説明

半導体装置用テープキャリアおよびその製造方法

【課題】半導体装置用テープキャリアにおけるソルダーレジスト下方のリード配線の銅の過剰溶解を防止すると共に、スズめっきのホイスカを抑制する。
【解決手段】絶縁フィルム1上に接着剤層2を介して施された銅箔3の表面の全面にスズめっき層4を厚さ0.01〜0.2μm形成した後、加熱処理し、その後フォトレジストをコートし、露光、現像、エッチング、剥膜処理することにより銅箔3に微細配線パターン30を形成し、その後、前記配線パターン上に、その端子部分を除く所定の位置にソルダーレジスト6を塗布した後、前記端子部分に、厚さ0.15〜0.80μmのスズめっき層4を形成し、加熱処理することにより、厚さ0.20μm以上のスズ−銅合金層5bと厚さ0.15〜0.80μmの純スズ層4bを形成する。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、精密電子部品であるTABテープキャリアのような半導体装置用テープキャリア、特にその銅箔の配線パターンにスズめっきを行うに際し、ソルダーレジスト際の銅の喰われを防止した構造のテープキャリア及びスズめっき手法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】従来のTABテープキャリアの構造は、図2に示すように、ポリイミド樹脂製絶縁フィルム1に接着剤層2を介して貼り合わせた銅箔に所定の配線パターン3を形成し(図2(a))、その配線パターン3上には、その銅リード3a等の端子部分を除く所定の位置に、絶縁層としてソルダーレジスト6を印刷塗布し(図2R>2(b))、その後、当該配線パターン3の端子部分である銅リード3aに安定した接合性を与えるために、無電解スズめっきにより純スズめっき層4を形成し(図2(c))、加熱処理によりスズ−銅合金層5を形成した構造(図2(d))である。
【0003】このTABテープキャリアの半導体素子への実装作業は、例えば図3に示すように半導体素子(ICチップ)7をデバイスホールに位置するように配置し、デバイスホールに突出したインナーリードと半導体素子7の電極を位置合わせした後、ボンディングツールにより圧着する。半導体素子7の電極には金バンプ8が形成されており、加熱された状態で銅リード3aに圧着されると、スズめっきが溶融し金−スズ合金が形成し、電極とインナーリードが接合される。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】一般にスズめっきは、耐食性、はんだ付け性に優れていることから電子部品に広く使用されている。
【0005】しかしながら、上記した従来のTABテープキャリアにおいては、無電解スズめっきする際に、図4R>4に示すように、ソルダーレジスト6の下方の際部(端部)にて銅が過剰溶解し、銅リード3aに溝状に浸食された部分(過剰溶解部9)を形成し、リード強度を低下させるという問題がある。
【0006】一般に無電解スズめっきは銅との置換で析出するが、この場合、無電解スズめっきの前処理液がソルダーレジスト下方は浸透しにくく、銅表面に有機物の残さ、汚染物等が残り、無電解スズめっき時に反応速度が著しく早くなり、銅が過剰に溶解する。
【0007】さらに最近では微細配線パターン化の要求が強くなっており、めっき面積がより小さくなっていることから、めっき面積の大きいところと微細な部分で、無電解スズめっき時に反応速度に差が生じる。特に、微細部では無電解スズめっきの反応速度が早くなり、銅が過剰溶解しリード強度が低下する。
【0008】また最近では、ファインピッチ化の要求が強くなっており、レジストコート時の銅表面の汚染、酸化により、銅とレジストとの密着性の低下により、銅とレジストの界面にエッチング液が浸透し、微細配線パターンの形成が困難となる場合がある。
【0009】他の問題点として、スズめっき皮膜はスズめっき直後、放置するとホイスカ(ひげ状の結晶)が発生することが良く知られており、特に微細ピッチのパターンではホイスカの発生がショートの原因となるため、種々の検討が行われてきた。このスズホイスカの抑制手段としては、(1) 下地めっきとして、ニッケル、銅、鉛、はんだ、スズ−ニッケル合金、スズ−銅合金層を形成する。(2) めっき後にリフロー処理を施す。(3) めっき後に加熱してアニール処理を施す。(4) スズめっきを他のスズ−合金めっきまたは他の金属めっきに変更する。(5) スズめっきに数%以上鉛を含む半田めっきに変更する。等が知られている。
【0010】しかしながら、上記(1) の下地めっきを施す手法は、下地めっき工程が付与されるのでコストが高くなる。上記(2) のめっき後にリフロー処理を施す方法は、最初に厚く均一なめっきを施したとしても、リフロー後はめっき厚にバラツキが生じてしまい、さらにスズめっき表面が酸化するという問題が生じる。上記(3)のめっき後にアニール処理を施す方法は、短期間ではホイスカ抑制効果があるが、6ケ月程度の長期間になると完全にホイスカの成長を防止することができないため、完全なホイスカ対策とはならないという問題がある。上記(4) 、(5) の手法は金めっき、半田めっきを行うことがあるが、金めっきはコスト高、半田めっきはめっき皮膜組成、膜厚のコントロールが難しい等の問題がある。
【0011】そこで、本発明の目的は、上記課題を解決し、ソルダーレジスト下方のリード配線の銅の過剰溶解、つまりソルダーレジスト際の銅の喰われを防止すると共に、安価に、且つスズめっきの特性を損なわずに、スズめっきのホイスカを抑制することのできる、高い信頼性を有するスズめっき構造の半導体装置用テープキャリアおよびその製造方法を提供することにある。
【0012】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するため、本発明は、次のように構成したものである。
【0013】(1)請求項1の発明に係る半導体装置用テープキャリアは、絶縁フィルム上に接着剤層を介して施された銅箔の表面の全面にスズめっき層を厚さ0.01〜0.2μm形成した後、パターニングして微細配線パターンを形成し、その配線パターン上の端子部分を除く所定の位置にソルダーレジストを塗布し、前記端子部分に、厚さ0.15〜0.80μmのスズめっき層を形成し、加熱処理することにより、厚さ0.20μm以上のスズ−銅合金層と厚さ0.15〜0.80μmの純スズ層を形成したことを特徴とする。
【0014】(2)請求項2の発明に係る半導体装置用テープキャリアの製造方法は、絶縁フィルム上に接着剤層を介して施された銅箔の表面の全面にスズめっき層を厚さ0.01〜0.2μm形成した後、加熱処理し、その後フォトレジストをコートし、露光、現像、エッチング、剥膜処理することにより銅箔に微細配線パターンを形成し、その後、前記配線パターン上に、その端子部分を除く所定の位置にソルダーレジストを塗布した後、前記端子部分に、厚さ0.15〜0.80μmのスズめっき層を形成し、加熱処理することにより、厚さ0.20μm以上のスズ−銅合金層と厚さ0.15〜0.80μmの純スズ層を形成することを特徴とする。
【0015】(3)請求項3の発明は、請求項2記載の製造方法において、前記スズめっき層の形成を無電解めっきにより行うことを特徴とする。
【0016】
【発明の実施の形態】以下、本発明を図示の実施形態に基づいて説明する。
【0017】図1に本発明による半導体装置用テープキャリアの例としてのTABテープキャリアの製造方法を示す。まず、図1(a)に示すようにポリイミド樹脂製絶縁フィルム1上に接着剤層2を介して銅箔3を形成したテープキャリアを用意し、その銅箔3の全面に、図1(b)に示すように、1回目のスズめっき処理として、厚さ0.01〜0.2μmのスズめっき層4を形成し、加熱処理することにより当該スズめっき層に銅を拡散して、銅拡散スズめっき層すなわちスズ−銅合金層5aを形成する。この場合、一部に純スズ層4aが存在していても良い。
【0018】次に、図1(c)に示すように、所定のフォトレジスト10を塗布して乾燥させた後に、所定の配線リードパターンを有するフォトマスクを通して露光、現像させた後、エッチング、剥膜処理を行うことにより、図1(d)の如く所定の微細配線パターン30を作製する。
【0019】この後、図1(e)に示すように、この配線パターン30上の一部分に、つまり銅リード3a等の端子部分を除いた所定の位置に、ソルダーレジスト6を印刷法により塗布する。
【0020】この後、図1(f)に示すように、このテープキャリアの上記端子部分(銅リード3a等)に、つまり1回目のスズめっき層上に、2回目のスズめっき処理として、純スズめっき層を0.15〜0.80μmの厚さで形成し、100〜150℃、5分〜90分の加熱処理をすることにより当該スズめっき層に銅を拡散して、純スズ層4bとスズ−銅合金層5bを形成する。ここでは、厚さ0.15〜0.80μmの実質的に銅を含有しないスズめっき層すなわち純スズ層4bと、厚さ0.20μm以上の銅拡散スズめっき層すなわちスズ−銅合金層5bを形成する。
【0021】このようにして形成されるTABテープキャリアは、1回目のスズめっき処理の際には、ソルダーレジスト6が存在しないので、局部的に銅の過剰溶解部9が形成されることがない。そして2回目のスズめっき処理の際には、ソルダーレジスト6の下面にめっき液が侵入したとしても、銅の表面はスズ−銅合金層5aが形成され、銅箔がめっき液と接触することはないので、局部的な電食が起こらず、従って、図4に示した銅の過剰溶解部9が銅リード3aに形成されることがない。よって、銅リード3aに銅の過剰溶解部9が存在して銅リード3aの強度が弱まるという不都合を無くすことができる。
【0022】上記のTABテープキャリアの製造方法において、1回目のスズめっき処理後の加熱処理は実施せず、純スズ層4aを形成させただけでも良い。
【0023】1回目のスズめっき層の厚さは0.01〜0.2μmが好ましい。この1回目のスズめっき層の厚さが0.2μmを越えると、エッチングによるパターン形成が困難になるためである。
【0024】一方、2回目のスズめっき処理による純スズ層4bの厚さを0.15〜0.80μmとした理由は、0.15μm未満の場合はインナリードのボンディング性が困難となり、0.8μmを越えるとめっきだれを生じ、短絡の原因となるからである。また、2回目のスズめっき処理によるスズ−銅合金層5の厚さを0.20μm以上とした理由は、0.20μm未満の場合はホイスカ抑制効果が不十分となるからである。
【0025】上記TABテープキャリアの半導体素子への実装作業は、例えば図3に示すように半導体素子(ICチップ)7をデバイスホールに位置するように配置し、デバイスホールに突出したインナーリードと半導体素子7の電極を位置合わせした後、ボンディングツールにより圧着する。半導体素子7の電極には金バンプ8が形成されており、加熱された状態で銅リード3aに圧着されると、スズめっきが溶融し金−スズ合金が形成し、電極とインナーリードが強固に接合される。
【0026】
【実施例】ポリイミド樹脂製絶縁フィルム1上に接着剤層2を介して厚さ25μmの銅箔3を設けたテープキャリアを用意し、その銅箔3の全面に、1回目のスズめっき処理として、厚さ0.01〜0.2μmのスズめっき層4を形成し、100〜150℃、5分〜90分の加熱処理させた後、所定のレジストを塗布して乾燥し、所定の配線リードパターンを有するフォトマスクを通して露光、現像させた後、エッチングを行うことによりリードパターン(配線パターン30)を作製した。
【0027】そして、ポリイミド樹脂製絶縁フィルム1上に銅の微細配線パターン30が形成された半導体装置用テープキャリアの銅の配線パターン30上の一部分にソルダーレジスト6を印刷後、2回目のスズめっき処理として、スズめっき層を0.3〜0.6μm形成し、100℃〜150℃、5分〜90分の加熱処理により、純スズ層4bを0.2〜0.3μm、スズ−銅合金層5bを0.15〜0.25μm形成させたものを作製した。
【0028】ここでスズめっきは電解及び無電解めっきのいずれかの方法で形成しても良いが、めっき厚のバラツキの少ない点で無電解めっきとした。
【0029】無電解スズめっき液は石原薬品製580Mを用い、70℃、5〜500sで処理した。1回目のスズめっき後、100〜150℃、5〜90分加熱処理し、2回目のスズめっき後の加熱処理を100〜150℃、5〜90分加熱した。このように作製したサンプルについて、銅の過剰溶解性の評価を断面観察にて行った。この結果を、表1にスズめっき条件と銅過剰溶解性評価結果として示す。
【0030】
【表1】


【0031】表1から判るように、1回目のスズめっき厚が0.01〜0.2μmの範囲では、銅の過剰溶解は観察されなかった。一方、サンプル1のようにソルダーレジスト印刷後に2回目のスズめっき処理に相当する無電解スズめっきをしただけの場合(1回目のスズめっき処理なしの場合)、およびサンプル6のように1回目のスズめっき厚が0.2μmを越える場合には、パターン不良が観察された。
【0032】次に、コクール計により純スズめっき厚、蛍光X線膜厚計により全スズ厚を測定し、(全スズ厚)から(純スズ厚)を差し引きしてスズ−銅合金層の層厚を求め、1〜6月(30日、60日、90日、180日)放置した後のインナリード150本について、それぞれ200倍の光学顕微鏡によりホイスカの観察を行い、そのホイスカの発生数を数えた。このスズめっき条件とスズめっき厚、ホイスカ性評価結果を表2に示す。表2から判るように、スズ−銅合金層が0.20μm未満(サンプル2、5、8、11、14)の場合、経過日数が増加するにつれてホイスカ発生数が増加することが観察された。これによりスズ−銅の拡散層が厚いほどスズのホイスカを抑制する効果があることが判る。
【0033】
【表2】


【0034】上記実施例では銅箔25μmのテープキャリアを用いたが、これに代えて銅箔10μmのテープキャリアで上記と同様な評価を行ったところ、1回目の銅箔全面へのスズめっき厚さが0.01〜0.2μmの範囲では銅の過剰溶解現象が発生しなかった。
【0035】
【発明の効果】以上説明したように本発明によれば、次のような優れた効果が得られる。
【0036】本発明の半導体装置用テープキャリア及びその製造方法によれば、絶縁フィルム上に接着剤層を介して施された銅箔の表面の全面にスズめっき層を厚さ0.01〜0.2μm形成した後、加熱処理し、その後フォトレジストをコートし、露光、現像、エッチング、剥膜処理することにより銅箔に微細配線パターンを形成し、その後、前記配線パターン上に、その端子部分を除く所定の位置にソルダーレジストを塗布した後、前記端子部分に、厚さ0.15〜0.80μmのスズめっき層を形成し、加熱処理することにより、厚さ0.20μm以上のスズ−銅合金層と厚さ0.15〜0.80μmの純スズ層を形成する。
【0037】このように形成されるテープキャリアは、1回目のスズめっき処理の際には、ソルダーレジストが存在しないので、局部的に銅の過剰溶解部が形成されることがない。そして2回目のスズめっき処理の際には、ソルダーレジストの下面にめっき液が侵入したとしても、銅の表面はスズ−銅合金層が形成され、銅箔がめっき液と接触することはないので、局部的な電食が起こらず、従って、銅の過剰溶解部が銅リードに形成されることがない。よって、銅リード3aに銅の過剰溶解部が存在して銅リードの強度が弱まるという不都合を無くすことができる。
【0038】更に、2回目のスズめっき処理においては、純スズ層を0.15〜0.80μmとしているので、インナリードのボンディング性が良好であり且つめっきだれを生じない。また2回目のスズ−銅合金層を0.20μm以上としているので、十分なホイスカ抑制効果を得ることができる。従って、比較的安価でスズのホイスカを抑制することができ、高い信頼性を有したスズめっき皮膜が得られる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のテープキャリアの構造を工程毎に示した断面図である。
【図2】従来のテープキャリアの構造を工程毎に示した断面図である。
【図3】本発明のテープキャリアにICチップを搭載して半導体装置を構成した組立図である。
【図4】銅の過剰溶解現象を示した断面図である。
【符号の説明】
1 ポリイミド樹脂製絶縁フィルム
2 接着剤層
3 銅箔
3a 銅リード
4 スズめっき層
4a、4b 純スズ層
5 スズ−銅合金層
5a、5b スズ−銅合金層
6 ソルダーレジスト
9 銅の過剰溶解部
10 フォトレジスト
30 配線パターン

【特許請求の範囲】
【請求項1】絶縁フィルム上に接着剤層を介して施された銅箔の表面の全面にスズめっき層を厚さ0.01〜0.2μm形成した後、パターニングして微細配線パターンを形成し、その配線パターン上の端子部分を除く所定の位置にソルダーレジストを塗布し、前記端子部分に、厚さ0.15〜0.80μmのスズめっき層を形成し、加熱処理することにより、厚さ0.20μm以上のスズ−銅合金層と厚さ0.15〜0.80μmの純スズ層を形成したことを特徴とする半導体装置用テープキャリア。
【請求項2】絶縁フィルム上に接着剤層を介して施された銅箔の表面の全面にスズめっき層を厚さ0.01〜0.2μm形成した後、加熱処理し、その後フォトレジストをコートし、露光、現像、エッチング、剥膜処理することにより銅箔に微細配線パターンを形成し、その後、前記配線パターン上に、その端子部分を除く所定の位置にソルダーレジストを塗布した後、前記端子部分に、厚さ0.15〜0.80μmのスズめっき層を形成し、加熱処理することにより、厚さ0.20μm以上のスズ−銅合金層と厚さ0.15〜0.80μmの純スズ層を形成することを特徴とする半導体装置用テープキャリアの製造方法。
【請求項3】請求項2記載の製造方法において、前記スズめっき層の形成を無電解めっきにより行うことを特徴とする半導体装置用テープキャリアの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2002−289654(P2002−289654A)
【公開日】平成14年10月4日(2002.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2001−86914(P2001−86914)
【出願日】平成13年3月26日(2001.3.26)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】