説明

原子炉構造物とその製造方法および補修方法

本発明は、オーステナイト系ステンレス鋼部材どうしの溶接部を含む原子炉構造物において、高温高圧水にさらされる溶接部の応力腐食割れを抑制することを目的とする。本発明は、原子炉構造物として用いられているオーステナイト系ステンレス鋼部材どうしを、所定の溶接金属を用いて溶接し、更に熱処理を施して、少なくとも高温水に接する表面の室温での残留応力が引張応力で144MPa以下、もしくは圧縮応力になるように施工する。これにより、原子炉構造物の高温高圧水にさらされる溶接部の応力腐食割れを抑制することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明はオーステナイト系ステンレス鋼どうしの溶接部を含む原子炉構造物とその製造方法および補修方法に係り、特に、原子炉が運転されている間に生じる溶接部の応力腐食割れを防止する技術に関する。
【背景技術】
沸騰水型軽水炉の炉内構造物や再循環冷却水配管には、近年SUS316L鋼といった炭素含有量の低いステンレス鋼(低炭素ステンレス鋼)が用いられている。
これらの炉内構造物や再循環冷却水配管において、原子炉水に接する表面に引張残留応力が存在する部位では、原子炉水の酸化性環境の作用により、運転中に応力腐食割れを引き起こす損傷事例が顕在化しつつある。このような引張残留応力は、特に溶接施工時に、溶接金属部の凝固収縮により溶接部周辺に発生する。さらに、製造過程での機械加工によって施工表面に引張残留応力が発生することもある。
応力腐食割れは、材料・応力・環境(水質)のすべての要因が重なった条件で発生するとされており、それぞれの要因を緩和する対策が検討されてきた。この中で応力対策は、溶接や加工によって発生した引張応力の緩和もしくは圧縮応力化を指向して種々の方法が提案、実施されている。具体的には、1987年に日本で開催された国際会議における、岡田秀弥・ロジャー W.ステーリーによる発表「BWR配管およびPWR蒸気発生機における腐食損傷」、その予稿講演集の第144頁に記載のような溶接後熱処理(PWHT,SHT)、高周波誘導加熱応力改善処理(IHSI)といった熱処理が挙げられる。また、特開平7−62433号公報に記載のようなショットピーニング、ウォータージェットピーニング(WJP)といった表面処理が挙げられる。
熱処理による応力対策は、表面処理と比べて、応力緩和もしくは圧縮応力化領域を材料の表面から深部まで作りこむことが可能である。PWHTやIHSIは、低炭素ステンレス鋼が適用される以前に、炭素含有量の高いSUS304鋼を用いた機器に対して開発されたもので、原子炉構造物および配管として用いられている低炭素ステンレス鋼には、ほとんど適用されていない。但し、欧州のプラントを中心に用いられているSUS347やSUS321を主体とした安定化ステンレス鋼は、1997年にアメリカで開催された国際会議のProceedings of the Eighth International Symposium on EVIRONMENTAL DEGRADATION OF METALS IN NUCLEAR POWER SYSTEMS−WATER REACTORS Volume 2、第812頁に記載のように従来からPWHTによる応力緩和対策が実施されている。
現在、日本国内の沸騰水型軽水炉では、炉内構造物や再循環冷却水配管などの配管類のほとんどにSUS316L鋼が用いられており、接合部はSUS316Lの溶接棒で溶接されている。溶接部近傍で発生する応力腐食割れは、溶接による引張残留応力が原因の一つである。引張残留応力低減のために、PWHT、IHSIといった熱処理を実施することは有効である。しかしながら、このような熱処理は、炭化物、σ相、χ相、ラーベス相などが生成し、溶接金属の脆化を引き起こす。また、大型構造物の溶接部は複数のビードを重ねる、いわゆる多層肉盛によって作製されているため、溶接工程で溶接金属は加熱冷却の熱サイクルを受けた結果、脆化を引き起こす。
このような脆化は、応力腐食割れなどにより一旦割れが発生した場合、き裂の進展を促進し原子炉構造物および配管などの損傷を早め、その健全性を劣化させるという問題点がある。
本発明の目的は、軽水炉において、高温高圧水に接する溶接部の応力腐食割れを抑制するための原子炉構造物と、その製造方法、補修方法および取替方法を提供することにある。
【発明の開示】
前記目的を達成する本発明の要旨は、次の通りである。
(1)オーステナイト系ステンレス鋼部材どうしの溶接部を含む原子炉構造物において、溶接金属の化学成分が質量でNiが9.00〜14.00%、Crが19.50〜25.00%、Siが0.65%以下、Mnが1.00〜2.50%、Moが0.50%以下、Coが0.10%以下、Cが0.020%以下、Nが0.12%以下、Pが0.030%以下、Sが0.030%以下、残部がFeと不可避不純物からなり、少なくとも高温水に接する表面の室温での残留応力が引張応力で144MPa以下、もしくは圧縮応力であることを特徴とする原子炉構造物。
(2)オーステナイト系ステンレス鋼部材どうしの溶接部を含む原子炉構造物において、前記オーステナイト系ステンレス鋼部材の少なくとも一方の化学成分が、質量でNiが10.50〜15.00%、Crが16.00〜18.50%、Siが1.00%以下、Mnが2.00%以下、Moが2.00〜3.00%、Coが0.10%以下、Cが0.020%以下、Nが0.12%以下、Pが0.045%以下、Sが0.030%以下、残部がFeと不可避不純物からなり、溶接金属の化学成分が質量でNiが9.00〜14.00%、Crが19.50〜25.00%、Siが0.65%以下、Mnが1.00〜2.50%、Moが0.50%以下、Coが0.10%以下、Cが0.020%以下、Nが0.12%以下、Pが0.030%以下、Sが0.030%以下、残部がFeと不可避不純物からなり、少なくとも高温水に接する表面の室温での残留応力が引張応力で144MPa以下、もしくは圧縮応力であることを特徴とする原子炉構造物。
(3)オーステナイト系ステンレス鋼部材どうしの溶接部を含む原子炉構造物の製造方法において、オーステナイト系ステンレス鋼部材どうしの溶接施工に用いる溶接金属の化学成分を、質量でNiが9.00〜14.00%、Crが19.50〜25.00%、Siが0.65%以下、Mnが1.00〜2.50%、Moが0.50%以下、Coが0.10%以下、Cが0.020%以下、Nが0.12%以下、Pが0.030%以下、Sが0.030%以下、残部がFeおよび不可避不純物とし、溶接後、少なくとも高温水に接する表面の室温での残留応力が引張応力で144MPa以下、もしくは圧縮応力となる熱処理を施すことを特徴とする原子炉構造物の製造方法。
(4)オーステナイト系ステンレス鋼部材どうしの溶接部を含む原子炉構造物の一部を取り替える補修方法において、既設の原子炉構造物にオーステナイト系ステンレス鋼部材を新規に取り付ける溶接施工に用いる溶接金属の化学成分を、質量でNiが9.00〜14.00%、Crが19.50〜25.00%、Siが0.65%以下、Mnが1.00〜2.50%、Moが0.50%以下、Coが0.10%以下、Cが0.020%以下、Nが0.12%以下、Pが0.030%以下、Sが0.030%以下、残部がFe及び不可避不純物とし、溶接後、少なくとも高温水に接する表面の残留応力が引張応力で144MPa以下、もしくは圧縮応力となる熱処理を施すことを特徴とする原子炉構造物の補修方法。
(5)少なくとも一方のオーステナイト系ステンレス鋼部材の化学成分を、質量でNiが10.50〜15.00%、Crが16.00〜18.50%、Siが1.00%以下、Mnが2.00%以下、Moが2.00〜3.00%、Coが0.10%以下、Cが0.020%以下、Nが0.12%以下、Pが0.045%以下、Sが0.030%以下、残部がFeおよび不可避不純物とする(3)または(4)記載の方法。
(6)溶接後に高温水に接する表面を240℃〜1050℃に昇温して1秒以上100,000秒以下に保持する熱処理を施すことを特徴とする(3)または(4)記載の方法。
(7)溶接施工後に当該溶接部の高温水に接する一面を水または水以上の熱伝達率を有する流体で冷却すると同時に、他の一面を240℃〜1050℃に加熱し、ここで冷却面と加熱面との温度勾配を12℃/mm以上確保する熱処理を施すことを特徴とする(3)または(4)記載の方法。
(8)熱処理温度T℃と熱処理時間t時間との関係が
T+273≧9442.3/(9.23+log10(t))
を満たす処理条件で熱処理を施し、かつ、熱処理後の当該溶接金属部より採取したVノッチ試験片をシャルピー衝撃試験法により破断するのに要する、室温での衝撃吸収エネルギーを100J以上に保つことを特徴とする(3)または(4)記載の方法。
(9)850℃未満で熱処理を施工し、かつ、熱処理後の溶接金属部に含有するフェライトの量を百分率で6%以上に保つことを特徴とする(3)または(4)記載の方法。
(10)850℃未満で熱処理を施工し、かつ、使用する溶接金属中のフェライト含有量百分率と、前記熱処理後の溶接金属部に含有するフェライト量百分率との差を5以内に保持することを特徴とする(3)または(4)記載の方法。
なお、本発明における原子炉構造物には、配管も含まれるものとする。本発明は、原子炉構造物の材料として用いられるオーステナイト系ステンレス鋼の溶接施工に用いる溶接金属の化学成分を規定し、溶接施工部の引張残留応力を低減もしくは圧縮化して、応力腐食割れの発生および進展を抑制し、原子炉構造物の健全性を維持したものである。
溶接後に、当該溶接部を所望の条件で熱処理することにより、引張残留応力を低減もしくは圧縮化した領域を材料表面から深部まで得ることができ、その結果、腐食減肉などによる残留応力改善領域の消失に対して信頼性を向上させることができる。
溶接金属は、通常γ−オーステナイト相とδ−フェライト相の2相組織であり、特にδ−フェライト相は再熱によりσ相、カイ相、ラーベス相といった脆化相を生成しやすいため、溶接金属は母材と比べて脆化しやすい。
本発明では、脆化相の生成を促進するMoに着目し、溶接金属のMo量を0.5%以下、好ましくは0.1%以下とすることによりMoを含有する脆化相の生成を抑制した。なお、以上及び以下の記載で、各元素の%表示は質量(mass)%を表す。Cは溶接熱や再熱処理によって、粒界にCr炭化物を生成し粒界鋭敏化と脆化を招くので、0.020%以下とする。Nは材料強度を上げるため必要に応じて添加するが、過度の添加は脆化を招くため、0.12%以下とする。Crは耐食性を向上させるが、過度の添加は脆化を招くため、溶接金属中のCr量としては19.50〜25.00%が望ましい。Niはオーステナイト相を安定にし、機械的性質を向上させるため、溶接金属中のNi量としては9.00〜14.00%が望ましい。Siは溶解時の湯流れ性を向上させるが、σ相などの脆化相の生成を促進するため、溶接金属中のSi量を0.65%以下とする。Mnはオーステナイト相の安定性を向上させると同時に引張強度を向上させるが、σ相などの脆化相の生成を促進させるため、溶接金属中のMn量としては1.00〜2.50%が望ましい。
一方、P、Sは溶解原料から混入する不純物元素で、溶接時の高温割れを招くため、P量およびS量はそれぞれ0.030%以下、好ましくは0.010%以下とする。なお、溶接時の割れを抑制するために、溶接金属ならびに構造物部材の化学組成は、溶接方法に応じて、フェライト初晶凝固モードとなるように調整されることが望ましい。
本発明において、溶接後に、残留応力を緩和させるために施す熱処理の温度として1050℃より高温に加熱した場合は、原子炉構造物の変形が大きく寸法精度が維持できないため、実用的でない。一方、当該溶接部の一面を加熱し、他の一面を冷却する熱処理において、加熱面の温度が240℃未満では、加熱面と冷却面の温度勾配が小さく、熱処理後に応力を緩和することができない。以上のことから、熱処理の温度範囲としては、240〜1050℃とし、温度勾配を12℃/mm以上とすることが望ましい。
さらに、上記のように規定された溶接金属を用いても、熱処理によって被溶接部材が脆化する可能性がある。オーステナイト系ステンレス鋼において、最高温度を700℃以上とする場合は、保持時間を10,000秒以下とすることにより脆化を回避できる。また、最高温度を240〜700℃とする場合は、保持時間を以下の式(1)で示される時間以下とすることにより脆化を回避できる。
log10 t=13.1−0.013×T ……(1)
ここで、Tは熱処理温度(℃)、tは保持時間(秒)である。
上記の熱処理を施することにより、当該溶接部の室温での残留応力を引張応力で144MPa以下、あるいは圧縮応力に変化させた場合、溶接部の脆化を抑制しかつ原子炉運転中における応力腐食割れの発生および進展を抑制できる。これにより、原子炉構造物の健全性を維持できる。
【図面の簡単な説明】
第1図は本発明の一実施例である溶接配管の熱処理を模式的に示した図である。
第2図は第1図に示した溶接部断面の模式図である。
第3図は本発明の他の実施例である溶接配管への熱処理を模式的に示した図である。
第4図は原子力炉炉内構造物の側断面図である。
第5図は第4図における熱処理を施す部分の拡大図である。
第6図は本発明の他の実施例であるシュラウドへの熱処理を模式的に示した図である。
第7図は第6図における熱処理を施す部分の拡大図である。
第8図は熱処理装置の模式構成図である。
第9図は本発明の他の実施例であるシュラウドへの熱処理を模式的に示した図である。
第10図は本発明の他の実施例であるシュラウドへのウォータージェットピーニング処理を模式的に示した図である。
第11図は溶接金属部のシャルピー衝撃試験結果を示した図である。
第12図は熱処理による残留応力の変化を示した図である。
第13図は適正熱処理条件範囲を示した図である。
第14図はフェライト量と衝撃吸収エネルギーの関係を示した図である。
第15図は熱処理前後のフェライト量百分率の差と衝撃吸収エネルギーの関係を示した図である。
【発明を実施するための最良の形態】
第1図は、本発明の一実施例である溶接配管の熱処理を模式的に示した図であり、第2図にその溶接部の断面の模式図を示す。外径318.5mm、肉厚21.4mmのSUS316Lステンレス鋼製の配管1および1’と、Feを主成分として質量でCrを19.91%、Niを9.72%、Cを0.018%、Siを0.48%、Mnを1.98%、Pを0.023%、Sを0.003%、Moを0.41%、Coを0.08%、Nを0.08%含有する溶接金属部5から構成される溶接部3の内部に、冷却水2を流すとともに、溶接金属部の外周から約5mmの位置に配置した誘導加熱コイル4に30kHzの高周波を印加して溶接部3を加熱した。加熱条件は、溶接部外面の温度を650℃、この温度での保持時間を10秒とし、この時の冷却水温度は25℃とした。配管内外面の温度差は625℃、温度勾配は29.2℃/mmであった。
本実施例の熱処理を施した溶接部とその周辺部では、溶接金属部5と溶接熱影響部6の何れにも、オーステナイト相とフェライト相の界面およびフェライト相内部にσ相などの脆化相は析出していなかった。また、配管内面の残留応力は105MPa程度の圧縮応力を示した。
このように、本実施例の化学成分の溶接金属部から構成される配管では、本実施例の熱処理を施すことにより、材料の脆化相を生成することなしに、配管溶接部の接水表面の残留応力を圧縮化し、その結果、応力腐食割れの発生および進展を抑制でき、原子炉配管の健全性を維持することができる。
第3図は、本発明の他の実施例である溶接配管の熱処理を模式的に示した図である。外径609.6mm、肉厚30.9mmのSUS304Lステンレス鋼製の配管1および1’と、Feを主成分として質量でCrを23.47%、Niを13.66%、Cを0.016%、Siを0.39%、Mnを1.94%、Pを0.024%、Sを0.003%、Moを0.38%、Coを0.085%、Nを0.10%含有する溶接フィラーで配管1および1’をTIG溶接した溶接金属部5から構成される溶接部3の外周に電気抵抗発熱体7を密着させ、電気抵抗発熱体7に通電して溶接部を加熱した。溶接部の加熱温度は700℃とし、この温度での保持時間を2時間に設定した。溶接部3を加熱した後に、電気低抗発熱体7を取り外し、配管全体を強制空冷により冷却した。
本実施例の熱処理を施した溶接部3は、溶接金属部5と溶接熱影響部6の何れにもオーステナイト相とフェライト相の界面およびフェライト相内部にσ相などの脆化相が析出しなかった。また、熱処理後における配管内面の残留応力は約20MPaであった。
このように本実施例の化学成分の溶接金属部から構成される配管では、本実施例の熱処理を施すことにより、材料の脆化相を生成することなしに、溶接部の接水表面の残留応力を圧縮化し、その結果、応力腐食割れの発生および進展を抑制でき、原子炉配管の健全性を維持することができる。
本発明の他の実施例として、原子炉炉内構造物の一つであるシュラウドに適用した例で説明する。第4図は、原子力炉炉内構造物の側断面図である。原子炉圧力容器8内に設置されているシュラウド9の溶接部を、熱処理装置操作ロボット10の先端にシュラウドの内周面に沿って取り付けられた熱処理装置11を用いて熱処理した。この熱処理装置11は、シュラウド9の内径に合わせて、その直径を変更できる機能を有し、熱処理装置11とシュラウド9の内面との距離を一定に保つことができる。
熱処理する部分の拡大図を第5図に示す。SUS316Lステンレス鋼製のシュラウドの各部品は、Feを主成分として質量でCrを19.03%、Niを9.65%、Cを0.018%、Siを0.47%、Mnを1.47%、Sを0.025%、Pを0.025%、Moを0.28%、Coを0.07%、Nを0.02%含有する溶接フィラーを用いてサブマージアーク溶接法により溶接した。この溶接部3近傍に熱処理装置11を設置して熱処理を施した。熱処理装置11は、誘導加熱用コイル12Aと冷却水噴出コイル12Bが交互に配置されている加熱冷却コイル12と熱処理面の温度を計測するための温度センサ13から構成され、シュラウド溶接部近傍の温度を監視しながら加熱と冷却を同一装置で実施可能な構造になっている。冷却水14としては、圧力容器外部から供給される冷却水を用いることもできるが、予め圧力容器内部に炉水を滞留させておき、この炉水をポンプで汲み上げて噴出させることにより、噴出した冷却水や加熱冷却装置からの漏洩水等の回収が不要となり、効率的な作業が可能となる。
上記構成において、熱処理装置操作ロボット10により熱処理装置11を熱処理が必要な溶接金属部5と溶接熱影響部6からなる溶接部位に移動させ、位置決めする。その後、誘導加熱用コイル12Aを用いてシュラウド内表面が850℃になるまで加熱、その温度で15秒保持した後に冷却水噴出コイル12Bから冷却水14を噴出させて加熱されたシュラウド溶接部位を冷却する。本発明の熱処理を施した後、配管内面の残留応力は引張応力で10MPa程度を示した。
このように本実施例の熱処理を施すことにより、シュラウド溶接部の応力腐食割れが抑制でき、原子炉構造物の健全性を維持することができる。ここでは、シュラウド内面に熱処理を施す方法を例に説明しているが、熱処理装置をシュラウド外面に設置することにより、シュラウド外面側の溶接施工部にも同様の熱処理を施すことができる。
第6図は本発明の他実施例であるシュラウドへの熱処理を模式的に示した図である。原子炉圧力容器8内に設置されているシュラウド9の溶接部を、熱処理装置操作ロボット10の先端にシュラウドをはさんで対向して位置する熱処理装置11を用いて熱処理した。この熱処理装置11は、シュラウド9の直径に合わせて、その直径を変更できる機能を有し、熱処理装置11とシュラウド9との距離を一定に保つことができる。
熱処理する部分の拡大図を第7図に示す。SUS304Lステンレス鋼製のシュラウドの各部品は、Feを主成分として質量でCrを24.34%、Niを13.38%、Cを0.010%、Siを0.56%、Mnを1.57%、Pを0.024%、Sを0.007%、Moを0.041%、Coを0.08%、Nを0.02%含有する溶接フィラーを用いてサブマージアーク溶接法により溶接した。この溶接金属部5および溶接熱影響部6からなる溶接部位に熱処理装置11を設置して熱処理を施した。熱処理装置11は、誘導加熱用コイル12Aと冷却水噴出コイル12Bが交互に配置されている加熱冷却コイル12と、熱処理面の温度を計測するための温度センサ13から構成され、シュラウド溶接部近傍の温度を監視しながら加熱と冷却を同一装置で実施可能な構造になっている。
上記構成において、熱処理装置操作ロボット10により熱処理装置11を熱処理が必要な溶接金属部5と溶接熱影響部6からなる溶接部位に移動させ、位置決めした。その後、熱処理装置11、11’の誘導加熱用コイル12A、12A’を用いてシュラウド内表面が750℃になるまで加熱し、その温度で30分間保持した後、冷却水噴出コイル12B、12B’から冷却水14を噴出させてシュラウド溶接部を冷却した。
ここでは、シュラウドの内外面を同時に加熱、冷却する熱処理を例に説明したが、用いている熱処理装置各々は一対の加熱コイルと冷却水噴出コイルを具備しているため、シュラウド内面、あるいは外面の一方を加熱し、他の面を冷却する熱処理を施すことも可能である。また、第8図に示すように、シュラウドの片面に赤外線ヒータや抵抗加熱ヒータなどの加熱用ヒータ15から構成される加熱装置16を配置し、他方の面に冷却水噴出コイル12Bから構成される冷却水装置17を配置して、シュラウド溶接部位を加熱冷却することにより、シュラウドの片面のみに熱処理を施すことが可能である。また、冷却装置として、冷却水噴出コイルの替わりに、不活性ガスや空気などの気体を吹き付ける装置を具備してもよく、冷却水噴出コイルと同様の冷却効果を得ることができる。
このように本実施例の熱処理を施すことにより、シュラウド溶接部の応力腐食割れが抑制でき、原子炉構造物の健全性を維持することができる。
第9図は本発明の他の実施例であるシュラウドへの熱処理を模式的に示した図である。SUS304L鋼製のシュラウド9は、Feを主成分として質量でCrを19.03%、Niを9.65%、Cを0.012%、Siを0.046%、Mnを1.42%、Pを0.020%、Sを0.004%、Moを0.21%、Coを0.07%、Nを0.08%含有する溶接棒を用いて、被覆アーク溶接法による溶接を施して組み立てられている。このシュラウド9を電気炉18の内部に設置し、電気炉中で600℃の温度に8時間保持した後、水冷により急冷した。
このように本実施例の熱処理を施すことにより、シュラウド溶接部の応力腐食割れが抑制でき、原子炉構造物の健全性を維持することができる。
本発明の他の実施例として、溶接部に高圧高速流体によるウォータージェットピーニングを施すことにより圧縮応力を付与する方法を示す。第10図はウォータージェットピーニングを施す部位の拡大図である。SUS316L鋼製のシュラウド部材9を、Feを主成分として質量でCrを19.13%、Niを9.72%、Cを0.018%、Siを0.048%、Mnを1.98%、Pを0.023%、Sを0.003%、Moを0.30%、Coを0.08%、Nを0.10%含有する溶接棒を用いて被覆アーク溶接法により溶接した。この時、この溶接金属部5と溶接熱影響部6には300MPaの引張応力が残留していた。この溶接部とその近傍にウォータージェットピーニング装置のノズル19を設置し、噴射圧力70MPa、噴射速度240m/秒、噴射時間30分/mの条件で高圧高速水20を噴射した。これによる渦流とキャビテーション気泡により、噴射部位の材料表面が塑性変形を受け、当該溶接部の残留応力は400MPaの圧縮応力に変化した。
このように本実施例のウォータージェットピーニングを施すことによりシュラウド溶接部の応力腐食割れが抑制でき、原子炉構造物の健全性を維持することができる。
外径が100mm以下の小口径配管に対する本発明の実施例を示す。本発明の適用にあたって、適正な熱処理条件範囲を決定した。溶接残留応力の低減を目的としたPWHTは、加熱保持時間が長く、加熱温度が高いほど、溶接残留応力の低減効果が大きいと考えられる。その反面、条件によっては、溶接金属のδフェライト相からの、σ相など脆化相の生成や成長が促進され、脆化しやすくなると考えられる。このことから、溶接残留応力の低減と脆化の回避が両立できる熱処理条件範囲にて熱処理を実施する必要がある。
まず、上記の熱処理条件範囲を求めるにあたって、シャルピー衝撃試験により脆化を回避可能な熱処理条件範囲を求めた。
第11図は、熱処理後の溶接金属について、室温にてシャルピー衝撃試験を実施した結果である。溶接金属は、質量比でNiが9.97%、Crが19.83%、Siが0.344%、Mnが1.92%、Moが0.010%、Cが0.016%、Nが0.0534%、Pが0.020%、Sが0.004%、残部がFeと下可避不純物とする溶加材を使用して製作した。Vノッチ試験片は、各条件で熱処理した後の溶接金属から採取した。
Vノッチ試験片の寸法は標準寸法であり、長さが55mm、高さと幅が10mmの正方形断面で、角度45°のノッチが付けられている。ノッチ下の高さは8mmである。以下の衝撃吸収エネルギーは、上記の寸法の試験片に対して求めた値を示す。
各熱処理条件の破断後の試験片について観察したところ、衝撃吸収エネルギーが100J以上では延性的な破面を呈し、衝撃吸収エネルギーが100J未満では延性から脆性に遷移した破面を呈した。そこで、脆化を回避可能とする衝撃吸収エネルギーの下限値を100Jと決定した。なお、熱処理未実施の条件では、約180Jの衝撃吸収エネルギーを示した。なお、850℃で熱処理した条件では、脆化しなかった。
第11図によれば、Niが9.00〜14.00%、Crが19.50〜25.00%、Siが0.65%以下、Mnが1.00〜2.50%、Moが0.50%以下、Coが0.10%以下、Cが0.020%以下、Nが0.12%以下、Pが0.030%以下、Sが0.030%以下、残部がFeと不可避不純物とする組成範囲内にある溶接金属は、熱処理により脆化しにくい傾向がある。しかし、700℃以上800℃以下とする温度域にて長時間熱処理することにより、衝撃吸収エネルギーの低下がみられ、750℃で10時間保持した条件では、衝撃吸収エネルギーが約80Jに低下した。脆化を回避するため、700℃以上800℃以下の温度域にて熱処理する場合は、熱処理時間を10時間未満とすることが望ましい。
次に、残留応力を緩和可能な条件範囲を第12図に示す。これは、溶接部より短冊状に採取した試験片を曲げて、熱処理前後の応力を測定した試験結果である。これによれば、熱処理前は600MPaであった残留応力が、850℃の熱処理では加熱保持後1時間にて、残留応力がほぼ0MPaとなった。750℃の熱処理では加熱保持時間が1時間にて、144MPa以下に残留応力の緩和が達成できた。650℃の熱処理では加熱保持後10時間で、144MPa以下に残留応力を緩和することができた。
ラーソンミラーの式から推測して、任意の熱処理温度−時間条件と残留応力の緩和が同等となる条件は、以下の式(2)で表されると考えられる。
T+273=C1/(C2+log10 t) ……(2)
但し、T:温度(℃)、t:時間(hr)、C1:定数、C2:定数。
残留応力が144MPaとなった条件が750℃で1時間の条件と650℃で10時間の条件であったことから、残留応力が144MPaとなる式は、下記の式(3)のように求められる。
T+273=9442.3/(9.23+log10 t)……(3)
但し、T:温度(℃)、t:時間(hr)。
なお、以上の結果は、熱処理前の残留応力が600MPaであって、熱処理前の残留応力値によって、応力の緩和状況が異なる。
なお、熱処理時間が1時間未満では、残留応力が急激に緩和されるが、再現性のある試験結果は得られなかった。
以上より、本発明による熱処理条件範囲を第13図に示すように決定した。加熱時間は27.78時間(100000秒に相当)以内とし、700℃以上800℃以下の温度領域についてのみ10時間未満とした。加熱温度は、1050℃を上限とし、式(3)による曲線を下限とした。
第13図に示す条件範囲内にある、加熱温度:750℃、加熱保持時間:1時間にて、小口径配管に対するPWHTを行なった。
第3図に示す外径60.5mm、肉厚5.5mmのSUS316Lステンレス鋼製の配管1および1’には、開先加工と配管部材どうしの内径を一致させるための加工が内面に施されている。また、溶接金属部5の化学成分は、Feを主成分として質量比でCrを19.83%、Niを9.97%、Cを0.016%、Siを0.34%、Mnを1.92%、Pを0.02%、Sを0.004%、Moを0.010%、Coを0.01%、Nを0.0534%含むものであった。部品はTIG溶接法により入熱量15kJ/cmにて製作したものであるが、溶接法はレーザ溶接法、レーザ・アークハイブリット溶接法、電子ビーム溶接法でも構わない。また、溶接条件は施工不良が発生しない条件であれば変更しても構わない。配管の溶接部3の外周に電気抵抗発熱体7を密着させ、電気低抗発熱体に通電して溶接部を加熱した。溶接部3は外面からのみ加熱することになるので、昇温時には外面と内面との温度に差を生じる。そこで、同等形状の模擬部品にて内面の温度を実測し、外面と内面との温度の相関を把握しておくことが好ましい。管内面には、酸化を防止するために不活性ガスであるArガスを流量:20L/分で流し続けた。管の内側が密閉できる場合は不活性ガスを充填しても良い。昇温は昇温速度:10℃/分にて行った。配管溶接部の温度が750℃に到達後は、温度変動が5℃以内となるようにヒータの出力を制御し、1時間保持した後、ヒータと断熱材を除去した。その後、配管の内面はArガスによる冷却、外面は自然冷却を行なった。内面の冷却はArガスよりも冷却効果の大きいHeガスや水にすると、内面に圧縮応力を付与できるので更に良い。脆化を回避するために、昇温速度および冷却速度を極端に遅くすることは避ける。特に700〜800℃に曝される時間を、昇温、保持および冷却の時間を合わせて10時間未満に短くすることが好ましい。
以上のように製造した部品と同一の部品に対し、X線応力測定法により管内面の残留応力を測定し、残留応力が144MPaに低下していることを確認した。
本発明の他の実施例としてIHSIを適用した実施例について説明する。
これまで、SUS316ステンレス溶接金属を使用した部品では、σ脆化回避のためIHSIの最高到達温度が650℃に制限されていた。しかし、Feを主成分として質量比でCrを19.83%、Niを9.97%、Cを0.016%、Siを0.34%、Mnを1.92%、Pを0.02%、Sを0.004%、Moを0.010%、Coを0.01%、Nを0.0534%含有する溶接金属は、第11図に示すように脆化に要する熱処理時間が10時間と長く、IHSIの最高到達を高く設定することができる。よって、従来に比べて大きい圧縮応力を付与することが可能となり、応力腐食割れの発生の感受性を低減することができる。
第1図に示す外径318.5mm、肉厚21.4mmのSUS316Lステンレス鋼製の配管1および1’と、配管の溶接部3内部に冷却水2を流すとともに、溶接金属部の外周から約5mmの位置に配置した誘導加熱コイル4に30kHzの高周波を印加して溶接部3を加熱した。
第2図にその溶接部を模式的に示す。溶接金属部5は、Feを主成分として質量比でCrを19.83%、Niを9.97%、Cを0.016%、Siを0.34%、Mnを1.92%、Pを0.02%、Sを0.004%、Moを0.010%、Coを0.01%、Nを0.0534%含有する。
加熱条件としては、溶接部外面の温度を850℃、この温度での保持時間を10秒とし、冷却水温度を25℃とした。配管内外面の温度差は825℃、温度勾配は38.6℃/mmであった。
本実施例の熱処理を施した溶接部とその周辺部では、溶接金属部5と溶接熱影響部6の何れにも、オーステナイト相とフェライト相との界面およびフェライト相内部にσ相などの脆化相は析出していなかった。配管内面の残留応力は120MPa程度の圧縮応力を示した。
本発明による、脆化判定方法についての実施例について説明する。
溶接金属部のδフェライト相は、熱処理によりオーステナイト相やσ相等に変化する。このことから、熱処理前のフェライト量と熱処理後のフェライト量を比較すれば、溶接金属部の脆化度を推定できると考えられる。
シャルピー衝撃試験実施前のフェライト量と衝撃吸収エネルギーとの関係をまとめた試験結果を第14図に示す。シャルピー衝撃試験実施前後のフェライト量百分率の差と衝撃吸収エネルギーとの関係をまとめた試験結果を第15図に示す。熱処理未実施の溶接金属部は11%のフェライトを含有し、熱処理を実施することによりフェライト量は減少した。フェライト量が6%未満に減少した溶接金属部では著しい脆性を示した。
よって、フェライト量が百分率の差で5以上減少した場合、もしくは、フェライト量が6%以下に減少した場合に、脆化を引き起こす量のσ相が生成したと考えられる。
なお、フェライト量は、電磁気的測定方法により測定した。また、変形により生成するマルテンサイト相は磁性を示し、δフェライトによる磁性と混同される。これを避けるために、フェライト量測定はシャルピー衝撃試験前に実施した。
また、衝撃吸収エネルギーは標準寸法のVノッチ試験片についての値である。
実際の部品では、溶接金属部の大きさや形状によりフェライト量の測定値が溶接金属部に実際に存在するフェライト量と異なる値を示す可能性があるため、測定値の補正が必要な場合がある。そこで、実際の部品を模擬した部品を作製し、部品の外表面から測定したフェライト量と部品断面から測定したフェライト量との相関を予め求めておき、実際に存在するフェライト量に換算し、フェライト量を評価することが望ましい。
【産業上の利用可能性】
本発明により、原子炉構造物の高温高圧水にさらされる溶接部の応力腐食割れの発生および進展を抑制することが可能になった。本発明はオーステナイト系ステンレス鋼部材どうしの溶接部を有する原子炉構造物に対して適用するのに好適である。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】

【図9】

【図10】

【図11】

【図12】

【図13】

【図14】

【図15】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
オーステナイト系ステンレス鋼部材どうしの溶接部を含む原子炉構造物において、溶接金属の化学成分が質量でNiが9.00〜14.00%、Crが19.50〜25.00%、Siが0.65%以下、Mnが1.00〜2.50%、Moが0.50%以下、Coが0.10%以下、Cが0.020%以下、Nが0.12%以下、Pが0.030%以下、Sが0.030%以下、残部がFeと不可避不純物からなり、少なくとも高温水に接する表面の室温での残留応力が引張応力で144MPa以下、もしくは圧縮応力であることを特徴とする原子炉構造物。
【請求項2】
オーステナイト系ステンレス鋼部材どうしの溶接部を含む原子炉構造物において、少なくとも一方の前記オーステナイト系ステンレス鋼部材の化学成分が質量でNiが10.50〜15.00%、Crが16.00〜18.50%、Siが1.00%以下、Mnが2.00%以下、Moが2.00〜3.00%、Coが0.10%以下、Cが0.020%以下、Nが0.12%以下、Pが0.045%以下、Sが0.030%以下、残部がFeと不可避不純物からなり、溶接金属の化学成分が質量でNiが9.00〜14.00%、Crが19.50〜25.00%、Siが0.65%以下、Mnが1.00〜2.50%、Moが0.50%以下、Coが0.10%以下、Cが0.020%以下、Nが0.12%以下、Pが0.030%以下、Sが0.030%以下、残部がFeと不可避不純物からなり、少なくとも高温水に接する表面の室温での残留応力が引張応力で144MPa以下、もしくは圧縮応力であることを特徴とする原子炉構造物。
【請求項3】
オーステナイト系ステンレス鋼部材どうしの溶接部を含む原子炉構造物の製造方法において、前記オーステナイト系ステンレス鋼部材どうしを溶接する溶接施工に用いる溶接金属の化学成分が、質量でNiが9.00〜14.00%、Crが19.50〜25.00%、Siが0.65%以下、Mnが1.00〜2.50%、Moが0.50%以下、Coが0.10%以下、Cが0.020%以下、Nが0.12%以下、Pが0.030%以下、Sが0.030%以下、残部がFeと下可避不純物からなり、溶接後に、少なくとも高温水に接する表面の室温での残留応力が引張応力で144MPa以下、もしくは圧縮応力となる熱処理を施すことを特徴とする原子炉構造物の製造方法。
【請求項4】
オーステナイト系ステンレス鋼部材どうしの溶接部を含む原子炉構造物の一部を取り替える補修方法において、既設のオーステナイト系ステンレス鋼部材に替えて新規にオーステナイト系ステンレス鋼部材を取り付ける溶接施工に用いる溶接金属の化学成分が、質量でNiが9.00〜14.00%、Crが19.50〜25.00%、Siが0.65%以下、Mnが1.00〜2.50%、Moが0.50%以下、Coが0.10%以下、Cが0.020%以下、Nが0.12%以下、Pが0.030%以下、Sが0.030%以下、残部がFeと不可避不純物からなり、溶接後に、少なくとも高温水に接する表面の室温での残留応力が引張応力で144MPa以下、もしくは圧縮応力となる熱処理を施すことを特徴とする原子炉構造物の補修方法。
【請求項5】
少なくとも一方の前記オーステナイト系ステンレス鋼部材の化学成分が、質量でNiが10.50〜15.00%、Crが16.00〜18.50%、Siが1.00%以下、Mnが2.00%以下、Moが2.00〜3.00%、Coが0.10%以下、Cが0.020%以下、Nが0.12%以下、Pが0.045%以下、Sが0.030%以下、残部がFeと不可避不純物からなる請求項3記載の原子炉構造物の製造方法。
【請求項6】
溶接後に、高温水に接する表面を240℃〜1050℃に昇温して1秒以上100,000秒以下に保持する熱処理を施すことを特徴とする請求項3記載の原子炉構造物の製造方法。
【請求項7】
溶接施工後に、前記溶接部の高温水に接する一面を水または水以上の熱伝達率を有する流体で冷却すると同時に、他の一面を240℃〜1050℃に加熱し、ここで冷却面と加熱面との温度勾配を12℃/mm以上確保する熱処理を施すことを特徴とする請求項3記載の原子炉構造物の製造方法。
【請求項8】
前記熱処理を、熱処理温度T℃と熱処理時間t時間との関係が
T+273≧9442.3/(9.23+log10(t))
を満たす処理条件で行い、かつ、熱処理後の当該溶接金属部より採取したVノッチ試験片をシャルピー衝撃試験法により破断するのに要する、室温での衝撃吸収エネルギーを100J以上に保つことを特徴とする請求項3記載の原子炉構造物の製造方法。
【請求項9】
前記熱処理の温度を850℃未満とし、かつ熱処理後の溶接金属に含まれるフェライトの量を百分率で6%以上に保つことを特徴とする請求項3記載の原子炉構造物の製造方法。
【請求項10】
前記熱処理の温度を850℃未満とし、使用する溶接金属中のフェライト含有量百分率と、前記熱処理後の溶接金属に含まれるフェライト量百分率との差を5以内に保持することを特徴とする請求項3記載の原子炉構造物の製造方法。
【請求項11】
少なくとも一方の前記オーステナイト系ステンレス鋼部材の化学成分が、質量でNiが10.50〜15.00%、Crが16.00〜18.50%、Siが1.00%以下、Mnが2.00%以下、Moが2.00〜3.00%、Coが0.10%以下、Cが0.020%以下、Nが0.12%以下、Pが0.045%以下、Sが0.030%以下、残部がFeと不可避不純物からなる請求項4記載の原子炉構造物の補修方法。
【請求項12】
溶接後に高温水に接する表面を240℃〜1050℃に昇温して1秒以上100,000秒以下に保持する熱処理を施すことを特徴とする請求項4記載の原子炉構造物の補修方法。
【請求項13】
溶接施工後に、前記溶接部の高温水に接する一面を水または水以上の熱伝達率を有する流体で冷却すると同時に、他の一面を240℃〜1050℃に加熱し、ここで冷却面と加熱面との温度勾配を12℃/mm以上確保する熱処理を施すことを特徴とする請求項4記載の原子炉構造物の補修方法。
【請求項14】
前記熱処理を、熱処理温度T℃と熱処理時間t時間との関係が
T+273≧9442.3/(9.23+log10(t))
を満たす条件で行い、かつ、熱処理後の当該溶接金属部より採取したVノッチ試験片をシャルピー衝撃試験法により破断するのに要する、室温での衝撃吸収エネルギーを100J以上に保つことを特徴とする請求項4記載の原子炉構造物の補修方法。
【請求項15】
前記熱処理の温度を850℃未満とし、かつ、前記熱処理後の溶接金属に含まれるフェライトの量を百分率で6%以上に保つことを特徴とする請求項4記載の原子炉構造物の補修方法。
【請求項16】
前記熱処理の温度を850℃未満とし、使用する溶接金属中のフェライト含有量百分率と、前記熱処理後の溶接金属に含まれるフェライト量百分率との差を5以内に保持することを特徴とする請求項4記載の原子炉構造物の補修方法。

【国際公開番号】WO2005/024083
【国際公開日】平成17年3月17日(2005.3.17)
【発行日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−513597(P2005−513597)
【国際出願番号】PCT/JP2004/008367
【国際出願日】平成16年6月9日(2004.6.9)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】