半導体装置
【課題】 光学利得の制御が可能でかつ設計自由度の大きい、量子ドットを用いた半導体装置を提供することを目的とする。
【解決手段】 半導体基板(1)上に少なくとも複数の活性層(4)又は複数の光導波路層が形成されてなる半導体装置において、前記活性層(4)又は光導波路層は量子ナノ構造(100)を含んでおり、前記量子ナノ構造(100)の高さが、光の導波方向に対して垂直でかつ前記半導体基板(1)に平行な方向に段階的に又は周期的に変化していることを特徴とする。あるいは、前記量子ナノ構造(100)の高さが光の導波方向に沿って段階的に又は周期的に変化していることを特徴とする。
【解決手段】 半導体基板(1)上に少なくとも複数の活性層(4)又は複数の光導波路層が形成されてなる半導体装置において、前記活性層(4)又は光導波路層は量子ナノ構造(100)を含んでおり、前記量子ナノ構造(100)の高さが、光の導波方向に対して垂直でかつ前記半導体基板(1)に平行な方向に段階的に又は周期的に変化していることを特徴とする。あるいは、前記量子ナノ構造(100)の高さが光の導波方向に沿って段階的に又は周期的に変化していることを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、量子ナノ構造を有する半導体装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、インターネットをはじめとする様々なマルチメディアの普及に伴い、データトラヒックの増大が問題となっている。そこで、その問題を解決すべく、WDM(波長多重伝送)システムがめざましい発展を遂げ普及している。
【0003】
WDMシステムでは、複数の光信号をそれぞれ異なる波長に乗せて伝送することにより1本のファイバで従来の100倍にも及ぶ大容量伝送を実現している。特に既存のWDMシステムは、エルビウム添加ファイバアンプ(以下、EDFAという)やラマンアンプ等の光ファイバアンプを用いることにより広帯域・長距離伝送を可能としている。
【0004】
ここで、EDFAは、エルビウムという元素を添加した光ファイバに、伝送信号である波長1550nm帯の光を通すことにより、波長1480nm帯あるいは980nm帯の励起レーザで励起した際に伝送信号光が前記光ファイバの中で増幅されるという原理を応用した光ファイバアンプである。
【0005】
また、ラマンアンプは、EDFAのようにエルビウム添加ファイバといった特殊な光ファイバを必要とせずに、通常の伝送路ファイバを利得媒体とする光ファイバアンプであり、従来のEDFAを用いることを前提としたWDMシステムに比べて広帯域で平坦な利得を有する伝送帯域を実現することができるという特徴を有している。
【0006】
前記WDMシステムの安定性向上や中継数の低減を実現するためには、前述した光ファイバアンプには、水平単一横モードで安定動作する高出力の半導体励起光源(励起レーザ)が必要となる。一方、WDMシステムの信号光源においては、狭線幅で高速変調可能な単一モード発振する半導体信号光源(信号レーザ)が大容量・長距離伝送する上で必要となる。更に、近年、急速に実用化が進められているFTTH (Fiber To The Home)などのアクセス系システムでは、80-100℃近くまで動作可能な信号光源が低価格で要求されている。
【0007】
このように、現在の光ファイバ通信システムにおいて、半導体レーザは必要不可欠なデバイスである。特に、量子井戸構造、好適には複数の量子井戸とバリア層で構成された多重量子井戸構造(MQW構造:Multi-Quantum Well構造)を活性層として有する埋め込みヘテロ(BH)型半導体レーザは安定した水平単一モードを実現するという点で有効であり、実際に、これらの構造を有する半導体レーザをパッケージした半導体レーザモジュールが光ファイバアンプの半導体励起光源やWDMシステムの半導体信号光源として用いられている。
【0008】
半導体レーザの高出力化を実現する技術として、活性層をMQW構造、特に歪MQW構造で形成することが知られている。MQW構造は、半導体材料で作製された井戸層とバリア層が交互にヘテロ接合されることで実現され、特に各へテロ接合において、バリア層は、井戸層よりも広いバンドギャップエネルギーを有している。また、歪MQW構造は、井戸層の半導体材料の格子定数と半導体基板の格子定数が異なる構造であり、一層の高性能化が可能であることが知られている。
【0009】
また、発振閾値の大幅な低減、レーザ発振特性の温度特性改善などのさらなる特性改善には、量子井戸活性層に量子細線、量子ドット構造等のナノオーダーの2次元あるいは3次元構造の量子ナノ構造を用いることが有効であることが理論的に示されている。これは、電子あるいは正孔といったキャリアが2次元あるいは3次元ポテンシャルに閉じ込められることによって、量子サイズ効果が生じ、状態密度が特定の離散順位において先鋭化し、注入したキャリアが局在化することに起因する。
【0010】
近年、量子ドット構造を、SK(Stranski−Krastanow)モードによる自然形成現象、すなわち、結晶の歪エネルギーを利用して、結晶成長中の自己組織化現象を用いて形成する方法が活発に研究されている。(非特許文献1参照)
非特許文献1には、分子線エピタキシー(MBE)を用いたSK成長による量子ドットの形成過程が開示されている。具体的には、以下のことが開示されている。すなわち、GaAs(001)基板上にInAsからなる量子ドット構造を形成する場合、基板上のInAsの堆積量が1ML(分子層)程度までは、層状成長が行われ、ウェッティング層というある程度基板からのGa原子を含んだGaInAs層が形成される。次いで、堆積量が増えて1.7ML程度になると、該ウェッティング層上に3次元のInAs島が出現し、量子ドットが形成される。
【0011】
かかる作製方法で形成された量子ドットは、量子ドットの位置制御が困難であり、無秩序な配置をすることや形成されるドットの形状のばらつきが大きいことが挙げられる。このためドットのサイズに応じて量子化準位が異なるために、状態密度も揺らぐことになり、レーザ発振時の光学利得スペクトルも非常に広帯域なスペクトルになり、量子サイズ効果が十分に発現しないといった問題がある。
【0012】
一方、量子ドットのサイズ揺らぎを積極的に利用した光半導体装置が特許文献1に開示されており、不均一な大きさの自然形成量子ドットを小さい面積比率で形成させることにより、利得帯域の広い光半導体装置が実現されるとしている(特許文献1参照)。
【非特許文献1】''半導体ナノ構造の自己組織化''、尾関雅志、清水雄一郎 応用物理 第72巻 第10号(2003)
【特許文献1】特開2003―124574号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、特許文献1に示された光半導体装置では、広帯域な波長域において光学利得を有するが、光学利得の分布が自然形成により生じた量子ドットのサイズに依存する。このため、例えば、波長可変レーザに適用した場合に、波長可変の波長帯域が、自然形成した量子ドットの揺らぎにより制限されるといった問題が生じる。
【0014】
また、不均一な量子ドットを活性層に用いた半導体光増幅器では、波長に応じて利得差が生じるために、例えばWDMシステムのように多数のチャネルを一括増幅する場合、増幅後の信号強度がチャネルにより異なるといった問題が生じる。
【0015】
本発明は上記問題に鑑みてなされたものであって、光学利得の制御が可能でかつ設計自由度の大きい、量子ドットを用いた半導体装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
以上の目的を達成するため、本発明の請求項1に記載の発明は、半導体基板上に少なくとも複数の活性層又は複数の光導波路層が形成されてなる半導体装置において、前記活性層又は光導波路層は量子ナノ構造を含んでおり、前記量子ナノ構造の高さが、光の導波方向に対して垂直でかつ前記半導体基板に平行な方向に段階的に又は周期的に変化していることを特徴とする半導体装置である。
【0017】
請求項2に記載の発明は、半導体基板上に少なくとも複数の活性層又は複数の光導波路層が形成されてなる半導体装置において、前記活性層又は光導波路層は量子ナノ構造を含んでおり、前記量子ナノ構造の高さが光の導波方向に沿って段階的に又は周期的に変化していることを特徴とする半導体装置である。
【0018】
請求項3に記載の発明は、光の導波方向が主に<011>方向であることを特徴とする請求項1又は2のいずれか一項に記載の半導体装置である。
【0019】
請求項4に記載の発明は、前記量子ナノ構造は、量子ドット、量子箱、量子細線又は量子ダッシュの少なくともいずれか一つを含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の半導体装置である。
【0020】
請求項5に記載の発明は、前記量子ナノ構造は、前記半導体基板の格子定数と異なる格子定数の結晶層を含む層構造上に形成されることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の半導体装置である。
【0021】
請求項6に記載の発明は、前記量子ナノ構造は、(100)面方位から傾斜した結晶面方位を有する層構造上に形成されることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の半導体装置である。
【0022】
請求項7に記載の発明は、前記量子ナノ構造は、結晶面方位が(n11)である層構造上に形成されることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の半導体装置である。
【0023】
請求項8に記載の発明は、前記半導体基板の面方位は(n11)であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載の半導体装置である。
【0024】
請求項9に記載の発明は、前記半導体基板の面方位は、(100)からの傾斜角度が15°以下であることを特徴とする請求項1〜8のいずれか一項に記載の半導体装置である。
【0025】
請求項10に記載の発明は、前記活性層又は前記光導波路層に電流注入ないし電圧印加を行うための電極を複数有し、前記電極の各々が電気的に独立であることを特徴とする請求項1〜9のいずれか一項に記載の半導体装置である。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、非常に広帯域な波長域で動作可能な半導体装置を実現できる。また、本発明によれば、半導体装置の光学利得の波長帯域を制御でき、設計自由度の高い半導体装置を実現することが出来る。特に、広帯域波長可変レーザ、多波長同時発振レーザ、半導体増幅器、白色光源において前記の効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下に、本発明に係る半導体装置の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。図1は、本発明に係る半導体装置、具体的には広帯域の波長域で動作する半導体レーザアレー装置の断面斜視図である。
【0028】
図1に示す半導体装置は、半導体基板1上に、下部クラッド層2A、下部SCH(Separate Confinement Heterostructure)層3A、活性層4、上部SCH層3B、上部クラッド層2B、コンタクト層5を有している。また、前記コンタクト層5上に電極6Aが、半導体基板1の下面に電極6Bが、それぞれ形成されている。
【0029】
なお、活性層は光導波路とみなしたときには、光が閉じ込められるコア層として機能する。
【0030】
また、前記活性層4は、量子ドット層100とバリア層101により形成されている。さらに、前記量子ドット層100は、ウェッティング層100−1と量子ドット100−2により構成されている。
【0031】
なお、活性層4における最下層のバリア層101が下地層を兼ねているが、下地層を、最下層のバリア層とは独立させて前記活性層4と前記下部SCH層3Aの間に形成することもできる。下地層は、量子ドットの形成に際して、所望の波長を実現するために量子ドットのサイズ及び形状を制御することを目的として設けられる層である。特に、この下地層を、半導体基板1と異なる格子定数を持つ結晶層(歪層)とすると、量子ドットのサイズ及び形状を制御することができ、その結果、半導体レーザの発振波長を広い範囲で制御することが可能となる。
【0032】
また、上記のように活性層4の最下層のバリア層101が下地層を兼ねることとせずに、下地層を活性層4中に形成することもできる。この場合には、下地層をバリア層101とウエッティング層100−1の間に形成することが好ましい。さらに、効率的な電流注入を行うためには、禁制帯幅Egが Eg(バリア層)≧Eg(下地層)>Eg(ドット層) となることがより好適である。
【0033】
本実施の形態においては、活性層を構成する量子ドット100−2の高さが、光の導波方向に垂直な方向に配置したアレーのストライプにより段階的に異なっている。このため、キャリアが閉じ込められる量子準位がストライプにより異なるので、それぞれのストライプで異なる発振波長のレーザを実現することができる。
【0034】
また、各ストライプの量子ドットに直径(あるいは横方向のサイズ)の揺らぎを持たせると、活性層が薄膜構造からなる量子井戸デバイスと比較して、光利得がより広い波長域で分布するために、より広帯域での動作が可能となる。
【0035】
本実施の形態においては、上部電極6A及びコンタクト層5に溝7を形成することで電極6Aを電気的に独立に分離しているので、個別のアレーストライプのレーザを独立に駆動することが可能である。
【0036】
また、上記のように電極を電気的に分離した構造において、電極6Aをアースにとり、電極6Bをプラスにして逆バイアスを印加することとすれば、電界吸収型の能動素子として使用することができる。その場合には、活性層4が吸収層として機能することになり、所望の吸収係数を得るために量子ドットの積層数を最適化するものとする。この電界吸収型の能動素子は、薄膜から構成される従来の量子井戸構造よりも大きな屈折率差を電界印加時に得られるので、低電圧動作時でも大きな消光比を実現することができる。
【0037】
ここで、本実施の形態に記載の各ストライプにより高さの異なる自然形成量子ドットは、例えば、有機金属気相成長法(MOCVD)などの結晶成長法を利用した選択成長技術を用いて実現される。
【0038】
その際に用いられる選択成長マスクのパターンの一例を図2に示す。選択成長マスクは、SiO2等の誘電体からなり、マスクの誘電体ストライプの一つが他のストライプよりも広い幅(W)を具備することを特徴としている。このマスクは、フォトリソグラフィなどの既知のプロセスを経て半導体層上に形成される。なお、図2中の(1)・・・(16)は、アレー中のレーザストライプ番号を示している。
【0039】
(実験例) 図3〜5に、他の誘電体ストライプよりも幅の広い誘電体ストライプ(以下、幅広誘電体ストライプという)がそれぞれ50μm及び300μmである2種類の選択成長マスクを用いて、単層からなるInAs量子ドットを自然形成した場合について、量子ドットサイズ等のストライプ位置依存性を調べた結果を示す。成長温度は540℃、成長圧力は15Torrとした。前記量子ドットサイズ等は、具体的には量子ドットの高さ、直径、分布密度である。なお、これらの構造評価には原子間力顕微鏡(AFM)を用いており、各ストライプの中心付近1μm×1μmの領域について評価を行った。なお、図中のプロットは、分布のメジアン値を示しており、各ポイントのばらつきは、30%程度であった。
【0040】
幅広誘電体ストライプの幅が50μmの場合は、量子ドットの高さ、直径、分布密度はアレーストライプの位置にほとんど依存していない。これに対し、幅広誘電体ストライプが300μmの場合は、量子ドットの分布密度と直径はアレーストライプの位置に依存しないが、高さは、幅広誘電体ストライプに近いほど高くなる傾向が得られている。
【0041】
上記の結果から、幅広誘電体ストライプを50μmよりも大きくした選択成長マスクを用いることにより、量子ドットの高さを制御できるとの知見を得ることができた。このことは、幅広誘電体ストライプの幅を制御することで量子ドットの高さを変化させ、所望の波長帯域を実現できることを示している。
【0042】
上記の結果は、選択成長マスクにおける一本のストライプを他のストライプ幅よりも大きくすることにより、ストライプに垂直かつ基板に平行な方向で量子ドット原料の気相拡散の程度が変化することで説明される。即ち、幅の広いマスク近傍では、気相拡散の影響で量子ドット原料の供給量が大きいために量子ドットの高さが高くなるが、幅広誘電体ストライプから離れるに従って、気相拡散の影響が小さくなって原料供給量が減るためにドットの高さが低くなるのでる。なお、量子ドットの直径や分布密度については、量子ドット原料の供給レート、成長レート、供給時間、成長温度、成長圧力などで制御することができる。
【0043】
また、本実験では、マスクの端に幅広誘電体ストライプを一本配置した選択成長マスクを用いたが、量子ドットが形成される領域における原料の供給量あるいは成長速度を制御するといった観点からは、幅広誘電体ストライプは選択成長マスクの中心に配置しても問題ないし、複数本用いても問題はない。また、本実験では、量子ドットが形成される選択成長領域の幅が4μm、形成されない領域の幅が3μmとなるような選択成長マスクを用いたが(図2参照)、これらの幅の設計を変えることによっても量子ドット原料の供給量を制御することができ、量子ドットの高さを制御することができる。
【0044】
ところで、図6は、幅広誘電体ストライプの幅を変えた場合の量子ドットの高さを調べた結果である。番号(1)(8)(16)は、レーザストライプの位置を示し、番号が若いほど幅広誘電体ストライプに近い。この結果として、幅広誘電体ストライプの幅が広くなるに従って、量子ドットの高さは高くなるが、あるところで飽和する傾向が得られている。また、量子ドット高さの幅広誘電体ストライプ幅依存性は、幅広誘電体ストライプに近いレーザストライプほど顕著である(ストライプ番号(1))。このことから、ストライプ方向に沿って幅広誘電体ストライプの幅を変化させた選択成長マスクを用いることにより、同一ストライプ内でストライプ方向に高さの異なる量子ドットを形成することが可能であることが示された。
【0045】
また、別途、量子ドットの高さに関して、成長レートの影響を実験的に検討を行った。成長レート0.5ML/sで高さが5.5nmであったのに対し、成長レート0.13ML/sで高さ6.5nmとなった。このことから、本発明者らは、成長レートが低くなるほど、量子ドットの高さが高くなることを実験的に見出した。この知見から、幅広誘電体ストライプの幅を最適化することで、幅広誘電体ストライプの遠方ほどドットの高さを高くすることも可能となる。なお、上記成長レートの値は、成長温度に依存する。
【0046】
[実施例1] 上記の実施の形態に係る実施例として、半導体レーザアレー装置について説明する。本実施例の半導体レーザアレー装置は、量子ドットを含む活性層を成長する際に、幅広誘電体ストライプを設けた選択成長マスクを用いることにより、量子ドットの高さを光の導波方向に対して垂直かつ基板に平行な方向に異ならせたことを特徴とする半導体レーザアレー装置である。
【0047】
図7(a)に、この半導体レーザアレーの長手方向(共振器方向)の縦断面図を、また、図7(b)に、斜視図(手前の面が共振器に垂直な面である。)を示す。この半導体レーザアレー装置は、n型InP半導体基板1の(100)面上に、n型InPからなる下部クラッド層2A、アンドープの下部SCH層3A、活性層4、アンドープの上部SCH層3B、p型InPからなる上部クラッド層2B、p型GaInAsPからなるコンタクト層5が順に積層された構造を有している。これらの層は、MOCVD法や分子線エピタキシー(Molecular Beam Epitaxy, MBE)法などにより積層される。
【0048】
また、電極6Bがn型InP半導体基板1の下側表面に形成され、電極6Aがコンタクト層5上に形成されている。上部電極6A及びコンタクト層5に溝7が形成されることで、電極6Aは電気的に独立に分離されている。
【0049】
下部SCH層3A、活性層4及び上部SCH層3Bは、フォトリソグラフィ技術とエッチングプロセスを用いて形成されたメサ構造をなしており、このメサ構造の隣接領域に、p型半導体層8及びn型半導体層9からなる電流ブロッキング層が形成された埋込みへテロ(buried hetero,BH)構造となっている。この電流ブロッキング層は、活性層4への注入電流を狭窄する機能を持つとともに、安定した水平横モードを実現する働きを持つ。本実施例では、安定性に優れた水平単一横モードを得るために上述のBH構造を採用しているが、横モードが制御されていれば、リッジ構造や自己整合型(self-aligned structure, SAS)構造であってもよい。
【0050】
活性層4は、量子ドット構造を含み、該量子ドット構造は、図1に示すように、InAsからなる量子ドット層100及び膜厚10nmのGaInAsPからなるバリア層101からなる歪MQW構造である。この活性層4の作製は、たとえば次のようにして行われる。すなわち、MOCVD法により下部SCH層3A及び最外接のGaInAsPバリア層101を620℃、60Torrでエピタキシャル成長した後、通常用いられる半導体プロセスを用いて、図2に示すようなSiO2からなる選択成長マスクを形成する。その後、540℃、15Torrで量子ドット層100及びバリア層101からなるMQW構造を成長する。この際、上記の選択成長マスクによって、基板面内でレーザストライプ方向に垂直かつ基板に平行な方向に高さの異なる量子ドットが形成される。
【0051】
なお、上記のようにして活性層4を作製した後は、成長中断し、620℃、60Torrで上部SCH層3B及び上部クラッド層2Bを成長し、さらに通常用いられるウエハプロセスを経てBH構造を形成する。これらの工程により、<011>方向に光が導波される構造となる。
【0052】
本実施例では、活性層4にn型不純物を7×1017cm−3ドープすることにより、素子抵抗及び熱抵抗を低減させ、高い電流注入時においても、低消費電力かつ高出力動作が可能な半導体レーザアレーとした。このn型不純物ドーピングは、MQW構造を構成する量子ドット層100及びこれに隣接したバリア層101からなるペアの少なくとも一部に行えばよく、必ずしも活性層の全ての領域に行う必要はない。また、要求される光出力の値いかんによっては、活性層4にp型不純物をドーピングする構造としても良いし、また、不純物ドーピングを行わない構造としても良い。なお、高速変調用の信号光源として用いる場合には、1×1018cm−3程度のp型ドーピングが、微分利得を高くするといった観点からより有効である。
【0053】
次に、本実施例の半導体レーザアレー装置の活性層付近のバンド構造について説明する。図8に、本実施例の半導体レーザアレー装置の積層方向におけるバンドギャップダイヤグラムを、下部クラッド層2Aから上部クラッド層2Bまでの範囲で示す。活性層4は、量子ドット層100とバリア層101が交互に隣接してヘテロ接合され、活性層4は、積層方向に3つの井戸を有するMQW構造となっている。なお、この井戸層数は、量子ドットの活性層に対する体積占有率の観点から、本実施例のように3層又はそれ以上とすることが好ましい。
【0054】
図8に示すように、SCH層3A及び3Bは、それぞれ活性層から離れるについれて各層のバンドギャップエネルギーが階段状に増加する複数の層3A1、3A2、・・・、3An及び3B1、3B2、・・・、3Bnを有したGRIN−SCH構造となっている。本実施例では、バリア層101を組成波長1.2μmのGaInAsPとし、SCH層3A、3Bを組成波長0.95μm、1.0μm、1.05μm、1.1μm、1.15μm、1.2μmで各層の厚さが40nmのGaInAsPとした。なお、下部SCH層3A全体及び上部SCH層3B全体のそれぞれの厚さは、200nm以下、より好適には100nm以下、さらに好適には30〜40nmとすることが望ましく、この厚さは、要求される光出力や閾値電流等の仕様に応じて最適な値を選ぶものとする。
【0055】
本実施例では、最適構造としてバンドギャップエネルギーの包絡線が直線的に変化する多段のGRIN−SCH構造をSCH構造として採用したが、所望の光出力が得られるのであれば、上記のような構造に限られるものではない。また、本実施例においては、上部SCH層3Bと下部SCH層3Aとを、活性層4に対して位置、厚さ、組成が全て対称となるようにしたが、n側の下部SCH3を上部SCH層3Bより厚くした非対称構造としてもよい。
【0056】
さらに、図7(a)に示されるように、この半導体レーザアレー装置は、劈開面で形成され、光が出射する面である前端面と、これに対向する劈開面で形成される後端面とによって共振器長Lが規定される。本実施例ではL=1300μmとした。前端面上には、共振器の前面からの光出射が容易となるように低反射膜11が被覆されており、後端面上には、後面からの光出射が抑制されるように高反射膜12が被覆されている。
【0057】
ここで、本実施例では共振器長をL=1300μmとしたが、共振器長はこれに限られない。半導体レーザアレーの高出力動作の観点からは、共振器長Lは、800μm以上が好適であり、より好適には1000μm以上、さらに好適には1500μmであることが望ましい。一方、信号光源用など、低閾値動作及び高速変調動作が要求されるレーザに用いる場合は、共振器長Lは400μm以下、より好適には300μmとすることが望ましい。このように、共振器長Lは、レーザアレーの用途に応じて所望の光出力、消費電力、動作電流等の仕様を満たすように決定するものとする。
【0058】
また、高出力動作を実現するためには、共振器長だけではなく、低反射膜11の反射率を共振器長に応じて最適化することが好ましい。例えば、共振器長が1000μmである半導体レーザでは、低反射膜の反射率は5%以下、より好適には3%以下とすることが望ましい。本実施例の半導体レーザアレーでは、共振器長をL=1300μmとしたので、低反射膜11の反射率を1.5%とした。なお、共振器長が1000μm以上であってファイバブラッググレーティング等の共振器が具備される場合は、低反射膜の反射率を1%以下とすることが望ましい。一方、高反射膜の反射率は、高出力動作の観点から90%以上とすることが望ましい。本実施例の半導体レーザアレーでは98%としたが、実際には、レンズや光ファイバなどの光学部品や受光素子、ペルチェ素子などで構成されるレーザモジュールを構成した際に、高反射膜側に配置される光出力モニタ用受光素子の受光電流の仕様範囲により決定される。
【0059】
以上説明したように、本実施例では、最適構造として、半導体基板1をInPとし、活性層4やSCH層3A、3BをGaInAsPとしたが、他の材料を用いることも可能である。例えば、半導体基板1をInPとし、活性層4やSCH層3A、3BをAlGaInAsP、AlGaInNAsP又はGaInAsPなどで形成してもよい。また、本実施例では半導体基板1の導電型をn型としたが、これをp型に替え、その上に形成する各層の導電型を合わせて変更した構造としても良い。
【0060】
本実施例の半導体レーザアレー装置における量子ナノ構造は、量子ドットを用いたものとしたが、量子ドットに代えて、量子箱、量子ダッシュ(量子ドットと量子細線の中間的な構造を指す)、量子細線、量子ディスク等を用いてもよく、また、これらのうちの二種類以上を組み合わせても良い。
【0061】
また、本実施例においては、(100)面からなる半導体基板を用いたが、これに代えて、(100)結晶面から傾斜した基板や、特定結晶面方位を有する(n11)基板、又はエッチングにより形成した(n11)面を用いることとすれば、(100)面よりも微小ステップが多く存在し、これらのステップ上にドットが形成されやすいことを利用して均一な量子ドットを形成できるため、より有効である。なお、傾斜基板を用いる場合は、(100)面からの傾斜角度を15°以下とすることが特に好ましい。その理由は、傾斜角度をあまりにも大きくしすぎると、原子の付着するサイトであるステップ幅が小さくなり、量子ドットの形成が却って困難になるからである。
【0062】
さらに、本実施例では、量子ナノ構造を半導体レーザアレーの活性層として用いたが、応用例として、量子ナノ構造を光導波路層や光吸収層として用いることにより、他の種々の半導体装置に本発明を適用することができる。例えば、分布帰還形(DFB)レーザ装置、分布ブラッグ反射鏡(DBR)レーザ装置、面発光レーザ装置のほか、活性層の近傍に形成したグレーティングの波長選択特性によって所定出力値以下の複数の発振縦モードを発振するタイプの半導体レーザ装置に応用することができる。また、半導体光変調器などにも応用することができる。
【0063】
[実施例2] 本実施例では、半導体光増幅器について説明する。本実施例の半導体光増幅器装置は、選択成長マスクにおいて、幅広誘電体ストライプの幅を素子のストライプ方向に沿って変化させることで、活性層を構成する量子ドットの高さを素子のストライプ方向に沿って異ならせたことを特徴とする半導体光増幅器である。この半導体光増幅器は、前記特徴により、広帯域な波長域で光学利得を制御することができる。以下、この半導体光増幅器について説明する。
【0064】
図10(a)及び(b)に、本実施例の半導体光増幅器の長手方向の縦断面図及び光出射面に平行な断面図を示す。この半導体光増幅器の構造は、量子ドットを含む活性層以外の層構造については、実施例1に記載した半導体レーザアレーにおける層構造と同様である。従って、同一の又は対応する構成要素については、図中に同一符号を付して、説明を省略する。
【0065】
本実施例の半導体光増幅器においては、活性領域長L=600μmとする。活性層4中には、図10(a)に示されるように、長手方向に200μmごとに段階的に高さの異なる3種類の量子ドットが形成されている。
【0066】
量子ドット100−2の成長に際しては、図9に示すようなパターンの選択成長マスクを使用する。この選択成長マスクは、図2で説明した幅広誘電体ストライプに相当する幅の広いパターンが、ストライプの長手方向(z方向)に沿って3段階の幅を有する構造となっており、一定幅を有する各部分の長さは200μmである。このようなパターンを用いて量子ドットの成長を行うことにより、図11に示すようにストライプ方向(z方向)において高さが変化した量子ドットの形成を行うことができる。また、各活性領域ストライプ間でも、量子ドット高さが異なっている。これらにより、量子ドットの高さに応じた量子準位が形成され、図12に示すように、量子ドットの高さに応じた遷移波長が得られる。素子化の際には、図9の例えばA−A’及びB−B’の位置で素子分離を行うものとする。
【0067】
本実施例においては、レーザ発振を抑制するために、素子端面の反射膜11、12の反射率を共に0.1%以下とする。この反射率は、小さい方が好ましく、例えば傾斜基板、窓構造、曲げ導波路等と組み合わせることが、より有効である。
【0068】
図13は、本実施例の半導体光増幅器の電流注入後の光利得分布を示しており、量子ドットの高さに応じた複数の量子準位に対応する波長を中心に光学利得の分布が得られるので、広帯域の波長域に亘って利得差の小さい特性が得られる。
【0069】
なお、本実施例では、素子全面に電極を形成した構造としたが、図14に示すように、上部電極6A及びコンタクト層5に溝7’を設けることで、量子ドットの高さごとに各領域が電気的に分離され、各領域ごとに独立に光学利得を制御することが可能になる。かかる構造により、増幅する信号のチャネル数に応じて最適な利得を広い波長帯域で実現することができる。
【0070】
また、本実施例では、高さの異なる量子ドットの領域を3領域としたが、より利得差を小さくするには領域数を増やすことがより好ましい。その際、一つの素子の中でストライプ方向に周期的に量子ドットの高さを異ならせるものとしてもよい。また、共振器長は、所望の光学利得及びその分布に応じて適宜最適化することが好ましい。
【0071】
ここで、選択成長マスクの変形例を図15(a)〜(c)及び図16に示す。図15(a)〜(c)は、図9において最も左側に位置するストライプの幅のz方向における変化のバリエーションを示したものである。図16は、幅広誘電体ストライプだけでなく、他の各誘電体ストライプの幅を変化させたマスクパターンの例である。なお、誘電体ストライプ領域の幅を一定にして、量子ドットが形成される領域の各ストライプ領域の幅を変化させても、本発明の効果が得られることは明らかである。
【0072】
以上、具体的な実施例に基づき、本発明の好適な実施形態を説明した。これらに説明したように、本発明によれば、高さの制御された量子ナノ構造を活性層に用いることにより、広い波長帯域において動作可能な、又は広い波長帯域において光学利得を制御できる半導体装置を実現することができ、設計自由度の高い半導体装置を提供することができる。特に、広帯域波長可変レーザ、多波長同時発振レーザ、利得平坦領域の広い半導体光増幅器、白色光源等に適用可能である。
【0073】
また、本発明によれば、高密度の量子ナノ構造を、変調器・受光素子等の光受動素子の吸収層に適用することによって、電界印加時に大きな屈折率変化を得ることができるため、消光比の大きな高性能な光受動素子を実現することができる。また、大きな屈折率変化が得られることにより、従来の量子薄膜構造を利用した場合よりも素子長を短くすることができ、より高速動作の可能な半導体装置を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】は、本発明の実施の形態に係る半導体装置を示す斜視図である。
【図2】は、本発明の実施の形態に係る半導体装置の作製に用いられる選択成長マスクのパターンを示す図である。
【図3】は、本発明の実施の形態に係る実験例を示すグラフである。
【図4】は、本発明の実施の形態に係る実験例を示すグラフである。
【図5】は、本発明の実施の形態に係る実験例を示すグラフである。
【図6】は、本発明の実施の形態に係る実験例を示すグラフである。
【図7】(a)は、本発明の実施例1に係る半導体レーザアレー装置を示す断面図である。(b)は、斜視図である。
【図8】は、本発明の実施例1に係る半導体レーザアレー装置のバンドギャップダイアグラムを示す図である。
【図9】は、本発明の実施例2に係る半導体光増幅器の作製に用いられる選択成長マスクのパターンを示す図である。
【図10】(a)は、本発明の実施例2に係る半導体光増幅器を示す断面図である。(b)は、斜視図である。
【図11】は、本発明の実施例2に係る半導体光増幅器における量子ドット高さを示すグラフである。
【図12】は、本発明の実施例2に係る半導体光増幅器における遷移波長を示すグラフである。
【図13】は、本発明の実施例2に係る半導体光増幅器における電流注入後の光利得分布を示すグラフである。
【図14】(a)(b)は、本発明の実施例2に係る半導体光増幅器の他の例を示す断面図である。
【図15】(a)(b)(c)は、本発明の実施の形態に係る半導体装置の作製に用いられる選択成長マスクのマスク幅を示すグラフである。
【図16】は、本発明の実施形態に係る半導体光増幅器の作製に用いられる選択成長マスクのパターンを示す図である。
【符号の説明】
【0075】
1 半導体基板
2A 下部クラッド層
2B 上部クラッド層
3A 下部SCH層
3B 上部SCH層
4 活性層
5 コンタクト層
6A、6B 電極
7、7’ 溝
8 p型半導体層
9 n型半導体層
11 低反射膜
12 高反射膜
100 量子ドット層
101 バリア層
100−1 ウェッティング層
100−2 量子ドット
【技術分野】
【0001】
本発明は、量子ナノ構造を有する半導体装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、インターネットをはじめとする様々なマルチメディアの普及に伴い、データトラヒックの増大が問題となっている。そこで、その問題を解決すべく、WDM(波長多重伝送)システムがめざましい発展を遂げ普及している。
【0003】
WDMシステムでは、複数の光信号をそれぞれ異なる波長に乗せて伝送することにより1本のファイバで従来の100倍にも及ぶ大容量伝送を実現している。特に既存のWDMシステムは、エルビウム添加ファイバアンプ(以下、EDFAという)やラマンアンプ等の光ファイバアンプを用いることにより広帯域・長距離伝送を可能としている。
【0004】
ここで、EDFAは、エルビウムという元素を添加した光ファイバに、伝送信号である波長1550nm帯の光を通すことにより、波長1480nm帯あるいは980nm帯の励起レーザで励起した際に伝送信号光が前記光ファイバの中で増幅されるという原理を応用した光ファイバアンプである。
【0005】
また、ラマンアンプは、EDFAのようにエルビウム添加ファイバといった特殊な光ファイバを必要とせずに、通常の伝送路ファイバを利得媒体とする光ファイバアンプであり、従来のEDFAを用いることを前提としたWDMシステムに比べて広帯域で平坦な利得を有する伝送帯域を実現することができるという特徴を有している。
【0006】
前記WDMシステムの安定性向上や中継数の低減を実現するためには、前述した光ファイバアンプには、水平単一横モードで安定動作する高出力の半導体励起光源(励起レーザ)が必要となる。一方、WDMシステムの信号光源においては、狭線幅で高速変調可能な単一モード発振する半導体信号光源(信号レーザ)が大容量・長距離伝送する上で必要となる。更に、近年、急速に実用化が進められているFTTH (Fiber To The Home)などのアクセス系システムでは、80-100℃近くまで動作可能な信号光源が低価格で要求されている。
【0007】
このように、現在の光ファイバ通信システムにおいて、半導体レーザは必要不可欠なデバイスである。特に、量子井戸構造、好適には複数の量子井戸とバリア層で構成された多重量子井戸構造(MQW構造:Multi-Quantum Well構造)を活性層として有する埋め込みヘテロ(BH)型半導体レーザは安定した水平単一モードを実現するという点で有効であり、実際に、これらの構造を有する半導体レーザをパッケージした半導体レーザモジュールが光ファイバアンプの半導体励起光源やWDMシステムの半導体信号光源として用いられている。
【0008】
半導体レーザの高出力化を実現する技術として、活性層をMQW構造、特に歪MQW構造で形成することが知られている。MQW構造は、半導体材料で作製された井戸層とバリア層が交互にヘテロ接合されることで実現され、特に各へテロ接合において、バリア層は、井戸層よりも広いバンドギャップエネルギーを有している。また、歪MQW構造は、井戸層の半導体材料の格子定数と半導体基板の格子定数が異なる構造であり、一層の高性能化が可能であることが知られている。
【0009】
また、発振閾値の大幅な低減、レーザ発振特性の温度特性改善などのさらなる特性改善には、量子井戸活性層に量子細線、量子ドット構造等のナノオーダーの2次元あるいは3次元構造の量子ナノ構造を用いることが有効であることが理論的に示されている。これは、電子あるいは正孔といったキャリアが2次元あるいは3次元ポテンシャルに閉じ込められることによって、量子サイズ効果が生じ、状態密度が特定の離散順位において先鋭化し、注入したキャリアが局在化することに起因する。
【0010】
近年、量子ドット構造を、SK(Stranski−Krastanow)モードによる自然形成現象、すなわち、結晶の歪エネルギーを利用して、結晶成長中の自己組織化現象を用いて形成する方法が活発に研究されている。(非特許文献1参照)
非特許文献1には、分子線エピタキシー(MBE)を用いたSK成長による量子ドットの形成過程が開示されている。具体的には、以下のことが開示されている。すなわち、GaAs(001)基板上にInAsからなる量子ドット構造を形成する場合、基板上のInAsの堆積量が1ML(分子層)程度までは、層状成長が行われ、ウェッティング層というある程度基板からのGa原子を含んだGaInAs層が形成される。次いで、堆積量が増えて1.7ML程度になると、該ウェッティング層上に3次元のInAs島が出現し、量子ドットが形成される。
【0011】
かかる作製方法で形成された量子ドットは、量子ドットの位置制御が困難であり、無秩序な配置をすることや形成されるドットの形状のばらつきが大きいことが挙げられる。このためドットのサイズに応じて量子化準位が異なるために、状態密度も揺らぐことになり、レーザ発振時の光学利得スペクトルも非常に広帯域なスペクトルになり、量子サイズ効果が十分に発現しないといった問題がある。
【0012】
一方、量子ドットのサイズ揺らぎを積極的に利用した光半導体装置が特許文献1に開示されており、不均一な大きさの自然形成量子ドットを小さい面積比率で形成させることにより、利得帯域の広い光半導体装置が実現されるとしている(特許文献1参照)。
【非特許文献1】''半導体ナノ構造の自己組織化''、尾関雅志、清水雄一郎 応用物理 第72巻 第10号(2003)
【特許文献1】特開2003―124574号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、特許文献1に示された光半導体装置では、広帯域な波長域において光学利得を有するが、光学利得の分布が自然形成により生じた量子ドットのサイズに依存する。このため、例えば、波長可変レーザに適用した場合に、波長可変の波長帯域が、自然形成した量子ドットの揺らぎにより制限されるといった問題が生じる。
【0014】
また、不均一な量子ドットを活性層に用いた半導体光増幅器では、波長に応じて利得差が生じるために、例えばWDMシステムのように多数のチャネルを一括増幅する場合、増幅後の信号強度がチャネルにより異なるといった問題が生じる。
【0015】
本発明は上記問題に鑑みてなされたものであって、光学利得の制御が可能でかつ設計自由度の大きい、量子ドットを用いた半導体装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
以上の目的を達成するため、本発明の請求項1に記載の発明は、半導体基板上に少なくとも複数の活性層又は複数の光導波路層が形成されてなる半導体装置において、前記活性層又は光導波路層は量子ナノ構造を含んでおり、前記量子ナノ構造の高さが、光の導波方向に対して垂直でかつ前記半導体基板に平行な方向に段階的に又は周期的に変化していることを特徴とする半導体装置である。
【0017】
請求項2に記載の発明は、半導体基板上に少なくとも複数の活性層又は複数の光導波路層が形成されてなる半導体装置において、前記活性層又は光導波路層は量子ナノ構造を含んでおり、前記量子ナノ構造の高さが光の導波方向に沿って段階的に又は周期的に変化していることを特徴とする半導体装置である。
【0018】
請求項3に記載の発明は、光の導波方向が主に<011>方向であることを特徴とする請求項1又は2のいずれか一項に記載の半導体装置である。
【0019】
請求項4に記載の発明は、前記量子ナノ構造は、量子ドット、量子箱、量子細線又は量子ダッシュの少なくともいずれか一つを含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の半導体装置である。
【0020】
請求項5に記載の発明は、前記量子ナノ構造は、前記半導体基板の格子定数と異なる格子定数の結晶層を含む層構造上に形成されることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の半導体装置である。
【0021】
請求項6に記載の発明は、前記量子ナノ構造は、(100)面方位から傾斜した結晶面方位を有する層構造上に形成されることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の半導体装置である。
【0022】
請求項7に記載の発明は、前記量子ナノ構造は、結晶面方位が(n11)である層構造上に形成されることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の半導体装置である。
【0023】
請求項8に記載の発明は、前記半導体基板の面方位は(n11)であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載の半導体装置である。
【0024】
請求項9に記載の発明は、前記半導体基板の面方位は、(100)からの傾斜角度が15°以下であることを特徴とする請求項1〜8のいずれか一項に記載の半導体装置である。
【0025】
請求項10に記載の発明は、前記活性層又は前記光導波路層に電流注入ないし電圧印加を行うための電極を複数有し、前記電極の各々が電気的に独立であることを特徴とする請求項1〜9のいずれか一項に記載の半導体装置である。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、非常に広帯域な波長域で動作可能な半導体装置を実現できる。また、本発明によれば、半導体装置の光学利得の波長帯域を制御でき、設計自由度の高い半導体装置を実現することが出来る。特に、広帯域波長可変レーザ、多波長同時発振レーザ、半導体増幅器、白色光源において前記の効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下に、本発明に係る半導体装置の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。図1は、本発明に係る半導体装置、具体的には広帯域の波長域で動作する半導体レーザアレー装置の断面斜視図である。
【0028】
図1に示す半導体装置は、半導体基板1上に、下部クラッド層2A、下部SCH(Separate Confinement Heterostructure)層3A、活性層4、上部SCH層3B、上部クラッド層2B、コンタクト層5を有している。また、前記コンタクト層5上に電極6Aが、半導体基板1の下面に電極6Bが、それぞれ形成されている。
【0029】
なお、活性層は光導波路とみなしたときには、光が閉じ込められるコア層として機能する。
【0030】
また、前記活性層4は、量子ドット層100とバリア層101により形成されている。さらに、前記量子ドット層100は、ウェッティング層100−1と量子ドット100−2により構成されている。
【0031】
なお、活性層4における最下層のバリア層101が下地層を兼ねているが、下地層を、最下層のバリア層とは独立させて前記活性層4と前記下部SCH層3Aの間に形成することもできる。下地層は、量子ドットの形成に際して、所望の波長を実現するために量子ドットのサイズ及び形状を制御することを目的として設けられる層である。特に、この下地層を、半導体基板1と異なる格子定数を持つ結晶層(歪層)とすると、量子ドットのサイズ及び形状を制御することができ、その結果、半導体レーザの発振波長を広い範囲で制御することが可能となる。
【0032】
また、上記のように活性層4の最下層のバリア層101が下地層を兼ねることとせずに、下地層を活性層4中に形成することもできる。この場合には、下地層をバリア層101とウエッティング層100−1の間に形成することが好ましい。さらに、効率的な電流注入を行うためには、禁制帯幅Egが Eg(バリア層)≧Eg(下地層)>Eg(ドット層) となることがより好適である。
【0033】
本実施の形態においては、活性層を構成する量子ドット100−2の高さが、光の導波方向に垂直な方向に配置したアレーのストライプにより段階的に異なっている。このため、キャリアが閉じ込められる量子準位がストライプにより異なるので、それぞれのストライプで異なる発振波長のレーザを実現することができる。
【0034】
また、各ストライプの量子ドットに直径(あるいは横方向のサイズ)の揺らぎを持たせると、活性層が薄膜構造からなる量子井戸デバイスと比較して、光利得がより広い波長域で分布するために、より広帯域での動作が可能となる。
【0035】
本実施の形態においては、上部電極6A及びコンタクト層5に溝7を形成することで電極6Aを電気的に独立に分離しているので、個別のアレーストライプのレーザを独立に駆動することが可能である。
【0036】
また、上記のように電極を電気的に分離した構造において、電極6Aをアースにとり、電極6Bをプラスにして逆バイアスを印加することとすれば、電界吸収型の能動素子として使用することができる。その場合には、活性層4が吸収層として機能することになり、所望の吸収係数を得るために量子ドットの積層数を最適化するものとする。この電界吸収型の能動素子は、薄膜から構成される従来の量子井戸構造よりも大きな屈折率差を電界印加時に得られるので、低電圧動作時でも大きな消光比を実現することができる。
【0037】
ここで、本実施の形態に記載の各ストライプにより高さの異なる自然形成量子ドットは、例えば、有機金属気相成長法(MOCVD)などの結晶成長法を利用した選択成長技術を用いて実現される。
【0038】
その際に用いられる選択成長マスクのパターンの一例を図2に示す。選択成長マスクは、SiO2等の誘電体からなり、マスクの誘電体ストライプの一つが他のストライプよりも広い幅(W)を具備することを特徴としている。このマスクは、フォトリソグラフィなどの既知のプロセスを経て半導体層上に形成される。なお、図2中の(1)・・・(16)は、アレー中のレーザストライプ番号を示している。
【0039】
(実験例) 図3〜5に、他の誘電体ストライプよりも幅の広い誘電体ストライプ(以下、幅広誘電体ストライプという)がそれぞれ50μm及び300μmである2種類の選択成長マスクを用いて、単層からなるInAs量子ドットを自然形成した場合について、量子ドットサイズ等のストライプ位置依存性を調べた結果を示す。成長温度は540℃、成長圧力は15Torrとした。前記量子ドットサイズ等は、具体的には量子ドットの高さ、直径、分布密度である。なお、これらの構造評価には原子間力顕微鏡(AFM)を用いており、各ストライプの中心付近1μm×1μmの領域について評価を行った。なお、図中のプロットは、分布のメジアン値を示しており、各ポイントのばらつきは、30%程度であった。
【0040】
幅広誘電体ストライプの幅が50μmの場合は、量子ドットの高さ、直径、分布密度はアレーストライプの位置にほとんど依存していない。これに対し、幅広誘電体ストライプが300μmの場合は、量子ドットの分布密度と直径はアレーストライプの位置に依存しないが、高さは、幅広誘電体ストライプに近いほど高くなる傾向が得られている。
【0041】
上記の結果から、幅広誘電体ストライプを50μmよりも大きくした選択成長マスクを用いることにより、量子ドットの高さを制御できるとの知見を得ることができた。このことは、幅広誘電体ストライプの幅を制御することで量子ドットの高さを変化させ、所望の波長帯域を実現できることを示している。
【0042】
上記の結果は、選択成長マスクにおける一本のストライプを他のストライプ幅よりも大きくすることにより、ストライプに垂直かつ基板に平行な方向で量子ドット原料の気相拡散の程度が変化することで説明される。即ち、幅の広いマスク近傍では、気相拡散の影響で量子ドット原料の供給量が大きいために量子ドットの高さが高くなるが、幅広誘電体ストライプから離れるに従って、気相拡散の影響が小さくなって原料供給量が減るためにドットの高さが低くなるのでる。なお、量子ドットの直径や分布密度については、量子ドット原料の供給レート、成長レート、供給時間、成長温度、成長圧力などで制御することができる。
【0043】
また、本実験では、マスクの端に幅広誘電体ストライプを一本配置した選択成長マスクを用いたが、量子ドットが形成される領域における原料の供給量あるいは成長速度を制御するといった観点からは、幅広誘電体ストライプは選択成長マスクの中心に配置しても問題ないし、複数本用いても問題はない。また、本実験では、量子ドットが形成される選択成長領域の幅が4μm、形成されない領域の幅が3μmとなるような選択成長マスクを用いたが(図2参照)、これらの幅の設計を変えることによっても量子ドット原料の供給量を制御することができ、量子ドットの高さを制御することができる。
【0044】
ところで、図6は、幅広誘電体ストライプの幅を変えた場合の量子ドットの高さを調べた結果である。番号(1)(8)(16)は、レーザストライプの位置を示し、番号が若いほど幅広誘電体ストライプに近い。この結果として、幅広誘電体ストライプの幅が広くなるに従って、量子ドットの高さは高くなるが、あるところで飽和する傾向が得られている。また、量子ドット高さの幅広誘電体ストライプ幅依存性は、幅広誘電体ストライプに近いレーザストライプほど顕著である(ストライプ番号(1))。このことから、ストライプ方向に沿って幅広誘電体ストライプの幅を変化させた選択成長マスクを用いることにより、同一ストライプ内でストライプ方向に高さの異なる量子ドットを形成することが可能であることが示された。
【0045】
また、別途、量子ドットの高さに関して、成長レートの影響を実験的に検討を行った。成長レート0.5ML/sで高さが5.5nmであったのに対し、成長レート0.13ML/sで高さ6.5nmとなった。このことから、本発明者らは、成長レートが低くなるほど、量子ドットの高さが高くなることを実験的に見出した。この知見から、幅広誘電体ストライプの幅を最適化することで、幅広誘電体ストライプの遠方ほどドットの高さを高くすることも可能となる。なお、上記成長レートの値は、成長温度に依存する。
【0046】
[実施例1] 上記の実施の形態に係る実施例として、半導体レーザアレー装置について説明する。本実施例の半導体レーザアレー装置は、量子ドットを含む活性層を成長する際に、幅広誘電体ストライプを設けた選択成長マスクを用いることにより、量子ドットの高さを光の導波方向に対して垂直かつ基板に平行な方向に異ならせたことを特徴とする半導体レーザアレー装置である。
【0047】
図7(a)に、この半導体レーザアレーの長手方向(共振器方向)の縦断面図を、また、図7(b)に、斜視図(手前の面が共振器に垂直な面である。)を示す。この半導体レーザアレー装置は、n型InP半導体基板1の(100)面上に、n型InPからなる下部クラッド層2A、アンドープの下部SCH層3A、活性層4、アンドープの上部SCH層3B、p型InPからなる上部クラッド層2B、p型GaInAsPからなるコンタクト層5が順に積層された構造を有している。これらの層は、MOCVD法や分子線エピタキシー(Molecular Beam Epitaxy, MBE)法などにより積層される。
【0048】
また、電極6Bがn型InP半導体基板1の下側表面に形成され、電極6Aがコンタクト層5上に形成されている。上部電極6A及びコンタクト層5に溝7が形成されることで、電極6Aは電気的に独立に分離されている。
【0049】
下部SCH層3A、活性層4及び上部SCH層3Bは、フォトリソグラフィ技術とエッチングプロセスを用いて形成されたメサ構造をなしており、このメサ構造の隣接領域に、p型半導体層8及びn型半導体層9からなる電流ブロッキング層が形成された埋込みへテロ(buried hetero,BH)構造となっている。この電流ブロッキング層は、活性層4への注入電流を狭窄する機能を持つとともに、安定した水平横モードを実現する働きを持つ。本実施例では、安定性に優れた水平単一横モードを得るために上述のBH構造を採用しているが、横モードが制御されていれば、リッジ構造や自己整合型(self-aligned structure, SAS)構造であってもよい。
【0050】
活性層4は、量子ドット構造を含み、該量子ドット構造は、図1に示すように、InAsからなる量子ドット層100及び膜厚10nmのGaInAsPからなるバリア層101からなる歪MQW構造である。この活性層4の作製は、たとえば次のようにして行われる。すなわち、MOCVD法により下部SCH層3A及び最外接のGaInAsPバリア層101を620℃、60Torrでエピタキシャル成長した後、通常用いられる半導体プロセスを用いて、図2に示すようなSiO2からなる選択成長マスクを形成する。その後、540℃、15Torrで量子ドット層100及びバリア層101からなるMQW構造を成長する。この際、上記の選択成長マスクによって、基板面内でレーザストライプ方向に垂直かつ基板に平行な方向に高さの異なる量子ドットが形成される。
【0051】
なお、上記のようにして活性層4を作製した後は、成長中断し、620℃、60Torrで上部SCH層3B及び上部クラッド層2Bを成長し、さらに通常用いられるウエハプロセスを経てBH構造を形成する。これらの工程により、<011>方向に光が導波される構造となる。
【0052】
本実施例では、活性層4にn型不純物を7×1017cm−3ドープすることにより、素子抵抗及び熱抵抗を低減させ、高い電流注入時においても、低消費電力かつ高出力動作が可能な半導体レーザアレーとした。このn型不純物ドーピングは、MQW構造を構成する量子ドット層100及びこれに隣接したバリア層101からなるペアの少なくとも一部に行えばよく、必ずしも活性層の全ての領域に行う必要はない。また、要求される光出力の値いかんによっては、活性層4にp型不純物をドーピングする構造としても良いし、また、不純物ドーピングを行わない構造としても良い。なお、高速変調用の信号光源として用いる場合には、1×1018cm−3程度のp型ドーピングが、微分利得を高くするといった観点からより有効である。
【0053】
次に、本実施例の半導体レーザアレー装置の活性層付近のバンド構造について説明する。図8に、本実施例の半導体レーザアレー装置の積層方向におけるバンドギャップダイヤグラムを、下部クラッド層2Aから上部クラッド層2Bまでの範囲で示す。活性層4は、量子ドット層100とバリア層101が交互に隣接してヘテロ接合され、活性層4は、積層方向に3つの井戸を有するMQW構造となっている。なお、この井戸層数は、量子ドットの活性層に対する体積占有率の観点から、本実施例のように3層又はそれ以上とすることが好ましい。
【0054】
図8に示すように、SCH層3A及び3Bは、それぞれ活性層から離れるについれて各層のバンドギャップエネルギーが階段状に増加する複数の層3A1、3A2、・・・、3An及び3B1、3B2、・・・、3Bnを有したGRIN−SCH構造となっている。本実施例では、バリア層101を組成波長1.2μmのGaInAsPとし、SCH層3A、3Bを組成波長0.95μm、1.0μm、1.05μm、1.1μm、1.15μm、1.2μmで各層の厚さが40nmのGaInAsPとした。なお、下部SCH層3A全体及び上部SCH層3B全体のそれぞれの厚さは、200nm以下、より好適には100nm以下、さらに好適には30〜40nmとすることが望ましく、この厚さは、要求される光出力や閾値電流等の仕様に応じて最適な値を選ぶものとする。
【0055】
本実施例では、最適構造としてバンドギャップエネルギーの包絡線が直線的に変化する多段のGRIN−SCH構造をSCH構造として採用したが、所望の光出力が得られるのであれば、上記のような構造に限られるものではない。また、本実施例においては、上部SCH層3Bと下部SCH層3Aとを、活性層4に対して位置、厚さ、組成が全て対称となるようにしたが、n側の下部SCH3を上部SCH層3Bより厚くした非対称構造としてもよい。
【0056】
さらに、図7(a)に示されるように、この半導体レーザアレー装置は、劈開面で形成され、光が出射する面である前端面と、これに対向する劈開面で形成される後端面とによって共振器長Lが規定される。本実施例ではL=1300μmとした。前端面上には、共振器の前面からの光出射が容易となるように低反射膜11が被覆されており、後端面上には、後面からの光出射が抑制されるように高反射膜12が被覆されている。
【0057】
ここで、本実施例では共振器長をL=1300μmとしたが、共振器長はこれに限られない。半導体レーザアレーの高出力動作の観点からは、共振器長Lは、800μm以上が好適であり、より好適には1000μm以上、さらに好適には1500μmであることが望ましい。一方、信号光源用など、低閾値動作及び高速変調動作が要求されるレーザに用いる場合は、共振器長Lは400μm以下、より好適には300μmとすることが望ましい。このように、共振器長Lは、レーザアレーの用途に応じて所望の光出力、消費電力、動作電流等の仕様を満たすように決定するものとする。
【0058】
また、高出力動作を実現するためには、共振器長だけではなく、低反射膜11の反射率を共振器長に応じて最適化することが好ましい。例えば、共振器長が1000μmである半導体レーザでは、低反射膜の反射率は5%以下、より好適には3%以下とすることが望ましい。本実施例の半導体レーザアレーでは、共振器長をL=1300μmとしたので、低反射膜11の反射率を1.5%とした。なお、共振器長が1000μm以上であってファイバブラッググレーティング等の共振器が具備される場合は、低反射膜の反射率を1%以下とすることが望ましい。一方、高反射膜の反射率は、高出力動作の観点から90%以上とすることが望ましい。本実施例の半導体レーザアレーでは98%としたが、実際には、レンズや光ファイバなどの光学部品や受光素子、ペルチェ素子などで構成されるレーザモジュールを構成した際に、高反射膜側に配置される光出力モニタ用受光素子の受光電流の仕様範囲により決定される。
【0059】
以上説明したように、本実施例では、最適構造として、半導体基板1をInPとし、活性層4やSCH層3A、3BをGaInAsPとしたが、他の材料を用いることも可能である。例えば、半導体基板1をInPとし、活性層4やSCH層3A、3BをAlGaInAsP、AlGaInNAsP又はGaInAsPなどで形成してもよい。また、本実施例では半導体基板1の導電型をn型としたが、これをp型に替え、その上に形成する各層の導電型を合わせて変更した構造としても良い。
【0060】
本実施例の半導体レーザアレー装置における量子ナノ構造は、量子ドットを用いたものとしたが、量子ドットに代えて、量子箱、量子ダッシュ(量子ドットと量子細線の中間的な構造を指す)、量子細線、量子ディスク等を用いてもよく、また、これらのうちの二種類以上を組み合わせても良い。
【0061】
また、本実施例においては、(100)面からなる半導体基板を用いたが、これに代えて、(100)結晶面から傾斜した基板や、特定結晶面方位を有する(n11)基板、又はエッチングにより形成した(n11)面を用いることとすれば、(100)面よりも微小ステップが多く存在し、これらのステップ上にドットが形成されやすいことを利用して均一な量子ドットを形成できるため、より有効である。なお、傾斜基板を用いる場合は、(100)面からの傾斜角度を15°以下とすることが特に好ましい。その理由は、傾斜角度をあまりにも大きくしすぎると、原子の付着するサイトであるステップ幅が小さくなり、量子ドットの形成が却って困難になるからである。
【0062】
さらに、本実施例では、量子ナノ構造を半導体レーザアレーの活性層として用いたが、応用例として、量子ナノ構造を光導波路層や光吸収層として用いることにより、他の種々の半導体装置に本発明を適用することができる。例えば、分布帰還形(DFB)レーザ装置、分布ブラッグ反射鏡(DBR)レーザ装置、面発光レーザ装置のほか、活性層の近傍に形成したグレーティングの波長選択特性によって所定出力値以下の複数の発振縦モードを発振するタイプの半導体レーザ装置に応用することができる。また、半導体光変調器などにも応用することができる。
【0063】
[実施例2] 本実施例では、半導体光増幅器について説明する。本実施例の半導体光増幅器装置は、選択成長マスクにおいて、幅広誘電体ストライプの幅を素子のストライプ方向に沿って変化させることで、活性層を構成する量子ドットの高さを素子のストライプ方向に沿って異ならせたことを特徴とする半導体光増幅器である。この半導体光増幅器は、前記特徴により、広帯域な波長域で光学利得を制御することができる。以下、この半導体光増幅器について説明する。
【0064】
図10(a)及び(b)に、本実施例の半導体光増幅器の長手方向の縦断面図及び光出射面に平行な断面図を示す。この半導体光増幅器の構造は、量子ドットを含む活性層以外の層構造については、実施例1に記載した半導体レーザアレーにおける層構造と同様である。従って、同一の又は対応する構成要素については、図中に同一符号を付して、説明を省略する。
【0065】
本実施例の半導体光増幅器においては、活性領域長L=600μmとする。活性層4中には、図10(a)に示されるように、長手方向に200μmごとに段階的に高さの異なる3種類の量子ドットが形成されている。
【0066】
量子ドット100−2の成長に際しては、図9に示すようなパターンの選択成長マスクを使用する。この選択成長マスクは、図2で説明した幅広誘電体ストライプに相当する幅の広いパターンが、ストライプの長手方向(z方向)に沿って3段階の幅を有する構造となっており、一定幅を有する各部分の長さは200μmである。このようなパターンを用いて量子ドットの成長を行うことにより、図11に示すようにストライプ方向(z方向)において高さが変化した量子ドットの形成を行うことができる。また、各活性領域ストライプ間でも、量子ドット高さが異なっている。これらにより、量子ドットの高さに応じた量子準位が形成され、図12に示すように、量子ドットの高さに応じた遷移波長が得られる。素子化の際には、図9の例えばA−A’及びB−B’の位置で素子分離を行うものとする。
【0067】
本実施例においては、レーザ発振を抑制するために、素子端面の反射膜11、12の反射率を共に0.1%以下とする。この反射率は、小さい方が好ましく、例えば傾斜基板、窓構造、曲げ導波路等と組み合わせることが、より有効である。
【0068】
図13は、本実施例の半導体光増幅器の電流注入後の光利得分布を示しており、量子ドットの高さに応じた複数の量子準位に対応する波長を中心に光学利得の分布が得られるので、広帯域の波長域に亘って利得差の小さい特性が得られる。
【0069】
なお、本実施例では、素子全面に電極を形成した構造としたが、図14に示すように、上部電極6A及びコンタクト層5に溝7’を設けることで、量子ドットの高さごとに各領域が電気的に分離され、各領域ごとに独立に光学利得を制御することが可能になる。かかる構造により、増幅する信号のチャネル数に応じて最適な利得を広い波長帯域で実現することができる。
【0070】
また、本実施例では、高さの異なる量子ドットの領域を3領域としたが、より利得差を小さくするには領域数を増やすことがより好ましい。その際、一つの素子の中でストライプ方向に周期的に量子ドットの高さを異ならせるものとしてもよい。また、共振器長は、所望の光学利得及びその分布に応じて適宜最適化することが好ましい。
【0071】
ここで、選択成長マスクの変形例を図15(a)〜(c)及び図16に示す。図15(a)〜(c)は、図9において最も左側に位置するストライプの幅のz方向における変化のバリエーションを示したものである。図16は、幅広誘電体ストライプだけでなく、他の各誘電体ストライプの幅を変化させたマスクパターンの例である。なお、誘電体ストライプ領域の幅を一定にして、量子ドットが形成される領域の各ストライプ領域の幅を変化させても、本発明の効果が得られることは明らかである。
【0072】
以上、具体的な実施例に基づき、本発明の好適な実施形態を説明した。これらに説明したように、本発明によれば、高さの制御された量子ナノ構造を活性層に用いることにより、広い波長帯域において動作可能な、又は広い波長帯域において光学利得を制御できる半導体装置を実現することができ、設計自由度の高い半導体装置を提供することができる。特に、広帯域波長可変レーザ、多波長同時発振レーザ、利得平坦領域の広い半導体光増幅器、白色光源等に適用可能である。
【0073】
また、本発明によれば、高密度の量子ナノ構造を、変調器・受光素子等の光受動素子の吸収層に適用することによって、電界印加時に大きな屈折率変化を得ることができるため、消光比の大きな高性能な光受動素子を実現することができる。また、大きな屈折率変化が得られることにより、従来の量子薄膜構造を利用した場合よりも素子長を短くすることができ、より高速動作の可能な半導体装置を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】は、本発明の実施の形態に係る半導体装置を示す斜視図である。
【図2】は、本発明の実施の形態に係る半導体装置の作製に用いられる選択成長マスクのパターンを示す図である。
【図3】は、本発明の実施の形態に係る実験例を示すグラフである。
【図4】は、本発明の実施の形態に係る実験例を示すグラフである。
【図5】は、本発明の実施の形態に係る実験例を示すグラフである。
【図6】は、本発明の実施の形態に係る実験例を示すグラフである。
【図7】(a)は、本発明の実施例1に係る半導体レーザアレー装置を示す断面図である。(b)は、斜視図である。
【図8】は、本発明の実施例1に係る半導体レーザアレー装置のバンドギャップダイアグラムを示す図である。
【図9】は、本発明の実施例2に係る半導体光増幅器の作製に用いられる選択成長マスクのパターンを示す図である。
【図10】(a)は、本発明の実施例2に係る半導体光増幅器を示す断面図である。(b)は、斜視図である。
【図11】は、本発明の実施例2に係る半導体光増幅器における量子ドット高さを示すグラフである。
【図12】は、本発明の実施例2に係る半導体光増幅器における遷移波長を示すグラフである。
【図13】は、本発明の実施例2に係る半導体光増幅器における電流注入後の光利得分布を示すグラフである。
【図14】(a)(b)は、本発明の実施例2に係る半導体光増幅器の他の例を示す断面図である。
【図15】(a)(b)(c)は、本発明の実施の形態に係る半導体装置の作製に用いられる選択成長マスクのマスク幅を示すグラフである。
【図16】は、本発明の実施形態に係る半導体光増幅器の作製に用いられる選択成長マスクのパターンを示す図である。
【符号の説明】
【0075】
1 半導体基板
2A 下部クラッド層
2B 上部クラッド層
3A 下部SCH層
3B 上部SCH層
4 活性層
5 コンタクト層
6A、6B 電極
7、7’ 溝
8 p型半導体層
9 n型半導体層
11 低反射膜
12 高反射膜
100 量子ドット層
101 バリア層
100−1 ウェッティング層
100−2 量子ドット
【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体基板上に少なくとも複数の活性層又は複数の光導波路層が形成されてなる半導体装置において、前記活性層又は光導波路層は量子ナノ構造を含んでおり、前記量子ナノ構造の高さが、光の導波方向に対して垂直でかつ前記半導体基板に平行な方向に段階的に又は周期的に変化していることを特徴とする半導体装置。
【請求項2】
半導体基板上に少なくとも複数の活性層又は複数の光導波路層が形成されてなる半導体装置において、前記活性層又は光導波路層は量子ナノ構造を含んでおり、前記量子ナノ構造の高さが光の導波方向に沿って段階的に又は周期的に変化していることを特徴とする半導体装置。
【請求項3】
光の導波方向が主に<011>方向であることを特徴とする請求項1又は2のいずれか一項に記載の半導体装置。
【請求項4】
前記量子ナノ構造は、量子ドット、量子箱、量子細線又は量子ダッシュの少なくともいずれか一つを含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の半導体装置。
【請求項5】
前記量子ナノ構造は、前記半導体基板の格子定数と異なる格子定数の結晶層を含む層構造上に形成されることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の半導体装置。
【請求項6】
前記量子ナノ構造は、(100)面方位から傾斜した結晶面方位を有する層構造上に形成されることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の半導体装置。
【請求項7】
前記量子ナノ構造は、結晶面方位が(n11)である層構造上に形成されることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の半導体装置。
【請求項8】
前記半導体基板の面方位は(n11)であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載の半導体装置。
【請求項9】
前記半導体基板の面方位は、(100)からの傾斜角度が15°以下であることを特徴とする請求項1〜8のいずれか一項に記載の半導体装置。
【請求項10】
前記活性層又は前記光導波路層に電流注入ないし電圧印加を行うための電極を複数有し、前記電極の各々が電気的に独立であることを特徴とする請求項1〜9のいずれか一項に記載の半導体装置。
【請求項1】
半導体基板上に少なくとも複数の活性層又は複数の光導波路層が形成されてなる半導体装置において、前記活性層又は光導波路層は量子ナノ構造を含んでおり、前記量子ナノ構造の高さが、光の導波方向に対して垂直でかつ前記半導体基板に平行な方向に段階的に又は周期的に変化していることを特徴とする半導体装置。
【請求項2】
半導体基板上に少なくとも複数の活性層又は複数の光導波路層が形成されてなる半導体装置において、前記活性層又は光導波路層は量子ナノ構造を含んでおり、前記量子ナノ構造の高さが光の導波方向に沿って段階的に又は周期的に変化していることを特徴とする半導体装置。
【請求項3】
光の導波方向が主に<011>方向であることを特徴とする請求項1又は2のいずれか一項に記載の半導体装置。
【請求項4】
前記量子ナノ構造は、量子ドット、量子箱、量子細線又は量子ダッシュの少なくともいずれか一つを含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の半導体装置。
【請求項5】
前記量子ナノ構造は、前記半導体基板の格子定数と異なる格子定数の結晶層を含む層構造上に形成されることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の半導体装置。
【請求項6】
前記量子ナノ構造は、(100)面方位から傾斜した結晶面方位を有する層構造上に形成されることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の半導体装置。
【請求項7】
前記量子ナノ構造は、結晶面方位が(n11)である層構造上に形成されることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の半導体装置。
【請求項8】
前記半導体基板の面方位は(n11)であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載の半導体装置。
【請求項9】
前記半導体基板の面方位は、(100)からの傾斜角度が15°以下であることを特徴とする請求項1〜8のいずれか一項に記載の半導体装置。
【請求項10】
前記活性層又は前記光導波路層に電流注入ないし電圧印加を行うための電極を複数有し、前記電極の各々が電気的に独立であることを特徴とする請求項1〜9のいずれか一項に記載の半導体装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2006−60035(P2006−60035A)
【公開日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−240656(P2004−240656)
【出願日】平成16年8月20日(2004.8.20)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年8月20日(2004.8.20)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【Fターム(参考)】
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