説明

半導体装置の製造方法

【課題】半導体基板の主面に形成した溝部表面へのイオン注入量やイオン注入深さのバラつきを抑え、イオンが注入されたドーパンド領域を活性化して、厚み、イオンドープ量、活性化状態がほぼ均一なドーパンド層を形成できる半導体装置の製造方法を提供する。
【解決手段】半導体基板の主面に溝部を形成し、該溝部を形成した半導体基板の主面側にイオンを注入した後、イオンが注入されたドーパンド領域にレーザを照射してアニール処理を行う半導体装置の製造方法であって、前記ドーパンド領域にイオンを注入する前に、前記溝部の側面にレーザを照射して、該溝部の側面の表面段差を平滑化する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体基板にイオンを注入し、イオンが注入されたドーパンド領域にレーザを照射してアニール処理を行い、ドーパンド領域を活性化する半導体装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体基板にイオン注入することにより生じた結晶欠陥を回復して活性化させるための手段の一つとして、イオンが注入されたドーパンド領域にレーザを照射してアニール処理する方法(以下、レーザアニール法という)がある。レーザアニール法は、電気炉によるアニール処理と比べて、半導体基板全体の温度を上昇させずに済み、レーザを照射した箇所を局所的に加熱できるという特徴を持っている。
【0003】
このため、例えば、特許文献1〜3に記載されるように、金属膜や、IGBT構造等の各種半導体装置構造が形成された半導体基板の裏面にイオンを注入し、ドーパンド領域にレーザを照射してアニール処理を行っても、表面に形成された金属膜や、半導体装置構造に対して熱的な損傷を与えることなく、該半導体基板の裏面を活性化できる。
【0004】
また、特許文献2,3に記載されるように、半導体基板に溝部を形成し、該溝部にイオンを注入し、イオンが注入されたドーパンド領域にレーザを照射してアニール処理を行うことも行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−59856号公報
【特許文献2】特開2006−278382号公報
【特許文献3】特開2006−303410号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、半導体基板に形成した溝部を活性化するに際し、以下のような問題があった。
【0007】
すなわち、湿式エッチングや乾式エッチング等を行って、半導体基板に溝部を形成するが、形成された溝部の表面状態は、段差などがあり、平滑でないことが多かった。特に、湿式異方性エッチングを行って溝部を形成した場合においては、エッチング面の角度と結晶面の角度にずれが生じ、図1に示すように、テラス(平坦面)11と、ステップ(段差)12が繰り返し形成され易かった。
【0008】
溝部の表面に、テラス11と、ステップ(段差)12とが繰り返し形成されていると、溝部表面へのイオン注入量やイオン注入深さにバラつきが生じ、更には、ドーパンド領域にレーザを均一に照射できない。このため、形成されるドーパンド層の厚み、イオンドープ量、活性化状態等にバラつきが生じ易く、得られる半導体装置のデバイス特性にも悪影響(アバランシェ耐圧低下、リーク電流増大など)を及ぼす恐れがあった。
【0009】
よって、本発明の目的は、半導体基板の主面に形成した溝部表面へのイオン注入量やイオン注入深さのバラつきを抑え、イオンが注入されたドーパンド領域を活性化して、厚み、イオンドープ量、活性化状態がほぼ均一なドーパンド層を形成できる半導体装置の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明の半導体装置の製造方法は、半導体基板の主面に溝部を形成し、該溝部を形成した半導体基板の主面側にイオンを注入した後、イオンが注入されたドーパンド領域にレーザを照射してアニール処理を行う半導体装置の製造方法であって、前記ドーパンド領域にイオンを注入する前に、前記溝部の側面にレーザを照射して、該溝部の側面の表面段差を平滑化することを特徴とする。
【0011】
本発明の半導体装置の製造方法は、前記半導体基板の主面を、所望のパターンのマスクで被覆し、前記半導体基板の、前記マスクにより被覆されていない部分をアルカリ溶液に接触させて湿式異方性エッチングを行い、前記溝部を形成することが好ましい。
【0012】
本発明の半導体装置の製造方法は、前記半導体基板がシリコン基板であって、該半導体基板の主面の結晶面が{100}面であり、前記溝部の側面の結晶面が{111}面であることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ドーパンド領域にイオンを注入する前に、溝部の側面にレーザを照射して、該溝部の側面の表面段差を平滑化するので、溝部側面に対して、イオンをほぼ均一に注入でき、溝部側面のドーパンド領域におけるイオン注入量やイオン注入深さのバラつきを抑えることができる。そして、溝部の側面の表面段差が平滑化されているので、イオンが注入された溝部側面のドーパンド領域に対して、レーザを均一に照射でき、厚み、イオンドープ量、活性化状態がほぼ均一なドーパンド層を、溝部側面に形成できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】半導体基板に溝部を形成した直後の溝部側面の表面状態を示す図面である。
【図2】半導体基板の溝部にレーザを照射して表面段差を平滑化する状態図である。
【図3】半導体基板の主面側にイオンを注入する状態図である。
【図4】半導体基板のドーパンド領域にレーザを照射してアニール処理する状態図である。
【図5】実施例において、半導体基板に溝部を形成した直後の溝部側面の表面状態を示す電子顕微鏡写真である。
【図6】実施例において、溝部側面にレーザを照射して表面段差を平滑化した後の溝部側面の表面状態を示す電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の半導体装置の製造方法について、図1〜4を用いて説明する。
【0016】
本発明の半導体装置の製造方法においては、まず、半導体基板の主面に溝部を形成する。
【0017】
本発明で使用する半導体基板は、半導体装置の基板として使用できる基板であれば、特に限定は無い。例えば、シリコン基板、シリコンカーバイド基板、ガリウムナイトライド基板等が挙げられる。また、半導体基板の一方の面には、金属膜や、IGBT構造等の半導体装置構造が形成されていてもよい。この様な半導体基板の場合は、金属膜や半導体装置構造等の形成されていない側が半導体基板の主面となる。
【0018】
溝部の形成方法は、特に限定はない。四フッ化炭素などのエッチングガスを用いた乾式エッチングや、エッチング溶液を用いた湿式エッチングなど、従来公知の方法を用いて行うことができる。なかでも、アルカリ溶液を用いた湿式異方性エッチングが好ましい。アルカリ溶液を用いて半導体基板をエッチングすることにより、特定の結晶方位に対してのエッチングを抑制して、特定の結晶面の方向に深さを持った溝部を形成できる。
【0019】
例えば、シリコン基板の場合、{100}面にマスクを形成し、水酸化カリウム、ヒドラジン、エチレンジアミン、アンモニア、テトラメチルアンモニウム(TMAH)などのアルカリ溶液を用いてエッチングすることで、図1に示すように、半導体基板の主面1に、{111}面に深さを持った溝部2(溝部側面3の傾斜角度αは、およそ54.7°)を形成できる。特に、水酸化カリウムは、シリコンの{111}面にはほとんどエッチングが進まないので、溝の深さのばらつきを抑えることができる。
【0020】
アルカリ溶液による湿式異方性エッチングでは、エッチングレートを非常に高く設定することができる。加えて、湿式エッチングでは、複数の半導体基板を同時に処理することができるので、リードタイムの短縮やコストの削減において非常に大きな効果を奏する。また、アルカリ溶液による湿式異方性エッチングでは、エッチング温度を低くできるので、サーマルバジェットが非常に小さくなり、活性領域のドーパントプロファイルへの影響がない。また、湿式異方性エッチングにより溝を形成する前に、アルミニウム(Al)などの比較的低融点の金属や、熱に弱い材料が半導体基板の他面に形成されていても、エッチングを行ったことによるそれらに対する影響はない。
【0021】
次に、溝部を形成した半導体基板の溝部の側面にレーザを照射して、該溝部の側面の表面段差を平滑化する。
【0022】
前述したように、乾式エッチングや湿式エッチング等により形成された溝部の表面は、平滑でないことが多く、特に、湿式異方性エッチングを行って溝部を形成した場合においては、エッチング面の角度と結晶面の角度にずれが生じ、図1に示すように、溝部側面3にテラス11と、ステップ12が繰り返し形成され易い。ステップ12の大きさは、1μm以下になる場合があるが、イオン注入深さも1μm以下であるのが一般的であり、このステップ12を解消してした上でイオン注入することが重要である。
【0023】
そこで、本発明では、溝部側面3にレーザ4を照射して瞬間的に融解・再結晶化させ、図2に示すように、表面段差を平滑化する。好ましくは、ステップ12が10nm以下になるまで行う。
【0024】
レーザ種としては、特に限定は無い。例えば、YAGレーザ、YLFレーザ、YVO4レーザ、エキシマレーザ、半導体レーザ等が挙げられる。
【0025】
また、レーザ処理条件は、半導体基板の材質により異なる。例えば、シリコン基板の場合、エネルギー密度3.0〜5.0J/cm、ビーム径1〜5mmのレーザを、0〜80%のオーバーラップで照射することで、溝部側面3の表面段差を平滑化できる。エネルギー密度が5.0J/cmを超えると、レーザ痕がついたり、半導体基板が過熱されて溶融による変形やクラックが発生することがある。3.0J/cm未満であると、表面段差を十分に平滑化できないことがある。
【0026】
上記のようにして溝部の側面の表面段差を平滑化した後、半導体基板の主面側にイオン5を注入する。
【0027】
本発明の半導体装置の製造方法によれば、半導体基板の主面側にイオン5を注入する前に、溝部の側面にレーザ4を照射して、該溝部の側面の表面段差を平滑化するので、図3に示すように、溝部側面3に対して、イオン5をほぼ均一に注入でき、ドーパンド領域6におけるイオン5の注入量や注入深さのバラつきを抑えることができる。
【0028】
半導体基板に注入するイオン種としては、特に限定は無い。半導体装置の製造において、ドーパンド原子として使用されているものを用いることができる。例えば、ボロン、リン、ホウ素等が挙げられる。また、イオンの注入条件は、半導体製造装置の製造において、一般的に行われている条件で行うことができる。例えば、10keV〜1000MeVの加速エネルギーにて、イオンを半導体基板に注入する方法が挙げられる。
【0029】
ドーパンド領域5におけるイオンの注入量及び注入深さは、半導体装置の要求特性等により異なるので特に限定は無い。
【0030】
次に、図4に示すように、イオン5が注入された半導体基板のドーパンド領域6にレーザ7を照射してアニール処理を行い、ドーパンド領域6を活性化させてドーパンド層8を形成する。
【0031】
本発明の半導体装置の製造方法によれば、溝部側面3の表面段差が平滑化されているので、図4に示すように、ドーパンド領域6に対して、レーザ7を均一に照射してアニール処理することができる。このため、厚み、イオンドープ量、活性化状態がほぼ均一なドーパンド層8を、溝部側面3に形成できる。
【0032】
アニール処理に用いるレーザ種としては、特に限定は無い。例えば、YAGレーザ、YLFレーザ、YVO4レーザ、エキシマレーザ、半導体レーザ等が挙げられる。
【0033】
また、アニール処理におけるレーザ処理条件は、半導体基板の材質により異なる。例えば、シリコン基板の場合、エネルギー密度1.5〜5.0J/cm、ビーム径1〜5mmのレーザを、0〜80%のオーバーラップで照射することで、ドーパントを活性化できる。エネルギー密度が5.0J/cmを超えると、レーザ痕がついたり、半導体基板が過熱されて溶融による変形やクラックが発生することがある。1.5J/cm未満であると、ドーパンド領域6を十分に活性化できないことがある。
【0034】
本発明の半導体装置の製造方法によれば、半導体基板の主面に形成した溝部表面に対し、イオン注入量やイオン注入深さのバラつきを抑えて、イオンが注入されたドーパンド領域に対してレーザを均一に照射して活性化できるので、厚み、イオンドープ量、活性化状態がほぼ均一なドーパンド層を形成できる。
【0035】
このため、本発明は、例えば、逆阻止型IGBT、その他の逆阻止型デバイス、双方向型デバイス、分離層形成を伴うMOSFET、バイポーラトランジスタ、MOSサイリスタ等の半導体装置の製造に際し好ましく適用できる。
【0036】
すなわち、逆阻止型IGBTは、特開2006−278382号、特開2006−303410号等に記載されるように、逆耐圧特性を有するIGBTであって、逆阻止能力を確保するために、逆耐圧を維持するpn接合を半導体チップの裏面から表面まで延在させている。本発明によれば、厚み、イオンドープ量、活性化状態がほぼ均一なドーパンド層を溝部表面に形成できるので、逆耐圧のばらつき低減や、逆方向の漏れ電流低減という効果が得られる。
【実施例】
【0037】
シリコン基板の{100}面にマスクを形成し、54重量%濃度の水酸化カリウム水溶液を用いて、110℃でエッチング(湿式異方性エッチング)を行い、図1に示すような、シリコン基板の主面1に、{111}面に深さを持った溝部2(溝部側面3の傾斜角度αは、およそ54.7°)を形成した。溝部側面3の電子顕微鏡写真を図5に示す。図5に示されるように、溝部側面3のステップ上に段差がサブミクロンオーダーで形成されていた。
次に、この溝部側面3に対して、YAG2ωダブルパルスレーザー(照射エネルギー密度は2台合計で3.6J/cm(1.8J/cm+1.8J/cm)、波長532nm、2台のレーザの遅延時間は300n秒)を照射したところ、図6の電子顕微鏡写真に示されるように、エッチング直後の溝部側面3のステップ上に形成されていた段差が平滑化された。
このように平滑化された溝部側面3に対してイオン注入を行い、ドーパント活性化のためのレーザ照射を行ったところ、厚み、イオンドープ量、活性化状態がほぼ均一なドーパント層を形成することができた。
このようにして、厚み、イオンドープ量、活性化状態がほぼ均一なドーパント層を形成したシリコン基板を用いて逆阻止IGBTデバイスを製造したところ、逆耐圧のばらつきを低減し、逆方向の漏れ電流を低減することができた。
【符号の説明】
【0038】
1:主面
2:溝部
3:溝部側面
4,7:レーザ
5:イオン
6:ドーパンド領域
8:ドーパンド層
11:テラス
12:ステップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体基板の主面に溝部を形成し、該溝部を形成した半導体基板の主面側にイオンを注入した後、イオンが注入されたドーパンド領域にレーザを照射してアニール処理を行う半導体装置の製造方法であって、
前記ドーパンド領域にイオンを注入する前に、前記溝部の側面にレーザを照射して、該溝部の側面の表面段差を平滑化することを特徴とする半導体装置の製造方法。
【請求項2】
前記半導体基板の主面を、所望のパターンのマスクで被覆し、前記半導体基板の、前記マスクにより被覆されていない部分をアルカリ溶液に接触させて湿式異方性エッチングを行い、前記溝部を形成する、請求項1に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項3】
前記半導体基板がシリコン基板であって、該半導体基板の主面の結晶面が{100}面であり、前記溝部の側面の結晶面が{111}面である、請求項1又は2に記載の半導体装置の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2013−65586(P2013−65586A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−201768(P2011−201768)
【出願日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【出願人】(000005234)富士電機株式会社 (3,146)
【Fターム(参考)】