説明

厚さ測定装置およびその測定方法

【課題】所要の感度安定性および精度で被検査物の厚さを測定することができる厚さ測定装置およびその測定方法を提供する。
【解決手段】保温材3で覆われた被検査配管2の配管壁内において超音波を送受信する超音波送受信手段10と、超音波送受信手段10を被検査配管2の外側表面から支持する支持手段11と、超音波送受信手段10で送受信された超音波の伝搬時間を測定し、被検査配管2の厚さを求める厚さ演算手段18と、超音波送受信手段10の不感帯以上の板圧を持ち厚さが既知の校正板12と、超音波送受信手段10と被検査配管2の外側表面との間の隙間と、隙間とは異なる位置との間で校正板12を移動する校正板位置調整手段13とを備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被検査物に対して超音波を送受し、被検査物の厚さを測定する厚さ測定装置およびその測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、プラント内において多種多様かつ複雑に設置される各種配管の厚さを測定する技術として、超音波を用いた手法が知られている。たとえば、特許文献1には、保温材で覆われた配管の外側表面に超音波探触子を有する配管検査装置が開示されている。この配管検査装置は、配管と保温材との間の隙間に検査装置を常設するため、保温材を取り外す必要がなく、またプラントが運転中であってもそのプラント内の配管に適用できるものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−160295号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
検査装置を配管と保温材との間に設置する場合、厚さ測定を行うため保温材を撤去する作業や、測定後に保温材を復旧する作業を行う必要がある。これに対し、特許文献1の配管検査装置は、配管と保温材との間の隙間に検査装置を常設するため、これらの作業が不要となる点で有効である。
【0005】
しかし、検査装置を常設して長期間配管厚さの測定を行う場合、保温材の内部が高温であることによる検査装置の熱劣化が生じる可能性があり、安定した測定精度を維持できないおそれがあるという課題があった。
【0006】
本発明は上述した課題を解決するためになされたものであり、所要の感度安定性および精度で被検査物の厚さを測定することができる厚さ測定装置およびその測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
保温材で覆われた被検査配管の配管壁内において超音波を送受信する超音波送受信手段と、前記超音波送受信手段を前記被検査配管の外側表面から支持する支持手段と、前記超音波送受信手段で送受信された超音波の伝搬時間を測定し、前記被検査配管の厚さを求める厚さ演算手段と、前記超音波送受信手段の不感帯以上の板圧を持ち厚さが既知の校正板と、前記超音波送受信手段と前記被検査配管の外側表面との間の隙間と、前記隙間とは異なる位置との間で前記校正板を移動する校正板位置調整手段とを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る厚さ測定装置およびその測定方法によれば、所要の感度安定性および精度で被検査物の厚さを測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明に係る厚さ測定装置の第1実施形態を示す構成図。
【図2】表示回路において表示された超音波の受信波形の一例を示す図。
【図3】本発明に係る厚さ測定装置の第2実施形態を示す構成図。
【図4】本発明に係る厚さ測定装置の第3実施形態を示す構成図。
【図5】本発明に係る厚さ測定装置の第3実施形態の変形例を示す構成図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明に係る厚さ測定装置およびその測定方法の第1〜第3実施形態を添付図面に基づいて説明する。
【0011】
各実施形態においては、厚さ測定装置の被検査物はプラントの屋内外配管や埋設配管(以下、単に「被検査配管」という。)である例を適用して説明する。配管は、配管内面において、流れ加速型腐食(FAC:Flow Acceleration Corrosion)や液滴衝撃エロージョン(LDI:Liquid Droplet Impingement Erosion)により減肉する可能性がある。配管の減肉は、計画外の補修作業の要因となり、プラントにおける重要な検査対象の1つである。
【0012】
被検査配管は、熱損失を抑制し熱効率を向上させるために保温材により覆われる。保温材は、例えばケイ酸カルシウム、繊維質または金属繊維である。また、保温材は、保温材カバーにより覆われる。
【0013】
なお、被検査物は、上述した配管以外にもプラント構造物なども含む。
【0014】
[第1実施形態]
図1は、本発明に係る厚さ測定装置の第1実施形態を示す構成図である。
【0015】
厚さ測定装置1は、電磁超音波送受信手段10と、支持手段11と、校正板12と、校正板位置調整手段13と、放熱手段15と、入出力手段16と、制御手段17と、厚さ演算手段18とを備える。図1においては、被検査配管2および保温材3は断面図で示されている。
【0016】
電磁超音波送受信手段10は、電磁超音波方式の超音波探触子(EMAT:ElectroMagnetic Acoustic Transducer)である。電磁超音波送受信手段10は、コイルと磁石によって被検査配管2の配管内に超音波を発生し、配管内側表面からの反射波を受信する。具体的には、電磁超音波送受信手段10は、コイルに流れる高周波電流により配管表面に渦電流を誘導する。この誘導電流と磁場によるローレンツ力とは、配管内に超音波を発生させる。また、超音波が配管内部の磁場を通過した場合には、逆にコイルに電流が流れ、電磁超音波送受信手段10は超音波を検出する。
【0017】
電磁超音波送受信手段10は、接触触媒が不要であるため、通常の超音波探触子における感度変化の要因である接触触媒の取付状態や経年変化、被検査配管2の表面状態などの影響を受けず、感度の安定性が高い。また、電磁超音波送受信手段10は、コイルと磁石の配置に応じて縦波や横波の超音波を送受信できる。
【0018】
支持手段11は、電磁超音波送受信手段10を配管外側表面から支持し、電磁超音波送受信手段10と配管外側表面との隙間を維持する。支持手段11は、鋼材などの高温や放射線による影響を受け難い材料である。
【0019】
支持手段11は、保温材3がケイ酸カルシウムである場合には、保温材3に設けられた支持手段11の外形とほぼ同様な形状の切欠きに固定される。保温材3が繊維質である場合、電磁超音波送受信手段10と被検査配管2とは磁石の作用により引き合うため固定される。支持手段11は、被検査配管2との接触部を接着などの手段を用いて固定する必要はなく、被検査配管2に対して着脱が容易である。
【0020】
校正板12は、電磁超音波送受信手段10の不感帯以上の板厚を持つ、厚さが既知の鋼板である。校正板12は、支持手段11と同様に鋼材などの高温や放射線による影響を受け難い材料である。校正板12は、電磁超音波送受信手段10と配管外側表面との隙間に設置され、厚さ測定装置1の各種設定値や反射波の特定方法の校正に用いられる。
【0021】
校正板位置調整手段13は、機械または手動により校正板12の位置を移動する駆動機構である。校正板位置調整手段13は、電磁超音波送受信手段10と配管外側表面との間の隙間と、この隙間とは異なる位置との間で校正板12を移動する。
【0022】
放熱手段15は、一端を保温材3の外側表面上と接続し、他端を支持手段11と接続する。放熱手段15は、銅、銀、アルミまたは金などの熱伝導率の高い材料である。放熱手段15は、電磁超音波送受信手段10の熱を支持手段11から被検査配管2の外部へ放熱する。
【0023】
入出力手段16は、電磁超音波送受信手段10と制御手段17とを接続する接続コネクタである。入出力手段16は、保温材3の外側表面上に設置され、電磁超音波送受信手段10と接続する。入出力手段16は、保温材3の外側表面上に設置され、保温材3から容易に着脱可能である。
【0024】
制御手段17は、入出力手段16を介して電磁超音波送受信手段10を制御する。制御手段17は、高周波電流を発生する電流発生回路17aと高周波電流を検出する電流検出回路17bとを備える。電流発生回路17aは、所定の電流値および時間幅の電流を所定の時間間隔で発生させ、電磁超音波送受信手段10へ送信する。電流検出回路17bは、電磁超音波送受信手段10から送信される電流に対し、所定の増幅および周波数フィルタリングを行い、電流を検出する。
【0025】
厚さ演算手段18は、被検査配管2の内側表面からの反射波の伝搬時間を測定し、被検査配管2の配管厚さを求める。厚さ演算手段18は、表示回路18a、演算回路18b、記憶回路18cから構成される。
【0026】
表示回路18aは、電流検出回路17bにおいて検出された電流値から超音波の受信波形を表示する。表示回路18aは、計測信号を時間掃引してブラウン管表示するアナログ方式の表示器、または計算信号をデジタル値へ変換して表示するデジタル方式の表示器である。
【0027】
演算回路18bは、被検査配管2の内側表面からの反射波を特定し、この反射波の伝搬時間を測定して被検査配管2の配管厚さを求める。演算回路18bは、アナログ回路、MPU(Micro Processing Unit)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(FIELD−Programmable Gate Array)などのデジタル回路、またはパーソナルコンピュータなどである。配管厚さLは、反射波の伝搬時間tを用いて式(1)から求めることができる。
【0028】
【数1】

【0029】
記憶回路18cは、SRAM(Static Random Access Memory)やDRAM(Dynamic Random Access Memory)、その他の半導体メモリ、磁気式ハードディスク、または光学式記憶媒体により構成され、配管厚さLの値をデジタルデータとして記憶する。
【0030】
次に、第1実施形態における厚さ測定装置1の作用について説明する。
【0031】
制御手段17は、送受信する超音波の周波数および毎秒の送信回数を設定する。制御手段17は、超音波の周波数を電流値の時間幅に基づいて設定する。例えば、2MHzの周波数を用いる場合、電流値の時間幅は0.25μsecとなる。制御手段17は、毎秒の送信回数を配管厚さLを測定する時間間隔から任意に設定する。なお、電流値により超音波の強度が調整できるため、制御手段17は配管厚さの(配管内側表面で反射した)反射波が受信できるように電流値を適宜調整する。制御手段17は、これらの設定値に基づき、入出力手段16を介して高周波電流を送信し、超音波は保温材3の内部に常設される電磁超音波送受信手段10へ伝送される。
【0032】
被検査配管2の配管壁内の外側表面近傍では、超音波が発生して伝播し、その超音波の一部は配管壁内の内側表面において反射する。反射波のうち、配管壁内の外側表面に戻る反射波は、電磁超音波送受信手段10において高周波電流として受信される。高周波電流は、入出力手段16を介して制御手段17へ伝送される。超音波の一部は、配管壁内の外側表面において再び反射し、配管壁内における反射を繰り返す多重反射波となる。
【0033】
制御手段17は、予め設定した超音波の周波数を選択するフィルタリング周波数に設定し、高周波電流を検出する。なお、受信感度は増幅度により調整できるため、制御手段17は、配管厚さの反射波が受信できるように増幅度を適宜調整する。制御手段17は、検出した超音波の受信波形を厚さ演算手段18の表示回路18aにおいて表示する。
【0034】
図2は、表示回路18aにおいて表示された超音波の受信波形の一例を示す図である。なお、図2には伝搬時間t〜tの多重反射波を記載したが、実際には伝搬時間t以降の多重反射波も存在する。
【0035】
厚さ演算手段18は、時間的に最初に観測されるエコー、または最大強度のエコーを配管厚さの反射波として特定する。厚さ演算手段18は、エコーの最大値、最小値、設定閾値、またはゼロクロスの時間tが伝搬時間tとなることより、上述した式(1)を用いて配管厚さLを求める。
【0036】
伝搬時間が時間tおよびtのエコーは、配管壁内の反射を繰り返す多重反射波である。厚さ演算手段18は、式(2)〜式(4)を用いて伝搬時間tの精度を向上させ、その結果配管厚さLを高精度に求めることもできる。
【0037】
【数2】

【0038】
【数3】

【0039】
【数4】

【0040】
厚さ演算手段18は、配管厚さLの測定値を設定された測定の時間間隔で取得し、記憶回路18cへ順に記憶する。厚さ演算手段18は、これらの測定値の時間履歴から、関数近似を行って配管厚さの変化を予測する。厚さ演算手段18は、近似関数として累乗、指数、対数、線形から適宜選定する。厚さ演算手段18は、配管厚さLと時間履歴のデータベースを予め作成しておき、このデータベースを参照して配管厚さLを予測することもできる。
【0041】
次に、厚さ測定装置1の校正板12および校正板位置調整手段13の作用について説明する。
【0042】
厚さ測定装置1は、電磁超音波送受信手段10を被検査配管2に常設して長期間に亘り配管厚さの測定を行うため、電磁超音波送受信手段10の測定精度を適宜確認する必要がある。そこで、厚さ測定装置1は、校正板12および校正板位置調整手段13を用いて電磁超音波送受信手段10の測定精度を校正する。
【0043】
校正板位置調整手段13は、電磁超音波送受信手段10と被検査配管2の外側表面との隙間に校正板12を挿入する。このとき、上述した被検査配管2の厚さ測定と同様に、電磁超音波送受信手段10は校正板12に対して超音波の送受信を行う。厚さ演算手段18は、校正板12の厚さを求める。
【0044】
厚さ演算手段18は、校正板12の厚さの測定値と、予め保持する校正板12の実際の厚さとを比較する。両値が異なる場合、制御手段17の設定値や厚さ演算手段18における配管厚さの反射波の特定方法などの被検査配管2の厚さ測定に用いられる設定が校正される。
【0045】
以上のように、保温材3の内部に電磁超音波送受信手段10が長期間設置される場合であっても、厚さ測定装置1は校正板12および校正板位置調整手段13により配管厚さの反射波を安定して受信することができる。
【0046】
なお、精度測定の確認および測定精度の校正は、操作者が手動で行ってもよいし、厚さ測定装置1が自動で行ってもよい。特に、校正板位置調整手段13の操作を自動で行うことにより、プラント稼働中においても測定精度の確認が可能である。
【0047】
第1実施形態の厚さ測定装置1およびその測定方法によれば、電磁超音波送受信手段10の感度安定性を高く保ちながら電磁超音波送受信手段10を保温材3内に常設でき、必要な時に配管厚さを求めることができる。また、配管厚さの測定のために保温材3や足場などの設置および解体作業が不要となり、厚さ測定装置1は効率的に配管厚さを測定することができる。
【0048】
また、厚さ測定装置1は、校正板12および校正板位置調整手段13を用いることにより配管厚さLを求めるために必要な設定値(超音波の音速度、配管厚さの反射波の特定方法など)を校正することができる。この結果、保温材3の内部に長期間設置される場合であっても、電磁超音波送受信手段10は配管厚さの反射波を安定して送受信できる。
【0049】
さらに、制御手段17や厚さ演算手段18の校正を必要とする要因の1つとして、保温材3の内部が高温であることによる電磁超音波送受信手段10の熱劣化が上げられる。これに対し、放熱手段15は、支持手段11を介して電磁超音波送受信手段10の熱を被検査配管2の外部へ放熱することができる。厚さ測定装置1は、高温による制御手段17や厚さ演算手段18の校正回数を抑制でき、さらには配管厚さの反射波を安定して受信することができる。
【0050】
さらにまた、電磁超音波送受信手段10を保温材3内に常設できるため、厚さ測定装置1は、継続的に求められた配管厚さの測定値の時間履歴から配管厚さを予測し、長期間の配管厚さ測定を実現できる。
【0051】
また、支持手段11により電磁超音波送受信手段10と保温材3とを一体にし、また被検査配管2と電磁超音波送受信手段10との接触部を接着などの強固な手段で固定する必要がないため、被検査配管2に対して厚さ測定装置1の設置や撤去が容易にできる。
【0052】
[第2実施形態]
図3は、本発明に係る厚さ測定装置の第2実施形態を示す構成図である。なお、第1実施形態と対応する構成については同一の符号を付し、重複する説明を省略する。図3においては、被検査配管2および保温材3は断面図で示されている。
【0053】
厚さ測定装置101は、超音波送受信手段110と、超音波伝達手段111と、固定手段112と、校正板12と、校正板位置調整手段13と、入出力手段16と、制御手段17と、厚さ演算手段18と、起電力発生手段119とを備える。
【0054】
超音波送受信手段110は、圧電素子からなる超音波振動子を備えた超音波探触子である。超音波振動子は、PZT、Bismuth titanate、Lithium niobate、GaPOなどの耐熱性を有するものである。超音波送受信手段110は、電磁超音波送受信手段10とは異なり接触触媒としての超音波伝達手段111を必要とする。
【0055】
超音波伝達手段111は、超音波送受信手段110と被検査配管2の外側表面との隙間に挿入され超音波を伝達する。超音波伝達手段111は、ニッケル、金、銀、銅、アルミニウムなど超音波を伝達する軟金属である。超音波送受信手段110は、軟金属を超音波伝達手段111とするため、液体の接触触媒を用いた超音波探触子における感度変化の要因である接触触媒の取り付け状態や経年変化、被検査配管2の表面状態の影響を受けず、感度の安定性が高い。
【0056】
超音波送受信手段110は、高周波電圧による圧電素子の振動により超音波を発生し、超音波伝達手段111を介して被検査配管2の外側表面から内部へ超音波を伝搬する。逆に、超音波による振動が圧電素子に加わった場合には高周波電圧が発生し、超音波送受信手段110は超音波を検出する。
【0057】
校正板12は、超音波伝達手段111と配管外側表面との隙間に設置され、厚さ測定装置101の各種設定の校正に用いられる。校正板位置調整手段13は、超音波伝達手段111と配管外側表面との隙間とこの隙間とは異なる位置との間で校正板12を移動する。
【0058】
固定手段112(支持手段)は、超音波送受信手段110を配管外側表面側から支持する。固定手段112は、保温材3に固定され、超音波送受信手段110と配管外側表面との隙間を維持する。固定手段112は、この超音波送受信手段110と配管外側表面との隙間に超音波伝達手段111を固定する。固定手段112は、支持手段11と同様、鋼材などの高温や放射線による影響を受け難い材料である。保温材3が繊維質の場合、固定手段112は、保温材3より強度を有する保温材カバー3aに固定される。
【0059】
固定手段112は、超音波送受信手段110と被検査配管2の外側表面との隙間を調整することにより、超音波送受信手段110と超音波伝達手段111、および超音波伝達手段111と被検査配管2の外側表面との密着性を確保し、超音波を効率的に伝達する。固定手段112は、超音波送受信手段110と保温材3とを一体に固定するため、保温材3内部への厚さ測定装置101の設置や撤去を容易とする。
【0060】
また、固定手段112は超音波伝達手段111と配管外側表面との隙間を調整し、校正板12を設置させることができる。
【0061】
起電力発生手段119は、被検査配管2の熱、振動または周囲の照明の光から起電力を発生する。起電力発生手段119は、太陽電池パネルなどの光電変換素子、熱電変換素子、または圧電素子である。起電力発生手段119は、制御手段17や厚さ演算手段18の必要電源の一部または全部を発生する。なお、起電力発生手段119は、照明の光から起電力を発生し、かつ屋内照明としてLED(Light Emitting Diode)を用いる場合には、LED以外の照明と比較して大きな起電力を得ることができる。LEDを用いる場合、LEDの光をFM変調またはAM変調することにより、制御手段17や厚さ演算手段18は情報伝達することもできる。
【0062】
次に、第2実施形態における厚さ測定装置101および厚さ測定方法の作用を説明する。第1実施形態の厚さ測定装置1の作用およびその方法と共通する部分は、重複した説明を省略する。
【0063】
制御手段17は、送受信する超音波の周波数および毎秒の送信回数を設定する。制御手段17は、これらの設定値に基づき入出力手段16を介して高周波電圧を超音波送受信手段110へ加える。超音波は、超音波送受信手段110から被検査配管2の内部へ送信され、その一部が被検査配管2の配管壁内の内側表面において反射する。反射波のうち、配管壁内の外側表面に戻る反射波は、超音波送受信手段110において高周波電圧となる。高周波電圧は、入出力手段16を介して制御手段17へ伝送される。超音波の一部は、配管壁内の外側表面において再び反射し、配管壁内における反射を繰り返す多重反射波となる。
【0064】
制御手段17は、周波数フィルタリングと増幅を行い、高周波電圧を検出する。厚さ演算手段18は、検出された高周波電圧に基づいて、図2と同様な受信波形を得る。厚さ演算手段18は、伝搬時間tを算出し、上述した式(1)から配管厚さLを求めることができる。
【0065】
制御手段17および厚さ演算手段18は、駆動する電源の一部または全部に起電力発生手段119で生成される起電力を用いる。これにより、厚さ測定装置101は保温材3の内部に超音波送受信手段110が長期間設置される場合であっても、配管厚さの反射波を安定して受信することができる。
【0066】
第2実施形態における厚さ測定装置およびその測定方法は、第1実施形態で奏する効果に加え、起電力発生手段によって生成される起電力を用いることにより、安定した配管厚さ測定が実現できる。
【0067】
また、固定手段112は超音波送受信手段110と保温材3とを一体にすることができ、被検査配管2に対して厚さ測定装置101の設置や撤去が容易にできる。
【0068】
[第3実施形態]
図4は、本発明に係る厚さ測定装置の第3実施形態を示す構成図である。なお、第1または第2実施形態と対応する構成については同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0069】
厚さ測定装置201は、電磁超音波送受信手段210と、接続手段211と、選択手段212と、制御手段17と、統計処理手段218と、厚さ分布演算手段219とを備える。第3実施形態の厚さ測定装置201においては、校正板12および校正板位置調整手段13の図示を省略した。
【0070】
電磁超音波送受信手段210は、第1実施形態とほぼ同様の複数の電磁超音波送受信手段210である。電磁超音波送受信手段210の数量には特段の制限はなく、被検査配管2の厚さ測定に必要とされる数量が必要とされる測定部位に取り付けられる。
【0071】
接続手段211(支持手段)は、複数の電磁超音波送受信手段210を被検査配管2の周方向および軸方向に接続し、上述した固定手段112と同様に電磁超音波送受信手段210を配管外側表面から支持する。接続手段211は、保温材3に固定され、電磁超音波送受信手段210と配管外側表面との隙間を維持する。具体的には、接続手段211は、電磁超音波送受信手段210を支持する複数の固定手段211aと、これらの固定手段211aを被検査配管2の周方向および軸方向に接続する細線211bである。接続手段211は、軟金属など高温や放射線による影響を受け難い材料である。
【0072】
なお、接続手段211は、図5に示すように断面形状が円形状であってもよい。
【0073】
選択手段212は、複数の電磁超音波送受信手段210の中から制御する電磁超音波送受信手段210を選択する。選択手段212は、一端が各電磁超音波送受信手段210に接続され、機械または手動により電磁超音波送受信手段210を個別に選択できる有接点回路または無接点回路である。選択手段212の他端は、制御手段17および統計処理手段218と接続される。
【0074】
統計処理手段218は、選択手段212により選択された電磁超音波送受信手段210の配管壁内における多重反射波の伝搬時間を測定し、複数の測定値を統計処理して被検査配管2の配管厚さを求める。統計処理手段218は、表示回路218a、演算・統計処理回路218bを備える。演算・統計処理回路218bは、アナログ回路またはMPU、ASIC、FPGAなどのデジタル回路、またはパーソナルコンピュータなどである。演算・統計処理回路218bは、多重反射波を特定して各々の伝搬時間を測定し、上述した式(2)〜式(4)または下記式(5)を用いて測定値を統計処理して配管厚さLを求める
【0075】
【数5】

【0076】
厚さ分布演算手段219は、選択手段212により適宜選択された電磁超音波送受信手段210の配管壁内における多重反射波の伝搬時間を測定し、被検査配管2の配管厚さ分布を求める。厚さ分布演算手段219は、立体表示回路219a、予測回路219bを備える。立体表示回路219aは、各々の電磁超音波送受信手段210について測定部位とその部位の配管厚さを関連付けて立体的に表示する。立体表示回路219aは、視覚的に三次元表示する二次元表示画面、三次元映像を実際に表示する投影器、またはバーチャルリアリティである。予測回路219bは、配管厚さの測定値を用い補間処理し、または近似曲線を求めることにより、測定部位ではない部位の配管厚さを推定する。予測回路219bは、アナログ回路、MPU、ASIC、FPGAなどのデジタル回路、またはパーソナルコンピュータなどである。
【0077】
次に、第3実施形態における厚さ測定装置およびその測定方法の作用を説明する。第1または第2実施形態の厚さ測定装置1、101の作用およびその方法と共通する部分は、重複した説明を省略する。
【0078】
制御手段17は、送受信する超音波の周波数および毎秒の送信回数を設定する。選択手段212は、動作させる電磁超音波送受信手段210を選択する。統計処理手段218は、第1実施形態において説明した作用と同様に、上述した式(1)から配管厚さLを求める。
【0079】
厚さ測定装置201は、所要の測定部位に電磁超音波送受信手段210をそれぞれ配置しておくことにより、電磁超音波送受信手段210を移動する必要がなく、目的とする部位の配管厚さLを効率的に測定することができる。
【0080】
統計処理手段218は、図2に示す強度閾値Iを設定し、配管壁内で反射を繰り返す多重反射波を特定する。統計処理手段218は、複数の伝搬時間tから式(2)〜式(5)により伝搬時間tの精度を統計的に向上させることにより、式(1)から配管厚さを高精度かつ安定して求める。
【0081】
選択手段212は、選択した電磁超音波送受信手段210を用いて配管厚さLが求まると、電磁超音波送受信手段210を順次切り替えて動作させる。統計処理手段218は、各測定部位の配管厚さLを求める。
【0082】
なお、電磁超音波送受信手段210の数量に対応して制御手段17および統計処理手段218を備えた場合には、選択手段212により全ての電磁超音波送受信手段210を選択し同時に動作させることにより、厚さ測定装置201は必要な測定部位を一括して測定でき、配管厚さLをほぼ同時に求めることができる。
【0083】
各測定部位の測定値は、厚さ分布演算手段219により立体的に表示される。厚さ分布演算手段219は、測定部位以外の部位についても、測定値の補間処理または近似曲線から配管厚さを推定し、立体的に表示することもできる。操作者は、立体表示により任意の測定部位の配管厚さを迅速に把握することができる。
【0084】
配管の曲がり部、絞られる部分、または過去の測定履歴から厚さ変化の多い部分など配管厚さの監視部位が限定できる場合がある。この場合、プラント稼働中または停止中において、厚さ測定装置201は、限定された監視部位の電磁超音波送受信手段210を選択手段212により選択し、求められた配管厚さを厚さ分布演算手段219により立体的に表示し、測定値の履歴を表示することができる。操作者は、限定された監視部位の配管厚さおよび履歴を迅速に把握することができる。
【0085】
一方、測定結果に基づく厚さ変化が少ない部位がある場合には、厚さ測定装置201は、この厚さ変化が少ない部位を測定部位から除外することにより測定部位数を低減することができる。
【0086】
ここで、厚さ測定装置201が複数の電磁超音波送受信手段210および厚さ分布演算手段219を備えたことにより、以下の作用を得ることができる。
【0087】
第1に、配管厚さ測定装置201は、選択手段212により送信用および受信用の電磁超音波送受信手段210を適宜選択し、二探触子法により測定することもできる。二探触子法による測定は、被検査配管2の測定部位数を増やすことができる。これに対し、測定部位数が設定されている場合には、厚さ測定装置201は、電磁超音波送受信手段210の数量を低減することができる。
【0088】
第2に、厚さ測定装置201は、電磁超音波送受信手段210を適宜選択し、伝搬時間差法、相関法などの方法を用いて各部位の流速を求め、流速が高い部位を監視部位に設定することができる。配管厚さの変化は配管内部の流速の影響を受けるためである。
【0089】
伝搬時間差法は、一組の電磁超音波送受信手段210を用い、上流から下流への超音波送信時と下流から上流への超音波送信時の伝搬時間差から流速を求める。相関法は、配管内の流れにより変調された超音波を上流および下流の二ヶ所で受信して伝搬時間を求め、二ヶ所間の距離から流速を求める。
【0090】
第3に、厚さ測定装置201は、電磁超音波送受信手段210を常設して長期間測定を行うために、全ての電磁超音波送受信手段210の測定精度を適宜確認することができる。具体的には、厚さ測定装置201は、要求される測定精度を満足する電磁超音波送受信手段210を選択し、基準部位として配管厚さを測定する。次に、超音波が配管壁内を斜めに伝搬して基準部位の厚さを測定することができる電磁超音波送受信手段210の組合せを選択し、配管厚さを測定する。両値が異なる場合、制御手段17の設定値や統計処理手段218における配管厚さの反射波の特定方法などが校正される。校正された電磁超音波送受信手段210は、要求される測定精度を満足することができる。
【0091】
厚さ測定装置201は、全ての電磁超音波送受信手段210についてこの校正動作を繰り返すことにより測定精度が確認でき、保温材3の内部に電磁超音波送受信手段210が長期間設置される場合であっても、配管厚さの反射波が安定して受信可能となる。なお、測定精度の確認は、プラント稼働の有無に関わらず可能である。
【0092】
第3実施形態の厚さ測定装置201およびその測定方法によれば、第1および第2実施形態で奏する効果に加え、一つの電磁超音波送受信手段210を移動する必要はなく、目的とする測定部位の配管厚さを測定することができる。この結果、効率的に配管厚さを測定することができる。
【0093】
また、厚さ測定装置201は、電磁超音波送受信手段210を選択して同時に動作させる場合には一括して測定結果を得ることができ、配管厚さをほぼ同時に求めることができる。
【0094】
さらに、厚さ測定装置201は各測定部位の配管厚さの測定値や補間処理または近似曲線を用いた推定値などの演算結果を立体的に表示することで、操作者は配管厚さを迅速に把握または推定することができる。
【0095】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0096】
1、101、201 厚さ測定装置
2 被検査配管
3 保温材
3a 保温材カバー
10 電磁超音波送受信手段
11 支持手段
12 校正板
13 校正板位置調整手段
15 放熱手段
16 入出力手段
17 制御手段
17a 電流発生回路
17b 電流検出回路
18 厚さ演算手段
18a 表示回路
18b 演算回路
18c 記憶回路
110 超音波送受信手段
111 超音波伝達手段
112 固定手段
119 起電力発生手段
210 電磁超音波送受信手段
211 接続手段
211a 固定手段
211b 細線
212 選択手段
218 統計処理手段
218a 表示回路
218b 演算・統計処理回路
219 厚さ分布演算手段
219a 立体表示回路
219b 予測回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
保温材で覆われた被検査配管の配管壁内において超音波を送受信する超音波送受信手段と、
前記超音波送受信手段を前記被検査配管の外側表面から支持する支持手段と、
前記超音波送受信手段で送受信された超音波の伝搬時間を測定し、前記被検査配管の厚さを求める厚さ演算手段と、
前記超音波送受信手段の不感帯以上の板圧を持ち、厚さが既知の校正板と、
前記超音波送受信手段と前記被検査配管の外側表面との間の隙間と、前記隙間とは異なる位置との間で前記校正板を移動する校正板位置調整手段とを備えたことを特徴とする厚さ測定装置。
【請求項2】
前記支持手段は、前記保温材に固定された請求項1記載の厚さ測定装置。
【請求項3】
前記超音波送受信手段は、電磁超音波方式の超音波探触子を有する請求項1記載の厚さ測定装置。
【請求項4】
前記超音波送受信手段は、超音波振動子を備えた超音波探触子を有する請求項1記載の厚さ測定装置。
【請求項5】
一端が前記保温材の外側表面と接続され、他端が前記支持手段と接続され、前記超音波送受信手段の熱を前記支持手段を介して放熱させる放熱手段をさらに備えた請求項1記載の厚さ測定装置。
【請求項6】
複数の超音波送受信手段が前記被検査配管の所要の測定部位に取り付けられた請求項1記載の厚さ測定装置。
【請求項7】
前記複数の超音波送受信手段より得られた複数の測定値を統計処理して前記被検査配管の厚さを測定する統計処理手段をさらに備えた請求項6記載の厚さ測定装置。
【請求項8】
前記複数の超音波送受信手段より得られた複数の測定値に基づいて厚さ分布を求める厚さ分布演算手段をさらに備えた請求項6記載の厚さ測定装置。
【請求項9】
前記被検査配管の熱、振動および光の少なくとも一から起電力を発生させ、少なくとも前記厚さ演算手段へ電力を供給する起電力発生手段をさらに備えた請求項1記載の厚さ測定装置。
【請求項10】
保温材で覆われた被検査配管の配管壁内において超音波を送受信する超音波送受信手段と、前記超音波送受信手段を前記被検査配管の外側表面から支持する支持手段と、前記超音波送受信手段で送受信された超音波の伝搬時間を測定し、前記被検査配管の厚さを求める厚さ演算手段とを用いて前記被検査配管の厚さを測定する工程と、
前記超音波送受信手段の不感帯以上の板圧を持ち厚さが既知の校正板を、前記超音波送受信手段と前記被検査配管の外側表面との間の隙間に設置する工程と、
前記厚さ演算手段で前記校正板の厚さを測定し、測定結果と既知の前記校正板の厚さとを比較し、前記被検査配管の厚さ測定に用いられる設定を校正する工程とを備えることを特徴とする厚さ測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−83225(P2012−83225A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−229943(P2010−229943)
【出願日】平成22年10月12日(2010.10.12)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】