプラチナ粒子が前記パーティクルとなる場合であり、この時前記洗浄液を硝酸と塩酸の混合液の希釈液とし、前記洗浄液中のパーティクル除去力を示す物理量を、前記洗浄液に超音波を印加した時の、前記洗浄液中における超音波の音圧とし、前記半導体基板の洗浄を前記洗浄液に超音波を印加して行うものである。
【0021】
この製造方法はさらに具体的に以下の構成を有する場合に適用されることがのぞましい。すなわち、前記半導体基板は、その上にゲート絶縁膜を介して形成されたシリコンからなるゲート電極と、前記ゲート電極の側壁に形成された絶縁膜からなるサイドウォールと、前記サイドウォールの下から、前記ゲート電極と前記サイドウォールとからなる構成体の両側の前記半導体基板にかけて形成されたソース/ドレインとを備え、前記プラチナを含むニッケルのシリサイド層は、前記ゲート電極および前記ソース/ドレイン上を含む領域に、プラチナを含むニッケル膜を形成する工程と、熱処理により前記プラチナを含むニッケル膜と前記ソース/ドレインの表面とを反応させ、前記プラチナを含むニッケル膜のシリサイド層を形成する工程と、前記熱処理後、未反応の前記プラチナを含むニッケル膜を選択的に除去する工程とによって形成され、前記プラチナ粒子は、前記プラチナを含むニッケル膜の選択的除去後の表面に残留したプラチナ粒子である。
【0022】
次に、上記課題を解決するための本発明に係る洗浄装置は、洗浄液を満たし、基板を前記洗浄液中に浸漬して洗浄するための洗浄槽と、前記基板の表面上に付着しているパーティクル数の前記基板内分布と、前記洗浄槽に満たされた前記洗浄液中のパーティクル除去力を示す物理量の値の分布とに基づいて、前記パーティクル数の前記基板内分布から求められる、前記パーティクル数が周囲より大きい前記基板上の領域の少なくとも一部と、前記洗浄液中の、前記パーティクル除去力を示す物理量の値が周囲より大きい領域の少なくとも一部とが重なるように、前記基板の配置方向を設定する機構と、前記設定された配置方向で前記基板を前記洗浄液中に搬送する搬送機構とを備える。
【0023】
上記洗浄装置の、洗浄液中における前記基板の配置方向を設定する機構の形態として、前記洗浄液中において前記基板を、前記基板の面内で、前記基板の基準配置方向から回転させて設置した時、各回転角に対する洗浄効率を、前記パーティクル数の前記基板内分布と前記洗浄液中のパーティクル除去力を示す物理量の値の分布とに基づいて算出し、前記算出された洗浄効率が所定値以上となるときの前記回転角の範囲を算出する演算部と、前記算出された回転角の範囲で前記基板を、前記基板の面内で、前記基板の基準配置方向から回転させる基板回転機構からなるものとすることができる。
【0024】
特に前記基板が半導体基板であるときは、前記洗浄液中における前記基板の基準配置方向を、前記基板の面が前記洗浄液中において垂直でかつ、前記基板に設けられたノッチまたはオリエンテーションフラットが前記基板の面内を通る鉛直線上に位置する方向とすることが望ましい。
【0025】
また本発明に係る洗浄装置において、前記洗浄槽を、洗浄液に超音波を与える超音波振動板を備えるものとし、前記洗浄液中のパーティクル除去力を示す物理量を、超音波の音圧とすることができる。さらに洗浄装置は、前記パーティクル数の前記基板内分布を測定する測定装置、および前記洗浄液中のパーティクル除去力を示す物理量の値の分布を測定する測定装置を備えていてもよい。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、基板の表面上に付着したパーティクル数の基板内分布から決定することができる、パーティクル数が周囲より大きい基板内の領域の少なくとも一部と、超音波の音圧、洗浄液によるエッチング速度など、洗浄液中のパーティクル除去力を示す物理量の値が周囲より大きい領域の少なくとも一部とが重なるように、基板を洗浄液中に配置して洗浄を行う。このように本発明によれば基板上のパーティクルの多い部分を洗浄液中の洗浄力の強い部分に曝すことになるので、洗浄力をより向上させることができ、洗浄時間を短縮できたり、半導体装置の製造歩留りの向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明に係る洗浄装置の要部構成を示す平面図。
【図2】図1の洗浄装置に備えられた異物検査装置の構成を示す概略図。
【図3】図1の洗浄装置に備えられたウエハ方向設定装置の構成を示す概略図。
【図4】図1の洗浄装置に備えられた薬液洗浄槽の構成を示す概略図。
【図5】本発明の第1の実施形態に係る洗浄方法を説明する洗浄処理フロー図。
【図6】薬液洗浄槽に固定された座標系と該薬液洗浄槽中に設置されたウエハに固定された座標系との関係を示す図。
【図7】ウエハ上に付着したSiN微粒子数分布の例を示す図。
【図8】薬液洗浄槽中の超音波の鉛直面における音圧分布の例を示す図。
【図9】薬液洗浄槽中の超音波の水平面における音圧分布の例を示す図。
【図10】SiN微粒子の除去率の超音波音圧依存性を示す図。
【図11】算出された洗浄効率Lとウエハの回転角ωとの関係を示す図。
【図12】本発明の第1の実施形態に係る洗浄方法と従来の洗浄方法に対するSiN微粒子除去率を示す図。
【図13】(a)SiN微粒子除去率の洗浄薬液による熱酸化膜エッチング量依存性、および(b)ウエハ上の高エッチング速度領域を示す図。
【図14】超音波洗浄によるSiN微粒子除去率のSiN微粒子径依存性を示す図。
【図15】MOS型半導体装置のサリサイド形成工程を示す工程断面図。
【図16】本発明の第4の実施形態に係る洗浄方法と従来の洗浄方法に対する残留Pt粒子除去率を示す図。
【図17】従来の洗浄方法の、NiPtSi層に対する問題点を示す図。
【図18】従来の洗浄処理装置の構成を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明に係る実施形態を図面を参照しながら詳細に説明する。
【0029】
(実施形態1)
〈洗浄装置の構成〉
図1は本発明の第1の実施形態に係る洗浄方法を行うための洗浄装置の要部構成を示す平面図である。この洗浄装置は所定のサイズを有する一般的な基板を洗浄可能なように設計されているが、ここでは特に半導体集積回路装置に用いられる半導体基板(シリコン単結晶ウエハ)の洗浄処理に最適に構成されているものとする。この洗浄装置は本実施形態のみならず、以下に説明するすべての実施形態に係る洗浄処理に用いられるものである。まずこの洗浄装置について説明する。
【0030】
図1において、キャリアローダー101は被洗浄処理体であるウエハ103を複数枚収納するキャリア102a、102bを設置できるポートを有している。キャリア102a、102bは例えばFOUPなどであり、その内部に設けられた溝状の各スロットにウエハ103を1枚づつ表面を水平方向に積層載置して収納することができ、密閉状態で各半導体製造装置間を外部汚染することなく運搬することができる。キャリア102aはこれから洗浄処理を実施しようとするウエハ103を収納しており、キャリア102bはキャリア102aの次の洗浄処理のためのウエハを収納して待機中の状態にあるものである。キャリアローダー101には赤外センサ(不図示)が備えられ、例えばキャリア102aを設置すると内部のウエハ枚数とウエハが収納されているスロット位置とを判別することができる。
【0031】
図1には本洗浄装置の側面図は示していないが、キャリアローダー101、キャリア102a、102bのみがクリーンルーム環境に露出しており、その他の部分はすべてほぼ外部からのパーティクルなどが侵入しない程度に筐体内部に格納されている。
【0032】
キャリアローダー101に隣接して洗浄処理の準備をする処理準備部104が設けられ、処理準備部104に隣接して異物検査部106が設けられている。キャリア102aは処理準備部104のロードロックドア105に密接し、ロードロックドア105が開くと同時にキャリア102aの蓋も開かれ、収納されたウエハが処理準備部104へ露出する。また異物検査部106にも開閉用ロードロックドア107が備え付けられている。
【0033】
異物検査部106は内部に異物検査装置108を有する。図2は異物検査装置108を側面から見た図である。回転自在に構成された回転支持軸131の先端に平板の真空チャック132が取り付けられ、これによりウエハ103がその回転対称中心と回転支持軸131の回転軸とがほぼ一致するように載置され、吸着固定できるようになっている。ウエハ103の上方にレーザー光源133が設置されており、レーザー光源133から射出されたレーザー光135はウエハ表面に入射し、ウエハ表面上のパーティクルなどで反射散乱した散乱光136が検知装置134で検知される。検知装置134は散乱光強度の検知信号を信号線137を通じて、後に説明する洗浄装置の洗浄制御部に伝送する。
【0034】
回転支持軸131および真空チャック132は大きく開口された異物検査部104の底板130から上方に突出しており、水平方向(x−y方向)に2次元的に移動することができる。これによってレーザー光135の所定の大きさのスポットがウエハ103の表面上を走査し、ウエハ103の全面に亘って異物(パーティクル)を検出できる。また異物検査装置108からの検出信号を用いて、前記洗浄制御部での演算処理により、ウエハ103上のパーティクル位置座標、パーティクルの粒径が数値として算出される。
【0035】
また、これと共にウエハ103毎に測定日時、測定条件、レーザー光135照射位置、検知装置134位置なども記録される。なお、異物検査装置108はパーティクルとウエハ103上の色むらとの区別、集積回路パターンが形成されたウエハ上のパーティクル検出も可能に構成されている。
【0036】
処理準備部104内にはまたウエハ方向設定装置109(図1)が設けられている。図3はウエハ方向設定装置108を側面から見た図である。処理準備部104の底板140に形成された穴から上方へ、モーターに連結された回転支持軸141が突出し、その先端にウエハ103を吸着固定する平板の真空チャック142が形成されている。ウエハ103はその回転対称中心と回転支持軸141の回転軸とがほぼ一致するように載置することができる。
【0037】
ウエハ103の端部を挟んでLEDやレーザー光源である発光部143および受光部144からなる、ウエハ103のノッチ(切欠き部)検出装置が設けられ、発光部143からの光が受光部144で受光されるか否かでノッチ位置を検出する。そして検出されたノッチ位置を基準位置として回転支持軸141を回転させ、予め定められた角度だけその表面と平行な面内でウエハ103を回転させウエハ103の方向を設定する。ウエハ103を上記角度だけ回転させる制御は、例えば信号線145を通じて前記制御部に伝送されたノッチ検出装置からのノッチ検出信号に基づいて前記制御部が回転支持軸141に回転駆動する指令を発して行う。
【0038】
図3においてはウエハ103のノッチを検出するノッチ検出装置について述べたが、ウエハがオリエンテーションフラットを有する場合は、そのフラット部分を検出できるように構成されたオリエンテーションフラット検出装置を用いても良い。
【0039】
処理準備部104内にはまたウエハカセット110が設置されている。ウエハカセット110は、ウエハ方向設定装置109で方向を設定されたウエハ103をその方向を維持したまま受け取り、複数のウエハ103の面を対向させて水平積層し一時的に収納する。処理準備部104はさらに第1のウエハ搬送機111を備えている。この第1のウエハ搬送機111はウエハ103を支持するボートを有し、複数のウエハ103を、それらの面が垂直になるようにボート上に支持して、処理準備部104から洗浄処理部113にかけて設置されたガイド112に沿って洗浄処理部113へ搬送することができる。
【0040】
以上の説明において、キャリア102aと異物検査装置108間、異物検査装置108とウエハ方向設定装置109間、ウエハ方向設定装置109とウエハカセット110間のウエハ103の搬送と設置は、図示はしていないが、図1の処理準備部104内の適切な位置に適切な数だけ設置され、先端にウエハ103の支持アームを有する多関節ロボットにより行われる。またウエハカセット110と第1のウエハ搬送機111間のウエハ103の移載は、処理準備部104に設置され、ウエハ103の姿勢の水平・垂直転換機能を有する搬送ロボットにより行われる。
【0041】
洗浄処理部113には薬液洗浄槽114、116、リンス槽115、117および乾燥槽118が設置されている。薬液洗浄槽114および116は各種の酸あるいはアルカリ系洗浄液などによるウエハの洗浄を行うための槽である。またリンス槽115およびリンス槽117はそれぞれ薬液洗浄槽114および116における洗浄処理後の純水などによるリンス処理を行うための槽である。また乾燥槽118はリンス処理によってウエハ表面に残留した純水を例えば、IPA(イソプロピルアルコール)ベーパー中でIPAと置換しウォーターマークのない清浄なウエハ乾燥(IPA乾燥)を行う槽である。
【0042】
なお、薬液洗浄槽114および116には洗浄の目的によって同一種の薬液が満たされていても、また異種の洗浄薬液が満たされていてもよい。薬液洗浄槽114、116、リンス槽115、117、および乾燥槽118は通常透明石英製あるいはテフロン(登録商標)製の容器からなる。
【0043】
洗浄処理部113内には、薬液洗浄槽114、116、乾燥槽118に対応する第2のウエハ搬送機119、121、123がガイド125に取り付けられ、ガイド125に沿って移動可能とされている。これら第2のウエハ搬送機119、121、123にはそれぞれ複数のウエハの表面をほぼ垂直にして支持する石英製のウエハボート120、122、124が接続されており、処理準備部104から第1のウエハ搬送機111で洗浄処理部113に搬送されてきたウエハ103を、第1のウエハ搬送機111とこれら3つのウエハボート120、122、124との間で授受が可能なように構成されている。薬液洗浄、リンスおよび乾燥の各処理はウエハを搭載したウエハボート120、122、124を各処理槽に浸漬して行う。
【0044】
次に上記薬液洗浄層114あるいは116についてさらに詳細に説明する。図4は図1の洗浄装置の洗浄処理部113に設置されている薬液洗浄層114または116の構成を示す図である。石英からなる上部が開放された洗浄内槽150内には洗浄薬液165が満たされており、洗浄内槽150の上部周辺を一周に亘って取り囲むように浅底の石英からなる周辺槽151が洗浄内槽150と溶接して取り付けられている。周辺槽151の底面に接続する配管はバルブ155、循環ポンプ156、フィルタ157、インライン温度調節機158を経由して循環ライン159を構成する配管につながり、循環ライン159は洗浄内槽150の内部に固定された石英製の薬液吐出管152に繋がっている。
【0045】
薬液洗浄処理中、ウエハ103は第2のウエハ搬送機119または121に付随するウエハボート167(図2:図1の120または122に対応)に支持され洗浄薬液165中に浸漬される。そして循環ポンプ156が洗浄薬液165を単位時間当たり一定量圧送することによって、洗浄内槽150から洗浄薬液165が周辺槽151へオーバーフローし、バルブ155、循環ポンプ156を通り、ウエハ103の表面から脱離して洗浄薬液165中に浮遊したパーティクルやその他の異物などがフィルタ157で除去され、さらにインライン温度調節機158で一定の温度に調節される。この後、薬液吐出管152から再び洗浄薬液165が洗浄内槽150に戻され供給される。このようにして洗浄薬液165が循環する。
【0046】
また、ある場合には洗浄内槽150内の洗浄薬液165の一部を、図示していないが廃液ラインから廃棄し、その後例えばバルブ155を閉じると共にバルブ162を開き、薬液供給槽160で調合された新たな清浄な洗浄薬液165を、薬液供給管161、バルブ162、フィルタ157、インライン温度調節機158、循環ライン159を経由して薬液吐出管152から洗浄内槽150に供給する。
【0047】
一方、洗浄内槽150の外部には石英などからなる洗浄外槽153が設けられている。洗浄外槽153の内部には超音波振動板164が、洗浄内槽150の底から数mm〜数cm下方に離間し、且つ洗浄内槽150の底面とほぼ並行になるように設置され、発振機163から超音波振動板164に超音波振動を与え、液体吐出管154から洗浄外槽153内に供給した超音波伝達媒体となる液体166を介して洗浄内槽150に満たされた洗浄薬液165に超音波エネルギーが印加されるようになっている。
【0048】
上記液体166としては、例えば超音波の伝播効率をよくし、洗浄薬液165内における音圧を高めるために溶存酸素濃度1ppm以下の脱気水が適している。また、超音波振動板164に与える超音波の周波数は20kHz〜10MHz、好ましくは200kHz〜5MHz、より好ましくは750kHz〜3MHzである。
【0049】
最後に、図1において、洗浄装置のキャリアローダー101とは反対側の右端には制御部126が設けられている。制御部は主として中央演算装置(CPU)(あるいは演算部)と記憶装置とから構成され、CPUは洗浄処理工程の一切、すなわち、ウエハ103の搬送・設置、薬液洗浄処理、リンス処理、乾燥処理のフローや洗浄条件などを制御する。また記憶装置は、上に述べたウエハ上のパーティクル数、パーティクル分布やそのサイズなど、異物検査装置108で取得された測定データ、薬液洗浄層114、116内における洗浄力分布などに関する基礎データ、一連の洗浄処理の処理実行プログラム、洗浄に関する演算プログラムなどを記憶している。
【0050】
〈洗浄方法〉
本発明による洗浄処理は以上に説明した図1の洗浄装置を用いて行うことができる。図5は本発明の第1の実施形態に係る洗浄方法を説明するための洗浄処理工程フロー図であり、以下に当該洗浄装置を用いた洗浄処理方法を主として図5および図1を中心に参照して説明する。まず洗浄処理を施すべきウエハ103が収納されたキャリア102a(図1)をキャリアローダー101上にセットすると、処理準備部104のロードロックドア105が開くと同時にキャリア102aも開扉される。
【0051】
次に異物検査部106のロードロックドア107が開いた後、処理準備部104に設置されており、上に説明した図示しない多関節ロボットがキャリア102aからウエハ103を1枚取り出し、搬送経路aを経て異物検査部106内の異物検査装置108の真空チャック132(図2参照)上へ載置する。このとき多関節ロボットは円形ウエハ103の回転対称中心と異物検査装置108の回転支持軸131の回転軸とがほぼ一致するように正確にウエハ103を載置することができる(ステップS1)。
【0052】
異物検査装置108は、回転支持軸131を水平方向(x−y方向)に、必要に応じて回転駆動して、真空チャック132に固定されたウエハ103の全表面に亘ってレーザー光135でスキャンし、付着しているパーティクルを判別して検知する。この異物検査装置108はウエハ103の表面上に固定されたX−Y直交座標系を用いて検出したパーティクルに対する少なくとも位置座標(x,y)および粒径(単位:nm、もしくはμm)を算出し、これらの測定データを制御部126に送信する。送信された測定データは制御部126の記憶装置に保存される(ステップS2)。
【0053】
制御部126の記憶装置には、ウエハ103の表面全面を例えば多数の小さい矩形状単位区画に仮想的に分割し、マトリックス状に配列した区画配列データと単位区画の代表位置座標データが記憶されている。そこで制御部126は、ステップS2にて取得された各パーティクルの位置座標に基づいてパーティクルをそれが存在する単位区画に割り当て、単位区画ごとのパーティクル数(あるいはパーティクル数密度であってもよい)をカウントしてウエハ内パーティクル数分布データを作成する(ステップS3)。単位区画の大きさは200mm径のウエハを用いる場合、5mm〜10mm角の区画が望ましく、300mm径のウエハを用いる場合、10mm〜15mm角が望ましい。
【0054】
次に制御部126はウエハ103を薬液などで洗浄する時、洗浄効率を高くするような、すなわち洗浄効率を最大とできて効率的にウエハ103の表面からパーティクル除去できるような、薬液洗浄槽114あるいは116中でのウエハ配置方向(配置姿勢)を求めるための演算を行う(ステップS4)。この演算について以下に説明する。
【0055】
図6は、図4に示した薬液洗浄槽内に満たされた洗浄薬液165中に、ウエハボート167(図4参照)上にその表面を垂直にして支持されて設置されたウエハ103の配置方向を説明するための図である。X−Y座標系は円形状のウエハ103の回転対称中心を原点Oとし、ウエハ103の表面内に固定された座標系である。またX’−Y’座標系は薬液洗浄槽に固定された座標系であり、原点はX−Y座標系の原点Oと一致し、Y’軸の負方向が下方向である。
【0056】
ステップS4における演算を実行するため、最初にウエハ103の基準配置方向を定める。この基準配置方向は図6の場合、例えばノッチPとウエハ103の回転対称中心(原点O)とを結び、ウエハ103の面内にある線が垂直となり(鉛直線)、しかも回転対称中心から見てノッチPが下方となる配置方向である。一般にはノッチPに代えてウエハ103上に想定した点や直線がある定められた位置に来る状態をウエハ103の基準配置方向とすることができる。図6に示されたウエハ103の配置方向は、基準配置方向からウエハ103の面内で原点Oに対して反時計回りに角度ωだけ回転した方向となっている。
【0057】
はウエハ103上に設定されたk番目の単位区画で、単位区画Rの代表位置を例えばRの2つの対角線の交点(Rの中心)と定義すればその位置座標はX−Y座標系では極座標に直して(r,θ)、薬液洗浄槽に固定したX’−Y’座標系では極座標で(r’,θ’)であり、図6から明らかなように(r,θ+ω)と等価である。Rの位置を代表する点はR内の任意の点としてもよい。また、ステップS3で制御部126によって算出された単位区画におけるパーティクル数はRに対してNとすると、Nは上記両座標系において一定であり座標系に依存しない。
【0058】
さて、本実施の形態による洗浄方法ではパーティクルの除去能力を高めるために、薬液洗浄槽に付随する超音波振動版164(図4)から洗浄薬液165に超音波エネルギーを与え、超音波洗浄を行うのであるが、超音波エネルギー強度、または超音波の音圧は洗浄内槽150内部の位置によって大小の分布を有している。これは特に超音波振動板164から洗浄内槽150へ向かう進行波と洗浄内槽150の底面やその内部のウエハボート167などから下方への反射波とによって、洗浄薬液165中に定在波を形成する傾向があるためと考えられる。従って超音波の音圧は洗浄内槽150内の位置に依存し、区画Rにおける音圧AをA(r,θ+ω)と表す。音圧Aはその値が大きいほど超音波エネルギーが大きく、パーティクルの除去能力が大きい。
【0059】
そこで制御部126は、以下の式(1)で示す洗浄効率Lというパラメータを、ωを0°≦ω<360°の範囲内で例えば数度ステップずつ増加させながら計算する。式(1)のnはウエハ103上で分割された全区画数である。
【0060】
【数1】

【0061】
次に制御部126は、計算した洗浄効率Lが最大値を含めて所定値以上となるときのωの範囲を求める。式(1)は単位区画におけるパーティクル数と音圧との積の、各区画に対する和で構成され、パーティクルの多い単位区画(領域)位置が音圧の大きい領域位置に重なる場合にLの値が大きくなる。このことはウエハ上のパーティクルが多く付着する区画(領域)が大きい音圧に曝される場合を意味し、従ってLの値が大きいことは、多くのパーティクルを効率よく除去できることを意味する。このようにパラメータLは実質的に洗浄効率を表す。
【0062】
またωを変化させながらLを計算しLが所定値以上となるωの範囲を求めることは、ウエハ103を基準配置方向から、回転対称中心(原点O)を中心として反時計方向に回転させながらLを計算し、洗浄効率L(パーティクルの除去効率)が所定値以上となるようなウエハ配置方向を求めることに相当する。さらに言い換えて一般化すると、ウエハ上のパーティクル数が周囲より大きい領域の少なくとも一部と薬液洗浄槽内あるいは洗浄薬液中の音圧が周囲より大きい領域の少なくとも一部が重なるようにウエハを基準配置方向から回転させて、洗浄効率が大きくなる洗浄薬液中のウエハ配置方向を求めることに相当する。なお、算出された洗浄効率Lのωに対する依存性がほとんどなく、ある閾値以下である場合、制御部126はω=0とする。
【0063】
以上のようにしてステップS4が終了した後、ウエハ103は図示しない多関節ロボットによって搬送経路b(図1参照)を経てウエハ方向設定装置109の真空チャック142に載置される。この時、多関節ロボットは、ウエハ103の回転対称中心(図6の原点O)と回転支持軸141の回転軸とが一致するようにウエハ103を水平に載置することができる。この後ウエハ方向設定装置109は、回転支持軸141の回転軸を中心とし、ウエハ103を、ウエハ方向設定装置109において予め定められているウエハ103の基準配置方向から、ステップS4における演算で求められた角度ωの範囲のうちの適切な値を選択しそのωだけ回転させる(ステップS5)。
【0064】
次に図示しない多関節ロボットにより、搬送経路cを経てウエハ103はウエハカセット110(図1)に水平に収納される。ウエハカセット110に収納された時のウエハ103の基準配置方向は予め定められており、例えば図1に示すようにウエハカセット110のウエハ103挿入口側とは反対側のPにノッチがくる方向である。そして回転済みのウエハ103は上記基準配置方向から所定角度回転した状態でウエハカセット110に収納される。
【0065】
次に制御部126はキャリア102aに洗浄すべきウエハが残存するかどうかを判断し(ステップS6)、洗浄すべきウエハが存在する場合はそのウエハに対して再度ステップS1〜ステップS6までが繰り返し行なわれる。こうしてキャリア102a内にウエハ103がなくなった時、全ウエハ103が一時的にウエハカセット110に収納され、次に図示しない搬送ロボットにより、ウエハ103はステップ5における回転後の配置方向を維持したまま、搬送経路dを経て第1のウエハ搬送機111へ移載され、その表面を垂直にして保持される。第1のウエハ搬送機111にウエハ103が保持された後の基準配置方向は例えばノッチPがウエハ103の回転対称中心から垂直下方に位置する方向である。
【0066】
さらにウエハ103は、第1のウエハ搬送機111により搬送経路eを経て洗浄処理部113に搬送され、例えば第2のウエハ搬送機119のウエハボート120へ第1のウエハ搬送機111から移載される。次いでウエハ103はウエハボート120と共に、図4に示す構成を有し、洗浄薬液が満たされた薬液洗浄槽114中に浸漬され、超音波エネルギーが与えられた薬液による洗浄処理が実施される(ステップS7)。
【0067】
ウエハボート120は薬液洗浄槽114中にウエハ103に固定されたX−Y座標系の原点Oと薬液洗浄槽114に固定されたX’−Y’座標系の原点が一致するように、ウエハ103を浸漬することができる。また、薬液洗浄槽114中における各ウエハ103の配置方向は、ウエハ方向設定装置109にて基準配置方向から所定角だけ回転済みの配置方向を保っており、薬液洗浄槽114中での基準配置方向は図6に関して説明したとおりウエハ103の回転対称中心から見てノッチPが垂直下方にあるときの方向である。
【0068】
薬液洗浄終了後、ウエハ103はリンス槽115において室温の超純水でリンスされ、次に乾燥槽118中に移され乾燥処理がされる。なお薬液洗浄槽114自体は洗浄処理終了後所定の後処理が施される。またリンス液は室温の超純水の他、室温より高温の超純水あるいは超純水に水素ガス、ヘリウムガス、窒素ガス、酸素ガス、アルゴンガス、炭酸ガスなどの気体を溶解させた機能水、微量のアンモニアや塩酸を溶解させpH5〜9の範囲で調整したリンス水、超音波印加純水などが使用可能である。
【0069】
乾燥処理後、再びウエハ103は第1のウエハ搬送機111に移載され、搬送経路fを経て処理準備部104に搬入される。さらに図示しない多関節ロボットにより、搬送経路gを経てウエハ103はすべてキャリアローダー101上で待機するキャリア102aに収納され、洗浄工程が終了する(ステップS8)。
【0070】
〈洗浄効果の実例〉
上に述べた第1の実施形態に係る洗浄方法は様々な表面状態の基板の洗浄処理に適用することができるものであるが、以下本洗浄方法によるパーティクルの除去効果に関する実験例を示す。洗浄処理工程は基本的に図5に示したフローに従った。
【0071】
用いたウエハは200mm径のシリコン単結晶を全面に露出する半導体基板であり、ウエハ面上を粒径100nm以上の窒化シリコン(SiN)微粒子で故意に強制的に汚染させたものである。具体的には、塩酸でpH値を3に調整した液体を満たした浸漬槽にSiN微粒子を100ppmの濃度に分散させ、フッ酸で表面の自然酸化膜を除去した上記のウエハを30秒浸漬し、その後純水によるオーバーフローリンスを10分間実施した。このようにして表面にSiN微粒子が約2500個付着したウエハを得た。このSiN微粒子がパーティクルと見なされるものである。
【0072】
図7は、図2のようなレーザ式異物検査装置によって、洗浄処理前のウエハ上におけるSiN微粒子数分布を測定した結果を示す。異物検査装置のSiN微粒子の粒径検出感度は0.1μm以下である。図7において、格子で区切られマトリックス状に配列された矩形の領域は10mm×10mmのサイズを有する単位区画、単位区画内の数字は洗浄工程(図5)のステップS3による処理で得られた、単位区画内に存在する所定サイズ以上のSiN微粒子数である。
【0073】
図7に示すようにSiN微粒子数分布には不均一性があり、ノッチPを基準としてウエハの右上にSiN微粒子数(あるいは密度)の高い点線で囲まれる領域Aがある。領域Aは単位区画内のSiN微粒子数10を一応の閾値と定め、閾値以上の複数の区画が集中する領域を含む領域としたものである。
【0074】
一方図8は、図4に示したような薬液洗浄槽に洗浄薬液を満たし、それに超音波を印加した時の薬液洗浄槽内部の音圧分布測定結果を示す。音圧分布は薬液洗浄槽内の鉛直面方向の分布であり、音圧値はW/cmやV(ボルト)などの任意単位で示され、また点線の円形は洗浄処理中のウエハの位置を示す。音圧は、例えば図1の洗浄装置の洗浄処理部113内に、密閉された石英製のチューブ内の先端付近にPZTなどの圧電素子を取り付けた音圧プローブと、音圧プローブを洗浄薬液中に浸漬した上で薬液洗浄槽中を鉛直面内および水平面内で移動させることができるロボットを設置することによって可能であり、本図もこのような測定装置で測定した結果である。
【0075】
図8の例では洗浄薬液内に音圧分布が存在し、音圧が特に高い領域Bが3箇所存在する。これは既に述べたように超音波の定在波の効果と考えられる。図10は別途行った実験で予め得られているSiN微粒子除去率の音圧依存性を示す図であるが、音圧(図8と同一の任意単位)が0.5以上で急激に除去率が増加することから、洗浄力という観点から図8における高音圧領域Bを決定する音圧の閾値を0.5に定めることができる。これに基づき図8の領域Bを閾値0.5以上の高音圧が集中して現れる領域を含む領域としている。
【0076】
図8は鉛直面内での音圧分布であるが、図9は薬液洗浄槽(洗浄内槽150)内における水平方向の音圧分布、すなわち洗浄内槽150を上から平面視した時の音圧分布測定結果を示すものである。洗浄内槽150の下方に洗浄内槽150の底面積に近い大きさの超音波振動板164が設置され、ウエハ103は表面を垂直にして浸漬されている。この例では高音圧領域Bが平面視でも3箇所存在するがウエハ103の表面と垂直方向への分布はほぼ一様である。
【0077】
図11は、図7のSiN微粒子数分布測定結果、図8および図9に示した音圧分布に基づき、図5のステップS4の演算を行って求めた洗浄効率Lのウエハ回転角ωに対する依存性を示す図である。回転角ωの定義は図6と同一であり、演算に際してωは4.5°ステップで変化させている。洗浄効率Lの最大値はウエハの基準配置方向に対してω=90°回転させた時に得られるが、実際の洗浄工程における洗浄効率Lの許容範囲として最大値の例えば70%以上となるようなω(図11の点線ではさまれる範囲)のうちの1つを選択することができる。
【0078】
また図5のステップS7の薬液洗浄条件は以下の通りである。
(1) 薬液洗浄槽; 図4に示す構造の薬液洗浄槽
(2) ウエハ; 求められた回転角ω(90°)だけ基準配置方向から反時計方向に回転させ(ステップS5)この配置方向を維持して洗浄薬液中に浸漬
(3) 洗浄薬液; アンモニア+過酸化水素水混合液(APM)、すなわちNHOH(濃度29wt%)5リットル+H(濃度31wt%)5リットル+HO(超純水)、体積比が1:1:5、温度45℃
(4) 洗浄時間; 洗浄薬液温度が45℃となった後、5分間循環させてから超音波印加で10分間洗浄
【0079】
図12は本実験に係る洗浄方法と従来の洗浄方法で得られたSiN微粒子除去率を示す図である。ここでSiN微粒子除去率は洗浄処理前後のウエハ上のSiN微粒子数を異物検査装置で測定し、その差から求めた。また従来の洗浄方法は、ウエハ上のSiN微粒子分布および超音波音圧分布を考慮せず、ウエハを単純に基準配置方向(ノッチ位置がウエハの回転対称中心から鉛直下方)にして洗浄薬液中に浸漬し超音波印加洗浄するものである。図12に示すように、従来の洗浄方法ではSiN微粒子除去率が42%であるのに対して本発明による洗浄方法では除去率が64%であり、洗浄能力が向上していることが分かる。
【0080】
本発明の洗浄方法ではウエハの配置方向を最適にする以外の洗浄条件を同一にしても洗浄能力が向上する。そこで上の実例について洗浄薬液温度を45℃から40℃に低下させ、洗浄処理時間を10分から5分に短縮しても従来の洗浄能力は維持されるので、これにより生産性の向上が図れ、半導体集積回路などの電子デバイスの製造コストを低減させることができる。
【0081】
以上の説明を総合すると、本実施形態による洗浄方法では、ウエハ上のパーティクル数が予め定められた閾値以上となる領域を含む領域の少なくとも一部と、超音波の音圧が予め定められた閾値以上となる領域を含む領域の少なくとも一部とが重なるように、薬液洗浄槽内でのウエハの配置方向を設定した上で超音波洗浄を実施する。そしてそれを具体化した洗浄工程が図5に示したフローである。このようにして本発明によれば上記実験結果で説明されるようにパーティクルの除去効率を向上させることができる。
【0082】
通常パーティクルはウエハの表面に不均一に存在し、一方バッチ浸漬式洗浄装置では薬液洗浄槽内でウエハを保持するための治具や、薬液供給管などの部材によって薬液流れが不均一になることによっても洗浄能力ムラを生ているため、従来の洗浄方法のようにウエハを洗浄薬液に浸漬し、ウエハ上のパーティクル汚染の高い領域と薬液洗浄槽内の洗浄能力の弱い部分が重なった場合、パーティクル汚染の除去が非常に困難であった。さらにこれを避けようとすると洗浄に長時間を要した。しかし本発明によればこのような問題を十分に解消することができる。
【0083】
(実施の形態2)
第1の実施形態に係る洗浄方法は洗浄薬液中の超音波音圧分布を利用するものであったが、第2の実施形態にかかる洗浄方法はこれに代えて洗浄薬液によるウエハ表面のエッチング速度分布の、薬液洗浄槽内での位置による不均一性を利用するものである。図13(a)は熱酸化により成長したシリコン酸化膜のAPMによるエッチング量とシリコン酸化膜上に付着したSiN微粒子の除去率との関係を示す図である。APMは、NHOH(濃度29wt%):H(濃度31wt%):HO=1:1:5(体積比)、温度45℃の混合液である。図のエッチング量は熱酸化膜のAPM洗浄時間を変えて得たものであり、エッチング量が増加するに従ってSiN微粒子除去率が増加し、エッチング速度を洗浄能力を表す物理量として使用できることを示している。
【0084】
また図13(b)は、図4に示す薬液洗浄槽の洗浄内槽150に上記のAPMを満たし、超音波を印加しないでウエハボート167に支持されたウエハ103の洗浄処理を行った際の、熱酸化膜エッチング速度が予め定められた閾値以上となる領域Cを示す図である。ウエハ103上の熱酸化膜エッチング量分布は、ウエハ103中央部(ウエハ103の中心から65mm以内)25点とウエハ103の外周部(ウエハの中心から65mmを越え、ウエハ103のエッジから5mm以内)24点における膜厚変化量測定から求めた。
【0085】
ウエハ103中央部ではエッチング量が0.3nmであるのに対し、薬液供給管152に近い領域C内では0.33nmと高エッチング量であり、洗浄内槽150内部にエッチング速度の分布が存在して、図13(a)から高エッチング量の領域Cにおいて高い洗浄能力が得られることを示唆している。これを利用する第2の実施形態の洗浄方法が採用する洗浄工程ステップは第1の実施形態(図5に示すフロー)と基本的に同様であるが、ステップS4のみが変更されるので、このステップを以下に説明し残りのステップの説明は省略する。
【0086】
まず、図5のステップS1、S2を経た後、ウエハ表面上に分割設定された単位区画ごとのパーティクル数(パーティクル数密度)をカウントしてウエハ内パーティクル数分布データを作成するステップS3を実施する。その後ステップS4において、図1に示す洗浄装置の制御部126は、以下の式(2)で示す洗浄効率Lというパラメータを、ωを0°≦ω<360°の範囲内で例えば数度づつ増加させながら計算する。
【0087】
【数2】

【0088】
ここでNはウエハ上に設定されたk番目の単位区画におけるパーティクル数(あるいはパーティクル数密度)、ωはウエハ基準配置方向からの回転角、nは全区画数、B(r,θ+ω)はk番目の単位区画位置における洗浄薬液によるウエハ表面エッチング速度、r、θ+ωは薬液洗浄槽に固定された座標系で表した極座標表示でのk番目の単位区画の代表位置座標である。
【0089】
次に制御部126は、計算した洗浄効率Lが最大値を含めて所定値以上となるときのωの範囲を求める。このようにしてステップS4を終了した後、求めたωの範囲から適切な値を選択し、第1の実施形態と同様にステップS5〜S8を実行して洗浄工程が終了する。本実施形態による洗浄方法は、その洗浄工程フローから理解されるように第1の実施形態と同様にウエハ上の付着パーティクルに対する洗浄能力向上という効果を有する。
【0090】
なお、本実施形態では薬液洗浄槽内の洗浄力を表す物理量としてのエッチング速度分布を求めるために熱酸化膜を用いたが、この他の絶縁膜、例えばPSG、BSG、BPSG、FSG(フッ素ドープシリコン酸化膜)、TEOSシリコン酸化膜、SiOC、CVDSiO、SiC、SiCN、SiON、SiNを用いても良い。
【0091】
(実施形態3)
第3の実施形態に係る洗浄方法は、洗浄薬液に印加する超音波および洗浄薬液によるウエハ表面のエッチングによるパーティクル除去特性、および超音波の音圧とエッチング速度の薬液洗浄槽内分布を利用するものである。
【0092】
現実のウエハ上に付着するパーティクルの粒径は一様ではなく、分布を持っている。図14は、洗浄薬液にウエハを浸漬して周波数1MHzの超音波を印加し洗浄した場合の、SiN微粒子除去率のSiN微粒子径依存性を示す図である。超音波印加薬液洗浄の場合はSiN粒子径によって除去率が異なり、粒子径200nm以上の比較的大きい粒子に対して効率的に洗浄できることを示している。本実施形態にかかる洗浄方法はこの性質を利用するもので、パーティクルの基準粒子径(例えば200nm)を境界としてそれ以上大きいパーティクルに対しては超音波エネルギーによって除去効率を向上させ、基準粒子径より小さいパーティクルに対しては洗浄薬液によるウエハ表面エッチング効果により除去効率を向上させるものである。
【0093】
本実施形態による洗浄方法もまた図5に示す洗浄工程フローの要素ステップを採用し、その第1の洗浄方法は以下のようになる。まず、ステップS1、S2を実施した後、ステップ3を行う。このステップではウエハ表面上に分割設定された単位区画ごとに前記基準粒子径以上のパーティクル数(パーティクル数密度)をカウントして第1のウエハ内パーティクル数分布データを作成すると共に、同じ単位区画ごとに前記基準粒子径より小さいパーティクル数(パーティクル数密度)をカウントして第2のウエハ内パーティクル数分布データを作成する。
【0094】
次にステップS4では予め求められ記憶装置(例えば図1の制御部126内の記憶装置)に保存されている、薬液洗浄槽(例えば図4の洗浄内槽150)内超音波音圧分布データと薬液洗浄槽内の洗浄薬液によるウエハ表面エッチング速度分布データを用いて、以下の式(3)で示す洗浄効率Lというパラメータを、ωを0°≦ω<360°の範囲内で例えば数度づつ増加させて計算する。
【0095】
【数3】

【0096】
ここでN1はウエハ上のk番目の単位区画における基準粒子径以上のパーティクル数(あるいはパーティクル数密度)、N2はウエハ上のk番目の単位区画における基準粒子径より小さいパーティクル数(あるいはパーティクル数密度)、ωはウエハ基準配置方向からの回転角、nは全区画数、A(r,θ+ω)はk番目の単位区画位置における音圧、B(r,θ+ω)はk番目の単位区画位置における洗浄薬液のエッチング速度、r、θ+ωは薬液洗浄槽に固定された座標系で表した極座標表示でのk番目の単位区画の代表位置座標である。次に計算した洗浄効率Lが最大値を含めて所定値以上となるときのωの範囲を求める。
【0097】
このようにしてステップS4を終了した後、求めたωの範囲から適切な値を選択し、第1の実施形態と同様にステップS5〜S8を実行して洗浄工程を終了する。本実施形態の第1の洗浄方法は、式(3)から理解されるように、基準粒子径以上のパーティクル数が予め定められた閾値以上となる領域を含む領域の少なくとも一部が、超音波の音圧が予め定められた閾値以上となる領域を含む領域の少なくとも一部とが重なり、同時に基準粒子径より小さいパーティクル数が予め定められた閾値以上となる領域を含む領域の少なくとも一部が、洗浄薬液のエッチング速度がが予め定められた閾値以上となる領域を含む領域の少なくとも一部とが最大限重なるように、薬液洗浄槽内でのウエハの配置方向を設定して洗浄処理することを意味している。
【0098】
また、もし洗浄工程中のステップ数が増加することを許容するならば以下に説明する第2の洗浄方法も可能である。すなわち図5のステップS1、S2を実施後、本実施形態の第1の洗浄方法におけるステップS3を行う。次にステップS4においてまず第1実施形態の式(1)を用い洗浄効率L1を計算する。ただし式(1)においてはNに代えてN1を用いる。そして計算した洗浄効率L1が最大値を含めて所定値以上となるときの第1のωの範囲を求める。次に第2実施形態の式(2)を用い洗浄効率L2を計算する。ただし式(2)においてはNに代えてN2を用いる。そして計算した洗浄効率L2が最大値を含めて所定値以上となるときの第2のωの範囲を求める。
【0099】
その後求めた第1のωの範囲から適切な値を選択し、ステップS5においてウエハを基準配置方向から選択した回転角だけ回転させ、ステップS6を経てステップS7において洗浄薬液に超音波を印加して洗浄処理を実行する。ステップ7の終了後、洗浄処理済みのウエハを再びウエハ方向設定装置に戻す。次にステップS4で求めた第2のωの範囲から適切な値を選択し、ステップS5においてウエハを基準配置方向から選択した回転角だけ回転させ、ステップS6を経てステップS7の洗浄処理を実行する。この洗浄処理を行う場合は超音波印加洗浄であってもなくてもよい。そして洗浄処理後ステップS8を実行して洗浄工程を終了する。
【0100】
以上の第2の洗浄方法の場合はステップ数は増加するが、洗浄処理中、ウエハ上の粒径の大きいパーティクルが多く存在する領域と超音波音圧の大きい領域とを重ね合わたウエハ配置方向と、粒径の小さいパーティクルが多く存在する領域と洗浄薬液によるウエハ表面のエッチング速度が大きい領域とを重ね合わせたウエハ配置方向とを独立に実現できるので第1の洗浄方法より洗浄効率が向上するという利点がある。
【0101】
以上に説明した第1〜第3の実施形態では、パーティクル除去力を示す物理量として超音波の音圧、洗浄薬液によるウエハ表面のエッチング速度を用いたがこれら以外の物理量も利用することができる。例えば薬液洗浄槽中の位置による「パーティクル除去率」そのものである。パーティクル除去率は、例えば表面に均一密度に分布させたSiN微粒子を付着させたウエハを洗浄槽中、一定条件の下で洗浄処理し、洗浄前後のSiN微粒子数(または密度)変化を測定することによって、そのウエハ内分布と共に容易に得ることができる。
【0102】
また、図1の洗浄装置も種々の変形が可能である。例えば図1の異物検査部106は洗浄装置の一部としたものであるが、洗浄装置とは別置きの独立した異物検査装置とすることができる。この場合、パーティクルに関する測定データをネットワークを通じて洗浄装置本体に送信し、制御部126で各種の演算を行わせることができる。
【0103】
(実施形態4)
本発明の第4の実施形態は、本発明に係る洗浄方法を含む半導体装置の製造方法を提供するものである。図15は第4の実施形態に係る半導体装置の製造方法を説明するための工程断面図であり、特にMOS型半導体集積回路装置のサリサイド形成工程部分を示している。図15が対象とするMOS型半導体集積回路装置は特に60nmノード以下のプロセスを用いて製造されるデバイスである。
【0104】
まず、図15(a)の断面を得るまでの製造工程をまとめて説明する。半導体基板(シリコン基板)170の所定の箇所に、例えばSTI(Shallow Trench Isolation)法によりシリコン酸化膜などを埋め込んだ素子分離領域171を形成する。次いで素子分離領域171間の半導体基板170上に、例えば膜厚2nmの熱酸化シリコン酸化膜よりなるゲート絶縁膜172を形成する。
【0105】
次にゲート絶縁膜を含む全面に、例えばCVD(Chemical Vapor Deposition)法による膜厚100nmのシリコン膜を堆積し、例えばイオン注入法により不純物を導入する。このシリコン膜はMOS型トランジスタのゲート電極となる膜であって、NMOSトランジスタの場合はn型不純物として例えばリンを加速電圧15keV、ドーズ量1×1016cm−2で導入する。またPMOSトランジスタの場合は、p型不純物として例えばボロンを加速電圧5keV、ドーズ量5×1015cm−2で導入する。この後、フォトリソグラフィ及びドライエッチングによりシリコン膜をパターニングしてゲート電極173とする。
【0106】
次にゲート電極173をマスクとして、例えばイオン注入法によりゲート電極173の両側の半導体基板170に不純物を導入する。NMOSトランジスタの場合は、n型不純物として例えば砒素を加速電圧2keV、ドーズ量1×1015cm−2で導入する。またPMOSトランジスタの場合は、p型不純物として例えばボロンを加速電圧0.5keV、ドーズ量3×1015cm−2で導入する。これにより、ソース/ドレインのエクステンション領域176を構成する非常に浅い不純物領域が形成される。
【0107】
次にゲート電極173を被覆して半導体基板170上全面に、例えばCVD法により絶縁膜、例えば膜厚10nmのシリコン酸化膜と例えば膜厚50nmのシリコン窒化膜を積層して堆積する。この後例えばRIE(Reactive Ion Etching)法により堆積したシリコン酸化膜とシリコン窒化膜とを異方性エッチングし、ゲート電極173の側壁部分にL字型のシリコン酸化膜よりなるサイドウォール174とシリコン窒化膜からなるサイドウォール175を形成する。
【0108】
次いでゲート電極173およびサイドウォール174、175をマスクとして、例えばイオン注入法によりゲート電極173およびサイドウォール174、175で構成される構造の両側の半導体基板170に不純物を導入する。NMOSトランジスタの場合は、n型不純物として例えば砒素を加速電圧20keV、ドーズ量5×1015cm−2で導入する。PMOSトランジスタの場合は、p型不純物として例えばボロンを加速電圧5keV、ドーズ量5×1015cm−2で導入する。これにより、ソース/ドレインの深い不純物領域177が形成される。さらに所定の熱処理を行うことにより、エクステンション領域176およびソース/ドレインの深い不純物領域177を構成する不純物を活性化し、ソース/ドレインが形成される。
【0109】
次に上面が露出したゲート電極173、および表面が露出したエクステンション領域176およびソース/ドレインの深い不純物領域177上を含む全面に、例えばプラチナ(Pt)が添加されたニッケル(Ni)ターゲットを用い、スパッタリング法により例えば膜厚7〜15nmのプラチナを含むニッケル膜(NiPt膜)178を堆積する。ターゲットにおけるNiPt膜に対するPtの組成比は、例えば2〜10原子%(atm%)である。従ってターゲットから堆積されたNiPt膜178はある組成比で構成されるが、以下便宜的にNiPtと表記する。
【0110】
続いてNiPt膜178上に例えばスパッタリング法により、例えば膜厚5〜30nmの窒化チタン(TiN)膜よりなる保護膜179を形成する。この保護膜179はNiPt膜178が後の工程処理において酸化することを防止するように作用する。NiPt膜178とTiN膜179は同一のスパッタリング装置を用いて大気開放せずに連続的に堆積してもよい。
【0111】
この後、図15(b)で示すように例えばRTA(Rapid Thermal Annealing)法で例えば200〜400℃、30秒間熱処理を行う。これによりNiPt膜178の構成成分Ni、Ptとゲート電極173表面部のSiとを反応させると同時に、前記Ni、Ptとソース/ドレインの表面部を構成するSiとを反応させ、ゲート電極173の上部と主としてソース/ドレインの深い不純物領域177の表面部にNiPtSi層180、すなわちNiPtのシリサイド層を形成する(サリサイド形成工程)。NiPtSi層180はNi、Pt、Siのある組成比を有しているが便宜上NiPtSiと表記する。
【0112】
次に図15(c)に示すように、RTAによる熱処理後Siと反応しなかった未反応のNiPt膜178と保護膜179を、酸化剤を含む比較的高温の薬液を用いたウェットエッチングにより、NiPtSi層180を残して選択的に除去する。酸化剤を含む薬液として例えば、硫酸と過酸化水素との混合液(SPM液:Sulfuric acid−Hydrogen Peroxide Mixture)を用いる。SPMにおける硫酸の体積パーセント濃度は例えば50〜90%、過酸化水素の体積パーセント濃度は例えば10〜50%である。その他例えば1〜69wt%の熱硝酸水、1〜30wt%の熱過酸化水素水、1〜200ppmの溶存オゾン水なども適用することができる。
【0113】
ここで上記未反応NiPt膜178および保護膜179の選択エッチング用薬液は、TiNおよびNiは容易に溶解させるのであるがPtの溶解は非常に困難であるために、選択エッチング後の表面に膜成分のPt粒子が残留するので、次に残留Pt粒子を除去するための洗浄を行う(図15(c))。この洗浄に本発明の第1の実施形態による洗浄方法を適用し、基本的に図5に示すフローに従って処理を行う。すなわち例えば図1に示す洗浄装置を使用し、ステップS1、S2、S3を実施する。異物検査装置で検出されるパーティクルはこの場合、ほとんどすべて残留Pt粒子であるから、ステップS3において作成されるウエハ内のパーティクル分布データは残留Pt粒子数の分布データである。
【0114】
次にステップS4、S5、S6を経てステップS7において残留Pt粒子を除去する洗浄を行う。洗浄は例えば図4に示す薬液洗浄槽を用いることができる。洗浄薬液165はこの場合、69wt%硝酸:36wt%塩酸:超純水が1:3:10の混合液であり、インライン温度調節機158で温度40℃を保ち、希釈王水安定化のため2時間循環保持させた後半導体基板170を洗浄内槽150に浸漬し、さらにその後超音波を洗浄薬液165に印加して5分間洗浄する。洗浄中半導体基板170を洗浄内槽150においてステップS5で設定されたウエハ配置方向を維持する。洗浄が終了後、ステップS8を経て工程を終了する。
【0115】
以上が本発明による半導体装置の製造方法である。この半導体装置で用いられるNiPtのシリサイドは低抵抗であり、NiSiと比較して耐熱性、熱的安定性が大きく、シリサイド形成を微小スケールで制御しやすいので、60nm以下の寸法を有する半導体集積回路装置におけるシリサイド層として採用されている。しかしながら上記のように製造工程で残留Pt粒子を生じるという問題があるため、従来は王水(体積比:硝酸:塩酸=1:3)のような強酸で除去することが考えられていた。
【0116】
図17(a)は未反応のNiPt膜をSPMで選択除去した後のNiPtSi層表面のSEM写真であり、円内にPt粒子が残留している。図17(b)はこの状態での断面模式図であり、NiPtSi層180の表面上の残留Pt粒子182がない領域には酸化性のSPMによる薄いシリコン酸化膜181が成長しているが、残留Pt粒子182直下はこの粒子に遮られてシリコン酸化膜181が成長していない。
【0117】
図17(c)は、残留Pt粒子を王水で除去した後のNiPtSi層表面のSEM写真であり、王水により残留Pt粒子は溶解して除去されているが下地のNiPtSi層も溶解してダメージが生じている。図17(d)はこの状態での断面模式図である。王水に対する耐性を有する薄いシリコン酸化膜181で覆われているNiPtSi層180の領域には異常がない。しかし王水中の塩素はNiPtSi層180中のNiに対しても腐食性があるので残留Pt粒子182が存在することによって、NiPtSi層180が露出した部分のNiが塩化物イオンとなりNiPtSi層が溶解して凹部183が発生する。
【0118】
これに対して本発明の洗浄方法によれば、硝酸と塩酸の混合液の純水による希釈液を洗浄薬液として用いることによってNiPtSi層の腐食・溶解を抑制してダメージなく残留Pt粒子を溶解除去することができる。硝酸と塩酸の混合液の純水による希釈液では王水よりも残留Pt粒子の溶解能力が低下するが、本発明の洗浄方法は、図5に示すフローを採用し、半導体基板上の残留Pt粒子数が予め定められた閾値以上となる領域を含む領域と洗浄薬液中の超音波の音圧が予め定められた閾値以上となる領域を含む領域とが重なるように、洗浄薬液中での半導体基板の配置方向を設定して洗浄処理することにより、残留Pt粒子の機械的除去能力を向上させることができる。このようにして本発明による洗浄方法は十分残留Pt粒子を除去することができる。
【0119】
図16に従来の洗浄方法と本発明の洗浄方法による残留Pt粒子除去率の比較を示す。ただし従来の洗浄方法とは洗浄薬液や洗浄時間が本発明による洗浄方法と同じで、洗浄薬液中の半導体基板の配置方向の設定を行わない方法である。図16に示したように本発明の洗浄方法によれば洗浄処理後従来の方法より3倍近くに残留Pt粒子を除去することができる。
【0120】
なお本発明による洗浄方法は上記NiPtサリサイド形成工程だけでなく、異物検査工程に連続して実施可能な洗浄工程、例えばイオン注入用レジストマスクアッシング処理後の洗浄工程、ゲート電極用シリコン膜のドライエッチング後の残渣除去工程、CVD法などによる成膜後の洗浄工程等にも適用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0121】
本発明は特に半導体装置の製造におけるウェット洗浄工程の洗浄効率を向上させるために有効であるが、板状体の洗浄やその他一般の物体の洗浄にも使用して有益である。
【符号の説明】
【0122】
101 キャリアローダー
102a、102b キャリア
103 ウエハ
104 処理準備部
105、107 ロードロックドア
106 異物検査部
108 異物検査装置
109 ウエハ方向設定装置
110 ウエハカセット
111 第1のウエハ搬送機
112、125 ガイド
113 洗浄処理部
114、116 薬液洗浄槽
115、117 リンス槽
118 乾燥槽
119、121、123 第2のウエハ搬送機
120、122、124、167 ウエハボート
126 制御部
130、140 底板
131、141 回転支持軸
132、142 真空チャック
133 レーザー光源
134 検知装置
135 レーザー光
136 散乱光
137、145 信号線
143 発光部
144 受光部
146 底板の穴
150 洗浄内槽
151 周辺槽
152 薬液吐出管
153 洗浄外槽
154 液体吐出管
155、162 バルブ
156 循環ポンプ
157 フィルタ
158 インライン温度調節機
159 循環ライン
160 薬液供給槽
161 薬液供給管
163 発振機
164 超音波振動板
165 洗浄薬液
166 液体
170 半導体基板
171 素子分離領域
172 ゲート絶縁膜
173 ゲート電極
174、175 サイドウォール
176 エクステンション領域
177 ソース/ドレインの深い不純物領域
178 NiPt膜
179 保護膜
180 NiPtSi層
181 シリコン酸化膜
182 残留Pt粒子
183 凹部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体基板の表面上に付着したパーティクル数の前記半導体基板内分布を求める工程と、
洗浄液中のパーティクル除去力を示す物理量の値の分布を測定する工程と、
前記パーティクル数の前記半導体基板内分布から求められる、前記パーティクル数が周囲より大きい前記半導体基板上の領域の少なくとも一部と、前記洗浄液中の、前記パーティクル除去力を示す物理量の値が周囲より大きい領域の少なくとも一部とが重なるように、前記半導体基板を前記洗浄液中に配置する工程と、
前記洗浄液中の前記半導体基板の配置を維持して、前記洗浄液中で前記半導体基板を洗浄する工程と
を含むことを特徴とする半導体装置の製造方法。
【請求項2】
前記半導体基板の洗浄は前記洗浄液に超音波を印加して行い、前記洗浄液中のパーティクル除去力を示す物理量は前記超音波の音圧であることを特徴とする請求項1に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項3】
前記洗浄液は前記半導体基板の表面に対してエッチング性を有する洗浄液であり、前記洗浄液中のパーティクル除去力を示す物理量は前記半導体基板の表面の前記洗浄液によるエッチング速度であることを特徴とする請求項1に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項4】
前記洗浄液中のパーティクル除去力を示す物理量は、前記洗浄液による前記半導体基板の洗浄におけるパーティクル除去率であることを特徴とする請求項1に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項5】
前記半導体基板の表面上に付着したパーティクル数の前記半導体基板内分布は、基準粒子径以上のパーティクルの数に関する半導体基板内分布、および前記基準粒子径より小さいパーティクルの数に関する半導体基板内分布であり、
前記洗浄液中のパーティクル除去力を示す物理量は、洗浄液に超音波を印加した時の、前記洗浄液中における超音波の音圧、および前記洗浄液中における前記半導体基板の表面の前記洗浄液によるエッチング速度であり、
前記基準粒子径以上のパーティクルの数に関する半導体基板内分布から求められる、前記パーティクル数が周囲より大きい前記半導体基板上の領域の少なくとも一部と、前記洗浄液中の、前記音圧が周囲より大きい領域の少なくとも一部とが重なるように、前記半導体基板を前記洗浄液中に配置し、前記配置を維持して前記洗浄液に超音波を印加しながら前記洗浄液中で前記半導体基板を洗浄する第1洗浄工程と、
前記基準粒子径より小さいパーティクルの数に関する半導体基板内分布から求められる、前記パーティクル数が周囲より大きい前記半導体基板上の領域の少なくとも一部と、前記洗浄液中の、前記エッチング速度が周囲より大きい領域の少なくとも一部とが重なるように、前記半導体基板を前記洗浄液中に配置し、前記配置を維持して前記洗浄液中で前記半導体基板を洗浄する第2洗浄工程と、
を含むことを特徴とする請求項1に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項6】
前記第1洗浄工程と前記第2洗浄工程とを同時に行うことを特徴とする請求項5に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項7】
前記洗浄液は、アンモニアと過酸化水素の混合液であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の半導体装置の製造方法。
【請求項8】
前記超音波の周波数は20kHz以上で10MHz以下であることを特徴とする請求項2、5、6のいずれかに記載の半導体装置の製造方法。
【請求項9】
前記半導体基板はその表面部にプラチナを含むニッケルのシリサイド層が形成され、
前記パーティクルは前記半導体基板上に付着したプラチナ粒子であり、
前記洗浄液は硝酸と塩酸の混合液の希釈液であり、
前記洗浄液中のパーティクル除去力を示す物理量は、前記洗浄液に超音波を印加した時の、前記洗浄液中における超音波の音圧であり、
前記半導体基板の洗浄は前記洗浄液に超音波を印加して行うことを特徴とする請求項1に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項10】
前記半導体基板は、その上にゲート絶縁膜を介して形成されたシリコンからなるゲート電極と、前記ゲート電極の側壁に形成された絶縁膜からなるサイドウォールと、前記サイドウォールの下から、前記ゲート電極と前記サイドウォールとからなる構成体の両側の前記半導体基板にかけて形成されたソース/ドレインとを備え、
前記プラチナを含むニッケルのシリサイド層は、前記ゲート電極および前記ソース/ドレイン上を含む領域に、プラチナを含むニッケル膜を形成する工程と、熱処理により前記プラチナを含むニッケル膜と前記ソース/ドレインの表面とを反応させ、前記プラチナを含むニッケル膜のシリサイド層を形成する工程と、前記熱処理後、未反応の前記プラチナを含むニッケル膜を選択的に除去する工程とによって形成され、
前記プラチナ粒子は、前記プラチナを含むニッケル膜の選択的除去後の表面に残留したプラチナ粒子であることを特徴とする請求項9に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項11】
洗浄液を満たし、基板を前記洗浄液中に浸漬して洗浄するための洗浄槽と、
前記基板の表面上に付着しているパーティクル数の前記基板内分布と、前記洗浄槽に満たされた前記洗浄液中のパーティクル除去力を示す物理量の値の分布とに基づいて、前記パーティクル数の前記基板内分布から求められる、前記パーティクル数が周囲より大きい前記基板上の領域の少なくとも一部と、前記洗浄液中の、前記パーティクル除去力を示す物理量の値が周囲より大きい領域の少なくとも一部とが重なるように、前記基板の配置方向を設定する機構と、
前記設定された配置方向で前記基板を前記洗浄液中に搬送する搬送機構と
を備えたことを特徴とする洗浄装置。
【請求項12】
前記洗浄液中における前記基板の配置方向を設定する機構は、前記洗浄液中において前記基板を、前記基板の面内で、前記基板の基準配置方向から回転させて設置した時、各回転角に対する洗浄効率を、前記パーティクル数の前記基板内分布と前記洗浄液中のパーティクル除去力を示す物理量の値の分布とに基づいて算出し、前記算出された洗浄効率が所定値以上となるときの前記回転角の範囲を算出する演算部と、前記算出された回転角の範囲で前記基板を、前記基板の面内で、前記基板の基準配置方向から回転させる基板回転機構からなることを特徴とする請求項11に記載の洗浄装置。
【請求項13】
前記パーティクル数の前記基板内分布を測定する測定装置、および前記洗浄液中のパーティクル除去力を示す物理量の値の分布を測定する測定装置をさらに備えたことを特徴とする請求項11または12に記載の洗浄装置。
【請求項14】
前記基板は半導体基板であり、前記洗浄液中における前記基板の基準配置方向は、前記基板の面が前記洗浄液中において垂直でかつ、前記基板に設けられたノッチまたはオリエンテーションフラットが前記基板の面内を通る鉛直線上に位置する方向であることを特徴とする請求項12に記載の洗浄装置。
【請求項15】
前記洗浄槽は、洗浄液に超音波を与える超音波振動板を備えており、前記洗浄液中のパーティクル除去力を示す物理量は、超音波の音圧であることを特徴とする請求項11〜14のいずれかに記載の洗浄装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図18】
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【図17】
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【公開番号】特開2012−84647(P2012−84647A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−228485(P2010−228485)
【出願日】平成22年10月8日(2010.10.8)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】