説明

可変速発電装置及びその制御方法

【課題】電力系統側からの無効電力の供給指令に応じた無効電力を供給しつつ、巻線型誘導発電機の可変速範囲を確保すること。
【解決手段】自然エネルギーを利用して動力を発生する原動機と、電力系統2に接続された1次巻線を備えるステータ及び2次巻線を備えるロータを有し、原動機から発生した動力に基づいて発電する発電機6と、ステータ側とロータ側とに接続される電力変換器17とを備える可変速発電装置1であって、電力変換器17は電力系統2側に無効電力を供給せず、電力系統2側から、電力系統2側に無効電力を供給させる無効電力供給指令を取得した場合に、発電機6を同期速度以上に設定された回転数で運転させ、電力系統2側に供給する無効電力を増大させる電力変換器制御部21を具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可変速発電装置及びその制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、例えば、風力発電装置の導入量は年々増加し、既存の電力系統へ及ぼす影響が顕著になってきている。このため、欧米を中心として電力系統に連系するための技術要件が整備され、風力発電装置(ウインドファーム)に対して、電力系統の安定化に寄与するよう、有効電力ならびに無効電力を制御する能力を備えることが求められている。
特許文献1では、発電機、及び発電機に付属する電力系統側の電力変換器、及び他の調相設備等を組み合わせて調整することで、無効電力の調整幅を拡大する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許出願公開第2005/0040655号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、メガワット級の風力発電装置では、可変速度運転する可変速風車が主流となっている。また、可変速度運転の方式は、例えば、巻線型誘導発電機と電力変換器とを備えるDouble Fed(DFIG:Double Fed Induction Generator。二次励磁制御)方式が主流となっている。Double Fed方式は、巻線型誘導発電機の回転子(ロータ)側に接続された電力変換器により、発電機回転子の電流・電圧を制御することで、巻線型誘導発電機の無効電力と有効電力とを制御する。また、この場合、供給できる皮相電力(即ち、無効電力及び有効電力のベクトル和)は巻線型誘導発電機の回転速度に応じて制限されている。換言すると、電力変換器から供給させる無効電力を増大させると有効電力が低減され、供給させる有効電力を増大させると無効電力が低減される関係となっている。
【0005】
しかしながら、Double Fed方式の可変速風車の可変速度範囲は、風力発電装置が電力系統側に供給する有効電力量で決定されるので、例えば、電力系統側からの無効電力の要求に応じて電力変換器から供給させる無効電力を増大させると、電力変換器から供給する有効電力が低減することとなり、結果として、無効電力が供給できたとしても、可変速度範囲が十分に確保できなくなるという問題があった。
また、上記特許文献1のように、電力系統側からの無効電力の要求に応じて、電力系統側の電力変換器により無効電力を供給させる場合には、調整できる無効電力が小さいために、十分な無効電力が供給できないという問題があった。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、電力系統側からの無効電力の供給指令に応じた無効電力を供給しつつ、巻線型誘導発電機の可変速範囲を確保することのできる可変速発電装置及びその制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明は以下の手段を採用する。
本発明は、自然エネルギーを利用して動力を発生する原動機と、電力系統に接続された1次巻線を備えるステータ及び2次巻線を備えるロータを有し、前記原動機から発生した動力に基づいて発電する巻線型誘導発電機と、前記ステータ側と前記ロータ側とに接続される電力変換器とを備える可変速発電装置であって、前記電力変換器は、前記電力系統側に無効電力を供給せず、前記電力系統側から、前記電力系統側に無効電力を供給させる無効電力供給指令を取得した場合に、前記巻線型誘導発電機を同期速度以上に設定された回転数で運転させ、前記電力系統側に供給する無効電力を増大させる制御手段を具備する可変速発電装置を提供する。
【0008】
このような構成によれば、電力系統側から無効電力の供給指令があった場合に、電力変換器からは無効電力を供給せず、巻線型誘導発電機を定格回転数よりも大きく設定された回転数で運転させることによって巻線型誘導発電機から無効電力を供給させる。
可変速発電装置は、電力変換器と巻線型誘導発電機のロータとの間において融通できる有効電力が大きくなるほど、巻線型誘導発電機の回転速度を可変とする範囲を拡大する。一方、電力変換器から電力系統側に供給させる無効電力を増加させると、供給可能な有効電力は低減することとなる。従って、本発明のように、電力系統側からの無効電力供給指令があった場合に、電力変換器から電力系統側に無効電力を供給しないことによって、電力変換器から供給する有効電力が低減されることがないので、電力変換器から無効電力を供給する場合と比較して、巻線型誘導発電機の可変速範囲を低減させない。
【0009】
また、巻線型誘導発電機の回転速度は、同期速度より大きくなると、電力系統側に供給できる有効電力と無効電力とのベクトル和が同期速度の場合のそれより大きくなり、同期速度より小さくなると、有効電力と無効電力との総和が同期速度の場合のそれより小さくなる。従って、巻線型誘導発電機が、同期速度以上に設定された定格回転数よりも大きい回転数で運転されることによって、同期速度及び定格回転数で運転される場合と比較して、電力系統側に供給できる無効電力を増加させることができる。また、誘導発電機を同期回転数より大きな回転数で運転させるとは、誘導発電機の滑りが負の方向に大きくなるように制御されることを意味する。
【0010】
上記可変速発電装置は、前記定格回転数で運転される通常運転モードと、前記定格回転数よりも大きい回転数で運転され、前記巻線型誘導発電機から前記電力系統側に無効電力を供給する無効電力優先運転モードとを有し、前記制御手段は、前記電力系統側から無効電力供給指令を取得した場合に、前記通常運転モードから前記無効電力優先運転モードに切り替えることとしてもよい。
通常運転モードと無効電力優先運転モードとが切り替えることができるようになっているので、無効電力供給指令に基づいて、簡便に電力系統側に無効電力を供給させることができる。
【0011】
上記可変速発電装置の前記制御手段は、自然エネルギーを受けて動力を発生させる前記原動機の翼のピッチ角を制御し、前記定格回転数よりも大きい回転数の回転速度で前記巻線型誘導発電機を運転させることとしてもよい。
原動機の翼のピッチ角を制御し、巻線型誘導発電機の回転速度を定格回転数よりも大きくする。例えば、原動機が風車である場合に、翼のピッチ角をファイン側に制御することによって、弱い風であるときであっても風車を回転させ、巻線型誘導発電機の回転数を高くすることができる。
【0012】
上記可変速発電装置の前記制御手段は、前記巻線型誘導発電機の有効電力を制御し、前記定格回転数よりも大きい回転数の回転速度で前記巻線型誘導発電機を運転させることとしてもよい。
翼のピッチ角を制御しなくとも、巻線型誘導発電機に供給する有効電力を低減させることで負荷を低減させ、巻線型誘導発電機から供給させる無効電力を増加させることができる
【0013】
上記可変速発電装置は、前記巻線型誘導発電機の温度を所定範囲内にする冷却手段を具備することとしてもよい。
巻線型誘導発電機の温度が所定範囲内となるように冷却させることにより、巻線型誘導発電機の発電機巻線の発熱を抑制することができる。これにより、巻線型誘導発電機の巻線の温度が上昇することにより、電力系統側に供給できる皮相電力の低減を抑制することができる。冷却手段とは、例えば、冷却用のファン及び冷却媒体(例えば、空気)等である。
【0014】
上記可変速発電装置の前記制御手段は、時間帯に応じて、前記電力系統側に供給する無効電力および/または有効電力を制御することとしてもよい。
時間帯に応じて電力系統側に融通する無効電力の供給量を増加または低減させる。例えば、夏季や日中等と比較して、冬季や夜間等のような外気温が比較的低い場合には、供給させる無効電力を増加させ、冬季や夜間等と比較して夏季や日中等のような外気温が比較的高い場合には、供給させる無効電力を低減する。このように、環境に応じて無効電力の供給可能範囲を増減させることができる。
【0015】
本発明は、上記の可変速発電装置において、風力を利用して動力を発生する前記原動機を備える風力発電装置を提供する。
【0016】
本発明は、上記の可変速発電装置において、水力を利用して動力を発生する前記原動機を備える水力発電装置を提供する。
【0017】
本発明は、自然エネルギーを利用して動力を発生する原動機と、電力系統に接続された1次巻線を備えるステータ及び2次巻線を備えるロータを有し、前記原動機から発生した動力に基づいて発電する巻線型誘導発電機と、前記ステータ側と前記ロータ側とに接続される電力変換器とを備える可変速発電装置の制御方法であって、前記電力変換器から前記電力系統側に無効電力を供給させず、前記電力系統側から、前記電力系統側に無効電力を供給させる無効電力供給指令を取得した場合に、前記巻線型誘導発電機を同期速度以上に設定された回転数で運転させ、前記電力系統側に無効電力を供給させる可変速発電装置の制御方法を提供する。
【発明の効果】
【0018】
本発明は、電力系統側からの無効電力の供給指令に応じた無効電力を供給しつつ、巻線型誘導発電機の可変速範囲を確保することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る風力発電装置の概略構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の第1の実施形態に係る無効電力制御部の機能ブロック図である。
【図3】超同期速度の場合の有効電力と無効電力との出力量を示す図である。
【図4】同期速度の場合の有効電力と無効電力との出力量を示す図である。
【図5】次同期速度の場合の有効電力と無効電力との出力量を示す図である。
【図6】通常運転モードの場合の回転数の切り替えを説明するための図である。
【図7】本発明の第2の実施形態に係る風力発電装置の概略構成を示すブロック図である。
【図8】本発明の第2の実施形態に係る無効電力制御部の機能ブロック図である。
【図9】通常運転モードの場合の有効電力の設定について説明するための図である。
【図10】本発明の第4の実施形態に係る風力発電装置において、時間帯に応じて制限曲線を規定した一例の図である。
【図11】複数の制約曲線の一例を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、本発明に係る可変速発電装置及びその制御方法並びに制御プログラムの一実施形態について、図面を参照して説明する。
〔第1の実施形態〕
以下、本発明の第1の実施形態について、図1を用いて説明する。
なお、本実施形態における可変速発電装置は、Double Fed方式によって可変速度運転される風力発電装置であることとして説明する。また、Double Fed方式は、「超同期セルビウス方式」または「二次励磁方式」と呼ばれることもある。
【0021】
図1は、風力発電装置1に備えられた発電機(巻線型誘導発電機)6及びその周辺の構成の一例を示すブロック図である。
図1に示されるように、風力発電装置1は、風車ブレード4、ギア5、発電機6、電力変換器17、電力変換器制御部21、ブレード制御部18、および主制御部19を備えている。なお、発電機6は電力系統2と接続されている。また、発電機6のロータは、ギア5を介して風車ロータ(図示略)に接合されている。発電機6の周辺には、発電機6のロータ速度を検出するためのロータ速度検出部50が設けられている。ロータ速度検出部50によって検出されたロータ速度は、後述する主制御部に出力されるようになっている。
【0022】
本実施形態において、発電機6は、発電機6が発生する電力がステータ巻線(ステータ)及びロータ巻線(ロータ)の両方から電力系統2に出力できるように構成されている。具体的には、発電機6は、そのステータ巻線が電力系統2に接続され、ロータ巻線が電力変換器17を介して電力系統2に接続されている。
【0023】
電力変換器17は、コンバータ14、DCバス15、及びインバータ16を備えており、ロータ巻線から受け取った交流電力を電力系統2の周波数に適合した交流電力に変換する。コンバータ14は、ロータ巻線に発生した交流電力を直流電力に変換し、その直流電力をDCバス15に出力する。インバータ16は、DCバス15から受け取った直流電力を電力系統2と同一の周波数の交流電力に変換し、その交流電力を出力する。
【0024】
電力変換器17は、電力系統2から受け取った交流電力をロータ巻線の周波数に適合した交流電力に変換する機能も有している。この場合、インバータ16は、交流電力を直流電力に変換し、その直流電力をDCバス15に出力する。コンバータ14は、DCバス15から受け取った直流電力をロータ巻線の周波数に適合した交流電力に変換し、その交流電力を発電機6のロータ巻線に供給する。
【0025】
主制御部19は、無効電力制御部20を備えている。無効電力制御部20は、発電機6の回転数に基づいて、風車ブレード4のピッチ角指令βを決定し、ブレード制御部18に出力する。また、無効電力制御部20は、電力変換器17から出力される無効電力をゼロとするように無効電力指令値を電力変換器制御部21に出力する。
具体的には、無効電力制御部20は、図2に示されるように、回転数指令出力部201及び指令値決定部202を備えている。
【0026】
回転数指令出力部201は、電力系統2側から取得する無効電力供給指令に基づいて、運転モードに対応する発電機6の回転数指令を指令値決定部202に出力する。具体的には、風力発電装置1は、発電機6が同期速度以上に設定された定格回転数(例えば、同期回転数の10〜20%増し)で運転される通常運転モードと、定格回転数よりも大きい(高い)回転数(以下「無効電力優先回転数」という)で運転され、発電機6から電力系統2側に無効電力を供給する無効電力優先運転モードとを有している。
【0027】
回転数指令出力部201は、通常運転モードで運転させる場合には、通常運転用の発電機6の回転数指令(定格回転数)を回転数指令として出力する。一方、回転数指令出力部201は、電力系統2側から無効電力供給指令を取得し、無効電力優先運転モードで運転させる場合には、無効電力優先回転数を回転数指令として出力する。また、無効電力優先回転数は、発電機6に応じて規定される許容回転数以内の回転数である。
【0028】
ここで、無効電力優先運転モードにする場合に、発電機6の回転数を定格回転数よりも高く設定する根拠について説明する。
図3から図5は、横軸に出力可能な有効電力、縦軸に出力可能な無効電力を発電機6の回転速度毎に示している。図3は超同期速度の場合、図4は同期速度の場合、図5は次同期速度の場合のそれぞれにおいて、無効電力量と有効電力量との関係を示す制約曲線の一例を示している。図3から図5において、実線はロータ巻線に流れる電流制限値(回転子電流制限)、一点鎖線はステータ巻線に流れる電流制限値(固定子電流制限)、点線はロータの電圧制限値(回転子電圧制限)であり、電流制限は熱的制約、電圧制限は絶縁耐力により決まる。これらの各曲線で囲まれた斜線部分が、無効電力及び有効電力を出力できる範囲を示している。
【0029】
発電機6は、可変速の誘導発電機なので回転数が変化するが、一般にはこれをすべりと呼ばれる相対速度で表す。式で表すと以下のようになる。ここで、sはすべり、Nsは同期速度、Nは発電機6の回転数とする。
s=(Ns−N)/Ns
すべりが正の場合は回転数が同期速度より低い状態(次同期運転、sub-synchronous)であり、負の場合は回転数が同期速度より高い状態(超同期運転、super-synchronous)である。
【0030】
これら図3から図5に示されるように、超同期運転ですべりが大きくなると斜線部分の領域が大きくなり、即ち、無効電力と有効電力とを出力する量が多くなることがわかった。このことから、本実施形態においては、同期速度よりも大きな回転数とすることによって、同期速度の場合よりも多くの無効電力を供給できることに着目し、回転数を決定することとした。本実施形態においては、通常運転モードにおける定格回転数を同期速度より10%〜20%増しとしているので、無効電力優先運転モードの場合の回転数は、同期速度以上に設定された定格回転数(通常運転モードの回転数)よりもさらに大きな回転数としている。
【0031】
指令値決定部202は、ロータ速度検出部50から検出された発電機6の回転数と、回転数指令出力部201から出力された回転数指令とに基づいて、風車ブレード4のピッチ角の指令値βを決定し、ブレード制御部18に出力する。具体的には、指令値決定部202は、回転数指令とロータ速度検出部50から検出された回転数との差に基づいて、風車ブレード4のピッチ角の目標値を決定し、ピッチ角の急激な変更を抑制するレートリミッタによりピッチ角の指令値βを決定する。また、ピッチ角の指令値βは、よりフェザー側に風車ブレード4を制御する指令値である。
このように、通常運転モードから無効電力優先運転モードに切り替え、風車ブレード4のピッチ角をフェザー側に制御することにより、発電機6の回転数を通常運転モードの回転速度より高くする。
【0032】
電力変換器制御部21は、無効電力制御部20から取得した無効電力指令値「無効電力Qs=0〔Var〕」に基づいてPWM(Pulse Width Modulation:パルス幅変調)信号を生成し、このPWM信号をコンバータ14およびインバータ16にそれぞれ与える。これにより、電力変換器17から供給される無効電力はゼロとなる。
ブレード制御部18は、主制御部19の無効電力制御部20から取得したピッチ角指令値βに実際のピッチ角βが一致するように、風車ブレード4のピッチ角を制御する。
【0033】
次に、本実施形態に係る風力発電装置1の作用について説明する。
風力発電装置1のロータ速度が、所定の時間間隔でロータ速度検出部50によって検出され、この検出値が主制御部19の無効電力制御部20に与えられる。電力系統2側からの無効電力供給指令が、無効電力制御部20に入力されると、運転モードが通常運転モードから無効電力優先運転モードに切り替えられる。無効電力優先運転モードに切り替えられると、回転数指令として無効電力優先回転数が、回転数指令出力部201から指令値決定部202に出力される。指令値決定部202において、ロータ速度検出部50から取得した発電機6の回転数の実測値と無効電力優先回転数とが比較され、風車ブレード4をフェザー側に制御するべくピッチ角の指令値βが決定され、ブレード制御部18に出力される。
【0034】
ブレード制御部18において、電力系統2側の無効電力供給指令に対応するピッチ角指令値βに実際のピッチ角βが一致するように風車ブレード4のピッチ角が制御される。
また、主制御部19から電力変換器制御部21に対し、無効電力指令値として無効電力Qs=0とする旨が通知される。電力変換器制御部21は、無効電力指令値「無効電力Qs=0〔Var〕」に基づいて、PWM信号によって電力変換器17を制御する。
そして、電力系統2側から通常運転モードに切り替える指令を取得するまで、無効電力優先運転モードで風力発電装置1が運転される。
これにより、電力変換器17から無効電力を供給せず、かつ、発電機6が、通常運転モードの場合よりも高い回転数で運転されることにより、通常運転モードの場合より、発電機6から電力系統2側に、無効電力供給指令に応じた無効電力Qs+αを供給する。
【0035】
以上説明してきたように、本実施形態に係る可変速発電装置及びその制御方法並びに制御プログラムによれば、電力系統2側から無効電力供給指令があった場合に、電力変換器17からは無効電力を供給せず、発電機6を定格回転数よりも大きく設定された無効電力優先回転数で運転させ、発電機6から通常運転モードの場合よりも多くの無効電力を供給させる。このように、電力系統2側からの無効電力供給指令があった場合に、電力変換器17から電力系統2側に無効電力を供給しないので、電力変換器17から供給する有効電力が低減されることがない。電力変換器17からも無効電力を供給する場合と比較して、電力系統2側に供給可能な有効電力が低減しないので、発電機6の可変速範囲を確保しつつ、電力系統2側の無効電力供給指令に応じた無効電力を供給できる。
【0036】
なお、本実施形態においては、無効電力優先運転モードである場合に、回転数指令出力部201から出力される無効電力優先回転数は固定値であることとして説明していたが、これに限定されない。例えば、固定値であることに代えて、電力系統2側からの無効電力要求指令、或いは、電力系統2の電圧値に応じて可変とすることとしてもよい。
【0037】
また、本実施形態においては、通常運転モードである場合に、回転数指令出力部201は、定格回転数を発電機6の回転数指令とすることにしていたが、これに限定されず、通常運転モードの回転数を、風車ブレード4の回転数の実測値に応じて設定することとしてもよい。例えば、図6に示されるように、回転数指令出力部201において、ロータ速度検出部50により検出された発電機回転数の実測値(例えば、風速によって決定される回転数)に基づいて、最小発電機回転数指令(例えば、風速が弱い場合の回転数)と最大発電機回転数指令(例えば、風速が強い場合の回転数)とを切り替え可能にすることとしてもよい。
【0038】
なお、本実施形態における可変速発電装置は、Double Fed方式の可変速度運転をする風力発電装置であることを例として説明していたが、これに限定されない。例えば、風力発電装置に代えて、Double Fed方式の可変速度運転をする水力発電装置であってもよいこととする。
【0039】
〔第2の実施形態〕
次に、本発明の第2の実施形態に係る可変速発電装置について図7及び図8を用いて説明する。本実施形態においては、電力系統2側から無効電力供給指令があり、発電機6の回転数を上昇させる場合に、電力系統2側に供給する有効電力を低減させ、発電機6にかかる負荷を低減する点で上記第1の実施形態と異なる。以下、本実施形態の可変速発電装置について、第1の実施形態と共通する点については説明を省略し、異なる点について主に説明する。また、本実施形態の可変速発電装置は、風力発電装置1´であることを例に挙げて説明する。
【0040】
図7は、風力発電装置1´に備えられた発電機(巻線型誘導発電機)6及びその周辺の構成の一例を示すブロック図である。図8は、無効電力制御部20´の機能ブロック図である。
指令値決定部202は、回転数指令出力部201から出力された回転数指令と、ロータ速度検出部50から取得した発電機6の回転数実測値とに基づいて、電力変換器制御部21´の有効電力指令値Pを決定し、電力変換器制御部21´に出力する。具体的には、指令値決定部202は、回転数指令とロータ速度検出部50から検出された回転数との差に基づいて、有効電力の目標値を決定し、有効電力の急激な変更を抑制するレートリミッタにより有効電力指令値Pを決定する。また、有効電力指令値Pは、発電機6を可変速運転させることのできる範囲内の値であり、通常運転モードの場合の有効電力を低減する方向に制御する指令値である。
【0041】
ここで、有効電力の目標値を決定する方法について説明する。
図9は、発電機6の回転数実測値に応じて、電力制御器の有効電力最大値Pmaxと有効電力最小値Pminとが決定される過程を説明するための図である。
指令値決定部202は、回転数と有効電力値とを対応づけるテーブル(例えば、図9のテーブルT)を有している。指令値決定部202は、テーブルTに基づいて、ロータ速度検出部50から取得した発電機6の回転数実測値に応じて最大値Pmax_optと、最小値Pmin_optとを出力する。
【0042】
図9の各切り替え部Sにおいて通常運転モードが有効になっている場合には、テーブルTに基づいて決定された最大値Pmax_optが有効電力最大値Pmaxとされ、最小値Pmin_optが有効電力最小値Pminとされて、電力制御器に出力される。一方、図9の各切り替え部Sにおいて、無効電力優先運転モードが有効になっている場合には、有効電力制限値PLimが有効電力最大値Pmaxとされ、有効電力最小値Pminの値がゼロとされて、電力制御器に出力される。
電力制御器は、下限を有効電力最小値Pmin、上限を有効電力最大値Pmaxとして制限し、回転数の実測値と回転数指令とに基づいて有効電力の目標値を出力する。
【0043】
また、指令値決定部202は、電力変換器17に供給する無効電力Qsがゼロとなるように、無効電力指令値Qを決定する。
電力変換器制御部21´は、無効電力指令値Qに基づいて、電力変換器17から出力する無効電力Qs=0とするべく電力変換器17を制御するとともに、有効電力指令値Pに基づいて、発電機6から出力する有効電力を有効電力指令値Pにするべく電力変換器17を制御する。
【0044】
次に、本実施形態に係る風力発電装置1´の作用について説明する。
風力発電装置1のロータ速度が、所定の時間間隔でロータ速度検出部50によって検出され、この検出値が主制御部19の無効電力制御部20に与えられる。電力系統2側からの無効電力供給指令が、無効電力制御部20に入力されると、運転モードが通常運転モードから無効電力優先運転モードに切り替えられる。無効電力優先運転モードに切り替えられると、回転数指令として無効電力優先回転数が、回転数指令出力部201から指令値決定部202に出力される。指令値決定部202において、ロータ速度検出部50から取得した発電機6の回転数の実測値と無効電力優先回転数とが比較され、これら回転数の差に基づいて、有効電力指令値Pが決定され、電力変換器制御部21に出力される。
【0045】
また、指令値決定部202から電力変換器制御部21に対し、無効電力指令値として無効電力Qs=0とする旨が通知される。
電力変換器制御部21は、有効電力指令値Pと、無効電力指令値「無効電力Qs=0〔Var〕」とに基づいて、PWM信号によって電力変換器17を制御する。
そして、電力系統2側から通常運転モードに切り替える指令を取得するまで、無効電力優先運転モードで風力発電装置1が運転される。
【0046】
このように、電力変換器17から無効電力を供給せず、かつ、有効電力指令値Pを通常運転モードの場合より低減することによって、発電機6にかかる負荷が通常運転モードの場合よりも低減される。これにより、通常運転モードの場合より、負荷が低減した状態で風車ブレード4が回転することとなり、発電機6は超同期運転となる。また、電力系統2側に供給する有効電力を通常運転モードの場合と比較して低減しているので、電力系統2側に無効電力を多く供給することができる。
【0047】
〔第3の実施形態〕
次に、本発明の第3の実施形態に係る可変速発電装置について説明する。図3から図5に示されるような、無効電力と有効電力との関係は、発電機6の巻線に流れる電流等による熱的な制約によって決まっていた。この点に着目し、発電機6の巻線を冷却する、或いは、発電機6の巻線の温度上昇を所定範囲内に抑える冷却部(冷却手段)(図示略)を設ける点で、上記第1の実施形態及び第2の実施形態と異なる。以下、本実施形態の可変速発電装置について、第1の実施形態及び第2の実施形態と共通する点については説明を省略し、異なる点について主に説明する。
【0048】
例えば、発電機6の稼働に伴い、冷却部として冷却設備(例えば、冷却ファン等)を起動し、発電機6の巻線温度を所定範囲内に抑えることにより、図3等に示す制約曲線を、無効電力及び有効電力の供給量の総和を増加させる方向に拡大させることができる。
また、冷却部として冷却設備と冷却媒体とを備え、発電機6の稼働に伴って冷却設備(例えば、冷却ファン等)を起動するとともに、冷却媒体(例えば、空気)の流量を増加させることによって熱伝達効率を向上させることとしてもよい。これにより、発電機6の巻線温度を所定範囲内に抑え、図3等に示す制約曲線を、拡大させることができる。
【0049】
〔第4の実施形態〕
次に、本発明の第4の実施形態に係る可変速発電装置について説明する。
本実施形態では、時間帯に応じて発電機6の回転数を制御する点で、上記第1の実施形態、第2の実施形態、及び第3の実施形態と異なる。以下、本実施形態の可変速発電装置について、第1、第2、第3の実施形態と共通する点については説明を省略し、異なる点について主に説明する。
【0050】
具体的には、冬季や夜間など外気温が低く、外気と熱交換する場合に、通常より高い冷却効果が得られると推定される時間帯に応じて、発電機6の回転数を制御することとしてもよい。例えば、図10に示されるように、0時から24時のうち、比較的外気温が低い時間帯(例えば、0時から8時、及び20時から24時)には図11の第1の制約曲線、比較的外気温が高い時間帯(例えば、8時から20時)には図11の第2の制約曲線が規定される場合には、比較的外気温が低い時間帯において、外気温が高い時間帯よりも発電機6の回転数を高く制御する。また、この時間帯は、1日の時刻によって区切られていてもよいし、年間を通して季節に応じて区切られていてもよいこととする。
このように、時間帯に応じて、発電機6の回転数を制御することにより、冷却設備等を備える場合と比較して、冷却設備にかかる費用を低減することができる。
【符号の説明】
【0051】
1 風力発電装置(可変速発電装置)
6 発電機
17 電力変換器
20 無効電力制御部
21 電力変換器制御部
201 回転数指令出力部
202 指令値決定部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
自然エネルギーを利用して動力を発生する原動機と、電力系統に接続された1次巻線を備えるステータ及び2次巻線を備えるロータを有し、前記原動機から発生した動力に基づいて発電する巻線型誘導発電機と、前記ステータ側と前記ロータ側とに接続される電力変換器とを備える可変速発電装置であって、
前記電力変換器は、前記電力系統側に無効電力を供給せず、
前記電力系統側から、前記電力系統側に無効電力を供給させる無効電力供給指令を取得した場合に、前記巻線型誘導発電機を同期速度以上に設定された回転数で運転させ、前記電力系統側に供給する無効電力を増大させる制御手段
を具備する可変速発電装置。
【請求項2】
前記定格回転数で運転される通常運転モードと、前記定格回転数よりも大きい回転数で運転され、前記巻線型誘導発電機から前記電力系統側に無効電力を供給する無効電力優先運転モードとを有し、
前記制御手段は、前記電力系統側から無効電力供給指令を取得した場合に、前記通常運転モードから前記無効電力優先運転モードに切り替える請求項1に記載の可変速発電装置。
【請求項3】
前記制御手段は、
自然エネルギーを受けて動力を発生させる前記原動機の翼のピッチ角を制御し、前記定格回転数よりも大きい回転数の回転速度で前記巻線型誘導発電機を運転させる請求項1または請求項2に記載の可変速発電装置。
【請求項4】
前記制御手段は、前記巻線型誘導発電機の有効電力を制御し、前記定格回転数よりも大きい回転数の回転速度で前記巻線型誘導発電機を運転させる請求項1から請求項3のいずれかに記載の可変速発電装置。
【請求項5】
前記巻線型誘導発電機の温度を所定範囲内にする冷却手段を具備する請求項1から請求項4のいずれかに記載の可変速発電装置。
【請求項6】
前記制御手段は、時間帯に応じて、前記電力系統側に供給可能な無効電力および/または有効電力を制御する請求項1から請求項5のいずれかに記載の可変速発電装置。
【請求項7】
前記原動機は、風力を利用して動力を発生する風力発電装置とされている請求項1から請求項6のいずれかに記載の可変速発電装置。
【請求項8】
前記原動機は、水力を利用して動力を発生する水力発電装置とされている請求項1から請求項6のいずれかに記載の可変速発電装置。
【請求項9】
自然エネルギーを利用して動力を発生する原動機と、電力系統に接続された1次巻線を備えるステータ及び2次巻線を備えるロータを有し、前記原動機から発生した動力に基づいて発電する巻線型誘導発電機と、前記ステータ側と前記ロータ側とに接続される電力変換器とを備える可変速発電装置の制御方法であって、
前記電力変換器から前記電力系統側に無効電力を供給させず、
前記電力系統側から、前記電力系統側に無効電力を供給させる無効電力供給指令を取得した場合に、前記巻線型誘導発電機を同期速度以上に設定された回転数で運転させ、前記電力系統側に供給する無効電力を増大させる
可変速発電装置の制御方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−147311(P2011−147311A)
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−8177(P2010−8177)
【出願日】平成22年1月18日(2010.1.18)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】