説明

可変容量型ポンプ制御装置

【課題】可変容量型ポンプの電流対流量特性の製造上のバラツキを較正して高い流量制御精度を得ることができる可変容量型ポンプ制御装置を既存品のみで簡単に構成する。
【解決手段】コントローラ51から入力した流量指令用の電流値に応じて電磁比例弁22から指令圧力を出力する。この指令圧力によりアクチュエータピストン33を作動し、可変容量型ポンプ14の斜板傾転角を可変調整する。コントローラ51に接続したモニタ55により、通常制御モードとキャリブレーションモードとを設定する。コントローラ51は、キャリブレーションモードでは、アクチュエータピストン33に作用する圧力値をモニタリングしながら流量指令用の電流値を変化させることで捉えた圧力値の変化点に対応する、実際の最大斜板位置での電流値を求め、この電流値と予め設定された仕様上の電流値との差を補正値Icalとし、これを通常制御モードで目標斜板電流値Ipumpに加算する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可変容量型ポンプの斜板傾転角制御系の製造上のバラツキを較正する可変容量型ポンプ制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
指令電流に応じた流量を出力する電磁比例流量制御方式の斜板傾転角による可変容量型ポンプには、ポンプの電流対流量の特性に製造上のバラツキがある。
【0003】
流量の制御精度を得るには、工場出荷調整を精密に行なうか、あるいは、実際の斜板傾転位置を検出する斜板傾転センサを設けて、斜板位置の偏差を補正するサーボ制御装置の付加が必要となり、応答遅れが発生しやすい、コストを要するなどの問題がある。
【0004】
これに対し、コントローラと、このコントローラからの駆動電流により駆動され指令圧力を生成する電磁比例弁及びこの電磁比例弁により生成された指令圧力に基づき可変容量式油圧ポンプの押しのけ容積を制御するレギュレータを有する押しのけ容積制御手段とを備え、前記コントローラは、前記油圧ポンプの目標押しのけ容積に対応する指令信号により前記駆動電流を生成し、この駆動電流により前記押しのけ容積制御手段を駆動し、前記油圧ポンプの押しのけ容積を制御する油圧ポンプ制御装置において、前記油圧ポンプの実際の押しのけ容積を計測する計測手段と、学習制御モードか通常制御モードのいずれかを選択するモード選択手段とを備え、前記コントローラは、前記レギュレータの入出力特性の公差の中央値の逆特性から前記目標押しのけ容積に応じた目標指令圧力を求め、前記電磁比例弁の入出力特性の公差の中央値の逆特性から前記目標指令圧力に応じた目標駆動電流を求め、前記駆動電流を生成する通常制御手段と、前記モード選択手段で学習制御モードが選択されている時に、前記レギュレータの入出力特性の公差の中央値の逆特性から任意の目標押しのけ容積に対応する目標指令圧力を求め、前記電磁比例弁の入出力特性の公差の中央値の逆特性からその目標指令圧力に応じた目標駆動電流を求め、前記駆動電流を生成することで前記油圧ポンプの押しのけ容積を制御し、前記任意の目標押しのけ容積と前記計測手段で計測した実際の押しのけ容積との差を求める学習演算手段と、前記モード選択手段で通常制御モードが選択されている時に、前記学習演算手段で求めた任意の目標押しのけ容積と実際の押しのけ容積との差に基づいてそのときの目標押しのけ容積を補正する学習補正手段とを有する油圧ポンプ制御装置がある。
【0005】
この油圧ポンプ制御装置は、電磁比例弁やレギュレータの特性が個々の個体により公差の範囲内でばらついていても、中央値の特性で制御されたときの実ポンプ傾転と同じ実ポンプ傾転が得られるので、実ポンプ傾転を目標ポンプ傾転と同じに制御することができ、実ポンプ傾転のばらつきを小さくすることができる。このため、例えば油圧ショベルの水平引き、フロント位置合わせ等、オペレータ操作に油圧作業機械が正確に追従してほしい動作での微操作性や、操作フィーリングを向上することができ、作業効率を上げることができる。また、通常運転時に、傾転角センサで検出した油圧ポンプの傾転角をフィードバックし、目標ポンプ傾転との差をとって制御する、いわゆるフィードバック制御でも、実ポンプ傾転を目標ポンプ傾転と同じに制御することができるが、フィードバック制御では応答遅れが発生し、また万一傾転角センサの故障時には制御が行えなくなるという問題があるが、この油圧ポンプ制御装置の通常制御モードでは、フィードバック制御ではなく、傾転角センサの検出値を使用しないオープンループで制御するので、応答遅れは発生せず、また、万一傾転角センサが故障したとしても、正常に作業機械を動かすことができる。という効果を有する(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特許第3497031号公報(第3頁、第8頁、図1−3)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
この特許文献1に記載された油圧ポンプ制御装置は、前記油圧ポンプの実際の押しのけ容積を計測する計測手段を備え、前記コントローラは、前記レギュレータの入出力特性の公差の中央値の逆特性から前記目標押しのけ容積に応じた目標指令圧力を求め、前記電磁比例弁の入出力特性の公差の中央値の逆特性から前記目標指令圧力に応じた目標駆動電流を求め、前記駆動電流を生成し、前記モード選択手段で学習制御モードが選択されている時に、前記レギュレータの入出力特性の公差の中央値の逆特性から任意の目標押しのけ容積に対応する目標指令圧力を求め、前記電磁比例弁の入出力特性の公差の中央値の逆特性からその目標指令圧力に応じた目標駆動電流を求め、前記駆動電流を生成することで前記油圧ポンプの押しのけ容積を制御し、前記任意の目標押しのけ容積と前記計測手段で計測した実際の押しのけ容積との差を求め、前記モード選択手段で通常制御モードが選択されている時に、前記任意の目標押しのけ容積と実際の押しのけ容積との差に基づいてそのときの目標押しのけ容積を補正するので、ポンプ傾転角センサなどの計測手段を取付ける必要があり、構造が複雑になるとともに、コントローラの演算回路が複雑になる。このような複雑な装置においては、設計が容易でないとともに、故障に対する信頼性が低下するなどの課題がある。
【0007】
本発明は、このような点に鑑みなされたもので、可変容量型ポンプの電流対流量特性の製造上のバラツキを較正して高い流量制御精度を得ることができる可変容量型ポンプ制御装置を既存品のみで簡単に構成することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に記載された発明は、入力された流量指令用の電流値に応じた指令圧力を出力する電磁比例弁と、この電磁比例弁から出力された指令圧力により作動して可変容量型ポンプの斜板傾転角を可変調整するアクチュエータピストンと、可変容量型ポンプの目標流量に対応する流量指令用の電流値により電磁比例弁を介してアクチュエータピストンを駆動することで、可変容量型ポンプの斜板傾転角を制御するコントローラと、通常制御モードとキャリブレーションモードとを設定可能なモード設定手段とを具備し、コントローラは、キャリブレーションモードでは、アクチュエータピストンに作用する圧力値をモニタリングしながら流量指令用の電流値を変化させることで捉えられた圧力値の変化点に対応する、実際の最小斜板位置および最大斜板位置の少なくとも一方での電流値を求め、この実際の電流値と予め設定された仕様上の電流値との差を補正値として、通常制御モードでは電磁比例弁に対して出力される流量指令用の電流値を補正する機能を備えた可変容量型ポンプ制御装置である。
【0009】
請求項2に記載された発明は、請求項1記載の可変容量型ポンプ制御装置におけるコントローラが、モード設定手段でキャリブレーションモードが設定されているとき、流量指令用の電流値を増加させながらアクチュエータピストンに作用する圧力値をモニタリングし、アクチュエータピストンに作用する圧力値が一定の閾値より低くなる実際の最大斜板位置における電流値を求め、この実際の最大斜板位置における電流値と予め設定された仕様上の最大斜板位置における電流値との差を補正値として演算し記憶する補正値演算機能を備えたものである。
【0010】
請求項3に記載された発明は、請求項1または2記載の可変容量型ポンプ制御装置におけるコントローラが、可変容量型ポンプの目標流量と予め設定された仕様上の電流値との関係を決定する流量対電流出力の制御テーブルと、モード設定手段で通常制御モードが設定されているとき、流量対電流出力の制御テーブルから出力された電流値に補正値を加算することで、電磁比例弁に対して出力される電流値を補正する加算器とを具備したものである。
【発明の効果】
【0011】
請求項1に記載された発明によれば、コントローラが、キャリブレーションモードでは、アクチュエータピストンに作用する圧力値をモニタリングしながら流量指令用の電流値を変化させることで捉えられた圧力値の変化点に対応する、実際の最小斜板位置および最大斜板位置の少なくとも一方での電流値を求め、この実際の電流値と予め設定された仕様上の電流値との差を補正値として、通常制御モードでは電磁比例弁に対して出力される流量指令用の電流値を補正するので、可変容量型ポンプの電流対流量特性の製造上のバラツキを較正して高い流量制御精度を得ることができる可変容量型ポンプ制御装置を、既存品のみで簡単に構成できる。
【0012】
請求項2に記載された発明によれば、流量指令用の電流値を増加させながらアクチュエータピストンに作用する圧力値をモニタリングし、アクチュエータピストンに作用する圧力値が一定の閾値より低くなる実際の最大斜板位置における電流値を求め、この実際の最大斜板位置における電流値と予め設定された仕様上の最大斜板位置における電流値との差を補正値として演算し記憶するので、圧力値が一定の閾値より低くなる実際の最大斜板位置における電流値を確実に捉えることができ、補正値を容易にかつ確実に得ることができる。
【0013】
請求項3に記載された発明によれば、モード設定手段で通常制御モードが設定されているとき、流量対電流出力の制御テーブルから出力された電流値に補正値を加算することで、電磁比例弁に対して出力される電流値を補正するので、流量対電流出力の制御テーブルの内容を変更することなく、電流値の補正を簡単にできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明を、図1乃至図4に示された一実施の形態を参照しながら詳細に説明する。
【0015】
図1に示されるように、ポンプユニット11の内部には外部のエンジン12によりポンプシャフト13を介して回転される可変容量型ポンプ14が設置され、そのポンプ吐出通路15には、シャトル弁16の一方の入口16aが接続され、シャトル弁16の他方の入口16bには外部のパイロットポンプ17が接続され、シャトル弁16の出口16cには通路18が接続され、この通路18はレギュレータ21の電磁比例弁22の入口ポート23に接続されている。
【0016】
この電磁比例弁22は、比例ソレノイド24と、スプール25と、2種類のスプリング26,27とを備え、比例ソレノイド24に入力された流量指令用の電流値に応じてスプール25がスプリング26,27に抗して変位することにより、入口ポート23を出口ポート28に連通して指令圧力を通路29に出力する位置から、出口ポート28をタンク通路30に連通して指令圧力を消滅させる位置へと切換えることができる。
【0017】
通路29は、オリフィス31を介してピストン室32に連通され、このピストン室32には、電磁比例弁22から通路29に出力された指令圧力により作動して可変容量型ポンプ14の斜板傾転角を可変調整するアクチュエータピストン33が嵌合されている。このアクチュエータピストン33には、変位したときに通路29をタンク34に連通してアクチュエータピストン33のそれ以上の変位を防止する内部通路35が設けられている。
【0018】
アクチュエータピストン33は、可変容量型ポンプ14の斜板36の一端部に接続され、斜板36の他端部にはアクチュエータピストン33より小径のピストン37がロッド38を介し接続されている。このロッド38には、フィードバック部材39が一体的に設けられ、このフィードバック部材39と電磁比例弁22のスプール25との間には前記一方のスプリング27が介在されている。
【0019】
シャトル弁16の出口16cに接続された通路18は、オリフィス41を介して、小径のピストン37が嵌合するスプリング室42に連通されている。このスプリング室42には、ピストン37を付勢するスプリング43が嵌着されている。
【0020】
ポンプユニット11の出力ポート44には、吐出ライン45を介してコントロール弁46が接続され、このコントロール弁46には、油圧シリンダおよび油圧モータなどの種々のアクチュエータ47が接続され、可変容量型ポンプ14から供給された作動流体としての作動油により駆動される。
【0021】
次に、このポンプユニット11の作用を説明する。
【0022】
エンジン12によりポンプシャフト13が回転駆動されると、可変容量型ポンプ14のアキシャルピストン(図示せず)が斜板36上を回転しながら、斜板36の傾転角に応じたストロークで往復動し、作動流体(作動油)を吐出する。
【0023】
このとき、可変容量型ポンプ14から吐出された作動流体(または可変容量型ポンプ14からの吐出圧が低圧の場合はパイロットポンプ17から供給された作動流体)が、シャトル弁16を経た後、レギュレータ21の電磁比例弁22を経て、アクチュエータピストン33の右端に送り込まれる。このアクチュエータピストン33は、斜板36を動かし、吐出流量を制御する。
【0024】
可変容量型ポンプ14の斜板36を制御する電磁比例弁22は、比例ソレノイド24に入力される電流値Iに応じて流量制御を行なうものであり、比例ソレノイド24に入力される電流値Iを変化させると、励磁力が高低変化し、この変動する励磁力によりスプール25の位置が変位し、スプール25の位置に応じて流量を増減させる電磁比例流量制御を行なう。電磁比例弁22のスプール25は、スプリング26およびスプリング27により左方に押されている。
【0025】
電流値Iが低い場合は、励磁力は低いので、スプール25は、スプリング26およびスプリング27により左方に動かされ、通路18と通路29とが連通する。通路18の圧力は、電磁比例弁22および通路29を経て、アクチュエータピストン33のピストン室32に入るので、アクチュエータピストン33は、左方に押され、斜板36を時計方向に回動する。
【0026】
斜板36の回動力は、ロッド38を介して、通路18からの圧力で左方に押されているピストン37の力と対抗する。アクチュエータピストン33は、ピストン37より面積が大きいので、これらに共通の通路18から等圧が作用しても、ピストン37は右方に押され、斜板36は時計方向に回動し、可変容量型ポンプ14からの吐出流量は減らされる。
【0027】
一方、電流値Iが高くなると、比例ソレノイド24の励磁力が上昇し、スプール25はスプリング26,27に抗して右方に動かされ、通路29とタンク通路30とが連通するので、アクチュエータピストン33のピストン室32は、電磁比例弁22を経てタンク通路30に通じ、低圧となる。
【0028】
アクチュエータピストン33のピストン室32が低圧になると、小径側のピストン37の右端に働く圧力により、ロッド38を介して、斜板36は反時計方向に回動され、斜板36の回動に伴い流量が増える。
【0029】
ピストン37が左方に動くと、フィードバック部材39も左方に働き、スプリング27を圧縮するので、スプール25は左方に付勢され、通路29とタンク通路30とを閉じる。これにより、斜板36の傾転は止まり、励磁力に対応した流量が保持される。
【0030】
この励磁力は、電磁比例弁22の比例ソレノイド24に供給する電流値Iと比例関係にあるため、その電流値Iを高くすれば流量は増える。
【0031】
次に、電磁比例弁22の比例ソレノイド24にはポンプ制御用のコントローラ51が接続されている。このコントローラ51は、本来は可変容量型ポンプ14の目標流量Qに対応する流量指令用の目標斜板電流値Ipumpにより電磁比例弁22を介してアクチュエータピストン33を制御することで、可変容量型ポンプ14の斜板傾転角を制御するものであり、可変容量型ポンプ14のポンプ吐出圧Pと目標流量Qとの関係を定馬力状態に制御する制御テーブル52と、可変容量型ポンプ14の目標流量Qと予め設定された仕様上(スペック上)の目標斜板電流値Ipumpとの関係を制御する流量対電流出力の制御テーブル53とを備えている。
【0032】
このコントローラ51には、エンジン回転速度を検出する回転数センサ54が接続され、また、通常制御モードとキャリブレーションモードとを設定可能なモード設定手段としてのモニタ55が接続され、可変容量型ポンプ14のポンプ吐出圧を検出する圧力センサ56が接続されている。
【0033】
この圧力センサ56は、通常はポンプ吐出通路15に連通されたポンプユニット11のポートMに設置されているが、工場出荷調整時(キャリブレーション時)には、アクチュエータピストン33のピストン室32に連通するポートM1に接続される。
【0034】
そして、モニタ55によりキャリブレーションモードが設定されているとき、図2に実線で示されるように、アクチュエータピストン33に作用する圧力値PM1をモニタリングしながら流量指令用の電流値Iを変化させると、圧力値PM1とポンプ吐出流量Qは連動して変動するが、図2に点線で示されるように公差の中央に位置する仕様上(スペック上)の特性と、図2に実線で示される実際の特性との間には、誤差が生じる。
【0035】
ここで、流量指令用の電流値Iを変化させることで捉えられた圧力値PM1の変化点A,Bと、実際の最小流量(最小斜板位置)および最大流量(最大斜板位置)とが対応するので、コントローラ51は、流量指令用の電流値Iを変化させることで捉えられた圧力値PM1の変化点A,Bに対応する、実際の最小斜板位置および最大斜板位置での電流値を求めて記憶し、これらの実際の電流値と、予め設定されたスペック上の最小斜板位置および最大斜板位置における電流値との差Ia,Ibを補正値として、通常制御モードでは電磁比例弁22に対して出力される流量指令用の電流値Iを補間修正する機能を備えている。
【0036】
説明を簡単にするために、図3に示されるように、スペック上の標準特性に対し実際特性が平行移動する状態にある、Ia=Ibの場合を考えると、コントローラ51は、モード設定手段としてのモニタ55でキャリブレーションモードが設定されたときは、流量指令用の電流値を増加させながらアクチュエータピストン33に作用する圧力値PM1をモニタリングし、アクチュエータピストン33に作用する圧力値PM1が一定の閾値Pthより低くなる実際の最大斜板位置における電流値を求め、この実際の最大斜板位置における電流値Iと、予め設定された仕様上の最大斜板位置における標準特性電流値Inとの差を補正値Icalとして演算し、この補正値Icalを不揮発性メモリに記憶する補正値演算機能を備えているとともに、モニタ55で通常制御モードが設定されているとき、流量対電流出力の制御テーブル53から出力された目標斜板電流値Ipumpに前記補正値Icalを加算することで、電磁比例弁22に対して出力される電流値を補正する加算器57を具備している。
【0037】
要するに、レギュレータ21の入出力特性の誤差を補正値として従来のコントローラ出力に加算することで、スペック上の流量対電流出力値の関係と、実際の流量対電流出力値の関係を補正するようにしている。
【0038】
次に、機体側で行なう較正作業を説明する。
【0039】
通常は、油圧パワーやコントロールバルブを制御するための油圧負荷を検出するために、ポンプ吐出圧を検出する圧力センサ56が、ポンプユニット11のポートMに設置されているが、工場出荷調整時にキャリブレーション(較正)を行なうに当たって、一時的にポンプユニット11のポートM1に上記圧力センサ56を付け替えて、この圧力センサ56により、電磁比例流量制御のアクチュエータピストン33に作用する圧力値PM1を検出する。
【0040】
このとき、エンジン回転速度を設定するアクセルダイヤル(図示せず)を最大ダイヤル値「10」に設定して、エンジン回転速度が最大ダイヤル値「10」のアイドル状態で落ち着いてから、ポンプ制御用のコントローラ51にキャリブレーションモードを実行させる。キャリブレーションモードの設定は、モニタ55上で変更する。
【0041】
アクチュエータピストン33に作用する圧力値PM1は、最小流量ストッパに当っている間は駆動元圧、最大流量ストッパに当っている間はドレーン圧、その間は斜板36を駆動するための中間圧となる。駆動元圧から中間圧への圧力の変化点Aで、最小斜板位置の電流値を不揮発性メモリに記憶させるとともに、中間圧からドレーン圧への圧力の変化点Bで、最大斜板位置の電流値を不揮発性メモリに記憶させて、キャリブレーションを行なう。
【0042】
キャリブレーションが終了したら、圧力センサ56をポートM1から元通りのポートMに戻す。
【0043】
次に、モニタ55のスイッチ操作により、キャリブレーションモードを設定することで、ポンプ制御用のコントローラ51が、図3(a)のフローチャートおよび図3(b)の特性図に示されるように、キャリブレーションプログラムを実行する。
【0044】
(ステップS1)
流量指令用の電流値Iを変化させて電流走査を開始する際の初期電流値Ioを設定する。この初期電流値Ioは、最小斜板位置に対応する電流値より十分に小さい電流値である。
【0045】
(ステップS2)
電流値Iを出力指令する。
【0046】
(ステップS3)
ポートM1での圧力値PM1を圧力センサ56により検出しモニタリングする。
【0047】
(ステップS4)
圧力値PM1が閾値Pthより小か否かを判断する。
【0048】
(ステップS5)
圧力値PM1が閾値Pthより小でない場合は、電流値Iに増加分Istepを加えて、ステップS2に戻り、圧力値PM1が閾値Pthより小となるまで、増加分Istepを加えながらステップS2〜ステップS5を繰返し、電流値Iを増加させる。
【0049】
要するに、流量指令用の電流値を、最小斜板位置に対応する電流値より十分小さい初期電流値Ioから徐々に増加させながら、アクチュエータピストン33に作用する圧力値PM1をモニタリングする。このとき、アクチュエータピストン33に作用する圧力値PM1が不安定な状態でのキャリブレーションは避け、アクチュエータピストン33に作用する圧力値PM1が安定するまで所定の時間だけ待ち、安定したことを確認してから流量指令電流値を増加させる。
【0050】
(ステップS6)
流量指令電流値を増加させながら、アクチュエータピストン33に作用する圧力値PM1をモニタリングし、この圧力値PM1が一定の閾値Pthより小となった場合は、そのときの実際の電流値Iと標準特性電流値Inとの差(I−In)を補正値Icalとして、この補正値Icalを不揮発性メモリに記憶する。
【0051】
次に、このキャリブレーション終了後は、圧力センサ56をポンプユニット11のポートMに戻し、通常のポンプ制御プログラムに戻り、図4に示されるフローチャートのように、ポンプ制御用のコントローラ51が電流出力指令値を補正する。
【0052】
(ステップS7)
圧力センサ56が検出したポートMの圧力(ポンプ吐出圧)Pに対して、制御テーブル52により定馬力特性の目標流量Qを求め、さらに、流量対電流出力の制御テーブル53により、エンジン回転速度センサで検出されたエンジン回転速度などに基づき、目標流量Qに対応するスペック上の目標斜板電流値Ipumpを計算する。
【0053】
(ステップS8)
加算器57により、目標斜板電流値Ipumpと、不揮発性メモリに記憶されている補正値Icalとを加えた電流値Iを出力する。すなわち、コントローラ51の不揮発性メモリに記憶されているスペック上の流量対電流出力の制御テーブル53に補正値Icalを加算することで、流量対電流出力の関係を電流方向に平行移動させて、実際の流量対電流出力値の関係を補正する。
【0054】
このように、電磁比例流量制御のアクチュエータピストン33に作用する圧力を検出する圧力センサ56を、工場出荷調整時に一時的にポンプユニット11のポートM1に取付け、アクチュエータピストン33の圧力をモニタリングしながらアイドリング状態で流量指令電流を上げ下げして、アクチュエータピストン33の圧力変化点を捉え、最小斜板位置電流および最大斜板位置電流の少なくとも一方を不揮発性メモリに記憶し、その後、圧力センサ56を元に戻し、通常のポンプ制御ではメモリ値で補間修正した流量指令電流値を用いる。
【0055】
次に、実施の形態の効果を説明する。
【0056】
キャリブレーションモードでは、コントローラ51が、アクチュエータピストン33に作用する圧力値PM1を圧力センサ56でモニタリングしながら流量指令用の電流値Iを変化させることで捉えられた圧力値PM1の変化点に対応する、実際の最小斜板位置および最大斜板位置の少なくとも一方での電流値を求め、この実際の電流値と予め設定された仕様上の電流値との差を補正値Icalとして、通常制御モードでは電磁比例弁22に対して出力される流量指令用の電流値Iを補正するので、可変容量型ポンプ14の電流対流量特性の製造上のバラツキを較正して高い流量制御精度を得ることができる可変容量型ポンプ制御装置を、既存品のみで簡単に構成できる。さらに、装置の複雑化を防止できるので、設計が容易であるとともに、故障に対する信頼性を確保できる。
【0057】
流量指令用の電流値Iを増加させながらアクチュエータピストン33に作用する圧力値PM1をモニタリングし、アクチュエータピストン33に作用する圧力値PM1が一定の閾値Pthより低くなる実際の最大斜板位置における電流値を求め、この実際の最大斜板位置における電流値と予め設定された仕様上の最大斜板位置における電流値との差を補正値Icalとして演算し記憶するので、圧力値PM1が一定の閾値Pthより低くなる実際の最大斜板位置における電流値を確実に捉えることができ、補正値Icalを容易にかつ確実に得ることができる。
【0058】
モニタ55で通常制御モードが設定されているとき、流量対電流出力の制御テーブル53から出力された目標斜板電流値Ipumpに補正値Icalを加算することで、電磁比例弁22に対して出力される電流値Iを補正するので、流量対電流出力の制御テーブル53の内容を変更することなく、電流値の補正を簡単にできる。
【0059】
なお、コントローラ51は、キャリブレーションモードでの圧力値PM1の変化点に対応する電流値の探求を複数回繰返し、複数の電流値を平均化した値を実際の電流値とし、この実際の電流値と仕様上の電流値と比較して差を求めるようにしても良い。このようにすることで、圧力値PM1の変化点に対応する電流値のバラツキによる誤差を減らすことができる。
【0060】
本発明は、油圧ショベルなどの作業機械に搭載された可変容量型ポンプを制御する可変容量型ポンプ制御装置に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明に係る可変容量型ポンプ制御装置の一実施の形態を示す回路図である。
【図2】(a)は同上制御装置の流量指令電流とアクチュエータピストンに作用する圧力との関係を示す特性図、(b)は流量指令電流とポンプ流量との関係を示す特性図である。
【図3】(a)は同上制御装置のキャリブレーションプログラムを示すフローチャート、(b)はそのプログラム内容に関係する特性図である。
【図4】同上制御装置のポンプ斜板指令電流出力プログラムを示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0062】
14 可変容量型ポンプ
22 電磁比例弁
33 アクチュエータピストン
51 コントローラ
53 流量対電流出力の制御テーブル
55 モード設定手段としてのモニタ
57 加算器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力された流量指令用の電流値に応じた指令圧力を出力する電磁比例弁と、
この電磁比例弁から出力された指令圧力により作動して可変容量型ポンプの斜板傾転角を可変調整するアクチュエータピストンと、
可変容量型ポンプの目標流量に対応する流量指令用の電流値により電磁比例弁を介してアクチュエータピストンを駆動することで、可変容量型ポンプの斜板傾転角を制御するコントローラと、
通常制御モードとキャリブレーションモードとを設定可能なモード設定手段とを具備し、
コントローラは、
キャリブレーションモードでは、アクチュエータピストンに作用する圧力値をモニタリングしながら流量指令用の電流値を変化させることで捉えられた圧力値の変化点に対応する、実際の最小斜板位置および最大斜板位置の少なくとも一方での電流値を求め、この実際の電流値と予め設定された仕様上の電流値との差を補正値として、通常制御モードでは電磁比例弁に対して出力される流量指令用の電流値を補正する機能を備えた
ことを特徴とする可変容量型ポンプ制御装置。
【請求項2】
コントローラは、
モード設定手段でキャリブレーションモードが設定されているとき、流量指令用の電流値を増加させながらアクチュエータピストンに作用する圧力値をモニタリングし、アクチュエータピストンに作用する圧力値が一定の閾値より低くなる実際の最大斜板位置における電流値を求め、この実際の最大斜板位置における電流値と予め設定された仕様上の最大斜板位置における電流値との差を補正値として演算し記憶する補正値演算機能を備えた
ことを特徴とする請求項1記載の可変容量型ポンプ制御装置。
【請求項3】
コントローラは、
可変容量型ポンプの目標流量と予め設定された仕様上の電流値との関係を決定する流量対電流出力の制御テーブルと、
モード設定手段で通常制御モードが設定されているとき、流量対電流出力の制御テーブルから出力された電流値に補正値を加算することで、電磁比例弁に対して出力される電流値を補正する加算器と
を具備したことを特徴とする請求項1または2記載の可変容量型ポンプ制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−303813(P2008−303813A)
【公開日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−152590(P2007−152590)
【出願日】平成19年6月8日(2007.6.8)
【出願人】(000190297)キャタピラージャパン株式会社 (1,189)
【Fターム(参考)】