説明

印刷版の製造方法および有機ELパネル製造方法

【課題】 凸部の傾斜角度の大きな感光性樹脂凸版を、短時間で形成する製造方法を提供すること。
【解決手段】 本発明の製造方法は、図1(A)に示すように、基材100上の感光性樹脂層101に所定パターンの凸部102を形成するフォトリソ工程図と、図1(B)に示すように、凸部102の側面104の傾斜角度αを、レーザー彫刻によって修正するレーザー彫刻工程の2つの工程を含んでいる。ここで凸部102の側面104の傾斜角度αとは、基材100の上面100Aに対して側面104が起立する角度である。凸部102の側面104の傾斜角度αの調整はレーザー出力の調整で行うことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、凸版印刷に用いる樹脂凸版の製造方法および有機発光層が高分子材料からなる有機EL素子の製造方法に関し、特に有機発光層を印刷法によって形成する有機EL素子および有機ELディスプレイパネルおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機EL素子は、ふたつの対向する電極の間に有機発光材料からなる発光層が形成され、発光層に電流を流すことで発光させるものであるが、効率よく発光させるには発光層の膜厚が重要であり、100nm程度の薄膜にする必要がある。さらに、これをディスプレイ化するには高精細にパターニングする必要がある。
発光層を形成する有機発光材料には、低分子材料と高分子材料があり、一般に低分子材料は抵抗加熱蒸着法等により薄膜形成し、このときに微細パターンのマスクを用いてパターニングするが、この方法では基板が大型化すればするほどパターニング精度が出難いという問題がある。
そこで、最近では有機発光材料に高分子材料を用い、有機発光材料を溶剤に分散または溶解させて塗工液にし、これをウェットコーティング法で薄膜形成する方法が試みられるようになってきている。薄膜形成するためのウェットコーティング法としては、スピンコート法、バーコート法、突出コート法、ディップコート法等があるが、高精細にパターニングしたりRGB3色に塗り分けしたりするためには、これらのウェットコーティング法では難しく、塗り分け・パターニングを得意とする印刷法による薄膜形成が最も有効であると考えられる。
さらに、各種印刷法のなかでも、ガラスを基板とする有機EL素子やディスプレイでは、グラビア印刷法等のように金属製の印刷版等の硬い版を用いる方法は不向きであり、弾性を有するゴムブランケットを用いるオフセット印刷法や同じく弾性を有するゴム版や樹脂版を用いる凸版印刷法が適正である。実際にこれらの印刷法による試みとして、オフセット印刷による方法(特許文献1)、凸版印刷による方法(特許文献2)などが提唱されている。
【0003】
一方、高分子有機発光材料は、水、アルコール系の溶剤に対する溶解性が悪く、塗工液(以下インキと記す)化するには、有機溶剤を用いて溶解、分散させる必要があり、中でも、トルエンやキシレンその他の芳香族系有機溶剤が好適である。したがって、有機発光材料のインキ(以下有機ELインキと記す)は芳香族系有機溶剤のインキとなっている。
ところが、オフセット印刷に用いるゴムブランケットはトルエンやキシレン等の有機溶剤によって膨潤や変形を起こしやすいという問題がある。ブランケットに使用されるゴムの種類はオレフィン系のゴムからシリコーン系のゴムまで多様であるが、いづれのゴムもトルエン、キシレンその他の溶剤に対して耐性がなく、膨潤や変形が起こりやすく、よって有機ELインキの印刷には不適切である。
また、弾性を有する凸版を使用する凸版印刷方式にも、ゴム製の版を用いるフレキソ印刷方式と樹脂性の版を用いる樹脂凸版方式があるが、このうち水現像タイプの樹脂凸版を用いる方式であれば、トルエン、キシレン、その他の有機溶剤に対する耐性も高く、有機ELインキの印刷に使用可能である。
【0004】
以上に述べた理由から、ガラス基板のような硬い基材の上に、トルエン、キシレン等の芳香族溶剤からなる有機ELインキを印刷する方式としては、水現像タイプの樹脂凸版を用いる凸版印刷方式が最適である。
水現像タイプの樹脂凸版は、光硬化型の感光性樹脂版を、遮光部と光透過部でパターニングされたフォトマスクを用いて露光することで、露光部を硬化させた後、水現像して未硬化部を取り除くことで凸部を形成するのが一般的である。すなわち、フォトマスクの光線透過部分が凸部となるネガ露光であり、光の拡散により露光側から非露光側に向けて硬化部分が広がる傾向にある。よって、出来上がった凸部は図1に示すように台形状になる。版を十分に露光硬化させるには、一定時間以上露光する必要があるが、露光時間が長くなればなるほど、凸部側面の底面に対する傾斜角度が小さくなる。
【0005】
傾斜角度の小さい版を用いて凸版印刷を行った場合、アニロックスロールから版にインキ供給する際に凸部側面にもインキが付着しやすく、実際に被印刷基材に印刷を行った場合に、凸部の線幅より広い線幅で印刷されたり、シャープなエッジが得られにくかったりする欠点がかる。
一方、この感光性樹脂版をあらかじめ全面で硬化させておいて、すべての凹凸形状をレーザー彫刻のみで形成する方法もある(特許文献3)。この方法では、凸部側面の傾斜角度を自由に形成できるため、上記のような傾斜角度が小さいことによる欠点を克服することができるが、有機EL発光層の印刷に用いる樹脂凸版では少なくとも100μmから200μm程度の凹凸差が必要であり、すべての凹凸形状をレーザー彫刻のみで形成するとすれば、多大な加工時間を要する。レーザー彫刻に用いるレーザーは、なるべく短時間で彫刻できるよう高出力のものが望ましく、炭酸ガスレーザーやYAGレーザー、半導体レーザー等が好ましいが、樹脂材の彫刻においては吸収波長の適性から炭酸ガスレーザーを用いるのが一般的である。しかし、炭酸ガスレーザーを用いたとしても、5インチの有機ELパネル用の2面付け版を製版するのに、深さ100μmから200μmの凹凸を形成するとして、30分〜45分時間程度の時間を要する。
【特許文献1】特開2001−93668公報
【特許文献2】特開2001−155858公報
【特許文献3】特開2004−148587公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前述したように、感光性樹脂版をフォトリソグラフ法で凹凸形成すると、凸部の傾斜角度が小さくなり、印刷膜のパターン形成において、ライン幅が広がったり、シャープなエッジをだしにくかったりする欠点がある。また、レーザー彫刻法で直接凹凸を形成する方法では、製版に要する時間が長すぎるという問題がある。
そこで本発明では、凸部の傾斜角度の大きな感光性樹脂凸版を、短時間で形成する方法を提供するとともに、それによって、有機ELの発光層を均一に安定してパターン形成するための印刷法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明者等は、短時間で凸部傾斜角度の大きな感光性樹脂凸版を形成するにはどのような工夫が適切かを検討した結果、次のような手段が有効であることを見出した。
請求項1にかかる発明は、基材の上に感光性樹脂からなる感光性樹脂層が設けられた版材を用意し、前記感光性樹脂層に対して露光、現像を行なうことで前記基材の上面に凸部を形成し、前記凸部の形状をレーザー彫刻によって修正することを特徴とする有機EL発光層形成のための印刷用樹脂凸版の製造方法である。
請求項2にかかる発明は、前記凸部は、その断面形状が、前記基材の上面の間隔をおいた箇所から立ち上がる一対の側面と、それら側面の上端を接続する上面とを備え、前記レーザー彫刻による修正は、前記基材の上面に対して前記側面が起立する角度についてなされることを特徴とする請求項1記載の有機EL発光層形成のための印刷用樹脂凸版の製造方法である。
請求項3にかかる発明は、前記凸部は、その断面形状が、前記基材の上面の間隔をおいた箇所から立ち上がる一対の側面と、それら側面の上端を接続する上面とを備え、レーザー彫刻によって、前記基材の上面から前記側面が起立する角度を80度から90度の間の角度に修正することを特徴とする請求項1記載の有機EL素子形成のための凸版印刷用樹脂凸版の製造方法である。
請求項4にかかる発明は、前記凸部は、その断面形状が、前記基材の上面の間隔をおいた箇所から立ち上がる一対の側面と、それら側面の上端を接続する上面とを備え、レーザー彫刻によって、前記基材の上面から前記側面が起立する角度を直角にするように修正することを特徴とする請求項1記載の有機EL素子形成のための印刷用樹脂凸版の製造方法である。
請求項5に係る発明は、前記露光の工程で、前記感光性樹脂層に対してパターン露光がなされて、前記感光性樹脂層の光照射を受けた部分のみを硬化させることが行なわれ、前記現像の工程で、未硬化部分を洗い流すことが行なわれることを特徴とする請求項1記載の有機EL素子形成のための印刷用樹脂凸版の製造方法である。
請求項6に係る発明は、請求項1乃至請求項5記載の方法で製造した樹脂凸版を用いて、凸版印刷法により有機EL素子の発光層をパターン形成することを特徴とする有機EL素子および有機ELディスプレイパネルの製造方法である。
【発明の効果】
【0008】
本発明では、感光性樹脂凸版の凸部側面の底部に対する傾斜角度を大きくすることで、少なくとも80度以上にすることで、印刷膜のパターン形状において、ライン幅が広がりすぎたりエッジのシャープ性がでなかったり、直線性が不安定になったりする問題を解消することができた。すなわち、傾斜角度が小さい場合、少なくとも80度以上ない場合には、アニロックスから版へのインキ供給時に凸部側面にインキが付着しやすく、また凸部側面に付着したインキは基板への印刷時に基板へ転写されやすく、よって印刷ラインの不安定化を招きやすかったが、凸部側面の傾斜角度を80度以上にすることで、凸部側面へのインキの付着を抑制することができるため、印刷ラインの安定化も得られた。
また、本発明では、感光性樹脂凸版の凸部側面の傾斜角度を調整するのに、凹凸形成を全てレーザー彫刻で行う方法をとらず、あらかじめパターン露光・現像することで凸部を形成しておき、傾斜角度の調整のみをレーザー彫刻で行うことで、製版時間を通常のレーザー製版よりも短縮させることができた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明では、基材の上に感光性樹脂からなる感光性樹脂層が設けられた版材が用意される。ここで基材としては、エポキシ系樹脂、ナイロン系樹脂、アクリル系樹脂、エステル系樹脂などの公知の樹脂、鉄や銅、アルミニウムといった公知の金属、またはそれらの積層体を用いることができる。なお、本発明に使用する印刷用樹脂凸版を構成する基材としては、樹脂部分の寸法変化を抑えるのに十分な剛性をもっていることと、基材自身も寸法変化しにくいことが要求される。また、インキに含まれる溶媒への耐性が高いものが望ましい。したがって、基材として用いられる材料としては金属が好適に使用される。また、金属材料からなる基材の中でも、加工性、経済性からスチール基材やアルミ基材を好適に用いることができる。
本発明に用いる感光性樹脂は、(従来技術)の項で述べたように、有機ELインキの溶剤である有機溶剤とくに芳香族系の有機溶剤に対する耐性が高い版材、すなわち水現像タイプの感光性樹脂が好ましいが、樹脂版を構成する水現像タイプの感光性樹脂としては、例えば親水性のポリマーと不飽和結合を含むモノマーいわゆる架橋性モノマー及び光重合開始剤を構成要素とするタイプが挙げられる。このタイプでは、親水性ポリマーとしてポリアミド、ポリビニルアルコール、セルロース誘導体等が用いられる。また、架橋性モノマーとしては、例えばビニル結合を有するメタクリレート類が挙げられ、光重合開始剤としては例えば芳香族カルボニル化合物が挙げられる。中でも、印刷適正の面からポリアミド系の水現像タイプの感光性樹脂が好適である。
【0010】
本発明における凸版の製版方法は、ネガのフォトマスクを用いて感光性樹脂層をパターン露光し、次に30℃の温水でブラシ現像して未露光樹脂を洗い出し、70℃オーブンで乾燥後、後露光を行って、図1(A)に示すように、基材100上の感光性樹脂層101に所定パターンの凸部102を形成するフォトリソ工程と、図1(B)に示すように、凸部102の側面104の傾斜角度αを、レーザー彫刻によって修正するレーザー彫刻工程の2つの工程の組合せで行う方法である。
ここで、凸部102は、その断面形状が、基材100の上面100Aの間隔をおいた箇所から立ち上がる一対の側面104と、それら側面104の上端を接続する上面106とを備えており、凸部102の側面104の傾斜角度αとは基材100の上面100Aに対して側面104が起立する角度である。
レーザー彫刻は、レーザー描画装置を用いて、CO2レーザーで行った。使用するレーザーはCO2レーザーの他、YAGレーザーや半導体レーザーも用いることができるが、樹脂の吸収波長の適性から、CO2レーザーがもっとも好ましい。
凸部102の側面104のみをレーザー彫刻するには、フォトリソ工程に用いたフォトマスクの図形データを基に、凸部102の側面104部分に相当する部分の平面投影図をデータ化し、描画装置に入力することで実現させた。凸部102の側面104の傾斜角度αの調整はレーザー出力の調整で行った。
このようにして得られた樹脂凸版18を図1(C)に示す。
【0011】
次に、樹脂凸版18を用いて、発光層印刷を行うことで、有機ELディスプレイパネルを作成したので、その実施の形態を説明する。
図2に示すように、有機ELディスプレイパネルを構成する有機EL素子は、ガラス基板1の上に形成される。ガラス基板1の上には陽極としてパターニングされた画素電極2が設けられ、画素電極2の材料としては、ITO(インジウムスズ複合酸化物)、IZO(インジウム亜鉛複合酸化物)、酸化錫、酸化亜鉛、酸化インジウム、亜鉛アルミニウム複合酸化物等の透明電極材料が使用できる。なお、低抵抗であること、溶剤耐性があること、透明性が高いことなどからITOが好ましい。ITOはスパッタ法によりガラス基板上に形成され、フォトリソ法によりパターニングされてライン状の画素電極2となる。
【0012】
ライン状の画素電極2を形成後、隣接する画素電極2の間に感光性材料を用いてフォトリソ法により絶縁層3が形成される。絶縁層3の形成は、まず絶縁性のフォトレジスト材料をスリットコート法で全面コーティングしたあと、フォトリソ法を用いて、画素電極2のスペース部にライン状に絶縁層3がパターン形成されるよう行った。
絶縁層3形成後に、絶縁層3の上に正孔輸送層4を形成する。正孔輸送層4を形成する正孔輸送材料としては、ポリアニリン誘導体、ポリチオフェン誘導体、ポリビニルカルバゾール(PVK)誘導体、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)等が挙げらる。これらの材料は溶媒に溶解または分散させて正孔輸送材料インキとし、スピンコート法やダイコート法を用いて、画素電極2および絶縁層3が形成された基板に全面塗布して正孔輸送層4を形成することもでき、また凸版印刷法を用いて、画素電極パターンに合わせてパターン形成することもできる。
【0013】
正孔輸送層4形成後に、正孔輸送層4の上に有機発光層51、52、53を形成する。有機発光層51、52、53を形成する有機発光材料は、例えばクマリン系、ペリレン系、ピラン系、アンスロン系、ポルフィレン系、キナクドリン系、N,N‘−ジアルキル置換キナクドリン系、ナフタルイミド系、N,N‘−ジアリール置換ピロロピロール系、イリジウム錯体系等の発光性色素を、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリビニルカルバゾール等の高分子中に分散させたものや、ポリアリーレン系、ポリアリーレンビニレン系やポリオレフィン系の高分子材料が挙げられる。
これらの有機発光材料は溶媒に溶解または分散させて有機発光インキとなる。有機発光材料を溶解または分散させる溶媒としては、トルエン、キシレン、アセトン、アニソール、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等の単独またはこれらの混合溶媒が挙げられる。中でもトルエン、キシレン、アニソールといった芳香族有機溶媒が有機発光材料の溶解性の面から好適である。
有機発光層51、52、53の形成方法は、本発明による水現像タイプの樹脂凸版を用いて凸版印刷法で行う。本発明における樹脂版を構成する水現像タイプの感光性樹脂としては、例えば親水性のポリマーと不飽和結合を含むモノマーいわゆる架橋性モノマー及び光重合開始剤を構成要素とするタイプが挙げられる。このタイプでは、親水性ポリマーとしてポリアミド、ポリビニルアルコール、セルロース誘導体等が用いられる。また、架橋性モノマーとしては、例えばビニル結合を有するメタクリレート類が挙げられ、光重合開始剤としては例えば芳香族カルボニル化合物が挙げられる。中でも、印刷適性の面からポリアミド系の水現像タイプの感光性樹脂が好適である。
【0014】
有機発光層51、52、53の形成に用いる印刷機は、平板に印刷する方式の凸版印刷機であれば使用可能であるが、以下に示すような印刷機が望ましい。
図3に印刷機の概略図を示した。本製造装置は、インクタンク15とインキチャンバー16とアニロックスロール17と樹脂凸版18を取り付けした版胴19を有している。インクタンク15には、溶剤で希釈された有機発光インキが収容されており、インキチャンバー16にはインクタンク15より有機発光インキが送り込まれるようになっている。アニロックスロール17は、インキチャンバー16のインキ供給部及び版胴18の樹脂凸版18の凸部102の上面106に接して回転するようになっている。
アニロックスロール17の回転にともない、インキチャンバー16から供給された有機発光インキはアニロクスロール17の表面17aに均一に保持されたあと、版胴19に取り付けされた樹脂凸版18の凸部102の上面106に均一な膜厚で転移する。さらに、被印刷基板21は摺動可能な基板固定台20上に固定され、版のパターンと基板のパターンの位置調整機構により、位置調整しながら印刷開始位置まで移動して、版胴19の回転に合わせて樹脂凸版18の凸部102が基板21に接しながらさらに移動し、基板21の所定位置にパターニングしてインキを転移する。
【0015】
有機発光層5の形成後、有機発光層51、52、53の上に陰極層6を画素電極2のラインパターンと直交するラインパターンで形成する。陰極層6の材料としては、有機発光層の発光特性に応じたものを使用でき、例えば、リチウム、マグネシウム、カルシウム、イッテルビウム、アルミニウム等の金属単体やこれらと金、銀などの安定な金属との合金などが挙げられる。また、インジウム、亜鉛、錫などの導電性酸化物を用いることもできる。陰極層の形成方法としては、マスクを用いた真空蒸着法による形成方法が挙げられる。
最後にこれらの有機EL構成体を、外部の酸素や水分から保護するために、ガラスキャップ7と接着剤8を用いて密封封止し、有機ELディスプレイ用の素子パネルを得ることができる。
【0016】
以下、本発明の実施例について具体的に説明する。
本実施例では、凸部102の側面104の傾斜角度αを80度以上にした樹脂凸版の作成例と、その凸版を用いて発光層形成を行ったパッシブマトリック型の有機ELディスプレイパネルの作成例について示す。
【実施例1】
【0017】
実施例1においては、凸部102の側面104の傾斜角度αを80度にした感光性樹脂凸版を作成した。この凸版は以下のようにして作成した。
発光層の印刷パターンに対応するネガパターンのフォトマスクを感光性樹脂版材の露光面に密着させて40mJの露光エネルギーで露光し、その後30℃の温水でブラシ現像機を用いて、未硬化の樹脂を洗い出すことで樹脂凸版を形成した。この状態での凸部102の側面104の傾斜角度αは約70度であった。
次に、レーザー彫刻装置を用いて、凸部102の側面104の傾斜部を削り、傾斜角度αを80度に修正した。この装置で使用したレーザーは炭酸ガスレーザーで、300Wパワーのレーザー発振器の60%出力で彫刻を行った。全ての製版工程に要する時間は25分であり、このうちレーザー製版に要する時間は10分であった。
【0018】
次いで、この樹脂凸版を用いて発光層を印刷形成する方法で、以下のようにして有機ELディスプレイ用素子パネルを作成した。
300mm角のガラス基板の上に、スパッタ法を用いてITO(インジウム−錫酸化物)薄膜を形成し、フォトリソ法と酸溶液によるエッチングでITO膜をパターニングして、対角5インチサイズのディスプレイが2面取れるように画素電極を形成した。ディスプレイ1面当たりの画素電極のラインパターンは、線幅80μm、スペース40μmでラインが975ライン形成されるパターンとした。
次に、この画素電極ラインの端部をカバーするように、画素電極間にフォトレジスト材料を用いて絶縁層を形成した。
【0019】
その上に正孔輸送層として、PEDOTから成る高分子膜をスピンコート法で形成した。さらに、有機発光材料であるポリフェニレンビニレン誘導体を濃度1%になるようにトルエンに溶解させた有機発光インキを用い、画素電極の上にそのラインパターンにあわせて有機発光層を凸版印刷法で印刷行った。このとき、150線/インチのアニロックスロールおよび水現像タイプの感光性樹脂版を使用した。印刷、乾燥後の有機発光層の膜厚は80nmとなった。
その上にCa、Alからなる陰極層を画素電極のラインパターンと直交するようなラインパターンで抵抗過熱蒸着法によりマスク蒸着して形成した。最後にこれらの有機EL構成体を、外部の酸素や水分から保護するために、ガラスキャップと接着剤を用いて密閉封止し、有機ELディスプレイ用素子パネルを作成した。得られたパネルの表示部の周縁部には、各画素電極に接続されている陽極側および陰極側それぞれの取り出し電極があり、これらを電源に接続することでパネルの点灯表示確認を行い、発光状態のチェックを行った。
【実施例2】
【0020】
実施例2においては、凸部102の側面104の傾斜角度αを90度にした感光性樹脂凸版を作成した。この凸版は、実施例1と同じ方法、同じ条件で露光・現像を行い、よってその時点での凸部102の側面104の傾斜角度αは実施例1と同じ約70度であったが、レーザー彫刻時の出力を70%にして彫刻することで、傾斜角度αが90度となった。実施例1と同様、全ての製版工程に要する時間は25分であり、このうちレーザー製版に要する時間は10分であった。
この版を用いて、実施例1と同様にしてパネルを作成した。
【比較例1】
【0021】
比較例1においては、実施例1と同じ方法、同じ条件の露光・現像のみで感光性樹脂凸版の作成を行った。よってこの凸部102の側面104の傾斜角度αは70度であった。全ての製版工程に要する時間は15分であった。
この版を用いて、実施例1と同様にしてパネルを作成した。
【比較例2】
【0022】
比較例2においては、実施例1と同じ方法で、露光時のエネルギーのみを50mJに変えて、その他は同じ条件の露光・現像のみで感光性樹脂凸版の作成を行った。この凸版の凸部102の側面104の傾斜角度αは60度であった。全ての製版工程に要する時間は15分であった。
この版を用いて、実施例1と同様にしてパネルを作成した。
【比較例3】
【0023】
比較例3においては、レーザー彫刻だけで実施例1と同じパターンの感光性樹脂凸版の作成を行った。レーザー製版する前に、あらかじめ感光性樹脂版は全面露光して硬化させておいた。また、彫刻製版後は、削りくず除去の目的で、水洗浄及び乾燥を行った。この凸版の凸部102の側面104の傾斜角度αは90度にした。全ての製版工程に要する時間は57分であり、このうちレーザー製版に要する時間は45分であった。
この版を用いて、実施例1と同様にしてパネルを作成した。
【0024】
【表1】

【0025】
表1では、実施例1乃至2及び比較例1乃至3のように作成した版で発光層を印刷した場合の、版の凸部の幅に対する印刷された発光層ラインの幅の広がり度合いを倍率で示すとともに、ラインの直線性の評価結果を示した。また各実施例、比較例で作成した有機ELパネルの発光状態の評価結果も一緒に示した。
表1からわかる通り、比較例1乃至2のように凸部102の側面104の傾斜角度αが70度以下の樹脂凸版で発光層印刷を行うと、印刷したラインの線幅が版の線幅に対して1.4倍以上広がり、また、ラインの直線性も、部分的に乱れている箇所があり、不良である。また、パネルにして発光状態をみたときも、印刷ラインの乱れが原因と思われる発光ムラが観察された。
それに対して、実施例1乃至2及び比較例3では、凸部102の側面104の傾斜角度αが80度以上あり、この版で発光層の印刷を行っても比較例のような線幅の広がりやラインの乱れは少なく、発光状態も良好であった。
【0026】
【表2】

【0027】
一方、版の作成時間については、表2に示すように、レーザー彫刻のみで製版した比較例3では57分要したのに対して、実施例1乃至2では25分と大幅に短縮できており、よって、露光・現像製版とレーザー彫刻製版を組み合わせることで、実施例1、2のように印刷性の良い版を短時間で製版できることがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】(A)はフォトリソ工程の説明図、(B)はレーザー彫刻工程の説明図、(C)は得られた樹脂凸版の説明図である。
【図2】有機ELディスプレイ用の素子パネルの断面図である。
【図3】有機発光層の形成に用いる印刷機の概略図である。
【符号の説明】
【0029】
100……基材、101……感光性樹脂層、102……凸部、104……側面、106……上面。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の上に感光性樹脂からなる感光性樹脂層が設けられた版材を用意し、
前記感光性樹脂層に対して露光、現像を行なうことで前記基材の上面に凸部を形成し、
前記凸部の形状をレーザー彫刻によって修正する、
ことを特徴とする有機EL発光層形成のための印刷用樹脂凸版の製造方法。
【請求項2】
前記凸部は、その断面形状が、前記基材の上面の間隔をおいた箇所から立ち上がる一対の側面と、それら側面の上端を接続する上面とを備え、
前記レーザー彫刻による修正は、前記基材の上面に対して前記側面が起立する角度についてなされる、
ことを特徴とする請求項1記載の有機EL発光層形成のための印刷用樹脂凸版の製造方法。
【請求項3】
前記凸部は、その断面形状が、前記基材の上面の間隔をおいた箇所から立ち上がる一対の側面と、それら側面の上端を接続する上面とを備え、
レーザー彫刻によって、前記基材の上面から前記側面が起立する角度を80度から90度の間の角度に修正することを特徴とする請求項1記載の有機EL素子形成のための凸版印刷用樹脂凸版の製造方法。
【請求項4】
前記凸部は、その断面形状が、前記基材の上面の間隔をおいた箇所から立ち上がる一対の側面と、それら側面の上端を接続する上面とを備え、
レーザー彫刻によって、前記基材の上面から前記側面が起立する角度を直角にするように修正することを特徴とする請求項1記載の有機EL素子形成のための印刷用樹脂凸版の製造方法。
【請求項5】
前記露光の工程で、前記感光性樹脂層に対してパターン露光がなされて、前記感光性樹脂層の光照射を受けた部分のみを硬化させることが行なわれ、
前記現像の工程で、未硬化部分を洗い流すことが行なわれる、
ことを特徴とする請求項1記載の有機EL素子形成のための印刷用樹脂凸版の製造方法。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5記載の方法で製造した樹脂凸版を用いて、凸版印刷法により有機EL素子の発光層をパターン形成することを特徴とする有機EL素子および有機ELディスプレイパネルの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−245449(P2007−245449A)
【公開日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−70355(P2006−70355)
【出願日】平成18年3月15日(2006.3.15)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】