説明

可変ノズルのベーン形状及び可変容量過給機

【課題】ベーン背側部の前縁部側における負圧部分の発生の抑制又はノズル流路における速度勾配の緩和を図ることにより、可変ノズルにおける圧力損失を低減し、タービン効率を向上させることができる可変ノズルのベーン形状及び可変容量過給機を提供する。
【解決手段】流体を動翼に供給して動力を得るラジアルタービンの流体供給路31に断面翼形状のベーン1を回動可能に配置することにより流体の供給量を調節可能に構成した可変ノズルのベーン形状であって、ベーン1の断面翼形状は、腹側部5の前縁部2側に形成された凸部を有し、該凸部は、流体の供給量が最も少ないベーン1の全閉状態において、隣接するベーン1との間に形成されるノズル流路32を構成する部分に形成されており、ノズル流路32は、入口から出口までの長さX/出口面積Woutにより表されるノズル流路長さ比Tが1.0以上である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体を動翼に供給して動力を得るラジアルタービンの流体供給路に断面翼形状のベーンを回動可能に配置することにより前記流体の供給量を調節可能に構成した可変ノズルのベーン形状及び該ベーン形状を有する可変容量過給機に関し、特に、可変ノズルにおける圧力損失を低減し、タービン効率を向上させることができる可変ノズルのベーン形状及び可変容量過給機に関する。
【背景技術】
【0002】
流体を動翼に供給して、流体の運動エネルギーを回転運動に変換して動力を得る回転式原動機は、一般にタービンと呼ばれている。特に、動翼の半径方向から流体を供給して軸方向に排出するタイプをラジアルタービンという。かかるラジアルタービンを利用した装置の一つに車両用過給機がある。ここで、車両用過給機(ターボチャージャー)は、排気ガスの供給によりタービン動翼を回転させるガスタービンと、前記タービン動翼と同軸に連結された羽根車により空気を吸入するコンプレッサと、を備えている。前記コンプレッサにより吸入された空気は、圧縮されてエンジンに供給され、燃料と混合されて燃焼される。燃焼後の排気ガスは、前記ガスタービンに送られて仕事をした後、最終的に大気中に放出される。前記排気ガスを前記タービン動翼に供給する流路は、排気ガスを加速させるために、前記タービン動翼の回転軸周りに渦巻き形状に形成されたスクロール部を有し、前記タービン動翼の半径方向から前記排気ガスを供給するように構成されている。
【0003】
かかる車両用過給機において、車両のエンジンの回転数に合わせて適切なタービン出力を得るために、スクロール部からタービン動翼に流体を供給する流体供給路に複数の回動可能なベーンを配置した可変ノズルを備えた可変容量過給機が開発されている(例えば、特許文献1又は特許文献2参照)。そして、排気ガスの流量が少ない場合には、隣接するベーンとの間に形成されるノズル流路が狭くなるように前記ベーンを回動させて、排気ガスにスワールが与えられるようにしている。また、排気ガスの流量が多い場合には、ノズル流路が広くなるように前記ベーンを回動させて、排気ガスに与えられるスワールを抑えるようにしている。かかる可変ノズルのベーン形状は、タービン効率に影響すると考えられており、一般に、前縁部の径を大きくするとともに後縁部の径を小さくした翼形状に形成されている。例えば、特許文献1に記載のベーンは、直線のキャンバーラインに沿って形成された翼形状をなしており、特許文献2に記載のベーンは、背側部側に凸となるように反ったキャンバーラインに沿って形成された翼形状をなしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−40251号公報、図10(A)
【特許文献2】特開平11−257082号公報、図2
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1のような直線のキャンバーラインに沿って形成された従来の可変ノズルのベーン形状では、流体(排気ガス)の供給量が最も多いベーンの全開状態では、流体(排気ガス)のノズル流路に対する流入角度とベーンの前縁部における前記キャンバーラインの角度(入射角)との差が大きいため、ベーン背側部の前縁部における境界層において負圧となる部分が形成され易く、圧力損失の要因となっていた。特に、負圧が大きい場合には、流体(排気ガス)の剥離が生じてしまうおそれもあった。
【0006】
また、特許文献1及び特許文献2に記載された従来の可変ノズルのベーン形状では、排気ガスの供給量が最も少ないベーンの全閉状態において、ノズル流路の入口側が広く出口側が狭い形状になっているため、ノズル流路を通過する流体(排気ガス)の速度勾配が大きく、圧力損失の要因となっていた。
【0007】
本発明は上述した問題点に鑑み創案されたものであり、ベーン背側部の前縁部側における負圧部分の発生の抑制又はノズル流路における速度勾配の緩和を図ることにより、可変ノズルにおける圧力損失を低減し、タービン効率を向上させることができる可変ノズルのベーン形状及び可変容量過給機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、流体を動翼に供給して動力を得るラジアルタービンの流体供給路に断面翼形状のベーンを回動可能に配置することにより前記流体の供給量を調節可能に構成した可変ノズルのベーン形状であって、前記ベーンの断面翼形状は、腹側部の前縁部側に形成された凸部を有し、該凸部は、前記流体の供給量が最も少ない前記ベーンの全閉状態において、隣接するベーンとの間に形成されるノズル流路を構成する部分に形成されており、該ノズル流路は、入口から出口までの長さ/出口面積により表されるノズル流路長さ比Tが1.0以上である、ことを特徴とする可変ノズルのベーン形状が提供される。
【0009】
前記ノズル流路は、入口面積/出口面積により表されるノズル流路面積比Sと、入口から出口までの長さ/出口面積により表されるノズル流路長さ比Tとの関係が、S<0.5・T+1.0、S>1.0、T>1.0を満たすように構成されていてもよい。
【0010】
前記ノズル流路は、入口面積/出口面積により表されるノズル流路面積比Sと、入口から出口までの長さ/出口面積により表されるノズル流路長さ比Tとの関係が、S<0.2・T+1.2、S>1.0、T>1.0を満たすように構成されていてもよい。
【0011】
前記ベーンの断面翼形状は、背側部の後縁部側に形成された凹部を有し、該凹部は、前記全閉状態において、隣接するベーンとの間に形成されるノズル流路を構成する部分に形成されていてもよい。
【0012】
また、本発明によれば、流体の供給により動翼を回転させるラジアルタービンと、前記動翼と同軸に連結された羽根車により空気を吸入するコンプレッサと、前記ラジアルタービンの流体供給路に断面翼形状のベーンを回動可能に配置することにより前記流体の供給量を調節可能に構成した可変ノズルと、を備えた可変容量過給機であって、前記ベーンの断面翼形状は、腹側部の前縁部側に形成された凸部を有し、該凸部は、前記流体の供給量が最も少ない前記ベーンの全閉状態において、隣接するベーンとの間に形成されるノズル流路を構成する部分に形成されており、該ノズル流路は、入口から出口までの長さ/出口面積により表されるノズル流路長さ比Tが1.0以上である、ことを特徴とする可変容量過給機が提供される。
【0013】
前記ノズル流路は、入口面積/出口面積により表されるノズル流路面積比Sと、入口から出口までの長さ/出口面積により表されるノズル流路長さ比Tとの関係が、S<0.5・T+1.0、S>1.0、T>1.0を満たすように構成されていてもよい。
【0014】
前記ノズル流路は、入口面積/出口面積により表されるノズル流路面積比Sと、入口から出口までの長さ/出口面積により表されるノズル流路長さ比Tとの関係が、S<0.2・T+1.2、S>1.0、T>1.0を満たすように構成されていてもよい。
【0015】
前記ベーンの断面翼形状は、背側部の後縁部側に形成された凹部を有し、該凹部は、前記全閉状態において、隣接するベーンとの間に形成されるノズル流路を構成する部分に形成されていてもよい。
【発明の効果】
【0016】
上述した本発明の可変ノズルのベーン形状及び可変容量過給機によれば、全閉状態におけるノズル流路に凸部を形成することにより、全閉状態におけるノズル流路の流路幅(ベーンの背側と隣接するベーンの腹側の距離)の変化を緩和することができる。さらに、ノズル流路のノズル流路長さ比Tを1.0以上に設定することにより、全閉状態においても、ノズル流路の速度勾配を緩和しつつノズル流路の出口における必要な流速を確保することができる。したがって、可変ノズルにおける圧力損失を効果的に低減することができる。
【0017】
また、ノズル流路面積比Sとノズル流路長さ比Tとが所定の関係式を満たすようにすることにより、全閉状態から全開状態の全域に渡って効果的にノズル流路の流路幅の変化を緩和することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の可変ノズルのベーン形状を示す断面図であり、(A)は第一実施形態、(B)は第二実施形態、(C)は第三実施形態である。
【図2】第一実施形態のベーン形状における翼厚D/キャンバー長と無次元キャンバー長との関係を示す図である。
【図3】第一実施形態のベーンにより形成されるノズル流路を示す断面図であり、(A)は全開状態、(B)は全閉状態を示している。
【図4】ノズル流路面積比とノズル流路長さ比との関係を示す図である。
【図5】本発明の第一実施形態に係るベーン形状を有する可変ノズルの流速分布図であり(A)は全開状態、(B)は全閉状態を示している。
【図6】本発明の可変ノズルのベーン形状を採用した可変容量過給機の断面図である。
【図7】本発明の可変容量過給機と従来のベーン形状を採用した可変容量過給機におけるタービン効率を比較した図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について図1〜図7を用いて説明する。ここで、図1は、本発明の可変ノズルのベーン形状を示す断面図であり、(A)は第一実施形態、(B)は第二実施形態、(C)は第三実施形態である。また、図2は、第一実施形態のベーン形状における翼厚D/キャンバー長と無次元キャンバー長との関係を示す図である。
【0020】
図1(A)〜(C)に示したベーン形状は、流体を動翼に供給して動力を得るラジアルタービンの流体供給路に断面翼形状のベーン1を回動可能に配置することにより前記流体の供給量を調節可能に構成した可変ノズルのベーン形状である。ベーン1の断面翼形状は、流体の入口側を形成する前縁部2と、流体の出口側を形成する後縁部3と、ベーン1の表面における静圧が低圧となる背側部4と、ベーン1の表面における静圧が高圧となる腹側部5と、から構成されている。各図において、背側部4の変曲点をP1〜P4で示し、腹側部の変曲点をQ1〜Q4で示している。そして、曲線P1Q1が前縁部2、曲線P4Q4が後縁部3、曲線P1P4が背側部4、曲線Q1Q4が腹側部5を構成している。また、説明の便宜上、曲線P1P2を第一背側部4a、曲線P2P3を第二背側部4b、曲線P3P4を第三背側部4c、曲線Q1Q2を第一腹側部5a、曲線Q2Q3を第二腹側部5b、曲線Q3Q4を第三腹側部5cと称することとする。
【0021】
ここで、図1(A)〜(C)に示した本発明のベーン形状における特徴は、腹側部5の前縁部2側に形成された凸部と、背側部4の後縁部3側に形成された凹部と、を有することである。具体的には、第一腹側部5a(曲線Q1Q2)を凸に形成し、第三背側部4c(曲線P3P4)を凹に形成している。すなわち、前記凸部は第一腹側部5a(曲線Q1Q2)に相当し、前記凹部は第三背側部4c(曲線P3P4)に相当する。この第一腹側部5a(曲線Q1Q2)及び第三背側部4c(曲線P3P4)は、後述するように、流体の供給量が最も少ないベーン1の全閉状態において、隣接するベーン1との間に形成されるノズル流路の一部を構成する部分である。かかる部分に対峙する凸部と凹部を形成することにより、ノズル流路の流路幅の変化を小さくすることができ、ノズル流路を通過する流体の速度勾配を緩和することができ、可変ノズルにおける圧力損失を低減することができる。
【0022】
図1(A)に示す本発明の第一実施形態に係るベーン形状は、背側部4に凸なキャンバーラインCを有する。また、かかるキャンバーラインCは、前縁部2における接線方向である入射角と、流体の供給量が最も多いベーン1の全開状態における流入角とがなす角度αが20°以下となるように形成されている。全開状態における入射角と流入角とがなす角度αを20°以下に設定することにより、背側部4における負圧の発生を効果的に抑制することができる。
【0023】
ここで、キャンバーラインCの前縁部2から後縁部3までの長さにより規定されるキャンバー長をL、キャンバーラインCの垂線と背側部4及び腹側部5との交点の長さにより規定される翼厚をDとする。キャンバー長Lに対する翼厚Dの割合(翼厚D/キャンバー長L)を前縁部2から後縁部3に渡って図示すると図2のように表記される。なお、無次元キャンバー長とは、キャンバー長Lの全体を1として表現したものである。図2に示すように、本発明の第一実施形態では、無次元キャンバー長が約0.3の位置において翼厚Dが最大値となっていることがわかる。すなわち、本発明の第一実施形態における最大翼厚部は、キャンバーラインCに沿って前縁部2から約30%の位置に配置されていることとなる。この最大翼厚部の位置は、特にベーン1の全開状態におけるノズル流路の形状に影響を与える。全開状態におけるノズル流路の流路幅の変化を小さくするためには、最大翼厚部はノズル流路の入口よりも上流側に配置されていることが好ましい。具体的な配置位置は、ベーンの大きさや個数等によって任意に設定されるものであるが、概ね無次元キャンバー長が0.2〜0.4の範囲(キャンバーラインCに沿って前縁部2から20〜40%の位置)に配置されていることが好ましい。
【0024】
また、最大翼厚部の厚さもベーン1の全開状態におけるノズル流路の形状に影響を与える。この厚さも全開状態におけるノズル流路の流路幅の変化を小さくするように設定される。具体的な厚さは、ベーンの大きさや個数等によって任意に設定されるものであるが、概ね翼厚D/キャンバー長Lの最大値が0.15〜0.2の範囲(キャンバー長Lに対する15〜20%の厚さ)に設定されていることが好ましい。
【0025】
なお、背側部4の第一背側部4a及び第二背側部4b、腹側部5の第二腹側部5b及び第三腹側部5cの形状は、キャンバーラインCの形状及び最大翼厚部の位置を設定した後、隣接するベーンとの間に形成されるノズル流路の流路幅の変化が小さくなるように、かつ第三背側部4c又は第一腹側部5aと滑らかに接続されるように設定される。ここでは、背側部4の第一背側部4a及び第二背側部4bにより構成される凸部を2つの異なる曲率を有する曲線P1P2,P2P3により構成しているが、同一の曲率を有する曲線により構成してもよい。また、腹側部5の第一腹側部5a及び第二腹側部5bにより構成される凸部を2つの異なる曲率を有する曲線Q1Q2,Q2Q3により構成しているが、同一の曲率を有する曲線により構成してもよい。
【0026】
図1(B)に示す本発明の第二実施形態に係るベーン形状は、凹部を構成する第三背側部4c(曲線P3P4)の曲率を、凸部を構成する第一腹側部5a(曲線Q1Q2)の曲率と等しくなるように設定したものである。また、第三背側部4c(曲線P3P4)と第二背側部4b(曲線P2P3)、第二背側部4b(曲線P2P3)と第一背側部4a(曲線P1P2)が、それぞれ滑らかに連なるように第一背側部4a(曲線P1P2)及び第二背側部4b(曲線P2P3)の曲率を調節してある。その他の点については、第一実施形態と同じ構成であるため詳細な説明を省略する。なお、凸部を構成する第一腹側部5a(曲線Q1Q2)の曲率を、凹部を構成する第三背側部4c(曲線P3P4)の曲率と等しくなるように設定してもよいことは勿論である。
【0027】
図1(C)に示す本発明の第三実施形態に係るベーン形状は、キャンバーラインCを直線状に設定したものである。上述したように本発明は、第一腹側部5a(曲線Q1Q2)を凸に形成し、第三背側部4c(曲線P3P4)を凹に形成したことを特徴とする。したがって、本発明は、キャンバーラインCを直線状に設定したベーン1にも適用することができる。かかる第三実施形態では、負圧の発生を抑制する効果は低いが、特に全閉状態におけるノズル流路の流路幅の変化を小さくすることができ、ノズル流路を通過する流体の速度勾配を緩和することができ、可変ノズルにおける圧力損失を抑制することができるとの効果を奏する。なお、その他の点については、第一実施形態と同じ構成であるため詳細な説明を省略する。
【0028】
続いて、上述した第一実施形態のベーン1を用いて、ベーン形状とノズル流路との関係について説明する。ここで、図3は、第一実施形態のベーンにより形成されるノズル流路を示す断面図であり、(A)は全開状態、(B)は全閉状態を示している。また、図4は、ノズル流路面積比Sとノズル流路長さ比Tとの関係を示す図である。
【0029】
図3(A)に示すように、タービン動翼の半径方向に流体を供給する流体供給路31には、複数のベーン1a,1bが所定の間隔で配列されている。ノズル流路32は、ベーン1aの背側部4と隣接するベーン1bの腹側部5とがオーバーラップする部分により構成される。ここで、ノズル流路32の入口面積をWin、出口面積をWout、入口から出口までの長さをXで表記することとする。図3(A)に示す全開状態では、ベーン1a,1bは、ノズル流路32の入口面積Win及び出口面積Woutが最も大きく、かつノズル流路長さXが最も長くなるように回動されている。このとき、ベーン1aの最大翼厚部Dmaxは、ノズル流路32の入口よりも上流側に配置されている。この位置に最大翼厚部Dmaxを配置することにより、ベーン1aのノズル流路32の入口近傍における背側部4をベーン1bの腹側部5に接近させることができ、点線の円で図示したように、ノズル流路32の長さ方向における流路幅の変化を小さくすることができる。
【0030】
一方、図3(B)に示す全閉状態では、ベーン1a,1bは、ノズル流路32の入口面積Win及び出口面積Woutが最も小さく、かつノズル流路長さXが最も短くなるように回動されている。このとき、ベーン1aの背側部4の第三背側部4cに相当する凹部と、ベーン1bの腹側部5の第一腹側部5aに相当する凸部とが対峙した状態となり、点線の円で図示したように、ノズル流路32の長さ方向における流路幅の変化を小さくすることができる。また、ノズル流路長さXは、ノズル流路32の出口における必要な流速を確保しつつ、ノズル流路32の速度勾配を緩和するために、一定の長さを有していることが好ましい。例えば、ノズル流路32の出口面積Woutに対するノズル流路32の長さXの割合(長さX/出口面積Wout)により規定されるノズル流路長さ比Tが1.0以上であることが好ましい。
【0031】
また、ノズル流路32の速度勾配を効果的に緩和するためには、ノズル流路32のノズル流路面積比S(入口面積Win/出口面積Wout)とノズル流路長さ比Tとが一定の関係を満たしていることが好ましい。図4に示す図は、縦軸にノズル流路面積比S、横軸にノズル流路長さ比Tを示したものである。ノズル流路面積比S=1.0の場合は、入口面積Winと出口面積Woutの大きさが等しく、ノズル流路32の形状は略長方形となる。そして、ノズル流路面積比Sの値が1.0より大きくなるにつれて、入口面積Win>出口面積Woutとなり、ノズル流路32の形状はラッパ状に変形する。また、ノズル流路長さ比Tは、値が大きくなるにつれてノズル流路長さXが長くなることを意味する。
【0032】
ここで、従来例1(○)はキャンバーラインCが直線状の翼断面形状を有する従来のベーンを示し、従来例2(◇)はキャンバーラインCが背側に凸に形成された翼断面形状を有する従来のベーンを示し、従来例3(□)はキャンバーラインCが直線状の翼断面形状を有するとともにキャンバーラインCが長く設定されている従来のベーンを示している。
【0033】
図4に示すように、ノズル流路長さ比T=1.0により表される直線をF1とすると、従来例1及び従来例2では、直線F1よりもノズル流路長さ比Tが小さく、ノズル流路長さXが短く形成されている。したがって、ノズル流路の出口における必要な流速を確保するためには、ノズル流路をより狭くしなければならず、速度勾配が大きくなり易く、可変ノズルにおける圧力損失が生じ易い形状に形成されている。なお、ノズル流路面積比Sが1.0よりも小さい部分は、一方のベーンの前縁部が他方のベーンの背側部に接近するように回動されてスロート部が形成されていることを示している。
【0034】
また、従来例3では、直線F1よりもノズル流路長さ比Tが大きく形成されており、ベーンの全閉時においても十分なノズル流路が確保されている。しかしながら、この従来例3では、ベーンを開く方向に回動させる(ノズル流路長さXが長くなる)につれて、ノズル流路はラッパ状に変形している。したがって、ノズル流路の長さ方向における速度勾配が大きくなり易く、可変ノズルにおける圧力損失が生じ易い形状に形成されている。
【0035】
一方、本発明のベーン形状では、ノズル流路32の圧力損失を低減するために、流路幅の変化を小さくしつつ十分な流路長さを確保する必要がある。すなわち、図4に△で示したように、ノズル流路面積比Sはより小さいことが好ましく、ノズル流路長さ比Tはより大きいことが好ましい。ただし、ベーン開度が比較的大きい場合には、ノズル流路32を通過する流体の流量が多いこと、ノズル流路32に流入する流体の流速が元々速いこと等から、ベーン開度が大きくなるにつれてノズル流路面積比Sの許容値を大きくすることができる。また、本発明のベーン形状は、ノズル流路面積比Sとノズル流路長さ比Tの関係が、S<0.5・T+1.0、S>1.0、T>1.0の関係式を満たすように設計されている。ここで、図4における直線F2は、S=0.5・T+1.0を示している。この直線F2の関係式は、従来例1〜従来例3に基づいて設定したものであるが、これに限定されるものではない。例えば、図示した本発明の数値に基づいて条件を設定すれば、ノズル流路面積比Sとノズル流路長さ比Tの関係は、S<0.2・T+1.2、S>1.0、T>1.0の関係式を満たすように設計されていてもよい。また、図4における従来例3と本発明との間に配置される他の直線や曲線であってもよい。なお、上述した条件式において、図示しない従来例を部分的に含むような場合もあるかもしれないが、本発明のベーン形状は上述した条件式によってのみ定められるものではなく、それによって何ら本発明の有用性が否定されるものではない。
【0036】
次に、本発明のベーン形状の効果について説明する。ここで、図5は、本発明の第一実施形態に係るベーン形状を有する可変ノズルの流速分布図であり(A)は全開状態、(B)は全閉状態を示している。なお、本図において、ノズル流路32の入口側の流速が遅く、出口側の流速が速くなっており、その流速が徐々に変化していく様子を図示している。
【0037】
図5(A)に示す全開状態では、図1(A)及び図3に示したように、ベーン1a,1bのキャンバーラインCが背側部4側に凸な曲線に形成されていること、流入角と入射角の角度αが20°以下に設定されていること、最大翼厚部Dmaxがノズル流路32の入口よりも上流側に形成されていることから、ベーン1aの前縁部2の後流側における背側部4に流速が遅くなっている部分、換言すれば、負圧になっている部分が形成されていないことがわかる。
【0038】
また、図5(B)に示す全閉状態では、図1(A)及び図3に示したように、ノズル流路長さXが十分に確保されていること、ベーン1aの背側部4に凹部(第三背側部4c)を形成するとともにベーン1bの腹側部5に凸部(第一腹側部5a)を形成していることから、ノズル流路32の出口における必要な流速を確保しつつ速度勾配を緩和することができる。ここで、ノズル流路32における等速線の本数が図5(A)に示した全開状態よりも多いことは、ノズル流路32の出口における必要な流速が略同じ速さであるのに対して、ノズル流路32の入口における流体の流速が遅いことを示している。すなわち、図5(B)に示す全閉状態では、流速の変化率を大きくしなければならない。そこで、本発明では、ノズル流路長さXを十分に確保するとともに対峙する凸部及び凹部を形成して流路幅の長さ方向の変化を小さくしたことにより、図示したように、徐々に流速を速めることができる。したがって、ノズル流路32における圧力損失を低減することができる。
【0039】
続いて、本発明の可変ノズルのベーン形状を採用した可変容量過給機について図6を参照しつつ説明する。ここで、図6は、本発明の可変ノズルのベーン形状を採用した可変容量過給機の断面図である。
【0040】
本発明の可変容量過給機は、排気ガスの供給によりタービン動翼61aを回転させるガスタービン61と、タービン動翼61aと同軸に連結された羽根車62aにより空気を吸入するコンプレッサ62と、ガスタービン61の流体供給路31に断面翼形状のベーン1を回動可能に配置することにより前記流体の供給量を調節可能に構成した可変ノズル63と、を備えた可変容量過給機であり、ベーン1の断面翼形状は、例えば、図1(A)に示したように、腹側部5の前縁部2側に形成された凸部(第一腹側部5a)と、背側部4の後縁部3側に形成された凹部(第三背側部4c)と、を有する。なお、ベーン1の形状における他の構成部分については、本発明のベーン形状に関する説明で述べたとおりであるため、ここでは詳細な説明を省略する。
【0041】
かかる可変容量過給機の外形は、タービン61の筐体を構成するタービンハウジング64と、コンプレッサ62の筐体を構成するコンプレッサハウジング65と、タービン動翼61aを有するタービンディスクと羽根車72aを連結する回転軸66を支持するセンターハウジング67と、により構成されている。また、流体供給路31には、タービンハウジング64の外周に形成されたスクロール部64aから排気ガスが供給されるように構成されている。
【0042】
ここで、可変ノズル63は、タービンハウジング64に固定された環状のシュラウド63aと、タービンハウジング64及びセンターハウジング67の間に支持された環状の支持リング63bと、シュラウド63a及び支持リング63bの間で回動可能に支持された複数のベーン1と、ベーン1を回動させる駆動機構63cと、シュラウド63aと支持リング63bとの間隔を保持するピン63dと、から構成されている。したがって、シュラウド63aと支持リング63bとにより囲まれた部分が、スクロール部64aを流れる排気ガスをタービン動翼61aに供給する流体供給路31を構成している。ここでは、シュラウド63aの一部がスクロール部64a内に突出した場合を図示しているが、本発明の可変容量過給機は、かかる構造に限定されるものではなく、シュラウド63aの一部がスクロール部64a内に突出していない構造でもよいことは勿論である。なお、駆動機構63cは、例えば、リンク機構により構成されており、可変容量過給機の外部に配置されたアクチュエータ(図示せず)により動力が与えられ、複数のベーン1を同期させながら角度を変更できるように構成されている。
【0043】
続いて、本発明の可変容量過給機を使用した効果について説明する。ここで、図7は、本発明の可変容量過給機と従来のベーン形状を採用した可変容量過給機におけるタービン効率を比較した図である。なお、従来の可変容量過給機に採用したベーン形状は、図4で使用した従来例2のもの(キャンバーラインCが背側に凸に形成された翼断面形状を有する従来のベーン)である。
【0044】
図7において、縦軸にタービン効率を示し、横軸にタービン流量を示している。タービン効率は、図の上側ほど高効率であり、下側ほど低効率である。また、タービン流量は図の右側ほど多流量であり、左側ほど少流量である。すなわち、図示したタービン効率曲線の左端がベーン1の全閉状態を示し、右端がベーン1の全開状態を示している。そして、本発明の可変容量過給機のタービン効率曲線を実線で示し、従来の可変容量過給機のタービン効率曲線を点線で示している。図7に示したように、両者のタービン効率曲線を比較すると、ベーン1の全閉状態及び全開状態に近づくにつれて本発明の可変容量過給機のタービン効率が向上していることがわかる。具体的には、タービン効率は4〜5%程度改善されている。このタービン効率の改善は、可変容量過給機の可変ノズルに本発明のベーン形状を採用したことにより、可変ノズルにおける圧力損失が低減されているためである。特に、図7を参酌すれば、ベーン1の全閉状態及び全開状態において圧力損失の低減効果が高いことが分かる。
【0045】
本発明は上述した実施形態に限定されず、本発明の可変容量過給機において、図1(B)に示した第二実施形態のベーン形状や図1(C)に示した第三実施形態のベーン形状を採用してもよい等、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変更が可能であることは勿論である。
【符号の説明】
【0046】
1 ベーン
2 前縁部
3 後縁部
4 背側部
4a 第一背側部
4b 第二背側部
4c 第三背側部
5 腹側部
5a 第一腹側部
5b 第二腹側部
5c 第三腹側部
31 流体供給路
32 ノズル流路
61 ガスタービン
61a タービン動翼
62 コンプレッサ
62a 羽根車
63 可変ノズル
63a シュラウド
63b 支持リング
63c 駆動機構
63d ピン
64 タービンハウジング
64a スクロール部
65 コンプレッサハウジング
66 回転軸
67 センターハウジング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体を動翼に供給して動力を得るラジアルタービンの流体供給路に断面翼形状のベーンを回動可能に配置することにより前記流体の供給量を調節可能に構成した可変ノズルのベーン形状であって、
前記ベーンの断面翼形状は、腹側部の前縁部側に形成された凸部を有し、該凸部は、前記流体の供給量が最も少ない前記ベーンの全閉状態において、隣接するベーンとの間に形成されるノズル流路を構成する部分に形成されており、該ノズル流路は、入口から出口までの長さ/出口面積により表されるノズル流路長さ比Tが1.0以上である、ことを特徴とする可変ノズルのベーン形状。
【請求項2】
前記ノズル流路は、入口面積/出口面積により表されるノズル流路面積比Sと、入口から出口までの長さ/出口面積により表されるノズル流路長さ比Tとの関係が、S<0.5・T+1.0、S>1.0、T>1.0を満たす、ことを特徴とする請求項1に記載の可変ノズルのベーン形状。
【請求項3】
前記ノズル流路は、入口面積/出口面積により表されるノズル流路面積比Sと、入口から出口までの長さ/出口面積により表されるノズル流路長さ比Tとの関係が、S<0.2・T+1.2、S>1.0、T>1.0を満たす、ことを特徴とする請求項1に記載の可変ノズルのベーン形状。
【請求項4】
前記ベーンの断面翼形状は、背側部の後縁部側に形成された凹部を有し、該凹部は、前記全閉状態において、隣接するベーンとの間に形成されるノズル流路を構成する部分に形成されている、ことを特徴とする請求項1に記載の可変ノズルのベーン形状。
【請求項5】
流体の供給により動翼を回転させるラジアルタービンと、前記動翼と同軸に連結された羽根車により空気を吸入するコンプレッサと、前記ラジアルタービンの流体供給路に断面翼形状のベーンを回動可能に配置することにより前記流体の供給量を調節可能に構成した可変ノズルと、を備えた可変容量過給機であって、前記ベーンは、請求項1〜請求項4のいずれかに記載の可変ノズルのベーン形状に形成されている、ことを特徴とする可変容量過給機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−159089(P2012−159089A)
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−126156(P2012−126156)
【出願日】平成24年6月1日(2012.6.1)
【分割の表示】特願2008−60918(P2008−60918)の分割
【原出願日】平成20年3月11日(2008.3.11)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】