説明

反射防止積層体及びその製造方法

【課題】 セルロースエステルフィルム上に、高屈折率層、低屈折率層をこの順序で積層した生産性に優れる三層構成の反射防止積層体であって、各層間の密着性が良好であって、耐擦傷性、透明性、帯電防止性を高いレベルで両立した反射防止積層体、並びにこの反射防止積層体を用いる光学部材を提供すること。
【解決手段】 セルロースエステル樹脂を含有してなる支持体の上に、高屈折率層及び低屈折率層がこの順に積層されてなる積層体であって、活性エネルギー線硬化型樹脂及び(B)導電性を有する五酸化アンチモン微粒子を含み、前記積層体10mgを純水100mlに浸漬し121℃で2時間加熱処理した後の水のpHが4以上であることを特徴とする反射防止積層体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶表示装置などの表示装置に用いられる反射防止積層体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置に使用される偏光板は、通常、偏光子の両面に保護フィルムが積層された三層構造となっている。偏光子としては、一軸配向ポリビニルアルコールフィルムにヨウ素及び/又は二色性染料を吸着させたものが一般的に使用されている。また保護フィルムとしてはトリアセチルセルロース(以下、TACと言う。)等のセルロースエステルフィルムが、その平面性、光線透過性、無配向性等に優れる理由から、一般的に使用されている。
偏光子は、液晶表示装置の最表面に配置されるため、視認側の保護フィルムに、高い透明性を維持しながら、その表面に耐擦傷性機能、反射防止機能、帯電防止機能等の多様な機能を付与する必要がある。これらの機能は、保護フィルム表面に、ハードコート層、高屈折率層、低屈折率層、導電層等の機能層を積層することで実現できる。
このようなフィルムを簡便に生産するためには、塗工回数、即ち機能層の数を減らすことが要望されている。また、機能層の形成方法としては、設備化、量産化が容易である点から、真空蒸着やスパッタリング法、CVD法等のドライプロセスよりも、溶液塗布等の湿式法が望ましい。
湿式法による一例として、特許文献1には透明基材フィルム上に、屈折率が1.6〜1.7の中屈折率層、屈折率が1.6〜1.8の高屈折率層、更に高屈折率層を低い低屈折率材料よりなる低屈折率層が積層されている反射防止ハードコートシートが開示されている。また、この文献には、高屈折率層に平均粒子径0.1μm以下のITOやATOなどの導電性超微粒子が分散させることが記載されている。しかしながら、この文献に記載の反射防止ハードコートシートは、可視光領域における吸収があり、透明性が損なわれる問題がある。
特許文献2には、透明プラスチックフィルム支持体の上に厚さ2〜10μmの帯電防止層及び屈折率が1.2〜1.55である低屈折率層が積層されてなる反射防止膜が記載されている。そして、前記帯電防止層は、1〜200nmの平均粒径を有する導電性無機微粒子を20〜90重量%及び架橋しているアニオン性基を有するポリマーを10〜80重量%含むことが記載されている。特許文献1と比較して機能層の数が少なく、簡便に製造できる点で好ましい。この例においても、帯電防止層はITO、ATO等の金属酸化物微粒子が分散されてなる。しかしながら、斯様な金属酸化物微粒子は、可視光線を吸収し積層体の透明性を損なうという問題がある。
【0003】
一方で、特許文献3には、透明性と導電性を両立するために、基材と、基材上に形成されたマトリックス成分と五酸化アンチモン粒子とを含み膜厚が0.1〜20μmのハードコート膜、ハードコート膜の上にさらに反射防止膜が形成されているハードコート膜付基材が記載されている。この文献には、五酸化アンチモン微粒子は可視光線を吸収することなく、帯電防止の目的に十分な導電性を実現することができることが記載されている。
【0004】
【特許文献1】特開2003−75603号公報
【特許文献2】特開平11−218604号公報
【特許文献3】特開2004−50810号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、本発明者らの検討によれば、五酸化アンチモン微粒子を含有した組成物からなる高屈折率層をセルロースエステルフィルム上に積層した場合、セルロースエステルフィルム及び低屈折率層に対する密着性が著しく劣ってしまう問題があった。また、該組成物はハードコート性能、特に耐擦傷性についても満足できるものでは無いことがわかった。
したがって、本発明は、かかる従来技術の実情に鑑みてなされたものであり、セルロースエステルフィルム上に、高屈折率層、低屈折率層をこの順序で積層した生産性に優れる三層構成の反射防止積層体であって、各層間の密着性が良好であって、耐擦傷性、透明性、帯電防止性を高いレベルで両立した反射防止積層体、並びにこの反射防止積層体を用いる光学部材を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意検討した結果、高屈折率層を構成する五酸化アンチモンとして特定のものを用い、かつ積層体を純水に浸漬し、特定温度で加熱処理した後の純水のpHを特定の値とすることにより、支持体と高屈折率層との密着性、耐擦傷性、反射防止性、透明性、及び帯電防止性の全てにおいて、非常に高い性能を実現できることを見出した。
また、この反射防止積層体を光学部材として使用することで、耐擦傷性、反射防止性、透明性、帯電防止性に優れる光学部材を効率よく製造できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
かくして本発明によれば、
(1)セルロースエステル樹脂を含有してなる支持体の上に、高屈折率層及び低屈折率層がこの順に積層されてなる積層体であって、前記高屈折率層が、(A)多官能アクリレート化合物を含有してなる活性エネルギー線硬化型樹脂及び(B)導電性を有する五酸化アンチモン微粒子を含み、前記積層体10mgを純水100mlに浸漬し121℃で2時間加熱処理した後の水のpHが4以上であることを特徴とする反射防止積層体;
(2)前記高屈折率層が、さらに(C)シランカップリング剤を含むものである上記(1)記載の反射防止積層体;
(3)前記高屈折率層の屈折率が1.55以上である上記(1)又は(2)に記載の反射防止積層体;
(4)前記積層体の低屈折率層が積層されている側の表面の表面抵抗値が、1.0×1010Ω/□以下であることを特徴とする上記(1)〜(3)のいずれか1つに記載の反射防止積層体;
(5)前記低屈折率層が中空シリカ微粒子を含有し、かつ低屈折率層の屈折率が1.39以下であることを特徴とする上記(1)〜(4)のいずれかに1つに記載の反射防止積層体;
(6)セルロースエステル樹脂を含有してなる支持体の上に、高屈折率層を形成する塗工液を塗工する工程を含み、前記高屈折率層を形成する塗工液が、(B)導電性を有する五酸化アンチモン微粒子と(C)シランカップリング剤とを混合し、これに(A)多官能アクリレート化合物を混合することにより得られたものである上記(1)〜(5)のいずれか1つに記載の反射防止積層体の製造方法;
(7)上記(1)〜(5)のいずれか1つに記載の反射防止積層体を備えてなる光学部材;
(8)上記(1)〜(5)のいずれか1つに記載の反射防止積層体の支持体側に、偏光子を積層してなる反射防止機能付偏光板;
及び
(9)上記(8)記載の反射防止機能付偏光板を備えてなる液晶表示装置;がそれぞれ提供される。
【発明の効果】
【0008】
(1)本発明の反射防止積層体は、各層間の密着性が良好であって、耐擦傷性、反射防止性、透明性、帯電防止性の全てに優れるものであり、製造工程も簡便であり、生産性に優れている。
(2)本発明の光学部材は、本発明の反射防止積層体を用いるものであり、耐擦傷性、反射防止性、透明性、帯電防止性を有し、生産性に優れている。
(3)本発明の液晶表示装置は、本発明の反射防止機能付偏光板を備えるものであり、耐擦傷性、反射防止性、視認性、帯電防止性に優れ、低コストで製造可能なものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下本発明を、(1)反射防止積層体、(2)光学部材、及び(3)液晶表示装置に項分けして詳細に説明する。
(1)反射防止積層体
本発明の反射防止積層体は、セルロースエステル樹脂を含有してなる支持体の上に、高屈折率層及び低屈折率層がこの順に積層されてなる積層体であって、
前記高屈折率層が、(A)多官能アクリレート化合物を含有してなる活性エネルギー線硬化型樹脂及び(B)導電性を有する五酸化アンチモン微粒子を含み、
前記積層体10mgを純水100mlに浸漬し121℃で2時間加熱処理した後の水のpHが4以上である。
【0010】
(支持体)
本発明に用いる支持体を構成するセルロースエステル樹脂としては、セルロースジアセテート、セルローストリアセテート、セルロースアセテートブチレートなどが挙げられるが、中でもセルローストリアセテートが特に好ましい。
【0011】
支持体には、上記樹脂の他に、本発明の効果を損なわない範囲で、他の配合剤を含んでいてもよい。他の配合剤としては、可塑剤、酸化防止剤、熱安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、分散剤、難燃剤、結晶化核剤、ブロッキング防止剤、防曇剤、離型剤、顔料、有機又は無機の充填材、中和剤、滑剤、金属不活性化剤、汚染防止剤やその他の樹脂、熱可塑性エラストマーなどの公知の配合剤が挙げられる。
【0012】
支持体は、上記セルロースエステル樹脂を公知の成形方法によりフィルム状に成形することにより得ることができる。セルロースエステル樹脂をフィルム状に成形する方法としては、溶融押出法や溶液流延法などの公知の成形方法であれば特に制限されない。
【0013】
また、支持体としては、片面又は両面に表面改質処理を施したものを使用することができる。表面改質処理を行うことにより、高屈折率層との密着性を向上させることができる。
【0014】
表面改質処理としては、エネルギー線照射処理や薬品処理等が挙げられる。
エネルギー線照射処理としては、コロナ放電処理、プラズマ処理、電子線照射処理、紫外線照射処理等が挙げられ、処理効率の点等から、コロナ放電処理、プラズマ処理が好ましく、コロナ放電処理が特に好ましい。薬品処理としては、重クロム酸カリウム溶液、濃硫酸等の酸化剤水溶液中に、浸漬し、その後充分に水で洗浄すればよい。浸漬した状態で振盪すると効果的であるが、長期間処理すると表面が溶解したり、透明性が低下したりするといった問題があり、用いる薬品の反応性、濃度等に応じて、処理時間等を調整する必要がある。
【0015】
支持体の厚みは、取り扱い容易性、加工性等から、通常10〜1000μmであり、透明性及び機械的強度の観点から、好ましくは30〜300μm、より好ましくは40〜200μmである。
【0016】
また、支持体の全光線透過率は80%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましい。80%より小さいと、本発明の反射防止積層体を画像表示装置に搭載した際、画像の鮮明性と視認性とを損なう。
【0017】
本発明における高屈折率層は、上記支持体及び低屈折率層の屈折率に比して大きな屈折率を有する層である。
高屈折率層は、(A)多官能アクリレート化合物を含有してなる活性エネルギー線硬化型樹脂及び(B)導電性を有する五酸化アンチモン微粒子を含む。
【0018】
本発明における活性エネルギー線硬化型樹脂は、エネルギー線の照射により硬化されてなる樹脂である。活性エネルギー線は、電磁波又は荷電粒子線のうち、分子を重合又は架橋し得るエネルギー量子を有するものを指し、通常、紫外線又は電子線を用いる。特に製造装置の簡便さ、生産性から紫外線照射による硬化が好ましい。
【0019】
本発明で用いる(A)多官能アクリレート化合物としては公知のものを使用することができる。例えば、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート等の2官能アクリレート;トリメチロールエタントリアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタグリセロールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールペンタアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート等の1分子中に3個以上のアクリロイル基を含有するものが挙げられる。また、公知のアクリロイル基含有オリゴマー、例えばエポキシアクリレート類、ウレタンアクリレート類、ポリエステルアクリレート類が挙げることができる。
これらの多官能アクリレートは単独で、あるいは二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0020】
本発明における高屈折率層は、前記多官能アクリレート化合物と導電性を有する五酸化アンチモン微粒子とを含有してなる。活性エネルギー線硬化型樹脂に五酸化アンチモン微粒子を含有させることにより、樹脂組成物の導電性と屈折率とを同時に高め、帯電防止性と反射防止性に優れた反射防止積層体を実現するために好適な高屈折率層を形成することができる。
【0021】
本発明において、導電性を有する五酸化アンチモンとは、粉体の比抵抗値が109Ω・cm以下であるものをいう。比抵抗値は、五酸化アンチモンを含む粉末を100kg/cmで圧縮成形後、LCRメーター(例えば、横河ヒューレットパッカード社製)を用いて、電気抵抗値を測定し、それを以下の式により比抵抗値に換算することにより求められる。
比抵抗値(Ω・cm)=電気抵抗値(Ω)×{試料の断面積(cm)/試料の厚さ(cm)}
【0022】
高屈折率層における五酸化アンチモン微粒子の含有量は特に制限されないが、好ましくは高屈折率層の全固形分中の30体積%以上、より好ましくは40体積%〜70体積%である。五酸化アンチモン微粒子の配合量が30体積%未満であると、得られる反射防止積層体の帯電防止性が不良となる。また、高屈折率層の屈折率が低下し、反射防止積層体の反射防止性が不良となる。
【0023】
五酸化アンチモン微粒子の平均粒子径は、100nm以下であることが好ましく、5〜50nmであることがさらに好ましい。五酸化アンチモンの平均粒子径が100nmより大きくなるとヘイズ(濁り度)が大きくなる。平均粒子径は、走査型電子顕微鏡(SEM)等により得られる二次電子放出のイメージ写真からの目視により、又は動的光散乱法、静的光散乱法等を利用する粒度分布計等により計測することができる。
【0024】
本発明において活性エネルギー線硬化型樹脂を紫外線照射によって硬化させる場合には、活性エネルギー線硬化型樹脂は紫外線感応型ラジカル重合開始剤を含有することが好ましい。斯様な紫外線感応型ラジカル重合開始剤としては、ジエトキシアセトフェノン、2,2−ジメトキシ−1,2−フェニルエタン−1−オン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン等のアセトフェノン類;ベンゾフェノン、4−フェニルベンゾフェノン、4−ヒドロキシベンゾフェノン等のベンゾフェノン類が挙げられる。これらは1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0025】
本発明においては、防眩性を付与する目的で、高屈折率層に防眩性を付与する粒子を含有してもよい。このような粒子としては、高屈折率層の表面に凸凹が形成されれば特に限定されない。また、該粒子の平均粒径は、高屈折率層の表面に有効に凸凹を形成するために、0.5〜10μmであることが好ましく、1〜7μmであることがより好ましい。
【0026】
このような粒子を構成する材料としては、ポリメチルメタクリレート樹脂、フッ素樹脂、フッ化ビニリデン樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、ナイロン樹脂、ポリスチレン樹脂、フェノール樹脂、ポリウレタン樹脂、架橋アクリル樹脂、架橋ポリスチレン樹脂、メラミン樹脂、ベンゾグアナミン樹脂等の樹脂粒子、又はTiO、Al、In、ZnO、SnO、Sb、ZrO、ITO、MgF、SiO、アルミノシリケート等の無機粒子が挙げられる。
【0027】
本発明においては、反射防止積層体10mgを純水100mlに浸漬し、121℃で2時間加熱処理した後の水のpHが4以上、好ましくは5以上である。前記水のpHが4より小さいと、高屈折率層と支持体及び高屈折率層と低屈折率層との密着性が著しく損なわれる。高屈折率層と支持体との密着性が低下するのは、五酸化アンチモンの強酸性により支持体中のセルロースエステル樹脂が加水分解することが原因である。なお、上記純水としては、pHが6〜8のイオン交換水を用いる。
上記水のpHを4以上にする方法としては、塩基性物質を添加する方法、及び/あるいは、シランカップリング剤を添加する方法が挙げられる。シランカップリング剤を添加し、五酸化アンチモン粒子表面とシランカプリング剤とを反応させることで、強酸性を緩和し、前記加熱処理後の水のpHを4以上にすることができる。
【0028】
塩基性物質を添加する場合、用いる塩基性物質としては特に制限されず、公知のものを使用できる。具体的には、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の無機塩基、トリエタノールアミン、モノエタノールアミン等のアルカノールアミン類、トリエチルアミン、n−プロピルアミン等のアルキルアミン類、第4級アンモニウムハイドロオキサイド、グアニジンハイドロオキサイド等の有機塩基が挙げられる。
【0029】
シランカップリング剤を添加する場合、用いるシランカップリング剤としては特に制限されず、公知のものを使用することができる。具体的には、3―アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。上記シランカップリング剤よりも、樹脂組成物の機械的強度を高くするために、多官能アクリレート化合物と化学的に結合する官能基を含有するシランカップリング剤が好ましい。多官能アクリレート化合物と化学的に結合する官能基としては、メタクリロイル基やアクリロイル基があげられ、中でも反応性に優れる点でアクリロイル基が好ましい。メタクロイル基を含有するシランカップリング剤としては、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロプルメチルジメトキシシラン等が挙げられ、アクリロイル基を含有するシランカップリング剤としては、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。
【0030】
シランカップリング剤の含有量は、導電性を有する五酸化アンチモン微粒子100重量部に対し、0.5〜20重量部であることが好ましく、更には1〜15重量部であることがより好ましい。シランカップリング剤の含有量が0.5重量部より小さいと、前記水のpHが4以下となり、セルロースエステル樹脂を含有してなる支持体及び低屈折率層に対する密着性が低下する。また組成物の硬度が低下する。逆にシランカップリング剤の添加量が20重量部より大きいと、組成物の導電性が低下し、また組成物の硬度も低下してしまう。
シランカップリング剤を添加する具体的な方法としては、導電性を有する五酸化アンチモン微粒子の有機溶剤ゾルとシランカップリング剤とを混合し、20℃〜80℃で攪拌する方法が挙げられる。
上記水のpHを4以上にする方法の中でも、シランカップリング剤を添加する方法が、組成物の硬度を向上させることができるので、好ましい。
【0031】
本発明においては、セルロースエステル樹脂を含有してなる支持体の上に、高屈折率層を形成する塗工液を塗工する工程を含み、前記高屈折率層を形成する塗工液が、(B)導電性を有する五酸化アンチモン微粒子と(C)シランカップリング剤とを混合し、これに(A)多官能アクリレート化合物を混合することにより得られたものであることが好ましい。
高屈折率層を形成する塗工液を上記の順に混合することにより、五酸化アンチモン微粒子の表面にシランカップリンング剤が被覆される。この処理により、五酸化アンチモン微粒子の強酸性を緩和し、支持体と高屈折率層及び高屈折率層と低屈折率層との密着性を保持することができる。
【0032】
高屈折率層を形成する塗工液には、有機溶剤を含んでいてもよい。有機溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、等のアルコール類;エチレングリコール、エチレングリコールモノブチルエーテル等のグリコール類;トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;n-ヘキサン、n-ヘプタン等の脂肪族炭化水素;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類;メチルエチルケトオキシム等のオキシム類;エチルセルソルブ、ブチルセルソルブ等のセルソルブ類;及びこれらの2種以上からなる組み合わせ;等が挙げられる。
また、高屈折率層を形成するための塗工液には、塗膜の均一性や密着性向上等を目的として、レベリング剤を適宜添加することができる。用いるレベリング剤としては、シリコーンオイル、フッ素化ポリオレフィン、ポリアクリル酸エステル等の表面張力を低下させる化合物が挙げられる。
【0033】
本発明における高屈折率層は、高屈折率層を形成する塗工液を、セルロースエステル樹脂を含有してなる支持体上に塗工し、オーブンで溶剤を乾燥した後、活性エネルギー線を照射することにより形成することができる。
【0034】
塗工液を、支持体上に塗工する方法は、特に制限されず、公知の塗工法が採用できる。塗工法としては、ワイヤバーコート法、ディップ法、スプレー法、スピンコート法、ロールコート法、グラビアコート法等が挙げられる。
【0035】
乾燥温度及び乾燥時間、活性エネルギー線の照射強度及び照射時間は、特に限定されず、用いる有機溶剤、高屈折率層を構成する材料の組成に応じて適宜設定することができる。
【0036】
高屈折率層の厚みは、通常0.5〜30μm、好ましくは1〜10μmである。高屈折率層の厚みが0.5μmより薄いと層の硬度、機械的強度が不良となり、一方30μmより厚いと塗工する際に厚みムラが生じ易くなり、加工性が悪くなるおそれがある。
【0037】
本発明においては、高屈折率層の屈折率が1.55以上であることが好ましく、1.60以上であることがより好ましい。高屈折率層の屈折率が1.55より小さいと、反射防止積層体の反射防止性が低下するおそれがある。導電性を有する五酸化アンチモン微粒子を必要量以上添加することにより、高屈折率層の屈折率を容易に高くすることができる。屈折率は、例えば、公知の分光エリプソメータを用いて測定して求めることができる。
【0038】
本発明においては、積層体の低屈折率層が積層されている側の表面抵抗値が1×1010Ω/□以下であることが好ましく、5×10Ω/□以下であることがより好ましい。
なお、表面抵抗値は、抵抗率計を用いて測定することができる。
【0039】
(低屈折率層)
本発明における低屈折率層は、高屈折率層及び支持体よりも屈折率が小さい層である。低屈折率層を構成する材料としては、高屈折率層及び支持体より屈折率層が小さい層を構成することのできるものであればよいが、中空シリカ微粒子を含有してなることが好ましい。
【0040】
中空シリカ微粒子は酸化ケイ素の殻を有し、内部が空洞である微粒子である。中空シリカ微粒子の平均粒子径は、通常100nm以下、好ましくは50nm以下である。100nmより大きいとヘイズ(濁り度)が大きくなる。中空シリカ微粒子の殻の厚みは5nm以上であることが望ましい。中空シリカ微粒子の殻の厚みが5nmより薄いと機械強度が低下し、耐擦傷性が悪化する。また、空洞の体積は、全中空シリカ微粒子体積の20%以上であることが望ましい。空洞の体積が20%より小さいと低屈折率層の屈折率が高くなり、反射防止積層体の反射防止性能が不十分となる。
中空シリカ微粒子の粒子径は、走査型電子顕微鏡(SEM)等により得られる二次電子放出のイメージ写真からの目視により、又は動的光散乱法、静的光散乱法等を利用する粒度分布計等により計測することができる。
中空シリカ微粒子の殻の厚さ、空洞の大きさは低屈折率層断面薄片の透過型電子顕微鏡(TEM)像より計測することができる。
【0041】
中空微粒子の含有量は特に制限されないが、低屈折率層の全固形分中の30体積%以上であることが好ましく、40体積%〜70体積%であることがより好ましい。中空微粒子の含有量が30体積%未満であると、低屈折率層の屈折率が高くなり、反射防止積層体の反射防止性が不良となる。
【0042】
本発明においては、低屈折率層がバインダー樹脂を含有してなることが好ましい。バインダー樹脂としては、公知のものあれば特に制限されない。例えば、多官能アクリレート化合物を含有してなる活性エネルギー線硬化型樹脂、ゾルゲル法にて形成されるバインダー樹脂等等が挙げられる。特に、中空シリカ微粒子と共有結合を形成し、低屈折率層の機械的強度を高められる点から、ゾルゲル法にて形成されるバインダー樹脂を含有してなることが好ましい。
【0043】
ゾルゲル法は、一般に金属アルコキシドからなるゾルを加水分解・縮重合反応により、流動性を失ったゲルとし、このゲルを加熱して酸化物を得る方法である。ゾルゲル法により得られる酸化物としては、屈折率及び中空シリカ微粒子との密着性の点から、特にケイ素酸化物が好ましい。
ゾルゲル反応を行うケイ素化合物としては、下記(a)〜(c)からなる群から選ばれる1種以上の化合物が挙げられる。
(a)式(1):SiXで表される化合物。
(b)前記式(1)で表される化合物の少なくとも1種の部分加水分解・縮重合生成物。
(c)前記式(1)で表される化合物の少なくとも1種の完全加水分解・縮重合生成物。
【0044】
前記(a)の式(1)で表される化合物(以下、「化合物(a)」という。)において、式(1)中、Xは、塩素原子、臭素原子等のハロゲン原子;置換基を有していてもよい一価の炭化水素基;酸素原子;酢酸根、硝酸根等の有機酸根;アセチルアセトナート等のβ-ジケトナート基;硝酸根、硫酸根等の無機酸根;メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、n-ブトキシ基等のアルコキシ基;または水酸基を表す。また、nは前記ケイ素の原子価を表す。
【0045】
前記式(1)で表される化合物としては、
式(2):RSiY4-a
〔式中、Rは置換基を有していてもよい一価の炭化水素基を表し、aは0〜2の整数を表し、aが2のとき、Rは同一であっても相異なっていてもよい。Yは加水分解性基を表し、Yは同一であっても相異なっていてもよい。〕
で表されるケイ素化合物が特に好ましい。
【0046】
置換基を有していてもよい一価の炭化水素基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、へプチル基、オクチル基等のアルキル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基;フェニル基、4-メチルフェニル基、1-ナフチル基、2-ナフチル基等の置換基を有していてもよいアリール基;ビニル基、アリル基等のアルケニル基;ベンジル基、フェネチル基、3-フェニルプロピル基等のアラルキル基;クロロメチル基、γ-クロロプロピル基、3,3,3-トリフルオロプロピル基等のハロアルキル基;γ-メタクリロキシプロピル基等のアルケニルカルボニルオキシアルキル基;γ-グリシドキシプロピル基、3,4-エポキシシクロヘキシルエチル基等のエポキシ基を有するアルキル基;γ-メルカプトプロピル基等のメルカプト基を有するアルキル基;3-アミノプロピル基等のアミノ基を有するアルキル基;トリフルオロメチル基等のパーフルオロアルキル基等を例示することができる。これらの中でも、合成の容易性、入手容易性から、炭素数1〜4のアルキル基、フェニル基、パーフルオロアルキル基が好ましく、防汚性に優れる点からパーフルオロアルキル基がより好ましい。
【0047】
Yは加水分解性基を表す。ここで、加水分解性基は、所望により酸または塩基触媒の存在下に加水分解して、シラノール基を生じせしめる基をいう。
【0048】
加水分解性基の具体例としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基等のアルコキシ基;アセトキシ基、プロピオニルオキシ基等のアシルオキシ基;オキシム基(-O-N=C-R’(R”))、エノキシ基(-O-C(R’)=C(R”)R''')、アミノ基、アミノキシ基(-O-N(R’)R”)、アミド基(-N(R’)-C(=O)-R”)等が挙げられる。これらの基において、R’、R”、R'''は、それぞれ独立して水素原子又は一価の炭化水素基を表す。これらの中でも、Yとしては、入手容易性等からアルコキシ基が好ましい。
【0049】
前記式(2)で表されるケイ素化合物としては、式(2)中、aが0〜2の整数であるケイ素化合物が好ましい。例えば、アルコキシシラン類、アセトキシシラン類、オキシムシラン類、エノキシシラン類、アミノシラン類、アミノキシシラン類、アミドシラン類等が挙げられる。これらの中でも、入手の容易さからアルコキシシラン類がより好ましい。
【0050】
前記式(2)中、aが0であるテトラアルコキシシランとしては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン等を例示でき、aが1であるオルガノトリアルコキシシランとしては、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリイソプロポキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、3,3,3-トリフルオロプロピルトリメトキシシラン等を例示できる。また、aが2であるジオルガノジアルコキシシランとしては、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、メチルフェニルジメトキシシラン等を例示できる。
【0051】
前記式(1)で表される化合物の分子量は特に制限されないが、40〜300であるのが好ましく、100〜200であるのがより好ましい。
【0052】
また、式(1)で表される化合物の少なくとも1種の部分加水分解・縮重合生成物(以下、「化合物(b)」という。)、及び式(1)で表される化合物の少なくとも1種の完全加水分解・縮重合生成物(以下、「化合物(c)」という。)は、前記式(1)で表される化合物の1種またはそれ以上を、全部又は部分的に加水分解、縮合させることによって得ることができる。
【0053】
化合物(b)、及び化合物(c)は、例えば、Si(Or)(rは1価の炭化水素基を表す。)で表されるシリコンテトラアルコキシドを、モル比[HO]/[Or]が1以上、例えば1〜5、好ましくは1〜3となる量の水の存在下、加水分解・縮重合して得ることができる。
加水分解・縮重合は、5〜100℃の温度で、2〜100時間、全容を撹拌することにより行うことができる。
【0054】
前記式(1)で表される化合物を加水分解・縮重合する場合、必要に応じて触媒を使用してよい。使用する触媒としては、特に限定されるものではないが、得られる加水分解・縮重合生成物が2次元架橋構造になりやすく、かつ多孔質化しやすい点、及び加水分解に要する時間を短縮する点から、酸触媒が好ましい。
【0055】
用いる酸触媒としては、特に限定されないが、例えば、酢酸、クロロ酢酸、クエン酸、安息香酸、ジメチルマロン酸、蟻酸、プロピオン酸、グルタール酸、グリコール酸、マレイン酸、マロン酸、トルエンスルホン酸、シュウ酸等の有機酸;塩酸、硝酸、ハロゲン化シラン等の無機酸;酸性コロイダルシリカ、酸化チタニアゾル等の酸性ゾル状フィラー;を挙げることができる。これらの酸触媒は1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0056】
また、前記酸触媒の代わりに、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム等のアルカリ金属あるいはアルカリ土類金属の水酸化物の水溶液、アンモニア水、アミン類の水溶液等の塩基触媒を用いてもよい。
【0057】
化合物(b)、及び化合物(c)の分子量は特に制限されないが、通常、その重量平均分子量が200〜5000の範囲である。
【0058】
このようなゾルゲル法にて形成されるバインダー樹脂を含有してなる低屈折率層は湿式法で形成できる。具体的には、高屈折率層の上に低屈折率層を形成する塗工液を塗工し、必要に応じて加熱・乾燥することにより形成できる。
低屈折率層を形成する塗工液は、中空シリカ微粒子、バインダー樹脂の他に、溶剤を含有する。
前記溶剤としては、水の他に、メタノール、エタノール、イソプロパノール(IPA)、n-ブタノール、イソブタノール等の低級脂肪族アルコール類;エチレングリコール、エチレングリコールモノブチルエーテル、酢酸エチレングリコールモノエチルエーテル等のエチレングリコール誘導体;ジエチレングリコール、ジエチレングリコールモノブチルエーテル等のジエチレングリコール誘導体;ジアセトンアルコール;及びこれらの2種以上からなる組み合わせ;等の親水性有機溶剤が挙げられる。
また、前記親水性有機溶剤と併用して、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;n-ヘキサン、n-ヘプタン等の脂肪族炭化水素;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類;メチルエチルケトオキシム等のオキシム類;エチルセルソルブ、ブチルセルソルブ等のセルソルブ類;及びこれらの2種以上からなる組み合わせ;等を使用することができる。
前記塗工液中の溶剤の含有量は、通常80〜99重量%、好ましくは90〜99重量%である。
【0059】
前記塗工液は、前記化合物(a)及び化合物(b)を含む場合、硬化触媒を含むことが好ましい。これによって、組成物を支持体表面に塗工して塗膜を形成して乾燥する際に、縮合反応が促進されて被膜中の架橋密度が高くなり、被膜の耐水性及び耐アルカリ性を向上させることができる効果を得ることができる。
用いる硬化触媒としては、Tiキレート化合物、Zrキレート化合物等の金属キレート化合物;有機酸等が挙げられる。
【0060】
また、前記塗工液には、シランカップリング剤を更に含んでいてもよい。用いることのできるシランカップリング剤は特に限定されず、公知のシランカップリング剤でよい。また、他に含んでいてもよいものとしては、シリコーンオイル、含フッ素シラン化合物等が挙げられる。
【0061】
高屈折率層上に前記低屈折率層を形成する塗工液を塗工する方法は特に制限されず、公知の塗工法を採用することができる。塗工法としては、ワイヤバーコート法、ディップ法、スプレー法、スピンコート法、ロールコート法、グラビアコート法等が挙げられる。
その後、塗工層を加熱することにより、塗工層を乾燥及び硬化させる。前記加熱は、温度20〜130℃、相対湿度0〜80%の条件で行うことが好ましく、さらには、該塗工層中に残留する溶剤量が5重量%になるまで20〜80℃、相対湿度0〜80%の条件で加熱し、次いで塗膜中に残留する溶剤量が5重量%未満になったら80〜130℃、相対湿度0〜20%の条件で加熱することが好ましい。
【0062】
本発明においては、低屈折率層の屈折率が1.39以下となることが好ましく、1.32〜1.37であることがより好ましい。屈折率が1.39より大きいと、反射防止積層体の反射防止性能が不十分となる。屈折率は、例えば、公知の分光エリプソメータを用いて測定して求めることができる。
低屈折率層の屈折率は、中空シリカ微粒子の内部空洞を大きくすること及び中空シリカ微粒子の添加量を増やすことにより低下させることができる。
本発明においては低屈折率層の厚みは20〜500nmが好ましく、50〜200nmがより好ましい。
【0063】
本発明においては、低屈折率層の上に他の層を設けてもよい。他の層としては、防汚層が挙げられる。防汚層は、低屈折率層を保護し、かつ、防汚性能を高めるために設けるものである。
防汚層の形成材料としては、低屈折率層の機能が阻害されず、防汚層としての要求性能が満たされる限り特に制限はない。通常、疎水基を有する化合物を好ましく使用できる。
具体的な例としてはパーフルオロアルキルシラン化合物、パーフルオロポリエーテルシラン化合物、フッ素含有シリコーン化合物を使用することができる。防汚層の形成方法は、形成する材料に応じて、例えば、蒸着、スパッタリング等の物理的気相成長法;化学的気相成長(CVD)法;湿式コーティング法;等を用いることができる。防汚層の厚みは、20nm以下が好ましく、1〜10nmであるのがより好ましい。
【0064】
(2)光学部材
本発明の光学部材は本発明の反射防止積層体を備えることを特徴とする。光学部材としては、陰極管表示装置(CRT)、プラズマディスプレイ(PDP)、液晶表示装置(LCD)、EL素子、タッチパネル等の画像表示装置が挙げられる。画像表示装置の最表面に本発明の反射防止積層体を配置することで、光学干渉の原理を用いて反射率を低減し、外光の反射によるコントラスト低下や、像の映り込みを防止することができる。
中でも特に液晶表示装置における反射防止機能付偏光板として用いることが好ましい。
【0065】
本発明の反射防止機能付偏光板は、反射防止積層体の支持体側に、偏光子が積層されてなることを特徴とする。
積層する偏光子としては、公知のものであれば、特に限定はされない。例えば、ポリビニルアルコール(PVA)系やポリエン系の偏光膜が挙げられる。
偏光子の製造方法は特に限定されない。PVA系の偏光子を製造する方法としては、PVA系フィルムにヨウ素イオンを吸着させた後に一軸に延伸する方法、PVA系フィルムを二色性染料で染色した後に一軸に延伸させる方法等が挙げられる。また、ポリエン系の偏光子を製造する方法としては、PVA系フィルムを一軸に延伸した後に脱水触媒存在下で加熱・脱水する方法、ポリ塩化ビニル系フィルムを一軸に延伸した後に脱塩酸触媒下で加熱・脱水する方法等の公知の方法が挙げられる。
【0066】
偏光子の本発明の反射防止積層体が積層されていない側には、保護フィルムを積層されている。
保護フィルムとしては、光学異方性が低い材料からなるものが好ましい。光学異方性が低い材料としては、特に制限されないが、透明性、低複屈折性、寸法安定性の観点から、脂環式構造を有する樹脂が好ましい。なお、保護フィルムは位相差フィルムを兼ねても良い。
【0067】
本発明の反射防止積層体と偏光子との積層、及び偏光子と保護フィルムとの積層は、接着剤や粘着剤等の適宜の接着手段を用いて貼り合せることができる。接着剤、又は粘着剤としては、アクリル系、シリコーン系、ポリエステル系、ポリウレタン系、ポリエーテル系、ゴム系等が挙げられる。これらの中でも、耐熱性や透明性に優れる点で、アクリル系の接着剤、又は粘着剤が好ましい。
【0068】
(3)液晶表示装置
本発明の液晶表示装置は、本発明の反射防止機能付偏光板を備えることを特徴とする。液晶表示装置は、通常、液晶セルとそれを挟む二枚の偏光板とを有する。本発明の液晶表示装置は、前記2枚の偏光板のうち、視認側に位置する偏光板に、本発明の反射防止機能付偏光板を用い、視認側最表面に反射防止積層体がくるように配置される。反射防止機能付偏光板と液晶セルはプライマー層を介して貼り合わせてあっても良い。
【0069】
液晶セルは液晶モードによって特に限定されない。液晶モードとしては、TN(Twisted Nematic)型、STN(Super Twisted Nematic)型、HAN(Hybrid Alignment Nematic)型、VA(Vertical Alignment)型、MVA(Multiple Vertical Alignment)型、IPS(In Plane Switching)型、OCB(Optical Compensated Bend)型、反射型、半透過型等が挙げられる。
その他の部材としては、公知の液晶表示装置に用いられるものでよく、具体的には、位相差板、視角補償フィルム、輝度向上フィルム、光拡散板、プリズムアレイ、導光板、光源などが挙げられる。
【実施例】
【0070】
本発明を、実施例を示しながら、さらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例のみに限定されるものではない。なお部及び%は特に断りのない限り重量基準である。
本実施例における評価は、以下の方法によって行った。
(1)積層体のpH
反射防止積層体10mgを1cm角に裁断し、耐圧容器に入れ、純水(pHが7のイオン交換水)100mlに浸漬する。そして、これを121℃で2時間加熱処理した後に、その水のpHを測定した。
(2)反射率
支持体の高屈折率層や低屈折率層が設けられていない方の面に、黒ビニールテープNo.21(日東電工社製)を貼り、分光光度計(日本分光社製:「紫外可視近赤外分光光度計 V−570」)を用い、入射角5°で反射スペクトルを測定し、波長550nmにおける反射率を求めた。
(3)全光線透過率
JIS K7361−1997に準拠して、日本電色工業社製「濁度計NDH−300A」を用いて測定した。
(4)密着性
JIS D0202−1998に準拠して、碁盤目テープ剥離試験を行った。粘着テープ(ニチバン社製、商品名:CT24)を用い、これを指の腹で圧し、積層体の表面(低屈折率層が設けられている方の面)に密着させた後、粘着テープを剥離した。判定は、100マスの内、剥離しないマス目の数で表し、剥離しない場合を100/100、完全に剥離する場合を0/100として表した。剥離しないマス目の数が大きいほど密着性に優れる。
(5)耐擦傷性
反射防止積層体の表面(低屈折率層が設けられている方の面)に、スチールウール♯0000に荷重0.025MPaをかけた状態でその表面を10往復させる。そして、10往復後のフィルムの表面を目視で観察し、以下の基準で評価を行った。
○:傷がまったく認められない。
△:注意深く観察するとわずかに傷が認められる。
×:傷が認められる。
(6)鉛筆硬度
JIS−K5700に従い500g荷重で測定した。
【0071】
支持体としては、以下のものを用いた。
トリアセチルセルロースフィルム(以下、「TACフィルム」と記すことがある。):KC4UX2M、コニカ・ミノルタ社製、厚み40μm。
【0072】
(製造例1)高屈折率層用塗工液1の調製
五酸化アンチモンのメチルイソブチルケトンゾル(固形分濃度40%、触媒化成社製、比抵抗値5×10Ω・cm)100部に、2−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン1部を添加し、80℃で5時間攪拌した。その後、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート8部、トリメチロールプロパントリアクリレート2部、光開始剤2−ヒドロキシ−2−メチルプロピオフェノン0.4部を混合し、紫外線硬化型の高屈折率層形成用塗工液1を得た。
【0073】
(製造例2)高屈折率層形成用塗工液2の調製
五酸化アンチモンのイソプロピルアルコールゾル(固形分濃度40%、触媒化成社製、比抵抗値5×10Ω・cm)100部に、2−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン1部を添加し、80℃で5時間攪拌した。その後、ウレタンアクリレートオリゴマー(商品名:紫光UV700B、日本合成化学社製)80部、トリメチロールプロパントリアクリレート20部、光開始剤2−ヒドロキシ−2−メチルプロピオフェノン4部を混合し、紫外線硬化型の高屈折率層用塗工液2を得た。
【0074】
(製造例3)高屈折率層形成用塗工液3の調製
五酸化アンチモンのイソプロピルアルコールゾル(固形分濃度40%、比抵抗値5×10Ω・cm、触媒化成社製)100部に、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート8部、トリメチロールプロパントリアクリレート2部、光開始剤2−ヒドロキシ−2−メチルプロピオフェノン0.4重量部を混合し、紫外線硬化型の高屈折率層形成用塗工液3を得た。
【0075】
(製造例4)高屈折率層形成用塗工液4の調製
イソプロピルアルコール100部に、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート80部、トリメチロールプロパントリアクリレート20部、光開始剤2−ヒドロキシ−2−メチルプロピオフェノン4部を混合し、紫外線硬化型の高屈折率層形成用塗工液4を得た。
【0076】
(製造例5)高屈折率層形成用塗工液5の調製
二酸化チタンのイソプロピルアルコールゾル(固形分濃度40%、比抵抗値1×1012Ω・cm以上、触媒化成社製)100部に、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート8部、トリメチロールプロパントリアクリレート2部、光開始剤2−ヒドロキシ−2−メチルプロピオフェノン0.4部を混合し、紫外線硬化型の高屈折率層用塗工液5を得た。
【0077】
(製造例6)高屈折率層形成用塗工液6の調製
ATO(アンチモン錫酸化物)のイソプロピルアルコールゾル(固形分濃度40%、比抵抗値0.8Ω・cm、触媒化成社製)100部に、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート8部、トリメチロールプロパントリアクリレート2部、光開始剤2−ヒドロキシ−2−メチルプロピオフェノン0.4部を混合し、紫外線硬化型の高屈折率層形成用塗工液6を得た。
【0078】
(製造例7)低屈折率層形成用塗工液1の調製
中空シリカ微粒子のイソプロピルアルコールゾル(固形分濃度20%、触媒化成社製)100部に、テトラメトキシシランのオリゴマーメチルシリケート511(コルコート社製)20部、アンモニア水(アンモニア28重量%)34部、メタノール600部を混合して低屈折率層形成用塗工液1を得た。
【0079】
(実施例1)
TACフィルムの片面に、ワイヤーバーを用いて、製造例1で得られた高屈折率層形成用塗工液1を塗布、乾燥(100℃×2分間)、紫外線照射(積算光量1000mW/cm)することにより、膜厚5μmの高屈折率層を得た。
次いで、高屈折率層上に、ワイヤーバーを用いて、製造例7で得られた低屈折率層用塗工液1を塗布、加熱(140℃×10分間)し、膜厚100nmの低屈折率層を形成して、反射防止積層体1を得た。評価結果を表1に示す。
【0080】
(実施例2)
高屈折率層形成用塗工液1のかわりに、製造例2で得られた高屈折率層形成用塗工液2を用いた他は、実施例1と同様にして反射防止積層体2を得た。評価結果を表1に示す。
【0081】
(比較例1)
高屈折率層形成用塗工液1のかわりに、製造例3で得られた高屈折率層形成用塗工液3を用いた他は、実施例1と同様にして反射防止積層体3を得た。評価結果を表1に示す。
【0082】
(比較例2)
高屈折率層形成用塗工液1のかわりに、製造例4で得られた高屈折率層形成用塗工液4を用いた他は、実施例1と同様にして反射防止積層体4を得た。評価結果を表1に示す。
【0083】
(比較例3)
高屈折率層形成用塗工液1のかわりに、製造例5で得られた高屈折率層形成用塗工液5を用いた他は、実施例1と同様にして反射防止積層体5を得た。評価結果を表1に示す。
【0084】
(比較例4)
高屈折率層形成用塗工液1のかわりに、製造例6で得られた高屈折率層形成用塗工液6を用いた他は、実施例1と同様にして反射防止積層体6を得た。評価結果を表1に示す。
【0085】
【表1】

【0086】
表1の結果から以下のことがわかる。本発明の反射防止積層体は、実施例1〜2に示すように、支持体との密着性に優れ、反射率が低く、透明性(全光線透過率、低ヘイズ値)に優れ、表面抵抗値が低く、硬度が高く、耐擦傷性に優れている。
一方、比較例に示すように、積層体を純水に浸漬して加熱処理した後のpHが4未満及び/又は導電性の五酸化アンチモンを用いていないものは(比較例1〜3)は、透明性、耐擦傷性、支持体との密着性の少なくとも1つにおいて不具合が発生している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロースエステル樹脂を含有してなる支持体の上に、高屈折率層及び低屈折率層がこの順に積層されてなる積層体であって、
前記高屈折率層が、(A)多官能アクリレート化合物を含有してなる活性エネルギー線硬化型樹脂及び(B)導電性を有する五酸化アンチモン微粒子を含み、
前記積層体10mgを純水100mlに浸漬し121℃で2時間加熱処理した後の水のpHが4以上であることを特徴とする反射防止積層体。
【請求項2】
前記高屈折率層が、さらに(C)シランカップリング剤を含むものである請求項1に記載の反射防止積層体。
【請求項3】
前記高屈折率層の屈折率が1.55以上である請求項1又は2に記載の反射防止積層体。
【請求項4】
前記積層体の低屈折率層が積層されている側の表面の表面抵抗値が、1×1010Ω/□以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の反射防止積層体。
【請求項5】
前記低屈折率層が中空シリカ微粒子を含有し、かつ低屈折率層の屈折率が1.39以下であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の反射防止積層体。
【請求項6】
セルロースエステル樹脂を含有してなる支持体の上に、高屈折率層を形成する塗工液を塗工する工程を含み、前記高屈折率層を形成する塗工液が、(B)導電性を有する五酸化アンチモン微粒子と(C)シランカップリング剤とを混合し、これに(A)多官能アクリレート化合物を混合することにより得られたものである請求項1〜5のいずれか1項に記載の反射防止積層体の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の反射防止積層体を備えてなる光学部材。
【請求項8】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の反射防止積層体の支持体側に、偏光子を積層してなる反射防止機能付偏光板。
【請求項9】
請求項8に記載の反射防止機能付偏光板を備えてなる液晶表示装置。

【公開番号】特開2006−330397(P2006−330397A)
【公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−154442(P2005−154442)
【出願日】平成17年5月26日(2005.5.26)
【出願人】(000229117)日本ゼオン株式会社 (1,870)
【Fターム(参考)】