説明

半導体集積回路装置

【課題】プロセスバラツキの影響を抑制し、低電圧動作に適した基準電圧発生回路を提供する。
【解決手段】第1トランジスタ(以下、Tr)と大きなエミッタ面積を持つ第2Trを有し、第1増幅回路により第1Trのベースとコレクタ電圧が等しくなるよう第1と第2Trのベース電流を形成する。第1抵抗は、第2Trのエミッタと基準電位との間に設けられてバンドギャップ電圧が印加される。第3TrのエミッタとVSSとの間に第2抵抗が、コレタク,ベースとVSSとの間に第3抵抗が設けられる。第1と第2抵抗の比により、第3Trのコレタク,ベースから出力される基準電圧の温度補償を行う。第2増幅回路は、第1と第2Trのコレタクが等しくなるよう第1ないし第3MOSのゲート電圧を形成し、第1ないし第3Trのコレタク電流をそれぞれ形成する。第1ないし第3MOSのソース側に第4ないし第6抵抗を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、半導体集積回路装置に関し、例えば三重ウェル構造のCMOSプロセスで形成され、基準電圧発生回路を有するものに利用して有効な技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
CMOSプロセスのバンドギャップ基準電圧発生回路として、例えば2007 Sympsium on VLSI Circuits Digest of Technical Papers pp.96-97 (A Trimmig-Free CMOS Bandgap-Reference Circuit with Sub-1-V-Supply Voltage Operation)がある。同文献の基準電圧発生回路を図10に示す。同図に示された基準電圧発生回路は、差動増幅回路A1とA2を用いて、差動増幅回路A1の持つオフセット電圧が基準電圧Vref に与える影響を抑えるようにするものである。この構成では、バイポーラトランジスタQ1、Q3のコレクタ電流がコレクタ電位にほとんど依存しない活性化領域で動作させることで、差動増幅回路A1の差動入力部におけるオフセット電圧の影響を抑えることが山来る。
【非特許文献1】2007 Sympsium on VLSI Circuits Digest of Technical Papers pp.96-97 (A Trimmig-Free CMOS Bandgap-Reference Circuit with Sub-1-V-Supply Voltage Operation)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本願発明者においては、上記非特許文献1に示された基準電圧発生回路において、素子の微細化等に伴う素子のプロセスバラツキにより次のような問題を有することを見い出した。CMOSプロセスを用いて低電圧・高精度の基準電圧(バンドギャップリファレンス)を実現するためには、差動(演算)増幅回路や電流ミラー回路などのペア素子におけるオフセット電圧による影響を抑えることが重要である。図11には、本願発明者により検討された前記図10の等価回路が示されている。差動増幅回路A1を構成する差動MOSFETのペア素子等によるオフセット電圧V1に関しては、図12に示したオフセット電圧V1と基準電圧Vref との特性のように改善されていることが認められる。
【0004】
しかしながら、図11の等価回路に示したように、図10の基準電圧発生回路においては、前記差動増幅回路A1の差動素子の他にも電流ミラー回路を構成するPチャネルMOSFETQP1〜QP4のようなペア素子においても、それぞれオフセット電圧V2〜V5が存在するはずである。このようなオフセット電圧V2〜V5による基準電圧Vref に対する影響を本願発明者によるコンピュータシミュレーションにより調べると図12の特性V2〜V5のようになることが判明した。
【0005】
図12においては、上記各MOSFETQP1〜QP4のしきい値電圧が目標値(0mV)に対してそれぞれ−10mV〜+10mVの範囲で変動したことを想定し、それぞれのオフセット電圧V2〜V5が基準電圧Vref に与える影響を検証したものである。図12からは、MOSFETQP1のしきい値電圧のバラツキ(オフセット電圧V2)が基準電圧Vref に最も大きな影響を及ぼし、次いでMOSFETQP2のしきい値電圧のバラツキ(V3)の影響が大きく、MOSFETQP4のしきい値電圧のバラツキ(V5)の影響は軽微であることが判る。つまり、前記図10の基準電圧発生回路においては、これら電流ミラー回路を構成するPチャネルMOSFETQP1〜QP3のしきい値電圧のバラツキ(V2〜V4)により大きく上記基準電圧Vref が変動してしまうという問題を有する。
【0006】
前記図10に示した基準電圧発生回路においては、CMOSプロセスで形成されるバイポーラトランジスタの電流増幅率βのプロセスバラツキに対しては何の配慮もなされていない。バイポーラトランジスタQ1〜Q3は、同文献にも示されているように3重(トリプル)ウェル構造のNチャネルMOSFETを形成する半導体領域を利用して縦型構造のNPNトランジスタとされる。このトランジスタ構造は、NチャネルMOSFETのソース,ドレインを形成するための拡散層をエミッタとし、上記ソース,ドレイン領域が形成されるP型ウェル領域をベース領域とし、上記P型ウェルをP型基板から電気的に分離するための深い深さのN型ウェルをコレクタ領域として利用する。
【0007】
このため、通常のバイポーラトランジスタの製造プロセスで形成されるトランジスタに比べ、上記CMOSプロセスで形成されるトランジスタQ1〜Q3の電流増幅率βが大きく変動する。例えば、設計値βに対して半分(β×0.5)から2倍(β×2)の範囲のような大きなバラツキを示すものと予測される。このような電流増幅率βのバラツキβ×0.5〜β×2による基準電圧Vref に対する影響を本願発明者によるコンピュータシミュレーションにより調べると図13の特性β×0.5〜β×2のように基準電圧Vref の変動が生じることが判明した。
【0008】
この発明の1つの目的は、素子のプロセスバラツキの影響を抑制した基準電圧発生回路を有する半導体集積回路装置を提供することある。この発明の他の目的は、CMOSプロセスにより形成され、素子プロセスバラツキの影響を抑制し、低電圧動作に適した基準電圧発生回路を提供することにある。この発明の前記ならびにそのほかの目的と新規な特徴は、本明細書の記述および添付図面から明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願において開示される1つの実施例は、以下の通りである。半導体集積回路装置に形成される基準電圧発生回路は、第1トランジスタとそれよりも大きなエミッタ面積を持つようにされた第2トランジスタを有する。第1差動増幅回路は、上記第1トランジスタのベースとコレクタ電圧が等しくなるように上記第1トランジスタと第2トランジスタのベース電流を形成する。第1抵抗素子は、上記第2トランジスタのエミッタと基準電位との間に設けられ、上記第1トランジスタと第2トランジスタとのエミッタ電流密度に対応して発生されたシリコンバンドギャップ電圧が印加される。第3トランジスタは、コレクタとベースとが結合され、エミッタと上記基準電位との間に第2抵抗素子が設けられ、上記結合されたコレクタ,ベースと上記基準電位との間に第3抵抗素子が設けられる。第2差動増幅回路は、上記第1と第2トランジスタのコレクタの電圧を受け、それが等しくなるよう上記第1ないし第3トランジスタのコレクタ電流をそれぞれ形成する第1ないし第3MOSFETのゲート電圧を制御する。上記第1抵抗素子と第2抵抗素子は、上記第3トランジスタの結合されたコレクタ,ベースから出力される基準電圧が温度依存性を持たないような抵抗比に設定される。上記第1ないし第3MOSFETのソース側に第4ないし第6抵抗素子をそれぞれ有する。
【0010】
本願において開示される他1つの実施例は、以下の通りである。半導体集積回路装置に形成される基準電圧発生回路は、第1トランジスタとそれよりもエミッタ面積が大きく形成された第2トランジスタとを有する。第1差動増幅回路は、上記第1トランジスタのベースとコレクタ電圧が等しくなるよう上記第1と第2トランジスタのベース電流を形成する。第1抵抗素子は、上記第2トランジスタのエミッタと基準電位との間に設けられ、上記第1トランジスタと第2トランジスタとのエミッタ電流密度に対応して発生されたシリコンバンドギャップ電圧が印加される。第3トランジスタは、コレクタとベースとが結合され、エミッタと上記基準電位との間に第2抵抗素子が設けられ、上記結合されたコレクタ,ベースと上記基準電位との間に第3抵抗素子が設けられる。第2差動増幅回路は、上記第1と第2トランジスタのコレクタの電圧を受け、それが等しくなるよう上記第1ないし第3トランジスタのコレクタ電流をそれぞれ形成する第1ないし第3MOSFETのゲート電圧を制御する。上記第2抵抗素子と第3抵抗素子は、上記第3トランジスタの結合されたコレクタ,ベースから出力される。上記第1抵抗素子と第2抵抗素子は、基準電圧が温度依存性を持たないような抵抗比に設定される。上記第1、第2トランジスタのベース電流は、上記第1差動増幅回路の出力電圧がゲートに供給された第4MOSFETのドレイン電流により形成され、上記第4MOSFETで検出された第1、第2トランジスタのベース電流に対応して、上記第3トランジスタのコレクタに供給される電流を増加させる電流ミラー回路が設けられる。
【発明の効果】
【0011】
第1ないし第3MOSFETのソース側に設けられた第4ないし第6抵抗素子により、これら第1ないし第3MOSFETに発生するオフセット電圧の影響を抑制することができる。電流ミラー回路により、上記第1、第2トランジスタのベース電流に対応して、上記第3トランジスタのコレクタに供給される電流を増加させることにより、第3トランジスタにおける電流増幅率のバラツキの影響を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
図1には、この発明に係る基準電圧発生回路の一実施例の回路図が示されている。この実施例の基準電圧発生回路は、特に制限されないが、公知の3重ウェル構造を持つCMOS回路が形成される半導体集積回路装置において搭載される。
【0013】
トランジスタQ1ないしトランジスタQ3は、3重ウェル構造のCMOS回路を利用して形成されるNPN型バイポーラトランジスタである。例えば前記非特許文献1と同様に、P型基板上に形成された深い深さのN型ウェル領域をコレクタとし、上記深い深さのN型ウェル領域に形成されたP型ウェル領域をベースとし、上記P型ウェル領域に形成されたN型領域をエミッタとする縦型構造とされる。
【0014】
トランジスタQ3のエミッタ面積を1(×1)とすると、トランジスタQ1のエミッタ面積は、N倍(×N)のように大きく形成される。トランジスタQ1とQ3のベースは、共通に接続される。トランジスタQ3のエミッタは、回路の接地電位(0V)VSSが与えられ、トランジスタQ1のエミッタと基準電位VSSとの間に抵抗R1が設けられる。トランジスタQ1とQ3に流れる電流を同一とし、トランジスタQ1とQ3のエミッタ電流密度差に対応したバンドギャップ電圧(トランジスタQ1とQ3のベース,エミッタ間電圧差)が上記抵抗R1に流れるようにされる。
【0015】
上記トランジスタQ1とQ3に同じ電流が流れるようにするために、差動増幅回路A1、A2及びPチャネルMOSFETQP1〜QP3が設けられる。差動増幅回路A1の正相入力(+)と負相入力(−)には、トランジスタQ3のコレクタ電圧とベース電圧が供給される。この差動増幅回路A1の出力電流は、上記トランジスタQ1とQ3のベース電流とされる。これにより、差動増幅回路A1は、上記トランジスタQ3のコレクタとベースとが同電位となるようにトランジスタQ1、Q3のベース電流を形成する。
【0016】
差動増幅回路A2の正相入力(+)と負相入力(−)には、トランジスタQ1のコレクタ電圧とトランジスタQ1のコレクタ電圧が供給される。この差動増幅回路A2の出力電圧は、PチャネルMOSFETQP1ないしQP3のゲートに供給される。上記PチャネルMOSFETQP1とQP3のドレイン電流は、上記トランジスタQ1とQ3のコレクタに供給される。これにより、差動増幅回路A2とMOSFETQP1,QP3は、上記トランジスタQ1とQ3のコレクタが同電位となるようにMOSFETQP1,QP3のゲート電圧を形成する。MOSFETQP1ないしQP3は、同じサイズに形成されており、上記抵抗R1には上記バンドギャップ電圧に対応した定電流が流れ、これに対応して上記差動増幅回路A1, A2及びPチャネルMOSFETQP1ないしQP3により上記トランジスタQ1とQ3のベース,コレクタ電圧及びコレクタ電流が等しくなるよう設定される。
【0017】
この実施例では、特に制限されないが、回路素子数や消費電流の低減のために前記非特許文献1に示された図10の基準電圧発生回路のMOSFETQP4、トランジスタQ4が省略される。図10の回路では、差動増幅回路A1は、トランジスタQ3と同じ構成にされ、コレクタ,ベースが接続されたトランジスタQ4のベース電圧とトランジスタQ1のコレクタ電圧とを受けて両者が等しくなるように動作している。このことに着目し、図1の実施例では、直接的にトランジスタQ1のコレクタ電圧とベース電圧とを差動増幅回路A1に入力することにより、両者が一致させるようトランジスタQ1、Q3のベース電流を形成するものである。
【0018】
上記抵抗R1で形成された定電流の温度補償のために、言い換えるならば、出力される基準電圧Vref の温度補償のためにトランジスタQ2、抵抗R2,R3及びPチャネルMOSFETQP2が設けられる。上記トランジスタQ2は、コレクタとベースが接続され、その接続点から基準電圧Vref が出力される。上記トランジスタQ2のエミッタと基準電位VSSとの間には、上記抵抗R2が設けられる。上記トランジスタQ2の接続されたコレクタ,ベースと基準電位VSSとの間に抵抗R3が設けられる。上記トランジスタQ2のコレクタには、上記PチャネルMOSFETQP2のドレイン電流が供給される。上記抵抗R2とR3は、上記基準電圧Vref の温度補償のために、言い換えるならば、基準電圧Vref が温度依存性を持たないような抵抗比に設定される。
【0019】
この実施例回路では、上記PチャネルMOSFETQP1〜QP3におけるしきい値電圧のバラツキに対応したオフセット電圧(後述する図4に示すV2〜V4)による基準電圧Vref の変動を抑制するために、ソースと電源電圧VDDとの間に抵抗R4〜R6がそれぞれ設けられる。
【0020】
図2には、この発明に係る基準電圧発生回路の他の一実施例の回路図が示されている。この実施例は、前記図1と同様な構成にされたトランジスタQ1〜Q3、抵抗R1〜R3、差動増幅回路A1,A2及びPチャネルMOSFETQP1〜QP3を有する基準電圧発生回路において、トランジスタQ1〜Q3における電流増幅率βのバラツキによる基準電圧Vref の変動を抑制するために、PチャネルMOSFETQP5,QP6及びNチャネルMOSFETQN1〜QN3が設けられる。
【0021】
上記PチャネルMOSFETQP5は、ゲートに上記差動増幅回路A1の出力電圧が供給され、ソースには上記電源電圧VDDが印加され、ドレイン電流が上記トランジスタQ1とQ3のベースに供給される。これにより、MOSFETQP5は、上記トランジスタQ1とQ3に流れる合成ベース電流の検出素子として動作する。PチャネルMOSFETQP6は、上記MOSFETQP5と同じサイズにされ、上記PチャネルMOSFETQP5とゲート及びソースが共通接続されることにより、電流ミラー形態にされて同じ電流を流すようにされる。この電流は、基準電位VSS側に設けられたNチャネルMOSFETQN1〜QN3で構成される電流ミラー回路に入力される。
【0022】
つまり、上記PチャネルMOSFETQP6のドレイン電流は、ダイオード接続されたNチャネルMOSFETQN1のドレインに供給される。このNチャネルMOSFETQN1と電流ミラー形態にされたNチャネルMOSFETQN2とQN3は、そのサイズがMOSFETQN1の1/2に設定されて、上記MOSFETQN1の半分の電流を流すようにされる。上記MOSFETQN2のドレインは、上記トランジスタQ1のコレクタに接続される。上記MOSFETQN3のドレインは、上記トランジスタQ3のコレクタに接続される。
【0023】
図3には、この発明に係る基準電圧発生回路の更に他の一実施例の回路図が示されている。この実施例は、前記図2の基準電圧発生回路において、図1の実施例のようにPチャネルMOSFETQP1〜QP3におけるしきい値電圧のバラツキに対応したオフセット電圧による基準電圧Vref の変動を抑制するために、ソースと電源電圧VDDとの間に抵抗R4〜R6がそれぞれ設けられる。つまり、図1の実施例と図2の実施例を組み合わせて、上記MOSFETQP1〜QP3におけるプロセスバラツキによる基準電圧Vref に対するオフセット電圧の影響と、トランジスタQ1〜Q3における電流増幅率のプロセスバラツキの影響をそれぞれ抑制するというものである。
【0024】
図4には、この発明を説明するための等価回路図が示されている。同図は、図1の実施例に対応した差動増幅回路における差動素子のプロセスバラツキ、電流ミラーMOSFETQP1〜QP3のプロセスバラツキを検証するためのオフセット電圧V1〜V4が示されている。
【0025】
図5には、上記オフセット電圧V1〜V4による基準電圧Vref への影響の特性図が示されている。図5は、上記オフセット電圧V1〜V4による基準電圧Vref に対する影響を本願発明者によるコンピュータシミュレーションにより調べたものであり、前記図12と同様に上記各MOSFETQP1〜QP3のしきい値電圧が目標値(0mV)に対してそれぞれ−10mV〜+10mVの範囲で変動したことを想定し、それぞれのオフセット電圧V1〜V4が基準電圧Vref に与える影響を検証したものである。図5からは、基準電圧Vref に最も大きな影響を及ぼす前記MOSFETQP1のしきい値電圧のバラツキ(オフセット電圧V2)においても大幅に抑制されることが判る。
【0026】
このことを定量的には以下のように説明できる。例えば、図4において、MOSFETQP2について説明すると、ゲート電圧をVGとし、オフセット電圧V3をVOSとし、ソースに設けられた抵抗R5をRのように一般化すると、ドレイン電流をIDSとすると、次式1のように表すことができ、∂IDS/∂VOSを求めると次式2のように表すことができる。他のMOSFETQP1やQP3についてのオフセット電圧V2,V4においても同様である。
【0027】
【数1】

【0028】
【数2】

【0029】
上記式2において、∂IDS/∂VOSは、MOSFETのチャネル幅とチャネル長とのサイズ比W/L、オフセット電圧VOSに依存しないで抵抗Rに反比例する式(≒2/R)で表れるものとなる。上記ドレイン電流をIDSは、トランジスタQ2に供給されて基準電圧Vref を形成するので、式2(∂IDS/∂VOS)がオフセット電圧VOSに依存しないことは基準電圧Vref がオフセット電圧VOSのバラツキの影響を受なくできることを意味する。上記抵抗Rの抵抗値がある程度大きくなると、抵抗Rのバラツキの影響も小さくすることができる。この構成では、W/Lを小さくすることができるので低電圧動作に有利な回路となるものである。
【0030】
ちなみに、前記図10の回路のように抵抗が存在しない場合には、ドレイン電流IDSは、ド次式3のように表すことができ、∂IDS/∂VOSを求めると次式4のように表すことができる。この式4かから、電流のオフセット電圧依存性は、サイズ比W/L、オフセット電圧VOSに比例する。サイズ比W/Lを小さくすることは、変動量を小さくすることを意味するが、反面には低電圧動作を困難とするという別の弊害を生じるものである。
【0031】
【数3】

【0032】
【数4】

【0033】
図6には、前記図2,図3の実施例に対応した上記トランジスタQ1〜Q3の電流増幅率βのプロセスバラツキによる基準電圧Vref への影響の特性図が示されている。図6は、トランジスタQ1〜Q3の電流増幅率の設計値(中心値)βに対して半分(β×0.5)から2倍(β×2)の範囲のような大きなバラツキによる基準電圧Vref に対する影響を本願発明者によるコンピュータシミュレーションにより調べたものである。図6からは、上記基準電圧Vref に対する電流増幅率βのバラツキによる変動幅が大きく抑制されることが判る。
【0034】
このことは、定性的には次のように説明できる。図2において、トランジスタQ1,Q3に供給される電流IOUT には、MOSFETQP5によりトランジスタQ1,Q3のベース電流IB1,IB3を検知し、それをMOSFETQP6−QN1−QN2,QN3を経由して加算される。したがって、トランジスタQ2のコレクタから供給される電流IOUT は、上記トランジスタQ1のコレクタ電流IC1とベース電流IB1に対応したものとなる。したがって、トランジスタQ2のコレクタ電流IC2は上記トランジスタQ1のコレクタ電流IC1に等しく、トランジスタQ2のベース電流IB2は、上記トランジスタQ1のベース電流IB1に等しくできる。これらトランジスタQ1,Q2の電流増幅率βにプロセスバラツキが生じるということは、上記のようにコレクタ側の電流が一定にされるからベース電流IB1やIB2が変化させられるものとなるが、上記の回路ではトランジスタQ1とQ2に流れるコレタク電流及びベース電流が電流増幅率βのバラツキに関係なく同じ条件となり、電流増幅率βがばらついた場合のトランジスタQ2のコレクタ電流の変化量を抑えることができるので、基準電圧Vref の変動を抑えることが出来る。
【0035】
このことは、定量的には次のように説明できる。例えば、図2において、PチャネルMOSFETQP1〜QP3のドレイン電流をIOUT とし、トランジスタQ1のコレクタ電流をIC1とし、ベース電流をIB1とし、トランジスタQ2のコレクタ電流をIC2とし、ベース電流をIB2とし、ベース,エミッタ間電圧をVBEとし、抵抗R1をR1 とし、抵抗R2をR2 とし、抵抗R3をR3 とすると、ドレイン電流IOUT は、次式5のように表すことができ、基準電圧基準電圧Vref は、次式6のように表すことができる。
【0036】
【数5】

【0037】
【数6】

【0038】
式6において、基準電圧Vref は、電流増幅率βに依存せず、抵抗比R2 /R1 によりVBEの温度依存性をキャンセルさせることができる。
【0039】
ちなみに、図10の基準電圧発生回路においては、PチャネルMOSFETQP2からトランジスタQ2に供給される電流IOUT は、次式7にように表すことができ、基準電圧Vref は次式8のように表すことができる。上記式7及び式8において、いずれも電流増幅率βに依存するものであることが判る。
【0040】
定性的に説明すると、トランジスタQ1は、差動増幅回路A1からベース電流IB1が供給されるので、コレクタ電流IC1がそのままPチャネルMOSFETQP2を通して電流IOUT としてトランジスタQ2のコレクタ側に供給される。しかしながら、トランジスタQ2においては、コレクタとベースが接続されており、上記PチャネルMOSFETQP2から供給される電流IOUT は、トランジスタQ2のコレクタ電流IC2とベース電流IB2のように分配されて流れるものとなる。上記電流IC2とIB2の分配比は、電流増幅率βにより決定されてコレクタ電流IC2が変動することの結果、前記のように基準電圧Vref が変動するものとなる。
【0041】
【数7】

【0042】
【数8】

【0043】
図7には、この発明の説明図が示されている。図7は、前記図10と図1の基準電圧発生回路におけるPチャネルMOSFETQP1〜QP3のプロセスバラツキで発生するオフセット電圧によるワースト変動量を比較したものであり、図7のAは、前記図10の基準電圧発生回路におけるワースト変動量を示し、基準電圧Vref の変動量が約120mVにもなってしまう。これに対して図7のBは、前記図1の基準電圧回路におけるワースト変動量を示し、基準電圧Vref の変動量が20mV以下に抑制され、前記図10の回路に比べて85%もの改善ができる。
【0044】
図8には、この発明の他の説明図が示されている。図8は、前記図10と図1の基準電圧発生回路における前記トランジスタQ1〜Q3の電流増幅率βのバラツキによるワースト変動量を比較したものであり、図8のAは、前記図10の基準電圧発生回路におけるワースト変動量を示し、基準電圧Vref の変動量が約75mVにもなってしまう。これに対して図8のBは、前記図2の基準電圧回路におけるワースト変動量を示し、基準電圧Vref の変動量が3mV程度に抑制され、前記図10の回路に比べて約97%もの改善ができる。
【0045】
図3の実施例回路では、上記MOSFETQP1〜QP3のオフセット電圧と、トランジスタQ1〜Q3の電流増幅率βのバラツキが上記のように共に改善される。つまり、図10の回路では、MOSFETQP1〜QP3のオフセット電圧のバラツキにより120mV、電流増幅率βのバラツキにより70mVもそれぞれ変動するので、両方で190mVもの基準電圧Vref の変動を考慮しなければならない。これに対して、図3の実施例回路では、両方でも20mV程度にしかならないので、素子のプロセスバラツキの影響を大幅に抑制した基準電圧発生回路を得ることができる。
【0046】
図9には、このこの発明に係る基準電圧発生回路の更に他の一実施例の回路図が示されている。この実施例は、前記図3の実施例回路の変形例であり、トランジスタQ1、Q3のベース電流を検知するPチャネルMOSFETQP5と電流ミラー形態にされるPチャネルMOSFETQP6のドレイン電流を直接にトランジスタQ2のコレクタ,ベース接続点に供給するものである。PチャネルMOSFETQP5は、トランジスタQ1とQ3の2個のトランジスタのベース電流を流すので、PチャネルMOSFETQP6のサイズをMOSFETQP5のサイズに比べて1/2にすることにより、前記図3の実施例と同様にトランジスタQ2のコレクタとベース接続点に、上記トランジスタQ1のコレクタ電流IC1とベース電流IB1を供給することができる。これにより、前記図3の実施例と同様にトランジスタQ2のコレクタ電流IC2は上記トランジスタQ1のコレクタ電流IC1に等しく、トランジスタQ2のベース電流IB2は、上記トランジスタQ1のベース電流IB1に等しくできる。
【0047】
この実施例では、PチャネルMOSFETQP5,QP6が前記MOSFETQP1〜QP3と同様な回路構成とされることから、PチャネルMOSFETQP5,QP6におけるオフセット電圧が基準電圧Vref に影響を及ぼすものと考えられる。したがって、これを抑制するためにPチャネルMOSFETQP5,QP6のソース側にも前記PチャネルMOSFETQP1〜QP3のソース側に設けられた抵抗R4〜R6と同様な抵抗R7とR8が設けられる。この実施例は、前記図3の実施例と比較して電流パスが減り、低消費電力化、小面積化につながる。
【0048】
上記基準電圧発生回路を形成される半導体集積回路装置は、CMOS回路で構成されるものが好適である。この場合、素子のプロセスバラツキに影響されない回路とすることができることから、SOC搭載メモリやマイクロプロセッサに有効なものとなる。これらの半導体集積回路装置は、低電圧化のニーズが高く、しかも高精度な基準電圧が必要であるからである。また、プロセスにより異なるβに対応した再設計が不要になることから、ハードウェアIP(Intellectual Propety) コアに利用して有効な技術となる。更に、プロセッサ等トリミングすることが難しい製品では、MOSFETのしきい値電圧や電流増幅率βのバラツキによる基準電圧の変動量が小さいので、トリミング回路を準備しておく必要が無いことから有効である。
【0049】
以上本発明者によってなされた発明を、前記実施形態に基づき具体的に説明したが、本発明は、前記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々変更可能である。例えば、トランジスタQ1〜Q3は、前記のような3重ウェル構造のCMOSプロセスで形成される半導体領域で構成されるものの他、ラテラル構造のバイポーラトランジスタを用いるもの等種々の変形を採ることができる。負電圧を電源電圧とした場合には、トランジスタやMOSFETの導電型を逆にすればよい。上記抵抗R4〜R8等は、前記のように比較的高い抵抗値にされる必要があるので、ポリシリコン抵抗等を利用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0050】
この発明は、MOSFETで構成される半導体集積回路装置に搭載される基準電圧発生回路として広く利用でき、低電圧化のニーズが高く、しかも高精度な基準電圧を必要とするSOC搭載メモリやマイクロプロセッサ、ハードウェアIPコア製品、トリミングすることが難しい各種半導体集積回路装置等に利用して有効なものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】この発明に係る基準電圧発生回路の一実施例の回路図である。
【図2】この発明に係る基準電圧発生回路の他の一実施例の回路図である。
【図3】この発明に係る基準電圧発生回路の更に他の一実施例の回路図である。
【図4】この発明を説明するための等価回路図である。
【図5】図1のMOSFETのオフセット電圧のバラツキによる基準電圧への影響を示した特性図である。
【図6】図2のトランジスタの電流増幅率のバラツキによる基準電圧への影響を示した特性図である。
【図7】この発明の説明図である。
【図8】この発明の他の説明図である。
【図9】このこの発明に係る基準電圧発生回路の更に他の一実施例の回路図である。
【図10】従来の基準電圧発生回路の回路図である。
【図11】本願発明者により検討された図10の等価回路である。
【図12】図10のMOSFETのオフセット電圧のバラツキによる基準電圧への影響を示した特性図である。
【図13】図10のトランジスタの電流増幅率のバラツキによる基準電圧への影響を示した特性図である。
【符号の説明】
【0052】
A1,A2…差動増幅回路、Q1〜Q4…トランジスタ、QP1〜QP6…PチャネルMOSFET、QN1〜QN3…NチャネルMOSFET、R1〜R8…抵抗、

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基準電圧発生回路を有し、
上記基準電圧発生回路は、
第1トランジスタと、
上記第1トランジスタよりも大きなエミッタ面積を持つようにされた第2トランジスタと、
上記第1トランジスタのベースとコレクタ電圧が等しくなるように上記第1トランジスタと第2トランジスタのベース電流を形成する第1差動増幅回路と、
上記第2トランジスタのエミッタと基準電位との間に設けられ、上記第1トランジスタと第2トランジスタとのエミッタ電流密度に対応して発生されたシリコンバンドギャップ電圧が印加された第1抵抗素子と、
コレクタとベースとが結合され、エミッタと上記基準電位との間に第2抵抗素子が設けられ、上記結合されたコレクタ,ベースと上記基準電位との間に第3抵抗素子が設けられた第3トランジスタと、
上記第1トランジスタのコレクタと第2トランジスタのコレクタの電圧を受ける第2差動増幅回路と、
上記第2差動増幅回路の出力電圧がゲートに供給され、上記第1ないし第3トランジスタのコレクタ電流をそれぞれ形成する第1ないし第3MOSFETとを有し、
上記第1抵抗素子と第2抵抗素子は、上記第3トランジスタの結合されたコレクタ,ベースから出力される基準電圧が温度依存性を持たないような抵抗比に設定され、
上記第1ないし第3MOSFETのソース側に第4ないし第6抵抗素子をそれぞれ有する半導体集積回路装置。
【請求項2】
請求項1において、
上記第4ないし第6抵抗素子は、第4ないし第6抵抗素子のバラツキの影響が小さくなる大きな抵抗値を持つようにされる半導体集積回路装置。
【請求項3】
請求項1又は2において、
上記第1差動増幅回路は、上記第1トランジスタのコレクタ電圧とベース電圧とを受けて、出力電流を上記第1トランジスタと第2トランジスタのベースに供給する半導体集積回路装置。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかにおいて、
上記第1ないし第3トランジスタは、P型基板上に形成された深い深さのN型ウェル領域をコレクタとし、上記深い深さのN型ウェル領域に形成されたP型ウェル領域をベースとし、上記P型ウェル領域に形成されたN型領域をエミッタとするものであり、
上記第1ないし第3MOSFETは、上記P型基板上又は上記深い深さのN型ウェル領域上に形成されたN型ウェル領域に、P型のソース,ドレインが形成されたPチャネルMOSFETである半導体集積回路装置。
【請求項5】
基準電圧発生回路を有し、
上記基準電圧発生回路は、
第1トランジスタと、
上記第1トランジスタよりもエミッタ面積が大きく形成された第2トランジスタと、
上記第1トランジスタのベースとコレクタ電圧が等しくなるよう上記第1と第2トランジスタのベース電流を形成する第1差動増幅回路と、
上記第2トランジスタのエミッタと基準電位との間に設けられ、上記第1トランジスタと第2トランジスタとのエミッタ電流密度に対応して発生されたシリコンバンドギャップ電圧が印加された第1抵抗素子と、
コレクタとベースとが結合され、エミッタと上記基準電位との間に第2抵抗素子が設けられ、上記結合されたコレクタ,ベースと上記基準電位との間に第3抵抗素子が設けられた第3トランジスタと、
上記第1トランジスタのコレクタと第2トランジスタのコレクタの電圧を受ける第2差動増幅回路と、
上記第2差動増幅回路の出力電圧がゲートに供給され、上記第1ないし第3トランジスタのコレクタに供給される電流が等しくなるような電流をそれぞれ形成する第1ないし第3MOSFETとを有し、
上記第1抵抗素子と第2抵抗素子は、上記第3トランジスタの結合されたコレクタク,ベースから形成される基準電圧が温度依存性を持たないような抵抗比に設定され、
上記第1、第2トランジスタのベース電流は、上記第1差動増幅回路の出力電圧がゲートに供給された第4MOSFETのドレイン電流により形成され、
上記第4MOSFETで検出された第1、第2トランジスタのベース電流に対応して、上記第3トランジスタのコレクタに供給される電流を増加させる電流ミラー回路を更に有する半導体集積回路装置。
【請求項6】
請求項5において、
上記電流ミラー回路は、
上記第4MOSFETとゲートとソースが共通接続され、第4MOSFETの半分の電流を流す第5MOSFETと、
上記第5MOSFETに流れる電流を入力電流として、上記第1と第2MOSFETのドレイン電流にベース電流を加算させる第6ないし第8MOSFETとを有する半導体集積回路装置。
【請求項7】
請求項5において、
上記電流ミラー回路は、
上記第4MOSFETとゲートとソースが共通接続され、第4MOSFETの半分の電流を流す第5MOSFETを有し、
上記第5MOSFETのドレイン電流が上記第3トランジスタのコレクタに供給される半導体集積回路装置。
【請求項8】
請求項6又は7において、
上記第1ないし第3MOSFETのソース側に第4ないし第6抵抗素子をそれぞれ有する半導体集積回路装置。
【請求項9】
請求項8において、
上記第4ないし第6抵抗素子は、第4ないし第6抵抗素子のバラツキの影響が小さくなる大きな抵抗値を持つようにされる半導体集積回路装置。
【請求項10】
請求項6ないし9のいずれかにおいて、
上記第1ないし第3トランジスタは、P型基板上に形成された深い深さのN型ウェル領域をコレクタとし、上記深い深さのN型ウェル領域に形成されたP型ウェル領域をベースとし、上記P型ウェル領域に形成されたN型領域をエミッタとするものであり、
上記第1ないし第5MOSFETは、上記P型基板上又は上記深い深さのN型ウェル領域上に形成されたN型ウェル領域に、P型のソース,ドレインが形成されたPチャネルMOSFETである半導体集積回路装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2009−265954(P2009−265954A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−114930(P2008−114930)
【出願日】平成20年4月25日(2008.4.25)
【出願人】(000233169)株式会社日立超エル・エス・アイ・システムズ (327)
【Fターム(参考)】