説明

半導体装置の製造方法

【課題】半導体装置の量産方法において個別調整を極力低減し、高速に安定したプラズマの初期放電特性を得られる半導体装置の製造方法を提供する。
【解決手段】可変容量素子の容量変化と高周波電力の反射波の電力変化とを対応させたマトリックスを生成し、このマトリックスから特定の値を可変容量素子の初期容量として設定し、上記反射波の電力を計測して所定の上限値と比較する工程を備える。つまり、可変容量素子の容量と反射波の電力との対応関係を、予めマトリックスとして保持しておく。さらに、上記電力が上記上限値を超えている場合に、この電力が上限値未満となる上記可変容量素子の容量を、上記マトリックスから選択して決定する工程とを備える。このように、インピーダンスを整合させる可変容量素子の容量を、予め保持されたマトリックスから選択し設定するので、きわめて高速にプラズマを安定させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマCVD(Chemical Vapor Deposition:化学気相成長)を利用して成膜処理を行う半導体装置の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体ウエーハに対して成膜処理(薄膜堆積処理)を行う一般的なプラズマCVD装置の一例として、平行平板型プラズマCVD装置の構成を図1を用いて説明する。
【0003】
図1は、一般的な平行平板型プラズマCVD装置の概略図である。真空処理室1は、排気手段6により、内部を真空に保持された処理室である。薄膜堆積処理が開始されると、ガス導入部4からプロセスガスが導入される。このとき、排気手段6が適切に排気を行うことにより真空処理室1内を一定の圧力に保ちながら、上部電極2に高周波RF(Radio Frequency)電源8および低周波RF電源9によりインピーダンス整合装置7を通ってRF電力を供給する。そして、上部電極2と下部電極3との間に生ずる電界により発生するプラズマを利用し、ウエーハ5に対して薄膜堆積を行う。薄膜堆積処理が進行し、予め設定された処理時間に到達すると、薄膜堆積処理を終了する。
【0004】
この場合において、装置の制御パラメータである高周波RF電源8の電力、真空処理室1内の圧力、ガス流量、インピーダンス整合装置7の容量素子などはモニタされている。そして、各パラメータが予め設定されている所定の範囲から外れた時には異常と判定し、プラズマCVD装置の動作を停止するインターロック方式が採用されており、不良品の発生を最小限に抑えることが一般的に行われている。
【0005】
ここで、発生するプラズマを早期に安定化させるためには、インピーダンス整合装置7により、上記電力の電源内部のインピーダンスと電源の出力以降のインピーダンスとを適切に整合して、この電力の反射波を最小にする必要がある。インピーダンス整合装置7の例として、下記の特許文献1では、図6に示すような2つの固定インダクタンスL1,L2と2つの可変容量素子C1,C2を含む逆L形整合回路を採用している。そして、制御装置15により負荷インピーダンスの実数部と虚数部の誤差関数を定義し、インピーダンスの目標値に対して可変容量素子C2を可変させるモータ運転速度を指定しておく。すると、誤差関数は所定の行列(ゲイン行列)に従って指数関数的に減衰するので、インピーダンスは目標値へと速く収束する。
【特許文献1】特開2005−286853号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記従来の技術では、一般的な整合回路に加えて、モータにより制御される可変容量素子C1および可変容量素子C2の駆動を最適化するための制御装置15を設けている。そして、送信線と負荷とにおける上記高周波電力の振幅、位相差の大きさによりモータの速度を可変とすることで、インピーダンスの目標値とのずれが大きい場合でも、速い収束速度を達成できる。
【0007】
しかし、負荷インピーダンスはメンテナンス等で部品交換を行なうことなどにより変化するほか、成膜処理が進むとともに変化する。このような場合にこの従来技術では、2つの可変容量素子C1,C2を制御するために力学的なモータを使用して所定の初期位置を基準としてインピーダンスを変動させるため、インピーダンスが目標値へ収束するまでに時間がかかる。このため、プラズマを放電直後から最速で安定化するのは困難である。従って、例えばメンテナンス等があった場合には、反射波の電力等を一定以下に抑えるために、個別に可変容量素子C1および可変容量素子C2の最適化のための初期位置の調整が必要になる。
【0008】
そこで本発明は、上記従来の問題を鑑み、半導体装置の量産方法において個別調整を極力低減し、高速に安定したプラズマの初期放電特性やインピーダンス整合の最適化を行うことができる半導体装置の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
以上の目的を達成するために、本発明では、以下のような手段を採用している。
【0010】
本発明は、真空処理室にプロセスガスを導入し、真空処理室を排気により所定の圧力に維持し、真空処理室内の上部電極に高周波電力を印加してプラズマを発生させ、真空処理室内の下部電極上に設置した半導体ウエーハに成膜処理する半導体装置の製造方法を前提としている。
【0011】
そして、このような半導体装置の製造方法において、まず、成膜前処理および上記成膜処理を開始する工程と、この成膜前処理中に上記高周波電力のインピーダンス整合装置における可変容量素子の現在の容量を取得する工程とを備える。
【0012】
次に、上記可変容量素子の容量変化と上記高周波電力の反射波の電力変化とを対応させたマトリックスを生成する工程と、このマトリックスから特定の値を可変容量素子の初期容量として設定する工程と、上記反射波の電力を計測して所定の上限値と比較する工程とを備える。つまり、可変容量素子の容量と反射波の電力との対応関係を、予めマトリックスとして保持しておく。
【0013】
さらに、上記電力が上記上限値を超えている場合に、この電力が上限値未満となる上記可変容量素子の容量を、上記マトリックスから選択して決定する工程とを備える。このように、インピーダンスを整合させる可変容量素子の初期容量を、予め保持されたマトリックスから選択し設定するので、きわめて高速にプラズマを安定させることができるのである。
【発明の効果】
【0014】
本発明の半導体装置の製造方法によれば、可変容量素子の初期容量を、予め保持されたマトリックスに基づいて、反射波が上限値未満となる位置に設定することにより、上下部電極交換等のメンテナンスによる負荷変動があった場合でも、高速に初期放電時の反射波を低減させることができる。これにより安定した放電状態を得ることができ、微細デバイスのパーティクル等のばらつき低減に寄与することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら具体的に説明する。
【0016】
図1は、本発明の実施形態におけるプラズマCVD(Chemical Vapor Deposition:化学気相成長)装置の概略構成図である。真空処理室1には、内部を真空に保持し、バルブ(図示せず)の開度を制御して所望の圧力に制御する排気手段6と、真空処理室1内に反応ガスを導入するガス導入部4が設けられている。
【0017】
真空処理室1の下部には、下部電極3が配設され、この下部電極3上に成膜処理(薄膜堆積処理)を行う半導体ウエーハ5を載置して保持させる。高周波RF(Radio Frequency)電源8は、例えば13.56MHzの高周波電力を出力する電源である。また、低周波RF電源9は、例えば400kHzの低周波電力を出力する電源であり、それぞれインピーダンス整合装置7を介して上部電極2に接続されている。なお、インピーダンス整合装置7は、電源内部のインピーダンスと電源の出力以降のインピーダンスを一定に整合する機能を持った装置で、一般的に可変容量素子を内蔵し、可変容量素子の容量を変化させ出力電力を安定して供給する機能を持っている。
【0018】
制御装置10は、このプラズマCVD装置の各制御を指示しており、且つ、高周波RF電源8の電力やインピーダンス整合装置7の可変容量素子の容量、及び排気手段6のバルブ開度やガス導入部4の各プロセスガスの流量などの装置パラメータを取得している。なお、制御装置10で取得する装置パラメータとしては、これら以外の例えば上部電極2の温度や、真空処理室1の圧力などを含めてもよい。制御装置10で取得される各装置パラメータをデータ収集装置11で収集し、データ保存装置12で保存し、保存された各装置パラメータから適切な可変容量素子の初期位置を算出する演算装置13が設けられている。
【0019】
図2は、インピーダンス整合装置7の例としての逆L形整合回路を示す。図2において、センサユニット14には上記高周波電力が供給され、この高周波電力の振幅と位相とを検出しインピーダンスとして出力する機能を有する。センサユニット14の出力側端子nと接地電位との間には、固定インダクタンスL1と可変容量素子C1が接続されており、端子nと負荷側には、固定インダクタンスL2と可変容量素子C2が接続されている。可変容量素子C1、C2は図示しない駆動用のサーボモータによって、可動電極の位置を変化させることでその容量が可変に制御される。
【0020】
次に、以上の構成のプラズマCVD装置を用いたプラズマCVD処理工程について説明する。まず、半導体ウエーハ5を真空処理室1内に搬入して下部電極3上に載置して保持させる。その後、ガス導入部4よりガスを真空処理室1内に導入するとともに排気手段6により真空排気して真空処理室1の内部を所定の圧力に維持する。次に、高周波RF電源8から上部電極2に高周波電力を印加する。上部電極2に印加された高周波電力により真空処理室1内の気体がプラズマ化され、プラズマ中のイオン、電子及びラジカルによりウエーハ5上でのCVD反応を促進させる。この後、排気ガス成分やCVD反応により生じた反応生成物は排気手段6により排気される。
【0021】
図3に半導体ウエーハ5を下部電極3に設置してプラズマCVD処理を行ったときの可変容量素子C1/C2の容量の変化の模式図を示す。一点鎖線と点線がそれぞれ可変容量素子C1/C2の容量(可動電極の位置:単位[a.u.])を表し、実線が高周波RF電源8の反射波の電力を表している。
【0022】
符号A3のタイミングで薄膜堆積が開始し、符号A4のタイミングで終了する。可変容量素子C1/C2の容量について、符号A1の間に薄膜堆積処理の初期において放電が安定するように初期容量(プリセット)を設定する。そして、符号A2の着火時に高周波RF電源8の位相と振幅をセンサユニット14により検出し、上記高周波の信号線と負荷とでインピーダンスが整合するように動作させる。
【0023】
図4は、実際に半導体ウエーハ5上に薄膜堆積させる際、可変容量素子C1/C2の初期容量を変更していった時の整合値(整合容量)と初期放電時における反射波の電力を表すグラフである。図3と同様に、一点鎖線と点線がそれぞれ可変容量素子C1/C2の相対容量を表し、実線が高周波電源の反射波の電力を表している。
【0024】
符号B1〜B5は、可変容量素子C1の容量を固定し、可変容量素子C2の初期容量を制御した場合の、初期放電時における高周波RF電源8の反射波の電力である。B1では可変容量素子の初期容量をC1/C2=47/54とした場合、初期放電時の反射波が最大37Wであるが、図中B2〜B5に示すように初期容量を制御するとB5の可変容量素子の初期容量をC1/C2=47/51とした場合に、初期放電時の反射波を11Wまで低減することができているのがわかる。
【0025】
上記演算装置13は、この結果を表1に示すようなマトリックスとして保持している。
【0026】
【表1】

【0027】
本発明では、このマトリックスに基づいて高周波RF電源8の反射波の電力が所定の上限値未満になるような、可変容量素子C1/C2の初期容量(初期位置)を決定する。このマトリックスは後述する成膜前処理中に作成される。一方、上述の通り、負荷インピーダンスはメンテナンス等で部品交換を行なうことなどにより変化するほか、成膜処理が進むとともに変化する。
【0028】
しかし、負荷インピーダンスの変動に伴う整合位置の変動は、半導体製造装置の構造等に依存して実験的な傾向(マトリックス上での特定方向への移動)を示す。従って、このマトリックスにより適切な可変容量素子の初期容量を制御することで、実際の放電開始後の整合速度の向上とともに、反射波を抑制することが可能になるのである。
【0029】
図5は、本発明を用いて放電初期の反射波の電力を所望以下の値になる様に、可変容量素子C1/C2の初期容量を制御するフロー図である。
【0030】
まず制御装置10はステップS1において、プリコート等の成膜前処理を開始させる。
【0031】
次のステップS2において、データ収集装置11は制御装置10から、可変容量素子C1/C2の現在の容量その他の装置パラメータを収集し、データ保存装置12に記録する。
【0032】
次のステップS3において、演算装置13はステップS2で得られた現在の容量に対して、可変容量素子C1/C2の容量を、それぞれ任意の値だけずらせた場合の反射波の電力を表した、上記マトリックスを生成する。
【0033】
次のステップS4において、制御装置10は演算装置13から上記現在の容量を受け取り、実際の初期放電前の可変容量素子C1/C2の初期容量として設定する。
【0034】
次のステップS5において、制御装置10は薄膜堆積処理を開始する。
【0035】
次のステップS6において、データ収集装置11は初期放電時の反射波の電力を取得し、データ保存装置12に保存する。
【0036】
次のステップS7において、演算装置13はステップS6にて得られた初期放電時の反射波の電力を予め設定された上限値と比較する。この際、この電力が上限値を越えていなければ、薄膜体積処理を継続する(ステップS7OK→S5)。
【0037】
一方、反射波の電力が上限値を超えていれば、一つの薄膜堆積処理ごとにステップS4から制御を繰り返す(ステップS7NG→S4)。即ち、制御装置10は、演算装置13が保持する上記マトリックスから、初期放電時の反射波が前記上限値より抑制できる可変容量素子C1/C2の容量を、上述の実験的な傾向に従って選択し、C1/C2の容量として設定する。
【0038】
そして、再び、ステップS5において、制御装置10は薄膜堆積処理を開始し、ステップS6において、データ収集装置11は初期放電時の反射波を取得し、これを前記上限値と比較する。そして反射波が上限値を下回るまで、上述の実験的な傾向に従って、可変容量素子C1/C2の容量を上記マトリックスから選択して設定し続ける。
【0039】
以上のように、本発明によれば、インピーダンスを整合させる可変容量素子の容量を、成膜前処理中に作成したマトリックスから選択し設定する。このため、成膜処理のスループットを低下させることなく、負荷インピーダンスの変動に応じて可変容量素子の初期容量を適切に設定できるので、きわめて高速にプラズマを安定させることができるのである。
【産業上の利用可能性】
【0040】
以上、説明したように本発明の半導体装置の製造方法は、放電初期の反射波を最低限に抑えることができ、量産装置の負荷変動に対しても追従できる。これにより、より安定したプラズマ状態を構築でき薄膜堆積の制御性を向上し、微細デバイスの製造ばらつきを低減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】一般的なプラズマCVD装置の概略図。
【図2】本発明の実施形態における逆L形整合回路の概略図。
【図3】本発明における薄膜堆積時の可変容量素子と反射波の変化を示すグラフ。
【図4】本発明における反射波の収束を表すグラフ。
【図5】本発明における可変容量素子の初期容量最適化のフローチャート。
【図6】従来技術における逆L型整合回路の概略図。
【符号の説明】
【0042】
1 真空処理室
2 上部電極
3 下部電極
4 ガス導入部
5 ウエーハ
6 排気制御装置
7 インピーダンス整合装置
8 高周波RF電源
9 低周波RF電源
10 装置制御装置
11 データ収集装置
12 データ保存装置
13 演算装置
14 センサユニット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空処理室にプロセスガスを導入し、該真空処理室を排気により所定の圧力に維持し、該真空処理室内の上部電極に高周波電力を印加してプラズマを発生させ、該真空処理室内の下部電極上に設置した半導体ウエーハに成膜処理する半導体装置の製造方法において、
上記真空処理室内を調整する成膜前処理を行う工程と、
上記成膜前処理中に、上記高周波電力のインピーダンス整合装置における可変容量素子の現在の容量を取得する工程と、
上記可変容量素子の容量変化と上記高周波電力の反射波の電力変化とを対応させたマトリックスを生成する工程と、
上記マトリックスから特定の値を上記可変容量素子の初期容量として設定する工程と、上記反射波の電力を計測して所定の上限値と比較する工程と、
上記反射波の電力が上記上限値を超えている場合に、該電力が上記上限値未満となる上記可変容量素子の容量を、上記マトリックスから選択して決定する工程と、
を備えることを特徴とした半導体装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−188152(P2009−188152A)
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−25963(P2008−25963)
【出願日】平成20年2月6日(2008.2.6)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】