説明

受光素子アレイ

【課題】従来のエピ構造に断面V型の分離溝を追加形成することで光学的クロストークを抑制可能な受光素子アレイを提供する。
【解決手段】受光素子アレイ1は、第1導電型の半導体基板2と、この半導体基板2の表面側に形成した第1導電型の受光層4と、この受光層の表面側に形成した第1導電型の窓層5と、この窓層を貫通して受光層の表面側に突入する状態に形成され且つ1次元的または2次元的な配列として離隔状に形成された複数の第2導電型領域6と、これら複数の第2導電領域6の表面の少なくとも一部に夫々設けた複数の第1電極7と有し、複数の第2導電型領域6からなる複数のアレイが形成する複数のアレイ間領域に、少なくとも前記窓層5と受光層4を貫通する深さの表面側に開放された断面V型の第1分離溝10を夫々設けている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は受光素子アレイに関し、光学的クロストークを抑制可能な光通信用又は1次元,2次元センサ用の受光素子アレイに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、光通信用又は1次元、2次元センサ用の種々の受光素子アレイが実用に供されている。受光素子アレイには、例えば、光がアレイ上面側から入射される上面入射型や、光がアレイ下面側から入射される下面入射型などがある。
ここで、図8には、上面入射型受光素子アレイの一般的な構造が示され、図9には、下面入射型受光素子アレイの一般的な構造が示されている。
【0003】
上記の図8,図9の受光素子アレイ21,21Aを製造する為に、先ずは、n型InP半導体基板22上に、n型InPバッファ層23、n型InGaAs受光層24、n型InP窓層25の順にエピタキシャル成長させて積層する。次に、フォトリソグラフィにより、n型InP窓層25上に1次元的又は2次元的になるように一定ピッチで複数の開口部を設け、これら複数の開口部にZnを夫々拡散してp型領域26を形成する。これにより、これら複数のp型領域26とn型InGaAs受光層24とからpn接合31が夫々形成され、pn構造フォトダイオードが1次元的又は2次元的に配設される。
【0004】
次に、例えば、図8に示す上面入射型受光素子アレイ21の場合は、各p型領域26の上面に部分的にp型電極27を夫々設け、p型領域26のp型電極27を除く上面残部と窓層25の上面に反射防止膜32を設け、n型InP基板22の裏面全域に共通のn型電極28を形成する。
図9に示す下面入射型受光素子アレイ21Aの場合は、各p型領域26の上面に部分的にp型電極27Aを夫々設け、窓層25の上面に前記p型領域26を囲うように平面視C型で且つスリット状の複数のn型電極28Aを夫々設け、n型InP基板22の裏面に反射防止膜33を形成する。
【0005】
ところで、図8の従来の受光素子アレイ21では、受光素子間は分離されていない。このため、受光素子のpn接合31近傍(空乏層)に入射した光が、電子正孔対のキャリアを発生させた場合、その発生した一部のキャリアが、横方向拡散により受光層24を介して隣接する受光素子のpn接合31近傍に移動する可能性がある。このとき、この移動したキャリアにより隣接する受光素子に光電流が流れて、電気的クロストークが発生するため、受光素子アレイの特性が劣化するという問題がある。
【0006】
上記電気的クロストークの問題を解決する手段として、特許文献1では、受光素子間に、窓層上面からn型InP基板近傍に達する深さのトレンチ溝を夫々設けている。このトレンチ溝により、受光素子間は物理的に分離されるので、キャリアの移動を防止して電気的クロストークを抑制することができる。尚、各トレンチ溝には、pn接合の劣化を防止する為に半導体材料が埋め込まれている場合がある。
【0007】
ここで、光学的クロストークについて、図10の受光素子アレイ21Bに基づいて説明する。光は光ファイバに導かれレンズで集光されて受光素子アレイ21Bに垂直に入射されるが、光の一部は、受光面に対して垂直に入射されずに斜めに入射される場合がある。この斜め入射光は、仮に受光層24に吸収されずに透過すると漏れ光となり、受光素子の下面に反射して隣接する受光素子のpn接合近傍に入射する場合、或いは、受光素子の上面と下面との間で多重反射を繰り返して隣接する受光素子のpn接合31の近傍に入射する場合がある。このように隣接するpn接合近傍に入射した漏れ光は、そこで電子正孔対のキャリアを形成し光電流を発生させてしまう。これを光学的クロストークという。
【0008】
このため、上記の受光素子間にトレンチ溝を設ける構造では、電気的クロストークを低減させることが可能であっても、光学的クロストークの抑制は十分とは言えない。つまり、漏れ光が、受光素子の上面と下面との間で多重反射を繰り返す場合、トレンチ溝が縦に細長い形状のため、漏れ光がトレンチ溝に当たらずに、隣接するpn接合近傍に入射されてしまう可能性がある。尚、光が受光面に垂直に入射されても、その一部が受光層を透過して、半導体基板と電極の境界面で乱反射され、その光が多重反射することで隣接する受光素子のpn接合近傍に入射する場合もある。
【0009】
上記の光学的クロストークを解決する手段として、特許文献2,3のような受光素子アレイが開示されている。即ち、特許文献2では、受光層と受光素子底部との間に光吸収層を設け、特許文献3では、受光層と受光素子上面との間に光吸収層を設けている。この光吸収層は、入射する光のエネルギーより小さいバンドギャップエネルギを有する物質から形成されるため、受光層を透過した漏れ光を吸収減衰させることができ、光学的クロストークを抑制することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2001−144278号公報
【特許文献2】特開2005−251890号公報
【特許文献3】特開2005−259829号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかし、上記の特許文献2,3の光学的クロストークの抑制手段では、受光素子アレイの製造時に、図8,図9に示す従来のエピ構造に追加して、光吸収層を成長させるプロセスが必要となる。従って、受光素子アレイの製造コストが増加してしまう。さらに、受光層を透過して光吸収層に入射した光は、熱や光電流に変換されるので、暗電流の増加や応答速度の低下など受光素子の特性の劣化が伴うという問題が生じる。
【0012】
また、特許文献3の受光素子アレイは、InP窓層に光吸収層を成長させた構造であるが、一般的なZn拡散によりp型領域を形成するプロセスを行う場合、特許文献3のプロセスでは、従来よりも拡散領域を深くする必要がある。このため、p型領域が横方向に拡大してしまう。このp型領域の拡大は、上記の問題と同様に、暗電流の増加や応答速度の低下など受光素子の特性の劣化を招くという問題が生じる。
【0013】
本発明の目的は、従来のエピ構造に断面V型の分離溝を追加形成することで光学的クロストークを抑制可能な受光素子アレイを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
請求項1の受光素子アレイは、第1導電型の半導体基板と、この半導体基板の表面側に形成した第1導電型の受光層と、この受光層の表面側に形成した第1導電型の窓層と、この窓層を貫通して受光層の表面側に突入する状態に形成され且つ1次元的または2次元的な配列として離隔状に形成された複数の第2導電型領域と、これら複数の第2導電領域の表面の少なくとも一部に夫々設けた複数の第1電極とを有する受光素子アレイにおいて、前記複数の第2導電型領域からなる複数のアレイが形成する複数のアレイ間領域に、少なくとも前記窓層と受光層を貫通する深さの表面側に開放された断面V型の第1分離溝を夫々設けた、ことを特徴としている。
【0015】
請求項6の受光素子アレイは、第1導電型の半導体基板と、この半導体基板の表面側に形成した第1導電型の受光層と、この受光層の表面側に形成した第1導電型の窓層と、この窓層を貫通して受光層の表面側に突入する状態に形成され且つ1次元的または2次元的な配列として離隔状に形成された複数の第2導電型領域と、これら複数の第2導電領域の表面の少なくとも一部に夫々設けた複数の第1電極とを有する受光素子アレイにおいて、 前記半導体基板の裏面側に解放された断面倒立V型の複数の第1分離溝を夫々設けた、ことを特徴としている。
【発明の効果】
【0016】
請求項1の発明によれば、受光素子アレイにおいて、複数の第2導電型領域からなる複数のアレイが形成する複数のアレイ間領域に、少なくとも前記窓層と受光層を貫通する深さの表面側に開放された断面V型の第1分離溝を夫々設けたので、斜め入射された光、多重反射を繰り返す漏れ光や乱反射された漏れ光が発生した場合でも、断面V型の第1分離溝により、隣接するp型領域から離隔する水平方向又は水平に近い横方向へ効率よく反射させて、漏れ光が隣接するpn接合へ入射するのを低減させることができ、光学的クロストークを抑制することができる。
【0017】
請求項6の発明によれば、受光素子アレイにおいて、半導体基板の裏面側に開放された断面倒立V型の複数の第1分離溝を夫々設けたので、断面倒立V型の第1分離溝により、斜め入射された光、多重反射を繰り返す漏れ光や乱反射された漏れ光が発生した場合でも、隣接するp型領域から離隔する水平方向又は水平に近い横方向へ効率よく反射させて、隣接するpn接合へ入射する光を低減させることで、光学的クロストークを抑制することができる。
【0018】
請求項1の上記の構成に加えて、次のような種々の構成を採用してもよい。
(1)前記半導体基板と前記受光層の間に、第1導電型のバッファ層を設ける。
(2)前記半導体基板の裏面に1又は複数の第2電極を設ける。
(3)前記各第1分離溝の表面に第2電極を設ける。
(4)前記複数の第2導電型領域からなる複数のアレイが形成する複数のアレイ間領域に、少なくとも前記窓層と受光層を貫通する深さのスリット状の第2分離溝を夫々設け、これらの第2分離溝の表面に第2電極を形成する。
【0019】
請求項6の上記の構成に加えて、次のような種々の構成を採用してもよい。
(5)前記半導体基板と前記受光層の間に、第1導電型のバッファ層を設ける。
(6)前記半導体基板の裏面に第2電極を形成する。
(7)前記複数の第2導電型領域からなる複数のアレイが形成する複数のアレイ間領域に、前記窓層と受光層を貫通する深さのスリット状の第2分離溝を夫々設け、これらの第2分離溝の表面に第2電極を形成する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】実施例1に係る受光素子アレイの要部拡大断面図である。
【図2】実施例2に係る受光素子アレイの要部拡大断面図である。
【図3】実施例3に係る受光素子アレイの要部拡大断面図である。
【図4】実施例4に係る受光素子アレイの要部拡大断面図である。
【図5】実施例5に係る受光素子アレイの要部拡大断面図である。
【図6】実施例6に係る受光素子アレイの要部拡大断面図である。
【図7】実施例7に係る受光素子アレイの要部拡大断面図である。
【図8】従来例に係る受光素子アレイの要部拡大断面図である。
【図9】従来例に係る受光素子アレイの要部拡大断面図である。
【図10】光学的クロストークの説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を実施するための形態について実施例に基づいて説明する。
【実施例1】
【0022】
先ず、受光素子アレイ1の全体構造について説明する。
図1に示すように、受光素子アレイ1は、光多重通信用の光ファイバから投射される複数波長の光を受光する用途などに適用するものである。この受光素子アレイ1は上面入射型の受光素子アレイである。この受光素子アレイ1は、n型InP半導体基板2(第1導電型の半導体基板)と、この半導体基板2の表面側に形成されたn型InPバッファ層3(第1導電型のバッファ層)と、このバッファ層3の表面側に形成されたn型InGaAs受光層4(第1導電型の受光層)と、この受光層4の表面側に形成されたn型InP窓層5(第1導電型の窓層)とを順次積層して構成され、複数のp型領域6(第2導電型領域)と、複数のp型電極7(第1電極)と、共通のn型電極8(第2電極)と、複数の断面V型の第1分離溝10なども備えている。
【0023】
尚、図1の受光素子アレイ1は、その全体構成の一部分を示しているに過ぎず、複数の受光素子が1次元的に配設された1次元受光素子アレイであっても良いし、複数の受光素子がマトリックス状に配設された2次元受光素子アレイであっても良い。受光素子の数は、4、8、16・・・などの2の累乗個が望ましいが、特に限定する必要はない。本実施例では、「n型」が第1導電型に相当し、「p型」が第2導電型に相当する。尚、図2以降に示されている受光素子アレイ1A〜1Fも、図1と同様に、その全体構成の一部分を示しているに過ぎない。
【0024】
図1に示すように、複数のp型領域6は、窓層5を貫通して受光層4の表面側部分に突入する状態に形成され且つ1次元的又は2次元的なアレイ状配列として離隔状に形成されている。複数のp型領域6は、平面視にて円形に夫々形成されているが、特に円形に限定する必要はなく、平面視正方形や平面視矩形に形成しても良い。
【0025】
p型領域6と受光層4との境界部およびp型領域6と窓層5との境界部には、pn接合11が形成されている。このpn接合11の近傍部には空乏層が形成され、この空乏層に光が入射されることで、電子正孔対のキャリアを発生させる。
【0026】
各p型電極7は、p型領域6の表面の一部分に形成されている。各p型電極7は、反射防止膜12により窓層5との間で絶縁されている。n型電極8は、半導体基板2の裏面全域に設けられている。
【0027】
反射防止膜12は、受光素子アレイ1の表面反射を軽減させて透過率を増加させる為に、複数のp型領域6の表面のうち複数のp型電極7を除く表面残部と、窓層5の表面と、複数の第1分離溝10の表面を覆うように設けられている。
【0028】
図1に示すように、第1分離溝10は、断面V型に形成され、複数のp型領域6からなる複数のアレイが形成する複数のアレイ間領域に、表面側に開放状に設けられている。この第1分離溝10は、窓層5と受光層4とバッファ層3を貫通して半導体基板2に達する深さ(受光素子アレイ1の全厚の約1/2の深さ)に設けられている。第1分離溝10の頂角は、約70度程度に形成される。尚、第1分離溝10が、少なくとも窓層5と受光層4を貫通する深さであることが望ましく、その場合、光クロストークを十分に抑制可能である。また、第1分離溝10に半導体材料を埋め込むように形成しても良い。
【0029】
次に、受光素子アレイ1の製造方法について説明する。
先ず、MOCVD法などにより、n型InP半導体基板2上に、n型InPバッファ層3、n型InGaAs受光層4、n型InP窓層5の順に連続してエピタキシャル成長させる。次に、n型InP窓層5上に、フォトリソグラフィにより1次元的又は2次元的に一定ピッチで複数の開口部を形成する。そして、これら複数の開口部に対してZnを夫々拡散して、複数のp型領域6を形成する。このとき、複数の開口部は、窓層5の半導体結晶の(01−1)面に対して垂直方向に配列されるように形成する。
【0030】
次に、断面V型の第1分離溝10を形成する為に、CVD法等により、SiN等の絶縁膜を窓層の上面に成膜し、フォトリソグラフィとエッチングにより第1分離溝10を形成する部分の絶縁膜を除去する。その後、メタノールに臭素を数パーセント程度含有させた溶液にて異方性ウエットエッチングを行い、断面V型の第1分離溝10を形成する。
【0031】
次に、受光面上の絶縁膜をエッチングにより除去して、SiN等の絶縁膜をCVD等により、膜厚が無反射条件になるように成膜して反射防止膜12を設ける。そして、p型領域6の上面の少なくとも一部に反射防止膜12を貫通するように、例えばAuZnからなるp型電極7を形成し、n型InP半導体基板2の裏面全域に、例えばAuGeNiからなる共通のn型電極8を形成する。
【0032】
このように、受光素子アレイ1の上部の窓層5はn型InP層であるので、メタノールに臭素を数パーセント程度含有させた溶液を用いて、異方性ウエットエッチングを行うことで、断面V型の第1分離溝10を形成することができる。尚、臭酸或いは臭酸に過酸化水素水を混合した溶液でも上記のような異方性ウエットエッチングを行うことは可能であるが、ここで、特に限定する必要はない。
【0033】
上記異方性ウエットエッチングを行う場合、半導体基板2の面指数や使用するエッチング液によって結晶面ファセットが異なる。(100)面のInP層に対して、メタノールに臭素数パーセント程度含有させたエッチング液を使用する場合、(01−1)面に垂直方向に対しては、深さ方向に溝幅が小さくなるような順メサ面が形成され、(0−1−1)面に垂直方向に対しては、深さ方向に溝幅が大きくなるような逆メサ面が形成される。
【0034】
次に、本発明の受光素子アレイ1の作用及び効果について説明する。
先ず、この受光素子アレイ1において、共通のn型電極8を正極に接続し、複数のp型電極7は対応する負極に夫々接続し、受光素子アレイ1を逆バイアス状態になるように接続する。このときのpn接合11の近傍の状態は、そのp型領域6側ではp側空乏層が形成され、その受光層4側にはn側空乏層が形成される。
【0035】
次に、光が受光素子アレイ1の上面側に入射されると、この光は、反射防止膜12とp型領域6を通りpn接合11の空乏層に入射されて、この空乏層にて電子正孔対のキャリアが発生する。そして、主にn側空乏層で発生した正孔がp型領域6に移動することで、光電流が発生する。
【0036】
しかし、pn接合11に入射する光の大部分は、受光面(上面)に対して垂直に近い角度で入射されるが、その一部は斜めに入射される場合がある。この斜め入射光が、受光層4を透過して漏れ光となると、受光素子アレイ1の上面と下面との間で多重反射を繰り返しながら、隣接するpn接合11の方向に移動してしまう。このとき、断面V型の第1分離溝10は、受光素子アレイ1のpn接合11間に受光層4を貫通するように設けられているので、第1分離溝10の傾斜面により、図1に示す実線のような軌跡で、漏れ光を隣接するp型領域6から離隔する水平方向又は水平に近い横方向へ反射し、pn接合11の近傍部へ再入射させる。
【0037】
また、光が受光面に対して垂直に入射された場合であっても、その一部が受光層4に吸収されずに透過して漏れ光となり、この漏れ光が、受光素子アレイ1の下面で乱反射してしまう可能性がある。このとき、漏れ光は、受光素子アレイ1の上面と下面との間で多重反射を繰り返しながら、隣接するpn接合11の方向に移動してしまうが、第1分離溝10の傾斜面により、漏れ光を入射方向に対してほぼ水平方向に反射し、pn接合11の近傍部へ再入射させる。
【0038】
このように、受光素子アレイ1において、複数のp型領域6からなる複数のアレイが形成する複数のアレイ間領域に、少なくとも窓層5と受光層4を貫通する深さの表面側に開放された断面V型の第1分離溝10を夫々設けたので、断面V型の第1分離溝10により、斜め入射された光、多重反射を繰り返す漏れ光や乱反射された漏れ光が発生した場合でも、隣接するp型領域6から離隔する水平方向又は水平に近い横方向へ効率よく反射させて、漏れ光が隣接するpn接合11へ入射するのを低減させることで、光学的クロストークを抑制することができる。
【0039】
また、第1分離溝10が受光層4を貫通する深さに形成されているので、空乏層で発生したキャリアが横方向拡散により隣接するpn接合11へ移動するのを防止して、隣接するpn接合11との間の電気的クロストークを抑制することができる。複数のp型電極7と共通のn型電極8が対向面上に形成され且つ上面側に断面V型の第1分離溝10が形成された上面入射型受光素子アレイ1を提供することができる。
【0040】
以下では、上記受光素子アレイ1を部分的に変更した種々の実施例及びこれらの実施例を部分的に変更した種々の実施例について説明するが、先行する実施例と同様の構成要素には同様の参照符号を付して説明を省略し、異なる構成要素についてのみ説明する。
【実施例2】
【0041】
図2に示すように、本実施例の受光素子アレイ1Aは、前記実施例1の半導体基板2の裏面全域に設けられたn型電極8に代えて、半導体基板2の裏面に部分的に複数のn型電極8Aが設けられ、これら複数のn型電極8Aを除く半導体基板2の裏面残部には、絶縁膜13が形成されている。このため、上面から光が入射され、受光層4を透過した漏れ光は、図2に示す実線の軌跡で、隣接するp型領域6から離隔する水平方向又は水平に近い横方向に反射される。この場合、複数のp型電極7と複数のn型電極8Aが表裏の対向面上に形成され且つ上面側に断面V型の第1分離溝10が形成された上面入射型受光素子アレイ1を提供することができる。
【0042】
尚、この受光素子アレイ1において、p型領域6と窓層5の上面の反射防止膜12に代えて絶縁膜を形成し、半導体基板2の裏面の絶縁膜13に代えて反射防止膜を形成することで、下面側から入射可能な受光素子アレイを構成しても良い。このとき、下面から光が入射されて、受光層4で吸収されなかった漏れ光は、図2に示す2点鎖線の軌跡で隣接するp型領域6から離隔する水平方向又は水平方向に近い横方向に反射される。この場合、上面側に断面V型の第1分離溝10が形成された下面入射型受光素子アレイを提供することができる。
【実施例3】
【0043】
図3に示すように、本実施例の受光素子アレイ1Bにおいては、前記実施例1の各第1分離溝10の表面の反射防止膜12に代えて、断面V字状のn型電極8B(第2電極)が夫々設けられている。p型電極7を除くp型領域6の表面とn型電極8Bを除く窓層5の表面には、反射防止膜12Bが形成されている。半導体基板2の裏面全域には、前記実施例1と同様にn型電極8が形成されている。このため、複数のp型電極7と複数のn型電極8Bが同じ表面側に形成され且つ上面側に断面V型の第1分離溝10が形成された上面入射型受光素子アレイ1Bを提供することができる。
【0044】
尚、この受光素子アレイ1Bにおいて、p型領域6と窓層5の上面の反射防止膜12Bに代えて絶縁膜を形成し、半導体基板2の裏面全域のn型電極8に代えて又はp型領域6に対応する部分のn型電極8に代えて反射防止膜を形成することで、裏面側から入射可能な受光素子アレイを構成しても良い。この場合、上面側に断面V型の第1分離溝10が形成された下面入射型受光素子アレイを提供することができる。
【実施例4】
【0045】
図4に示すように、本実施例の受光素子アレイ1Cにおいては、複数のp型領域6に対応する窓層5と受光層4とバッファ層3を貫通する深さのスリット状の第2分離溝15が形成され、このスリット状の第2分離溝15の表面にn型電極8Cが形成されている。このスリット状の第2分離溝15は、p型領域を囲むように平面視C型又は円形に形成されている。p型電極7を除くp型領域6とn型電極8Cを除く窓層と第1分離溝10の表面には、反射防止膜12Cが形成されている。半導体基板2の裏面全域には、前記実施例1と同様にn型電極8が形成されている。このため、複数のp型電極7と複数のn型電極8Cが同じ表面側に形成され且つ上面側に断面V型の第1分離溝10とスリット状の第2分離溝15が形成された上面入射型受光素子アレイ1Cを提供することができる。
【0046】
尚、この受光素子アレイ1Cにおいて、p型領域6と窓層5と第1分離溝10の表面の反射防止膜12Cに代えて絶縁膜を形成し、半導体基板2の裏面全域のn型電極8に代えて又はp型領域6に対応する部分のn型電極8に代えて反射防止膜を形成することで、下面側から入射可能な下面側受光素子アレイを構成しても良い。この場合、上面側に断面V型の第1分離溝10とスリット状の第2分離溝15が形成された下面入射型受光素子アレイを提供することができる。
【実施例5】
【0047】
先ず、受光素子アレイ1Dの全体構成について説明する。
図5に示すように、受光素子アレイ1Dは、下面入射型の受光素子アレイである。この 受光素子アレイ1Dは、n型InP半導体基板2と、この半導体基板2の表面側に形成されたn型InPバッファ層3と、このバッファ層3の表面側に形成されたn型InGaAs受光層4と、この受光層4の表面側に形成されたn型InP窓層5とを順次積層して構成されている。複数のp型領域6と、複数のp型電極7と、複数のn型電極8Dと、断面倒立V型の複数の第1分離溝14と、スリット状の複数の第2分離溝15なども設けられている。
【0048】
複数のp型領域6は、窓層5を貫通して受光層4の表面側部分に突入する状態に形成され且つ1次元的又は2次元的な配列として離隔状に形成されている。複数のp型電極7は、これら複数のp型領域6の表面の少なくとも一部に夫々設けられている。このp型電極7は、絶縁膜13Dにより窓層5と絶縁されている。複数のp型領域6と受光層4との各境界部には、pn接合11が形成されている。尚、p型電極7は、本実施例ではp型領域に部分的に設けられているが、窓層5と電気的に接触しない程度にp型領域6の表面全域に設けても良い。
【0049】
第1分離溝14は、複数のp型領域6からなる複数のアレイが形成する複数のアレイ間領域の裏面側に断面倒立V型に形成され、半導体基板2の裏面側に開放状に設けられている。第1分離溝14の頂角は、約70度程度に形成される。反射防止膜12Dは、複数の第1分離溝14の裏面を含む半導体基板2の裏面全域に設けられている。
【0050】
第2分離溝15は、スリット状に形成されている。第2分離溝15は、複数のp型領域6からなる複数のアレイが形成する複数のアレイ間領域に、p型領域6を囲むように平面視C型又は円形に形成されている。この第2分離溝15は、窓層5と受光層4とバッファ層3を貫通する深さに設けられている。n型電極8Dは、これら各第2分離溝15の表面に断面U形に形成されている。p型電極7を除くp型領域6の上面とn型電極8Dを除く窓層5の上面には、絶縁膜13Dが形成されている。尚、第2分離溝15は、少なくとも窓層5と受光層4を貫通することが望ましい。第1,第2分離溝14,15に半導体材料を埋め込んだ構造にしても良い。
【0051】
次に、本発明の受光素子アレイ1Dの作用及び効果について説明する。
先ず、逆バイアス状態の受光素子アレイ1Dの下面側に、光が入射されると、この光は、反射防止膜12Dと半導体基板2とバッファ層3を透過してpn接合11の空乏層に入射されて、この空乏層にて電子正孔対のキャリアが発生する。そして、主にn側空乏層で発生した正孔がp型領域6に移動することで、光電流が発生する。
【0052】
しかし、pn接合11に入射する光の大部分は、受光面(下面)に対して垂直に近い角度で入射されるが、その一部は斜めに入射される場合がある。この斜め入射光が、受光層4に吸収されずに漏れ光となると、受光素子アレイ1Dの上面と下面との間で多重反射を繰り返しながら、隣接するpn接合11の方向に移動する。断面倒立V型の第1分離溝14は、受光素子アレイ1Dのpn接合11間に設けられているので、第1分離溝14の傾斜面により、図5に示す2点鎖線の軌跡で、漏れ光を隣接するp型領域6から離隔する水平方向又は水平方向に近い横方向に反射する。
【0053】
また、光が受光面に対して垂直に入射された場合であっても、その一部が受光層に吸収されずに透過して漏れ光となり、この漏れ光が、受光素子アレイ1Dの上面で乱反射してしまう可能性がある。このとき、漏れ光は、受光素子アレイ1Dの上面と下面との間で多重反射を繰り返しながら、隣接するpn接合11の方向に移動してしまうが、第1分離溝14の傾斜面により、漏れ光を隣接するp型領域6から離隔する水平方向又は水平方向に近い横方向に反射する。
【0054】
このように、受光素子アレイ1Dにおいて、半導体基板2の裏面に開放された断面倒立V型の複数の第1分離溝14を夫々設けたので、この第1分離溝14により、斜め入射された光、垂直方向に多重反射を繰り返す光や乱反射された漏れ光を、隣接するp型領域6から離隔する水平方向又は水平に近い横方向へ効率よく反射させ、隣接するpn接合11へ入射する光を低減させることで、光学的クロストークを抑制することができる。
【0055】
また、スリット状の第2分離溝15により、空乏層で発生したキャリアが横方向拡散により隣接するpn接合11へ移動するのを防止し、隣接するpn接合11との間の電気的クロストークを抑制することができる。さらに、断面倒立V型の第1分離溝14が下面側に形成された下面入射型受光素子アレイ1Dを提供することができる。
【0056】
次に、前記実施例5を部分的に変更した変更例について説明する。
図5に示す受光素子アレイ1Dにおいて、半導体基板2の裏面全域の反射防止膜12Dに代えてn型電極を形成し、p型領域6と窓層5の上面の絶縁膜13Dに代えて反射防止膜を形成することで、上面側から入射可能な上面入射型受光素子アレイを構成しても良い。このとき、上面から光が入射されて、受光層4を透過した漏れ光は、図5に示す実線の軌跡で水平方向に反射される。この場合、断面倒立V型の第1分離溝14が下面側にスリット状の第2分離溝15が上面側に形成された上面入射型受光素子アレイを提供することができる。
【実施例6】
【0057】
図6に示すように、本実施例の受光素子アレイ1Eにおいて、複数の第1分離溝14Eは、各pn接合11の下側に位置するように且つ半導体基板2の裏面側に開放するように夫々設けられている。第1分離溝14Eの裏面を含む半導体基板2の裏面全域にはn型電極18が形成され、p型電極7を除くp型領域6の上面残部とn型電極8Dを除く窓層5の上面残部には、反射防止膜12Eが形成されている。それ以外の構成は、前記実施例5と同様である。このため、断面倒立V型の第1分離溝14Eがpn接合11の下側に夫々形成された上面入射型受光素子アレイ1Eを提供することができる。尚、複数の第1分離溝14Eが各pn接合11の下側に位置するように形成される構成は、以下の実施例の構成にも適用可能であるが、上面入射型の受光素子アレイに限定される。
【実施例7】
【0058】
図7に示すように、本実施例の受光素子アレイ1Fにおいては、半導体基板2の裏面の各p型領域6に対応する部分に反射防止膜12Fが部分的に形成され、前記実施例5の第2分離溝15の表面に形成されたn型電極8Dに代えて、複数の第1分離溝14の裏面を含む半導体基板2の反射防止膜12Fを除く裏面残部にn型電極8Fが設けられている。絶縁膜13Fは、p型電極7を除くp型領域6の表面と窓層5の表面と第2分離溝15の表面に形成されている。このため、複数のp型電極7とn型電極8Fが対向面上に形成され且つ第1分離溝14が下面側に第2分離溝15が上面側に形成された下面入射型受光素子アレイ1Fを提供することができる。
【0059】
尚、この受光素子アレイ1Fにおいて、半導体基板2の裏面側の反射防止膜12Fに代えてn型電極を形成し、p型領域6と窓層5と第2分離溝15の表面の絶縁膜13Fに代えて反射防止膜を形成することで、上面側から入射可能な受光素子アレイを構成するようにしても良い。この場合、第1分離溝14が下面側に第2分離溝15が上面側に形成された上面入射型受光素子アレイを提供することができる。
【0060】
ここで、前記実施例を部分的に変更する例について説明する。
[1]前記実施例において、n側InP半導体基板に代えて、半絶縁性基板(Si−InP基板)を採用することも可能である。この場合、n側InPバッファ層の代わりにn+型InP層を形成する。
[2]前記実施例において、第1導電型を「n型」に、第2導電型を「p型」にしているが、これとは逆に、第1導電型を「p型」に、第2導電型を「n型」となるように受光素子アレイを製造しても良い。
[3]その他、当業者であれば、本発明の趣旨を逸脱することなく、前記実施例の種々の変更を付加した形態で実施可能で、本発明はそのような変更形態を包含するものである。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明は、光通信用、1次元又は2次元センサ用の種々の受光素子アレイや、他の用途に用いられる種々の受光素子アレイに利用することができる。
【符号の説明】
【0062】
1,1A〜1F 受光素子アレイ
2 半導体基板
3 バッファ層
4 受光層
5 窓層
6 p型領域
7 p型電極
8,8A〜8D n型電極
10,14,14E 第1分離溝
11 pn接合
15 第2分離溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1導電型の半導体基板と、この半導体基板の表面側に形成した第1導電型の受光層と、この受光層の表面側に形成した第1導電型の窓層と、この窓層を貫通して受光層の表面側に突入する状態に形成され且つ1次元的または2次元的な配列として離隔状に形成された複数の第2導電型領域と、これら複数の第2導電領域の表面の少なくとも一部に夫々設けた複数の第1電極とを有する受光素子アレイにおいて、
前記複数の第2導電型領域からなる複数のアレイが形成する複数のアレイ間領域に、少なくとも前記窓層と受光層を貫通する深さの表面側に開放された断面V型の第1分離溝を夫々設けた、
ことを特徴とする受光素子アレイ。
【請求項2】
前記半導体基板と前記受光層の間に、第1導電型のバッファ層を設けたことを特徴とする請求項1に記載の受光素子アレイ。
【請求項3】
前記半導体基板の裏面に1又は複数の第2電極を設けたことを特徴とする請求項1又は2に記載の受光素子アレイ。
【請求項4】
前記各第1分離溝の表面に第2電極を設けたことを特徴とする請求項1又は2に記載の受光素子アレイ。
【請求項5】
前記複数の第2導電型領域からなる複数のアレイが形成する複数のアレイ間領域に、少なくとも前記窓層と受光層を貫通する深さのスリット状の第2分離溝を夫々設け、これらの第2分離溝の表面に第2電極を形成したことを特徴とする請求項1又は2に記載の受光素子アレイ。
【請求項6】
第1導電型の半導体基板と、この半導体基板の表面側に形成した第1導電型の受光層と、この受光層の表面側に形成した第1導電型の窓層と、この窓層を貫通して受光層の表面側に突入する状態に形成され且つ1次元的または2次元的な配列として離隔状に形成された複数の第2導電型領域と、これら複数の第2導電領域の表面の少なくとも一部に夫々設けた複数の第1電極とを有する受光素子アレイにおいて、
前記半導体基板の裏面側に解放された断面倒立V型の複数の第1分離溝を夫々設けた、
ことを特徴とする受光素子アレイ。
【請求項7】
前記半導体基板と前記受光層の間に、第1導電型のバッファ層を設けたことを特徴とする請求項6に記載の受光素子アレイ。
【請求項8】
前記半導体基板の裏面に第2電極を形成したことを特徴とする請求項6又は7に記載の受光素子アレイ。
【請求項9】
前記複数の第2導電型領域からなる複数のアレイが形成する複数のアレイ間領域に、前記窓層と受光層を貫通する深さのスリット状の第2分離溝を夫々設け、これらの第2分離溝の表面に第2電極を形成したことを特徴とする請求項6又は7に記載の受光素子アレイ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−258691(P2011−258691A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−130919(P2010−130919)
【出願日】平成22年6月8日(2010.6.8)
【出願人】(000161862)京セミ株式会社 (6)
【Fターム(参考)】