説明

半透過鏡およびその製造方法

【課題】電気抵抗が高く、且つ優れた耐久性を有する半透過鏡を提供する。
【解決手段】基板上に、金属反射膜、及び保護塗膜がこの順に積層された半透過鏡であって、前記金属反射膜がスズとアルミニウムとを含み、その金属反射膜中のアルミニウムの含有率が8〜40質量%である半透過鏡。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属反射膜を有する半透過鏡およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年のステレオやデジタルビデオディスク(DVD)レコーダー等のオーディオ・ビジュアル機器には、その前面パネルに、金属反射膜を有する合成樹脂半透過鏡が多く使用されている。これは、合成樹脂半透過鏡が一般に好まれる金属調の質感を持ち、且つその前面パネルの背後に設置された機器の表示装置が示す情報を視認できることによる。
【0003】
従来の合成樹脂半透過鏡における金属反射膜材料としては、アルミニウム、クロム、ニッケル等の導電性材料が多く使用されている。
【0004】
特開2006−281726号公報(特許文献1)には、非導通の金属膜が、スズを真空蒸着することによって得られることが開示されている。
【0005】
一方、前述したオーディオ・ビジュアル機器等においては、人がその機器に指示を入力したり、動作状況を読み取ったりするマン−マシンインターフェース部のデザインの多様化が進んでいる。従来、押しボタンスイッチ等を設ける場合は半透過鏡パネルのその対応部分を切り取って(穴をあけて)取付けることが多かったが、パネルを切り取らずにその下に静電容量式のタッチスイッチを取付けたものも見られる。
【特許文献1】特開2006−281726号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前記のような導電性材料からなる金属反射膜を用いた合成樹脂半透過鏡では、その金属反射膜の導電性がタッチスイッチの正常動作を妨げるという問題があった。
【0007】
また前記の非導通のスズ蒸着膜を用いた合成樹脂半透過鏡は、他の金属反射膜のものと比較してその耐湿性などの耐久性能が著しく劣る。
【0008】
本発明は、電気抵抗が高く、且つ優れた耐久性をもつ半透過鏡を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願発明は、樹脂基板上に、金属反射膜および保護塗膜がこの順に積層された半透過鏡であって、前記金属反射膜がスズとアルミニウムとを含み、該金属反射膜中のアルミニウムの含有率が8〜40質量%である半透過鏡である。
【0010】
また本願発明は、樹脂基板上に、金属反射膜および保護塗膜がこの順に積層された半透過鏡の製造方法であって、前記樹脂基板上に、アルミニウムの含有率が8〜40質量%となるように、スズとアルミニウムとを含む前記金属反射膜を真空蒸着により形成する工程と、前記金属反射膜上に前記保護塗膜を形成する工程を有する半透過鏡の製造方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、電気抵抗が高く、且つ優れた耐久性を有する半透過鏡を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下に図面を用いて本発明の一実施形態を説明する。
【0013】
本実施形態の半透過鏡は、樹脂基板1の一方の主面(図中、上面)に、スズ−アルミニウム合金反射膜2および保護塗膜3が基板側からこの順に積層されてなる。
【0014】
金属反射膜3の膜厚または反射率によって光線透過率を制御する点から、樹脂基板1としては透明樹脂基板を用いることが好ましい。この透明樹脂基板は、半透過鏡に使用可能な透明性を持った樹脂であれば特に限定されない。この透明樹脂基板は、透明性を損なわない程度に着色されているものであっても良い。このような透明樹脂基板としては、アクリル板、ポリカーボネート板等が、その透明性の高さから好適に使用できる。透明樹脂基板の厚みは0.5〜5mmが好ましい。樹脂基板表面の耐擦傷性および耐薬品性に優れる点から、透明樹脂基板の両面に予めハードコートを施すことが好ましい。ハードコートの種類は、特に限定されないが、例えばアクリル系ハードコート、シリコン系ハードコート等が挙げられる。ハードコート膜の成膜方法については、例えばディッピング法、キャスト法、フローコート法等の公知の技術を適用できる。
【0015】
前記透明樹脂基板上に形成する金属反射膜2は、スズとアルミニウムとを含み、アルミニウムの含有率が8〜40質量%の範囲にある。この金属反射膜中のアルミニウムの含有を8〜40質量%の範囲とすると、十分に高い電気抵抗を維持しながら、半透過鏡の耐湿性能が著しく高められる。前記金属反射膜中のアルミニウムの含有率が40質量%を超えると、表面抵抗値が低下し、金属反射膜の非導電性が失われる傾向にある。前記金属反射膜中のアルミニウムの含有率が8質量%未満であると、耐湿性が悪化する傾向にある。アルミニウムの含有率は10〜35質量%であることが好ましく、13〜33質量%であることがより好ましい。
【0016】
本発明における金属反射膜を得るための方法としては、真空蒸着法が好ましい。その場合、スズとアルミニウムの合金を蒸着させる方法のほか、スズおよびアルミニウムそれぞれの単体を、同一の蒸発源から蒸発させる、もしくは別々の蒸発源から同時に蒸発させる、などの方法であってもよい。
【0017】
樹脂基板(透明樹脂基板)1に対する金属反射膜2の付着性を高めるために、金属反射膜を形成する前に、樹脂基板に対して公知の技術であるコロナ放電処理、プラズマ処理等を行うことが望ましい。その具体的方法については、特に制限はないが、例えば特許第3185887号公報で示されている方法が挙げられる。金属反射膜の厚みは半透過性を損なわない範囲として10nm〜50nmの範囲に設定することが好ましい。
【0018】
本発明において、保護塗膜3を形成する塗料は、アクリル系、アクリル・ウレタン系、アルキド・メラミン系等の透明塗料を採用することができる。
【0019】
これらの透明塗料は、樹脂基板に対する保護塗膜用として従来使用可能なものを用いることができ、例えば熱硬化性または光硬化性塗料が挙げられる。その塗布方法は、スプレー法、フローコーター法等の公知の技術・方法により行うことができる。塗布後、加熱または光照射により塗膜を硬化させることができる。硬化後の保護塗膜の厚みは、防食の観点から10μm以上であることが好ましく、また密着性の観点から30μm以下であることが好ましい。
【0020】
本発明の半透過鏡の用途は、特に制限されないが、外観やデザイン性の観点から、例えばオーディオ・ビジュアル機器等の電気機器筐体として好ましく用いることができる。
【実施例】
【0021】
本発明について、実施例および比較例を挙げてさらに説明する。
【0022】
実施例1
両面にアクリル系ハードコートを施した、厚さ2mmのアクリル板(三菱レイヨン(株)
製、アクリライト(登録商標)MR−200)を用意し、このアクリル板にプラズマによる基板処理(使用した装置:日本電子(株)製、JRF−300)を行った。
【0023】
このアクリル板上に、真空蒸着により、光線透過率が約20%となるように、スズ46.6mg、アルミニウム9.3mgを蒸着材料として用いてスズ−アルミニウム合金からなる金属反射膜を形成した(使用した装置:(株)徳田製作所製、HCP−12U−65A)。スズ(Sn)とアルミニウム(Al)の金属反射膜中の質量比(Sn:Al)が87:13となった。
【0024】
形成した金属反射膜中のスズとアルミニウムの質量比は、ICP発光分光分析法による定量分析を行って決定した。すなわち、サンプルを35℃±5℃の50%塩酸水溶液中に60分浸漬して金属反射膜を溶解した後、少量の水でサンプルを洗浄し、その浸漬液と洗浄液を併せた液中のスズとアルミニウムをIPC発光分光分析装置((株)島津製作所製、ICPS−8000)を用いて測定した。
【0025】
光線透過率の測定には、デンシトメータ(コニカミノルタ製、PDA−100)を用い、次式:
吸光度=−log(透過率)
に従って、光学濃度(吸光度)から透過率(出射光強度/入射光強度)を求めた。
【0026】
上記のプラズマ処理および真空蒸着の条件をそれぞれ表1及び表2に示す。
【0027】
【表1】

【0028】
【表2】

【0029】
真空蒸着により合金膜(金属反射膜)を形成した後、その表面抵抗値をエレクトロメータ((株)アドバンテスト製、R8340A)を用いて測定した。
【0030】
次に、この合金膜上に、アクリル系透明塗料(オリジン電気(株)製、商品名:プラネットPX−1)を、フローコーター法により、乾燥膜厚が約20μmとなるように塗布し、その後、70℃に設定した乾燥炉にて1時間乾燥し、本実施例の半透過鏡を得た。
【0031】
実施例2
スズ(Sn)とアルミニウム(Al)の量を変えた以外は、実施例1と同様にしてに真空蒸着を行い半透過鏡を作製した。金属反射膜中の質量比(Sn:Al)が67:33となった。
【0032】
比較例1
スズ(Sn)とアルミニウム(Al)の量を変えた以外は、実施例1と同様にしてに真空蒸着を行い半透過鏡を作製した。金属反射膜中の質量比(Sn:Al)が100:0となった。
【0033】
比較例2
スズ(Sn)とアルミニウム(Al)の量を変えた以外は、実施例1と同様にしてに真空蒸着を行い半透過鏡を作製した。金属反射膜中の質量比(Sn:Al)が95:5となった。
【0034】
比較例3
スズ(Sn)とアルミニウム(Al)の量を変えた以外は、実施例1と同様にしてに真空蒸着を行い半透過鏡を作製した。金属反射膜中の質量比(Sn:Al)が50:50となった。
【0035】
比較例4
市販のアクリル樹脂半透過鏡((株)菱晃製、商品名:アクリミラーMRH001、透過率30%、金属反射膜のアルミニウム含有率100%)を比較試料として用いた。
【0036】
上記の半透過鏡について以下の各種試験を行い、表3に示す結果を得た。
【0037】
電磁波シールド試験:KEC法((社)関西電子工業振興センター)に従って実施し、電界シールド特性および磁界シールド特性を得た;
耐湿性試験:60℃、95%RHの恒温恒湿槽に168時間放置した後、透過率を測定し、並びに外観及び膜の密着性を評価した;
耐水道水性試験:23℃の水道水に168時間浸漬した後、透過率を測定し、並びに外観及び膜の密着性を評価した;
耐熱性試験:70℃の恒温槽内に168時間放置した後、透過率を測定し、並びに外観及び膜の密着性を評価した;
耐候性試験:加速耐候性試験装置(Q.U.V Accelerated Weathering Tester、THE Q−PANEL COMPANY製)内に168時間(60℃、UV3時間/加湿3時間繰り返し)放置した後、光線透過率を測定し、並びに外観及び膜の密着性を評価した。
【0038】
上記の耐久試験における外観、光線透過率、密着性の評価は、以下の評価基準に従って行った。
【0039】
外観:目視により金属反射膜に異常がないものを○、腐食等の異常のあるものを×;
光線透過率:試験前のサンプルに対しての光線透過率の増加値が2%以内のものを○、2%を超えたものを×;
膜の密着性:JIS K5600 5−6に基づき、クロスカット法で剥がれのないものを○、剥がれがあるものを×。
【0040】
【表3】

【0041】
(電界シールド特性)
実施例1、実施例2、比較例1、比較例2は10MHz、100MHz、1GHzの電磁波の電界に対するシールド特性が無いことを示しており、金属反射膜の非導電性を表している。比較例3、比較例4は逆に金属反射膜が高いアルミ含有率により導電性を有しているためシールド性が現れている。この結果から、実施例1と実施例2が耐久性を満足し且つ非導電性を有する金属反射膜であることが判る。なお、電界シールド特性1dB未満であると、該シールド特性が無いと判断した。
(磁界シールド特性)
実施例1、実施例2は10MHz、100MHz、1GHzの電磁波の磁界に対するシールド特性が無いことを示しているため、実施例1、実施例2は耐久性を満足し且つ電磁波の電界と磁界の双方のシールド性が無い金属反射膜であることが判る。なお、磁界シールド特性1dB未満であると、該シールド特性が無いと判断した。
【0042】
表3から、本発明による実施例の半透過鏡は、金属反射膜が十分に高い電気的抵抗を有し、且つ、優れた耐久性を有することが、明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明による一実施形態の半透過鏡を説明するための断面図である。
【符号の説明】
【0044】
1:樹脂基板
2:金属反射膜
3:保護塗膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂基板上に、金属反射膜および保護塗膜がこの順に積層された半透過鏡であって、前記金属反射膜がスズとアルミニウムとを含み、該金属反射膜中のアルミニウムの含有率が8〜40質量%である半透過鏡。
【請求項2】
電気機器筐体用である請求項1に記載の半透過鏡。
【請求項3】
樹脂基板上に、金属反射膜および保護塗膜がこの順に積層された半透過鏡の製造方法であって、
前記樹脂基板上に、アルミニウムの含有率が8〜40質量%となるように、スズとアルミニウムとを含む前記金属反射膜を真空蒸着により形成する工程と、
前記金属反射膜上に前記保護塗膜を形成する工程を有する半透過鏡の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2009−73098(P2009−73098A)
【公開日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−245504(P2007−245504)
【出願日】平成19年9月21日(2007.9.21)
【出願人】(390025313)株式会社菱晃 (12)
【出願人】(506008869)岩▲崎▼真空技術株式会社 (3)
【Fターム(参考)】