説明

単結晶製造装置および単結晶製造方法

【課題】停電時や機械故障発生時などの異常発生時でも、ワイヤーロープの素線切れや破断の発生を防止しつつ、育成した結晶の回転を安全に停止することができる単結晶製造装置および単結晶製造方法を提供する。
【解決手段】第1の動力源の回転出力を利用して、先端に種結晶17を有するワイヤーロープ19を回転させるための第1の回転手段と、ワイヤーロープ19の回転を減速して停止させるための第1の回転停止手段と、ワイヤーロープ19の回転時に異常の発生を検出する異常発生検出手段と、第2の動力源の回転出力を利用してワイヤーロープ19を回転させるための第2の回転手段と、ワイヤーロープ19の回転を減速して停止させるための第2の回転停止手段と、異常を検出したとき、ワイヤーロープ19を回転させるために利用する回転出力を、第1の動力源の回転出力から第2の動力源の回転出力へと切り替える切替手段とを備える単結晶製造装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チョクラルスキー法で単結晶を製造するための装置および方法に関し、特には、停電時や機械故障発生時などでも単結晶の回転を制御することができる単結晶製造装置および単結晶製造方法に関するするものである。
【背景技術】
【0002】
従来、るつぼ中の原料物質の融液に種結晶を接触させ、該種結晶を回転させながら引き上げて単結晶を育成するチョクラルスキー法(CZ法、MCZ法)で単結晶を製造する場合、引き上げた結晶の回転の停止については制御がなされていなかった。そして、特に停電時や機械故障発生時などの異常発生時については、異常発生時用の対策を講じることなく、結晶の回転を急停止させていた。
【0003】
しかしながら、本発明者が結晶回転の停止について検討したところ、異常発生時等に結晶回転を急停止させると、特に、ワイヤーロープの自転モーメントや自転角が大きい場合には、育成した結晶が懸吊されているワイヤーロープに過度の撚り締りや撚り戻りが発生し、最悪の場合には、ワイヤーロープの素線切れや破断が生じて引き上げた結晶が落下する恐れがあることが明らかとなった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そのため、チョクラルスキー法による単結晶の製造において、停電時や機械故障発生時などの異常発生時でも、ワイヤーロープの素線切れや破断の発生を防止しつつ、育成した結晶の回転を安全に停止することができる単結晶製造装置を開発する必要があった。また、停電時や機械故障発生時などの異常発生時でも、育成した結晶の回転を安全に停止することができる単結晶製造方法を開発することが求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の単結晶製造装置は、第1のクラッチを介して伝達される第1の動力源の回転出力を利用して、先端に種結晶を有するワイヤーロープを回転させるための第1の回転手段と、前記種結晶上に単結晶を成長させながら該種結晶および単結晶を引き上げるための引き上げ手段と、前記第1の動力源の回転出力を利用して回転させている前記ワイヤーロープの回転を減速して停止させるための第1の回転停止手段とを具える単結晶製造装置において、該単結晶製造装置は、前記ワイヤーロープの回転時に異常の発生を検出する異常発生検出手段と、前記異常発生検出手段が異常の発生を検出した際に、第2のクラッチを介して伝達される第2の動力源の回転出力を利用して、前記ワイヤーロープを回転させるための第2の回転手段と、前記第2の動力源の回転出力を利用して回転させている前記ワイヤーロープの回転を減速して停止させるための第2の回転停止手段と、前記異常発生検出手段が異常を検出したとき、前記ワイヤーロープを回転させるために利用する回転出力を、前記第1の動力源の回転出力から前記第2の動力源の回転出力へと切り替える切替手段とを更に備えることを特徴とする。このように、異常発生時に第2の動力源の回転出力を利用してワイヤーロープを回転させる機構を設ければ、停電時や機械故障発生時などの異常発生時でも結晶(ワイヤーロープ)の回転が急停止することがなく、必要に応じて結晶の育成を続けることができると共に、育成した結晶の回転を安全に停止することができる。
【0006】
ここで、本発明の単結晶製造装置において、前記第2の回転停止手段は、0.53rad/s以下の角減速度で前記ワイヤーロープの回転を減速して停止させても良い。このようにすれば、ワイヤーロープの素線切れや破断の発生をより確実に防止することができる。
【0007】
更に、本発明の単結晶製造装置は、引き上げた前記種結晶および前記単結晶の質量を測定する結晶質量測定手段と、引き上げた前記種結晶および前記単結晶を懸吊しているワイヤーロープの長さを測定するワイヤーロープ長測定手段と、前記結晶質量測定手段で測定した種結晶および単結晶の質量と、前記ワイヤーロープ長測定手段で測定したワイヤーロープの長さとを用いてワイヤーロープの自転モーメントMおよびワイヤーロープの自転角θを演算する演算手段とを更に備え、前記第2の回転停止手段は、前記ワイヤーロープが、前記自転モーメントM:23.5N・mm以上(M≧23.5N・mm)と、前記自転角θ:40°以上(θ≧40°)との少なくとも一方を満たす条件で回転している場合には、0.53rad/s以下の角減速度で前記ワイヤーロープの回転を減速して停止させることが好ましい。このように、自転モーメントMが23.5N・mm以上の場合と、自転角θが40°以上の場合との少なくとも一方に該当する場合に、ワイヤーロープの回転速度を0.53rad/s以下の角減速度で減少させれば、ワイヤーロープの素線切れや破断の発生をより確実に防止することができる。従って、例えば直径が450mmである重量物のシリコンインゴットを製造する際にも、育成した結晶の回転を安全に停止することができる。なお、ワイヤーロープの自転モーメントMが23.5N・mm未満(M<23.5N・mm)、且つ、ワイヤーロープの自転角θが40°未満(θ<40°)の場合には、そもそも結晶回転停止時にワイヤーロープの素線切れ等は生じ難いので、任意の角減速度でワイヤーロープの回転速度を減少させて結晶(ワイヤーロープ)の回転を停止させることができる。
【0008】
また、本発明の単結晶製造方法は、原料物質の融液に対しワイヤーロープの先端に設置した種結晶を接触させ、該種結晶を、第1のクラッチを介して伝達される第1の動力源の回転出力を利用して前記ワイヤーロープを回転させることで回転させると共に、引き上げ機構で引き上げる工程と、前記種結晶の引き上げ中に、異常発生検出手段で異常の発生の有無を検出する工程とを含む単結晶製造方法であって、前記種結晶の引き上げ中に前記異常発生検出手段で異常の発生が検出されなかった場合には、第1の回転停止手段で、前記第1の動力源の回転出力を利用して回転させている前記ワイヤーロープの回転を減速して停止させ、前記種結晶の引き上げ中に前記異常発生検出手段で異常の発生が検出された場合には、前記ワイヤーロープを回転させるために利用する回転出力を、前記第1の動力源の回転出力から、第2のクラッチを介して伝達される第2の動力源の回転出力へと切り替え、その後、第2の回転停止手段で、前記第2の動力源の回転出力を利用して回転させている前記ワイヤーロープの回転を減速して停止させることを特徴とする。このように、異常発生時に第2の動力源の回転出力を利用してワイヤーロープを回転させれば、停電時や機械故障発生時などの異常発生時でも結晶(ワイヤーロープ)の回転が急停止することがなく、必要に応じて結晶の育成を続けることができると共に、育成した結晶の回転を安全に停止することができる。
【0009】
ここで、本発明の単結晶製造方法においては、前記第2の回転停止手段で、0.53rad/s以下の角減速度で前記ワイヤーロープの回転を減速して停止させても良い。このようにすれば、ワイヤーロープの素線切れや破断の発生をより確実に防止することができる。
【0010】
また、本発明の単結晶製造方法においては、前記第2の回転停止手段で前記ワイヤーロープの回転を停止させる際に、ワイヤーロープの自転モーメントM:23.5N・mm以上(M≧23.5N・mm)と、ワイヤーロープの自転角θ:40°以上(θ≧40°)との少なくとも一方を満たす条件でワイヤーロープが回転している場合には、0.53rad/s以下の角減速度で前記ワイヤーロープの回転を減速して停止させても良い。このように、自転モーメントMが23.5N・mm以上の場合と、自転角θが40°以上の場合との少なくとも一方に該当する場合に、ワイヤーロープの回転速度を0.53rad/s以下の角減速度で減少させれば、ワイヤーロープの素線切れや破断の発生をより確実に防止することができる。従って、例えば直径が450mmである重量物のシリコンインゴットを製造する際にも、育成した結晶の回転を安全に停止することができる。なお、ワイヤーロープの自転モーメントMが23.5N・mm未満(M<23.5N・mm)、且つ、ワイヤーロープの自転角θが40°未満(θ<40°)の場合には、そもそも結晶回転停止時にワイヤーロープの素線切れ等は生じ難いので、任意の角減速度でワイヤーロープの回転速度を減少させて結晶(ワイヤーロープ)の回転を停止させることができる。
【0011】
更に、本発明の単結晶製造方法においては、前記角減速度は一定であることが好ましい。
【0012】
なお、本発明において、「異常」には、停電や第1の動力源の故障といった第1の動力源の回転出力の異常の他、第1の回転手段の故障などの機械故障も含まれる。また、本発明において、ワイヤーロープの自転モーメントMは、下記式(I)に従い算出することができ、ワイヤーロープの自転角θは、下記式(II)に従い算出することができる。
M=α×W×sin(a)・・・(I)
θ=M×l/(Gr×Ip)・・・(II)
[式中、αは定数、Wは育成した結晶(種結晶+単結晶)の質量、aはワイヤーロープの撚り線角度、lはワイヤーロープの長さ、Grはワイヤーロープの横弾性係数、Ipはワイヤーロープの断面二次極モーメントである。]
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、チョクラルスキー法による単結晶の製造において、停電時や機械故障発生時などの異常発生時でも、ワイヤーロープの素線切れや破断の発生を防止しつつ、育成した結晶の回転を安全に停止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の単結晶製造装置の一例の構成を示す説明図である。
【図2】(a)は、図1に示す単結晶製造装置のワイヤーロープの一部を正面から見た説明図であり、(b)は、図2(a)のA−A線に沿う断面図である。
【図3】図1に示す単結晶製造装置のワイヤーロープ回転機構の構成を説明する説明図である。
【図4】図1に示す単結晶製造装置を用いて単結晶を製造する際に、停電が発生した場合の制御フローを説明するフローチャートである。
【図5】図1に示す単結晶製造装置を用いて単結晶を製造する際に、第1モータの故障が発生した場合の制御フローを説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施の形態を詳細に説明する。ここに、本発明の単結晶製造装置の一例は、例えば直径450mmの円柱状のシリコンインゴットをチョクラルスキー法(CZ法またはMCZ法(磁場印加式チョクラルスキー法))により製造するための単結晶製造装置10であり、図1に示すように、チャンバ11内に、単結晶シリコンの原料物質となる多結晶シリコンを収容するためのるつぼ12と、該るつぼ12内の原料物質を加熱して融液13とするためのヒーター14と、るつぼ12の下部に設けられてるつぼ12を円周方向(図1では装置上方から見て時計回り)に回転させるるつぼ回転機構15と、単結晶16を育成するための種結晶17を保持する種結晶保持器(シードチャック)18が先端に取り付けられているワイヤーロープ19と、該ワイヤーロープ19をるつぼ12の回転方向とは反対の方向(図1では装置上方から見て反時計回り)に回転させながら巻き取って単結晶16、種結晶17および種結晶保持器18を回転させつつ引き上げる結晶回転・引き上げ機構20とを有している。また、この単結晶製造装置10は、停電検出機構、動作異常(停止や異常高温発生)検出機構およびレーザーセンサ等の、停電や機械故障の発生を検出する異常発生検出手段としての各種機構またはセンサ(図示せず)や、引き上げた種結晶17および単結晶16の質量を測定する結晶質量測定手段としての結晶質量センサ(図示せず)や、引き上げた種結晶17および単結晶16を懸吊しているワイヤーロープの長さを測定するワイヤーロープ長測定手段としてのエンコーダ(図示せず)も備えている。
【0016】
ここで、ワイヤーロープ19は、例えば図2(a)に示すような撚り線角度aの同心撚り構造を有している。具体的には、ワイヤーロープ19は、図2(b)に図2(a)のA−A線に沿う断面を示すように、1本のコア素線24(素線径:d)の周囲に6本の素線25(素線径:d)を撚り合わせた構造を有している。
【0017】
結晶回転・引き上げ機構20は、ワイヤーロープ19を巻き取って単結晶16、種結晶17および種結晶保持器18を引き上げる、引き上げ手段としてのワイヤーロープ巻き取り器21と、そのワイヤーロープ巻き取り器21が内部に設置された筐体22を回転させてワイヤーロープ19を回転させる、図3に示すようなワイヤーロープ回転機構23(図1には図示せず)とからなる。
【0018】
ワイヤーロープ回転機構23は、筐体22の回転軸30を介して筐体22へ動力源の回転出力を伝達させることにより筐体22を回転させるものである。そして、ワイヤーロープ回転機構23は、図3に示すように、通常運転時用の動力機構と、異常発生時(例えば、停電時や機械故障発生時)用の動力機構との2系統の動力機構を有しており、これらの動力機構の動作は、コントローラ31により制御されている。なお、ワイヤーロープ回転機構23には、回転軸30の回転速度を検出するための図示しないエンコーダが設けられている。
【0019】
具体的には、ワイヤーロープ回転機構23は、通常運転時用の動力機構として、第1モータ33と、第1モータ33と該第1モータ33の回転出力が入力される第1入力プーリ35との間に設けられた第1電磁クラッチ34と、回転軸30と一体となって回転する第1出力プーリ37と、第1入力プーリ35と第1出力プーリ37との間に巻き掛けられた第1ベルト36とを備えている。また、ワイヤーロープ回転機構23は、異常発生時用の動力機構として、第2モータ38と、第2モータ38と該第2モータ38の回転出力が入力される第2入力プーリ40との間に設けられた第2電磁クラッチ39と、回転軸30と一体となって回転する第2出力プーリ42と、第2入力プーリ40と第2出力プーリ42との間に巻き掛けられた第2ベルト41と、停電時にもコントローラ31、エンコーダ(図示せず)、第2モータ38、第2電磁クラッチ39等へ電力を供給し得る無停電電源装置(UPS)43とを備えている。
【0020】
そして、このワイヤーロープ回転機構23では、通常運転時には、第1の動力源としての第1モータ33の回転出力が、第1のクラッチとしての第1電磁クラッチ34、並びに、第1の回転手段としての第1入力プーリ35、第1ベルト36および第1出力プーリ37を介して回転軸30へと伝達され、異常発生時には、第2の動力源としての第2モータ38の回転出力が、第2のクラッチとしての第2電磁クラッチ39、並びに、第2の回転手段としての第2入力プーリ40、第2ベルト41および第2出力プーリ42を介して回転軸30へと伝達される。
【0021】
ここで、この単結晶製造装置10を用いて単結晶16を製造する際のワイヤーロープ回転機構23の制御の例を以下に説明する。
【0022】
ワイヤーロープ回転機構23は、るつぼ12中の原料物質の融液13に接触させた種結晶17の引き上げ(ワイヤーロープ巻き取り器21でのワイヤーロープ19の巻き取り)が開始されると同時に、通常運転時用の動力機構、即ち第1モータ33、第1電磁クラッチ34、第1入力プーリ35、第1ベルト36および第1出力プーリ37を用いて筐体22を回転させ、それによりワイヤーロープ19を例えば10rpmで回転させる。なお、筐体22およびワイヤーロープ19の回転速度は、コントローラ31で第1モータ33の回転出力を調整することにより制御することができる。
【0023】
そして、異常(停電や、第1モータ33の故障、第1電磁クラッチ34の故障、第1ベルト36の破断といった機械故障など)の発生が検出されることなく、単結晶16の引き上げが終了した場合には、以下のようにしてワイヤーロープ19の回転を停止させて、単結晶16の回転を安全に停止させる。
【0024】
まず、結晶質量センサで、引き上げた単結晶16および種結晶17の質量Wを測定すると共に、エンコーダで、種結晶17および単結晶16を懸吊しているワイヤーロープ19の長さlを求める。
【0025】
次に、演算手段としても機能するコントローラ31において、結晶の質量Wおよびワイヤーロープの長さlを用いてワイヤーロープの自転モーメントMおよび自転角θを演算する。
ここで、結晶(種結晶+単結晶)の質量:W、ワイヤーロープの有効断面積:A(本例の場合、(d/2)π+6×(d/2)π)、ワイヤーロープの撚り線角度:aとすると、ワイヤーロープの引張応力σは、
σ=W/A
となり、ワイヤーロープの垂直荷重Wは、
=σ×A×cos(a
となり、ワイヤーロープの自転力Tは、
T=W×tan(a
となる。
従って、ワイヤーロープの自転モーメントMは、定数:α、モーメント半径:R(ワイヤーロープの半径:D/2)とすると、コントローラ31において、下記式:
M=α×T×R=α×W×sin(a
を用いて算出することができる。
また、ワイヤーロープの自転角θは、ワイヤーロープの横弾性率:Gr、ワイヤーロープの断面二次極モーメント:Ip、ワイヤーロープの長さ:lとすると、コントローラ31において、下記式:
θ=M×l/(Gr×Ip)
を用いて算出することができる。
なお、ワイヤーロープの断面二次極モーメントIpは、素線径:d(=d=d)、ワイヤーロープの撚り構成により定まる定数:γとすると、下記式:
Ip=γ×π×d/32
で表すことができる。因みに、素線径dとdとが異なる場合(d≠dの場合)には、dを用いて断面二次極モーメントIpを求めることができる。
【0026】
そして、ワイヤーロープ19が、自転モーメントM≧23.5N・mmと、自転角θ≧40°との少なくとも一方を満たす条件で回転している場合には、0.53rad/s以下の角減速度となるように回転軸30(ワイヤーロープ19)の回転速度を減少させ(コントローラ31が第1の回転停止手段として機能し、第1モータ33の回転出力を減少させ)、ワイヤーロープ19の回転を停止させる。他方、ワイヤーロープ19が、自転モーメントM<23.5N・mm、且つ、自転角θ<40°を満たす条件で回転している場合には、コントローラ31が第1の回転停止手段として機能し、任意の角減速度で回転軸30(ワイヤーロープ19)の回転速度を減少させてワイヤーロープ19の回転を停止させる。なお、角減速度とは、負の加速度、即ち単位時間当たりの角速度の減少率である。
【0027】
このように、ワイヤーロープ19の自転モーメントMおよび自転角θを考慮して結晶回転を停止すれば、ワイヤーロープ19の素線切れが生じてワイヤーロープ19の寿命が短縮されることを防止し得ると共に、ワイヤーロープ19の破断を防止して安全に結晶回転を停止することができる。
【0028】
一方、単結晶16の引き上げ中に、異常発生検出手段としての各種センサで異常の発生が検出された場合には、切替手段および第2の回転停止手段としても機能するコントローラ31を用いて、例えば以下のようにしてワイヤーロープ19の回転を停止させて、単結晶16の回転を安全に停止させることができる。
【0029】
一例として、異常発生検出手段が停電の発生を検出した場合には、図4に示すように、まず、ワイヤーロープ回転機構23への電力供給源が無停電電源装置(UPS)43に切り替わる(S1)。この際、第1モータ33および第1電磁クラッチ34には電力が供給されないので、第1モータ33は停止すると共に、第1電磁クラッチ34は解放される。
【0030】
次に、UPS43からの電力で第2モータ38を起動し、コントローラ31が、エンコーダで検出した回転軸30の回転速度(ワイヤーロープ19の回転速度)を維持できる回転出力まで第2モータ38の回転出力を増加させる(S2)。そして、第2モータ38の回転出力が増加したら、第2電磁クラッチ39を励磁して、第2モータ38と第2入力プーリ40とを連結する(S3)。
【0031】
そして、コントローラ31で第2モータ38の回転出力を制御し、0.53rad/s以下の角減速度となるように回転軸30(ワイヤーロープ19)の回転速度を減少させ、ワイヤーロープ19の回転を停止させる(S4)。ここで、本発明においては、角減速度一定でワイヤーロープの回転速度を減少させることが好ましい。
【0032】
また、他の例として、異常発生検出手段が第1モータ33の故障の発生を検出した場合には、図5に示すように、まず、コントローラ31が第1電磁クラッチ34を解放させる(S1’)。
【0033】
次に、コントローラ31が第2モータ38を起動し、エンコーダで検出した回転軸30の回転速度(ワイヤーロープ19の回転速度)を維持できる回転出力まで第2モータ38の回転出力を増加させる(S2’)。そして、第2モータ38の回転出力が増加したら、第2電磁クラッチ39を励磁して、第2モータ38と第2入力プーリ40とを連結する(S3’)。
【0034】
その後、第2モータ38の回転出力を用いてワイヤーロープ19を回転させつつ、単結晶16の引き上げを続ける。そして、単結晶の引き上げが終了したら(S4’)、前述した通常運転時に単結晶16の回転を停止させる場合と同様にして、ワイヤーロープ19の回転を停止させて、単結晶16の回転を安全に停止させる。具体的には、演算手段として機能するコントローラ31で、結晶(単結晶+種結晶)の質量Wおよびワイヤーロープの長さlを用いてワイヤーロープの自転モーメントMおよび自転角θを演算し、自転モーメントM≧23.5N・mmと、自転角θ≧40°との少なくとも一方を満たす条件でワイヤーロープが回転しているかを判断し(S5’)、M≧23.5N・mmと、θ≧40°との少なくとも一方を満たしている場合には、0.53rad/s以下の角減速度となるように回転軸30(ワイヤーロープ19)の回転速度を減少させ(コントローラ31が第2モータ38の回転出力を減少させ)、ワイヤーロープ19の回転を停止させる(S6’)。他方、ワイヤーロープ19が、自転モーメントM<23.5N・mm、且つ、自転角θ<40°を満たす条件で回転している場合には、コントローラ31が任意の角減速度で回転軸30(ワイヤーロープ19)の回転速度を減少させてワイヤーロープ19の回転を停止させる。
【0035】
このように、単結晶製造装置10では、停電時や機械故障発生時などの異常発生時でも、第2モータ38等を利用してワイヤーロープ19の回転速度を制御することができるので、ワイヤーロープ19の素線切れや破断の発生を防止しつつ、育成した単結晶16の回転を安全に停止することができる。
【0036】
なお、本発明の単結晶製造装置は、上記一例に限定されることなく、適宜変更を加えることができる。具体的には、本発明の単結晶製造装置は、磁場印加器を備えていても良い。また、クラッチとしては、電磁クラッチ以外にも油圧クラッチを用いることができる。
【実施例】
【0037】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【0038】
(実施例1)
図1に示す単結晶製造装置において、停電発生時に、ワイヤーロープの自転モーメントM=69.6N・mm、ワイヤーロープの自転角θ=86°で回転しているシリコン単結晶の結晶回転速度を角減速度0.52rad/sで減少させ、結晶の回転を停止させた。結晶の回転停止後にワイヤーロープの状態を目視で観察したところ、素線切れ等は発生していなかった。
【0039】
(実施例2)
図1に示す単結晶製造装置において、停電発生時に、ワイヤーロープの自転モーメントM=69.6N・mm、ワイヤーロープの自転角θ=86°で回転しているシリコン単結晶の結晶回転速度を角減速度0.58rad/sで減少させ、結晶の回転を停止させた。結晶の回転停止後にワイヤーロープの状態を目視で観察したところ、素線切れ等は殆ど発生していなかった。
【0040】
(実施例3)
図1に示す単結晶製造装置において、停電発生時に、ワイヤーロープの自転モーメントM=13.9N・mm、ワイヤーロープの自転角θ=17°で回転しているシリコン単結晶の結晶回転速度を角減速度0.73rad/sで減少させ、結晶の回転を停止させた。結晶の回転停止後にワイヤーロープの状態を目視で観察したところ、素線切れ等は発生していなかった。
【0041】
(実施例4)
図1に示す単結晶製造装置において、停電発生時に、ワイヤーロープの自転モーメントM=13.9N・mm、ワイヤーロープの自転角θ=17°で回転しているシリコン単結晶の結晶回転速度を角減速度1.05rad/sで減少させ、結晶の回転を停止させた。結晶の回転停止後にワイヤーロープの状態を目視で観察したところ、素線切れ等は発生していなかった。
【0042】
(実施例5)
図1に示す単結晶製造装置において、停電発生時に、ワイヤーロープの自転モーメントM=13.9N・mm、ワイヤーロープの自転角θ=17°で回転しているシリコン単結晶の結晶回転速度を角減速度1.57rad/sで減少させ、結晶の回転を停止させた。結晶の回転停止後にワイヤーロープの状態を目視で観察したところ、素線切れ等は発生していなかった。
【0043】
(実施例6)
図1に示す単結晶製造装置において、停電発生時に、ワイヤーロープの自転モーメントM=164.2N・mm、ワイヤーロープの自転角θ=46°で回転しているシリコン単結晶の結晶回転速度を角減速度0.05rad/sで減少させ、結晶の回転を停止させた。結晶の回転停止後にワイヤーロープの状態を目視で観察したところ、素線切れ等は発生していなかった。
【0044】
(実施例7)
図1に示す単結晶製造装置において、停電発生時に、ワイヤーロープの自転モーメントM=164.2N・mm、ワイヤーロープの自転角θ=46°で回転しているシリコン単結晶の結晶回転速度を角減速度0.52rad/sで減少させ、結晶の回転を停止させた。結晶の回転停止後にワイヤーロープの状態を目視で観察したところ、素線切れ等は発生していなかった。
【0045】
(実施例8)
図1に示す単結晶製造装置において、停電発生時に、ワイヤーロープの自転モーメントM=23.0N・mm、ワイヤーロープの自転角θ=29°で回転しているシリコン単結晶の結晶回転速度を角減速度0.58rad/sで減少させ、結晶の回転を停止させた。結晶の回転停止後にワイヤーロープの状態を目視で観察したところ、素線切れ等は発生していなかった。
【0046】
(実施例9)
図1に示す単結晶製造装置において、停電発生時に、ワイヤーロープの自転モーメントM=23.0N・mm、ワイヤーロープの自転角θ=38°で回転しているシリコン単結晶の結晶回転速度を角減速度0.58rad/sで減少させ、結晶の回転を停止させた。結晶の回転停止後にワイヤーロープの状態を目視で観察したところ、素線切れ等は発生していなかった。
【0047】
(比較例1)
単結晶製造装置において、停電発生時に、ワイヤーロープの自転モーメントM=69.6N・mm、ワイヤーロープの自転角θ=86°で回転しているシリコン単結晶の回転を急停止させたところ、ワイヤーロープが破断した。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明の単結晶製造装置および単結晶製造方法によれば、チョクラルスキー法による単結晶の製造において、停電時や機械故障発生時などの異常発生時でも、ワイヤーロープの素線切れや破断の発生を防止しつつ、育成した結晶の回転を安全に停止することができる。
【符号の説明】
【0049】
10 単結晶製造装置
11 チャンバ
12 るつぼ
13 融液
14 ヒーター
15 るつぼ回転機構
16 単結晶
17 種結晶
18 種結晶保持器
19 ワイヤーロープ
20 結晶回転・引き上げ機構
21 ワイヤーロープ巻き取り器
22 筐体
23 ワイヤーロープ回転機構
24 コア素線
25 素線
30 回転軸
31 コントローラ
33 第1モータ
34 第1電磁クラッチ
35 第1入力プーリ
36 第1ベルト
37 第1出力プーリ
38 第2モータ
39 第2電磁クラッチ
40 第2入力プーリ
41 第2ベルト
42 第2出力プーリ
43 無停電電源装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1のクラッチを介して伝達される第1の動力源の回転出力を利用して、先端に種結晶を有するワイヤーロープを回転させるための第1の回転手段と、
前記種結晶上に単結晶を成長させながら該種結晶および単結晶を引き上げるための引き上げ手段と、
前記第1の動力源の回転出力を利用して回転させている前記ワイヤーロープの回転を減速して停止させるための第1の回転停止手段と
を具える単結晶製造装置において、
該単結晶製造装置は、
前記ワイヤーロープの回転時に異常の発生を検出する異常発生検出手段と、
前記異常発生検出手段が異常の発生を検出した際に、第2のクラッチを介して伝達される第2の動力源の回転出力を利用して、前記ワイヤーロープを回転させるための第2の回転手段と、
前記第2の動力源の回転出力を利用して回転させている前記ワイヤーロープの回転を減速して停止させるための第2の回転停止手段と、
前記異常発生検出手段が異常を検出したとき、前記ワイヤーロープを回転させるために利用する回転出力を、前記第1の動力源の回転出力から前記第2の動力源の回転出力へと切り替える切替手段と
を更に備えることを特徴とする単結晶製造装置。
【請求項2】
前記第2の回転停止手段は、0.53rad/s以下の角減速度で前記ワイヤーロープの回転を減速して停止させることを特徴とする、請求項1に記載の単結晶製造装置。
【請求項3】
引き上げた前記種結晶および前記単結晶の質量を測定する結晶質量測定手段と、
引き上げた前記種結晶および前記単結晶を懸吊しているワイヤーロープの長さを測定するワイヤーロープ長測定手段と、
前記結晶質量測定手段で測定した種結晶および単結晶の質量と、前記ワイヤーロープ長測定手段で測定したワイヤーロープの長さとを用いてワイヤーロープの自転モーメントMおよびワイヤーロープの自転角θを演算する演算手段と、
を更に備え、
前記第2の回転停止手段は、前記ワイヤーロープが、前記自転モーメントM:23.5N・mm以上(M≧23.5N・mm)と、前記自転角θ:40°以上(θ≧40°)との少なくとも一方を満たす条件で回転している場合には、0.53rad/s以下の角減速度で前記ワイヤーロープの回転を減速して停止させることを特徴とする、請求項1に記載の単結晶製造装置。
【請求項4】
原料物質の融液に対しワイヤーロープの先端に設置した種結晶を接触させ、該種結晶を、第1のクラッチを介して伝達される第1の動力源の回転出力を利用して前記ワイヤーロープを回転させることで回転させると共に、引き上げ機構で引き上げる工程と、
前記種結晶の引き上げ中に、異常発生検出手段で異常の発生の有無を検出する工程と、
を含む単結晶製造方法であって、
前記種結晶の引き上げ中に前記異常発生検出手段で異常の発生が検出されなかった場合には、第1の回転停止手段で、前記第1の動力源の回転出力を利用して回転させている前記ワイヤーロープの回転を減速して停止させ、
前記種結晶の引き上げ中に前記異常発生検出手段で異常の発生が検出された場合には、前記ワイヤーロープを回転させるために利用する回転出力を、前記第1の動力源の回転出力から、第2のクラッチを介して伝達される第2の動力源の回転出力へと切り替え、その後、第2の回転停止手段で、前記第2の動力源の回転出力を利用して回転させている前記ワイヤーロープの回転を減速して停止させる
ことを特徴とする、単結晶製造方法。
【請求項5】
前記第2の回転停止手段で、0.53rad/s以下の角減速度で前記ワイヤーロープの回転を減速して停止させることを特徴とする、請求項4に記載の単結晶製造方法。
【請求項6】
前記第2の回転停止手段で前記ワイヤーロープの回転を停止させる際に、ワイヤーロープの自転モーメントM:23.5N・mm以上(M≧23.5N・mm)と、ワイヤーロープの自転角θ:40°以上(θ≧40°)との少なくとも一方を満たす条件でワイヤーロープが回転している場合には、0.53rad/s以下の角減速度で前記ワイヤーロープの回転を減速して停止させることを特徴とする、請求項4に記載の単結晶製造方法。
【請求項7】
前記角減速度は一定であることを特徴とする、請求項5または6に記載の単結晶製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−37680(P2011−37680A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−187851(P2009−187851)
【出願日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【出願人】(302006854)株式会社SUMCO (1,197)
【Fターム(参考)】