説明

印刷配線板用絶縁性樹脂組成物、印刷配線板用絶縁性樹脂シート、これらを用いた多層印刷配線基板の製造方法、及び電子機器

【課題】配線基板用の絶縁材料に求められている低誘電率、高い電気絶縁性、低熱膨張率の特性を満たしつつ、薄膜化が可能な絶縁性樹脂組成物、当該樹脂組成物を用いた絶縁性樹脂シート、当該絶縁性樹脂組成物又は絶縁性樹脂シートを用いた多層印刷配線基板の製造方法、並びに当該製造方法により得られた多層印刷配線基板を有する電子機器を提供する。
【解決手段】本発明に係る絶縁性樹脂組成物は、溶媒可溶性ポリイミド樹脂、中空無機微粒子、及び前記ポリイミド樹脂が可溶な溶媒を含む。また、本発明に係る絶縁性樹脂シートは、溶媒可溶性ポリイミド樹脂、及び中空無機微粒子を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリイミド樹脂を用いた誘電率が低い印刷配線板用絶縁性樹脂組成物及び印刷配線板用絶縁性樹脂シート、当該絶縁性樹脂組成物又は絶縁性樹脂シートを用いた多層印刷配線基板の製造方法、並びに、当該製造方法により得られた多層印刷配線基板の電子機器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体技術の飛躍的な発展により半導体パッケージの小型化、多ピン化、ファインピッチ化、電子回路部品の極小化などが急速に進み、いわゆる高密度実装の時代に突入した。それに伴い、印刷配線基板も片側配線から両面配線へ、さらに多層化、薄型化が進められている(非特許文献1)。
【0003】
印刷配線基板の製造方法として、所定位置に導体バンプを互いに離隔して設けた合成樹脂系シートを、その合成樹脂系シートを成す樹脂分のガラス転移温度ないし可塑化温度で加圧し、各導体バンプを合成樹脂系シートの厚さ方向にそれぞれ挿入,貫通させる工程と、前記合成樹脂系シートを貫通型に形成した導体部に電気的に接続する配線パターンを少なくとも一主面に形成する工程とを具備して成ることを特徴とする方法がある(特許文献1)。
【0004】
【特許文献1】特開平7−231163号公報
【非特許文献1】「電子材料」, 35(10),1996年,p.53.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
印刷配線基板の製造方法においては、従来は絶縁材料として、エポキシ系樹脂を用いているものが多く、材料の電気絶縁性の問題から、薄層化に限界があった。
伝送速度の向上による、信号の高周波化、配線の微細化・高密度化は今後も、進展していくと考えられる。これにともない、絶縁材料において、低誘電率、高い電気絶縁性が求められている。また、寸法精度の向上の面から、低膨張の絶縁性樹脂が望まれている。
【0006】
本発明は、上記実情を鑑みて成し遂げられたものであり、配線基板用の絶縁材料に求められている低誘電率、高い電気絶縁性、低熱膨張率の特性を満たしつつ、薄膜化が可能な絶縁性樹脂組成物、及び絶縁性樹脂シート、当該絶縁性樹脂組成物又は絶縁性樹脂シートを用いた生産性の高い多層印刷配線基板の製造方法、並びに当該製造方法により得られた多層印刷配線基板を有する電子機器を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る絶縁性樹脂組成物は、溶媒可溶性ポリイミド、中空無機微粒子、及び前記ポリイミド樹脂が可溶な溶媒を含む。
また、本発明に係る絶縁性樹脂シートは、溶媒可溶性ポリイミド、及び中空無機微粒子を含む。
本発明に係る絶縁性樹脂組成物及び絶縁性樹脂シートは、溶媒可溶性ポリイミドと中空無機微粒子を含むことにより、配線基板用の絶縁材料に求められている低誘電率、高い電気絶縁性、低熱膨張率の特性を満たしつつ、薄膜化が可能である。
【0008】
本発明に係る絶縁性樹脂組成物及び絶縁性樹脂シートにおいては、前記中空無機微粒子が、中空シリカ微粒子であることが、低誘電率、低熱膨張の点から好ましい。
【0009】
本発明に係る第一の態様の多層印刷配線板の製造方法は、一主面に導電性金属箔を有し、他主面が配線パターン化された配線素板の前記配線パターン形成面に、前記本発明に係る絶縁性樹脂組成物を塗布する、或いは、前記本発明に係る絶縁性樹脂シートを対接させることにより、積層的に絶縁性樹脂層を配置する工程と、
前記配線パターンとの間で電気的な接続部を形成する導電性バンプが一主面に設けられた導電性金属箔を、前記絶縁性樹脂層主面上に位置決めし積層配置する工程と、
前記積層体を加圧し絶縁性樹脂層の厚さ方向に導電性バンプ先端部を貫挿させ、対向する配線パターンに対する貫通型の導体配線部を形成する工程と、
前記外層として位置している両導電性金属箔に選択的なエッチング処理を施して配線パターニングする工程とを有することを特徴とする。
【0010】
また、本発明に係る第二の態様の多層印刷配線板の製造方法は、一主面に導電性金属箔を有し、他主面が配線パターン化された配線素板の前記配線パターン形成面に、前記本発明に係る絶縁性樹脂組成物を塗布する、或いは、前記本発明に係る絶縁性樹脂シートを対接させることにより、積層的に絶縁性樹脂層を配置する工程と、
前記配線パターンとの間で電気的な接続部を形成する導電性バンプが一主面に設けられた導電性金属箔を、前記絶縁性樹脂層主面上に位置決めし積層配置する工程と、
前記積層体を加圧し絶縁性樹脂層の厚さ方向に導電性バンプ先端部を貫挿させ、対向する配線パターンに対する貫通型の導体配線部を形成する工程と、
前記導電性金属箔のうち一方の導電性金属箔に選択的なエッチング処理を施して配線パターニングする工程と、
前記各工程を少なくとも1回繰り返した後の最終配線パターニング工程で外層の両導電性金属箔に選択的なエッチング処理を施して配線パターニングする工程とを有することを特徴とする。
【0011】
また、本発明によれば、前記本発明に係る製造方法により得られた多層印刷配線板を有する電子機器も提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、配線基板用の絶縁材料に求められている低誘電率、高い電気絶縁性、低熱膨張率の特性を満たしつつ、薄膜化が可能な絶縁性樹脂組成物及び絶縁性樹脂シートを提供することができる。
また、本発明によれば、上記本発明に係る絶縁性樹脂組成物又は絶縁性樹脂シートを用いた絶縁性樹脂層の厚さ方向に導電性バンプを貫挿させて貫通型の導体配線部を形成して、多層印刷配線基板を製造するため、製造プロセスの簡易化を図りながら、高密度の配線及び実装しながら薄膜化された多層印刷配線基板を、歩留まり良く得ることができる。
また、本発明によれば、上記本発明による製造方法により得られた多層印刷配線基板を有する電子機器を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明について詳しく説明する。
I.絶縁性樹脂組成物、及び絶縁性樹脂シート
本発明に係る印刷配線基板用絶縁性樹脂組成物は、溶媒可溶性ポリイミド、中空無機微粒子、及び前記ポリイミド樹脂が可溶な溶媒を含むことを特徴とする。
また、本発明に係る印刷配線基板用絶縁性樹脂シートは、溶媒可溶性ポリイミド、及び中空無機微粒子を含むことを特徴とする。
【0014】
本発明によれば、従来の印刷配線基板の絶縁性層に用いられてきたエポキシ樹脂よりも電気絶縁性の高い、ポリイミド樹脂を用いることにより、電気絶縁性を落とすことなく、絶縁層を薄膜化することが可能である。また、ポリイミド樹脂に中空無機微粒子を混ぜることにより、誘電率を下げることができる。また、ポリイミド樹脂に微粒子を混ぜることにより、絶縁性樹脂層として加熱、加圧した際の流動性が増し、後述する印刷配線基板の製造方法に用いる際に、導体層を挿入,貫通させる工程においてポリイミド樹脂単独時よりも加工特性が向上することが期待される。また、ポリイミド樹脂よりも熱膨張性の低い微粒子を混ぜることにより、ポリイミド樹脂単独時よりも熱膨張率が下がり、寸法安定性が向上することが期待される。また、本発明によれば閉環したポリイミドを用いるので、塗布後に溶媒を除去するのみで絶縁性樹脂層を形成でき、ポリイミド前駆体を用いた時のように300℃以上もの高温加熱が必要なイミド化の工程を必要としない。従って、本発明の絶縁性樹脂組成物や絶縁性樹脂シートを用いて絶縁性樹脂層を形成する場合には、熱処理条件をより温和な条件で行えて、配線に悪影響を与え難いと言うメリットもある。
【0015】
溶媒可溶性ポリイミドとは、閉環したポリイミドでありながら、溶媒に可溶なのものである。本発明における溶媒可溶性は、溶媒に5重量%以上可溶する場合をいう。溶媒可溶性ポリイミドは、公知のものを耐熱性、熱膨張率、溶剤可溶性などの性質に合わせて適宜選択して用いることができる。
【0016】
本発明に用いられる溶媒可溶性ポリイミドは、例えば、後述するポリアミック酸を、加熱して、または脱水剤およびイミド化触媒の存在下でイミド化することにより得られる。加熱によりイミド化する場合の反応温度は、好ましくは60〜200℃、より好ましくは100〜170℃である。反応温度が60℃未満では反応の進行が遅れ易く、また200℃を越えると可溶性ポリイミドの分子量が大きく低下することがある。また、脱水剤およびイミド化触媒の存在下でイミド化する場合の反応は、有機溶媒中で行うことができる。反応温度は、好ましくは常0〜180℃、より好ましくは60〜150℃である。脱水剤としては、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水トリフルオロ酢酸などの酸無水物を用いることができる。また、イミド化触媒としては、例えばピリジン、コリジン、ルチジン、トリエチルアミンなどの3級アミンを用いることができるが、これらに限定されるものではない。
【0017】
イミド化されて溶媒可溶性ポリイミドとなるポリアミック酸としては、例えば、テトラカルボン酸二無水物とジアミンを溶媒中で反応させることにより得られる。かかるテトラカルボン酸二無水物としては、例えばブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4−シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、2,3,5−トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物、3,5,6−トリカルボキシノルボルナン−2−酢酸二無水物、2,3,4,5−テトラヒドロフランテトラカルボン酸二無水物、5−(2,5−ジオキソテトラヒドロフラル)−3−メチル−3−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸二無水物、ビシクロ[2,2,2]−オクト−7−エン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物などの脂肪族および脂環族テトラカルボン酸二無水物、1,3,3a,4,5,9b−ヘキサヒドロ−5−テトラヒドロ−2,5−ジオキソ−3−フラニル)−ナフト[1,2−c]−フラン−1,3−ジオン、1,3,3a,4,5,9b−ヘキサヒドロ−5−メチル−5−(テトラヒドロ−2,5−ジオキソ−3−フラニル)−ナフト[1,2−c]フラン−1,3−ジオン、1,3,3a,4,5,9b−ヘキサヒドロ−8−メチル−5−(テトラヒドロ−2,5−ジオキソ−3−フラニル)−ナフト[1,2−c]フラン−1,3−ジオンなどの芳香環を有する脂肪族テトラカルボン酸二無水物;ピロメリット酸二無水物、3,3',4,4'−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3',4,4'−ビフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、3,3',4,4'−ビフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物、3,3',4,4'−ジメチルジフェニルシランテトラカルボン酸二無水物、3,3',4,4'−テトラフェニルシランテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4−フランテトラカルボン酸二無水物、4,4'−ビス(3,4−ジカルボキシフェノキシ)ジフェニルスルフィド二無水物、4,4'−ビス(3,4−ジカルボキシフェノキシ)ジフェニルスルホン二無水物、4,4'−ビス(3,4−ジカルボキシフェノキシ)ジフェニルプロパン二無水物、3,3',4,4'−パーフルオロイソプロピリデンジフタル酸二無水物、3,3',4,4'−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、ビス(フタル酸)フェニルホスフィンオキサイド二無水物、p−フェニレン−ビス(トリフェニルフタル酸)二無水物、m−フェニレン−ビス(トリフェニルフタル酸)二無水物、ビス(トリフェニルフタル酸)−4,4'−ジフェニルエーテル二無水物、ビス(トリフェニルフタル酸)−4,4'−ジフェニルメタン二無水物などの芳香族テトラカルボン酸二無水物、1,2−エチレンビス(アンヒドロトリメリテート)、1,3−プロピレンビス(アンヒドロトリメリテート)、1,4−テトラメチレンビス(アンヒドロトリメリテート)、1,5−ペンタメチレンビス(アンヒドロトリメリテート)、1,6−ヘキサメチレンビス(アンヒドロトリメリテート)、1,3−フェニレンビス(アンヒドロトリメリテート)、1,4−フェニレンビス(アンヒドロトリメリテート)などの脂肪族鎖を有する芳香族テトラカルボン酸二無水物を挙げることができる。
これらは単独でまたは2種以上を組み合わせて使用できる。
【0018】
また、ジアミン化合物としては、例えばp−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、4,4'−ジアミノジフェニルメタン、4,4'−ジアミノジフェニルエタン、4,4'−ジアミノジフェニルスルフィド、4,4'−ジアミノジフェニルスルホン、4,4'−ジアミノジフェニルエーテル、1,5−ジアミノナフタレン、3,3−ジメチル−4,4'−ジアミノビフェニル、4,4'−ジアミノベンズアニリド、3,4'−ジアミノジフェニルエーテル、3,3'−ジアミノベンゾフェノン、3,4'−ジアミノベンゾフェノン、4,4'−ジアミノベンゾフェノン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(4−アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、9,9−ビス(4−アミノフェニル)−10−ヒドロアントラセン、9,9−ビス(4−アミノフェニル)フルオレン、4,4'−メチレン−ビス(2−クロロアニリン)、2,2',5,5'−テトラクロロ−4,4'−ジアミノビフェニル、2,2'−ジクロロ−4,4'−ジアミノ−5,5'−ジメトキシビフェニル、3,3'−ジメトキシ−4,4'−ジアミノビフェニルなどの芳香族ジアミン;ジアミノテトラフェニルチオフェンなどのヘテロ原子を有する芳香族ジアミン;1,1−メタキシリレンジアミン、1,3−プロパンジアミン、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ヘプタメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、1,4−ジアミノシクロヘキサン、イソホロンジアミン、テトラヒドロジシクロペンタジエニレンジアミン、ヘキサヒドロ−4,7−メタノインダニレンジメチレンジアミン、トリシクロ[6,2,1,02.7]−ウンデシレンジメチルジアミン、4,4'−メチレンビス(シクロヘキシルアミン)などの脂肪族または脂環族ジアミン;下記式(1)などで表わされるジアミノオルガノシロキサンが挙げられる。ジアミン化合物としては単独でまたは2種以上を組み合わせて使用できる。
【0019】
【化1】

(式中、Rはメチル基、エチル基、プロピル基などの鎖状アルキル基、シクロヘキシル基などのシクロアルキル基またはフェニル基などのアリール基のような炭素数1〜12の炭化水素基を示し、pは1〜3、qは1〜20のそれぞれ整数を示す)
【0020】
反応に用いられる上記有機溶媒としては、反応で生成するポリアミック酸を溶解しうるものであれば特に制限はない。例えばγ−ブチロラクトン、N−メチル−2−ピロリドンが好ましく用いられる。有機溶媒の使用量は、テトラカルボン酸二無水物および全ジアミン化合物の総量が、反応溶液の全量に対して0.1〜30重量%になるようにするのが好ましい。また、この際の反応温度は、好ましくは0〜150℃、より好ましくは0〜100℃の反応温度で行われる。
【0021】
溶媒可溶性ポリイミドについては、後述する本発明に係る印刷配線基板の製造方法に用いられる場合には、ガラス転移温度ないし可塑化温度で加圧し、各導体バンプを本発明に係る絶縁性樹脂組成物を用いて形成された絶縁性樹脂層の厚さ方向にそれぞれ挿入,貫通させる工程があることから、ガラス転移温度ないし可塑化温度が250℃以下、好ましくは200℃以下であることがのぞましい。また、配線基板としての耐熱性の観点からは、ガラス転移温度ないし可塑化温度が150℃以上であることがのぞましい。
ここで本発明におけるガラス転移温度は、樹脂組成物から得られるポリイミドをフィルム形状にすることが出来る場合には、動的粘弾性測定によって、tanδ(tanδ=損失弾性率(E’’)/貯蔵弾性率(E’))のピーク温度から求められる。動的粘弾性測定としては、例えば、粘弾性測定装置Solid Analyzer RSA II(Rheometric Scientific社製)によって、周波数1Hz、昇温速度5℃/minにより行うことができる。樹脂組成物から得られるポリイミドをフィルム形状にできない場合には、示差熱分析装置(DSC)のベースラインの変曲点の温度で判断する。
【0022】
一方、寸法安定性の点から、用いる溶媒可溶性ポリイミドは、なるべく低膨張性のポリイミドを選択することが好ましい。一般的に溶媒可溶性ポリイミドは膨張率が高い傾向があり、一方、低膨張性ポリイミドの多くは耐溶剤性が高くポリイミドの状態では溶媒に溶解しない傾向がある。しかしながら、本発明においては、溶媒可溶性ポリイミドに中空無機微粒子を混ぜることにより、溶媒可溶性ポリイミド単独時よりも熱膨張率が下がり、寸法安定性が向上する。中空無機微粒子は、ポリアミック酸よりも閉環したポリイミドの状態の方が分散安定性、溶解性に優れる場合が多いため、本発明の樹脂組成物においては、無機微粒子がより細かく分散されることが可能である。その結果、より均一な状態で成膜でき、樹脂層の平坦性や誘電率を良好にすることができる。
【0023】
なお、一般に、低膨張性のポリイミドは、弾性率が高いので、後述する印刷配線基板の製造方法においては導体層を挿入,貫通させることはできず、そのまま用いることができない。低膨張性のポリイミドをガラス転移温度以上の温度で加熱して、導体層を挿入,貫通させようとしても、低膨張性のポリイミドは、通常ガラス転移温度が300℃以上などと高いため、そのような高温に貫通させる導体層が耐えられない。従って、低膨張性のポリイミドをそのまま、導体層を挿入,貫通させる工程を有するような印刷配線基板の製造方法における絶縁性樹脂層として用いることはできなかった。
【0024】
一方、中空無機微粒子とは、無機微粒子の内部に気体が充填された構造及び/又は気体を含む多孔質構造体を形成している微粒子を意味する。また、本発明にあっては、微粒子の形態、構造、凝集状態、膜内部での微粒子の分散状態により、内部、及び/又は表面の少なくとも一部にナノポーラス構造の形成が可能な微粒子も含まれる。中空無機微粒子は、低膨張性を付与しながら、ポリイミド樹脂層の誘電率を下げることを可能とする。
【0025】
本発明に用いられる中空無機微粒子は、例えば、金属、または金属酸化物からなるものが挙げられる。中でも、中空シリカ微粒子であることが、低誘電率、低熱膨張の点から好ましい。中空シリカ微粒子は結晶性、ゾル状、ゲル状の状態等を問わない。微粒子の形状は、球状、鎖状、針状、板状、片状、棒状、繊維状のいずれであってもよい。
【0026】
中空シリカ微粒子としては、例えば、特開2001−233611号公報で開示されている技術を用いて調製した中空シリカ微粒子などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。市販品を用いても良く、例えば、日鉄鉱業製の商品名、シリナックスSP−PN(b)などをあげることができる。また、比表面積を大きくすることを目的として製造され、充填用のカラムおよび表面の多孔質部に各種化学物質を吸着させる除放材、触媒固定用に使用される多孔質微粒子、または断熱材や低誘電材に組み込むことを目的とする中空無機微粒子の分散体や凝集体を用いても良い。そのような具体例としては、市販品として日本シリカ工業株式会社製の商品名NipsilやNipgelの中から多孔質シリカ微粒子の集合体、日産化学工業(株)製のシリカ微粒子が鎖状に繋がった構造を有するコロイダルシリカUPシリーズ(商品名)が挙げられる。
【0027】
前記中空無機微粒子については、平均粒径が、1nm以上、1μm以下であることが好ましい。平均粒径が1μmを超える場合、絶縁性樹脂層の表面の平坦性が悪化する恐れがあり、平均粒径が1nmより小さい場合は、分散性が劣る為、溶液状態での安定性が低下する恐れがある。なお、ここでの平均粒径は、分散液については動的光散乱型の粒度分布計を用いる方法、超音波型の粒度分布計を用いる方法レーザ回折/散乱法を用いた方法などにより測定することができる。また、基板上に分散液を塗布・乾燥した状態においては、走査型電子顕微鏡(SEM)、透過型電子顕微鏡(TEM)等の電子顕微鏡による直接観測で測定することにより求めることができる。
【0028】
また、本発明の絶縁性樹脂組成物及び絶縁性樹脂シートにおいて、中空無機微粒子の含有量は、誘電率及び膨張率を低減する点から、適宜調整されれば良く、特に限定されない。例えば、前記溶媒可溶性ポリイミド100重量部に対して、1〜80重量部の範囲で用いられることが好ましく、更に、5〜50重量部の範囲で用いられることが、誘電率及び膨張率を低減させながら、製膜後の膜中における凝集による析出を防ぐ点から好ましい。
【0029】
前記ポリイミドが可溶な溶媒は、中でも溶解性の点から極性溶媒が望ましく、代表的なものとして、N−メチル−2−ピロリドン、N−アセチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、N,N−ジエチルアセトアミド、N,N−ジメチルメトキシアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチルフォスホアミド、ピリジン、ジメチルスルホン、テトラメチレンスルホン、ジメチルテトラメチレンスルホン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、シクロペンタノン、γ−ブチロラクトン、α−アセチル−γ−ブチロラクトン等があり、これらの溶媒は単独であるいは2種類以上を組み合わせて用いられる。この他にも溶媒として組合せて用いられるものとしてベンゼン、ベンゾニトリル、1,4−ジオキサン、テトラヒドロフラン、ブチロラクトン、キシレン、トルエン、シクロヘキサノン等の非極性溶媒が挙げられ、これらの溶媒は、中空無機微粒子の分散媒、溶媒の揮散調節剤、皮膜平滑剤などとして使用される。
【0030】
本発明の絶縁性樹脂組成物は、溶媒可溶性ポリイミド、中空無機微粒子、及び前記ポリイミド樹脂が可溶な溶媒を適宜混合して、中空無機微粒子を分散させて得ることができる。中空無機微粒子としては、予め溶媒に分散された分散液を混合して用いてもよい。
【0031】
本発明の絶縁性樹脂シートは、本発明の絶縁性樹脂組成物を用いて形成することができる。シート状に成形されれば、形成方法については特に限定されない。
例えば、前記本発明に係る絶縁性樹脂組成物を、適切な塗布方法を用いて基板上に塗布、含まれる溶媒を乾燥して塗膜を形成することにより、本発明の絶縁性樹脂シートを形成することができる。本発明の絶縁性樹脂シートは、流通時や、印刷配線板製造の使用直前まで、離型シートや、支持体がついていても良い。
具体例として、前記本発明に係る絶縁性樹脂組成物を、スピンコーター等の塗布方法を用いて銅箔の上にキャストを行い、乾燥させ、この積層体を窒素雰囲気下、オーブンで、ベークを行い、銅−中空無機微粒子分散ポリイミド樹脂層の2層体を得、次いでこの2層体について塩化鉄溶液を用いて銅箔部分をエッチングすることにより、本発明に係る絶縁性樹脂シートを得ても良い。
【0032】
本発明に係る絶縁性樹脂組成物及び絶縁性樹脂シートにおいては、誘電率が4以下であることが好ましく、誘電率は低ければ低いほど好ましい。ここでの誘電率は、絶縁性樹脂組成物により形成された塗膜(溶媒は含まれない)または絶縁性樹脂シートの両面に金などの導電体を蒸着後、HP 4291B(ヒューレット・パッカード製)などのインピーダンス・アナライザーを用いることにより測定することができる。
【0033】
また、本発明に係る絶縁性樹脂組成物及び絶縁性樹脂シートにおいては、線熱膨張係数が0ppm〜60ppmであることが好ましい。60ppm過の場合、積層される導体層や絶縁層との線熱膨張係数の差が大きくなって、反りや歪みを生じやすく、多層基板の寸法安定性が損なわれやすい。ここでの線熱膨張係数は、本発明で得られる絶縁性樹脂組成物から得られる絶縁樹脂シートの熱機械的分析装置(TMA)によって求めることができる。例えば、熱機械的分析装置(例えばThermo Plus TMA8310(リガク社製))によって、昇温速度を10℃/min、評価サンプルの断面積当たりの加重が同じになるように引張り加重を1g/25000μm2として得られる。
【0034】
また、本発明に係る絶縁性樹脂シートの厚みは、用いられる態様に合わせて適宜選択されれば良く、特に限定されないが、電気絶縁性を確保した上で薄膜化が可能なため、例えば50μm以下、更に30μm以下とすることが可能である。
【0035】
II.多層配線基板の製造方法
本発明に係る第一の態様の多層印刷配線板の製造方法は、一主面に導電性金属箔を有し、他主面が配線パターン化された配線素板の前記配線パターン形成面に、前記本発明に係る絶縁性樹脂組成物を塗布する、或いは、前記本発明に係る絶縁性樹脂シートを対接させることにより、積層的に絶縁性樹脂層を配置する工程と、
前記配線パターンとの間で電気的な接続部を形成する導電性バンプが一主面に設けられた導電性金属箔を、前記絶縁性樹脂層主面上に位置決めし積層配置する工程と、
前記積層体を加圧し絶縁性樹脂層の厚さ方向に導電性バンプ先端部を貫挿させ、対向する配線パターンに対する貫通型の導体配線部を形成する工程と、
前記外層として位置している両導電性金属箔に選択的なエッチング処理を施して配線パターニングする工程とを有することを特徴とする。
【0036】
また、本発明に係る第二の態様の多層印刷配線板の製造方法は、一主面に導電性金属箔を有し、他主面が配線パターン化された配線素板の前記配線パターン形成面に、前記本発明に係る絶縁性樹脂組成物を塗布する、或いは、前記本発明に係る絶縁性樹脂シートを対接させることにより、積層的に絶縁性樹脂層を配置する工程と、
前記配線パターンとの間で電気的な接続部を形成する導電性バンプが一主面に設けられた導電性金属箔を、前記絶縁性樹脂層主面上に位置決めし積層配置する工程と、
前記積層体を加圧し絶縁性樹脂層の厚さ方向に導電性バンプ先端部を貫挿させ、対向する配線パターンに対する貫通型の導体配線部を形成する工程と、
前記導電性金属箔のうち一方の導電性金属箔に選択的なエッチング処理を施して配線パターニングする工程と、
前記各工程を少なくとも1回繰り返した後の最終配線パターニング工程で外層の両導電性金属箔に選択的なエッチング処理を施して配線パターニングする工程とを有することを特徴とする。
【0037】
従来より一般的に印刷配線板の製造に用いられていた、配線パターン層間の電気的な接続にメッキ法を利用する手段は、絶縁基板に配線パターン層間の電気的な接続用の穴明け(穿穴)加工、穿設した穴内壁面を含めたメッキ処理工程などを要し、印刷配線板の製造工程が冗長であるとともに、工程管理も繁雑であるという欠点がある。一方、配線層間の電気的な接続用の穴に、導電性ペーストを印刷などにより埋め込む方法の場合も、前記メッキ法の場合と同様に穴明け工程を必要とする。しかも、穿設した穴内に、一様に導電性ペーストを流し込み,埋め込むことが難しく、電気的な接続の信頼性に問題があった。いずれにしても、このような従来の方法は、前記穴明け工程を要するので、印刷配線板のコストや歩留まりなどに反映し、低コスト化などへの要望に対応できない。また、前記配線パターン層間を導電体穴の設置で行った場合は、その導電体穴の領域に配線を形成、配置できないし、電子部品を搭載することもできない。つまり、配線密度の向上が制約されるとともに、電子部品の実装密度の向上も阻害されるという問題があった。
【0038】
本発明のように、多層印刷配線板の構成において、導電性バンプの先端部を合成樹脂系シート(層間絶縁層)に圧入・貫挿させ、配線パターン層間の電気的な接続を行う方式の場合は、製造プロセスの簡易であり、生産性が高いというメリットがある。しかしながら、従来技術のようなガラスエポキシ系樹脂板を合成樹脂系シートとして用いた場合には、そのエポキシ系樹脂板の絶縁性能から、多層印刷配線板の薄膜化に限界があった。
【0039】
その点、本発明によれば、合成樹脂系シートとして、前記本発明に係る溶媒可溶性ポリイミドと中空無機微粒子を含む絶縁性樹脂組成物または絶縁性樹脂シートを用いるため、配線基板用の絶縁材料に求められている低誘電率、高い電気絶縁性、低熱膨張率の特性を満たしつつ、薄膜化が可能であり、多層印刷配線基板の小型化が可能である。また、上記工程のように、圧入・貫挿される絶縁性樹脂層に外層として配線素板を予め積層配置しておくと、絶縁性樹脂層の変形が抑制され、圧入・貫挿される導電性バンプの位置ずれや変形も防止されて、信頼性が高くなるというメリットがある。そのため、本発明によれば、製造プロセスの簡易化を図りながら、高密度の配線及び実装しながら薄膜化された、信頼性の高い多層印刷配線基板を、歩留まり良く得ることができる。
【0040】
合成樹脂系シートとしてポリイミド樹脂のみを含むシートを用いても、本発明に係る製造方法において、低誘電率、高い電気絶縁性、低熱膨張率の特性を満たしつつ、薄膜化を実現した絶縁性樹脂層とすることができない。すなわち、一般に、低膨張性のポリイミドは、弾性率が高いので、導体層を挿入,貫通させることはできない。低膨張性のポリイミドをガラス転移温度以上の温度で加熱して、導体層を挿入,貫通させようとしても、低膨張性のポリイミドは、通常ガラス転移温度が300℃以上などと高いため、そのような高温に、貫通させる導体層が耐えられない。一方、ガラス転移温度が低いポリイミドは、線熱膨張率が高くなり、寸法安定性が悪くなり、そのまま用いることは困難である。
【0041】
本発明において、導電性バンプを形設する導電性金属箔としては、たとえば厚さ10〜50μm程度の銅箔,Al箔などが挙げられる。また、配線素板としては層間絶縁層が用いられ、一主面に存在する導電性金属箔と、他主面に存在する配線パターンは、適宜、導電性接続部で接続されている。上記配線素板の層間絶縁層としては、特に限定されず、熱可塑性樹脂シートとしては、たとえばポリカーボネート樹脂,ポリスルホン樹脂,熱可塑性ポリイミド樹脂,4フッ化ポリエチレン樹脂,6フッ化ポリプロピレン樹脂,ポリエーテルエーテルケトン樹脂などのシート類が挙げられる。また、硬化前状態に保持される熱硬化性樹脂シートとしては、エポキシ樹脂,ビスマレイミドトリアジン樹脂,ポリイミド樹脂,フェノール樹脂,ポリエステル樹脂,メラミン樹脂,あるいはブタジェンゴム,ブチルゴム,天然ゴム,ネオプレンゴム,シリコーンゴムなどの生ゴムのシート類が挙げられる。これら合成樹脂は、単独でもよいが、絶縁性無機物や有機物系の充填物を含有してもよく、さらに、ガラスクロスやマット、有機合成繊維布やマット、あるいは紙などの補強材と組み合わせて成るシートであってもよい。配線素板として、上記本発明に係る絶縁性樹脂組成物又は絶縁性樹脂シートを用いてもよい。
【0042】
また、導電性バンプは、所定の位置に精度よく貫通型の導体配線部を形成するため、絶縁性樹脂層を容易に貫挿し得るように略円錐型もしくは角錐型に選択,設定されることが望ましい。ここで、略円錐型もしくは角錐型は、厳密なものでなく、前記本発明に係る絶縁性樹脂組成物を塗布する、或いは、前記本発明に係る絶縁性樹脂シートを対接させることにより配置した絶縁性樹脂層を掻き分けて貫挿し得る程度に先端が尖っていればよい。
【0043】
前記導電性バンプは、たとえば銀,金,銅,半田粉などの導電性粉末、これらの合金粉末もしくは複合(混合)金属粉末と、たとえばポリカーボネート樹脂,ポリスルホン樹脂,ポリエステル樹脂,フェノキシ樹脂,フェノール樹脂,ポリイミド樹脂などのバインダー成分とを混合して調製された導電性組成物、あるいは導電性金属などで構成される。そして、前記導体バンプの形設は、たとえば比較的厚いメタルマスクを用いた印刷法により、アスペクト比の高い導電性バンプを形成できる。なお、導電性バンプの高さは、一般的に、50〜400μm程度が望ましい。ここで、導電性バンプは、硬・軟など性状の異なる導電性ペーストを組合わせてなる多層構造、多層シェル構造でもよい。
【0044】
本発明において、前記導電性バンプ先端部が貫挿して、貫通型の導体配線部を形成する絶縁性樹脂層の厚さは15〜80μm程度が好ましい。前記本発明に係る絶縁性樹脂組成物を塗布する、或いは、前記本発明に係る絶縁性樹脂シートを対接させることにより配置した絶縁性樹脂層は、ポリイミド単独の樹脂組成物を用いて作成した場合に比べて、中空無機微粒子の添加により樹脂の流動性が増していることから、前記貫挿工程における貫通性が向上しており好ましい。なお、絶縁性樹脂組成物を塗布する場合は、その後適宜、組成物中に含まれている溶媒の乾燥を行い、絶縁性樹脂層を形成する。
【0045】
前記導電性バンプを圧入・貫挿させる絶縁性樹脂層の厚さに対して、導電性バンプ先端部が対接する配線パターン層を支持する絶縁体層(配線素板の層間絶縁層)が3倍以上の厚さであることが好ましい。この場合、圧入・貫挿される導電性バンプの位置ずれ、変形などは、より効果的に防止もしくは回避できる。
【0046】
本発明において、導電性バンプを形設した導電性金属箔の主面に、前記本発明に係る絶縁性樹脂組成物を塗布する、或いは、前記本発明に係る絶縁性樹脂シート主面を対接させて絶縁性樹脂層を積層,配置して成る積層体をそのまま、もしくは加熱して加圧するとき、絶縁性樹脂層を載置する基台(当て板)として、寸法や変形の少ない金属板もしくは耐熱性樹脂板、たとえばステンレス板,真鍮板、当該加熱温度で変形しないポリイミド樹脂板(シート),ポリテトラフロロエチレン樹脂板(シート)などを使用することが好ましい。この積層体の加圧に当たり、加熱して絶縁性樹脂層の樹脂分が柔らかくなった状態で加圧し、導電性バンプ群の各先端部を貫挿させると、より良好な導電性バンプ先端部の貫挿を達成することができるからである。
【0047】
III.電子機器
また、本発明によれば、前記本発明に係る製造方法により得られた多層印刷配線板を有する電子機器も提供する。
このような前記本発明に係る製造方法により得られた多層印刷配線板を有する電子機器としては、特に限定されないが、例えば、デジタルビデオカメラ、携帯電話、SDカード等記録媒体、各種モジュール基板等を例示することができる。特に薄膜化及び小型化が進んでいる電子機器に好ましく用いられる。
【実施例】
【0048】
以下、本発明について実施例を示して具体的に説明する。なお、本発明は、下記実施例に限定されるものでなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲でいろいろの変形をとることができる。たとえば、導電性バンプはAgペースト以外の導電体で形成してもよい。
(実施例1−1:絶縁性樹脂組成物1の調製)
1,2−エチレンビス(アンヒドロトリメリテート)と4,4'−ジアミノジフェニルエーテルを原料として合成した閉環型ポリイミド溶液24.6g(固形分4.9g、閉環型ポリイミドのガラス転移温度190℃)に、中空シリカ微粒子(商品名、シリナックスSP−PN(b)(日鉄鉱業製)、(一次粒径80〜130nm)0.98gを加え、ペイントシェーカーにより4時間振盪攪拌することにより中空無機微粒子が分散した絶縁性樹脂組成物1を得た。
【0049】
(実施例1−2:絶縁性樹脂シート1の作製)
中空無機微粒子が分散した絶縁性樹脂組成物1を、スピンコーターを用いて銅箔の上にキャストを行い、100℃で15分間乾燥させた。この積層体を窒素雰囲気下、オーブンで、250℃で1時間ベークを行い、銅−中空無機微粒子分散ポリイミド樹脂絶縁層の2層体を得た。この2層体を塩化鉄溶液を用いて70℃3分間エッチングすることにより、厚さ約20μmの中空無機微粒子が分散した絶縁性樹脂シート1を得た。
【0050】
(比較例1−1:比較絶縁性樹脂組成物1の調製)
1,2−エチレンビス(アンヒドロトリメリテート)と4,4'−ジアミノジフェニルエーテルを原料として合成した閉環型ポリイミド溶液19.6g(固形分3.9g)に、非中空シリカ粒子分散液(商品名、DMAC−ST(日産化学工業製)、一次粒径10〜15nm)3.9g(固形分:0.79g)を加え、ペイントシェーカーにより4時間振盪攪拌することにより、非中空無機微粒子が分散された比較絶縁性樹脂組成物1を得た。
【0051】
(比較例1−2:比較絶縁性樹脂シート1の調製)
実施例1−2において絶縁性樹脂組成物1を用いた代わりに、比較例1−1で得られた比較絶縁性樹脂組成物1を用いて同様の作業を行うことにより、比較絶縁性樹脂シート1を得た。
【0052】
(比較例2−1:比較絶縁性樹脂組成物2の調製)
1,2−エチレンビス(アンヒドロトリメリテート)と4,4'−ジアミノジフェニルエーテルを原料として合成した閉環型ポリイミド溶液を、比較絶縁性樹脂組成物2として用いた。
【0053】
(比較例2−2:比較絶縁性樹脂シート2の調製)
実施例1−2において絶縁性樹脂組成物1を用いた代わりに、比較例2−1で得られた比較絶縁性樹脂組成物2を用いて同様の作業を行うことにより、比較絶縁性樹脂シート2を得た。
【0054】
(比較例3−1:比較絶縁性樹脂組成物3の調製)
1,2−エチレンビス(アンヒドロトリメリテート)と4,4'−ジアミノジフェニルエーテルを原料として合成した閉環型ポリイミド溶液17.8g(固形分3.6g)に、非中空シリカ粒子分散液(商品名、DMAC−ST―ZL(日産化学工業製)、一次粒径70〜100nm)3.6g(固形分:0.72g)を加え、ペイントシェーカーにより4時間振盪攪拌したが、非中空無機微粒子の析出が起こり、非中空無機微粒子が均一に分散された比較絶縁性樹脂組成物3を得ることができなかった。
【0055】
[評価]
(1)誘電率測定
実施例1−2で得られた中空無機微粒子分散絶縁性樹脂シート1に金を蒸着することにより、実施例1−1の絶縁性樹脂組成物に対応する誘電率測定用サンプルを得た。
同様にして、比較例1−2で得られた比較絶縁性樹脂シート1を用いて、比較例1−1の比較絶縁性樹脂組成物に対応する誘電率測定用サンプルを得た。
同様にして、比較例2−2で得られた比較絶縁性樹脂シート2を用いて、比較例2−1の比較絶縁性樹脂組成物に対応する誘電率測定用サンプルを得た。
【0056】
誘電率測定を行った結果、実施例1−1、1−2に対応するサンプルの比誘電率は、3.55(1GHz)であった。一方、比較例1−1、1−2に対応したサンプルは、4.00(1GHz)、比較例2−1、2−2に対応したサンプルは、3.60(1GHz)であった。
これらの結果から、実施例1−1の絶縁性樹脂組成物を用いた絶縁層は、比較例1−1の中空でないシリカを分散させた絶縁層より低誘電率であることが明らかとなった。また、比較例2−1の微粒子を含まない絶縁層に比べても、低誘電率であることが明らかにされた。
【0057】
(2)線熱膨張係数
実施例1−2、比較例1−2、及び比較例2−2で作成した絶縁性樹脂シートの1ピース(20mm×5mm)について熱機械的分析装置(例えばThermo Plus TMA8310(リガク社製))によって、昇温速度を10℃/min、評価サンプルの断面積当たりの加重が同じになるように引張り加重を1g/25000μm2として、100℃から150℃までの平均の線熱膨張係数の測定を行った。
その結果、実施例1−2に対応したサンプルは60.1ppm/℃であった。
一方、比較例1−2に対応したサンプルは、52.0ppm/℃で、比較例2−2に対応したサンプルは、71.5ppm/℃であった。
実施例1−1の絶縁性樹脂組成物を用いた絶縁層は、比較例2−1の微粒子を含まない樹脂組成物を用いた絶縁層に比べて、低膨張であることが明らかにされた。本発明に係る絶縁性樹脂組成物を用いた絶縁層は、ポリイミド樹脂単独時よりも熱膨張率が下がり、寸法安定性が向上することがわかった。
【0058】
(実施例2:多層印刷配線基板1の製造)
図1(a)〜(e)は、実施例2における各製造工程での態様を模式的に示す断面図である。先ず、一主面に厚さ約18μmの導電性金属箔1aを有し、他主面が配線パターン2a化された厚さ約0.1mmの配線素板3の前記配線パターン2a形成面に、厚さ約20μmの上記で得られた絶縁性樹脂シート1(図において4a)の主面を対接させて積層的に配置する。ここで、配線素板3はガラスエポキシ系樹脂板で、導電性金属箔1aと配線パターン2aとの間は、適宜、導電性接続部5で接続されており、また、導電性金属箔1aは電解銅箔である。
【0059】
次に、前記配線パターン2aとの間で電気的な接続部を形成する円錐状の導電性バンプ(高さ60μm、底面径50μm)5aが一主面に設けられた導電性金属箔1bを、前記絶縁性樹脂シート1(図において4a)主面上に位置決めし積層配置する。ここで、導電性金属箔1b面への導電性バンプ5aの形成は次のように行われる。たとえば、導電性金属箔1b面に、予め用意しておいた厚さ0.3mmのステンレス製メタルスクリーンを位置合わせ・配置して、Agペーストの印刷、乾燥を数回繰り返して所要の高さの円錐状突起を形成してから、150℃の熱風オーブン中でAgペーストを硬化させたものである。図1(a)は、前記配線素板3、絶縁性樹脂シート1(図において4a)および導電性バンプ5aが設けられた導電性金属箔1bを位置決め、積層した状態を示す断面図である。その後、前記積層体を加圧し前記絶縁性樹脂シート1(図において4a)の厚さ方向に導電性バンプ5a先端部を貫挿させ、対向する配線パターン2aに対する貫通型の導体配線部5を形成し、図1(b)に示すような両面導電性金属箔1a,1b張り基板を形成する。この両面導電性金属箔1a,1b張り基板の一方の導電性金属箔1aについて、選択的なエッチング処理を施して配線パターニング2bし、配線素板3’を形成してから、図1(c)に示すごとく、前記配線素板3’の配線パターン2b形成面に、この配線パターン2bとの間で電気的な接続部を形成する導電性バンプ5bが一主面に設けられた導電性金属箔1cを、前記絶縁性樹脂シート1(図において4b)を介して位置決めし積層配置する。
【0060】
次いで、前記積層体を加圧し前記絶縁性樹脂シート1(図において4b)の厚さ方向に導電性バンプ5b先端部を貫挿させ、対向する配線パターン2bに対する貫通型の導体配線部5を形成し、図1(d)に示すような両面導電性金属箔1b,1c張り基板を形成する。続いて、前記両面導電性金属箔1b,1cについて、それぞれ選択的なエッチング処理を施して配線パターニング2c,2dすることによって、図1(e)に示すような4層型の印刷配線板を作成した。
【0061】
なお、前記積層体を加圧して、両面導電性金属箔1a,1b張り基板や、両面導電性金属箔1b,1c張り基板を製造する際、導電性金属箔の各裏面に、厚さ15μm程度のアルミ箔および厚さ3mm程度のシリコーンゴム板を被押圧体として配置し、さらに当て板を配置した。この状態で加熱、加圧、冷却機構付きのプレス装置にセットし、200℃、樹脂圧2MPaで加圧したまま冷却した後取り出す方式をとった。また、導電性金属箔のパターニングは、通常のエッチングレジストインク(商品名、PSR−4000H,製造元:太陽インキ製造株式会社)をスクリーン印刷し、配線(導体)パターン部をマスクしてから、塩化第2銅をエッチング液としてエッチング処理後、レジストマスク剥離することにより多層印刷配線基板1を得た。
【0062】
(実施例3:多層印刷配線基板2の製造)
図2(a)〜(c)は、実施例3における各製造工程での態様を模式的に示す断面図である。先ず、両主面が配線パターン2a,2b化され、かつ両面導通型の配線基板3’を用意し、前記第1の実施例に準じて、配線パターン2a,2b形成面に、実施例1−2で得られた絶縁性樹脂シート1(図において4a,4b)の主面を対接させて積層的に配置する。ここで、配線基板3’は厚さ0.3mmのガラスエポキシ系樹脂板である。
【0063】
次に、前記配線パターン2a,2bとの間でそれぞれ電気的な接続部を形成する円錐状の導電性バンプ(高さ60μm、底面径50μm)5a,5bが一主面にそれぞれ設けられた導電性金属箔1b,1cを、前記絶縁性樹脂シート1(図において4a,4b)主面上にそれぞれ位置決めし積層配置する。ここで、導電性金属箔1b,1c面への導電性バンプ5a,5bの形成は次のように行われる。たとえば、導電性金属箔1b面に、予め用意しておいた厚さ0.3mmのステンレス製メタルスクリーンを位置合わせ・配置して、Agペーストの印刷,乾燥を数回繰り返して所要の高さの円錐状突起を形成してから、150℃の熱風オーブン中でAgペーストを硬化させたものである。図2(a)は、前記配線基板3’,前記絶縁性樹脂シート1(図において4a,4b)および導電性バンプ5a,5bが設けられた導電性金属箔1b,1cを位置決め、積層した状態を示す断面図である。
【0064】
その後、前記積層体を加圧し絶縁性樹脂シート1(図において4a,4b)の厚さ方向に、導電性バンプ5a,5b先端部をそれぞれ貫挿させ、対向する配線パターン2a,2bに対する貫通型の導体配線部5を形成し、図2(b)に示すような両面導電性金属箔1b,1c張り基板を形成する。この両面導電性金属箔1b,1c張り基板の両導電性金属箔1b,1cについて、選択的なエッチング処理を施して配線パターニング2c,2dし、図2(c)に示すような4層型の多層印刷配線基板2を作成した。
【0065】
また、実施例3の場合は、中間の層間絶縁体層の厚さを外側の層間絶縁体層の厚さよりも厚く設定したことにより、積層体を加圧一体化する工程において、既に形成されている中間の導体配線部5の変形や位置ずれなども抑制・防止され、より信頼性の高い配線パターン層間の接続が形成されていた。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】図1(a)〜図1(e)は、本発明の製造方法について、製造工程順に一実施態様例を模式的に示す断面図である。
【図2】図2(a)〜図1(c)は、本発明の製造方法について、製造工程順に他の実施態様例を模式的に示す断面図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶媒可溶性ポリイミド、中空無機微粒子、及び前記ポリイミド樹脂が可溶な溶媒を含む、印刷配線板用絶縁性樹脂組成物。
【請求項2】
前記中空無機微粒子が、中空シリカ微粒子である、請求項1に記載の印刷配線板用絶縁性樹脂組成物。
【請求項3】
溶媒可溶性ポリイミド、中空無機微粒子を含む、印刷配線板用絶縁性樹脂シート。
【請求項4】
前記中空無機微粒子が、中空シリカ微粒子である、請求項3に記載の印刷配線板用絶縁性樹脂シート。
【請求項5】
一主面に導電性金属箔を有し、他主面が配線パターン化された配線素板の前記配線パターン形成面に、請求項1又は2に記載の絶縁性樹脂組成物を塗布する、或いは、請求項3又は4に記載の絶縁性樹脂シートを対接させることにより、積層的に絶縁性樹脂層を配置する工程と、
前記配線パターンとの間で電気的な接続部を形成する導電性バンプが一主面に設けられた導電性金属箔を、前記絶縁性樹脂層主面上に位置決めし積層配置する工程と、
前記積層体を加圧し絶縁性樹脂層の厚さ方向に導電性バンプ先端部を貫挿させ、対向する配線パターンに対する貫通型の導体配線部を形成する工程と、
前記外層として位置している両導電性金属箔に選択的なエッチング処理を施して配線パターニングする工程とを有することを特徴とする多層印刷配線板の製造方法。
【請求項6】
一主面に導電性金属箔を有し、他主面が配線パターン化された配線素板の前記配線パターン形成面に、請求項1又は2に記載の絶縁性樹脂組成物を塗布する、或いは、請求項3又は4に記載の絶縁性樹脂シートを対接させることにより、積層的に絶縁性樹脂層を配置する工程と、
前記配線パターンとの間で電気的な接続部を形成する導電性バンプが一主面に設けられた導電性金属箔を、前記絶縁性樹脂層主面上に位置決めし積層配置する工程と、
前記積層体を加圧し絶縁性樹脂層の厚さ方向に導電性バンプ先端部を貫挿させ、対向する配線パターンに対する貫通型の導体配線部を形成する工程と、
前記導電性金属箔のうち一方の導電性金属箔に選択的なエッチング処理を施して配線パターニングする工程と、
前記各工程を少なくとも1回繰り返した後の最終配線パターニング工程で外層の両導電性金属箔に選択的なエッチング処理を施して配線パターニングする工程とを有することを特徴とする多層印刷配線板の製造方法。
【請求項7】
前記請求項5又は6に記載の製造方法により得られた多層印刷配線板を有する、電子機器。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−87097(P2010−87097A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−252570(P2008−252570)
【出願日】平成20年9月30日(2008.9.30)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】