説明

収差補正方法、この収差補正方法を用いたレーザ加工方法、この収差補正方法を用いたレーザ照射方法、収差補正装置、及び、収差補正プログラム

【課題】媒質に対するレーザ照射位置が深くても、レーザ光の集光度合を高めることが可能な収差補正方法を提供する。
【解決手段】本発明の一実施形態に係る収差補正方法では、光透過性を有する媒質60内部にレーザ光を集光するレーザ照射装置1の収差補正方法において、レーザ光の集光点が前記媒質内部に発生する収差範囲の間に位置するように、レーザ光の収差を補正することを特徴とする。この収差範囲は、媒質60の屈折率をn、媒質60の入射面からレンズ50の焦点までの深さをd、媒質60によって発生する収差をΔsとすると、媒質60の入射面からn×d以上n×d+Δs以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ照射装置の収差を補正する収差補正方法、この収差補正方法を用いたレーザ加工方法、この収差補正方法を用いたレーザ照射方法、収差補正装置、及び、収差補正プログラムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
レーザ照射装置は、レーザ加工装置や顕微鏡などの様々な光学装置に用いられている。このレーザ照射装置を用いたレーザ加工装置では、空間光変調器(以下、SLMという。)を備えるものがある。下記特許文献1〜5には、SLMを備えるレーザ加工装置が開示されている。
【0003】
特許文献1及び2に記載のレーザ加工装置は、SLMを用いて、加工対象物に対するレーザ光の照射位置を制御しており、特許文献3に記載のレーザ加工装置は、SLMを用いてレーザ光を制御している。また、特許文献4に記載のレーザ加工装置は、レーザ光の波面の歪みを計測する手段を有し、計測した波面歪みをSLMを用いて補正している。しかし、この方法では波面の歪みを計測する手段が必要であり、光学系が複雑になる上、レーザー加工など波面の歪みを計測できない応用には適用できないという問題がある。
【0004】
また、特許文献5には、レーザ光を透明媒質に集光すると収差が発生し、深さ方向に加工点が長くなる問題点が記載されており、特許文献5に記載のレーザ加工装置は、媒質の分散等により発生する色収差や回折素子での波長による光路変化を積極的に利用し、光源波長の波長ごとの強度を調整することにより加工位置の制御を行っている。
【0005】
また、特許文献6には、既知の収差の逆の位相分布を入射光にSLM等の波面制御素子で与えることによって、収差を補正する方法が記述されている。ここで、非特許文献1では、平行平面基板を光学系に挿入することによって発生する球面収差を近軸近似のもとで解析的に求めている。レーザ光を透明媒質に集光することは、平行平面基板を光学系に挿入することと同等なので、非特許文献1に記載されている結果を、特許文献6の方法における既知の収差として取り扱うことで、レーザ光を透明媒質に集光することによって発生する球面収差を補正することが可能である。しかし、この方法では収差の逆の位相分布の位相範囲が波面制御素子の性能を超えて大きくなるため、媒質に対するレーザ照射位置が深い場合に適用できないという問題がある。さらに、正確なレーザ照射位置が求められないという問題もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−68762号広報
【特許文献2】特開2006−119427号広報
【特許文献3】特開2002−207202号広報
【特許文献4】特開2006−113185号広報
【特許文献5】特開2005−224841号広報
【特許文献6】国際公開第2003/036368号パンフレット
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】久保田広、「光学」、岩波書店、1967年、p.128−127、p.300−301
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、レーザ加工装置には、更なる微細加工が行えることが望まれている。例えば、光導波路等の改質層を形成する場合には、集光点が極力小さいものが望まれている。しかしながら、加工位置が深くなると、収差によって集光領域が伸張するため、良好な加工状態を維持することが困難となる。
【0009】
そこで、本発明は、媒質に対するレーザ照射位置が深くても、レーザ光の集光度合を高めることが可能な収差補正方法、この収差補正方法を用いたレーザ加工方法、この収差補正方法を用いたレーザ照射方法、収差補正装置、及び、収差補正プログラムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、媒質に対するレーザ照射位置が深くなると、レーザ光を補正するための波面のPV(peak to valley)値(PV値とは波面収差の最大値と最小値との差であり、位相変調量の大きさに相当する。)が大きくなり、空間光変調器などの波面を制御する素子の性能を超えるために、収差を十分に補正できなくなることを見出した。波面を制御できる空間光変調器には、独立した画素に電圧を印加する位相変調型の空間光変調器や、膜ミラーをアクチュエータで変形させる可変鏡などがある。一般に、独立した画素に電圧を印加する位相変調型の空間光変調器で物理的に与えることの出来る位相変調範囲は2π〜6π程度である。この範囲を物理的位相変調範囲と呼ぶことにする。しかし、位相折り畳み技術(Phasewrapping)を用いることで、実効的な位相変調範囲を数十波長程度に広げることができる。位相折り畳み技術によって、広げられた実効的な位相変調範囲を実効的位相変調範囲と呼ぶことにする。位相折り畳み技術とは、位相0と2nπ(nは整数)が同値であることを利用して、物理的位相変調範囲を超える値を有する位相分布を、物理的位相変調範囲内に折りたたむ技術である。しかし、レーザ光を補正するための波面において、空間光変調器における隣接する画素間の位相変調量の差が、物理的位相変調範囲を超えると位相折り畳み技術を適用できなくなる。そのため、空間光変調器における隣接する画素間の位相変調量の差が物理的位相変調範囲を超えると、収差を補正するための波面を十分に再現しきれず、集光度合が低下し、良好な加工が困難であった。可変鏡などの他の空間光変調器においては、物理的位相変調範囲は独立した画素に電圧を印加する位相変調型の空間光変調器よりも大きいが、それでも変調できる位相範囲に限界があるため、レーザ照射位置が深くなると、収差を十分に補正できなくなる。なお、可変鏡の場合、空間的に連続した位相分布しか変調できず、位相折り畳み技術を適用できないため、物理的位相変調範囲が実効的位相変調範囲に等しい。
【0011】
そして、本願発明者らは、補正後のレーザ光の集光点の光軸方向の位置が、補正前の近軸光線の集光点の光軸方向の位置と補正前の最外縁光線の集光点の光軸方向の位置との間の範囲、すなわち媒質内部で縦収差が存在する範囲の間にあるように、レーザ光の収差を補正すると、収差補正のために与える波面変調のPV値が低減されることを見出した。収差補正のための波面変調のPV値が低減される結果、集光位置が深い場合においても、空間光変調器における隣接する画素間の位相変調量の差が小さくなり、位相折り畳み技術を適用できるようになる。以降では、位相折り畳みを適用する前の収差補正のための波面変調パターンを補正波面と呼び、それに位相折り畳みを適用したパターンを収差補正位相パターンと呼ぶことにする。
【0012】
そこで、本発明の収差補正方法では、光透過性を有する媒質内部にレーザ光を集光するレーザ照射装置の収差補正方法において、レーザ光の集光点が媒質内部に発生する収差範囲の間に位置するように、レーザ光の収差を補正することを特徴とする。ここで、レーザ光の集光点が媒質内部に発生する収差範囲の間に位置するとは、収差を補正しないときに媒質内部で縦収差が存在する範囲の間に位置することを意味する。
【0013】
この収差補正方法によれば、レーザ光の集光点が、媒質内部に発生する収差範囲の間に位置するように、すなわち、収差を補正しないときに媒質内部で縦収差が存在する範囲の間に位置するように、レーザ光の収差を補正するので、波面のPV値を低減することができる。その結果、位相変調量に制限がある空間光変調器を用いても、収差補正のための位相変調量を低減させることで、空間光変調器の負担を減らし、高精度な波面制御を可能とする。その結果、媒質に対するレーザ照射位置が深くても、レーザ光の集光度合を高めることができ、良好な加工状態を維持することが可能である。
【0014】
上記したレーザ照射装置は、媒質内部にレーザ光を集光するための集光手段を備えており、媒質の屈折率をn、媒質の屈折率nが集光手段雰囲気媒質の屈折率に等しいと仮定した場合における媒質の入射面から集光手段の焦点までの深さ(以下、媒質移動量とする。)をd、媒質によって発生する縦収差の最大値をΔsと定義すると、上記した縦収差範囲はおおむね媒質の入射面からn×d以上n×d+Δs以下であり、上記した収差補正方法では、レーザ光の集光点が媒質の入射面からn×dより大きく、n×d+Δsより小さい範囲に位置するように、レーザ光の収差を補正することを特徴とする。
【0015】
また、上記したレーザ照射装置は、媒質内部にレーザ光を集光するための集光レンズと、レーザ光の収差を補正するための空間光変調器とを備えており、上記した収差補正方法では、集光レンズの入射部に対応する空間光変調器上の任意の画素における位相変調量と、上記画素に隣接する画素における位相変調量との位相差が位相折り畳み技術を適用できる位相範囲以下であることを特徴とする。
【0016】
この構成によれば、隣接する画素間の位相差が小さくなるので、物理的位相変調範囲に限界がある空間光変調器での位相折り畳みの実現を可能にし、高精度な波面制御を可能とする。
【0017】
また、上記した収差補正方法では、補正波面の位相値が極大点及び極小点を有するように、前記レーザ光の集光点を設定することを特徴とする。
【0018】
このように、補正波面の位相値が極大点及び極小点を有するように集光点を設定することによって、補正波面のPV値を低減することが可能となる。
【0019】
本発明のレーザ加工方法は、レーザ光を生成する光源と、光源からのレーザ光の位相を変調するための空間光変調器と、空間光変調器からのレーザ光を加工対象物内部における加工位置に集光するための集光レンズとを備えるレーザ加工装置のレーザ加工方法において、加工対象物内部における加工位置を設定し、加工位置が、収差を補正しないときに加工対象物内部で縦収差が存在する範囲の間に位置するように、加工対象物の相対移動量を設定し、加工位置にレーザ光が集光するように補正波面を算出して、空間光変調器に表示し、加工対象物と集光レンズとの距離が相対移動量となるように、集光位置を相対的に移動し、光源からのレーザ光を加工対象物における加工位置へ照射する。
【0020】
このレーザ加工方法によれば、加工位置が、収差を補正しないときに加工対象物内部で縦収差が存在する範囲の間に位置するように設定され、空間光変調器によって、この加工位置にレーザ光の集光点が位置するように、レーザ光の収差が補正されるので、波面のPV値を低減することができる。その結果、位相変調量に制限がある空間光変調器を用いても、収差補正のための位相変調量を低減させることで、空間光変調器の負担を減らし、高精度な波面制御を可能とする。その結果、加工対象物に対するレーザ照射位置が深くても、レーザ光の集光度合を高めることができ、良好な加工状態を維持することが可能である。
【0021】
また、本発明のレーザ照射方法は、レーザ光を生成する光源と、光源からのレーザ光の位相を変調するための空間光変調器と、空間光変調器からのレーザ光を媒質内部の所定の集光位置に集光するための集光レンズとを備える媒質内レーザ集光装置のレーザ照射方法において、媒質内部における集光位置を設定し、集光位置が、収差を補正しないときに媒質内部で縦収差が存在する範囲の間に位置するように、媒質の相対移動量を設定し、集光位置にレーザ光が集光するように補正波面を算出して、空間光変調器に表示し、媒質と集光レンズとの距離が相対移動量となるように、集光位置を相対的に移動し、光源からのレーザ光を媒質における集光位置へ照射する。
【0022】
このレーザ照射方法によれば、集光位置が、収差を補正しないときに媒質内部で縦収差が存在する範囲の間に位置するように設定され、空間光変調器によって、この集光位置にレーザ光の集光点が位置するように、レーザ光の収差が補正されるので、波面のPV値を低減することができる。その結果、位相変調量に制限がある空間光変調器を用いても、収差補正のための位相変調量を低減させることで、空間光変調器の負担を減らし、高精度な波面制御を可能とする。その結果、媒質に対するレーザ照射位置が深くても、レーザ光の集光度合を高めることができ、良好な集光状態を維持することが可能である。
【0023】
また、本発明の別の収差補正方法は、光透過性を有する媒質内部にレーザ光を集光するレーザ照射装置の収差補正方法において、(a)レーザ光の集光点が、収差を補正しないときに媒質内部で縦収差が存在する範囲の間に位置するように、レーザ光の収差を補正するための補正波面であって、媒質内部の複数の加工位置にそれぞれ対応する複数の当該補正波面と、媒質内部の複数の加工位置にそれぞれ対応する複数の媒質表面から媒質がないときの集光点の位置までの距離(媒質移動量)とを求める第1の補正波面生成ステップと、(b)複数の媒質表面から媒質がないときの集光点の位置までの距離の高次多項式近似を行うことによって第1の高次多項式を求める第1の多項式近似ステップと、(c)複数の補正波面の高次多項式近似をそれぞれ行うことによって複数の第2の高次多項式を求める第2の多項式近似ステップと、(d)複数の第2の高次多項式における同一次数項の係数からなる複数の係数列の高次多項式近似をそれぞれ行うことによって、加工位置をパラメータとする複数の第3の高次多項式を求める第3の多項式近似ステップと、(e)第1の高次多項式における複数の次数項の係数と、複数の第3の高次多項式における複数の次数項の係数とを記憶する記憶ステップと、(f)第1の高次多項式における複数の次数項の係数と、第1の高次多項式と、複数の第3の高次多項式における複数の次数項の係数及び複数の第3の高次多項式を用いて、複数の第2の高次多項式に相当する任意の加工位置の第2の高次多項式を求め、当該第2の高次多項式を用いて当該任意の加工位置の補正波面を求める第2の補正波面生成ステップと、を含むことを特徴とする。
【0024】
また、本発明の収差補正装置は、光透過性を有する媒質内部にレーザ光を集光するレーザ照射装置のための収差補正装置において、(a)レーザ光の集光点が、収差を補正しないときに媒質内部で縦収差が存在する範囲の間に位置するように、レーザ光の収差を補正するための補正波面であって、媒質内部の複数の加工位置にそれぞれ対応する複数の当該補正波面と、媒質内部の複数の加工位置にそれぞれ対応する複数の媒質表面から媒質がないときの集光点の位置までの距離(媒質移動量)とを求める第1の補正波面生成手段と、(b)複数の媒質表面から媒質がないときの集光点の位置までの距離の高次多項式近似を行うことによって第1の高次多項式を求める第1の多項式近似手段と、(c)複数の補正波面の高次多項式近似をそれぞれ行うことによって複数の第2の高次多項式を求める第2の多項式近似手段と、(d)複数の第2の高次多項式における同一次数項の係数からなる複数の係数列の高次多項式近似をそれぞれ行うことによって、加工位置をパラメータとする複数の第3の高次多項式を求める第3の多項式近似手段と、(e)第1の高次多項式における複数の次数項の係数と、複数の第3の高次多項式における複数の次数項の係数を記憶する記憶手段と、(f)第1の高次多項式における複数の次数項の係数と、第1の高次多項式と、複数の第3の高次多項式における複数の次数項の係数及び複数の第3の高次多項式を用いて、複数の第2の高次多項式に相当する任意の加工位置の第2の高次多項式を求め、当該第2の高次多項式を用いて当該任意の加工位置の補正波面を求める第2の補正波面生成手段と、を備えることを特徴とする。
【0025】
また、本発明の収差補正プログラムは、光透過性を有する媒質内部にレーザ光を集光するレーザ照射装置のための収差補正プログラムにおいて、コンピュータを、(a)レーザ光の集光点が、収差を補正しないときに媒質内部で縦収差が存在する範囲の間に位置するように、レーザ光の収差を補正するための補正波面であって、媒質内部の複数の加工位置にそれぞれ対応する複数の当該補正波面と、媒質内部の複数の加工位置にそれぞれ対応する複数の媒質表面から媒質がないときの集光点の位置までの距離(媒質移動量)とを求める第1の補正波面生成手段と、(b)複数の媒質表面から媒質がないときの集光点の位置までの距離の高次多項式近似を行うことによって第1の高次多項式を求める第1の多項式近似手段と、(c)複数の補正波面の高次多項式近似をそれぞれ行うことによって複数の第2の高次多項式を求める第2の多項式近似手段と、(d)複数の第2の高次多項式における同一次数項の係数からなる複数の係数列の高次多項式近似をそれぞれ行うことによって、加工位置をパラメータとする複数の第3の高次多項式を求める第3の多項式近似手段と、(e)第1の高次多項式における複数の次数項の係数と、複数の第3の高次多項式における複数の次数項の係数を記憶する記憶手段と、(f)第1の高次多項式における複数の次数項の係数と、第1の高次多項式と、複数の第3の高次多項式における複数の次数項の係数及び複数の第3の高次多項式を用いて、複数の第2の高次多項式に相当する任意の加工位置の第2の高次多項式を求め、当該第2の高次多項式を用いて当該任意の加工位置の補正波面を求める第2の補正波面生成手段と、として機能させる。
【0026】
これらの別の収差補正方法、本発明の収差補正装置及び収差補正プログラムによれば、レーザ光の集光点が、収差を補正しないときに媒質内部で縦収差が存在する範囲の間に位置するようにレーザ光の収差を補正するための補正波面を予め求め、この補正波面の高次多項式近似による近似式を用いて任意の加工位置における補正波面を求めるので、この任意の加工位置の補正波面は、レーザ光の集光点が、収差を補正しないときに媒質内部で縦収差が存在する範囲の間に位置するようにレーザ光の収差を補正することができ、波面のPV値を低減することができる。その結果、位相変調量に制限がある空間光変調器を用いても、収差補正のための位相変調量を低減させることで、空間光変調器の負担を減らし、高精度な波面制御を可能とする。その結果、媒質に対するレーザ照射位置が深くても、レーザ光の集光度合を高めることができ、良好な加工状態を維持することが可能である。
【0027】
ここで、収差の形状や大きさは集光位置により異なるので、加工の深さ(加工位置)を変更する加工では、その都度、補正波面を求め直す必要があり、その算出時間が大きかった。例えば、レーザ光の集光点が、収差を補正しないときに媒質内部で縦収差が存在する範囲の間に位置するように補正波面を求めるためには、複数のパラメータに関して多重の探索を行うことによって適切な値を導き出す必要があり、多大な計算時間を要していた。その結果、加工の深さを変えながら加工を行う場合には、加工中の探索処理により、加工レートの低下を招いてしまうこととなる。
【0028】
しかしながら、これらの別の収差補正方法、本発明の収差補正装置及び収差補正プログラムによれば、複数の加工位置に対する補正波面を予め求め、これらの補正波面の高次多項式近似を行っているので、この近似式による演算を行うだけで適切な補正波面を求めることができる。その結果、加工の深さを変更する際に補正波面を求め直す時間を短縮することができ、加工レートの低下を低減することができる。また、上記した探索処理により実際に求めた加工位置と異なる任意の加工位置に対しても、適切な補正波面を求めることができる。
【0029】
また、本発明の更に別の収差補正方法では、光透過性を有する媒質内部に照射光を集光する光照射装置の収差補正方法において、照射光の集光点が、収差を補正しないときに媒質内部で縦収差が存在する範囲の間に位置するように、照射光の収差を補正することを特徴とする。
【0030】
この収差補正方法によれば、照射光の集光点が、収差を補正しないときに媒質内部で縦収差が存在する範囲の間に位置するように、照射光の収差を補正するので、波面のPV値を低減することができる。その結果、位相変調量に制限がある空間光変調器を用いても、収差補正のための位相変調量を低減させることで、空間光変調器の負担を減らし、高精度な波面制御を可能とする。その結果、媒質に対する光照射位置が深くても、照射光の集光度合を高めることができ、良好な加工状態を維持することが可能である。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、媒質に対するレーザ照射位置が深くても、レーザ光の集光度合を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】第1の実施形態に係るレーザ加工装置(レーザ照射装置、レーザ集光装置)の構成を示す図である。
【図2】集光光学系に平行平面が挿入された場合のレーザ光の光路を示す図である。
【図3】集光点が平行平面内部にある場合のレーザ光の光路を示す図である。
【図4】図3に示す集光光学系における補正波面の位相変調量を示す図である。
【図5】本発明の第1の実施形態に係る収差補正方法、レーザ加工方法及びレーザ照射方法を説明するためのレーザ光の光路を示す図である。
【図6】図5に示す集光光学系における補正波面の位相変調量を示す図である。
【図7】本発明の第1の実施形態に係る収差補正方法、レーザ加工方法及びレーザ照射方法の手順を示すフローチャートである。
【図8】第1の実施形態の収差補正方法を用いた加工対象物における集光状態の計測結果を示す。
【図9】第2の実施形態に係るレーザ加工装置(レーザ照射装置、レーザ集光装置)、及び、本発明の実施形態に係る収差補正装置の構成を示す図である。
【図10】第1の補正波面生成手段によって生成される複数の補正波面の位相変調量を示す図である。
【図11】第2の多項式近似手段によって求められる複数の第2の高次多項式を示す図である。
【図12】図11に示す複数の第2の高次多項式における同一次数項の係数からなる複数の係数列をグラフ化した図である。
【図13】第3の多項式近似手段によって求められる複数の第3の高次多項式を示す図である。
【図14】図13に示す複数の第3の高次多項式における複数の次数項の係数、及び、第1の高次多項式における係数列であって、記憶手段に記憶される係数データセットを示す図である。
【図15】本発明の第2の実施形態に係る収差補正方法を示すフローチャートである。
【図16】本発明の実施形態に係る収差補正プログラムの構成を、記録媒体と共に示す図である。
【図17】記録媒体に記録されたプログラムを実行するためのコンピュータのハードウェア構成を示す図である。
【図18】記録媒体に記憶されたプログラムを実行するためのコンピュータの斜視図である。
【図19】本発明の変形例に係る収差補正装置及びレーザ加工装置の構成を示す図である。
【図20】本発明の変形例に係る収差補正装置及びレーザ加工装置の構成を示す図である。
【図21】第2の実施形態の収差補正方法による補正波面の位相変調量を示す図である。
【図22】図21に示す補正波面を用いた加工対象物における集光状態の計測結果を示す図である。
【図23】従来のレーザ加工後に切断した加工対象物60の切断面の観察結果である。
【図24】第1の実施形態の収差補正方法を用いたレーザ加工後に切断した加工対象物60の切断面の観察結果である。
【図25】第2の実施形態の収差補正方法を用いたレーザ加工後に切断した加工対象物60の切断面の観察結果である。
【図26】本発明の収差補正方法を用いた光照射装置の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、各図面において同一又は相当の部分に対しては同一の符号を附すこととする。
[第1の実施形態]
【0034】
まず、本発明の第1の実施形態に係る収差補正方法、レーザ加工方法及びレーザ照射方法を説明する前に、この収差補正方法を用いるレーザ加工装置(レーザ照射装置、レーザ集光装置)について示す。
【0035】
図1は、第1の実施形態に係るレーザ加工装置(レーザ照射装置、レーザ集光装置)の構成を示す図である。図1に示すレーザ加工装置1は、光源10、レンズ20、ミラー30、空間光変調器(以下、SLMという。)40、対物レンズ(集光手段、集光レンズ)50を備えている。なお、図1には、加工対象物60と、この加工対象物60におけるレーザ光の集光状態を計測するための計測系70が示されている。
【0036】
光源10は、レーザ光を出力する。レンズ20は、例えば、コリメートレンズであり、光源10からのレーザ光を平行光に変換する。ミラー30は、レンズ20からのレーザ光をSLM40へ向けて反射させると共に、SLM40からのレーザ光を対物レンズ50へ向けて反射させる。SLM40は、例えば、LCOS−SLM(Liquid Crystal on Silicon - Spatial Light Modulator)であり、ミラー30からのレーザ光の位相を変調する。対物レンズ50は、ミラー30からのレーザ光を集光し、加工対象物60へ出射する。
【0037】
本実施形態では、加工対象物60におけるレーザ光の集光状態を、計測系70によって計測することができる。計測系70は、CCDカメラと対物レンズとを有している。
【0038】
次に、従来の球面収差補正方法の概念について説明する。
【0039】
図2は、集光光学系に平行平面が挿入された場合のレーザ光の光路を示す図である。図2に示すように、集光レンズ50による集光光学系に、平行平面状の光透過性を有する媒質60が挿入された場合、焦点がOからO’へとδだけずれる。この焦点ずれの値δは、集光レンズ50に入射する光の入射高Hによって変わる。このように入射光によって集光点位置が異なることにより、球面収差が発生することとなる。このとき、近軸光線の集光位置からの光軸方向のズレ量が、縦収差表現された球面収差(longitudinal spherical aberration)となり、最外縁光線でもっとも収差が大きくなる。このときの縦収差の最大値Δsは非特許文献1の第14−2節に記載の第(14−4)式を用いて、下記(1)式で表される。
【数1】


n:集光光学系における雰囲気媒質の屈折率
n’:媒質60の屈折率
d’:媒質60の厚さ
θmax:媒質60に対するレーザ光の入射角θであって、このレーザ光の最外縁光線の入射角(=arctan(NA))
なお、縦収差(longitudinal aberration)は、縦方向収差や縦光線収差(longitudinalray aberration)、縦方向誤差(longitudinal error)と表現されることもある。
【0040】
図3は、集光点が平行平面内部にある場合のレーザ光の光路を示す図である。図3に示すように、集光レンズ50による焦点Oが平行平面状の光透過性を有する媒質60内部にある場合、焦点がOからO’へとδだけずれる。この焦点ずれの値δは、集光レンズ50に入射する光の入射高Hによって変わるので、球面収差が発生することとなる。このときの縦収差の最大値Δsは非特許文献1の第14−2節に記載の第(14−3)式を変形して、下記(2)式で表される。
【数2】


n’:媒質60の屈折率
d:媒質移動量
θmax:媒質60に対するレーザ光の入射角θであって、このレーザ光の最外縁光線の入射角
【0041】
ここで、集光レンズ50の焦点距離をfとすると、上記(2)式の球面収差Δsより、波面収差E(h)は、非特許文献1の第28−1節に記載の第(28−6)式を用いて、下記(3)式で表される。
【数3】

【0042】
特許文献6によれば、上記(2)式の球面収差Δsを補正する場合には、集光前の波面、すなわち、集光レンズ50に入射する波面を、上記(3)式の波面収差E(h)とは逆の波面とすればよいこととなる。第1の実施形態のレーザ加工装置1では、上記(3)式の波面収差E(h)とは逆の波面に位相折り畳みを適用したものをSLM40の収差補正位相パターンとすればよい。このとき、縦収差の最大値Δsは近軸光線からの集光位置のズレ量で表されているため、補正後の集光点は、おおむね補正前の近軸光線の集光位置と一致することになる。ただし、収差を近似で求めているため、正確な集光位置は求まらない。
【0043】
例えば、レンズ50の焦点距離がf=4mm、加工対象物60の屈折率がn’=1.49、開口数がNA=0.8、レーザ波長が660nmであり、媒質移動量をd=0.9mmとした場合、補正後の集光深さは近似的に媒質移動量d×屈折率n’となり、媒質表面から1.34mmの位置となる。このときの補正波面は図4に示すような補正パターンとなり、補正波面の位相変調量が600radian以上となる。
【0044】
レーザ加工装置1による加工位置O’が深くなるほど、この球面収差Δsが大きくなるので、補正波面の位相変調量が膨大となり、SLM40の分解能が不足し、収差を補正することが困難となる。
【0045】
このように、波面収差を解析的に求めた上でその逆の位相分布を波面制御素子に与えて、各入射高に対する光線の集光点を、媒質移動量d×屈折率n’の位置に戻す補正では、すなわち、加工対象物60内部に発生する縦収差範囲において最も集光レンズ50側に合わせる補正では、収差を補正することが困難である。
【0046】
そこで、本発明の第1の実施形態に係る収差補正方法、レーザ加工方法及びレーザ照射方法では、レーザ光の集光点が加工対象物60内部に発生する収差範囲の間に位置するように、すなわち、収差を補正しないときに加工対象物60内部で縦収差が存在する範囲の間に位置するように、レーザ光の収差を補正する。換言すれば、レーザ光の集光点が、収差を補正しないときの光軸上の光線の奥行き方向の集光位置と収差を補正しないときの最外縁光線の奥行き方向の集光位置との間の範囲の間に位置するように、レーザ光の収差を補正する。そのために、第1の実施形態の収差補正方法、レーザ加工方法及びレーザ照射方法では、各光線の光路長差から補正波面を算出する。すなわち、特許文献6に記載のように収差を求めてその逆の位相分布を与えるのではなく、集光レンズ50に入射する光線が全て一点に集光すると仮定し、逆光線追跡によって補正波面を算出する。その際に、媒質移動量dを適切な値とすることで、補正波面のPV値を小さくし、物理的または実効的位相変調範囲が限定されている空間光変調器での深い位置での収差補正が可能になる。更に、正確な集光深さが決定できる。
【0047】
図5は、本発明の第1の実施形態に係る収差補正方法、レーザ加工方法及びレーザ照射方法を説明するためのレーザ光の光路を示す図である。図5に示すように、波面補正前の光線の加工対象物60への入射角をθ、波面補正後の光線の加工対象物60への入射角をθ、屈折角をθとすると、光軸の高さh、h、hはそれぞれ下記(4)式、(5)式、(6)式によって表される。尚、図5においては波面補正を行うことにより加工対象物60へのレーザ光の光路が波面補正前の光路と異なっている。
【数4】


【数5】


【数6】

【0048】
ここで、θとθはスネルの法則により一意に関係づけられ、θが与えられるとθを求めることが可能であり、逆にθが与えられてもθを求めることが可能である。また、h=h+hと、上記(4)〜(6)式により、入射角θ、θ、θが一意的に関係づけられる。ある特定のθあるいはθが与えられたとき、上記(4)式及び(5)式をh=h+hに代入し、上記(6)式を解くことで容易にθを決定することができる。しかし、ある特定のθが与えられたときに、θとθを解析的に求めるのは困難である。ある特定のθに対するθとθを求めるには、探索を行えばよい。例えば、θあるいはθの値を徐々に変化させて、その都度θを求め、所望のθとなるθあるいはθが得られるまで、θあるいはθを変化させて探索すればよい。
【0049】
一方、加工対象物60により生じる光路差OPD(optical pathdifference)は、下記(7)式により表される。
【数7】


なお、この(7)式中の「−f−(n−1)×d−Δ」は定数項であり、OPDの値が大きくなりすぎるのを防ぐために付加した項である。
【0050】
この(7)式から求められる補正波面のPV値を減少させるように、波面補正後の焦点ずれの値Δを適切な値とすることにより、球面収差を補正するための位相変調量が低減される。ここで、適切な焦点ずれの値Δは、例えば上記した探索によって求める。すなわち、焦点ずれの値Δを初期値n×d−dに設定し、徐々に変化させて、その都度OPD(θ)を求め、θmax≧θ≧−θmaxの範囲におけるOPD(θ)が所望の形状になるまでΔを徐々に変化せしめればよい。なお、d+Δは所望の集光深さであり固定値なので、探索の間はこの値が一定となるようにΔとdを変化させる。集光深さd+Δが固定値なので、Δが決定されれば、集光深さからΔを差し引くことにより媒質移動量dも決定される。固定値である集光深さ(加工位置)d+Δを以降は、Dと表記する。
【0051】
具体的には、集光レンズ50の入射部に対応するSLM40上の任意の画素における位相変調量と、この画素に隣接する画素における位相変調量との位相差が物理的位相変調量以下となるように、集光点シフト量Δ及び移動量dを決定する。なお、この補正後のレーザ光のシフト量Δは、0<Δ<Δsを満たすこととする。
【0052】
これにより、隣接する画素間の位相差が小さくなるので、物理的位相変調量に限界があるSLM40の負担を減らすことができる。
【0053】
これによって、加工対象物60の屈折率をn、媒質移動量をd、加工対象物60によって発生する縦収差の最大値をΔsとすると、レーザ光の集光点が、媒質の入射面からn×dより大きく、n×d+Δsより小さい位置、すなわち、n×d以上n×d+Δs以下の縦収差範囲の間に位置することとなる。
【0054】
なお、上記では集光レンズ50の入射部に対応するSLM40上の任意の画素における位相変調量と、この画素に隣接する画素における位相変調量との位相差が物理的位相変調量以下となるように、集光点シフト量Δを決定したが、この探索条件は曖昧であり、複数のΔが解になりうる。探索の終了判定を容易にするため、もっと具体的な探索条件に基づいて決定しても良い。例えば、θmax≧θ≧−θmaxの範囲におけるOPD(θ)のPV値が最小となるようにΔを決定してもよい。あるいは、θmax≧θ≧−θmaxの範囲におけるOPD(θ)の微分値の絶対値が最小となるようにΔを決定してもよい。なお、例に挙げた2つの条件はともに、最初のSLM40上の任意の画素における位相変調量とこの画素に隣接する画素における位相変調量との位相差が物理的位相変調量以下となるという条件に含まれるか、ほぼ等しい条件である。なお、探索条件としては、他にも、「OPD(θ)のRMS(Root Mean Square)値が最小となる」や、「媒質移動量dが、集光深さDを変数とする特定の関数で表される」など様々なものが考えられる。
【0055】
例えば、集光レンズ50の焦点距離がf=4mm、加工対象物60の屈折率がn=1.49、レーザ波長が660nm、開口数がNA=0.8であり、媒質移動量をd=0.81mmとした場合、OPD(θ)のPV値が最小となるように探索したときのΔは0.53mmとなり、また、補正波面は図6に示すような補正パターンとなり、補正波面の位相変調量が70radian程度に減少する。このときの集光深さは、D=1.34mmであり、従来法を用いた場合と同じ集光深さを実現しているにもかかわらず、位相変調量が少ないために、十分に収差が補正可能となる。
【0056】
図6によれば、この補正波面の位相値は、位置0mm、すなわち、光軸位置において極大点を有する。また、位置2mm及び−2mm付近に極小点を有する。このように、補正波面の位相値が極大点及び極小点を有するように集光点を設定することによって、補正波面のPV値を低減することが可能となる。
【0057】
図7は、第1の実施形態の収差補正方法、レーザ加工方法及びレーザ照射方法の手順を示すフローチャートである。まず、集光点を加工対象物60の表面に設定し、この位置を加工原点とする(ステップS01)。次に、加工対象物60内部における加工位置(深さ)を設定する(ステップS02)。
【0058】
次に、上記した探索条件に基づいて、加工対象物60の移動量dおよび集光点シフト量Δを設定する。これによって、加工位置が、収差を補正しないときに加工対象物60内部で縦収差が存在する範囲(加工対象物60の入射面からn×dより大きく、n×d+Δsより小さい範囲)の間に位置するように、加工対象物60の移動量dおよび集光点シフト量Δが設定される(ステップS03)。尚、移動量d及びシフト量Δは空間光変調器の最大変調量(空間光変調器の物理的位相変調範囲)以下となるように設定する。
【0059】
次に、ステップS02及びS03で設定された加工位置にレーザ光が集光するように補正波面を算出し、SLM40に表示する(ステップS04)。次に、加工対象物60を移動量dだけ移動する(ステップS05)。次に、レーザ光を照射し、加工を開始する。すると、SLM40の補正波面により、レーザ光が設定された加工位置に集光することとなる(ステップS06)。
【0060】
次に、加工終了時に、レーザ光照射を停止する(ステップS07)。他に加工位置がある場合にはステップS02に戻り、ない場合にはこの加工対象物60の加工を終了する(ステップS08)。
【0061】
尚、ステップS05においては、SLM40と集光レンズ50とで構成される集光光学系と加工対象物60との相対位置を変化させれば良いので、加工対象物60の移動の代わりに集光レンズ50を移動させても良いし、両者を移動させても良い。なお、集光レンズ50を移動させる場合において、集光レンズ50の入射瞳とSLM40とが結像関係にあるときには、集光光学系の単位で、すなわち、SLM40も共に移動する必要がある。
【0062】
また、ステップS01において、一旦加工用レーザ光を加工対象物60の表面に集光することで、加工原点を決定しているが、他の手段、例えばオートフォーカス装置などを用いて集光レンズと加工対象物との相対位置を決定してもよい。
【0063】
さらに、上記の例では独立した画素に電圧を印加する位相変調型の空間光変調器を用いて波面形状を制御しているが、可変鏡など他の空間光変調器を用いても良い。可変鏡などの位相変調範囲が2πなどの小さい範囲に限定されない空間光変調器を用いる場合には、補正波面をそのままの形で表現できるので、位相折り畳み処理を省略できる。
【0064】
第1の実施形態の収差補正方法、レーザ加工方法及びレーザ照射方法によれば、レーザ光の集光点が媒質60内部に発生する収差範囲の間に位置するように、すなわち、収差を補正しないときの媒質60内部での縦収差範囲の間に位置するように、レーザ光の収差を補正するので、波面のPV値を低減することができる。その結果、位相変調量に制限があるSLM40を用いても、補正波面のPV値を低減させることで、SLM40の負担を減らし、高精度な波面制御を可能とする。その結果、媒質60に対するレーザ照射位置が深くても、レーザ光の集光度合を高めることができ、良好な加工状態を維持することが可能である。
【0065】
このように、補正波面のPV値を低減することが可能となる位置に、レーザ光を集光する媒質(例えば、加工対象物等)60内での集光位置を移動するので、簡易な方法でSLM40の負担を減らしつつ、高精度な波面制御が可能となる。
【0066】
また、第1の実施形態の収差補正方法、レーザ加工方法及びレーザ照射方法によれば、集光レンズ50の入射部に対応するSLM40上の任意の画素における位相変調量と、この画素に隣接する画素における位相変調量との位相差がSLM40で位相折り畳み技術を適用できる位相範囲以下となる。したがって、物理的位相変調範囲に限界があるSLM40の負担を減らし、高精度な波面制御を可能とする。
そして、特許文献6のように収差を近似で求めているものでは正確な集光位置は求まらないが、本発明では正確な集光位置を求めることができる。
【0067】
図8に、加工対象物60における集光状態の計測結果を示す。図8(a)は補正前の集光状態の計測結果であり、図8(b)は第1の実施形態の補正後の集光状態の計測結果である。図8に示すように、従来法を用いた場合と同じ集光位置(1.34mm)を実現しているにもかかわらず、補正波面のPV値が小さいために、十分に収差が補正されていることがわかる。
【0068】
また、図23及び図24に、レーザ加工後に切断した加工対象物60の切断面の観察結果を示す。図23及び図24におけるレーザ加工では、方向Zからレーザ光を照射すると共に、レーザ光を加工対象物60に対して方向Yに走査して、3層の改質層60a,60b,60cを形成した。図23は、レーザ加工において本発明の第1の実施形態の収差補正方法を用いない場合の切断面、すなわち、図8(a)に示すように収差が十分に補正されていないレーザ光を用いたレーザ加工後の切断面である。一方、図24は、レーザ加工において本発明の第1の実施形態の収差補正方法を用いた場合の切断面、すなわち、図8(b)に示すように収差が十分に補正されたレーザ光を用いたレーザ加工後の切断面である。図23によれば、レーザ加工において収差補正が十分でないために、改質層60a,60b,60cが一様でなく、レーザ加工が不十分であることがわかる。一方、図24によれば、レーザ加工において収差補正が十分に行われたために、改質層60a,60b,60cが一様であり、レーザ加工が十分に行われていることがわかる。
【0069】
第1の実施形態の収差補正方法、レーザ加工方法及びレーザ照射方法を用いたレーザ加工装置1は、ガラスやシリコン、サファイア基板等の透過率の高い波長域を有する物質の内部加工に好適に適用可能である。特に、光導波路やアモルファス化、亀裂発生等の改質層を形成する場合に、加工位置が深くとも、空間光変調器によって収差を補正し、集光点を小さくすることができ、良好な加工状態を維持することが可能となる。
[第2の実施形態]
【0070】
上記した第1の実施形態の収差補正方法、レーザ加工方法及びレーザ照射方法では、図5に示す加工位置O’が変わると球面収差Δsが変わるので、加工位置O’を変更するたびに、上記(7)式による補正波面を求め直す必要があり、その算出時間が大きいことがある。
【0071】
具体的には、上記(7)式中のθ、θ、Δは、上記したように直接求めることが困難であり、Δの値を徐々に変化させて繰り返し補正波面を計算する探索によって求めることとなる。さらに、Δを変化させた探索の各回において、上記(7)式中のθもしくはθとθの値を上記した探索方法で求める必要がある。すなわち、2重の探索となっており、多大な計算時間を要することがある。
【0072】
その結果、加工の深さを変えながら加工を行う場合には、加工中の探索処理により、加工レートの低下を招いてしまうことがある。
【0073】
そこで、本願発明者らは、第1の実施形態の収差補正方法を用いて、すなわち、上記探索を用いて、位相変調量が小さい収差補正波面を予め求め、この収差補正波面の多項式近似を行った近似式を用いて、任意の加工位置における補正波面を求めることによって、時間短縮を図る収差補正方法を見出した。以下では、時間短縮を図る本発明の第2の実施形態に係る収差補正方法を説明する。
【0074】
まず、本発明の第2の実施形態に係る収差補正方法を説明する前に、この収差補正方法を用いるレーザ加工装置(レーザ照射装置、レーザ集光装置)について示す。
【0075】
図9は、第2の実施形態に係るレーザ加工装置(レーザ照射装置、レーザ集光装置)の構成を示す図である。図9に示すレーザ加工装置1Aは、第1の実施形態のレーザ加工装置1において制御部80と本発明の実施形態に係る収差補正装置90とを更に備える構成でレーザ加工装置1と異なっている。レーザ加工装置1Aのその他の構成はレーザ加工装置1と同一である。
【0076】
制御部80は、収差補正装置90から補正波面情報を受けて、SLM40の位相変調量を制御する。
【0077】
収差補正装置90は、例えばコンピュータであり、後述する収差補正プログラムを実行することによって、第1の補正波面生成部91と、第1の多項式近似部92と、第2の多項式近似部93と、第3の多項式近似部94と、記憶部95と、第2の補正波面生成部96と、として機能する。
【0078】
第1の補正波面生成部91は、対物レンズ50により定まる開口数NA及び焦点距離fと、加工対象物60の媒質により定まる屈折率nとを受ける。また、第1の補正波面生成部91は、加工の深さを変える加工において予め予想される加工の深さの範囲内及びこの範囲付近における複数の加工位置(集光の深さ)D、D、・・・D、・・・Dを受ける。これらの集光深さの個数と間隔は、後述する多項式近似が十分な精度で行えるように設定する。第1の補正波面生成部91は、第1の実施形態の収差補正方法に従い、上記(7)式及び上記(4)〜(6)式等を用いた探索によって、複数の加工位置D、D、・・・D、・・・Dにそれぞれ対応する複数の補正波面と複数の媒質移動量d、d、・・・d、・・・dを求める。すなわち、第1の補正波面生成部91は、レーザ光の集光点が、収差を補正しないときに媒質内部で縦収差が存在する範囲の間に位置し、補正波面の位相変調量が最小となるように、複数の加工位置D、D、・・・D、・・・Dにそれぞれ対応する複数の補正波面と複数の媒質移動量を求める。探索の際の探索条件には、1個の加工位置に対して補正波面と媒質移動量が一意に定まるような条件、例えば「補正波面のPV値が最小となるように」を適用する。このようにして求められた複数の補正波面の位相変調量Φ1x、Φ2x、・・・Φpx、・・・ΦPxを動径位置xに関してプロットしたものを図10に示す。
【0079】
以上の作業によって、複数の加工位置D、D、・・・D、・・・Dに対する、媒質移動量d、d、・・・d、・・・dと、点Oから加工位置までの距離Δ、Δ、・・・Δ、・・・Δと、補正波面Φ1x、Φ2x、・・・Φpx、・・・ΦPxが得られる。
【0080】
第1の多項式近似部92は、媒質移動量のデータセットd、d、・・・d、・・・dを、所望の集光深さを変数とするM次のべき多項式で近似し、1個の第1の高次多項式を求める(下式(8))。
【数8】


ここで、Dは所望の集光深さであり、D=d+Δである。
【0081】
第2の多項式近似部93は、図10に示す複数の補正波面の位相変調量Φ1x、Φ2x、・・・Φpx、・・・ΦPxをそれぞれ、動径位置xを変数とするQ次のべき多項式で近似し、図11に示すように、複数の第2の高次多項式を求める。これらの第2の高次多項式における同一次数項の係数からなる複数の係数列a1p、a2p、・・・aqp、・・・aQp、すなわち、第1次項の係数列a1p〜第Q次項の係数列aQpをそれぞれ媒質移動量dに対してグラフ化したものを図12に示す。
【0082】
第3の多項式近似部94は、図12に示す複数の第2の高次多項式における第1次項の係数列a1p〜第Q次項aQpをそれぞれ、移動量dを変数とするK次のべき多項式で近似し、図13に示すように複数の第3の高次多項式を求める。
【0083】
記憶部95は、図13に示す複数の第3の高次多項式における複数の次数項の係数、すなわち、複数の第1次項〜第Q次項の係数b11〜b1Q、b21〜b2Q、・・・bk1〜bkQ、・・・bK1〜bKQと、第1の高次多項式における係数列c、c、・・・c、・・・,cを図14に示すように、係数データセットとして記憶する。
【0084】
以上の作業で記憶された係数データセットを用いて、任意の位置の集光深さに対する補正波面を生成することができる。次に、その生成方法を説明する。
【0085】
第2の補正波面生成部96は、係数データセットにおける係数c〜cおよび第1の多項式を用いて任意の集光深さDに対する媒質移動量dを求め、さらに係数データセットにおける係数b11〜b1Q、b21〜b2Q、・・・bk1〜bkQ、・・・bK1〜bKQ、及び、図13に示す複数の第3の高次多項式を用いて、任意の集光深さDに対する第2の高次多項式の第1次項係数A〜第Q次項係数Aを求める、すなわち、図11に示す複数の第2の高次多項式に相当する任意の加工位置Dの第2の高次多項式を求める(下式(9))。
【数9】


第2の補正波面生成部96は、この上記(9)式の第2の高次多項式を用いて、任意の加工位置d+Δにおける補正波面を求める。
【0086】
上記では、第1〜第3の多項式に、1次から特定の次数までのべき乗項で構成される多項式を用いたが、他の構成の多項式を用いてもよい。例えば、第1〜第3の多項式に0次のべき乗項を加えてもよい。また、第2の多項式に偶数次のべき乗項で構成される多項式を用いてもよい。さらに、べき乗関数ではなく、他の関数、例えばツェルニケ多項式やガウス関数、ローレンツ関数などを含む多項式を用いてもよい。また、第2及び第3の多項式には媒質移動量dを変数として用いたが、集光深さ(加工位置)Dや、集光点シフト量Δを変数として用いてもよい。また、探索条件が「媒質移動量dが、集光深さDを変数とする特定の関数で表される」というものであった場合、当該関数を上記(8)式の代わりに用い、第1の多項式近似ステップを省略してもよい。
【0087】
次に、本実施形態の収差補正装置90の動作を説明すると共に、本発明の第2の実施形態に係る収差補正方法を説明する。図15は、本発明の第2の実施形態に係る収差補正方法を示すフローチャートである。
【0088】
まず、対物レンズ50により定まる開口数NA及び焦点距離f、加工対象物により定まる屈折率nが入力され、加工の深さを変える加工において予め予想される加工の深さの範囲内及びこの範囲付近における複数の加工位置(集光の深さ)D、D、・・・D、・・・Dが入力されると、第1の補正波面生成部91によって、第1の実施形態の収差補正方法に従い、上記(7)式及び上記(4)〜(6)式を用いた探索によって、複数の集光深さD、D、・・・D、・・・Dにそれぞれ対応する複数の補正波面Φ1x、Φ2x、・・・Φpx、・・・ΦPxと、複数の媒質移動量d、d、・・・d、・・・dが求められる。すなわち、レーザ光の集光点が、収差を補正しないときに媒質内部で縦収差が存在する範囲の間に位置し、補正波面のPV値が最小となるように、複数の集光深さD、D、・・・D、・・・Dにそれぞれ対応する複数の補正波面Φ1x、Φ2x、・・・Φpx、・・・ΦPxが求められる(S11:第1の補正波面生成ステップ)。
【0089】
次に、第1の多項式近似部92によって、複数の媒質移動量d、d、・・・d、・・・dのべき多項式近似が行われ、上記(8)式に示すように、1個の第1の高次多項式が求められる(S12:第1の多項式近似ステップ)。
【0090】
次に、第2の多項式近似部93によって、図10に示す複数の補正波面の位相変調量Φ1x、Φ2x、・・・Φpx、・・・ΦPxのべき多項式近似がそれぞれ行われ、図11に示すように、複数の第2の高次多項式が求められる。これらの第1の高次多項式における同一次数項の係数からなる複数の係数列a1p、a2p、・・・aqp、・・・aQp、すなわち、第1次項の係数列a1p〜第Q次項の係数列aQpが得られる(S13:第2の多項式近似ステップ)。
【0091】
次に、第3の多項式近似部94によって、図12に示す複数の第2の高次多項式における第1次項の係数列a1p〜第Q次項の係数列aQpのべき多項式近似がそれぞれ行われ、図13に示すように、移動量dを変数とする複数の第3の高次多項式が求められる(S14:第3の多項式近似ステップ)。これらの複数の第3の高次多項式における複数の次数項の係数、すなわち、複数の第1次項〜第Q次項の係数b11〜b1Q、b21〜b2Q、・・・bk1〜bkQ、・・・bK1〜bKQ、ならびに第1の高次多項式における1項からM項までの係数c、c、・・・c、・・・,cは、図14に示すように、係数データセットとして記憶部95に記憶される(S15:記憶ステップ)。
【0092】
記憶された係数データセットから補正波面を算出するには、第2の補正波面生成部96
において、所望の集光深さDに対する媒質移動量と、第2の多項式の係数とを求めた後、補正波面を算出する。まず、係数データセットにおける係数c、c、・・・c、・・・,cと第1の多項式を用いて、任意の集光深さDに対する媒質移動量dを求める。次に、媒質移動量dと、係数データセットにおける係数b11〜b1Q、b21〜b2Q、・・・bk1〜bkQ、・・・bK1〜bKQ、及び、図13に示す複数の第3の高次多項式を用いて、任意の集光深さDの第2の高次多項式の第1次項係数a1p〜第Q次項係数aQpが求められる、すなわち、図11に示す複数の第2の高次多項式に相当する任意の集光深さDの第2の高次多項式が(9)式の形で求められる。その後、この(9)式の第2の高次多項式を用いて、任意の集光深さDにおける補正波面が求められる(S16:補正波面生成ステップ)。
尚、加工深さを変える際には、ステップS16を行ってその深さに対応した補正波面を生成すれば良い。
【0093】
上記した第1の補正波面生成ステップS11での探索では、「補正波面のPV値が最小となるように」という条件を用いたが、他の条件を用いることができる。ただし、1個の加工位置に対して補正波面と媒質移動量が一意に定まり、かつ隣接する画素の間の位相差が物理的位相変調量以下となるような条件である必要がある。
【0094】
次に、コンピュータを収差補正装置90として動作させるための収差補正プログラムについて説明する。図16は、本発明の実施形態に係る収差補正プログラムの構成を、記録媒体と共に示す図である。
【0095】
図16に示すように、収差補正プログラムP100は、記録媒体100に格納されて提供される。記録媒体100としては、フロッピーディスク、CD−ROM、DVD、あるいはROM等の記録媒体、あるいは半導体メモリ等が例示される。
【0096】
図17は、記録媒体に記録されたプログラムを実行するためのコンピュータのハードウェア構成を示す図であり、図18は、記録媒体に記憶されたプログラムを実行するためのコンピュータの斜視図である。
【0097】
図17に示すように、コンピュータ200は、フロッピーディスクドライブ装置、CD−ROMドライブ装置、DVDドライブ装置等の読取装置202と、オペレーティングシステムを常駐させた作業用メモリ(RAM)204と、記録媒体100に記憶されたプログラムを記憶するメモリ206と、ディスプレイといった表示装置208と、入力装置であるマウス210及びキーボード212と、データ等の送受を行うための通信装置214と、プログラムの実行を制御するCPU216とを備えている。コンピュータ200は、記録媒体100が読取装置202に挿入されると、読取装置202から記録媒体100に格納された収差補正プログラムP100にアクセス可能になり、当該収差補正プログラムP100によって、収差補正装置90として動作することが可能になる。
【0098】
図18に示すように、収差補正プログラムP100は、搬送波に重畳されたコンピュータデータ信号220としてネットワークを介して提供されるものであってもよい。この場合、コンピュータ200は、通信装置214によって受信した収差補正プログラムP100をメモリ206に格納し、当該収差補正プログラムP100を実行することができる。
【0099】
図16に示すように、収差補正プログラムP100は、第1の補正波面生成モジュールP10と、第1の多項式近似モジュールP20と、第2の多項式近似モジュールP30と、第2の多項式近似モジュールP40と、記憶モジュールP50と、第2の補正波面生成モジュールP60とを備えている。
【0100】
第1の補正波面生成モジュールP10、第1の多項式近似モジュールP20、第2の多項式近似モジュールP30、第2の多項式近似モジュールP40、記憶モジュールP50、及び、第2の補正波面生成モジュールP60がコンピュータに実現させる機能はそれぞれ、上述した第1の補正波面生成部91、第1の多項式近似部92、第2の多項式近似部93、第2の多項式近似部94、記憶部95、及び、第2の補正波面生成部96のうち対応要素と同様である。
【0101】
なお、本実施形態では、収差補正装置90として機能するコンピュータがレーザ加工装置の内部に一体的に備えられた形態を示したが、収差補正装置90として機能するコンピュータはレーザ加工装置1Aと別体的に外部に設けられ、コンピュータとレーザ加工装置との間で補正波面情報をやりとりしてもよい(図19)。
【0102】
また、レーザ加工装置1Aの内部と外部とにそれぞれコンピュータ90A,90Bを備え、これらの2つのコンピュータ90A,90Bによって収差補正装置90が実現されてもよい。例えば、収差補正装置90の一部の第1の補正波面生成部91、第1の多項式近似部92、第2の多項式近似部93、第3の多項式近似部94及び記憶部95Aが外部コンピュータ90Aによって実現され、他の記憶部95B及び第2の補正波面生成部96が内部コンピュータ90Bによって実現されてもよい。これによれば、外部コンピュータ90Aと内部コンピュータ90B、すなわち、レーザ加工装置1Aとの間で係数データセットが、記憶媒体や通信経路などを介してやりとりされ、外部コンピュータ90Aの記憶部95Aの内容が内部コンピュータ90Bの記憶部95Bに複製される(図20)。
【0103】
このように、第2の実施形態の収差補正方法、本実施形態の収差補正装置90及び収差補正プログラムでも、第1の実施形態の収差補正方法と同様の利点を有する。すなわち、第2の実施形態の収差補正方法、本実施形態の収差補正装置及び収差補正プログラムでも、上記したように、レーザ光の集光点が収差を補正しないときの媒質内部での縦収差範囲の間に位置するようにレーザ光の収差を補正するための補正波面を予め求め、この補正波面の高次多項式近似による近似式を用いて任意の加工位置における補正波面を求めるので、この任意の加工位置の補正波面は、レーザ光の集光点が収差を補正しないときの媒質内部での縦収差範囲の間に位置するようにレーザ光の収差を補正することができ、波面のPV値を低減することができる。その結果、位相変調量に制限がある空間光変調器を用いても、収差補正のための位相変調量を低減させることで、空間光変調器の負担を減らし、高精度な波面制御を可能とする。その結果、媒質に対するレーザ照射位置が深くても、レーザ光の集光度合を高めることができ、良好な加工状態を維持することが可能である。
【0104】
例えば、レンズ50の開口数がNA=0.55、焦点距離がf=3.6mm、加工対象物60の屈折率がn=1.49であり、媒質移動量をd=0.637mm、焦点ずれをΔ=0.361mmとした場合、すなわち、集光位置をD=0.998mmとした場合、補正波面は図21に示すような補正パターンとなり、補正波面の位相変調量が14radian程度に減少する。
【0105】
この補正パターンを用いた加工対象物60における集光状態の計測結果を図22に示す。図22では、アクリル内部に波長660nmのレーザ光を集光した時の集光部を観測した結果である。図22(a)は補正前の集光状態の計測結果であり、図22(b)は第2の実施形態の補正後の集光状態の計測結果である。図21に示すように位相変調量が少ないために、図22(b)に示すように十分に収差が補正されていることがわかる。
【0106】
また、図23及び図25に、レーザ加工後に切断した加工対象物60の切断面の観察結果を示す。図23及び図25におけるレーザ加工では、方向Zからレーザ光を照射すると共に、レーザ光を加工対象物60に対して方向Yに走査して、3層の改質層60a,60b,60cを形成した。図23は、上記したように、レーザ加工において本発明の第2の実施形態の収差補正方法を用いない場合の切断面、すなわち、図22(a)に示すように収差が十分に補正されていないレーザ光を用いたレーザ加工後の切断面である。一方、図25は、レーザ加工において本発明の第2の実施形態の収差補正方法を用いた場合の切断面、すなわち、図22(b)に示すように収差が十分に補正されたレーザ光を用いたレーザ加工後の切断面である。図23によれば、上記したように、レーザ加工において収差補正が十分でないために、改質層60a,60b,60cが一様でなく、レーザ加工が不十分であることがわかる。一方、図25によれば、レーザ加工において収差補正が十分に行われたために、改質層60a,60b,60cが一様であり、レーザ加工が十分に行われていることがわかる。また、第2の実施例の結果である図25の加工痕は、第1の実施例の結果である図24の加工痕と類似しており、両実施例が同等の効果を有することが確認できる。
【0107】
更に、第2の実施形態の収差補正方法、本実施形態の収差補正装置及び収差補正プログラムによれば、複数の加工位置に対する補正波面を予め求め、これらの補正波面の高次多項式近似を行っているので、この近似式による演算を行うだけで適切な補正波面を求めることができる。その結果、加工の深さを変更する際に補正波面を求め直す時間を短縮することができ、加工レートの低下を低減することができる。また、上記した探索処理により実際に求めた加工位置と異なる任意の加工位置に対しても、適切な補正波面を求めることができる。
【0108】
なお、本発明は上記した本実施形態に限定されることなく種々の変形が可能である。例えば、本実施形態では、独立した画素に電圧を印加する位相変調型で反射型のSLM40を用いたが、独立した画素に電圧を印加する位相変調型で透過型のSLMを用いる場合であっても同様の利点を得ることができる。また、可変鏡を用いる場合であっても同様の利点を得ることができる。
【0109】
また、SLM40と対物レンズ50の間に、1枚あるいは2枚以上のレンズからなるリレーレンズ系を配置し、SLM40の変調面と対物レンズ50の入射瞳面とが概ね結像関係になるようにせしめてもよい。これによりSLM40で変調された波面が対物レンズ50にフレネル回折を起こすことなく伝播されるため、良好な収差補正を行うことができる。また、SLM40の変調面が対物レンズ50の瞳面より大きい場合に、結像系が縮小系も兼ねると、レーザ光の光量を有効に利用することが可能であると共に、SLM40の有効領域を十分に利用することが可能となる。
【0110】
また、本実施形態では、単点加工を例示したが、本発明の思想は、加工点が複数有り、それらが3次元的に分布している多点加工にも適用可能である。例えば、2点加工では、集光位置の異なる2つのフレネルレンズパターンにそれぞれの加工深さを考慮した補正波面を位相同士で足し合わせる。得られた2点のパターンの位相をそれぞれΦ、Φとすると、exp(Φ)+exp(Φ) から位相のみを取り出すことで、空間光変調器のホログラムパターンが得られる。このように、空間光変調器は3次元加工において利点を有する。すなわち、入射光を変調することにより奥行き方向にも面内にも位置の異なる多数の集光点を生成することができ、単点加工を繰り返す加工に比べて、加工のスループットを向上することができる。
【0111】
この多点加工でも、本実施形態と同様に、それぞれ異なる加工深さに集光するため、それぞれの加工位置に応じた補正波面をもそれぞれ求める。このとき、上記(7)式及び上記(4)〜(6)式等を用いた探索を行い、レーザ光の集光点が媒質内部に発生する縦収差範囲の間に位置し、補正波面の位相変調量が最小となるように、補正波面を求めることができるが、探索処理に多大な時間を要する。そこで、この多点加工でも、上記した収差補正装置90を用いた収差補正方法を適用することによって、加工の深さを変更する際に補正波面を求め直す時間を短縮することができ、加工レートの低下を低減することができる。
【0112】
なお、この多点加工では、上記したフレネルレンズパターンに代えてフレネルゾーンプレートパターン(0又はπの2値で構成されたもの)が用いられてもよい。また、フレネルレンズパターンにそれぞれの加工深さを考慮した補正波面を位相同士で足し合わせる際に、同一深さの平面内で多点を生成する例えばグレーティングパターンや任意のCGHパターンの位相をそれらに足し合わせてもよい。
【0113】
また、本実施形態では、レーザ加工装置における収差補正方法について説明したが、この収差補正方法は様々な光学系装置に適用可能である。例えば、顕微鏡等のレーザ照射装置においても、本発明の収差補正方法及びレーザ照射方法を適用可能である。各種の顕微鏡の中でも、レーザ走査顕微鏡に特に適している。以下では、本発明に係るレーザ照射装置及びレーザ照射方法として、レーザ走査顕微鏡の一例を示す。
【0114】
例えば、レーザ走査顕微鏡は、レーザ光の集光位置を光軸方向に垂直な方向だけでなく光軸方向に走査する。すなわち、レーザ走査顕微鏡は、測定対象物の表面だけでなく、内部にも集光点を生成する。このとき収差によって集光点が広がりピーク強度が低下し、分解能と像コントラストが低下する。このレーザ走査顕微鏡に、本実施形態の収差補正方法及びレーザ照射方法を適用すれば、位相変調量に制限のあるSLMを用いて、測定対象物の内部におけるレーザ光の集光度合を高め、深い位置においても分解能と像コントラストの高い像を計測することができる。レーザ走査顕微鏡の一種である、コンフォーカル顕微鏡や多光子励起レーザ走査顕微鏡(Multi-Photon Laser-Scanning Microscope)では、照射光の集光位置でのピーク強度が低下すると測定光強度が激減するため、特に収差補正の効果が大きい。また、レーザ走査顕微鏡のように、集光ビームを走査して像を得る撮像装置においては、SLD(Super-Luminescentdiode)など波長帯域が狭く空間コヒーレンスの高い、レーザに類似した光源が用いられることがあるが、そのような光源に対してもここで記述した収差補正法及びレーザ照射方法を適用することができる。
【0115】
また、本発明の収差補正方法は、上記したレーザ走査顕微鏡の他にも様々な顕微鏡に適用可能であり、例えば、測定対象を広く照明してイメージセンサで検出を行う顕微鏡等の撮像装置にも好適に適用可能である。この種の顕微鏡では、光源としてレーザ光に限らず、非コヒーレントな光が用いられることがある。このように、非コヒーレントな光を用いる顕微鏡(光照射装置)においても、本発明の収差補正方法を適用可能である。以下では、本発明に係る光照射装置として、この種の顕微鏡の一例を示す。
【0116】
図26は、本発明の実施形態に係る光照射装置であって、測定対象を広く照明してイメージセンサで撮像を行う顕微鏡の一例を示す。図26に示す顕微鏡1Bは、光源10B、コンデンサーレンズ20B、ミラー22B、対物レンズ50、リレーレンズ24B,26B、プリズムミラー30、空間光変調器40、結像用レンズ28B、及び、カメラ(イメージセンサ)70Bを備えている。なお、この実施形態の光照射装置では、測定対象の試料(媒質)60Bとして、水の入った容器中の生体組織を想定している。
【0117】
光源10Bは、例えば、白熱灯などの照明である。光源10Bからの光は、コンデンサーレンズ20Bによって平行光に変換され、ミラー22Bによって反射されて、試料60Bを広く照射する。試料60Bから発する透過及び前方散乱光は対物レンズ50に入射し、対物レンズ50から射出された光は、リレーレンズ24B,26B及びプリズムミラー30を介してSLM40上に導かれる。SLM40で反射された光は、プリズムミラー30及び結像用レンズ28Bを介してカメラ70Bへと導かれ、カメラ70Bの面上に試料60Bの像を結ぶ。なお、この実施形態では、対物レンズ50の入射瞳面とSLM40とが共役関係になるように、対物レンズ50とSLM40との間にリレーレンズ24B,26Bが設けられている。また、各レンズ50、24B,26B,28Bは、試料60Bとカメラ70Bの面とが結像関係になるように配置されている。
【0118】
この実施形態の光照射装置では、試料60Bを点の集まりと見なし、各点が2次光源となっていると考える。すなわち、試料60Bを2次の点光源の集まりと見なす。このようにして、2次点光源の集まりである試料60Bとカメラ70Bとの間において、本発明の収差補正方法を適用することとなる。
【0119】
各2次点光源からは球面波の光が発せられ、対物レンズ50によって概ね平面波の光に変換される。ここで、試料60Bは水中にあるため、各2次点光源から射出された光は、空気と水との間の屈折率ミスマッチによる球面収差を有することとなり、対物レンズ50から射出される光は、上記(7)式で表される波面収差を含んだ平面波になることとなる。そのため、結像用レンズ28Bによってカメラ70B上に結像される際に収差の影響を受けることになり、像の空間分解能とコントラストとが低下することになる。
【0120】
この対物レンズ50から射出される光であって、波面収差を含んだ平面波の光は、リレーレンズ24B,26BによってSLM40上に伝達される。このとき、SLM40に上記(7)式で表される位相変調を加えることによって収差を除去することができる。これにより、SLM40を射出する光は、波面収差が除去されたほぼ完全な平面波の光となる。その結果、結像用レンズ28Bによってカメラ70B上に結像する際に、収差のない結像が行われることになり、像の分解能とコントラストとを向上させることが可能となる。
【0121】
第1及び第2の実施形態のレーザ加工装置では、プリズムミラー30上方に光源があり、上方から下方に光が伝播していたが、この実施形態の光照射装置では、光の伝播方向が逆であり、対物レンズ50下方に光源があり、下方から上方に光が伝播する。古典光学の範囲では、光伝播は時間反転に対して不変なので、同じ構成であれば、光の伝播方向にかかわらず収差補正が行われることは自明である。ただし、第1及び第2の実施形態のレーザ加工装置では、集光点が光軸上にあったが、この実施形態の光照射装置では、光源10Bは光軸上以外にも存在するので、その影響について検討する。
【0122】
試料60B中にある2つの発光点、すなわち、光軸上にある発光点Aと光軸上にない発光点Bとを考える。発光点Aから発する光は、発光点Aが光軸上にあるので球面収差の影響のみを受け、本発明による収差補正により良好に収差が除去される。一方、発光点Bから発する光については、発光点Bが光軸上にないため、球面収差のみならず他の収差をも含むことになる。ただし、通常の顕微鏡においては観察視野が狭い。発光点Bがその観察視野に含まれる限り、光軸からの外れ量は小さく、球面収差以外の収差は十分に小さい。したがって、発光点Bから発せられる光についても、本発明による収差補正により、良好に収差が除去される。
【0123】
この実施形態の光照射装置では、透過照明の場合を示したが、落射照明の場合にも本発明の収差補正方法を適用できる。また、この実施形態の光照射装置では、リレーレンズ24B,26Bを用いたが、これらは省略することも可能である。その場合、SLM40と対物レンズ50とを近接せしめることが望ましい。また、この実施形態の光照射装置では、光源10Bとして白熱灯を用いたが、光源10Bには他の白色光源やレーザ、SLD、LEDなどを用いることも可能である。さらに、白色光源にバンドパスフィルタを用いて波長帯域を制限した光を照明光として用いることもできる。
【0124】
また、本実施形態では、屈折率が空間的に一様な加工対象物の例を用いて実施例を説明したが、屈折率がほぼ一様と見なせるような場合にも本発明を適用できる。例えば、反射防止膜等の薄膜が表面や裏面に施された透明基板の場合、薄膜層が薄く、薄膜で発生する収差は小さいため無視できる。あるいは、同一の薄いガラスを接着して積層したものの場合、ガラス層と接着層が奥行き方向に交互に配置されることになるが、接着層の厚みが薄い上にガラスとの屈折率差が小さく、接着層で発生する収差が小さいために無視できる。さらに上記実施例では、加工対象物の内部に集光する場合を用いて説明したが、裏面付近での集光の場合にも適用できる。例えば、液晶パネルの製造過程において、ガラス基板の裏面に施された配線パターンを表面から入射したレーザ光によって切断する場合があるが、このような場合にも適用できる。
【符号の説明】
【0125】
1,1A…レーザ加工装置(レーザ照射装置、レーザ集光装置)、1B…光照射装置(顕微鏡)、10,10B…光源、20,20B,24B,26B,28B…レンズ、30,22B…ミラー、40…空間光変調器(SLM)、50…対物レンズ(集光手段、集光レンズ)、60…加工対象物(媒質)、70…計測系、70B…カメラ(イメージセンサ)、80…制御部、90,90A,90B…収差補正装置、91…第1の補正波面生成部(第1の補正波面生成手段)、92…第1の多項式近似部(第1の多項式近似手段)、93…第2の多項式近似部(第2の多項式近似手段)、94…第3の多項式近似部(第3の多項式近似手段)、95…記憶部(記憶手段)、96…第2の補正波面生成部(第2の補正波面生成手段)、100…記録媒体、200…コンピュータ、202…読取装置、206…メモリ、208…表示装置、210…マウス、212…キーボード、214…通信装置、220…コンピュータデータ信号、P100…収差補正プログラム、P10…第1の補正波面生成モジュール、P20…第1の多項式近似モジュール、P30…第2の多項式近似モジュール、P40…第3の多項式近似モジュール、P50…記憶モジュール、P60…第2の補正波面生成モジュール。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光透過性を有する媒質内部にレーザ光を集光するレーザ照射装置の収差補正方法において、
前記レーザ光の集光点が前記媒質内部に発生する収差範囲の間に位置するように、前記レーザ光の収差を補正することを特徴とする、
収差補正方法。
【請求項2】
前記レーザ照射装置は、前記媒質内部にレーザ光を集光するための集光手段を備えており、
前記媒質の屈折率をn、前記媒質の屈折率nが前記集光手段雰囲気媒質の屈折率に等しいと仮定した場合における前記媒質の入射面から前記集光手段の焦点までの深さをd、前記媒質によって発生する縦収差の最大値をΔsと定義すると、
前記レーザ光の集光点が前記媒質の入射面からn×dより大きく、n×d+Δsより小さい範囲に位置するように、前記レーザ光の収差を補正することを特徴とする、
請求項1に記載の収差補正方法。
【請求項3】
前記レーザ照射装置は、前記媒質内部にレーザ光を集光するための集光レンズと、前記レーザ光の収差を補正するための空間光変調器とを備えており、
前記集光レンズの入射部に対応する前記空間光変調器上の任意の画素における位相変調量と、前記画素に隣接する画素における位相変調量との位相差が位相折り畳み技術を適用できる位相範囲以下であることを特徴とする、
請求項1に記載の収差補正方法。
【請求項4】
補正波面の位相値が極大点及び極小点を有するように、前記レーザ光の集光点を設定することを特徴とする、請求項1に記載の収差補正方法。
【請求項5】
レーザ光を生成する光源と、前記光源からのレーザ光の位相を変調するための空間光変調器と、前記空間光変調器からのレーザ光を加工対象物内部における加工位置に集光するための集光レンズとを備えるレーザ加工装置のレーザ加工方法において、
前記加工対象物内部における前記加工位置を設定し、
前記加工位置が、収差を補正しないときに前記加工対象物内部で縦収差が存在する範囲の間に位置するように、前記加工対象物の相対移動量を設定し、
前記加工位置に前記レーザ光が集光するように補正波面を算出して、前記空間光変調器に表示し、
前記加工対象物と前記集光レンズとの距離が前記相対移動量となるように、前記集光位置を相対的に移動し、
前記光源からのレーザ光を前記加工対象物における加工位置へ照射する、
レーザ加工方法。
【請求項6】
レーザ光を生成する光源と、前記光源からのレーザ光の位相を変調するための空間光変調器と、前記空間光変調器からのレーザ光を媒質内部の所定の集光位置に集光するための集光レンズとを備える媒質内レーザ集光装置のレーザ照射方法において、
前記媒質内部における前記集光位置を設定し、
前記集光位置が、収差を補正しないときに前記媒質内部で縦収差が存在する範囲の間に位置するように、前記媒質の相対移動量を設定し、
前記集光位置に前記レーザ光が集光するように補正波面を算出して、前記空間光変調器に表示し、
前記媒質と前記集光レンズとの距離が前記相対移動量となるように、前記集光位置を相対的に移動し、
前記光源からのレーザ光を前記媒質における集光位置へ照射する、
レーザ照射方法。
【請求項7】
光透過性を有する媒質内部にレーザ光を集光するレーザ照射装置の収差補正方法において、
前記レーザ光の集光点が、収差を補正しないときに前記媒質内部で縦収差が存在する範囲の間に位置するように、前記レーザ光の収差を補正するための補正波面であって、前記媒質内部の複数の加工位置にそれぞれ対応する複数の当該補正波面と、前記媒質内部の複数の加工位置にそれぞれ対応する複数の媒質表面から媒質がないときの集光点の位置までの距離とを求める第1の補正波面生成ステップと、
前記複数の媒質表面から媒質がないときの集光点の位置までの距離の高次多項式近似を行うことによって第1の高次多項式を求める第1の多項式近似ステップと、
前記複数の補正波面の高次多項式近似をそれぞれ行うことによって複数の第2の高次多項式を求める第2の多項式近似ステップと、
前記複数の第2の高次多項式における同一次数項の係数からなる複数の係数列の高次多項式近似をそれぞれ行うことによって、加工位置をパラメータとする複数の第3の高次多項式を求める第3の多項式近似ステップと、
前記第1の高次多項式における複数の次数項の係数と、前記複数の第3の高次多項式における複数の次数項の係数とを記憶する記憶ステップと、
前記第1の高次多項式における複数の次数項の係数と、前記第1の高次多項式と、前記複数の第3の高次多項式における複数の次数項の係数及び前記複数の第3の高次多項式を用いて、前記複数の第2の高次多項式に相当する任意の加工位置の第2の高次多項式を求め、当該第2の高次多項式を用いて当該任意の加工位置の補正波面を求める第2の補正波面生成ステップと、
を含むことを特徴とする、収差補正方法。
【請求項8】
光透過性を有する媒質内部にレーザ光を集光するレーザ照射装置のための収差補正装置において、
前記レーザ光の集光点が、収差を補正しないときに前記媒質内部で縦収差が存在する範囲の間に位置するように、前記レーザ光の収差を補正するための補正波面であって、前記媒質内部の複数の加工位置にそれぞれ対応する複数の当該補正波面と、前記媒質内部の複数の加工位置にそれぞれ対応する複数の媒質表面から媒質がないときの集光点の位置までの距離とを求める第1の補正波面生成手段と、
前記複数の媒質表面から媒質がないときの集光点の位置までの距離の高次多項式近似を行うことによって第1の高次多項式を求める第1の多項式近似ステップと、
前記複数の補正波面の高次多項式近似をそれぞれ行うことによって複数の第2の高次多項式を求める第2の多項式近似手段と、
前記複数の第2の高次多項式における同一次数項の係数からなる複数の係数列の高次多項式近似をそれぞれ行うことによって、加工位置をパラメータとする複数の第3の高次多項式を求める第3の多項式近似手段と、
前記第1の高次多項式における複数の次数項の係数と、前記複数の第3の高次多項式における複数の次数項の係数とを記憶する記憶手段と、
前記第1の高次多項式における複数の次数項の係数と、前記第1の高次多項式と、前記複数の第3の高次多項式における複数の次数項の係数及び前記複数の第3の高次多項式を用いて、前記複数の第2の高次多項式に相当する任意の加工位置の第2の高次多項式を求め、当該第2の高次多項式を用いて当該任意の加工位置の補正波面を求める第2の補正波面生成手段と、
を備えることを特徴とする、収差補正装置。
【請求項9】
光透過性を有する媒質内部にレーザ光を集光するレーザ照射装置のための収差補正プログラムにおいて、
コンピュータを、
前記レーザ光の集光点が、収差を補正しないときに前記媒質内部で縦収差が存在する範囲の間に位置するように、前記レーザ光の収差を補正するための補正波面であって、前記媒質内部の複数の加工位置にそれぞれ対応する複数の当該補正波面と、前記媒質内部の複数の加工位置にそれぞれ対応する複数の媒質表面から媒質がないときの集光点の位置までの距離とを求める第1の補正波面生成手段と、
前記複数の媒質表面から媒質がないときの集光点の位置までの距離の高次多項式近似を行うことによって第1の高次多項式を求める第1の多項式近似ステップと、
前記複数の補正波面の高次多項式近似をそれぞれ行うことによって複数の第2の高次多項式を求める第2の多項式近似手段と、
前記複数の第2の高次多項式における同一次数項の係数からなる複数の係数列の高次多項式近似をそれぞれ行うことによって、加工位置をパラメータとする複数の第3の高次多項式を求める第3の多項式近似手段と、
前記第1の高次多項式における複数の次数項の係数と、前記複数の第3の高次多項式における複数の次数項の係数とを記憶する記憶手段と、
前記第1の高次多項式における複数の次数項の係数と、前記第1の高次多項式と、前記複数の第3の高次多項式における複数の次数項の係数及び前記複数の第3の高次多項式を用いて、前記複数の第2の高次多項式に相当する任意の加工位置の第2の高次多項式を求め、当該第2の高次多項式を用いて当該任意の加工位置の補正波面を求める第2の補正波面生成手段と、
として機能させる、収差補正プログラム。
【請求項10】
光透過性を有する媒質内部に照射光を集光する光照射装置の収差補正方法において、
前記照射光の集光点が、収差を補正しないときに前記媒質内部で縦収差が存在する範囲の間に位置するように、前記照射光の収差を補正することを特徴とする、
収差補正方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図26】
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【図8】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【公開番号】特開2010−75997(P2010−75997A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−125759(P2009−125759)
【出願日】平成21年5月25日(2009.5.25)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.フロッピー
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、ナノテク・部材イノベーションプログラム/三次元光デバイス高効率製造技術、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000236436)浜松ホトニクス株式会社 (1,479)
【Fターム(参考)】