説明

反射防止膜の形成方法

【課題】生産性が高く、かつ、高品質の光学膜を形成可能な成膜装置を提供する。
【解決手段】本発明の成膜装置1には、AlとCrとを含有するフェロシリコン材料のターゲット(第一のターゲット)21a、21bが用いられており、従来の多結晶シリコンターゲットに比べて機械的強度が高いので、厚みの厚い第一のターゲット21a、21bに高密度電力を投入しても、割れやクラックが生じにくい。このように、第一のターゲット21a、21bの寿命は長いので、第一のターゲット21a、21bを煩雑に交換する必要はなく、また、ターゲットのクラックに起因するスプラッシュが起こり難く、透明膜にスプラッシュが混入することもないので、高品質の光学膜が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はガラスやプラスチックなどの透明基板上に、屈折率が異なる複数の透明膜を積層し、反射防止膜を形成する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
低屈折率膜と高屈折率膜との積層膜多層膜構成は、光学設計の組合せにより反射防止膜や選択反射膜などの汎用的な光学フィルターとして利用されている。とくに酸化ケイ素は、屈折率1.46程度の低屈折率膜として使用され、窒化ケイ素は屈折率2.00程度の高屈折率膜として使用されている。
【0003】
これら光学膜を、設計値どおりに精度良く、かつ大面積に安定に成膜する方法として、スパッタによる成膜検討がおこなわれている。誘電体材料のスパッタリングでは、目的とする誘電体材料をそのままターゲットとして使用する方法と、金属ターゲットと酸素などの反応ガスを使用して、透明基板上で反応生成物を形成する反応性スパッタ法がある。
【0004】
誘電体ターゲットを使用する方法は、プロッキングコンデンサの容量結合にてRF(13.56MHz)電圧を印加して、カソード電極上の自己バイアスによってArイオンを加速してスパッタをおこなう。
【0005】
一方、反応性スパッタ法は、RF電圧のほか、導電性ターゲットを使用することで、DCやAC電圧印加による方法も可能である。とくに、DCやAC電圧印加の反応性スパッタは、誘電体ターゲットを使用するRFスパッタより高い成膜速度が得られるため、大型建材ガラスや、ディスプレイ用フィルターなどの反射防止膜用途ですでに実用化されている。
【0006】
例えば、反応性スパッタによる酸化ケイ素の成膜では、金属Siをターゲット材料に選択し、スパッタ中に、Arのほかに酸素を導入し、反応生成物としての酸化ケイ素膜を透明基板上に形成する。ターゲットは、ホウ素やリンをドープして導電性を付与した単結晶、または多結晶の高純度Siを使用するのが一般的である。
【0007】
一方、これら汎用的な光学フィルターの形成には高い生産性が必要であることから、スパッタにおいても、高い成膜速度や、稼働率の向上が求められる。そのため、高パワー印加や、ターゲットメンテナンスサイクルを長期化するための厚いターゲットの使用など検討がされている。
【0008】
しかしながら、現状使用されている単結晶や、多結晶のSiターゲットでは、他のAlやTiの金属材料に比較して熱伝導率が低く、機械的特性として脆いため、スパッタリング時間の経過にともなうターゲット形態の変化や、高パワー印可などによって、容易に割れることがあった。
【0009】
割れの程度が比較的軽度でクラックが発生する程度でも、パーティクルやスプラッシュが発生し、微小な破片がスパッタ膜中にとりこまれ、ピンホールなどの欠陥としてあわられる。さらに高パワー印加においては大きく欠損して放電を持続することができなくなる場合もあった。さらに、このようなターゲットの割れは、ターゲットの厚さを厚くするほど顕著である。
【特許文献1】特開平11−242102号公報
【特許文献2】特開2004−126530号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は上記従来技術の不都合を解決するために創作されたものであり、その目的は、ターゲットの機械的強度を改善することで、高パワー印加で、かつ厚いターゲットにおいても、ターゲットの割れを抑制し、スパッタ膜の欠陥を低減することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、請求項1記載の発明は、透明基板上に第一の透明膜を成膜した後、前記第一の透明膜上に第二の透明膜を成膜し、反射防止膜を形成する反射防止膜の形成方法であって、前記第一、第二の透明膜のうち、いずれか一方の透明膜は他方の透明膜よりも屈折率が低い酸化ケイ素膜で構成され、前記酸化ケイ素膜の成膜は、Crと、Alとを含有するフェロシリコン材料のターゲットを、酸素ガスを含有する反応ガスが含有された減圧雰囲気中でスパッタリングする反射防止膜の形成方法である。
請求項2記載の発明は、請求項1記載の反射防止膜の形成方法であって、前記第一、第二の透明膜のうち、前記酸化ケイ素膜以外の透明膜は酸化ニオブ膜で構成され、前記透明基板の移動方向に沿って、Nb材料のターゲットと、前記フェロシリコン材料のターゲットを並べて配置し、酸素を含有する反応ガスを含む減圧雰囲気中で、前記フェロシリコン材料のターゲットと、前記Nb材料のターゲットをスパッタしながら、前記透明基板を移動させて、前記酸化ケイ素膜と前記酸化ニオブ膜とを形成する反射防止膜の形成方法である。
請求項3記載の発明は、透明基板上に第一の透明膜を成膜した後、前記第一の透明膜上に第二の透明膜を成膜し、反射防止膜を形成する反射防止膜の形成方法であって、前記第一、第二の透明膜のうち、いずれか一方の透明膜は他方の透明膜よりも屈折率が高い窒化ケイ素膜で構成され、前記窒化ケイ素膜の成膜は、Crと、Alとを含有するフェロシリコン材料のターゲットを、窒素ガスを含有する反応ガスが含有された減圧雰囲気中でスパッタリングする反射防止膜の形成方法である。
請求項4記載の発明は、透明基板上に第一の透明膜を成膜し、前記第一の透明膜上に第二の透明膜を成膜した後、前記第二の透明膜上に第三の透明膜を成膜し、反射防止膜を形成する反射防止膜の形成方法であって、前記第二の透明膜は、前記第一、第二の透明膜のうち、いずれか一方の透明膜よりは屈折率が高く、かつ、他方の透明膜よりは屈折率が低い酸化窒化ケイ素膜で構成され、前記酸化窒化ケイ素膜の成膜は、Crと、Alとを含有するフェロシリコン材料のターゲットを、酸素ガスと窒素ガスを含有する反応ガスが含有された減圧雰囲気中でスパッタリングする反射防止膜の形成方法である。
請求項5記載の発明は、請求項4記載の反射防止膜の形成方法であって、前記酸化窒化ケイ素膜の屈折率は1.7以上1.8以下である反射防止膜の形成方法である。
請求項6記載の発明は、請求項1乃至請求項5のいずれか1項記載の反射防止膜の形成方法であって、前記フェロシリコン材料のターゲットをスパッタする際に投入する電力密度を3W/cm2以上60W/cm2以下にする反射防止膜の形成方法である。
【0012】
尚、Alと、Crとを含有するフェロシリコン材料とは、Siを主成分とし、AlとCrとFeが含有されたシリコン材料のことである。
本発明は上記のように構成されており、屈折率が互いに異なる2種類の透明膜を第一、第二の透明膜とすると、第一、第二の透明膜を積層して、反射防止膜を形成するときに、第一、第二の透明膜のいずれか一方の成膜を、CrとAlとが含有されたフェロシリコン材料のターゲットを、酸素ガスを含有する反応ガス雰囲気でスパッタリングすれば、透明な酸化ケイ素膜が形成される。
【0013】
第一、第二の透明膜のうち、酸化ケイ素膜以外の膜は、例えば、Nbを主成分とするNb材料のターゲットと、酸素ガスを含有する反応ガスが供給された真空槽内部でスパッタリングし、酸化ニオブ膜を形成することが可能であり、酸化ケイ素膜と酸化ニオブ膜は同じ酸素ガスを用いて成膜される。従って、フェロシリコン材料のターゲットと、Nb材料のターゲットを、同じ真空槽内でスパッタリングすることが可能であり、透明基板を真空槽から取り出さずに連続して第一、第二の透明膜が形成できるので、第一、第二の透明膜が汚染され難い。
【0014】
第一、第二の成膜領域のうち、いずれか一方の領域をフェロシリコン材料のターゲットからのスパッタ粒子が到達する領域とし、他方の領域をNb材料のターゲットからのスパッタ粒子が到達する領域とすると、第一、第二の成膜領域を透明基板の移動方向に並べておき、各ターゲットをスパッタリングしながら透明基板を移動させれば、透明基板上に互いに屈折率の異なる第一、第二の透明膜が積層する。
【発明の効果】
【0015】
本発明に用いるシリコン材料のターゲットは、AlとCrとを含有するフェロシリコン材料で構成されており、このようなターゲットは耐久性が高いので、成膜速度を上げるために高い電力を投入したり、長時間の成膜を行うためにターゲットの厚さを10mmと厚くしても、ターゲット割れが起こりにくい。そのため、ターゲット割れに起因するスプラッシュやパーティクルが透明膜に混入しないので、膜質の良い反射防止膜が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
図1の符号1は本発明の成膜装置の一例を示している。この成膜装置1は真空槽2と、移動手段6と、1又は2以上の第一のターゲット21a、21bと、1又は2以上の第二のターゲット22a、22bとを有している。真空槽2は細長であって、その一端部に搬入室3が仕切りバルブ4aを介して接続されている。
【0017】
真空槽2には真空排気系9と第一、第二のガス供給系8a、8bが接続されている。後述する透明基板11の仕込み、取出し時以外は、仕切りバルブ4aは閉じられており、真空排気系9により真空槽2内部を高真空排気し、真空槽2内部が所定圧力以下に低下したところで、真空排気を続けながら、第一、第二のガス供給系8a、8bからスパッタガスであるArガスを供給し、真空槽2内部に所定圧力の成膜雰囲気を形成する。
【0018】
移動手段6は、搬入室3の内部と真空槽2の内部を移動可能なキャリア31と、該キャリア31に動力を供給して、キャリア31を水平移動させる不図示の搬送機構とを有している。
【0019】
図1の符号11は透明なガラス基板である透明基板を示しており、透明基板11はキャリア31に固定された後、該キャリア31と一緒に搬入室3内部に搬入される。
【0020】
搬入室3内部には予め所定圧力の真空雰囲気が形成されており、搬入室3内部の真空雰囲気と、真空槽2内部の成膜雰囲気が維持しながら仕切りバルブ4aを開け、キャリア31を搬入室3から真空槽2内部に移動させると、透明基板11がキャリア31と一緒に真空槽2内部に移動する。
【0021】
搬送機構は、キャリア31を真空槽2内部の同一直線上を往復移動させ、再び搬入室3へ戻すように構成されている。従って、透明基板11はキャリア31と一緒に真空槽2内部を往復移動する。
図1、2に示すように、ここでは第一のターゲット21a、21bと、第二のターゲット22a、22bは2個ずつ用いられている。
【0022】
2個の第一のターゲット21a、21bと、2個の第二のターゲット22a、22bは、真空槽2内を移動する透明基板11の上方位置に、搬入室3側から順番に並べられており、往動時には透明基板11が一方の第一のターゲット21aと、他方の第一のターゲット21bと、一方の第二のターゲット22aと、他方の第二のターゲット22bの真下位置を順番に通過し、復動時には、透明基板が他方の第二のターゲット22bと、一方の第二のターゲット22aと、他方の第一のターゲット21bと、一方の第一のターゲット21aの真下位置を順番に通過する。
【0023】
第一のターゲット21a、21bは、バッキングプレート28a、28bと電極26a、26bを介して第一の交流電源5aに接続され、第二のターゲット22a、22bは、バッキングプレート29a、29bと、電極27a、27bを介して第二の交流電源5bに接続されている。
【0024】
第一の交流電源5aは、2つの第一のターゲット21a、21bのうち、一方の第一のターゲットが正電位に置かれ、他方の第一のターゲットが負電位に置かれるような交流電圧を印加するように設定されており、正電位に置かれた第一のターゲットは負電位に置かれた第一のターゲットに対してアノード電極となり、負電位に置かれた第一のターゲットはスパッタされる。
【0025】
第一の交流電源5aは2つの第一のターゲット21a、21bの電位が所定周波数で切り替わるように設定されているので、2つの第一のターゲット21a、21bは交互にスパッタされる。
【0026】
他方、第二の交流電源5bは、第一の交流電源5aと同様に、2つの第二のターゲット22a、22bのうち、一方の第二のターゲット22aが正電位に置かれ、他方の第二のターゲット22bが負電位に置かれるような交流電圧を印加し、2の第二のターゲット21a、21bの電位が所定周波数で切り替わるように設定されているので、2つの第二のターゲット21a、21bも交互にスパッタされる。従って、2つの第一のターゲット21a、21bと、2つの第二のターゲット22a、22bは、結局全てスパッタされることになる。
【0027】
2つの第一のターゲット21a、21bはそれぞれ同じシリコン材料で構成され、2つの第二のターゲット22a、22bはそれぞれ同じNb材料で構成されている。
従って、透明基板11が2つの第一のターゲット21a、21bと対向する第一の成膜領域35を通過する時には、透明基板11上にシリコン材料のスパッタ粒子が到達し、2つの第二のターゲット22a、22bと対向する第二の成膜領域36を通過する時には、透明基板11上にNb材料のスパッタ粒子が到達する。
【0028】
第一のガス供給系8aは、スパッタガスと一緒に反応ガス(O2ガス)を第一のターゲット21a、21bの近傍位置に供給し、第二のガス供給系8bは、スパッタガスと一緒に第一のガス供給系8aと同じ反応ガスを、第二のターゲット22a、22bの近傍位置に供給するようになっている。
【0029】
従って、透明基板11の往動時に第一、第二のターゲット21a、21b、22a、22bのスパッタリングを行うと、透明基板11が第一の成膜領域35を通過する時に、シリコン材料と反応ガスとの反応物(SiO2)が堆積して、透明基板11表面に透明な酸化ケイ素膜(第一の透明膜)が成膜され、第二の成膜領域36を通過する時にNb材料と反応ガスとの反応物(Nb25)が堆積して、第一の透明膜の表面に、第一の透明膜よりも光の屈折率が高い透明な酸化ニオブ膜(第二の透明膜)が成膜される。
【0030】
透明基板11上に第二の透明膜を形成した後、第一、第二のターゲット21a、21b、22a、22bのスパッタリングを停止し、透明基板11を復動させれば、透明基板11は新たな膜が形成されずに真空槽2の搬入室3側の端部に戻り、キャリア31と一緒に搬入室3に搬出される。
透明基板11はキャリア31と一緒に搬入室3に運ばれると、不図示の搬送ロボットによりキャリア31から持ち上げられて後処理が行われる。
【0031】
成膜後の透明基板が取り除かれた後のキャリア31には新たな透明基板11が載置される。新たな透明基板11と一緒にキャリア31を真空槽2内部に搬入し、第一、第二のターゲット21a、21b、22a、22bをスパッタリングしながら、透明基板11を往動させれば、その透明基板11上に第一、第二の透明膜が形成され、スパッタリングを停止して復動させれば、成膜後の透明基板11を成膜装置1から取り出すことができる。
【0032】
成膜後の透明基板11の搬出と、新たな透明基板11の搬入と、新たな透明基板11の真空槽2内部の往復を繰り返せば、複数の透明基板11の成膜処理を行うことができる。
複数の透明基板11の成膜を連続して行う場合には、第一、第二のターゲット21a、21a、22a、22bの厚さを10mm以上と厚くすれば、ターゲットの交換頻度を下がり、生産性が高くなる。
【0033】
従来用いられていた多結晶Siのようなシリコン材料のターゲットは、Nb材料や、Al材料や、Ti材料のような金属材料に比べて機械的強度に劣るので、成膜速度を上げるために高い電力密度の電力が印加されると、ターゲットが割れることがあり、その傾向は、ターゲットの厚さが10mm以上と厚い場合に特に顕著であった。
【0034】
本発明に用いられるシリコン材料は、AlとCrとを含有するフェロシリコン材料で構成されており、このようなフェロシリコン材料で構成された第一のターゲット21a、21bは機械的強度が高いので、10mm以上の厚さの第一のターゲット21a、21bに高い電力密度の電力を印加した場合であっても、割れやクラックが生じ難い。
【0035】
従って、本発明の成膜装置1では、第一のターゲット21a、21bの寿命が長いだけではなく、電力密度を高くし、シリコン酸化膜の成膜速度を早くすることも可能なので、生産性が非常に高い。
【0036】
また、第一のターゲット21a、21bの割れやクラックに起因するパーティクルやスプラッシュが発生しないため、それらのパーティクルやスプラッシュが第一、第二の透明膜に混入せず、高品質の反射防止膜が形成される。
【0037】
図3の符号10は、透明基板11上に第一、第二の透明膜13、14からなる反射防止膜15が形成された光学フィルターを示している。上述したように、反射防止膜15は互いに屈折率の異なる第一、第二の透明膜13、14で構成されており、光学設計の最適化により、空気と第二の透明膜14での反射光を、第二の透明膜14と、第一の透明膜13との界面での反射光、及び第一の透明膜13と透明基板14との界面での反射光とで、相殺的に干渉させることで、減衰させる。この光学フィルター10は、例えばLCD等の表示装置の反射防止フィルターとして用いることができる。
【実施例】
【0038】
〔電力密度試験〕
AlとCrとを含有するフェロシリコン材料のターゲットを、図1に示した成膜装置1の第一のターゲット21a、21bとして用い、酸化ケイ素を主成分とする第一の透明膜13の成膜を行った。第二の透明膜の成膜を行わずに、第一の透明膜13が形成された状態の透明基板11を成膜装置1から取り出した。
第一の透明膜13の成膜は、Arガスの圧力が0.4Pa、酸素ガスの供給流量が200sccmの条件で行った。
【0039】
第一の透明膜13の成膜を、第一のターゲット21a、21bに投入する電力密度を変えて行い、成膜された第一の透明膜13の表面と、成膜終了後の第一のターゲット21a、21bとを観察した。その結果を図4に示す。
【0040】
また、比較例として、上述した2つの第一のターゲット21a、21bの代わりに、多結晶シリコンにホウ素が添加された多結晶BドープSiターゲットを2つ用いた以外は、上記実施例と同じ条件で、酸化ケイ素を主成分とする第一の透明膜を形成した。比較例で成膜された第一の透明膜の表面と、成膜終了後の多結晶BドープSiターゲットとを観察し、その結果を図4に記載した。尚、比較例には分割ターゲットを用いており、図4に示した比較例のターゲット表面形態の中心の水平ラインは、ターゲットの分割部分を示す。
【0041】
図4を参照し、比較例では、電力密度が5kw/cm2を超えると、第一の透明膜の表面にターゲット割れ(クラック)が原因と考えられるピンホールが見られ、電力密度が14kw/cm2を超えると、ターゲットが割れて大きく欠損し、放電が持続できなくなったため、成膜が行われなかった。
【0042】
これに対し、実施例のターゲットを用いた場合では、50w/cm2の非常に高パワーを印加してもターゲットにクラックや割れが見られず、また、形成された第一の透明膜13においてピンホールはほとんど検出されなかった。
【0043】
以上は、シリコン材料で構成された第一のターゲット21a、21bと、Nb材料で構成された第二のターゲット22a、22bを用いて、第一の透明膜13と、第二の透明膜14を一層ずつ積層する場合について説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0044】
〔光学特性試験〕
透明基板11を上述した成膜装置1内で2回往復移動させ、復動時に第一、第二のターゲット21a、21b、22a、22bのスパッタリングを行い、透明基板11表面に、Nb25を主成分とする膜厚15nm(150Å)の第一の透明膜と、SiO2を主成分とする膜厚29nm(290Å)の第二の透明膜と、N25を主成分とする膜厚109nm(1090Å)の第一の透明膜と、SiO2を主成分とする膜厚87nm(870Å)の第二の透明膜とを記載した順番に積層し、4層構造の反射防止膜を形成し、実施例の光学フィルターを得た。尚、各第一、第二の透明膜の膜厚の制御は、膜厚を厚くするときには搬送速度を遅くし、膜厚を小さくするときには搬送速度を早くする搬送速度の調整によって行った。
【0045】
更に、実施例の第二のターゲットに変え、シリコンを主成分とし、ホウ素が添加されたホウ素ドープシリコンターゲットを用いた以外は、上記実施例と同じ条件で4層構造の反射防止膜を形成して比較例の光学フィルターを作製した。
【0046】
実施例と比較例の光学フィルターについて、透過率と反射率の測定を行った。その測定結果を図5〜8に示す。尚、図5、6の縦軸は透過率(%)を、図7、8の縦軸は反射率(%)を示し、図5〜8の横軸は入射光の波長(nm)を示す。
【0047】
図5〜8から明らかなように、従来のシリコンターゲットを用いた比較例に比べて、実施例の光学フィルターは若干の透過率の減少はあるが実用上問題のない反射防止特性を有していることがわかる。
【0048】
以上は、第一、第二のターゲットを構成する材料のうち、CrとAlとを含有するフェロシリコン材料以外の材料に、Nb材料を用いたが、本発明はこれに限定されるものではなく、該シリコン材料と反応ガスとの反応物の膜と、屈折率が異なる透明膜を形成可能なものであれば、Nb材料以外にも、例えば、Tiを主成分とするTi材料、Taを主成分とするTa材料等種々の金属材料を用いることができる。金属材料のターゲットは、フェロシリコン材料のターゲットとは異なる種類の反応ガスの存在下でスパッタリングを行ってもよい。
【0049】
また、反射防止膜15を構成する透明膜は、第一、第二の透明膜13、14の2種類に限定されず、上述した酸化ケイ素膜からなる透明膜を有するのであれば、互いに屈折率が異なる3種類以上の透明膜を積層して反射防止膜を形成してもよく、各透明膜の積層の順番と、数も特に限定されるものでない。
【0050】
以上は、同じ真空槽内部で2種類のターゲット(第一、第二のターゲット)をスパッタする場合について説明したが、本発明はこれに限定されず、各ターゲットを異なる真空槽内部でスパッタして透明膜の形成を行ってもよい。
CrとAlとを含有するフェロシリコン材料と、反応させる反応ガスの種類も酸素ガスに限定されるものではない。
【0051】
図9の符号54は、CrとAlとを含有するフェロシリコン材料のターゲットと、窒素ガスとを反応させて成膜した透明な窒化ケイ素膜(第二の透明膜)を示しており、第二の透明膜45は透明基板51表面に形成された第一の透明膜53表面に位置している。
【0052】
第一の透明膜53は、例えば酸化ケイ素(SiO2)膜のような低屈折率膜(屈折率約1.46)で構成されており、窒化ケイ素膜から第二の透明膜54の屈折率は約2.00なので、第一、第二の透明膜53、54の屈折率は互いに異なる。
従って、この光学フィルター50の反射防止膜55も、上述した光学フィルター10の反射防止膜15と同様に、反射防止効果がある。
【0053】
窒化ケイ素膜からなる透明膜と、該透明膜とは異なる屈折率の他の透明膜との積層順番は特に限定されず、窒化ケイ素膜からなる透明膜を透明基板上に形成した後、その透明基板上に他の透明膜を形成してもよい。また、窒化ケイ素膜からなる透明膜と、他の透明膜とをそれぞれ2層以上ずつ透明基板上に成膜し、反射防止膜を形成してもよく、その積層の順番も特に限定されるものではない。
【0054】
以上は、酸素ガスと窒素ガスのいずれか一方を含有する反応ガスの存在下で、フェロシリコン材料のターゲットをスパッタリングする場合について説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0055】
図10の符号63は、酸化ケイ素(SiO2)と、窒化ケイ素(SiN)の両方を含有する酸化窒化ケイ素膜で構成された第二の透明膜を示しており、第二の透明膜は、AlとCrとを含有するフェロシリコン材料のターゲットと、窒素ガスと酸素ガスの両方を含有する反応ガス中でスパッタリングして形成されている。
【0056】
ここでは、第二の透明膜63は透明基板11表面に形成された第一の透明膜62表面に位置し、第二の透明膜63の表面には第三の透明膜64が形成されている。例えば、第一の透明膜62は低屈折率膜である酸化ケイ素膜(屈折率約1.46)で構成されており、第三の透明膜64は高屈折率膜である窒化ケイ素膜(屈折率2.00)で構成されている。従って、この光学フィルター60の反射防止膜65も、上述した光学フィルター10、50と同様に、反射防止効果がある。
【0057】
以上は、窒化ケイ素と酸化ケイ素を含有する酸化窒化ケイ素膜を、互いに異なる屈折率を有する2種類の透明膜の間に形成する場合について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、酸化窒化ケイ素膜を透明基板11表面に形成してもよいし、反射防止膜65の最上層で露出させてもよい。 また、酸化窒化ケイ素膜以外の透明膜の種類は2種類に限定されず、酸化窒化ケイ素膜と、他の1種類の透明膜とで反射防止膜を構成してもよいし、酸化窒化ケイ素膜と、他の3種類以上の透明膜とで反射防止膜を形成してもよい。
【0058】
1つの反射防止膜を構成する酸化窒化ケイ素膜の数と、他の各透明膜の数はそれぞれ1つに限定されず、酸化窒化ケイ素膜と、各透明膜をそれぞれ2層以上積層させて1つの反射防止膜を構成してもよく、また、その積層の順番も特に限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明の成膜装置の一例の断面図
【図2】本発明の成膜装置の一例の平面図
【図3】反射防止膜が形成された状態の透明基板を説明する断面図
【図4】電力密度試験の結果を示す図
【図5】実施例の光学フィルターの透過率と波長の関係を示すグラフ
【図6】比較例の光学フィルターの透過率と波長の関係を示すグラフ
【図7】実施例の光学フィルターの反射率と波長の関係を示すグラフ
【図8】比較例の光学フィルターの反射率と波長の関係を示すグラフ
【図9】本発明の第二の方法で作成された光学フィルターを説明する断面図
【図10】本発明の第三の方法で作成された光学フィルターを説明する断面図
【符号の説明】
【0060】
1……成膜装置 2……真空槽 6……移動手段 10、50、60……光学フィルター 11……透明基板 15、55、65……反射防止膜 21a、21b……第一のターゲット 22a、22b……第二のターゲット 35……第一の成膜領域 36……第二の成膜領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明基板上に第一の透明膜を成膜した後、前記第一の透明膜上に第二の透明膜を成膜し、反射防止膜を形成する反射防止膜の形成方法であって、
前記第一、第二の透明膜のうち、いずれか一方の透明膜は他方の透明膜よりも屈折率が低い酸化ケイ素膜で構成され、
前記酸化ケイ素膜の成膜は、Crと、Alとを含有するフェロシリコン材料のターゲットを、酸素ガスを含有する反応ガスが含有された減圧雰囲気中でスパッタリングする反射防止膜の形成方法。
【請求項2】
前記第一、第二の透明膜のうち、前記酸化ケイ素膜以外の透明膜は酸化ニオブ膜で構成され、
前記透明基板の移動方向に沿って、Nb材料のターゲットと、前記フェロシリコン材料のターゲットを並べて配置し、
酸素を含有する反応ガスを含む減圧雰囲気中で、前記フェロシリコン材料のターゲットと、前記Nb材料のターゲットをスパッタしながら、前記透明基板を移動させて、前記酸化ケイ素膜と前記酸化ニオブ膜とを形成する請求項1記載の反射防止膜の形成方法。
【請求項3】
透明基板上に第一の透明膜を成膜した後、前記第一の透明膜上に第二の透明膜を成膜し、反射防止膜を形成する反射防止膜の形成方法であって、
前記第一、第二の透明膜のうち、いずれか一方の透明膜は他方の透明膜よりも屈折率が高い窒化ケイ素膜で構成され、
前記窒化ケイ素膜の成膜は、Crと、Alとを含有するフェロシリコン材料のターゲットを、窒素ガスを含有する反応ガスが含有された減圧雰囲気中でスパッタリングする反射防止膜の形成方法。
【請求項4】
透明基板上に第一の透明膜を成膜し、前記第一の透明膜上に第二の透明膜を成膜した後、前記第二の透明膜上に第三の透明膜を成膜し、反射防止膜を形成する反射防止膜の形成方法であって、
前記第二の透明膜は、前記第一、第二の透明膜のうち、いずれか一方の透明膜よりは屈折率が高く、かつ、他方の透明膜よりは屈折率が低い酸化窒化ケイ素膜で構成され、
前記酸化窒化ケイ素膜の成膜は、Crと、Alとを含有するフェロシリコン材料のターゲットを、酸素ガスと窒素ガスを含有する反応ガスが含有された減圧雰囲気中でスパッタリングする反射防止膜の形成方法。
【請求項5】
前記酸化窒化ケイ素膜の屈折率は1.7以上1.8以下である請求項4記載の反射防止膜の形成方法。
【請求項6】
前記フェロシリコン材料のターゲットをスパッタする際に投入する電力密度を3W/cm2以上60W/cm2以下にする請求項1乃至請求項5のいずれか1項記載の反射防止膜の形成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−106239(P2006−106239A)
【公開日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−290979(P2004−290979)
【出願日】平成16年10月4日(2004.10.4)
【出願人】(000231464)株式会社アルバック (1,740)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】